(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】極低温冷凍機および極低温冷凍機の起動方法
(51)【国際特許分類】
F25B 9/14 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
F25B9/14 530Z
(21)【出願番号】P 2020186513
(22)【出願日】2020-11-09
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】横土 敬幸
(72)【発明者】
【氏名】大山 秀司
【審査官】森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-171359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却ステージを有する膨張機と、
前記膨張機の排気温度を測定し、測定排気温度を示す排気温度信号を出力する排気温度センサと、
前記冷却ステージを初期温度から極低温に冷却する初期冷却の実行中、前記排気温度信号に基づいて前記測定排気温度を基準温度と比較し、前記測定排気温度と前記基準温度の温度差が基準範囲内である場合に前記初期冷却を完了するコントローラと、を備え
、
前記初期冷却の実行中、前記排気温度は、前記初期冷却の開始時点の温度から最高温度まで高まり、前記最高温度から低下するように変化する挙動を示し、
前記コントローラは、前記挙動において前記排気温度が低下しているとき前記温度差が前記基準範囲内である場合に前記初期冷却を完了することを特徴とする極低温冷凍機。
【請求項2】
前記膨張機の吸気温度を測定し、測定吸気温度を示す吸気温度信号を出力する吸気温度センサをさらに備え、
前記コントローラは、前記吸気温度信号に基づいて前記測定吸気温度を前記基準温度として使用することを特徴とする請求項1に記載の極低温冷凍機。
【請求項3】
前記膨張機に接続され、前記膨張機に吸気される作動ガスが流れる高圧ラインと、
前記膨張機に接続され、前記膨張機から排気される作動ガスが流れる低圧ラインと、
前記高圧ラインの圧力または前記低圧ラインの圧力を測定する圧力センサと、をさらに備え、
前記コントローラは、前記初期冷却の実行中、前記圧力センサによって測定された前記高圧ラインの圧力または前記低圧ラインの圧力のいずれか一方に基づいて前記初期冷却が完了したか否かを判定することを特徴とする請求項1または2に記載の極低温冷凍機。
【請求項4】
前記膨張機を駆動するモータの運転周波数を制御するインバータをさらに備え、
前記コントローラは、前記初期冷却を完了するとき前記モータの運転周波数を低下させるように前記インバータを制御することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の極低温冷凍機。
【請求項5】
前記膨張機に吸気される作動ガスが流れる高圧ラインを前記膨張機から排気される作動ガスが流れる低圧ラインに前記膨張機を迂回して接続するバイパスラインをさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の極低温冷凍機。
【請求項6】
膨張機の冷却ステージを初期温度から極低温に冷却する初期冷却を実行することと、
前記初期冷却の実行中、前記膨張機の排気温度を測定することと、
前記初期冷却の実行中、測定された排気温度を基準温度と比較し、前記測定された排気温度と前記基準温度の温度差が基準範囲内である場合に前記初期冷却を完了することと、を備え
、
前記初期冷却の実行中、前記排気温度は、前記初期冷却の開始時点の温度から最高温度まで高まり、前記最高温度から低下するように変化する挙動を示し、
前記挙動において前記排気温度が低下しているとき前記温度差が前記基準範囲内である場合に前記初期冷却を完了することを特徴とする極低温冷凍機の起動方法。
【請求項7】
冷却ステージを有する膨張機と、
前記膨張機に接続され、前記膨張機に吸気される作動ガスが流れる高圧ラインと、
前記膨張機に接続され、前記膨張機から排気される作動ガスが流れる低圧ラインと、
前記高圧ラインの圧力または前記低圧ラインの圧力を測定する圧力センサと、
前記冷却ステージを初期温度から極低温に冷却する初期冷却の実行中、前記圧力センサによって測定された前記高圧ラインの圧力
低下量または前記低圧ラインの圧力
低下量のいずれか一方に基づいて前記初期冷却が完了したか否かを判定するコントローラと、
前記膨張機を迂回して前記高圧ラインを前記低圧ラインに接続し、前記初期冷却の実行中、前記高圧ラインと前記低圧ラインとの差圧を一定とするように制御されるバイパスラインと、を備えることを特徴とする極低温冷凍機。
【請求項8】
膨張機の冷却ステージを初期温度から極低温に冷却する初期冷却を実行することと、
前記初期冷却の実行中、前記膨張機に吸気される作動ガスの圧力または前記膨張機から排気される作動ガスの圧力を測定することと、
前記初期冷却の実行中、測定された前記膨張機に吸気される作動ガスの圧力
低下量または前記膨張機から排気される作動ガスの圧力
低下量のいずれか一方に基づいて前記初期冷却が完了したか否かを判定することと、を備え
、
前記初期冷却を実行することは、前記膨張機に吸気される作動ガスの圧力と前記膨張機から排気される作動ガスとの差圧を一定とするように、前記膨張機を迂回して作動ガスを還流させることを備えることを特徴とする極低温冷凍機の起動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温冷凍機および極低温冷凍機の起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
極低温冷凍機は、極低温環境で使用される超伝導機器、測定機器、試料など様々な対象物を冷却するために利用されている。極低温冷凍機で対象物を冷却するには、まず、極低温冷凍機を起動し、室温など初期温度から目的の極低温まで極低温冷凍機を冷却しなければならない。このような極低温冷凍機の初期冷却はクールダウンとも称される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
典型的な極低温冷凍機では、初期冷却が完了したことを知るために、極低温に冷却される部位に温度センサが取り付けられ、この温度センサの測定温度が監視されることがある。しかし、極低温を測定可能な温度センサは比較的高価である。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、初期冷却の完了を検知する極低温冷凍機を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機は、冷却ステージを有する膨張機と、膨張機の排気温度を測定し、測定排気温度を示す排気温度信号を出力する排気温度センサと、冷却ステージを初期温度から極低温に冷却する初期冷却の実行中、排気温度信号に基づいて測定排気温度を基準温度と比較し、測定排気温度と基準温度の温度差が基準範囲内である場合に初期冷却を完了するコントローラと、を備える。
【0007】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機の起動方法は、膨張機の冷却ステージを初期温度から極低温に冷却する初期冷却を実行することと、初期冷却の実行中、膨張機の排気温度を測定することと、初期冷却の実行中、測定された排気温度を基準温度と比較し、測定された排気温度と基準温度の温度差が基準範囲内である場合に初期冷却を完了することと、を備える。
【0008】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機は、冷却ステージを有する膨張機と、膨張機に接続され、膨張機に吸気される作動ガスが流れる高圧ラインと、膨張機に接続され、膨張機から排気される作動ガスが流れる低圧ラインと、高圧ラインの圧力または低圧ラインの圧力を測定する圧力センサと、冷却ステージを初期温度から極低温に冷却する初期冷却の実行中、圧力センサによって測定された高圧ラインの圧力または低圧ラインの圧力のいずれか一方に基づいて初期冷却が完了したか否かを判定するコントローラと、を備える。
【0009】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機の起動方法は、膨張機の冷却ステージを初期温度から極低温に冷却する初期冷却を実行することと、初期冷却の実行中、膨張機に吸気される作動ガスの圧力または膨張機から排気される作動ガスの圧力を測定することと、初期冷却の実行中、測定された膨張機に吸気される作動ガスの圧力または膨張機から排気される作動ガスの圧力のいずれか一方に基づいて初期冷却が完了したか否かを判定することと、を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、初期冷却の完了を検知する極低温冷凍機を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係る極低温冷凍機を概略的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係る極低温冷凍機を概略的に示す図である。
【
図3】実施の形態に係り、初期冷却における膨張機の排気温度と吸気温度の変化の一例を示すグラフである。
【
図4】実施の形態に係る極低温冷凍機の起動方法を説明するフローチャートである。
【
図5】実施の形態に係り、初期冷却における高圧ラインと低圧ラインの圧力の変化の一例を示すグラフである。
【
図6】実施の形態に係る極低温冷凍機の起動方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0014】
図1および
図2は、実施の形態に係る極低温冷凍機10を概略的に示す図である。極低温冷凍機10は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機である。
図1には、極低温冷凍機10を構成する圧縮機12と膨張機14が制御装置100とともに模式的に示され、
図2には、極低温冷凍機10の膨張機14の内部構造が示される。
【0015】
圧縮機12は、極低温冷凍機10の作動ガスを膨張機14から回収し、回収した作動ガスを昇圧して、再び作動ガスを膨張機14に供給するよう構成されている。圧縮機12と膨張機14により極低温冷凍機10の冷凍サイクルが構成され、それにより極低温冷凍機10は所望の極低温冷却を提供することができる。膨張機14は、コールドヘッドとも称される。作動ガスは、冷媒ガスとも称され、通例はヘリウムガスであるが、適切な他のガスが用いられてもよい。理解のために、作動ガスの流れる方向を
図1に矢印で示す。
【0016】
なお、一般に、圧縮機12から膨張機14に供給される作動ガスの圧力と、膨張機14から圧縮機12に回収される作動ガスの圧力は、ともに大気圧よりかなり高く、それぞれ第1高圧及び第2高圧と呼ぶことができる。説明の便宜上、第1高圧及び第2高圧はそれぞれ単に高圧及び低圧とも呼ばれる。典型的には、高圧は例えば2~3MPaである。低圧は例えば0.5~1.5MPaであり、例えば約0.8MPaである。理解のために、作動ガスの流れる方向を矢印で示す。
【0017】
膨張機14は、冷凍機シリンダ16と、ディスプレーサ組立体18とを備える。冷凍機シリンダ16は、ディスプレーサ組立体18の直線往復運動をガイドするとともに、ディスプレーサ組立体18との間に作動ガスの膨張室(32、34)を形成する。また、膨張機14は、膨張室への作動ガスの吸気開始タイミングおよび膨張室からの作動ガスの排気開始タイミングを定める圧力切替バルブ40を備える。
【0018】
本書では、極低温冷凍機10の構成要素間の位置関係を説明するために、便宜上、ディスプレーサの軸方向往復動の上死点に近い側を「上」、下死点に近い側を「下」と表記することとする。上死点は膨張空間の容積が最大となるディスプレーサの位置であり、下死点は膨張空間の容積が最小となるディスプレーサの位置である。極低温冷凍機10の運転時には軸方向上方から下方へと温度が下がる温度勾配が生じるので、上側を高温側、下側を低温側と呼ぶこともできる。
【0019】
冷凍機シリンダ16は、第1シリンダ16a、第2シリンダ16bを有する。第1シリンダ16aと第2シリンダ16bは、一例として、円筒形状を有する部材であり、第2シリンダ16bが第1シリンダ16aよりも小径である。第1シリンダ16aと第2シリンダ16bは同軸に配置され、第1シリンダ16aの下端が第2シリンダ16bの上端に剛に連結されている。
【0020】
ディスプレーサ組立体18は、互いに連結された第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bを備え、これらは一体に移動する。第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bは、一例として、円筒形状を有する部材であり、第2ディスプレーサ18bが第1ディスプレーサ18aよりも小径である。第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bは同軸に配置されている。
【0021】
第1ディスプレーサ18aは、第1シリンダ16aに収容され、第2ディスプレーサ18bは、第2シリンダ16bに収容されている。第1ディスプレーサ18aは、第1シリンダ16aに沿って軸方向に往復移動可能であり、第2ディスプレーサ18bは、第2シリンダ16bに沿って軸方向に往復移動可能である。
【0022】
図2に示されるように、第1ディスプレーサ18aは、第1蓄冷器26を収容する。第1蓄冷器26は、第1ディスプレーサ18aの筒状の本体部の中に、例えば銅などの金網またはその他適宜の第1蓄冷材を充填することによって形成されている。第1ディスプレーサ18aの上蓋部および下蓋部は第1ディスプレーサ18aの本体部とは別の部材として提供されてもよく、第1ディスプレーサ18aの上蓋部および下蓋部は、締結、溶接など適宜の手段で本体に固定され、それにより第1蓄冷材が第1ディスプレーサ18aに収容されてもよい。
【0023】
同様に、第2ディスプレーサ18bは、第2蓄冷器28を収容する。第2蓄冷器28は、第2ディスプレーサ18bの筒状の本体部の中に、例えばビスマスなどの非磁性蓄冷材、HoCu2などの磁性蓄冷材、またはその他適宜の第2蓄冷材を充填することによって形成されている。第2蓄冷材は粒状に成形されていてもよい。第2ディスプレーサ18bの上蓋部および下蓋部は第2ディスプレーサ18bの本体部とは別の部材として提供されてもよく、第2ディスプレーサ18bの上蓋部の下蓋部は、締結、溶接など適宜の手段で本体に固定され、それにより第2蓄冷材が第2ディスプレーサ18bに収容されてもよい。
【0024】
ディスプレーサ組立体18は、室温室30、第1膨張室32、第2膨張室34を冷凍機シリンダ16の内部に形成する。極低温冷凍機10によって冷却すべき所望の物体または媒体との熱交換のために、膨張機14は、第1冷却ステージ33と第2冷却ステージ35を備える。室温室30は、第1ディスプレーサ18aの上蓋部と第1シリンダ16aの上部との間に形成される。第1膨張室32は、第1ディスプレーサ18aの下蓋部と第1冷却ステージ33との間に形成される。第2膨張室34は、第2ディスプレーサ18bの下蓋部と第2冷却ステージ35との間に形成される。第1冷却ステージ33は、第1膨張室32を取り囲むように第1シリンダ16aの下部に固着され、第2冷却ステージ35は、第2膨張室34を取り囲むように第2シリンダ16bの下部に固着されている。
【0025】
第1蓄冷器26は、第1ディスプレーサ18aの上蓋部に形成された作動ガス流路36aを通じて室温室30に接続され、第1ディスプレーサ18aの下蓋部に形成された作動ガス流路36bを通じて第1膨張室32に接続されている。第2蓄冷器28は、第1ディスプレーサ18aの下蓋部から第2ディスプレーサ18bの上蓋部へと形成された作動ガス流路36cを通じて第1蓄冷器26に接続されている。また、第2蓄冷器28は、第2ディスプレーサ18bの下蓋部に形成された作動ガス流路36dを通じて第2膨張室34に接続されている。
【0026】
第1膨張室32、第2膨張室34と室温室30との間の作動ガス流れが、冷凍機シリンダ16とディスプレーサ組立体18との間のクリアランスではなく、第1蓄冷器26、第2蓄冷器28に導かれるようにするために、第1シール38a、第2シール38bが設けられていてもよい。第1シール38aは、第1ディスプレーサ18aと第1シリンダ16aとの間に配置されるように第1ディスプレーサ18aの上蓋部に装着されてもよい。第2シール38bは、第2ディスプレーサ18bと第2シリンダ16bとの間に配置されるように第2ディスプレーサ18bの上蓋部に装着されてもよい。
【0027】
図1に示されるように、膨張機14は、圧力切替バルブ40を収容する冷凍機ハウジング20を備える。冷凍機ハウジング20は、冷凍機シリンダ16と結合され、それにより、圧力切替バルブ40およびディスプレーサ組立体18を収容する気密容器が構成される。
【0028】
圧力切替バルブ40は、
図2に示されるように、高圧バルブ40aと低圧バルブ40bを備え、冷凍機シリンダ16内に周期的圧力変動を発生させるように構成されている。圧縮機12の作動ガス吐出口が高圧バルブ40aを介して室温室30に接続され、圧縮機12の作動ガス吸入口が低圧バルブ40bを介して室温室30に接続されている。高圧バルブ40aと低圧バルブ40bは、選択的かつ交互に開閉するように(すなわち、一方が開いているとき他方が閉じるように)構成されている。
【0029】
圧力切替バルブ40は、ロータリーバルブの形式をとってもよい。すなわち、圧力切替バルブ40は、静止したバルブ本体に対するバルブディスクの回転摺動によって高圧バルブ40aと低圧バルブ40bが交互に開閉されるように構成されていてもよい。その場合、膨張機モータ42が圧力切替バルブ40のバルブディスクを回転させるように圧力切替バルブ40に連結されていてもよい。たとえば、圧力切替バルブ40は、バルブ回転軸が膨張機モータ42の回転軸と同軸となるように配置される。
【0030】
あるいは、高圧バルブ40aと低圧バルブ40bはそれぞれ個別に制御可能なバルブであってもよく、その場合、圧力切替バルブ40は、膨張機モータ42に連結されていなくてもよい。
【0031】
膨張機モータ42は、たとえばスコッチヨーク機構などの運動変換機構43を介してディスプレーサ駆動軸44に連結されている。膨張機モータ42は、冷凍機ハウジング20に取り付けられている。運動変換機構43は、圧力切替バルブ40と同様に、冷凍機ハウジング20に収容されている。運動変換機構43は、膨張機モータ42が出力する回転運動をディスプレーサ駆動軸44の直線往復運動に変換する。ディスプレーサ駆動軸44は、運動変換機構43から室温室30の中へと延び、第1ディスプレーサ18aの上蓋部に固定されている。膨張機モータ42の回転は運動変換機構43によってディスプレーサ駆動軸44の軸方向往復動に変換され、ディスプレーサ組立体18は冷凍機シリンダ16内を軸方向に直線的に往復する。
【0032】
膨張機モータ42は、たとえば、三相交流で駆動する永久磁石型モータである。膨張機モータ42の運転周波数は、インバータ70によって制御される。膨張機モータ42は、膨張機モータ42の運転周波数に応じた回転数で動作することができる。一例として、インバータ70の出力周波数(すなわち膨張機モータ42の運転周波数)は、30Hzから100Hzの範囲、または40Hzから70Hzの範囲で変化しうる。
【0033】
膨張機モータ42およびインバータ70は、商用電源(三相交流電源)などの外部電源80から給電される。なお、膨張機モータ42およびインバータ70は、例えば、圧縮機12を介して外部電源80に接続され給電されてもよく、この場合には、圧縮機12が膨張機モータ42とインバータ70の電源とみなされてもよい。
【0034】
圧縮機12は、高圧ガス出口50、低圧ガス入口51、高圧流路52、低圧流路53、第1圧力センサ54、第2圧力センサ55、バイパスライン56、圧縮機本体57、および圧縮機筐体58を備える。高圧ガス出口50は、圧縮機12の作動ガス吐出ポートとして圧縮機筐体58に設置され、低圧ガス入口51は、圧縮機12の作動ガス吸入ポートとして圧縮機筐体58に設置されている。高圧流路52は、圧縮機本体57の吐出口を高圧ガス出口50に接続し、低圧流路53は、低圧ガス入口51を圧縮機本体57の吸入口に接続する。圧縮機筐体58は、高圧流路52、低圧流路53、第1圧力センサ54、第2圧力センサ55、バイパスライン56、および圧縮機本体57を収容する。圧縮機12は、圧縮機ユニットとも称される。
【0035】
圧縮機本体57は、その吸入口から吸入される作動ガスを内部で圧縮して吐出口から吐出するよう構成されている。圧縮機本体57は、例えば、スクロール方式、ロータリ式、または作動ガスを昇圧するそのほかのポンプであってもよい。この実施の形態では、圧縮機本体57は、固定された一定の作動ガス流量を吐出するよう構成されている。あるいは、圧縮機本体57は、吐出する作動ガス流量を可変とするよう構成されていてもよい。圧縮機本体57は、圧縮カプセルと称されることもある。
【0036】
第1圧力センサ54は、高圧流路52を流れる作動ガスの圧力を測定するよう高圧流路52に配置されている。第1圧力センサ54は、測定された圧力を表す第1測定圧信号P1を出力するよう構成されている。第2圧力センサ55は、低圧流路53を流れる作動ガスの圧力を測定するよう低圧流路53に配置されている。第2圧力センサ55は、測定された圧力を表す第2測定圧信号P2を出力するよう構成されている。よって第1圧力センサ54、第2圧力センサ55はそれぞれ、高圧センサ、低圧センサと呼ぶこともできる。また本書では、第1圧力センサ54と第2圧力センサ55のいずれかを指して、または両方を総称して、単に「圧力センサ」と表記することもある。
【0037】
バイパスライン56は、膨張機14を迂回して高圧流路52から低圧流路53に作動ガスを還流させるように高圧流路52を低圧流路53に接続する。バイパスライン56には、バイパスライン56を開閉し、またはバイパスライン56を流れる作動ガスの流量を制御するためのリリーフバルブ60が設けられている。リリーフバルブ60は、その出入口間に設定圧以上の差圧が作用するとき開くように構成されている。リリーフバルブ60は、オンオフ弁または流量制御弁であってもよく、例えば電磁弁でもよい。設定圧は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。これにより、高圧ライン63と低圧ライン64の差圧がこの設定圧を超えて過大となることを防ぐことができる。また、高圧ライン63の圧力が過大となることを防ぐことができる。
【0038】
一例として、リリーフバルブ60は、制御装置100による制御によって開閉されてもよい。制御装置100は、測定される高圧ライン63と低圧ライン64の差圧を設定圧と比較し、測定差圧が設定圧以上の場合にリリーフバルブ60を開き、測定差圧が設定差圧未満の場合にリリーフバルブ60を閉じるようにリリーフバルブ60を制御してもよい。制御装置100は、高圧ライン63と低圧ライン64の測定差圧を、第1圧力センサ54からの第1測定圧信号P1と第2圧力センサ55からの第2測定圧信号P2に基づいて取得してもよい。あるいは、制御装置100は、第1測定圧信号P1に基づいて高圧ライン63の測定圧力を上限圧と比較し、測定圧力が上限圧以上の場合にリリーフバルブ60を開き、測定圧力が上限圧未満の場合にリリーフバルブ60を閉じるようにリリーフバルブ60を制御してもよい。別の例として、リリーフバルブ60は、いわゆる安全弁として作動するように構成されていてもよく、すなわち、出入口間に設定圧以上の差圧が作用するとき機械的に開放されてもよい。
【0039】
なお、圧縮機12は、そのほか種々の構成要素を有しうる。例えば、高圧流路52には、オイルセパレータ、アドソーバなどが設けられていてもよい。低圧流路53には、ストレージタンクそのほかの構成要素が設けられていてもよい。また、圧縮機12には、圧縮機本体57をオイルで冷却するオイル循環系や、オイルを冷却する冷却系などが設けられていてもよい。
【0040】
また、極低温冷凍機10は、圧縮機12と膨張機14の間で作動ガスを循環させるガスライン62を備える。ガスライン62は、圧縮機12から膨張機14に作動ガスを供給するように圧縮機12を膨張機14に接続する高圧ライン63と、膨張機14から圧縮機12に作動ガスを回収するように圧縮機12を膨張機14に接続する低圧ライン64とを備える。よって、高圧ライン63には膨張機14に吸気される作動ガスが流れ、低圧ライン64には膨張機14から排気される作動ガスが流れる。
【0041】
膨張機14の冷凍機ハウジング20には高圧ガス入口22と低圧ガス出口24が設けられている。高圧ガス入口22は、膨張機14の作動ガス吸気ポートとして冷凍機ハウジング20に設置され、低圧ガス出口24は、膨張機14の作動ガス排気ポートとして冷凍機ハウジング20に設置されている。図示されるように、高圧ガス入口22を先端に有する高圧側接続管25aと、低圧ガス出口24を先端に有する低圧側接続管25bが、冷凍機ハウジング20から延びていてもよい。高圧側接続管25aと低圧側接続管25bは例えばリジッド管であるが、フレキシブル管であってもよい。
【0042】
膨張機14の高圧ガス入口22は、高圧配管65によって圧縮機12の高圧ガス出口50に接続されている。膨張機14の低圧ガス出口24は、低圧配管66によって圧縮機12の低圧ガス入口51に接続されている。高圧ライン63は、高圧配管65と高圧流路52からなり、低圧ライン64は、低圧配管66と低圧流路53からなる。高圧配管65、低圧配管66は例えばフレキシブル管であるが、リジッド管であってもよい。
【0043】
なお、圧縮機12内のバイパスライン56は、ガスライン62の一部であるとみなされてもよい。バイパスライン56は、膨張機14を迂回して高圧ライン63から低圧ライン64に作動ガスを還流させるように高圧ライン63を低圧ライン64に接続する。
【0044】
したがって、膨張機14から圧縮機12に回収される作動ガスは、膨張機14の低圧ガス出口24から低圧配管66を通じて圧縮機12の低圧ガス入口51に入り、さらに低圧流路53を経て圧縮機本体57に戻り、圧縮機本体57によって圧縮され昇圧される。圧縮機12から膨張機14に供給される作動ガスは、圧縮機本体57から高圧流路52を通じて圧縮機12の高圧ガス出口50から出て、さらに高圧配管65と膨張機14の高圧ガス入口22を経て膨張機14に供給される。
【0045】
高圧ライン63の圧力が上限圧を超えるときリリーフバルブ60が開き、高圧ライン63を流れる作動ガスの一部は、高圧流路52からバイパスライン56へと分流される。バイパスライン56は低圧流路53に合流しているので、作動ガスは膨張機14を迂回して圧縮機本体57に還流し、高圧ライン63の圧力は低下する。高圧ライン63の圧力が上限圧を下回ればリリーフバルブ60は閉じ、高圧ライン63から低圧ライン64へのバイパスライン56を通じた作動ガス流れは遮断される。同様にして、高圧ライン63と低圧ライン64の差圧も、設定圧を超えないようにリリーフバルブ60を通じて調整されうる。
【0046】
また、膨張機14には、吸気温度センサ46と排気温度センサ48が設けられている。吸気温度センサ46は、膨張機14の吸気温度を測定し、測定吸気温度を示す吸気温度信号T1を出力するよう構成されている。排気温度センサ48は、膨張機14の排気温度を測定し、測定排気温度を示す排気温度信号T2を出力するよう構成されている。
【0047】
吸気温度センサ46は、例えば膨張機14の高圧ガス入口22に設けられ、排気温度センサ48は、例えば膨張機14の低圧ガス出口24に設けられている。ただし、吸気温度センサ46は、膨張機14に吸気される作動ガスの温度を測定できる限り、その設置場所は問わない。例えば、吸気温度センサ46は、高圧側接続管25aの内部または外面に設けられてもよく、または高圧ガス入口22と高圧配管65との間に、または高圧配管65の内側または外面に設けられてもよい。同様に、排気温度センサ48は、膨張機14から排気される作動ガスの温度を測定できる限り、その設置場所は問わない。例えば、排気温度センサ48は、低圧側接続管25bの内部または外面に設けられてもよく、または低圧ガス出口24と低圧配管66との間に、または低圧配管66の内側または外面に設けられてもよい。
【0048】
このように、吸気温度センサ46と排気温度センサ48は、極低温冷凍機10の非冷却部に設けられている。これら温度センサは、膨張機14に限られず、ガスライン62に設けられてもよい。ただし、周囲環境による温度変化(例えば冷却)の影響を避け、膨張機14に吸排気される作動ガスの温度を正確に測るために、吸気温度センサ46と排気温度センサ48は、圧縮機12に設けるのではなく、膨張機14またはその近傍に設けることが好ましい。
【0049】
図1に示されるように、極低温冷凍機10を制御する制御装置100は、インバータ70を制御するコントローラ110を備える。コントローラ110は、吸気温度信号T1および排気温度信号T2を取得するよう吸気温度センサ46および排気温度センサ48と電気的に接続されている。また、コントローラ110は、第1測定圧信号P1および第2測定圧信号P2を取得するよう第1圧力センサ54および第2圧力センサ55と電気的に接続されている。
【0050】
図示される例では、制御装置100は、圧縮機12および膨張機14とは別に設けられこれらと接続されているが、その限りでない。制御装置100は、圧縮機12に搭載されてもよい。制御装置100は、膨張機モータ42に搭載される等、膨張機14に設けられてもよい。あるいは、コントローラ110が圧縮機12に搭載され、インバータ70が膨張機14に搭載される等、コントローラ110とインバータ70が別々に設置されてもよい。
【0051】
制御装置100は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、
図1では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0052】
極低温冷凍機10は、圧縮機12および膨張機モータ42が運転されるとき、第1膨張室32および第2膨張室34において周期的な容積変動とこれに同期した作動ガスの圧力変動を発生させる。典型的には、吸気工程においては、低圧バルブ40bが閉じ高圧バルブ40aが開くことによって、高圧の作動ガスが圧縮機12から高圧バルブ40aを通じて室温室30に流入し、第1蓄冷器26を通じて第1膨張室32に供給され、第2蓄冷器28を通じて第2膨張室34に供給される。こうして、第1膨張室32、第2膨張室34は低圧から高圧へと昇圧される。このとき、ディスプレーサ組立体18が下死点から上死点へと上動され第1膨張室32と第2膨張室34の容積が増加される。高圧バルブ40aが閉じると吸気工程は終了する。
【0053】
排気工程においては、高圧バルブ40aが閉じ低圧バルブ40bが開くことによって、高圧の第1膨張室32、第2膨張室34が圧縮機12の低圧の作動ガス吸入口に開放されるので、作動ガスが第1膨張室32、第2膨張室34で膨張し、その結果低圧となった作動ガスが第1膨張室32、第2膨張室34から第1蓄冷器26、第2蓄冷器28を通じて室温室30へと排出される。このとき、ディスプレーサ組立体18が上死点から下死点へと下動され第1膨張室32と第2膨張室34の容積が減少される。作動ガスは膨張機14から低圧バルブ40bを通じて圧縮機12に回収される。低圧バルブ40bが閉じると排気工程は終了する。
【0054】
このようにして、たとえばGMサイクルなどの冷凍サイクルが構成され、第1冷却ステージ33および第2冷却ステージ35が所望の極低温に冷却される。第1冷却ステージ33は、例えば約20K~約40Kの範囲にある第1冷却温度に冷却されることができる。第2冷却ステージ35は、第1冷却温度より低い第2冷却温度(例えば、約1K~約4K)に冷却されることができる。
【0055】
極低温冷凍機10は、定常運転と、定常運転に先行してクールダウン運転とを実行可能である。クールダウン運転は、極低温冷凍機10の起動時に、初期温度から極低温に急速に冷却する運転モードであり、定常運転は、クールダウン運転によって極低温に冷却された状態を維持する極低温冷凍機10の運転モードである。初期温度は、周囲温度(例えば室温)であってもよい。極低温冷凍機10は、クールダウン運転によって標準冷却温度に冷却され、定常運転ではこの標準冷却温度を含む極低温の許容温度範囲内に維持される。標準冷却温度は、極低温冷凍機10の用途と設定に応じて異なるが、例えば超伝導装置の冷却用途では典型的に、約4.2K以下である。ある他の冷却用途では、標準冷却温度は、例えば約10K~20K、または10K以下であってもよい。クールダウン運転から定常運転への切替は、制御装置100によって制御されてもよい。クールダウンは、上述のように、初期冷却と呼ぶこともできる。
【0056】
初期冷却は極低温冷凍機によって対象物の冷却を始めるため準備にすぎないから、その所要時間はなるべく短いことが望まれる。そこで、「加速冷却」が使用されることがある。加速冷却では、膨張機モータ42の運転周波数が、インバータ70によって例えば外部電源80の電源周波数よりも高い周波数に制御される。膨張機モータ42の運転周波数の増加はすなわち極低温冷凍機10の冷凍サイクルの単位時間あたりの回数増加に相当するから、極低温冷凍機10の冷凍能力を増加させることができる。したがって、加速冷却により、極低温冷凍機10のクールダウン時間を短縮することができる。
【0057】
一見すると、初期冷却中だけでなく定常運転でも引き続き高い運転周波数で膨張機モータ42を駆動すれば、極低温冷凍機10は高い冷凍能力を発揮し続けられるようにみえる。しかし、実際にはそうとは言えない。高い運転周波数で膨張機モータ42を駆動し続けると、却って冷凍能力が低下し不十分となることがある。
【0058】
極低温冷凍機10が所定の冷凍能力を出力するために膨張機14に必要とされる作動ガス流量は、冷却温度に依存した作動ガスの密度変化に相関するため、温度が高いほど少なくてよい。そのため、圧縮機12の吐出流量が一定であるとすると、冷却温度が高いほど余剰の作動ガス流量が多くなり、高圧ライン63と低圧ライン64の差圧が大きくなりがちである。過剰な差圧が生じるのを避けるために、上述のように、作動ガスがバイパスライン56を通じて還流されうる。よって、定常運転に比べて温度が高い初期冷却中(とくに初期冷却の開始当初)には、多量の余剰ガスがバイパスライン56を通じて還流し無駄となりうる。加速冷却は、膨張機14で使用する作動ガスの流量を増やすことによって、還流する余剰ガスを減らし、圧縮機12の吐出流量を有効に利用するものである。
【0059】
したがって、極低温冷凍機10の冷却ステージ(例えば第2冷却ステージ35)に温度センサを設置し、測定温度を監視することで初期冷却の完了を検知し、初期冷却(および加速冷却)を終了させ、定常冷却に移行するという自動制御機能を極低温冷凍機に搭載することが考えられる。
【0060】
しかし、これを実現するには、極低温を測定できる温度センサが必要であり、そうした温度センサは比較的高価である。コストアップを避けるために極低温用の温度センサが極低温冷凍機に搭載されない場合、極低温冷凍機の使用者が初期冷却の完了を判断して手作業で加速冷却を終了させることになり、作業が煩雑となる。あるいは、加速冷却を利用しないこととなり、クールダウン時間の短縮が制限される。
【0061】
そこで、本発明者は、極低温部に設けた温度センサを使用するのではなく、クールダウン完了を検知する別の簡便で安価な手法を見出した。実施の形態では、後述のように、コントローラ110は、冷却ステージを初期温度から極低温に冷却する初期冷却の実行中、排気温度信号T2に基づいて測定排気温度を基準温度と比較し、測定排気温度と基準温度の温度差が基準範囲内である場合に初期冷却を完了するように構成される。コントローラ110は、吸気温度信号T1に基づいて測定吸気温度を基準温度として使用するように構成されてもよい。コントローラ110は、初期冷却を完了するとき膨張機モータ42の運転周波数を低下させるようにインバータ70を制御するように構成されてもよい。
【0062】
図3は、実施の形態に係り、初期冷却における膨張機14の排気温度と吸気温度の変化の一例を示すグラフである。図示される温度変化は、実験により取得したものであり、
図3の上部には、排気温度センサ48と吸気温度センサ46によって測定された膨張機14の排気温度と吸気温度が示される。検討のために、第2冷却ステージ35の冷却温度も測定され、これは
図3の下部に示される。なおこのとき圧縮機12のバイパスライン56は、高圧ライン63と低圧ライン64の差圧を一定とするように制御されている。
【0063】
図3に示されるように、極低温冷凍機10の起動時点(時刻0)では、排気温度も吸気温度も周囲温度(例えば約25℃)にある。排気温度は、初期冷却の開始後、ある最高温度(例えば約42℃)まで高まり、その後徐々に再び周囲温度に向けて低下している。吸気温度は、初期冷却の間、周囲温度に概ね等しくなっている。このように、周囲温度が変動しない場合、吸気温度も周囲温度に応じて一定となる。
【0064】
排気温度と吸気温度の温度差は初期冷却開始直後に広がるが、第2冷却ステージ35の冷却が進むにつれて温度差が縮小していくことがグラフからわかる。第2冷却ステージ35が上述の標準冷却温度(例えば約4K)に冷却された時点Aで(この例では約46分)、排気温度と吸気温度の温度差は約7℃に縮小している。さらに時間が経つと、排気温度と吸気温度の温度差は最終的に数℃(例えば5℃以内または3℃以内)に収まる。したがって、時点Aで、または、排気温度と吸気温度の温度差がさらに小さくなる時点Bで(この例では温度差が5℃以内となる時点で)、初期冷却が完了したものとみなすことができる。
【0065】
図4は、実施の形態に係る極低温冷凍機10の起動方法を説明するフローチャートである。本方法は、極低温冷凍機10の起動時にコントローラ110によって実行される。極低温冷凍機10が起動されると、初期冷却が開始される(S10)。このときコントローラ110は加速冷却を実行してもよく、定常運転中である場合に比べて膨張機モータ42の運転周波数が高くなるようにインバータ70を制御してもよい。初期冷却における膨張機モータ42の運転周波数は、外部電源80からインバータ70への入力周波数(例えば50Hzまたは60Hz)よりも高くてもよい。
【0066】
膨張機14の排気温度と吸気温度が測定される(S12)。これらは上述のように、吸気温度センサ46と排気温度センサ48を使用して測定される。コントローラ110は、吸気温度信号T1から膨張機14の測定吸気温度を取得し、排気温度信号T2から膨張機14の測定排気温度を取得する。
【0067】
測定排気温度が基準温度と比較される(S14)。この実施の形態では、測定吸気温度が基準温度として使用される。コントローラ110は、測定排気温度と基準温度の温度差が基準範囲内であるか否かを判定する。測定排気温度が基準温度よりもかなり大きく、測定排気温度と基準温度の温度差が基準範囲外である場合には(S14の(i))、初期冷却が継続され、以降に膨張機14の排気温度と吸気温度が再び測定され(S12)、測定排気温度が基準温度と比較される(S14)。
【0068】
ここで、基準範囲は、例えば数℃以内(例えば5℃以内)であってもよい。基準範囲は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。基準範囲は、極低温冷凍機10の使用者によってコントローラ110に予め入力され、またはコントローラ110に予め設定され、コントローラ110に保存されている。
【0069】
測定排気温度と基準温度の温度差が基準範囲内である場合には(S14の(ii))、コントローラ110は、初期冷却を終了し、極低温冷凍機10の定常運転に移行する(S16)。加速冷却が実行されている場合、コントローラ110は、膨張機モータ42の運転周波数を低下させるようにインバータ70を制御する(S18)。すなわち、コントローラ110は、膨張機モータ42の運転周波数を初期冷却用の第1の値から定常運転用の第2の値に変更するようにインバータ70を制御する。定常運転用の第2の運転周波数値は、初期冷却用の第1の運転周波数値より小さく、例えば、外部電源80からインバータ70への入力周波数(例えば50Hzまたは60Hz)に等しいかそれより低くてもよい。
【0070】
このようにして、極低温冷凍機10の初期冷却は完了し、定常運転が開始される。第2冷却ステージ35に熱的に結合されている冷却対象物を目的の極低温に冷却し、極低温下で利用することができる。
【0071】
したがって、実施の形態に係る極低温冷凍機10によると、初期冷却の実行中に、極低温冷却部(例えば第2冷却ステージ35)の温度を測定することなく、膨張機14の測定排気温度と測定吸気温度から初期冷却の完了を検知することができる。吸気温度センサ46と排気温度センサ48が極低温冷凍機10の非冷却部に設けられているので、室温付近を測定する汎用の温度センサを利用できる。こうした温度センサよりも高価な極低温測定用の温度センサを要しない。よって、初期冷却の完了を検知する極低温冷凍機を安価に提供することができる。
【0072】
測定排気温度と比較される基準温度として、測定吸気温度が使用される。仮に、極低温冷凍機10の周囲温度が変動した場合、その影響は排気温度と吸気温度の両方に現れると考えられる。実施の形態によれば、測定排気温度と測定吸気温度の温度差を使用するので、周囲温度の変動の影響を相殺することができる。
【0073】
なお、基準温度として測定吸気温度を使用することは、必須ではない。ある実施の形態では、コントローラ110は、基準温度として、初期冷却開始時の測定排気温度を使用してもよい。この場合、極低温冷凍機10は、吸気温度センサ46を備えなくてもよく、ステップS12では排気温度センサ48によって排気温度のみが測定されてもよい。また、周囲温度の値を入手可能である場合には、コントローラ110は、基準温度として、その周囲温度値を使用してもよい。コントローラ110は、基準温度として、周囲温度を表す温度値(固定値でもよい)を使用してもよい。
【0074】
また、実施の形態によると、初期冷却を完了するとき膨張機モータ42の運転周波数を低下させることにより、定常運転での極低温冷凍機10の冷凍能力の低下を抑制することができる。
【0075】
上述の実施の形態では、初期冷却中に加速冷却が行われている。しかし、加速冷却は必須ではない。ある実施の形態では、初期冷却中、膨張機モータ42の運転周波数は、外部電源80からインバータ70への入力周波数(例えば50Hzまたは60Hz)に等しくてもよく、初期冷却から定常運転に移行するとき、コントローラ110は、膨張機モータ42の運転周波数を低下させるようにインバータ70を制御してもよい。
【0076】
なお、膨張機モータ42の運転周波数は、初期冷却中または定常運転中に調整されてもよい。例えば、コントローラ110は、初期冷却において膨張機モータ42の運転周波数を第1の範囲内で制御し、定常運転において膨張機モータ42の運転周波数を第2の範囲内で制御してもよい。第2の範囲は第1の範囲よりも低い運転周波数であってもよい。第1の範囲は、インバータ70への入力周波数よりも高くてもよく、第2の範囲は、インバータ70への入力周波数に等しいかそれより低くてもよい。
【0077】
膨張機14の排気温度に代えて、初期冷却の完了をガスライン62の圧力から検知することも可能である。そのような実施の形態を次に説明する。
【0078】
図5は、実施の形態に係り、初期冷却における高圧ライン63と低圧ライン64の圧力の変化の一例を示すグラフである。図示される圧力変化は、実験により取得したものであり、
図4の上部には、第1圧力センサ54と第2圧力センサ55によって測定された高圧ライン63と低圧ライン64の圧力が示される。検討のために、第2冷却ステージ35の冷却温度も測定され、これは
図4の下部に示される。なおこのとき圧縮機12のバイパスライン56は、高圧ライン63と低圧ライン64の差圧を一定とするように制御されている。
【0079】
図5に示されるように、極低温冷凍機10の起動時点(時刻0)では、高圧ライン63の圧力は約2.5MPaであり、低圧ライン64の圧力は約0.7MPaである。初期冷却中、第2冷却ステージ35が約20Kに冷却されるまで、高圧ライン63と低圧ライン64の圧力はそれぞれ概ね一定に保たれる。さらに冷却が進み、第2冷却ステージ35が約20Kから約4Kまで冷却されるのと概ね同期して、高圧ライン63の圧力が約2.5MPaから約2.3MPaに低下し、低圧ライン64の圧力が約0.7MPaから約0.5MPaに低下している。
【0080】
この圧力低下は、作動ガスとして使用されるヘリウムガスの温度と密度の関係に基づく。ヘリウムガスは、20~30K程度の温度帯で他の温度帯に比べて密度が顕著に高まる。そのため、第2冷却ステージ35が20~30K程度に冷却されるとき膨張機14の膨張室でヘリウムガスの密度が増加され、それにより、ガスライン62からヘリウムガスが膨張室に吸収されることになる。その結果、この温度帯よりも高温から低温へと冷却されるにつれて、ガスライン62の圧力が低下する。
【0081】
したがって、高圧ライン63の測定圧力または低圧ライン64の測定圧力の変化量がしきい値を超えて拡大する時点Cで(この例では圧力低下量が例えば0.1MPaを超える時点で)、初期冷却が完了したものとみなすことができる。
【0082】
図6は、実施の形態に係る極低温冷凍機10の起動方法を説明するフローチャートである。本方法は、極低温冷凍機10の起動時にコントローラ110によって実行される。極低温冷凍機10が起動されると、初期冷却が開始される(S10)。
【0083】
高圧ライン63の圧力または低圧ライン64の圧力が測定される(S22)。これらは上述のように、第1圧力センサ54または第2圧力センサ55を使用して測定される。コントローラ110は、第1測定圧信号P1から高圧ライン63の圧力を取得し、第2測定圧信号P2から低圧ライン64の圧力を取得することができる。
【0084】
測定圧力の変化量が圧力しきい値と比較される(S24)。コントローラ110は、測定圧力の変化量を算出し、算出された圧力変化量を圧力しきい値と比較する。測定圧力の変化量は例えば、初期冷却の開始時点に取得された測定圧力に対する現在の測定圧力の変化量であってもよい。測定圧力の変動が小さく、圧力変化量が圧力しきい値を下回る場合には(S24の(i))、初期冷却が継続され、以降に再び圧力が測定され(S22)、測定圧力の変化量が圧力しきい値と比較される(S24)。
【0085】
ここで、コントローラ110は、測定圧力の移動平均を算出し、移動平均の変化量を算出し、この圧力変化量を圧力しきい値と比較してもよい。圧力しきい値は、例えば0.1MPa程度であってもよい。圧力しきい値は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。
【0086】
測定圧力の変化量が圧力しきい値を上回る場合には(S24の(ii))、コントローラ110は、初期冷却を終了し、極低温冷凍機10の定常運転に移行する(S16)。加速冷却が実行されている場合、コントローラ110は、膨張機モータ42の運転周波数を低下させるようにインバータ70を制御する(S18)。このようにして、極低温冷凍機10の初期冷却は完了し、定常運転が開始される。
【0087】
このように、コントローラ110は、初期冷却の実行中、圧力センサによって測定された高圧ライン63の圧力または低圧ライン64の圧力のいずれか一方に基づいて初期冷却が完了したか否かを判定する。したがって、実施の形態に係る極低温冷凍機10によると、初期冷却の実行中に、極低温冷却部(例えば第2冷却ステージ35)の温度を測定することなく、高圧ライン63の圧力または低圧ライン64の圧力から初期冷却の完了を検知することができる。
【0088】
なお、コントローラ110は、高圧ライン63の圧力に基づいて初期冷却が完了したか否かを判定するとともに、低圧ライン64の圧力に基づいて初期冷却が完了したか否かを判定してもよい。コントローラ110は、高圧ライン63の圧力に基づく判定と低圧ライン64の圧力に基づく判定の少なくとも一方(好ましくは両方)が初期冷却の完了を示す場合に、初期冷却を終了し定常運転に移行してもよい。
【0089】
コントローラ110は、温度に基づいて初期冷却が完了したか否かを判定するとともに、圧力に基づいて初期冷却が完了したか否かを判定してもよい。温度に基づく判定は例えば、
図3および
図4を参照して説明した測定排気温度と基準温度の比較に基づく判定であってもよい。圧力に基づく判定は例えば、
図5および
図6を参照して説明した測定圧力の変化量と圧力しきい値の比較に基づく判定であってもよい。コントローラ110は、温度に基づく判定と圧力に基づく判定の少なくとも一方(好ましくは両方)が初期冷却の完了を示す場合に、初期冷却を終了し定常運転に移行してもよい。
【0090】
上述のように、リリーフバルブ60が制御装置100による制御によって開閉される場合、初期冷却と定常運転で異なる設定圧が使用されてもよい。制御装置100は、初期冷却中においては、測定される高圧ライン63と低圧ライン64の差圧を初期冷却用の設定圧と比較し、測定差圧がこの設定圧以上の場合にリリーフバルブ60を開き、測定差圧が設定差圧未満の場合にリリーフバルブ60を閉じるようにリリーフバルブ60を制御してもよい。また、制御装置100は、定常運転中においては、測定される高圧ライン63と低圧ライン64の差圧を定常運転用の設定圧と比較し、測定差圧がこの設定圧以上の場合にリリーフバルブ60を開き、測定差圧が設定差圧未満の場合にリリーフバルブ60を閉じるようにリリーフバルブ60を制御してもよい。同様にして、高圧ライン63について定められる上限圧も、初期冷却と定常運転で異なる上限圧が使用されてもよい。
【0091】
第1圧力センサ54、第2圧力センサ55等の圧力センサは、圧縮機12に設けられることは必須ではなく、ガスライン62、膨張機14など圧力を測定可能な任意の場所に設けられてもよい。例えば、第1圧力センサ54は高圧ライン63の任意の場所に設けられてもよく、第2圧力センサ55は低圧ライン64の任意の場所に設けられてもよい。また、同様に、バイパスライン56とリリーフバルブ60も圧縮機12に設けられることは必須ではなく、圧縮機12の外に配置され高圧ライン63と低圧ライン64を接続してもよい。
【0092】
上述の実施の形態は、極低温冷凍機10が二段式のGM冷凍機である場合を例として説明しているが、これに限られない。極低温冷凍機10は、単段式または多段式のGM冷凍機であってもよく、さらには、膨張機を駆動する膨張機モータを備える例えばGM型パルス管冷凍機などその他のタイプの極低温冷凍機であってもよい。
【0093】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0094】
10 極低温冷凍機、 14 膨張機、 46 吸気温度センサ、 48 排気温度センサ、 63 高圧ライン、 64 低圧ライン、 70 インバータ、 110 コントローラ、 T1 吸気温度信号、 T2 排気温度信号。