(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】複数のビーム形成手法を用いて通信する通信装置、通信方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20240827BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20240827BHJP
H04W 28/18 20090101ALI20240827BHJP
【FI】
H04B7/06 956
H04B7/06 958
H04W16/28
H04W28/18 110
(21)【出願番号】P 2020191873
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100131886
【氏名又は名称】坂本 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100170667
【氏名又は名称】前田 浩次
(72)【発明者】
【氏名】小林 龍司
(72)【発明者】
【氏名】柴山 昌也
【審査官】鉢呂 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-115662(JP,A)
【文献】特表2022-522580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/02-7/12
H04L 1/02-1/06
H04W 16/28
H04W 28/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信装置であって、
相手装置から送信された無線信号を用いて、前記通信装置と前記相手装置との間の伝送路の状態を推定する推定手段と、
前記通信装置が送信した無線信号に基づいて前記相手装置によって決定された、前記通信装置が前記相手装置へ信号を送信する際に用いるべきビームに関する情報を取得する取得手段と、
前記推定された伝送路の状態に基づいて前記相手装置へ信号を送信する際の第1のビームを形成し、又は、前記取得された情報に基づいて前記相手装置へ信号を送信する際の第2のビームを形成して、前記相手装置と通信する通信手段と、
前記相手装置と前記第1のビームを用いて通信している際の、当該通信において用いられている第1のMCS(変調および符号化方式)と、当該通信において前記第1のビームを用いずに前記第2のビームを用いるとした場合の第2のMCSとに基づいて、前記第1のビームから前記第2のビームへ切り替えるかを判定する判定手段と、
前記判定に基づいて前記第1のビームまたは前記第2のビームのいずれかを用いて前記相手装置へ信号を送信するように前記通信手段を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記判定手段は、
前記第1のビームを用いて前記相手装置と通信している間に得られる無線品質の値に基づいて、前記第2のビームが用いられるとした場合の当該無線品質の値に対応する前記第2のMCSを特定し、
使用されている前記第1のMCS
のレベルと特定した前記第2のMCS
のレベルとの差が所定レベル以下となった場合に、前記第1のビームから前記第2のビームへ切り替えると判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記第1のMCSのレベルが前記第2のMCSのレベルより低い場合に、前記第1のビームから前記第2のビームへ切り替えると判定する、ことを特徴とする請求項2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記第2のビームで通信する際に使用したMCSと当該MCSを使用した通信における無線品質の値の統計値とを関連付けて記憶する記憶手段をさらに有し、
前記判定手段は、前記第1のビームを用いて前記相手装置と通信している間に当該通信において得られる無線品質の値に関連付けられて前記記憶手段に記憶されているMCSを前記第2のMCSとして特定する、
ことを特徴とする請求項2または3に記載の通信装置。
【請求項5】
前記無線品質は、前記第1のビームを用いた場合の参照信号受信電力(RSRP)である、ことを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項6】
前記無線品質の値が、前記相手装置からの報告によって取得される、ことを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項7】
前記通信装置はセルラ通信システムにおける基地局装置であり、前記相手装置はセルラ通信システムにおける端末装置である、ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項8】
通信装置によって実行される通信方法であって、
前記通信装置は、相手装置から送信された無線信号を用いて、前記通信装置と前記相手装置との間の伝送路の状態を推定して、前記推定された伝送路の状態に基づいて前記相手装置へ信号を送信する際の第1のビームを形成し、又は、前記通信装置が送信した無線信号に基づいて前記相手装置によって決定された、前記通信装置が前記相手装置へ信号を送信する際に用いるべきビームに関する情報を取得して、前記取得された情報に基づいて前記相手装置へ信号を送信する際の第2のビームを形成して、前記相手装置と通信するように構成され、
前記通信方法は、
前記相手装置と前記第1のビームを用いて通信している際の、当該通信において用いられている第1のMCS(変調および符号化方式)と、当該通信において前記第1のビームを用いずに前記第2のビームを用いるとした場合の第2のMCSとに基づいて、前記第1のビームから前記第2のビームへ切り替えるかを判定することと、
前記判定に基づいて前記第1のビームまたは前記第2のビームのいずれかを用いて前記相手装置へ信号を送信することと、
を含むことを特徴とする通信方法。
【請求項9】
コンピュータを、請求項1から7のいずれか1項に記載の通信装置が有する各手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナを用いてビームを形成する通信装置の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の技術分野において、スループットの向上や通信容量の拡大のために、複数のアンテナを用いて空間リソースを有効活用する技術が知られている。この技術は、例えば、多入力多出力(MIMO)やアンテナダイバーシティを含む。
【0003】
セルラ通信システムでは、基地局装置が、端末装置から送信された上りリンクの信号(例えば、SRS(Sounding Reference Signal)やDMRS(Demodulation Reference Signal))に基づいて伝送路の状態を推定することができる。そして、基地局装置は、その推定値に基づいてアンテナウェイトを調整し、形状が細く、かつ指向方向における利得を十分に高くしたビームを形成して端末装置と通信することもできる。この手法では、上述のように、基地局装置が、指向方向における利得が十分に高く、端末装置に適したビームを形成することができるため、高いスループットで端末装置にデータを送信することができる。この手法は、周波数分割複信(FDD)システムでも利用可能であるが、時分割複信(TDD)システムにおいて特に有用である。
【0004】
また、セルラ通信システムでは、端末装置が基地局装置から送信されたCSI-RS(Channel State Information Reference Signal)を観測して、そのCSI-RSに基づいて下りリンクの伝送路の状態を推定しうる。そして、端末装置は、事前に用意された複数のアンテナウェイトパターンにそれぞれ対応する複数のPMI(Precoding Matrix Indicator)の値のうちの1つをその推定結果に基づいて特定し、特定したPMIの値を基地局装置へ通知する。基地局装置は、通知されたPMIに対応するアンテナウェイトを用いてビームを形成し、端末装置と通信しうる。PMIを用いる技術では、端末装置に伝送路推定をさせて、その伝送路推定値に基づいて大まかに適したビームを選択させ、その選択結果のみをフィードバックさせることにより、少ないフィードバックでビームを設定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基地局装置が直接伝送路を推定してビームを形成する手法では、端末装置の位置に応じた固有のビームが形成されることにより、高いスループットを得ることができる。一方で、この手法では、端末装置の方向に向けてビームの利得を高くするためにビーム幅が狭く形成される。このため、端末装置が移動することによって、ビームの方向と端末装置の位置の不一致が生じ、スループットも低下してしまいうる。これに対して、端末装置がPMIの値をフィードバックする手法では、端末装置の方向に大まかに向けたビームが使用されるため、最大スループットが相対的に低いが、端末装置の移動に対するスループットの劣化の程度は大きくない。
【0006】
本発明は、複数のアンテナを用いた送信手法を状況に応じて適切に選択して使用する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による通信装置は、相手装置から送信された無線信号を用いて、前記通信装置と前記相手装置との間の伝送路の状態を推定する推定手段と、前記通信装置が送信した無線信号に基づいて前記相手装置によって決定された、前記通信装置が前記相手装置へ信号を送信する際に用いるべきビームに関する情報を取得する取得手段と、前記推定された伝送路の状態に基づいて前記相手装置へ信号を送信する際の第1のビームを形成し、又は、前記取得された情報に基づいて前記相手装置へ信号を送信する際の第2のビームを形成して、前記相手装置と通信する通信手段と、前記相手装置と前記第1のビームを用いて通信している際の、当該通信において用いられている第1のMCS(変調および符号化方式)と、当該通信において前記第1のビームを用いずに前記第2のビームを用いるとした場合の第2のMCSとに基づいて、前記第1のビームから前記第2のビームへ切り替えるかを判定する判定手段と、前記判定に基づいて前記第1のビームまたは前記第2のビームのいずれかを用いて前記相手装置へ信号を送信するように前記通信手段を制御する制御手段と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数のアンテナを用いた送信手法を状況に応じて適切に選択して使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】基地局装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図4】基地局装置によって実行される処理の流れの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
(システム構成)
図1に、本実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す。無線通信システムは、例えばロングタームエボリューション(LTE)や第5世代(5G)のセルラ通信システムであり、複数のアンテナを有する基地局装置101と、1つ以上のアンテナを有する端末装置102とを含んで構成される。なお、これは一例であり、複数のアンテナを有する通信装置が、その複数のアンテナを用いてビームを形成し、1つ以上のアンテナを有する相手装置との間で無線通信する任意の無線通信システムにおいて、以下の議論を適用することができる。
【0012】
本無線通信システムでは、基地局装置は、端末装置との間の伝送路の状態の推定値に基づいて、ビームを形成して、基地局装置へ無線信号(無線フレーム)を送信することができる。なお、本実施形態及び添付の特許請求の範囲を通じて、基地局装置と端末装置との間の伝送路の状態とは、基地局装置が有する複数のアンテナのそれぞれと、端末装置が有する1つ以上のアンテナのそれぞれとの間の伝送路の状態を示す。例えば、基地局装置がアンテナをN本有し、端末装置がアンテナをM本有する場合、N×M個の伝送路の状態が推定される。基地局装置は、例えば、伝送路の状態の推定値に基づいて、複数のアンテナのそれぞれにおいて送信対象の無線フレームに乗じるウェイトを計算し、そのウェイトを乗じた送信対象の無線フレームを複数のアンテナから並行して送出する。なお、基地局装置は、例えば、端末装置が複数のアンテナを有する場合には、複数のデータストリームを並行して端末装置へ送信することができる。すなわち、基地局装置と端末装置との間で、双方が複数のアンテナを用いて、複数のストリームを送受信するMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)技術を使用することが可能である。この手法では、同じ周波数帯及び時間において、空間的に複数のデータストリームが多重されて送信されうる。この場合、例えば、送信アンテナ数×受信アンテナ数のアンテナウェイト行列(プリコーディング行列)に、各データストリームを示すベクトルを乗じることにより、各送信アンテナで送信すべきデータストリームのベクトルが生成される。そして、基地局装置(送信側)の複数のアンテナのそれぞれが、そのベクトルのうちの対応する要素を送信する。これによれば、一例において、端末装置(受信側)の各アンテナで受信された信号から、送信された複数のストリームを高品質に抽出することが可能となる。
【0013】
基地局装置は、上述のように、端末装置から送信されたSRS(Sounding Reference Signal)などの無線信号に基づいて伝送路の状態を推定し、その伝送路推定値に基づいてプリコーディング行列を算出することができる。また、基地局装置が使用可能なプリコーディング行列の候補を事前に複数個用意しておき、その候補のいずれを基地局装置が使用すべきかを端末装置が決定してもよい。この場合、端末装置は、その決定したビームを特定する情報をPMI(Precoding Matrix Indicator)として基地局装置に通知し、基地局装置は、そのPMIに基づいて使用するプリコーディング行列を決定することができる。
【0014】
基地局装置が伝送路の状態を推定して形成する第1のビームは、端末装置が無線信号を送信した時点での伝送路の状態に最も適したビームである。しかしながら、この第1のビームは、ビーム幅が狭いビームであり、端末装置が移動した場合等の伝送路の状態の変化に対して脆弱であり、そのような変化があった場合に急峻にスループットが劣化してしまいうる。一方、端末装置がプリコーディング行列の候補の中から使用されるべきプリコーディング行列を決定することによって得られる第2のビームは、その決定の時点において、候補の中では最も適しているが、第1のビームと比して、ほとんどの場合で性能が不十分である。すなわち、PMIを用いる手法は、フィードバック量を減らすために限定的な数のプリコーディング行列の候補のみが用意されているため、第2のビームは、端末装置における伝送路の状態に大まかに適しているが、最適ではない。このため、第2のビームは、一般的に、スループットなどの品質において第1のビームより劣る。一方で、第2のビームは、伝送路の状態に大まかに適するように設定されるため、端末装置における伝送路の状態が変化したとしても、その変化が大幅でない限りは十分な利得を得られる傾向がある。
【0015】
本実施形態では、このようなビームの特徴に基づいて、適切にビームを切り替えて使用する技術を提供する。なお、以下では、第1のビームと第2のビームとを切り替えて端末装置と通信可能な基地局装置について説明するが、これは一例であり、例えば、端末装置が同様の処理を実行してもよいし、他の無線通信システムにおいて同様の処理が実行されてもよい。
【0016】
一般に、第1のビームが伝送路の状態に整合している場合に使用可能なMCSは、第2のビームが使用される場合と比べて高いレベル(すなわち変調多値数や符号化率の高い状態)に設定される。一方で、基地局装置は、第1のビームで端末装置と通信している間に、例えば、端末装置が移動することなどによって、第1のビームが伝送路の状態に整合せず、第1のMCSのレベルが急峻に低下する(すなわち、変調多値数や符号化率が低下する)ことがありうる。この場合、第1のビームを使用するより、第2のビームを使用する方が安定性やスループットの高い通信を行うことができることがある。このため、本実施形態の基地局装置は、第1のビームで通信中に、使用中の第1の変調および符号化方式(MCS)と、第2のビームを用いるとした場合の第2のMCSとに基づいて、第1のビームから第2のビームに切り替えるかを判定する。そして、基地局装置は、その判定に基づいて、第1のビームと第2のビームとのいずれかを用いて、端末装置へのデータの送信を行うことができる。これによれば、第1のビームを使用した通信中に伝送路の状態が変化し、第1のビームを使用するのに適しない状態となった場合に、第2のビームを使用するようにビームを切り替え、安定性及びスループットの高い通信を行うことが可能となる。
【0017】
一例において、基地局装置は、第1のビームを用いて端末装置と通信中に得られる無線品質の値(例えばRSRP(Reference Signal Received Power))を取得し、第2のビームに切り替えたとした場合のその無線品質の値に対応する第2のMCSを特定する。なお、基地局装置は、端末装置に無線品質の値を測定させるために、所定のビームを用いて所定の信号(例えばCSI-RS(Channel State Information-Reference Signal))を送信し、端末装置からその測定の結果を報告させうる。なお、ここでの所定のビームは、第1のビーム及び第2のビームと異なるビームであってもよいし、これらのいずれかのビームであってもよい。なお、基地局装置は、所定のビームを形成した状態で、端末装置からのSRS等の所定の信号を受信することによって、無線品質を特定してもよい。また、基地局装置は、例えば、無線品質の値と第2のMCSのレベルとを関連付けた情報を記憶しておき、取得した無線品質の値に対応する第2のMCSのレベルを特定しうる。そして、基地局装置は、特定した第2のMCSのレベルと、第1のビームを用いた通信に使用中の第1のMCSのレベルとを比較する。そして、基地局装置は、例えば第1のMCSと第2のMCSとの差が所定レベル以下となった場合に、第1のビームから第2のビームへと切り替えると判定しうる。すなわち、第1のMCSのレベルが第2のMCSのレベルに近接する場合、例えば端末装置の移動などによる伝送路の状態の変化により、第1のビームによる通信の品質が劣化していると予想される。このため、基地局装置は、このような場合に第2のビームへと使用するビームを切り替えて、端末装置へのデータ送信を継続する。これにより、基地局装置は、第1のビームを使用し続けるとさらにスループットが低下することが想定される場合に、第2のビームへ切り替えることが可能となる。
【0018】
なお、一例として、基地局装置は、例えば第1のMCSのレベルが第2のMCSのレベルを下回った場合に、第1のビームから第2のビームへと切り替えると判定しうる。これにより、基地局装置は、第1のビームを使用する場合に第2のビームを使用するよりスループットが低くなることが想定される状況において、第1のビームを不必要に維持することなく、第2のビームへ切り替えることが可能となる。
【0019】
なお、基地局装置が取得した無線品質の値と第2のMCSのレベルとの関係は、基地局装置ごとに定義されうる。すなわち、基地局装置が配置される状況に応じて、被干渉レベルや電波の伝搬環境が異なるため、例えば、RSRPに対応して使用可能なMCSが異なりうるため、無線品質の値とMCSとの対応関係が基地局装置ごとに異なりうる。例えば、あるRSRPのレベルが取得される場合に、被干渉レベルが低い状況で使用可能なMCSのレベルは、被干渉レベルが高い状況で使用可能なMCSのレベルより高いことが想定される。また、例えば、伝搬環境が見通し環境である場合にはRSRPのレベルが低くても通信環境が安定していることが想定される。このため、あるRSRPの値に対して、見通し環境におけるMCSのレベルは、非見通し環境におけるMCSのレベルより高くなることが想定される。このため、無線品質の値と第2のMCSのレベルとの関係が、基地局装置ごとに定義されることにより、基地局装置の環境に応じて適切に第1のビームから第2のビームへの切り替えを行うことが可能となる。基地局装置は、例えば、第2のビームで通信した場合のRSRPの値と、その際に使用したMCSの値とを関連付けて記憶する。そして、基地局装置は、MCSごとに、そのMCSが使用された通信時にRSRPを収集して、各MCSに対してRSRPの統計値を関連付けて記憶する。なお、ここでの統計値は、例えば、平均値、中央値、最頻値、最低値などのいずれかでありうる。なお、基地局装置の状況は経時的に変化しうるため、基地局装置は、上述の統計値を随時更新してもよい。
【0020】
なお、第2のビームから第1のビームへの変更が同様にして行われてもよい。例えば、基地局装置は、端末装置にSRSを定期的に送信させ、そのSRSに基づいて第1のビームのためのプリコーディング行列を特定する。そして、基地局装置は、そのプリコーディング行列とSRSの受信強度とに基づいて、第1のビームで通信すると仮定した場合の第1のMCSを推定する。基地局装置は、その推定した第1のMCSと、使用中の第2のMCSとを比較して、第1のMCSの方が、第2のMCSと比較して第2の所定レベル以上高い場合に、第1のビームに切り替えて通信を行うようにしてもよい。なお、基地局装置は、例えば、第1のMCSと第2のMCSとの比較を継続的に実行し、所定回数だけ連続して第1のMCSが第2のMCSより第2の所定レベル以上高いと判定した場合に、第1のビームに切り替えるようにしてもよい。すなわち、端末装置の伝送路の状態が安定したと判定可能な状態となったことに応じて、第2のビームから第1のビームへの切り替えが行われてもよい。また、第2のビームから第1のビームへの変更については、別の基準に基づいて行われてもよい。同様に、第2のビームから第1のビームへの変更をMCSの比較に基づいて実行し、第1のビームから第2のビームへの変更が別の基準に基づいて行われてもよい。
【0021】
(装置構成)
続いて、上述のような基地局装置のハードウェア構成例について
図2を用いて説明する。基地局装置は、一例において、プロセッサ201、ROM202、RAM203、記憶装置204、及び通信回路205を含んで構成される。プロセッサ201は、汎用のCPU(中央演算装置)や、ASIC(特定用途向け集積回路)等の、1つ以上の処理回路を含んで構成されるコンピュータであり、ROM202や記憶装置204に記憶されているプログラムを読み出して実行することにより、基地局装置の全体の処理や、上述の各処理を実行する。ROM202は、基地局装置が実行する処理に関するプログラムや各種パラメータ等の情報を記憶する読み出し専用メモリである。RAM203は、プロセッサ201がプログラムを実行する際のワークスペースとして機能し、また、一時的な情報を記憶するランダムアクセスメモリである。記憶装置204は、例えば着脱可能な外部記憶装置等によって構成される。通信回路205は、例えば、LTEや5Gの無線通信用の回路によって構成される。なお、
図2では、1つの通信回路205が図示されているが、基地局装置は、例えば、LTE用および5G用の無線通信回路および有線通信用の有線通信回路などの、複数の通信回路を有しうる。なお、基地局装置は、使用可能な複数の周波数帯域のそれぞれについて別個の通信回路205を有してもよいし、それらの周波数帯域の少なくとも一部に対して共通の通信回路205を有してもよい。
【0022】
図3に、本実施形態に係る基地局装置の機能構成例を示す。基地局装置は、その機能構成例として、例えば、通信部301、伝送路推定部302、候補行列保持部303、MCS特定部304、及び、ビーム形成制御部305を有する。なお、
図3は、基地局装置が有する機能のうちの、本実施形態の説明に関連する部分のみを示しており、基地局装置は、一般的なセルラ通信システムの基地局装置としての機能を当然に有する。また、基地局装置は、
図3に示した機能及び基地局装置としての汎用機能以外の機能を有してもよい。また、
図3の機能ブロックは概略的に示したものであり、それぞれの機能ブロックが一体化されて実現されてもよいし、さらに細分化されてもよい。
図3の各機能は、例えば、プロセッサ201がROM202や記憶装置204に記憶されているプログラムを実行することにより実現されてもよいし、例えば通信回路205の内部に存在するプロセッサが所定のソフトウェアを実行することによって実現されてもよい。
【0023】
通信部301は、端末装置との間の伝送路の状態に基づいてビームを形成して、端末装置と無線通信を行う。通信部301は、例えば、端末装置へ送信する変調後の信号に対して送信アンテナごとの所定のウェイトを乗じて並行して送信することにより、所定の方向に利得の高いビームを形成して送信するように構成される。通信部301は、複数の信号ストリームのそれぞれに別個のアンテナウェイトを乗じて、別個の方向に向けて送信することにより、複数の信号ストリームを並行して送信することができる。この場合、各アンテナからは、複数の信号ストリームの成分が加算された波形が送出される。
【0024】
伝送路推定部302は、端末装置から受信した上りリンクの無線信号に基づいて、伝送路推定を行う。伝送路推定部302は、例えば、端末装置から受信したSRSに基づいて伝送路推定を行い、その結果を下りリンクの伝送路の推定値として保持する。なお、SRSは、上りリンクの無線信号の一例であり、これ以外の無線信号によって伝送路推定が行われてもよい。候補行列保持部303は、事前に定められたプリコーディング行列の複数の候補を保持する。なお、複数の候補のそれぞれにはインジケータが付されており、端末装置からのPMIによって使用すべきプリコーディング行列が指定される。
【0025】
通信部301は、伝送路推定部302によって推定された伝送路の状態に基づいてプリコーディング行列を生成して、その行列による第1のビームを形成して、端末装置と通信することができる。また、通信部301は、候補行列保持部303が保持しているプリコーディング行列の候補の中から、端末装置からのPMIによって指定されたプリコーディング行列を選択して、その行列による第2のビームを形成して、端末装置と通信することができる。
【0026】
MCS特定部304は、第1のビームで通信中に、測定された無線品質の値に基づいて、第2のビームを使用すると仮定した場合に使用されるべき第2のMCSを特定する。例えば、MCS特定部304は、端末装置に無線品質を測定させるために、所定のビームで所定の参照信号を送信するように通信部301を制御し、通信部301を介して、端末装置による測定の結果の報告を取得することにより、無線品質の値を取得する。そして、MCS特定部304は、無線品質の値と第2のMCSとを事前に関連付けた情報(例えばテーブル)を参照して、取得した無線品質の値に対応する第2のMCSを特定する。なお、無線品質の値と第2のMCSとを関連付けた情報は、第2のMCSが使用されたときの無線品質の統計値を用いて、基地局装置ごとに生成されてもよい。なお、この情報は、例えば、第2のビームの候補ごとに別個に用意されてもよい。すなわち、PMIごとに、異なるテーブルが用意されてもよい。これによれば、基地局装置のカバレッジエリアの中での通信環境の違いが無線品質と第2のMCSとの関係に反映され、端末装置の位置に応じた適切な第2のMCSを特定することができるようになる。この情報は、例えば、端末装置との第2のビームを用いた通信が行われるたびに更新されてもよい。
【0027】
ビーム形成制御部305は、第1のビームを使用中に、MCS特定部304で特定された第2のMCSと、使用中の第1のMCSとを用いて、第1のビームから第2のビームに切り替えるか否かを判定する。例えば、ビーム形成制御部305は、第1のMCSと第2のMCSとを比較し、第1のMCSと第2のMCSとのレベル差が所定レベル以下となった場合に、第1のビームから第2のビームへ切り替えると判定する。一方で、ビーム形成制御部305は、第1のMCSと第2のMCSとのレベル差が所定レベルを上回る場合には、第1のビームの使用を継続すると判定する。そして、ビーム形成制御部305は、使用すると判定されたビームを形成して端末装置へ信号(ユーザデータ)を送信するように通信部301を制御する。ビーム形成制御部305は、例えば、初期接続時には第1のビームを使用するように制御を行う。その後は、上述のようにして、第1のビームから第2のビームへ変更するか否かの判定と、必要に応じたビームの切り替え制御を実行する。
【0028】
(処理の流れ)
続いて、本実施形態に係る基地局装置によって実行される処理の流れの例について、
図4を用いて説明する。本処理は、例えば、プロセッサ201がROM202や記憶装置204に記憶されているプログラムを実行することにより実現されうる。なお、基地局装置が使用するビームを切り替える基準については上述の通りであるため、ここでは基地局装置が実行する処理の流れの例を概説するにとどめ、その詳細については繰り返さない。
【0029】
基地局装置は、まず、端末装置との間で接続を確立して第1のビームで通信を開始する(S401)。基地局装置は、例えば、接続を確立した端末装置にSRSを送信させ、そのSRSを測定した結果に基づいてビームを形成し、その状態で端末装置にチャネルの品質の状態を測定させる。そして、基地局装置は、測定の結果(CQI)の値の報告を端末装置から受信し、その報告に基づいて、第1のビームを用いたユーザデータの通信で使用する第1のMCSを決定する。そして、基地局装置は、SRSに基づいて設定された第1のビームおよび決定した第1のMCSを用いて、端末装置へのユーザデータの送信を実行する。なお、基地局装置は、例えば、通信中に端末装置から受信した確認応答に基づいて、送信した信号が端末装置によって正常に受信されなかった場合などに、第1のMCSのレベルを低下させる制御を行う。
【0030】
基地局装置は、第1のビーム及び第1のMCSを用いた通信中に、例えば定期的に端末装置に無線品質を測定させ、その報告を受信する。そして、基地局装置は、その無線品質の値に基づいて、第2のビームを使用すると仮定した場合に使用されることが想定される第2のMCSを特定する(S402)。一例では、基地局装置は、第1のビームを用いて通信中に、第1のビームで又は第1のビームと異なる(例えば第1のビームよりビーム幅の広い)所定のビームで、CSI-RSを送信し、そのCSI-RSの測定結果(RSRP)を受信する。そして、基地局装置は、例えばRSRPとMCSとが関連付けて事前に記憶されているテーブルを参照して、受信したRSRPに基づいて、第2のMCSを特定する。なお、S402の第2のMCSの特定は、第1のビームを形成するごとに1度だけ実行されるようにしてもよい。すなわち、端末装置が第1のビームで十分な利得を得ることができる範囲から移動したかの判定基準として第2のMCSが特定されれば足りるため、その特定頻度は高くなくてもよい。
【0031】
基地局装置は、第1のビームを用いた通信で使用中の第1のMCSと、第2のビームを使用すると仮定した場合の第2のMCSとに基づいて、第1のビームから第2のビームへ、使用するビームを変更するかを判定する(S403)。例えば、基地局装置は、第1のビームでの通信に用いられている第1のMCSのレベルが低下して、第2のMCSのレベルに近接し、第1のMCSと第2のMCSのレベル差が所定レベル以下となった場合に、使用するビームを、第1のビームから第2のビームへと変更することを決定する。一例において、基地局装置は、第1のMCSのレベルが第2のMCSのレベルより低くなった場合に、使用するビームを、第1のビームから第2のビームへと変更することを決定しうる。
【0032】
そして、基地局装置は、第1のビームから第2のビームへ切り替えないと判定した場合(S404でNO)には、処理をS403に戻し、第1のMCSのレベルがビームの切り替えが必要な程度に低下するか否かの監視を継続する。一方、基地局装置は、第1のビームから第2のビームへ切り替えると判定した場合(S404でYES)、使用するビームを第2のビームへ切り替え、第2のMCSを用いて端末装置への信号(ユーザデータ)の送信を実行する(S405)。なお、基地局装置は、CSI-RSを定期的に送信しており、それを観測した端末装置が下りリンクの伝送路の状態を推定し、推定結果に基づいて特定したPMIを基地局装置へ通知する。基地局装置は、端末装置から受信したPMIによって指定されたプリコーディング行列を用いた第2のビームで通信を行う。なお、基地局装置は、第2のビームへの切り替え後に、実際に使用するMCSを決定し、そのMCSを用いて通信を行ってもよい。また、基地局装置は、例えば、実際に通信中に無線品質の測定を実行し、その際に使用しているMCSと関連付けられて記憶されている無線品質の情報を更新してもよい(S406)。
【0033】
基地局装置は、その後、例えば上述のようにして第2のビームへの切り替え後に、再度、端末装置の伝送路の状態が安定したと判定可能な状態となったことに応じて、第1のビームへ切り替えてもよい。また、基地局装置は、別の基準に基づいて第2のビームから第1のビームへの切り替えを行ってもよい。そして、第1のビームへの切り替えがなされた後に、再度、
図4の処理を実行しうる。
【0034】
以上のような処理により、基地局装置は、端末装置からの無線信号に基づく伝送路の状態の推定値から生成されるプリコーディング行列による第1のビームと、端末装置が複数の候補の中から選択した結果に応じたプリコーディング行列による第2のビームとを、端末装置の状況に応じて適切に切り替えて使用することが可能となる。これにより、端末装置が移動している場合等の伝送路の状況の変化が大きい場合には第2のビームを使用し、伝送路の状況の変化が小さい場合には第1のビームを使用して通信を行うことで、状況に適した安定的かつ高品質な通信が可能となる。
【0035】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。