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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】被覆材、被膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240827BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240827BHJP
   C09D 5/29 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
C09D5/29
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020199253
(22)【出願日】2020-12-01
(65)【公開番号】P2021091887
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2019217711
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599071496
【氏名又は名称】ベック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川原 道生
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-152232(JP,A)
【文献】特開2006-152782(JP,A)
【文献】特開2006-152231(JP,A)
【文献】特開2017-177100(JP,A)
【文献】特開2008-012492(JP,A)
【文献】国際公開第2012/137271(WO,A1)
【文献】特開2021-186809(JP,A)
【文献】特開2020-199253(JP,A)
【文献】特開2000-303589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00ー 43/00
C09D 1/00ー 10/00
C09D101/00ー201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分(A)及び鱗片状粒子(B)を含む被覆材であって、
上記被覆材は、樹脂成分(A)の固形分100重量部に対して、鱗片状粒子(B)を5~200重量部み、
上記鱗片状粒子(B)は、短径2mm超の大粒子(b1)、短径0.7mm超2mm以下の中粒子(b2)、及び短径0.7mm以下の小粒子(b3)を含み、
上記鱗片状粒子(B)は、上記中粒子(b2)及び小粒子(b3)と上記大粒子(b1)との重量比[(b2)+(b3)]/(b1)が、3以上50以下であることを特徴とする被覆材(但し、結合剤(樹脂成分)(A)の固形分100重量部に対し、平均粒子径0.05~5mmの粒状透明骨材を100重量部以上含む被覆材を除く)
【請求項2】
上記鱗片状粒子は、少なくとも2色以上の粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の被覆材。
【請求項3】
基材上に、請求項1または請求項2に記載の被覆材を塗付して被膜を形成することを特徴とする被膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物や土木構造物に自然石調の美観性を付与する装飾仕上げ工法が知られている。近年、自然石特有の多彩な色彩等の意匠性を有する装飾仕上げが望まれるケースも増えている。このような工法として、例えば、特許文献1には、着色マイカおよびバインダー樹脂を含む被覆材を塗付する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-224363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1は、平均粒子径が0.3~2mmの比較的小さめの着色マイカを使用したものであり、大柄意匠が得られにくい。大柄の意匠を得るためには、2mmを超える大粒子マイカ片を用いることが考えられるが、このような大粒子を含む被覆材を塗装した場合、鱗片状粒子どうしが部分的に重なり(密集し)やすく、模様に偏りを生じたり、一方では、鱗片状粒子の少ない部分(隙間)を生じる場合もあり、ムラのある模様が形成されるおそれがあった。また、鱗片状粒子の端部が跳ね上がりを生じる場合があり、形成被膜がザラツキ感を生じる場合があった。このような状況下、簡便な方法により、鱗片状粒子の模様に偏りがなく美観性に優れた被膜を形成することができる被覆材及び被膜形成方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、樹脂成分、及び鱗片状粒子を含む被覆材において、特定粒子径を有する鱗片状粒子を含む被覆材を採用することより、大柄模様を有し、かつ鱗片状粒子の偏りが生じにくく、模様のバランス(配置)が良好な意匠性を付与するとともに、ザラツキ感の少ない美観性に優れた形成被膜を簡便に得ることに想到し、本発明の完成に至った。すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の特徴を有するものである。
1.樹脂成分(A)及び鱗片状粒子(B)を含む被覆材であって、
上記被覆材は、樹脂成分(A)の固形分100重量部に対して、鱗片状粒子(B)を5~200重量部み、
上記鱗片状粒子(B)は、短径2mm超の大粒子(b1)、短径0.7mm超2mm以下の中粒子(b2)、及び短径0.7mm以下の小粒子(b3)を含み、
上記鱗片状粒子(B)は、上記中粒子(b2)及び小粒子(b3)と上記大粒子(b1)との重量比[(b2)+(b3)]/(b1)が、3以上50以下であることを特徴とする被覆材(但し、結合剤(樹脂成分)(A)の固形分100重量部に対し、平均粒子径0.05~5mmの粒状透明骨材を100重量部以上含む被覆材を除く)。 2.上記鱗片状粒子は、少なくとも2色以上の粒子を含むことを特徴とする1.に記載の被覆材。 3.基材上に、1.または2.に記載の被覆材を塗付して被膜を形成することを特徴とする被膜形成方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、大柄模様を有し、かつ鱗片状粒子の偏りが生じにくく、模様のバランス(配置)が良好な意匠性を付与するとともに、ザラツキ感の少ない美観性に優れた形成被膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0009】
<被覆材>
本発明の被覆材は、樹脂成分(A)、及び特定の大きさを有する鱗片状粒子(B)を併用して含むことを特徴とする。
【0010】
樹脂成分(A)(以下「(A)成分」という)としては、特に限定されないが、水溶性樹脂及び水分散性樹脂から選ばれる1種以上が好適である。樹脂の種類としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等を挙げることができる。これらは1種または2種以上で使用することができる。また、これら(A)成分は架橋反応性を有するものであってもよい。架橋反応性を有する(A)成分を使用した場合は、被膜の耐水性、耐候性、耐薬品性等を向上させることができる。
【0011】
本発明では、(A)成分として、特に、アクリル樹脂が好適である。アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが樹脂骨格の主成分となるものであり、必要に応じその他のモノマーその他の重合性モノマーを共重合したものである。なお、本発明では、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルを合わせて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと表記している。また、モノマーとは、重合性不飽和二重結合を有する化合物の総称である。
【0012】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種または2種以上が使用できる。
【0013】
その他のモノマーの具体例としては、例えば、
スチレン、2-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族モノマー;
(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン、α-シアノエチル(メタ)アクリレート等のニトリル基含有モノマー;
マレイン酸アミド、(メタ)アクリルアミド、N-モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N、N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタクリレート)、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、ビニルアミド等のアミド基含有モノマー;
アクロレイン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン等のカルボニル基含有モノマー;
【0014】
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、イソクロトン酸、サリチル酸等のカルボキシル基含有モノマー;
アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、アミノ-n-ブチル(メタ)アクリレート、ブチルビニルベンジルアミン、ビニルフェニルアミン、p-アミノスチレン、N-メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー;
グリシジル(メタ)アクリレート、ジグリシジルフマレート、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシビニルシクロヘキサン、アリルグリシジルエーテル、ε-カプロラクトン変性グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマー;
ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;
フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン系モノマー;
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有モノマー;
エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、ビニルエーテル、ビニルケトン、;等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上で使用することができる。
【0015】
(A)成分は、上記モノマーを適宜混合したモノマー群を乳化重合することにより製造することができる。重合方法としては公知の方法を採用すればよく、通常の乳化重合の他、ソープフリー乳化重合、フィード乳化重合、シード乳化重合等を採用することもできる。重合時には、乳化剤、開始剤、分散剤、重合禁止剤、重合抑制剤、緩衝剤、連鎖移動剤等を使用することができる。
【0016】
乳化剤としては、乳化重合に使用可能な各種界面活性剤が使用でき、これらは重合性不飽和二重結合を有する反応性タイプ(反応性界面活性剤)であってもよい。乳化剤としては、好ましくはアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤をそれぞれ単独でまたは組み合わせて用いればよい。
【0017】
上記(A)成分のガラス転移温度(以下、単に「Tg」という。)は、好ましくは-50℃~50℃に設定する。Tgがこのような範囲内であれば、本発明の効果を安定して得ることができる。なお、本発明におけるTgは、Foxの計算式により求められる値である。また、上記(A)成分の平均粒子径は、好ましくは300nm以下(より好ましくは20~200nm)である。平均粒子径がこのような範囲内であれば、被膜の耐水性、耐候性、耐薬品性等を向上させることができる。なお、ここに言う平均粒子径は、動的光散乱法により測定される値である。
【0018】
鱗片状粒子(B)(以下「(B)成分」という)は、形成被膜に優れた意匠を付与するものである。また、(B)成分は、形成被膜の薄膜化、軽量化等にも有利である。本発明では、樹脂成分(A)の固形分100重量部に対して、鱗片状粒子(B)を5~200重量部(好ましくは10~100重量部、より好ましくは15~80重量部)を含むことを特徴とする。上記範囲を満たす場合、自然石調等の意匠性を有する被膜を得ることができる。
【0019】
本発明では、上記(B)成分として、短径2mm超の大粒子(b1)(以下「大粒子(b1)」という)、短径0.7mm超2mm以下の中粒子(b2)(以下「中粒子(b2)」という)、及び短径0.7mm以下の小粒子(b3)(以下「小粒子(b3)」という)を含むことを特徴とする。このように大きさの異なる(B)成分を併用することより、鱗片状粒子の偏りが生じにくく、模様のバランス(配置)が良好でザラツキ感の少ない美観性に優れた形成被膜を形成することができ、大柄模様等の意匠性を付与することができる。具体的に、上記大粒子(b1)は、主に、形成被膜に大柄意匠を効果的に付与するものである。また、上記中粒子(b2)は、主に、形成被膜のベース模様として視認されるものである。さらに、上記小粒子(b3)は、形成被膜に小柄な意匠を付与するとともに、鱗片状粒子の隙間を充填して形成被膜の隠蔽性等を付与する成分である。
【0020】
本発明では、上記大粒子(b1)、上記中粒子(b2)、上記小粒子(b3)を特定重量比率で併用することが好ましく、上記中粒子(b2)及び小粒子(b3)と上記大粒子(b1)との重量比[(b2)+(b3)]/(b1)が、1以上50以下(より好ましくは3以上40以下、さらに好ましくは5以上30以下)であることが好ましい。このような範囲を満たす場合、上記大粒子(b1)の偏りが生じにくく、上記中粒子(b2)及び小粒子(b3)により形成されたベース模様中に、上記大粒子(b1)による大柄模様のバランス(配置)が良好な美観性に優れた形成被膜を形成することができる。さらには、上記中粒子(b2)及び小粒子(b3)によって、上記大粒子(b1)の端部跳ね上がりを抑制することができ、ザラツキ感の少ない平坦な被膜を形成することができる。さらに、上記中粒子(b2)と小粒子(b3)との重量比(b2)/(b3)が、1以上30以下(より好ましくは1.5以上20以下、さらに好ましくは2以上10以下)であることが好ましい。このような範囲を満たす場合、上記効果を一層高めることができる。
【0021】
このような効果が得られる作用機構としては、限定されるものではないが、例えば、大粒子(b1)よりも小さい中粒子(b2)及び小粒子(b3)は、大粒子(b1)のスペーサーとして作用し、大粒子(b1)の分散性に寄与する。また、中粒子(b2)よりも小さい小粒子(b3)は中粒子(b2)のスペーサーとして作用し、中粒子(b2)の分散性に寄与する。これにより、被覆材中に分散する(B)成分は、大粒子(b1)、中粒子(b2)、及び小粒子(b3)がそれぞれ良好な分散性を保つことができるものと推察される。特に、本発明の被覆材のように、中粒子(b2)を比較的多く含む被覆材中では、中粒子(b2)中に、大粒子(b1)と小粒子(b3)がバランス良く分散されるものと推察される。このような被覆材を塗装することによって、各粒子が偏りを生じ難く、模様のバランスが良好な被膜が形成され、粒子端部の跳ね上がりも抑制することができると推察される。
【0022】
なお、本発明において「短径」とは、JIS Z8801-1:2000に規定される金属製網ふるい(標準篩)を使用して篩分けして算出されるものであり、標準篩の目開き(a)として、その対角線の長さ(L=√2 a)を短径とする。
具体的に、本発明の(B)成分を100g秤量し、JIS K 0069に準拠する試験方法(手動ふるい分け)により10分間篩分けを行い、
・12メッシュ(a=1.4mm、L=2.0mm)の篩を通過しないものを大粒子(b1)、
・12メッシュ(a=1.4mm、L=2.0mm)の篩は通過するが、30メッシュ(a=0.5mm、L=0.7mm)の篩は通過しないものを中粒子(b2)、
・30メッシュ(a=0.5mm、L=0.7mm)の篩を通過するものを小粒子(b3)、
とする。
なお、大粒子(b1)の上限は、好ましくは6.5メッシュ(a=2.8mm、L=4.0mm)の篩を通過するもの(短径が4mm以下の粒子)が好ましい。一方、小粒子(b3)の下限は、好ましくは70メッシュ(a=0.21mm、L=0.3mm)の篩を通過しないもの(短径が0.3mm超の粒子)が好ましい。
【0023】
また、(B)成分は、短径と長径との比(短径/長径)が0.3~1(より好ましくは0.4~1、さらに好ましくは0.5~1)であることが好ましい。(B)成分の大きさが、上記範囲を満たす場合、その形状が視認されやすく、意匠として好適である。なお、「短径/長径」は、(B)成分を水平面に安定に静置させ、上から顕微鏡を用いて観察し最も短い部分の長さを「短径」、最も長い部分の長さを「長径」として算出されるものである。
【0024】
さらに、(B)成分の厚みは、好ましくは1mm以下(より好ましくは0.001~0.5mm、さらに好ましくは0.005~0.2mm)である。本発明において、(B)成分は、アスペクト比(「短径/厚み」の比)が、1.5以上(より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上)であることが好ましい。なお、ここに言う「厚み」とは、粒子を水平面に安定に静置させたときの、底面からの最大高さであり、光学顕微鏡等で測定することができる。
【0025】
本発明の(B)成分において、上記大粒子(b1)、上記中粒子(b2)及び上記小粒子(b3)の各粒子の厚みは、上記範囲を満たす限り特に限定されないが、本発明では特に、各粒子の厚みが略同じであることが好ましい。すなわち、本発明の(B)成分は、アスペクト比の異なる粒子が混在するものが好ましく、アスペクト比の異なる粒子を少なくとも2以上(より好ましくは3以上)含むことが好ましい。これにより、本発明の効果をよりいっそう高めることができる。具体的に、大粒子(b1)のアスペクト比は好ましくは5以上2000以下(より好ましくは6以上1500以下、さらに好ましくは7以上1000以下)、中粒子(b2)のアスペクト比は好ましく3以上1000以下(より好ましくは4以上800以下、さらに好ましくは5以上500以下)、小粒子(b3)のアスペクト比は好ましくは1.5以上500以下(より好ましくは2以上300以下、さらに好ましくは2.5以上200以下)ある。また、大粒子(b1)、中粒子(b2)及び小粒子(b3)のアスペクト比はそれぞれ異なることが好ましい。このようにアスペクト比の異なる(B)成分を併用することより、鱗片状粒子の偏りが生じにくく、模様のバランス(配置)が良好でザラツキ感の少ない美観性に優れた形成被膜をよりいっそう安定して形成することができる。
【0026】
このような(B)成分としては、例えば、マイカ(雲母)、セリサイト、クレー、タルク、板状カオリン、硫酸バリウムフレーク、ガラスフレーク、アルミナフレーク、貝殻片、金属片等の無機質片、あるいはゴム片、プラスチック片、木片等が挙げられる。また、これらを基体粒子とし着色処理したもの(鱗片状着色粒子)が挙げられる。着色処理としては、特に限定されないが、例えば、顔料や染料等を含む着色剤を基体粒子に被覆する(あるいは吸着させる)方法、焼成処理等を基体粒子に施す方法等が挙げられる。本発明では、着色剤で被覆処理されたマイカ(着色マイカ)を使用することが好適である。(B)成分は1種または2種以上(1色または2色以上)を組み合わせて使用することができ、種々の色彩を表出することができる。
【0027】
本発明では(B)成分として、鱗片状着色粒子、特に着色マイカを含むことが好適である。中でも、大粒子(b1)が鱗片状着色粒子を含むことが好ましく、これにより大柄模様がいっそう視認されやすくなり、美観性を高めることができる。さらには大粒子(b1)、中粒子(b2)、及び小粒子(b3)がそれぞれ鱗片状着色粒子を含むことが好ましく、これにより大柄模様及び様々な色彩を有する被膜を形成することができる。
【0028】
本発明の(B)成分の色相は、所望の模様(意匠)により設定することができる。例えば、
(p)上記(B)成分が単色(1色)の粒子のみを含む態様、
(q)上記(B)成分が同色系から選ばれる少なくとも2色以上(より好ましくは2~6色)の粒子を含む態様、
(r)上記(B)成分が少なくとも2色以上(より好ましくは2~6色)の異色の粒子を含む態様、
等が挙げられる。上記(p)、(q)の態様の場合、落ち着き感のある意匠を有する被膜を得ることができる。一方、上記(r)の態様の場合には、多彩な色彩のある意匠(アクセント意匠)を有する被膜を得ることができる。
【0029】
上記(q)、及び上記(r)の態様の場合、上記大粒子(b1)、上記中粒子(b2)、上記小粒子(b3)は、それぞれ1色または2色以上の粒子を含むことができる。これにより、意匠性を高めることができる。
【0030】
特に、上記(r)の態様の場合、上記大粒子(b1)と上記中粒子(b2)が異色の粒子を含むことが好ましい。これにより、大柄のアクセント意匠が効果的に視認され、美観性に優れた被膜を容易に形成することができる。また、上記小粒子(b3)は、上記大粒子(b1)または上記中粒子(b2)(より好ましくは上記中粒子(b2))と同色系のものを含むことが好ましい。これにより、形成被膜に奥行き感等が付与され、美観性をよりいっそう高めることができる。
【0031】
さらに、上記大粒子(b1)が2色以上の異色の粒子を含む場合には、多彩感等が向上し、よりいっそう美観性を高めることができる。また、上記中粒子(b2)が2色以上の異色の粒子を含むには、形成被膜のベース模様(ベース色)となる中粒子(b2’)を中粒子(b2)中に50重量%以上(より好ましくは55重量%以上)含むことが好ましい。上記中粒子(b2’)は、単色(1色のみ)、あるいは同系色(近似色・類似色)の粒子を2種以上含むこともできる。これにより、上記大粒子(b1)によるアクセント意匠が視認されやすく、美観性を高めることができる。上記小粒子(b3)が2色以上の異色の粒子を含む場合には、上記中空粒子(b2’)と同色系の形成被膜のベース模様(ベース色)となる小粒子(b3’)を小粒子(b3)中に60重量%以上(より好ましくは65重量%以上)含むことが好ましい。
【0032】
なお、上記(B)成分において、同色系(近似色・類似色)とは、色差(△E)が、好ましくは10未満(より好ましくは8以下)のものをいう。また、異色とは、色差(△E)が、好ましくは10以上(より好ましくは15以上)のものをいう。なお、ここに言う色差(△E)は、色差計を用いて測定される値であり、それぞれのL値、a値、b値より下記式にて算出することができる。
<式>△E={(L*1-L*2+(a*1-a*2+(b*1-b*20.5
式中、
*1、a*1、b*1はそれぞれ(B)成分の第1色のL、a、b
*2、a*2、b*2はそれぞれ(B)成分の第2色のL、a、b
なお、(B)成分のL値、a値、b値は、ガラス板上に、ガラス面が隠蔽されるまで(B)成分を載置し、その上にPEフィルムを被せた面を測定することにより、算出することができる。
【0033】
本発明の被覆材は、上記成分を公知の方法によって均一に混合することで製造することができるが、必要に応じて、通常被覆材に使用可能なその他の成分を混合することもできる。このような成分としては、例えば、骨材、着色顔料、体質顔料、光輝性顔料、繊維、造膜助剤、増粘剤、レベリング剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、水等が挙げられる。
【0034】
本発明の被覆材が粒状の骨材を含む場合、上記(B)成分により形成された平坦な模様中に粒状のアクセント模様を付与することができる。骨材としては、上記(B)成分とは形状が異なり、粒状のものが使用でき、例えば、有機質骨材、無機質骨材のいずれも使用でき、また、透明(半透明)骨材、有色骨材のいずれも使用することができる。このような骨材としては、例えば、天然石粉砕物、陶磁器粉、セラミック粉、金属粒、珪砂、長石、珪石、寒水石、ガラスビーズ、ゴム粒、樹脂ビーズ等が挙げられ、これらは着色が施されたものであってもよい。また、上記(B)成分と同じ色相のものも使用可能である。着色骨材の粒子径は、0.01mm~5mm(より好ましくは0.03mm~4.5mm)である。なお、骨材を含む場合は、上記(A)成分に対して、好ましくは50重量部以下(より好ましくは0~30重量部)である。このような範囲の場合、上記(B)成分により形成された平坦な模様中にバランスよく粒状のアクセント模様を付与することができる。
【0035】
さらに、光輝性顔料を含む場合は、(B)成分により形成された模様中に、輝度感を付与することができる。光輝性顔料としては、例えば、パール顔料、アルミニウム顔料、メタリック顔料等が挙げられる。なお、光輝性顔料の粒子径は、0.5~100μm(より好ましくは1~80μm)であることが好ましい。
【0036】
なお、本発明の被覆材は、上述のとおり、(B)成分として、大粒子(b1)、中粒子(b2)、及び小粒子(b3)を併用して含むことにより、(B)成分の分散性を確保することができる。これにより、従来の被覆材に比べ、分散剤の添加が少ない(好ましくは被覆材中に0.1重量%以下、より好ましくは分散剤を添加しない)場合でも、良好な分散性を得ることができる。これにより、形成被膜の耐水性等においても優れた効果を発揮することができる。
【0037】
<被膜形成方法>
本発明の被覆材は、基材に対して塗付し被膜を形成するものである。
基材は、建築物、土木構造物等の表面を構成するものである。このような基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、サイディングボード、押出成形板、石膏ボード、パーライト板、合板、煉瓦、プラスチック板、金属板、ガラス、磁器タイル等が挙げられる。これら基材は、その表面に、既に被膜が形成されたものや、壁紙が貼り付けられたもの等であってもよい。また、基材表面には、目地模様や石材調等の凹凸模様を有するものであってもよい。
【0038】
本発明の被覆材は、例えば、刷毛、鏝、ローラー、スプレー等を用いて塗付することにより被膜を形成することができるが、特に、スプレーを用いた吹付け塗装により被膜を形成することが好ましい。これにより、鱗片状粒子(B)の偏りが生じにくく、模様のバランス(配置)が良好で、かつザラツキ感の少ない平坦で美観性に優れた形成被膜を簡便に形成することができる。特に、自然石調等の美観性の高い意匠を簡便に形成することができる。
【0039】
本発明の被覆材の塗付け量は、特に限定されないが、好ましくは100~1000g/m(より好ましくは200~800g/m)である。また、塗付回数は、所望の意匠を形成によって設定できるが、好ましくは1~2回(より好ましくは2回)である。このような場合、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0040】
また、本発明では、上記基材表面に、下塗材を塗付し着色被膜を形成した後、被覆材を塗付することが好ましい。着色被膜を形成する下塗材としては、樹脂、及び顔料を含むものが使用できる。本発明では、顔料の種類、混合比率等を調整することにより、色、光沢等を設定することができる。樹脂と顔料の混合比率は、樹脂固形分100重量部に対して、顔料が好ましくは5~500重量部(より好ましくは20~400重量部、さらに好ましくは30~300重量部)である。
【0041】
本発明では、着色被膜の色調を、上記(B)成分の中粒子(b2)に近似した色相(共色)に設定することが好ましい。これにより、形成被膜のムラ防止することができる。また、形成被膜によりいっそう奥行き感等を付与し、美観性に優れた複層被膜を形成することができる。
【0042】
着色被膜の色調は、上記中粒子(b2)中のベース模様(ベース色)となる中粒子(b2’)の色調との色差(△E)が20以下(好ましくは15以下、より好ましくは10以下)となるように設定することが望ましい。このような場合、美観性に優れた積層被膜を得ることができる。なお、ここに言う色差(△E)は、色差計を用いて測定される値であり、それぞれのL値、a値、b値より下記式にて算出することができる。
<式>△E={(L*1-L*2+(a*1-a*2+(b*1-b*20.5
式中、
*1、a*1、b*1はそれぞれ着色被膜のL、a、b
*2、a*2、b*2はそれぞれ中粒子(b2’)のL、a、b
なお、上記ベース層のL*、a*、b*は、標準白紙に、すきま2mmのフィルムアプリケータを用いてそれぞれの第1被覆材を塗り、塗面を水平に置いて標準状態(気温23℃、相対湿度50%。以下同様。)で48時間乾燥したときの被膜のL値、a値、b値(測定点3箇所以上の平均値)から算出することができる。
また、中粒子(b2’)のL値、a値、b値は、ガラス板上に、ガラス面が隠蔽されるまで中粒子(b2)を載置し、その上にPEフィルムを被せた面を測定することにより、算出することができる。
【0043】
樹脂としては、上記被覆材と同様のものを使用することができる。
顔料としては、公知の着色顔料、体質顔料等が使用できる。このうち、着色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、黒色酸化鉄、銅クロムブラック、コバルトブラック、銅マンガン鉄ブラック、べんがら、モリブデートオレンジ、パーマネントレッド、パーマネントカーミン、アントラキノンレッド、ペリレンレッド、キナクリドンレッド、黄色酸化鉄、チタンイエロー、ファーストイエロー、ベンツイミダゾロンイエロー、クロムグリーン、コバルトグリーン、フタロシアニングリーン、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット、遮熱顔料、アルミニウムフレーク顔料、パール顔料、光輝性顔料等が挙げられる。これら着色顔料の1種または2種以上を用いることにより任意の色相に着色することができる。
【0044】
体質顔料としては、例えば、重質炭酸カルシウム、寒水石、軽微性炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、カオリン、クレー、陶土、チャイナクレー、珪藻土、バライト粉、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、珪砂、珪石粉、石英粉、樹脂ビーズ、ガラスビーズ、中空バルーン等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。体質顔料の種類、混合比率等を適宜設定することにより、被覆材を所望の光沢度に調整することができる。
【0045】
本発明の下塗材は、上記成分以外に、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内において、公知の添加剤、例えば、骨材、染料、増粘剤、湿潤剤、凍結防止剤、造膜助剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒、希釈溶媒等を含むものであってもよい。下塗材は、上述の各成分を常法により均一に混合することで製造することができる。
【0046】
上記下塗材は、例えば、刷毛、鏝、ローラー、スプレー等を用いて塗付することにより着色被膜を形成することができる。下塗材の塗付け量は、特に限定されないが、好ましくは50~1000g/m(より好ましくは100~800g/m)である。
【実施例
【0047】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0048】
(被覆材1~11)
表1に示す配合に基づき、各原料を定法により混合して被覆材1~11を製造した。
【0049】
なお、各成分は以下のものを使用した。
(A)樹脂成分
・アクリルシリコン樹脂エマルション(固形分50重量%、媒体:水)
(B)鱗片状着色粒子
(b1)大粒子
・(b1-1)黒色マイカ片[短径:2mm超4mm以下、短径/長径(平均値):0.95、短径/厚み(平均値):31.4、L値=44.2、a値=-0.4、b値=-1.5]
・(b1-2)白色マイカ片[短径:2mm超4mm以下、短径/長径(平均値):0.88、短径/厚み(平均値):30.7、L値=91.5、a値=0.5、b値=4.4]
・(b1-3)薄クリーム色マイカ片[短径:2mm超4mm以下、短径/長径(平均値):0.92、短径/厚み(平均値):31.5、L値=86.7、a値=0.7、b値=14.1]
・(b1-4)灰色マイカ片[短径:2mm超4mm以下、短径/長径(平均値):0.98、短径/厚み(平均値):32.5、L値=70.5、a値=-0.6、b値=-0.5]
(b2)中粒子
・(b2-1)灰色マイカ片[短径:0.7mm超2mm以下、短径/長径(平均値):0.87、短径/厚み(平均値):15.5、L値=69.3、a値=-0.7、b値=0.2]
・(b2-2)白色マイカ片[短径:0.7mm超2mm以下、短径/長径(平均値):0.92、短径/厚み(平均値):14.5、L値=90.1、a値=0.7、b値=5.2]
(b3)小粒子
・(b3-1)灰色マイカ片[短径:0.3mm超0.7mm以下、短径/長径(平均値):0.92、短径/厚み(平均値):5.4、L値=69.3、a値=-0.7、b値=0.2]
・(b3-2)白色マイカ片[短径:0.3mm超0.7mm以下、短径/長径(平均値):0.94、短径/厚み(平均値):4.9、L値=90.1、a値=0.7、b値=5.2]
(その他)
・添加剤(増粘剤、消泡剤、等)
【0050】
(実施例1~8、比較例1~3)
下塗材[グレー:下塗材により形成される着色被膜と、(b2)中粒子の色差(△E)=5]が塗付された基材(スレート板)上に、被覆材をスプレーガン(口径:5.5mm)で、塗付け量800g/mで吹付け塗装し、23℃で24時間乾燥、硬化させ、模様被膜を形成した。
【0051】
<評価>
以下の評価を実施し、結果を表1に示す。
・意匠性
鱗片状着色粒子の偏りが少なく、模様のバランスが良好なものを「AA」、劣るものを「D」とし、AA>A>B>C>Dの5段階で評価した。
・平滑性
形成被膜のザラツキ感が少ないものを「A」、ザラツキ感があるものを「D」とし、A>B>C>Dの4段階で評価した。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例1~8では、意匠性、美観性に優れた被膜を簡便に形成することができた。特に、実施例1、5は、鱗片状着色粒子の偏りが少なく、模様のバランスが良好な意匠性を有し、ザラツキ感の少ない被膜が得られた。また、実施例5、実施例6は、多彩感に優れるものであった。
一方、比較例1では、大柄模様がなく、美観性に劣るものであった。また、比較例2、3では、鱗片状粒子の偏りが生じ、模様バランスが劣るものであった。