(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】貯留槽
(51)【国際特許分類】
E03C 1/122 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
E03C1/122 Z
(21)【出願番号】P 2020204380
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前川 健人
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-199682(JP,A)
【文献】特開2007-297903(JP,A)
【文献】実開平01-065387(JP,U)
【文献】実開昭63-130576(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/12-1/298
E03F 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水回り器具の排水管に接続し液体が流入する流入口と、サイホン排水管の横引き管に接続し前記液体が流出する流出口と、の間に設けられた主流路と、
前記主流路の側方に前記主流路と並設され前記液体を貯留可能な貯留部と、
前記主流路と前記貯留部との間に設けられ、前記主流路内の前記液体の流れに沿って延び、前記流出口の近傍の位置に部分的に形成
され前記主流路側と前記貯留部側とを連通させ
前記主流路の下流端部に開口している開口部を有する隔壁と、
前記開口部と前記貯留部との間を繋ぐ分岐流路と、
を備え、
前記貯留部が前記開口部を介して
前記流出口に連通して、横引き管は、前記主流路に接続される前記横引き管のみである、
貯留槽。
【請求項2】
前記主流路の底面は、前記貯留部の底面より低い、
請求項1に記載の貯留槽。
【請求項3】
前記分岐流路は、前記開口部より前記流入口側の位置で前記貯留部に連通している、
請求項1又は2に記載の貯留槽。
【請求項4】
一対の前記貯留部が前記主流路を挟んで並設され、
前記隔壁は、一対であり、前記主流路の中心軸線に直交する面で切断した断面中で、前記主流路の両側で最も高い位置同士を結ぶ仮想線と前記主流路の内壁面の輪郭とによって形成される領域の面積を流路断面積として設定したとき、前記流出口側の端部の位置の流路断面積が、前記流入口側の端部の位置の流路断面積より小さい、
請求項1~3のいずれか一項に記載の貯留槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯留槽に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅等の排水システムとしては、サイホンの原理を利用したサイホン排水システムと呼ばれるものが知られている。サイホン排水システムによれば、水廻り機器からの排水を行う際、サイホン排水管に生じたサイホン力により、排水を促進させることができる。一方、サイホン排水システムでは、多量の液体を一度に排水することが想定されている。このため、サイホン排水管よりも上流に、排水を促進するサイホン力の発生が開始されるまでの間、一時的に液体を蓄えることが可能な貯留槽を設ける必要がある。
【0003】
貯留槽として、例えば特許文献1には、流入口と流出口と周壁とを備える貯留槽が開示されている。特許文献1の貯留槽の内部は、周壁によって、流入口と流出口との間で一定の長さを有して延びる中央領域と、中央領域の両側に並設され液体(排水)を貯留可能な貯留領域とに分画される。特許文献1では、周壁における流出口部分が流出口部分と隣接する部分より下流側に突出していることによって、流出口付近に液体を集め易いとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の場合、貯留槽の内部では、中央領域と両側の貯留領域との間が隔てられていないため、流入口から流入した液体が中央領域の凹部の土手部分を超えて溢れる場合、両側の貯留領域へ制限なく移動可能である。このため、特許文献1の貯留槽をサイホン排水システムに適用した場合、流入口から貯留槽の内部に流入した排水は、流出口へ向かう間に中央領域から貯留領域へ広範囲に散乱する場合がある。結果、貯留槽から液体が排出される際には、貯留槽の内部で流出口近傍の水位が上昇し難くなるので、貯留槽に接続されているサイホン排水管の水頭圧を高くすることが難しい。
【0006】
サイホン排水管の水頭圧が低い場合、特に、サイホン未起動時の初期排水時における、貯留槽より下流の配管を充填する液体の初期排水速度が増加し難くなる。このため、サイホン力の発生までの時間の遅延が生じると共に、サイホン排水管の水頭圧を高めるため一時的に必要な液体の貯留量(すなわち、貯留槽の容量)が大きくなるという問題がある。
【0007】
本発明は上記した問題に着目して為されたものであって、液体を一時的に貯留しつつ、サイホン未起動時の初期排水速度の減衰を抑制でき、サイホン力の発生までの時間の遅延を防止できると共に、サイホン排水管の水頭圧を高めるために多量の排水を貯留する必要がない貯留槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る貯留槽は、液体が流入する流入口と液体が流出する流出口との間に設けられた主流路と、主流路の側方に主流路と並設され液体を貯留可能な貯留部と、主流路と貯留部との間に設けられ、主流路内の液体の流れに沿って延び、流出口の近傍の位置に部分的に形成され、主流路側と貯留部側とを連通させる開口部を有する隔壁と、開口部と貯留部との間を繋ぐ分岐流路と、を備える。
【0009】
第1の態様に係る貯留槽では、主流路内の液体の流れに沿って延びる隔壁が、主流路と貯留部とを分画して設けられている。隔壁には流出口の近傍の位置に開口部が部分的に形成され、開口部と貯留部との間は分岐流路によって繋がっている。このため、隔壁の流出口の近傍以外の位置では、主流路から側方の貯留部へ広がる液体の流れが抑制されると共に、貯留部への液体の移動は、開口部においてのみ限定的に行われる。換言すると、主流路内の液体が、流出口の近傍の位置で分岐し、分岐した一部の液体のみが、開口部及び分岐流路を経由して貯留部へ移動して貯留される。
【0010】
このため、貯留槽から液体が排出される際、貯留槽の内部で流出口の近傍の水位が上昇し易くなる。結果、流出口の近傍の位置における液体の水頭圧を、隔壁が設けられていない場合に比べ、高く確保することができる。よって、貯留槽をサイホン排水システムに適用した場合、サイホン未起動時の初期排水速度を増加させ易い。また、サイホン排水管の水頭圧を高めるために多量の排水を貯留する必要がない。
【0011】
本発明の第2の態様では、主流路の底面は、貯留部の底面より低い。
【0012】
第2の態様では、主流路の底面は、貯留部の底面より低いので、主流路から貯留部へ向かう液体の流れが抑制される。このため、流出口の近傍の位置における液体の水頭圧をより高めることができる。
【0013】
本発明の第3の態様では、平面視で、分岐流路は、開口部より流入口側の位置で貯留部に連通している。
【0014】
第3の態様では、分岐流路は、開口部より流入口側の位置で貯留部に連通している。このため、主流路内の液体の一部が流出口の近傍の位置で分岐し、分岐流路内を貯留部に向かって流れる際、分岐流路内での流れの方向は、主流路内での流れの方向から逆方向に向かうように転換する。逆方向への転換によって、貯留部に向かう液体の流れの勢いが低下するので、流出口の近傍の位置に、液体が溜まり易くなる。結果、流出口の近傍の位置における液体の水頭圧をより高めることができる。
【0015】
本発明の第4の態様では、一対の貯留部が主流路を挟んで並設され、隔壁は、一対であり、主流路の中心軸線に直交する面で切断した断面中で、主流路の両側で最も高い位置同士を結ぶ仮想線と主流路の内壁面の輪郭とによって形成される領域の面積を流路断面積として設定したとき、流出口側の端部の位置の流路断面積が、流入口側の端部の位置の流路断面積より小さい。
【0016】
第4の態様では、流出口側の端部の位置の流路断面積が、流入口側の端部の位置の流路断面積より小さい。このため、例えば一定の流量の液体が主流路を流れる場合、貯留槽の流出口側の端部の位置における液体の流速は、流入口側の端部の位置における液体の流速より速くなる。結果、流出口から外部に排出される液体の流速を高めることができる。よって、第1の態様に係る貯留槽をサイホン排水システムに適用した場合、液体を一時的に貯留しつつ、貯留槽より下流の配管を充填する液体の初期排水速度の減衰を抑制できる。このため、サイホン力の発生までの時間の遅延を防止できると共に、一時的に必要な液体の貯留量が大きくなることを防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、サイホン未起動時の初期排水速度の減衰を抑制でき、サイホン力の発生までの時間の遅延を防止できると共に、サイホン排水管の水頭圧を高めるために多量の排水を貯留する必要がない貯留槽を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る貯留槽の構成を、
図2中の中心軸線Cを含み、かつ水平面に直交する鉛直面で切断して説明する斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る貯留槽の構成を説明する平面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る貯留槽の構成を、
図3中の5-5線を含む水平面で切断して説明する斜視図である。
【
図6】
図5中の6-6線断面図であり、主流路の流入口側の端部の位置の周辺を拡大して説明する図である。
【
図7】
図5中の7-7線断面図であり、主流路の流出口側の端部の位置の周辺を拡大して説明する図である。
【
図9】本実施形態に係る貯留槽が適用されたサイホン排水システムを、一部を切断して説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一の部分及び類似の部分には、同一の符号又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なる。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0020】
<貯留槽の構成>
図1に示すように、本実施形態に係る貯留槽10は、本体である周壁10Aを備える。
図1及び
図2に示すように、周壁10Aの全体形状は、直方体状である。周壁10Aは、例えば樹脂によって一体成形されている。
図1に示すように、周壁10Aの内部は、主流路12と、貯留部14と、主流路12と貯留部14とを隔てる隔壁16と、分岐流路18とに分画されている。
【0021】
主流路12は、液体が流入する流入口22と液体が流出する流出口24との間に設けられ、
図2中の中心軸線Cに沿って延びている。本実施形態では、流入口22及び流出口24のそれぞれの形状は、円筒状であり、断面形状は、円形である。中心軸線Cは、流入口22及び流出口24のそれぞれの円筒の中心軸と平行である。また、本実施形態では、流入口22の内径は、約50mmであると共に、流出口24の内径は、約30mmである。
【0022】
なお、本発明では、流入口22及び流出口24のそれぞれの形状は、例えば、角筒状等、他の形状であってもよい。また、流入口22及び流出口24のそれぞれの内径も、適宜変更できる。
【0023】
貯留部14は、主流路12の側方に主流路12と並設され、貯留部14には一定量の液体が貯留可能である。
図3に示すように、本実施形態では、貯留槽10の主流路12の底部が水平面上に載置されると共に、貯留槽10の天井部が水平に配置された状態で、主流路12の底面は、貯留部14の底面より低い。換言すると、主流路12の方が、貯留部14より深い。
【0024】
図4に示すように、本実施形態では、主流路12の中心軸線Cの左右に、一対の貯留部14が、主流路12を挟んで、それぞれ主流路12に連通して設けられている。なお、本発明では、貯留部の個数は、2個に限定されず、例えば、1個でもよいし、3個以上であってもよい。
【0025】
隔壁16は、主流路12とそれぞれの貯留部14との間に一対設けられ、
図2中の上側から下側に向かう、主流路12内の液体の流れの方向に沿って延びている。隔壁16は、主流路12と貯留部14とを分画する。
図1に示したように、隔壁16の高さは、流出口24の天井部分の高さより高い。本実施形態では、
図3に示すように、隔壁16は、流入口22の左右に位置する周壁10Aの底部の領域が上側に突出することによって形成されている。このため、周壁10Aの素材である樹脂の使用量を低減できる。
【0026】
また、
図4に示したように、隔壁16は、流入口22側で貯留槽10の周壁10Aの内壁面に連続して設けられている。換言すると、隔壁16の流入口22側の端部は、周壁10Aの流入口22の近傍の部分と接触している。このため、隔壁16の流入口22側の端部では、主流路12と貯留部14との間に、隙間が形成されていない。
【0027】
本実施形態では、
図1に示すように、隔壁16と周壁10Aの天井部との間には隙間が形成されている。なお、本発明では、隔壁と周壁の天井部との間が塞がれていてもよい。また、隔壁16は、流出口24の近傍の位置(
図1中の左下の位置)に、切り欠きとして部分的に形成され、主流路側と貯留部側とを連通させる開口部26を有する。すなわち、開口部26によって、中心軸線Cの延びる方向における流出口24と隔壁16との間に、液体が主流路12から分岐して流れるための隙間が形成されている。
【0028】
換言すると、貯留部14は、流出口24の近傍の位置で主流路12に部分的に連通している。また、隔壁16は、主流路12内の液体が開口部26の位置に到達するまでの間、貯留部14側に流出することを抑制するように、液体の流れをガイドしている。
【0029】
なお、本実施形態では、開口部26の形状は矩形状であるが、本発明ではこれに限定されず、他の多角形状や円形状等、任意の幾何学形状を採用できる。また、開口部としては切り欠きに限定されず、例えば、隔壁16に形成された貫通孔であってもよい。
【0030】
図5に示すように、分岐流路18は、開口部26と貯留部14との間を繋いでいる。分岐流路18は、
図5中の開口部26より流入口22側(
図5中の上側)の位置で、貯留部14に連通している。
【0031】
図3に示したように、主流路12は、断面形状が半円状の内面を有する凹部13と、凹部13の両側に配置された一対の隔壁16とによって囲まれた領域である。なお、周壁10Aの内部で開口部26が形成されることによって隔壁16が存在しない位置では、主流路12は、凹部13のみで形成されている。
【0032】
本実施形態では、主流路12の中心軸線Cに直交する面で切断した断面中で、主流路12の両側で最も高い位置同士を結ぶ仮想線と、主流路12の内壁面の輪郭とによって形成される領域の面積が、流路断面積として設定される。
【0033】
具体的に、
図6中では、流入口22側の端部の位置PAにおいて、主流路12の両側の隔壁16の頂部同士を結ぶ仮想線26Aと、主流路12の内壁面の輪郭とによって形成される領域の流路断面積SAが、点状のパターンが付されて例示されている。また、
図7中では、流出口24側の端部の位置PBにおいて、凹部13の両側における周壁10Aの底部部分の内面同士を結ぶ仮想線26Bと、主流路12の内壁面の輪郭とによって形成される領域の流路断面積SBが、点状のパターンが付されて例示されている。
【0034】
なお、本実施形態では、流入口22と隔壁16との間に隙間が形成されていないため、主流路12の流入口22側の端部の位置PAにおける、凹部13の両側で最も高い位置は、隔壁16の頂部であった。しかし、本発明では、これに限定されない。流入口と隔壁との間に隙間が形成されている場合、主流路の流入口側の端部の位置における、凹部の両側で最も高い位置は、本実施形態における流出口24側の端部の位置PBの場合と同様に、周壁10Aの底部部分の内面であり得る。
【0035】
図6及び
図7に示すように、本実施形態では、流出口24側の端部の位置PBの流路断面積SBは、流入口22側の端部の位置PAの流路断面積SAより小さい。また、本実施形態では、流路断面積は、流入口22側の端部の位置PAから流出口24側の端部の位置PBに向かって、徐々に小さくなる。
【0036】
なお、本発明では、主流路の断面積が流入口22から流出口24に向かうに従って徐々に小さくなることは必須ではない。例えば、流入口22と流出口24との間において、隔壁が部分的に外側に膨らむことによって、主流路の流入口22側の端部の断面積より大きな断面積を有する領域が、部分的に設けられていてもよい。或いは、例えば、平面視で、主流路の外縁が階段状や段差状に形成されていてもよい。隔壁の膨らみは、貯留槽10の内部で必要な液体の流速が実現される範囲内で設定される。
【0037】
<貯留槽の使用方法>
次に、本実施形態に係る貯留槽が適用されたサイホン排水システムを用いて、貯留槽の使用方法を説明する。まず、サイホン排水システムは、サイホンの原理を利用した排水システムである。サイホン排水システムによれば、水廻り器具からの排水を行う際、サイホン排水管に生じたサイホン力により、排水を促進させることができる。サイホン排水システムは、例えば、1棟の建物が複数階に区画された集合住宅における排水システムとして採用可能である。
【0038】
図9に示すように、本実施形態に係る貯留槽10が適用されたサイホン排水システム100は、水廻り器具110と、器具排水管120と、本発明の一実施形態に係る貯留槽10と、サイホン排水管130と、を備える。サイホン排水システム100は、建物が複数階に区画された集合住宅に設けられている。
【0039】
サイホン排水システム100では、水廻り器具110から一度に多量の液体の排水が行われることを想定し、器具排水管120とサイホン排水管130との間に、本実施形態に係る貯留槽10が設けられている。貯留槽10は、排水の促進(サイホン力の発生)が開始されるまでの間、水廻り器具110から一度に排水された多量の水を一時的に蓄えることができる。
【0040】
水廻り器具110は、建物の各階に配置されている。水廻り器具110としては、例えば、浴槽(例えば、ユニットバス)、洗面台、流し台が挙げられる。本実施形態では、水廻り器具110は、浴槽である。
【0041】
器具排水管120は、水廻り器具110と貯留槽10とを接続している。器具排水管120は、床下空間S内に配置されている。床下空間Sは、建築物の床部材101と床スラブ102との間に形成された空間である。器具排水管120は、
図9中の上下方向(縦方向)に延びている上流側部分120Aと、
図9中の左右方向(横方向)に延びている下流側部分120Bとで構成されている。
【0042】
上流側部分120Aは、水廻り器具110に接続されている。下流側部分120Bは、上流側部分120Aに繋がっている。下流側部分120Bは、上流側部分120Aから下流に向かうに従って下方に傾斜している。下流側部分120Bは、貯留槽10に接続されている。下流側部分120Bの途中には、排水トラップ121が介在している。
【0043】
サイホン排水管130は、貯留槽10と立て管150とを接続している。立て管150は、建物の各階を上下方向に貫く排水管である。サイホン排水管130は、床下空間S内に配置された横引き管130Aと、床スラブ102を貫通して下方に垂下している竪管130Bとで構成されている。
【0044】
横引き管130Aは、貯留槽10に接続されている。また、横引き管130Aは、ほぼ水平の無勾配となるように横方向に延びている。具体的には、水廻り器具110が設置されている階の床スラブ102に沿って、ほぼ水平の無勾配で配管されている。
【0045】
竪管130Bは、横引き管130Aに繋がっている。また、竪管130Bは、管継手140を介して立て管150に接続されている。具体的には、竪管130Bは、横引き管130Aのほぼ垂直下方に延在して、垂下部を形成しサイホン力(例えば、負圧力)を発生させる。
【0046】
本実施形態のサイホン排水システム100では、まず水廻り器具110の流出口とサイホン排水管130の横引き管130Aとの高低差H1によって、水廻り器具110から液体を流出させる。水廻り器具110から流出した液体(例えば、水)は、液体の自重(すなわち、落下押し込み圧力)によって、器具排水管120から貯留槽10に流入する。
【0047】
図8に示したように、流入口22から貯留槽10に流入した液体は、流出口24に向かって流れる。貯留槽10の内部では、流出口24から液体の一部が外側に放出されつつ、残りの部分が流出口24の近傍に蓄積することによって、流出口24の近傍の水位が上昇する。
【0048】
そして、流入口22からの液体の貯留槽10への流入が継続することによって、蓄積した液体の水位が開口部26の下縁を超えると、蓄積された液体の一部は、主流路12から分岐して分岐流路18へ流れ込む。更に、貯留槽10の内部の液体の水位が上昇すると、液体は、分岐流路18から貯留部14へ流れ込み、貯留部14の容積及び流入口22からの液体の流入速度に応じて、貯留槽10の内部に一定量の液体が貯留される。また、貯留槽10からは、貯留される液体以外の残りの液体が、流出口24からサイホン排水管130に流出される。
【0049】
なお、本実施形態において、サイホン排水管130は、サイホン力による吸引力を発生させるサイホン排水路を形成する。サイホン排水路では、サイホン排水管130内に発生したサイホン力によって、サイホン排水管130からの液体の排水を促進させることができる。
【0050】
本実施形態のサイホン排水路では、水廻り器具110の流出口とサイホン排水管130の横引き管130Aの高低差H1による、水廻り器具110からの排水の落下押し込み圧力で、器具排水管120及びサイホン排水管130の横引き管130Aを充水させる。サイホン排水管130の横引き管130Aの充水により、垂下長H2を有するサイホン排水管130の竪管130Bに達した排水が、竪管130B内で落下を開始する。
【0051】
そして、竪管130Bの上流側で、サイホン排水管130の横引き管130Aが排水によって満水状態になることで、サイホン作用が発生する。発生したサイホン作用を排水動力として、サイホン排水路内に高速の流れが発生する。発生した高速の流れにより、水廻り器具110からの排水が行われる。このため、排水は、管継手140の内部へと円滑かつ速やかに放出される。
【0052】
本実施形態では、サイホン排水システムとして、サイホン排水システム100を採用したことから、排水管内部が満水状態に充填される満流排水となる。このように排水システムとして、サイホン排水システム100を採用すれば、液体の排水が満流排水となるため、管内に固形物が付着するのを防止できると共に、小口径管を使用することができる。
【0053】
また、本実施形態では、排水システムとして、サイホン排水システム100を採用したことから、排水管を無勾配で配置することができる。排水管を無勾配で配置することができることにより、排水管を配置する床下の空間高さを低くすることが可能になる。また本実施形態では、排水システムとして、サイホン排水システム100を採用したことから、排水元(例えば、各種水廻り器具110)から立て管150までの延長距離を長くすることができる。延長距離としては、例えば、水廻り器具110の流出口からサイホン排水管130の竪管130Bまでの水平長Lである。また、延長距離を長くすることができることによって、居室レイアウトの自由度を上げることが可能となる。
【0054】
(作用効果)
本実施形態に係る貯留槽10では、主流路12内の液体の流れに沿って延びる隔壁16が、主流路12と貯留部14とを分画して設けられている。このため、液体は、主流路12を中心として流れる。換言すると、隔壁16が設けられている領域では、液体が隔壁16を乗り越えない限り、液体が主流路12から貯留部14へ広がることが防止される。
【0055】
また、隔壁16には流出口24の近傍の位置に開口部26が部分的に形成され、開口部26と貯留部14との間は分岐流路18によって繋がっている。すなわち、貯留部14が、流出口24の近傍の位置で主流路12に部分的に連通している。このため、隔壁16の流出口24の近傍以外の位置では、主流路12から側方の貯留部14へ広がる液体の流れが抑制されると共に、貯留部14への液体の移動は、開口部26においてのみ限定的に行われる。換言すると、主流路12内の液体が、流出口24の近傍の位置で分岐し、分岐した一部の液体のみが、開口部26及び分岐流路18を経由して貯留部14へ移動して貯留される。
【0056】
このため、貯留槽10から液体が排出される際、貯留槽10の内部で流出口24の近傍の水位が上昇し易くなる。結果、流出口24の近傍の位置における液体の水頭圧を、隔壁16が設けられていない場合に比べ高く確保することができる。
【0057】
また、本実施形態に係る貯留槽10では、主流路12の底面は、貯留部14の底面より低いので、主流路12から貯留部14へ向かう液体の流れが抑制される。このため、流出口24の近傍の位置における液体の水頭圧をより高めることができる。
【0058】
また、本実施形態に係る貯留槽10では、分岐流路18は、開口部26より流入口22側の位置で貯留部14に連通している。このため、主流路12内の液体の一部が流出口24の近傍の位置で分岐し、分岐流路18内を貯留部14に向かって流れる際、分岐流路18内での流れの方向は、主流路12内での流れの方向から逆方向に向かうように転換する。逆方向への転換によって、貯留部14に向かう液体の流れの勢いが低下するので、流出口24の近傍の位置に、液体が溜まり易くなる。結果、流出口24の近傍の位置における液体の水頭圧をより高めることができる。
【0059】
また、本実施形態に係る貯留槽10では、主流路12の中心軸線Cに直交する面で切断した断面中で、主流路12の両側で最も高い位置同士を結ぶ仮想線と主流路12の内壁面の輪郭とによって形成される領域の面積が流路断面積として設定される。また、主流路12における、流出口24側の端部の位置PBの流路断面積SBは、流入口22側の端部の位置PAの流路断面積SAより小さい。
【0060】
このため、例えば一定の流量の液体が主流路12を流れる場合、流出口24側の端部の位置PBにおける液体の流速は、流入口22側の端部の位置PAにおける液体の流速より速くなる。結果、流出口24から外部に排出される液体の流速を高めることができる。
【0061】
また、本実施形態に係る貯留槽10では、流路断面積は、流入口22側の端部の位置PAから流出口24側の端部の位置PBに向かって、徐々に小さくなる。このため、流入口22側の端部の位置PAと流出口24側の端部の位置PBとの間で、膨らみや段差等が形成されている場合に比べ、貯留槽10を製造し易い。
【0062】
よって、本実施形態に係る貯留槽10をサイホン排水システム100に適用した場合、貯留槽10に一定量の液体を一時的に貯留しつつ、貯留槽10より下流の配管を充填する液体の初期排水速度の減衰を抑制できる。このため、サイホン力の発生までの時間の遅延を防止できると共に、一時的に必要な液体の貯留量が大きくなることを防止できる。
【0063】
また、本実施形態に係る貯留槽10では、隔壁16は、流入口22側で貯留槽10の内壁面に連続して設けられている。このため、主流路12から貯留部14への液体の広がりを防止する効果を、流入口22側において高めることができる。
【0064】
<その他の実施形態>
本発明は上記の開示した実施の形態によって説明したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。本開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになると考えられるべきである。
【0065】
例えば、本実施形態では、周壁10Aの全体形状は、直方体状であったが、本発明ではこれに限定されない。例えば、周壁の全体形状は、側面に流入口及び流出口が同一直線上に配置された円柱状であってもよい。隔壁の流出口の近傍以外の位置で主流路から側方の貯留部へ広がる液体の流れが抑制されると共に、貯留部への液体の移動が開口部においてのみ限定的に行われる限り、周壁の全体形状は、適宜変更できる。また、液体は、排水に限定されず、任意の液体を採用できる。
【0066】
以上のとおり本発明は、上記に記載していない様々な実施の形態等を含むとともに、本発明の技術的範囲は、上記の説明から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0067】
10 貯留槽、10A 周壁、12 主流路、13 凹部、14 貯留部、16 隔壁、
18 分岐流路、22 流入口、24 流出口、26 開口部、
26A,26B 仮想線、PA 流入口側の端部の位置、PB 流出口側の端部の位置、
SA,SB 流路断面積