(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ペプチドの血中動態改善方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/57 20060101AFI20240827BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240827BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240827BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20240827BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240827BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A61K38/57 ZNA
A61K47/68
A61P43/00 111
C07K14/47
C07K16/00
C07K19/00
(21)【出願番号】P 2020556105
(86)(22)【出願日】2019-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2019043386
(87)【国際公開番号】W WO2020095922
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2018209730
(32)【優先日】2018-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113583
【氏名又は名称】北野 範子
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100167678
【氏名又は名称】西田 直浩
(72)【発明者】
【氏名】西宮 大祐
(72)【発明者】
【氏名】矢野 秀法
【審査官】鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-504899(JP,A)
【文献】特表2016-519569(JP,A)
【文献】TASAKI ET AL,'The mammalian N-end rule pathway: new insights into its components and physiological roles',TRENDS IN BIOCHEMICAL SCIENCES,2007年,Vol. 32, No. 11,pp. 520-528
【文献】GONDA ET AL,'Universality and structure of the N-end rule',JBC,1989年,Vol. 264、No. 28,pp. 16700-16712
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/57
A61K 47/68
A61P 43/00
C07K 14/47
C07K 16/00
C07K 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドのコンジュゲートであって、アミノ末端からカルボキシル末端に向かって、1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸、該ペプチドに含まれるアミノ酸配列、及び、免疫グロブリンのFc領域に含まれるアミノ酸配列を、その順に含み、該ペプチドがSPINK2変異体であり、該ペプチドに含まれるアミノ酸配列が配列番号2(
図8)で示される、該コンジュゲート。
【請求項2】
該ペプチドに含まれるアミノ酸配列が、Fc領域に含まれるアミノ酸配列に、リンカー配列を介して付加している、請求項1記載のコンジュゲート。
【請求項3】
該ペプチドに含まれるアミノ酸配列が、Fc領域に含まれるアミノ酸配列に、直接付加している、請求項1記載のコンジュゲート。
【請求項4】
1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸が、該ペプチドに含まれるアミノ酸配列に、リンカー配列を介して付加している、請求項1乃至3のいずれか一つに記載のコンジュゲート。
【請求項5】
1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸が、該ペプチドに含まれるアミノ酸配列に、直接付加している、請求項1乃至3のいずれか一つに記載のコンジュゲート。
【請求項6】
免疫グロブリンが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、及び/又は、IgEのFc領域である、請求項1乃至5のいずれか一つに記載のコンジュゲート。
【請求項7】
免疫グロブリンが、ヒト免疫グロブリンである、請求項1乃至6のいずれか一つに記載のコンジュゲート。
【請求項8】
免疫グロブリンが、ヒトIgG1である、請求項1乃至7のいずれか一つに記載のコンジュゲート。
【請求項9】
免疫グロブリンが、野生型又は変異型である、請求項1乃至8のいずれか一つに記載のコンジュゲート。
【請求項10】
アミノ末端に1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸を欠くコンジュゲートと比較して、抑制された血中濃度の経時的減少又は増加した血中曝露量を有する、請求項1乃至9のいずれか一つに記載のコンジュゲート。
【請求項11】
ヒト疾患関連標的分子に結合することを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか一つに記載のコンジュゲート。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一つに記載のコンジュゲートを含む組成物。
【請求項13】
該ペプチドが、ヒト疾患関連標的分子の活性を抑制、阻害、作動又は活性化することを特徴とする、請求項1乃至11記載のコンジュゲート。
【請求項14】
請求項13記載のコンジュゲートを含む医薬組成物。
【請求項15】
下記の工程(i)又は(ii)を含んでなる、請求項1記載のコンジュゲートを製造する方法:
(i)該ペプチド及び免疫グロブリンのFc領域を含む融合体のアミノ末端側に、1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸を付加する工程;
(ii)該融合体に含まれるアミノ酸配列(a)、及び、1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸からなるアミノ酸配列(b)、を含み、且つ、アミノ酸配列(b)がアミノ酸配列(a)のアミノ末端側に位置してなるアミノ酸配列(c)を含むポリヌクレオチドを細胞に導入し、該細胞を培養し、該培養物から該融合体を含むコンジュゲートを回収する工程。
【請求項16】
Fc領域が、該ペプチドに、リンカーを介して融合しているか、又は 、該ペプチドに含まれるアミノ酸配列が、免疫グロブリンのFc領域に含まれるアミノ酸配列に、リンカー配列を介して付加している、請求項15記載の方法。
【請求項17】
Fc領域が、該ペプチドに、直接融合しているか、又は、該ペプチドに含まれるアミノ酸配列が、免疫グロブリンのFc領域に含まれるアミノ酸配列に、直接付加している、請求項15記載の方法。
【請求項18】
免疫グロブリンが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、及び/又は、IgEのFc領域である、請求項16又は17記載の方法。
【請求項19】
免疫グロブリンが、ヒト免疫グロブリンである、請求項15乃至18のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
免疫グロブリンが、ヒトIgG1である、請求項15乃至19のいずれか一つに記載の方法。
【請求項21】
免疫グロブリンが、野生型又は変異型である、請求項15乃至20のいずれか一つに記載の方法。
【請求項22】
アミノ末端に1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸を欠くコンジュゲートと比較して、抑制された血中濃度の経時的減少又は増加した血中曝露量を有する請求項15乃至21のいずれか一つに記載の方法。
【請求項23】
該融合体のアミノ末端側に、1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸が、リンカーを介して付加しているか、又は、該融合体に含まれるアミノ酸配列のアミノ末端側に、1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸からなるアミノ酸配列が、リンカー配列を介して、付加している、請求項15乃至22のいずれか一つに記載の方法。
【請求項24】
該融合体のアミノ末端側に、1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸が、直接付加しているか、又は、該融合体に含まれるアミノ酸配列のアミノ末端側に、1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸からなるアミノ酸配列が、直接付加している、請求項15乃至22のいずれか一つに記載の方法。
【請求項25】
該ペプチドが、ヒト疾患関連標的分子に結合することを特徴とする、請求項15乃至24のいずれか一つに記載の方法。
【請求項26】
該ペプチドが、ヒト疾患関連標的分子の活性を抑制、阻害、作動又は活性化することを特徴とする、請求項15乃至25のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペプチド又は該ペプチドを含むコンジュゲートの血中動態を改善する方法、血中動態が改善されたペプチド又は該ペプチドを含むコンジュゲート、血中動態が改善されたペプチド又は該ペプチドを含むコンジュゲートを含む医薬組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体医薬や組換え蛋白質など生物製剤の研究開発は目覚しく、アメリカ食品医薬品局(FDA)で承認された生物製剤は200を超える(非特許文献1)。それらの適応症はがんをはじめ、関節リウマチや多発性硬化症などの自己免疫疾患、皮膚疾患、神経障害性疼痛など様々な疾患に広がりをみせている。近年ではタンパク質工学の進歩により、フラグメント抗体やnon-antibody scaffoldなどの組換え蛋白質の開発も盛んになりつつある。これらの分子は抗体医薬と同様、標的となるタンパク質Xに対して高い結合活性を有しているため、治療薬として使用することで、高い薬効及び副作用の低減が期待されている。抗体医薬の分子量は150kDa程度であるのに対し、これらは5~50kDa程度と小さいことを特徴とする。組換え蛋白質やホルモンペプチドなどは高い生物活性を示す一方で、分子量の小ささに起因して血中半減期は短い。より長期に亘って、低分子量蛋白質やペプチドの活性を維持するためには、これらの血中半減期を延長させるアプローチが必要である。
【0003】
一般的に、標的細胞による特異的な消失経路を除き、より高分子量の蛋白質はピノサイトーシスや受容体介在性エンドサイトーシスに続く細胞内分解を経て、また、より低分子量の蛋白質やペプチドは腎臓の糸球体ろ過や再吸収時の分解を経て体内から消失する。低分子量蛋白質やペプチドの分子量、形状、電荷などはクリアランスに大きな影響を及ぼすことが知られている。そのため、低分子量蛋白質やペプチドの血中半減期を改善するためには、分子量を大きくする、又は、血清中に含まれる蛋白質に結合させるアプローチが考えられる(非特許文献2)。低分子量蛋白質やペプチドの分子量を増大するアプローチとして、Poly-ethylene glycol(PEG)や糖鎖、生体分解性ポリマーなどとの結合が挙げられる。低分子量蛋白質やペプチドを血清蛋白質に結合させるアプローチとして、アルブミン又はアルブミン結合分子との融合が挙げられる。さらに、免疫グロブリンFc領域との結合も血中半減期延長に有効である。抗体は分子量の大きさに加え、血管内皮細胞などに取り込まれても免疫グロブリンFc部分がエンドソームにある胎児性Fc受容体(FcRn)との結合を介して血液中に汲み出されるリサイクリング効果を示すため、他の蛋白質よりも長い血中半減期を示す(非特許文献3)。Fc領域のその特徴的な性質に着目することで、Fc融合体は低分子量蛋白質やペプチドの血中半減期延長ツールとして開発されている。いずれの修飾法も蛋白質やペプチドへの適応例が報告されており、複数の品目が上市に至っている。
【0004】
低分子量蛋白質やペプチドはFc領域との融合により、血中半減期の延長効果は期待されるが、IgGよりも血中半減期は短い例が多く、血中曝露量の改善には課題が残る(非特許文献4)。治療薬としての薬効を持続させるためには、これらFc融合体の血中曝露量をより改善することが求められる。これまでに、モノクローナル抗体及びFc融合体の血中半減期又は血中曝露量を変化させる方法が報告されている。例えば、抗体とFcRnとの親和性を変化させることで血中半減期を変化させる方法が挙げられる(非特許文献3、5)。抗体や受容体Fc融合体では、Fc領域以外の部分(抗体では可変領域、受容体Fc融合体では受容体部分)に糖鎖を付加することで、より高い曝露を達成している(非特許文献3)が、50~60kDa以下のより小さなタンパク質に適用する場合は十分な効果が得られない。また、タンパク質の電荷を知る方法として等電点(pI)が挙げられる。抗体のpIが高い場合、体内は中性付近のpHを示すため、抗体は正電荷を帯びる。そのため、抗体は負に帯電した細胞膜と相互作用しやすくなり、組織への取り込みやクリアランスが増大し、血中半減期や血中曝露量が低下、減少する。逆に、抗体のpIを低くすることで、血中半減期の延長に繋がることが知られている(非特許文献3)が、抗体以外のタンパク質について、それらの方法が適用され得ることは知られていない。一方、N-アセチルガラクトサミン-6-硫酸スルファターゼのN末端側に酸性アミノ酸を4~15個付加することで、血中での安定性を改善させた例が報告されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、いずれの公知の方法も、分子量にかかわらず任意のタンパク質に対する汎用性が示されたことはなく、個々のケースにおいて、血中半減期又は血中曝露を改善する方法を模索するのが現状である。
【0006】
SPINK2(Serine Protease Inhibitor Kazal-type 2)は、3つのジスルフィド結合を有するKazal様ドメインであり、trypsin/acrosin inhibitorとして機能する(非特許文献6)。その分子量は7kDaと小さく、SPINK2又はSPINK2変異体を個体に投与する場合、体内からの消失は速いと推測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】ウスマニ エスエス他(Usmani SS,et al.)(2017年刊) プロス・ワン(PLoS One)12巻(7号):e0181748
【文献】ストロール ダブリュアール他(Strohl WR)(2015年刊) バイオドラッグズ(BioDrugs)29巻(4号):215-239頁
【文献】リュウ エル他(Liu L)(2018年刊) プロテインセル(Protein Cell)9巻(1号):15-32頁
【文献】アンバードーベン エフ他(Unverdorben F,et al.)(2016年刊) マブズ(MAbs)8巻(1号):120-128頁
【文献】サクセナ エイ他(Saxena A,et al.)(2016年刊) フロンティアーズ・イン・イムノロジー(Front Immunol.)7巻:580
【文献】チェン ティー他(Chen T,et al.)(2009年刊) プロテインズ(Proteins.)77巻(1号):209-219頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ペプチドの血中動態を改善する方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
(1)
下記(i)又は(ii)であるペプチドのコンジュゲート:
(i)アミノ末端からカルボキシル末端に向かって、1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸、該ペプチドに含まれるアミノ酸配列、及び、免疫グロブリンのFc領域又はその断片に含まれるアミノ酸配列を、その順に含む、該ペプチドのコンジュゲート;
(ii)アミノ末端からカルボキシル末端に向かって、1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸、免疫グロブリンのFc領域又はその断片に含まれるアミノ酸配列、及び、該ペプチドに含まれるアミノ酸配列を、その順に含む、該ペプチドのコンジュゲート、
(2)
該ペプチドがSPINK2変異体ペプチドである、(1)記載のコンジュゲート、
(3)
該ペプチドが抗体又はその抗原結合断片である、(1)記載のコンジュゲート、
(4)
該ペプチドに含まれるアミノ酸配列が、Fc領域又はその断片に含まれるアミノ酸配列に、リンカー配列を介して付加している、(1)乃至(3)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(5)
該ペプチドに含まれるアミノ酸配列が、Fc領域又はその断片に含まれるアミノ酸配列に、直接付加している、(1)乃至(3)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(6)
1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸が、該ペプチドに含まれるアミノ酸配列又はFc領域若しくはその断片に含まれるアミノ酸配列に、リンカー配列を介して付加している、(1)乃至(5)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(7)
1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸が、該ペプチドに含まれるアミノ酸配列又はFc領域若しくはその断片に含まれるアミノ酸配列に、直接付加している、(1)乃至(5)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(8)
免疫グロブリン又はその断片が、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、及び/又は、IgEのFc領域又はその断片である、(1)乃至(7)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(9)
免疫グロブリンが、ヒト免疫グロブリンである、(1)乃至(8)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(10)
免疫グロブリンが、ヒトIgG1である、(1)乃至(9)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
【0011】
(11)
免疫グロブリンが、野生型又は変異型である、(1)乃至(10)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(12)
アミノ末端に1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸を欠くコンジュゲートと比較して、抑制された血中濃度の経時的減少又は増加した血中曝露量を有する、(1)乃至(11)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(13)
ヒト疾患関連標的分子に結合することを特徴とする、(1)乃至(12)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(14)
該ペプチドがSPINK2変異体であり、該ペプチドに含まれるアミノ酸配列が配列番号2(
図8)で示される、(13)に記載のコンジュゲート、
(15)
(1)乃至(14)のいずれか一つに記載のコンジュゲートを含む組成物、
(16)
該ペプチドが、ヒト疾患関連標的分子の活性を抑制、阻害、作動又は活性化することを特徴とする、(1)乃至(13)記載のコンジュゲート、
(17)
該ペプチドがSPINK2変異体であり、該ペプチドに含まれるアミノ酸配列が配列番号2(
図8)で示される、(16)記載のコンジュゲート、
(18)
(16)又は(17)に記載のコンジュゲートを含む医薬組成物、
(19)
下記の工程(i)又は(ii)を含んでなる、(1)記載のコンジュゲートを製造する方法:
(i)該ペプチド及び免疫グロブリンのFc領域又はその断片を含む融合体のアミノ末端側に、1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸を付加する工程;
(ii)該融合体に含まれるアミノ酸配列(a)、及び、1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸からなるアミノ酸配列(b)、を含み、且つ、アミノ酸配列(b)がアミノ酸配列(a)のアミノ末端側に位置してなるアミノ酸配列(c)を含むポリヌクレオチドを細胞に導入し、該細胞を培養し、該培養物から該融合体を含むコンジュゲートを回収する工程、
(20)
該ペプチドが、SPINK2変異体ペプチドである、(19)記載の方法、
【0012】
(21)
該ペプチドが、抗体又はその抗原結合断片である、(19)記載の方法、
(22)
Fc領域又はその断片が、該ペプチドのカルボキシル末端側に位置している、(19)乃至(21)のいずれか一つに記載の方法、
(23)
Fc領域又はその断片が、SPINK2変異体ペプチドのアミノ末端側に位置している、(19)乃至(21)のいずれか一つに記載の方法、
(24)
Fc領域若しくはその断片が、該ペプチドに、リンカーを介して融合しているか、又は、該ペプチドに含まれるアミノ酸配列が、免疫グロブリンのFc領域若しくはその断片に含まれるアミノ酸配列に、リンカー配列を介して付加している、(19)乃至(23)のいずれか一つに記載の方法、
(25)
Fc領域若しくはその断片が、該ペプチドに、直接融合しているか、又は、該ペプチドに含まれるアミノ酸配列が、免疫グロブリンのFc領域若しくはその断片に含まれるアミノ酸配列に、直接付加している、(19)乃至(23)のいずれか一つに記載の方法、
(26)
免疫グロブリンが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、及び/又は、IgEのFc領域又はその断片である、(19)乃至(25)のいずれか一つに記載の方法、
(27)
免疫グロブリンが、ヒト免疫グロブリンである、(19)乃至(26)のいずれか一つに記載の方法、
(28)
免疫グロブリンが、ヒトIgG1である、(19)乃至(27)のいずれか一つに記載の方法、
(29)
免疫グロブリンが、野生型又は変異型である、(19)乃至(28)のいずれか一つに記載の方法、
(30)
アミノ末端に1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸を欠くコンジュゲートと比較して、抑制された血中濃度の経時的減少又は増加した血中曝露量を有する(19)乃至(29)記載の方法、
【0013】
(31)
該融合体のアミノ末端側に、1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸が、リンカーを介して付加しているか、又は、該融合体に含まれるアミノ酸配列のアミノ末端側に、1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸からなるアミノ酸配列が、リンカー配列を介して、付加している、(19)乃至(30)のいずれか一つに記載の方法、
(32)
該融合体のアミノ末端側に、1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸が、直接付加しているか、又は、該融合体に含まれるアミノ酸配列のアミノ末端側に、1乃至3個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸からなるアミノ酸配列が、直接付加している、(19)乃至(30)のいずれか一つに記載の方法、
(33)
該ペプチドが、ヒト疾患関連標的分子に結合することを特徴とする、(19)乃至(32)のいずれか一つに記載の方法、
(34)
該ペプチドが、ヒト疾患関連標的分子の活性を抑制、阻害、作動又は活性化することを特徴とする、(19)乃至(33)のいずれか一つに記載の方法、
(35)
該ペプチドがSPINK2変異体ペプチドであり、該ペプチドに含まれるアミノ酸配列が配列番号2(
図8)で示される、(34)に記載の方法、
(1A)
下記の工程(i)又は(ii)を含んでなる、SPINK2変異体ペプチド含有コンジュゲートの血中濃度の経時的減少を抑制する及び/又は血中曝露量を増加させる方法:
(i)SPINK2変異体ペプチドが、免疫グロブリンのFc領域又はその断片に融合してなるコンジュゲートのアミノ末端側に、1乃至数個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸からなるオリゴペプチドを付加する工程;
(ii)SPINK2変異体ペプチドに含まれるアミノ酸配列及び免疫グロブリンのFc領域又はその断片に含まれるアミノ酸配列を含んでなるアミノ酸配列のアミノ末端側に1乃至数個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸が付加してなるアミノ酸配列を含むコンジュゲートを調製する工程、
(2A)
Fc領域又はその断片が、SPINK2変異体ペプチドのカルボキシル末端側に位置している、(1A)記載の方法、
【0014】
(3A)
Fc領域又はその断片が、SPINK2変異体ペプチドのアミノ末端側に位置している、(1A)記載の方法、
(4A)
Fc領域若しくはその断片が、SPINK2変異体ペプチドに、リンカーを介して融合しているか、又は、SPINK2変異体ペプチドに含まれるアミノ酸配列が、免疫グロブリンのFc領域に含まれるアミノ酸配列に、リンカー配列を介して付加している、(1A)乃至(3A)のいずれか一つに記載の方法、
(5A)
Fc領域若しくはその断片が、SPINK2変異体ペプチドに、直接融合しているか、又は、SPINK2変異体ペプチドに含まれるアミノ酸配列が、免疫グロブリンのFc領域に含まれるアミノ酸配列に、直接付加している、(1A)乃至(3A)のいずれか一つに記載の方法、
(6A)
免疫グロブリンが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、及び/又は、IgEのFc領域又はその断片である、(1A)乃至(5A)のいずれか一つに記載の方法、
(7A)
免疫グロブリンが、ヒト免疫グロブリンである、(1A)乃至(6A)のいずれか一つに記載の方法、
(8A)
免疫グロブリンが、ヒトIgG1である、(1A)乃至(7A)のいずれか一つに記載の方法、
(9A)
免疫グロブリンが、野生型又は変異型である、(1A)乃至(8A)のいずれか一つに記載の方法、
(10A)
(i)記載のコンジュゲートのアミノ末端側に、該オリゴペプチドが、リンカーを介して付加しているか、又は、(ii)記載のSPINK2変異体ペプチドに含まれるアミノ酸配列及び免疫グロブリンのFc領域又はその断片に含まれるアミノ酸配列を含んでなるアミノ酸配列のアミノ末端側に、1乃至数個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸が、リンカー配列を介して、付加している、(1A)乃至(9A)のいずれか一つに記載の方法、
【0015】
(11A)
(i)記載のコンジュゲートのアミノ末端側に、該オリゴペプチドが、直接付加しているか、又は、(ii)記載のSPINK2変異体ペプチドに含まれるアミノ酸配列及び免疫グロブリンのFc領域又はその断片に含まれるアミノ酸配列を含んでなるアミノ酸配列のアミノ末端側に、1乃至数個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸が、直接付加している、(1A)乃至(9A)のいずれか一つに記載の方法、
(12A)
SPINK2変異体ペプチドが、ヒト疾患関連標的分子に結合することを特徴とする、(1A)乃至(11A)のいずれか一つに記載の方法、
(13A)
SPINK2変異体ペプチドが、ヒト疾患関連標的分子の活性を抑制又は阻害することを特徴とする、(1A)乃至(12A)のいずれか一つに記載の方法、
(14A)
SPINK2変異体ペプチドに含まれるアミノ酸配列が、下記(i)又は(ii)である、(1A)乃至(13A)のいずれか一つに記載の方法:
(i)配列番号2(
図8)で示され、ヒト疾患関連標的分子に結合するか又は該分子の活性を抑制若しくは阻害するペプチドに含まれるアミノ酸配列;
(ii)(i)記載のアミノ酸配列と90%以上同一なアミノ酸配列を含み、且つ該分子に結合するか又は該分子の活性を抑制若しくは阻害するペプチドに含まれるアミノ酸配列、
(15A)
下記(i)又は(ii)であるSPINK2変異体のコンジュゲート:
(i)アミノ末端からカルボキシル末端に向かって、1乃至数個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸、SPINK2変異体ペプチドに含まれるアミノ酸配列、及び、免疫グロブリンのFc領域又はその断片に含まれるアミノ酸配列を、その順に含む、SPINK2変異体のコンジュゲート;
(ii)アミノ末端からカルボキシル末端に向かって、1乃至数個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸、免疫グロブリンのFc領域又はその断片に含まれるアミノ酸配列、及び、SPINK2変異体ペプチドに含まれるアミノ酸配列を、その順に含む、SPINK2変異体のコンジュゲート、
(16A)
SPINK2変異体ペプチドに含まれるアミノ酸配列が、Fc領域に含まれるアミノ酸配列に、リンカー配列を介して付加している、(15A)記載のコンジュゲート、
(17A)
SPINK2変異体ペプチドに含まれるアミノ酸配列が、Fc領域に含まれるアミノ酸配列に、直接付加している、(15A)記載のコンジュゲート、
(18A)
1乃至数個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸が、SPINK2変異体ペプチドに含まれるアミノ酸配列又はFc領域に含まれるアミノ酸配列に、リンカー配列を介して付加している、(15A)乃至(17A)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(19A)
1乃至数個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸が、SPINK2変異体ペプチドに含まれるアミノ酸配列又はFc領域に含まれるアミノ酸配列に、直接付加している、(15A)乃至(17A)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(20A)
免疫グロブリンが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、及び/又は、IgEのFc領域又はその断片である、(15A)乃至(19A)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
【0016】
(21A)
免疫グロブリンが、ヒト免疫グロブリンである、(15A)乃至(20A)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(22A)
免疫グロブリンが、ヒトIgG1である、(15A)乃至(21A)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(23A)
免疫グロブリンが、野生型又は変異型である、(15A)乃至(22A)のいずれか一つに記載の方法、
(24A)
アミノ末端に1乃至数個のアスパラギン酸及び/又はグルタミン酸を欠くコンジュゲートと比較して、抑制された血中濃度の経時的減少又は増加した血中曝露量を有する、(15A)乃至(23A)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(25A)
SPINK2変異体ペプチドが、ヒト疾患関連標的分子に結合することを特徴とする、(15A)乃至(24A)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(26A)
SPINK2変異体ペプチドが、ヒト疾患関連標的分子の活性を抑制又は阻害することを特徴とする、(15A)乃至(25A)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、
(27A)
SPINK2変異体ペプチドに含まれるアミノ酸配列が、下記(i)又は(ii)である、(15A)乃至(26A)のいずれか一つに記載のコンジュゲート:
(i)配列番号2(
図8)で示され、ヒト疾患関連標的分子に結合するか又は該分子の活性を抑制若しくは阻害するペプチドに含まれるアミノ酸配列;
(ii)(i)記載のアミノ酸配列と90%以上同一なアミノ酸配列を含み、且つ該分子に結合するか又は該分子の活性を抑制若しくは阻害するペプチドに含まれるアミノ酸配列、
(28A)
(15A)乃至(27A)のいずれか一つに記載のコンジュゲートを含む組成物、
及び、
(29A)
(25A)乃至(27A)のいずれか一つに記載のコンジュゲートを含む医薬組成物、
等に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の提供する血中動態改善方法は、ペプチド又は該ペプチドを含有するコンジュゲートの血中濃度の経時的減少の抑制、血中曝露量の増加等をもたらし、該ペプチド又は該コンジュゲートを含有する医薬は、各種疾患の治療又は予防等に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】ペプチド基質の分解速度を指標として、KLK5阻害ペプチドFc融合体のKLK5阻害活性(50%阻害濃度:IC
50)を示した図。KLK5阻害活性評価には終濃度20nMのKLK5及び終濃度100μMのBoc-Val-Pro-Arg-AMC(R&D Systems;ES011)を使用した。K51028-Fcを基に、(A)Aspを1~5個付加した場合においても、(B)Asp又はGluを付加した場合においても、KLK5阻害活性に変化はなかった。
【
図3】C57BL/6Jマウスに5mg/kgのK51028-Fcを静脈内投与し、経時的に血漿中のK51028-Fc濃度を測定した図。血漿中のK51028-Fc濃度はビオチン標識した抗SPINK2抗体(Atlas Antibodies)、DyLight650で標識した抗SPINK2抗体6D8(第一三共株式会社)及びGyrolab xP Workstation(GYROS PROTEIN Technologies)を用いて、(A)投与後1週間まで、(B)投与後24時間まで、血漿中のK51028-Fc濃度を測定した。
【
図4】K51028-FcにAsp又はGluを付加することで、SPINK2-Fc融合体の血中動態が改善したことを示した図。C57BL/6Jマウスに5mg/kgの被験物質を静脈内投与し、血漿中の被験物質濃度を投与後24時間まで測定した。被験物質はK51028-Fc、D1-K51028-Fc又はE1-K51028-Fcで、被験物質濃度の測定にはビオチン標識した抗SPINK2抗体、DyLight650で標識した抗SPINK2抗体6D8及びGyrolab xP Workstationを用いた。
【
図5】K51028-Fcと同様、K50055-FcにおいてもAsp付加によりSPINK2-Fc融合体の血中動態が改善したことを示した図。
【
図6】K51028-Fcを基に、SPINK2-Fc融合体の血中動態改善に効果があるAsp付加数を最適化した図。Asp付加数1~5個はいずれも改善効果を示し、Asp付加数3個が最も高い効果を示した。
【
図7】ヒトSPINK2のアミノ酸配列(配列番号1)
【
図8】SPINK2変異体ペプチドの一般式(配列番号2)
【
図10】KLK5阻害ペプチドK50055のアミノ酸配列(配列番号4)
【0019】
【
図11】KLK5阻害ペプチドK51028のアミノ酸配列(配列番号5)
【
図12】KLK5阻害ペプチドFc融合体D0-K51028-Fcのアミノ酸配列(配列番号6)
【
図13】KLK5阻害ペプチドFc融合体D1-K51028-Fcのアミノ酸配列(配列番号7)
【
図14】KLK5阻害ペプチドFc融合体D2-K51028-Fcのアミノ酸配列(配列番号8)
【
図15】KLK5阻害ペプチドFc融合体D3-K51028-Fcのアミノ酸配列(配列番号9)
【
図16】KLK5阻害ペプチドFc融合体D4-K51028-Fcのアミノ酸配列(配列番号10)
【
図17】KLK5阻害ペプチドFc融合体D5-K51028-Fcのアミノ酸配列(配列番号11)
【
図18】KLK5阻害ペプチドFc融合体K51028-D5-Fcのアミノ酸配列(配列番号12)
【
図19】KLK5阻害ペプチドFc融合体E1-K51028-Fcのアミノ酸配列(配列番号13)
【
図20】KLK5阻害ペプチドFc融合体D1-K50055-Fcのアミノ酸配列(配列番号14)
【0020】
【
図21】プライマー1のヌクレオチド配列(配列番号15)
【
図22】プライマー2のヌクレオチド配列(配列番号16)
【
図23】プライマー3のヌクレオチド配列(配列番号17)
【
図24】プライマー4のヌクレオチド配列(配列番号18)
【
図25】プライマー5のヌクレオチド配列(配列番号19)
【
図26】プライマー6のヌクレオチド配列(配列番号20)
【
図27】プライマー7のヌクレオチド配列(配列番号21)
【
図28】プライマー8のヌクレオチド配列(配列番号22)
【
図29】プライマー9のヌクレオチド配列(配列番号23)
【
図30】プライマー10のヌクレオチド配列(配列番号24)
【
図31】プライマー11のヌクレオチド配列(配列番号25)
【
図32】プライマー12のヌクレオチド配列(配列番号26)
【
図33】プライマー13のヌクレオチド配列(配列番号27)
【
図34】プライマー14のヌクレオチド配列(配列番号28)
【
図35】プライマー15のヌクレオチド配列(配列番号29)
【
図36】プライマー16のヌクレオチド配列(配列番号30)
【
図37】プライマー17のヌクレオチド配列(配列番号31)
【
図38】プライマー18のヌクレオチド配列(配列番号32)
【
図39】プライマー19のヌクレオチド配列(配列番号33)
【
図40】ヒトIgG1のFc領域のアミノ酸配列(配列番号34)
【
図41】プライマー20のヌクレオチド配列(配列番号35)
【
図42】プライマー21のヌクレオチド配列(配列番号36)
【
図43】ヒトIgG2のFc領域のアミノ酸配列(配列番号37)
【
図44】プライマー22のヌクレオチド配列(配列番号38)
【
図45】プライマー23のヌクレオチド配列(配列番号39)
【
図46】ヒトIgG4PのFc領域のアミノ酸配列(配列番号40)
【
図47】プライマー24のヌクレオチド配列(配列番号41)
【
図48】プライマー25のヌクレオチド配列(配列番号42)
【
図49】KLK5阻害ペプチドFc融合体D0-K51028-Fc(IgG2)のアミノ酸配列(配列番号43)
【
図50】KLK5阻害ペプチドFc融合体D1-K51028-Fc(IgG2)のアミノ酸配列(配列番号44)
【0021】
【
図51】KLK5阻害ペプチドFc融合体D3-K51028-Fc(IgG2)のアミノ酸配列(配列番号45)
【
図52】KLK5阻害ペプチドFc融合体D0-K51028-Fc(IgG4P)のアミノ酸配列(配列番号46)
【
図53】KLK5阻害ペプチドFc融合体D1-K51028-Fc(IgG4P)のアミノ酸配列(配列番号47)
【
図54】KLK5阻害ペプチドFc融合体D3-K51028-Fc(IgG4P)のアミノ酸配列(配列番号48)
【
図55】ペプチド基質の分解速度を指標として、KLK5阻害ペプチドFc(IgG2,IgG4P)融合体のKLK5阻害活性(50%阻害濃度:IC
50)を示した図。KLK5阻害活性評価には終濃度20nMのKLK5及び終濃度100μMのBoc-Val-Pro-Arg-AMC(R&D Systems;ES011)を使用した。(A)D0-K51028-Fc(IgG2)を基に、Aspを1又は3個付加した場合においても、(B)D0-K51028-Fc(IgG4P)を基に、Aspを1又は3個付加した場合においても、KLK5阻害活性に変化はなかった。
【
図56】D0-K51028-Fc(IgG2)にAspを1個以上付加することで、SPINK2-Fc(IgG2)融合体の血中動態が改善したことを示した図。C57BL/6Jマウスに5mg/kgのD0-K51028-Fc(IgG2),D1-K51028-Fc(IgG2)又はD3-K51028-Fc(IgG2)を静脈内投与し、血漿中のD0-K51028-Fc(IgG2),D1-K51028-Fc(IgG2)又はD3-K51028-Fc(IgG2)濃度を投与後24時間まで測定した。濃度測定にはビオチン標識した抗SPINK2抗体、DyLight650で標識した抗SPINK2抗体6D8及びGyrolab xP Workstationを用いた。
【
図57】D0-K51028-Fc(IgG2)と同様、D0-K51028-Fc(IgG4P)においてもAsp付加によりSPINK2-Fc(IgG4P)融合体の血中動態が改善したことを示した図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.定義
本発明において、「遺伝子」とは、蛋白質に含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子又はその相補鎖を意味し、一本鎖、二本鎖又は三本鎖以上からなり、DNA鎖とRNA鎖の会合体、一本の鎖上にリボヌクレオチドとデオキシリボヌクレオチドが混在するもの及びそのような鎖を含む二本鎖又は三本鎖以上の核酸分子も「遺伝子」の意味に含まれる。
【0023】
本発明において、「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」及び「核酸分子」は同義であり、それらの構成単位であるリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、ヌクレオチド、ヌクレオシド等の個数によっては何ら限定されず、例えば、DNA、RNA、mRNA、cDNA、cRNA、プローブ、オリゴヌクレオチド、プライマー等もその範囲に含まれる。「核酸分子」は略して「核酸」と呼ばれる場合がある。
【0024】
本発明において、「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「蛋白質」は同義である。
【0025】
本発明において、標的分子Xを認識する、又は標的分子Xに結合する(以下、その認識又は結合作用をまとめて「X結合活性」という。)ペプチドを、「X結合ペプチド」と呼ぶことができる。さらに、標的分子Xを認識し、又は標的分子Xに結合し、且つ標的分子Xの有する1つ又は2つ以上の活性又は機能を阻害又は抑制する(以下、それらの阻害又は抑制作用をまとめて「X阻害活性」という。)ペプチドを、「X阻害ペプチド」と呼ぶことができる。
【0026】
本発明において、「SPINK2」は、Serine Protease Inhibitor Kazal-type 2を意味し、3つのジスルフィド結合を有するKazal様ドメインから成る7kDaの蛋白質である。好適なSPINK2はヒト由来である。本発明においては、別段記載された場合を除き、ヒトSPINK2(配列番号1:
図7)を単に「SPINK2」という。
【0027】
本発明において、ペプチドが結合する「部位」、すなわちペプチドが認識する「部位」とは、ペプチドが結合又は認識する標的分子上の連続的若しくは断続的な部分アミノ酸配列又は部分高次構造を意味する。本発明においては、かかる部位のことを標的分子上のエピトープ又は結合部位と呼ぶことができる。
【0028】
本発明において、「細胞」には、動物個体に由来する各種細胞、継代培養細胞、初代培養細胞、細胞株、組換え細胞、酵母、微生物等も含まれる。
【0029】
本発明において、「SPINK2変異体」とは、野生型SPINK2の有するアミノ酸配列において、1個又は2個以上のアミノ酸が野生型とは異なるアミノ酸で置換され、1個又は2個以上の野生型のアミノ酸が欠失し、1個又は2個以上の野生型には無いアミノ酸が挿入されて(以下、「変異」と総称する。)なるアミノ酸配列を含むペプチドを意味する。
【0030】
本発明において、「1乃至数個」における「数個」とは、3乃至10個を指す。
【0031】
本発明において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、5×SSCを含む溶液中で65℃にてハイブリダイゼーションを行い、ついで2×SSC-0.1%SDSを含む水溶液中で65℃にて20分間、0.5×SSC-0.1%SDSを含む水溶液中で65℃にて20分間、並びに、0.2×SSC-0.1%SDSを含む水溶液中で65℃にて20分間、それぞれ洗浄する条件又はそれと同等の条件でハイブリダイズすることを意味する。SSCとは150mM NaCl-15mMクエン酸ナトリウムの水溶液であり、n×SSCはn倍濃度のSSCを意味する。
【0032】
本発明において「特異的」及び「特異性」なる語は「選択的」及び「選択性」とそれぞれ同義であり、互換性がある。
【0033】
「血中動態」とは、血液循環における薬物動態、すなわち個体に投与された薬物が時間的経過に伴い、血液循環においてとる動態(吸収や分布など)と消失(代謝や排泄など)を意味し、血中薬物濃度の経時的変化(PK)又は血中曝露量(AUC)、薬物消失半減期(t1/2)、薬物最高血中濃度(Cmax)、最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)等を指標として評価される。
【0034】
「血中曝露量」とは、一定時間における血中薬物濃度を、血中濃度-時間曲線下面積に代えて表した数値を意味する。
【0035】
「血中動態の改善」とは、血中薬物濃度の経時的減少の抑制、PKの延長、AUCの増加、t1/2の延長、Cmaxの上昇、及び/又は、tmaxの短縮を意味する。
【0036】
2.ペプチド
2-1.アミノ酸
「アミノ酸」は、アミノ基及びカルボキシル基を含む有機化合物であり、好適には蛋白質に、より好適には天然の蛋白質に、構成単位として含まれるα-アミノ酸を意味する。本発明において、より好適なアミノ酸は、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr及びValであり、特に明記しない限り「アミノ酸」はこれらの計20アミノ酸を意味する。それらの計20アミノ酸を「天然アミノ酸」と呼ぶことができる。
【0037】
本発明においては「アミノ酸残基」は「アミノ酸」と略記される場合がある。
【0038】
また、本発明において、アミノ酸は、L-アミノ酸、D-アミノ酸、又はその混合物(DL-アミノ酸)であるが、特に明記しない限りL-アミノ酸を意味する。
【0039】
天然アミノ酸は、その共通する側鎖の性質に基づいて、例えば、次のグループに分けることができる。
(1)疎水性アミノ酸グループ:Met、Ala、Val、Leu、Ile
(2)中性親水性アミノ酸グループ:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln
(3)酸性アミノ酸グループ:Asp、Glu
(4)塩基性アミノ酸グループ:His、Lys、Arg
(5)主鎖の方角に影響を与えるアミノ酸のグループ:Gly、Pro
(6)芳香族アミノ酸グループ:Trp、Tyr、Phe
ただし、天然アミノ酸の分類はこれらに限定されるものではない。
【0040】
本発明においては、天然アミノ酸は保存的アミノ酸置換を受け得る。
【0041】
「保存的アミノ酸置換(conservative amino acid substitution)」とは、機能的に等価又は類似のアミノ酸との置換を意味する。ペプチドにおける保存的アミノ酸置換は、該ペプチドのアミノ酸配列に静的変化をもたらす。例えば、同様の極性を有する一つ又は二つ以上のアミノ酸は機能的に等価に作用し、かかるペプチドのアミノ酸配列に静的変化をもたらす。一般に、あるグループ内の置換は構造及び機能について保存的であると考えることができる。しかしながら、当業者には自明であるように、特定のアミノ酸残基が果たす役割は当該アミノ酸を含む分子の三次元構造における意味合いにおいて決定され得る。例えば、システイン残基は、還元型の(チオール)フォームと比較してより極性の低い、酸化型の(ジスルフィド)フォームをとることができる。アルギニン側鎖の長い脂肪族の部分は構造的及び機能的に重要な特徴を構成し得る。また、芳香環を含む側鎖(トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン)はイオン-芳香族相互作用又は陽イオン-パイ相互作用に寄与し得る。かかる場合において、これらの側鎖を有するアミノ酸を、酸性又は非極性グループに属するアミノ酸と置換しても、構造的及び機能的には保存的であり得る。プロリン、グリシン、システイン(ジスルフィド・フォーム)等の残基は主鎖の立体構造に直接的な効果を与える可能性があり、しばしば構造的ゆがみなしに置換することはできない。
【0042】
保存的アミノ酸置換は、以下に示すとおり、側鎖の類似性に基づく特異的置換(レーニンジャ、生化学、改訂第2版、1975年刊行、73乃至75頁:L. Lehninger, Biochemistry, 2nd edition, pp73-75, Worth Publisher, New York (1975))及び典型的置換を含む。
(1)非極性アミノ酸グループ:アラニン(以下、「Ala」又は単に「A」と記す)、バリン(以下、「Val」又は単に「V」と記す)、ロイシン(以下、「Leu」又は単に「L」と記す)、イソロイシン(以下、「Ile」又は単に「I」と記す)、プロリン(以下、「Pro」又は単に「P」と記す)、フェニルアラニン(「Phe」又は単に「F」と記す)、トリプトファン(以下、「Trp」又は単に「W」と記す)、メチオニン(以下、「Met」又は単に「M」と記す)
(2)非荷電極性アミノ酸グループ:グリシン(以下、「Gly」又は単に「G」と記す)、セリン(以下、「Ser」又は単に「S」と記す)、スレオニン(以下、「Thr」又は単に「T」と記す)、システイン(以下、「Cys」又は単に「C」と記す)、チロシン(以下、「Tyr」又は単に「Y」と記す)、アスパラギン(以下、「Asn」又は単に「N」と記す)、グルタミン(以下、「Gln」又は単に「Q」と記す)
(3)酸性アミノ酸グループ:アスパラギン酸(以下、「Asp」又は単に「D」と記す)、グルタミン酸(以下、「Glu」又は単に「E」と記す)
(4)塩基性アミノ酸グループ:リジン(以下、「Lys」又は単に「K」と記す)、アルギニン(以下、「Arg」又は単に「R」と記す)、ヒスチジン(以下、「His」又は単に「H」と記す)
本発明において、アミノ酸は、天然アミノ酸以外のアミノ酸であってもよい。例えば、天然のペプチドや蛋白質において見出されるセレノシステイン、N-ホルミルメチオニン、ピロリジン、ピログルタミン酸、シスチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、チロキシン、O-ホスホセリン、デスモシン、β-アラニン、サルコシン、オルニチン、クレアチン、γアミノ酪酸、オパイン、テアニン、トリコロミン酸、カイニン酸、ドウモイ酸、アクロメリン酸等を挙げることができ、ノルロイシン、Ac-アミノ酸、Boc-アミノ酸、Fmoc-アミノ酸、Trt-アミノ酸、Z-アミノ酸等のN末端保護アミノ酸、アミノ酸t-ブチルエステル、ベンジルエステル、シクロヘキシルエステル、フルオレニルエステル等のC末端保護アミノ酸、ジアミン、ωアミノ酸、βアミノ酸、γアミノ酸、アミノ酸のTic誘導体、アミノフォスフォン酸を含むその他の天然界には見出されないアミノ酸等を挙げることができるが、それらに限らず上記20の「天然アミノ酸」以外のアミノ酸を、本発明では便宜的に「非天然アミノ酸」と総称する。
【0043】
2-2.ペプチド
本発明において、ペプチドは、任意のペプチドの野生型、変異型、改変型、人工的に設計されたペプチド等であれば特に限定されないが、好適には、標的分子に結合する、標的分子の活性を賦活化、促進、抑制する若しくは阻害する、及び/又は、標的分子に拮抗若しくは作動するペプチドである。より好適なペプチドは、SPINK2変異体である。
【0044】
本発明において「標的分子」とは、本発明のペプチドが結合する、ヒト若しくは非ヒト動物の個体に内在する物質又は生体内に取り込まれ得る外因性の物質を意味する。ペプチドがSPINK2変異体の場合、本発明の標的分子は、好適にはSPINK2の内在性の標的であるトリプシン及び/又はアクロシン以外の、より好適にはトリプシン以外の分子であり、より一層好適にはヒト由来のトリプシン以外のヒト由来の分子である。さらにより一層好適には、かかるヒト個体が罹患し得る疾患の発症若しくは増悪に直接又は間接的に関与し得るか、又は、かかる疾患と相関若しくは逆相関を示す、内在するかあるいは外因性の酵素、受容体、該受容体のリガンド、サイトカイン等の液性因子、その他の生体高分子、シグナル伝達物質、細胞、病原体、毒素、又は、それらのいずれか一つ若しくはそれ以上に由来する物質、例えば、その断片、分解物、代謝産物、加工物等である(以下、「疾患関連標的分子」という。)。また、本発明のある態様において、好適な標的分子はトリプシン及び/又はアクロシン以外の、より好適にはトリプシン以外のプロテアーゼである。かかるプロテアーゼは、好ましくは疾患関連標的分子である。
【0045】
標的分子に結合する、及び/又は、標的分子の活性を賦活化、促進若しくは抑制する、及び/又は、標的分子に拮抗又は作動するペプチドは、ペプチド・ライブラリーから、標的分子に結合する活性、標的分子を賦活、促進、抑制若しくは阻害する活性、及び/又は、標的分子に拮抗若しくは作動する活性(以下まとめて「標的分子に対する活性」という。)を指標として、当業者に周知のスクリーニングを実施することにより、同定又は濃縮することができる(WO2014/024914A1、WO2018/117244A1)。同定又は濃縮されたペプチドのアミノ酸配列は、公知のシーケンスにより決定することができる。アミノ酸配列が判明したペプチドは、組換え、化学合成又はイン・ビトロ翻訳により、調製することができる。
【0046】
疾患関連標的分子としては、例えば、キモトリプシン、カリクレイン、EGFR、HER2、KLK1、KLK4、KLK5、KLK8、HTRA1、MMP-9等を挙げることができるが、それらに限定されるものではない。
【0047】
疾患関連標的分子に対する活性を有するSPINK2変異体ペプチドとしては、例えば、キモトリプシン結合ペプチド(WO2014/024914A1)、カリクレイン結合ペプチド、EGFR結合ペプチド及びHER2結合ペプチド(以上、WO2014/024914A1)、ヒトKLK5の有するプロテアーゼ活性を阻害するペプチド(以下「KLK5阻害ペプチド」という。)であるK50055(配列番号4:
図10)及びK51028(配列番号5:
図11)、HTRA1阻害ペプチド(WO2018/117244A1)、MMP-9結合ペプチド(WO2019/017338A1)、並びに、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド及び/又はKLK8阻害ペプチド(WO2019/049933A1)等を挙げることができるが、それらに限定されない。
【0048】
KLK5は、N末プロペプチドとプロテアーゼ活性ドメインからなり、3箇所のN型糖鎖が付加したトリプシン様のプロテアーゼ活性を示す蛋白質であり、好適にはヒトKLK5(配列番号3:
図9)である。KLK5阻害剤は、ネザートン症候群、アトピー性皮膚炎、酒さ、紫外線による皮膚傷害、乾癬、喘息、脊髄損傷、がん、Barrett食道等の治療及び/又は予防に有用である。なお、K51028は、ヒトKLK7の有するプロテアーゼ活性をも阻害する(データ示さず)。
【0049】
疾患関連標的分子に対する活性を有するSPINK2変異体は、医薬及び診断薬として当該分野で使用される抗体等の他の生体高分子と比較して分子量が小さく、その製造が比較的容易であり、保存安定性や熱安定性等の物性の面で優れており、医薬組成物として使用される場合の投与経路、投与方法、製剤等の選択の幅が広い等の長所を有する。SPINK2変異体ペプチドの分子量は、10,000未満、好適には8,000未満、より好適には約7,000~7,200である。また、配列番号2(
図8)の15番Cys~31番Cysからなる可変ループ部分又は15番Cys~63番Cysからなるペプチド断片(以下「6つのCysを含む部分」という。)も本発明のペプチドの範囲に含まれ、可変ループ部分の分子量は2,500未満、好適には約1,800~2,000であり、6つのCysを含む部分の分子量は6,000未満、好適には約5,300~5,500である。また、生体高分子やポリマーの付加等、公知の方法を適用して本発明のペプチドの分子量を大きくすることにより、医薬組成物として使用された場合の血中半減期をより長く調節することもできる。
【0050】
本発明において、「変異した」とは、天然に存在する核酸分子又はペプチドと比較のヌクレオチド配列又はアミノ酸配列において、1つ又は2つ以上のヌクレオチド若しくはヌクレオチド残基又はアミノ酸若しくはアミノ酸残基の置換、欠失又は挿入がなされていることを意味する。本発明のSPINK2変異体のアミノ酸配列は、ヒトSPINK2のアミノ酸配列と比較して、1つ又は2つ以上のアミノ酸又はアミノ酸残基が変異されている。
【0051】
本発明のある態様において、SPINK2変異体のアミノ酸配列は、ヒトSPINK2のアミノ酸配列(配列番号1:
図7)の:
16番Ser~22番Glyのうち1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ又は7つのアミノ酸が他のアミノ酸又はアミノ酸残基に置換されており;
24番Pro~28番Asnのうち1つ、2つ、3つ、4つ又は5つのアミノ酸が他のアミノ酸又はアミノ酸残基に置換されており;
15番Cys、23番Cys、31番Cys、42番Cys、45番Cys及び63番Cysは、天然型のジスルフィド結合を維持するためには野生型と同じくCysであることが好ましく、天然型のジスルフィド結合を消失させたり、非天然型のジスルフィド結合を生じさせたりするためには、それらのうち1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つを他のアミノ酸に置換してもよい。SPINK2変異体においては、天然型と同じ当該6箇所にCysが維持され、ジスルフィド結合が保持されている。かかるペプチドのうちより好適な一部の態様においては、15番Cys-45番Cys、23番Cys-42番Cys、及び、31番Cys-63番Cysが、それぞれジスルフィド結合を形成しており、野生型SPINK2のアミノ酸配列に含まれる16番Ser乃至30番Valからなるループ構造、31番Cys及び32番Glyからなるβストランド(1)並びに57番Ile乃至59番Argからなるβストランド(2)から構成されるβシート、41番Glu乃至51番Glyからなるαへリックス、又は、それらに類似しているか若しくはそれら(の位置)に少なくとも部分的に対応するループ構造、βシート、αへリックス等から構成される立体構造が、標的分子に対する活性を発揮し得る程度に、維持されていることが好ましい。
【0052】
3.ペプチドへの変更又は変異の導入
本発明のペプチド(又はコンジュゲート:後述)の有するアミノ酸配列において、1つ又は2つ以上(例えば、1乃至数個)のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入してなるペプチド(又はコンジュゲート)の変異体、及び、元のペプチド(又はコンジュゲート)の有するアミノ酸配列を80%、85%、90%、95%、98%又は99%以上同一であるアミノ酸配列を有するペプチド(又はコンジュゲート)の変異体も、本発明のペプチド(又はコンジュゲート)の範囲に含まれ、好適なペプチド(又はコンジュゲート)変異体は、元のペプチド(又はコンジュゲート)が有する標的分子に対する活性の一部又は全部を保持している。
【0053】
本発明のペプチドのアミノ末端及び/又はカルボキシル末端において、1つ又は2つ以上(例えば、1乃至数個)のアミノ酸が置換、付加及び/又は欠失されてなり、且つ、元のペプチドの有する標的分子に対する活性の一部又は全部を保持しているペプチドも、本発明のペプチドの範囲に含まれる。
【0054】
本発明のSPINK2変異体の有するアミノ酸配列においては、配列番号2(
図8)のX
1乃至X
12以外の部分、すなわち、野生型ヒトSPINK2のアミノ酸配列(配列番号1:
図7)中の、2番Pro~15番Cys、23番Cys及び29番Pro~63番Cysの位置において、天然型のアミノ酸若しくは変異したアミノ酸又はアミノ酸配列を含むことができる。例えば、SPINK2変異体は、標的分子に対する活性又はフォールディングを少なくとも部分的に妨げないか又は干渉をしない限りにおいて、1つ又は2つ以上(例えば、1乃至数個)の位置において変異してよい。そのような変異は、当業者に公知の標準的な方法を使用することによりなし得る。アミノ酸配列中の典型的な変異としては、1つ又は2つ以上(例えば、1乃至数個)のアミノ酸の置換、欠失又は挿入を挙げることができ、置換としては、保存的置換を例示することができる。保存的置換により、あるアミノ酸残基は、嵩高さのみならず、極性の面についても化学的特徴が類似しているアミノ酸残基により置換される。保存的置換の例は、本明細書の他の部分に記載されている。一方で、X
1乃至X
12以外の部分は、標的分子に対する活性又はフォールディングを少なくとも部分的に妨げないか又は干渉をしない限りにおいて、1つ又は2つ以上(例えば、1乃至数個)のアミノ酸の非保存的置換も許容し得る。
【0055】
従って、本発明の血中動態改善方法が適用され得るペプチド又はコンジュゲート(後述)中に含まれるペプチドが有するアミノ酸配列は:(a1)配列番号2(
図8)からなるアミノ酸配列からなるアミノ酸配列;(a2)配列番号2(
図8)からなるアミノ酸配列において1乃至20、1乃至15、1乃至10、1乃至8、1乃至6、1乃至5、1乃至4、1乃至3、1若しくは2、又は1個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入してなり且つ(a1)記載のアミノ酸配列を含むペプチドの有する標的分子に対する活性の一部又は全部を保持したペプチドに含まれるアミノ酸配列;(a3)配列番号2(
図8)からなるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし且つ(a1)記載のアミノ酸配列を含むペプチドの有する標的分子に対する活性の一部又は全部を保持したペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列:及び、(a4)配列番号2(
図8)からなるアミノ酸配列と60%、70%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%又は99%以上同一であり且つ(a1)記載のアミノ酸配列を含むペプチドの有する標的分子に対する活性の一部又は全部を保持したペプチドに含まれるアミノ酸配列:のいずれでもよく、それらに限定されるものではない。
【0056】
ペプチドに、そのフォールディング安定性、熱安定性、保存安定性、水溶性、生物活性、薬理活性、副次的作用等を改善する目的で、変異を導入することができる。例えば、ポリエチレングルコール(PEG)、ヒドロキシエチルデンプン(HES)、ビオチン等にコンジュゲートさせるため、Cysのような新たな反応性基を変異により導入することができる。
【0057】
4.ペプチドを含有するコンジュゲート
本発明において、ペプチドには、他の部分が融合、連結又は付加等していてもよく、そのような融合、連結又は付加等したフォームを「ペプチドのコンジュゲート」と呼ぶ。本発明において「コンジュゲート」とは、ペプチド又はその断片に他の部分が結合してなる分子を意味する。「コンジュゲート」又は「コンジュゲーション」には、ある部分が架橋剤等の化学物質を介して、ある部分をアミノ酸の側鎖に連結するのに適した作用物質等を介して、ペプチドのN末及び/又はC末に合成化学的手法や遺伝子工学的手法等により、ペプチドに連結又は結合される形態が含まれる。そのような「部分」には、血中半減期を改善するものとして、ポリエチレングリコール(PEG)等のポリアルキレングリコール分子、ヒドロキシエチルデンプン、パルミチン酸等の脂肪酸分子、免疫グロブリンのFc領域、免疫グロブリンのCH3ドメイン、免疫グロブリンのCH4ドメイン、アルブミン又はその断片、アルブミン結合ペプチド、連鎖球菌プロテインG等のアルブミン結合蛋白質、トランスフェリンを、例示することができる。その他の「部分」としては、かかる「部分」はペプチドリンカー等のリンカーを介して本発明のペプチドが連結され得る。
【0058】
本発明のある態様において、コンジュゲートは、SPINK2変異体ペプチドと、抗体のFc領域又はその断片との融合体である。抗体の起源は、ヒト、及び、非ヒト動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ等のげっ歯類、ウシ、ブタ、イヌ、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル等その他の哺乳類、ニワトリ等の鳥類を上げることができ、好適にはヒトである。抗体としては、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD及びIgEを例示することができ、好適にはIgG1である。より好適には、コンジュゲートは、本発明のペプチドと、ヒトIgG1のFc領域又はその断片との融合体である。本発明のペプチドと抗体のFc領域又はその断片の融合体を「Fc融合体」又は「Fcコンジュゲート」と記載することがあるが、いずれも同義である。
【0059】
ヒトIgG1のFc領域としては、例えば、配列番号34(
図40)で示されるアミノ酸配列を含むか該配列からなるもの又はその断片を挙げることができるが、それらに限定されない。抗体のFc領域又はその断片は、野生型、変異型のいずれであってもよい。
【0060】
抗体のFc領域のアミノ酸残基の一部を置換することによって、エフェクター機能を調整することが可能である(WO88/007089、W094/28027、W094/29351参照)。エフェクター機能を減弱させたIgG1の変異体としては、IgG1 LALA(IgG1-L234A、L235A)、IgG1 LAGA(IgG1-L235A,G237A)等が挙げられる。ヒトIgG2は、5種存在するヒトIgGサブクラスのなかで、補体結合を介したCDC活性、抗体依存的な細胞障害活性といったエフェクター機能が非常に弱い(Bruggemann et al.,J.Exp.Med.,1351-1361,1987)。ヒトIgG4は、5種存在するヒトIgGサブクラスのなかで、補体結合を介したCDC活性、抗体依存的な細胞障害活性といったエフェクター機能が非常に弱い(Bruggemann et al.,J.Exp.Med.,1351-1361,1987)。IgG4を用いる場合は、定常領域のアミノ酸残基の一部を置換することによって、IgG4特有の分割が抑制され、半減期を延長することが可能である(Mol.Immunol.,30,105-108,1993)。IgG4の変異体としては、IgG4P(IgG4-S241P)又はIgG4P FALA(IgG4-S241P,F234A,L235A)等が挙げられる。ヒトIgG4Pとは、H鎖同士の結合によるH2L2テトラマー形成に関与するヒトIgG4の241番目セリン残基をヒトIgG1、ヒトIgG2と同様の配列になる様、プロリンに置換することで、H2L2テトラマー形成を抑制し、血中の安定性が高まった変異体を示している(Angal et al.,Mol.Immunol.,30,105-108,1993)。IgG4P FALAは、CH2ドメインに存在するFcγRIIIとの相互作用に必要なアミノ酸残基2つをアラニンに置換することで、更にエフェクター機能を減弱させている(Parekh et al.,MAbs,310-318,2012)。それらの、人工的に改変されたFc領域のみならず、天然に見出されるFc領域配列の多型も、「変異型」の範囲に含まれる。
【0061】
コンジュゲートは、SPINK2変異体ペプチド以外のペプチドと、抗体のFc領域又はその断片との融合体であってもよく、ヒト腫瘍壊死因子II型受容体(Tumor Necrosis Factor Receptor:TNFR)の細胞外ドメイン蛋白質とFcとのコンジュゲート(エタネルセプト)やヒト細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(Cytotoxic T Lymphocyte-associated Antigen 4:CTLA4)の細胞外ドメイン蛋白質とFcとのコンジュゲート(アバタセプト)、ヒト血管内皮増殖因子受容体(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor:VEGFR)の細胞外ドメイン蛋白質とFcとのコンジュゲート(アフリベルセプト)、ヒト血液凝固第VIII因子とFcとのコンジュゲート(エフラロクトコグ アルファ)、ヒト血液凝固第IX因子とFcとのコンジュゲート(エフトレノナコグ アルファ)、ヒトトロンボポエチン受容体結合ペプチドとFcとのコンジュゲート(ロミプロスチム)、ヒトグルカゴン様ペプチド-1(Glucagon-Like Peptide:GLP-1)アナログとFcとのコンジュゲート(デュラグルチド)などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0062】
ある態様において、コンジュゲートに含まれるペプチドには、Atrial Natriuretic Peptide(ANP)、Leptin、Interleukin-2(IL-2)、IL-22、Secretin、Beta-endorphin、GLP-1、Fibroblast Growth Factor-2(FGF-2)等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0063】
ある態様において、コンジュゲートに含まれるペプチドは抗体の抗原結合断片であってもよい。本発明において「抗体の抗原結合断片」とは、抗原を認識する機能を保持した抗体の部分断片を意味し、「抗体の機能性断片」と同義である。抗体の抗原結合断片としては、例えば、Fab、F(ab’)2、scFv、Fab’、一本鎖免疫グロブリン等を挙げることができるが、それらに限定されない。かかる抗体の機能性断片は、抗体の全長分子をパパイン、ペプシン等の酵素で処理することによって得られたものに加え、組換え遺伝子を用いて適当な宿主細胞において産生された組換え蛋白質であってもよい。
【0064】
SPINK2変異体等のペプチドのFcコンジュゲートにおいては、該ペプチドがFc領域又はその断片のアミノ末端側に位置しても、Fc領域が該ペプチドのアミノ末端側に位置しても、いずれでもよいが、好適には前者である。また、該ペプチドとFc領域又はその断片が、直接融合していても、リンカー等を介して間接的に融合していても、いずれでもよい。リンカーは、ペプチド及び/又は非ペプチドである。また、SPINK2変異体等のペプチドのFcコンジュゲートは、該ペプチド、Fc領域又はその断片、及び任意で両者の間の介在部分(リンカー等)に加え、他のペプチド又は非ペプチドを含んでよい。
【0065】
ペプチドには、薬理活性を発揮するか又は増強するために、他の薬物がコンジュゲーションされていてもよい。抗体分野において抗体-薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)として当業者に公知の技術や態様は、抗体を本発明のペプチドに置き換えることにより、本発明の一部の態様となり得る。
【0066】
さらに、ペプチドは、他の標的分子に対する活性を発揮する1つ又は2つ以上の部分をさらに含むか、そのような部分にコンジュゲートされていてもよい。かかる「部分」としては、抗体又はその断片、SPINK2変異体のような抗体以外の骨格を有する蛋白質又はその断片を例示することができる。抗体分野において多重特異的抗体及び二重特異的抗体(multispecific antibody、bispecific antibody)として当業者に公知の技術や態様は、それらに含まれる2つ以上の「抗体」のうち少なくとも1つを本発明のペプチドに置き換えることにより、本発明のコンジュゲートの一部の態様となる。
【0067】
また、ペプチド又はその前駆体は、シグナル配列を含み得る。あるペプチド若しくはその前駆体のN末に存在するか又は付加されたシグナル配列は、当該ペプチドを細胞の特定の区画、例えば、大腸菌であれば周辺質、真核細胞であれば小胞体に送達するために有用であり、多くのシグナル配列が当業者に公知であり、宿主細胞に応じて選択され得る。大腸菌の周辺質中に所望のペプチドを分泌させるためのシグナル配列としては、OmpAを例示することができる、シグナル配列を含む形態も、本発明のコンジュゲートの範囲に含まれる。
【0068】
さらに、ペプチドに予めタグを付加させることにより、アフィニティー・クロマトグラフィーによって該ペプチドを精製することができることができる。例えば、そのC末に、ビオチン、Strepタグ(登録商標)、StrepタグII(登録商標)、His6等のオリゴヒスチジン、ポリヒスチジン、免疫グロブリンドメイン、マルトース結合蛋白質、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)、ジゴキシゲニンやジニトロフェノール等のハプテン、FLAG(登録商標)等のエピトープタグ、mycタグ、HAタグ等(以下まとめて「アフィニティー・タグ」と呼ぶ。)を含むことができる。タグ付加体も、本発明のコンジュゲートに、その一部の態様として含まれ得る。本発明のコンジュゲートは、全体としてペプチド(ポリペプチド)であってもよい。
【0069】
また、ペプチドは、標識のための部分を含むことができ、具体的には、酵素標識、放射性標識、着色標識、蛍光標識、発色標識、発光標識、ハプテン、ジゴキシゲニン、ビオチン、金属複合体、金属、コロイド金等の標識部分がコンジュゲートされ得る。標識のための部分を含む態様も、本発明のコンジュゲートの範囲に含まれる。
【0070】
さらに、ペプチド(のアミノ酸配列)には、天然アミノ酸及び非天然アミノ酸のいずれをも含むことができ、天然アミノ酸としてはL-アミノ酸及びD-アミノ酸のいずれをも含むことができる。
【0071】
また、ペプチドは、単量体、2量体、3量体以上のオリゴマー又は多量体として存在し得る。2量体、3量体以上のオリゴマー及び多量体は、単一の単量体から構成されるホモ、及び、2つ以上の異なる単量体から構成されるヘテロ、のいずれでもよい。単量体は、例えば、速やかに拡散し組織への浸透に優れている場合がある。2量体、オリゴマー及び多量体は、例えば、局所において標的分子に対する活性において優れる、遅い解離速度を有する等、有利な面を有し得る。自発的な2量体化、オリゴマー化及び多量体化に加え、意図した2量体化、オリゴマー化及び多量体化も、jun-fosドメイン、ロイシンジッパー等を本発明のペプチドに導入することにより、なし得る。
【0072】
さらに、ペプチドは、単量体、2量体、3量体以上のオリゴマー又は多量体で、1つ又は2つ以上の標的分子に対する活性を発揮することができる。
【0073】
また、ペプチドがとり得る形態としては、単離された形態(凍結乾燥標品、溶液等)、上述のコンジュゲート体、他の分子に結合した形態(固相化された形態、異分子との会合体、標的分子と結合した形態等)等を挙げることができるが、それらに限定されるものではなく、発現、精製、使用、保存等に適合した形態を任意に選択することができる。
【0074】
血中動態が改善された、本発明のコンジュゲートに含まれるSPINK2変異体が有するアミノ酸配列としては、前述の(a1)、(a2)、(a3)、(a4)等を挙げることができる。また、血中動態が改善された、本発明のSPINK2変異体Fcコンジュゲートのアミノ酸配列うち、アミノ末端に付加された1つ又は2つ以上、好適には1乃至数個のアミノ酸を除いたアミノ酸配列としては、SPINK2変異体のアミノ酸配列として前述の(a1)、(a2)、(a3)又は(a4)、及び、抗体のFc領域のアミノ酸配列として前述の各種IgのFc領域又はその断片のアミノ酸配列を含んでいれば、特に限定されるものではないが、例えば、次のようなアミノ酸配列を例示することができる:(b1)配列番号2(
図8)からなるアミノ酸配列及びヒトIgG1のFc領域のアミノ酸配列(例えば、配列番号34、
図40)を含んでなるアミノ酸配列;(b2)前記(b1)記載のアミノ酸配列において1乃至20、1乃至15、1乃至10、1乃至8、1乃至6、1乃至5、1乃至4、1乃至3、1若しくは2、又は1個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入してなり且つ(b1)記載のアミノ酸配列を含むコンジュゲートの有する標的分子に対する活性の一部又は全部を保持したペプチド又はコンジュゲートに含まれるアミノ酸配列;(b3)前記(b1)記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし且つ(b1)記載のアミノ酸配列を含むコンジュゲートの有する標的分子に対する活性の一部又は全部を保持したペプチド又はコンジュゲートに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列;及び、(b4)前記(b1)記載のアミノ酸配列と60%、70%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%又は99%以上同一であり且つ(b1)記載のアミノ酸配列を含むコンジュゲートの有する標的分子に対する活性の一部又は全部を保持したペプチド又はコンジュゲートに含まれるアミノ酸配列:を挙げることができる。
【0075】
5.ペプチド又はコンジュゲートの血中動態改善
本発明は、ペプチド又はペプチド含有コンジュゲートの血中動態改善方法を提供する。本発明のペプチド(コンジュゲートに含まれるものを含み、好適には疾患関連標的分子に対する活性を有する。)の有するアミノ酸配列の1番アミノ酸(アミノ末端のアミノ酸に同じ。)のさらにアミノ末端側に、1つ又は2つ以上、好適には1乃至数個のアミノ酸(天然アミノ酸以外のアミノ酸であってもよい。)が付加していてもよい。そのようなアミノ酸の付加としては、好適には酸性アミノ酸、より好適にはAsp及び/又はGluが1乃至数個付加したもの(AspとGluの両方を含んでいてもよい)、より一層好適にはAspが1乃至数個付加したもの又はGluが1乃至数個付加したものを挙げることができる。付加されるAsp及び/又はGlu等のアミノ酸の個数は、好適には1乃至5個、又は1乃至4個、より好適には1乃至3個、より一層好適には2又は3個、最適には3個である。
【0076】
かかるアミノ末端へのアミノ酸付加により、ペプチド又はコンジュゲートの血中動態は改善され得る。血中動態の改善は、個体に投与されたペプチド又はコンジュゲートが時間的経過に伴い、血液循環においてとる動態(吸収や分布など)と消失(代謝や排泄など)が改善されたことを示す指標の改善であれば特に限定されないが、好適には、血中薬物濃度の経時的減少の抑制(「PKの延長」ともいう。)、血中曝露量(AUC)の増大、薬物消失半減期(t1/2)の延長、薬物最高血中濃度(Cmax)の上昇、及び/又は、最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)の短縮により判定することができ、より好適には血中薬物濃度の経時的減少の抑制(PKの延長)又は血中曝露量(AUC)の増加である。SPINK2変異体等のペプチドに抗体のFc領域又はその断片が融合してなるコンジュゲート(好適には、該ペプチドのカルボキシル末端側にFc領域が位置する。)のアミノ末端に、1つ又は2つ以上、1乃至数個、1乃至5個、又は1乃至4個、より好適には1乃至3個、より一層好適には2又は3個、最適には3個のアミノ酸が付加していてもよく、好適なアミノ酸としてはAsp及び/又はGlu、より好適にはAsp又はGluであり、より一層好適にはAsp又はGlu3個であり、最適にはAsp3個である。そのようなアミノ酸が付加した形態は、本発明のコンジュゲートの範囲に含まれる。
【0077】
1つ又は2つ以上、好適には1乃至数個のアミノ酸、好適にはAsp及び/又はGluがペプチド又はコンジュゲート(好適にはFc融合体)のアミノ末端に付加していれば、局所的に負電荷が帯電するものの、ペプチド又はコンジュゲートの等電点(pI)には大きな影響は与えることなく、投与後初期におけるペプチド又はコンジュゲートの血中濃度低下を抑制し、元のペプチド又はコンジュゲートと比較して血中濃度をより長時間、高濃度に保つことができる。負電荷アミノ酸の付加が、ペプチド又はコンジュゲートのpIに大きな影響を与えないことにより、血中動態に限らず、生物学的又は薬理学的活性や物理化学的性質等への影響を最小化することができる。
【0078】
本発明は、血中動態が改善されたペプチド及びコンジュゲートをも提供する。Aspが1個付加しているコンジュゲートの例(D1-K51028-Fc、配列番号7、
図13:D1-K50055-Fc、配列番号14、
図20:D1-K51028-Fc(IgG2)、配列番号44、
図50:D1-K51028-Fc(IgG4P)、配列番号47、
図53)、Aspが2個付加しているコンジュゲートの例(D2-K51028-Fc、配列番号8、
図14)、Aspが3個付加しているコンジュゲートの例(D3-K51028-Fc、配列番号9、
図15:D3-K51028-Fc(IgG2)、配列番号45、
図51:D3-K51028-Fc(IgG4P)、配列番号48、
図54)、Aspが4個付加しているコンジュゲートの例(D4-K51028-Fc、配列番号10、
図16)、Aspが5個付加しているコンジュゲートの例(D5-K51028-Fc、配列番号11、
図17)、Gluが1個付加しているコンジュゲートの例(E1-K51028-Fc、配列番号13、
図19)を、それぞれ挙げることができるが、血中動態が改善されたコンジュゲートはそれらに限定されるものではなく、任意の標的分子に対する活性を有するペプチド(好適には該ペプチドのFc融合体)に、上記の血中動態改善方法を適用することにより、所望の薬理活性を有するペプチドの血中動態を改善することができ、血中動態が改善されたペプチド又はコンジュゲートを得ることができる。
【0079】
6.ペプチド又はコンジュゲートの調製
本発明は、ペプチド又は該ペプチドを含むコンジュゲートに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド(以下、「コード遺伝子」という。)、コード遺伝子が挿入された組換えベクター、該遺伝子若しくはベクターが導入された細胞(以下、「コード遺伝子含有細胞」)、ペプチド又はコンジュゲートを産生する細胞(以下単に「産生細胞」)、コード遺伝子含有細胞又は産生細胞を培養する工程を含む、ペプチド又はコンジュゲートの製造方法をも提供する。
【0080】
アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を設計するには、各アミノ酸に対応するコドンを1種又は2種以上使用することができる。そのため、あるペプチドが有する単一のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、複数のバリエーションを有し得る。かかるコドンの選択に際しては、該ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド又はそれを含むベクターが導入される、発現用の宿主細胞のコドン使用(codon usage)に応じて適宜コドンを選択したり、複数のコドンの使用の頻度若しくは割合を適宜調節したりすることができる。例えば、大腸菌を宿主細胞として用いる場合は、大腸菌において使用頻度が高いコドンを使用してヌクレオチド配列を設計してもよい。
【0081】
コード遺伝子は、1つ又は2つ以上の調節配列に機能的に連結されていてもよい。「機能的に連結される」とは、連結されたコード遺伝子を発現させることができる、又は、コード遺伝子に含まれるヌクレオチド配列の発現を可能にする、ことを意味する。調節配列は、転写調節及び/又は翻訳調節に関する情報を含む配列エレメントを含む。調節配列は、種により様々であるが、一般に、プロモーターを含み、原核生物の-35/-10ボックス及びシャイン・ダルガノ配列、真核生物のTATAボックス、CAAT配列、及び5’キャッピング配列等で例示される、転写及び翻訳の開始に関与する5’非コード配列を含む。かかる配列は、エンハンサーエレメント及び/又はリプレッサーエレメント、並びに宿主細胞内外の特定の区画へと天然型又は成熟型のペプチドを送達するための、翻訳され得るシグナル配列、リーダー配列等を含んでもよい。さらに、調節配列は3’非コード配列を含んでよく、かかる配列には、転写終結又はポリアデニル化等に関与するエレメントを含み得る。ただし、転写終結に関する配列が、特定の宿主細胞において充分に機能しない場合は、当該細胞に適した配列で置換され得る。
【0082】
プロモーター配列としては、原核生物ではtetプロモーター、lacUV5プロモーター、T7プロモーター等を、真核細胞ではSV40プロモーター、CMVプロモーター等を例示することができる。
【0083】
コード遺伝子は、単離された形態、ベクター若しくは他のクローニングビヒクル(以下、単に「ベクター」という:プラスミド、ファージミド、ファージ、バキュロウイルス、コスミド等。)中又は染色体中に含まれる形態であってよいが、それらの形態に限定されない。ベクターは、上記調節配列に加え、発現に使用される宿主細胞に適した複製配列及び制御配列、並びに形質転換等により核酸分子が導入された細胞を選択可能な表現型を与える選択マーカーを含んでいてもよい。
【0084】
コード遺伝子、又はコード遺伝子を含むベクターは、当該遺伝子又はその翻訳産物であるペプチドを発現可能な宿主細胞に形質転換等の当業者に公知の方法により導入することができる。コード遺伝子又は該ベクターを導入された宿主細胞は、当該遺伝子又はペプチドの発現に適した条件下で培養され得る。宿主細胞は、原核及び真核のいずれでもよく、原核では大腸菌、枯草菌等、真核ではサッカロミセス・セレヴィシエ、ピキア・パストリス等の酵母、SF9、High5等の昆虫細胞、HeLa細胞、CHO細胞、COS細胞、NS0等の動物細胞を例示することができる。真核細胞等を宿主細胞として用いることにより、発現した本発明のペプチドに所望の翻訳後修飾を施すことができる。翻訳後修飾としては、糖鎖等の官能基付加、ペプチド又は蛋白質の付加、アミノ酸の化学的性質の変換等を例示することができる。また、本発明のペプチドへの所望の修飾を人工的に施すことも可能である。そのようなペプチドの修飾体も、本発明のペプチド又はコンジュゲートの範囲に包含される。
【0085】
本発明はペプチド又はコンジュゲートの製造方法をも提供する。当該方法には、コード遺伝子含有細胞若しくは産生細胞を培養する工程1、及び/又は、工程1で得られた培養物からペプチド又はコンジュゲートを回収する工程2が含まれる。工程2には、当業者に公知の分画、クロマトグラフィー、精製等の操作を適用することができ、例えば、後述する本発明の抗体を利用したアフィニティー・クロマトグラフィーによる精製が適用可能である。
【0086】
本発明のペプチド又はコンジュゲートは、メリフィールド他のペプチド固相合成法、並びに、t-ブトキシカルボニル(t-Butoxycarbonyl:Boc)や9-フルオレニルメトキシカルボニル(9-Fluorenylmethoxycarbonyl:Fmoc)等を利用した有機合成化学的ペプチド合成法により例示される化学合成、イン・ビトロ翻訳等の、他の当業者に公知の方法によっても製造することができる。
【0087】
7.医薬組成物
本発明はペプチド又はコンジュゲートを含む医薬組成物をも提供する。
【0088】
本発明の医薬組成物は、疾患関連標的分子により惹起されるか又は増悪化され、該標的分子の発現又は機能を阻害又は抑制することにより、かかる惹起又は増悪化の抑制、治癒、症状の維持若しくは改善、二次性疾患の回避等し得る各種疾患の治療及び/又は予防に有用である。医薬組成物は、好適には、疾患関連標的分子に対する活性を有する元のペプチド又はコンジュゲートの血中動態が改善されたペプチド又はコンジュゲートを含む。
【0089】
本発明の医薬組成物には、治療又は予防に有効な量の疾患関連標的分子に対する活性を有するペプチド又はコンジュゲートと薬学上許容される希釈剤、担体、可溶化剤、乳化剤、保存剤及び/又は補助剤を含有せしめることができる。
【0090】
「治療又は予防に有効な量」とは、特定の疾患、投与形態及び投与経路につき治療又は予防効果を奏する量を意味し、「薬理学的に有効な量」と同義である。
【0091】
本発明の医薬組成物には、pH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、無菌性、該組成物又はそれに含まれるペプチド、コンジュゲート等の安定性、溶解性、徐放性、吸収性、浸透性、剤型、強度、性状、形状等を変化させたり、維持したり、保持したりするための物質(以下、「製剤用の物質」という。)を含有せしめることができる。製剤用の物質としては、薬理学的に許容される物質であれば特に限定されるものではない。例えば、非毒性又は低毒性であることは、製剤用の物質が好適に具備する性質である。
【0092】
製剤用の物質として、例えば、以下のものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない;グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン等のアミノ酸類、抗菌剤、アスコルビン酸、硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウム等の抗酸化剤、リン酸、クエン酸、ホウ酸バッファー、炭酸水素ナトリウム、トリス-塩酸(Tris-HCl)溶液等の緩衝剤、マンニトールやグリシン等の充填剤、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤、カフェイン、ポリビニルピロリジン、β-シクロデキストリンやヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等の錯化剤、グルコース、マンノース又はデキストリン等の増量剤、単糖類、二糖類やグルコース、マンノースやデキストリン等の他の炭水化物、着色剤、香味剤、希釈剤、乳化剤やポリビニルピロリジン等の親水ポリマー、低分子量ポリペプチド、塩形成対イオン、塩化ベンズアルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロレキシジン、ソルビン酸又は過酸化水素等の防腐剤、グリセリン、プロピレングリコール又はポリエチレングリコール(PEG)等の溶媒、マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール、懸濁剤、ソルビタンエステル、ポリソルベート20やポリソルベート80等のポリソルベート、トリトン(triton)、トロメタミン(tromethamine)、レシチン又はコレステロール等の界面活性剤、スクロースやソルビトール等の安定化増強剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトールやソルビトール等の弾性増強剤、輸送剤、希釈剤、賦形剤、及び/又は薬学上の補助剤。ペプチド又はコンジュゲートをリポソーム中に含有せしめたもの、該ペプチド又はコンジュゲートとリポソームとが結合してなる修飾体を含有する医薬組成物も、本発明に含まれる。
【0093】
賦形剤や担体は、通常液体又は固体であり、注射用の水、生理食塩水、人工脳脊髄液、その他の、経口投与又は非経口投与用の製剤に用いられる物質であれば特に限定されない。生理食塩水としては、中性のもの、血清アルブミンを含むもの等を挙げることができる。
【0094】
緩衝剤としては、医薬組成物の最終pHが7.0乃至8.5になるように調製されたTrisバッファー、同じく4.0乃至5.5になるように調製された酢酸バッファー、同じく5.0乃至8.0になるように調製されたクエン酸バッファー、同じく5.0乃至8.0になるように調製されたヒスチジンバッファー等を例示することができる。
【0095】
本発明の医薬組成物は、固体、液体、懸濁液等である。本発明の別の医薬組成物の例として、凍結乾燥製剤を挙げることができる。凍結乾燥製剤を成型するには、スクロース等の賦形剤を用いることができる。
【0096】
本発明の医薬組成物の投与経路としては、点眼、経腸投与、局所投与及び非経口投与のいずれでもよく、例えば、結膜上への点眼、硝子体内投与、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与、経皮投与、骨内投与、関節内投与等を挙げることができる。
【0097】
かかる医薬組成物の組成は、投与方法、標的に対する活性、結合親和性等に応じて決定することができる。標的に対する活性が強いほど、少ない投与量でその薬効を発揮し得る。
【0098】
本発明のペプチド又はコンジュゲートの投与量は、薬理学的に有効な量であれば限定されず、個体の種、疾患の種類、症状、性別、年齢、持病、該ペプチドの標的に対する阻害活性、結合親和性、その他の要素に応じて適宜決定することができるが、通常、0.01乃至1000mg/kg、好適には0.1乃至100mg/kgを、1乃至180日間に1回、又は1日2回若しくは3回以上投与することができる。
【0099】
医薬組成物の形態としては、注射剤(凍結乾燥製剤、点滴剤を含む。)、坐剤、経鼻型吸収製剤、経皮型吸収製剤、舌下剤、カプセル、錠剤、軟膏剤、顆粒剤、エアーゾル剤、丸剤、散剤、懸濁剤、乳剤、点眼剤、生体埋め込み型製剤等を例示することができる。
【0100】
ペプチド、コンジュゲート、それらを含む医薬組成物は、他の医薬と同時に又は別個に投与することができる。例えば、他の医薬を投与した後にペプチド又はコンジュゲートを有効成分として含む医薬組成物を投与するか、かかる医薬組成物を投与した後に、他の医薬を投与するか、又は、当該医薬組成物と他の医薬とを同時に投与してもよい。同時に投与する場合、ペプチド又はコンジュゲートと他の医薬とは、単一の製剤、及び、別々の製剤(複数の製剤)、のいずれに含有されてもよい。
【0101】
それらの他の医薬は、1つの場合もあり、2つ、3つあるいはそれ以上を投与するか又は受けることもできる。それらをまとめて本発明の医薬組成物と「他の医薬との併用」又は「他の医薬との組み合わせ」と呼び、本発明のペプチド又はそのコンジュゲートに加えて他の医薬を含むか又は他の療法と組み合わせて使用される本発明の医薬組成物も「他の医薬との併用」又は「他の医薬との組み合わせ」の態様として本発明に含まれる。
【実施例】
【0102】
以下の実施例において、本発明の一部の態様についてさらに詳述するが、本発明はそれらに限定されない。
【0103】
なお、下記実施例において遺伝子操作に関する各操作は特に明示がない限り、「モレキュラークローニング(Molecular Cloning)」(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.及びManiatis,T.著,Cold SpringHarbor Laboratory Pressより1982年発刊又は1989年発刊)に記載の方法及びその他の当業者が使用する実験書に記載の方法により行うか、又は、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って行った。
【0104】
実施例1.KLK5阻害SPINK2-Fc融合体の調製
(1-1)KLK5阻害SPINK2-Fc融合体発現ベクターの構築
各阻害SPINK2の配列(配列表)を鋳型として、下記プライマー及びKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 20秒)×30サイクル)により阻害剤断片(D0~D5、E1)を増幅した。
阻害剤断片(D0)用プライマー
プライマー1:5’-AGATGGGTGTTGTCTGGCCCTCAGTTCGGCCTGTTC-3’(配列番号15:
図21)
プライマー2:5’-GCAGGGGCCATTCCGGAT-3’(配列番号16:
図22)
阻害剤断片(D1)用プライマー
プライマー3:5’-AGATGGGTGTTGTCTGACGGCCCTCAGTTCGGCCTGTTC-3’(配列番号17:
図23)
プライマー2(配列番号16:
図22)
阻害剤断片(E1)用プライマー
プライマー4:5’-AGATGGGTGTTGTCTGAAGGCCCTCAGTTCGGCCTGTTC-3’(配列番号18:
図24)
プライマー2(配列番号16:
図22)
【0105】
阻害剤断片(D2)用プライマー
プライマー5:5’-AGATGGGTGTTGTCTGACGACGGCCCTCAGTTCGGCCTGTTC-3’(配列番号19:
図25)
プライマー2(配列番号16:
図22)
阻害剤断片(D3)用プライマー
プライマー6:5’-AGATGGGTGTTGTCTGATGACGACGGCCCTCAGTTCGGCCTGTTC-3’(配列番号20:
図26)
プライマー2(配列番号16:
図22)
阻害剤断片(D4)用プライマー
プライマー7:5’-AGATGGGTGTTGTCTGATGATGACGACGGCCCTCAGTTCGGCCTGTTC-3’(配列番号21:
図27)
プライマー2(配列番号16:
図22)
阻害剤断片(D5)用プライマー
プライマー8:5’-AGATGGGTGTTGTCTGACGATGATGACGACGGCCCTCAGTTCGGCCTGTTC-3’(配列番号22:
図28)
プライマー2(配列番号16:
図22)
【0106】
下記プライマー及びKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 10秒)×30サイクル)により断片Aを増幅した。
プライマー9:5’-AAAATCTAGAGCCGCCACCATGAAGCACCTGTGGTTCTTTCTGCTGCT-3’(配列番号23:
図29)
プライマー10:5’-AGACAACACCCATCTAGGAGCGGCCACCAGCAGCAGAAAGAACC-3’(配列番号24:
図30)
【0107】
ヒトIgG1のFc領域(配列番号34:
図40)を鋳型として下記プライマー及びKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 30秒)×30サイクル)によりヒトIgG1のFc領域を含む断片Bを増幅した。
プライマー11:5’-ATCCGGAATGGCCCCTGCGAACCCAAGAGCTGCGAC-3’(配列番号25:
図31)
プライマー12:5’-AAAAGTTTAAACTCATTTGCCGGGGCTCAG-3’(配列番号26:
図32)
【0108】
上記で増幅した阻害剤断片と断片A、断片B、プライマー9(配列番号23:
図29)、プライマー12(配列番号26:
図32)及びKOD-plus-(TOYOBO)を用いたオーバーラップPCR法により、所望のDNA断片を増幅した。
【0109】
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)によりDNAを調製した。調製したDNA断片及び哺乳細胞発現ベクターpCMAを制限酵素XbaI(NEB)及びPmeI(NEB)を用いて、37℃で1時間以上処理し、アガロースゲル電気泳動後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)により精製した。LigaFast Rapid DNA Ligation System(Promega)を用いて、それぞれの精製断片を室温で10分間反応させることでligation反応を実施した。Ligation溶液は、大腸菌JM109(TOYOBO)に添加し、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒の熱処理、さらに氷上で5分間静置し、0.1mg/mLアンピシリンを含む2YTプレートに播種後、37℃で一晩静置培養することで、大腸菌を形質転換した。翌日、形質転換した大腸菌を、0.1mg/mLアンピシリンを含むTerrific Broth培地(Invitrogen)に植菌し、37℃で一晩培養後、QIAprep 96 Turbo Miniprep Kit(Qiagen)を用いてプラスミドDNAを回収し(以下、「miniprep処理」という。)、配列解析を実施することで、哺乳細胞発現ベクターpCMA_KLK5阻害SPINK2-Fc融合体を構築した(各クローンのIDは
図1に記載)。
【0110】
さらに、KLK5阻害SPINK2クローンpCMA_K51028-Fcを鋳型として、下記プライマー及びKOD-Plus-Mutagenesis Kit(TOYOBO)を用いて、KLK5阻害SPINK2とヒトIgG1のFc領域との間にAsp5個を挿入した断片を増幅し、自己環状化した。上記記載の方法に準じて大腸菌の形質転換と配列解析を実施し、哺乳細胞発現ベクターpCMA_K51028-D5-Fcを構築した。
プライマー13:5’-GATGACGACGAACCCAAGAGCTGC-3’(配列番号27:
図33)
プライマー14:5’-ATCGTCGCAGGGGCCATTCCG-3’(配列番号28:
図34)
【0111】
(1-2)KLK5阻害SPINK2-Fc融合体の発現精製
(1-1)で構築した発現ベクターは、PEI MAX 40000(Polysciences)を用いてExpi293F細胞(Thermo Fisher Scientific)にトランスフェクションし、培養6日後に培養上清を回収した。MabSelect SuRe(GE healthcare)を用いて培養上清から所望のFc融合体を回収し、Amicon Ultra NMWL 10,000(Merck Millipore)を用いてPBSにバッファー交換することで、KLK5阻害SPINK2-Fc融合体を調製した(
図1)。
【0112】
実施例2.KLK5阻害SPINK2-Fc融合体のKLK5阻害活性評価
(2-1)KLK5の調製
下記プライマー及びKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 10秒)×30サイクル)により断片Cを増幅した。
プライマー15:5’-GGCGATTATAAAGATGACGATGATAAACACCATCACCACCATC-3’(配列番号29:
図35)
プライマー16:5’-GTTTAAACTCAATGATGGTGGTGATGGTGTTTATCATCGTCAT-3’(配列番号30:
図36)
【0113】
次に、ヒトpro-KLK5(Uniprot:Q9Y337)をコードするヌクレオチド配列をそれぞれ鋳型として、下記プライマー及びKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 60秒)×30サイクル)により断片を増幅した。
プライマー17:5’-AAAATCTAGAGCCGCCACCATGGCCACAGCTAGACCCCCT-3’(配列番号31:
図37)
プライマー18:5’-CGTCATCTTTATAATCGCCGCTGTTGGCCTGGATGGTTTCCTG-3’(配列番号32:
図38)
【0114】
上記で増幅した断片と断片C、下記プライマー及びKOD-plus-(TOYOBO)を用いたオーバーラップPCR法により、所望のDNA断片を増幅した。
プライマー17(配列番号31:
図37)
プライマー19:5’-AAAAGTTTAAACTCAATGATGGTGGTGATGGTGT-3’(配列番号33:
図39)
【0115】
さらに、制限酵素XbaI(NEB)及びPmeI(NEB)を用いたクローニングにより、各遺伝子のC末端にFlag tag及びHis tagが付加した哺乳細胞発現ベクターpCMA_pro-KLK5を構築した。
【0116】
(2-2)KLK5の発現精製
(2-1)で構築した発現ベクターは、PEI MAX 40000(Polysciences)を用いてExpi293F細胞(Thermo Fisher Scientific)にトランスフェクションし、培養3日後に培養上清を回収した。HisTrap excel(GE healthcare)を用いて培養上精から所望のHis tag融合タンパク質を回収し、Amicon Ultra NMWL 10,000(Merck Millipore)を用いてPBSにバッファー交換することで、KLK5を精製した。
【0117】
(2-3)KLK5阻害SPINK2-Fc融合体のKLK5阻害活性評価
基質ペプチドを10mMになるようDMSOで溶解し、Assay buffer(50mM Tris-HCl,150mM NaCl,pH8.0)で希釈して終濃度100μMで使用した。Assay bufferで希釈したKLK5とKLK5阻害SPINK2-Fc融合体をそれぞれ25μLずつ混ぜ、37℃で20分反応させた後にAssay bufferで希釈した基質を50μL加えて、Enspire(PerkinElmer)で蛍光シグナルを測定した。各酵素と基質の組み合わせは以下の通り使用した。なお、各阻害ペプチドFc融合体は終濃度0.022~1,300nM、反応及び測定にはプロテオセーブ(登録商標)SS96F黒プレート(住友ベークライト株式会社)を使用した。
Human KLK5阻害活性評価;終濃度20nM KLK5、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-Val-Pro-Arg-AMC(R&D Systems;ES011)、蛍光シグナルexcitation 380nm/emission 460nm
【0118】
各濃度における各SPINK2-Fc融合体の基質ペプチド分解速度を算出し、阻害剤濃度0nMの分解速度を100%としてGraphPad Prism (version 5.0;GraphPad Software Inc.)を用いて、4-パラメータロジスティック曲線でシグモイド型に回帰した。いずれのSPINK2-Fc融合体も低濃度でKLK5酵素活性を阻害し、デザイン間でKLK5阻害活性に変化は認められなかった(
図2)。
【0119】
実施例3.SPINK2-Fc融合体のマウスPK試験
(3-1)動物試験
実施例1で作製したKLK5阻害SPINK2-Fc融合体をPBSで0.75mg/mLに調製し、投与液とした。入荷後4~8日間馴化した4.5週齢ないし8週齢の雄性C57BL/6Jマウス(日本チャールス・リバー株式会社)に、5mg/kgの投与量で静脈内投与を行った。静脈内投与は、頚静脈内投与、尾静脈内投与のいずれかで実施した。頚静脈内投与は、以下に示す通りに行った。マウスにイソフルラン吸入麻酔を施し、頚部の体毛をバリカンで剃毛したのちに皮膚を切開して頚静脈を露出させた。投与液を満たしたインスリン皮下投与用針付注射筒(29G)の針先を露出した頚静脈より下部の筋肉から穿刺し、針先が頚静脈内に入ったことを目視で確認したのち、プランジャーを押して投与した。尾静脈内投与は、以下に示す通りに行った。マウスにイソフルラン吸入麻酔を施し、尾部を微温湯で濡らした布で温めるか酒精綿で尾部を拭くことにより静脈を怒張させ、投与液を満たしたインスリン皮下投与用針付注射筒の針先を尾静脈内へ挿入した。プランジャーを若干引いて注射筒内に静脈血の逆流を確認したのち、プランジャーを押して投与した。インスリン皮下投与用針付注射筒にヘパリンナトリウム注射液を一度吸わせたのち吐き出させ、採血用注射筒とした。投与後5分、1時間、3時間、6時間及び24時間に、採血用注射筒を用いてイソフルラン吸入麻酔下で非投与側の頚静脈から約0.05mLずつ採血した。血液を1.5mL容のポリプロピレンチューブに移し、冷却下、21,600×gの遠心力で3分間遠心分離にかけることにより、上清(血漿)を得た。
【0120】
(3-2)測定
血漿中KLK5阻害SPINK2-Fc融合体の濃度測定は、全自動イムノアッセイプラットフォーム、Gyrolab xP Workstation(GYROS PROTEIN Technologies)を使って実施した。KLK5阻害SPINK2-Fc融合体を1%ブランクマウス血漿含有RexxipAN(GYROS PROTEIN Technologies)で2,000ng/mLから2倍公比で8段階に希釈し、検量線用試料を調製した。実験で得られた血漿はRexxipANで100倍希釈し、測定用試料とした。ビオチン標識した抗SPINK2抗体(Atlas Antibodies)を0.1%Tween20(登録商標)含有PBSで350nMに調製し、捕捉抗体とした。DyLight650で標識した自社製抗SPINK2抗体6D8をRexxipFバッファーで20nMに調製し、検出抗体とした。検量線試料、測定用試料、捕捉抗体、検出抗体及びWashバッファー(0.1%Tween20(登録商標)含有PBS)を96ウェルPCRプレートに入れ、Gyrolab Bioaffy 200とともにGyrolab xP workstationにセットして、3-StepC-A-D(wizard method)で測定した。検量線はGyrolab Evaluator Software を用いて4-パラメータロジスティックモデル(重み付け;Response)で回帰した。Phoenix WinNonlin 6.3(Certara L.P.)を用いてノンコンパートメント解析を実施し、投与後0から24時間における血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC0-24h)を算出した(Calculation Method;Linear Up Log Down)。
【0121】
(3-3)SPINK2-Fc融合体のPK
KLK5阻害SPINK2-Fc融合体K51028-Fcは、マウス投与後7日において
図3(A)に示される血中動態を示し、投与後3時間までに大幅な血中濃度の低下が認められた(
図3(B))。K51028-FcのN末にAsp又はGluを1残基付加させることで、投与後3時間までに認められた大幅な投与検体の血中濃度低下は抑制された(
図4)。この効果は配列に依らず、D1-K51028-Fc、D1-K50055-Fcいずれの配列においても、同様の効果が認められた(
図5)。さらに、K51028-Fcを対象に、N末Aspの付加数を1~5残基としても、いずれのデザインも投与後3時間までに認められた大幅な投与検体の血中濃度低下を抑制した(
図6)。さらに、投与後3時間までの大幅な血中濃度低下の改善により、投与後24時間までの血中曝露も大幅な増加が認められた(表1)。血中曝露量の亢進効果はAsp付加数3(D3)が最も高く、Asp付加数2(D2)、Asp付加数1(D1)という順であった。しかし、Asp5個をSPINK2とFc領域の間に配置したK51028-D5-Fcでは投与後3時間までに認められた大幅な投与検体の血中濃度低下の抑制及び投与後24時間までの血中曝露の増加には繋がらなかった。以上の結果から、SPINK2-FcのN末部分に、Asp又はGluを1~5個挿入することで、投与後初期に認められる血中濃度の低下を抑制し、大幅な血中曝露の増加を達成した。
【0122】
Fc融合体のN末部分に負電荷アミノ酸を配位することは、Fc融合体としてのpIに大きな影響は与えず、局所的に負電荷を帯電させるため、活性や物性等への影響は無い。このデザインにより、SPINK2変異体ペプチドの活性や物性等への大きな影響を及ぼすことなく、投与後初期におけるSPINK2変異体ペプチドFc融合体の血中濃度低下を抑制し、投与後のFc融合体を高濃度で保つことに成功した。
【0123】
【0124】
実施例4.KLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2,IgG4P)融合体の調製と評価
(4-1)KLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2,IgG4P)融合体発現ベクターの構築
(1-1)で構築した哺乳細胞発現ベクターpCMA_K51028-Fc、pCMA_D1-K51028-Fc又はpCMA_D3-K51028-Fcを鋳型として、下記プライマー及びKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 75秒)×30サイクル)により阻害剤断片(D0-K51028、D1-K51028、D3-K51028)を増幅した。
阻害剤断片(D0-K51028、D1-K51028、D3-K51028)用プライマー
プライマー20:5’-TGAGTTTAAACTTTTAAACGGGGG-3’(配列番号35:
図41)
プライマー21:5’-GCAGGGGCCATTCCGGATGATCTT-3’(配列番号36:
図42)
【0125】
ヒトIgG2のFc領域(配列番号37:
図43)を鋳型として下記プライマー及びKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 30秒)×30サイクル)によりヒトIgG2のFc領域を含む断片Dを増幅した。
プライマー22:5’-CGGAATGGCCCCTGCGAGCGTAAGTGTTGTGTGGAGTGT-3’(配列番号38:
図44)
プライマー23:5’-CCCCGTTTAAACTCACTTTCCAGGGCTCAGGGAAAGGCT-3’(配列番号39:
図45)
【0126】
ヒトIgG4PのFc領域(配列番号40:
図46)を鋳型として下記プライマー及びKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 30秒)×30サイクル)によりヒトIgG4PのFc領域を含む断片Eを増幅した。
プライマー24:5’-CGGAATGGCCCCTGCGAATCTAAGTACGGCCCTCCCTGC-3’(配列番号41:
図47)
プライマー25:5’-CCCCGTTTAAACTCATTTGCCCAGGCTCAGAGACAGGGA-3’(配列番号42:
図48)
【0127】
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)によりDNAを調製した。調製した各阻害剤断片に、断片D又は断片Eを添加し、In-Fusion HD Cloning Kit(TAKARA BIO)を用いて50℃で15分間反応させることで断片を連結した。連結した断片は、大腸菌JM109(TOYOBO)に添加し、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒の熱処理、さらに氷上で5分間静置し、0.1mg/mLアンピシリンを含む2YTプレートに播種後、37℃で一晩静置培養することで、大腸菌を形質転換した。翌日、形質転換した大腸菌を、0.1mg/mLアンピシリンを含むTerrific Broth培地(Invitrogen)に植菌し、37℃で一晩培養後、QIAprep 96 Turbo Miniprep Kit(Qiagen)を用いてプラスミドDNAを回収し(以下、「miniprep処理」という。)、配列解析を実施することで、哺乳細胞発現ベクターpCMA_KLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2,IgG4P)融合体を構築した。
【0128】
(4-2)KLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2,IgG4P)融合体の発現精製
(4-1)で構築した発現ベクターは、PEI MAX 40000(Polysciences)を用いてExpi293F細胞(Thermo Fisher Scientific)にトランスフェクションし、培養6日後に培養上清を回収した。MabSelect SuRe(GE healthcare)を用いて培養上清から所望のFc融合体を回収し、Amicon Ultra NMWL 10,000(Merck Millipore)を用いてPBSにバッファー交換することで、KLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2,IgG4P)融合体を調製した。
【0129】
(4-3)KLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2,IgG4P)融合体のKLK5阻害活性評価
基質ペプチドを10mMになるようDMSOで溶解し、Assay buffer(50mM Tris-HCl,150mM NaCl,pH8.0)で希釈して終濃度100μMで使用した。Assay bufferで希釈したKLK5とKLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2,IgG4P)融合体をそれぞれ25μLずつ混ぜ、37℃で20分反応させた後にAssay bufferで希釈した基質を50μL加えて、Enspire(PerkinElmer)で蛍光シグナルを測定した。各酵素と基質の組み合わせは以下の通り使用した。なお、各KLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2,IgG4P)融合体は終濃度1.6~100nM、反応及び測定にはプロテオセーブ(登録商標)SS96F黒プレート(住友ベークライト株式会社)を使用した。
Human KLK5阻害活性評価;終濃度20nM KLK5、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-Val-Pro-Arg-AMC(R&D Systems;ES011)、蛍光シグナルexcitation 380nm/emission 460nm
【0130】
各濃度における各KLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2,IgG4P)融合体の基質ペプチド分解速度を算出し、阻害剤濃度0nMの分解速度を100%としてGraphPad Prism (version 5.0;GraphPad Software Inc.)を用いて、4-パラメータロジスティック曲線でシグモイド型に回帰した。いずれのKLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2,IgG4P)融合体も低濃度でKLK5酵素活性を阻害し、デザイン間でKLK5阻害活性に変化は認められなかった(
図55)。
【0131】
実施例5.KLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2,IgG4P)融合体のマウスPK試験
(5-1)動物試験
(4-2)で作製したKLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2,IgG4P)融合体をPBSで1mg/mLに調製し、投与液とした。入荷後7日間馴化した6週齢の雄性C57BL/6Jマウス(日本チャールス・リバー株式会社)に、5mg/kgの投与量で頚静脈内投与を以下に示す通りに行った。マウスにイソフルラン吸入麻酔を施し、頚部の体毛をバリカンで剃毛したのちに皮膚を切開して頚静脈を露出させた。投与液を満たしたインスリン皮下投与用針付注射筒(29G)の針先を露出した頚静脈より下部の筋肉から穿刺し、針先が頚静脈内に入ったことを目視で確認したのち、プランジャーを押して投与した。インスリン皮下投与用針付注射筒にヘパリンナトリウム注射液を一度吸わせたのち吐き出させ、採血用注射筒とした。投与後5分、1時間、3時間、6時間及び24時間に、採血用注射筒を用いてイソフルラン吸入麻酔下で非投与側の頚静脈から約0.03mLずつ採血した。血液を1.5mL容のポリプロピレンチューブに移し、冷却下、21,600×gの遠心力で3分間遠心分離にかけることにより、上清(血漿)を得た。
【0132】
(5-2)測定
血漿中KLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2,IgG4P)融合体の濃度測定は、全自動イムノアッセイプラットフォーム、Gyrolab xP Workstation(GYROS PROTEIN Technologies)を使って実施した。KLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2,IgG4P)融合体を1%ブランクマウス血漿含有RexxipAN(GYROS PROTEIN Technologies)で1,000ng/mLから2.7倍公比で7段階に希釈し、検量線用試料を調製した。実験で得られた血漿はRexxipANで100倍希釈し、測定用試料とした。ビオチン標識した抗SPINK2抗体(Atlas Antibodies)を0.1%Tween20(登録商標)含有PBSで350nMに調製し、捕捉抗体とした。DyLight650で標識した自社製抗SPINK2抗体6D8をRexxipFバッファーで20nMに調製し、検出抗体とした。検量線試料、測定用試料、捕捉抗体、検出抗体及びWashバッファー(0.1%Tween20(登録商標)含有PBS)を96ウェルPCRプレートに入れ、Gyrolab Bioaffy 200とともにGyrolab xP workstationにセットして、3-StepC-A-D(wizard method)で測定した。検量線はGyrolab Evaluator Software を用いて4-パラメータロジスティックモデル(重み付け;Response)で回帰した。Phoenix WinNonlin 6.3(Certara L.P.)を用いてノンコンパートメント解析を実施し、投与後0から24時間における血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC0-24h)を算出した(Calculation Method;Linear Up Log Down)。
【0133】
(5-3)KLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2,IgG4P)融合体のPK
KLK5阻害SPINK2-Fc(IgG2)融合体D0-K51028-Fc(IgG2)は、マウス投与後24時間において
図56に示される血中動態を示し、投与後3時間までに大幅な血中濃度の低下が認められた。D0-K51028-Fc(IgG2)のN末にAspを1残基付加させることで、投与後3時間までに認められた大幅な血中濃度低下は抑制された(
図56)。N末Aspの付加数を3残基としても、投与後3時間までに認められた大幅な血中濃度低下を抑制した(
図56)。この効果はFcの配列に依らず、IgG4Pにおいても同様に認められた(
図57)。さらに、投与後3時間までの大幅な血中濃度低下の改善により、投与後24時間までの血中曝露も大幅な増加が認められた(表2)。以上の結果から、SPINK2-Fc融合体のN末部分に、Aspを1残基付加することで、SPINK2-Fc融合体の投与後初期に認められる血中濃度の低下とそれに付随する血中低曝露は改善し、アイソタイプの異なるIgGのFc配列を融合した場合においても同じ効果を発揮した。
【0134】
Fc融合体のN末部分に負電荷アミノ酸を配位することは、Fc融合体のFc配列として、エフェクター機能が非常に弱いIgG2やIgG4Pを採用しても、Fc融合体としてのpIに大きな影響は与えず、局所的に負電荷を帯電させるため、活性や物性等への影響は無い。このデザインにより、SPINK2変異体ペプチドの活性や物性等への大きな影響を及ぼすことなく、投与後初期におけるSPINK2変異体ペプチドFc融合体の血中濃度低下を抑制し、投与後のFc融合体を高濃度で保つことに成功した。
【0135】
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の提供する血中動態改善方法は、ペプチド又は該ペプチドを含有するコンジュゲートの血中半減期の延長、血中曝露量の増大等をもたらし、該ペプチド又は該コンジュゲートを含有する医薬は、各種疾患の治療又は予防等に好適に使用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0137】
配列番号1:ヒトSPINK2のアミノ酸配列(
図7)
配列番号2:SPINK2変異体ペプチドの一般式(
図8)
配列番号3:ヒトKLK5のアミノ酸配列(
図9)
配列番号4:KLK5阻害ペプチドK50055のアミノ酸配列(
図10)
配列番号5:KLK5阻害ペプチドK51028のアミノ酸配列(
図11)
配列番号6:KLK5阻害ペプチドFc融合体D0-K51028-Fcのアミノ酸配列(
図12)
配列番号7:KLK5阻害ペプチドFc融合体D1-K51028-Fcのアミノ酸配列(
図13)
配列番号8:KLK5阻害ペプチドFc融合体D2-K51028-Fcのアミノ酸配列(
図14)
配列番号9:KLK5阻害ペプチドFc融合体D3-K51028-Fcのアミノ酸配列(
図15)
配列番号10:KLK5阻害ペプチドFc融合体D4-K51028-Fcのアミノ酸配列(
図16)
【0138】
配列番号11:KLK5阻害ペプチドFc融合体D5-K51028-Fcのアミノ酸配列(
図17)
配列番号12:KLK5阻害ペプチドFc融合体K51028-D5-Fcのアミノ酸配列(
図18)
配列番号13:KLK5阻害ペプチドFc融合体E1-K51028-Fcのアミノ酸配列(
図19)
配列番号14:KLK5阻害ペプチドFc融合体D1-K50055-Fcのアミノ酸配列(
図20)
配列番号15:プライマー1のヌクレオチド配列(
図21)
配列番号16:プライマー2のヌクレオチド配列(
図22)
配列番号17:プライマー3のヌクレオチド配列(
図23)
配列番号18:プライマー4のヌクレオチド配列(
図24)
配列番号19:プライマー5のヌクレオチド配列(
図25)
配列番号20:プライマー6のヌクレオチド配列(
図26)
配列番号21:プライマー7のヌクレオチド配列(
図27)
配列番号22:プライマー8のヌクレオチド配列(
図28)
配列番号23:プライマー9のヌクレオチド配列(
図29)
配列番号24:プライマー10のヌクレオチド配列(
図30)
配列番号25:プライマー11のヌクレオチド配列(
図31)
配列番号26:プライマー12のヌクレオチド配列(
図32)
配列番号27:プライマー13のヌクレオチド配列(
図33)
配列番号28:プライマー14のヌクレオチド配列(
図34)
配列番号29:プライマー15のヌクレオチド配列(
図35)
配列番号30:プライマー16のヌクレオチド配列(
図36)
【0139】
配列番号31:プライマー17のヌクレオチド配列(
図37)
配列番号32:プライマー18のヌクレオチド配列(
図38)
配列番号33:プライマー19のヌクレオチド配列(
図39)
配列番号34:ヒトIgG1のFc領域のアミノ酸配列(
図40)
配列番号35:プライマー20のヌクレオチド配列(
図41)
配列番号36:プライマー21のヌクレオチド配列(
図42)
配列番号37:ヒトIgG2のFc領域のアミノ酸配列(
図43)
配列番号38:プライマー22のヌクレオチド配列(
図44)
配列番号39:プライマー23のヌクレオチド配列(
図45)
配列番号40:ヒトIgG4PのFc領域のアミノ酸配列(
図46)
配列番号41:プライマー24のヌクレオチド配列(
図47)
配列番号42:プライマー25のヌクレオチド配列(
図48)
配列番号43:KLK5阻害ペプチドFc融合体D0-K51028-Fc(IgG2)のアミノ酸配列(
図49)
配列番号44:KLK5阻害ペプチドFc融合体D1-K51028-Fc(IgG2)のアミノ酸配列(
図50)
配列番号45:KLK5阻害ペプチドFc融合体D3-K51028-Fc(IgG2)のアミノ酸配列(
図51)
配列番号46:KLK5阻害ペプチドFc融合体D0-K51028-Fc(IgG4P)のアミノ酸配列(
図52)
配列番号47:KLK5阻害ペプチドFc融合体D1-K51028-Fc(IgG4P)のアミノ酸配列(
図53)
配列番号48:KLK5阻害ペプチドFc融合体D3-K51028-Fc(IgG4P)のアミノ酸配列(
図54)
【配列表】