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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】超電導コイル装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/06 20060101AFI20240827BHJP
   H10N 60/80 20230101ALI20240827BHJP
【FI】
H01F6/06 140
H01F6/06 130
H10N60/80 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021003931
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2022108794
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】平山 貴士
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-016025(JP,A)
【文献】特開2008-311526(JP,A)
【文献】特開2019-012742(JP,A)
【文献】国際公開第2013/129568(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/00- 6/06
H10N 60/80-60/81
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状線材を巻回して形成される無含浸の超電導コイルと、
一方のコイル支持材が前記超電導コイルの一方の端面に接合され、他方のコイル支持材が前記超電導コイルの他方の端面に接合されている一組のコイル支持材と、
前記一組のコイル支持材に接続され、前記テープ状線材にその幅方向に引張応力を生じさせるように前記一組のコイル支持材のうち少なくとも前記一方のコイル支持材に引張力を印加する引張機構と、を備えることを特徴とする超電導コイル装置。
【請求項2】
前記引張機構は、前記引張力を生成する引張装置と、前記引張力を前記引張装置から前記一方のコイル支持材に伝達するように前記引張装置を前記一方のコイル支持材に接続する接続部材と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル装置。
【請求項3】
前記引張機構は、冷却により熱収縮する材料で形成された接続部材を備え、前記接続部材は、前記一組のコイル支持材のうち少なくとも前記一方のコイル支持材を当該コイル支持材に比べて高い温度を有する支持部に接続することを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル装置。
【請求項4】
前記支持部は、前記超電導コイルおよび前記一組のコイル支持材を収容する真空容器の一部を形成することを特徴とする請求項3に記載の超電導コイル装置。
【請求項5】
前記一組のコイル支持材と、前記超電導コイルの外周面に隣接して配置され、前記一組のコイル支持材を接続する外周枠と、を備えるコイル補強ケースを備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の超電導コイル装置。
【請求項6】
前記テープ状線材は、超電導層を含む多層構造と、前記多層構造を被覆する被覆層とを備え、前記被覆層は、前記テープ状線材の幅方向において前記多層構造よりも外側に縁部を有し、
前記コイル支持材は、前記被覆層の前記縁部で前記テープ状線材に接合されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の超電導コイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テープ状の高温超電導線材を巻回して形成した高温超電導コイルが知られている。超電導コイルには動作中、発生させる高磁場と自身を流れる大電流の相互作用によって強力な電磁力がコイル径方向に外向きに働く。この電磁力は、コイル周方向に引き伸ばそうとする力(フープ応力)をテープ状線材に作用させる。フープ応力は、場合によっては、線材の引張強度に匹敵しうる。そこで、超電導コイルの外周を囲む枠材とコイル上下面に設置された側板とを接合したコイルケースで超電導コイルを覆い、このケースで超電導コイルを補強することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】低温工学、Vol.48、No.5、p.213~219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の超電導コイルでは、巻回されてコイル径方向に積層された線材どうしの間に、あるいは線材とケースの間に、僅かな隙間がある。そのため、超電導コイルの動作中、強力な電磁力が線材に加わると、線材はいくらか動く。線材の動きは、超電導コイルの動作に悪影響を及ぼしうる。
【0005】
例を挙げる。超電導コイルにはたいてい、熱暴走(クエンチ)を検出する仕組みが備えられている。これには多くの場合、電圧に基づく検出が採用されている。クエンチが検出された場合、超電導コイルは、運転を停止するか、あるいはクエンチからの回復を目指す保護動作を実行する等、通常運転とは異なる状態に移行することになる。強力な電磁力による線材の動きが超電導コイルのインダクタンスを変化させ、電磁誘導により超電導コイルに大電圧を発生させるおそれがある。クエンチ検出機構がこの異常電圧からクエンチを誤検知し、超電導コイルの正常な運転を誤って終了させることが懸念される。別の懸念として、線材の動きが線材どうしの摩擦を生じさせ、それによる摩擦熱が実際にクエンチを引き起こすリスクもある。
【0006】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、超電導コイルの動作中に生じうる線材の動きを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によると、超電導コイル装置は、テープ状線材を巻回して形成される超電導コイルと、一方のコイル支持材が超電導コイルの一方の端面に接合され、他方のコイル支持材が超電導コイルの他方の端面に接合されている一組のコイル支持材と、一組のコイル支持材に接続され、テープ状線材にその幅方向に引張応力を生じさせるように一組のコイル支持材のうち少なくとも一方のコイル支持材に引張力を印加する引張機構と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、超電導コイルの動作中に生じうる線材の動きを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る超電導コイル装置を概略的に示す図である。
図2図1に示される超電導コイルの例示的な構成を概略的に示す図である。
図3図2に示される高温超電導線材へのストレススティフニングを示す模式図である。
図4】実施の形態に係る超電導コイル装置の他の例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0011】
図1は、実施の形態に係る超電導コイル装置10を概略的に示す図である。超電導コイル装置10は、超電導コイル12を備え、超電導コイル12を超電導転移温度以下の極低温に冷却した状態で超電導コイル12に通電することにより強力な磁場を発生するように構成される。超電導コイル装置10は、例えばNMRシステム、MRIシステム、サイクロトロンなどの加速器、核融合システムなどの高エネルギー物理システム、またはその他の高磁場利用機器(図示せず)の磁場源として高磁場利用機器に搭載され、その機器に必要とされる高磁場を発生させることができる。この実施の形態では、超電導コイル装置10は、超電導コイル12を液体ヘリウムなどの極低温液体冷媒に浸して冷却する浸漬冷却式ではなく、そうした液体冷媒を用いずに超電導コイル12を極低温冷凍機32で直接冷却する伝導冷却式として構成される。
【0012】
超電導コイル12は、一例として、テープ状の高温超電導線材を巻回して形成される高温超電導コイルである。例示的な高温超電導コイルについては図2を参照して後述する。
【0013】
超電導コイル装置10は、超電導コイル12を補強するように超電導コイル12を囲んで配置されるコイル補強ケース14を備える。また、超電導コイル装置10は、テープ状線材にその幅方向(図1において上下方向)に引張応力を生じさせるようにコイル補強ケース14に引張力を印加する引張機構20を備える。詳細は後述するが、この実施の形態では、引張機構20は、引張力を機械的に印加するように構成される。
【0014】
コイル補強ケース14は、ケース外周枠14aと、一組のコイル支持材(14b、14c)とを備える。ケース外周枠14aは、超電導コイル12の外周面に隣接して配置される。一方のコイル支持材であるケース上板14bは、超電導コイル12の一方の端面(上端面)に隣接して配置され、他方のコイル支持材であるケース下板14cは、超電導コイル12の他方の端面(下端面)に隣接して配置される。ケース上板14bは、超電導コイル12の上端面に接合され、ケース下板14cは、超電導コイル12の下端面に接合される。ケース外周枠14aが超電導コイル12の外周面を支持し、ケース上板14bが超電導コイル12の上端面を支持し、ケース下板14cが超電導コイル12の下端面を支持する。
【0015】
コイル支持材と超電導コイル12の端面は、例えば、接着剤を用いて接着されてもよい。接着剤は、極低温に適合する材質(例えば、使用される冷却温度で低温脆性が起こらないか、または起こりにくい樹脂材料)であることが好ましい。そうした接着剤の代表的な例としては、Emerson&Cuming社製のSTYCAST(スタイキャスト)のような粒子分散型複合エポキシ樹脂接着剤(例えば、スタイキャスト2850)が挙げられる。接着力を高めるために、接着剤が塗布される面が粗面化されてもよい。あるいは、その他の適する接合方法が用いられてもよい。
【0016】
ケース上板14bの外周部がケース外周枠14aの上端部に接続され、ケース下板14cの外周部がケース外周枠14aの下端部に接続される。この接続には、種々の手法を用いうるが、例えば、ボルトなど締結部品で機械的に接続されてもよく、あるいは、溶接により接続されてもよい。
【0017】
超電導コイル12が円環状の形状を有する場合、コイル補強ケース14は、超電導コイル12をちょうど収める円筒形の箱であってもよい。よって、ケース外周枠14aは、超電導コイル12の外周面に沿ってコイルの周方向に延びる円環状のフレームであってもよい。ケース上板14bとケース下板14cはそれぞれ、超電導コイル12の上端面と下端面に沿って延びる円形のディスク状のプレートであってもよい。
【0018】
超電導コイル12には、励磁中、自身に流れる大電流とそれにより発生する高磁場との相互作用によって、超電導コイル12を径方向に膨らませる強力な電磁力が働く。コイル補強ケース14は、この電磁力に抗して超電導コイル12を補強するために要求される機械的強度を提供するように、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する高強度材料で形成される。他の適する高強度材料としては、例えば、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)など、繊維と樹脂の複合材料が挙げられる。
【0019】
図1には、超電導コイル12の励磁中にコイルに径方向に働く電磁力50を太い矢印で示すとともに、この電磁力50に抗してコイル補強ケース14のケース上板14bとケース下板14cに働く機械的な内部応力52を細い矢印で示す。このように、コイル補強ケース14が超電導コイル12を補強し、超電導コイル12とコイル補強ケース14を含む構造体が全体で強力な電磁力50に対する機械的な支持を提供することができる。
【0020】
超電導コイル12は、真空容器30の中に設置される。真空容器30は、真空領域16を外部環境18から隔てるように構成される。真空領域16は、真空容器30内に定められる。真空容器30の断熱性能を高めるために、真空領域16を外部環境18から隔てる真空容器30の壁部材の表面に沿って、または壁部材の内部に、断熱材料が設けられていてもよい。真空容器30は、例えばクライオスタットであってもよい。真空容器30には、引張機構20と極低温冷凍機32が設置される。
【0021】
引張機構20は、コイル補強ケース14に印加される引張力を生成する引張装置22と、この引張力を引張装置22からケース上板14bに伝達するように引張装置22をケース上板14bに接続する接続部材24と、を備える。
【0022】
引張装置22は、真空容器30の外、すなわち外部環境18に配置され、一例として、作動部材22aと、駆動装置22bと、ベローズ22cとを備える。作動部材22aは、ベローズ22cを介して真空容器30の壁(例えば上壁)に接続され、真空容器30の一部を構成する。作動部材22aは、接続部材24の端部が固定されるフランジまたはブロックであってもよく、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する高強度材料(例えばGFRP等の複合材料)で形成される。ベローズ22cは、両端に真空フランジを有し、これら真空フランジが真空領域16の気密性を保つように、作動部材22aと真空容器30それぞれに接続される。よって、ベローズ22c内の空間は、真空領域16の一部となる。駆動装置22bは、真空容器30に設置され、作動部材22aを真空容器30に対して昇降させるように作動部材22aに接続されている。駆動装置22bは、例えば、油圧、空圧、電動モーター、電磁石など適宜の駆動源を有してもよい。なお、引張装置22は、真空容器30の中に配置されてもよい。
【0023】
接続部材24は、一端がベローズ22c内で作動部材22aに固定され、他端がケース上板14bに固定される。接続部材24は、棒状の細長い形状を有し、作動部材22aからベローズ22c内を通り真空容器30の壁を貫通して真空領域16へと延びている。ケース上板14bに固定される接続部材24の端部にフランジ部が設けられ、このフランジ部がケース上板14bに固定されてもよい。接続部材24は、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する高強度材料で形成される。外部環境18から接続部材24を通じた超電導コイル12への入熱を抑制するには、接続部材24は、断熱材料で形成されることが好ましい。よって、接続部材24、高強度と断熱性能を兼ね備える点で、例えば、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)で形成されることが好ましい。
【0024】
ケース下板14cは、支持部材26により真空容器30の壁(例えば下壁)に接続される。支持部材26は、接続部材24と同様に、棒状の細長い形状を有し、両端にフランジ部を有してもよい。支持部材26は、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する高強度材料(例えばGFRPなど)で形成されてもよい。
【0025】
したがって、引張装置22が接続部材24を引き上げることにより(図1の矢印28)、ケース上板14bがケース下板14cに対してコイル中心軸方向に引っ張られる。それにより、引張機構20は、超電導コイル12を形成するテープ状線材の幅方向(コイル中心軸方向と同方向である)に引張応力を生じさせる。
【0026】
なお、引張機構20は、ケース上板14bではなく、ケース下板14cを引っ張るように構成されてもよい。この場合、接続部材24は、引張装置22が生成する引張力を引張装置22からケース下板14cに伝達するように引張装置22をケース下板14cに接続してもよい。あるいは、引張機構20は、ケース上板14bとケース下板14cをそれぞれ互いに逆向きに引っ張るように構成されてもよい。一組の引張装置22および接続部材24が設けられ、一方の引張装置22および接続部材24がケース上板14bを引っ張り、他方の引張装置22および接続部材24がケース下板14cを引っ張ってもよい。
【0027】
極低温冷凍機32は、真空容器30の中に配置される一段冷却ステージ32aおよび二段冷却ステージ32bを備える。極低温冷凍機32は、作動ガス(たとえばヘリウムガス)の圧縮機(図示せず)と、コールドヘッドとも呼ばれる膨張機とを備え、圧縮機と膨張機により極低温冷凍機32の冷凍サイクルが構成され、それにより一段冷却ステージ32aおよび二段冷却ステージ32bがそれぞれ所望の極低温に冷却される。一段冷却ステージ32aは、例えば50K~80Kに冷却され、二段冷却ステージ32bは、例えば3K~20Kに冷却される。一段冷却ステージ32aおよび二段冷却ステージ32bは、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。
【0028】
極低温冷凍機32は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機であるが、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。極低温冷凍機32は、単段式のGM冷凍機またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。
【0029】
また、真空容器30には、一段冷却ステージ32aと熱的に結合され一段冷却ステージ32aの冷却温度に冷却される熱シールド34が設けられてもよい。熱シールド34は、それよりも低温に冷却される超電導コイル装置10、極低温冷凍機32の二段冷却ステージ32b、またはその他の低温部を囲むように配置され、外部からの輻射熱からこれら低温部を熱的に保護することができる。熱シールド34は、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。
【0030】
熱シールド34は、一段冷却ステージ32aに直接取り付けられ、または適宜の伝熱部材を介して取り付けられる。図示されるように、熱シールド34は、接続部材24が挿通される開口部(例えば貫通孔)と、支持部材26が挿通される開口部とを有する。
【0031】
コイル補強ケース14は、二段冷却ステージ32bと熱的に結合され二段冷却ステージ32bの冷却温度に冷却される。コイル補強ケース14は、銅などの高熱伝導材料で形成された伝熱部材36を介して二段冷却ステージ32bと熱的に結合されてもよい。伝熱部材36は、剛性の伝熱部材であってもよく、または、可撓性をもつように例えば細線の束または箔の積層として形成される等、柔軟な伝熱部材であってもよい。あるいは、コイル補強ケース14は、二段冷却ステージ32bに直接取り付けられてもよい。
【0032】
電流リード部38は、真空容器30に設けられる真空フィードスルーを通じて真空容器30の中から外へと取り出され、真空容器30の外にある電源(図示せず)に超電導コイル12を接続する。
【0033】
このようにして、超電導コイル12は、極低温冷凍機32の二段冷却ステージ32bによって、伝熱部材36とコイル補強ケース14を介して、二段冷却ステージ32bの冷却温度に冷却される。電流リード部38を通じて超電導コイル12に通電することにより、超電導コイル装置10は、強力な磁場を発生することができる。
【0034】
なお、コイル補強ケース14が超電導コイル12の全体を覆う場合には、コイル補強ケース14は気密容器であってもよい。それに代えて、コイル補強ケース14は、ケース内部を真空容器30内の真空領域16と連通する開口部を有してもよい。例えば、コイル補強ケース14は、ケース外周枠14aを備えなくてもよく、この場合、ケース上板14bとケース下板14cはそれぞれ超電導コイル12の端面に接合されるが、互いに接続されていなくてもよい。また、ケース上板14bとケース下板14cのうち少なくとも一方は、超電導コイル12の端面の全体を覆っていなくてもよく、開口部を有するプレートであってもよい。
【0035】
図2は、図1に示される超電導コイル12の例示的な構成を概略的に示す図である。図2の左部には超電導コイル12の概略斜視図を示し、右部には線材の長手方向に垂直な平面による線材の断面を示す。この断面図において、線材の幅方向は上下方向、厚さ方向は左右方向にあたる。
【0036】
この実施の形態では、超電導コイル12は、REBCO線材とも称されるテープ状の高温超電導線材40をコイル径方向に積層させるように巻回して形成されるシングルパンケーキコイルである。
【0037】
高温超電導線材40は、基板40a上に中間層40bを介して超電導層40cが形成され、その超電導層40c上に第1安定化層40dが形成されるとともに、それらの外周部に第2安定化層40eが被覆されて構成されている。
【0038】
基板40aは、ニッケル合金(ハステロイ)、銀、銀合金等の金属により、例えば厚さ100μm、幅10mmに形成されている。なお、ハステロイは、ニッケルを主成分とし、クロム、モリブデン等を含む合金で、耐熱性、機械的強度等が良好である。中間層40bは、ガドリニウム・ジルコニウム酸化物(Gd・Zr酸化物)、酸化マグネシウム(MgO)、イットリウム安定化ジルコニウム(YSZ)、バリウム・ジルコニウム酸化物(Ba・Zr酸化物)、酸化セリウム(CeO2)等の化合物により、例えば厚さ500nm、幅10mmに形成されている。
【0039】
超電導層40cは、希土類系酸化物超電導体のCVD法(化学蒸着法)により、例えば厚さ約1μm、幅10mmに形成されている。希土類元素としては、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)等が挙げられる。希土類系酸化物としては、RE・Ba・Cu・O等が挙げられる。但し、REは希土類元素を表す。この超電導層40cとして具体的には、イットリウム・バリウム・銅酸化物(Y・Ba・Cu酸化物)、ランタン・バリウム・銅酸化物(La・Ba・Cu酸化物)等が挙げられる。
【0040】
第1安定化層40dは、銀等の金属のスパッタリング等により、例えば厚さ約15μm、幅10mmに形成されている。第2安定化層40eは、銅等の金属のメッキ等により、例えば厚さ約50μmに形成されている。
【0041】
このように、高温超電導線材40は、超電導層40cを含む多層構造42と、多層構造42を被覆する被覆層(例えば第2安定化層40e)とを備える。被覆層は、図示されるように、線材の長手方向に垂直な断面において多層構造42の全周を被覆しているため、多層構造42は、被覆層によって、おもて面(例えば基板40a)と裏面(例えば第1安定化層40d)が被覆されるだけではなく、幅方向における両縁も被覆される。よって、被覆層は、線材の幅方向において多層構造42よりも外側に縁部44を有する。縁部44は、被覆層の材料から形成され、多層構造42を含まない部分である。
【0042】
この実施の形態では、被覆層は、第2安定化層40eからなる。しかし、必要に応じて、被覆層は、少なくとも1つの層をさらに有してもよい。例えば、被覆層は、第2安定化層40eの外側に設けられ、第2安定化層40eの全体またはその一部を被覆する追加の層(例えば絶縁層)を有してもよい。
【0043】
また、高温超電導線材40は、上記説明で具体的に言及した層のうち少なくとも1つの層に代えて、それとは異なる少なくとも1つの層を有してもよい。それとともに、またはそれに代えて、高温超電導線材40は、上記説明で具体的に言及した層に追加して、少なくとも1つの層をさらに有してもよい。
【0044】
ところで、従来、NbTiに代表される低温超電導線材で形成される低温超電導コイルでは、コイルを製造する際に、エポキシ樹脂など樹脂材料による含浸処理がよく用いられている。コイル状に巻回された線材間に含浸した樹脂材料が硬化し、線材どうしを強く固定することができるので、コイルの機械的強度が高まる。含浸樹脂は、コイル励磁中にコイル内部に発生する強力な電磁力によって生じうるコイルの変形を抑制することに役立つ。また、含浸樹脂は、線材どうしを熱的に結合する伝熱経路をコイル内部に一様に形成し、コイルの熱的安定性を向上することにも役立つ。
【0045】
しかしながら、高温超電導線材40で形成される超電導コイル12には、こうした含浸処理は適さない。高温超電導線材40の層間の剥離強度に比べて、含浸した樹脂材料による線材どうしの接着が強固となりすぎる傾向にある。超電導コイル12の使用時に生じうる内部応力が、強度に劣る高温超電導線材40の内部に集中し、含浸樹脂部に比べて強度に劣る高温超電導線材40の層間に剥離を発生させ、最終的には高温超電導線材40が破壊されることが懸念される。
【0046】
そこで、超電導コイル12には製造工程において含浸処理が行われない。したがって、超電導コイル12は、積層される高温超電導線材40間に含浸材を有しない。超電導コイル12のように、絶縁処理を施していない超電導線材で形成される超電導コイルは、無絶縁(No-Insulation;NI)超電導コイルとも称されうる。励磁中に何らかの原因で局所的に常電導部が発生しても、電流は隣接する線材に迂回することができ、安定的な励磁が可能になるという利点がある。また高電流密度化が可能である。
【0047】
その反面、本書の冒頭で述べたように、このような無含浸の超電導コイル12では、巻回されてコイル径方向に積層された高温超電導線材40どうしの間に、あるいは高温超電導線材40とコイル補強ケース14の間に、僅かな隙間がある。そのため、超電導コイル12の動作中、強力な電磁力50が高温超電導線材40に加わると、高温超電導線材40はいくらか動く。高温超電導線材40の動きは、超電導コイル12の動作に悪影響を及ぼしうる。
【0048】
例を挙げる。超電導コイル12にはたいてい、熱暴走(クエンチ)を検出する仕組みが備えられている。これには多くの場合、電圧に基づく検出が採用されている。クエンチが検出された場合、超電導コイル12は、運転を停止するか、あるいはクエンチからの回復を目指す保護動作を実行する等、通常運転とは異なる状態に移行することになる。強力な電磁力50による高温超電導線材40の動きが超電導コイル12のインダクタンスを変化させ、電磁誘導により超電導コイル12に大電圧を発生させるおそれがある。クエンチ検出機構がこの異常電圧からクエンチを誤検知し、超電導コイル12の正常な運転を誤って終了させることが懸念される。別の懸念として、高温超電導線材40の動きが線材どうしの摩擦を生じさせ、それによる摩擦熱が実際にクエンチを引き起こすリスクもある。
【0049】
実施の形態に係る超電導コイル装置10は、ストレススティフニングと呼ばれる効果を利用して、コイル径方向の電磁力50に対する高温超電導線材40の強度を増すことができる。
【0050】
図3は、図2に示される高温超電導線材40へのストレススティフニングを示す模式図である。ストレススティフニングによれば、面内方向に引張応力を作用させることによって、(そうした引張応力を作用させない場合に比べて)面外方向に働く力に対する剛性が高まる。この実施の形態では、引張機構20によって高温超電導線材40に引張応力54を作用させ、それにより、コイル径方向に働く電磁力50に対する高温超電導線材40の剛性を高め、電磁力50による高温超電導線材40の動きを抑制することができる。したがって、高温超電導線材40の動きが超電導コイル12の正常な運転の妨げとなること防止しまたは緩和することができる。例えば、クエンチの誤検知を防ぐことができる。高温超電導線材40どうしの摩擦とそれによる摩擦熱を抑制し、クエンチが起こるリスクを減らすことができる。
【0051】
なお、図1には、高温超電導線材40とコイル補強ケース14(例えばケース上板14b)との接合部を示す部分拡大図が含まれる。図示されるように、ケース上板14bは、高温超電導線材40に被覆層の縁部44で接着により接合されている。ケース上板14bの表面に接着剤が塗布されて接着層46が形成され、ケース上板14bが被覆層の縁部44と接着層46により接着されている。高温超電導線材40の幅方向における多層構造42の縁42aは、接着層46の表面46aに比べて、ケース上板14bの表面から線材の幅方向において離れた位置にある。言い換えれば、高温超電導線材40は、多層構造42を含まない部分(被覆層の縁部44)でケース上板14bに接着される。このように縁部44のみで高温超電導線材40を接着することにより、上述のように線材を含浸する場合に比べて、高温超電導線材40の劣化を抑制することができる。
【0052】
図4は、実施の形態に係る超電導コイル装置10の他の例を概略的に示す図である。この実施の形態では、図1の実施形態とは異なり、引張機構20は、熱収縮を利用して引張力を発生させる。よって、真空容器30の外に配置された引張装置22は不要となる。
【0053】
引張機構20は、冷却により熱収縮する材料で形成された接続部材24を備え、接続部材24は、一組のコイル支持材(14b、14c)のうち少なくとも一方のコイル支持材(例えばケース上板14b)を当該コイル支持材に比べて高い温度を有する支持部30aに接続する。支持部30aは、超電導コイル12およびコイル補強ケース14を収容する真空容器30の一部を形成する。
【0054】
接続部材24は、真空容器30内に配置される。接続部材24は、棒状の細長い形状を有し、一端が支持部30aに固定され、他端がケース上板14bに固定される。ケース上板14bに固定される接続部材24の端部にフランジ部が設けられ、このフランジ部がケース上板14bに固定されてもよい。接続部材24は、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する高強度材料で形成される。ケース下板14cも、接続部材24により真空容器30の壁(例えば下壁)に接続される。
【0055】
真空容器30および支持部30aは、外部環境18にさらされているため、周囲温度(例えば室温)にあり、動作中の超電導コイル12およびコイル補強ケース14よりも高い温度を有する。上述のように、超電導コイル装置10の動作中、超電導コイル12とコイル補強ケース14は極低温冷凍機32により極低温に冷却される。接続部材24は、コイル補強ケース14に接続されているため、コイル補強ケース14によって冷却され、熱収縮することになる。したがって、これら2本の接続部材24はそれぞれ、ケース上板14bとケース下板14cに引張力を印加し、それにより、引張機構20は、超電導コイル12を形成するテープ状線材の幅方向に引張応力を生じさせることができる。よって、図4の実施形態に係る超電導コイル装置10も、図1の実施形態と同様に、ストレススティフニングを利用して、超電導コイル12のテープ状線材の動きを抑制することができる。
【0056】
接続部材24は、真空容器30の一部である支持部30aのように周囲温度を有する部位に代えて、コイル補強ケース14に比べて高い温度を有する他の部位に接続されてもよい。例えば、接続部材24は、熱シールド34など一段冷却ステージ32aによって冷却される部位に接続されてもよい。
【0057】
ある実施の形態においては、図1の実施形態の引張機構20と図4の実施形態の引張機構20が組み合わせて用いられてもよい。例えば、図1の実施形態の引張機構20における接続部材24が、冷却により熱収縮する材料で形成されてもよい。あるいは、一組のコイル支持材のうち一方のコイル支持材に図1の実施形態の引張機構20が適用され、他方のコイル支持材に図4の実施形態の引張機構20が適用されてもよい。
【0058】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0059】
上述の実施の形態では、超電導コイル12が高温超電導線材40から形成されるシングルパンケーキコイルである場合を例として説明しているが、実施の形態に係る超電導コイル装置10に適用されうる超電導コイル12は、そうした特定の形状および材質を有するものには限定されない。例えば、超電導コイル12は、ダブルパンケーキコイルまたはその他の多層のパンケーキコイルであってもよい。
【0060】
また、上述の実施の形態では、テープ状線材として高温超電導線材40を例として説明したが、本発明は、他のテープ状線材から形成される超電導コイルにも同様に適用可能である。
【0061】
上述の実施の形態では、超電導コイル装置10は、伝導冷却式として構成されるが、他のコイル冷却方式が適用されてもよい。例えば、超電導コイル装置10は、超電導コイル12を液体ヘリウムなどの極低温液体冷媒に浸して冷却する浸漬冷却式として構成されてもよい。この場合、超電導コイル12とともに一組のコイル支持材(14b、14c)が極低温液体冷媒の槽に配置され、極低温液体冷媒に浸される。コイル支持材との引張機構20の接続部も極低温液体冷媒の槽に配置され、極低温液体冷媒に浸されてもよい。極低温冷凍機32は、極低温液体冷媒の再凝縮に使用されてもよい。
【0062】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0063】
10 超電導コイル装置、 12 超電導コイル、 14 コイル補強ケース、 20 引張機構、 22 引張装置、 24 接続部材、 30 真空容器、 40c 超電導層、 42 多層構造、 44 縁部、 54 引張応力。
図1
図2
図3
図4