(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】吸収性物品用シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 13/15 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
A61F13/15 300
A61F13/15 140
(21)【出願番号】P 2021010342
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】糸井 隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佑佳
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-70515(JP,A)
【文献】特開2014-158509(JP,A)
【文献】特開2020-190067(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145999(WO,A1)
【文献】特開2003-38561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の開孔を有する基材シートに、機能性材料及び親水性且つ不揮発性の有機溶媒を含む液を噴霧する工程を具備し、
前記基材シートとして、該シートの面積に対する、開孔径が30μm以上300μm以下である開孔の面積率が15%以上35%以下であるものを用い、
液滴径が1000μm以下となるように前記液を噴霧する、吸収性物品用シートの製造方法。
【請求項2】
前記基材シートとして、該シートの面積に対する、前記複数の開孔の総面積率が15%以上65%以下のものを用いる、請求項1に記載の吸収性物品用シートの製造方法。
【請求項3】
前記噴霧後の前記基材シートにおける前記機能性材料の存在量が0.01g/m
2以上2g/m
2以下となるように前記液を噴霧する、請求項1又は2に記載の吸収性物品用シートの製造方法。
【請求項4】
前記噴霧後の前記基材シートを、50℃未満の雰囲気温度で乾燥する工程を具備する、請求項1~3の何れか1項に記載の吸収性物品用シートの製造方法。
【請求項5】
前記乾燥する工程において、乾燥後の前記基材シートにおける前記有機溶媒の存在量が0.01g/m
2以上3g/m
2以下となるように、該基材シートを乾燥する、請求項4に記載の吸収性物品用シートの製造方法。
【請求項6】
前記液が5mPa・s以上50mPa・s以下の粘度を有する状態で噴霧する、請求項1~5の何れか1項に記載の吸収性物品用シートの製造方法。
【請求項7】
前記液として、水の含有量が1質量%以上50質量%以下であるものを用いる、請求項1~6の何れか1項に記載の吸収性物品用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの一般的な吸収性物品は、主たる吸液部位である吸収体を具備する。吸収体は、典型的には吸収性コアとこれを被覆するコアラップシートとを含んで構成される。吸収体に吸収された排泄物由来の不快な臭いを抑制する観点から、消臭剤等の機能性材料を含むシート部材を吸収体に用いることが知られている。例えば、本出願人は、先に、前記コアラップシートとして、有機疎水性抗菌剤又はカチオン性抗菌剤を含む吸収性物品用シートを開示した(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-070515号公報
【文献】登録実用新案第3225370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
機能性材料を含む吸収性物品用シートは、シートに機能性材料を分散させた液体を付着させることで製造できる。一方、低粘度や高粘度の体液等、排泄液の透過性を上げるために吸収性物品用シートに複数の開孔を有するものが用いられことがある。このように、吸収性物品用シートに複数の開孔を有するものを用いた場合、機能性材料を含む液体を該シートに噴霧すると、前記液体がシート表面に残存したり、該液体が該シートを透過し過ぎたりすることがある。これにより、製造ラインにおいて該液体によって製造装置が汚染されるとともに、当該シートにおける機能性材料の保持量(含有量)が減少する虞がある。特許文献1及び2は、吸収性物品用シートの製造時において、前記液体による汚染を防止するとともに、シート中の機能性材料の保持性を向上させる点について特段の検討はなされていなかった。
【0005】
したがって本発明は、製造時において、機能性材料を含む液体による汚染を防止するとともに、シート中の機能性材料の保持性に優れる、吸収性物品用シートの製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、吸収性物品用シートの製造方法に関する。
前記製造方法は、複数の開孔を有する基材シートに、機能性材料及び親水性且つ不揮発性の有機溶媒を含む液を噴霧する工程を具備することが好ましい。
前記製造方法は、前記基材シートとして、該シートの面積に対する、開孔径が30μm以上300μm以下である開孔の面積率が15%以上35%以下であるものを用いることが好ましい。
前記工程では、液滴径が1000μm以下となるように前記液を噴霧することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の吸収性物品用シートの製造方法によれば、複数の開孔を有する吸収性物品用シートにおいて、機能性材料を含む液体による汚染を防止するとともに、シート中に機能性材料を十分保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明に係る基材シートの断面を示す図であって、本発明の作用効果を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の構成を具備しないシートの
図1相当図である。
【
図3】
図3は、粘性液体透過時間の測定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。先ず、本発明の吸収性物品用シートの製造方法によって得られる吸収性物品用シートについて説明する。吸収性物品用シートは、吸収性物品の構成部材の一つとして好適に用いられるものである。
吸収性物品には、人体から排出される体液(尿、軟便、経血、汗等)の吸収に用いられる物品が広く包含され、例えば、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、生理用ショーツ、失禁パッド等が包含される。
【0010】
吸収性物品は、典型的には、着用状態において着用者の肌と当接する面を形成する表面シート、裏面シート、及びこれら両シート間に配置された液保持性の吸収体を具備する。
表面シートは典型的には液透過性である。
裏面シートは、典型的には液難透過性若しくは撥水性であるが、液透過性であってもよい。
吸収体は、典型的には、吸収性コアとそれを包むコアラップシートを含む。
前記の表面シート、裏面シート及び吸収性コアとしては、それぞれ、この種の吸収性物品において通常用いられているものを特に制限なく用いることができる。
吸収性物品は、表面シート、裏面シート、吸収体(吸収性コア、コアラップシート)、後述する中間シート等の各種部材を常法に従って組み合わせることによって製造することができる。
【0011】
後述する機能性材料による効果をより確実に奏させる観点から、本発明の吸収性物品用シートは、コアラップシートとして用いられることが好ましい。
また、吸収性物品が、表面シートと吸収体との間に介在配置された中間シート(サブレイヤー)を具備する場合、本発明の吸収性物品用シートは中間シートとして用いられてもよい。
【0012】
吸収性物品用シートは、基材シート1に機能性材料を含有させたものである。
機能性材料は、抗菌機能や消臭機能等の各種機能を有する材料である。機能性材料としては、例えば抗菌剤、消臭剤、香料等が挙げられる。吸収性物品用シートは、1種の機能性材料を単独で含有していてもよく、又は2種以上の機能性材料を組み合わせて含有していてもよい。以下、機能性材料の具体例について詳述する。
【0013】
抗菌剤は、対象物に抗菌性を付与することができる剤であり、抗菌性は抗菌活性値で判断することができる。具体的には、JIS L 19022015 繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果で定める菌液吸収法で算出される抗菌活性値が2以上の場合、対象物は抗菌性を有するとされる。即ち、抗菌剤は、これを基材シート1に含有させた吸収性物品用シートにおいて、抗菌活性値が2以上となる剤である。抗菌剤としては、臭いの発生源を絶つ作用をするもの、すなわち臭気発生原因となる細菌由来の酵素の増殖を抑える作用を奏するものが好ましい。例えば、尿臭の発生に関わる細菌の増殖、生育を抑制又は死滅させる抗菌剤が挙げられる。
【0014】
抗菌剤としては、無機抗菌剤及び有機抗菌剤等から選ばれる1又は複数が挙げられる。 無機抗菌剤としては、例えば、銀、亜鉛、銅、鉄、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、アンチモン、ビスマス等の抗菌性金属イオン及び塩等を担体に担持させた微粒子粉末及び針状結晶から選ばれる1又は複数が挙げられる。
該担体としては、ゼオライト、シリカゲル、低分子ガラス、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、ケイ酸塩及び酸化チタン等から選ばれる1又は複数が挙げられる。
【0015】
有機抗菌剤としては、カチオン性抗菌剤、アニオン性抗菌剤及びノニオン性抗菌剤から選ばれる1又は複数が挙げられる。
アニオン性抗菌剤としては、ピロクトンオラミン[1-ヒドロキシ-4-メチル-6-(2,4,4-トリメチルペンチル)-2(1H)-ピリドンモノエタノールアミン塩]、オレイン酸カリウム、1-ペンタスルホン酸ナトリウム、1-デカンスルホン酸ナトリウム、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びヘキサデシル硫酸ナトリウム等から選ばれる1又は複数が挙げられる。
ノニオン性抗菌剤としては、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、トリクロカルバン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、ハロカルバン及びパラオキシ安息香酸エステル等から選ばれる1又は複数が挙げられる。
より高い抗菌効果を得る観点から、吸収性物品用シートは、有機抗菌剤を含む抗菌剤を含有することが好ましい。
【0016】
より高い抗菌性能を得る観点から、抗菌剤として、有機抗菌剤の一種であるカチオン性抗菌剤を用いることが好ましい。カチオン性抗菌剤は、尿等の排泄物の液相において、不快な臭い成分の産生原因である微生物や微生物由来の酵素の増殖を抑制する作用を有している。カチオン性抗菌剤の斯かる作用により、吸収性物品における臭い成分の発生源が絶たれ、消臭効果が発揮される。
このようなカチオン性抗菌剤による生物学的消臭作用は、例えば、低級脂肪酸類、フェノール類、メルカプタン類、ケトン類、アルデヒド類及びアミン類など、酸性からアルカリ性まで幅広い様々な臭い成分に対して有効である。
【0017】
カチオン性抗菌剤の中でも、低濃度で高い抗菌性を発現できることから、第四級アンモニウム塩を含むものが好ましい。
第四級アンモニウム塩としては、例えば、アルキルピリジニウム塩、ベンゼトニウム塩、ベンザルコニウム塩、モノアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられ、これらから選ばれる1又は複数を用いることができる。
第四級アンモニウム塩を含むカチオン性抗菌剤の中でも、特に、第四級アンモニウム塩として塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化デカリニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、セチルリン酸ベンザルコニウム及び塩化ベンザルコニウム等から選ばれる1又は複数を含有するものが好ましい。
ベンザルコニウム塩の中でも、特に塩化ベンザルコニウム及びセチルリン酸ベンザルコニウムから選ばれる1又は複数を用いることが、抗菌性、安全性及び即効性の高さの点から好ましい。
特にセチルリン酸ベンザルコニウムは、有機系のカチオン性抗菌剤の中で、抗菌性と皮膚への低刺激性(水溶解性が低い)とのバランスがよく、比較的安全性が高いため好ましい。
塩化ベンザルコニウムとしては、花王株式会社より商品名サニゾールB-50として販売されている抗菌剤を、セチルリン酸ベンザルコニウムとしては、花王株式会社より商品名サニゾールP-2として販売されている抗菌剤を用いることができる。
【0018】
抗菌剤は、窒素若しくはリン、又はこれら両方を有していてもよい。前述のサニゾールB-50は、窒素を有する抗菌剤である。また、前述のサニゾールP-2は、窒素及びリンの両方を有する抗菌剤である。
【0019】
消臭剤は、それ自体が臭気(臭気物質)に直接作用して、すなわち臭気(臭気物質)を吸着、中和、分解等して、消臭効果を発現し得る物質である。消臭剤としては、当該技術分野においても消臭用途に汎用されているものを用いることができる。例えば、消臭剤として、多孔性粒子や水溶性のpH緩衝剤等が挙げられる。
【0020】
多孔性粒子は、少なくとも粒子表面に多数の細孔を有する粒子であって、揮発する臭い成分をその孔に捕集、吸着及び/又は包摂できるものである。多孔性粒子の材質としては、有機化合物、無機化合物若しくはそれらの重合体、又はそれらの組み合わせ等が挙げられる。その具体例としては、例えば多孔メタクリル酸ポリマー、多孔アクリル酸ポリマー等のアクリル酸系ポリマー、多孔ジビニルベンゼンポリマー、多孔ピリジン共重合体等の芳香族系ポリマー、及びそれらの共重合体等の合成の多孔質ポリマー;キチン及びキトサン等の天然の多孔質ポリマー;酸化亜鉛、活性炭、シリカ、二酸化ケイ素(シリカゲル)、ケイ酸カルシウム、アルミノ珪酸塩化合物、ハイシリカゼオライト(疎水性ゼオライト)、セピオライト、カンクリナイト、ゼオライト、及び水和酸化ジルコニウム等の無機多孔質物質などの金属担持多孔質などが挙げられ、これらからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。消臭の対象となる尿や経血等の排泄液由来の臭い成分は、アンモニア、アミン類、脂肪酸類、硫化水素やメルカプタン類等の成分が複数混合されたものである。一般的に、これらの臭い成分の分子サイズは1nm以上であるので、平均細孔径が2nm以上である多孔性粒子を消臭剤として用いることで、複数の臭い成分を効果的に吸着することができる。
【0021】
多孔性粒子の平均細孔径は、細孔径分布における細孔径のピークを意味する。臭気の吸着効果をより向上させる観点から、多孔性粒子の細孔径のピークは、好ましくは0.001μm以上0.5μm以下、より好ましくは0.005μm以上0.2μm以下である。多孔性粒子の細孔径のピークは下記方法により測定される。
【0022】
〔多孔性粒子の細孔径のピークの測定方法〕
多孔性粒子の細孔径のピークは、細孔分布測定装置(日本ベル株式会社、商品名:BELSORP mini II)を用いて、液体窒素を用いた多点法により測定することができる。細孔分布におけるピークトップを細孔径のピークとする。測定試料には110℃で1時間加熱する前処理を施す。
【0023】
水溶性のpH緩衝剤は、排泄液などの液相中に発生した酸性やアルカリ性の臭い成分を中和し、pHの変化を小さくする剤である。すなわち、平衡作用による中和消臭剤である。このような剤としては、特に制限されるものでないが、例えば弱酸やその共役塩基、あるいはそれらの混合物又はその塩、弱塩基やその共役酸、あるいはそれらの混合物又はその塩などが挙げられる。水溶性のpH緩衝剤の具体例としては、弱酸としてはクエン酸等が挙げられ、その塩としてはNa、K、Ca等の金属塩が挙げられる。また弱塩基としては、例えばトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンといったポリヒドロキシアミン化合物等が挙げられる。
【0024】
香料は、尿等の排泄物に起因する不快な臭いの低減する機能を有しており、排泄物特有の臭気を、香料の香気によってマスキング及び/又はハーモナージュし得る。香料としては、大気圧下で香気成分を大気中に揮散して斯かる目的を達成し得るものであればよく、常温常圧の環境下でその香気を知覚し得る通常の香料を特に制限なく用いることができ、使い捨ておむつなどの吸収性物品において従来用いられてきたものを用いることができる。香料としては例えば、特開2007-244764号公報に記載されているグリーンハーバル様香気を有する香料、植物の抽出エキス、柑橘類の抽出エキスなどが挙げられる。
【0025】
機能性材料が有する各機能をより確実に得る観点から、吸収性物品用シートにおける機能性材料の含有量は、単位面積当たりの質量(坪量)として、好ましくは0.005g/m2以上、より好ましくは0.01g/m2以上、さらに好ましくは0.02g/m2以上である。
また、肌への刺激性及び尿等の排泄物の透過性の観点から、吸収性物品用シートにおける機能性材料の含有量は、単位面積当たりの質量(坪量)として、好ましくは1g/m2以下、より好ましくは0.5g/m2以下、さらに好ましくは0.3g/m2以下である。
【0026】
吸収性物品用シートに含有される機能性材料の坪量は、液体クロマトグラフ/質量分析計(商品名:6140 LC/MS、アジレント・テクノロジー株式会社製、イオン化法:ESI)にて測定することができる。あるいは、検量線を作成し、これに基づいて機能性材料の含有量を測定し、坪量を算出することもできる。
【0027】
吸収性物品用シートは、機能性材料以外に他の成分を含有してもよい。他の成分としては、基材シート1を製造時(湿式抄紙)に使用される各種成分が挙げられる。斯かる各種成分については、基材シート1が含む他の成分として後述する。
【0028】
吸収性物品用シートを構成する基材シート1は、繊維シートである。基材シート1は、典型的には、セルロース繊維を主体とする。セルロース繊維としては、紙の原料として使用可能なものを特に制限なく用いることができ、例えば、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)や広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等の木材パルプ、綿パルプや麻パルプ等の非木材パルプ等の天然繊維;カチオン化パルプ、マーセル化パルプ等の変性パルプ;キュプラ、レーヨン等の再生繊維等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
基材シート1は、合成繊維を含んでいてもよい。合成繊維としては、ポリビニルアルコール繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレン(PE)繊維、ポリプロピレン(PP)繊維、ポリエステル繊維等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
シートの強度をより確実に得る観点から、基材シート1は、NBKPを含むことが好ましい。NBKPの市販品の具体例としては、Cenibra(商品名、繊維粗度0.09mg/m、Cenibra社製)、Northwood(商品名、繊維粗度0.13mg/m、ConFor社製)、Cariboo(商品名、繊維粗度0.15mg/m、Cariboo Pulp and Paper Company社製)、Botnia(商品名、繊維粗度0.16mg/m、BOTNIA社製)、Alabama Pine(商品名、繊維粗度0.17mg/m、Alabama Pine,Inc社製)、ARAUCO(商品名、繊維粗度0.18mg/m、ARAUCO社製)、Crofton(商品名、繊維粗度0.2mg/m、Unifibra社製)等がある。これらのパルプは何れも、日本紙パルプ商事株式会社又は伊藤忠商事株式会社、丸紅株式会社を通じて入手することができる。
【0030】
上記と同様の観点から、基材シート1は、繊維粗度の小さいパルプ(以下、単に「細パルプ」という。)と、繊維粗度の大きい(以下、単に「太パルプ」という。)とを組み合わせて用いることが好ましい。斯かる組み合わせにおいて、細パルプと太パルプとの繊維粗度の差は、好ましくは0.01mg/m以上、より好ましくは0.02mg/m以上であり、また好ましくは0.05mg/m以下、より好ましくは0.04mg/m以下であり、また好ましくは0.01mg/m以上0.05mg/m以下、より好ましくは0.02mg/m以上0.04mg/m以下である。
基材シート1における細パルプと太パルプとの含有割合の比(細パルプ:太パルプ)は、好ましくは30:70~70:30、より好ましくは40:60~60:40である。
【0031】
基材シート1は、複数の開孔を有している。すなわち、基材シート1によって構成される吸収性物品用シートは、複数の開孔を有している。「開孔」は、基材シート1を構成する繊維間の空隙であり、基材シート1を抄造後(抄紙工程後)に、切断装置等を用いた開孔加工によって該基材シート1に形成された開孔は除外される。後述する製造方法において、基材シート1には、機能性材料を含有した液(以下、「機能性材料含有液」ともいう)が噴霧される。これにより、基材シート1に機能性材料が付与される。
シートに存する開孔はそのサイズ(開孔径)に分布を有している。体液等の排泄液についてシートの厚み方向の通液速度を高める観点、及び後述する機能性材料含有液が素早く該シートに吸収(シートの構成繊維間に保持又は構成繊維の内部に吸収)される観点から、基材シート1は、開孔径が30μm以上の開孔を有することが好ましい。また基材シート1における機能性材料含有液の保持性の観点から、基材シート1は、開孔径が300μm以下の開孔を有することが好ましい。以上の観点から、本実施形態の基材シート1は、開孔径が30μm以上300μm以下である開孔(以下、「易拡散開孔」という。)を有している。このような微小な開孔(易拡散開孔)を多数有すると、シートの表面のみでなく開孔壁面(開口部の厚み方向側面)においてシートの構成繊維と機能性材料含有液とが接触する接触面積が増すので、毛管力によって該含有液が基材シート1内部に素早く吸収され易くなるためと推察される。
【0032】
基材シート1は、易拡散開孔(開孔径が30μm以上300μm以下である開孔)の面積率が15%以上35%以下であり、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上であり、また好ましくは33%以下、より好ましくは30%以下であり、また好ましくは20%以上33%以下、より好ましくは25%以上30%以下である。斯かる構成により、基材シート1に後述する方法で機能性材料を付与した場合に、該機能性材料の保持性をより向上できる。
易拡散開孔の面積率は易拡散開孔の数に比例する傾向にある。易拡散開孔の面積率が15%未満であると、後述する機能性材料含有液が噴霧された際に、当該含有液が基材シート1に素早く吸収されずに、該シート1表面に液溜まりとなって残存することがある。この場合、吸収性物品用シートの製造ラインに用いられるガイドロール等が機能性材料含有液で汚染されるとともに、基材シート1における機能性材料の保持量が低下する。また、易拡散開孔の面積率が35%超であると、開孔と開孔との間隔が狭くなるため、機能性材料含有液の拡散方向における拡散流路の幅(面積)がトータルで狭くなり、該含有液を素早く拡散することが困難となる。この「拡散流路」は、基材シート1の開孔どうし間において、該シート1の構成繊維が存在する部分であり、該構成繊維間に働く毛管力によって液を拡散する流路として機能し得る部分である。つまり、易拡散開孔の面積率が35%超となって拡散流路の幅が低下すると、機能性材料含有液の基材シート1における平面方向の拡散性を高めることが困難になる。特に、シートにおいて開孔径が300μm超の開孔が多過ぎると、機能性材料含有液が噴霧された際に該含有液がシートを貫通するので、該含有液の供給量に対するシート中の機能性材料の保有量が低下する傾向にある。
易拡散開孔の面積率は以下の方法により測定される。
【0033】
〔易拡散開孔の面積率〕
基材シートを、MD方向に30mm、CD方向に30mmの正方形の形状で切り出し、これをサンプルとする。このサンプルを、内径約30mm、高さ約10mmの黒色リングの上に載置した状態で、マイクロスコープ(商品名:VHX-1000、株式会社キーエンス製)のステージ上に載置する。これによりサンプルをステージから離間させた状態にする。次いで、ユニバーサルズームレンズ(商品名:VH-Z20R、株式会社キーエンス製)及び広域照明アダプタ(商品名:OP-87298、株式会社キーエンス製)を用い、観察倍率を60倍にして、サンプル表面の観察領域(サンプル表面の5.5mm×3.8mmの領域)の画像を撮影する。この撮影により得られた画像を二値化処理する。具体的には、コントラストを255、ガンマを10に調整して、サンプル表面の開孔を黒色で且つ開孔以外の部分を白色で表示させる。次いで、二値化処理を施した画像に対し、解析ソフト「Image-Pro Plus(バージョン:6.2.0.424)」を用いて、各開孔の面積を測定し、サンプルにおける開孔の総面積を求める。各開孔の面積から、開孔の形状を真円とみなしたときの該開孔の直径を算出し、これを開孔径とする。次いで、前記解析ソフトを用いて、画像中の開孔のうち、前記算出した開孔径が30μm以上300μm以下である易拡散開孔を自動抽出して、易拡散開孔の総面積を求める。そして、易拡散開孔の総面積を観察領域(5.5mm×3.8mm)の面積で除し、これを易拡散開孔の面積率とする。易拡散開孔の面積率は次式で表すことができる。
易拡散開孔の面積率(%)=(易拡散開孔の総面積/観察領域の面積)×100
上記の測定を、サンプルにおける位置の異なる3か所について行い、その平均を測定値とする。
【0034】
後述する製造方法において基材シート1に噴霧された機能性材料の拡散性をより向上させる観点から、基材シート1は、該シート1の面積に対する複数の開孔の総面積率(以下、単に「複数の開孔の総面積率」という)が、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上であり、また好ましくは65%以下、より好ましくは50%以下であり、また好ましくは15%以上65%以下、より好ましくは20%以上50%以下である。複数の開孔の総面積率は、前記〔易拡散開孔の面積率〕と同様の方法を用いて測定できる。具体的には、前記観察領域中の全ての開孔の面積の総和を求め、この総和を該観察領域の面積で除し、これを複数の開孔の総面積率とする。複数の開孔の総面積率は次式で表すことができる。
複数の開孔の総面積率(%)=(複数の開孔の総面積/観察領域の面積)×100
上記の測定を前記サンプルにおける位置の異なる3か所について行い、その平均を測定値とする。
【0035】
基材シート1は、開孔径が30μm未満の開孔又は300μm超の開孔を有していてもよいが、機能性材料の保持性の観点から、開孔径が30μm未満の開孔又は300μm超の開孔の存在割合が高過ぎないことが好ましい。換言すると、易拡散開孔の存在割合が低過ぎないことが好ましい。易拡散開孔の存在割合は、複数の開孔の総面積率に対する易拡散開孔の面積率の百分率(易拡散開孔の面積率/複数の開孔の総面積率)で表すことができる。斯かる百分率を、単に「易拡散開孔率」ともいう。
機能性材料の保持性をより向上させる観点から、基材シート1は、易拡散開孔率が、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上であり、また好ましくは100%以下であり、より好ましくは80%以下であり、また好ましくは50%以上100%以下、より好ましくは60%以上80%以下である。易拡散開孔率を斯かる範囲とすることは、体液等の排泄液の通液速度及び機能性材料の保持性をより両立できる点で好ましい。
【0036】
後述する製造方法において基材シート1に噴霧された機能性材料の拡散性をより向上させる観点、及び機能性材料を含む液体による製造ラインの汚染をより抑制する観点、さらには吸収性物品用シートにおける体液等の排泄液の通液速度をより向上させる観点から、基材シート1は、粘性液体透過時間が好ましくは30秒以上、より好ましくは60秒以上であり、また好ましくは600秒以下、より好ましくは500秒以下であり、また好ましくは30秒以上600秒以下、より好ましくは60秒以上500秒以下である。前記粘性液体透過時間は以下の方法により測定される。
【0037】
〔粘性液体透過時間の測定〕
上下端が開口している内径35mmの2本の円筒91,92を、両円筒91,92の軸を一致させて上下に配し、10cm四方の測定対象シートS(基材シート1)を上下の円筒91,92間に挟み込む(
図3参照)。このとき、上側の円筒91の下端及び下側の円筒92の上端に設けられた環状のフランジ部にクリップ93を嵌合させ、上下の円筒91,92を連結させることが好ましい。符号94は、円筒91,92の内径と同径同形状の貫通孔を有するシリコーン製等のパッキンである。このように、上下の円筒91,92で測定対象シートSを挟持固定した状態で、上側の円筒91内に、
図3中符合Wで示す粘度290mPa・sの粘性液体を11g±0.1g供給する。供給された粘性液体は、測定対象のシートSを透過するか又は測定対象のシートSに吸収されて上側の円筒91内からなくなる。粘性液体の供給開始時から、粘性液体の液面が測定対象のシートSの表面(上側の円筒91側の面)から落下した質量が9.5gになるまでの時間を測定し、その時間を「粘性液体透過時間」とする。測定時の雰囲気温度と湿度は23℃±1℃、50%RH±5%RHの条件で行う。粘性液体は、グリセリンとイオン交換水とを、前者:後者=94:6の質量比で混合して調製される。粘性液体の前記粘度(290mPa・s)は、東機産業株式会社製:TM-10M形粘度計を用いて、恒温室(23℃、50%RH)の条件で測定した粘性液体の粘度である。
【0038】
強度と、後述する機能性材料含有液の拡散性のバランスの観点から、基材シート1の坪量は、好ましくは10g/m2以上、より好ましくは11g/m2以上、さらに好ましくは12g/m2以上であり、また好ましくは17g/m2以下、より好ましくは16g/m2以下、さらに好ましくは15g/m2以下であり、また好ましくは10g/m2以上17g/m2以下、より好ましくは11g/m2以上16g/m2以下、さらに好ましくは12g/m2以上15g/m2以下である。
シートの坪量は、JIS P 8111の条件にて調湿後、測定対象のシートを10cm四方に10枚切り出し、測定片とする。測定片の質量を天秤にて測定し、測定値を測定片の面積(100cm2)で除して測定片の坪量を算出する。10枚の測定片について同様の手順で坪量を算出し、その平均値をシートの坪量とする。
【0039】
乾燥時における強度をより向上させる観点から、基材シート1は、乾燥紙力剤を含有していることが好ましく、機能性材料や後述する湿潤紙力剤との間で電荷を中和できる乾燥紙力剤を含有していることがより好ましい。前記中和により、基材シート1の製造過程でフロックと呼ばれる小さな塊を多数形成できる。このフロックが形成されたまま抄紙が行われると、複雑な形をしたフロックの内部又はフロックどうし間に、適度に隙間ができる。その結果、易拡散開孔を含む複数の開孔が容易に形成されるとともに、フロックによって基材シート1の強度をより向上できる。
【0040】
乾燥紙力剤としては、カルボキシメチルセルロース、ジアルデヒドデンプン、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂等が挙げられる。乾燥紙力剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記フロックを多数形成させる観点から、中でもポリアクリルアミド樹脂等の乾燥紙力剤が好ましい。
上記と同様の観点から、前記ポリアクリルアミド樹脂の中でも、重量平均分子量が50万以上2500万以下のものが好ましく、100万以上2000万程度のものがより好ましい。
【0041】
吸収性物品用シートの湿潤時における強度をより向上させる観点から、基材シート1は湿潤紙力剤を含有していることが好ましい。湿潤紙力剤としては、例えばポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂、メラミン・ホルマリン系、尿素・ホルマリン系樹脂等が挙げられる。湿潤紙力剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。湿潤紙力剤はカチオン系の剤であることが一般的である。湿潤紙力剤自体は乾燥状態であっても湿潤状態であってもよい。湿潤紙力剤を含むと、吸収性物品用シートが排泄液を吸収しても強度をより確実に維持できる。
【0042】
基材シートは、乾燥紙力剤及び湿潤紙力剤に加え、他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、多価アルコール、界面活性剤、一般に使用される各種の溶剤、油剤、ゲル化剤、硫酸ナトリウムやN,N,N-トリメチルグリシン等の塩、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、色素、紫外線吸収剤、キレート剤等が挙げられる。これら他の成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
次に、本発明の吸収性物品用シートの製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう。)を、その好ましい一実施形態に基づき説明する。本実施形態の製造方法については、前述の吸収性物品用シートの説明では言及しなかった点を主に説明する。本実施形態の製造方法については、特に断らない限り、前述の吸収性物品用シートの説明が適宜適用される。
【0044】
本実施形態の製造方法は、基材シート1の原料を含むスラリーを調製するスラリー調製工程、該スラリーを抄造して基材シートを形成する基材シート形成工程、機能性材料及び親水性且つ不揮発性の有機溶媒を含む液を液滴径が1000μm以下となるように基材シート1に噴霧する噴霧工程、及び噴霧後の基材シート1を乾燥する乾燥工程をこの順で有する。本実施形態の製造方法は、スラリー調製工程及び基材シート形成工程を具備することによって、基材シート1の面積に対する易拡散開孔の面積率が15%以上35%以下である基材シート1を容易に形成できる。以下、各工程について説明する。
【0045】
スラリー調製工程は、基材シート形成工程(抄紙工程)で用いられるスラリーを調製する工程である。スラリー調製工程は、叩解工程及び濾過スクリーン工程を具備する。
叩解工程は、基材シート1の原料であるパルプの繊維を、機械的にほぐす工程である。パルプの叩解を行うことで、パルプの繊維表面のフィブリルが増加し、パルプ同士の水素結合を増やすことができる。これにより、基材シート1の強度を向上できる。パルプの叩解の方法としては、例えば、パルプを分散させたスラリーに対して、リファイナー、ビーター、ディスクリファイナー等の公知の叩解機を用いて、常法に従って実施することができる。
【0046】
パルプの叩解の程度(叩解度、フリーネス)は、JIS P 8121に規定するカナダ標準ろ水度(C.S.F)で示される値で判断することができる。通常、フリーネスの値が小さいほど叩解の度合いが強く、叩解による繊維の損傷が大きくてフィブリル化が進行していることを示す。
加工時の紙力強度と生産性との両立の観点から、製造例における叩解度は好ましくは300mL以上、より好ましくは400mL以上であり、また好ましくは700mL以下、より好ましくは650mL以下、さらに好ましくは580mL以下である。
【0047】
叩解工程では、パルプを分散させたスラリー(抄紙原料)に湿潤紙力剤を添加することが好ましい。斯かる構成により、湿潤紙力剤をスラリーに添加してから、後述する濾過スクリーン工程を行うことで、湿潤紙力剤をスラリー中に均一に分散させられる。
吸収性物品用シートの湿潤時における強度をより向上させる観点から、湿潤紙力剤の添加量は、スラリー中の全パルプの乾燥質量に対して好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、また好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。
【0048】
濾過スクリーン工程は、パルプを分散させたスラリー(抄紙原料)を篩に掛ける工程である。濾過スクリーンにより、スラリー中の異物を除去できるとともに、スラリーを均一に分散させることができる。
濾過スクリーンの方法は、特に限定されない。例えば、公知の濾過スクリーン装置を用いて、毎分1トン程度のスラリーを篩に掛ける方法が挙げられる。
濾過スクリーン工程によって得られたスラリーには、必要に応じ、乾燥紙力剤など、湿式抄紙で通常使用される抄紙原料が含有されてもよい。前記スラリーの固形分濃度は、通常0.005~0.2質量%程度である。
【0049】
吸収性物品用シートの強度をより向上させる観点から、乾燥紙力剤の添加量は、スラリー中の全パルプの乾燥質量に対して好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.02質量%以上であり、また好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。
【0050】
基材シート形成工程は、前記スラリーを用いて基材シート1を形成する工程であり、抄紙工程及び湿紙乾燥工程を具備する。
抄紙工程は、スラリー調製工程で調製したスラリー(繊維の水分散液)中の固形分を抄紙網で抄き上げて該抄紙網の表面に湿紙を形成する工程である。また、得られた湿紙に対し、圧搾等を施して、該湿紙を脱水する。斯かる抄紙工程は、従来公知の湿式抄紙機を用い常法に従って実施することができる。典型的な湿式抄紙機は、湿紙の搬送方向における抄紙網の下流に、該湿紙を圧搾脱水するプレスロール等の加圧手段を備えている。脱水後の湿紙の含水率は通常、20~85質量%程度である。
湿紙乾燥工程は、抄紙工程により得られた湿紙を、ヤンキードライヤーやエアースルードライヤー等を用いて乾燥する。これにより、基材シート1が得られる。
【0051】
噴霧工程は、基材シート1に、機能性材料及び有機溶媒を含む液、すなわち機能性材料含有液を噴霧する工程である。機能性材料含有液において機能性材料は、溶解した状態又は分散した状態となる。すなわち、機能性材料含有液は、機能性材料の溶解液、又は機能性材料の分散液である。
【0052】
機能性材料含有液は、親水性且つ不揮発性の有機溶媒を含んでいる。有機溶媒が親水性であるとは、25℃の水に対する有機溶媒の溶解度が10質量%以上であることをいう。有機溶媒の溶解度は次の方法によって測定することができる。25℃の純水100gに対して、有機溶媒を投入し、スターラー又は振とう機で撹拌して溶解させ、10分撹拌しても溶解できない直前の投入量を、当該25℃の水に対する有機溶媒の溶解度とする。
【0053】
機能性材料含有液に用いられる有機溶媒としては、親水性を有するものが好適に挙げられる。例えば二価アルコール(ジオール)、三価アルコール(トリオール)及び四価以上のアルコール等のような多価アルコールといった親水性有機溶媒が挙げられる。これら多価アルコールにおけるアルキル基の炭素数は、好ましくは2以上18以下、より好ましくは2以上10以下、さらに好ましくは2以上4以下である。
【0054】
機能性材料含有液に用いられる有機溶媒は、上述した親水性を有することに加えて、不揮発性を有する。「不揮発性を有する」有機溶媒は、25℃における蒸気圧が30Pa以下の有機溶媒であり、当該蒸気圧が、20Pa以下であることが好ましく、15Pa以下であることがより好ましく、10Pa以下であることがさらに好ましい。
不揮発性を有する有機溶媒として、多価アルコールのうち炭素数が2以上4以下である低級二価アルコール又はその重合体を用いることが好ましい。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、及びポリブチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性有機溶媒を用いることが好ましい。これらの親水性且つ不揮発性の有機溶媒は、人体に対する安全性が高く、悪臭を生じることがなく、除去工程が不要であり、引火や爆発のおそれが低い点で吸収性物品用シートに好適に用いられる。プロピレングリコールとしては、1,2-プロピレングリコール及び1,3-プロピレングリコールを用いることができる。ブチレングリコールとしては、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール及び2,3-ブチレングリコールを用いることができる。
以下、親水性且つ不揮発性の有機溶媒を単に「有機溶媒」という。
【0055】
機能性材料の分散性及び基材シート1における機能性材料の拡散性をより向上させる観点から、機能性材料含有液における有機溶媒の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、また好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下であり、また好ましくは30質量%以上95質量%以下、より好ましくは40質量%以上90質量%以下である。
【0056】
上記と同様の観点から、機能性材料含有液における機能性材料の含有量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、また好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下であり、また好ましくは0.5質量%以上50質量%以下、より好ましくは5質量%以上30質量%以下である。
【0057】
機能性材料含有液は、機能性材料及び有機溶媒以外に、水、天然エキス、酸性、アルカリ性の緩衝剤、キレート剤等の他の成分を含有していてもよい。
基材シート1における機能性材料の拡散性をより向上させる観点から、機能性材料含有液は水を含有することが好ましい。
上記と同様の観点から、機能性材料含有液における水の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましく10質量%以上であり、また好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下であり、また好ましくは1質量%以上50質量%以下、より好ましくは5質量%以上45質量%以下である。機能性材料含有液中の水の含有量を斯かる範囲とすると、後述する乾燥工程において、外部から強制的に加熱を行う設備(ヤンキードライヤーや熱風乾燥炉等)を使用することなく、基材シートを自然乾燥で乾燥できる点で好ましい。
また、機能性材料を含む組成物を用いて機能性材料含有液を調製する場合、該組成物が、機能性材料とともに水を含有していることがある。この場合、機能性材料含有液における水の含有量は、前記組成物における水の含有量を合算した上で、上述した範囲内にすることが好ましい。
【0058】
噴霧工程では、スプレーを用いて、基材シート1に機能性材料含有液を噴霧する。この際、機能性材料含有液の液滴径が1000μm以下となるように噴霧する。
基材シート1における機能性材料含有液の拡散性をより向上させる観点から、機能性材料含有液の液滴径は、好ましくは10μm以上、より好ましくは100μm以上であり、また好ましくは800μm以下、より好ましくは600μm以下であり、また好ましくは10μm以上800μm以下、より好ましくは100μm以上600μm以下である。液滴径の測定方法は、後述する実施例で詳述する。
【0059】
液滴径は、スプレーノズルの噴射孔の周囲を構成する部材のオリフィス径によって調整できる。噴霧工程で用いられるスプレーのノズルのオリフィス径は、好ましくは200μm以上、より好ましくは300μm以上であり、また好ましくは800μm以下、より好ましくは700μm以下であり、また好ましくは200μm以上800μm以下、より好ましくは300μm以上700μm以下である。
【0060】
基材シート1における機能性材料の拡散性及び製造装置の汚染の抑制を両立させる観点から、噴霧工程では、機能性材料含有液が以下の範囲の粘度を有する状態で噴霧することが好ましい。機能性材料含有液の粘度は、好ましくは5mPa・s以上、より好ましくは10mPa・s以上であり、また好ましくは50mPa・s以下、より好ましくは40mPa・s以下であり、また好ましくは5mPa・s以上50mPa・s以下、より好ましくは10mPa・s以上40mPa・s以下である。基材シート1は前述したように複数の開孔を有するので、液体の透過性を有する。本発明者らは、透過性を有するシートに、粘度が低い機能性材料含有液を噴霧すると、該機能性材料含有液がシートを透過し易くなって、製造装置の汚染を悪化させると予想していた。しかしながら、当該予想に反し、機能性材料含有液の粘度を上述した範囲にすることで、基材シート1における機能性材料含有液の拡散性がより良好となり、該基材シート1に機能性材料をより良好に保持できることを知見した。
【0061】
上記と同様の観点から、機能性材料含有液の粘度は、少なくとも基材シート1への噴霧時において、上述した範囲内であることが好ましい。斯かる粘度は、例えば機能性材料含有液の温度を調整することによって、調整できる。機能性材料含有液の粘度は、スプレー噴霧する直前の機能性材料含有液を採取し、噴霧時の温度を維持した状態で測定する。この測定にはB型粘度計(例えば東機産業株式会社製 TVB-10形粘度計)を用いる。
製造効率をより向上させる観点から、25℃における機能性材料含有液の粘度が上述した範囲内であることが好ましい。
【0062】
噴霧時の機能性材料含有液の温度は、好ましくは20℃以上、より好ましくは22℃以上であり、また60℃以下、より好ましくは50℃以下であり、また好ましくは20℃以上60℃以下、より好ましくは22℃以上50℃以下である。機能性材料含有液の温度を斯かる範囲にすることで、水の含有量を減らしても機能性材料含有液の粘度を上述した範囲内に調整し易くできる。
【0063】
本発明者らは、易拡散開孔の面積率が15%以上35%以下である基材シート1に、液滴径が1000μm以下となるよう機能性材料含有液を噴霧すると、該基材シート1に機能性材料含有液が良好に拡散することを見出した。より具体的には、基材シート1に噴霧された機能性材料含有液(
図1における符号2)は、
図1に示すように、易拡散開孔(
図1において図示せず)から基材シート1に浸み込み、基材シート1の厚み方向Zだけでなく、該基材シート1の平面方向に拡散することを見出した。その結果、機能性材料含有液が基材シート1を過度に透過せず、該機能性材料含有液を効率的に基材シート1に保持できることを見出した。特に、基材シート1の粘性液体透過時間が600秒以下であると、機能性材料含有液の透過性が高く、機能性材料含有液を保持し難いことが予測されていたが、この予測に反し、基材シート1中に機能性材料含有液を良好に保持し得ることを知見した。したがって、本実施形態の製造方法で得られる吸収性物品用シートは、機能性材料を十分に保持し得る。
また、基材シート1における機能性材料含有液の拡散性に優れることにより、機能性材料含有液が基材シート1を透過する量や、機能性材料含有液が基材シート1表面に残存する量を抑制できる。これにより、基材シート1を透過した機能性材料含有液、又は基材シート1表面に残存した機能性材料含有液によって、吸収性物品用シートの製造装置を汚染することを効果的に抑制できる。
【0064】
一方、易拡散開孔の面積率が15%未満又は35%超の基材シート1´を用いたり、液滴径が1000μm超となるように機能性材料含有液を噴霧したりすると、機能性材料含有液2が、基材シート1´の厚み方向に集中して拡散し、該基材シート1´を透過し易くなる(
図2参照)。また、基材シート1´の表面に機能性材料含有液が残存し易くなって、液溜まりが生じる。その結果、この基材シート1´を透過した機能性材料含有液、又は基材シート1´表面に残存した機能性材料含有液によって、吸収性物品用シートの製造装置が汚染され易くなる。
【0065】
機能性材料をより確実に保持する観点から、噴霧工程では、噴霧後の基材シート1における機能性材料が十分量となるように、機能性材料含有液を噴霧することが好ましい。具体的には、噴霧後の基材シート1における機能性材料の存在量が、好ましくは0.01g/m2以上、より好ましくは0.03g/m2以上であり、また好ましくは2g/m2以下、より好ましくは1g/m2以下であり、また好ましくは0.01g/m2以上2g/m2以下、より好ましくは0.03g/m2以上1g/m2以下である。
前記機能性材料の存在量は、噴霧前の基材シート1の質量と噴霧後の基材シート1の質量との差から、基材シート1に保持された機能性材料含有液の質量を算出し、当該質量と該機能性材料含有液における機能性材料の濃度とに基づいて算出される。
【0066】
乾燥工程は、機能性材料含有液の噴霧後の基材シート1を乾燥する工程である。これにより、吸収性物品用シートが得られる。乾燥工程は、前述したヤンキードライヤーやエアースルードライヤー(熱風乾燥炉)等を用いて、基材シート1を加熱乾燥してもよい。本明細書において「加熱乾燥」は、電熱体や熱風、雰囲気温度を50℃以上にして基材シート1を乾燥することを意味する。
乾燥工程では水分が主に乾燥されるが、乾燥工程後の水分率が基材シートに対して0%以上5質量%以下とすることが、強度の高い吸収性物品用シートを得る点やカビなどの発生を防ぐ点で好ましい。
機能性材料の保持性をより向上させる観点から、機能性材料含有液の噴霧後の基材シート1は、好ましくは50℃未満、より好ましくは30℃未満の雰囲気温度で乾燥する。また、機能性材料含有液を噴霧後の基材シート1は、好ましくは1%RH以上80%RH以下、より好ましくは3%RH以上70%RH以下の雰囲気湿度で乾燥する。斯かる雰囲気湿度にすることは、湿度を下げるための除湿器等といった設備の電力消費量を抑える点、及び十分にシートを乾燥できる点から好ましい。
【0067】
機能性材料をより確実に保持する観点から、乾燥工程では、乾燥後の基材シート1における機能性材料が十分量となるように、基材シート1を乾燥することが好ましい。具体的には、乾燥後の基材シート1における有機溶媒の存在量が、好ましくは0.01g/m2以上、より好ましくは0.02g/m2以上であり、また好ましくは3g/m2以下、より好ましく2g/m2以下であり、また好ましくは0.01g/m2以上3g/m2以下、より好ましくは0.02g/m2以上2g/m2以下である。
乾燥後の基材シート1(吸収性物品用シート)における有機溶媒の存在量は、液体クロマトグラフ/質量分析計(商品名:6140 LC/MS、アジレント・テクノロジー株式会社製、イオン化法:ESI)にて測定することができる。あるいは、検量線を作成し、これに基づいて有機溶媒の含有量を測定し、その存在量を算出することもできる。
【0068】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は上述した実施形態及び実施態様に限定されない。
例えば、基材シート1は、乾燥紙力剤及び湿潤紙力剤の何れか一方又は双方を含有するものであってもよく、これら紙力剤を含有しないものであってもよい。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0070】
〔実施例1〕
上述した実施形態の製造方法により吸収性物品用シートを作製した。先ず、繊維粗度が互いに異なる第1パルプ(NBKP)及び第2パルプ(NBKP)を水に分散させてスラリーを得、該スラリーを叩解機にかけて、パルプの叩解度を600mLに調整した。スラリー中の細パルプと太パルプとの含有割合の比(細パルプ:太パルプ)は50:50であった。得られたスラリーに、湿潤紙力剤としてポリアミド・エピクロロヒドリン水溶液(星光PMC株式会社製、商品名「湿潤紙力剤WS4024」)を、スラリー中の全パルプの乾燥質量に対して0.6質量%添加した。次いで、各成分が均一になるように十分に撹拌し、固形分濃度0.15質量%のスラリーを調製した。さらに該スラリーに乾燥紙力剤としてポリアクリルアミド水溶液(重量平均分子量250万、両性ポリアクリルアミド)を、スラリー中の全パルプの乾燥質量に対して0.1質量%添加した。このスラリーに対し、濾過スクリーン(相川鉄工株式会社製)を用いて濾過スクリーン工程を実施した。
次いで、円網抄紙機にスラリーを投入し、抄紙を行って湿紙を作製し、これをプレスロールで脱水した。この湿紙を、ヤンキードライヤー(川之江造機株式会社製)を用いて乾燥し、基材シートを製造した。
次いで、ミーニスプレー150(松吉医科器械株式会社製、オリフィス径500μm)を用いて、基材シートに下記表1に示す組成の機能性材料含有液を23℃に設定して噴霧した。この噴霧する直前の機能性材料含有液を採取し、噴霧時の温度を維持しながら該機能性材料含有液の粘度を測定した。粘度の測定は、上述した東機産業株式会社製TVB-10形粘度計を用いた。実施例1において噴霧時の機能性材料含有液は23℃であった。そして、噴霧後の基材シート1を温度23℃、湿度50%RHの雰囲気下で自然乾燥し、吸収性物品用シートを製造した。機能性材料含有液の粘度及び噴霧条件を下記表1に示す。
機能性材料含有液は、抗菌剤である塩化ベンザルコニウムを含む組成物(日油株式会社製、商品名「カチオンM2」、水の含有量9質量%)、有機溶媒、及び水を混合して調製した。表1では、斯かる組成物中の塩化ベンザルコニウムを「塩化ベンザルコニウム1」と表す。有機溶媒としては、プロピレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名「プロピレングリコール、和光特級」)を用いた。
【0071】
実施例1で用いた抗菌剤を含む組成物(「カチオンM2」)は、抗菌剤とともに水を含有する組成物である。後述する実施例2~8及び比較例1~3についても、抗菌剤とともに水を含有する組成物を用いて、機能性材料含有液を調製した。表1では、機能性材料含有液における水の含有量(質量%)を、前記組成物に含まれる水分量との合算で示している。
【0072】
〔実施例2~5〕
実施例2~5については、抗菌剤である塩化ベンザルコニウムを含む組成物(花王株式会社製、商品名「サニゾールB50」、水分率50質量%)を用いて、機能性材料含有液を調製した。表1では、斯かる組成物中の塩化ベンザルコニウムを「塩化ベンザルコニウム2」と表す。異なる機能性材料を用いた点、機能性材料含有液の組成、及び噴霧条件を下記表1に示すように変更した点以外は、実施例1と同様の方法により、吸収性物品用シートを製造した。
【0073】
〔実施例6〕
実施例6では、パルプの叩解度を580mLに変更し、且つ乾燥紙力剤を添加しないでスラリーを調製した点、機能性材料含有液の組成、並びに噴霧条件を下記表1に示すように変更した点以外は、実施例2と同様の方法により、吸収性物品用シートを製造した。
【0074】
〔実施例7〕
実施例7では、第2パルプ(NBKP)のみを用いて、叩解度を650mLに調整した。また、乾燥紙力剤を添加せず、且つスラリー中の全パルプの乾燥質量に対する湿潤紙力剤の添加量を0.5質量%にしてスラリーを調製した。得られたスラリーは、固形分濃度0.18質量%であった。また、基材シートに下記表1に示す組成の機能性材料含有液を40℃に設定して噴霧した。噴霧時の液滴径は498μmであった。以上の点以外は、実施例1と同様の方法により、吸収性物品用シートを製造した。
表1に示す実施例7の機能性材料含有液の粘度は、該含有液を40℃にした状態の粘度である。
【0075】
〔実施例8〕
実施例8では、叩解度を650mLに調整した点、実施例1と同じ湿潤紙力剤を、スラリー中の全パルプの乾燥質量に対して0.7質量%添加した点、濾過スクリーンを用いて濾過スクリーン工程を実施した後、乾燥紙力剤としてポリアクリルアミド水溶液(重量平均分子量、1700万、イオン性、弱アニオン)を、スラリー中の全パルプの乾燥質量に対して0.04質量%添加した点、以外は、実施例1と同様の方法により、吸収性物品用シートを製造した。実施例8で得られたスラリーは、固形分濃度0.18質量%であった。
【0076】
〔実施例9〕
実施例9では、機能性材料として、抗菌剤であるピロクトンオラミン(クラリアント株式会社製、商品名「オクトピロックス」、抗菌成分100質量%)を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、吸収性物品用シートを製造した。
【0077】
〔比較例1〕
比較例1では、パルプの叩解度を450mLに調整した点以外は、実施例7と同じスラリー調製条件でスラリーを調製した。比較例1で得られたスラリーは、固形分濃度0.18質量%であった。また、機能性材料含有液は実施例3と同様のものを用い、且つ実施例3と同じ噴霧条件によって、吸収性物品用シートを製造した。
【0078】
〔比較例2及び3〕
比較例2では、機能性材料含有液として、表1の比較例2に示す組成のものを用いた。斯かる点以外は、実施例6と同様の方法により、吸収性物品用シートを製造した。噴霧時の液滴径は1000μm超であった。
比較例3では、機能性材料含有液の温度を10℃に設定して噴霧した点以外は、比較例2と同様の方法で吸収性物品用シートを製造した。すなわち、噴霧直前の機能性材料含有液は10℃であった。斯かる温度設定は、冬季の製造条件を想定したものである。表1に示す比較例3の機能性材料含有液の粘度は、該含有液を10℃にした状態の粘度である。
【0079】
〔基材シートの粘性液体透過時間〕
温度:23℃、湿度:50%RHの恒温室内で、各実施例及び各比較例の製造方法で得られた基材シートについて、上述した方法により粘性液体透過時間を測定した。また、粘性液体透過時間が600秒以下であった場合をAで、該粘性液体透過時間が600秒超であった場合をBで評価した。
【0080】
〔液滴径の測定〕
温度:23℃、湿度:50%RHの恒温室内で、噴霧工程の噴霧により発生した機能性材料含有液の液滴の液滴径を以下の方法により測定した。先ず、直径5cmのシャーレにシリコンオイルを2g添加した。次いで、上記の噴霧条件で機能性材料含有液をシャーレ内に1回噴霧し、噴霧後3分以内にマイクロスコープ(株式会社キーエンス製)を用いて、該シャーレ内を拡大観察した。次いで、観察視野内の機能性材料含有液の粒子のうち、サイズが大きい上位10個の粒子を選択して、これら10個の粒子の粒子径を測定した。そして、これら10個の粒子の粒子径の平均を液滴径とした。
【0081】
〔液溜まりの評価〕
温度:23℃、湿度:50%RHの恒温室内で、各実施例及び各比較例の噴霧条件による噴霧後の基材シートについて、その表面に液溜まりが生じたか否かを目視で確認し、液溜まりが生じなかった場合をAで、液溜まりが生じた場合をBで評価した。斯かる評価は、基材シートの表面に機能性材料含有液が残存するか否かによって、Aであるか又はBであるかを判断した。具体的には、機能性材料含有液が、基材シートの表面に残存せずに該基材シート中に浸み込んだ場合をAと評価し、機能性材料含有液が、前記表面上に残存した場合をBと評価した。
【0082】
〔機能性材料含有液の透過量〕
温度:23℃、湿度:50%RHの恒温室内で、基材シート1枚を30cm×20cmの枠に固定し、これを27cm×18cmのアルミホイル上に載置した。次いで、シートの法線方向に1m離間した位置(シートから高さ1m離間した位置)に、機能性材料含有液を100g充填したミーニスプレー150(松吉医科器械株式会社製、オリフィス径500μm)を固定し、シートに向けて3回、機能性材料含有液を噴霧した。そして、噴霧1分後にシート下のアルミホイルに付着している機能性材料含有液の重量を測定し、該重量とアルミホイルの面積とに基づき、機能性材料含有液の透過量(mg/m2)を算出した。
【0083】
〔吸収性物品用シートにおける有機溶媒の存在量〕
乾燥後の基材シート(吸収性物品用シート)について、該シートにおける有機溶媒の存在量を上述した方法により測定した。表1では、斯かる存在量について、有機溶媒の坪量(g/m2)と、下記式で求めた質量%とで示している。
質量%={有機溶媒の坪量÷(基材シートの坪量+機能性材料の坪量+有機溶媒の坪量)}×100
【0084】
〔機能性材料含有液の歩留まり〕
上述した機能性材料含有液の透過量に基づき、噴霧した機能性材料の量に対する、基材シートに保持された機能性材料の量の百分率(%)を算出した。斯かる百分率(%)を、以下「機能性材料含有液の歩留まり」ともいう。機能性材料含有液の歩留まりが高いほど、基材シート(吸収性物品用シート)における機能性材料の保持性が高いと評価できる。
また、上述した方法により、噴霧後の基材シートにおける機能性材料の存在量を算出した。表1では、斯かる存在量について、機能性材料の坪量(g/m2)と、下記式で求めた質量%とで示している。
質量%={機能性材料の坪量÷(基材シートの坪量+機能性材料の坪量+有機溶媒の坪量)}×100
【0085】
【0086】
表1の結果から明らかなとおり、易拡散開孔の面積率が15%以上35%以下の基材シートに対し、液滴が1000μm以下となるように機能性材料含有液を噴霧した実施例1~9では、機能性材料含有液の透過量が少なく、液溜まりが生じ難い結果となった。この結果から、機能性材料含有液による製造装置への汚染を効果的に抑制し得ることが示された。また、実施例1~9では、機能性材料含有液の歩留まりが高い結果となり、吸収性物品用シートにおける機能性材料の保持性が高いことが示された。
実施例1~9の対比では、機能性材料含有液の粘度が低いほど、液滴径が小さくなる傾向があり、また機能性材料の保持性が高い結果となった。
【符号の説明】
【0087】
1,1´ 基材シート
2 機能性材料含有液の液滴
91,92 円筒
93 クリップ
94 パッキン
S シート