(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】免震装置を交換するために使用されるジャッキ構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240827BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20240827BHJP
B66F 3/36 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
E04G23/02 C
B66F3/36
(21)【出願番号】P 2021021790
(22)【出願日】2021-02-15
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河井 慶太
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亨
(72)【発明者】
【氏名】小田 稔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 絵里
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-194077(JP,A)
【文献】登録実用新案第3229132(JP,U)
【文献】特開2017-053138(JP,A)
【文献】特開2008-163636(JP,A)
【文献】特開昭63-180740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04G 23/02,23/06
B66F 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造物と上部構造物との間の免震層に配置された免震装置を交換するために使用されるジャッキ構造であって、
前記上部構造物を持ち上げるためのジャッキ本体と、
前記ジャッキ本体と前記下部構造物又は前記上部構造物との間に配置され、前記ジャッキ本体と協働して前記上部構造物を支持し、
前記上部構造物を支持した状態での所定規模以上の地震時に崩壊するように構成された崩壊可能部材とを備え、
前記崩壊可能部材は、平面視で環状をなす枠体と、互いに離間可能な状態で前記枠体の内側に充填され
、前記枠体に拘束されることで前記上部構造物から鉛直荷重を受ける複数の粒状体とを含み、前記枠体は、前記所定規模以上の地震時に前記粒状体を
前記枠体による拘束から解放するように構成され
、
前記崩壊可能部材は、前記ジャッキ構造による前記上部構造物の持ち上げ高さ以上の上下方向厚さを有し、
前記崩壊可能部材の崩壊により、前記上部構造物を自重降下させ前記免震装置に支持させるように構成されたことを特徴とするジャッキ構造。
【請求項2】
前記枠体は、平面視で前記粒状体を包囲するように環状に配置された、前記粒状体よりも小さな粒径の砂を含む砂層を含むことを特徴とする請求項1に記載のジャッキ構造。
【請求項3】
前記枠体は、平面視で前記粒状体を包囲するように環状に配置され、前記所定規模以上の地震時に、少なくとも部分的に側部が開放されるように構成された容器を含むことを特徴とする請求項1に記載のジャッキ構造。
【請求項4】
前記枠体は、
平面視で前記粒状体を包囲するように環状に配置された、前記粒状体よりも小さな粒径の砂を含む砂層と、
平面視で前記砂層の外側に環状に配置され、前記所定規模以上の地震時に、少なくとも部分的に側部が開放されるように構成された容器とを含むことを特徴とする請求項1に記載のジャッキ構造。
【請求項5】
一端部が前記下部構造物及び前記上部構造物の一方に固定された牽引部材と、
前記ジャッキ本体及び前記崩壊可能部材を前記下部構造物及び前記上部構造物の前記一方に対して水平変位可能とするべく、前記下部構造物及び前記上部構造物の前記一方と前記ジャッキ本体及び前記崩壊可能部材と間に配置された滑り支承とを更に備え、
前記容器は、少なくとも2つの側壁部材と、前記少なくとも2つの側壁部材の一端部を互いに連結するべく、前記少なくとも2つの側壁部材の前記一端部に離脱可能に取り付けられ、前記牽引部材の他端部が連結されたクリップとを含み、
前記所定規模以上の地震時に、前記クリップが前記牽引部材に引っ張られて前記少なくとも2つの側壁部材の前記一端部から離脱することにより、前記側部が開放されることを特徴とする請求項3又は4に記載のジャッキ構造。
【請求項6】
前記枠体は、前記側部の周方向の開放長さが大きくなる方向に前記少なくとも2つの側壁部材を付勢する付勢部材を含むことを特徴とする請求項5に記載のジャッキ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建物等の構造物における下部構造物と上部構造物との間の免震層に配置された免震装置を交換するために使用されるジャッキ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物等の構造物において、下部構造物と上部構造物との縁を切り、両者の間に免震装置を設置して、地震時における上部構造物の揺れを減らす免震構造が広く採用されている。免震構造物において、免震装置が損傷した場合や、免震装置に不具合が発見された場合は、免震装置の交換が要求される。
【0003】
特許文献1には、免震装置の交換を行いやすくするための間隔をあけるために上部構造物をジャッキによって持ち上げている間に、車輪を備える治具を用いて免震装置を交換することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
極めて稀なことではあるが、免震装置を交換中に地震が生じるおそれがある。ジャッキによって上部構造物を持ち上げている間は、免震構造物から免震性が失われた状態となり、地震が起きている間にそのような状態が維持されると、免震構造物が損傷するおそれがある。
【0006】
ジャッキを急速にストロークダウンさせれば、上部構造物が免震装置に支持されるため、免震構造物の免震性が回復する。しかし、ジャッキを急速にストロークダウンさせることは困難である。例えば、油圧ジャッキの場合、オイルを流し込むことによりストロークが伸び、オイルをジャッキから抜くことによってストロークが縮むが、オイルがジャッキから抜けるのに時間がかかるため、地震が起きている間にジャッキ本体を急速にストロークダウンできない。
【0007】
このような問題に鑑み、本発明は、免震装置を交換するために使用されるジャッキ構造において、所定規模以上の地震時に、ジャッキにより持ち上げられていた上部構造物が速やかに免震装置に支持された状態に移行できるジャッキ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある実施形態は、下部構造物(2)と上部構造物(3)との間の免震層(4)に配置された免震装置(5)を交換するために使用されるジャッキ構造(8)であって、前記上部構造物(3)を持ち上げるためのジャッキ本体(9)と、前記ジャッキ本体(9)と前記下部構造物(2)又は前記上部構造物(3)との間に配置され、前記ジャッキ本体(9)と協働して前記上部構造物(3)を支持し、前記上部構造物を支持した状態での所定規模以上の地震時に崩壊するように構成された崩壊可能部材(11,11a)とを備え、前記崩壊可能部材(11,11a)は、平面視で環状をなす枠体(16,16a)と、互いに離間可能な状態で前記枠体(16,16a)の内側に充填され、前記枠体に拘束されることで前記上部構造物から鉛直荷重を受ける複数の粒状体(17)とを含み、前記枠体(16,16a)は、前記所定規模以上の地震時に前記粒状体(17)を前記枠体による拘束から解放するように構成され、前記崩壊可能部材は、前記ジャッキ構造による前記上部構造物の持ち上げ高さ以上の上下方向厚さを有し、前記崩壊可能部材の崩壊により、前記上部構造物を自重降下させ前記免震装置に支持させるように構成されたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、所定規模以上の地震時に崩壊可能部材が崩壊するため、ジャッキ構造の上下方向長さが短くなり、上部構造が速やかに免震装置に支持された状態に移行できる。
【0010】
本発明のある実施形態は、上記構成において、前記枠体(16,16a)は、平面視で前記粒状体(17)を包囲するように環状に配置された、前記粒状体(17)よりも小さな粒径の砂を含む砂層(18)を含むことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、崩壊可能部材が崩壊する時に粒状体が砂層に衝突するため、側方に飛び出した粒状体が作業員に衝突することを抑制でき、安全性が高まる。
【0012】
本発明のある実施形態は、上記の第1の構成において、前記枠体(16,16a)は、平面視で前記粒状体(17)を包囲するように環状に配置され、前記所定規模以上の地震時に、少なくとも部分的に側部が開放されるように構成された容器(19,19a)を含むことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、容器に粒状体が受容されるため、通常時(非地震時)における粒状体の拘束の確実性が向上する。
【0014】
本発明のある実施形態は、上記の第1の構成において、前記枠体(16,16a)は、平面視で前記粒状体(17)を包囲するように環状に配置された、前記粒状体(17)よりも小さな粒径の砂を含む砂層(18)と、平面視で前記砂層(18)の外側に環状に配置され、前記所定規模以上の地震時に、少なくとも部分的に側部が開放されるように構成された容器(19,19a)とを含むことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、容器によって通常時(非地震時)における粒状体の拘束の確実性が向上し、砂層によって地震時における作業員に対する安全性が高まる。
【0016】
本発明のある実施形態は、上記の容器を含む構成の何れかにおいて、一端部が前記下部構造物(2)及び前記上部構造物(3)の一方に固定された牽引部材(13)と、前記ジャッキ本体(9)及び前記崩壊可能部材(11,11a)を前記下部構造物(2)及び前記上部構造物(3)の前記一方に対して水平変位可能とするべく、前記下部構造物(2)及び前記上部構造物(3)の前記一方と前記ジャッキ本体(9)及び前記崩壊可能部材(11)と間に配置された滑り支承(10)とを更に備え、前記容器(19,19a)は、少なくとも2つの側壁部材(20,20a)と、前記少なくとも2つの側壁部材(20,20a)の一端部を互いに連結するべく、前記少なくとも2つの側壁部材(20,20a)の前記一端部に離脱可能に取り付けられ、前記牽引部材(13)の他端部が連結されたクリップ(21)とを含み、前記所定規模以上の地震時に、前記クリップ(21)が前記牽引部材(13)に引っ張られて前記少なくとも2つの側壁部材(20,20a)の前記一端部から離脱することにより、前記側部が開放されることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、地震時の相対的変位量に応じて容器の側部が開放されるため、所定規模以上の地震時における容器の側部の開放の確実性が向上する。
【0018】
本発明のある実施形態は、直上に記載した構成において、前記枠体(16,16a)は、前記側部の周方向の開放長さが大きくなる方向に前記少なくとも2つの側壁部材(20,20a)を付勢する付勢部材(23,23a)を含むことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、クリップによる拘束が解かれた後の側壁部材が付勢部材によって付勢されるため、容器の側部の開放幅が拡がり、崩壊可能部材の崩壊速度を速めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、所定規模以上の地震時に、ジャッキにより持ち上げられていた上部構造物が速やか免震装置に支持された状態に移行できるジャッキ構造を提供ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係るジャッキ構造を用いて上部構造物を持ち上げた状態を示す正面図
【
図2】
図1に示す状態から地震が起こった時の状態を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1及び
図2に示すように、免震建物1は、下部構造物2と、上部構造物3と、両者の間の免震層4に設置された積層ゴム等の免震装置5を備える。免震装置5の下面は、下部構造物2に設けられた下部基礎6に締結具(図示せず)等によって固定され、免震装置5の上面は、上部構造物3に設けられた上部基礎7に締結具(図示せず)等によって固定されている。
【0023】
免震装置5を交換するために、ジャッキ構造8は使用される。免震装置5の交換手順について説明する。ジャッキ構造8は下部構造物2と上部構造物3との間に配置される。免震装置5の上部構造物3に対する固定を解除した後、ジャッキ構造8のストロークを伸ばし、上部構造物3を持ち上げる。免震装置5を交換した後、ジャッキ構造8のストロークを縮め、上部構造物3を交換した免震装置5に支持させる。
【0024】
ジャッキ構造8の詳細について説明する。ジャッキ構造8は、下部構造物2と上部構造物3との間に配置されてストロークが伸縮するジャッキ本体9と、下部構造物2とジャッキ本体9との間に配置された滑り支承10と、ジャッキ本体9と上部構造物3との間に配置された崩壊可能部材11と、一端部が固定具12を介して下部構造物2に固定され、他端部が崩壊可能部材11に連結された牽引部材13とを備える。
【0025】
ジャッキ本体9は、例えば油圧ジャッキであり、鉛直方向のストロークが伸縮するように配置される。
【0026】
滑り支承10は、下部構造物2の上面に載置された滑り板14と、滑り板14上を滑る滑り材15とを含む。滑り板14は、例えばステンレス製の鋼板によって形成され、滑り材15は、例えば、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)板や鋼板によって形成される。滑り材15の上にジャッキ本体9の下端部が固定される。
【0027】
図3は、崩壊可能部材11の平面図である。崩壊可能部材11は、ジャッキ本体9の上面に載置された円筒形状の枠体16と、枠体16内に充填された複数の粒状体17とを含む。枠体16は、上下が開放されている。崩壊可能部材11は、ジャッキ構造8による上部構造物3の持ち上げ高さ以上の上下方向厚さを有する。
【0028】
枠体16は、粒状体17よりも小さな粒径の砂を含み、粒状体17を包囲する円筒形状をなすように、ジャッキ本体9の上面に載置された砂層18と、砂層18の外周面に密着した円筒形状をなす容器19とを含む。容器19は、所定規模以上の地震時に、少なくとも部分的に側部が開放されるように構成されている。枠体16、砂層18及び容器19の形状は、通常時に粒状体17がこぼれないように平面視で環状であれば、円筒形状でなくともよい。
【0029】
容器19は、平面視で概ね半円の円弧形状をなす2つの側壁部材20と、2つの側壁部材20の一端部を連結するクリップ21と、2つの側壁部材20の他端部を連結するヒンジ22と、各々の側壁部材20に対して取り付けられた付勢部材23とを含む。
【0030】
側壁部材20の主要部は、平面視で円弧形状をなすように鋼板等を湾曲させることにより形成される。2つの側壁部材20の一端部は、互いに平行に対向するように半径方向の外側に延出している。側壁部材20の他端部は、一端部が互いに水平方向に向かって近接離間するようにヒンジ22によって結合している。クリップ21が2つの側壁部材20の一端部に取り付けられることによって、一端部が互いに離間する方向への2つの側壁部材20の変位が規制される。
【0031】
クリップ21は、横断面視でコ字形状をなし、コ字形状の互いに対向する面が2つの側壁部材20の一端部に当接するように、側壁部材20に取り付けられる。従って、クリップ21に半径方向の外方に向かって力が加わると、クリップ21は2つの側壁部材20の一端部から離脱する。クリップ21は、落下防止のために、2つの側壁部材20の一端部に載置される上壁(図示せず)を有してもよい。
【0032】
付勢部材23は、引張コイルばねを含み、一端部において、側壁部材20の外周面に設けられた第1取り付け部24に取り付けられ、他端部において、ジャッキ本体9の上部の側面に設けられた第2取り付け部25に取り付けられている。第2取り付け部25は、枠体16の周方向において、第1取り付け部24よりもヒンジ22側に設けられている。付勢部材23は、伸長した状態で第1取り付け部24及び第2取り付け部25に取り付けられ、2つの側壁部材20の一端部が互いに離間する方向に側壁部材20を付勢している。
【0033】
粒状体17は、枠体16による拘束が解除されれば互いに離間してジャッキ本体9の上面から零れ落ちるように、上部構造物3とジャッキ本体9とからの圧力を受けても締め固められない程度の粒径及び硬度を有する。例えば、粒状体17として、ボールベアリング用の鋼球を用いることができる。粒状体17、砂層18及び容器19の上下方向の厚さは、互いに等しいことが好ましい。平面視において、粒状体17が充填されるスペースの半径は、砂層18の半径方向の幅よりも大きいことが好ましく、砂層18の半径方向の幅の4~15倍であることが更に好ましい。
【0034】
図1及び
図3に示すように、牽引部材13は、一端部において固定具12を介して下部構造物2に固定され、他端部においてクリップ21に固定される。牽引部材13として、例えばワイヤーを使用できる。牽引部材13の他端部は、平面視において、側壁部材20におけるクリップ21が取り付けられた一端部の延在方向と平行に配置されることが好ましい。また、牽引部材13の他端部は、水平に配置されることが好ましい。牽引部材13の中間部は、上部構造物3に支持された丸環26によって支持されることが好ましい。
【0035】
ジャッキ構造8は、通常時は、
図1に示すように、通常のジャッキと同様に上部構造物3を持ち上げる。免震装置5の交換のため、ジャッキ本体9のストロークを伸ばして上部構造物3を持ち上げている最中に、所定規模以上の地震が発生すると、滑り支承10があるため、下部構造物2と上部構造物3とが相対的に変位する。この時、崩壊可能部材11は、上部構造物3とともに変位し、固定具12を介して下部構造物2に固定された牽引部材13の一端部は、下部構造物2とともに変位する。このため、牽引部材13がクリップ21を引っ張り、クリップ21が2つの側壁部材20の一端部から離脱する。すると、付勢部材23によって2つの側壁部材20の一端部が互いに離間し、粒状体17及び砂層18は、側壁部材20による拘束から解放される。上部構造物3から鉛直荷重を受ける粒状体17は側方に押し出され、砂層18を崩して、砂及び容器19を押し出し、ジャッキ本体9の上面から零れ落ちる。このように崩壊可能部材11が崩壊するため、ジャッキ構造8の上下方向長さが短くなり、
図2に示すように、上部構造物3が下がって免震装置5に支持され、免震建物1の免震性が回復する。
【0036】
容器19を設置すれば、砂層18の設置は省略可能であるが、砂層18があれば、粒状体17が砂層18に衝突することによって粒状体17の側方への飛び出しが抑制され、作業員に対する安全性が高まる。
【0037】
また、砂層18を設置すれば、容器19及び牽引部材13の設置は省略可能であるが、その場合、砂層18は、通常時にはその形状を維持し、地震時には崩れるように構成される必要があり、施工管理が難しくなる。容器19を設置することにより、施工管理が容易となる。また、牽引部材13が所定規模以上の地震時にクリップ21を引っ張ることによって、容器19の側部が開放されるため、地震時の揺れによって砂層18を崩壊させるよりも確実に粒状体17に対する側方からの拘束を解くことができる。
【0038】
付勢部材23があることによって、クリップ21が側壁部材20から離脱した後の2つの側壁部材20の一端部の互いからの離間が確実になるとともに、離間速度が速まって崩壊可能部材11の崩壊速度が速まり、上部構造物3が免震装置5に支持されるまでの時間が短縮される。
【0039】
図4は、変形例に係る崩壊可能部材11aを示す。上記の実施形態と共通する構成については、同一の符号を付し、説明を省略する。崩壊可能部材11aは、砂層18及び砂層18の外周面に当接する容器19aを含む枠体16aと、枠体16a内に充填された複数の粒状体17とを含み、容器19aは、2つの側壁部材20aと、2つの側壁部材20a端部を連結するクリップ21と、2つの側壁部材20aの端部間に配置された付勢部材23aとを含む。崩壊可能部材11aは、2つの側壁部材20aの形状及び互いの連結構造、並びに付勢部材23aの構造及び配置において、上記実施形態と相違する。
【0040】
側壁部材20aは、平面視で概ね半円の円弧形状をなす。側壁部材20の両端部は、半径方向の外側に延出しており、2つの側壁部材20の互いに対向する端部は互いに平行に配置される。2つの側壁部材20の互いに対向する一端部はクリップ21によって連結され、2つの側壁部材20の互いに対向する他端部もクリップ21によって連結される。2つのクリップ21にはそれぞれ所定規模の地震時に半径方向の外側にクリップ21を引っ張るように配置された牽引部材13が取り付けられている。2つの側壁部材20の一端部間、及び他端部間には、それぞれ圧縮された状態の圧縮コイルばね等の付勢部材23aが配置される。2つの付勢部材23aは、2つの側壁部材20aの一端部同士及び他端部同士を互いに離間する方向に2つの側壁部材20aを付勢している。所定規模の地震時には、2つのクリップ21が、ぞれぞれ、牽引部材13によって引っ張られて、2つの側壁部材20から離脱する。この時、付勢部材23aが2つの側壁部材20を互いに離間させる方向に付勢するため、容器19aの側部が開放される。このため、上記実施形態と同様に砂層18が崩れ、粒状体17がジャッキ本体9の上面から零れ落ち、ジャッキ構造8の高さが減少して、上部構造物3が免震装置5に支持される(
図2参照)。
【実施例】
【0041】
図3に示す容器19と類似する構造の容器を用いて試験を行った。試験に用いた容器は、
図3に示す容器19とは、付勢部材23を有さない点、クリップ21に代えてボルトで2つの側壁部材20の一端部を互いに連結した点において相違する。
【0042】
第1試験体は、容器内に砂のみを充填した。第2試験体は、容器内に、砂と鋼球とを混ぜ合わせた混合物を充填した。第3試験体は、容器の内側に平面視で円環状の砂層を設け、砂層の内側に鋼球を充填した。容器の内径は318.5mmであり、容器の高さは30mmであり、容器の壁の厚さは6.9mmであった。第3試験体では、平面視で鋼球が充填された部分の直径は260mmであった。砂は珪砂であり、その粒径は5号(最大粒径425μm)であった。鋼球の粒径は、6mmであった。
【0043】
第1~第3試験体にそれぞれ鉛直荷重を与えた状態で、クリップ21の代わりに用いたボルトを外した。第1試験体では、砂層が崩れなかった。第2試験体でも、砂と鋼球の混合層は崩れなかった。第3試験体では、砂層がくずれ鋼球が零れ落ちた。第1試験体及び2では、砂層又は砂と鋼球との混合層が締め固められてしまったため、崩れなかったと考えられる。第3試験体では、鉛直荷重を受けた鋼球が側方に押し出されることにより砂層が崩れたと考えられる。
【0044】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。側壁部材は、3つ以上であってよく、この場合、互いに隣接する側壁部材の端部は、ヒンジ又はクリップによって連結され、少なくとも1個所はクリップで連結される。崩壊可能部材は、下部構造物とジャッキ本体との間に配置されてもよい。滑り支承は、上部構造物とジャッキ本体及び崩壊可能部材との間に配置されてもよく、この場合、牽引部材の一端部は上部構造物に固定される。
【符号の説明】
【0045】
1:免震建物
2:下部構造物
3:上部構造物
5:免震装置
8:ジャッキ構造
9:ジャッキ本体
10:滑り支承
11,11a:崩壊可能部材
13:牽引部材
16,16a:枠体
17:粒状体
18:砂層
19,19a:容器
20,20a:側壁部材
21:クリップ
23,23a:付勢部材