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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】電気融雪マットの制御方法
(51)【国際特許分類】
   E01H 8/08 20060101AFI20240827BHJP
   E01B 19/00 20060101ALI20240827BHJP
   E01H 5/10 20060101ALI20240827BHJP
   E01C 11/26 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
E01H8/08
E01B19/00 A
E01H5/10 Z
E01C11/26 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021034900
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2022135232
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】中谷 興司
(72)【発明者】
【氏名】柏 隆之
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特許第6895696(JP,B1)
【文献】特開2003-138513(JP,A)
【文献】特開2003-114283(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0112766(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108755340(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01H 8/08
E01B 19/00
E01H 5/10
E01C 11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシート状の電気融雪マットと、前記複数の電気融雪マットへ電力を供給する給電手段と、前記複数の電気融雪マットが並んだ状態で配設されている領域の温度を検知可能な温度検知手段と、前記温度検知手段からの情報に基づいて前記給電手段から前記複数の電気融雪マットへ供給する電力をそれぞれ制御可能な制御手段とを備えた融雪システムにおける電気融雪マットの制御方法であって、
前記給電手段から前記複数の電気融雪マットへ第1の電力を供給する第1ステップと、
前記温度検知手段からの情報に基づいて、制御対象の前記電気融雪マットの表面もしくはマット上の積雪の表面温度を逐次把握する第2ステップと、
前記第2ステップにより把握した表面温度に基づいて、表面温度が安定しているか否か判定する第3ステップと、
前記第3ステップにより表面温度が安定していると判定した間に所定の条件が成立した場合に、前記給電手段から前記複数の電気融雪マットへ供給する電力を、前記第1の電力よりも小さな第2の電力に切り替える第4ステップと、
前記温度検知手段からの情報に基づいて、表面温度が所定温度以上上昇したことを検知した場合に、対応する電気融雪マットへの電力の供給を停止する第5ステップと、
を含むことを特徴とする電気融雪マットの制御方法。
【請求項2】
前記温度検知手段はサーモカメラであり、前記制御手段は、前記サーモカメラからの信号により生成された映像マップに基づいて監視対象領域の表面温度分布を把握し、
前記第4ステップにおける前記所定の条件は、前記表面温度が安定している期間が所定時間継続したことであることを特徴とする請求項1に記載の電気融雪マットの制御方法。
【請求項3】
前記温度検知手段は画像カメラであり、前記第4ステップにおける前記所定の条件は、前記電気融雪マット上の積雪の表面が白色から透明に変化したことであることを特徴とする請求項1に記載の電気融雪マットの制御方法。
【請求項4】
前記第1の電力は2000W/m2以上の電力であり、前記第2の電力は前記第1の電力の半分の電力であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の電気融雪マットの制御方法。
【請求項5】
前記融雪システムは前記複数の電気融雪マットに対応して設けられた振動手段を備え、
前記第4ステップにおいては、前記給電手段から前記複数の電気融雪マットへ供給する電力を前記第1の電力よりも小さな第2の電力に切り替えるとともに前記振動手段を動作させることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の電気融雪マットの制御方法。
【請求項6】
複数のシート状の電気融雪マットと、前記複数の電気融雪マットへ電力を供給する給電手段と、前記複数の電気融雪マットが並んだ状態で配設されている領域の温度を検知可能な温度検知手段と、前記複数の電気融雪マットに対応して設けられた振動手段と、前記温度検知手段からの情報に基づいて前記給電手段から前記複数の電気融雪マットへ供給する電力をそれぞれ制御可能な制御手段と、を備えた融雪システムにおける電気融雪マットの制御方法であって、
前記給電手段から前記複数の電気融雪マットへ第1の電力を供給するステップと、
前記温度検知手段からの情報に基づいて、制御対象の前記電気融雪マットの表面もしくはマット上の積雪の表面温度分布を逐次把握するステップと、
前記ステップにより把握した表面温度分布に基づいて、表面温度が安定しているか否か判定するステップと、
前記ステップにより表面温度が安定している期間に継続していることを検知した場合に、前記給電手段から前記複数の電気融雪マットへ供給する電力を、前記第1の電力よりも小さな第2の電力に切り替えるとともに前記振動手段を動作させるステップと、
前記温度検知手段からの情報に基づいて、表面温度が所定温度以上上昇したことを検知した場合に、対応する電気融雪マットへの電力の供給を停止するステップと、
を含むことを特徴とする電気融雪マットの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気融雪マットを用いた融雪システムにおける電気融雪マットの制御方法に関し、例えば鉄道線路の分岐器における融雪に利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路の分岐器はポイント部、リード部、クロッシング部及びガイドレールによって複雑に構成したものからなっており、このうちポイント部は可動部分であるため、降雪寒冷地においてはポイント部が凍結することにより、転換不能になる事態が発生することがある。そこで、分岐器のポイント部の凍結を防止するため、種々の形式の融雪装置が開発され、実用化されている。
【0003】
従来、鉄道軌道に設置される融雪装置には、熱風をレールへ向けて吹き付ける熱風式や、温水を吹き付ける温水噴射式、軌道上に並べて敷設されるマット式などがあり、一般に融雪性能の高い方式は大規模でコストが高くなるという傾向がある。なお、マット式には、温水を循環させる温水マットとヒータ(電熱線)を内蔵した電気融雪マットがある。
このうち、従来の鉄道軌道における温水マット式融雪装置には、図1(B)に示すように、レールR1,R2間に配設されるマットM0およびレールR1,R2の左右両側に配設されるマットM1,M2の3枚で構成されているものがある。また、電気融雪マットに関する発明としては、例えば特許文献1に記載されているものがある。
【0004】
ところで、分岐器は分岐先端部、ポイント先端部、ポイント部、ポイント背向部などの場所の違いよって、列車からの持ち込み雪や落とし雪、積雪など融雪対象は、形状、密度、水分含有量など雪の状態や量が異なっている。そのため、場所に応じて設置する融雪装置の方式の使い分けが行われることもある。例えば、特許文献1に記載されている電気融雪マットの発明は、列車からの落下氷雪の衝突からマットを保護することを課題としてなされたもので、分岐器の入り口に設置すると有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6541408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、同一の分岐器に形式の異なる複数種類の融雪装置が設置されていると、メンテナンスが煩雑になるという課題がある。
また、図1(B)に示す従来の温水マット式融雪装置は、溶融する雪の量が最も多い箇所に合わせて全体を加熱するため、エネルギー損失が大きいという課題がある。そこで、雪の由来や量の異なる場所に応じて融雪性能を変えられるようにするため、マットをさらに分割することが考えられるが、温水マットの場合、マット数が多くなると温水を循環させる配管および電磁弁の数も増加し、可動部分が増えるため故障し易くなり、メンテナンスに要する労力およびコストの増大を招くという課題がある。
【0007】
これに対し、電気融雪マットは温水式マットに比べてメンテナンスが容易であるという利点がある。
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたもので、電気融雪マットを用いた融雪システムにおいて、エネルギー損失を減少させることができる電気融雪マットの制御方法を提供することを目的とする。
なお、特許文献1に開示されている電気融雪マットの発明は、列車から落下する雪氷によるマットの損傷を防止することに向けてなされたもので、雪の由来や量の異なる場所に応じて融雪性能を変えることによりエネルギー損失を低減することについては開示していない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、本発明に先立って、メンテナンスが容易でエネルギー損失の少ない融雪システムを開発するため、従来の温水マットに代えて電気融雪マットを使用できないか検討を行なった。その結果、出力密度が2000W/m2以上の電気融雪マットであれば、温水マットと同等の融雪性能を発揮できることを見出した。しかしながら、出力密度が2000W/m2の電気融雪マットを使用して、例えば20m2程度の面積を加熱し融雪しようとすると、電気使用量は約40kW以上も必要となるため、環境負荷を考えると電気使用量の抑制が課題であることが分かった。
【0009】
そこで、次に、電気融雪マットによる融雪の挙動を知るため、マット上に所定量(2.8kg)の雪を載せて加熱し融雪する過程におけるマットの温度変化を観察する実験を行なった。その結果、2000W/m2強の出力で加熱した場合、図5に示すように、加熱開始直後はマット温度が上昇するが、しばらくすると温度10℃の近辺で小さな変動を繰り返しながら推移する安定期間T0があり、その後温度が再上昇することが分かった。
【0010】
また、上記実験を繰り返す過程で、2000W/m2強の出力で加熱し安定した温度推移期間に入ってしばらくしてから、マットへの給電出力を半分程度(1000W/m2前後)に下げたとしても所定時間後における残雪量にそれほど差異がないことを見出した。具体的には、所定量の雪を電気融雪マットに載せ、2000W/m2強の出力で所定時間T(例えば約6kgの雪の場合で50分間)加熱した時点の残雪量は、開始当初のおよそ4割であったのに対し、2000W/m2強の出力で上記所定時間Tの30%に相当する時間(0.3T)経過後に出力を低下させ、さらに70%に相当する時間(0.7T)だけ加熱した時点(開始からT時間後)での残雪量は5割弱であり、大きな差がないことが分かった。
【0011】
そして、そのような結果となる理由について検証した結果、加熱による融雪の初期段階では、図6(B)に示すように、融雪マットに接触している下部の雪が融けて融かし水が発生し、その後融かし水が表面張力(あるいは毛細管現象)で図6(C)に示すように、表層まで浸透する。すると、図6(D)に示すように、対流が生じて対流熱伝達によって融雪が促進され、図6(E)に示すように、全ての雪が水に変わり水のみの状態になると、顕熱変化で温度が上昇するためであるとの推察を得た。
【0012】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、
複数のシート状の電気融雪マットと、前記複数の電気融雪マットへ電力を供給する給電手段と、前記複数の電気融雪マットが並んだ状態で配設されている領域の温度を検知可能な温度検知手段と、前記温度検知手段からの情報に基づいて前記給電手段から前記複数の電気融雪マットへ供給する電力をそれぞれ制御可能な制御手段とを備えた融雪システムにおける電気融雪マットの制御方法において、
前記給電手段から前記複数の電気融雪マットへ第1の電力を供給する第1ステップと、
前記温度検知手段からの情報に基づいて、制御対象の前記電気融雪マットの表面もしくはマット上の積雪の表面温度を逐次把握する第2ステップと、
前記第2ステップにより把握した表面温度に基づいて、表面温度が安定しているか否か判定する第3ステップと、
前記第3ステップにより表面温度が安定していると判定している間に所定の条件が成立した場合に、前記給電手段から前記複数の電気融雪マットへ供給する電力を、前記第1の電力よりも小さな第2の電力に切り替える第4ステップと、
前記温度検知手段からの情報に基づいて、表面温度が所定温度以上上昇したことを検知した場合に、対応する電気融雪マットへの電力の供給を停止する第5ステップと、
を含むようにした。
【0013】
上記のような方法によれば、融雪の途中で供給電力を下げるとともに、降雪がないまたは融雪が終了しているマットへの電力の供給が停止される、つまりマットごとに電力の供給が制御されるため、エネルギー損失を低減させることができるようになる。
【0014】
ここで、前記温度検知手段はサーモカメラであり、前記制御手段は、前記サーモカメラからの信号により生成された映像マップに基づいて監視対象領域の表面温度分布を把握し、前記第4ステップにおける前記所定の条件は、前記表面温度が安定している期間が所定時間継続したことであるようにする。
かかる方法によれば、複数の電気融雪マットが設置されている領域の温度分布を、サーモカメラの映像マップにより比較的容易かつ正確に把握してマットごとに電力の供給を制御することができる。
【0015】
あるいは、前記温度検知手段は画像カメラであり、前記第4ステップにおける前記所定の条件は、前記電気融雪マット上の積雪の表面が白色から透明に変化したことであるようにしてもよい。
電気融雪マットによる加熱で融けた水が積雪の表面まで上昇すると積雪の表面が白色から透明に変わるので、画像カメラで撮影した画像に基づいて積雪の表面が白色から透明に変化したことを検知して供給電力を下げることにより、低い電力で融雪を継続させることができ、エネルギー損失を低減させることができる。
【0016】
さらに、望ましくは、前記第1の電力は2000W/m2以上の電力であり、前記第2の電力は前記第1の電力の半分の電力であるようにする。
かかる構成によれば、確実にマット上の雪を融かすことができるととともに、単純な制御で融雪を行うことができ、制御手段としての電力制御装置の負担を軽減することができる。
【0017】
また、望ましくは、前記融雪システムは前記複数の電気融雪マットに対応して設けられた振動手段を備え、
前記第4ステップにおいては、前記給電手段から前記複数の電気融雪マットへ供給する電力を前記第1の電力よりも小さな第2の電力に切り替えるとともに前記振動手段を動作させるようにする。
かかる方法によれば、融雪中に振動を与えることで融かし水の対流を促進させることができるため、少ない電力で効率よく融雪を行うことができる。
【0018】
本出願の他の発明は、
複数のシート状の電気融雪マットと、前記複数の電気融雪マットへ電力を供給する給電手段と、前記複数の電気融雪マットが並んだ状態で配設されている領域の温度を検知可能な温度検知手段と、前記複数の電気融雪マットに対応して設けられた振動手段と、前記温度検知手段からの情報に基づいて前記給電手段から前記複数の電気融雪マットへ供給する電力をそれぞれ制御可能な制御手段と、を備えた融雪システムにおける電気融雪マットの制御方法であって、
前記給電手段から前記複数の電気融雪マットへ第1の電力を供給するステップと、
前記温度検知手段からの情報に基づいて、制御対象の前記電気融雪マットの表面もしくはマット上の積雪の表面温度分布を逐次把握するステップと、
前記ステップにより把握した表面温度分布に基づいて、表面温度が安定しているか否か判定するステップと、
前記ステップにより表面温度が安定している期間に継続していることを検知した場合に、前記給電手段から前記複数の電気融雪マットへ供給する電力を、前記第1の電力よりも小さな第2の電力に切り替えるとともに前記振動手段を動作させるステップと、
前記温度検知手段からの情報に基づいて、表面温度が所定温度以上上昇したことを検知した場合に、対応する電気融雪マットへの電力の供給を停止するステップと、
を含むようにしたものである。
【0019】
上記のような方法によれば、融雪の途中で供給電力を下げるとともに、降雪がないまたは融雪が終了しているマットへの電力の供給が停止されるため、エネルギー損失を低減させることができるようになる。また、融雪中に振動を与えることで融かし水の対流を促進させることができるため、効率よく融雪を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の制御方法によれば、電気融雪マットを用いた融雪システムにおいて、エネルギー損失を減少させ環境負荷を低下させることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(A)は本発明に係る制御方法を適用して好適な電気融雪マットの鉄道軌道への設置例を示す説明図、(B)は従来の温水式融雪マットの設置例を示す説明図である。
図2】本発明に係る電気融雪マットの制御方法を適用して好適なシステム構成例を示す概略図である。
図3図2の融雪システムを構成する電力制御装置の制御部(マイコン)による制御手順の一例を示すフローチャートである。
図4】雪無しと降雪5mmと持ち込み雪を載せた3種類の条件の電気融雪マットを共に2000W/m2強の出力で30分間加熱した際における温度変化を示すグラフである。
図5】所定量の雪を載せた電気融雪マットを2000W/m2強の出力で1時間加熱した際における温度変化を示すグラフである。
図6】電気融雪マットを加熱してマット上の雪を融かす過程における状態変化の様子を示す説明図である。
図7】電気融雪マットを使用した融雪システムの第2実施形態の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る電気融雪マットを使用した電気融雪マットの制御方法の実施形態について、詳細に説明する。
図1(A)には、本発明に係る電気融雪マットの制御方法を適用して好適な電気融雪マットの構成および鉄道軌道へ設置した状態が示されている。
【0023】
図1(A)に示すように、本実施形態においては、鉄道軌道のレールR1,R2間とレールR1の左側方およびレールR2の右側方の3つの領域に、それぞれレール延設方向に沿って分割された複数(図では3枚)のシート状の電気融雪マット10(M11,M12,M13;M21,M22,M23……)が規則正しく並んだ状態で配設されている。各電気融雪マット10は、幅が数10cmで、長さが数m(例えば3m)の大きさとなるように形成されており、各々に給電用のケーブル11a,11bが接続され、別々に加熱制御できるように構成されている。電気融雪マット10は、それぞれ内部にヒータ(電熱線)が蛇行して配設されたゴム製のシートで構成されている。
【0024】
図2には、本発明に係る電気融雪マットの制御方法を適用して好適な融雪システムの構成例が示されている。
図2に示すように、本実施形態の融雪システムは、図1(A)に示すように分割された複数の帯状の電気融雪マット群10A(M11,M12,M13),10B(M21,M22,M23),10C(M31,M32,M33)と、これらの電気融雪マット群10A,10B,10Cに対してケーブル11A,11B,11Cを介して電流を流して加熱させる電力制御装置12と、軌道脇の電化柱等の支持構造物13に取り付けられたサーモカメラ14と、サーモカメラ14からの信号を、伝送ケーブル15を介して受信し、監視範囲の温度変化を把握するサーモ監視コントローラ16などから構成されている。11A,11B,11Cはそれぞれ図1に示されているケーブル11a,11bの対を表わしている。
【0025】
次に、本実施形態の融雪システムにおける上記電気融雪マット10の制御方法について具体的に説明する。
なお、本実施形態の電気融雪マットの制御方法の特徴は、融雪制御が開始されると先ず大きな電力による急速加熱を行なった後に電力を下げて加熱する段階加熱制御を行う点と、サーモカメラ14からの信号に基づいてメッシュ状に分割された小領域ごとに融雪状態(温度)を把握して複数の電気融雪マットを別々に加熱制御する点にある。以下、本実施形態の電気融雪マットの制御方法を説明しながらそれぞれの特徴について明らかにする。
【0026】
図3には、図2の融雪システムを構成する電力制御装置12の制御部(マイコン)による制御手順の一例が示されている。なお、図3のフローチャートに従った電気融雪マットの制御は、外気温が所定温度(例えば5℃)以下になると開始されるようにされている。
図3の制御が開始されると、電力制御装置12の制御部は、先ず制御下にある全ての電気融雪マット10に対して、高い電力(例えば2000W/m2強)で給電を開始してマットのヒータを加熱させる(ステップS1)。また、このとき同時に、サーモカメラ14の電源を投入して、サーモカメラ14からの信号をサーモ監視コントローラ16へ伝送させ、サーモ監視コントローラ16が受信信号を分析してサーモグラフィー(温度分布を等温線で表わした映像マップ)を生成する。
【0027】
次に、電力制御装置12の制御部は、所定時間(数分間)経過するのを待って(ステップS2)から、サーモ監視コントローラ16が生成した映像マップを読み込み(ステップS3)、所定温度(例えば15℃)以上上昇した領域があるか否か判定する(ステップS4)。そして、温度上昇した領域がある(Yes)と判定すると、ステップS5へ移行して、該当領域に含まれる電気融雪マット10に対する給電を停止する。マット上に積雪があればその雪を融かすために熱が使用されて温度が上昇しないので、短時間に温度が大きく上昇したということは積雪がないと考えて良いためである。
【0028】
一方、ステップS4で、温度上昇した領域がない(No)と判定すると、ステップS6へ進んで、直前の電力による給電状態を継続してから、再びサーモ監視コントローラ16から映像マップを読み込む(ステップS7)。そして、温度が安定した期間(図5の期間T0)が所定時間(例えば15分)継続した領域があるか否か判定する(ステップS8)。ここで、温度が安定した期間(T0)が所定時間継続した領域がない(No)と判定すると、ステップS6へ戻る。
【0029】
また、ステップS8で温度が安定した期間(T0)が所定時間継続した領域がある(Yes)と判定すると、ステップS9へ進んで、当該領域のマットへの供給電力を一段(例えば半分程度)下げて、例えば1000W/m2前後のような電力で加熱を継続する。なお、ステップS8の処理は、温度安定期間(T0)に入ったことを検知したことの確認を条件として実行するようにしても良い。安定期間に入ったことの確認には通常数分以上かかるためである。
【0030】
ステップS9に続いて、電力制御装置12の制御部は、サーモ監視コントローラ16から映像マップを読み込み(ステップS10)、所定温度ΔT(例えば10℃)以上上昇した領域があるか否か判定する(ステップS11)。そして、温度上昇した領域がない(No)と判定すると、ステップS6へ戻り、供給電力を下げたマットに対してはそのまま給電を維持し、供給電力を下げていないマットに対してはステップS7、S8の処理を実行する。一方、ステップS11で、温度上昇した領域がある(Yes)と判定すると、ステップS12へ移行して、該当領域に含まれる電気融雪マット10に対する給電を停止する。マット温度が上昇したということは融雪が終了したと考えて良いためである。
【0031】
その後、電力制御装置12の制御部は、制御下の全マットへの給電が停止したか否か判定する(ステップS13)。ここで、全マットへの給電が停止した(Yes)と判定すると、一連の融雪制御処理を終了する。また、ステップS13で、全マットへの給電が停止していない(No)と判定すると、ステップS10またはS6へ戻り、上記処理を繰り返す。
本実施形態では、上述したような制御処理を実行することによって、電気融雪マット10によって融雪を行うことができるとともに、融雪の途中で供給電力を一段階下げているため、全マットを一律に温度制御する従来の方法に比べてエネルギー損失を低減することができる。
【0032】
なお、図3のフローチャートにおいては、ステップS8で、サーモカメラの映像に基づいて温度が安定した期間(T0)に入った(Yes)と判定すると、ステップS9へ進んで供給電力を一段(例えば半分程度)下げているが、図6(C)のように、融かし水が積雪の表面まで上昇すると積雪の表面が白色から透明に変わるので、通常のカメラで撮影した画像に基づいて積雪の表面が白色から透明に変わったことを把握した場合にマットへ供給する電力を下げる制御をするようにしても良い。
【0033】
次に、図3のフローチャートのステップS4とS11で、具体的な検知温度を判定値として判断するのではなく、所定以上の温度上昇があったか否かで判定している理由について説明する。
本発明者らは、本発明を開発する過程で、サーモカメラの映像によりマット上の積雪を認識することができるか否か検証を行なった。具体的には、電気融雪マット上に、5mm降雪を形成したものと、同等の高さの持ち込み雪を載せたものと、何も載せないものの3種類の状態のマットを用意して、それぞれ2000W/m2強の出力で15分間加熱してサーモカメラで表面温度を観察した。
【0034】
その結果を図4に示す。図4において、横軸は時間、縦軸は温度で、Aは雪無しのマットの温度変化を、Bは降雪5mmのマットの温度変化を、Cは持ち込み雪を載せたマットの温度変化を示す。また、T1は非加熱期間、T2は2000W/m2強の出力による加熱期間である。
図4のT1期間の各マットの表面温度はあまり差異がないことが分かった。これは、積雪の表面温度は外気温と同じであるため、サーモカメラの映像による検知温度では積雪を認識することが困難であるためである。
【0035】
これ対し、電気融雪マットを過熱させた期間T2の温度変化に着目すると、雪無しのマットの温度は他のマットの温度に比べて、加熱開始直後から温度が大きく上昇しており、マットの表面上に積雪があるかないかをサーモカメラの映像から識別できることができることが分かった。かかる検証結果から、ステップS4、S11での積雪の有無の判定を、所定以上の温度上昇があったか否かの判定で行うこととした。
【0036】
(第2実施例)
次に、本発明の融雪システムの第2実施形態について、図7を用いて説明する。
図7に示すように、第2実施形態の融雪システムは、電気融雪マット10の下もしくは内部に振動器17を配設し、電気融雪マット10へ供給する電力を下げる制御を実行するのと並行して、振動器17を動作させてマット上の積雪に振動を付与するようにしたものである。このように、加熱中に振動を与えることによって、融かし水による対流熱伝導を促進させて、融雪に要する時間を短縮することができる。
【0037】
本発明者らが、上記振動器17として変位が1mm程度で振動数が20,000Hz程度の振動を発生する振動アクチュエータを用いた実験では、例えば約6kgの雪を電気融雪マットに載せ、2000W/m2強の出力で加熱し所定時間Tの30%に相当する時間(0.3T)経過した後に、マットへの給電出力を半分程度(1000W/m2前後)に低下させ、さらに70%に相当する時間(0.7T)だけ加熱した50分後の時点の残雪量は約5割強であった。これに対し、2000W/m2強の出力で0.3T加熱した後に、出力を1000W/m2前後に低下させるとともに振動アクチュエータによって振動を与えながらさらに0.7T加熱した50分後の時点の残雪量は約4割弱であり、およそ0.5kg多くの雪を融解させることができた。
なお、振動器17は、図7に示すように、各電気融雪マット10に対応して1つずつ設けても良いし、1つのマットに対して複数個の振動器を設けるようにしても良い。
【0038】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。例えば、前記実施形態では、電気融雪マット上の積雪表面の温度を検知する手段してサーモカメラを使用したが、サーモカメラの代わりに、通常のカメラで撮影した画像に基づいて積雪の状態を認識することも可能である。また、電気融雪マット内に熱電対を分散配置して、各マットの温度を検知するように構成しても良い。
【0039】
さらに、前記実施形態では、本発明を鉄道軌道の分岐器における融雪に適用した場合について説明したが、本発明は鉄道軌道に限定されず道路や駐車場、建物の出入り口などに融雪マットを敷設して融雪を行う場合にも利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 電気融雪マット
11a,11b 給電用ケーブル
12 電力制御装置
13 支持構造物
14 サーモカメラ
15 伝送ケーブル
16 サーモ監視コントローラ
17 振動器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7