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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】シールド掘進機の施工管理方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/093 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
E21D9/093 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021044243
(22)【出願日】2021-03-18
(65)【公開番号】P2022143625
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-06-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(令和元年度国土交通省関東地方整備局「千代田幹線工事」施工現場における品質管理の高度化等を図る技術の試行業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】伊東 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 貴
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英典
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-014727(JP,A)
【文献】特開2021-017337(JP,A)
【文献】特開2021-030280(JP,A)
【文献】特開2019-143386(JP,A)
【文献】特許第3135207(JP,B2)
【文献】特許第6801149(JP,B1)
【文献】国際公開第2020/075255(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘進管理システムから送られる施工計測データを教師データとする人工知能による機械学習の結果を利用して、シールド施工現場において、シールド掘進機の掘進を管理するシールド掘進機の施工管理方法であって、
当該シールド施工現場の初期掘進領域では、当該シールド施工現場とは別の、シールド掘進機の大きさ、規格、及び性能が異なるシールド施工現場において、掘進方向後方側の一又は複数のリングを施工した際の前記施工計測データのうち、シールド掘進機の操作に関する所定のデータを含むデータを説明変数とし、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を目的変数とすると共に、説明変数となる前記施工計測データのうちのシールド掘進機の構造及び機械設備の性能に関する所定のデータを正規化したものとして、機械学習により作成された学習済み汎用モデルを、初期掘進時予測モデルとして使用して、施工された掘進方向後方側の一又は複数のリングを施工した際の前記施工計測データのうち、シールド掘進機の操作に関する所定のデータを含むデータを入力し、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を出力させて、シールド掘進機の先端の偏差を予測しながら、前記初期掘進領域におけるシールド掘進機の掘進を管理し、
当該シールド施工現場の前記初期掘進領域よりも掘進方向前方側の本掘進領域では、当該本掘進領域よりも掘進方向後方側に設定された学習領域において機械学習により作成された、後方側の一又は複数のリングを施工した際の前記施工計測データを説明変数とし、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする学習済みモデルを本掘進時予測モデルとして、施工された掘進方向後方側の一又は複数のリングを施工した際の前記施工計測データを入力し、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を出力させて、シールド掘進機の先端の掘進計画延長線からの偏差を予測しながら、前記本掘進領域におけるシールド掘進機の掘進を管理するシールド掘進機の施工管理方法。
【請求項2】
前記初期掘進領域に、前記学習領域が設定される請求項1記載のシールド掘進機の施工管理方法。
【請求項3】
前記機械学習が、サポートベクターマシンをアルゴリズムとするニューラルネットワークによる機械学習である請求項1又は2記載のシールド掘進機の施工管理方法。
【請求項4】
目的変数となるシールド掘進機の先端の偏差が、水平偏差、垂直偏差、及び方向偏差である請求項1~3のいずれか1項記載のシールド掘進機の施工管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機の施工管理方法に関し、特に、人工知能による機械学習の結果を利用して、シールド掘進機の掘進を管理するシールド掘進機の施工管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド掘進工法は、公知の土圧式や泥水式等のシールド掘進機の先端の切羽面を、泥土圧、泥水圧等によって押さえ付けて安定させつつ回転カッターによって地山を掘削すると共に、これらのシールド掘進機の後方にセグメントによるトンネル覆工体を一リング毎に組み立てながら、発進立坑から到達立坑に向けて、地中にトンネルを形成してゆく工法であり、都市部や平野部における主要なトンネル工事のための工法として広く採用されている。
【0003】
また、シールド掘進工法に用いる土圧式や泥水式等のシールド掘進機は、スキンプレートと呼ばれる金属製の外殻体の前部に切羽面を切削する回転カッターや、隔壁、カッター駆動装置、排土機構等を備えると共に、スキンプレートの後部に、シールドジャッキ、エレクター装置等を備えており、エレクター装置を用いてセグメントによるトンネル覆工体を一リング毎に組み立て、組み立てたトンネル覆工体から反力をとりつつ、シールドジャッキによってスキンプレートと共に回転カッターを押し出すことで、切羽面を切削しながらシールドトンネルを掘進して行くようになっている。
【0004】
このようなシールド掘進工法では、地中に設定された掘進計画延長線に沿って、精度良くシールド掘進機を掘進させて行く必要があるが、地中での施工になるため、周囲の地盤の地質の変化や環境状態の変化、個々のシールド掘進機の特性等に由来する何等かの種々の要因によって、掘進計画延長線に沿って精度良く掘進して行くように制御しながら運転することが難しく、一般に、掘進計画延長線に対する水平偏差や垂直偏差や方向偏差が、シールド掘進機の先端に生じることになる。特に、個々のシールド掘進機の特性等に由来する何等かの種々の要因は、個々の施工現場におけるシールド掘進機の「クセ」と呼ばれて、正確に把握することが難しく、従来は、熟練の作業員による経験と勘による運転の制御によって、掘進計画延長線に対する偏差が大きくならないようにシールド掘進機を掘進させるようになっていた。
【0005】
また、近年、IoT(Internet of Things)やAI(人工知能:Artificial Intelligence)の技術革新に基づき、大量のデータとAIの利用によって、第四次産業革命の実現が期待されており、シールド掘進工法においても、例えばAIを活用したシールド掘進計画支援システムが開発されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1のシールド掘進計画支援システムでは、AIが試行錯誤しながら自己学習することで最適解を導く強化学習手法により、シールドトンネルの線形に応じたシールド掘進機の操作の計画値や、セグメントの配置計画を導き出すことができるようになっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】AIを活用したシールド掘進計画支援システムを開発/企業情報/清水建設、2018年5月25日、〔2019年6月10日検索〕、インターネット(URL:https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2018/2018005/html)
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2021-14727
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1のシールド掘進計画支援システムは、施工現場で実際にシールド掘進工事を施工するのに先立って、計画線形に対するシールド掘進機の運転方法と、形状の異なる複数のセグメントの割り付け方法について事前シミュレーションを行って、これらの計画値を設定するものに過ぎないばかりか、学習済みモデルを作成するため教師データのデータ項目(パラメータ)は、限定された特定のものとなっているため、個々の施工現場において、周囲の地盤の地質の変化や環境状態の変化、あるいは個々のシールド掘進機の特性等に由来する種々の不確定な要因によるシールド掘進機の「クセ」と呼ばれる特質を反映させた精度の良い予測モデルを得て、地中に設定された掘進計画延長線に沿ってシールド掘進機が掘進して行くように、適切に管理することは困難である。
【0009】
一方、シールド掘進工法では、シールド掘進機の進行に応じた掘進状況を詳細に把握することを目的として、シールド掘進管理システムが導入されることが多くなっている。シールド掘進管理システムは、シールド掘進工事における測量データやシールド掘進機に設置した各種センサーによる計測データ等の各種のデータの収集を行って、シールド掘進機の管理の一元化を担う公知のシステムであり、施工時の計測データの経時的変化やデータの統計処理の結果によって、地山の掘削土砂の状況やシールドマシンの負荷状況などを推測できるようになっていると共に、測量結果が入力されることにより、シールド掘進機やセグメントの位置を計算して、掘進計画延長線からの偏差を求めることができるようになっている。
【0010】
また、シールド掘進管理システムでは、シールドトンネルを形成するセグメントによる覆工体の各々のリングに対応する掘進が行なわれる際に、多数のパラメータ(データ項目)に関するデータが、例えば5秒程度の時間間隔毎に、或いはシールドジャッキによる10mm程度のジャッキストロ-ク毎に収集されて、大量の数のデータとして記憶されている。これらの大量の数のデータをAIによって解析させることにより、個々の施工現場における周囲の地盤の地質の変化や環境状態の変化、あるいは個々のシールド掘進機の特性等に由来する種々の不確定な要因によるシールド掘進機の「クセ」と呼ばれる特質を反映させて、シールド掘進機が地中に設定された掘進計画延長線に沿って掘進して行くように適切に管理することが可能になると考えられる。
【0011】
このようなことから、本願出願人は、例えば特許文献1において、シールド掘進管理システムから送られる施工計測データを教師データとする人工知能による機械学習の結果を利用して、シールド掘進機の掘進を管理するシールド掘進機の施工管理方法を提案している。特許文献1のシールド掘進機の施工管理方法では、施工現場におけるシールド掘進機の掘進計画延長線上に学習領域を設定し、設定された学習領域において、掘進方向後方側の一又は複数のリングを施工した際の施工計測データを説明変数として、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする学習済みモデルを機械学習により作成し、学習領域よりも掘進方向前方側の本掘進領域において、作成された学習済みモデルを予測モデルとして、施工された掘進方向後方側の一又は複数のリングを施工した際の前記施工計測データを入力し、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を出力させて、シールド掘進機の先端の前記掘進計画延長線からの偏差を予測しながらシールド掘進機の掘進を管理するようになっている。
【0012】
しかしながら、特許文献1のシールド掘進機の施工管理方法では、掘進計画延長線上に設定した学習領域や本掘進領域においては、シールド掘進管理システムから送られて蓄積された、人工知能による機械学習によって学習済みモデルを作成するのに十分な量の当該シールド施工現場における施工計測データから、学習済みモデルを作成して、シールド掘進機の掘進を管理することが可能であるが、シールド掘進機の発進立坑からの発進時の領域である初期掘進領域では、機械学習によって学習済みモデルを作成するのに十分な量の施工計測データを当該シールド施工現場から収集できないことから、当該シールド施工現場において人工知能による機械学習によって作成された学習済みモデルを用いて、シールド掘進機の掘進を管理することが困難になる。
【0013】
これに対して、当該シールド施工現場とは異なる他のシールド施工現場で人工知能による機械学習によって作成された学習済みモデルを転用することにより使用して、当該シールド施工現場の初期掘進領域におけるシールド掘進機の掘進を管理できるようにすることが考えられるが、当該シールド施工現場と他のシールド施工現場では、例えば使用するシールド掘進機の大きさや規格、性能等が異なるため、異なる他のシールド施工現場で作成された学習済みモデルを転用して使用するには、学習済みモデルの汎用化を図るための特別な技術が必要となる。
【0014】
本発明は、他のシールド施工現場で人工知能による機械学習によって作成された学習済みモデルを転用して使用することを可能にして、当該シールド施工現場の特に初期掘進領域において、学習済みモデルを用いてシールド掘進機の掘進を管理することのできるシールド掘進機の施工管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、シールド掘進管理システムから送られる施工計測データを教師データとする人工知能による機械学習の結果を利用して、シールド施工現場において、シールド掘進機の掘進を管理するシールド掘進機の施工管理方法であって、当該シールド施工現場の初期掘進領域では、当該シールド施工現場とは別の、シールド掘進機の大きさ、規格、及び性能が異なるシールド施工現場において、掘進方向後方側の一又は複数のリングを施工した際の前記施工計測データのうち、シールド掘進機の操作に関する所定のデータを含むデータを説明変数とし、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を目的変数とすると共に、説明変数となる前記施工計測データのうちのシールド掘進機の構造及び機械設備の性能に関する所定のデータを正規化したものとして、機械学習により作成された学習済み汎用モデルを、初期掘進時予測モデルとして使用して、施工された掘進方向後方側の一又は複数のリングを施工した際の前記施工計測データのうち、シールド掘進機の操作に関する所定のデータを含むデータを入力し、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を出力させて、シールド掘進機の先端の偏差を予測しながら、前記初期掘進領域におけるシールド掘進機の掘進を管理し、当該シールド施工現場の前記初期掘進領域よりも掘進方向前方側の本掘進領域では、当該本掘進領域よりも掘進方向後方側に設定された学習領域において機械学習により作成された、後方側の一又は複数のリングを施工した際の前記施工計測データを説明変数とし、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする学習済みモデルを本掘進時予測モデルとして、施工された掘進方向後方側の一又は複数のリングを施工した際の前記施工計測データを入力し、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を出力させて、シールド掘進機の先端の掘進計画延長線からの偏差を予測しながら、前記本掘進領域におけるシールド掘進機の掘進を管理するシールド掘進機の施工管理方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0016】
そして、本発明のシールド掘進機の施工管理方法は、前記初期掘進領域に、前記学習領域が設定されるようになっていることが好ましい。
【0017】
また、本発明のシールド掘進機の施工管理方法は、前記機械学習が、サポートベクターマシンをアルゴリズムとするニューラルネットワークによる機械学習であることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明のシールド掘進機の施工管理方法は、目的変数となるシールド掘進機の先端の偏差が、水平偏差、垂直偏差、及び方向偏差であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシールド掘進機の施工管理方法によれば、他のシールド施工現場で人工知能による機械学習によって作成された学習済みモデルを転用して使用することを可能にして、当該シールド施工現場の特に初期掘進領域において、学習済みモデルを用いてシールド掘進機の掘進を管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の好ましい一実施形態に係るシールド掘進機の施工管理方法が実施されるシステムネットワークの説明図である。
図2】学習済みモデル作成工程の説明図である。
図3】リング報の説明図である。
図4】学習済みモデルを作成すための教師データとなる複数の変数(パラメータ)を例示する説明図である。
図5】施工データの位置関係の説明図である。
図6】学習済みモデルを作成する工程及びパラメータ確認用モデルを作成する工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好ましい一実施形態に係るシールド掘進機の施工管理方法は、例えば図1に示す構成のシステムネットワークによって実施されるようになっている。本実施形態のシールド掘進機の施工管理方法は、例えばシールド掘進機20(図2参照)の施工を管理するシールド掘進管理システム10とLAN12を介して接続する、AI(人工知能:Artificial Intelligence)として好ましくはサポートベクターマシンをアルゴリズムとするニューラルネットワークを実装可能な公知の機械学習ツール(ソフトウェア)が組み込まれた、好ましくはクラウドサーバ11を用いて、例えばシールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする予測モデルを作成することで、シールド掘進機20が地中に設定された掘進計画延長線21(図2参照)に沿って掘進して行くように、適切に管理できるようにするものである。また、本実施形態のシールド掘進機の施工管理方法は、シールド掘進管理システム10に記憶された多数のパラメータに関する大量の数のデータを用いることで、AIによる機械学習によって、個々の施工現場における周囲の地盤の地質の変化や環境状態の変化、あるいはシールド掘進機20の「クセ」を反映させて、シールド掘進機20が地中に設定された掘進計画延長線21に沿って掘進して行くように、適切に管理できるようにすると共に、他のシールド施工現場でAIによる機械学習によって作成された学習済みモデルを転用して使用することを可能にして、当該シールド施工現場における、特にシールド掘進機20の発進立坑からの発進時の領域である初期掘進領域において、学習済みモデルを用いてシールド掘進機の掘進を管理きるようにするものである。
【0022】
ここで、本実施形態では、公知のシールド掘進管理システム10として、例えば商品名「Arigataya」(株式会社演算工房製)を好ましく用いることができる。また、クラウドサーバ11は、例えばコンピュータを含んで構成されている。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/F(Interface)、HDD(Hard Disk Drive)、記憶手段、入力手段、表示手段、出力手段等を備えている。CPUは、ROMに組み込まれた各種のプログラムに従って、RAMをワークエリアとして使用しながら、AIによる機械学習を制御する。また、CPUは、各種のコンピュータプログラムがROMに組み込まれていることにより、記憶手段、入力手段、表示手段、出力手段等を機能させると共に、シールド掘進管理システム10から送られる大量のデータやAIによる解析結果等を、例えばデータベース部に記憶させたり、所定の情報として、LAN12や現場に設置されたパーソナルコンピュータ13等を介して、例えば現場のディスプレイ14に表示させたり、プリンタから出力させたりできるようになっている。
【0023】
そして、本実施形態のシールド掘進機の施工管理方法は、シールド掘進管理システムから送られる施工計測データを教師データとするAIによる機械学習の結果を利用して、シールド施工現場において、シールド掘進機20の掘進を管理する施工管理方法であって、当該シールド施工現場の初期掘進領域では、当該シールド施工現場とは別の、シールド掘進機の大きさ、規格、及び性能が異なるシールド施工現場において、好ましくは掘進方向後方側の一又は複数のリングN-1’~N-5’を施工した際の前記施工計測データ(図2参照)のうち、シールド掘進機の操作に関する所定のデータを含むデータを説明変数とし、好ましくは掘進方向前方側の所定のリングN’~N+5’を施工する際のシールド掘進機20の先端の偏差を目的変数とすると共に、説明変数となる前記施工計測データのうちのシールド掘進機20の構造及び機械設備の性能に関する所定のデータを正規化したものとして、機械学習により作成された学習済み汎用モデルを、初期掘進時予測モデルとして使用して、施工された掘進方向後方側の一又は複数のリングを施工した際の前記施工計測データのうち、シールド掘進機20の操作に関する所定のデータを含むデータを入力し、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機20の先端の偏差を出力させて、シールド掘進機20の先端の掘進計画延長線21からの偏差を予測しながら、初期掘進領域におけるシールド掘進機の掘進を管理するようになっている。
【0024】
また当該シールド施工現場の初期掘進領域よりも掘進方向前方側の本掘進領域では、当該本掘進領域よりも掘進方向後方側に設定された学習領域において機械学習により作成された、好ましくは後方側の一又は複数のリングN-1~N-5を施工した際の前記施工計測データを説明変数とし、好ましくは掘進方向前方側の所定のリングN~N+5を施工する際のシールド掘進機20の先端の偏差を目的変数とする学習済みモデルを本掘進時予測モデルとして、施工された掘進方向後方側の一又は複数のリングを施工した際の施工計測データを入力し、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機20の先端の偏差を出力させて、シールド掘進機20の先端の掘進計画延長線21からの偏差を予測しながら、本掘進領域におけるシールド掘進機20の掘進を管理するようになっている。
【0025】
また、本実施形態では、好ましくは初期掘進領域に、学習領域が設定されるようになっている。
【0026】
本実施形態では、当該シールド施工現場や別のシールド施工現場において、シールド掘進管理システム10から送られる教師データとなるトンネル掘進時の施工計測データは、例えばシールド掘進管理システム10により「リング報」(図3参照)として出力可能な多数のデータ項目から、好ましくはシールドエンジニアの知見によって選別された、例えば図4に示す187項目程度の多数のパラメータに関するデータとなっている。これらのデータは、シールドトンネルを構成する覆工体の各々のリング毎に、まとまったデータとして収集され、好ましくは5秒毎にクラウドサーバ11に送られて、例えば記憶部に蓄積されるようになっている。すなわち、シールド掘進工法では、一リング分の長さに対応する掘進長で、シールド掘進機20の先端の回転カッター20aにより切羽面を掘削しつつ、シールドジャッキ20bを伸長させながら掘進したら、シールド掘進機20の掘進作業を一旦中断し、スキンプレート20cの後部において、エレクター装置20dを用いてセグメント20eによる一リング分のトンネル覆工体が組み立てられることで、一リング毎に掘進作業が行なわれることから、好ましくは施工計測データは、一リング毎にまとまったデータとして処理されるようになっている。
【0027】
また、本実施形態では、選別された好ましくは187のデータ項目(パラメータ)の施工計測データは、シールド掘進機20の位置の把握に関する合計44点の掘進データ(前胴、中胴、後胴、ジャイロコンパス、座標、偏差、変位量など)50Aと、シールド掘進機20の方向制御に関する合計120点の掘進データ(シールドジャッキ、中折れジャッキ、コピーカッタなど)50Bと、土質などその他の合計23点の掘進データ(記録日時、カッタビット加速度、テールクリアランスなど)50Cとに分類されるようになっている。これらの分類されたデータ項目は、上述にように、例えば5秒毎にシールド掘進管理システム10を介してクラウドサーバ11に送られることで、経時的変化を伴うデータとして収集されて、例えば記憶部に記憶されるようになっている。図4中、「※」で示される先端の水平偏差、先端の垂直偏差、及び方位偏差(方向偏差)は、目的変数となるものである。
【0028】
これらの施工計測データは、好ましくはセグメント20eの組立て位置のリングNo.を表題として収集されるようになっている。すなわち、図5に示すように、データ項目によっては、データが収集される位置が、例えば回転カッター20aが配置されるシールド掘進機20の先端の切羽面の位置やスキンプレート20cの後方の裏込め材の注入位置と、シールドジャッキ20bの伸縮部に配置されるセグメント20eによる各リングの組立て位置とが、1リング分の長さよりも離れた位置となっており、これらの1リング分の長さよりも離れた位置のデータについても、セグメントの組立て位置のリングNo.を表題とする、当該リングNo.の組立て位置のリング幅を確保するための切羽面の掘削作業中のデータや、当該リングNo.の組立て位置のリングにおける組立て作業中のデータとして、シールド掘進管理システム10に送られて収集されるようになっている。
【0029】
さらに、本実施形態では、シールド掘進機の構造又は機械設備の性能に関する前提条件データが、予めシールド掘進管理システム10やクラウドサーバ11に入力されて登録されている。シールド掘進機の構造に関する前提条件データとして、例えばカッタ面板の直径や、シールドジャッキや中折れジャッキ本数、配置等を挙げることができる。これらのシールド掘進機の構造に関する前提条件データは、説明変数として直接入力されるのではなく、シールド掘進管理システム10から送られるトンネル掘進時の施工計測データと組み合わせて、特徴量エンジニアリングを行うことにより正規化してから、入力することができる。またシールド掘進機の機械設備の性能に関する前提条件データとして、例えば各々のシールドジャッキや中折れジャッキの最大圧力や、伸縮の最大速度、最大ストローク等を挙げることができる。これらのシールド掘進機の機械設備の性能に関する前提条件データは、最大値を1.0に換算して入力されて、シールド掘進管理システム10から送られるトンネル掘進時の施工計測データを、0.0~1.0の値で正規化して評価するために用いることができる。
【0030】
さらにまた、本実施形態では、シールド掘進管理システム10から送られるトンネル掘進時の施工計測データのうち、特徴量エンジニアリングや正規化により加工して入力される計測データは、例えば作業者の操作に関するデータとして、シールドジャッキや中折れジャッキの圧力やストロークに関するデータ、カッタ回転に関するデータ等を挙げることができる。また、例えばシールド掘進機の位置や方向に関するデータとして、水平変位量、垂直変位量、方向変位量等に関するデータ等を挙げることができる。さらに、例えば周辺環境がシールド掘進機に影響を与えるデータとして、切羽水圧やテールクリアランス等に関するデータ等を挙げることができる。
【0031】
また、本実施形態では、シールド掘進管理システム10から送られるトンネル掘進時の施工計測データには、正側と負側の値をとるデータが含まれている。このような正側と負側の値をとるデータとして、例えば前胴のピッチング角やローリング角、後胴のピッチング角やローリング角、カッタ回転、カッタトルク等に関するデータを挙げることができる。例えばカッタトルクのように正側(右回転)と負側(左回転)とがある場合、正規化後の最小値は-0.5、最大値は+0.5とすることができる(最小と最大の差が1.0)。カッタトルクの最大値が300kN・mで、150kN・mで右回転した場合に、正規化後の値を+0.25とすることができる。
【0032】
そして、本実施形態では、当該シールド施工現場とは別のシールド施工現場において、AIによる機械学習によって、当該シールド施工現場における発進立坑からの発進時の領域である初期掘進領域において、初期掘進時予測モデルとして用いることが可能な学習済み汎用モデルを作成する。
【0033】
すなわち、別のシールド施工現場において、シールド掘進機20の掘進計画延長線21上に設定された、例えば70リング分(1リング=1.5m)の延長の初期の施工区間を第1週の学習領域(例えば125m)として、図2に示すように、掘進方向後方側の好ましくは5リングN-1’~N-5’を施工した際の施工計測データを説明変数として、掘進方向前方側の6箇所のリングN’~N+5’を各々施工する際の、シールド掘進機20の先端の偏差(水平偏差、垂直偏差、方向偏差)を目的変数とする学習済みモデルを各々作成する。ここで、説明変数は、掘進方向後方側の5リングN-1’~N-5’を施工する際の、シールド掘進機の操作に関する所定のデータを含むデータとすることができ、シールド掘進機の構造及び機械設備の性能に関する所定のデータは正規化されたものとすることができる。目的変数であるシールド掘進機20の先端の偏差は、掘進方向前方側の6箇所のリングN’~N+5’を各々施工する際に得られた施工計測データに基づいて、例えばシールド掘進機20に取り付けられたジャイロコンパスによる計測データ等の、所定の測量データに関するデータから、所定の計算式に従って算定された、好ましくはシールド掘進機20の先端のカッター中心の、シールドトンネルの掘進計画延長線21からの水平偏差や垂直偏差や方向偏差の値とすることができる。
【0034】
本実施形態では、シールド掘進機の操作に関する所定のデータとして、シールドジャッキのジャッキ選択によるジャッキパターン、シールドジャッキのジャッキ速度、シールドジャッキのストローク、シールドジャッキの圧力、コピーカッタの選択、コピーカッタのストローク、コピーカッタの余掘位置、シールド掘進機が中折ジャッキを備えている場合には上下の中折れ角度、左右の中折れ角度、切羽カッタの回転方向等を挙げることができる。
【0035】
また、正規化される、シールド掘進機の構造及び機械設備の性能に関する所定のデータとして、シールドジャッキや中折れジャッキの配置(選択)と圧力、ストローク、シールドジャッキの速度、コピーカッタの位置とストローク、トルク、カッカ回転、カッタ板の径やトルク値等を挙げることができる。シールド掘進機の構造及び機械設備の性能に関する所定のデータを正規化する場合、例えば、シールドジャッキの最大圧力を1.0、停止時の圧力を0.0とし、掘進時の圧力をその間の0.0~1.0の間の数値で入力できるようにすることが好ましい。例えば、シールドジャッキの最大圧力が100kNの場合には、100kNを1.0として、0.0~1.0の間の無次元化された値で正規化することができ、シールドジャッキの最大圧力が5000kNの場合には、5000kNを1.0として、0.0~1.0の間の無次元化された数値で正規化することができる。この際の最大圧力等の最大の能力は、実際に使用されると考えられる機械設備の最大能力の範囲ではなく、機械設備の規格上の最大能力(最大の性能)として正規化することが好ましい。なお、初期掘進時予測モデルを作成するために用いるシールド掘進機の構造及び機械設備の性能に関する所定のデータは、初期設定として最初に入力されるデータとなるものであり、図4に示すような、掘削時に計測されるデータとは、異なるデータであっても良い。構造に関する所定のデータは、特徴量エンジニアリングを求める際に使用することが可能であり、性能に関する所定のデータは、正規化する際の分母として使用することが可能である。
【0036】
さらに、シールド掘進機の構造及び機械設備の性能に関する所定のデータは、シールドエンジニアの知見に基づいて、特徴量エンジニアリングによって正規化することもできる。このような、特徴量エンジニアリングにより正規化されるデータとしては、水平・垂直方向のカッター面板の傾き(水平・垂直方向のジャッキストロークの差より算出する。)、水平・垂直方向のモーメント(ジャッキのON,OFFの検出により合成モーメントを生成し、合成ベクトルを水平、垂直方向に分解して算出する。)、水平・垂直方向の余堀量(全体の余堀量の算出後、余堀り量ベクトルを計算し、水平、垂直方向に分解して算出する。)、方向付きトルク(カッター面板の回転方向により、トルクのかかる方向を算出する。)等を挙げることができる。
【0037】
本実施形態では、別のシールド施工現場において、これらの説明変数や目的変数を教師データとして、好ましくはサポートベクターマシンをアルゴリズムとするニューラルネットワークによる機械学習を行うことで、掘進方向後方側の5リングN-1’~N-5’の、シールド掘進機の構造及び機械設備の性能に関する所定のデータを含む施工計測データを入力データとし、掘進方向前方側の6箇所のリングN’~N+5’を各々施工する際のシールド掘進機20の先端の偏差を出力データとする、学習済みモデルを作成する。これらの学習済みモデルは、第1週の学習領域においては、掘進方向前方側の6箇所のリングN~N+5を各々施工する際の、シールド掘進機20の先端の偏差を出力データとする学習済み汎用モデルとして、6モデル作成することができる(図2参照)。
【0038】
また、本実施形態では、第1週の学習領域に後続して、シールド掘進機20の掘進計画延長線21上に、第1週の学習領域と同様の例えば70リング分の延長(例えば125m)の区間を、第2週~第4週の学習領域として設定して、第1週の学習領域と同様に、図6に示すように、第2週~第4週の学習領域の各々について、6モデルの学習済み汎用モデルを作成する。すなわち、第2週~第4週の各々の学習領域において、図2に示すように、掘進方向後方側の好ましくは5リングN-1’~N-5’を施工した際のシールド掘進機20の操作に関する所定のデータを含む施工計測データを説明変数とし、掘進方向前方側の6箇所のリングN’~N+5’を各々施工する際の、シールド掘進機20の先端の偏差を目的変数として、好ましくはサポートベクターマシンをアルゴリズムとするニューラルネットワークによる機械学習を行うことで、掘進方向後方側の5リングN-1’~N-5’のシールド掘進機の操作に関する所定のデータを含む施工計測データを入力データとし、掘進方向前方側の6箇所のリングN’~N+5’を各々施工する際のシールド掘進機20の先端の偏差を出力データとする、6モデルの学習済み汎用モデルを作成する。
【0039】
これらによって、本実施形態では、図6に示すように、第1週~第4週を予測期間とし、各予測期間における未来6リング(N’~N+5’)を予測区間として、6箇所のリングN’~N+5’を施工する際の、各々のシールド掘進機20における先端を予測先地点とする、偏差を出力するための合計24モデルの学習済み汎用モデルが作成されることになる。
【0040】
また、本実施形態では、別のシールド施工現場において機械学習により得られた、これらの合計24モデルの学習済み汎用モデルから、最も精度の良い予測期間、予測区間の学習済み汎用モデルを選択して、当該シールド施工現場における発進立坑からの発進時の領域である初期掘進領域において用いることが可能な、初期掘進時予測モデルとすることが好ましい。ここで、初期掘進時予測モデルとなる最も精度の良い予測期間、予測区間の学習済み汎用モデルの選択は、例えば一の学習済み汎用モデルを得た週とは別の週における学習領域で得られた、シールド掘進機の操作に関する所定のデータを含む施工計測データを当該一の学習済み汎用モデルに入力した際の出力データを、当該別の週における学習領域で得られた施工計測データにおけるシールド掘進機の先端の偏差に関する既知の値と比較することによって、容易に行うことができる。
【0041】
そして、本実施形態では、上述のようにして別のシールド施工現場で作成された初期掘進時予測モデルを用いることで、当該シールド施工現場におけるシールド掘進機20の発進立坑からの発進時の領域である初期掘進領域において、好ましくは施工された掘進方向後方側の一又は複数のリングN-1~N-5を施工した際の施工計測データのうち、シールド掘進機の操作に関する所定のデータを含むデータを入力し、好ましくは掘進方向前方側の所定のリングN~N+5を施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を出力させて、シールド掘進機の先端の偏差を予測しながら、初期掘進領域におけるシールド掘進機の掘進を管理することが可能になる。
【0042】
また、本実施形態では、好ましくは初期掘進領域を、当該シールド施工現場における学習領域として設定して、好ましくは後方側の一又は複数のリングN-1~N-5(図2参照)を施工した際の施工計測データのうち、好ましくはシールド掘進機の周辺環境に関するデータ(記録日時、カッタビット加速度、テールクリアランス等)を除いた操作に関する所定のデータを説明変数とし、好ましくは掘進方向前方側の所定のリングN~N+5を施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする学習済みモデルを本掘進時予測モデルとして、施工された掘進方向後方側の一又は複数のリングを施工した際の施工計測データを入力し、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を出力させて、シールド掘進機の先端の掘進計画延長線からの偏差を予測しながら、前記本掘進領域におけるシールド掘進機の掘進を管理するようになっている。なお、この学習領域では、周辺環境に関するデータを計測はするが、説明変数としては使用しないようにすることができる。
【0043】
すなわち、当該シールド施工現場において、AIによる機械学習によって本掘進時予測モデルを作成するには、好ましくは初期掘進領域に設定された、例えば70リング分(1リング=1.5m)の延長の初期の施工区間を第1週の学習領域(例えば125m)として、図2に示すように、別のシールド施工現場において初期掘進時予測モデルを作成した場合と同様に、掘進方向後方側の好ましくは5リングN-1~N-5を施工した際の施工計測データを説明変数として、掘進方向前方側の6箇所のリングN~N+5を各々施工する際の、シールド掘進機20の先端の偏差(水平偏差、垂直偏差、方向偏差)を目的変数とする学習済みモデルを各々作成する。ここで、説明変数は、掘進方向後方側の5リングN-1~N-5を施工する際の、シールド掘進機の操作に関する所定のデータを含むデータや、正規化された、シールド掘進機20の構造及び機械設備の性能に関する所定のデータの他、当該シールド施工現場におけるシールド掘進機20の「クセ」を反映させることが可能な、シールド掘進機の位置の把握に関する掘進データや、土質などその他の掘進データを含めることができる。また初期掘進領域においては使用していなかった、周辺環境に関するデータを含めることもできる。
【0044】
本実施形態では、当該シールド施工現場の学習領域において、これらの説明変数や目的変数を教師データとして、好ましくはサポートベクターマシンをアルゴリズムとするニューラルネットワークによる機械学習を行うことで、掘進方向後方側の5リングN-1~N-5の所定の施工計測データを入力データとし、掘進方向前方側の6箇所のリングN~N+5を各々施工する際のシールド掘進機20の先端の偏差を出力データとする、学習済みモデルを作成する。これらの学習済みモデルは、上述の当該シールド施工現場における学習済み汎用モデルと同様に、第1週の学習領域においては、掘進方向前方側の6箇所のリングN~N+5を各々施工する際の、シールド掘進機20の先端の偏差を出力データとする学習済みモデルとして、6モデル作成することができる(図6参照)。
【0045】
また、本実施形態では、好ましくは第1週の学習領域に後続して、初期掘進領域よりも掘進方向前方側のシールド掘進機20の掘進計画延長線21上に、第1週の学習領域と同様の例えば70リング分の延長(例えば125m)の区間を、第2週~第4週の学習領域として設定して、第1週の学習領域と同様に、図6に示すように、第2週~第4週の学習領域の各々について、6モデルの学習済みモデルを作成することもできる。すなわち、第2週~第4週の各々の学習領域において、図2に示すように、掘進方向後方側の好ましくは5リングN-1~N-5を施工した際の所定の施工計測データを説明変数とし、掘進方向前方側の6箇所のリングN~N+5を各々施工する際の、シールド掘進機20の先端の偏差を目的変数として、好ましくはサポートベクターマシンをアルゴリズムとするニューラルネットワークによる機械学習を行うことで、掘進方向後方側の5リングN-1~N-5の所定の施工計測データを入力データとし、掘進方向前方側の6箇所のリングN~N+5を各々施工する際のシールド掘進機20の先端の偏差を出力データとする、6モデルの学習済み汎用モデルを作成する。
【0046】
これらによって、本実施形態では、図6に示すように、第1週~第4週を予測期間とし、各予測期間における未来6リング(N~N+5)を予測区間として、6箇所のリングN~N+5を施工する際の、各々のシールド掘進機20における先端を予測先地点とする、偏差を出力するための合計24モデルの学習済みモデルが作成されることになる。
【0047】
また、本実施形態では、これらの合計24モデルの学習済みモデルから、最も精度の良い予測期間、予測区間の学習済みモデルを選択して、当該シールド施工現場の本掘進領域において用いることが可能な、本掘進時予測モデルとすることが好ましい。ここで、本掘進時予測モデルとなる最も精度の良い予測期間、予測区間の学習済みモデルの選択は、上述の初期掘進時予測モデルの場合と同様に、例えば一の学習済みモデルを得た週とは別の週における学習領域で得られた、所定の施工計測データを当該一の学習済みモデルに入力した際の出力データを、当該別の週における学習領域で得られた施工計測データにおけるシールド掘進機の先端の偏差に関する既知の値と比較することによって、容易に行うことができる。
【0048】
そして、本実施形態では、上述のようにして当該シールド施工現場で作成された本掘進時予測モデルを用いることで、当該シールド施工現場における本掘進領域において、好ましくは施工された掘進方向後方側の一又は複数のリングN-1~N-5を施工した際の所定の施工計測データを入力し、好ましくは掘進方向前方側の所定のリングN~N+5を施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を出力させて、シールド掘進機20の先端の掘進計画延長線21からの偏差を予測しながら、本掘進領域におけるシールド掘進機の掘進を管理することが可能になる。
【0049】
これらによって、本実施形態のシールド掘進機の施工管理方法によれば、別のシールド施工現場でAIによる機械学習によって作成された学習済み汎用モデルを転用して使用することを可能にして、当該シールド施工現場の特に初期掘進領域においては、作成された学習済み汎用モデルを初期掘進時予測モデルを用いて、シールド掘進機の掘進を管理することが可能になると共に、当該シールド施工現場の特に初期掘進領域においては、当該シールド施工現場で作成された本掘進時予測モデルを用いることで、シールド掘進機の「クセ」と呼ばれる特質を反映させて、シールド掘進機20が地中に設定された掘進計画延長線21に沿って掘進して行くように適切に管理することが可能になる。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、学習済み汎用モデルや学習済みモデルを作成するための説明変数となる施工計測データは、掘進方向後方側の直前の5リングから得られるものである必要は必ずしもなく、掘進方向後方側の一又は複数のリングを適宜選択して、これらのリングから得られる施工計測データとすることもできる。目的変数となるシールド掘進機の先端の偏差が計測されるリングは、掘進方向前方側の直後の6リングうちのいずれかである必要は必ずしも無く、7リング以上前方側のリングにおけるシールド掘進機の先端の偏差であっても良い。学習済みモデルやパラメータ確認用モデルや予測モデルを作成するための機械学習は、サポートベクターマシンをアルゴリズムとするニューラルネットワークによるものである必要は必ずしも無く、大量の施工計測データを解析することが可能な、その他の種々のアルゴリズムによるものであっても良い。
【符号の説明】
【0051】
10 シールド掘進管理システム
11 クラウドサーバ
12 LAN
13 パーソナルコンピュータ
14 ディスプレイ
20 シールド掘進機
20a 回転カッター
20b シールドジャッキ
20c スキンプレート
20d エレクター装置
20e セグメント
21 掘進計画延長線
22 学習領域
N~N+5,N-1~N-5,N’~N+5’,N-1’~N-5’ リング
図1
図2
図3
図4
図5
図6