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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】油圧ショベル
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/24 20060101AFI20240827BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20240827BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20240827BHJP
   E02F 3/36 20060101ALI20240827BHJP
   B66C 23/88 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
E02F9/24 B
E02F9/26 A
E02F9/20 H
E02F3/36 Z
B66C23/88 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021049103
(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公開番号】P2022147725
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】398071668
【氏名又は名称】株式会社日立建機ティエラ
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】島田 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】湯上 誠之
(72)【発明者】
【氏名】野村 沢哉
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】関口 清悟
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-111581(JP,A)
【文献】特開平08-091778(JP,A)
【文献】特開平05-105399(JP,A)
【文献】特開2019-172383(JP,A)
【文献】特開平11-180677(JP,A)
【文献】特開2002-179387(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0260265(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/24
E02F 9/26
E02F 9/20
E02F 3/36
B66C 23/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行可能な車体と、前記車体に連結された作業装置と、前記作業装置に設けられたフックと、を備えた油圧ショベルにおいて、
前記作業装置による作業を行う通常モード、前記車体が定置状態で前記フックによる荷吊り作業を行う定置吊りモード、及び前記フックによる荷吊り状態で前記車体の走行を行う吊り荷走行モードに切換えるモード切換装置と、
前記モード切換装置で前記通常モードに切換えられている場合に前記車体の走行を許可し、前記モード切換装置で前記定置吊りモードに切換えられている場合に前記車体の走行を禁止し、前記モード切換装置で前記吊り荷走行モードに切換えられている場合に前記車体の走行速度を制限させた状態にして走行を許可するコントローラとを備えたことを特徴とする油圧ショベル。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧ショベルにおいて、
前記車体を走行させる走行モータと、
油圧ポンプから前記走行モータへの圧油の流れを制御する制御弁と、
操作レバーの操作に応じて、パイロットポンプの吐出圧を元圧として前記制御弁を切換えるパイロット圧を生成して出力する走行操作装置と、
前記パイロットポンプと前記走行操作装置の間の油路に設けられた走行阻止弁とを備え、
前記コントローラは、前記モード切換装置で前記通常モードに切換えられている場合には、前記走行阻止弁を連通状態に制御し、前記モード切換装置で前記定置吊りモードに切換えられている場合には、前記走行阻止弁を遮断状態に制御し、前記モード切換装置で前記吊り荷走行モードに切換えられている場合には、前記走行阻止弁を連通状態に制御することを特徴とする油圧ショベル。
【請求項3】
請求項2に記載の油圧ショベルにおいて、
前記車体の走行速度の段階的な切換えを指示する速度指示装置と、
前記走行モータの容量を大きくして前記車体の走行速度を低速段階とする第1の切換位置と前記走行モータの容量を小さくして前記車体の走行速度を高速段階とする第2の切換位置に切換可能な速度切換弁とを備え、
前記コントローラは、前記モード切換装置で前記通常モードに切換えられている場合には、前記速度指示装置の指示に応じて前記速度切換弁を制御し、前記モード切換装置で前記吊り荷走行モードに切換えられている場合には、前記速度切換弁を前記第1の切換位置に制御することを特徴とする油圧ショベル。
【請求項4】
請求項3に記載の油圧ショベルにおいて、
前記モード切換装置は、前記通常モードと前記定置吊りモードとの切換えを行う第1のモード切換装置と、前記定置吊りモードと前記吊り荷走行モードとの切換えを行う第2のモード切換装置とで構成されたことを特徴とする油圧ショベル。
【請求項5】
請求項4に記載の油圧ショベルにおいて、
前記速度指示装置は、前記第2のモード切換装置を兼用することを特徴とする油圧ショベル。
【請求項6】
請求項1に記載の油圧ショベルおいて、
前記車体を走行させる走行モータと、
油圧ポンプから前記走行モータへの圧油の流れを制御する制御弁と、
操作レバーの操作に応じて前記制御弁を切換える走行操作装置と、
前記操作レバーの操作による前記制御弁の切換えを禁止するロック状態と前記操作レバーの操作による前記制御弁の切換えを許可するロック解除状態に切換可能な走行ロック装置とを備え、
前記コントローラは、前記モード切換装置で前記通常モードに切換えられている場合には、前記走行ロック装置をロック解除状態に制御し、前記モード切換装置で前記定置吊りモードに切換えられている場合には、前記走行ロック装置をロック状態に制御し、前記モード切換装置で前記吊り荷走行モードに切換えられている場合には、前記走行ロック装置をロック解除状態に制御することを特徴とする油圧ショベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定置吊りと吊り荷走行が可能な油圧ショベルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、クレーン機能を有する油圧ショベルを開示する。この油圧ショベルは、走行可能な走行体と、走行体の上側に旋回可能に設けられた旋回体と、旋回体に連結された作業装置とを備える。作業装置は、旋回体に回動可能に連結されたブームと、ブームの先端部に回動可能に連結されたアームと、アームの先端部に回動可能に連結されたバケットと、バケットの基端部に設けられたフックとを備える。
【0003】
油圧ショベルは、バケットによる掘削動作などの通常動作だけでなく、走行体の定置状態でのフックによる荷吊り動作(以降、「定置吊り」という)が行える。また、フックによる荷吊り状態での走行体の走行動作(以降、「吊り荷走行」という)が行える。
【0004】
油圧ショベルは、定置吊りや吊り荷走行を行うための安全装置を備える。詳しく説明すると、油圧ショベルは、運転者が定置吊りを意図して、定置吊りモードを指示する第1のモードスイッチと、運転者が吊り荷走行を意図して、吊り荷走行モードを指示する第2のモードスイッチと、ブームの回動角を検出するブーム角度センサと、アームの回動角を検出するアーム角度センサと、ブームシリンダのロッド側圧力を検出するロッド側圧力センサと、ブームシリンダのボトム側圧力を検出するボトム側圧力センサと、コントローラと、警報ランプとを備える。
【0005】
コントローラは、ブーム角度センサ、アーム角度センサ、ロッド側圧力センサ、及びボトム側圧力センサの検出結果に基づき、フックにかかる荷重(実荷重)を演算する。そして、第1のモードスイッチで定置吊りモードが指示された場合に、実荷重が予め設定された第1の定格荷重以上であれば、警報ランプを点灯させる。あるいは、第2のモードスイッチで吊り荷走行モードが指示された場合に、実荷重が予め設定された第2の定格荷重以上であれば、警報ランプを点灯させる。第2の定格荷重は、第1の定格荷重より小さくなるように設定されている。これにより、吊り荷走行時の荷重を、定置吊り時の荷重よりも制限する。
【0006】
油圧ショベルは、走行体の走行速度の段階的な切換えを指示する速度指示装置と、速度指示装置の指示に応じて切換えられる速度切換弁とを備える。速度切換弁は、走行モータの容量を大きくして走行体の走行速度を低速段階とする第1の切換位置と、走行モータの容量を小さくして走行体の走行速度を高速段階とする第2の切換位置に切換可能としている。コントローラは、第2のモードスイッチで吊り荷走行モードが指示された場合に、速度切換弁を第1の切換位置に制御する。これにより、吊り荷走行時の走行の速度を制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-111581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術では、運転者が第1のモードスイッチを操作して定置吊りモードを指示すれば、定置吊りモードの安全機能を作動しながら、定置吊りを行うことができる。しかし、定置吊りから吊り荷走行へ移行する際、運転者が第2のモードスイッチの操作を失念しても、すなわち、定置吊りモードから吊り荷走行モードへの切換えを失念しても、走行が可能である。定置吊りモードの安全機能から吊り荷走行モードの安全機能へ切換わらないまま、定置吊りから吊り荷走行へ移行することができてしまうため、安全性の面で改善の余地がある。
【0009】
本発明は、上記事柄に鑑みてなされたものであり、その目的は、運転者が吊り荷走行を行う際に、安全性を高めることができる建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、走行可能な車体と、前記車体に連結された作業装置と、前記作業装置に設けられたフックと、を備えた油圧ショベルにおいて、前記作業装置による作業を行う通常モード、前記車体が定置状態で前記フックによる荷吊り作業を行う定置吊りモード、及び前記フックによる荷吊り状態で前記車体の走行を行う吊り荷走行モードに切換えるモード切換装置と、前記モード切換装置で前記通常モードに切換えられている場合に前記車体の走行を許可し、前記モード切換装置で前記定置吊りモードに切換えられている場合に前記車体の走行を禁止し、前記モード切換装置で前記吊り荷走行モードに切換えられている場合に前記車体の走行速度を制限させた状態にして走行を許可するコントローラとを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、運転者が吊り荷走行を行う際に、安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態における油圧ショベルの構造を表す側面図である。
図2】本発明の一実施形態における油圧ショベルの駆動装置の構成のうち、走行モータの駆動に係わる構成を表す図である。
図3】本発明の一実施形態におけるコントローラ及び関連機器を表すブロック図である。
図4】本発明の第1の変形例における走行ロック装置の構造を表す斜視図である。
図5】本発明の第1の変形例における走行ロック装置の動作を表す図である。
図6】本発明の第1の変形例におけるコントローラ及び関連機器を表すブロック図である。
図7】本発明の第2の変形例におけるコントローラ及び関連機器を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の適用対象として、クレーン機能を有する油圧ショベルを例にとり、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1は、本実施形態における油圧ショベルの構造を表す側面図である。なお、以降、油圧ショベルの運転室内の運転席に着座した運転者の前側(図1の左側)、後側(図1の右側)、左側(図1の紙面に対して手前側)、右側(図1の紙面に対して奥側)を、単に前側、後側、左側、右側と称する。
【0015】
本実施形態の油圧ショベルは、走行可能な走行体1と、走行体1の上側に旋回可能に設けられた旋回体2とを備え、走行体1及び旋回体2が車体を構成している。旋回体2は、旋回モータ3によって旋回する。
【0016】
走行体1は、例えば上方から見てH字形状のトラックフレーム4と、トラックフレーム4の左側の後端に設けられた駆動輪5と、トラックフレーム4の左側の前端に設けられた従動輪6と、左側の駆動輪5及び従動輪6にかけまわされた左側の履帯7と、左側の駆動輪5(ひいては、左側の履帯7)を駆動する左側の走行モータ8Aとを備える。
【0017】
また、走行体1は、トラックフレーム4の右側の後端に設けられた駆動輪(図示せず)と、トラックフレーム4の右側の前端に設けられた従動輪(図示せず)と、右側の駆動輪及び従動輪にかけまわされた右側の履帯(図示せず)と、右側の駆動輪(ひいては、右側の履帯)を駆動する右側の走行モータ8B(後述の図2参照)とを備える。走行体1は、走行モータ8A,8Bによって走行する。
【0018】
旋回体2には作業装置9が連結されている。作業装置9は、旋回体2に回動可能に連結されたブーム10と、ブーム10の先端部に回動可能に連結されたアーム11と、アーム11の先端部に回動可能に連結されたバケット12と、バケット12の基端部に設けられたフック13とを備える。ブーム10、アーム11、及びバケット12は、ブームシリンダ14、アームシリンダ15、及びバケットシリンダ16によってそれぞれ回動する。
【0019】
作業装置9は、ブーム10の回動角及びアーム11の回動角をそれぞれ検出する角度センサ17A,17B(後述の図3参照)と、ブームシリンダ14のロッド側圧力及びボトム側圧力をそれぞれ検出する圧力センサ18A,18B(後述の図3参照)とを備える。
【0020】
旋回体2の運転室19の内部には、運転者が着座する運転席(図示せず)が設けられている。運転席の左側には、アーム11の回動及び旋回体2の旋回を指示する作業操作装置(図示せず)が配置され、運転席の右側には、ブーム10の回動及びバケット12の回動を指示する作業操作装置(図示せず)が配置されている。
【0021】
運転席の前側には、走行体1の走行を指示する走行操作装置20A,20B(後述の図2参照)が配置されている。運転室19の内部には、走行体1の走行速度の段階的な切換えを指示する速度指示装置21(後述の図3参照)が設けられている。速度指示装置21は、例えば、シーソースイッチ、押しボタン、又は踏みペダルで構成されている。
【0022】
運転席の前方右側には、モニタ装置22(後述の図3参照)が配置されている。モニタ装置22は、例えば、運転者が操作可能なスイッチと、ディスプレイと、ディスプレイの表示制御や、スイッチの操作に応じて各種の設定を行うモニタコントローラとを有する。
【0023】
上述した油圧ショベルは、バケット12による掘削動作などの通常動作だけでなく、走行体1の定置状態でのフック13による荷Wの吊り動作(以降、「定置吊り」という)が行える。また、油圧ショベルは、フック13による荷Wの吊り状態での走行体1の走行動作(以降、「吊り荷走行」という)が行える。モニタ装置22は、運転者がスイッチの操作によって、通常動作を行う通常モード、定置吊りを行う定置吊りモード、及び吊り荷走行を行う吊り荷走行モードのうちのいずれかのモードを選択可能に構成されている。
【0024】
複数の油圧アクチュエータ(詳細には、上述した旋回モータ3、走行モータ8A,8B、ブームシリンダ14、アームシリンダ15、及びバケットシリンダ16等)は、油圧ショベルに搭載された駆動装置によって駆動される。図2は、本実施形態における油圧ショベルの駆動装置の構成のうち、走行モータ8A,8Bの駆動に係わる構成を表す図である。
【0025】
本実施形態の駆動装置は、図示しない原動機(詳細には、例えばエンジン又は電動モータ)によって駆動される油圧ポンプ23A,23Bと、油圧ポンプ23Aから走行モータ8Aへの圧油の流れを制御する制御弁24Aと、油圧ポンプ23Bから走行モータ8Bへの圧油の流れを制御する制御弁24Bと、操作レバー25Aの操作に応じて制御弁24Aを切換える走行操作装置20Aと、操作レバー25Bの操作に応じて制御弁24Bを切換える走行操作装置20Bとを備える。
【0026】
走行操作装置20Aは、前後方向に操作可能な操作レバー25Aと、操作レバー25Aの前側操作量に応じて、パイロットポンプ26の吐出圧を元圧としてパイロット圧を生成して出力する第1のパイロット弁(図示せず)と、操作レバー25Aの後側操作量に応じて、パイロットポンプ26の吐出圧を元圧としてパイロット圧を生成して出力する第2のパイロット弁(図示せず)とを有する。
【0027】
運転者が操作レバー25Aを前側に操作した場合に、第1のパイロット弁からのパイロット圧が制御弁24Aの一方側の受圧部に出力されて、制御弁24Aが図示左側の切換位置に切換えられる。これにより、油圧ポンプ23Aからの圧油が制御弁24Aを介し走行モータ8Aの一方側のポートへ供給されて、走行モータ8Aが前方向に回転する。運転者が操作レバー25Aを後側に操作した場合に、第2のパイロット弁からのパイロット圧が制御弁24Aの他方側の受圧部に出力されて、制御弁24Aが図示右側の切換位置に切換えられる。これにより、油圧ポンプ23Aからの圧油が制御弁24Aを介し走行モータ8Aの他方側のポートへ供給されて、走行モータ8Aが後方向に回転する。
【0028】
走行操作装置20Bは、前後方向に操作可能な操作レバー25Bと、操作レバー25Bの前側操作量に応じて、パイロットポンプ26の吐出圧を元圧としてパイロット圧を生成して出力する第3のパイロット弁(図示せず)と、操作レバー25Bの後側操作量に応じて、パイロットポンプ26の吐出圧を元圧としてパイロット圧を生成して出力する第4のパイロット弁(図示せず)とを有する。
【0029】
運転者が操作レバー25Bを前側に操作した場合に、第3のパイロット弁からのパイロット圧が制御弁24Bの一方側の受圧部に出力されて、制御弁24Bが図示左側の切換位置に切換えられる。これにより、油圧ポンプ23Bからの圧油が制御弁24Bを介し走行モータ8Bの一方側のポートへ供給されて、走行モータ8Bが前方向に回転する。運転者が操作レバー25Bを後側に操作した場合に、第4のパイロット弁からのパイロット圧が制御弁24Bの他方側の受圧部に出力されて、制御弁24Bが図示右側の切換位置に切換えられる。これにより、油圧ポンプ23Bからの圧油が制御弁24Bを介し走行モータ8Bの他方側のポートへ供給されて、走行モータ8Bが後方向に回転する。
【0030】
本実施形態の駆動装置は、走行モータ8A,8Bの斜板の傾転角(すなわち、容量)をそれぞれ可変する容量アクチュエータ27A,27Bと、パイロットポンプ26と容量アクチュエータ27A,27Bの間の油路を開閉する速度切換弁28(電磁弁)とを更に備える。
【0031】
速度切換弁28が図示下側の切換位置(第1の切換位置)である場合に、パイロットポンプ26からの圧油が容量アクチュエータ27A,27Bに供給されない。これにより、容量アクチュエータ27A,27Bのピストンが図示右側に位置して、走行モータ8A,8Bの斜板の傾転角が大となり、走行モータ8A,8Bの容量が大となる。その結果、走行モータ8A,8Bの回転速度、すなわち、走行体1の走行速度が低速段階に制限される。
【0032】
一方、速度切換弁28が図示上側の切換位置(第2の切換位置)である場合に、パイロットポンプ26からの圧油が容量アクチュエータ27A,27Bに供給される。これにより、容量アクチュエータ27A,27Bのピストンが図示左側に移動して、走行モータ8A,8Bの斜板の傾転角が小となり、走行モータ8A,8Bの容量が小となる。その結果、走行モータ8A,8Bの回転速度、すなわち、走行体1の走行速度が高速段階となる。
【0033】
ここで、本実施形態の特徴の一つとして、パイロットポンプ26と走行操作装置20A,20Bの間の油路(詳細には、図示しないものの、走行操作装置側と他の操作装置側に分岐する分岐点より下流側であって、走行操作装置側の油路)を開閉する走行阻止弁29(電磁弁)が設けられている。
【0034】
走行阻止弁29が図示下側の切換位置(遮断状態)である場合に、パイロットポンプ26と走行操作装置20A,20Bの間の油路を遮断するので、パイロットポンプ26からの圧油が走行操作装置20A,20Bに供給されない。これにより、走行操作装置20A,20Bがパイロット圧を生成できなくなるので、制御弁24A,24Bが切換えられず、走行モータ8A,8Bが駆動しない。したがって、走行体1の走行を禁止する。
【0035】
一方、走行阻止弁29が図示上側の切換位置(連通状態)である場合に、パイロットポンプ26と走行操作装置20A,20Bの間の油路を連通するので、パイロットポンプ26からの圧油が走行操作装置20A,20Bに供給される。これにより、走行操作装置20A,20Bがパイロット圧を生成できる。したがって、走行体1の走行を許可する。
【0036】
上述した速度切換弁28及び走行阻止弁29は、コントローラ30によって制御される。図は、本実施形態におけるコントローラ及び関連機器を表すブロック図である。
【0037】
コントローラ30は、例えば、プログラムを記憶するメモリと、プログラムに従って処理を行うCPUを有する。コントローラ30は、モニタ装置22で通常モード、定置吊りモード、及び吊り荷走行モードのうちのいずれに切換えられたかに応じて、走行制御及び過負荷警報制御を行っている。それらの詳細について説明する。
【0038】
(1)走行制御
モニタ装置22で通常モードに切換えられている場合に、コントローラ30は、走行阻止弁29を連通状態に制御して、走行体1の走行を許可する。また、速度指示装置21の指示に応じて、速度切換弁28を制御する。すなわち、速度指示装置21で低速段階が指示された場合に、速度切換弁28を第1の切換位置に制御し、速度指示装置21で高速段階が指示された場合に、速度切換弁28を第2の切換位置に制御する。
【0039】
モニタ装置22で定置吊りモードに切換えられている場合に、コントローラ30は、走行阻止弁29を遮断状態に制御して、走行体1の走行を禁止する。
【0040】
モニタ装置22で吊り荷走行モードに切換えられている場合に、コントローラ30は、走行阻止弁29を連通状態に制御すると共に、速度切換弁28を第1の切換位置に制御する。これにより、走行体1の走行速度を制限させた状態にして、走行を許可する。
【0041】
(2)過負荷警報制御
コントローラ30は、モニタ装置22で通常モードに切換えられている場合に、過負荷警報制御を実行せず、モニタ装置22で定置吊りモード又は吊り荷走行モードに切換えられている場合に、過負荷警報制御を実行する。
【0042】
モニタ装置22で定置吊りモード又は吊り荷走行モードに切換えられている場合に、コントローラ30は、角度センサ17A,17B及び圧力センサ18A,18Bの検出結果に基づいて、荷Wの実荷重を演算する。また、角度センサ17A,17Bの検出結果に基づいて、吊り高さ(言い換えれば、地面からフック13までの鉛直距離)と作業半径(言い換えれば、旋回体2の旋回中心からフック13までの水平距離)を演算する。そして、荷Wの実荷重、吊り高さ、及び作業半径をモニタ装置22に表示させる。
【0043】
モニタ装置22で定置吊りモードに切換えられている場合に、コントローラ30は、予め記憶された作業半径と定置吊り時の定格荷重との関係を用いて、作業半径に対応する定置吊り時の定格荷重を取得する。そして、荷Wの実荷重が定格荷重に達したときに、過負荷警報を出させる。具体的には、例えば、モニタ装置22に過負荷警報のメッセージを表示させるか、若しくは、ブザー31を吹鳴させる。
【0044】
モニタ装置22で吊り荷走行モードに切換えられている場合に、コントローラ30は、予め記憶された作業半径と吊り荷走行時の定格荷重との関係を用いて、作業半径に対応する吊り荷走行時の定格荷重を取得する。そして、荷Wの実荷重が定格荷重に達したときに、過負荷警報を出させる。吊り荷走行時の定格荷重は、定置吊り時の定格荷重より小さくなるように設定されている。これにより、吊り荷走行時の荷重を、定置吊り時の荷重よりも制限する。
【0045】
以上のように本実施形態においては、モニタ装置22で定置吊りモードに切換えられている場合に、走行体1の走行を禁止する。そのため、運転者が定置吊りモードから吊り荷走行モードへの切換えを失念したまま、走行操作装置20A,20Bを操作しても、走行が行えず、すなわち、定置吊りから吊り荷走行への移行が行えない。定置吊りから吊り荷走行へ移行するためには、定置吊りモードから吊り荷走行モードへの切換えが必要である。したがって、運転者が吊り荷走行を行う際に、安全性を高めることができる。
【0046】
なお、上記実施形態においては、モニタ装置22で吊り荷走行モードに切換えられている場合に走行体1の走行速度を制限する手段として、コントローラ30が速度切換弁28を制御して走行モータ8A,8Bの容量を大きくする場合を例にとって説明したが、これに限られない。コントローラ30が原動機の回転数を低下させてもよい。
【0047】
また、上記実施形態において、モニタ装置22で定置吊りモードに切換えられている場合に走行体1の走行を禁止する手段として、油圧ショベルが走行阻止弁29を備えた場合を例にとって説明したが、これに限られない。例えば、走行阻止弁29の代わりに、操作レバー25A,25Bの操作(すなわち、制御弁24A,24Bの切換え)を禁止するロック状態と操作レバー25A,25Bの操作を許可するロック解除状態に切換可能な走行ロック装置を油圧ショベルが備えてもよい。このような第1の変形例を、図4図6を用いて説明する。
【0048】
図4は、本変形例における走行ロック装置の構造を表す斜視図である。図5(a)及び図5(b)は、本変形例における走行ロック装置の動作を表す図である。図6は、本変形例におけるコントローラ及び関連機器を表すブロック図である。
【0049】
本変形例では、操作レバー25A,25Bを前後方向に回動可能に支持する支持フレーム32には、走行ロック装置33が設けられている。走行ロック装置33は、支持フレーム32に左右方向に移動可能に支持されたロックプレート34と、ロックプレート34を左右方向に移動させるロックシリンダ35と、パイロットポンプ26とロックシリンダ35の間の油路(図示せず)に設けられた電磁弁36とを備える。操作レバー25A,25Bの回動支点の近傍には、前側に突出した突出部37A,37Bがそれぞれ設けられている。ロックプレート34には、溝部38A,39A,38B,39Bがその順序で左右方向に連続して形成されている。
【0050】
電磁弁36が連通状態である場合に、パイロットポンプ26からの圧油がロックシリンダ35に供給される。これにより、例えば図5(a)で示すように、ロックシリンダ35が伸長して、ロックプレート34が図示右側に位置する。このとき、操作レバー25Aの突出部37Aがロックプレート34の溝部39Aに位置し、操作レバー25Bの突出部37Bがロックプレート34の溝部39Bに位置する。溝部39Aは、上下方向の幅寸法が比較的大きく、突出部37Aとの隙間が大きい。同様に、溝部39Bは、上下方向の幅寸法が比較的大きく、突出部37Bとの隙間が大きい。そのため、操作レバー25A,25Bの回動を許可する(ロック解除状態)。
【0051】
一方、電磁弁36が遮断状態である場合に、パイロットポンプ26からの圧油がロックシリンダ35に供給されない。これにより、例えば図5(b)で示すように、ロックシリンダ35が縮短して、ロックプレート34が図示左側に位置する。このとき、操作レバー25Aの突出部37Aがロックプレート34の溝部38Aに位置し、操作レバー25Bの突出部37Bがロックプレート34の溝部38Bに位置する。溝部38Aは、上下方向の幅寸法が比較的小さく、突出部37Aとの隙間が僅かである。同様に、溝部38Bは、上下方向の幅寸法が比較的小さく、突出部37Bとの隙間が僅かである。そのため、操作レバー25A,25Bの回動を禁止する(ロック状態)。
【0052】
モニタ装置22で通常モードに切換えられている場合に、コントローラ30は、電磁弁36を連通状態に制御して、走行ロック装置33をロック解除状態に制御する。これにより、操作レバー25A,25Bの操作を許可して、走行体1の走行を許可する。また、速度指示装置21の指示に応じて、速度切換弁28を制御する。
【0053】
モニタ装置22で定置吊りモードに切換えられている場合に、コントローラ30は、電磁弁36を遮断状態に制御して、走行ロック装置33をロック状態に制御する。これにより、操作レバー25A,25Bの操作を禁止して、走行体1の走行を禁止する。
【0054】
モニタ装置22で吊り荷走行モードに切換えられている場合に、コントローラ30は、電磁弁36を連通状態に制御して、走行ロック装置33をロック解除状態に制御する。これと同時に、速度切換弁28を第1の切換位置に制御して、走行体1の走行速度を制限する。
【0055】
以上のように構成された本変形例においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。本変形例では、走行操作装置20A,20Bのパイロット圧でなく、走行操作装置のリンク機構によって制御弁24A,24Bが切換えられるように構成された場合でも、適用することができる。
【0056】
なお、上記実施形態及び第1の変形例において、通常モード、定置吊りモード、及び吊り荷走行モードに切換えるモード切換装置は、モニタ装置22で構成された場合を例にとって説明したが、これに限られない。例えば図7で示す第2の変形例のように、モード切換装置は、通常モードと定置吊りモードとの切換えを行うモニタ装置22(第1のモード切換装置)と、定置吊りモードと吊り荷走行モードとの切換えを行うモード切換装置40(第2のモード切換装置)とで構成されてもよい。また、速度指示装置21は、第2のモード切換装置を兼用してもよい。これにより、装置40を不要とすることができる。
【符号の説明】
【0057】
1 走行体
2 旋回体
8A,8B 走行モータ
9 作業装置
13 フック
20A,20B 走行操作装置
21 速度指示装置
22 モニタ装置
23A,23B 油圧ポンプ
24A,24B 制御弁
25A,25B 操作レバー
26 パイロットポンプ
28 速度切換弁
29 走行阻止弁
30 コントローラ
33 走行ロック装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7