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特許7544641非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240827BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240827BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240827BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240827BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240827BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20240827BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20240827BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20240827BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/052
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01G11/06
H01G11/64
H01G11/62
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021051789
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2021158115
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2020056805
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】垣田 一成
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 宏行
(72)【発明者】
【氏名】木戸 大希
(72)【発明者】
【氏名】栗原 良規
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-250424(JP,A)
【文献】特開2000-090969(JP,A)
【文献】特開2017-183067(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129677(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 10/0566-10/0567
H01G 11/06
H01G 11/58-11/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、下記一般式(I)で表される化合物を含有する蓄電デバイス用非水電解液。
【化6】
(式中、Gは単糖残基または2~10個の単糖単位を含む多糖類残基を表すが、Gは糖由来の水酸基は含有しない。Rは炭素数1~8のアルキル基を表し、Rは少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されていても良い炭素数1~8のアルキル基を表し、mは0または1を表し、nは1以上の整数を表し、m+n≧2である。)
【請求項2】
前記一般式(I)におけるGが、炭素数4~12である単糖残基または二糖類残基である、請求項1に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項3】
前記一般式(I)におけるRが炭素数1~4のアルキル基またはトリフルオロメチル基であり、mが0かつnが2~10である請求項1または2に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項4】
前記一般式(I)におけるRがメチル基であり、Rが炭素数1~4のアルキル基またはトリフルオロメチル基であり、mが1かつnが2~9である請求項1または2に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項5】
前記一般式(I)で表される化合物を0.01~10質量%含有する請求項1から4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項6】
非水電解液がLiPFを含有する請求項1から5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項7】
Si原子を含む負極、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液および正極を備えた蓄電デバイスであって、該非水電解液が請求項1から6のいずれか1項に記載の非水電解液であることを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクル試験後の容量維持率を向上できる非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蓄電デバイス、特にリチウム電池は、携帯電話やノート型パソコン等の小型電子機器、電気自動車や電力貯蔵用として広く使用されている。これらの電子機器や自動車は、長期の使用により電池が劣化するため電池の交換が必要となる。それゆえ充放電の繰り返しによる劣化が抑えられる、つまりはサイクル特性の良好なリチウム電池が求められている。尚、本明細書において、リチウム電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。
【0003】
リチウム電池は、主にリチウムを吸蔵および放出可能な材料を含む正極および負極、ならびにリチウム塩と非水溶媒からなる非水電解液から構成され、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネートが使用されている。
また、負極としては、金属リチウム、リチウムを吸蔵および放出可能な金属化合物(金属単体、酸化物、リチウムとの合金等)や炭素材料が知られており、特にリチウムを吸蔵および放出することが可能なコークス、人造黒鉛、天然黒鉛等の炭素材料やケイ素材料を用いたリチウム電池が広く実用化されている。
【0004】
例えば、天然黒鉛や人造黒鉛等の高結晶化した炭素材料を負極材料として用いたリチウム電池は、非水電解液中の溶媒が充電時に負極表面で還元分解することにより発生した分解物やガスが電池の望ましい電気化学的反応を阻害するため、サイクル特性の低下を生じる。また、リチウム金属やその合金、スズまたはケイ素等の金属単体や酸化物を負極材料として用いたリチウム電池は、初期の容量は高いがサイクル中に微粉化が進むため、炭素材料の負極に比べて非水溶媒の還元分解が加速的に起こり、電池容量やサイクル特性のような電池性能が大きく低下する。これらの非水溶媒の分解物がさらに蓄積すると負極へのリチウムの吸蔵および放出がスムーズにできなくなりサイクル特性が低下しやすくなる。
【0005】
負極を表面処理することによるサイクル特性の改善は試みられている。例えば炭素前駆体となる化合物を化学気相蒸着法やゾルゲル法を用いて被覆する方法は、負極表面の被覆の均一性が低い、もしくは被覆するために使用した廃液の環境負荷が高いなどの課題があり、特許文献1には液体二酸化炭素に炭素前駆体となる化合物を溶解させ、数百度の高温で負極材料を焼結させるという比較的環境負荷の小さい方法で負極表面被覆の均一性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許公報:US2017/0149061 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、蓄電デバイスにおいてサイクル試験後の容量維持率を向上できる非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特許文献1に記載の高温焼結処理も不要な負極表面被覆法について鋭意研究を重ね、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を用いて負極表面を被覆し蓄電デバイスのサイクル試験後の容量維持率を向上させることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の(1)または(2)を提供するものである。
【0010】
(1)非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、下記一般式(I)で表される化合物を含有する蓄電デバイス用非水電解液。
【0011】
【化1】
(式中、Gは単糖残基または2~10個の単糖単位を含む多糖類残基を表すが、Gは糖由来の水酸基は含有しない。Rは炭素数1~8のアルキル基を表し、Rは少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されていても良い炭素数1~8のアルキル基を表し、mは0または1を表し、nは1以上の整数を表し、m+n≧2である。)
【0012】
(2)非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、該非水電解液が前記(1)に記載の非水電解液であることを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、蓄電デバイスにおいてサイクル試験後の容量維持率を向上できる非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイスに関する。
【0015】
〔非水電解液〕
本発明の非水電解液は、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、非水電解液中に前記一般式(I)で表される化合物を含有することを特徴とする蓄電デバイス用非水電解液である。
【0016】
本発明の非水電解液が、蓄電デバイスのサイクル特性を向上させる理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
蓄電デバイスのサイクル特性が低下する要因のひとつとして、負極上で非水溶媒の分解物が蓄積し負極へのリチウムの吸蔵および放出がスムーズにできなくなることが挙げられる。本発明の前記一般式(I)で表される化合物由来の被膜が負極上に形成されることで、負極上の非水溶媒との反応を抑制するため、サイクル特性が向上すると考えられる。またケイ素を負極活物質として含む負極(Si負極)を用いた系では、Siと酸素原子は相互作用が強いため、前記一般式(I)で表される化合物は分子内に複数の酸素原子を有しており、糖由来の酸素原子が負極表面上のSiと強く相互作用し被膜を形成することで、サイクル特性が向上すると考えられる。
【0017】
本発明の非水電解液に含まれる化合物は、下記一般式(I)で表される。
【0018】
【化2】
(式中、Gは単糖残基または2~10個の単糖単位を含む多糖類残基を表すが、Gは糖由来の水酸基は含有しない。Rは炭素数1~8のアルキル基を表し、Rは少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されていても良い炭素数1~8のアルキル基を表し、mは0または1を表し、nは1以上の整数を表し、m+n≧2である。)
【0019】
前記一般式(I)において、Gは単糖残基または2~10個の単糖単位を含む多糖類残基を表すが、Gは糖由来の水酸基を含有しない。Gの具体例としては、以下の単糖残基または多糖類残基が好適に挙げられる。
なお、以下の具体例において、括弧内の数字は前記一般式(I)における、m+nの数を表す。
【0020】
〔単糖残基〕
単糖残基の具体例としては、アルドトリオ―ス(2)、ケトトリオ―ス(2)、イソソルビド(2)、イソマンニド(2)、エリトルロース(3)、エリトロース(3)、デオキシリボース(3)、リボース(4)、アラビノース(4)、アピオース(4)、キシロース(4)、リキソース(4)、リブロース(4)、キシルロース(4)、フコース(4)、ラムノース(4)、アロース(5)、アルトロース(5)、グルコース(5)、マンノース(5)、グロース(5)、イドース(5)、ガラクトース(5)、タロース(5)、プシコース(5)、フルクトース(5)、ソルボース(5)、タガトース(5)、セドヘプツロース(6)等の残基が挙げられる。
【0021】
〔多糖類残基〕
多糖類残基の具体例としては、スクラロース(5)、ラクトースジアミン(6)、ヒアロビウロン酸(6)、トレハロサミン(7)、ラクトサミン(7)、プリメベロース(7)、ルチノース(7)、シラビオース(7)、ビシアノース(7)、トレハロース(8)、イソトレハロース(8)、ネオトレハロース(8)、コウジビオース(8)、ニゲロース(8)、マルトース(8)、マルツロース(8)、イソマルトース(8)、イソマルツロース(8)、ソホロース(8)、ラミナラビオース(8)、セロビオース(8)、セロビオン酸(8)、ゲンチオビオース(8)、ラクトース(8)、ラクトビオン酸(8)、ラクツロース(8)、メリビオース(8)、ネオラクトース(8)、スクロース(サッカロース)(8)、ツラノース(8)、ガラクトスクロース(8)、マルチトール(9)、ラクチトール(9)等の二糖類の残基、カコトリオース(9)、ソラトリオース(10)、セロトリオース(11)、ゲンチアノース(11)、イソマルトトリオース(11)、イソパノース(11)、マルトトリオース(11)、マンニノトリオース(11)、メレジトース(11)、パノース(11)、プランテオース(11)、ラフィノース(11)、ウンベリフェロース(11)等の三糖類の残基、リコテトラオース(13)、マルトテトラオース(14)、スタキオース(14)等の四糖類の残基、マルトペンタオース(17)、ベルバスコース(17)等の五糖類の残基、マルトヘキサオース(20)等の六糖類の残基およびα-シクロアワオドリン(12)、β-シクロアワオドリン(14)、α-シクロデキストリン(18)、β-シクロデキストリン(21)、γ-シクロデキストリン(24)、δ-シクロデキストリン(27)等の環状オリゴ糖の残基が挙げられる。
【0022】
中でもGは単糖残基、または2~4個の単糖単位を含む多糖類残基であることが好ましく、単糖残基または二糖類残基がより好ましく、炭素数4~12である単糖残基または二糖類残基が更に好ましく、グルコース残基、リボース残基、スクロース残基またはイソマンニド残基であることが最も好ましい。
【0023】
式中、Rは炭素数1~8のアルキル基を表す。炭素数1~8のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基もしくはn-オクチル基等の直鎖アルキル基、iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、tert-アミル基もしくは2-エチルヘキシル基等の分枝アルキル基またはシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基もしくはシクロヘキシル基等のシクロアルキル基が好適に挙げられ、中でもメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基またはiso-プロピル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基またはiso-プロピル基が最も好ましい。
【0024】
は少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されていても良い炭素数1~8のアルキル基を表す。少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されていても良い炭素数1~8のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基もしくはn-オクチル基等の直鎖アルキル基、iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、tert-アミル基もしくは2-エチルヘキシル基等の分枝アルキル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基もしくはシクロヘキシル基等のシクロアルキル基またはフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2-フルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、3-フルオロプロピル基、3,3-ジフルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基もしくは2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基等の水素原子の一部がフッ素原子で置換されたアルキル基が好適に挙げられ、中でも、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、トリフルオロメチル基、2,2-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基から選ばれる、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されていても良い炭素数1~4のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基から選ばれる炭素数1~4のアルキル基またはトリフルオロメチル基がより好ましく、メチル基、エチル基またはトリフルオロメチル基が最も好ましい。
【0025】
mは0または1を表し、nは1以上の整数を表し、m+n≧2であり、mが0かつnが2~10またはmが1かつnが2~9が好ましい。なお、mが2以上の整数である場合には、2以上のRは、同じものであっても、また、異なるものであってもよいが、2以上のRの全てが同じものであることが好ましい。
【0026】
前記一般式(I)として具体例を記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。アノマー炭素については立体配置がα、βの混合物でもよい。
【0027】
【化3】
【0028】
【化4】
【0029】
上記化合物の中でもA1~A72が好ましく、A1~A60がより好ましく、A1~A12およびA37~A60が特に好ましい。なお、上記において、たとえば、A1の化合物は、一般式(I)において、Gがα-D-グルコース残基であり、R=CH、m=0、n=5である化合物であり、A2の化合物は、一般式(I)において、Gがα-D-グルコース残基であり、R=CHCH、m=0、n=5である化合物である。
【0030】
一般式(I)で表される化合物は、たとえば、対応する単糖または多糖類に対し、酸性環境下で、ROHで表される化合物を反応させることで、R-O-で表される基を導入する方法や、対応する単糖または多糖類に対し、RCOOHや(RCO)Oで表される化合物を反応させることでエステル化し、R-C(=O)O-で表される基を導入する方法、さらにはこれらの方法を適宜組み合わせる方法により合成することができる。
【0031】
残基とは化合物の部分構造を指し示す用語であり、糖残基とは糖の化学構造から水酸基を除いた部分構造を示す。例えばβ-D-グルコースの単糖残基は下記式(II)の水酸基(-OH)を除く構造で表される。この場合において、下記式(II)の水酸基(-OH)のうち、酸素原子は、通常、単糖または多糖類に由来の酸素原子であるが、このような場合でも、本明細書では、水酸基(-OH)を除く構造を、糖残基とするものとする。
【0032】
【化5】
【0033】
本発明の非水電解液において、非水電解液に含有される前記一般式(I)で表される化合物の含有量は、非水電解液中に非水電解液全量に対して、0.01~10質量%であると、サイクル試験後の容量維持率が向上するため好ましい。また、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましく、0.5質量%以上が特に好ましい。また、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましく、1.5質量%以下が特に好ましい。
【0034】
本発明の非水電解液において、前記一般式(I)で表される化合物を以下に述べる非水溶媒、電解質塩、さらにその他の添加剤を組み合わせることにより、サイクル試験後の容量維持率がより向上する。
【0035】
〔非水溶媒〕
本明細書において、「溶媒」とは溶質を溶解するための物質を示す。
本発明の非水電解液に使用される非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状エステル、ラクトン、エーテルおよびアミドから選ばれる1種または2種以上が好適に挙げられる。サイクル特性が相乗的に向上するため、鎖状エステルが含まれることが好ましく、鎖状カーボネートが含まれることが更に好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートの両方が含まれることが最も好ましい。
【0036】
なお、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネートおよび鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
【0037】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC)、トランスもしくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)および4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)から選ばれる1種または2種以上が挙げられ、EC、PC、FEC、VCおよびEECから選ばれる1種または2種以上がより好適である。
【0038】
前記環状カーボネートの含有量は、特に制限されないが、非水電解液全量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、最も好ましくは40質量%以下であると、Liイオン透過性を損なうことなく一段とサイクル試験後の容量維持率が向上するので好ましい。
【0039】
また、前記環状カーボネートのうち、炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合の不飽和結合またはフッ素原子を有する環状カーボネートのうち少なくとも1種を使用するとサイクル特性が高まるので好ましく、炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合等の不飽和結合を含む環状カーボネートとフッ素原子を有する環状カーボネートを両方含むことがより好ましい。炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートとしては、VC、VECまたはEECが更に好ましく、フッ素原子を有する環状カーボネートとしては、FECまたはDFECが更に好ましい。
【0040】
炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合の不飽和結合を有する環状カーボネートの含有量は、非水電解液全量に対して、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下であると、Liイオン透過性を損なうことなく一段とサイクル試験後の容量維持率が向上するので好ましい。
【0041】
フッ素原子を有する環状カーボネートの含有量は、非水電解液全量に対して好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に20質量%以下であり、最も好ましくは15質量%以下であると、Liイオン透過性を損なうことなく一段とサイクル試験後の容量維持率が向上するので好ましい。
【0042】
これらの溶媒は1種類で使用してもよく、また2種類以上を組み合わせて使用した場合は、サイクル試験後の容量維持率が更に向上するので好ましく、3種類以上を組み合わせて使用することが特に好ましい。これらの環状カーボネートの好適な組合せとしては、ECとPC、ECとVC、PCとVC、VCとFEC、ECとFEC、PCとFEC、FECとDFEC、ECとDFEC、PCとDFEC、VCとDFEC、VECとDFEC、VCとEEC、ECとEEC、ECとPCとVC、ECとPCとFEC、ECとVCとFEC、ECとVCとVEC、ECとVCとEEC、ECとEECとFEC、PCとVCとFEC、ECとVCとDFEC、PCとVCとDFEC、ECとPCとVCとFECまたはECとPCとVCとDFEC等が好ましい。前記の組合せのうち、ECとVC、ECとFEC、PCとFEC、ECとPCとVC、ECとPCとFEC、ECとVCとFEC、ECとVCとEEC、ECとEECとFEC、PCとVCとFECまたはECとPCとVCとFECの組合せがより好ましい。
【0043】
鎖状エステルとしては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルイソプロピルカーボネート(MIPC)、メチルブチルカーボネートおよびエチルプロピルカーボネートから選ばれる1種または2種以上の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネートおよびジブチルカーボネートから選ばれる1種または2種以上の対称鎖状カーボネート、ピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、ピバリン酸プロピル等のピバリン酸エステル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸メチルおよび酢酸エチル(EA)から選ばれる1種または2種以上の鎖状カルボン酸エステルが好適に挙げられる。
【0044】
前記鎖状エステルの中でも、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、プロピオン酸メチル、酢酸メチルおよび酢酸エチルから選ばれるメチル基を有する鎖状エステルが好ましく、特にメチル基を有する鎖状カーボネートが好ましい。
【0045】
本発明の非水電解液に用いる非水溶媒における鎖状エステルの含有量は、特に制限されないが、非水電解液全量に対して、5~90質量%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が5質量%以上であれば非水電解液の粘度が高くなりすぎず、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上であり、特に好ましくは50質量%以上である。また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下であれば非水電解液の電気伝導度が低下してサイクル試験後の容量維持率が低下するおそれが少ないので上記範囲であることが好ましい。
【0046】
環状カーボネートと鎖状エステルの割合は、サイクル試験後の容量維持率向上の観点から、環状カーボネート:鎖状エステル(質量比)が10:90~50:50が好ましく、30:70~40:60が特に好ましい。
【0047】
その他の非水溶媒としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンおよび1,2-ジブトキシエタン等の鎖状エーテル、ジメチルホルムアミド等のアミドおよびスルホラン等のスルホン、並びにγ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトンおよびα-アンゲリカラクトン等のラクトンから選ばれる1種または2種以上が好適に挙げられる。
【0048】
上記その他の非水溶媒は通常、適切な物性を達成するために、混合して使用される。その組合せは、例えば、環状カーボネートと鎖状エステルとラクトンとの組合せまたは環状カーボネートと鎖状エステルとエーテルとの組合せ等が好適に挙げられ、環状カーボネートと鎖状エステルとラクトンとの組合せがより好ましく、ラクトンの中でもGBLを用いると更に好ましい。
【0049】
その他の非水溶媒の含有量は、非水電解液全量に対して、通常1質量%以上が好ましく、より好ましくは2質量%以上であり、また通常40質量%以下が好ましく、また、より好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。当該濃度範囲中であれば電気伝導度が低下するおそれや、溶媒の分解によってサイクル試験後の容量維持率が低下するおそれが少ない。
【0050】
一段とサイクル試験後の容量維持率を向上させる目的で、非水電解液中にさらにその他の添加剤を加えることが好ましい。
その他の添加剤の具体例としては、以下の(A)~(J)の化合物が挙げられる。
【0051】
(A)アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリルおよびセバコニトリルから選ばれる1種または2種以上のニトリル。
【0052】
(B)tert-ブチルベンゼン、tert-アミルベンゼンもしくは1-フルオロ-4-tert-ブチルベンゼン等の分枝アルキル基を有する芳香族化合物またはシクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ターフェニル(o-、m-、p-体)、フルオロベンゼン、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネートもしくはジフェニルカーボネート等の芳香族化合物。
【0053】
(C)メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2-イソシアナトエチル アクリレートおよび2-イソシアナトエチル メタクリレートから選ばれる1種または2種以上のイソシアネート化合物。
【0054】
(D)2-プロピニル メチル カーボネート、酢酸 2-プロピニル、ギ酸 2-プロピニル、メタクリル酸 2-プロピニル、メタンスルホン酸 2-プロピニル、ビニルスルホン酸 2-プロピニル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸2-プロピニル、ジ(2-プロピニル)オギザレート、2-ブチン-1,4-ジイル ジメタンスルホネートおよび2-ブチン-1,4-ジイル ジホルメートから選ばれる1種または2種以上の三重結合含有化合物。
【0055】
(E)1,3-プロパンスルトン(PS)、1,3-ブタンスルトン、2,4-ブタンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,3-プロペンスルトンもしくは2,2-ジオキシド-1,2-オキサチオラン-4-イル アセテート等のスルトン、エチレンサルファイト等の環状サルファイト、ブタン-2,3-ジイル ジメタンスルホネート、ブタン-1,4-ジイル ジメタンスルホネートもしくはメチレンメタンジスルホネート等のスルホン酸エステルおよびジビニルスルホンおよび1,2-ビス(ビニルスルホニル)エタンもしくはビス(2-ビニルスルホニルエチル)エーテル等のビニルスルホン化合物から選ばれる1種または2種以上のS=O基含有化合物。
【0056】
(F)環状アセタール化合物としては、分子内に「アセタール基」を有する化合物であれば、その種類は特に限定されない。その具体例としては、1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサンまたは1,3,5-トリオキサン等の環状アセタール化合物。
【0057】
(G)リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、エチル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートおよび2-プロピニル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートから選ばれる1種または2種以上のリン含有化合物。
【0058】
(H)カルボン酸無水物としては、分子内に「C(=O)-O-C(=O)基」を有する化合物であれば特にその種類は限定されない。その具体例としては、無水酢酸もしくは無水プロピオン酸等の鎖状のカルボン酸無水物または無水コハク酸、無水マレイン酸、3-アリル無水コハク酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸もしくは3-スルホ-プロピオン酸無水物等の環状酸無水物。
【0059】
(J)ホスファゼン化合物としては、分子内に「N=P-N基」を有する化合物であれば、その種類は特に限定されない。その具体例としては、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、フェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンまたはエトキシヘプタフルオロシクロテトラホスファゼン等の環状ホスファゼン化合物。
【0060】
上記の中でも、(A)ニトリル、(B)芳香族化合物および(C)イソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種以上を含むと一段とサイクル試験後の容量維持率が向上するので好ましい。
【0061】
(A)ニトリルの中では、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、およびピメロニトリルから選ばれる1種または2種以上がより好ましい。
【0062】
(B)芳香族化合物の中では、ビフェニル、ターフェニル(o-、m-、p-体)、フルオロベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、tert-ブチルベンゼンおよびtert-アミルベンゼンから選ばれる1種または2種以上がより好ましく、ビフェニル、o-ターフェニル、フルオロベンゼン、シクロヘキシルベンゼンおよびtert-アミルベンゼンから選ばれる1種または2種以上が特に好ましい。
【0063】
(C)イソシアネート化合物の中では、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2-イソシアナトエチル アクリレートおよび2-イソシアナトエチル メタクリレートから選ばれる1種または2種以上がより好ましい。
【0064】
前記(A)~(C)の化合物の含有量は、非水電解液全量に対して0.01~7質量%であることが好ましい。この範囲では、被膜が厚くなり過ぎずに十分に形成され、サイクル試験後の容量維持率を向上させることができる。該含有量は、非水電解液全量に対して0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上が特に好ましく、また、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下が特に好ましい。
【0065】
また、(D)三重結合含有化合物、(E)スルトン、環状サルファイト、スルホン酸エステルおよびビニルスルホンから選ばれる環状または鎖状のS=O基含有化合物、(F)環状アセタール化合物、(G)リン含有化合物、(H)環状酸無水物および(J)環状ホスファゼン化合物から選ばれる少なくとも1種以上を含むとサイクル試験後の容量維持率を向上させることができるので好ましい。
【0066】
(D)三重結合含有化合物としては、2-プロピニル メチル カーボネート、メタクリル酸 2-プロピニル、メタンスルホン酸 2-プロピニル、ビニルスルホン酸 2-プロピニル、ジ(2-プロピニル)オギザレートおよび2-ブチン-1,4-ジイル ジメタンスルホネートから選ばれる1種または2種以上が好ましく、メタンスルホン酸 2-プロピニル、ビニルスルホン酸 2-プロピニル、ジ(2-プロピニル)オギザレートおよび2-ブチン-1,4-ジイル ジメタンスルホネートから選ばれる1種または2種以上がより好ましい。
【0067】
(E)環状のS=O基含有化合物としては、1,3-プロパンスルトン(PS)、1,3-ブタンスルトン、1,4-ブタンスルトン、2,4-ブタンスルトン、1,3-プロペンスルトン、2,2-ジオキシド-1,2-オキサチオラン-4-イル アセテート、メチレン メタンジスルホネートおよびエチレンサルファイトから選ばれる1種または2種以上が好適に挙げられる。
【0068】
また、(E)鎖状のS=O基含有化合物としては、ブタン-2,3-ジイル ジメタンスルホネート、ブタン-1,4-ジイル ジメタンスルホネート、ジメチル メタンジスルホネート、ペンタフルオロフェニル メタンスルホネート、ジビニルスルホンおよびビス(2-ビニルスルホニルエチル)エーテルから選ばれる1種または2種以上が好適に挙げられる。
【0069】
前記環状または鎖状のS=O基含有化合物の中でも、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、2,4-ブタンスルトン、2,2-ジオキシド-1,2-オキサチオラン-4-イル アセテート、ペンタフルオロフェニル メタンスルホネートおよびジビニルスルホンから選ばれる1種または2種以上が更に好ましい。
【0070】
(F)環状アセタール化合物としては、1,3-ジオキソランまたは1,3-ジオキサンが好ましく、1,3-ジオキサンが更に好ましい。
【0071】
(G)リン含有化合物としては、エチル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートまたは2-プロピニル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートが好ましく、2-プロピニル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートが更に好ましい。
【0072】
(H)環状酸無水物としては、無水コハク酸、無水マレイン酸または3-アリル無水コハク酸が好ましく、無水コハク酸または3-アリル無水コハク酸が更に好ましい。
【0073】
(J)環状ホスファゼン化合物としては、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンまたはフェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン等の環状ホスファゼン化合物が好ましく、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンまたはエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンが更に好ましい。
【0074】
前記(D)~(J)の化合物のそれぞれの含有量は、非水電解液全量に対して0.001~5質量%であることが好ましい。この範囲では、被膜が厚くなり過ぎずに十分に形成され、一段とサイクル試験後の容量維持率を向上させることができる。該含有量は、非水電解液全量に対して0.01質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上が特に好ましく、また、3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下が特に好ましい。
【0075】
また、一段とサイクル試験後の容量維持率を向上させる目的で、非水電解液中にさらに、シュウ酸骨格を有するリチウム塩、リン酸骨格を有するリチウム塩およびS=O基を有するリチウム塩の中から選ばれる1種以上のリチウム塩を含むことが好ましい。
前記リチウム塩の具体例としては、リチウム ビス(オキサラト)ボレート〔LiBOB〕、リチウム ジフルオロ(オキサラト)ボレート〔LiDFOB〕、リチウム テトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート〔LiTFOP〕およびリチウム ジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート〔LiDFOP〕から選ばれる少なくとも1種のシュウ酸骨格を有するリチウム塩、LiPOやLiPOF等のリン酸骨格を有するリチウム塩またはリチウム トリフルオロ((メタンスルホニル)オキシ)ボレート〔LiTFMSB〕、リチウム ペンタフルオロ((メタンスルホニル)オキシ)ホスフェート〔LiPFMSP〕、リチウム メチルサルフェート〔LMS〕、リチウムエチルサルフェート〔LES〕、リチウム 2,2,2-トリフルオロエチルサルフェート〔LFES〕およびFSOLiから選ばれる1種以上のS=O基を有するリチウム塩が好適に挙げられ、LiBOB、LiDFOB、LiTFOP、LiDFOP、LiPO、LiTFMSB、LMS、LES、LFESおよびFSOLiから選ばれる1種以上のリチウム塩を含むことがより好ましい。
【0076】
前記リチウム塩が非水電解液中に占めるそれぞれの割合は、非水電解液全量に対して0.01質量%以上8質量%以下である場合が好ましい。この範囲にあると一段とサイクル試験後の容量維持率を向上させることができる。より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.4質量%以上であり、また、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0077】
(電解質塩)
本発明に使用される電解質塩としては、下記のリチウム塩が好適に挙げられる。
前記リチウム塩の具体例としては、LiPF、LiBFもしくはLiClO等の無機リチウム塩、LiN(SOF)〔LiFSI〕、LiN(SOCF、LiN(SO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(iso-CもしくはLiPF(iso-C)等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩または(CF(SONLiもしくは(CF(SONLi等の環状のフッ化アルキレン鎖を有するリチウム塩等が好適に挙げられ、これらの中から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が好適に挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して使用することができる。
これらの中でも、LiPF、LiBF、LiN(SOCF、LiN(SOおよびLiN(SOF)〔LiFSI〕から選ばれる1種または2種以上が好ましく、LiPFを用いることがもっとも好ましい。電解質塩のそれぞれの濃度は、前記の非水電解液全量に対して、通常4質量%以上であることが好ましく、8質量%以上がより好ましく、11質量%以上が更に好ましい。また、28質量%以下であることが好ましく、23質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
また、これらの電解質塩の好適な組み合わせとしては、LiPFを含み、更にLiBF、LiN(SOCFおよびLiN(SOF)〔LiFSI〕から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が非水電解液中に含まれている場合が好ましく、LiPFを含み更にLiFSIを含む組み合わせがより好ましく、LiPF以外のリチウム塩が非水電解液全量に占めるそれぞれの割合は、0.01質量%以上であると、サイクル試験後の容量維持率が向上するため好ましい。また、非水電解液全量に対して15質量%以下であるとサイクル試験後の容量維持率が低下する懸念が少ないので好ましい。より好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは非水電解液全量に対して0.3質量%以上、最も好ましくは0.6質量%以上であり、より好ましくは13質量%以下、特に好ましくは11質量%以下、最も好ましくは9質量%以下である。
【0078】
〔非水電解液の製造〕
本発明の非水電解液は、例えば、前記の非水溶媒を混合し、これに前記の電解質塩および該非水電解液に対して前記一般式(I)で表される化合物を添加することにより得ることができる。
この際、用いる非水溶媒および非水電解液に加える化合物は、生産性を著しく低下させない範囲内で、予め精製して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
【0079】
本発明の非水電解液は、下記の第1~第3の蓄電デバイスに使用することができ、非水電解質として、液体状のものだけでなくゲル化されているものも使用し得る。更に本発明の非水電解液は固体高分子電解質用としても使用できる。中でも電解質塩にリチウム塩を使用する第1の蓄電デバイス用(即ち、リチウム電池用)または第3の蓄電デバイス用(即ち、リチウムイオンキャパシタ用)として用いることが好ましく、リチウム電池用として用いることが更に好ましく、リチウム二次電池用として用いることが最も適している。
【0080】
〔第1の蓄電デバイス(リチウム電池)〕
本明細書においてリチウム電池とは、リチウム一次電池およびリチウム二次電池の総称である。また、本明細書において、リチウム二次電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。本発明の第1の蓄電デバイスであるリチウム電池は、正極、負極および非水溶媒に電解質塩が溶解されている前記非水電解液からなる。非水電解液以外の正極、負極等の構成部材は特に制限なく使用できる。
例えば、リチウム二次電池用正極活物質としては、コバルト、マンガン、およびニッケルからなる群より選ばれる1種または2種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、1種単独で用いるかまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiCo1-x(但し、MはSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、およびCuから選ばれる1種または2種以上の元素、0.001≦x≦0.05)、LiMn、LiNiO、LiCo1-xNi(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.6Mn0.2Co0.2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiMnOとLiMO(Mは、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体およびLiNi1/2Mn3/2から選ばれる1種以上が好適に挙げられ、2種以上がより好適である。また、LiCoOとLiMn、LiCoOとLiNiO、LiMnとLiNiOのように併用してもよい。
【0081】
更に、正極活物質として、リチウム含有オリビン型リン酸塩を用いることもできる。特に鉄、コバルト、ニッケルおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種以上含むリチウム含有オリビン型リン酸塩が好ましい。その具体例としては、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO等が挙げられる。
これらのリチウム含有オリビン型リン酸塩の一部は他元素で置換してもよく、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの一部をCo、Mn、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、WおよびZr等から選ばれる1種以上の元素で置換したり、またはこれらの他元素を含有する化合物や炭素材料で被覆することもできる。これらの中では、LiFePOまたはLiMnPOが好ましい。
また、リチウム含有オリビン型リン酸塩は、例えば前記の正極活物質と混合して用いることもできる。
【0082】
正極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック等が挙げられる。また、グラファイトとカーボンブラックを適宜混合して用いてもよい。導電剤の正極合剤への添加量は、1~10質量%が好ましく、特に2~5質量%が好ましい。
【0083】
正極は、前記の正極活物質をアセチレンブラック、カーボンブラック等の導電剤、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレンプロピレンジエンターポリマー等の結着剤と混合し、これに1-メチル-2-ピロリドン等の高沸点溶剤を加えて混練して正極合剤とした後、この正極合剤を集電体のアルミニウム箔やステンレス製のラス板等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃~250℃程度の温度で、2時間程度真空下で加熱処理することにより作製することができる。
正極の集電体を除く部分の密度は、通常は1.5g/cm以上であり、電池の容量をさらに高めるため、好ましくは2g/cm以上であり、より好ましくは、3g/cm以上であり、更に好ましくは、3.6g/cm以上であり、また、4g/cm以下が好ましい。
【0084】
リチウム二次電池用負極活物質としては、リチウム金属やリチウム合金、およびリチウムを吸蔵および放出することが可能な炭素材料〔易黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm(ナノメータ)以上の難黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛など〕、スズ(単体)、スズ化合物、ケイ素(単体)、ケイ素化合物、LiTi12などのチタン酸リチウム化合物等を1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、リチウムイオンの吸蔵および放出能力において、人造黒鉛や天然黒鉛等の高結晶性の炭素材料を使用することが更に好ましく、格子面(002)の面間隔(d002)が0.340nm以下、特に0.335~0.337nmである黒鉛型結晶構造を有する炭素材料を使用することが特に好ましい。
複数の扁平状の黒鉛質微粒子が互いに非平行に集合或いは結合した塊状構造を有する人造黒鉛粒子や、例えば鱗片状天然黒鉛粒子に圧縮力、摩擦力、剪断力等の機械的作用を繰り返し与え、球形化処理を施した黒鉛粒子を用いることにより、負極の集電体を除く部分の密度を1.5g/cm以上の密度に加圧成形したときの負極シートのX線回折測定から得られる黒鉛結晶の(110)面のピーク強度I(110)と(004)面のピーク強度I(004)の比I(110)/I(004)が0.01以上となると一段と正極活物質からの金属溶出量の改善と、充電保存特性が向上するので好ましく、0.05以上となることがより好ましく、0.1以上となることが更に好ましい。また、過度に処理し過ぎて結晶性が低下し電池の放電容量が低下する場合があるので、I(110)/I(004)の上限は0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。
また、高結晶性の炭素材料(コア材)はコア材よりも低結晶性の炭素材料によって被膜されていると、サイクル試験後の容量維持率が一段と良好となるので好ましい。被覆の炭素材料の結晶性は、TEMにより確認することができる。
高結晶性の炭素材料を使用すると、充電時において非水電解液と反応し、界面抵抗の増加によってサイクル試験後の容量維持率を低下させる傾向があるが、本発明に係るリチウム二次電池ではサイクル試験後の容量維持率が良好となる。
【0085】
また、負極活物質としてのリチウムを吸蔵および放出可能な金属化合物としては、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、Al、Ga、In、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ag、Mg、Sr、Ba等の金属元素を少なくとも1種含有する化合物が挙げられる。これらの金属化合物は単体、合金、酸化物、窒化物、硫化物、硼化物、リチウムとの合金等、何れの形態で用いてもよいが、単体、合金、酸化物、リチウムとの合金の何れかが高容量化できるので好ましい。中でも、Si、GeおよびSnから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するものが好ましく、SiおよびSnから選ばれる少なくとも1種の元素を含むものが電池を高容量化できるので特に好ましい。
【0086】
また、負極活物質としてのリチウムを吸蔵および放出可能なチタン原子を含有する金属酸化物が挙げられる。これらのチタンを含有する金属酸化物は充放電時の膨張収縮が小さく、難燃性であるため、電池の安全性を高める面では好ましい。中でも、LiTi12を含有するものが電池特性を向上させるため好ましい。
【0087】
負極は、上記の正極の作製と同様な導電剤、結着剤、高沸点溶剤を用いて混練して負極合剤とした後、この負極合剤を集電体の銅箔等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃~250℃程度の温度で2時間程度真空下加熱処理することにより作製することができる。
負極の集電体を除く部分の密度は、通常は1.1g/cm以上であり、電池の容量をさらに高めるため、好ましくは1.3g/cm以上であり、特に好ましくは1.5g/cm以上であり、また、2g/cm以下が好ましい。
【0088】
リチウム電池の構造には特に限定はなく、単層または複層のセパレータを有するコイン型電池、円筒型電池、角型電池、ラミネート電池等を適用できる。
電池用セパレータとしては、特に制限はされないが、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンの単層または積層の微多孔性フィルム、織布、不織布等を使用できる。
【0089】
〔第2の蓄電デバイス(電気二重層キャパシタ)〕
第2の蓄電デバイスは、電解液と電極界面の電気二重層容量を利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイスである。本発明の一例は、電気二重層キャパシタである。この蓄電デバイスに用いられる好ましい電極材料は、C原子を含む材料やSi原子を含む材料であり、その具体例としては活性炭やシリコンが挙げられる。二重層容量は概ね表面積に比例して増加する。
【0090】
〔第3の蓄電デバイス(リチウムイオンキャパシタ)〕
第3の蓄電デバイスは、負極であるグラファイト等の炭素材料またはSi原子を含む材料へのリチウムイオンのインターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイスである。リチウムイオンキャパシタ(LIC)と呼ばれる。正極は、例えば活性炭電極と電解液との間の電気ニ重層を利用したものや、π共役高分子電極のドープ/脱ドープ反応を利用したもの等が挙げられる。電解液には少なくともLiPFなどのリチウム塩が含まれる。
本発明におけるリチウム二次電池は、充電終止電圧が4.2V以上、特に4.3V以上の場合にもサイクル特性に優れ、更に、4.4V以上においても特性は良好である。放電終止電圧は、通常2.8V以上、更には2.5V以上とすることができるが、本願発明におけるリチウム二次電池は、2.0V以上とすることができる。電流値については特に限定されないが、通常0.1~30Cの範囲で使用される。また、本発明におけるリチウム電池は、-40~100℃、好ましくは-10~80℃で充放電することができる。
【0091】
本発明においては、リチウム電池の内圧上昇の対策として、電池蓋に安全弁を設ける方法、電池缶やガスケット等の部材に切り込みを入れる方法も採用することができる。また、過充電防止の安全対策として、電池の内圧を感知して電流を遮断する電流遮断機構を電池蓋に設けることができる。
【実施例
【0092】
各溶媒と電解質塩を一定量で混合し、表1記載の基準電解液を調製した。表1記載の電解質塩の濃度の単位Mはmol/Lを示す。基準電解液の質量比で示した組成はECが31.4質量%、MECが56.1質量%、LiPFが12.5質量%となる。
基準電解液に対して1.0質量%の表1記載の前記一般式(I)で表される化合物を加え非水電解液を調製した。たとえば、実施例1であれば、上記したA1の化合物(すなわち、一般式(I)において、Gがα-D-グルコース残基であり、R=CH、m=0、n=5である化合物)を、基準電解液に対して1.0質量%の割合で加えることで、非水電解液を調製した。
【0093】
実施例1~5、比較例1
〔リチウムイオン二次電池の作製1〕
LiCoO(LCO);94質量%、アセチレンブラック(導電剤);3質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);3質量%を1-メチル-2-ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに切り抜き、正極シートを作製した。正極の集電体を除く部分の密度は3.6g/cmであった。また、人造黒鉛(負極活物質)85質量%、一酸化ケイ素(負極活物質)10質量%を混合し、カルボキシメチルセルロース(増粘剤);1.7質量%、ブタジエンの共重合体(結着剤);3.3質量%を水に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。
この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上の両面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに切り抜き、負極シートを作製した。
負極の集電体を除く部分の密度は1.5g/cmであった。そして、正極シート、微多孔性ポリエチレンフィルム製セパレータ、負極シートの順に積層し、各成分を常温で混合することにより調製した表1に記載の組成の非水電解液を加えて、ラミネート型電池を作製した。
【0094】
〔サイクル特性の評価〕
上記の方法で作製した電池を用いて45℃の恒温槽中、1Cの定電流で終止電圧4.2Vまで充電し、次に1Cの定電流下で、放電電圧2.7Vまで放電することを1サイクルとし、これを200サイクルに達するまで繰り返した。そして、以下の式により200サイクル後の容量維持率を求めた。
容量維持率(%)=(200サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
電池特性を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
上記表1において実施例1~5では比較例1にくらべ200サイクル後の容量維持率が向上していた。この結果から本発明の非水電解液は負極表面処理として環境負荷の大きい廃液の排出や高温焼結をすることなくサイクル試験後の容量維持率を向上させることが出来ると言える。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の非水電解液を使用すればサイクル試験後の容量維持率に優れた蓄電デバイスを、環境負荷を低減しながら得ることが出来る。