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特許7544643コンクリート養生装置、コンクリート養生方法およびコンクリート養生プログラム
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  • 特許-コンクリート養生装置、コンクリート養生方法およびコンクリート養生プログラム 図1A
  • 特許-コンクリート養生装置、コンクリート養生方法およびコンクリート養生プログラム 図1B
  • 特許-コンクリート養生装置、コンクリート養生方法およびコンクリート養生プログラム 図2
  • 特許-コンクリート養生装置、コンクリート養生方法およびコンクリート養生プログラム 図3
  • 特許-コンクリート養生装置、コンクリート養生方法およびコンクリート養生プログラム 図4
  • 特許-コンクリート養生装置、コンクリート養生方法およびコンクリート養生プログラム 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】コンクリート養生装置、コンクリート養生方法およびコンクリート養生プログラム
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20240827BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
E04G21/02 104
E21D11/10 Z ESW
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021053413
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150699
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】栗本 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】東 邦和
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-190572(JP,A)
【文献】特開2014-005716(JP,A)
【文献】特開2017-036546(JP,A)
【文献】特開平07-243259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/00-21/10
C04B 40/02
G01N 25/02
G01K 1/14
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打設後のコンクリートを冷却するために、前記コンクリートの内部に設置された冷却パイプに供給する冷媒の流れの方向を反転させるタイミングを判定する判定部と、
前記判定部による判定結果に基づいて、前記冷媒の流れの方向を反転させる制御部と、
前記冷却パイプの入口近傍および出口近傍に設置された温度センサから前記コンクリートの温度を取得する取得部と、
を備え
前記判定部は、前記入口近傍の前記コンクリートの温度と前記出口近傍の前記コンクリートの温度との温度差が、所定温度差に到達した場合、または、前記出口近傍の前記コンクリートの温度が、前記コンクリートに対して許容される上限温度に対して、所定温度低い温度に到達した場合、前記タイミングと判定するコンクリート養生装置。
【請求項2】
前記上限温度は、前記タイミングと判定する時点における、前記コンクリートに対して許容される上限の温度である請求項に記載のコンクリート養生装置。
【請求項3】
打設後のコンクリートを冷却するために、前記コンクリートの内部に設置された冷却パイプに供給する冷媒の流れの方向を反転させるタイミングを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおける判定結果に基づいて、前記冷媒の流れの方向を反転させる制御ステップと、
前記冷却パイプの入口近傍および出口近傍に設置された温度センサから前記コンクリートの温度を取得する取得ステップと、
を含み、
前記判定ステップにおいて、前記入口近傍の前記コンクリートの温度と前記出口近傍の前記コンクリートの温度との温度差が、所定温度差に到達した場合、または、前記出口近傍の前記コンクリートの温度が、前記コンクリートに対して許容される上限温度に対して、所定温度低い温度に到達した場合、前記タイミングと判定するコンクリート養生方法。
【請求項4】
打設後のコンクリートを冷却するために、前記コンクリートの内部に設置された冷却パイプに供給する冷媒の流れの方向を反転させるタイミングを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおける判定結果に基づいて、前記冷媒の流れの方向を反転させる制御ステップと、
前記冷却パイプの入口近傍および出口近傍に設置された温度センサから前記コンクリートの温度を取得する取得ステップと、
をコンピュータに実行させ
前記判定ステップにおいて、前記入口近傍の前記コンクリートの温度と前記出口近傍の前記コンクリートの温度との温度差が、所定温度差に到達した場合、または、前記出口近傍の前記コンクリートの温度が、前記コンクリートに対して許容される上限温度に対して、所定温度低い温度に到達した場合、前記タイミングと判定するコンクリート養生プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート養生装置、コンクリート養生方法およびコンクリート養生プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、水とセメントとの化学反応によって硬化する際に熱を発生する。特に、コンクリート打設後数日は、反応が急速に進み多量の熱が発生するため、熱の影響によりコンクリートのひび割れが生じる場合がある。そのため、コンクリート打設時のひび割れ対策として、パイプクーリングによってコンクリートの温度上昇を抑制して、ひび割れの低減が図られている。パイプクーリングを行う場合、パイプの配置やパイプ径、クーリング水の流量や温度設定等について適切に管理する必要がある。
【0003】
上記技術分野において、特許文献1には、コンクリートを冷却するために、パイプを循環させる流体の温度をコンクリートの外部温度と内部温度との温度差に基づいて、自動制御する技術が開示されている(同文献請求項1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-89357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、コンクリートの内部温度と外部温度とに基づいた温度制御を行うものであり、コンクリートの特性、例えば、コンクリートの管理用温度推移データに基づいた温度制御ではないため確実にコンクリートを冷却させることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係るコンクリート養生装置は、
打設後のコンクリートを冷却するために、前記コンクリートの内部に設置された冷却パイプに供給する冷媒の流れの方向を反転させるタイミングを判定する判定部と、
前記判定部による判定結果に基づいて、前記冷媒の流れの方向を反転させる制御部と、
を備えた。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るコンクリート養生方法は、
打設後のコンクリートを冷却するために、前記コンクリートの内部に設置された冷却パイプに供給する冷媒の流れの方向を反転させるタイミングを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおける判定結果に基づいて、前記冷媒の流れの方向を反転させる制御ステップと、
を含む。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るコンクリート養生プログラムは、
打設後のコンクリートを冷却するために、前記コンクリートの内部に設置された冷却パイプに供給する冷媒の流れの方向を反転させるタイミングを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおける判定結果に基づいて、前記冷媒の流れの方向を反転させる制御ステップと、
をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コンクリートの管理用温度推移データに基づいて、コンクリートを冷却するためのパラメータ制御をするので、より確実にコンクリートを冷却させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本発明の好ましい実施形態に係るコンクリート養生装置の概要を説明するための図である。
図1B】本発明の好ましい実施形態に係るコンクリート養生装置による冷媒の流れの方向の反転について説明するための図である。
図2】本発明の好ましい実施形態に係るコンクリート養生装置の構成を説明するためのブロック図である。
図3】本発明の好ましい実施形態に係るコンクリート養生装置が有する判定テーブルの一例を説明するための図である。
図4】本発明の好ましい実施形態に係るコンクリート養生装置のハードウェア構成を説明するための図である。
図5】本発明の好ましい実施形態に係るコンクリート養生装置の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して、例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている、構成、数値、処理の流れ、機能要素などは一例に過ぎず、その変形や変更は自由であって、本発明の技術範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0012】
本発明の好ましい実施形態としてのコンクリート養生装置100について、図1A図5を用いて説明する。コンクリート養生装置100は、コンクリート110が従うべき管理用温度推移データに基づいて、コンクリート110の温度を管理して、冷却するための冷媒の流量および温度を制御する装置である。そのため、打設後のコンクリートの冷却においては、コンクリートのひび割れ発生を抑制するために、コンクリートが従うべき管理用温度推移データに基づいて、コンクリートの温度をコントロールしている。
【0013】
まず、図1Aを参照して、コンクリート養生装置100の動作の概要を説明する。コンクリート養生装置100は、打設したコンクリート110が従うべき管理用温度推移データを、コンクリート温度の温度解析より求める。そして、コンクリート養生装置100は、求めた管理用温度推移データをプロットした温度分布曲線140を参照して、コンクリート110の内部に設置された冷却パイプ122に対して供給する冷媒の流量および温度を制御し、コンクリート110の温度を管理する。
【0014】
打設されたコンクリート110の内部に設置される冷却パイプ122は、例えば、図1A(a)に示したように、コンクリート110の内部を冷媒が循環するように設置されている。そして、冷却パイプ122に接続した送水用ホース121を介して冷媒供給装置120から冷媒を供給すると、供給された冷媒は、冷却パイプ122の内部を循環して、再び冷媒供給装置120へと戻ってくる。このように、コンクリート養生装置100においては、コンクリート110の内部に冷媒を循環させることにより、コンクリート110を冷却している。
【0015】
しかしながら、冷媒を常に同じ流れの方向で循環させていると、冷媒の入口近傍のコンクリート110においては、よく冷却されるものの、冷媒の出口近傍のコンクリート110においては、冷却の効果が入口近傍と比べて薄れてくる。つまり、コンクリート110の内部を循環している冷媒は、入口近傍では、コンクリート110の熱の吸収量が少なく、より多くの熱を吸収できるものの、冷却パイプ122の内部を循環してきた冷媒は、出口近傍においては、既に多くの熱を吸収してきているため、冷媒温度が上昇し、吸収できる熱の量が限られている。そのため、冷媒の入口近傍のコンクリート110と出口近傍のコンクリート110とで、温度差が生じ、コンクリート110を均一に冷却することができずに、温度分布曲線140に従ったコンクリート110の冷却を実現することが困難となる。
【0016】
つまり、冷却パイプ122の入口近傍の温度を基準に、温度分布曲線140に従った冷却を行うと、冷却パイプ122の出口近傍においては、コンクリート110の温度が温度分布曲線140よりも高温となり、冷却が不十分な状態となる。同様に、冷却パイプ122の出口近傍の温度を基準に、温度分布曲線140に従った冷却を行うと、冷却パイプ122の入口近傍においては、コンクリート110の温度が温度分布曲線よりも低温となり、過冷却の状態となる。
【0017】
したがって、コンクリート養生装置100は、入口近傍と出口近傍とにおけるコンクリート110の温度に不均衡が生じないように、所定のタイミングで、冷媒の流れの方向を反転させる。なお、図1A(a)に示した管理用温度推移データをプロットした温度分布曲線140においては、横軸は、コンクリート110の養生時間(冷却時間)、縦軸は、コンクリート110の温度をそれぞれ示している。
【0018】
次に、図1A(b)および(c)を参照して、コンクリート110に設置される温度センサ130の配置位置について説明する。コンクリート110には、複数の温度センサ130が設置される。温度センサ130は、冷却パイプ122の入口近傍および出口近傍に設置される。また、その他にも、温度センサ130は、図1A(b)および(c)に示したように、コンクリート110の高さ方向には、中央付近および下方付近に設置されている。また、コンクリート110の表面付近(表面から約10cm)と、コンクリート110に配置された冷却パイプ122の近傍(冷却パイプ122の近傍約10cm)と、冷却パイプ122同士の間の位置(中間の位置)と、に設置されている。なお、温度センサ130の配置位置はここに示した例には限定されない。
【0019】
そして、コンクリート養生装置100は、温度センサ130により計測された温度データを取得して、取得した温度と、管理用温度推移データをプロットした温度分布曲線140が示す温度とを比較して、冷却パイプ122に供給する冷媒の流量および温度を制御する。なお、温度センサ130は、熱電対形式のセンサであるが、温度を計測可能なセンサであれば、いずれのセンサであってもよい。また、供給される冷媒の流量は、好ましくは、0~100(l/min)である。供給される冷媒の温度は、好ましくは、5℃~30℃であり、より好ましくは、10℃~20℃である。さらに、冷却パイプ122の径は、好ましくは、φ25~φ75であり、より好ましくは、φ25~φ50であり、冷却パイプの長さは、好ましくは、50~100mである。冷却パイプ122の配置間隔は、好ましくは、0.5m~1.2mであり、より好ましくは、0.5~0.8mである。
【0020】
図1Bには、より詳細な冷却パイプ122の配置を示す模式図が示されている。同図を参照して、コンクリート養生装置100による冷媒の流れの方向の反転について概説する。まず初めに、冷媒は、冷却パイプ122の中を順方向(実線矢印)で流れている。そして、順方向における冷却パイプ122の入口124と出口125との温度差が所定温度差に到達した場合などに、コンクリート養生装置100は、冷媒の流れの方向を逆方向(破線矢印)へと反転させる。
【0021】
冷媒は、冷却パイプ122の順方向の入口124から順方向の出口125へ到達するまでの間、コンクリート110の熱を奪いながら循環するため、順方向の入口124における冷媒の冷却能力と順方向の出口125における冷媒の冷却能力とに差が生じる。その結果、打設されたコンクリート110の全体の温度分布に不均衡が生じ、コンクリート110の固まり方に相違が発生するため、ひび割れ発生等の原因となる。
【0022】
特に、図1Bに示したように、冷却パイプ122の全長が長く、冷媒が長い距離を循環しなければならない場合に、上述のような不具合が顕著に表れ易い。仮に、冷媒の流れの方向を反転させない場合には、順方向の入口124と出口125との不均衡が増大し続けることとなり、温度分布曲線140に従ったコンクリート110全体の冷却を実現することが困難となる。
【0023】
そのため、コンクリート養生装置100は、順方向の入口124と順方向の出口125とを所定のタイミングごとに入れ替えて、冷媒の流れの方向を反転させて、冷媒の冷却能力を均一化し、コンクリート110の温度の不均衡を生じ難くする。
【0024】
次に、図2を参照して、コンクリート養生装置100の構成について説明する。コンクリート養生装置100は、取得部201、判定部202および制御部203を有する。
【0025】
取得部201は、冷却パイプ122の入口近傍および出口近傍に設置された温度センサ130からコンクリート110の温度を取得する。取得部201は、この他にも、コンクリート110の内部に設置された温度センサ130からコンクリート110の温度を取得する。温度センサ130は、所定時間間隔、例えば、数秒間隔、数分間隔でコンクリート110の温度を計測する。
【0026】
また、取得部201は、コンクリート110に設置された温度センサ130のそれぞれと有線または無線により接続されており、計測された温度データを有線通信または無線通信を介して取得する。取得部201は、所定時間間隔、例えば、数秒間隔、数分間隔で、温度センサ130から温度データを取得する。
【0027】
ここで、冷却パイプ122に供給される冷媒は、水が代表的であるが、供給される冷媒はこれには限定されず、コンクリート110を冷却するのに適した他の液体であってもよい。また、冷却パイプ122に供給される冷媒は、液体には限定されず、例えば、ガスなどの気体であってもよい。
【0028】
冷媒供給装置120は、コンクリート養生装置100と有線接続または無線接続されており、冷媒の流量および温度は、例えば、冷媒供給装置120に設けられた流量センサおよび温度センサから取得される。また、冷媒供給装置120は、所定時間間隔、例えば、数分間隔、数時間間隔で、冷媒の流量および温度に関するデータを取得する。
【0029】
判定部202は、打設後のコンクリート110を冷却するために、コンクリート110の内部に設置された冷却パイプ122に供給する冷媒の流れの方向を反転させるタイミングを判定する。判定部202は、以下の(1)~(3)の各条件に基づいて、冷媒の流れの方向を反転させるタイミングを判定する。
【0030】
すなわち、(1)判定部202は、入口近傍のコンクリート110の温度と出口近傍のコンクリート110の温度との温度差が、所定温度差に到達した場合、冷媒の流れの方向を反転させるタイミングと判定する。
【0031】
例えば、冷却の初期段階では、コンクリート110の発熱量が大きいので、比較的小さい温度差、例えば、1~2℃で反転のタイミングと判定し、冷却の中盤段階では、コンクリート110の発熱量が落ち着いてくるので、温度差が、例えば、2~3℃で反転のタイミングと判定し、冷却の終盤段階では、コンクリート110の発熱量が小さくなるので、温度差が、例えば、4~5℃で反転のタイミングと判定するようにしてもよい。なお、反転のタイミングと判定する温度差は、例えば、冷却すべきコンクリート110の規模(容積)や冷却パイプ122の全長、直径などに応じて決定されるが、その他の要素を考慮に入れて決定してもよい。
【0032】
また、(2)判定部202は、出口近傍のコンクリート110の温度が、コンクリート110に対して許容される上限温度に対して、所定温度低い温度に到達した場合、冷媒の流れの方向を反転させるタイミングと判定する。
【0033】
温度分布曲線140は、コンクリート110が従うべき温度として、予備解析により導出されたものであり、コンクリート110の温度が温度分布曲線140に従うように、冷媒の流量および温度が制御される。しかしながら、温度分布曲線140に正確に沿うようにコンクリート110の温度を制御することは、困難な場合が多く、そのため、コンクリート養生装置100は、温度分布曲線140に対して、予め許容できる上限の温度、および下限の温度を設定している。そして、コンクリート110の温度が、これらの許容上限温度および許容下限温度の中に納まるように冷媒の流量および温度の制御が行われる。
【0034】
各時刻において、コンクリート110が従うべき温度は、温度分布曲線140から導出できるが、各時刻におけるコンクリート110が従うべき温度は、理想的な温度である。そのため、実際のコンクリート110の冷却の場面においては、温度分布曲線140にぴったりと従うように制御しても乖離が生じることがあるので、温度分布曲線140に対して、許容される上限温度を設定している。コンクリート養生装置100は、例えば、温度分布曲線140が示す各時刻における温度よりも3℃高い温度などとして、上限温度を設定する。そして、この上限温度を超えると、コンクリート110が想定以上に膨張したり、収縮したりするため、コンクリート110にひび割れが発生し易くなる。そのため、予め温度分布曲線140に対して、所定温度高い温度を上限温度として設定しておき、コンクリート110の温度がこの上限温度を超えないように、コンクリート110の温度が上限温度に対して所定温度低い温度(例えば、1~2℃低い温度)に到達した場合に、判定部202は、冷媒の流れの方向を反転させるタイミングと判定する。
【0035】
特に、出口側(出口近傍)のコンクリート110は、入口側(入口近傍)のコンクリート110と比べて、各時刻における温度が、高くなる傾向があるため、判定部202は、出口近傍のコンクリート110について、上限温度を超えないように、上限温度に対して所定温度低い温度に到達した場合に、反転のタイミングと判定する。なお、反転のタイミングと判定する温度は、例えば、冷却すべきコンクリート110の規模(容積)や冷却パイプ122の全長、直径などに応じて決定してもよい。
【0036】
さらに、(3)判定部202は、コンクリート110の打設後の養生時間が所定時間経過した場合、冷媒の流れの方向を反転させるタイミングと判定する。この場合、単純に経過時間に基づいて、反転させるだけなので、制御が容易である。判定部202は、例えば、1時間ごとに冷媒の流れを反転させるタイミングと判定してもよい。
【0037】
また、判定部202は、例えば、打設からの養生時間(経過時間)が、短い場合には、比較的短時間で反転のタイミングと判定し、打設からの養生時間が長くなるにつれて、徐々に、反転のタイミングと判定する時間を長くしていくようにしてもよい。例えば、冷却の初期の段階では、コンクリート110の発熱量が大きいので、30分ごとに反転のタイミングと判定し、冷却の中盤の段階では、コンクリート110の発熱量が落ち着いてくるので、1~2時間ごとに反転のタイミングと判定し、冷却の終盤の段階では、コンクリート110の発熱量が小さくなるので、3~4時間ごとに反転のタイミングと判定するようにしてもよい。なお、反転のタイミングと判定する経過所定時間は、例えば、冷却すべきコンクリート110の規模(容積)や冷却パイプ122の全長、直径などに応じて決定してもよい。
【0038】
制御部203は、判定部202による判定結果に基づいて、冷媒の流れの方向を反転させる。すなわち、判定部202において、上述の条件(1)~(3)を満たしていると判定された場合、制御部203は、冷媒の流れの方向を反転させる。
【0039】
また、制御部203は、予備解析(温度解析)により取得したコンクリート110が従うべき管理用温度推移データをプロットした温度分布曲線140に基づいて、冷媒の流量および温度も併せて制御する。より詳細には、制御部203は、コンクリート110が従うべき管理用温度推移データの温度分布曲線140に基づいて、冷媒の流量および温度を制御する。
【0040】
すなわち、制御部203は、管理用温度推移データの温度分布曲線140の開始時間から終了時間までの期間において、取得した温度データおよび冷媒データに基づいて、コンクリート110の温度が、温度分布曲線140に表される温度に沿った温度となるように、冷媒の流れの方向と併せて冷媒の流量および温度を制御する。
【0041】
なお、コンクリート110の温度の制御方法には、様々な方法があるが、コンクリート110の温度が温度分布曲線140に従うように制御できる方法であれば、いずれの方法であってもよい。例えば、コンクリート110の温度が、温度分布曲線140を上回っている場合には、制御部203は、冷媒の流量を増やす。これとは反対に、コンクリート110の温度が温度分布曲線140を下回っている場合には、制御部203は、例えば、冷媒の流量を減らす。
【0042】
図3は、本実施形態に係るコンクリート養生装置100が有する判定テーブル301の一例を示す図である。判定テーブル301は、経過時間311に関連付けて到達温度312を記憶する。経過時間311は、コンクリート110を打設してからの時間である。到達温度312は、コンクリート110を打設してからの時間または時間帯における、コンクリート110の実現すべき温度である。つまり、当該時間または時間帯において、コンクリート110の温度が、到達温度に達しているか否かによって、反転のタイミングと判定するための温度である。そして、コンクリート養生装置100は、判定テーブル301を参照して、反転のタイミングを判定する。
【0043】
図4を参照して、コンクリート養生装置100のハードウェア構成について説明する。CPU(Central Processing Unit)410は、演算制御用のプロセッサであり、プログラムを実行することで図2のコンクリート養生装置100の各機能構成を実現する。CPU410は複数のプロセッサを有し、異なるプログラムやモジュール、タスク、スレッドなどを並行して実行してもよい。ROM(Read Only Memory)420は、初期データおよびプログラムなどの固定データおよびその他のプログラムを記憶する。また、ネットワークインタフェース430は、ネットワークを介して他の装置などと通信する。なお、CPU410は1つに限定されず、複数のCPUであっても、あるいは画像処理用のGPU(Graphics Processing Unit)を含んでもよい。また、ネットワークインタフェース430は、CPU410とは独立したCPUを有して、RAM(Random Access Memory)440の領域に送受信データを書き込みあるいは読み出しするのが望ましい。また、RAM440とストレージ450との間でデータを転送するDMAC(Direct Memory Access Controller)を設けるのが望ましい(図示なし)。さらに、CPU410は、RAM440にデータが受信あるいは転送されたことを認識してデータを処理する。また、CPU410は、処理結果をRAM440に準備し、後の送信あるいは転送はネットワークインタフェース430やDMACに任せる。
【0044】
RAM440は、CPU410が一時記憶のワークエリアとして使用するランダムアクセスメモリである。RAM440には、本実施形態の実現に必要なデータを記憶する記憶領域が確保されている。温度データ441は、打設したコンクリート110に設置された温度センサ130から取得したコンクリート110の温度である。判定データ442は、冷媒の流れの方向を反転させるタイミングを判定するための条件についてのデータである。冷媒データ443は、冷却パイプ122に供給する冷媒の流量や温度などのデータである。目標温度データ444は、温度分布曲線140などから導出される、各時間(各時間帯)において、コンクリート110が達成すべき温度である。
【0045】
送受信データ445は、ネットワークインタフェース430を介して送受信されるデータである。また、RAM440は、各種アプリケーションモジュールを実行するためのアプリケーション実行領域446を有する。
【0046】
ストレージ450には、データベースや各種パラメータ、あるいは本実施形態の実現に必要な以下のデータまたはプログラムが記憶されている。ストレージ450は、判定テーブル301を格納する。判定テーブル301は、図3に示した、経過時間311と到達温度312との関係を管理するテーブルである。
【0047】
ストレージ450は、さらに、取得モジュール451、判定モジュール452および制御モジュール453を格納する。取得モジュール451は、冷却パイプ122の入口近傍および出口近傍に設置された温度センサ130からコンクリート110の温度を取得するモジュールである。判定モジュール452は、コンクリート110の内部に設置された冷却パイプ122に供給する冷媒の流れの方向を反転させるタイミングを判定するモジュールである。制御モジュール453は、冷媒の流れの方向を反転させるモジュールである。これらのモジュール451~453は、CPU410によりRAM440のアプリケーション実行領域446に読み出され、実行される。制御プログラム454は、コンクリート養生装置100の全体を制御するためのプロブラムである。
【0048】
入出力インタフェース460は、入出力機器との入出力データをインタフェースする。入出力インタフェース460には、表示部461、操作部462、が接続される。また、入出力インタフェース460には、さらに、記憶媒体464が接続されてもよい。さらに、音声出力部であるスピーカ463や、音声入力部であるマイク(図示せず)、あるいは、GPS位置判定部が接続されてもよい。なお、図4に示したRAM440やストレージ450には、コンクリート養生装置100が有する汎用の機能や他の実現可能な機能に関するプログラムやデータは図示されていない。
【0049】
図5に示したフローチャートを参照して、コンクリート養生装置100の処理手順について説明する。このフローチャートは、図4のCPU410がRAM440を使用して実行し、図2のコンクリート養生装置100の各機能構成を実現する。
【0050】
ステップS501において、取得部201は、冷却パイプ122の入口近傍および出口近傍に設置された温度センサ130からコンクリート110の温度を取得する。ステップS503において、判定部202は、冷媒の流れの方向を反転させるタイミングか否かを判定する。反転させるタイミングであると判定した場合(ステップS503のYES)、コンクリート養生装置100は、ステップS505へ進む。反転させるタイミングでないと判定した場合(ステップS503のNO)、コンクリート養生装置100は、ステップS501へ戻る。
【0051】
ステップS505において、制御部203は、冷媒の流れの方向を反転させる。ステップS507において、コンクリート養生装置100は、コンクリート110の温度が、目標とする冷却温度に到達したか否かを判定する。目標冷却温度に到達したと判定した場合、コンクリート養生装置100は、処理を終了する。目標冷却温度に到達していないと判定した場合、コンクリート養生装置100は、ステップS501へ戻る。
【0052】
本実施形態によれば、所定の条件を満たした場合に、冷媒の流れの方向を反転させるので、冷却パイプの入口と出口とにおけるコンクリート温度の不均衡を是正できるので、より確実にコンクリートを冷却させることができる。
【0053】
[他の実施形態]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、それぞれの実施形態に含まれる別々の特徴を如何様に組み合わせたシステムまたは装置も、本発明の範疇に含まれる。
【0054】
また、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用されてもよいし、単体の装置に適用されてもよい。さらに、本発明は、実施形態の機能を実現する情報処理プログラムが、システムあるいは装置に直接あるいは遠隔から供給される場合にも適用可能である。したがって、本発明の機能をコンピュータで実現するために、コンピュータにインストールされるプログラム、あるいはそのプログラムを格納した媒体、そのプログラムをダウンロードさせるWWW(World Wide Web)サーバも、本発明の範疇に含まれる。特に、少なくとも、上述した実施形態に含まれる処理ステップをコンピュータに実行させるプログラムを格納した非一時的コンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)は本発明の範疇に含まれる。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5