IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-落石監視システムおよび落石監視方法 図1
  • 特許-落石監視システムおよび落石監視方法 図2
  • 特許-落石監視システムおよび落石監視方法 図3
  • 特許-落石監視システムおよび落石監視方法 図4
  • 特許-落石監視システムおよび落石監視方法 図5
  • 特許-落石監視システムおよび落石監視方法 図6
  • 特許-落石監視システムおよび落石監視方法 図7
  • 特許-落石監視システムおよび落石監視方法 図8
  • 特許-落石監視システムおよび落石監視方法 図9
  • 特許-落石監視システムおよび落石監視方法 図10
  • 特許-落石監視システムおよび落石監視方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】落石監視システムおよび落石監視方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 8/10 20060101AFI20240827BHJP
   G01D 21/00 20060101ALI20240827BHJP
   G08B 31/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G01V8/10 S
G01D21/00 D
G08B31/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021117413
(22)【出願日】2021-07-15
(65)【公開番号】P2023013325
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮永 隼太郎
(72)【発明者】
【氏名】谷 卓也
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-160537(JP,A)
【文献】特開2019-152567(JP,A)
【文献】特開2019-203288(JP,A)
【文献】特開2001-108494(JP,A)
【文献】久保田 恭行 他,画像解析技術を用いたトンネル切羽の落石監視システムの開発,土木学会論文集F3(土木情報学),2021年03月23日,77 巻, 2 号,pp.I_77-I_88,DOI:https://doi.org/10.2208/jscejcei.77.2_I_77
【文献】Joaquin Andres Valencia et al,A neural network model applied to landslide susceptibility analysis (Capitanejo, Colombia),Geomatics, Natural Hazards and Risk,2018年10月23日,Vol.9,No.1,pp.1106-1128,https://doi.org/10.1080/19475705.2018.1513083
【文献】Andrea Fantini et al,Rock Falls Impacting Railway Tracks: Detection Analysis through an Artificial Intelligence Camera Prototype,Wireless Communications in Transportation Systems,Vol.2017,2017年10月12日,pp.1-11,https://doi.org/10.1155/2017/9386928 Published 12 Oct 2017
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 8/10
G01D 21/00
G08B 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
落石の発生を監視する落石監視システムであって、
監視領域を撮像する撮像部と、
フレーム差分法を用いた画像解析によって、前記撮像部が撮像した撮像画像から前記監視領域で発生した落石に関する定量的な第1情報を求める落石解析部と、
前記第1情報と前記撮像画像を撮像した時点での環境に関する第2情報とから、前記監視領域で発生する新たな落石を予測する落石予測部と、を備え、
前記落石予測部は、所定の時間を1単位として時系列で連続した複数単位の前記第1情報および前記第2情報を入力することによって、次の単位の時間における前記新たな落石に関する第3情報を出力するように機械学習を行った学習済みモデルを有する、
ことを特徴とする落石監視システム。
【請求項2】
前記第1情報は、落石の発生源、落石の規模および落石運動の特徴の何れかである、ことを特徴とする請求項1に記載の落石監視システム。
【請求項3】
前記撮像部が撮像した撮像画像に写る落石をフレーム差分法によって検出する落石検出部を備え、
前記落石解析部は、前記落石検出部によって落石が検出されたフレーム差分画像から前記第1情報を求める、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の落石監視システム。
【請求項4】
前記新たな落石の発生を報知する報知部をさらに備える、ことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の落石監視システム。
【請求項5】
落石の発生を監視する落石監視方法であって、
監視領域を撮像する撮像工程と、
フレーム差分法を用いた画像解析によって、前記撮像工程で撮像した撮像画像から前記監視領域で発生した落石に関する定量的な第1情報を求める落石解析工程と、
前記第1情報と前記撮像画像を撮像した時点での環境に関する第2情報とから、前記監視領域で発生する新たな落石を予測する落石予測工程と、を有し、
前記落石予測工程では、所定の時間を1単位として時系列で連続した複数単位の前記第1情報および前記第2情報を入力することによって、次の単位の時間における前記新たな落石に関する第3情報を出力するように機械学習を行った学習済みモデルを用いて予測を行う、
ことを特徴とする落石監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落石監視システムおよび落石監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
崖や斜面で発生する落石や崩落を検知する技術が存在する(例えば、特許文献1ないし3を参照)。
特許文献1には、落石監視対象区間毎にセンサ用光ファイバを敷設し、これら区間毎のセンサ用光ファイバを直列又は並列に接続して光ファイバ系を構成し、この光ファイバ系を伝達する光の変化から落石を検知する技術が記載されている(例えば、段落0013参照)。
特許文献2には、監視領域の斜面に張った落石防護ネットで落石を蓄積場に誘導して集め、蓄積場の体積変化又は集めた落石の重量変化を光ファイバの歪変化に置換して光ファイバの歪量の変化から落石の有無を検知する技術が記載されている(例えば、段落0006参照)。
特許文献3には、斜面および斜面直下に設置された落石防護網等の落石防護施設に取付けて落石や土砂崩落等の検出を行う落石検知装置が記載されている(例えば、請求項1参照)。この落石検知装置は、地磁気、圧力、傾斜、加速度などを検出する半導体センサ素子を備え、落石や土砂崩落による振動の振幅や周期等の波形情報と、予め記憶してある情報とを比較した結果で落石や土砂崩落を判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-180219号公報
【文献】特開2002-138418号公報
【文献】特開2011-047252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1ないし3の技術を用いれば、発生した落石に対する注意や警告を行うことはできるものの、近い将来に発生する落石を考慮した注意や警告を行うことができなかった。
また、特許文献1ないし3の技術では、落石を検出する範囲に光ファイバ系や落石防護ネットなどを予め設置しなければならないという問題もあった。例えば、落石が予想される範囲が広範囲であれば、そのすべての範囲に光ファイバや落石防護網などを取り付ける必要があり、事前の準備に多大な労力が必要であった。
このような観点から、本発明は、落石に対する管理や対策の向上に貢献できる落石監視システムおよび落石監視方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る落石監視システムは、落石の発生を監視する落石監視システムである。この落石監視システムは、監視領域を撮像する撮像部と、落石解析部と、落石予測部とを備える。
落石解析部は、フレーム差分法を用いた画像解析によって、前記撮像部が撮像した撮像画像から前記監視領域で発生した落石に関する定量的な第1情報を求める。
落石予測部は、前記第1情報と前記撮像画像を撮像した時点での環境に関する第2情報とから、前記監視領域で発生する新たな落石を予測する。この落石予測部は、所定の時間を1単位として時系列で連続した複数単位の前記第1情報および前記第2情報を入力することによって、次の単位の時間における前記新たな落石に関する第3情報を出力するように機械学習を行った学習済みモデルを有する。
前記第1情報は、例えば、落石の発生源、落石の規模および落石運動の特徴の何れかである。前記新たな落石の発生を報知する報知部をさらに備えてもよい。
このようにすると、近い将来に発生する落石を考慮した注意や警告を行うことができるので、落石に対する管理や対策の向上に貢献できる。
前記撮像部が撮像した撮像画像に写る落石をフレーム差分法によって検出する落石検出部を備えてもよい。その場合、前記落石解析部は、前記落石検出部によって落石が検出されたフレーム差分画像から前記第1情報を求めるのがよい。
このようにすると、落石の検出および落石に関する定量的な第1情報の取得を撮像画像の解析により行えるので、事前の準備にかかる労力を抑制でき、従来よりも簡易に落石を監視できる。
【0006】
本発明に係る落石監視方法は、落石の発生を監視する落石監視方法である。この落石監視方法は、監視領域を撮像する撮像工程と、落石解析工程と、落石予測工程とを有する。
落石解析工程では、フレーム差分法を用いた画像解析によって、前記撮像工程で撮像した撮像画像から前記監視領域で発生した落石に関する定量的な第1情報を求める。
落石予測工程では、前記第1情報と前記撮像画像を撮像した時点での環境に関する第2情報とから、前記監視領域で発生する新たな落石を予測する。この落石予測工程では、所定の時間を1単位として時系列で連続した複数単位の前記第1情報および前記第2情報を入力することによって、次の単位の時間における前記新たな落石に関する第3情報を出力するように機械学習を行った学習済みモデルを用いて予測を行う。
このようにすると、近い将来に発生する落石を考慮した注意や警告を行うことができるので、落石に対する管理や対策の向上に貢献できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、落石に対する管理や対策の向上に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る落石監視システムのイメージ図である。
図2】本発明の実施形態に係る落石監視システムの概略構成図である。
図3】監視部の一部である画像処理装置のブロック図である。
図4】本発明の実施形態に係る落石監視システムの動作イメージを示すフロー図である。
図5】フレーム差分法による画像解析のイメージ図である。
図6】落石に関する定量的な情報(第1情報)の抽出処理を説明するための図である。
図7】落石の発生源の推定処理を説明するための図である。
図8】学習データの基になる観測データの一例を示す図である。
図9】学習モデルの一例を示す図である。
図10】学習データの基になる観測データの一例を示す図である。
図11】学習モデルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
<実施形態に係る落石監視システムの構成>
図1および図2を参照して、実施形態に係る落石監視システム1の構成について説明する。図1は、落石監視システム1のイメージ図である。図2は、落石監視システム1の概略構成図である。
【0010】
落石監視システム1は、撮影した映像(連続した画像で構成される)から落石を検出し、さらに落石を検出したことを報知する機能を有する。また、落石監視システム1は、検出した落石から近い将来に発生する新たな落石を予測する機能を有する。
落石監視システム1は、落石の監視を必要とする様々な場面で使用することができ、監視対象の落石は、形状、大きさ、色など特に限定されるものではない。ここでは、図1に示すように、崖や斜面の監視に落石監視システム1を用いることを想定し、崖や斜面の少なくとも一部(全部であってもよい)が監視領域である。
落石監視システム1では、人工知能(AI:Artificial Intelligence)技術を用いて落石を撮影した映像から落石の傾向を学習し、既に発生した落石から近い将来に発生するであろう落石を予測する。学習や予測では、落石が発生した画像からフレーム差分法(または「フレーム間差分法」とも呼ばれる)による画像解析によって落石に関する定量的な情報を抽出し、その定量的な情報を使用する。フレーム差分法では、連続する二つのフレーム間でのフレーム差分画像を生成し、閾値処理を行うことで移動体を特定する。詳細は後記する。
【0011】
図1に示すように、落石監視システム1は、撮像部2と、監視部3と、報知部4とを備える。図2に示すように、撮像部2、監視部3および報知部4は、電源5から電力の供給を受けている。電源5の種類や数は特に限定されない。撮像部2、監視部3および報知部4は、例えば、各々が単独の装置として構成することができる。
図1に示すように、撮像部2は、落石8が発生する可能性がある場所(ここでは崖面9)を撮像可能に設置される。図1では、崖面9から離れた場所に架る橋に撮像部2が設置されている。報知部4は、警報対象者(例えば崖面9の近傍を通行する者や崖面9の近傍で作業を行う者など、落石の発生事実・発生予測の通報を受ける者)が視認できる場所に設置される。図1では、崖面9に繋がる道に報知部4が設置されている。監視部3の設置場所は特に限定されず、例えば報知部4の近くや落石監視システム1を管理する管理者が居る施設内に設置される。
撮像部2と監視部3とは、例えば無線通信によって通信可能に接続されており、撮像部2から監視部3へは崖面9を撮像した画像が送信される。また、監視部3と報知部4とは、例えば通信ケーブルによって通信可能に接続されており、監視部3から報知部4へは落石8の検出結果や予測結果(落石8を検出したか否かや所定時間後に落石が発生するか否かなど)が通知される。なお、落石監視システム1の構成はここで示すものに限定されず、例えば、監視部3が撮像部2や報知部4の機能を有していてもよい(つまり、撮像部2や報知部4を含めて監視部3であってもよい)。
【0012】
撮像部2は、監視領域(ここでは、崖面9)を撮像する手段である。撮像部2は、落石8を認識できる解像度を有しており、また、落石8の移動が分かる程度に連続撮影が可能である。撮像部2は、例えばデジタルビデオカメラであり、1秒間に数十枚(例えば40枚)の画像(以下では、「フレーム」と呼ぶ場合がある)を撮影する。本実施形態では、崖面9の監視に使用することを想定しているので、撮像部2は崖面9を撮影するように設置されている。撮像部2によって撮影された画像は、監視部3に送られる。撮像部2は、屋外での長時間の使用に耐えられる仕様であるのがよい。
撮像部2は、図示しない照明手段を有していてもよい。照明手段は、光を発する光源であって、例えば、LED(Light Emitting Diode)照明、有機EL照明(OLED)である。照明手段は、落石8の発生を監視する範囲(つまり、監視領域)を照らすように設置されている。照明手段の数や形状は特に限定されない。照明手段は、撮像部2の感度(カメラ感度)に対応した波長成分を少なくとも含む光源であり、例えば、可視光、赤外光などであってよい。なお、撮像部2は、ズーム機能を有していてもよい。
【0013】
報知部4は、落石8を検出した場合に危険を知らせる手段である。報知部4は、近い将来(例えば、数分後~数時間後)における落石8の発生を予測した場合に危険を知らせてもよい。報知部4は、例えば落石8が検出されたことや発生を予測したことを、視覚や聴覚を介して警報対象者に報知する。報知部4は、例えば、表示板、回転灯やブザーであってよい。また、崖面9での作業を想定した場合、警報対象者が装着するもの(例えばヘルメット)に表示機能や警告音を鳴らすブザーを設けても良い。
報知部4は、監視対象に関連する場所に設置される(図1では、崖面9の前を通る道に設置されている)。落石8の予測を知らせる場合、報知部4は、落石8が発生する確率や規模、落石8が発生するまでの時間に応じた警報を行ってもよい。報知部4を屋外に設置する場合、屋外での長時間の使用に耐えられる仕様であるのがよい。
【0014】
図2を参照して(適宜、図1参照)、監視部3について説明する。監視部3は、撮像部2(図1参照)によって撮影された画像に対して画像処理を行って落石8を検出する。また、監視部3は、撮像部2によって撮影された画像からフレーム差分法による画像解析によって落石に関する定量的な情報(第1情報)を抽出し、その定量的な情報を学習済みモデルに入力して将来の落石8の発生を予測する。
図2に示すように、監視部3は、例えば、画像保存装置3Aと、画像処理装置3Bとで構成される。画像保存装置3Aおよび画像処理装置3Bは、PC(Personal Computer)やサーバであってよい。監視部3は、画像保存装置3Aと画像処理装置3Bとをまとめた単一の装置であってもよい。
画像保存装置3Aには、崖面9を撮影した画像が保存される。画像保存装置3Aに保存される画像は、学習モデルの学習に使用される。画像保存装置3Aには、異なる場所の複数の崖面9を撮影した画像が保存されていてもよい。
画像処理装置3Bは、フレーム差分法による画像解析によって抽出される落石に関する定量的な情報から、近い将来に新たな落石が発生するか否かを予測する装置である。画像処理装置3Bは、学習済みモデルを有しており、学習済みモデルに落石に関する定量的な情報を入力することで落石の発生を予測する。画像処理装置3Bは、学習モデルを自身で学習させる機能を有していてもよいし、他の装置(例えば画像保存装置3A)で学習を行った学習済みモデルを取得して使用してもよい。
【0015】
図3を参照して、画像処理装置3Bの構成を説明する。図3は、画像処理装置3Bのブロック図である。画像処理装置3Bは、例えば、記憶部31と、制御部32とを備えている。
記憶部31には、落石8の検出や予測に必要な情報(例えば、撮影条件情報31a、検出対象情報31b、落石運動情報31cなど)が記憶されている。撮影条件情報31aは、例えば、撮像部2の情報(画角、解像度、フレームレートなど)、崖面9から撮像部2までの距離Lなどの情報である。検出対象情報31bは、例えば、検出する落石8のサイズ(最小と最大)、落下速度などの情報である。落石運動情報31cは、落石運動の特徴に関する情報であり、例えば跳躍運動、滑り運動、自由落下運動などの落下パターン(落下類型)ごとの落石8の動きの情報である。
制御部32は、CPU(Central Processing Unit)によるプログラム実行処理や、専用回路等により実現される。制御部32がプログラム実行処理により実現する場合、記憶部31には、制御部32の機能を実現するためのプログラム(落石監視プログラム)が格納される。
【0016】
制御部32は、主に、画像取得部33と、落石検出部34と、落石解析部35と、落石予測部36と、落石通知部37とを備える。なお、図3に示す制御部32の各機能は、説明の便宜上分けたものであり、本発明を限定するものではない。ここでは、処理の概要を説明し、処理の詳細については後記する動作で説明する。
画像取得部33は、撮像部2で撮影した画像を取得する。ここでの画像取得部33は、無線通信を介して撮像部2から画像を受信するが、画像を取得するための通信手段は特に限定されない。
落石検出部34は、撮像部2が撮影した画像に対して画像処理を行い、画像処理後の画像から落石8を検出する。落石検出部34による画像処理の手法は特に限定されず、例えばフレーム差分法を用いて落石8を検出する。フレーム差分法では、連続する二つのフレーム間でのフレーム差分画像を生成し、閾値処理を行うことで移動体を特定する。フレーム差分法を用いた落石の検出方法については、例えば「特開2019-203288」に記載がある。
落石解析部35は、フレーム差分法による画像解析によって、落石8に関する定量的な情報(第1情報)を抽出する。落石解析部35によって抽出された定量的な情報は、落石予測部36に送られ、学習モデルの学習や近い将来に発生する落石8の予測に使用される。
落石予測部36は、学習済みモデルを有しており、落石解析部35で抽出した定量的な情報を学習済みモデルに入力して将来の落石8の発生を予測する。落石予測部36は、落石解析部35で抽出した定量的な情報を用いて、学習モデルの学習や学習済みモデルの再学習を行ってもよい。
落石通知部37は、落石8を検出した場合や近い将来(例えば、数分後~数時間後)における落石8の発生を予測した場合に、報知部4に対してその情報を通知する。報知部4は、落石8の発生やその予測などを受信した場合に、そのことを報知する。
【0017】
<実施形態に係る落石監視システムの動作>
図4を参照して(適宜、図1ないし図3を参照)、実施形態に係る落石監視システム1の動作について説明する。図4は、実施形態に係る落石監視システム1の動作イメージを示すフロー図である。図4に示すように、落石監視システム1の動作は、主に、「落石画像記録工程(S10)」、「環境データ記録工程(S20)」、「落石解析工程S30」、「落石学習工程(S40)」、「落石予測工程(S50)」を含んで構成される。
(落石画像記録工程(S10))
撮像部2は、崖面9の撮影を開始し、撮影中に落石8が発生した場合に、落石8が発生したときの連続画像や撮影を行った時刻を画像保存装置3Aに保存する。撮像部2が撮像した画像が画像処理装置3Bに送られ、落石検出部34の処理によって画像に落石8が写っているか否かが判定され、落石8が写っていると判定された画像が画像保存装置3Aに送られて保存されてもよい。
【0018】
(環境データ記録工程(S20))
図示しない機関(例えば気象庁)は、監視を行う崖面9(付近でもよい)の環境に関する環境データ(第2情報)を記憶する。環境データは、例えば気象に関する気象データ、地震に関する地震データなどであってよい。例えば気象庁は、気象観測や地震観測を常に行っており、気象データや地震データと測定を行った時刻とを関連付けて記録する。気象データは、例えば所定時間ごとの降水量、気温、平均風速、最大風速などである。地震データは、例えば震度や地震の類型などである。
(落石解析工程S30)
画像処理装置3Bの落石解析部35は、画像保存装置3Aに保存される画像を取得し、フレーム差分法による画像解析によって、落石8に関する定量的な情報(第1情報)を抽出する。図5を参照して、フレーム差分法による画像解析について説明する。図5は、フレーム差分法による画像解析のイメージ図である。
フレーム差分法では、過去Nフレーム分(N≧3であり、例えばN=10程度がよい)の撮像画像Eに対して、時系列で連続した二つの撮像画像Eのフレーム差分画像Fを生成し、閾値処理を行うことで各々のフレーム差分画像Fから移動体(ここでは、落石8)の領域を抽出する(図5の上段および中段を参照)。図5では、撮像画像E,Eからフレーム差分画像Fを生成し、撮像画像E,Eからフレーム差分画像Fを生成し、撮像画像E,Eからフレーム差分画像Fを生成する場合を示している。
また、フレーム差分画像Fを合成することでフレーム差分合成画像Gを生成し、移動体の領域の和集合を求める(図5の下段を参照)。図5では、フレーム差分画像F,F,F,・・・からフレーム差分合成画像Gを生成する場合を示している。
【0019】
画像処理装置3Bの落石解析部35は、落石8に関する定量的な情報(第1情報)として、例えば(ア)落石の発生源、(イ)落石の規模、(ウ)落石運動の特徴を求める。
(ア)落石の発生源の推定について
図6および図7を参照して、落石の発生源の推定について説明する。図6は、落石8に関する定量的な情報の抽出処理を説明するための図である。図7は、落石8の発生源の推定処理を説明するための図である。
図6に示すように、フレーム差分画像Fを時系列に並べた場合に、落石発生前の期間Tや落石が終了した期間Tではフレーム差分画像Fは黒色のピクセルのみで構成される。一方、落石が発生中の期間Tでは、落石8の領域(符号K)が白色のピクセルで記され、フレーム差分画像F~Fは黒色および白色のピクセルで構成される。落石解析部35は、時系列でみて白色のピクセルが出現したフレーム差分画像F(図6では、フレーム差分画像F)を用いて落石8の発生源を特定する。落石解析部35は、落石8の発生源として白色のピクセルの位置を求めてもよいし、図7に示すように、フレーム差分画像Fを所定数に分割することでフレーム差分画像F上に発生源を区別するための領域Hを設定し、落石8の領域(符号K)がどの領域Hに対応するかを特定してもよい。図7では、領域Hの識別情報を、領域H内に二桁の数字で記している。
【0020】
(イ)落石の規模の推定について
落石解析部35は、フレーム差分画像F上での落石8の面積(つまり、符号Kで示す白色ピクセルの面積)を求めることで、落石8のおおよその規模を推定する。落石8の規模の推定には、例えば以下に示す式(1)を用いてもよい。
また、式(1)で求めた値をさらに段階評価して落石8の規模を表してもよい。例えば、落石8の規模Sが「1平米以上」に段階評価「5」を対応させ、「0.8平米以上、1平米未満」に段階評価「4」を対応させ、「0.6平米以上、0.8平米未満」に段階評価「3」を対応させ、「0.4平米以上、0.6平米未満」に段階評価「2」を対応させ、「0.2平米以上、0.4平米未満」に段階評価「1」を対応させ、「0平米以上、0.2平米未満」に段階評価「0」を対応させる。
【0021】
【数1】
【0022】
(ウ)落石運動の特徴の推定について
落石解析部35は、図5に示すフレーム差分合成画像Gに表される落石8の軌跡から、落石運動の特徴を推定する。落石運動の特徴は、例えば、跳躍運動、滑り運動、自由落下運動などの落下パターン(落下類型)である。跳躍運動は、落石8が崖面9にぶつかって跳ねながら落下するものである。滑り運動は、落石8が崖面9を滑りながら落下するものである。自由落下運動は、落石8が崖面9にあまり接触せずに落下するものである。落石解析部35は、例えばこれらの運動の特徴を予め情報として保有しており、その保有する情報とフレーム差分合成画像Gに示される落石8の軌跡との比較で落石運動の特徴を推定する。
落石解析部35によって抽出された落石8に関する定量的な情報は、落石予測部36に送られ、学習モデルの学習や近い将来に発生する落石8の予測に使用される。
【0023】
(落石学習工程(S40))
落石学習工程は、(A)落石8に関する定量的な情報(第1情報)や環境データ(第2情報)と、(B)近い将来での新たな落石8の発生に関する情報(第3情報)との関係を学習する工程である。落石予測部36は、例えば落石8に関する定量的な情報として求めた「落石の発生源、落石の規模、落石運動の特徴」の少なくとも何れか一つと、環境データとして取得する「所定時間ごとの降水量、気温、平均風速、最大風速や、震度、地震の類型」の少なくとも何れか一つを用いて機械学習を行う。学習で用いるデータの数や種類は、崖面9がある場所の地理的特徴などを考慮して選択されるのがよい。
落石予測部36は、学習モデルを有しており、(A)落石8に関する定量的な情報(第1情報)や環境データ(第2情報)と、(B)近い将来での新たな落石8の発生に関する情報(第3情報)とを組にした学習データを用いて学習モデルを機械学習させる。学習モデルは、機械学習における学習システムであり、与えられたデータを基に分類・予測・判定などした結果と正答となる実際の結果とを比較し、各種パラメータを調整することで良い結果を導くことが可能になる。学習モデルは、例えばニューラルネットワークであり、本実施形態でもニューラルネットワークを想定して説明する。なお、学習モデルは、「学習器」や「人工知能(AI:Artificial Intelligence)」などとも呼ばれる。
【0024】
ニューラルネットワークは、周知のように人間の脳の動きをコンピュータに模倣させる目的で生まれた情報処理手法である。ニューラルネットワークは、複雑な非線形処理を得意とし、学習機能を用いることで説明変数と目的変数の関係を定式化する必要がないという特徴を持つ。ニューラルネットワークは、一般的に入力層、中間層、出力層で構成される。入力層には説明変数が入力され、出力層からは目的変数が出力される。中間層は、両者を関係づける役割を担っている。中間層の層数および各中間層のニューロン数には制約が無く、任意に設定することができる。
学習モデルを学習させる方法は特に限定されず、例えば誤差逆伝播法によって学習モデルを学習させる。具体的には、学習データを構成する(A)落石8に関する定量的な情報(第1情報)や環境データ(第2情報)が入力層に入力され、出力層から出力される結果と、学習データを構成する(B)近い将来での新たな落石8の発生に関する情報(第3情報)との誤差に基づいて中間層を調整する。つまり、落石予測部36は、(A)落石8に関する定量的な情報(第1情報)や環境データ(第2情報)を入力することによって(B)近い将来での新たな落石8の発生に関する情報(第3情報)を出力するように学習モデルを機械学習させる。学習させる学習データの数は特に限定されず、例えば期待する精度に到達することで学習を終了する。
【0025】
(落石予測工程(S50))
落石予測工程は、(A)落石8に関する定量的な情報(第1情報)や環境データ(第2情報)から(B)近い将来での新たな落石8の発生を予測する工程である。落石予測部36は、リアルタイムで取得した(A)落石8に関する定量的な情報や環境データを用いて近い将来の落石の発生を予測する。
落石予測部36は、学習済みの学習モデル(学習済みモデル)を有している。学習済みモデルは、落石学習工程(S40)によって学習モデルを機械学習させたものである。つまり、学習済みモデルは、(A)落石8に関する定量的な情報(第1情報)や環境データ(第2情報)を入力することによって(B)近い将来での新たな落石8の発生に関する情報(第3情報)を出力するように学習させたものである。落石予測部36は、リアルタイムで取得した(A)落石8に関する定量的な情報や環境データを入力することによって、未だに発生していない(B)近い将来での新たな落石8の発生に関する情報(例えば、「落石あり・なし」や「落石が発生する時間、発生源、規模など」)を出力する。
【0026】
次に、学習データおよび学習モデルの構築について説明する。図8に、学習データの基になる観測データの一例を示す。図8に示す観測データは、1時間ごとに測定したものである。各々の観測データは、「日付」、「時間」、「落石回数」、「落石発生源」、「落石規模」、「降水量[mm]」、「気温[℃]」、「平均風速[m/s]」、「最大風速[m/s]」、「地震(震度)」で構成される。
ここでの落石回数は、1時間で発生した落石の数である。落石発生源は、図7での領域Hの識別情報である。落石規模は、上述した式(1)で求めた値をさらに段階評価したものである。降水量は、1時間あたりの量(時間雨量)、平均気温および平均風速は、1時間ごとの平均値、最大風速は、1時間における瞬間最大風速である。地震は、1時間内で発生した地震の震度である。
図9に、学習モデルの一例を示す。例えば、ある第一時点での落石8に関する情報(例えば、予測を行う時刻の10時間前、9時間前、8時間前・・1時間前のように1時間ずつずらした情報)と、第一時点よりも時間が経過した後の落石8に関する情報(例えば、予測を行う時刻の情報)との組を用いて学習モデルを学習させる。これにより、発生した落石8や環境に関する情報を学習済みモデルに入力することで、近い将来に発生する落石8の「落石発生時刻」、「落石発生源」、「落石規模」を予測できる。なお、学習データの項目としては、例えば「落石発生時刻」、「落石発生源」、「落石規模」、「降水量」の優先度が高く、これらの項目を含めることで近い将来に発生する落石の「落石発生時刻」、「落石発生源」、「落石規模」を高い精度で推定することが可能になる。
【0027】
図10に、学習データの基になる観測データの一例を示す。図10に示す観測データは、1時間ごとに測定したものである。各々の観測データは、「日付」、「時間」、「落石有無」、「落石回数」、「落石規模」、「降水量[mm]」、「気温[℃]」、「平均風速[m/s]」、「最大風速[m/s]」、「地震(震度)」で構成される。
ここでの落石有無は、1時間内に落石8が発生したか否かの情報であり、落石回数は、1時間で発生した落石の数である。落石規模は、上述した式(1)で求めた値をさらに段階評価したものである。降水量は、1時間あたりの量(時間雨量)、平均気温および平均風速は、1時間ごとの平均値、最大風速は、1時間における瞬間最大風速である。地震は、1時間内で発生した地震の震度である。
図11に、学習モデルの一例を示す。例えば、入力データを、落石回数、落石規模、降水量、気温、風速、地震とし、出力データは、落石が発生したか否か(落石ありorなし)、とする。例えば、1時間を「1単位」として、過去10時間を入力データ(図10の符号「a」参照)とし、直後の1時間を出力データ(図10の符号「b」参照)とする。1時間に同一箇所で複数回の落石8があった場合の規模は、例えば合算した値とする。これにより、過去10時間の観測データから次の1時間で落石8が起こるかどうかを予測できる。なお、1時間後に落石8が発生する確率を予測するように学習を行ってもよい。また、数時間分の観測データを加算処理や統計的処理などを行って学習モデルに入力してもよい。
【0028】
以上のように、実施形態に係る落石監視システム1によれば、落石解析部35がフレーム差分法を用いた画像解析によって監視領域で発生した落石8に関する定量的な第1情報を撮像画像から求め、落石予測部36がその第1情報を用いて監視領域で発生する新たな落石8を予測する。その結果、近い将来に発生する落石8を考慮した注意や警告を行うことができるので、落石8に対する管理や対策の向上に貢献できる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 落石監視システム
2 撮像部
3 監視部
3A 画像保存装置
3B 画像処理装置
4 報知部
5 電源
8 落石
9 崖面(監視領域)
33 画像取得部
34 落石検出部
35 落石解析部
36 落石予測部
37 落石通知部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11