(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】スプールを制動する制動装置及びこれを備えた魚釣用リール
(51)【国際特許分類】
A01K 89/0155 20060101AFI20240827BHJP
A01K 89/015 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A01K89/0155
A01K89/015 C
(21)【出願番号】P 2021138526
(22)【出願日】2021-08-27
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140822
【氏名又は名称】今村 光広
(72)【発明者】
【氏名】安田 悠
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-127363(JP,U)
【文献】実開昭62-001575(JP,U)
【文献】実開平01-112669(JP,U)
【文献】特開2006-230359(JP,A)
【文献】特開2012-060962(JP,A)
【文献】特開平05-302827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/0155
A01K 89/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両軸受リールのリール本体に回転自在に装着され釣糸を巻回可能なスプールを制動する両軸受リールの制動装置であって、
該スプールに取り付けた被制動部と、該被制動部に制動力を与える制動部と、該制動部の一部を駆動可能なモータと、該モータの駆動を該制動部の一部に伝達する減速機構と、該モータに給電する電源と、を備えた制動装置であって、
該減速機構の減速比rは、該モータの保持トルクをC、該制動部を移動させるのに要する最大トルクをMmaxとすると、r>Mmax/Cを満たすことを特徴とする制動装置。
【請求項2】
前記電源の電
池残量を検出する残量検出部と、前記モータへの制御を行う制御部と、をさらに備え、
該制御部は、
前記電源の電
池残量が所定値以下になったことを検出した場合、前記制動部が所定の状態にされた後に前記制動装置の電源を切るも
のであり、前記被制動部は、導電性部材であり、前記制動部は、該導電性部材へ磁力を与える少なくとも一つの回転可能な磁石を有する磁気回路であり、前記所定の状態とは、前記電池残量が所定値以下になったことを検出した際の該回転可能な磁石の位置に保持された状態である、請求項1に記載の制動装置。
【請求項3】
前記減速機構は、1又は複数の減速ギヤである、請求項1
又は2に記載の制動装置。
【請求項4】
前記1又は複数の減速ギヤのいずれかに外部からアクセス可能な操作部が設けられる、請求項
3に記載の制動装置。
【請求項5】
前記操作部は、凹部である、請求項
4に記載の制動装置。
【請求項6】
請求項1から
5までのいずれか1項に記載の制動装置を備える魚釣用リール。
【請求項7】
前記魚釣用リールに、前記減速機構へのアクセスが可能な工具穴が設けられた請求項
6に記載の魚釣用リール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動装置、特に、リール本体に回転自在に装着されたスプールを制動する両軸受リールの制動装置及びこれを備えた魚釣用リールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、両軸受リール、特に、釣り糸の先端にルアー等の仕掛けを装着して投擲(キャスティング)するベイトキャスティングリールには、投擲(キャスティング)時のバックラッシュを防止するためにスプールを制動する制動装置が設けられている。この種の制動装置には、特許文献1のように、モータによりマグネットを回転させてバックラッシュ防止調整を自動調整するものがある。
【0003】
特許文献1では、スプールの回転を検知するセンサからの信号とタイマー回路の信号により、スプールの回転速度、回転加速度をCPUにて演算し、その回転速度、回転加速度を一定時間毎にデーターと比較することにより、ある値以上の差が生じた時に非磁性導電体に渦電流を発生させてスプールに制動を掛けることで、仕掛けの飛距離を伸ばすことができる。また、このような制動装置では、リール本体に間欠ギヤを回転操作可能に軸支し、該間欠マニアルギヤをモータ軸ギヤもしくはマグネットギヤと噛み外し自在に噛合させて構成させることで、モータの電池切れが生じた際でも、所望時に手動調整を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1による制動装置では、ユーザ操作可能とするために、間欠マニアルギヤをリールの外装部付近に配置する必要があるため、その外側に別の部品を配置することができない等の制約を受けるため、リールの大型化を招いてしまうという問題があった。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、モータにより制動力を調整可能なスプールの制動装置において、魚釣用リールの大型化を招かずに、電池切れ対策を行うことにある。本発明のこれら以外の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置は、両軸受リールのリール本体に回転自在に装着され釣糸を巻回可能なスプールを制動する両軸受リールの制動装置であって、該スプールに取り付けた被制動部と、該被制動部に制動力を与える制動部と、該制動部の一部を駆動可能なモータと、該モータの駆動を該制動部の一部に伝達する減速機構と、該モータに給電する電源と、を備え、 該減速機構の減速比rは、該モータの保持トルクをC、該制動部を移動させるのに要する最大トルクをMmaxとすると、r>Mmax/Cを満たすように構成される。
【0008】
本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置は、電池の残量を検出する残量検出部と、前記モータへの制御を行う制御部と、をさらに備え、該制御部は、電池の残量が所定値以下になったことを検出した場合、前記制動部が所定の状態にされた後に前記制動装置の電源を切るように構成される。
【0009】
本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置において、前記被制動部は、導電性部材であり、前記制動部は、該導電性部材へ磁力を与える少なくとも一つの回転可能な磁石を有する磁気回路である。
【0010】
本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置において、前記制動部は、該導電性部材へ磁力を与える少なくとも一つの回転可能な磁石を有する磁気回路であり、前記所定の状態とは、前記電池の残量が所定値以下になったことを検出した際の該回転可能な磁石の位置に保持された状態である。
【0011】
本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置において、前記減速機構は、1又は複数の減速ギヤである。
【0012】
本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置において、前記1又は複数の減速ギヤのいずれかに外部からアクセス可能な操作部が設けられる。また、 本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置において、前記操作部は、凹部である。
【0013】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールは、上記いずれかの制動装置を備えるように構成される。また、本発明の一実施形態に係る魚釣用リールは、前記減速機構へのアクセスが可能な工具穴が設けられるように構成される。
【発明の効果】
【0014】
上記実施形態によれば、モータ電源消失時には、制動装置は磁気回路内に生じる磁力に負けずに自己位置を保持す続けることができる。このようにして、リールの大型化を招かずに電池切れ対策を行うことができる制動装置及びこれを備えた魚釣用リールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る制動装置を備える魚釣用リールを説明する図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る制動装置又は魚釣用リールにおける制動装置の構成を示す図である。
【
図3】固定磁石に対する回転磁石の位置θと、磁気回路のもつ磁気的位置エネルギーとの関係を示す図である。
【
図4】固定磁石に対する回転磁石の位置θと、回転磁石に働く磁力の大きさF(θ)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る制動力制御装置及びこれを備える魚釣用リールの実施形態について、添付図面を参照しながら具体的に説明する。複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0017】
図1から4を参照して、本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置及びこれを備える魚釣用リールについて説明する。
【0018】
まず、
図1は、魚釣用リール1の断面図であり、後述する減速ギヤ列の中心軸を通る断面を示している。なお、説明の簡略化のために、魚釣用リール1の公知の機能の一部は図示および説明を省略する。
【0019】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1は、フレーム(リール本体)2と、スプール3と、被制動部(被制動手段)4と、軸受け5と、回転磁石6と、固定磁石7とを含む制動部(制動手段)8と、セットプレート9と、中蓋11と、モータ12と、ギヤ13とギヤ14とギヤ15を含む減速機構(減速ギヤ列)16と、磁石ギヤ17と、電池18と、制御基板19、外蓋20とから構成される。ここで、後述する本発明の一実施形態に係る制動装置は、被制動部4と、回転磁石6と固定磁石7とを含む制動部8とを含むものであるが、これら以外を含むようにしてもよい。
【0020】
フレーム(リール本体)2は、釣竿(図示しない)に取り付け可能である。魚釣用リール1は、従来の魚釣用リールと同様、図示しない操作手段(ハンドル)を有し、ユーザの操作によってスプールを正方向回転させ、釣糸を巻き取ることができる。ハンドルの回転は、図示しないギヤ等の伝達手段によってスプールに伝達される。
【0021】
また、魚釣用リール1は、図示しないクラッチ手段を有し、ユーザはクラッチ手段を操作することで、スプールへの動力伝達の接続・解放を選択することができる。接続状態では操作手段による巻き取りが可能である。開放状態ではスプールを正逆方向に自由に回転させることができ、釣糸は放出可能となる。
【0022】
また、魚釣用リール1は、所定値以上のトルクが働いた際にスプールを空転させることで釣糸の破断を防止するドラグ手段(図示しない)や、ハンドルの逆転を防止する逆転防止手段(図示しない)を備えてもよい。さらに、スプールの回転に応じて釣糸を案内する案内部の位置を往復運動させることで、釣糸を均等に巻き取るオシレータ装置(図示しない)を設けてもよい。
【0023】
スプール3は、リール本体2に対して回転可能に支持され、正方向回転により外周に釣糸を巻き取ることができる。また、ルアー等を投擲する際は、逆方向に回転し、巻回された釣糸を放出する。この時に釣糸の放出量がルアー等の移動量よりも多すぎると、余分な糸によりバックラッシュと呼ばれる糸絡みが発生し、魚釣用リール1の正常な使用を妨げる。このため、スプール3には後述する制動装置10によって適切な制動力を付与することにより、バックラッシュを防止する。
【0024】
被制動部(インダクトロータ)4は、スプール3に対して同軸かつ回転不能に固定されることで、スプール3に制動トルクを付与することができる。被制動部4は、例えば、アルミや銅、鉄などの導電体からなり、概略円筒状に形成される。本発明の一実施形態に係る制動装置10では、被制動部4に発生する渦電流により制動力を付与する、いわゆる渦電流ブレーキを用いている。すなわち、被制動部4に対して外部から磁場を与えると、運動中の被制動部には渦電流が発生する。この渦電流と磁場との相互作用により、スプール3の角速度と磁場の強さに比例した制動トルクが発生する。
【0025】
また、
図1に示すセットプレート9は、フレーム2に固定可能である。セットプレート9をフレーム2に固定することで、スプール3は回転可能に軸支される。また、セットプレート9にて固定磁石7および回転磁石(可動磁石)6を保持することで、後述する制動装置10を構成する。また、セットプレート9と中蓋11と外蓋20とを一体のものとすることで、サイドプレートユニットを構成するようにできる。また、中蓋11と外蓋20によって水密室を構成し、内部に基板、電池、モータ、センサ等の電気部品を収納することができる。
【0026】
次に、本発明の一実施形態に係る制動装置10の構成について説明する。本発明の一実施形態に係る制動装置10では、少なくとも一つの永久磁石を有する磁気回路により、被制動部に磁場を与える。また、2つの永久磁石により磁気回路を構成しており、永久磁石同士を相対移動させることで、被制動部に与える磁場を調整させることができる。
【0027】
また、
図2に示すように、被制動部(被制動部材)4の内周側に固定磁石7を配置し、被制動部4の外周側に回転磁石6を配置している。回転磁石6および固定磁石7は、それぞれ周方向にN等分(
図2の例では四等分)され、N極およびS極が交互に着磁される。これにより、被制動部4を貫く磁場を形成する。
【0028】
図2(a)の状態では、固定磁石7のS極と、回転磁石6のN極が対向している。すなわち、異極同士が対向しており、被制動部を貫通する磁場の強さが最大となる。この状態を最大制動状態とする。他方、
図2(b)の状態では、固定磁石7のS極と、回転磁石6のS極が対向している、すなわち、同極同士が対向しており、被制動部を貫通する磁場が最小となる。この状態を最小制動状態とする。
【0029】
回転磁石6は、最大制動状態と最小制動状態の間で回転移動可能となっている。具体的には、回転磁石6は、ギヤを有する樹脂等からなる磁石ギヤ(磁石保持ギヤ)17に固定され、磁石ギヤ17はセットプレート9に対して0°から90°の範囲で回転可能に軸支される。磁石ギヤ17は、減速機構(減速ギヤ列)16を介してモータ12から回転伝達を受ける。これにより、モータ12によって回転磁石6を固定磁石7に対して相対回転させることができる。減速ギヤ列16は公知の減速手段であり、本発明の一実施形態では、
図1に示すギヤ13、ギヤ14、ギヤ15の3つの2段ギヤにより構成されるが、これに限定されず任意の態様とすることができる。ここで、当該減速ギヤ列による減速比をrとする。
【0030】
次に、
図3に、固定磁石に対する回転磁石の位置θと、磁気回路のもつ磁気的位置エネルギーとの関係を示す。図示のように、磁気回路の持つ磁気的位置エネルギーは、同極同士が対向する最小制動状態が最も高く、異極同士が対向する最大制動状態で最小となる。その間は、概ねSin曲線で変化する。
【0031】
本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置は、両軸受リールのリール本体に回転自在に装着され釣糸を巻回可能なスプールを制動する両軸受リールの制動装置であって、該スプールに取り付けた被制動部と、該被制動部に制動力を与える制動部と、該制動部の一部を駆動可能なモータと、該モータの駆動を該制動部の一部に伝達する減速機構と、該モータに給電する電源と、を備え、該減速機構の減速比rは、該モータの保持トルクをC、該制動部を移動させるのに要する最大トルクをMmaxとすると、r>Mmax/Cを満たすように構成される。
【0032】
本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置によれば、モータ電源消失時には、制動装置は磁気回路内に生じる磁力に負けずに自己位置を保持す続けることができる。このようにして、リールの大型化を招かずに電池切れ対策を行うことができる制動装置及びこれを備えた魚釣用リールを提供することが可能となる。
【0033】
図4には、固定磁石に対する回転磁石の位置θと、回転磁石に働く磁力の大きさF(θ)との関係を示す。回転磁石に働く磁力は、磁気的位置エネルギーを距離で微分したものとなり、概ねCos曲線で変化する。最小制動状態および最大制動状態でそれぞれ磁力は0となり、その中間で最大磁力Mmaxとなる。最大制動状態は安定点であり、微小な角度変化が生じた場合でもこの点への復元力が生じる。最小制動状態は不安定点であり、微小な角度変化が生じた場合は安定点へ向かう磁力が生じる。
【0034】
このように、回転磁石が最小制動状態にあるときは、回転磁石には磁力が加わらないものの、外部から衝撃や振動を受け、微小変位をした際は安定点である最大制動状態に向かう磁力が発生し始める。また、回転磁石が最小制動状態と最大制動状態の間にあるときは、最大制動状態に向かう磁力が発生する。さらに、回転磁石が最大制動状態にあるときは、磁力は発生しない。外部から衝撃や振動を受け、微小変位をした際は最大制動状態に戻ろうとする磁力が発生する。
【0035】
本発明の一実施形態において、モータにより回転磁石を移動させるためには、回転磁石のモータによる移動力が、回転磁石と固定磁石の間に発生する磁力よりも大きいことが必要とされる。すなわち、モータの通電トルクをT、モータと回転磁石との減速比をrとすると、r>Mmax/Tとする必要がある。これにより、モータ駆動中は磁力に逆らい、回転磁石を任意の位置に位置決めすることができる。
【0036】
他方、電池切れが生じた際や、制御基板の電源を切った際等、モータ駆動を停止した場合、回転磁石と固定磁石の間の磁力により、モータはギヤを介して回転方向のトルクを受ける。モータの非通電時には、一般的にロータとステータの間に働くトルクむらによって生じるコギングトルクや、軸受け等の摩擦トルクなどを原因とする保持トルクCが生じる。
【0037】
本発明での減速比rは、r>Mmax/Cとしている。これにより、回転磁石と固定磁石の間には、rCの保持トルクが生じる。
図4に、トルクrCを示す。このように、固定磁石と回転磁石の間に働く磁力F(θ)は、全領域にわたってトルクrCより小さくなる。このようにして、本発明の一実施形態に係る制動装置10及びこれを備えた魚釣用リールにより、モータの保持トルク(保持力)が回転磁石と固定磁石の間に生じる磁力よりも大きくすることができる。これにより、モータへの通電停止時にも、固定磁石は自己位置の保持を続けることができる。
【0038】
ここで、特許文献1に示す魚釣用リールでは、モータ制御を行わない場合において磁石を移動させないようにするためには、適当な制動力を与える必要があるが、この制動力は摩擦力によるものであるため、エネルギー損失に繋がり、省電力化が難しくなるという問題がある。他方で、本発明の一実施形態に係る制動装置10及びこれを備えた魚釣用リールでは、減速機構の減速比を十分大きく取ることで、Oリング等の摩擦力による制動手段がなくても、磁力に対して十分大きな自己保持トルクを確保することができる。これにより、省電力化が可能となる。
【0039】
次に、本発明の一実施形態に係る制動装置10による制御方法について説明する。上述のように、本発明の一実施形態では、モータによって回転磁石を固定磁石に対して相対回転させることで、スプールへの制動トルクを所定の量に調整することができる。必要に応じて、スプールの回転移動量や回転速度を検知することで、それぞれの状況に応じた制動トルクに設定する。
【0040】
制御基板内には、モータへ電流を通電するモータドライバや、モータへの駆動量を決定するプログラムが搭載されたマイコン等の電気部品によって構成される制御部が配置される。モータの位置決めは、ステッピングモータを利用したフィードフォワード制御や、位置センサを利用したフィードバック制御などの公知の方法を用いることができる。これにより、回転磁石を所定の位置に移動させ、スプールに所定の制動力を付与することができる。
【0041】
本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置は、前記電池の残量を検出する残量検出部と、前記モータへの制御を行う制御部と、をさらに備え、該制御部は、電池の残量が所定値以下になったことを検出した場合、前記制動部が所定の状態にされた後に前記制動装置の電源を切るように構成される。
【0042】
本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置において、前記被制動部は、導電性部材であり、前記制動部は、該導電性部材へ磁力を与える少なくとも一つの回転可能な磁石を有する磁気回路である。
【0043】
本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置において、前記制動部は、該導電性部材へ磁力を与える少なくとも一つの回転可能な磁石を有する磁気回路であり、前記所定の状態とは、前記電池の残量が所定値以下になったことを検出した際の該回転可能な磁石の位置に保持された状態である。
【0044】
本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置において、前記減速機構は、1又は複数の減速ギヤである。
【0045】
本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置において、前記1又は複数の減速ギヤのいずれかに外部からアクセス可能な操作部が設けられる。また、 本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置において、前記操作部は、凹部である。このようにして、電池切れが起こった場合でも、魚釣用リール(例えば、フレーム等)に設けた工具穴を通じて、工具(例えば、マイナスドライバー)を挿入して、減速機構の操作部(例えば、凹部)と係合させることで、減速機構に接続された回転磁石を適切な位置に移動させることが可能となる。
【0046】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールは、上記いずれかの制動装置を備えるように構成される。本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置を備えた魚釣用リールによれば、モータ電源消失時には、制動装置は磁気回路内に生じる磁力に負けずに自己位置を保持す続けることができる。このようにして、リールの大型化を招かずに電池切れ対策を行うことができる制動装置及びこれを備えた魚釣用リールを提供することが可能となる。
【0047】
また、本発明の一実施形態に係る魚釣用リールは、前記減速機構へのアクセスが可能な工具穴が設けられるように構成される。本発明の一実施形態に係る両軸受リールの制動装置を備えた魚釣用リールによれば、電池切れが起こった場合でも、工具穴を通じて、工具(例えば、マイナスドライバー)を挿入して、減速機構の操作部(例えば、凹部)と係合させることで、減速機構に接続された回転磁石を適切な位置に移動させることが可能となる。
【0048】
電池残量が十分ある状態では、投擲(キャスト)中にモータを駆動し、回転磁石の位置を適宜調整することで、タイミングに応じた適切な制動力をかけることができる。これにより、投擲距離の増加とバックラッシュの抑制を両立することができる。本発明の一実施形態に係る制動装置10の制御部では、電池の残量を検出する電池残量検出部(電池残量検出手段)を有し、電池残量が所定値以下になった場合は、回転磁石を所定の位置に移動させた後、制御装置の電源を切断することができる。
【0049】
これにより、電池残量が不十分な状態では、電源切断前に回転磁石を所定の位置に移動させることができる。この時の回転磁石の位置は、最大制動状態もしくはその付近にするとよい。これにより、投擲距離は減ってしまうものの、バックラッシュの発生リスクを下げることができる。これにより、電池残量がないときでもユーザは釣りを続けることができる。なお、電源切断前の回転磁石の位置は、ユーザが入力可能とするようにしてもよい。
【0050】
電池残量を検出するための残量検出部は、例えば、電池の電圧降下に基づいて電池の蓄電残量を検出する方法が挙げられる。この場合、電池の電位差を直接読み取る構成や、電気回路中に設けたシャント抵抗の電位差を読み取る構成が考えられる。その他、使用した電流を積算していくことで、満充電からの使用電力を測定するクーロンカウンタ方式、クーロンカウンタ方式を電池の経時変化や環境変化を学習により補正する電池セル・モデリング方式、及び、バッテリのインピーダンスを常時記録していくインピーダンストラック方式などがあるが、特定の方法に限定されるものではない。
【0051】
また、本発明の一実施形態に係る魚釣用リールに、減速機構を構成する減速ギヤ(例えば、ギヤ13)に接触可能となるよう工具穴(図示しない)を設けると共に、
図2に示すように、減速機構を構成する減速ギヤ(例えば、ギヤ13)の一部に凹部等の工具で操作可能な操作部(被係合部)22を設けることで、ユーザが減速ギヤおよび可動磁石の位置を操作可能とすることができる。ここで、工具穴は、モータ12と回転磁石6の力の伝達経路のいずれか、すなわち減速機構16、磁石ギヤ17、回転磁石6に設けることができる。その際、ギヤ13や磁石ギヤ17、回転磁石6など、モータから遠い側につけると、工具穴を水密室の外に配置しやすくなり、防水を行なう上で有利である。
【0052】
より具体的には、工具穴からマイナスドライバー等の工具を挿入し、該マイナスドライバーと減速ギヤの一部に設けられた操作部(例えば、凹部)とを係合させることで、減速ギヤを回転させると、可動磁石を回転させることができる。なお、操作部の形状や構造は様々に考えられ、特定の態様に限定されるものではない。これにより、電池が切れた後でも、スプールに働く制動トルクを調整することができる。操作部22を設ける減速ギヤは、
図1に示すいずれのギヤも可能であるが、可動磁石に伝達する減速機構の最終の減速ギヤ(
図1におけるギヤ13)に設けることが望ましい。これにより、サイドプレートユニットを外した状態で容易にアクセスできる場所に操作部に接触可能となる工具穴を設けることができる。
【0053】
また、この時に、可動磁石の位置を示す目盛を設けることができる。これにより、ユーザはスプールへの制動力の目安が分かり、調整作業の操作性がさらに向上する。本発明の一実施形態に係る制動装置10及びこれを備えた魚釣用リールによれば、電池切れの際もスプールへの制動力を調整可能とすることを、比較的レイアウト上の制約を受けずに実現できる。このようにして、装置全体の大型化や高コスト化を避けた制動装置及びこれを備える魚釣用リールを形成することができる。
【0054】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0055】
1 魚釣用リール
2 フレーム(リール本体)
3 スプール
4 被制動部(被制動手段)
5 軸受け
6 回転磁石
7 固定磁石
8 制動部(制動手段)
9 セットプレート
10 制動装置
11 中蓋
12 モータ
13 ギヤ
14 ギヤ
15 ギヤ
16 減速機構(減速ギヤ列)
17 磁石ギヤ
18 電池
19 制御基板
20 外蓋
22 操作部(被係合部)