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特許7544683摩擦撹拌接合用工具及び摩擦撹拌接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】摩擦撹拌接合用工具及び摩擦撹拌接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
B23K20/12 344
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021205537
(22)【出願日】2021-12-17
(65)【公開番号】P2023090541
(43)【公開日】2023-06-29
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 真三樹
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 哲
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-153374(JP,A)
【文献】特開2002-144052(JP,A)
【文献】特開2018-065164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱形状のプローブを回転させつつ、被接合材に前記プローブの先端を押し当てることにより摩擦熱を発生させて、前記被接合材を接合する摩擦撹拌接合用工具であって、
前記プローブは、
前記プローブの先端における略中心から径方向端部まで延び、前記被接合材の表面に線状又は面状で当接する少なくとも1つの当接部と、
前記当接部から前記プローブの軸に対して略平行に延びる少なくとも1つの壁面と、
前記壁面に連続して形成され、前記壁面から離隔する方向に延びる連続面と、を有し、
前記連続面は、前記プローブの先端から最も離隔した位置に離隔部を有し、前記離隔部から前記プローブの同軸円周方向及び前記プローブの径中心方向の少なくとも一方に向かって前記プローブの先端に近づくように形成されており、
前記被接合材の表面に当接する前記線状の当接部、又は前記面状の当接部と前記壁面との間の稜線は略直線状であり、前記壁面は略平面状である、摩擦撹拌接合用工具。
【請求項2】
円柱形状のプローブを回転させつつ、被接合材に前記プローブの先端を押し当てることにより摩擦熱を発生させて、前記被接合材を接合する摩擦撹拌接合用工具であって、
前記プローブは、
前記プローブの先端における略中心から径方向端部まで延び、前記被接合材の表面に線状又は面状で当接する少なくとも1つの当接部と、
前記当接部から前記プローブの軸に対して略平行に延びる少なくとも1つの壁面と、
前記壁面に連続して形成され、前記壁面から離隔する方向に延びる連続面と、を有し、
前記連続面は、前記プローブの先端から最も離隔した位置に離隔部を有し、前記離隔部から前記プローブの同軸円周方向及び前記プローブの径中心方向の少なくとも一方に向かって前記プローブの先端に近づくように形成されており、
前記連続面は、前記離隔部から、前記プローブの径中心方向に向かって、前記先端に段階的に近づく階段形状を有する、摩擦撹拌接合用工具。
【請求項3】
円柱形状のプローブを回転させつつ、被接合材に前記プローブの先端を押し当てることにより摩擦熱を発生させて、前記被接合材を接合する摩擦撹拌接合用工具であって、
前記プローブは、
前記プローブの先端における略中心から径方向端部まで延び、前記被接合材の表面に線状又は面状で当接する少なくとも1つの当接部と、
前記当接部から前記プローブの軸に対して略平行に延びる少なくとも1つの壁面と、
前記壁面に連続して形成され、前記壁面から離隔する方向に延びる連続面と、を有し、
前記連続面は、前記プローブの先端から最も離隔した位置に離隔部を有し、前記離隔部から前記プローブの同軸円周方向及び前記プローブの径中心方向の少なくとも一方に向かって前記プローブの先端に近づくように形成されており、
前記連続面は、前記離隔部から、前記プローブの同軸円周方向に沿って、前記先端に段階的に近づく階段形状を有する、摩擦撹拌接合用工具。
【請求項4】
前記連続面は、前記離隔部から、前記プローブの径中心方向に向かって、前記先端に近づく方向に傾斜している、請求項1又は3に記載の摩擦撹拌接合用工具。
【請求項5】
前記連続面は、前記離隔部から、前記プローブの径中心方向に向かって、前記先端に段階的に近づく階段形状を有する、請求項1に記載の摩擦撹拌接合用工具。
【請求項6】
前記連続面は、前記離隔部から、前記プローブの同軸円周方向に沿って、前記先端に近づく方向に傾斜している、請求項1又は2に記載の摩擦撹拌接合用工具。
【請求項7】
前記連続面は、前記離隔部から、前記プローブの同軸円周方向に沿って、前記先端に段階的に近づく階段形状を有する、請求項1又は2に記載の摩擦撹拌接合用工具。
【請求項8】
前記プローブは、複数の当接部を有し、
前記複数の当接部の間に前記壁面及び前記連続面が形成されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合用工具。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合用工具を用いて一対の板材を接合する摩擦撹拌接合方法であって、
一対の板材を突き合わせて配置し、突合せ部を形成する工程と、
前記板材の板厚から前記プローブの長さを減ずることにより得られる残厚が0(mm)超となるように前記プローブの長さを設定する工程と、
前記プローブを回転させつつ、前記突合せ部における一方の面から押圧し、前記プローブの回転により撹拌される撹拌領域が、前記突合せ部における他方の面に到達するように、前記突合せ部を摩擦撹拌する工程と、を有する、摩擦撹拌接合方法。
【請求項10】
前記突合せ部を摩擦撹拌する工程において、前記撹拌領域が前記突合せ部における他方の面に到達するように、前記プローブの長さ及び回転速度を調整する、請求項に記載の摩擦撹拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブの回転による摩擦熱を利用して被接合材を接合するための摩擦撹拌接合用工具、該摩擦撹拌接合用工具を使用した摩擦撹拌接合方法、及び該摩擦撹拌接合方法により得られる摩擦撹拌接合継手に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦撹拌接合(FSW:Friction Stir Welding)とは、工具の先端に設けられたプローブを回転させつつ、被接合材の突合せ部にプローブの先端面を押し当て、プローブを被接合材に圧入した状態で突合せ部に沿って移動させ、摩擦熱と撹拌により被接合材を接合する方法である。
しかし、回転するプローブの近傍や流動性の高い材料を被接合材とした場合には、良好な接合が得られるが、プローブから離隔した箇所及び塑性流動性の低い材料は、接合が困難である。また、プローブは一般的に円柱形状であるため、プローブの回転中心近傍においても、塑性流動が生じにくく、良好な接合を得ることが困難である
【0003】
そこで、このような摩擦撹拌接合のために用いる工具において、良好な接合品質を得ることを目的として、種々の形状を有するプローブが設けられた工具が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、プローブの外周面に、先端面まで延在した外周凹部が形成されているとともに、先端面に、外周凹部に連通しないように外周面まで延在した先端凹部が形成された摩擦撹拌接合用工具が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、プローブの側面に凹凸形状が設けられた摩擦撹拌ツールが開示されている。上記摩擦撹拌ツールにおける凹凸形状は、プローブの半径方向の内側に向かって軸中心からの距離を急変させる複数のエッジ部と、エッジ部の縁部からプローブの外接円の径に向かって軸中心からの距離が除変する渦巻線の形状を有する径除変部と、を備える形状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-163444号公報
【文献】特許第6329351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図12は、従来の一般的な摩擦撹拌接合方法により一対の板材を接合した場合の継手を示す断面図であり、図13は、図12のAの部分を拡大して示す図である。また、図14は、ルートフローを有する継手に対して、裏曲げ試験を実施した場合の不良の発生を示す模式図である。
【0008】
図12及び図13に示すように、板材21と板材22とを突き合わせて配置し、突合せ部26の表面26a側から摩擦撹拌接合を実施した場合に、プローブによる撹拌が不十分であると、突合せ部26の裏面26b側にルートフロー27と呼ばれる境界線が残存しやすい。なお、突合せ部26の表面26a側とは、プローブを押し当てる面を表し、突合せ部の裏面26b側とは、その反対側の面を表す。
【0009】
また、図14に示すように、ルートフロー27を有する継手20に対して、裏面26b側が凸形状となるようにプレス等の曲げ成形を実施すると、ルートフロー27が亀裂28となり、この亀裂28が進行して割れの起点になることがある。このようなルートフロー27の発生は、上記従来の特許文献1及び2に記載の摩擦撹拌接合用工具又は摩擦撹拌ツールを使用しても、十分に抑制することは困難である。
【0010】
本発明は、上述した状況に鑑みてなされたものであり、被接合材の突合せ部におけるプローブの撹拌を促進し、ルートフローの発生を抑制することができる摩擦撹拌接合用工具、該摩擦撹拌接合用工具を使用した摩擦撹拌接合方法、及び該摩擦撹拌接合方法により得られる摩擦撹拌接合継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、プローブが壁面と連続面とからなる凹部(溝)を有し、離隔部を起点として、連続面が同軸円周方向に沿って、又は径中心方向に向かって先端に近づくように形成されていることより、撹拌効果を著しく向上させることができ、撹拌領域を広げ、ルートフローの発生を抑制することができることを見出した。本発明は、これら知見に基づいてなされたものである。
【0012】
本発明の上記目的は、摩擦撹拌接合用工具に係る下記[1]の構成により達成される。
【0013】
[1] 円柱形状のプローブを回転させつつ、被接合材に前記プローブの先端を押し当てることにより摩擦熱を発生させて、前記被接合材を接合する摩擦撹拌接合用工具であって、
前記プローブは、
前記プローブの先端における略中心から径方向端部まで延び、前記被接合材の表面に線状又は面状で当接する少なくとも1つの当接部と、
前記当接部から前記プローブの軸に対して略平行に延びる少なくとも1つの壁面と、
前記壁面に連続して形成され、前記壁面から離隔する方向に延びる連続面と、を有し、
前記連続面は、前記プローブの先端から最も離隔した位置に離隔部を有し、前記離隔部から前記プローブの同軸円周方向及び前記プローブの径中心方向の少なくとも一方に向かって前記プローブの先端に近づくように形成されている、摩擦撹拌接合用工具。
【0014】
また、摩擦撹拌接合用工具に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[7]に関する。
【0015】
[2] 前記プローブは、複数の当接部を有し、
前記複数の当接部の間に前記壁面及び前記連続面が形成されている、[1]に記載の摩擦撹拌接合用工具。
【0016】
[3] 前記被接合材の表面に当接する前記線状の当接部、又は前記面状の当接部と前記壁面との間の稜線は略直線状であり、前記壁面は略平面状である、[1]又は[2]に記載の摩擦撹拌接合用工具。
【0017】
[4] 前記連続面は、前記離隔部から、前記プローブの径中心方向に向かって、前記先端に近づく方向に傾斜している、[1]~[3]のいずれか1つに記載の摩擦撹拌接合用工具。
【0018】
[5] 前記連続面は、前記離隔部から、前記プローブの径中心方向に向かって、前記先端に段階的に近づく階段形状を有する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の摩擦撹拌接合用工具。
【0019】
[6] 前記連続面は、前記離隔部から、前記プローブの同軸円周方向に沿って、前記先端に近づく方向に傾斜している、[1]~[5]のいずれか1つに記載の摩擦撹拌接合用工具。
【0020】
[7] 前記連続面は、前記離隔部から、前記プローブの同軸円周方向に沿って、前記先端に段階的に近づく階段形状を有する、[1]~[5]のいずれか1つに記載の摩擦撹拌接合用工具。
【0021】
また、本発明の上記目的は、摩擦撹拌接合方法に係る下記[8]の構成により達成される。
【0022】
[8] [1]~[7]のいずれか1つに記載の摩擦撹拌接合用工具を用いて一対の板材を接合する摩擦撹拌接合方法であって、
一対の板材を突き合わせて配置し、突合せ部を形成する工程と、
前記板材の板厚から前記プローブの長さを減ずることにより得られる残厚が0(mm)超となるように前記プローブの長さを設定する工程と、
前記プローブを回転させつつ、前記突合せ部における一方の面から押圧し、前記プローブの回転により撹拌される撹拌領域が、前記突合せ部における他方の面に到達するように、前記突合せ部を摩擦撹拌する工程と、を有する、摩擦撹拌接合方法。
【0023】
また、摩擦撹拌接合方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[9]に関する。
【0024】
[9] 前記突合せ部を摩擦撹拌する工程において、前記撹拌領域が前記突合せ部における他方の面に到達するように、前記プローブの長さ及び回転速度を調整する、[8]に記載の摩擦撹拌接合方法。
【0025】
また、本発明の上記目的は、摩擦撹拌接合継手に係る下記[10]の構成により達成される。
【0026】
[10] [8]又は[9]に記載の摩擦撹拌接合方法により得られる摩擦撹拌接合継手であって、
前記突合せ部が延びる方向に直交する断面には、前記一対の板材を構成する粒子の平均粒子径の1/2以下の平均粒子径を有する前記撹拌領域が形成されており、
前記撹拌領域は、前記板材の厚さ方向に直交する方向を長径とし、前記突合せ部の他方の面に向かって突出する円弧を有する半楕円形状部を有し、
前記円弧が前記突合せ部の他方の面に到達している、摩擦撹拌接合継手。
【0027】
また、摩擦撹拌接合継手に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[11]に関する。
【0028】
[11] 前記半楕円形状部に基づき楕円を想定した場合に、前記楕円の短径に対する長径の比は、3.0以下である、[10]に記載の摩擦撹拌接合継手。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、被接合材の突合せ部におけるプローブの撹拌を促進し、ルートフローの発生を抑制することができる摩擦撹拌接合用工具、該摩擦撹拌接合用工具を使用した摩擦撹拌接合方法、及び該摩擦撹拌接合方法により得られる摩擦撹拌接合継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本発明の実施形態に係る摩擦撹拌接合用工具を示す斜視図である。
図2図2は、図1における摩擦撹拌接合用工具の先端形状を拡大して示す斜視図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る摩擦撹拌接合用工具を用いて、突合せ部を接合する方法について示す斜視図である。
図4図4は、プローブの形状例を示す斜視図である。
図5図5は、プローブの他の形状例を示す斜視図である。
図6図6は、プローブのさらに他の形状例を示す斜視図である。
図7図7は、本実施形態に係る摩擦撹拌接合方法を示す模式図である。
図8図8は、本実施形態に係る摩擦撹拌接合方法により得られる摩擦撹拌接合継手を示す断面図である。
図9図9は、図8に示す断面図の一部を拡大して示す図面代用写真である。
図10図10は、発明例及び比較例の試験片について、裏曲げ試験後の継手の様子を示す図面代用写真である。
図11図11は、発明例及び比較例の試験片について、断面における撹拌領域を示す図面代用写真である。
図12図12は、従来の一般的な摩擦撹拌接合方法により一対の板材を接合した場合の継手を示す断面図である。
図13図13は、図12のAの部分を拡大して示す図である。
図14図14は、ルートフローを有する継手に対して、裏曲げ試験を実施した場合の不良の発生を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0032】
[摩擦撹拌接合用工具]
図1は、本発明の実施形態に係る摩擦撹拌接合用工具を示す斜視図である。また、図2は、図1における摩擦撹拌接合用工具の先端形状を拡大して示す斜視図である。図1に示すように、摩擦撹拌接合用工具10は、回転駆動用モータ17により回転可能に支持された回転部11と、回転部11の先端に、回転部11と同軸に固定された円柱形状のプローブ12と、回転部11を支持する本体部18と、を有する。
【0033】
また、図2に示すように、プローブ12は、後述する被接合材の上面に線状で当接する4本の当接部13と、各当接部13からプローブ12の軸Sに対して略平行に延びる壁面14と、壁面14に連続して形成され、壁面14から離隔する方向に延びる連続面15と、を有する。
【0034】
連続面15は、プローブ12の先端から最も離隔した位置に離隔部15aを有し、離隔部15aから隣り合う当接部13に向かって、先端に近づくように傾斜しているとともに、プローブ12の径中心方向に向かって、先端に近づくように傾斜している。本実施形態において、離隔部15aは、壁面14と連続面15との境界線14a上であって、プローブ12の最も外径側に位置している。
【0035】
なお、線状の当接部13は、プローブ12の先端における略中心から径方向端部に直線状に延びており、当接部13から延びる連続面15は、平面状となっている。なお、当接部13は、プローブ12の先端における中心を通っていることが好ましいが、厳密に中心である必要はなく、略中心を通っていればよい。また、壁面14は、プローブ12の軸Sに対して厳密に平行に延びているものである必要はなく、軸Sに対して略平行であればよい。
【0036】
上記のように構成された摩擦撹拌接合用工具10を用いて、一対のアルミニウム合金板(板材)の突合せ部を接合する方法について、以下に簡単に説明する。なお、図3において、プローブの先端形状は具体的な記載を省略している。
図3に示すように、まず、被接合材である一対のアルミニウム合金板1,2を、その端面同士が対向するように突き合わせて配置し、突合せ部16を形成する。次に、回転部11を回転させつつ、プローブ12を突合せ部16の上面(一方の面)16aに向かって押し当てることにより、プローブ12を突合せ部に16に圧入する。
その後、プローブ12を回転させながら、摩擦撹拌接合用工具10を突合せ部16に沿って図3に示す矢印Yの方向に移動させる。
【0037】
このとき、突合せ部16に圧入されているプローブ12の周囲は、摩擦熱により加熱されて塑性流動が生じる。そして、プローブ12を突合せ部16に沿って移動させることにより、プローブ12の進行方向に沿ってアルミニウム合金板1,2が塑性流動し、アルミニウム合金板1とアルミニウム合金板2とが、突合せ部16において接合される。
【0038】
本実施形態においては、上述のとおり、プローブ12の先端における4本の当接部13の間に、壁面14及び連続面15からなる溝が形成されている。また、離隔部15aから、プローブ12の円周方向に隣り合う当接部13に向かって、また、プローブ12の同軸円周方向に沿って、先端に近づくように傾斜した連続面15が形成されている。そして、この連続面15は、プローブ12の径中心に向かう方向にも、先端に近づくように傾斜している。
【0039】
このように、連続面15が傾斜しているとともに、壁面14がプローブ12の軸Sに対して平行に延びていると、プローブ12の回転に伴って、塑性流動した物質(材料)が連続面15に沿って移動した後、壁面14に衝突し、プローブ12の先端方向に移動する。これにより、プローブ12の回転により撹拌される撹拌領域のうち、特に先端側の撹拌領域を広げることができる。その結果、突合せ部16の裏面側に、未接合のルートフローが発生することを防止することができる。
【0040】
なお、本実施形態においては、線状の当接部13は、プローブ12の先端の中心から径方向端部に直線状に延びているが、当接部13は、プローブの回転方向に凸状となるように湾曲していても、回転方向とは反対の方向に凸状となるように湾曲していてもよい。なお、当接部は面状であってもよく、面状の当接部と壁面との間の稜線においても、プローブの回転方向に凸状となるように湾曲していても、回転方向とは反対の方向に凸状となるように湾曲していてもよい。線状の当接部13又は面上の当接部と壁面との間の稜線は、プローブの回転方向に凸状となるように湾曲しているよりも、直線状である方が撹拌効果を高めることができ、さらに、プローブの回転方向とは反対の方向に凸状となるように湾曲していると、より一層撹拌効果を高めることができる。ただし、プローブ12を加工する際の加工性の観点から、線状の当接部13又は稜線が略直線状であることが好ましい。
【0041】
なお、本発明において、連続面15は、離隔部15aからプローブ12の同軸円周方向に沿って、また、径中心方向の両方に向かって先端面に近づくように形成される必要はない。プローブ12の他の形状例について、図4図6を用いて以下に説明する。
【0042】
図4に示すプローブ32は、被接合材の上面に面状に当接する4つの当接部33と、各当接部33からプローブ32の軸に対して略平行に延びる壁面34と、壁面34に連続して形成され、壁面34から離隔する方向に延びる連続面35と、を有する。当接部33と壁面34との間の稜線33aは直線状であり、壁面34は平面状に形成されている。また、連続面35は、プローブ32の先端から最も離隔した位置に離隔部35aを有する。
【0043】
図4に示す本実施形態において、連続面35は、壁面34に連続して形成され、隣り合う当接部33に到達するまでの全面を示す。また、離隔部35aは、壁面34におけるプローブ32の最も外周面側から、プローブ32の外周面に沿って延びる線状の部分を示す。連続面35は、離隔部35aからプローブ32の径中心方向に向かって、先端に近づくように傾斜している。また、連続面35は、離隔部35aからプローブ32の同軸円周方向に沿って、先端側に段階的に近づく階段形状を有している。
【0044】
また、図5に示すプローブ42においても、前述のプローブ32と同様に、被接合材の上面に面状に当接する4つの当接部43と、各当接部43からプローブ42の軸に対して略平行に延びる壁面44と、壁面44に連続して形成され、壁面44から離隔する方向に延びる連続面45と、を有する。当接部43と壁面44との間の稜線43aは直線状であり、壁面44は平面状に形成されている。
【0045】
図5に示す本実施形態において、連続面45は、壁面44に連続して形成され、隣り合う当接部43に到達するまでの全面を示す。また、連続面45は、プローブ42の先端から最も離隔した位置に、軸に直交する平面状の離隔部45aを有する。本実施形態において、連続面45は、プローブ42の径方向端部から径中心方向に向かって傾斜していない。ただし、連続面45は、離隔部45aからプローブ42の同軸円周方向に沿って、プローブ42の先端側に段階的に近づく螺旋階段形状を有している。
【0046】
さらに、図6に示すプローブ52は、被接合材の上面に面状に当接する4つの当接部53と、各当接部53からプローブ52の軸に対して略平行に延びる壁面54と、壁面54に連続して形成され、壁面54から離隔する方向に延びる連続面55と、を有する。当接部53と壁面54との間の稜線53aは直線状であり、壁面54は平面状に形成されている。また、連続面55は、プローブ52の先端から最も離隔した位置に離隔部55aを有する。
【0047】
図6に示す本実施形態において、離隔部55aは、壁面54におけるプローブ52の最も外周面側から、プローブ52の外周面に沿って延びる線状の部分を示す。そして、連続面55は、離隔部55aからプローブ52の径中心方向に向かって、プローブ52の先端に近づくように傾斜している。なお、連続面55は、壁面54と連続面55との境界線から、プローブ32の同軸円周方向に沿って、傾斜していない。
【0048】
このように、プローブが壁面と連続面とからなる凹部(溝)を有し、離隔部を起点として、連続面が同軸円周方向に沿って、又は径中心方向に向かって先端に近づくように形成されていることより、撹拌効果は著しく向上し、撹拌領域を広げることができる。
【0049】
なお、図2及び図4図6に示すように、連続面は、プローブの同軸円周方向に沿って、プローブの先端に近づくように形成されていてもよいし、プローブの径中心方向に向かってのみ先端に近づくように形成されていてもよい。また、連続面は、傾斜面ではなく、先端に段階的に近づく階段形状であってもよい。さらに、離隔部は点状、線状及び面状のいずれの形状であってもよい。また、当接部は少なくとも1つ存在すればよいが、複数の当接部を有することが、撹拌効率を向上させることができるため好ましい。
【0050】
[摩擦撹拌接合方法]
次に、本実施形態に係る摩擦撹拌接合方法について、図面を用いて具体的に説明する。
本実施形態に係る摩擦撹拌接合方法は、上記摩擦撹拌接合用工具を用いて、一対の板材を接合する方法である。具体的には、図3及び図7に示すように、まず、一対のアルミニウム合金板(板材)1,2を、その端面同士が対向するように突き合わせて配置し、突合せ部16を形成する。次に、アルミニウム合金板1,2の板厚T1から、プローブ12の長さT2を減じた部分の残厚T3が0(mm)超となるように、すなわち、プローブ12の先端が突合せ部16における裏面(他方の面)16b側に到達しないように、プローブ12の長さT2を設定する。
【0051】
次に、プローブ12を回転させつつ、突合せ部16における上面(一方の面)16a側から押圧し、プローブ12を突合せ部に16に圧入する。その後、プローブ12を回転させた状態を保持しながら、摩擦撹拌接合用工具10を突合せ部16に沿って移動させる。このとき、プローブ12の回転により、プローブ12の下方及び周辺部に、微細な粒子からなる撹拌領域が形成される。本実施形態においては、撹拌領域が、突合せ部16における裏面(他方の面)16b側に到達するように、突合せ部16を摩擦撹拌する。
【0052】
プローブ12の先端が、突合せ部16における裏面16b側に到達しないようにするとともに、撹拌領域が、裏面16b側に到達するように、摩擦撹拌する方法としては、プローブ12の長さT2及び回転速度を調整する方法が挙げられる。上記のような方法で摩擦撹拌接合を実施することにより、突合せ部16の裏面16b側に、未接合のルートフローが発生することを防止することができる。
【0053】
なお、本実施形態に係る摩擦撹拌接合方法は、突合せ継手の接合時に未接合のルートフローが発生することを防止することができるが、継手形状は突合せ継手の接合に限定されず、重ね継手の接合等にも適用することができる。重ね継手の接合の場合には、もともとルートフローの接合不良が発生するおそれはないが、本実施形態によると、撹拌領域がプローブの先端方向に広がるため、深い位置まで撹拌領域を形成することができ、より高強度の継手を得ることができる。
【0054】
[摩擦撹拌接合継手]
次に、本実施形態に係る上記摩擦撹拌接合方法により得られる摩擦撹拌接合継手について、説明する。
図8に示すように、上記摩擦撹拌接合方法により、突合せ部16が延びる方向に直交する断面には、撹拌領域19が形成されている。撹拌領域19は、アルミニウム合金板1,2を構成する粒子よりも微細な粒子により構成された領域を示す。
【0055】
突合せ部16が延びる方向に直交する断面において、撹拌領域19は、アルミニウム合金板1,2の厚さ方向に直交する方向を長径Rwとし、突合せ部16の裏面16bに向かって突出する円弧60aを有する半楕円形状部60を有し、突合せ部16の上面16aに近づくにしたがって広がった形状となっている。また、図8では、便宜上、円弧60aは突合せ部16の裏面16b側に到達していないが、上述のとおり、本実施形態に係る摩擦撹拌接合方法によると、撹拌領域19が裏面16b側に到達するように、摩擦撹拌するため、円弧60aは突合せ部16の裏面16b側に到達する。
【0056】
なお、撹拌領域19と裏面16bとの距離をH(mm)とするとき、円弧60aが突合せ部16の裏面16b側に到達していない状態を、H>0とする。また、円弧60aの最下端が突合せ部16の裏面16bとちょうど重なった状態、及び円弧60aの最下端が突合せ部16の裏面16bで切れた状態を、H≦0とする。したがって、円弧60aが突合せ部16の裏面(他方の面)16b側に到達することは、H≦0であることを表す。
【0057】
さらに、本実施形態に係る摩擦撹拌接合用工具10は、プローブ12の先端形状に特徴を有しており、従来の摩擦撹拌接合用工具と比較して、プローブ12の回転により撹拌される撹拌領域19のうち、特に先端側の撹拌領域を広げることができる。したがって、上記半楕円形状部60に基づき、楕円61を想定した場合に、楕円61の短径Rtに対する長径Rwの比(Rw/Rt)は、3.0以下であることが好ましい。
【0058】
図9は、図8に示す断面図の一部を拡大して示す図面代用写真である。断面における粒子の状態は、上記断面を電界エッチングし、粒界表面の特性を変化させた後、顕微鏡により観察することができる。図9に示すように、撹拌領域19における領域Bに存在する粒子Pは、アルミニウム合金板2における領域(撹拌領域19から離隔した領域)Aに存在する粒子Pと比較して、粒子の大きさが極めて小さいため、顕微鏡写真を目視することによっても確認することができる。本願明細書においては、上記断面を観察した場合に、アルミニウム合金板1,2を構成する粒子の平均粒子径の1/2以下の平均粒子径を有する領域を、撹拌領域19としている。
【0059】
アルミニウム合金板1,2そのものを構成する領域と、撹拌領域19との境界線は、例えば、以下のようにして設定することができる。先ず、目視により仮の境界線62を設定し、仮の境界線62に直交する方向に延びる補助線63を作成する。次に、補助線63内であって、突合せ部16から十分に離隔した位置において、単位長さ(例えば200μm)あたりに存在する粒子の個数、すなわち、アルミニウム合金板1,2を構成する粒子の個数を計測する。そして、単位長さを個数で除することにより、アルミニウム合金板1,2を構成する粒子Pの平均粒子径を算出する。
【0060】
その後、補助線63内において、測定位置を撹拌領域19に近づけ、同様に、単位長さあたりに存在する粒子の個数から、その位置における粒子の平均粒子径を算出する。そして、得られた平均粒子径がアルミニウム合金板1,2を構成する粒子Pの平均粒子径の1/2以下となった時点で、その単位長さの中央を境界点に設定する。
その後、異なる位置で仮の境界線と補助線とを作成し、同様の方法により複数の境界点を設定して、これらを繋ぎ合わせることにより、アルミニウム合金板1,2そのものを構成する領域と、撹拌領域19との境界線を設定することができ、図8に示す半楕円形状部60における円弧60aを作図することができる。
【実施例
【0061】
以下、本実施形態に係る発明例及び比較例を挙げて、本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0062】
<摩擦撹拌接合>
発明例として、図2に示す形状のプローブ12を有する摩擦撹拌接合用工具10を準備するとともに、比較例として、先端が平面であるプローブを有する摩擦撹拌接合用工具を準備し、それぞれの工具を使用して、図3に示す摩擦撹拌接合方法を用いて摩擦撹拌接合を実施した。具体的には、一対のアルミニウム合金板1,2を、その端面同士が対向するように突き合わせて配置し、突合せ部16を形成した。次に、回転部11を回転させつつ、プローブ12を突合せ部16の上面16aに向かって押し当てることにより、プローブ12を突合せ部に16に圧入した。なお、プローブ12の長さを種々に変更して、残厚T3を変化させた。
その後、プローブ12を回転させながら、摩擦撹拌接合用工具10を突合せ部16に沿って図3に示す矢印Yの方向に移動させることにより、継手を得た。
【0063】
<接合部の評価>
(裏曲げ試験)
突合せ部16における裏面16b側が凸状となるように、図14に示すような裏曲げ試験を実施し、ルートフローの有無を観察した。接合時の条件及び評価方法を以下に示す。また、裏曲げ試験後の継手の様子を図10に示す。
【0064】
摩擦撹拌接合用工具:発明例(図2に示す形状のプローブ12)、比較例(先端が平面であるプローブ)
工具の移動速度:1.0m/分
回転部の回転数:2000rpm
被接合材:アルミニウム合金板 AA5182-O
被接合材の板厚T1:2.3mm
残厚T3:0.3mm,0.2mm,0.1mm
評価方法:裏曲げ試験(角度 90°、曲げ半径 2.5mm)
【0065】
(撹拌領域の観察)
また、上記接合方法と同様の条件により、摩擦撹拌接合継手を形成し、突合せ部16が延びる方向に直交する断面に対して、電解エッチングした後、その断面を顕微鏡により観察した。各摩擦撹拌接合継手の断面における撹拌領域を図11に示す。なお、図10及び図11において、発明例とは、本発明の実施形態に係る摩擦撹拌接合用工具を用いた例を示す。
【0066】
(撹拌領域の大きさ及び裏面からの距離の測定)
図11に示す各試験片の断面を観察し、図8に示すように、目視により半楕円形状部60の円弧60aを作図するとともに、半楕円形状部60に基づいて想定される楕円61を作図し、得られた楕円61の短径Rt及び長径Rwを測定した。また、楕円の短径Rtに対する長径Rwの比(Rw/Rt)を算出した。さらに、撹拌領域19と裏面16bとの距離Hを測定した。なお、撹拌領域19と裏面16bとの距離Hとは、突合せ部16における裏面16bと、撹拌領域19における最も裏面に近い位置(円弧60aの最も突出した位置)との間の距離を示す。測定結果及び算出結果を下記表1に示す。
【0067】
(粒子径の測定)
発明例No.2について、図11における発明例No.2及びその拡大図である図9に基づき、撹拌領域内(図9に示す領域B)における粒子の平均粒子径と、撹拌領域から離隔した領域(図9に示す領域A)における粒子の平均粒子径とを比較した。
なお、平均粒子径は、各領域において任意の3つの粒子を選択し、各粒子の粒子径を計測することにより算出した。発明例の各試験片の粒子径及び平均粒子径を下記表2に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
上記表2に示すように、撹拌領域における平均粒子径は、アルミニウム合金板における粒子の平均粒子径の1/2以下となっていた。また、図10図11及び上記表1に示すように、全ての試験片において、アルミニウム合金板における粒子の平均粒子径の1/2以下である平均粒子径を有し、半楕円形状部を有する撹拌領域を観察することができた。特に、発明例No.3の試験片については、ルートフローが形成されず、裏曲げ試験で優れた結果を得ることができた。
【0071】
なお、比較例No.1~3並びに発明例No.1及び2は、図10中に矢印で示す箇所にルートフローが形成されたが、ルートフローの元となる撹拌領域と裏面との距離Hは、いずれの残厚で比較しても、発明例の方が小さくなった。これは、Rw/Rtの結果からも示されるように、発明例の方が、Rw/Rtの値が3.0以下であって、比較例と比較して小さい値となっており、撹拌領域がプローブの先端側に広がっていることを意味している。すなわち、本発明に係る摩擦撹拌接合用工具を使用することにより、残厚が0mm超であっても、撹拌領域の円弧を裏面側に到達させることができ、ルートフローの発生を抑制しやすくすることができた。
【符号の説明】
【0072】
10 摩擦撹拌接合用工具
11 回転部
12 プローブ
13 当接部
14 壁面
14a 境界線
15 連続面
15a 離隔部
S 軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14