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  • 特許-樹脂組成物、及び接着構造体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】樹脂組成物、及び接着構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/50 20060101AFI20240827BHJP
   C09J 5/06 20060101ALI20240827BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20240827BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20240827BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C08G59/50
C09J5/06
C09J163/00
B32B7/12
B32B27/38
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021509140
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011845
(87)【国際公開番号】W WO2020196118
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2019065066
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】新田 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】田中 亜樹子
(72)【発明者】
【氏名】保井 淳
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-195767(JP,A)
【文献】特開2003-045831(JP,A)
【文献】特開平10-338553(JP,A)
【文献】特開2018-104683(JP,A)
【文献】特開2013-256637(JP,A)
【文献】特開2002-306356(JP,A)
【文献】特開昭63-211796(JP,A)
【文献】特開2011-026443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/50
C09J 5/06
C09J 163/00
B32B 7/12
B32B 27/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、潜在性硬化剤とを含む樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂は、水酸基を含有し、かつ水溶率が65%以上の脂肪族エポキシ樹脂を含み、
前記潜在性硬化剤は、45℃以上120℃以下の反応開始温度を有し、
前記潜在性硬化剤がアミン系化合物であり、
ただし、前記潜在性硬化剤はマイクロカプセル型の潜在性硬化剤ではなく、
ここで、前記反応開始温度は下記のとおり測定される、
樹脂組成物。
<反応開始温度の測定方法>
エポキシ当量160~170g/eq、粘度1500~2500mPa・s/25℃のビスフェノールF型エポキシ樹脂100質量部に潜在性硬化剤20質量部混合した樹脂組成物約5mgを、温度変調DSCを用いて、50mL/minの窒素雰囲気下で昇温速度2℃/minにて、樹脂組成物のHeat Flow挙動を得る。その際のHeat Flow挙動が立ち上がる温度である発熱開始温度を、潜在性硬化剤の反応開始温度とする。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂は、前記脂肪族エポキシ樹脂を5~90質量%含有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂100質量部に対して前記潜在性硬化剤を15~40質量部含有する、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
JIS G3141で規定するSPCCの表面に塗布し、その塗布面上に別のSPCCを重ね合わせ80℃で30分加熱して、2枚のSPCCを接着させた後、SPCCの長さ方向に5mm/分で引っ張り、剥離した際の剪断接着力が10MPa以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる樹脂組成物層を第1被着体上に配置する工程(1)、
第2被着体を前記第1被着体の前記樹脂組成物層を配置した側に接触させる工程(2)、及び、
前記樹脂組成物層を70℃以上150℃以下で加熱硬化させる工程(3)
を含む、接着構造体の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂組成物層を以下(1)~(5)のいずれかの加熱条件で硬化させる、請求項5に記載の接着構造体の製造方法。
(1)70℃以上80℃未満の温度で30~120分加熱する
(2)80℃以上90℃未満の温度で20~100分加熱する
(3)90℃以上100℃未満の温度で10~60分加熱する
(4)100℃以上120℃未満の温度で10~40分加熱する
(5)120℃以上150℃未満の温度で5~30分加熱する
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、及び接着構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレクトロニクス産業において、電子デバイス中の多くの構成要素を機械的に接着するために、半構造用接着剤が用いられている。
【0003】
半構造用接着剤を用いて電子デバイス中の構成要素を接着すると、高い硬化活性化温度が電子デバイス中の繊細な部品を損傷するという問題があった。
【0004】
上記問題に対して、比較的低温度で硬化可能な接着剤や接着テープが検討されてきている。例えば、特許文献1では、エポキシテープが備える硬化剤層に、低温で活性化する潜在性硬化剤を含有させることにより、低温での硬化を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特表2013-538271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献に記載のエポキシテープは低温硬化が可能であるものの、硬化剤層に用いる硬化組成物の保存性は十分ではなかった。そのため、当該組成物の調製後に長時間保管するような場合は、当該組成物の流動性が失われてしまい、使用上問題があった。
【0007】
そこで本発明は、保存性が高く、低温で硬化可能であり、かつ接着力の高い樹脂組成物、および、当該組成物を用いた接着構造体の製造方法を提供することを一つの課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、硬化剤として特定の反応開始温度を有する潜在性硬化剤を使用するとともに、特定のエポキシ樹脂を用いることにより、保存性が高く、低温で硬化可能であり、かつ接着力の高い樹脂組成物を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の一実施形態は、エポキシ樹脂と潜在性硬化剤とを含む樹脂組成物であって、エポキシ樹脂は水酸基を含有し、かつ水溶率が65%以上の脂肪族エポキシ樹脂を含み、潜在性硬化剤は45℃以上120℃以下の反応開始温度を有する、樹脂組成物に関する。
【0010】
本発明の一実施形態において、上記エポキシ樹脂は、上記脂肪族エポキシ樹脂を5~90質量%含有することが好ましい。
【0011】
本発明の一実施形態において、樹脂組成物が含有する上記潜在性硬化剤がアミン系化合物であることが好ましい。
【0012】
本発明の一実施形態において、樹脂組成物は、エポキシ樹脂100質量部に対して上記潜在性硬化剤を15~40質量部含有することが好ましい。
【0013】
本発明の一実施形態において、樹脂組成物は、JIS G3141で規定するSPCCの表面に塗布し、その塗布面上に別のSPCCを重ね合わせ80℃で30分加熱して、2枚のSPCCを接着させた後、SPCCの長さ方向に5mm/分で引っ張り、剥離した際の剪断接着力が10MPa以上であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の一実施形態は、上記樹脂組成物からなる樹脂組成物層を第1被着体上に配置する工程(1)、第2被着体を第1被着体の上記樹脂組成物層を配置した側に接触させる工程(2)、及び、上記樹脂組成物層を70℃以上150℃以下で加熱硬化させる工程(3)を含む、接着構造体の製造方法に関する。
【0015】
本発明の一実施形態において、接着構造体の製造方法では、樹脂組成物層を以下(1)~(5)のいずれかの加熱条件で硬化させることが好ましい。
(1)70℃以上80℃未満の温度で30~120分加熱する
(2)80℃以上90℃未満の温度で20~100分加熱する
(3)90℃以上100℃未満の温度で10~60分加熱する
(4)100℃以上120℃未満の温度で10~40分加熱する
(5)120℃以上150℃未満の温度で5~30分加熱する
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、保存性が高く、低温で硬化可能であり、かつ接着力の高い樹脂組成物を提供できる。また、当該組成物は長時間保存後であっても、被着体同士が強固に接着された接着構造体を製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る接着構造体の製造方法において、第1被着体2上に樹脂組成物層1を配置した状態を示す図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る接着構造体の製造方法において、第1被着体2上に樹脂組成物層1を配置し、さらにその上に第2被着体3を配置した後、樹脂組成物層1を加熱硬化して得られる接着構造体10を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
本明細書において、範囲を示す「A~B」は、「A以上B以下」を意味する。また、本明細書において、「質量%」は「重量%」と同義とし、「質量部」は「重量部」と同義として扱う。
本明細書において、単に「エポキシ樹脂」という場合は、本発明における「脂肪族エポキシ樹脂」と「脂肪族エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂」とを総称していうものとする。
【0019】
[樹脂組成物]
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、エポキシ樹脂と潜在性硬化剤とを含み、上記エポキシ樹脂は水酸基を含有し、かつ水溶率が65%以上の脂肪族エポキシ樹脂を含み、上記潜在性硬化剤は、45℃以上120℃以下の反応開始温度を有することを特徴とする。
【0020】
上記樹脂組成物は、硬化剤として45℃以上120℃以下の反応開始温度を有する潜在性硬化剤を使用することにより低温で硬化が可能となる。さらに、上記樹脂組成物は、水酸基を含有しかつ水溶率が65%以上の脂肪族エポキシ樹脂を含むことによって、高い保存性を備えつつ、硬化時に高い接着力を付与することができる。すなわち、本実施形態の樹脂組成物は、例えば、被着体同士を接着するための接着剤組成物として有用である。
以下、上記樹脂組成物が含有する各成分について詳細に説明する。
【0021】
<エポキシ樹脂>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物はエポキシ樹脂を含有する。
本発明の実施形態におけるエポキシ樹脂は、水酸基を含有し、かつ水溶率が65%以上の脂肪族エポキシ樹脂を含むことが重要である。これにより樹脂組成物は、その流動性を長時間維持することができ、保存性を高めることができる。これは、脂肪族エポキシ樹脂が水酸基を含有することにより、硬化剤との相溶性が低下するためであると推測される。また、脂肪族エポキシ樹脂の水溶率が65%以上であることにより、水酸基量の増加によってより硬化剤との相溶性が低下し、加熱するまでは反応が起こらないためであると推測される。また、脂肪族エポキシ樹脂の柔軟な骨格により、硬化時の接着力を高めることができる。但し、本開示はこれらのメカニズムに限定されるものではない。
【0022】
水酸基を含有する脂肪族エポキシ樹脂は、一分子中に少なくとも1つの水酸基を有する。その種類は特に制限されず、例えば、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、及びシクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0023】
本発明の実施形態における水溶率が65%以上の脂肪族エポキシ樹脂は、上記水酸基を含有する脂肪族エポキシ樹脂の中から「水溶率が65%以上」のものを選択して使用すればよい。
エポキシ樹脂の水溶率とは、常温で水90質量部にエポキシ基を1つ以上有する化合物10質量部を溶解したときの溶解率をいい、以下の式で示される。
水溶率(%)=(1-不溶分エポキシ量/エポキシ全重量)×100
【0024】
脂肪族エポキシ樹脂の水溶率は65%以上であり、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0025】
水酸基を含有し、かつ水溶率が65%以上の脂肪族エポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂全量に対して、5~90質量%であることが好ましい。より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上である。また、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。上記脂肪族エポキシ樹脂の含有量が上記範囲であることによって、より高い保存性と、硬化時の高い接着力を得ることができる。
【0026】
本発明の実施形態におけるエポキシ樹脂は、上記脂肪族エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を含有しうる。すなわち、例えば水酸基を含有しない脂肪族エポキシ樹脂や、脂環式エポキシ樹脂、芳香族エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0027】
水酸基を含有しない脂肪族エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,4-シクロヘキサンジグリシジルエーテル、1,3-シクロヘキサンジグリシジルエーテル、1,2-シクロヘキサンジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロテレフタル酸ジグリシジルエステル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、及び1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
脂環式エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、脂環式アルコール(特に、脂環式多価アルコール)のグリシジルエーテルが挙げられる。より詳しくは、例えば、水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、水素化ビスフェノールF型エポキシ化合物、水素化ビフェノール型エポキシ化合物、水素化フェノールノボラック型エポキシ化合物、及び水素化クレゾールノボラック型エポキシ化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
芳香族エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビフェノール型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、及びクレゾールノボラック型エポキシ化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
好ましくは、硬化性の観点から、ビスフェノール系エポキシ化合物、より好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ化合物及びビスフェノールF型エポキシ化合物が挙げられる。
【0031】
本発明の実施形態におけるエポキシ樹脂は、常温で、液状、半固形状および固形状のいずれの形態であってもよい。
【0032】
エポキシ樹脂の配合割合は、樹脂組成物全量に対して、例えば、40質量%以上、好ましくは、50質量%以上である。また、例えば、100質量%以下、好ましくは、70質量%以下である。エポキシ樹脂の配合割合が上記範囲であることによって、より簡便かつ強固な接着が可能となる。
【0033】
なお、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、エポキシ樹脂以外の樹脂も含有させることができる。例えば、シリコーン化合物、及びポリプロピレングリコ-ルなどのポリオール化合物、ウレタン樹脂、及びアクリル樹脂などが挙げられる。
【0034】
<潜在性硬化剤>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は潜在性硬化剤を含有する。
潜在性硬化剤とは、常温(具体的には25℃)で固形状であり、所定温度で活性化しエポキシ樹脂と相溶してエポキシ樹脂を硬化する硬化剤をいう。特に本発明の実施形態において潜在性硬化剤は、45℃以上120℃以下の温度範囲で活性を開始することを特徴とする。すなわち、かかる潜在性硬化剤は、45℃以上120℃以下の反応開始温度を有する。潜在性硬化剤の反応開始温度が上記範囲であることにより、樹脂組成物の調製時や保管時に硬化が始まってしまうことを防ぎつつ、硬化させる際には比較的低温で反応を進めることができる。
【0035】
本発明の実施形態における潜在性硬化剤は、120℃以下の反応開始温度を有し、100℃以下の反応開始温度を有するものがより好ましい。また、45℃以上の反応開始温度を有し、50℃以上の反応開始温度を有するものが好ましい。
【0036】
本発明の実施形態における潜在性硬化剤の反応開始温度は、例えば、以下の方法により測定できる。
ビスフェノールF型エポキシ(jER806、三菱ケミカル社製)100質量部に潜在性硬化剤を20質量部混合した樹脂組成物をアルミニウム製のクローズセルに約5mg秤量する。次いで、温度変調DSC(商品名「Q-2000」、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて、50mL/minの窒素雰囲気下で昇温速度2℃/minにて、樹脂組成物のHeat Flow挙動を得る。その際のHeat Flow挙動が立ち上がる温度である発熱開始温度を、潜在性硬化剤の反応開始温度とする。
【0037】
本発明の実施形態における潜在性硬化剤は、上記活性温度条件をみたす限り、その種類は特に制限されない。例えば、アミン系化合物、尿素系化合物、アミド系化合物、ジヒドラジド系化合物、イミダゾール系化合物、及びイミダゾリン系化合物などが挙げられる。
【0038】
アミン系化合物としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、又はトリエチレンテトラミンアミンアダクが挙げられる。
【0039】
尿素系化合物としては、例えば、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素(DCMU)、及びN’-フェニル-N,N-ジメチル尿素、1、1’-(メチル-m-フェニレン)ビス(3,3’-ジメチル尿素)などが挙げられる。
【0040】
このような尿素系化合物のなかでは、好ましくは、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素(DCMU)が挙げられる。
【0041】
アミド系化合物としては、例えば、ポリアミドなどが挙げられる。
【0042】
ヒドラジド系化合物としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジドなどのジヒドラジドなどが挙げられる。
【0043】
イミダゾール系化合物としては、例えば、メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、エチルイミダゾール、イソプロピルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、フェニルイミダゾール、ウンデシルイミダゾール、ヘプタデシルイミダゾール、及び2-フェニル-4-メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0044】
イミダゾリン系化合物としては、例えば、メチルイミダゾリン、2-エチル-4-メチルイミダゾリン、エチルイミダゾリン、イソプロピルイミダゾリン、2,4-ジメチルイミダゾリン、フェニルイミダゾリン、ウンデシルイミダゾリン、ヘプタデシルイミダゾリン、及び2-フェニル-4-メチルイミダゾリンなどが挙げられる。
【0045】
このような潜在性硬化剤は、単独で使用してもよく、あるいは、併用することもできる。
【0046】
このような潜在性硬化剤のなかでは、好ましくは、アミン系化合物が挙げられる。
【0047】
このような潜在性硬化剤の配合割合は、上記エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば15~40質量部、好ましくは20~35質量部、より好ましくは20~30質量部である。上記範囲であることによって保管時に硬化が始まってしまうことを防ぎつつ、硬化させる際には比較的低温で反応を進めることができる。
【0048】
<その他成分>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物には、硬化層の弾性率の調整等を目的として、シリカ、マイカ、及び炭酸カルシウム等の充填材を配合することもできる。充填材の配合量は特に限定されないが、例えば、樹脂組成物100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは、10質量部以上である。また、例えば、100質量部以下、好ましくは、80質量部以下である。
【0049】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、後述する剪断接着力が10MPa以上であることが好ましい。すなわち、JIS G3141で規定するSPCCの表面に塗布し、その塗布面上に別のSPCCを重ね合わせ80℃で30分加熱して、2枚のSPCCを接着させた後、SPCCの長さ方向に5mm/分で引っ張り、剥離した際の剪断接着力が10MPa以上であることが好ましい。剪断接着力は、12MPa以上がより好ましく、15MPa以上がさらに好ましい。
【0050】
[接着構造体の製造方法]
本発明の一実施形態に係る接着構造体の製造方法は、上記本発明の実施形態に係る樹脂組成物からなる樹脂組成物層を第1被着体上に配置する工程(1)、第2被着体を第1被着体の上記樹脂組成物層を配置した側に接触させる工程(2)、及び上記樹脂組成物層を70℃以上150℃以下で加熱硬化させる工程(3)を含む。
以下、各工程について説明する。
【0051】
<本発明の実施形態に係る樹脂組成物からなる樹脂組成物層を第1被着体上に配置する工程(1)>
図1に示すように樹脂組成物からなる樹脂組成物層1を第1被着体2上に配置するには、例えば、樹脂組成物1を第1被着体2上に塗布し、塗膜を形成すればよい。
【0052】
ここで、樹脂組成物からなる塗膜(未乾燥の樹脂組成物層)の厚みは、例えば、50μm以上、好ましくは100μm以上、より好ましくは200μm以上である。また、例えば、2000μm以下、好ましくは1000μm以下、より好ましくは700μm以下である。特に良好な硬化性と、硬化後の高い接着性を両立するためには、塗膜の厚みは、100~700μmであることが好ましい。
【0053】
第1被着体2としては、特に制限はなく、例えば、金属、ガラス、プラスチック、スレート、モルタル、コンクリート、ゴム、木材、皮、布、及び紙などが挙げられる。第1被着体2として、好ましくは、スレート、モルタル、及びコンクリートが挙げられる。
【0054】
以上のようにして、図1に示すように、樹脂組成物層1を第1被着体2上に配置する。
【0055】
<第2被着体を第1被着体の樹脂組成物層を配置した側に接触させる工程(2)>
本工程では、上記工程(1)で第1被着体に配置した樹脂組成物層に対し、その樹脂組成物層を配置した側に第2被着体を接触させる。第2被着体を第1被着体の樹脂組成物層を配置した側に接触させる方法は特に制限されず、任意の方法を採用できる。
第2被着体3を第1被着体2の樹脂組成物層1を配置した側に接触させる前後において、反応温度は、例えば常温である。
【0056】
第2被着体3としては、特に制限されないが、第1被着体2について例示した被着体と同様のものが例示される。
【0057】
<樹脂組成物層を70℃以上150℃以下で加熱硬化させる工程(3)>
本工程では、上記工程(2)において、樹脂組成物層1を介して第1被着体2及び第2被着体3を配置した後、樹脂組成物層1を加熱硬化することによって、第1被着体2及び第2被着体3が強固に接着され、図2に示される接着構造体10となる。
【0058】
本発明の実施形態における樹脂組成物は、45℃以上120℃以下の反応開始温度を有する潜在性硬化剤を含むため、当該組成物からなる樹脂組成物層は、比較的低温で硬化させることができる。
【0059】
樹脂組成物層を加熱硬化する際の温度は70℃以上150℃以下である。好ましくは75℃以上、より好ましくは80℃以上である。また、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下である。
【0060】
また、反応時間は、上記温度によって異なるが、例えば5~120分、好ましくは10~60分、より好ましくは20~40分である。
【0061】
具体的には、以下(1)~(5)のいずれかの加熱条件で硬化させることが好ましい。
(1)70℃以上80℃未満の温度で30~120分加熱する。より好ましくは40~100分加熱する。
(2)80℃以上90℃未満の温度で20~100分加熱する。より好ましくは25~90分加熱する。
(3)90℃以上100℃未満の温度で10~60分加熱する。より好ましくは15~45分加熱する。
(4)100℃以上120℃未満の温度で10~40分加熱する。より好ましくは15~30分加熱する。
(5)120℃以上150℃未満の温度で5~30分加熱する。より好ましくは10~20分加熱する。
【0062】
以上のようにして製造される接着構造体において、樹脂組成物層1の剪断接着力は、好ましくは10MPa以上、より好ましくは12MPa以上、さらに好ましくは15MPa以上である。樹脂組成物層1の剪断接着力が、10MPa以上であれば、樹脂組成物層1は、接着性に優れ、第1被着体2と第2被着体3とを確実に接着しやすくすることができるため、好ましい。
【0063】
樹脂組成物層1の剪断接着力は、以下の方法により測定される。
幅25mm×長さ100mm×厚み1.6mmのSPCC(JIS G3141)の先端に樹脂組成物を塗布する。塗布面積は幅25mm×長さ10mmであり、厚みは0.5mmのスペーサーを設置して確保する。もう一方のSPCCを重ね合わせて、クリップで固定した後、硬化させる。こうして得られた試験片を、引張試験機AG-X(島津製作所製)にて、長さ方向に5mm/minで引っ張り、剥離した際の試験力を測定する。剪断接着力は以下の式により算出する。
剪断接着力(MPa)=試験力(N)/250mm
【実施例
【0064】
以下、本発明の実施の形態について、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0065】
(水溶率)
実施例および比較例に使用した脂肪族エポキシ樹脂の水溶率は以下のようにして算出した。
水と脂肪族エポキシ樹脂を重量比90/10で混合し、一晩静置したのちに、不溶分を取り出し、重量を測定した。水溶率は以下の式で算出した。
水溶率(%)=(1-不溶分エポキシ量/エポキシ全重量)×100
【0066】
(保存性)
実施例および比較例で調製した樹脂組成物について、保存性の評価は以下の方法で実施した。すなわち、調製した樹脂組成物を常温で2週間保管し、流動性があるものを「〇」、流動性がないものを「×」とした。
【0067】
(剪断接着力)
実施例および比較例で調製した樹脂組成物の剪断接着力は以下の方法で実施した。
幅25mm×長さ100mm×厚み1.6mmのSPCC(JIS G3141)の先端に樹脂組成物を塗布した。塗布面積は幅25mm×長さ10mmであり、厚みは0.5mmのスペーサーを設置して確保した。もう一方のSPCCを重ね合わせて、クリップで固定し、表1に記載の硬化条件で硬化させた。こうして得られた試験片を、引張試験機AG-X(島津製作所製)にて、長さ方向に5mm/minで引っ張り、剥離した際の試験力を測定した。剪断接着力は以下の式により算出した。
剪断接着力(MPa)=試験力(N)/250mm
【0068】
(潜在性硬化剤の反応開始温度)
実施例および比較例で使用した潜在性硬化剤の反応開始温度は以下の方法で実施した。
ビスフェノールF型エポキシ(jER806、三菱ケミカル社製)100質量部に潜在性硬化剤を20質量部混合した樹脂組成物をアルミニウム製のクローズセルに約5mg秤量した。次いで、温度変調DSC(商品名「Q-2000」、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて、50mL/minの窒素雰囲気下で昇温速度2℃/minにて、樹脂組成物のHeat Flow挙動を得た。その際のHeat Flow挙動が立ち上がる温度である発熱開始温度を、潜在性硬化剤の反応開始温度とした。
【0069】
[樹脂組成物の調製]
(実施例1)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名「jER806」、三菱ケミカル社製)70質量部と、脂肪族エポキシ樹脂として、水酸基を有しかつ水溶率が70%であるグリセリンポリグリシジルエーテル(商品名「SR-GLG」、阪本薬品工業社製)30質量部と、潜在性硬化剤として、アミン化合物(商品名「フジキュア FXR-1020」、T&K TOKA社製)30質量部とを混合し、実施例1の樹脂組成物を調製した。なお、上記潜在性硬化剤の反応開始温度は、上記方法で測定した結果54℃であった。
【0070】
(実施例2)
脂肪族エポキシ樹脂として、水酸基を有しかつ水溶率が97%であるポリグリセリンポリグリシジルエーテル(商品名「SR-6GL」、阪本薬品工業社製)とした他は実施例1の樹脂組成物の調製と同様にして、実施例2の樹脂組成物を調製した。
【0071】
(実施例3)
脂肪族エポキシ樹脂として、水酸基を有しかつ水溶率が94%であるソルビトールポリグリシジルエーテル(商品名「EX-614B」、ナガセケムテックス社製)とした他は実施例1の樹脂組成物の調製と同様にして、実施例3の樹脂組成物を調製した。
【0072】
(実施例4)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂を30質量部とし、脂肪族エポキシ樹脂として、水酸基を有しかつ水溶率が99%であるポリグリセリンポリグリシジルエーテル(商品名「SR-4GL」、阪本薬品工業社製)70質量部とした他は実施例1の樹脂組成物の調製と同様にして、実施例4の樹脂組成物を調製した。
【0073】
(実施例5)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂を50質量部とし、脂肪族エポキシ樹脂を50質量部とした他は実施例4の樹脂組成物の調製と同様にして、実施例5の樹脂組成物を調製した。
【0074】
(実施例6)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂を70質量部とし、脂肪族エポキシ樹脂を30質量部とし、潜在性硬化剤として、アミン化合物(商品名「フジキュア FXR-1081」、T&K TOKA社製)30質量部とした他は実施例4の樹脂組成物の調製と同様にして、実施例6の樹脂組成物を調製した。なお、上記潜在性硬化剤の反応開始温度は、上記方法で測定した結果48℃であった。
【0075】
(実施例7)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂を90質量部とし、脂肪族エポキシ樹脂を10質量部とした他は実施例4の樹脂組成物の調製と同様にして、実施例7の樹脂組成物を調製した。
【0076】
(実施例8)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の代わりに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「jER828」、三菱ケミカル社製)70質量部とし、脂肪族エポキシ樹脂を30質量部とした他は実施例4の樹脂組成物の調製と同様にして、実施例8の樹脂組成物を調製した。
【0077】
(実施例9)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂を70質量部とし、脂肪族エポキシ樹脂を30質量部とし、潜在性硬化剤として、アミン化合物(商品名「フジキュア FXR-1081」、T&K TOKA社製)20質量部とした他は実施例4の樹脂組成物の調製と同様にして、実施例9の樹脂組成物を調製した。
【0078】
(実施例10)
潜在性硬化剤として、アミン化合物(商品名「フジキュア FXR-1020」、T&K TOKA社製)35質量部とした他は実施例9の樹脂組成物の調製と同様にして、実施例10の樹脂組成物を調製した。
【0079】
(実施例11)
潜在性硬化剤を40質量部とした他は実施例9の樹脂組成物の調製と同様にして、実施例11の樹脂組成物を調製した。
【0080】
(比較例1)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「jER828」、三菱ケミカル社製)100質量部と、潜在性硬化剤として、アミン化合物(商品名「フジキュア FXR-1020」、T&K TOKA社製)30質量部とを混合し、比較例1の樹脂組成物を調製した。
【0081】
(比較例2)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名「jER806」、三菱ケミカル社製)70質量部と、脂肪族エポキシ樹脂として、水酸基を有しかつ水溶率が99%であるポリグリセリンポリグリシジルエーテル(商品名「SR-4GL」、阪本薬品工業社製)30質量部と、硬化剤として、ジシアンジアミド(DICY)7質量部とを混合し、比較例2の樹脂組成物を調製した。なお、上記硬化剤の反応開始温度は、上記方法で測定した結果140℃以上であり、本発明における潜在性硬化剤には該当しない。
【0082】
(比較例3)
脂肪族エポキシ樹脂として、水酸基を有さず、かつ水溶率が35%であるトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(商品名「SR-TMP」、阪本薬品工業社製)30質量部とし、潜在性硬化剤として、アミン化合物(商品名「フジキュア FXR-1020」、T&K TOKA社製)30質量部とした他は比較例2の樹脂組成物の調製と同様にして、比較例3の樹脂組成物を調製した。
【0083】
(比較例4)
脂肪族エポキシ樹脂として、水酸基を有さず、かつ水溶率が100%であるジエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名「EX-850」、ナガセケムテックス社製)30質量部とした他は比較例3の樹脂組成物の調製と同様にして、比較例4の樹脂組成物を調製した。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例1~11の樹脂組成物は、保存性が高く、70~145℃という低温での硬化が可能であり、かつ高い接着力を有することが確認できた。
一方比較例1の樹脂組成物は、脂肪族エポキシ樹脂を含んでいないため、硬化時の剪断接着力が低かった。また、比較例2の樹脂組成物は、45℃以上120℃以下の反応開始温度を有する潜在性硬化剤を含まないため、80℃30分という硬化条件では硬化させることができなかった。比較例3及び4の樹脂組成物は、脂肪族エポキシ樹脂が水酸基を含んでいないため、保存性が低かった。
【0086】
なお、本出願は、2019年3月28日出願の日本特許出願(特願2019-065066)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0087】
1 樹脂組成物層
2 第1被着体
3 第2被着体
10 接着構造体
図1
図2