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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ピックル製剤および食肉加工製品
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/70 20230101AFI20240827BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20240827BHJP
【FI】
A23L13/70
A23L13/00 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021509475
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013181
(87)【国際公開番号】W WO2020196570
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019062153
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004156
【氏名又は名称】日本新薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】岡田 利恵
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】川上 敬司
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/060409(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/060470(WO,A1)
【文献】特開2009-159825(JP,A)
【文献】特開2011-193830(JP,A)
【文献】特開2011-254762(JP,A)
【文献】特開2014-068544(JP,A)
【文献】特開2004-248661(JP,A)
【文献】特開平11-056303(JP,A)
【文献】特開平05-244907(JP,A)
【文献】特開2002-199859(JP,A)
【文献】特開2005-318871(JP,A)
【文献】特開平07-255426(JP,A)
【文献】特開2001-029043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00 - 13/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性カゼインタンパクおよび塩基性アミノ酸を含有するピックル製剤であって
前記水溶性カゼインタンパクが前記ピックル製剤の総重量に対しタンパク質ベースで1.0重量%~10重量%配合されており、
前記塩基性アミノ酸が前記ピックル製剤の総重量に対し0.5重量%~5.0重量%配合されており、
前記ピックル製剤の総重量に対するリン酸塩の配合量が0.5重量%未満であることを特徴とする、ピックル製剤。
【請求項2】
塩基性アミノ酸がアルギニンまたはその塩である、請求項1に記載のピックル製剤。
【請求項3】
水溶性カゼインタンパクがカゼインカルシウムまたはカゼインナトリウムである、請求項1または2に記載のピックル製剤。
【請求項4】
さらに可食性油脂を含有する、請求項1~3のいずれかに記載のピックル製剤。
【請求項5】
前記水溶性カゼインタンパクが前記ピックル製剤の総重量に対しタンパク質ベースで1.0重量%~6.0重量%配合されている、請求項1~4のいずれかに記載のピックル製剤。
【請求項6】
前記ピックル製剤の総重量に対するリン酸塩の配合量が0.1重量%未満である、請求項1~5のいずれかに記載のピックル製剤。
【請求項7】
調製工程に、請求項1~のいずれかに記載のピックル製剤を調製し、食肉に浸透させる工程を含む、食肉加工製品。
【請求項8】
食肉100重量部に対して食肉加工製品の総重量部が150重量部~250重量部となるようピックル製剤を浸透させる、請求項に記載の食肉加工製品。
【請求項9】
請求項に記載のピックル製剤を高圧下で乳化処理した上で、食肉に浸透させる、請求項またはに記載の食肉加工製品。
【請求項10】
前記食肉加工製品が単味品である、請求項7~9のいずれかに記載の食肉加工製品。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載のピックル製剤を調製し、食肉に浸透させる工程を含む、食肉加工製品の調製方法。
【請求項12】
食肉100重量部に対する食肉加工製品の総重量部が150重量部~250重量部となるようピックル製剤を浸透させる、請求項10に記載の食肉加工製品の調製方法。
【請求項13】
請求項に記載のピックル製剤を高圧下で乳化処理した上で、食肉に浸透させる、請求項10または11に記載の食肉加工製品の調製方法。
【請求項14】
前記食肉加工製品が単味品である、請求項11~13のいずれかに記載の食肉加工製品の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸塩を排除もしくは低減しながらも、しなやかさ、滑らかさ、結着性を有する食肉加工製品を調製することを目的としたピックル製剤に関する発明である。また、そのピックル製剤を用いて得られる食肉加工製品、その食肉加工製品の調製方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
ハムやソーセージ等の食肉加工製品の調製過程において、保水性や結着性を維持することは重要であり、食肉加工製品にしなやかさ、滑らかさ、結着性が付与される。リン酸塩は食肉中の繊維や水を繋ぎ止める役割を果たすミオシン等のタンパクが食肉から乖離や溶出することを促進するため、食肉加工製品にしなやかさ、滑らかさ、結着性を付与する目的で効果的に用いられてきた。食肉加工製品はしなやかさ、滑らかさ、結着性を有することで、食感の改善だけでなくスライス時の生産性も改善されるなど、品質が大きく向上する。
【0003】
しかし、リン酸塩は、栄養学的に過剰摂取が問題視されており、加工食品の消費が多くなった現代において、リン酸塩の摂取を低減したいという消費者のニーズは高い。そこで、リン酸塩の添加量を低減しながらも保水性、結着性を向上させた食肉加工製品を製造するために、種種の方法が検討されてきた。特許文献1には、水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムと、クエン酸3ナトリウム及び/又はクエン酸3カリウムを特定の比率で含有するピックル製剤を食肉単味品に用いる方法が開示されている。
【0004】
また、食肉の重量に対してピックル製剤の重量を一定以上で浸透させることを、高加水という。高加水下にて食肉加工製品を調製すると、経済的で、弾力性があり、かつ加工しやすい食肉加工製品を調製することができる。しかし、食肉加工製品に含まれる水分の量は増加し、食肉の相対量は低下するため、保水性や結着性を維持することは低加水下より困難である。これまで、リン酸塩を用いずに高加水下で食肉加工製品を調製した場合、しなやかさ、滑らかさ、結着性に関して品質を向上させることは出来ていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-248661号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】肉製品製造学 光琳社 平成19年5月発行
【文献】食肉加工技術 幸書房 平成22年6月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、リン酸塩を排除もしくは低減しながらも、しなやかさ、滑らかさ、結着性を有する食肉加工製品を調製できるピックル製剤を提供することにある。また、そのピックル製剤を用いて得られる食肉加工製品およびその食肉加工製品の調製方法の提供を目的とする。
【0008】
本発明は特に、食肉の重量に対して高加水でピックル製剤を浸透させる食肉加工製品およびその食肉加工製品の調製方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ピックル製剤に水溶性カゼインタンパクおよび塩基性アミノ酸を配合することで、しなやかさ、滑らかさ、結着性を有する食肉加工製品を調製できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明として、例えば、下記のものを挙げることができる。
(i)水溶性カゼインタンパクおよび塩基性アミノ酸を配合する、ピックル製剤の総重量に対するリン酸塩の配合量が0.5重量%未満であることを特徴とする、ピックル製剤。
(ii)塩基性アミノ酸がアルギニンまたはその塩である、(i)に記載のピックル製剤。
(iii)水溶性カゼインタンパクが水溶性カゼインカルシウムまたはカゼインナトリウムである、(i)または(ii)に記載のピックル製剤。
(iv)さらに卵白タンパクを配合する、(i)~(iii)のいずれかに記載のピックル製剤。
(v)さらにホエイタンパクを配合する、(i)~(iv)のいずれかに記載のピックル製剤。
(vi)さらに可食性油脂を配合する、(i)~(v)のいずれかに記載のピックル製剤。
(vii)さらにデンプンを配合する、(i)~(vi)のいずれかに記載のピックル製剤。
(viii)さらに増粘多糖類を配合する、(i)~(vii)のいずれかに記載のピックル製剤。
(ix)ピックル製剤の総重量に対する水溶性カゼインタンパクの配合量がタンパク質ベースで0.1重量%~10重量%である、(i)~(viii)のいずれかに記載のピックル製剤。
(x)ピックル製剤の総重量に対する塩基性アミノ酸の配合量が0.1重量%~10重量%である、(i)~(ix)のいずれかに記載のピックル製剤。
(xi)pHが6.0~11.0である、(i)~(x)のいずれかに記載のピックル製剤。
(xii)調製工程に、(i)~(xi)のいずれかに記載のピックル製剤を調製し、食肉に浸透させる工程を含む、食肉加工製品。
(xiii)食肉100重量部に対して食肉加工製品の総重量部が150重量部~250重量部となるようピックル製剤を浸透させる、(xii)に記載の食肉加工製品。
(xiv)食肉加工製品の総重量に対するリン酸およびその塩の含有量が、0.3重量%未満である、(xii)または(xiii)に記載の食肉加工製品。
(xv)調製工程に、さらにタンブリング、ケーシング、加熱、冷却の工程を含む、(xii)~(xiv)のいずれかに記載の食肉加工製品。
(xvi)(vi)~(xi)のいずれかに記載のピックル製剤を高圧下で乳化処理した上で、食肉に浸透させる、(xii)~(xv)のいずれかに記載の食肉加工製品。
(xvii)(i)~(xi)のいずれかに記載のピックル製剤を調製し、食肉に浸透させる工程を含む、食肉加工製品の調製方法。
(xviii)食肉100重量部に対して食肉加工製品の総重量部が150重量部~250重量部となるようピックル製剤を浸透させる、(xvii)に記載の食肉加工製品の調製方法。
(xix)食肉加工製品の総重量に対するリン酸およびその塩の含有量が、0.3重量%未満である、(xvii)または(xviii)に記載の食肉加工製品の調製方法。
(xx)調製工程に、さらにタンブリング、ケーシング、加熱、冷却の工程を含む、(xvii)~(xix)のいずれかに記載の食肉加工製品の調製方法。
(xxi)(vi)~(xi)のいずれかに記載のピックル製剤を高圧下で乳化処理した上で、食肉に浸透させる、(xvii)~(xx)のいずれかに記載の食肉加工製品の調製方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、リン酸塩を排除もしくは低減しながらも、しなやかさ、滑らかさ、結着性を有する食肉加工製品を調製できるピックル製剤を得ることができる。本発明は特に、食肉の重量に対して高加水でピックル製剤を浸透させる食肉加工製品の調製に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ピックル製剤>
本発明のピックル製剤について説明する。
本発明のピックル製剤は、水溶性カゼインタンパク、および塩基性アミノ酸を配合し、ピックル製剤の総重量に対するリン酸塩の配合量が0.5重量%未満であることを特徴とする。ピックル製剤は通常液状であるが、水を添加する前の粉末製剤も含む。ただし、後述する成分の配合量の基準となるピックル製剤の総重量とは、水に溶かした後のピックル液の総重量とする。
【0013】
本発明に用いられる水溶性カゼインタンパクとは、牛乳中のカゼインタンパクを分離、分画、濃縮等の処理を行った後、乾燥することにより得られる水溶性の素材であり、例えば、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインカルシウム、カゼインマグネシウム、トータルミルクプロテインなどを挙げることができる。なかでも、カゼインカルシウムまたはカゼインナトリウムが好ましく、カゼインカルシウムが最も好ましい。市販品では、例えば、88.5重量%の水溶性カゼインタンパクを含有する「カゼインカルシウムDI-8905(Arla Foods製)」や、89.5重量%の水溶性カゼインタンパクを含有する「カゼインカリウムSpray(FrieslandCampina DMV製)」を挙げることができる。
【0014】
本発明のピックル製剤における、ピックル製剤の総重量に対する水溶性カゼインタンパクの配合量は、例えば、タンパク質ベースで0.1重量%~10重量%が好ましく、1.0重量%~6.0重量%がより好ましく、2.0重量%~4.0重量%がさらに好ましい。
【0015】
本発明に用いられる塩基性アミノ酸とは、分子内に一つのアミノ基の他に、塩基性を示す残基をもつアミノ酸の総称であり、例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、オルニチンなどを挙げることができる。なかでも、リシン、アルギニン、ヒスチジンが好ましく、アルギニン、特にL-アルギニンが最も好ましい。塩基性アミノ酸は塩の形態であってもよく、アルギニンまたはその塩が好ましい。例として、L-アルギニンL-グルタミン酸塩、L-リシンL-グルタミン酸塩等のグルタミン酸塩、L-リシン塩酸塩、L-ヒスチジン塩酸塩等の塩酸塩、L-リシンL-アスパラギン酸塩等のアスパラギン酸塩が挙げられる。
【0016】
本発明のピックル製剤における、ピックル製剤の総重量に対する塩基性アミノ酸の配合量は、例えば、0.1重量%~10重量%が好ましく、0.5重量%~5.0重量%がより好ましく、1.0重量%~3.0重量%がさらに好ましい。
【0017】
本発明に用いられるピックル製剤においては、リン酸塩が無添加であるかもしくは配合量が微量であることが好ましい。リン酸塩としては、例えば、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸などの塩を挙げることができる。具体的には、メタリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ポリリン酸カリウム、トリポリリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウムが例示される。
【0018】
本発明のピックル製剤における、ピックル製剤の総重量に対するリン酸塩の配合量は、0.5重量%未満が好ましく、0.1重量%未満がより好ましく、0.02重量%未満がさらに好ましい。最も好ましい態様は、リン酸塩が無添加であるピックル製剤である。なお、後述する食肉加工製品においては、食肉加工製品の総重量に対するリン酸およびその塩の含有量は、0.3重量%未満であること、特に0.05重量%未満であることが好ましい。
【0019】
本発明のピックル製剤には、水溶性カゼインタンパクの他に異なるタンパクを配合することができる。水溶性カゼインタンパク以外のタンパクとしては、ホエイタンパク、卵白タンパク、大豆タンパク等を挙げることができる。
【0020】
ホエイタンパクとは、牛乳中のホエイタンパク質を濃縮、分離、分画等の処理を行って得られる水溶性の素材であり、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンなどを含有している。具体的には、例えば、ホエイタンパク濃縮物(Whey Protein Concentrate 以下、WPCともいう)や、ホエイタンパク分離物(Whey Protein Isolate、WPIともいう)なども用いることができる。市販品では、例えば、93.1重量%のホエイタンパク質を含有する「乳たん白GL(日本新薬製)」、91.3重量%のホエイタンパク質を含有する「エンラクトYYY(日本新薬製)」、または78.4重量%のホエイタンパク質を含有する「PROGEL800(FrieslandCampina DMV製)」を挙げることができる。
【0021】
卵白タンパクは、鶏卵から卵白タンパク質を濃縮、分離、分画等の処理を行って得られる。市販品では、例えば、81.4重量%の卵白タンパク質を含有する「カンソウランパクH(日本新薬製)」を挙げることができる。
【0022】
本発明に用いる大豆タンパクは、大豆から大豆タンパク質を濃縮、分離、分画等の処理を行って得られる。市販品では、例えば、86.5重量%の大豆タンパク質を含有する「ウィルプロP20(Wilmar製)」を挙げることができる。
【0023】
本発明のピックル製剤における、ピックル製剤の総重量に対する水溶性カゼインタンパク以外のタンパクの配合量は、タンパク質ベースで通常1重量%~50重量%程度であり、3重量%~20重量%以下が好ましく、5重量%~10重量%がより好ましい。
【0024】
本発明のピックル製剤には、可食性油脂を配合することができる。本発明に用いる可食性油脂としては、一般に食用として利用されている油脂であれば特に限定されず、各種の油脂を用いることができる。例えば、大豆油、大豆胚芽油、サフラワー油、トウモロコシ油、ナタネ油、落花生油、綿実油、オリーブ油、ヒマワリ油、米油、液状魚油、液状鯨油、パームオレイン油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、パーム硬化油、パーム核硬化油、ヤシ硬化油、大豆硬化油、ナタネ硬化油、魚油、鯨油、魚硬化油、鯨硬化油、ラード(豚脂)、および牛脂を挙げることができ、これらを2種以上混合して用いることもできる。特に、大豆油、ナタネ油が好ましい。例えば、2種以上の可食性油脂を混合したサラダ油等を用いることもできる。また、可食性油脂を粉末化した粉末油脂を用いることもできる。
本発明のピックル製剤における、ピックル製剤の総重量に対する可食性油脂の配合量としては、1重量%~30重量%がより好ましく、3重量%~20重量%がさらに好ましく、5重量%~15重量%が最も好ましい。しなやかさ、滑らかさ、結着性を有する食肉加工製品を調製できる観点から、2重量%~12重量%が好ましい。
【0025】
本発明のピックル製剤には、デンプンを配合することができる。デンプンとしては、一般に食用として利用されているデンプンであれば特に限定されず、各種のデンプンを用いることができる。例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカデンプン、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプン、小麦デンプン、米デンプン、サゴデンプン、またはこれらの加工デンプンが挙げられる。加工デンプンとしては、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、アルファ化デンプン、酸処理デンプン、酸化デンプン、架橋デンプン、油脂加工デンプンなどが挙げられる。また、上記の加工デンプンは、同種または異種の化学的処理を2種以上組み合わせて行ったものであってもよい。また、化学的処理に加えて、湿熱処理、微粉砕処理、加熱処理、温水処理等の物理的処理を行ったものでもよい。特に、コーンスターチ、タピオカデンプンが好ましい。市販品では、例えば、タピオカデンプンである「ミルフィクスD」(王子コーンスターチ製)、加工デンプン製剤として「ハイトラストH-4」「ハイトラストH-6」「ハイトラストH-8」(J-オイルミルズ製)、「GMIX―H5」「GMIX-H6」(グリコ栄養食品製)を挙げることができる。
本発明のピックル製剤における、ピックル製剤の総重量に対するデンプンの配合量としては、例えば、15重量%以下が好ましく、5重量%~10重量%がより好ましい。
【0026】
本発明のピックル製剤には、増粘多糖類を配合することができる。増粘多糖類としては、一般に食用として利用されている増粘多糖類であれば特に限定されず、各種の増粘多糖類を用いることができる。例えば、ウェランガム、キサンタンガム、ペクチン、カラギーナン、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガムを挙げることができ、これらを2種以上混合して用いることもできる。特に、ウェランガム、カラギーナン、ローカストビーンガムが好ましい。市販品では、例えば、ウェランガムである「ビストップW」(三栄源エフ・エフ・アイ製)を挙げることができる。
本発明のピックル製剤における、ピックル製剤の総重量に対する増粘多糖類の配合量としては、0.8重量%以下が好ましく、0.2重量%~0.5重量%がより好ましい。
【0027】
本発明のピックル製剤には後述する官能試験に供することができる程度に調味料や香料、色素等を添加することができる。調味料としては、砂糖や食塩、グルタミン酸等の基本調味料に加え、水あめ等の糖類、ペッパーやスパイスミックスといった香辛料、ポークエキス、酵母エキス、ビーフエキス、ベジタブルエキスやレモンエキスといったエキス料、セロリ、タイム、ローレル、パセリといったハーブ等、レモン香料やミート香料等、コチニール色素等の色素製剤などを加えることができる。ピックル製剤の総重量に対する調味料の配合量は20重量%以下が好ましく、5重量%~15重量%程度がより好ましい。
【0028】
本発明のピックル製剤には、発色剤を配合することができる。発色剤としては、一般に食用として利用されている発色剤であれば特に限定されず、例えば、亜硝酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等を挙げることができ、これらを2種以上混合して用いることもできる。特に、亜硝酸ナトリウムが好ましい。
本発明のピックル製剤における、ピックル製剤の総重量に対する発色剤の配合量としては、0.1重量%以下が好ましく、0.01重量%~0.03重量%がより好ましい。
【0029】
本発明のピックル製剤には、保存料もしくは日持向上剤を配合することができる。一般に食用として利用されている保存料もしくは日持向上剤であれば特に限定されず、例えば、ソルビン酸カリウム、酢酸ナトリウム、グリシンを挙げることができ、これらを2種以上混合して用いることもできる。特に、ソルビン酸カリウムが好ましい。
本発明のピックル製剤における、ピックル製剤の総重量に対する保存料もしくは日持向上剤の配合量としては、2.0重量%以下が好ましく、0.01重量%~1.0重量%がより好ましい。
【0030】
本発明のピックル製剤は通常液状のため、水分を含む。ピックル製剤の総重量に対する水分の含有量は、通常30~90重量%であるが、後述する通り、高圧乳化させるためには50~80重量%が好ましく、60~75重量%がより好ましい。
【0031】
本発明のピックル製剤のpHは特に限定されないが、塩基性アミノ酸を配合するため、通常アルカリ性である。pHは通常6.0~11.0程度であり、好ましくは9.0~10.5である。
本発明のピックル製剤の粘度は特に限定されないが、25℃(室温)で測定した際の粘度は通常50~1200mPa・S程度である。
【0032】
<食肉加工製品およびその調製方法>
次に、本発明の食肉加工製品およびその調製方法について述べる。本発明の食肉加工製品は、前記のピックル製剤を用いて調製される。本発明の食肉加工製品は、下記A~Dの工程を経ることによっても調製することができるが、その方法の詳細は特に限定されず、一般に知られた方法によっても調製することが出来る。
【0033】
A.ピックル製剤の調製
本工程は、水溶性カゼインタンパクおよび塩基性アミノ酸を含む成分を配合、乳化してピックル液を調製する工程である。
本工程では、使用する原料(油脂および水を含む)を添加する順番を問わず、一度にすべての原料を混合することが可能である。また、原料溶解時に加温処理する必要もなく、冷水でも簡便に調製が可能である。混合後、せん断応力を有する乳化機を使用して乳化処理、特に高圧下で乳化処理することが好ましい。例えば、真空カッターなどの各種カッター、ホモミキサーなどの各種ミキサーなど、せん断応力を有する任意の公知の装置を用いることができる。例えば、「サイレントカッター(ヒガシモトキカイ製)」「ステファンクッカー(ステファン製)」「高圧式ホモジナイザー LAB1000(APV製)」を挙げることができる。攪拌時は真空脱気することが好ましい。調製後、冷蔵下で一晩もしくは数日間静置することが好ましいが、調製当日に使用することも出来る。
【0034】
B.ピックル製剤の食肉への浸透
本工程は、上記工程Aで得られたピックル液を食肉に浸透させて加工用食肉(加熱前の食肉)を製造する工程である。
本発明で用いられる食肉は特に制限されず、豚肉、牛肉、鶏肉、魚肉等を用いることができる。また、食肉として、ハム、ベーコン等の食肉製品を用いることもでき、プレスハムのように異なる部位の肉塊とつなぎ肉で食肉加工製品として成型することもできる。本発明の効果を発揮する食肉加工製品としては、ロースハムのような単味品であることが好ましい。Aの工程で調製したピックル製剤を食肉に浸透させる方法としては、ピックル製剤に食肉を浸漬(漬け込み)する方法、インジェクター等の注入器でインジェクションする方法、これらにもみこみやマッサージ等の方法を組み合わせることもできる。均一に浸透させる観点から、インジェクションが好ましい。
本発明の食肉加工製品は、食肉100重量部に対して、食肉加工製品の総重量部が通常、110重量部~250重量部となるようピックル製剤を浸透させて調製される。本発明は特に、食肉の重量に対して高加水でピックル製剤を注入し調製される食肉加工製品の調製に有用であるため、食肉100重量部に対する食肉加工製品の総重量部は150重量部~250重量部が好ましく、170重量部~220重量部がより好ましく、180重量部~200重量部がさらに好ましい。
【0035】
C.タンブリング(マッサージ)およびケーシング
本工程は、工程Bで得られた加工用食肉をタンブリングする工程である。
タンブリングの方法は特に限定されないが、通常0~10℃程度の低温下で、直径30~80cm程度のタンブリングタンクに入れて行うことができる。5~20分間程度の間隔で反転させ、その間に回転数を変えたり、休止時間を置くこともできる。タンブリング時間は通常、4~48時間程度である。
タンブリングした食肉加工製品は、直径5~15cm程度のケーシングに充填することができる。
【0036】
D.加熱および冷却処理
本工程は、工程Cで得られた加工用食肉を加熱・冷却し、(本発明としての完成品である)食肉加工食品を得る工程である。
食肉加工製品の加熱処理は、一般に乾燥、燻煙(スモーク)、蒸煮(スチーム)の工程を経ることが多い。通常、乾燥は60℃以上で30~120分間程度、燻煙は60℃以上で15~60分間程度、蒸煮は70℃以上で100~200分間程度行うことができる。蒸煮においては、食肉加工製品の中心温度が70~80℃まで達することが好ましい。
加熱処理後、冷水をかける等して冷却処理を行う。冷却時間は通常、30~60分間程度である。必要であれば、冷却処理後、熱風等で乾燥させることができる。
冷蔵下で、一晩程静置した後、1.0~1.5mm程にスライスすることができる。
【実施例
【0037】
次に、実施例・比較例について説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまで本発明の中に含まれる具体例をいくつか示したものに過ぎず、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
以下の実施例・比較例においては、表1、2に従って各原材料を秤量し、下記に示す方法によりピックル製剤および食肉加工製品を調製した。表1、2に示された配合量は、タンパク質ベースではなく、原料の配合量である。
【0039】
実施例、比較例で特に記載のない場合は以下の原料を使用した。水溶性カゼインタンパクは、カゼインカルシウムとしてカゼインカルシウムDI-8905(88.5重量%のカゼインタンパク質を含有。Arla Foods製)、カゼインナトリウムとしてハプロ(93.6重量%のカゼインタンパク質を含有。Lactoprot製)を使用した。ホエイタンパクは乳たん白GL(93.1重量%のホエイタンパク質を含有。日本新薬製)、卵白タンパクはカンソウランパクH(81.4重量%の卵白タンパク質を含有。日本新薬製)、大豆タンパクはウィルプロP20(86.5重量%の大豆タンパク質を含有。Wilmar製)を使用した。可食性油脂は市販のサラダ油(日清オイリオグループ製:大豆油とナタネ油の混合物)を使用した。デンプンはタピオカ由来のミルフィクスD(王子コーンスターチ製)を使用した。増粘多糖類はビストップW(ウェランガム、三栄源エフ・エフ・アイ製)を使用した。アルギニンはL-アルギニン協和(協和発酵バイオ製)、焼成カルシウムは貝殻焼成カルシウム(エヌ・シー・コーポレーション製)、クエン酸三ナトリウムは精製クエン酸ナトリウム(扶桑化学工業製)、炭酸ナトリウムはソーダ灰ライト(トクヤマ製)を使用した。
【0040】
本発明のピックル製剤である実施例もしくは比較例として下表に示した各処方のピックル製剤を用いて、食肉加工製品としてロースハムを調製した。具体的には以下の工程を経て調製した。
【0041】
以下に、ロースハムの調製方法を示す。
1.原料、油脂、及び水を秤量し、サイレントカッター(20Lバキュームカッターヒガシモトキカイ製)にて混合、脱気し、ピックル製剤を調製した。その後、実施例9、10で示されたピックル製剤は、高圧式ホモジナイザーLAB1000(APV製)を用いて、圧力300bar程度に調整して乳化処理を行い、ピックル製剤を調製した。5℃冷蔵下で18時間静置した。
2.豚ロース肉(1500~1800g)100重量部に対し調製したピックル製剤を、ピックルインジェクター(インジェクターSP-300-2Hヒガシモトキカイ製)を用いて全重量が200重量部となるように注入した。ピックル製剤注入後、10℃でタンブリングを行った(径40cmのタンブラーにて、12rpm正転10分、逆転10分、休止1分にて4時間、6rpm正転10分、逆転10分、休止20分にて8時間、6rpm正転1分、逆転1分、休止28分にて12時間続けた)。
3.肉をセルロースケーシング(折径13.8cm)に充填、クリップし、加熱した。加熱条件は、乾燥を65℃で40分、燻煙を70℃で20分、蒸煮は80℃にてロースハムの中心温度が72℃に達するまで165分行った。冷水にて40分冷却後、35℃で40分乾燥した。
4.5℃にて一晩静置したロースハムは、重量測定後、1.3mm厚にスライスし、官能評価に供した。
【0042】
得られた食肉加工製品の官能評価を行った。以下に示す方法で社内にて教育され経験を積んだ4名のモニターが評価した。4名の評価点を平均して、下記表1、2に併せて示す。
【0043】
<官能評価>
風味・食感の評価についてしなやかさ、滑らかさ、結着性の3項目について官能評価を行い、その点数により評価した。高加水の市販品ロースハム(リン酸塩含有)と比較した官能評価の項目は以下の通りである。
I.しなやかさ
しなやかさは以下の4段階で評価した。
1:食肉加工製品として良好なしなやかな食感
2:食肉加工製品として問題ない程度のしなやかな食感
3:しなやかさに欠け、硬くて脆い
4:非常に硬くて脆い
II.滑らかさ
滑らかさは以下の4段階で評価した。
1:食肉加工製品として良好な滑らかな食感
2:食肉加工製品として問題ない程度の滑らかな食感
3:滑らかさに欠け、ざらつきを感じる
4:非常にざらつく
III.結着性
結着性は以下の4段階で評価した。
1:食肉加工製品として良好な硬さで、歯切れ良い食感
2:食肉加工製品として問題ない程度の硬く、歯切れ良い食感
3:やわらかい
4:非常にやわらかい
【0044】
実施例1~10、比較例1~3で示した各処方のピックル製剤を用いて調製したロースハムの官能評価結果を表1、2に併せて示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1が示すとおり、水溶性カゼインタンパクおよび塩基性アミノ酸を含有するピックル製剤を使用した際に、食肉加工製品である各ロースハムは良好な官能評価結果を示した(実施例1~4)。一方で、塩基性アミノ酸を他のアルカリ成分で代替した場合には、しなやかさ、滑らかさ、結着性は大きく劣り、同様の効果は得られなかった(比較例1~3)。
【0047】
【表2】
【0048】
表2が示すとおり、水溶性カゼインタンパクおよび塩基性アミノ酸を含有するピックル製剤を使用した際に、食肉加工製品である各ロースハムは良好な官能評価結果を示した(実施例5~10)。特に、サラダ油を含有し、高圧下でホモジナイザーによる乳化処理を行ったピックル製剤を使用した各ロースハムは顕著に良好な官能評価結果を示した(実施例9、10)。
【0049】
実施例11~12、比較例4で示した各処方のピックル製剤を用いて追加試験を実施した。実施例11では、可食性油脂として粉末油脂「マジカルファット205」(70.0重量%含有:ミヨシ油脂製)を使用した。また、実施例11~12、比較例4でピックル製剤の静置時間が2~3時間であった点、実施例12、比較例4において全重量が150重量部となるよう注入した点以外は同じ方法でロースハムを調製し、同じ官能評価方法を用いた。調製したロースハムの官能評価結果を表3に併せて示す(単位:重量%)。
【0050】
【表3】
【0051】
表3が示すとおり、水溶性カゼインタンパクおよび塩基性アミノ酸を含有するピックル製剤を使用した際に、食肉加工製品である各ロースハムは良好な官能評価結果を示した(実施例11、12)。一方で、塩基性アミノ酸を含有しない場合には、しなやかさ、滑らかさ、結着性は大きく劣り、同様の効果は得られなかった(比較例4)。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、リン酸塩を排除もしくは低減しながらも、しなやかさ、滑らかさ、結着性を有する食肉加工製品を提供することができ、加工食品の分野において有用である。