(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】花香を有する茶芳香組成物
(51)【国際特許分類】
A23F 3/40 20060101AFI20240827BHJP
A23F 3/16 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A23F3/40
A23F3/16
(21)【出願番号】P 2021511965
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020013891
(87)【国際公開番号】W WO2020203717
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2019068537
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】米澤 太作
(72)【発明者】
【氏名】大塚 誠
(72)【発明者】
【氏名】向井 卓嗣
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 大
(72)【発明者】
【氏名】菊地 啓太
(72)【発明者】
【氏名】平山 裕二
(72)【発明者】
【氏名】小山内 泰亮
(72)【発明者】
【氏名】浜場 大周
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-143467(JP,A)
【文献】米国特許第03966986(US,A)
【文献】OWUOR P. O., et al.,Effects of Fermentation under Enriched Oxygen Atmosphere on Clonal Black Tea Aroma Complex,Food Sci. Technol. Int. Tokyo,1998年,Vol.4, No.2,p.136-139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F
A23L
C11B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リナロール、ゲラニオール及び2-メチルブタナールを含有し、2-メチルブタナール含有量のリナロール及びゲラニオールの合計含有量に対する重量比が0.010~0.215であ
り、緑茶茶葉の留出液を含む、茶芳香組成物。
【請求項2】
2,4-ヘプタジエナールをさらに含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
α-イオノン、β-シクロシトラール、(z)-3-ヘキセノール、1-ペンテン-3-オール、ネロリドール、ヘキサナール、(E)-リナロールオキシド、β-ミルセン、トランス-β-オシメン、L-α-テルピネオール、サリチル酸メチル、ベンジルアルコール及びインドールからなる群より選択される一以上の芳香成分をさらに含有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物を含む、飲食品。
【請求項5】
飲料である、請求項4に記載の飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は茶芳香組成物に関し、より具体的には、花香を有する茶芳香組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
茶葉を加工して得られる茶飲料は、日本のみならず世界中で幅広く飲用されている。茶飲料は、ペットボトルや缶などの容器に殺菌充填された容器詰め飲料として販売されていたり、或いは、乾燥及び粉末化をして粉体の形態にし、水や湯などで溶解して飲用するものとして販売されていたりする。様々な種類の茶飲料において、近年では香気付与原料が使用され、茶飲料の香味の更なる改善が図られている。特に、優れた香味を有する香気付与原料は、茶飲料の製造業者の間では強く望まれている。
【0003】
茶飲料に対する香気付与原料は水蒸気蒸留法を利用して製造されることが知られており、香気付与原料の香気を増強することを目的として、例えば、原材料として使用する茶葉を、水蒸気蒸留を行う前にタンナーゼと配糖体分解酵素とで処理する方法が開示されている(特許文献1)。また、茶葉製品の製造過程において、低対流乾燥機を用いて生茶葉を乾燥させている間に生茶葉からの排出気体を回収し、それを凝縮させて凝縮物として香気付与原料を製造する方法も開示されている(特許文献2)。
【0004】
また、香気付与原料の使用の如何を問わず飲料それ自体の香りを改善する技術開発も行われており、例えば、還元糖と非還元糖とを含有し、且つ所定の比率でゲラニオールとフルフラールとを含有する緑茶飲料や(特許文献3)、リナロール、ゲラニオール及びβ-シトロネオールからなるモノテルペンアルコールと4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンとを所定の濃度で含有する飲料などが開示されている(特許文献4)。また、可溶性茶固形分と2-フェニルエタノール及びリナロールの香気成分とを原料として含む茶飲料用組成物も開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-75112号公報
【文献】特表2009-508477号公報
【文献】国際公開第WO2012/029132号
【文献】特開2016-55号公報
【文献】特開2016-15924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
茶飲料の中でいわゆる高級緑茶が有する特徴的な香気として、花香と呼ばれるものがある。しかしながら、花香に特化した優れた香気を有する香気付与原料はこれまでほとんど知られていない。そこで、本発明は、優れた花香を有する香気付与原料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討した結果、従来はリナロール及びゲラニオールが茶における花様の香りに最も影響を及ぼすものと考えられていたところ、これらに2-メチルブタナールを組み合わせて存在させることによって、より高級茶葉らしい優れた花香が発生することを見出した。そして、本発明者らは、リナロール及びゲラニオールの合計含有量に対する2-メチルブタナールの含有量の比率を特定の範囲となるように調整することによって、より一層優れた花香が呈されることを見出した。これらの知見に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、これに限定されるものではないが、以下に関する。
(1)リナロール、ゲラニオール及び2-メチルブタナールを含有し、2-メチルブタナール含有量のリナロール及びゲラニオールの合計含有量に対する重量比が0.010~0.215である、茶芳香組成物。
(2)2,4-ヘプタジエナールをさらに含有する、(1)に記載の組成物。
(3)α-イオノン、β-シクロシトラール、(z)-3-ヘキセノール、1-ペンテン-3-オール、ネロリドール、ヘキサナール、(E)-リナロールオキシド、β-ミルセン、トランス-β-オシメン、L-α-テルピネオール、サリチル酸メチル、ベンジルアルコール及びインドールからなる群より選択される一以上の芳香成分をさらに含有する、(1)又は(2)に記載の組成物。
(4)(1)~(3)のいずれか1に記載の組成物を含む、飲食品。
(5)飲料である、(4)に記載の飲食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた花香を有する香気付与原料を提供することができる。本発明の茶芳香組成物は、飲料の原料として使用することができ、飲料全般において茶葉の優れた花香を効果的に付与することができる。特に、本発明の茶芳香組成物は、ペットボトルや缶などに充填された容器詰め飲料への茶葉の優れた花香の付与に有効である。
【0010】
また、本発明の茶芳香組成物は、飲料だけでなく食品に対しても利用可能である。茶風味を有する食品は、近年その数や種類は増加傾向にある。本発明の茶芳香組成物を利用して、例えば、ケーキ、カステラ、キャンディー、クッキー、ゼリー、プリン等の菓子類に対して、優れた花香を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(茶芳香組成物)
本発明の茶芳香組成物について、以下に説明する。なお、特に断りがない限り、本明細書において用いられる「ppm」、「ppb」、及び「重量%」は、重量/容量(w/v)のppm、ppb、及び重量%をそれぞれ意味する。
【0012】
本発明の一態様は、リナロール、ゲラニオール及び2-メチルブタナールを含有し、2-メチルブタナール含有量のリナロール及びゲラニオールの合計含有量に対する重量比が0.010~0.215である、茶芳香組成物である。かかる構成を採用することにより、茶芳香組成物として優れた花香を呈するものとなる。ここで、本明細書において「花香」とは、スズラン様のさわやかな香りにバラ様の甘い匂いが加わった香りを意味する。
【0013】
本明細書において「茶芳香組成物」とは、茶葉を原料として得られる香気成分(茶葉由来の香気成分)を含んでなる組成物を意味する。本発明において茶芳香組成物は、通常、飲料や食品等の対象において希釈又は分散用として使用され、当該対象に対して茶葉由来の芳香を付与できることから、本発明の茶芳香組成物は茶芳香付与組成物と称することもできる。本発明の茶芳香組成物の形態は、特に制限されないが、通常は液体である。
【0014】
本発明において原料となる茶葉は、ツバキ科ツバキ属の植物(Camellia sinensis (L) O.Kuntzeなど)から得られる葉を用いることができる。本発明では、緑茶の茶葉が好適に用いられる。一般的に緑茶を製茶する際には、まず、摘茶後の生茶葉が、蒸熱処理→粗揉→揉捻→中揉→精揉→乾燥の各工程を経て荒茶とされる。さらにこの荒茶が、篩分け→切断→火入れ乾燥→選別→合組→の各工程を経て仕上茶となる。本発明でいう茶葉とは、ツバキ科ツバキ属の生茶葉が前記工程を経た後のものであり、例えば、荒茶、煎茶、玉露、かぶせ茶、茎茶、雁が音、碾骨、碾茶、番茶、ほうじ茶、等の蒸し製の不発酵茶のすべてが包含される。また、本発明において茶葉は、複数種類の茶葉をブレンドして使用してもよい。本発明では、特に、茎茶、雁が音、碾骨等の茎部を用いることが好ましい。
【0015】
本発明の茶芳香組成物は、リナロール、ゲラニオール及び2-メチルブタナールを含有する。リナロールは、分子式C10H18Oで表されるモノテルペンアルコールの一種であり、スズラン、ラベンダー、ベルガモット様の香りを有することが知られている。ゲラニオールは、化学式C10H17OHで表される直鎖モノテルペノイドの一種であり、ローズオイル、パルマローザ油、シトロネラ油等の精油に含まれていることやバラ様の香りを有することが知られている。2-メチルブタナールは、分子式C5H10Oで表される非環式脂肪族アルデヒドの一種であり、果実等に天然に存在するほか、焙煎や加熱調理されたピーナッツ等に含まれる成分で、焦げ臭を呈することが知られている。
【0016】
本発明の茶芳香組成物において、2-メチルブタナール含有量のリナロール及びゲラニオールの合計含有量に対する重量比(2-メチルブタナール/(リナロール及びゲラニオール))は、0.010~0.215である。2-メチルブタナールが当該重量比でリナロール及びゲラニオールと組み合わせて存在することによって、特に優れた花香が発揮されるようになる。本発明の茶芳香組成物における2-メチルブタナール含有量のリナロール及びゲラニオールの合計含有量に対する重量比は、好ましくは0.012以上、0.015以上、0.018以上、0.020以上、0.022以上、0.025以上、0.028以上、0.030以上、又は0.035以上である。また、本発明の茶芳香組成物における2-メチルブタナール含有量のリナロール及びゲラニオールの合計含有量に対する重量比は、好ましくは0.210以下、0.200以下、0.190以下、0.180以下、0.170以下、0.165以下、0.160以下、0.150以下、又は0.140以下である。典型的には、本発明の茶芳香組成物における2-メチルブタナール含有量のリナロール及びゲラニオールの合計含有量に対する重量比は、好ましくは0.015~0.210、より好ましくは0.020~0.200、さらに好ましくは0.025~0.180である。
【0017】
本発明の茶芳香組成物におけるリナロールの含有量は、特に限定されないが、例えば50ppb以上であり、好ましくは100ppb以上、500ppb以上、1000ppb以上、2000ppb以上、5000ppb以上、10000ppb以上、12000ppb以上、15000ppb以上、20000ppb以上、25000ppb以上、30000ppb以上、40000ppb以上、50000ppb以上、100000ppb、120000ppb以上、150000ppb以上、又は200000ppb以上である。リナロールの含有量が前記範囲内であることにより、優れた花香が発揮されるようになる。茶芳香組成物におけるリナロールの含有量の上限値は、特に制限されない。例えば、当該含有量は、1000000ppb以下、800000ppb以下、又は500000ppb以下である。本発明の茶芳香組成物におけるリナロールの含有量は、典型的には、50~1000000ppb、好ましくは5000~800000ppb、より好ましくは10000~800000ppbである。
【0018】
また、本発明の茶芳香組成物におけるゲラニオールの含有量は、特に限定されないが、例えば15ppb以上であり、好ましくは30ppb以上、100ppb以上、500ppb以上、1000ppb以上、3000ppb以上、5000ppb以上、7000ppb以上、10000ppb以上、15000ppb以上、20000ppb以上、30000ppb以上、50000ppb以上、60000ppb以上、70000ppb以上、80000ppb以上、又は90000ppb以上である。ゲラニオールの含有量が前記範囲内であることにより、本発明の茶芳香組成物は、より優れた花香を発揮するようになる。茶芳香組成物におけるゲラニオールの含有量の上限値は、特に制限されない。例えば、当該含有量は、1000000ppb以下、800000ppb以下、又は500000ppb以下である。本発明の茶芳香組成物におけるゲラニオールの含有量は、典型的には、30~1000000ppb、好ましくは3000~800000ppb、より好ましくは5000~800000ppbである。
【0019】
本発明の茶芳香組成物におけるリナロールとゲラニオールとの含有比は、特に限定されない。リナロールとゲラニオールとの含有比(リナロール:ゲラニオール)は、重量比として、例えば1:50~50:1であり、好ましくは1:10~20:1、より好ましくは1:5~10:1、さらに好ましくは1:1~5:1である。
【0020】
本発明の茶芳香組成物におけるリナロールとゲラニオールの合計含有量は、特に限定されないが、例えば65ppb以上であり、好ましくは100ppb以上、500ppb以上、1000ppb以上、3000ppb以上、5000ppb以上、7000ppb以上、10000ppb以上、15000ppb以上、20000ppb以上、25000ppb以上、30000ppb以上、50000ppb以上、70000ppb以上、100000ppb以上、150000ppb以上、200000ppb以上、250000ppb以上、又は300000ppb以上である。茶芳香組成物におけるリナロールとゲラニオールの合計含有量の上限値は、特に制限されない。例えば、当該含有量は、2000000ppb以下、15000000ppb以下、又は1000000ppb以下である。本発明の茶芳香組成物におけるゲラニオールの含有量は、典型的には、65~2000000ppb、好ましくは7000~15000000ppb、より好ましくは10000~15000000ppbである。
【0021】
また、本発明の茶芳香組成物における2-メチルブタナールの含有量は、特に限定されないが、例えば1ppb以上であり、好ましくは5ppb以上、10ppb以上、50ppb以上、100ppb以上、200ppb以上、500ppb以上、1000ppb以上、1200ppb以上、1500ppb以上、2000ppb以上、3000ppb以上、3500ppb以上、5000ppb以上、10000ppb以上、12000ppb以上、15000ppb以上、又は20000ppb以上である。2-メチルブタナールが前記範囲内の含有量でリナロール及びゲラニオールと共に存在することにより、本発明の茶芳香組成物は、より優れた花香を発揮するようになる。茶芳香組成物における2-メチルブタナールの含有量の上限値は、特に制限されない。例えば、当該含有量は、80000ppb以下、60000ppb以下、又は500000ppb以下である。本発明の茶芳香組成物における2-メチルブタナールの含有量は、典型的には、1~80000ppb、好ましくは500~60000ppb、より好ましくは1500~60000ppbである。
【0022】
本発明の茶芳香組成物は、2,4-ヘプタジエナールをさらに含有することができる。2,4-ヘプタジエナールは、分子式C7H10Oで表されるテルペン系アルデヒド類の一種であり、レバー臭や魚臭等を呈することが知られている。
【0023】
本発明の茶芳香組成物における2,4-ヘプタジエナールの含有量は、特に限定されないが、例えば0.001ppb以上であり、好ましくは0.003ppb以上、0.01ppb以上、0.1ppb以上、1ppb以上、10ppb以上、20ppb以上、50ppb以上、70ppb以上、100ppb以上、150ppb以上、200ppb以上、250ppb以上、300ppb以上、500ppb以上、700ppb以上、1000ppb以上、又は1500ppb以上である。2,4-ヘプタジエナールが前記範囲内の含有量で上記の芳香成分と共に存在することにより、本発明の茶芳香組成物は、より優れた花香を発揮するようになる。茶芳香組成物における2,4-ヘプタジエナールの含有量の上限値は、特に制限されない。例えば、当該含有量は10000ppb以下、8000ppb以下、又は5000ppb以下である。本発明の茶芳香組成物における2,4-ヘプタジエナールの含有量は、典型的には、0.001~10000ppb、好ましくは1~8000ppb、より好ましくは50~8000ppbである。
【0024】
本発明の茶芳香組成物は、上記のリナロール、ゲラニオール、2-メチルブタナール及び2,4-ヘプタジエナールに加えて、α-イオノン、β-シクロシトラール、(z)-3-ヘキセノール、1-ペンテン-3-オール、ネロリドール、ヘキサナール、(E)-リナロールオキシド、β-ミルセン、トランス-β-オシメン、L-α-テルピネオール、サリチル酸メチル、ベンジルアルコール及びインドールからなる群より選択される一以上の香気成分をさらに含有することができる。これらの香気成分を本発明の茶芳香組成物に含有させることにより、より一層優れた花香が呈されるようになる。
【0025】
本発明の茶芳香組成物におけるα-イオノンの含有量は、例えば0.0001~100ppm、好ましくは0.001~10ppm、より好ましくは0.01~1ppmである。本発明の茶芳香組成物におけるβ-シクロシトラールの含有量は、例えば0.0001~100ppm、好ましくは0.001~10ppm、より好ましくは0.01~1ppmである。本発明の茶芳香組成物における(z)-3-ヘキセノールの含有量は、例えば0.01~100ppm、好ましくは0.1~50ppm、より好ましくは1~20ppmである。本発明の茶芳香組成物における1-ペンテン-3-オールの含有量は、例えば0.01~100ppm、好ましくは0.1~50ppm、より好ましくは1~20ppmである。本発明の茶芳香組成物におけるネロリドールの含有量は、例えば0.0001~100ppm、好ましくは0.001~50ppm、より好ましくは0.01~20ppmである。本発明の茶芳香組成物におけるヘキサナールの含有量は、例えば0.001~100ppm、好ましくは0.01~50ppm、より好ましくは0.1~20ppmである。本発明の茶芳香組成物における(E)-リナロールオキシドの含有量は、例えば0.01~1000ppmである。本発明の茶芳香組成物におけるβ-ミルセンの含有量は、例えば0.01~1000ppmである。本発明の茶芳香組成物におけるトランス-β-オシメンの含有量は、例えば0.01~1000ppmである。本発明の茶芳香組成物におけるL-α-テルピネオールの含有量は、例えば0.01~1000ppmである。本発明の茶芳香組成物におけるサリチル酸メチルの含有量は、例えば0.01~1000ppmである。本発明の茶芳香組成物におけるベンジルアルコールの含有量は、例えば0.01~1000ppmである。本発明の茶芳香組成物におけるインドールの含有量は、例えば0.01~1000ppmである。
【0026】
本発明において、茶芳香組成物におけるリナロール、ゲラニオール、2-メチルブタナール及び2,4-ヘプタジエナールの含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定することができる。また、その分析装置としては、フラッシュGCノーズ HERACLES II(アルファ・モス・ジャパン)を用いることができる。具体的には、下記の条件により各種芳香成分の含有量を測定することができる。
ガスクロマトグラフィー装置:フラッシュGCノーズ HERACLES II
カラム1:MXT-5(微極性 10m、180μm ID、0.4μm)
カラム2:MXT-WAX(高極性 10m、180μm ID、0.4μm)
キャリアガス流量:水素 1.6mL/min
水素炎イオン化検出器(FID)温度:260℃
インジェクター温度:200℃
オーブン温度:40℃(5秒)~1.5℃/秒~250℃(90秒)
注入時間:125秒
トラップ温度:吸着50℃、脱離240℃
トラップ時間:吸着130秒、プレ加熱35秒
測定用サンプルに関する条件は、後述の実施例で示した通りに設定することができる。
【0027】
また、本発明において、茶芳香組成物におけるα-イオノン、β-シクロシトラール、(z)-3-ヘキセノール、1-ペンテン-3-オール、ネロリドール、ヘキサナール、(E)-リナロールオキシド、β-ミルセン、トランス-β-オシメン、L-α-テルピネオール、サリチル酸メチル、ベンジルアルコール及びインドールの含有量は、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)を用いて測定することができる。具体的には、下記の条件により各種芳香成分の含有量を測定することができる。
装置:GC:Agilent Technologies GC7890B
MS:Agilent Technologies 5977A
HS:Gestel MPS
Tube:Tenax TA, Carbon bx1000
カラム:HP-INNOWAX 60m x 0.25mmi.d. df=0.25μm
温度条件:40℃(4分)~5℃/分~260℃
キャリアガス流量:He 1.5ml/分
注入法:スプリットレス
イオン源温度:260℃
測定用サンプルに関する条件は、後述の実施例で示した通りに設定することができる。
【0028】
本発明では、リナロールやゲラニオール等の芳香成分が配糖体である場合は、特に示した場合を除き、芳香成分の量は、リナロール自体及びゲラニオール自体等のように糖部分を除いた芳香成分自体に相当する量を指す。配糖体(糖部分)の除去は、適切な糖加水分解酵素を用いることにより実施できる。
【0029】
本発明の茶芳香組成物は、特に限定されないが、いずれもBrix値が0~0.50である。ここで、本明細書において「Brix値」とは、糖度計や屈折計などを用いて20℃で測定された屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表に基づいてショ糖溶液の質量/質量パーセントに換算した値を意味し、その単位は、「°Bx」、「%」又は「度」と表記される場合もある。本発明では、Brix値が高いほど茶芳香組成物中の可溶性固形分の含有量が高いことを表し、Brix値を茶芳香組成物の濃縮化の指標として用いることができる。本発明においてBrix値は、市販のBrix計を用いて測定することができる。本発明の茶芳香組成物のBrix値は、好ましくは0.03~0.40、より好ましくは0.05~0.30、さらに好ましくは0.10~0.20である。
【0030】
本発明の茶芳香組成物のpHは、25℃において4.5~8.5が好ましい。pHが前記範囲内であることにより、優れた花香が発揮されるようになり、飲食品などへの香気付与剤としてもより取り扱いやすいものとなる。本発明の茶芳香組成物のpHは、より好ましくは5.0~8.0であり、さらに好ましくは5.5~7.5である。pHの調整は、pH調整剤を用いて適宜行うことができる。
【0031】
本発明の茶芳香組成物は、茶葉の水蒸気蒸留を行って製造できることから、茶葉の留出液を含むことができる。本発明の茶芳香組成物は、茶葉留出液それ自体であってもよいし、これを水や、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコールなどの溶媒を用いて希釈又は分散したものであってもよい。本発明の茶芳香組成物に含まれる茶葉留出液の量は、特に限定されないが、例えば0.01重量%以上、0.1重量%以上、又は1重量%以上であり、好ましくは5重量%以上、10重量%以上、又は30重量%以上であり、より好ましくは50重量%以上である。
【0032】
本発明の茶芳香組成物は、上記に示した各種成分に加えて、通常の飲食品に用いられる添加物、例えば、酸化防止剤、保存料、甘味剤、栄養強化剤、増粘安定剤、乳化剤、食物繊維、品質安定剤などを、本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0033】
本発明の茶芳香組成物は、そのまま、或いは水等で希釈して飲食品に添加することができる。飲料としては、例えば、茶飲料、スポーツ飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳飲料、酒類などが挙げられ、茶飲料が特に好ましい。茶飲料は、不発酵茶(緑茶など)、半発酵茶(ウーロン茶など)、発酵茶(紅茶など)を含むが、具体的には、煎茶、番茶、ほうじ茶、玉露、かぶせ茶、甜茶等の蒸し製の不発酵茶(緑茶);嬉野茶、青柳茶、各種中国茶等の釜炒茶等の不発酵茶;包種茶、鉄観音茶、ウーロン茶等の半発酵茶;紅茶、阿波番茶、プアール茶などの発酵茶等の茶類を挙げることができる。本発明の茶芳香組成物が利用される茶飲料は、好ましくは緑茶である。本発明の茶芳香組成物が添加された飲料は、ペットボトルや缶等に充填された容器詰め飲料として提供することができる。
【0034】
本発明の茶芳香組成物はまた、食品にも添加することができる。そのような食品としては、例えば、和菓子及び洋菓子を問わず、菓子類としてケーキ、カステラ、キャンディー、クッキー、ゼリー、プリン、チョコレートなど、冷菓類としてアイスクリーム、アイスキャンディー、シャーベットなど、またはスナック類などが挙げられ、パンや乳製品などにも使用することができる。
【0035】
本発明の茶芳香組成物が飲食品に添加される場合、その添加量は飲食品の種類等に応じて適宜設定することができる。本発明の茶芳香組成物は、例えば、飲食品中のその含有量が0.001~10重量%(w/w)、好ましくは0.003~7.5重量%(w/w)、より好ましくは0.005~5重量%(w/w)、さらに好ましくは0.01~3.5重量%(w/w)となるように飲食品に添加することができる。
【0036】
また、本発明の茶芳香組成物を飲食品に添加する量は、リナロール、ゲラニオール、2,4-ヘプタジエナール、及び2-メチルブタナールからなる群より選択される一以上の含有量を指標にして設定することもできる。例えば、飲食品中のリナロールの含有量が1~1000ppb(w/w)、好ましくは3~500ppb(w/w)、より好ましくは5~300ppb(w/w)、さらに好ましくは10~200ppb(w/w)となるように、本発明の茶芳香組成物を飲食品に添加することができる。例えば、飲食品中のゲラニオールの含有量が1~800ppb(w/w)、好ましくは3~400ppb(w/w)、より好ましくは5~200ppb(w/w)、さらに好ましくは10~100ppb(w/w)となるように、本発明の茶芳香組成物を飲食品に添加することができる。例えば、飲食品中のリナロール及びゲラニオールの合計含有量が1~1000ppb(w/w)、好ましくは5~800ppb(w/w)、より好ましくは10~600ppb(w/w)、さらに好ましくは20~400ppb(w/w)となるように、本発明の茶芳香組成物を飲食品に添加することができる。例えば、飲食品中の2-メチルブタナールの含有量が0.1~500ppb(w/w)、好ましくは0.3~300ppb(w/w)、より好ましくは0.3~100ppb(w/w)、さらに好ましくは1~50ppb(w/w)となるように、本発明の茶芳香組成物を飲食品に添加することができる。例えば、飲食品中の2,4-ヘプタジエナールの含有量が0.001~100ppb(w/w)、好ましくは0.01~50ppb(w/w)、より好ましくは0.05~30ppb(w/w)、さらに好ましくは0.1~20ppb(w/w)となるように、本発明の茶芳香組成物を飲食品に添加することができる。
【0037】
(製造方法)
本発明の茶芳香組成物の製造方法について、以下に説明する。なお、本発明は、別の態様として、以下に示した工程を含む茶芳香組成物の製造方法とすることができる。
【0038】
本発明の茶芳香組成物は、茶葉を蒸留する工程を経て製造することができる。原料となる茶葉は上記に説明した通りであり、本発明では、好ましくは茎茶、雁が音、碾骨等の茎部を原料として用いることができる。
【0039】
原料となる茶葉の形態は、特に限定されるものではなく、生の茶葉を使用してもよく、焙煎した茶葉、又は発酵させた茶葉を使用してもよい。また、茶葉は、水蒸気蒸留処理を行う前に加熱処理などを行ったり、必要に応じて粉砕や湿潤などの工程を加えたりしてもよい。
【0040】
水蒸気蒸留処理の前に行う茶葉の加熱処理は、例えば、茶葉を水に浸漬させた状態で行うことができる。茶葉を水に浸漬させる場合は、浸漬した状態で茶葉を撹拌してもよい。また、茶葉は粉砕して水に浸漬させてもよい。茶葉を水に浸漬させる場合、例えば、茶葉の重量1に対して0.1~20倍、好ましくは1~15倍、より好ましくは3~10倍の重量の水を用いることができる。また、茶葉を加熱するときの温度(例えば、水の温度)は、例えば20~100℃、好ましくは30~80℃、より好ましくは35~70℃とすることができる。また、茶葉の加熱時間(例えば、茶葉の水への浸漬時間)は、例えば10分~10時間、好ましくは30分~6時間、より好ましくは1~4時間、さらに好ましくは1.5~3時間とすることができる。
【0041】
水蒸気蒸留処理を行う前に茶葉を湿潤する方法としては、例えば、茶葉を水に浸漬させたり、霧吹き等で茶葉に水を噴霧させたりする方法が挙げられる。茶葉を水に浸漬させる場合は、浸漬した状態で茶葉を撹拌してもよい。茶葉の湿潤においては、特に限定されないが、茶葉の重量1に対して、例えば0.1~5倍、好ましくは0.3~3倍、より好ましくは0.5~2倍の重量の水が用いられる。
【0042】
茶葉を蒸留する方法としては、典型的には水蒸気蒸留法が利用される。水蒸気蒸留法は、原料(茶葉)に水蒸気を通し、水蒸気に伴って留出してくる香気成分を冷却凝縮させる方法であり、常圧水蒸気蒸留、減圧水蒸気蒸留、気液多段式向流接触蒸留(スピニングコーンカラム)などの方式を採用することができる。本発明では、好ましくは常圧水蒸気蒸留又は減圧水蒸気蒸留の方式が利用されるが、常圧水蒸気蒸留方式を利用することがより好ましい。水蒸気蒸留では蒸留の初期に芳香が多く留出し、その後徐々に芳香の留出が少なくなる。蒸留を終了する時点は、目的とする芳香成分の量や経済性等に応じて適宜設定することができる。茶葉の水蒸気蒸留は、当業者に公知の水蒸気蒸留装置を用いて行うことができる。
【0043】
茶葉の水蒸気蒸留においては、典型的には煮出し式の水蒸気蒸留が行われる。煮出し式の水蒸気蒸留とは、水中に原料(茶葉)を浸漬させた状態で加熱を行い、発生した水蒸気を回収して冷却し、留出液を得る方法である。煮出し式の水蒸気蒸留を行う場合、原料である茶葉は、茶葉の重量1に対して、例えば0.1~20倍、好ましくは1~15倍、より好ましくは3~10倍の重量の水に浸漬される。煮出し式の水蒸気蒸留において、蒸気流量は、例えば5~50kg/hr、好ましくは10~40kg/hr、より好ましくは15~30kg/hrとすることができる。また、煮出し式の水蒸気蒸留を行う場合の蒸気圧力は、常圧水蒸気蒸留方式において、例えば0.05~0.5MPa、好ましくは0.1~0.4MPa、より好ましくは0.15~0.3MPaである。また、煮出し式の水蒸気蒸留を行う場合の蒸留温度は、常圧水蒸気蒸留方式において、特に限定されないが、好ましくは100℃である。
【0044】
水蒸気蒸留法では留分回収のために凝縮処理が行われるが、その凝縮は、例えば30℃以下、好ましくは25℃以下、より好ましくは20℃以下の温度で行うことができる。凝縮処理は、特に限定されないが、例えば冷却用の冷媒を用いて行うことができ、冷媒としては不凍液等を利用することができる。冷媒の温度は、例えば20℃以下、好ましくは15℃以下、より好ましくは10℃以下とすることができ、凝縮を行うときの冷媒流量は、例えば10~70L/分、好ましくは15~50L/分、より好ましくは20~40L/分とすることができる。留出液を回収する時間は、目的に応じて適宜設定することができるが、留出液の回収開始から、例えば5分~2時間、好ましくは10分~1時間、より好ましくは15~45分である。また、本発明では、茶芳香組成物の温度が80~100℃となるようにして留分回収を行ってもよい。本発明では、水蒸気蒸留法を用いて、例えば、原料重量に対する回収留液重量の割合が20~70%程度で、Brix値1%未満の茶芳香組成物を得ることができる。
【0045】
本発明においては、上記の通り得られた茶芳香組成物は、さらに濃縮する工程を経て、各種芳香成分の高濃度化を行うことができる。本発明の茶芳香組成物を濃縮化することによって、より力価の高い茶芳香組成物とすることが可能となり、飲食品などに添加する茶芳香組成物の量を抑えたり、飲食品などに対してより高濃度に香気成分を付与させたりすることができる。
【0046】
茶芳香組成物の濃縮方法としては、典型的には蒸留濃縮が行われる。蒸留濃縮では、例えば、茶芳香組成物を蒸留釜に投入し、下部より加熱することで沸騰させ、蒸気とともに香気成分を回収する方式を採用することができる。蒸留濃縮の方法においては、常圧蒸留濃縮及び減圧蒸留濃縮のいずれも採用することができる。本発明では、好ましくは減圧蒸留濃縮の方式が採用される。茶葉留出液の蒸留濃縮は、当業者に公知の蒸留装置を用いて行うことができる。
【0047】
茶芳香組成物の蒸留濃縮において減圧蒸留濃縮を行う場合、蒸気流量は、例えば0.1~80kg/hr、好ましくは1~60kg/hr、より好ましくは3~40kg/hrとすることができる。また、減圧蒸留濃縮を行う場合、加熱に用いる水蒸気の蒸気圧力は、例えば0.1~0.5MPa、好ましくは0.15~0.4MPa、より好ましくは0.2~0.3MPaである。また、減圧蒸留濃縮を行う場合の蒸留温度は、例えば10~100℃、好ましくは20~70℃、より好ましくは35~55℃である。減圧蒸留濃縮を行う場合の減圧度としては、ゲージ圧表記で、例えば0~-0.101MPa、好ましくは-0.050~-0.099MPa、より好ましくは-0.075~-0.095MPaとすることができる。
【0048】
蒸留濃縮も、上記の水蒸気蒸留と同様に蒸留の初期に香気が多く留出し、その後徐々に香気の留出が少なくなる。蒸留を終了する時点は、目的とする香気成分の量や経済性等に応じて適宜設定することができ、蒸留を終了させた時点で濃縮倍率が決定される。蒸留濃縮における留分回収のための凝縮処理は、例えば30℃以下、好ましくは25℃以下、より好ましくは20℃以下の温度で行うことができる。蒸留濃縮での凝縮処理も、上記の水蒸気蒸留での凝縮処理と同様に特に限定されず、例えば冷却用の冷媒を用いて行うことができ、冷媒としては不凍液等を利用することができる。冷媒の温度は、例えば20℃以下、好ましくは15℃以下、より好ましくは10℃以下とすることができ、凝縮を行うときの冷媒流量は、例えば10~70L/分、好ましくは15~50L/分、より好ましくは20~40L/分とすることができる。蒸留濃縮における留出液の回収時間は、目的に応じて適宜設定することができるが、留出液の回収開始から、例えば2分~1時間、好ましくは5~45分、より好ましくは10~30分である。本発明では、蒸留濃縮を行って、茶芳香組成物重量に対する回収留液重量の割合が3~20%、すなわち5~30倍程度の濃縮倍率の茶芳香組成物を得ることができる。
【0049】
また、蒸留濃縮(好ましくは減圧蒸留濃縮)を行う際には、塩析と呼ばれる操作を行ってもよい。塩析処理を行うことによって、蒸留釜に投入した留出液中で塩の極性が水分子を引き込み、有機化合物の揮発を促進することができる。塩析処理は、濃縮対象とする留出液に塩を含有させることにより行うことができる。例えば、蒸留濃縮の処理を行う前、又はその処理中に、蒸留釜の中に塩を投入することにより塩析処理を行うことができ、或いは、濃縮対象とする留出液の中にあらかじめ塩を添加しておいて、塩を含んだ留出液を蒸留濃縮することにより塩析処理を行うことができる。
【0050】
塩析処理における塩としては、典型的に塩化ナトリウムが用いられる。塩析処理を行う際に使用する塩の量は、濃縮前の留出液重量に対して、例えば0.01~10重量%(w/w)、好ましくは0.05~6重量%(w/w)、より好ましくは0.5~3重量%(w/w)である。
【0051】
本発明の茶芳香組成物は、さらに活性炭処理を行う工程を経て製造されてもよい。活性炭処理を行うことによって、不要な香気成分の量を低減することができる。ここで、本明細書において「活性炭」とは、木などの炭素物質から高温での活性化反応を経て製造される、多孔質の、炭素を主な成分とする物質を意味する。
【0052】
使用される活性炭の形態は限定されないが、本発明においては粉末活性炭であることが好ましい。粉末活性炭の平均細孔径は、特に限定されないが、例えば0.3~30nmであり、好ましくは0.5~20nmであり、より好ましくは1~15nmであり、さらに好ましくは1~5nmである。粉末活性炭の平均細孔径は、当業者に公知の比表面積/細孔分布測定装置を用いて測定することができる。
【0053】
活性炭の由来は特に限定されず、例えば、木由来活性炭、やし殻由来活性炭、竹由来活性炭、もみ殻由来活性炭などから選択することができ、これらのうち一種類の活性炭だけを用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。本発明においては、木由来活性炭、及びやし殻由来活性炭が好ましく、木由来活性炭が特に好ましい。
【0054】
活性炭処理を行う方法は、特に限定されないが、例えば、活性炭粉末を用いた場合であれば、本発明の茶芳香組成物に活性炭粉末を添加して、適宜時間をおいてからフィルター等を用いて当該活性炭粉末を除去する方法が採用される。活性炭粉末の添加量は、茶芳香組成物の重量に対する濃度として、例えば10~1000ppm(w/w)、好ましくは50~300ppm(w/w)、より好ましくは75~125ppm(w/w)とすることができ、本発明の茶芳香組成物に活性炭粉末を接触させる時間は、例えば1~60分間、好ましくは3~30分間、より好ましくは5~20分間とすることができる。なお、本発明の茶芳香組成物に活性炭粉末を接触させている間は、撹拌操作などを行ってもよい。活性炭処理における処理温度は、例えば1~30℃、好ましくは2~20℃、より好ましくは3~10℃とすることができる。
【0055】
上記の通り得られた茶芳香組成物においては、特に制限されないが、リナロール、ゲラニオール、2-メチルブタナール及び2,4-ヘプタジエナール等の芳香成分をさらに添加してもよい。また、上述した通り、本発明の茶芳香組成物は飲食品に添加することができ、飲食品における花香の香りを高めることができる。したがって、本発明は、別の態様として、上記の工程を通じて得られた茶芳香組成物を飲食品に添加する工程を含む、飲食品における花香を高める方法とすることができる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例に基づいて本発明の説明をするが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
1.茶芳香組成物の作製
(1)水蒸気蒸留による茶芳香組成物の作製
市販の茎茶の茶葉15kgを計量し、これを100kgの水と混合して50℃で2時間保持し、茶葉の加熱処理を行った。次いで、茶葉を含んだ状態で処理後の溶液を水蒸気蒸留釜に投入し、蒸気圧力0.25MPa、蒸気流量20kg/hr、蒸気温度100℃(常圧)の条件で煮出し式の水蒸気蒸留を行った。冷却冷媒温度を往4℃及び復6℃とし、30L/分の冷媒流量で凝縮を行い、留出液を回収した。留出液の回収時間は、留出が開始してから30分間とし、回収された留出液の液量は8kgであった。この操作を10回行って合計80kgの留出液(茶芳香組成物)を得た。
【0058】
(2)活性炭処理
上記の茶芳香組成物について活性炭処理を行った。具体的には、留出液80kgに対して、平均細孔径3nmの木由来粉末活性炭(大阪ガスケミカル、白鷺WP-Z)を8g添加し、10分間スターラーで攪拌した。次いで、ろ紙(ADVANTEC、No.2)を用いて留出液中の活性炭を除去した。なお、活性炭処理における処理温度は6℃とした。
【0059】
(3)減圧蒸留濃縮処理
上記の通り活性炭処理を行った茶芳香組成物80kgを、40kgずつ2回に分けて蒸留釜に投入し、真空ポンプを用いて-0.09MPaまで蒸留釜の系内を減圧した。これを蒸気流量5~15kg/hr、蒸気圧力0.25MPaの条件で加熱をして留出液の液温を40~50℃まで上昇させた。冷却冷媒温度を往4℃及び復6℃とし、31L/分の冷媒流量で凝縮を行い、留出液を回収した。留出液の回収時間は、留出が開始してから15分間とし、回収された留出液の液量は合計4kgであった(20倍濃縮)。
【0060】
(4)茶芳香組成物の評価
上記の各種処理により得られた茶芳香組成物においては、いずれも花香として優れた香りが感じられた。これらの茶芳香組成物について芳香成分の分析を行ったところ、リナロール、ゲラニオール、2-メチルブタナール、2,4-ヘプタジエナール、α-イオノン、β-シクロシトラール、(z)-3-ヘキセノール、1-ペンテン-3-オール、ネロリドール、ヘキサナール、(E)-リナロールオキシド、β-ミルセン、トランス-β-オシメン、L-α-テルピネオール、サリチル酸メチル、ベンジルアルコール及びインドール等が検出された。各種芳香成分の中からリナロール、ゲラニオール、2-メチルブタナール及び2,4-ヘプタジエナールの存在に着目して、茶芳香組成物におけるこれらの成分の濃度を以下の通り測定した。
【0061】
<検量線>
対象とする芳香成分が1000ppmの濃度となるよう標準原液(エタノール溶媒)を作製し、それぞれの標準原液について純水で0.004、0.02、0.05、0.1、0.2、0.5ppmに調製した。各種調製液10mLを、塩化ナトリウム3gが入った20mL容量のバイアル瓶に投入して検量線サンプルとした。
【0062】
<分析サンプルの作製>
検量線の濃度範囲に入るように茶芳香組成物を純水で適宜希釈し、この希釈された茶芳香組成物10mLと塩化ナトリウム3gとを20mL容量のバイアル瓶に投入し、分析サンプルを作製した。
【0063】
<成分分析>
ガスクロマトグラフィー分析装置(アルファ・モス・ジャパン、フラッシュGCノーズ
HERACLES II)を用いて、各種芳香成分の濃度を測定した。
(サンプリングパラメーター)
インキュベーション:60℃、15分
シリンジ:温度:70℃、注入後洗浄:90秒
ヘッドスペース注入:250μl/秒で5000μl
(装置パラメーター)
カラム1:MXT-5(微極性 10m、180μm ID、0.4μm)
カラム2:MXT-WAX(高極性 10m、180μm ID、0.4μm)
キャリアガス流量:水素 1.6mL/min
水素炎イオン化検出器(FID)温度:260℃
インジェクター温度:200℃
オーブン温度:40℃(5秒)~1.5℃/秒~250℃(90秒)
注入時間:125秒
トラップ温度:吸着50℃、脱離240℃
トラップ時間:吸着130秒、プレ加熱35秒
【0064】
各種芳香成分の濃度の測定結果は下記の通りであった。
【0065】
【0066】
なお、その他の芳香成分については下記の条件で濃度を測定し、下表に示した結果が得られた。
【0067】
<成分分析>
上記と同様にして作製した分析サンプルを、ゲステル社製MPSを用いたMVM(Multi Volatile Method)法によりガスクロマトグラフィー質量分析装置(アジレント社)に導入し、各種芳香成分の濃度を測定した。
装置:GC:Agilent Technologies GC7890B
MS:Agilent Technologies 5977A
HS:Gestel MPS
Tube:Tenax TA, Carbon bx1000
カラム:HP-INNOWAX 60m x 0.25mmi.d. df=0.25μm
温度条件:40℃(4分)~5℃/分~260℃
キャリアガス流量:He 1.5ml/分
注入法:スプリットレス
イオン源温度:260℃
【0068】
【0069】
2.茶芳香組成物における芳香成分比率の検討
上記の測定結果から、リナロール、ゲラニオール及び2-メチルブタナールに着目し、特に2-メチルブタナールの存在とその含有率について検討した。まず予備実験として、上記の通り得られた茶芳香組成物を水で希釈したものと、当該希釈物中の濃度となるよう各種芳香成分の標準品を水に添加したものとを比べたところ、感じられる花香の違いは両者の間でほとんどないことが確認された。また、リナロール標準品とゲラニオール標準品とを、濃度比率を変えながらそれぞれ水に添加して香りを調べたところ、いずれの濃度比率においても感じられる香りに大きな違いはなく、少なくともリナロールとゲラニオールとの濃度比率(リナロール:ゲラニオール)が1:10~20:1の範囲では香りの違いはほとんど感じられないことを確認した。
【0070】
上記の事前確認を行った上で、リナロール、ゲラニオール及び2-メチルブタナールの標準品を最終濃度が下表の通りとなるように水に添加して、各種試料を調製した。なお、各種標準品に含まれる芳香成分の濃度は未知であったことから、あらかじめガスクロマトグラフィーによる濃度測定を行った。具体的には、2-メチルブタナールは水に溶解しにくかったことから濃度測定用サンプルを作製するため、入手した標準品を3~100倍のエタノールに溶解した後、当該エタノール溶解物を50~5000倍の水で更に希釈し、濃度測定用サンプルとした。リナロール、ゲラニオール、及び2,4-ヘプタジエナールの標準品は50~5000倍の間で純水を用いて希釈し、検量線範囲内の濃度になるように適宜調整して濃度測定用サンプルとした。ガスクロマトグラフィーでの分析は、上記と同様の方法を用いて行った。
【0071】
標準品を用いて調製した各種試料について、香味の評価に関して十分に訓練された3~4名のパネリストで官能評価を実施した。官能評価としては、試料において感じられる花香の程度について下記の5段階で評価し(0.5点刻み)、評価点の平均値を算出した。なお、官能評価においては、2-メチルブタナールを添加していない試料(試料1-1)の評価点を3点として、各種試料の評価を行った。
1:花香を感じない
2:花香をやや感じる
3:花香を感じる
4:花香を強く感じる(花香が優れている)
5:花香を非常に強く感じる(花香が非常に優れている)
【0072】
【0073】
上記に示された通り、2-メチルブタナールが存在することにより優れた花香が感じられることが明らかとなり、2-メチルブタナール含有量のリナロール及びゲラニオールの合計含有量に対する重量比(2-メチルブタナール/(リナロール+ゲラニオール))が所定の範囲となることによって優れた花香の程度が向上することが示された。
【0074】
次に、上記表に示された各種芳香成分の濃度をそれぞれ0.5倍及び2倍にしたときの評価を実施した。試料の調製と官能評価は上記と同様にして行った。
【0075】
【0076】
結果は上記の通りであり、各種芳香成分の濃度をそれぞれ0.5倍及び2倍にした場合であっても同様の傾向が見られた。
【0077】
また、本実験では、芳香成分に関して2,4-ヘプタジエナールの追加効果を検討した。具体的には、上記の試料1-2に示された組成において、2,4-ヘプタジエナールの最終濃度が0.4~20ppbとなるように複数の試料を調製し、試料において感じられる香りについて官能評価を行った。その結果、2,4-ヘプタジエナールを追加することによって、香りに関して丸みを帯びて余韻が感じられやすくなり、濃度の上昇に伴って香りがまとまるようになって花香が増強するように感じられた。
【0078】
3.茶芳香組成物の効果
活性炭処理及び減圧蒸留濃縮処理を行った茶芳香組成物を作製し(リナロール:56341ppb、ゲラニオール:11913ppb、2-メチルブタナール:4261ppb、2,4-ヘプタジエナール:211ppb)、市販の茶飲料(サントリー、伊右衛門)に添加して官能評価を行った。具体的には、下表に示した通りの量で茶芳香組成物を茶飲料200mLに添加し、香味の評価に関して十分に訓練された4名のパネリストで官能評価を実施した。官能評価としては、花香が付与されることにより茶飲料の品質が向上する程度と、感じられる花香の強さとを合わせた総合評価を行い、1点(低評価)~5点(高評価)の5段階で、0.5点刻みで採点し、最終的に評価点の平均値を算出した。なお、官能評価においては、茶芳香組成物を添加していない茶飲料(茶飲料1)の評価点を3点として、各種茶飲料の評価を行った。
【0079】
【0080】
上記に示された通り、茶芳香組成物を添加することによって茶飲料に対して花香を十分に付与でき、茶飲料の品質を大きく向上させることが示された。
【0081】
4.Brix値の測定
水蒸気蒸留処理により得られた茶芳香組成物を作製し、このBrix値を測定したところ0.02であった。また、この茶芳香組成物を、エバポレーターを用いて下表の通り濃縮し、それぞれBrix値を測定した。なお、Brix値は、デジタル屈折計(アタゴ)を用いて測定した。
【0082】
【0083】
結果は上記の通りであり、Brix値はいずれも0.50以下であった。