(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】積層造形用銅粉末、積層造形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/052 20220101AFI20240827BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240827BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240827BHJP
C22C 1/05 20230101ALI20240827BHJP
B22F 10/36 20210101ALI20240827BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240827BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240827BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240827BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240827BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240827BHJP
B22F 10/34 20210101ALI20240827BHJP
【FI】
B22F1/052
B22F10/28
B22F1/00 L
C22C1/05 E
B22F10/36
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y70/00
B33Y80/00
B82Y30/00
B22F10/34
(21)【出願番号】P 2021526057
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2020022203
(87)【国際公開番号】W WO2020250811
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2019110429
(32)【優先日】2019-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000239426
【氏名又は名称】福田金属箔粉工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514227988
【氏名又は名称】技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100134430
【氏名又は名称】加藤 卓士
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 雄史
(72)【発明者】
【氏名】京極 秀樹
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-203543(JP,A)
【文献】特開2016-078097(JP,A)
【文献】国際公開第2019/017467(WO,A1)
【文献】特開2018-197389(JP,A)
【文献】特開2018-154850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-3/26
B22F 10/34
B22F 10/28
C22C 1/05
B22F 10/36
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B33Y 70/00
B33Y 80/00
B82Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルク電気伝導率が100%IACS以上であり、平均粒子径が5μm以上10μm以下である純銅粉体に、
一次平均粒子径が10nm以上100nm以下であるナノ酸化物が
0.10wt%以上0.20wt%以下混合され
、粉体抵抗値が(7.50E+5)Ω以上(2.50E+7)Ω以下である積層造形用銅粉末。
【請求項2】
前記ナノ酸化物は、SiO
2である請求項1に記載の積層造形用銅粉末。
【請求項3】
前記積層造形用銅粉末のJIS Z2502により測定された流動性が、15sec/50g以上120sec/50g以下である請求項1または2に記載の積層造形用銅粉末。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の積層造形用銅粉末を用いて積層造形体を製造する積層造形体の製造方法であって、
前記積層造形用銅粉末を層状に敷き詰めてパウダベッドを形成するパウダベッド形成工程と、
層状に敷き詰められた前記積層造形用銅粉末に、レーザ出力が1kW以下でエネルギー密度が500J/mm
3以上1500J/mm
3以下となるようにレーザビームを走査しながら照射して、1層の積層造形体を造形する造形工程と、
を含む積層造形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅粉末による積層造形に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野において、銅の電気伝導性が高いため溶融に必要なエネルギーが高くなったりビームの表面反射が強くなったりするので、安定して積層造形を行うことが困難なのが現状である。特許文献1には、ニッケル合金であるインコネル718(登録商標:Inconel 718)の表面に、処理剤として100ppm未満のナノシリカ(SiO2)の層を形成して、付加製造技術(3Dプリンティング技術)における金属粉末の流動や拡散特性を改善する技術が開示されている。また、特許文献2には、Al、Co、Cr、Fe、Ni等の合金からなる平均直径10μm以上200μm以下の金属粉体と、金属粉体よりも真球度が高く、平均直径が金属粉体の1/10以下、かつ体積分率が金属粉体の0.001%以上1%以下であるセラミック、シリカまたはアルミナの粉体との混合物を積層造形用粉体とすることにより、流動性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-041850号公報
【文献】特許第6303016号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】溝口正「物質科学の基礎物性物理学」,126-128頁,1989年4月,裳華房発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献に記載の技術は、積層造形用銅粉末の流動性の改善を目的とする技術でありその電気伝導性については考慮されてないので、これらの開示技術によっては、銅の積層造形物として有用である高い電気伝導性(例えば、80%IACS以上)を有する積層造形物を造形するための積層造形用銅粉末を提供できない。
【0006】
本発明の目的は、上述の課題を解決する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る積層造形用銅粉末は、
バルク電気伝導率が100%IACS以上であり、平均粒子径が5μm以上10μm以下である純銅粉体に、一次平均粒子径が10nm以上100nm以下であるナノ酸化物が0.10wt%以上0.20wt%以下混合され、粉体抵抗値が(7.50E+5)Ω以上(2.50E+7)Ω以下である積層造形用銅粉末である。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る積層造形体の製造方法は、
上記積層造形用銅粉末を用いて積層造形体を製造する積層造形体の製造方法であって、
前記積層造形用銅粉末を層状に敷き詰めてパウダベッドを形成するパウダベッド形成工程と、
層状に敷き詰められた前記積層造形用銅粉末に、レーザ出力が1kW以下でエネルギー密度が500J/mm3以上1500J/mm3以下となるようにレーザビームを走査しながら照射して、1層の積層造形体を造形する造形工程と、
を含む積層造形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電気伝導性が高い銅の積層造形物を造形することが可能な積層造形用銅粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る積層造形装置の構成例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る純銅粉体とナノ酸化物との混合状態を説明する図である。
【
図3A】本発明の実施形態に係る純銅粉体とナノ酸化物との混合粉末の粉末抵抗値の変化を示す図である。
【
図3B】本発明の実施形態に係る純銅粉体とナノ酸化物との混合粉末の粉末抵抗値の測定方法を示す図である。
【
図3C】本発明の実施形態に係る純銅粉体とナノ酸化物との混合粉末の粉末抵抗値の測定手順を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る純銅粉体とナノ酸化物との混合粉末の電気伝導率と積層造形体を製造する場合のエネルギー密度とを示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る純銅粉体とナノ酸化物との混合粉末から積層造形体を製造する場合のエネルギー密度と製造された純銅の積層造形体の電気伝導率とを示す図である。
【
図6A】本発明の実施形態においてせん断応力を測定するためのせん断応力測定部の構成を示す図である。
【
図6B】本発明の実施形態においてせん断応力測定部で測定されたせん断応力に基づいて付着力を求める方法を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態における粉末を積層造形装置においてパウダベッドを形成した状態を示す図である。
【
図8A】本発明の実施例で使用される平均粒子径28.6μmの純銅粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【
図8B】本発明の実施例で使用される平均粒子径19.9μmの純銅粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【
図8C】本発明の実施例で使用される平均粒子径13.5μmの純銅粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【
図8D】本発明の実施例で使用される平均粒子径9.6μmの純銅粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【
図8E】本発明の実施例で使用される平均粒子径3.1μmの純銅粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【
図9A】本発明の実施例で使用されるナノ酸化物の特性を示す図である。
【
図9B】本発明の実施例で使用されるナノ酸化物の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【
図10A】本発明の実施例において平均粒子径9.6μmの純銅粉体と0.10wt%のナノ酸化物との混合粉末から製造された純銅の積層造形物表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【
図10B】本発明の実施例において平均粒子径13.5μmの純銅粉体と0.01wt%のナノ酸化物との混合粉末から製造された純銅の積層造形物表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【
図10C】本発明の比較例において平均粒子径19.9μmの純銅粉体と0.10wt%のナノ酸化物との混合粉末から製造された純銅の積層造形物表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【
図10D】本発明の実施例において平均粒子径28.6μmの純銅粉体から製造された純銅の積層造形物表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施の形態に記載されている構成要素は単なる例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0014】
《本実施形態の純銅粉末を用いて積層造形された積層造形体の用途》
本実施形態において使用される純銅粉末は、積層造形の材料として使用される、純銅粉末を用いた積層造形体が作成可能となれば、電気回路のコネクタ、ヒートシンクや熱交換器などの分野における微細な造形が可能となる。
【0015】
かかる用途においては、純銅粉末を用いた積層造形体が十分な密度(アルキメデス法による測定密度が98.5%以上)を有するのが望ましい。上記測定密度が98.5%に満たない場合には、水漏れなどの問題が発生する。また、銅の電気伝導性や熱伝導性を利用する場合には、純銅製品として十分な電気伝導率(80%IACS以上)を有するのが望ましい。なお、純銅粉末を用いた積層造形体は上記例に限定されず、他に回路部品や電磁波シールド部品として利用されてもよい。
【0016】
《積層造形用銅粉末》
一般に、金属積層造形においては、レーザビーム積層造形ではファイバレーザを熱源とし、金属粉末を溶融凝固することで任意の形状を成形していく。この場合に、電気伝導率の低い材料では高密度な造形体が得られるが、電気伝導率の高い材料では高密度な造形体が得られないことが多い。銅は高い電気伝導率および熱伝導率を有する元素であり、レーザビーム積層造形を用いた複雑形状の電気伝導部品や熱伝導部品の作製が期待されるが、純銅粉末では高密度な造形体を作製することができない。その理由は、純銅粉末を使用した場合、電気伝導率の高さからレーザ照射時に熱エネルギーが拡散し、さらに、レーザ照射時にレーザ光が反射するため、純銅粉末が溶融するために必要な熱エネルギーが得られないためである。
【0017】
そのため、例えばすず(Sn)を含む銅合金粉末や燐(P)を含む銅合金粉末を使用することによって電気伝導率を低減させ、十分な密度(アルキメデス法による測定密度が98.5%以上)を有する積層造形体を製造することが可能になった。しかしながら、すず(Sn)を含む銅合金粉末や燐(P)を含む銅合金粉末では高くても積層造形体の電気伝導率は50%IACSほどで、積層造形体の電気伝導率を80%IACS以上とすることはできない。
【0018】
本実施形態においては、電気伝導率が純銅粉体より低減され、エネルギー密度が1000J/mm3程度の既存の装置で溶融が可能であって、かつ、高密度かつ高伝導率の純銅積層造形体を得られる、積層造形用銅粉末を提供する。
【0019】
以下、本実施形態における、積層造形用銅粉末としての条件を整理する。
【0020】
(積層造形用銅粉末としての条件)
(1) 積層造形用銅粉末の電気伝導率が純銅粉体より低減していること。例えば、粉末抵抗値が純銅粉体の2倍以上となれば望ましい。この条件を満たすことにより、熱の拡散を妨げて高温を維持できて積層造形用銅粉末の溶融を容易にする。例えば、銅粉体を含む積層造形用銅粉末の粉体抵抗値が(7.50E+5)Ωから(2.50E+7)Ωの範囲内であること。
【0021】
(2) 積層造形用銅粉末に含まれる純銅粉体の粒子体積を減少させる(粒子径を小さくする)こと。この条件を満たすことにより、1粒子が溶融するのに必要なエネルギー量を低減させ、積層造形用銅粉末の溶融を容易にする。
【0022】
(3) 積層造形用銅粉末からパウダベッドが形成可能なこと。例えば、積層造形用銅粉末の流動性(JIS Z2502/FR:flow rate)が15~120sec/50gの範囲、好ましくは60sec/50g以下である。あるいは、積層造形用銅粉末の付着力(FT4測定)が0.450kPa以下である。この条件を満たすことにより、パウダベッド方式における積層造形用の金属粉末として使用が可能となる。
【0023】
(4) 積層造形用銅粉末の純銅粉体の含有量が所定以上であること。例えば、積層造形用銅粉末の見掛密度(JIS Z2504)が4.0~5.5g/cm3の範囲であること。銅粉末の見掛け密度をこの範囲とすることにより、パウダベッドの単位体積当たりの銅量が一定に維持されて、積層造形体が純銅の特性を有することができる。
【0024】
《純銅積層造形体の製造》
図1は、本実施形態の積層造形装置10の概略構成例を示す図である。積層造形装置10の積層造形部は、電子ビームあるいはファイバレーザ11aの発射機構11と、粉末タンクであるホッパー12と、粉末を一定厚で層状に敷き詰めた粉末床を形成するためのスキージングブレード13と、積層のために一定厚だけ下降を繰り返すテーブル14と、を有する。スキージングブレード13とテーブル14との協働により、均一な一定厚の粉末積層15が生成される。各層には、3D-CADデータより得られたスライスデータを基にファイバレーザ11aを照射し、金属粉末(本実施形態では銅粉末)を溶融して積層造形体15aが製造される。また、積層造形用粉末判定部16は、積層造形用粉末が積層造形装置10で積層造形可能であるか否かを判定する。なお、本実施形態においては、銅粉体の平均粒子径が5μmから15μmの範囲内であり、前記銅粉体を含む積層造形用銅粉末の粉体抵抗値が(7.50E+5)Ωから(2.50E+7)Ωの範囲内であることを判定する。判定結果がかかる範囲内であれば、積層造形装置10において可能なエネルギー密度で、99%以上の相対密度で電気伝導率が80%IACS以上の純銅積層造形体を生成できる。
【0025】
なお、使用したエネルギー密度E(J/mm3)は、E=P/(v×s×t)により調整した。ここで、t:粉末床の厚み、P:レーザ出力、v:レーザの走査速度、s:レーザ走査ピッチである。
【0026】
以下、本実施形態における、純銅積層造形体としての条件を整理する。
【0027】
(純銅積層造形体としての条件)
(5) 純銅粉末を用いた積層造形体が十分な密度を有すること。例えば、アルキメデス法による測定密度が98.5%以上である。この条件を満たすことにより、純銅による積層造形体の強度を得ることができる。
【0028】
(6) 純銅粉末を用いた積層造形体が、純銅製品として十分な電気伝導率を有すること。例えば、電気伝導率が80%IACS以上である。この条件を満たすことにより、純銅の特性を有する積層造形体として使用することができる。
【0029】
《本実施形態の積層造形用銅粉末》
本実施形態においては、上記条件を満たし、レーザ出力が1kW以内でエネルギー密度が1000J/mm3程度の既存の装置で溶融が可能で、パウダベッドが形成できる積層造形用銅粉末であって、積層造形後に純銅積層造形物として所望の強度を持ち、十分な電気伝導率を有する積層造形用銅粉末として、以下の粉末を提供する。
【0030】
(1) 純銅粉体に0.01wt%から0.20wt%(100ppm~2000ppm)のナノ酸化物を混合すること。ナノ酸化物の混合が0.01wt%未満の場合は電気伝導率が高く溶融するのに必要なエネルギー量が既存の装置によって提供できない。特に、純銅粉体の平均粒子径が10μm以下の場合、ナノ酸化物の混合が0.01wt%未満ではパウダベッドの形成が不良となる。一方、ナノ酸化物の混合が0.20wt%以上の場合は高密度かつ高伝導率の純銅造形体を得られない。なお、ナノ酸化物の混合が0.01wt%から0.10wt%(100ppm~1000ppm)であれば、さらに望ましい。
【0031】
ナノ酸化物としては、形状が球状や真球に近く一次平均粒子径が10nmから100nmの範囲、特に50nm以下のものが好適に使用される。かかるナノ酸化物としては、例えば、ナノシリカ(SiO2)の外に、以下の表1に示すように、ナノ酸化銅(CuO)、ナノアルミナ(Al2O3)、ナノチタニア(TiO2)、ナノイットリア(Y2O3)などが含まれる。
【0032】
【0033】
(2) 純銅粉体の平均粒子径が5μmから15μmの範囲であること。すなわち、本実施形態においては、純銅の金属粒子の1粒子の体積を減少させることで1粒子が溶融するのに必要なエネルギー量を低減し、エネルギー密度が1000J/mm3程度の既存の装置で溶融が可能なように、例えば、平均粒子径が20μm以下の純銅の粉末を使用する。
【0034】
なお、純銅粉体の平均粒子径が5μm未満の場合は、ナノ酸化物が混合されても流動性が十分に得られず、積層造形を実現するパウダベッドの形成が不良である。また、粒子を小さくし過ぎるとパウダベッド内に存在する金属量の低下(見掛密度の低下に相当する)が発生するため、パウダベッドの形成不良により造形ができない。したがって、高密度かつ高伝導率の純銅造形体が得られない。一方、純銅粉体の平均粒子径が15μm以上の場合はパウダベッドを形成可能であっても高密度かつ高伝導率の純銅造形体が得られない。なお、純銅粉体の平均粒子径が8μmから15μmの範囲であれば、さらに望ましい。
【0035】
(積層造形用銅粉末の模式図)
図2は、本実施形態における積層造形用銅粉末における純銅粉体とナノ酸化物との混合状態を説明する模式図である。なお、
図2において、純銅粉体とナノ酸化物との寸法は実際とは異なっており、ナノ酸化物は図示できないほど小さい。
【0036】
純銅粉体21において、1つ1つの純銅粒子20が直接接触するため高電気伝導率および高熱伝導率を有し、矢印22のように、レーザビームに照射された部分の熱が隣の純銅粒子20を介して熱伝導して拡散する。したがって、エネルギー密度が1000J/mm3程度の既存の装置においては、レーザビームに照射された部分が融点を超えるまでに熱を蓄積できず溶融することができない。
【0037】
これに対して、本実施形態の積層造形用銅粉末25においては、各純銅粒子20の間にナノ酸化物26が割り込んで、各純銅粒子20間の電気伝導率および熱伝導率が低減し、矢印27のように、各純銅粒子20内にレーザビームによる熱を蓄積する。したがって、エネルギー密度が1000J/mm3程度の既存の装置において、レーザビームに照射された部分が融点を超えるまでに熱を蓄積し溶融することができることになる。
【0038】
なお、本実施形態における純銅粉体の積層造形用銅粉末において、電気伝導率の低減が熱伝導率の低減に比例することは、非特許文献1などにおいてヴァーデマン-フランツの法則として知られている。
【0039】
《本実施形態の積層造形用銅粉末の特性測定》
準備された積層造形用銅粉末について、以下の特性を測定した。
【0040】
(表面の撮影)
走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により、製造された積層造形用銅粉末の表面を撮影した。
【0041】
(50%粒径の測定)
積層造形用銅粉末について、レーザ回折法により50%粒度(μm)を測定した(マイクロトラックMT3300:マイクロトラックベル株式会社製)。
【0042】
(付着力の測定)
図6Aは、本実施形態においてせん断応力を測定するためのせん断応力測定部60の構成を示す図である。せん断応力測定部60は回転セル法によりせん断応力を測定、外部セル62の内部に、下部に刃付きのブレードが取り付けられた回転セル61を載せ、外部セル62の上部に被測定用の粉末を充填する。回転セル61から外部セル62に向けて所定の垂直応力を掛けながら、回転セル61の回転トルクからせん断応力を測定する。
【0043】
図6Bは、本実施形態においてせん断応力測定部60で測定されたせん断応力に基づいて付着力を求める方法を示す図である。
図6Bのように、せん断応力測定部60により各垂直応力下でのせん断発生時に測定されるせん断応力をプロットしたものを破壊包絡線と呼び、破壊包絡線よりも強いせん断応力が加わることで粉体層にすべりが発生する。破壊包絡線(例えば、65)上で、垂直応力が0(ゼロ)の時のせん断応力を粒子間の付着力として求める。
【0044】
(見掛密度の測定)
積層造形用銅粉末について、JIS Z2504に準じて見掛密度(g/cm3)を測定した。
【0045】
(流動性の測定)
積層造形用銅粉末について、JIS Z2502に準じて流動性(sec/50g)を測定した。
【0046】
(粉末の電気伝導率=1/電気抵抗率の測定)
図3Bは、本実施形態に係る純銅粉体とナノ酸化物との混合粉末の粉末抵抗値の測定方法を示す図である。粉末抵抗測定器39は、抵抗測定器35の両端子に接触端子付きのケーブル36と37とで接続された2枚の測定端子用銅板32と、被測定粉末31を収納する孔を有する絶縁体33と、2枚の測定端子用銅板32を被測定粉末31に強く接続するための押圧用の上下2枚の絶縁体34と、を備える。
【0047】
ここで、絶縁体33や34は弾力性を有するゴムなどが望ましい。本実施形態においては、被測定粉末31を収納する孔を厚み0.3mm(絶縁体33の厚みに対応)、直径17mmとしたが、限定されるものではない。被測定粉末31が、空隙なく充填され、かつ、2枚の測定端子用銅板32との電気的な接続が十分となるものであればよい。
【0048】
電気伝導率=(1/電気抵抗率)
=(1/測定された粉末抵抗)×(孔の厚み/孔の断面積)である。
【0049】
図3Cは、本実施形態に係る純銅粉体とナノ酸化物との混合粉末の粉末抵抗値の測定方法を示す図である。なお、
図3Cにおいて、
図3Bと同様の構成要素には同じ参照番号を付し、重複する説明を省略する。
【0050】
(パウダベッドの形成可否の試験)
図7は、本実施形態において、積層造形用銅粉末を積層造形装置10によってスキージングさせることによって、パウダベッドの形成可否の試験例を示す図である。
図7には、パウダベッドの形成可能状態71と、形成不能状態72とが示されている。
【0051】
《本実施形態の純銅積層造形体の特性測定》
積層造形用銅粉末について製造された純銅積層造形体について、以下の特性を測定した。
【0052】
(電気伝導率の測定)
純銅積層造形体の電気伝導率(%IACS)を、渦電流方式の導電率計で測定した。
【0053】
(密度の測定)
純銅積層造形体の密度(%)を、断面SEM像の面積により空隙面積を除した割合に基づいて測定した。
【0054】
(表面の撮影)
走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により、製造された純銅積層造形体の表面を撮影した。
【0055】
《本実施形態の積層造形用銅粉末の評価結果》
以下、本実施形態の積層造形用銅粉末が純銅積層造形体の造形に有用であるとの評価結果を示す。
【0056】
(パウダベッド形成の可否)
積層造形装置10による積層造形用銅粉末のスキージングによれば、積層造形用銅粉末の平均粒子径が20μmを超えると、ナノ酸化物の添加混合が無くても十分なパウダベッドの形成ができる。しかしながら、平均粒子径が20μm以下であればナノ酸化物の添加混合が無ければ、十分なパウダベッドの形成ができない。さらに、平均粒子径が5μm以下になると、ナノ酸化物の添加混合をしてもパウダベッドの形成ができない。
【0057】
(ナノ酸化物の添加による粉末抵抗値の変化)
図3Aは、本実施形態に係る純銅粉体とナノ酸化物との混合粉末の粉末抵抗値30の変化を示す図である。粉末抵抗値は
図3Bおよび
図3Cに図示した粉末抵抗測定器39によって測定した。
【0058】
粉末抵抗値30は、
図3Aに示すように、ナノ酸化物の添加混合によって、平均粒子径が20μm以下の純銅粉体において10倍よりも大きい数値で増加した。
【0059】
(純銅粉末の溶融に必要な熱エネルギー)
図4は、本実施形態の純銅粉末の溶融に必要な熱エネルギーを示した図である。
図4の上段41は、各銅粉末における造形体の密度が99%以上になるエネルギー密度を示す。
図4の下段42は、すず(Sn)を含む銅合金粉末や燐(P)を含む銅合金粉末から予測される純銅粉体に必要なエネルギー密度と、本実施形態の積層造形用銅粉末に対するエネルギー密度とを対比するグラフである。
【0060】
図4において、黒い三角は、すず(Sn)を含む銅合金粉末や燐(P)を含む銅合金粉末の電気伝導率と、レーザ照射で溶融して造形した造形体の相対密度が99%以上になるのに必要な熱エネルギーとの関係をプロットしたものである。そして、これら黒い三角を結ぶ直線43は、電気伝導率と、レーザ照射で溶融に必要な熱エネルギーとの対応関係を示している。この直線43に本実施形態で用いる純銅粉体の電気伝導率102.0%IACSを対応させると、熱エネルギー44は白い◇で示したように5000J/mm
3以上になると予想される。
【0061】
しかしながら、本実施形態の積層造形用銅粉末によれば、黒い◇45で示したように、エネルギー密度が1000J/mm3程度の既存の装置で溶融が可能な範囲において、高密度かつ高伝導率の純銅造形体を得られる積層造形用銅粉末を提供できる。
【0062】
(エネルギー密度と積層造形体の電気伝導率)
図5は、本実施形態に係る純銅粉体とナノ酸化物との混合粉末から積層造形体を製造する場合のエネルギー密度と製造された純銅の積層造形体の電気伝導率とを示す図である。
【0063】
図5の上段51は、本実施例において銅積層造形体を生成した、ナノ酸化物を添加混合しない平均粒子径28.6μmの比較例211~212、ナノ酸化物を添加混合した平均粒子径19.9μmの比較例311~313、ナノ酸化物を添加混合した平均粒子径13.3μmの実施例411~413、ナノ酸化物を添加混合した平均粒子径9.6μmの実施例531~534、のエネルギー密度と造形体の電気伝導率とを示す。
【0064】
そして、
図5の下段52は、上段51の値に従って横軸(エネルギー密度)/縦軸(電気伝導率)上にプロットしたグラフである。
図5の下段52から、比較例ではエネルギー密度1000J/mm
3付近の造形では電気伝導率が80%IACS以下にしかならないが(54参照)、実施例においてはエネルギー密度1000J/mm
3付近の造形では電気伝導率が80%IACS以上の純銅積層造形体が得られる(53参照)。
【0065】
(好適な積層造形用銅粉末の組成)
本実施形態においては、純銅粉体にナノ酸化物を添加することで、上記積層造形用銅粉末の条件を満たし、かつ、積層造形装置による積層造形後の積層造形体が上記十分な密度、純銅製品として十分な高い電気伝導率を有する純銅粉末を提供する。
【0066】
本実施形態の積層造形用銅粉末は、銅粉体に0.01wt%から0.20wt%(100ppm~2000ppm)のナノ酸化物が混合されている。また、銅粉体の平均粒子径は、5μmから15μmの範囲である。望ましくは、銅粉体の平均粒子径が8μmから15μmの範囲で、0.01wt%から0.10wt%(100ppm~1000ppm)のナノ酸化物が混合されている。ここで、ナノ酸化物は、SiO2を含み、ナノ酸化物の一次平均粒子径が10nmから100nmの範囲である。
【0067】
また、積層造形用銅粉末の粉体抵抗値は、銅粉体の粉体抵抗値の10倍から100倍であり、(7.50E+5)Ωから(2.50E+7)Ωの範囲内である。また、銅粉体のバルク電気伝導率は、100%JACS以上である。また、積層造形用銅粉末のJIS Z2502により測定された流動性が、15sec/50gから120sec/50gである。
【0068】
《本実施形態の効果》
本実施形態によれば、ナノ酸化物を添加した積層造形用銅粉末を提供し、高密度で電気伝導率の高い純銅積層造形体を得ることができた。
【0069】
すなわち、粒子サイズを5~15μm の範囲にすることによりファイバレーザで1粒子を溶融可能にする体積量とし、ナノ酸化物を配合することで粉体の流動性が改善され、パウダベッド中の金属量の指標となる見掛密度が4.0~5.5g/cm3にすることでパウダベッドの単位体積当たりの銅量は一定となる。
【0070】
また、ナノ酸化物を配合することで粒子間の接続が阻害され、粒子同士の接点を減少させ粉体の抵抗値が増大する効果を発現し、電気伝導率の高さから溶融しにくい純銅をより溶融しやすくする。
【0071】
それにより、レーザパワー、スキャンスピード、スキャンピッチ、粉末の積層厚より算出できるエネルギー密度が1333~533J/mm3の条件で造形した際の造形体の電気伝導率がシグマチェックを用いた渦電流ET 測定法で80%IACS以上となる積層造形体を形成できる。
【実施例】
【0072】
以下、本実施形態の条件に合致した積層造形用銅粉末の実施例と、本実施形態の条件に合致しない積層造形用銅粉末とについて説明する。
【0073】
《積層造形用銅粉末の製造》
(純銅粉体の選択および特性測定)
例えばアトマイズ法を用いて、アトマイズとしてはヘリウム、アルゴン、窒素などのガスや高圧の水を用い、流体の圧力と流量とを調整し粉末化の制御を行って生成された純銅粉体から、平均粒子径により本実施例で用いる純銅粉体を選択する。
【0074】
そして、ナノ酸化物を含まない純銅粉体について、《積層造形用銅粉末の特性測定》で示した各特性測定を行った。その結果を、以下の表2に示す。
【0075】
【0076】
また、純銅粉体200~600の走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により、製造された銅粉末を撮影した(SEM×500)。
図8A~
図8Eに純銅粉体200~600のSEM像を示す。
【0077】
表2の結果から、ナノ酸化物を含まない場合に、平均粒子径が20μm以下の純銅粉体300~600においては、積層造形装置10によりパウダベッドが形成できないことが分かる。一方、平均粒子径が20μm以上の純銅粉体100、200においては、積層造形装置10によりパウダベッドが形成できるが、後出の表3および表4より、積層造形装置10により積層造形物を形成しても、その電気伝導率が60%IACS台であり、80%IACSを超える純銅造形物は得られない。
【0078】
(ナノ酸化物の添加混合および特性測定)
次に、積層造形装置10によりパウダベッドが形成できなかった平均粒子径が20μm以下の純銅粉体300~600に対して、ナノ酸化物を添加混合した。
【0079】
混合したナノ酸化物としては、AEROSIL(登録商標) RX 300(日本アエロジル株式会社製)を使用した。
図9AにAEROSIL(登録商標) RX 300の製品情報を示す。
図9Aにおいて、上段91は製品情報であり、下段92は「比表面積」を粒子径に変換する関係グラフである。AEROSIL(登録商標) RX 300の場合、比表面積180-220m
2/gなので粒子径は10nmのオーダーである。また、
図9BにAEROSIL(登録商標) RX 300のSEM像を示す(SEM×1000)。
【0080】
純銅粉体300~600へのAEROSIL(登録商標) RX 300の混合は、O.M.ダイザー OMD-3(株式会社奈良機械製作所)を用いて、回転数1500rpmで3min間行った。
【0081】
純銅粉体にナノ酸化物を0.01wt%~0.15wt%の間で添加混合した積層造形用銅粉末について、《積層造形用銅粉末の特性測定》で示した各特性測定を行った。その結果を、以下の表3に示す。
【0082】
【0083】
表3において、まず、ナノ酸化物を添加混合しない純銅粉体の粉末抵抗(表2参照)に比較して、ナノ酸化物を添加混合した積層造形用銅粉末の粉末抵抗(表3参照)は、10倍よりも大きい数値で増加している。また、平均粒子径が19.9μmと13.5μmの純銅粉体300、400においては、ナノ酸化物の0.01wt%~0.15wt%添加のいずれにおいてもパウダベッドが形成できるようになった。また、平均粒子径が9.6μmの純銅粉体500においては、ナノ酸化物の0.10wt%~0.15wt%添加においてパウダベッドが形成できるようになった。しかしながら、平均粒子径が3.1μmの純銅粉体600においては、ナノ酸化物の0.01wt%~0.15wt%添加においてもパウダベッドが形成できなかった。
【0084】
(積層造形装置での造形処理および特性測定)
表2および表3でパウダベッドが形成できる積層造形用銅粉末から選択して、積層造形装置10で純銅積層造形体を生成した。純銅積層造形体の生成においては、エネルギー密度を変化させて生成した。エネルギー密度は、例えば、レーザ出力(Laser Power)、走査速度(Scanning Speed)、走査幅(Scanning Pitch)、粉末層厚(Powder Layer)に関連する。
【0085】
積層造形装置10で生成した純銅積層造形体について、《純銅積層造形体の特性測定》で示した各特性測定を行った。その結果を、以下の表4に示す。
【0086】
【0087】
表4において、実施例411~413、531~534で示した純銅積層造形体は、造形体の電気伝導率が、本実施形態で目標とする80%IACS以上を達成している。また、
図4の表41にも示したように、造形体の相対密度も99%を超えている。
【0088】
図10A~
図10Dに、実施例および比較例における積層造形体の表面を撮影したSEM像(×50)を示す。
図10Aは、実施例531(平均粒子径9.6μmの純銅粒子に0.10wt%のナノ酸化物を添加混合した例)の純銅の積層造形体の表面を撮影したSEM像(×50)である。
図10Bは、実施例412(平均粒子径13.5μmの純銅粒子に0.01wt%のナノ酸化物を添加混合した例)の純銅の積層造形体の表面を撮影したSEM像(×50)である。
図10Cは、比較例312(平均粒子径19.9μmの純銅粒子に0.01wt%のナノ酸化物を添加混合した例)の純銅の積層造形体の表面を撮影したSEM像(×50)である。
図10Dは、比較例212(平均粒子径28.6μmの純銅粒子の純銅の積層造形体の表面を撮影したSEM像(×50)である。
【0089】
図10Aおよび
図10Bにおいては、積層造形体の表面が緻密で凹凸が少ないために相対密度および電気伝導率が高く、
図10Cおよび
図10Dにおいては、積層造形体の表面に空隙があって凹凸があるために相対密度および電気伝導率が高くならないと思われる。
【0090】
すなわち、表面状態により粒子径が小さくなることでレーザの溶融が安定し平滑な造形表面となる。粒子径が大きくなるとレーザの溶融が不安定となり溶融した銅が球状化するボウリングが原因で凹凸のある造形表面となる。この凹凸が原因となり造形体に空孔が発生し、造形密度の低下を起こすことがわかる。
【0091】
すなわち、実施例の積層造形用粉末を用いて生成した純銅積層造形体は、(純銅積層造形体としての条件)である「相対密度が99%以上」、「電気伝導率が80%IACS以上」を達成しており、純銅積層造形体としての条件を満たしている。
【0092】
なお、以下の表5および表6に、本実施例の全体をまとめて示す。
【0093】
【0094】
【0095】
(すず(Sn)を含む銅合金粉末や燐(P)を含む銅合金粉末との対比)
比較例710~730、810、820として、すず(Sn)を含む銅合金粉末や燐(P)を含む銅合金粉末を使用して、積層造形装置10によって銅積層造形体を生成した。そして、銅合金粉末の特性(バルク電気伝導率や平均粒子径など)と、積層造形の特性(積層造形中のエネルギー密度や積層造形体の相対密度など)を測定した。測定結果を前出の
図4の表41に示している。
【0096】
本実施例のナノ酸化物を添加混合した粉末を使用して、積層造形装置10によって生成した純銅積層造形体の特性と比較した。
図4で前述した如く、本実施例のナノ酸化物を添加混合した粉末によれば、99%以上の相対密度を有する積層造形体が、エネルギー密度が1000J/mm
3程度の既存の装置で生成でき、かつ、バルク電気伝導率から想定されるように80%IACS以上の電気伝導率を有する純銅積層造形体が提供できた。
【0097】
《SiO2以外のナノ酸化物を添加混合した銅粉末材料》
以下の表7に、表1で示したSiO2以外のナノ酸化物を添加混合した銅粉末材料に対して、《積層造形用銅粉末の特性測定》で示した各特性測定を行った結果を示す。
【0098】
【0099】
表5および表6のSiO2を添加混合した銅粉末材料の試験結果から、例えば、流動性がパウダベッドの形成の障害にならない程度であり、粉末抵抗が(1.00E+4)Ω以上であれば、電気伝導率が60%IACS以上の銅積層造形体が生成可能であることが分かる。さらに、粉末抵抗が(7.50E+5)Ω以上(2.50E+7)Ω以下の範囲の場合に、電気伝導率が80%IACS以上を達成できることが分かる。かかるSiO2を添加混合した銅粉末材料の試験結果と比較すると、表7の粉末特性の結果から、以下の点が分かる。
【0100】
平均粒子径19.9μmの純銅粉体においては、酸化銅や酸化イットリウムを添加混合した粉末材料は粉末抵抗が(1.00E+4)Ω未満の場合があり、充分な電気伝導率の達成は期待できない。しかしながら、酸化アルミニウムや酸化チタンを添加混合した粉末材料は粉末抵抗が(1.00E+4)Ω以上であり、電気伝導率が60%IACS以上の銅積層造形体が生成可能であることが分かる。
【0101】
また、平均粒子径13.5μmの純銅粉体においては、どのナノ酸化物を添加混合した粉末材料であっても粉末抵抗が(1.00E+4)Ω以上であり、電気伝導率が60%IACS以上の銅積層造形体が生成可能であることが分かる。
【0102】
さらに、平均粒子径9.6μmの純銅粉体においては、どのナノ酸化物を添加混合した多くの粉末材料が粉末抵抗が(7.50E+5)Ω以上(2.50E+7)Ω以下の範囲に入っており、電気伝導率が80%IACS以上を達成できることが期待できる。
【0103】
以上のように、平均粒子径13.5μmおよび9.6μmの純銅粉体に、SiO2以外のナノ酸化物を添加混合した粉末材料であっても、SiO2の場合と同様に、銅積層造形体の電気伝導率が純銅製品である80%IACS以上が達成できることが期待できる。
【0104】
[実施例の効果]
本実施例によれば、平均粒子径が13.5μmまたは9.6μmの純銅粉体にナノ酸化物を添加混合した積層造形用粉末の場合、パウダベッドが形成できて純銅粉体を含む積層造形用銅粉末の粉体抵抗値が(7.50E+5)Ωから(2.50E+7)Ωの範囲内である。また、既存の装置のエネルギー密度での溶融で相対密度が99%以上の銅積層造形体が生成可能であって、銅積層造形体の電気伝導率は純銅製品である80%IACS以上が達成できる。
【0105】
一方、平均粒子径が28.6μmの純銅粉体や、すず(Sn)の銅合金、燐(P)の銅合金の積層造形用粉末の場合、パウダベッドが形成でき、既存の装置のエネルギー密度での溶融で相対密度が99%以上の銅積層造形体が生成可能であるが、銅積層造形体の電気伝導率は純銅製品である80%IACS以上にはならない。
【0106】
また、平均粒子径が19.9μmの純銅粉体にナノ酸化物を添加混合した積層造形用粉末の場合、パウダベッドが形成でき、既存の装置のエネルギー密度での溶融で相対密度が99%以上の銅積層造形体が生成可能であるが、銅積層造形体の電気伝導率は純銅製品である80%IACS以上にはならない。
【0107】
さらに、平均粒子径が3.1μmの純銅粉体にナノ酸化物を添加混合した積層造形用粉末の場合、そもそもパウダベッドが形成できない。
【0108】
[他の実施形態]
本実施形態および実施例においては、添加混合するナノ酸化物としてナノシリカ(SiO2)を使用したが、平均粒子径が20μm以下の純銅粉体から、粉末抵抗を削減して既存の装置のエネルギー密度での溶融でき、かつ、流動性を向上して既存の装置でパウダベッドを形成できるナノ酸化物であればよい。さらに、積層造形装置で生成した純銅積層造形体の密度が99%以上で、かつ、電気伝導度が80%IACS以上となるナノ酸化物であればよい。また、ナノ酸化物の形状や粒径なども好適に選択される。
【0109】
また、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明の技術的範囲で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、それぞれの実施形態に含まれる別々の特徴を如何様に組み合わせたシステムまたは装置も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0110】
この出願は、2019年6月13日に出願された日本国特許出願 特願2019-110429号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。