(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】固相キレート材、その製造方法およびタンパク質の精製におけるその使用
(51)【国際特許分類】
B01J 20/281 20060101AFI20240827BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240827BHJP
B01J 20/285 20060101ALI20240827BHJP
B01J 20/282 20060101ALI20240827BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20240827BHJP
B01D 15/38 20060101ALI20240827BHJP
B01J 20/286 20060101ALI20240827BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B01J20/22 D
B01J20/30
B01J20/281 X
B01J20/285 N
B01J20/282 E
C07K1/22
B01D15/38
B01J20/281 R
B01J20/286
B01J20/34 G
(21)【出願番号】P 2021530306
(86)(22)【出願日】2019-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2019082224
(87)【国際公開番号】W WO2020109162
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-06-03
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521229762
【氏名又は名称】キューブ バイオテック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ファビス,ローランド
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/046625(WO,A1)
【文献】特表2008-508333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 - 20/34
C07K 1/00 - 19/00
G01N 30/88
C07K 1/16 - 1/22
B01D 15/00 - 15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相と、前記固相に結合されたポリアミン基と、前記ポリアミン基に結合されたキレート基とを含む固相キレート材であって、
前記固相に結合された前記ポリアミン基は、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミンおよびペンタエチレンヘキサアミンからなる群から選択されたポリアミンを、前記固相に結合させて調製されたものであり、前記ポリアミン中のアミノ基の全てが、前記固相上の反応基および/または前記キレート基の反応基と反応しており、
少なくとも一部のポリアミン基がポリアミン基ごとに少なくとも2つのキレート基が結合しており、
各キレート基は1つまたは数個のアミノポリカルボン酸基(APA基)を含み、少なくとも2つのキレート基に結合されたポリアミン基毎のAPA基の数は少なくとも3つであり、
前記APA基は、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、エチレンジアミン-N,N’-二コハク酸、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸、および1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸からなる群から選択されたAPAから誘導されたものである、固相キレート材。
【請求項2】
請求項1に記載の固相キレート材であって、前記キレート基は、単独のAPA基、二官能性リンカ部位Kを介してそれぞれと結合した2つ以上のAPA基により形成された直鎖状キレート鎖、三官能性リンカ部位Lを介してそれぞれと結合した3つ以上のAPA基により形成された分岐状キレート鎖、および少なくとも1つの二官能性リンカ部位Kと少なくとも1つの三官能性リンカ部位Lを介してそれぞれと結合した4つ以上のAPA基により形成された混合キレート鎖からなる群から選択されたものである固相キレート材。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか一項に記載の固相キレート材であって、ポリアミン基に結合されたキレート基の数は、少なくとも3つであり、および/または少なくとも2つのキレート基と結合した1つのポリアミン基に結合するAPAの数は、3から20の範囲内である、固相キレート材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の固相キレート材であって、キレート基の少なくとも一部または全てが一般式-(APA1-K)
n-APA2で示されるものであり、式中、APA1およびAPA2は、同じまたは異なるものであり、nは1から50までの整数であり、Kは二官能性リンカ部位である固相キレート材。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の固相キレート材であって、キレート基の少なくとも一部または全てが、一般式:
【化1】
および/または一般式:
【化2】
で示されるものであり、
式中、APA1,APA2,およびAPA3は、同じまたは異なるアミノポリカルボン酸基であり、Lは三官能性リンカ部位である固相キレート材。
【請求項6】
請求項
2に記載の固相キレート材であって、
前記APAと前記
二官能性リンカ部位
Kもしくは前記三官能性リンカ部位Lとは、および/または
前記キレート基と前記ポリアミン基とは、アミド部位を介してお互いと結合している固相キレート材。
【請求項7】
請求項2
または6に記載の固相キレート材であって、
- 前記二官能性リンカ部位KはA-(CH
2)
n-B、A-Q-B、およびA-(C
2H
4O)
m-(CH
2)
o-Bからなる群から選択されたものであり、
式中、AおよびBはOH、NH
2、NHR、Cl、Br、I、OMs、OTs、およびN
3から選択される、カルボキシ基と反応可能な官能基であり、Rは一般式C
nH
2n+1で示される炭化水素基であり、nは1から6の整数であり、mは1から12の整数であり、oは2から12の整数であり、Qは2から100の原子からなる直鎖または分岐構造であり、ならびに/または
- 前記三官能性リンカ部位Lは、一般式
【化3】
および
【化4】
のいずれか1つにより示されるものであり、
式中、A、D、およびEはカルボキシ基と反応可能な官能基であり、Bは分岐原子であって少なくとも3つの安定した結合により結合して官能基と結合しており、n、m、およびoは2から30の整数である、固相キレート材。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の固相キレート材であって、スペーサ部位が前記固相と前記ポリアミン基の間に挿入されている、固相キレート材。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の固相キレート材であって、前記固相は、
アガロース、セルロース、寒天、デキストラン、キトサン、アルジネート、ゲラン、および/または
シリカ、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、二酸化アルミニウ
ム、金、ガラス、および/または
アクリレート類、メタアクリレート類、アクリルアミド類、スチレン誘導体、ビニルエステル類、ビニルアミド類、およびビニルアルコール、および/または
多孔質クロマトグラフィ担体、無孔質クロマトグラフィ担体、膜、塗布表面、塗布チューブ、センサ表面、マイクロアレイ表面、塗布ミクロタイタプレート、および/または
磁性アガロース、磁性シリカ、および磁性ポリマー、および/または、
デキストラン修飾された金チップおよび磁性ビーズからなる群から選択されたものである固相キレート材。
【請求項10】
Ni
2+、Co
2+、Cu
2+、Zn
2+、Al
3+、Fe
3+、Eu
3+、Ga
3+、Mn
2+、およびCa
2+からなる群から選択された金属イオンを担持した請求項1ないし9のいずれか一項に記載の固相キレート材を含む金属イオン添加固相キレート材。
【請求項11】
請求項2
、6および7のいずれか一項に記載の固相キレート材の製造方法であって、
- ポリアミン基が結合した固相に少なくとも3つの単量体APAを共有結合して、アミド基を介して少なくとも3つの単量体APA基が結合したポリアミン基を形成する工程、または
- ポリアミン基が結合した固相に少なくとも2つの単量体APAを共有結合して、アミド基を介して少なくとも2つの単量体APA基が結合したポリアミン基を有する固相材を形成する工程と、二官能性リンカKまたは三官能性リンカLを前記固相材に添加する工程と、前記結合したリンカと第2のAPAのカルボキシ基とを反応させ、前記固相に結合した前記ポリアミン基に結合したAPA基の直鎖状キレート鎖または分岐状キレート鎖を有する固相キレート材を形成する工程と;または少なくとも2つの単量体APAと二官能性リンカKまたは少なくとも3つの単量体APAと三官能性リンカLとを反応させ、直鎖状キレート鎖または分岐状キレート鎖を有する多量体APAキレートを形成する工程と、少なくとも2つの多量体APAキレートをポリアミン基が結合した固相に共有結合して、アミド基を介して少なくとも2つの直鎖状および/または分岐状キレート鎖が結合したポリアミン基を形成する工程と、
を含む、固相キレート材の製造方法。
【請求項12】
請求項
4に記載の、二官能性リンカ
部位Kを介してAPA基が結合された直鎖状キレート基を有する固相キレート材の製造方法であって、
a)APAと、ポリアミン基が結合した固相と、を準備する工程と、
b)前記APAの1つのカルボキシ基が固相と反応して、前記APAを前記固相と結合し、前記APAと前記固相とを凝縮剤の存在下にて結合する工程と、
c)工程b)において得られた固相材を二官能性リンカKと混合する工程と、
d)二官能性リンカKの1つの反応性基を前記結合したAPAと反応させ、前記二官能性リンカKとAPAカルボキシ基とを凝縮剤の存在下にて結合する工程と、
e)工程d)にて得られた固相材とさらなるAPAと混合する工程と、
f)前記さらなるAPAの1つのカルボキシ基と、前記固相材に結合した二官能性リンカKのさらなる反応性基とを反応させ、前記さらなるAPAと前記二官能性リンカを凝縮剤の存在下にて結合する工程と
を含む固相キレート材の製造方法。
【請求項13】
請求項
4に記載の、二官能性リンカ
部位Kを介してAPA基が結合された直鎖状キレート基を有する固相キレート材の製造方法であって、
a)APA二無水物と、ポリアミン基が結合した固相材とを準備する工程と、
b)各APA二無水物の1つの無水物基がアミノ部位と反応し、その他の無水物基が変化しないように前記APA二無水物と前記固相材を、結合したポリアミンのアミノ基を介して結合する工程と、
c)工程b)において得られた前記固相材を無水溶媒にて洗浄し、結合していない二無水物を取り除く工程と、
d)工程c)において得られた前記固相材と、二官能性リンカKとを準備する工程と、
e)前記二官能性リンカKの1つのアミン基と前記
工程b)において変化しなかった残りのAPA無水物基とを反応させ、前記二官能性リンカKのその他の官能基を変化させずに、前記二官能性リンカKと前記
工程b)において変化しなかった残りのAPA無水物基とを結合する工程と、
f)前記固相を無水溶媒にて洗浄し、結合していないリンカ分子を取り除く工程と、
g)工程f)にて得られた前記固相材と、追加のAPA二無水物とを準備する工程と、
h)各APAの1つのカルボキシ基を前記二官能性リンカKの残りの官能基と反応させて、前記APA二無水物を前記二官能性リンカKに結合する工程と
を含む固相キレート材の製造方法。
【請求項14】
請求項
4に記載の、二官能性リンカ
部位Kを介してAPA基が結合された直鎖状キレート基を有する固相キレート材の製造方法であって、
a)APA二無水物と二官能性リンカKを2:1から1:1の割合で準備する工程と、
b)前記二官能性リンカKと2つの異なる二無水物と反応させて、化合物APA1-K-(APA2-K)
n-APA3(式中、APA1は1つの無水物基と1つのアミド官能基を有するAPA、APA2は2つのアミド官能基を有するAPA、APA3は1つの無水物基を有するAPAであり、nは0から50の数字であり、Kは二官能性リンカ部位である)を形成して、前記APA二無水物を前記二官能性リンカKにアミンを介して、または前記リンカの水酸基を介して結合する工程と、
c)ポリアミン基が結合した固相を準備する工程と、
d)各APAの1つのカルボキシ基をアミン部位と反応させ、その他の無水物基を変化させずに、前記リンカが結合した二無水物を担持体に、前記固相に結合したポリアミン基のアミノ基を介して結合する工程と、
e)水または水性バッファーを加えて残りの無水物基を加水分解する工程と、
を含む固相キレート材の製造方法。
【請求項15】
請求項
5に記載の、三官能性リンカ
部位Lを介して結合されたAPA基を有する分岐状キレート基を有する固相キレート材の製造方法であって、
a)3:1から9:4の割合のAPA二無水物および三官能性リンカLを、ポリアミン基が結合した固相と混合する工程と、
b)前記リンカを3つの異なる二無水物と反応させ、以下の式の内の1つの反応物を得て
【化5】
(式中、APA1は、1つの無水物基と1つのアミド基を有するAPA基であり、APA2は2つのアミド基を有するAPAであり、Lは三官能性リンカ部位である)、前記APA二無水物をアミン基を介して固相担持体に結合させて前記リンカに結合する工程と、
c)ポリアミン基を有する固相を準備する工程と、
d)各アミノポリカルボン酸の1つのカルボキシ基をアミン部位と反応させ、他の無水物基を変化させずに、前記リンカが結合したAPAを、アミド基を介して担持体に結合して前記ポリアミン修飾された固相に結合する工程と、
e)水または水性バッファーを加えて残りの無水物基を加水分解する工程と、
を含む固相キレート材の製造方法。
【請求項16】
金属イオンを担持した固相キレート材の製造方法であって、固相キレート材を製造するために請求項11ないし15に記載の方法のうちの1つを実行する工程と、前記固相キレート材を、Ni
2+、Co
2+、Cu
2+、Zn
2+、Al
3+、Fe
3+、Eu
3+、Ga
3++、Mn
2+、Ca
2+からなる群から選択された金属イオンの溶液と接触させることで、前記金属イオンを固定する工程とを含む金属イオンを担持した固相キレート材の製造方法。
【請求項17】
請求項1ないし9のいずれか一項に記載の固相キレート材または請求項10に記載の金属イオンを担持した固相キレート材または請求項11ないし15のいずれか一項に記載の方法により製造された固相キレート材または請求項16に記載の方法で製造された金属イオンを担持した固相キレート材の、分子生物学の分野における、複数のヒスチジン残基を有するタンパク質の精製、複数のヒスチジン残基を有する膜タンパク質の精製、複数のヒスチジン残基を有するGPCRの精製、複数のヒスチジン残基を有するトランスポータタンパク質の精製、治療用タンパク質の精製、複数のヒスチジン部位を有する遺伝子組み換えタンパク質またはポリペプチドの精製、リンタンパク質の精製、金属タンパク質の精製、核酸の精製および/または金属固定化アフィニティ・クロマトグラフィのための使用。
【請求項18】
複数のヒスチジン部位を有するタンパク質またはポリペプチドの精製方法であって、
a)請求項16に記載の方法で製造された金属を担持した固相キレート材を準備する工程と、
b)
前記複数のヒスチジン部位を有するタンパク質またはポリペプチドを含む試料を準備する工程と、
c)前記試料を、前記金属を担持した固相キレート材に接触させる工程と、
d)結合した前記タンパク質またはポリペプチドを前記試料から分離する工程と、
e)前記タンパク質またはポリペプチドを前記固相から溶出させる工程と、
を含む精製方法。
【請求項19】
請求項18に記載の精製方法であって、前記タンパク質は膜タンパク質、GPCR、および抗原からなる群から選択されたものである精製方法。
【請求項20】
請求項18および19のいずれか一項に記載の精製方法であって、前記金属の結合とタンパク質の収率に干渉せずに、EDTAとイミダゾールとを結合バッファーに添加して少なくとも20mMの濃度とし、DTTを添加して少なくとも10mMの濃度とする精製方法。
【請求項21】
請求項18ないし20のいずれか一項に記載の精製方法であって、請求項18ないし20のいずれか一項に記載の前記固相に固定したアミノポリカルボン酸化合物は、水酸化ナトリウム溶液にて洗浄して汚染物質や付着したタンパク質を取り除いて前記固相キレート材をさらなる生体分子精製用に再生することが可能であり、依然として少なくとも1ml当たり50mgのタンパク質結合力を有する精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相キレート材と固相キレート材の製造方法に関する。また、本発明は、ポリペプチドやタンパク質を、金属を担持した固相キレート材を用いて精製する方法、および、とりわけタンパク質の金属固定化アフィニティ精製のための金属を担持した固相キレート材の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポラス(Porath)により開発された金属固定化アフィニティ・クロマトグラフィ(IMAC)(Nature 258:598, 1975)は、遺伝子組み換えタンパク質の精製の標準的な方法として採用されており、現在でも多量の遺伝子組み換えタンパク質の精製を行う際には最も好まれる方法の一つである。
【0003】
本方法の原理は複数のヒスチジン基をタンパク質のアミノ酸側の鎖に導入し、これにより固定化された金属イオンに対して高い親和性を得ることに基づいている。このいわゆる「Hisタグ」は、ヒスチジンの他にも他のアミノ酸とも結合しているヒスチジン残基からなり、通常6から10個のヒスチジンからなる。この「Hisタグ」は、固定化された金属イオンに対して天然のタンパク質よりも高い親和性を示し、特にHisタグがないタンパク質の非特異的な干渉を下げるために少量のイミダゾールが結合および洗浄バッファに添加された際に高度の精製が可能となる。
【0004】
また、IMACは金属イオンが直接リン酸基に直接結合しているリンタンパク質の精製にも使用可能である。この方法により、リン酸基がなく、金属イオンに対して結合しない、もしくは結合が弱いタンパク質からリンタンパク質を分離することができる。
【0005】
亜鉛や銅などの金属と組み合わせて、IMAC樹脂をジンクフィンガタンパク質やクプレドキシンやヘモシアニンなど銅と相互作用するタンパク質などの金属共役タンパク質を可逆的に結合するために使用することも可能である。キレートは、アミンやカルボキシ、リン酸などの金属イオン結合基を3つ得た時、三座配位子と呼ばれる。四座配位子のキレートは金属イオンの4つの位置で配位結合することができ、五座配位子のキレートは5つの配位有する。
【0006】
20年以上前から、三座配位子のキレートである固相固定化イミノ二酢酸(IDA)と四座配位子のキレートのニトロ三酢酸(NTA)はIMAC用の標準的な物質として確立されている。市販のその他のキレートとしては四座配位子の「タロン(Talon)」リガンドや、トリスカルボキシメチルエチレンジアミン(TED)などの五座配位子のキレートがある。最近では、Hisタグレジン(Roche Diagnostics GmbH)やNiセファローズエクセル(Ni Sepharose Excel)(GE Healthcare)などの五座配位子のキレート系の樹脂も市場に登場している。
【0007】
IMAC向けには、様々な金属が成功裏に使用されており、例えば、Ni、Co、Cu、Fe、Ca、Zn、Al、Eu、Ga、Scが検討されている。リンタンパク質の精製においては、AlとIDAとの組み合わせやFe、Ga、EuなどとNTAとの組み合わせがよく用いられている。
【0008】
なお、特に、非常に簡単に安価で取得できるイミノ二酢酸は、金属イオンが3つの官能化によってのみ固相に固定されるという欠点があり、金属イオンがバッファに漏出し、タンパク質結合力が下がり、溶出バッファが微量の金属イオンを含む場合があることが知られている。そして、金属イオンにおけるこのタンパク質にほぼ3つの配位が空位であるので、Hisタグがないタンパク質には樹脂に結合するものもあり、精製後に汚染された溶出物が得られる。
【0009】
NTAなどの四座配位子キレートは、金属漏出に関してはより安定しているが、EDTAなどの他のキレートやDTTなどの還元剤が溶解バッファ中に含まれている場合は精製時に金属イオンを失ってしまう。EDTAはキレートとしてより強力であり、膜の安定させるマグネシウムイオンを取り除いて溶解バッファ中のメタロプロテアーゼを抑制するのに必要とされ、濃度が2mMを超える場合にはNTA樹脂からほとんどすべての金属イオンを取り除く。タンパク質のSH基を安定化し、酸化してジスルフィド類になったり、タンパク質の二量体化したりするのを防止するのを助けるDTT(ジチオトレイトール)を添加すると、ニッケルなどの金属イオンを酸化して金属を非帯電化するので、タンパク質結合親和性が大幅に低くなる。
【0010】
これらの欠点は、EDTA含有バッファによっても取り除けないほど金属イオンと強く結合する安定的な5価のキレートを使用すれば緩和される。さらに、5座配位子キレートとニッケルなどの錯体は、DTTなどの還元剤に対しても顕著に安定的である。
【0011】
[先行技術]
Hisタグされた遺伝子組み換えタンパク質の精製のための金属アフィニティ・クロマトグラフィは、ポラス(Porath)らにより紹介された(Nature258,598-599,1975)。この新しい技術は、キレートを介して固相に結合したCu2+やZn2+などの金属イオンがタンパク質側鎖のヒスチジンアミノ酸の供与基と相互作用するという発見を利用したものである。この相互作用は、ヒスチジンがプロトン化されていない状態であるpHが高い時に効果的であるが、ヒスチジンがプロトン化されるpHが低い時には、タンパク質が金属イオンで修飾された固相から溶出してしまうことがある。金属イオンの固定に用いられるリガンドはイミノ二酢酸であるが、ニッケルを金属として使用する場合、IDAは3つの配位基でニッケルと結合するが、ニッケル-キレート錯体の安定性はpHの変化、溶液内のキレート化剤や還元剤に対して低すぎ、表面からの金属の漏出が観察される。
【0012】
HochuliらによるEP 0 253 303 A2は、z-ε-リシンのカルボキシメチル化、脱保護、エポキシ活性化アガロースへの結合、そしてニッケルでの帯電により作成される置換ニトリロ三酢酸に基づく4座配位子リガンドに関する。この材料により、イミノ二酢酸と比較して改善が得られ、金属の漏出が画期的に抑制されたが、EDTAなどのキレートや還元剤に対する安定性に関する制限は残っている。
【0013】
EP 1 276 716において、Kappelらはチオエーテルが結合したNTAリガンドを記載している。制限についてはアミノ結合のニトリロ三酢酸と同じである。
【0014】
US 6,441,146において、Minhは、窒素とその結果生ずるカルボキシメチル化をブロックしつつ、リシンのエポキシ官能化結合によって五価のキレート樹脂を合成することを記載している。この化合物は、例えば、カルボジイミドの化学的性質などによる共有結合固定を行うための材料として使用することができる。
【0015】
Talanta 1989,36,341-346において、McCurleyらは、エチレンジアミンとカルボキシメチル化の生成物とを結合させることによる固定化トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン(TED)に基づいてIMAC樹脂を開発した。しかし、本論文のエビデンスによれば、TEDとエチレンジアミン-N,N’-二酢酸との混合物が得られたにすぎない。
【0016】
Hanerらは、カルボイミドの化学的性質によるEDTAの活性化とアミン官能性のアガロースに結合することにより合成されたコバルト五座配位子キレートをカルシウムイオンの除去に使用した。
【0017】
EP2 022 561において、Goerlichらは、EDTAやDTPAなどのポリカルボン酸を、過剰な凝縮剤の存在下でアミン修飾された固相に結合する方法を記載し、例えば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)が存在する。更に、1つのカルボキシ基のみを介してポリカルボン酸塩に結合することについて請求項に記載している。
【0018】
GoerlichらによるEP 2 183049には少なくとも6つの配位基を有するキレートが記載されている。このキレートは、1つのカルボキシ基を介してカルボキサミド結合により固定され、複数のヒスチジン残基を有する遺伝子組み換えタンパク質の精製における金属固定化アフィニティ・クロマトグラフィに供されるものである。
【0019】
WO 2009/008802において、Andersonらは、酸無水物を介してアミド官能化アガロースにカルボン酸無水物を結合することによる五座配位子の合成と、その製品が遺伝子組み換えタンパク質の検出や精製に公的である旨を記載している
【0020】
EDTAやDTPAを二官能性リンカに結合させる例もある。US 5,281,704の実施例6において、アミド結合により結合した2つのDTPA分子からなる化合物が、ジシクロへキシルカルボジイミドによる活性化の後エチレンとDTPAテトラメチルエステルを結合させ、続いて水酸化ナトリウム溶液で加水分解することにより生成する。また、DOTAやEDTA,TTHAなどの他のキレートも、リンカが結合された二量体キレートの一部として挙げられ、エステルまたはアミド官能基を介してリンカに結合されている。
【0021】
「反応性および官能性ポリマー」(Reactive and Functional Polymers、29(1996)29-39において、Brosseらは、EDTAおよびDTPA無水物をエチレングリコール、N-メチルジエタノールアミン、エチレンジアミン、およびその他多数のジオール類やジアミン類と結合させている。TuelueとGeckelerは、キレート無水物類とジオール類の一段反応によりEDTAおよびDTPAとポリエチレングリコールとの重縮合物を生成した。
【0022】
Geckelerらによるマクロモレキュラー・ラピッド・コミュニケーション(Macromol. Rapid Commun),2001,22,855±858において、生分解性で金属と錯体を形成するペンダントカルボキシ基による水溶性糖コポリマーの合成を出版している。しかし、リンカが結合されたキレートが1つのカルボキシ基を介して固相に固定され、固相固定化キレート鎖を形成することは、これまで出版されていない。
【0023】
AlgotssonらによるUS2013/0072638では、金属イオンと強く結合し、スキャフォールドを介して結合され、スキャフォールドに結合された基により炭水化物に結合する二量体五座配位子キレートが生成されている。ここでは、二量体キレートが2つ隣接して固定された金属イオンの結合により、総合的な結合効果を奏し、単量体の五価キレートと比較してより強くタンパク質と結合する。しかし、2つのキレート可能基を有する分岐状リンカの立体的要求により、この発明による材料は、キレート基密度において限界があり、よって、タンパク質結合力にも限界がある。
【0024】
WO2017/046625A1は、Hisタグされたタンパク質に対して高い結合力を有するキレート鎖を有するキレートの合成を記載している。
【0025】
本発明の目的は、性質が向上した、遺伝子組み換えタンパク質のアフィニティ精製において、特にキレート材が金属を担持しているものの場合に好適に使用可能である向上した固相キレート材を提供することである。
【発明の概要】
【0026】
本発明は、とりわけアルカリ溶液に対して高い安定性を示す固相キレート材と金属を担持した固相キレート材とを提供するものである。
【0027】
さらに、本発明は、上記固相キレート材の簡便な製造方法を提供するものである。
【0028】
さらに、本発明は、タンパク質の精製方法と、タンパク質、特に遺伝子組み換えタンパク質の精製のための固相キレート材の使用を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の第1態様によれば、固相と、該固相に結合されたポリアミン基と、該ポリアミン基に結合されたキレート基とを含む固相キレート材であって、少なくとも一部のポリアミン基がポリアミン基ごとに少なくとも2つのキレート基が結合しており、各キレート基は1つまたは数個のアミノポリカルボン酸基(APA基)を含み、少なくとも2つのキレート基に結合されたポリアミン基毎のAPA基の数は少なくとも3つである固相キレート材を提供する。
【0030】
本発明において、ポリアミン基とはポリアミン由来の基である。ポリアミンは、第1または第2アミノ基を有する有機分子であり、好ましくは少なくとも3つ、より好ましくは少なくとも4つの第1および/または第2アミノ基を有する。これらのアミノ基の少なくとも一部は、もしくは好ましい実施形態において、これらのアミノ基の全ては、上記固相キレート材の合成において上記固相上の反応基および/または上記キレート基と反応する。これらアミノ基の反応は、第2または第3アミノ基やアミド基の形成につながってもよい。上記ポリアミンは、例えば水酸基など上記ポリアミンを固相に共有結合させるのに利用できる官能基をさらに有していてもよい。
【0031】
本発明におけるキレート基とは、キレート基前駆体由来の基である。キレート基前駆体は、例えばEDTA分子などの1つのキレート分子またはキレート、もしくはお互いに共有結合により、好ましくはリンカ部位により結合した少なくとも2つまたは3つのキレート分子の組み合わせである。キレート基前駆体は、非活性でもよいし、例えば有機酸無水物基により活性となっていてもよい。
【0032】
上記に記した「ポリアミド基の少なくとも一部」とは、全てのポリアミン基が、ポリアミン基毎に少なくとも2つのキレート基と結合している状態、またはそのポリアミン基の一部のみがポリアミン基毎に少なくとも2つのキレート基と結合している状態を示す。少なくとも2つのキレート基に結合されたポリアミン基毎のAPA基の量は、特に、本発明の固相キレート材の合成における様々な反応相手の量により制御することができる。ポリアミン基の大部分もしくはすべてが少なくとも2つのキレート基と結合しているのが好ましい。
【0033】
上記キレート基は、単独のAPA基、二官能性リンカ部位Kを介してそれぞれと結合した2つ以上のAPA基により形成された直鎖状キレート鎖、三官能性リンカ部位Lを介してそれぞれと結合した3つ以上のAPA基により形成された分岐状キレート鎖、および少なくとも1つの二官能性リンカ部位Kと少なくとも1つの三官能性リンカ部位Lを介してそれぞれと結合した4つ以上のAPA基により形成された混合キレート鎖からなる群から選択されたものであることが好ましい。
【0034】
ポリアミン基に結合しているキレート基の数は好ましくは少なくとも3つ、より好ましくは少なくとも4つである。
【0035】
少なくとも2つのキレート基と結合した1つのポリアミン基に結合したAPA基の数は好ましくは、3から20の範囲内であり、より好ましくは4から15の範囲内である。上記少なくとも3つのAPA基は、それぞれ該ポリアミン基に結合した少なくとも3つの単量体APA基またはキレート基であってもよく、または、直鎖状および/または分岐状キレート鎖となって、二量体、三量体、四量体、….多量体キレート基を形成してもよい。
【0036】
IUPACの定義によれば、「キレート」とは少なくとも2つの配位結合を形成することができる多座配位子リガンドを意味する。
【0037】
本発明において、キレートはアミノポリカルボン酸(APA)である。EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、TTHA(トリエチレンテトラアミン六酢酸)、EDDS(エチレンジアミン-N,N’-二コハク酸)、DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸)、NOTA(1,4,7-トリアザシクロノナン三酢酸からなる群から選択されたAPAが使用されることが好ましい。
【0038】
第1のキレートの1つのカルボキシ基はアミド結合により上記固相に結合している。第1キレートの他のカルボキシ基はアミドを介してリンカに結合し、そのリンカは第2キレート、または第3キレートに共有結合して、該キレートが直鎖状鎖または分岐状鎖で固相に結合し、分子当たり1つだけのキレートの1つのカルボキシ基を介して固相へ結合している状態となる。よって、鎖毎に1つの修飾キレートのみが固相に結合するので、キレート鎖の立体的要求はキレートが1つの場合と同等となる。これにより、固相上のキレートが高密度となり、隣接するキレート基からの効果と共に高い結合力につながり、His-タグがないタンパク質と比較してHisタグタンパク質に対して高い親和性が得られる。
【0039】
本発明において、カルボン酸基は酸として記載されているが、遺伝子組み換えタンパク質のアフィニティ精製では一般的なpHが6から8.5の範囲では、カルボン酸基の大部分はカルボン酸塩状であり、アミノ基にはプロトン化しているものもある。記載を簡潔かつ明確に保つために、本文と請求項ではこれらの基は「COOH」およびNH2と記載する。
【0040】
好ましくは、上記ポリアミン基は、ペンタエリトリトールコアに基づいて、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、ペンタエチレンヘキサアミン、直鎖および分岐ポリエチレンイミン、ポリリシン、ポリプロピレンイミン、サイクラム、サイクレン、および1,4,7-トリアザシクロノナンなどのマクロ環状ポリアミン類、1,1,1-トリス(アミノメチル)エタン、トリスアミノエチルアミン、トリスアミノプロピルアミン、テトラキスエチルアミノアミン、テトラキスアミノプロピルアミンなどの分岐ポリアミン類、およびアミン官能化四官能性分岐PEGからなる群から選択されたポリアミン類から誘導されたものである。
【0041】
より好ましくは、上記ポリアミン基は、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、およびペンタエチレンヘキサアミンからなる群から選択されたポリアミン類から誘導されたものである。
【0042】
さらに好ましくは、上記ポリアミン基は、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、およびペンタエチレンヘキサアミンからなる群から選択されたポリアミン類から誘導されたものである。
【0043】
上記ポリアミン基は、官能性に影響しない限り、カルボン酸、水酸基など他の官能基を含んでいてもよい。
【0044】
本発明の好ましい実施形態において、キレート基は一般式:
【化1】
(式中、式中、APA1およびAPA2は、同じまたは異なるものであり、nは1から50までの整数であり、Kは二官能性直鎖部位である)、および/または一般式:
【化2】
および/または一般式:
【化3】
(式中、APA1,APA2,およびAPA3は、同じまたは異なるアミノポリカルボン酸であり、Lは三官能性リンカ部位)で示されるものであってもよい。
【0045】
よって、本発明の好ましい固相キレート材において、上記キレート基は単独のAPA基、二官能性リンカ部位Kを介して結合した2つ以上のAPA基を有する直鎖状キレート鎖、三官能性リンカ部位Lを介して結合した3つ以上のAPA基を有する分岐状キレート鎖、または上記異なるタイプのキレート基の組み合わせであってもよい。
【0046】
さらに、上記APAと上記リンカ部位とはアミド部位を介してお互いと結合している、および/またはキレート基とポリアミン基とはアミド部位を介してお互いと結合していることが好ましい。
【0047】
本発明の固相キレート材の上記キレート基は、1つまたは数個の二官能性リンカ部位Kおよび/または1つまたは数個の三官能性リンカ部位Lを有する構成であってもよい。
【0048】
本発明によれば、二官能性リンカ部位Kは、上記二官能性リンカ部位KはA-(CH2)n-B、A-Q-B、および A-(C2H4O)m-(CH2)n-Bからなる群から選択されたものであってもよい。式中、AおよびBはOH、NH2、NHR、Cl、Br、I、OMs、OTs、N3などのカルボキシ基と反応可能な官能基である。NH2およびNHRから選択されたものであることが好ましい。Rは一般式CnH2n+1で示される炭化水素基であり、nは1から6の整数であり、mは1から12の整数であり、nは2から12の整数である。Qは2から100の分子からなる直鎖または分岐構造であり(任意で、C、H、N、OおよびSを含む)、環状化合物が包含される(例えば、炭水化物)。
【0049】
二官能性リンカKは、特にジアミンであってもよい。二官能性リンカKは、エチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノへキサン、1,8-ジアミノオクタン、および、ジェファーミンED-600(Jeffamine ED-600、Hunstsman, アメリカ、テキサス、ザ・ウッドランズ)などのα,ω-アミノ官能性ポリプロピレングリコール化合物などのポリエーテルアミン類からなる群から選択されたものであることが好ましい。
【0050】
上記三官能性リンカ部位Lは、一般式
【化4】
および
【化5】
のいずれか1つにより示されるものであることが好ましく、式中A、D、およびEは好ましくは-NH
2または-NHRであるカルボキシ基と反応可能な官能基であり、Bは好ましくはCまたはNの分岐原子であって少なくとも3つの安定した結合により好ましくは炭素原子と結合して官能基と結合しており、n、m、およびoは2から30の整数である。上記三官能性リンカ部位Lは、トリアミンであることが好ましい。上記三官能性リンカ部位Lは、グリセロールコアに基づいて、ジエチレントリアミン、1,1,1-トリス(2-アミノエチル)アミン、トリス(3-アミノプロピル)アミン、およびアミノ官能化三官能性分岐PEGからなる群から選択されたものであることがより好ましい。
【0051】
多価アミノポリカルボン酸樹脂の合成に使用されるリンカは、エチレンジアミン、1,3-ジアミンプロパントリス(3-アミノプロピル)-アミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、および/またはジエチレントリアミンから選択されたものであることが好ましい。
【0052】
本発明の固相キレート材は、上記固相と上記ポリアミド基の間に挿入されたスペーサ部位Sを有する構成であってもよい。上記スペーサ部位は、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、1,2-エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、および臭化アリルからなる群から選択された化合物から誘導されたものであることが好ましい。上記スペーサ部位は、エーテル結合を介して固相に結合され、アミド結合を介して隣接するアミノポリカルボン酸と結合している構成であってもよい。
【0053】
好ましくは、固相は、クロマトグラフィの担持体であるアガロース、セルロース、寒天、デキストラン、キトサン、アルジネート、ゲラン、好ましくはアガロースから選択される。キレート基の最適な共有結合のためには、固相はポリアミン官能性であることが好ましい。
【0054】
または、固相は多孔質または無孔質のシリカ、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、その他の金属または半金属の酸化物を含むものであってもよく、シリカであることが好ましい。その他の固相としては、金層、ガラス、ポリスチレン、メタアクリレート類、アクリレート類、アクリルアミド類、ビニルアセテート、ビニルアルコールなどを含むものであってもよい。
【0055】
上記固相は、多孔質または無孔質の粒子、磁性シリカ、アガロース、ポリスチレン、スチレン誘導体、アクリレート、メタアクリレート、またはポリビニルアルコール粒子であってもよいが、これらに限定されない。
【0056】
上記固相は、好ましくは、センサ表面、膜、無孔質クロマトグラフィ担持体、多孔質クロマトグラフィ担持体、Eppendorfやfalconポリプロピレンチューブの塗布プラスチック表面などの塗布チューブ、塗布表面、塗布マイクロタイタプレート、アレイプレート、マイクロアレイ表面などであってもよい。
【0057】
本発明によれば、上記固相は、好ましくは、磁性アガロース、磁性シリカ、および磁性ポリマーであってもよい。より好ましくは上記固相は、磁性アガロースであってもよい。
【0058】
本発明によれば、上記固相は、好ましくは、デキストラン修飾された金チップおよび磁性ビーズからなる群から選択されたものであってもよい。
【0059】
当業者にとって、アミン修飾アガロースを生成する方法は多数あり、例えば、エピクロロヒドリンとの反応や、ポリアミンとの化学反応などがある。その他、クロロ酢酸ナトリウムとの反応により得られたカルボキシメチル化されたアガロースをポリアミン類との反応によりアミン類に修飾する。アミノ基のキレートのカルボキシ官能基との化学反応は、EDCなどの凝縮剤による活性化や、キレートの無水物をポリアミンと直接接触させることで行うことができる。第3のものとしては、アリル官能化を、アガロースをアリルグリシジルエーテルまたはアリルブロミドと反応させることで行うことができる。二重結合の臭素化ののち、該ハロゲン化物をポリアミンと反応させてもよい。
【0060】
アミン修飾のシリカ、ガラス、その他の金属酸化物は、例えば、3-グリシジルトリエトキシシランを塗布し、ポリアミン類と反応させることで生成することができる。金表面は、ポリアミン官能性であってもよい、いわゆる「自己組織化単分子膜」と呼ばれる長い、チオール官能性の直鎖分子を塗布することで修飾することができる。
【0061】
本発明による固相キレート材は、固相に共有結合している、キレートの鎖または分岐状のキレート分子からなるアミノポリカルボン酸分子を有する物質であってもよい。キレート鎖はリンカ分子によりキレートを結合して形成され、その鎖長は制御することが可能である。
【0062】
第2の態様によれば、本発明は金属イオン担持固相キレート材に関する。本金属イオンキレート剤は、上記の固相キレート材のいずれか1つを含み、Ni2+、Co2+、Cu2+、Zn2+、Al3+、Fe3+、Eu3+、Ga3+、Mn2+、およびCa2+からなる群から選択された金属イオンを担持している。
【0063】
第3の態様によれば、本発明は上記固相キレート材の製造方法に関する。
【0064】
本発明の方法の第1形態は、ポリアミン基が結合した固相に少なくとも3つの単量体APAを共有結合して、アミド基を介して少なくとも3つの単量体APA基が結合したポリアミン基を形成する工程を含む。
【0065】
本発明の方法の第2形態は、ポリアミン基が結合した固相に少なくとも2つの単量体APAを共有結合して、アミド基を介して少なくとも2つの単量体APA基が結合したポリアミン基を有する固相材を形成する工程と、二官能性リンカKまたは三官能性リンカLを上記固相材に添加する工程と上記結合したリンカと第2のAPAのカルボキシ基とを反応させる工程と、上記ポリアミン基に結合したAPA基の固相キレート材を形成する工程とを含む。上記ポリアミン基は固相に結合しており、任意でリンカの添加とその他のAPAの添加を繰り返して上記直鎖状キレート鎖または分岐状キレート鎖の長さを延長する。この様にして製造した上記キレート基は直鎖状キレート鎖または分岐状キレート鎖の形となる。
【0066】
本発明の方法の第3形態は、少なくとも2つの単量体APAと二官能性リンカKまたは少なくとも3つの単量体APAと三官能性リンカLとを反応させ、直鎖状キレート鎖または分岐状キレート鎖を有する多量体APAキレートを形成する工程と、少なくとも2つの多量体APAキレートをポリアミン基が結合した固相に共有結合して、アミド基を介して少なくとも2つの直鎖状および/または分岐状キレート鎖が結合したポリアミン基を形成する工程、とを含む。
【0067】
a)好ましくは、二官能性リンカを介してAPA基が結合された直鎖状キレート基を有する固相キレート材の製造方法は、APAと、ポリアミン基が結合した固相と、を準備する工程と、
b)上記APAの1つのカルボキシ基が固相と反応して、上記APAを上記固相と結合し、上記APAと上記固相とを凝縮剤の存在下にて結合する工程と、
c)工程b)において得られた固相材を二官能性リンカKと混合する工程と、
d)二官能性リンカKの1つの反応性基を上記結合したAPAと反応させ、上記二官能性リンカKとAPAカルボキシ基とを凝縮剤の存在下にて結合する工程と、
e)工程d)にて得られた固相材とその他のAPAと混合する工程と、
f)上記その他のAPAの1つのカルボキシ基と、上記固相材に結合した官能性リンカKの他の反応性基とを反応させ、上記その他のAPAと上記二官能性リンカを凝縮剤の存在下にて結合する工程と、
g)任意で工程c)からf)まで少なくとも1回繰り返す工程と、を含む。
【0068】
好ましくは、二官能性リンカを介してAPA基が結合された直鎖状キレート基を有する固相キレート材の製造方法は、
a)APA二無水物と、ポリアミン基が結合した固相材とを準備する工程と、
b)各APA二無水物の1つの無水物基がアミノ部位と反応し、その他の無水物基が変化しないように上記APA二無水物と上記固相材を、結合したポリアミンのアミノ基を介して結合する工程と
c)工程b)において得られた上記固相材を無水溶媒にて洗浄し、上記結合していない二無水物を取り除く工程と、
d)工程c)において得られた上記固相材と、二官能性リンカKとを準備する工程と、
e)上記二官能性リンカKの1つのアミン基と上記APA無水物基とを反応させ、上記二感応性リンカKのその他の官能基を変化させずに、上記二官能性リンカKと上記APA無水物基とを結合する工程と、
f)上記固相を無水溶媒にて洗浄し、上記結合していないリンカ分子を取り除く工程と、
g)工程f)にて得られた上記固相材と、他のAPA二無水物とを準備する工程と、
h)各APAの1つのカルボキシ基を上記二官能性リンカKの残りの官能基と反応させて、上記APA二無水物を上記二官能性リンカKに結合する工程と、
i)任意に、工程c)からh)までを少なくとも1回繰り返す工程と、を含む。
【0069】
本発明の上記の方法において、水または水性バッファを残った無水物基を加水分解する最後の工程で添加してもよい。
【0070】
好ましくは、二官能性リンカを介してAPA基が結合された直鎖状キレート基を有する固相キレート材の製造方法は、
a)APA二無水物と二官能性リンカKを2:1から1:1の割合で、好ましくは2:1から1.25:1の割合で準備する工程と、
b)上記二官能性リンカKと2つの異なる二無水物と反応させて、化合物APA1-K-(APA2-K)n-APA3(式中、APA1は1つの無水物基と1つのアミド官能基を有するAPA、APA2は2つのアミド官能基を有するAPA、APA3は1つの無水物基を有するAPAであり、nは0から50、好ましくは0から10の数字であり、Kは二官能性リンカ部位である)を形成して、上記APA二無水物を上記二官能性リンカKにアミンを介して、または該リンカの水酸基を介して結合する工程と、
c)ポリアミン基が結合した固相を準備する工程と、
d)各APAの1つのカルボキシ基をアミン部位と反応させ、その他の無水物基を変化させずに、上記リンカが結合した二無水物を上記担持体に上記固相に結合したポリアミン基のアミノ基を介して結合する工程と、
e)水または水性バッファーを加えて上記残りの無水物基を加水分解する工程と、を含む。
【0071】
好ましくは、三官能性リンカを介して結合されたAPA基を有する分岐状キレート基を有する固相キレート材の製造方法は、
a)3:1から9:4の割合、好ましくは3:1から5:2の割合のAPA二無水物および三官能性リンカLと、ポリアミン基が結合した固相とを混合する工程と、
b)上記リンカを3つの異なる二無水物と反応させ、以下の式の内の1つの反応物を得て
【化6】
(式中、APA1は、1つの無水物基を有するAPA基であり、APA2は2つのアミド基を有するAPAであり、Lは三官能性リンカ部位である)、上記APA二無水物をアミン基を介して固相担持体に結合させて上記リンカに結合する工程と、
c)ポリアミン基を有する固相を準備する工程と、
d)各アミノポリカルボン酸の1つのカルボキシ基を上記アミン部位と反応させ、他の無水物基を変化させずに、上記リンカが結合したAPAを、アミド基を介して上記担持体に結合して上記ポリアミン修飾された固相に結合する工程と、
e)水または水性バッファーを加えて上記残りの無水物基を加水分解する工程と、を含む。
【0072】
さらに、本発明は、複数のアミノプロピルカルボン酸分子がアミド基を介して結合しているタンパク質のアフィニティ精製に使用可能な固相結合剤の生成方法を包含する。アミノプロピルカルボン酸は、二または三官能性リンカを介して他のキレートと接続しているキレートからなる。この発明の例は一般式:
【化7】
で示され、式中Zは固相であり、Sは固相とキレートの両方に結合可能な任意のスペーサ分子であり、nは0または1であり、PAはポリアミンであり、APAはアミノプロピルカルボン酸、または二官能性リンカKおよび/または三官能性リンカLにてそれぞれと結合したAPA基の直鎖または分岐鎖である。
【0073】
式中、3つおよび4つのアミノプロピルカルボン酸分子が1つのポリアミンに結合しているが、ポリアミンやポリアミン分子毎の既存のアミノ基の数によりアミノプロピルカルボン酸分子の数はそれよりも多くてもよく、5つ、6つ、またはそれ以上でもよい。
【0074】
第4の態様によれば、本発明は金属イオンを担持した固相キレート材の製造方法に関する。本方法は固相キレート材を製造するために上記の方法のうちの1つを実行する工程と、上記固相キレート材を、Ni2+、Co2+、Cu2+、Zn2+、Al3+、Fe3+、Eu3+、Ga3++、Mn2+、Ca2+からなる群から選択された金属イオンの溶液と上記固相キレート材とを接触させることで、該金属イオンを固定する工程とを含む。
【0075】
第5態様によれば、本発明は、上記の固相キレート材または上記の方法の1つにより製造された固相キレート材の、分子生物学の分野における、複数のヒスチジン残基を有するタンパク質の精製、複数のヒスチジン残基を有する膜タンパク質の精製、複数のヒスチジン残基を有するGPCRの精製、複数のヒスチジン残基を有するトランスポータタンパク質の精製、および/または治療用タンパク質の精製のための使用に関する。
【0076】
第6の態様によれば、本発明は組み換えタンパク質またはポリペプチドの精製方法に関し、本精製方法は、
a)上記の金属を担持した固相キレート材または、上記の方法で製造された金属を担持した固相キレート材を準備する工程と、
b)複数のヒスチジン部位を有するタンパク質またはペプチドを含む試料を準備する工程と、
c)上記試料を、上記金属を担持した固相キレート材に接触させる工程と、
d)上記結合したポリペプチドまたはタンパク質を上記溶液から分離する工程と、
e)上記遺伝子組み換えタンパク質またはポリペプチドを上記固相から溶出させる工程と、を含む。
【0077】
好ましくは、上記方法において、上記タンパク質は上記タンパク質は膜タンパク質、GPCR、および抗原からなる群から選択されたものである。
【0078】
上記方法において、上記金属の結合とタンパク質の収率に干渉せず、EDTAとイミダゾールとを上記結合バッファに添加して少なくとも20mMの濃度とし、DTTを添加して少なくとも10mMの濃度とすることが好ましい。
【0079】
上記方法において、上記固相に固定したアミノポリカルボン酸化合物は、水酸化ナトリウム溶液にて洗浄して汚染物質や付着したタンパク質を取り除いて上記固相キレート材を次回の生体分子生成用に再生することが可能であり、依然少なくとも1ml当たり50mgのタンパク質結合力を有する構成であることが好ましい。
【0080】
上述したように、本発明による物質を生成する方法は、基本的に2つある。
a) まず、第1キレートをポリアミド修飾された固相に共有結合し、そして二または三官能性リンカの一端をキレートに結合し、このリンカと第2キレートのカルボキシ基と反応させ、任意でカルボン酸官能基を介して第2リンカを第2キレートに結合し、第2リンカと反応する第3キレートを添加し、と続くもの、
b)少なくとも2つの単量体キレートを二または三官能性リンカと反応させ、続いて1つのカルボン酸官能基を介して多量体キレートをポリアミド修飾された固相に結合するというもの。
【0081】
結合したキレートの数は両方の方法について別々のアプローチで決定することができるのは、当業者にとって自明であろう。
a) キレートとリンカ分子を結合する工程を繰り返す回数は、方法a)においてキレート鎖の長さを制御する。よって、キレートとリンカ、そしてキレートと連続して結合することで、二量体キレートが得られ、キレート、リンカ、キレート、リンカ、そしてキレートと連続して結合することで、三量体キレートが生成される。
b)方法b)においてリンカとキレートの比率はキレート-リンカ鎖の鎖長さに影響する。よって、例えば、比率1:2でリンカを徐々にキレートの溶液に添加すると、一般式Ch-L-Chの分子が得られ、リンカをキレートに比率2:3で添加すると、一般式Ch-L-Ch-L-Chを有する物質が生成される(Lはリンカを意味し、Chはキレートを意味する)。リンカをキレートに比率1:1で添加すると、Reactive and Functional Polymers, 29 (1996) 29-39(Brosseら)に示すように、長鎖(Ch-L)nが形成される。
【0082】
固相またはリンカにキレートを結合する1つの方法は、例えばEDCや、カルボニルイミダゾール、ジスクシンイミジル炭酸塩などの他の凝縮剤、PyBOPやHBTUなどのその他のペプチド結合形成剤などを用いてカルボジイミド化学性質によってキレートを活性することと、反応物質を混合することを含む。また、リンカを活性化したキレートに添加したり、活性化したキレートをリンカに添加したりすることも好適である。また、リンカを活性化して、トシル官能基、トリフラート官能基、メシル官能基などを介してカルボキシ基に結合させてもよい。HermansonらによるBioconjugate Techniques,第3版, ISBN: 978-0-12-382239-0に一般的な方法の概略が記載されている。
【0083】
キレート鎖の形成の他の方法は、好ましくは1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジエチルエーテル、またはテトラヒドロフランなどの非プロトン性溶媒中のキレート二無水物の溶液にリンカや固相を添加することに基づいている。これら無水物の例としては、EDTA無水物、DTPA無水物およびTTHA無水物が挙げられる。アミノ基を無水物に結合することにより、アミド結合が形成される。
【0084】
キレート鎖の合成と結合の後、反応生成物は、所望の目的タンパク質と結合可能な金属イオンで帯電させてもよい。Ni、Cu、Co、Zn、Fe、Eu、Scは、可逆的なタンパク質の結合に好適であり、ニッケルとコバルトがHisタグされたタンパク質の精製に好ましいが、鉄とアルミナがリンタンパク質の単離に好ましい。例えば、ポリHisタンパク質のIMACに関し、金属のアフィニティの順番はCu>Ni>Zn>Coであり、精製の特異性については、Cu<Ni<Zn<Coの順番である。
【0085】
ポリヒスチジンタグは分子生物学において一般的であり、遺伝子組み換えタンパク質の分離に使用可能であり、大腸菌や酵母、哺乳類で表現される。よって、Hisタグタンパク質は、ヒスチジン基が非プロトン化状態であるpHの値において金属担持キレートと結合し、残りのタンパク質の大部分は金属イオンとは相互作用しない。pHの値が低くなり、ヒスチジンがプロトン化されると、タンパク質の金属イオンに対する相互作用が除かれ、タンパク質がカラムから溶出可能となる。あるいは、溶出は、金属イオンと結合し添加し、Hisタグと置き換わりタンパク質を溶出させるイミダゾールを高濃度で添加することでも行うことができる。この方法では、100から300mMの濃度のイミダゾールが一般的に使用される。
【0086】
上述したように、例えばCu-IDAやNi-NTAがクロマトグラフィ材として、生体化合物の混合物から遺伝子組み換えHisタグタンパク質を精製するのに用いられている。本発明による固相に固定されたアミノポリカルボン酸化合物もHisタグタンパク質の精製に用いることができる。キレートがリンカにより鎖状分子に結合し、固相とは1つだけの結合で結合しているので、立体的要求はモノEDTAと同等であるが、固定化されたキレートの数は大幅に多い。よって、Cu2+に基づく金属結合力は非常に高い値となり、50-80μモル/mlに達することができる。また、本発明による物質を用いて非常に多量のHisタグタンパク質を精製することができる。よって、以下の実施例では、1ml当たり80mgのタンパク質というキャパシティを得ることができる。
【0087】
また、キレートと、隣接する金属イオンとの距離が短いので、金属イオンは協力してHisタグタンパク質と結合することができ、単量体キレートと比較して親和性が高くなる。また、四座配位子(カルボン酸の代わりに2つのアミノ官能基を有するEDTAなどの六座配位子)と五座配位子(カルボン酸の代わりに1つのアミノ官能基を有するEDTAなどの六座配位子)の混合物を使用しても、親和性結合が強いため、本発明による物質は溶液ベースのキレート剤や還元剤に対して非常に良好な耐性を示す。よって、例えば、20mMのイミダゾール、20mMのEDTAおよび10mMのDTTを結合バッファに添加する場合などの厳しい条件でもこの非常に高いタンパク質結合力が維持される。
【0088】
キレートと還元剤に対する耐性が高いので、本発明による物質は特に膜タンパク質の精製、特にGPCRの精製に好適である。多くの場合、膜タンパク質の精製においては、ドデシルマルトシドやn-テトラデシルホスホコリン(FOS-14)などの界面活性剤が、沈殿や変性に対して水溶液中のタンパク質を安定化するのに使用される。実験では、本発明による物質を膜タンパク質の精製についてテストしたが、高い結合力と界面活性剤に対する良好な耐性を示した。
【0089】
特に充填したカラムを使用する場合など経済的な精製手順で作業するため、次回の精製から汚染物を取り除くことができる溶液で再生し、汚染物がない状態で次の精製に樹脂を使用することを可能にする精製樹脂を開発することが望まれている。一般に当業者は、沈殿し非特異的に結合したタンパク質を、アフィニティカラムから効果的に除去できる100mMから500mMの濃度の水酸化ナトリウム溶液を使用する。本発明による物質の合成時に、タンパク質の精製や水酸化物溶液での処理の後でもこの樹脂の結合力は依然高く、他の比較対象の物質よりも大幅に高かった。0.5MのNaOHで5分間繰り返し処理した後でも少なくとも樹脂1ml当たり50μmのタンパク質結合力が維持できた。
【0090】
セリン残基、トレオニン残基、またはチロシン残基の特異的なリン酸化反応は、細胞タンパク質活動の制御を行う上で最も一般的なメカニズムである。キナーゼが各アミノ酸の水酸基にリン酸部位を加えることを触媒する。タンパク質キナーゼの活動は、例えば環状AMPやCa2+などの様々な細胞内の重要なシグナルにより制御される。ホスファターゼがタンパク質の特異的な脱リン酸化を触媒し、酵母がリン酸化状態と脱リン酸化状態間を切り替えることを可能にする。
【0091】
可逆的なタンパク質のリン酸化は、経膜シグナル伝達、信号の細胞内増幅、細胞サイクル制御など、幅広い細胞プロセスや細胞活動を制御することが長年知られている。そのようなリン酸化残基の分析は、シグナル変換の研究の中核をなすものである。アルミニウムイオン、鉄イオン、ガリウムイオンまたはユーロピウムイオンを担持した本物質により、非リン酸化細胞タンパク質画分からリン酸化画分を完全に分離することが可能である。リン酸化タンパク質がカラムに結合し、非リン酸化タンパク質が通過画分で回収されるアフィニティ・クロマトグラフィは、煩雑さを低減し、リン酸化プロファイルの研究を大いに資する。両方の画分との生物学的活動を完全に保持し、所望される場合さらに精製することができる。
【0092】
リン酸基をいずれかのアミノ酸に担持するタンパク質は固相に高い特異性を持って結合するが、リン酸基を有していないタンパク質はこの樹脂に結合せず、よって通過画分にて観察できることになる。
【0093】
精製については、CHAPS、両性イオン界面活性剤、タプロテアーゼ抑制剤、そして任意でベンゾナーゼやその他のDNアーゼやRNアーゼを含むpH6.0の25mMのMESバッファにて行い、タンパク質-核酸錯体を取り除く。洗浄工程を溶解バッファを用いて行い、精製したリンタンパク質をpH7.5のリン酸カリウムバッファで溶出する。この手順により、本発明の物質は、強力なキレートや還元剤が存在していても効果的な精製を行うことができる。
【0094】
また、金属結合タンパク質は、好適な金属カチオンが固定化されている限り、IMAC樹脂に親和性を示す。よって、亜鉛フィンガ部位に対して様々な固定化金属イオンの親和性をprotein Expr.Purif.2011,79(1):88-95にて実験し、結果、元素により異なる親和性を観察することができた。銅結合タンパク質は、Proteomics, 2006,5月号;6(9):2746-2758に記載されるようにCu-IMACカラムとZnIMACカラムを用いて精製することができる。高いリガンド密度と金属カチオンへの強い結合により本発明の物質はこの応用について高い可能性を有する。
【0095】
また、金属イオンを担持したキレート樹脂は、核酸精製について好適である。Biotechnol.Prog.2005,21,1472-1477において、一本鎖または二本鎖の核酸の分離方法が提示されている。この手順の原理は、固定化された金属イオンにイミダジル部位の可逆的吸着に基づいている。よって、部分的に変性されたゲノムDNAをIMAC樹脂に結合することができるが、アクセス可能なプリンベースのイミダジル基を有さない二本鎖プラスミドDNAは固定化することができない。この方法により、CuのIDAアガロースを使って、1,000,000倍の除去を達成することができる。さらなる応用例としては、Plos ONE,2011,6,1,e15412に記載されているような、PCRエラー生成物の除去が挙げられる。本発明の物質の非常に高い安定性と親和性によりこの物質はこの応用について好適である。
【0096】
本発明の物質のその他の応用例としては、溶液からの金属イオンの除去である。EDTAは、約14から25の安定度定数を有する金属錯体を形成する(Martell A.E.&Smith R.M.(1982),Critical Stability Constants,Vol.5:First Supplement,Plenum Press,New York)、アミノポリカルボン酸鎖修飾固相は、Ni2+,Co2+,Mn2+,Cr3+,Pb2+などの金属イオンを結合するのに効果的に使用可能であり、このキレート結合樹脂を液体に接触させるだけで溶液中のこれらの濃度を大幅に下げるのに使用可能である。一例として、カートリッジに充填可能なキレート修飾アガロース粒子の使用が挙げられ、カラムを通る際に液体の重金属の濃度を下げることができる。さらに、キレート鎖は、溶液に添加、混合され、金属イオンの結合の後に磁性分離機で分離することができる磁性アガロース粒子に結合させてもよい。
【0097】
本発明の他の一態様によれば、固相濃い手かアミノポリカルボン酸化合物は、固相、スペーサ分子、スペーサ分子に結合したポリアミン類、およびポリアミン類に結合した複数のアミノポリカルボン酸類からなる。
【0098】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、上記スペーサがエーテル結合を開始って上記固相に結合され、隣接するアミノポリカルボン酸にアミドを介して結合されているのが好ましい。
【0099】
上記アミノポリカルボン酸化合物において、上記隣接するアミノポリカルボン酸は、アミド結合により上記固相に固定されているのが好ましい。
【0100】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、ポリアミンに結合しているアミノポリカルボン酸の数は3から20の範囲であることが好ましい。
【0101】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、ポリアミンに結合しているアミノポリカルボン酸の数は4から15の範囲であることが好ましい。
【0102】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、上記スペーサは、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、1,2-エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルをアガロースに結合して生成されたものである。
【0103】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、上記スペーサは、アリルグリシジルエーテルまたは臭化アリルをアガロースに結合させ、続いて臭素化することで生成されたものであることが好ましい。
【0104】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、上記アミノポリカルボン酸は一般式、
(APA1-L)n-APA2
で示されるものであることが好ましく、
式中、APA1は2つのアミド官能基で接続された六座配位子キレート、APA2は六座配位子キレート、LはAPA1およびAPA2とアミド官能基を介して接続したリンカ分子、nは1から50までの数である。
【0105】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、リンカ分子はジアミンであることが好ましい。
【0106】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、上記リンカ分子はエチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノへキサン、1,8-ジアミノオクタン、およびジェファーミンED-600(JeffamineED-600)からなる群から選択されたものであることが好ましい。
【0107】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、上記アミノプロピルカルボン酸は、一般式:
【化8】
にて示されるものであることが好ましく、
式中、APA1は、固相とリンカに2つのアミド官能基を介して結合した六座配位子キレートであり、APA2およびAPA3はアミド官能基を介してリンカに結合した六座配位子キレートであり、Lはリンカ分子である。
【0108】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、上記アミノプロピルカルボン酸は、一般式:
【化9】
にて示されるものであり、
式中、APA1は、固相とリンカに2つのアミド官能基を介して結合した六座配位子キレートであり、APA2は2つのアミド官能基を介してリンカに結合した六座配位子キレートであり、APA3はアミド官能基を介してリンカに結合した六座配位子キレートであ、Lはリンカ分子である。
【0109】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、リンカ分子はトリアミンであることが好ましい。
【0110】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、上記リンカ分子は、グリセロールコアに基づいて、エチレンジアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、トリス(2-アミノプロピル)アミン、またはアミノ官能化三官能性分岐PEG
ジエチレントリアミンから選択されたものであることが好ましい。
【0111】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、上記アミノプロピルカルボン酸は一般式:
【化10】
で示されるものであることが好ましく、式中、APA1およびAPA2は、アミド基を介して上記固相または上記リンカに結合したEDTA、DTPA、TTHA、EDDS、EGTA、DOTA、およびNOTAから選択されたものであり、Lは二官能性分子である。
【0112】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、上記アミノプロピルカルボン酸は一般式:
【化11】
で示されるものであることが好ましく、式中、APA1、APA2およびAPA3は、アミド基を介して上記固相または上記リンカに結合したEDTA、DTPA、TTHA、EDDS、EGTA、DOTAおよびNOTAから選択されたものであり、Lはリンカ分子である。
【0113】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、上記ポリアミンは、ペンタエリトリトールコアに基づいて、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、ペンタエチレンヘキサアミン、直鎖および分岐ポリエチレンイミン、ポリリシン、ポリプロピレンイミン、サイクラム、サイクレン、および1,4,7-トリアザシクロノナンなどのマクロ環状ポリアミン類、1,1,1-トリス(アミノメチル)エタン、トリスアミノエチルアミン、トリスアミノプロピルアミン、テトラキスエチルアミノアミン、テトラキスアミノプロピルアミンなどの分岐ポリアミン類、およびアミン官能化四官能性分岐PEGの群から選択されたものであることが好ましい。
【0114】
上記アミノポリカルボキシ化合物において、上記ポリアミンは、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、およびペンタエチレンヘキサアミンの群から選択されたものであることが好ましい。
【0115】
上記固相に固定化されたアミノポリカルボン酸化合物において、好ましくは、上記固相は、アガロース、セルロース、寒天、デキストラン、キトサン、アルジネート、ゲラン、好ましくはアガロースである。
【0116】
上記固相に固定化されたアミノポリカルボン酸化合物において、上記固相は、シリカ、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、二酸化アルミニウム、その他の金属または半金属の酸化物、金、ガラス、または、アクリレート類、メタアクリレート類、アクリルアミド類、スチレン誘導体、ビニルエステル類、ビニルアミド類、およびビニルアルコール類の群からのポリマーであることが好ましい。
【0117】
上記固相に固定化されたアミノポリカルボン酸化合物において、上記固相は、多孔質クロマトグラフィ担体、無孔質クロマトグラフィ担体、膜、塗布表面、塗布チューブ、センサ表面、マイクロアレイ表面、および塗布ミクロタイタプレートであることが好ましい。
【0118】
上記固相に固定化されたアミノポリカルボン酸化合物において、上記固相は、磁性アガロース、磁性シリカ、または磁性ポリマー、好ましくは磁性アガロースであることが好ましい。
【0119】
上記固相に固定化されたアミノポリカルボン酸化合物において、上記アミノポリカルボン酸は、Ni2+、Co2+、Cu2+、Zn2+、Al3+、Fe3+、Eu3+、Ga3+、Mn2+、Ca2+から選択された金属イオンと接触する構成であることが好ましい。
【0120】
本発明の他の一態様によれば、固相、スペーサ分子、スペーサ分子に結合したポリアミンおよびポリアミンに共有結合した複数のアミノポリカルボン酸からなる上記固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の合成は、以下の工程を含む:
a)EDTAと、ポリアミン分子を有する固相とを準備する工程と、
b)EDTAを、EDTAの1つの基を上記固相と反応させて、凝縮剤の存在下で上記固相と結合する工程と、
c)工程b)からの上記固相に固定されたEDTAと二官能性リンカを準備する工程と、
d)上記リンカの1つの基をEDTAと反応させて、上記リンカを凝縮剤の存在下でEDTAのカルボキシ基と結合させる工程と、
e)工程d)からのリンカが共有結合して結合している状態の上記固相に固定化されたEDTAと、第2EDTA分子を準備する工程と、
f)上記第2EDTAの1つの基と上記固相とを反応させて、上記第2EDTAを凝縮剤の存在下で上記リンカと結合する工程と、
g)任意で、工程c)からf)までを少なくとも1回繰り返す工程と、
h)上記固相に固定されたアミノプロピルカルボン酸化合物を、Ni2+、Co2+、Cu2+、Zn2+、Al3+、Fe3+、Eu3+、Ga3+、Mn2+、Ca2+から選択された金属イオンの溶液に接触させることで金属イオンを固定する工程。
【0121】
本発明の他の一態様によれば、固相、スペーサ分子、スペーサ分子に結合したポリアミンおよびポリアミンに共有結合した複数のアミノポリカルボン酸からなる上記固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の合成は、以下の工程を含む:
a)EDTA二無水物と、ポリアミン分子を有する固相とを準備する工程と、
b)各EDTAの1つの無水物基をアミン部位と反応させ、その他の無水物を変化させずに、上記二無水物をアミノ基を介して上記担持体に結合させて、上記固相に結合する工程と、
c)無水溶媒で上記固相を洗浄して、非結合二無水物を取り除く工程と、
d)工程c)からの固相に固定されたEDTAと、二官能性リンカ分子を準備する工程と、
e)上記リンカの1つのアミン基をEDTA無水物と反応させ、その他の官能基を変化させずに、上記リンカをEDTA無水物基と結合させる工程と、
f)上記固相を無水溶媒で洗浄し、上記非結合リンカ分子を取り除く工程と、
g)工程f)からのリンカが共有結合した、上記固相に固定されたEDTAと、追加のEDTA二無水物とを準備する工程と、
h)各アミノポリカルボン酸の1つのカルボキシ基と上記アミン部位とを反応させ、上記無水物を上記リンカに結合する工程と、
i)任意で、工程c)からh)までを少なくとも1回繰り返す工程と、
j)上記固相に固定されたアミノポリカルボン酸化合物を、Ni2+、Co2+、Cu2+、Zn2+、Al3+、Fe3+、Eu3+、Ga3++、Mn2+、Ca2+から選択した金属イオンの溶液と接触させることで金属イオンを固定する工程。
【0122】
本発明の他の一態様によれば、固相、スペーサ分子、上記スペーサ分子に結合したポリアミンおよび上記ポリアミンに共有結合した複数のアミノポリカルボン酸からなる上記固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の合成は以下の工程を含む:
a)EDTA二無水物と二官能性リンカを2:1から1:1の割合で、好ましくは2:1から1.25:1の割合で準備する工程と、
b)上記二官能性リンカと2つの異なる二無水物と反応させて、化合物APA1-L-(APA2-L)n-APA3(式中、APA1は1つの無水物基と1つのアミド官能基を有するEDTA、APA2は2つのアミド官能基を有するEDTA、APA3は1つの無水物基を有するEDTAであり、nは0から50、好ましくは0から10の数字である)を形成して、上記二無水物を上記リンカにアミンまたは水酸基を介して結合する工程と、
c)ポリアミン基を有する固相を準備する工程と、
d)各アミノポリカルボン酸の1つのカルボキシ基をアミン部位と反応させ、その他の無水物基を変化させずに、上記リンカが結合した二無水物を上記担持体にアミノ基を介して固相に結合する工程と、
e)水または水性バッファーを加えて上記残りの無水物基を加水分解する工程と、
f)上記固相に固定されたアミノポリカルボン酸化合物を、Ni2+、Co2+、Cu2+、Zn2+、Al3+、Fe3+、Eu3+、Ga3++、Mn2+、Ca2+から選択した金属イオンの溶液と接触させることで金属イオンを固定する工程。
【0123】
本発明の他の一態様によれば、固相、スペーサ分子、上記スペーサ分子に結合したポリアミンおよび上記ポリアミンに共有結合した複数のアミノポリカルボン酸からなる上記固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の合成は以下の工程を含む:
a)EDTA二無水物と三官能性リンカを3:1から9:4の割合で、好ましくは3:1から5:2の割合で準備する工程と、
b)上記リンカを3つの異なる二無水物と反応させ、以下の式の内の1つの反応物を得て
【化12】
上記EDTA二無水物をアミン基を介して固相担持体に結合させて上記リンカに結合する工程と、
c)式中、APA1は、1つの無水物基を有するEDTAであり、APA2は2つのアミド基を有するEDTAである、
d)ポリアミン基を有する固相を準備する工程と、
e)各アミノポリカルボン酸の1つのカルボキシ基を上記アミン部位と反応させ、他の無水物基を変化させずに、上記リンカが結合したEDTAを、アミド基を介して上記担持体に結合して上記ポリアミン修飾された固相に結合する工程と、
f)水または水性バッファーを加えて上記残りの無水物基を加水分解する工程と
g)上記固相に固定されたアミノポリカルボン酸化合物を、Ni
2+、Co
2+、Cu
2+、Zn
2+、Al
3+、Fe
3+、Eu
3+、Ga
3++、Mn
2+、Ca
2+から選択した金属イオンの溶液と接触させることで金属イオンを固定する工程。
【0124】
上記固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の合成において、上記アミノポリカルボン酸化合物、APA1、APA2、およびAPA3は、固相またはリンカにアミド基を介して結合したEDTA、DTPA、TTHA、EDDS、EGTA、DOTA、およびNOTAから選択されたものであることが好ましい。
【0125】
上記固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の合成において、上記二官能性リンカは、以下の一般式:
A-(CH2)n-BまたはA-L-BまたはA-(C2H4O)n-(CH2)m-B
(式中、AおよびBはカルボン酸基と反応可能な官能基であり、-NH2、NHRから選択され、mおよびnは2から20の数字であり、Lは直鎖状または分岐状の原子2個から100個からなる構造であり、C、H、N、OおよびSを含んでいてもよく、炭水化物などの環状化合物を含む)のいずれか1つで示される二官能性分子であることが好ましい。
【0126】
上記固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の合成において、上記二官能性リンカ分子は、エチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノへキサン、1,8-ジアミノオクタン、およびジェファーミンED-600(JeffamineED-600)の群から選択されたものであることが好ましい。
【0127】
上記固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の合成において、上記三官能性リンカ分子は、グリセロールコアに基づいて、ジエチレントリアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、トリス(2-アミノプロピル)アミン、およびアミノ官能化三官能性分岐PEGの群から選択されたものであることが好ましい。
【0128】
他の一態様によれば、本発明は、上記上記固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の分子生物の分野における使用に関する。
【0129】
他の一態様によれば、本発明は上記上記固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の複数のヒスチジン残基を有するタンパク質の精製のための使用に関する。
【0130】
他の一態様によれば、本発明は上記上記固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の複数のヒスチジン残基を有する膜タンパク質の精製のための使用に関する。
【0131】
他の一態様によれば、本発明は、上記固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の複数のヒスチジン残基を有するGPCRの精製のための使用に関する。
【0132】
他の一態様によれば、本発明は、上記固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の複数のヒスチジン残基を有するトランスポータタンパク質の精製のための使用に関する。
【0133】
他の一態様によれば、本発明は、上記固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の治療用タタンパク質の精製のための使用に関する。
【0134】
他の一態様によれば、本発明は、遺伝子組み換えタンパク質の精製方法に関し、該方法は以下の工程を含む:
a)Ni2+、Co2+、Cu2+、Zn2+、Al3+、Fe3+、Eu3+、Ga3++、Mn2+から選択された金属イオンを担持した、上記請求のいずれか一項に記載の固相固定化アミノポリカルボン酸を準備する工程と、
b)複数のヒスチジン部位を有するタンパク質またはポリペプチドを含む試料を準備する工程と、
c)上記試料を上記固相固定化アミノポリカルボン酸と接触させる工程と、
d)上記結合したポリペプチドまたはタンパク質を溶液から分離する工程と、
e)上記遺伝子組み換えタンパク質またはポリペプチドを上記固相から溶出する工程。
【0135】
好ましくは、上記方法において、上記タンパク質は膜タンパク質である。
【0136】
好ましくは、上記方法において、上記タンパク質はGPCRである。
【0137】
好ましくは、上記方法において、上記タンパク質は抗原である。
【0138】
上記方法において、上記金属の結合とタンパク質の収率に干渉せずに、EDTAとイミダゾールとを上記結合バッファに添加して少なくとも20mMの濃度とし、DTTを添加して少なくとも10mMの濃度とすることが好ましい。
【0139】
他の一態様によれば、本発明は、上記に定義した金属担持固相固定化アミノポリカルボン酸の、複数のヒスチジン部位を有する遺伝子組み換えタンパク質またはポリペプチドの精製における金属固定化アフィニティ・クロマトグラフィ(IMAC)のための使用に関する。
【0140】
他の一態様によれば、本発明は、上記に定義した固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の、リンタンパク質の精製のための使用に関する。
【0141】
他の一態様によれば、本発明は、上記に定義した固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の、金属タンパク質の精製のための使用に関する。
【0142】
他の一態様によれば、本発明は、上記に定義した固相固定化アミノポリカルボン酸化合物の、核酸の精製のための使用に関する。
【0143】
上記の生体分子の精製方法において、上記に定義した固相固定化アミノポリカルボン酸化合物を水酸化ナトリウム溶液にて洗浄して汚染物質や付着したタンパク質を取り除いて上記固相キレート材を次回の生体分子生成用に再生することが可能であり、依然少なくとも1ml当たり50mgのタンパク質結合力を有する構成であることが好ましい。
【0144】
以下に、本発明の好ましい実施形態を説明する。実施例1ないし6は好ましい固相キレート材の製造についての合成の完全な指示を含む。比較例は従来技術のキレート材の合成に関する。また、レジンの金属の担持や、水酸化ナトリウム処理後のアミノポリカルボン酸樹脂6xHis-GFPを説明する。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【
図1】添付の
図1に、実施例1と比較例による固相キレート材を用いたアフィニティ精製実験において得られた溶出物のゲルの写真を示す。
【
図2】添付の
図2に、本発明のキレート修飾チップの表面プラズモン共鳴によるアフィニティ測定結果を示す。
【
図3】添付の
図3に、Ni-NTA(比較例2)の表面プラズモン共鳴によるアフィニティ測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0146】
実施例:固相結合キレート鎖の合成
実施例1:ジエチレントリアミンアガロースの生成、EDTAのエチレンジアミンとの反応、EDTA-EDA-EDTAのアガロースへの共有結合による新規のキレートの合成
ジエチレントリアミンアガロースの生成
10mlのアガロース粒子(WorkBeads 40 SEC, BioWorks
Sweden AB, Uppsala)を10mlの1M苛性ソーダ溶液に再懸濁し、サーモシェイカで2時間保温する。その後、5mlエピクロロヒドリンを加え、懸濁液を30℃で4時間加熱する。懸濁液を吸引ろ過でろ過し、脱イオン蒸留水で6回洗浄する。その後、アガロースを20mlの5%ジエチレントリアミン溶液(pH10.5)に再懸濁し、65℃で20時間保温する。アガロースを吸引乾燥し、脱イオン蒸留水で4回、リン酸バッファした塩化ナトリウム水溶液で4回洗浄し、無水ジメチルホルムアミド内に保存する。
【0147】
EDTA-EDA-EDTAの合成
853mgのEDTA二無水物(3.33モル)を15mlのジメチルホルムアミドに溶解し、100mgのエチレンジアミン(1.67ミリモル)を5mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を激しく攪拌しながら、少量ずつ添加する。反応混合液を室温で1時間攪拌し、そして60℃で4時間攪拌する。得られた生成物をさらに生成せずに直接アガロースに加えることができる。
【0148】
トリアミンアガロースへの結合
10mlのトリアミンアガロースを10mlのジメチルホルムアミドに再懸濁し、600mgのEDTA-EDA-EDTAを10mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を加える。反応混合液を60℃で6時間保温し、吸引乾燥する。ろ過後、生成物をジメチルホルムアミドで6回洗浄する。
【0149】
実施例2:ペンタエチレンヘキサアミンアガロースの生成、EDTAのエチレンジアミンとの反応、EDTA-EDA-EDTAのアガロースへの共有結合による新規のキレートの合成
ペンタエチレンヘキサミンアミンアガロースの生成
10mlのアガロース粒子(WorkBeads 40 SEC, BioWorks
Sweden AB, Uppsala)を10mlの1M苛性ソーダ溶液に再懸濁し、サーモシェイカで2時間保温する。その後、5mlエピクロロヒドリンを加え、懸濁液を30℃で4時間加熱する。懸濁液を吸引ろ過でろ過し、脱イオン蒸留水で6回洗浄する。その後、アガロースを20mlの5%ペンタエチレンヘキサアミン溶液(pH10.5)に再懸濁し、65℃で20時間保温する。アガロースを吸引乾燥し、脱イオン蒸留水で4回、リン酸バッファした塩化ナトリウム水溶液で4回洗浄し、無水ジメチルホルムアミド内に保存する。
【0150】
EDTA-EDA-EDTAの合成
853mgのEDTA二無水物(3.33モル)を15mlのジメチルホルムアミドに溶解し、100mgのエチレンジアミン(1.67ミリモル)を5mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を激しく攪拌しながら、少量ずつ添加する。反応混合液を室温で1時間攪拌し、そして60℃で4時間攪拌する。得られた生成物をさらに精製せずに直接アガロースに加えることができる。
【0151】
ヘキサアミンアガロースへの結合
10mlのヘキサアミンアガロースを10mlのジメチルホルムアミドに再懸濁し、600mgのEDTA-EDA-EDTAを10mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を加える。反応混合液を60℃で6時間保温し、吸引乾燥する。ろ過後、生成物をジメチルホルムアミドで6回洗浄する。
【0152】
実施例3:EDTA、エチレンジアミン、EDTAと順番に結合することによる二量体EDTA鎖の形成
ジエチレントリアミンアガロースの合成
10mlのアガロース粒子(WorkBeads 40 SEC, BioWorks
Sweden AB, Uppsala)を10mlの1M苛性ソーダ溶液に再懸濁し、サーモシェイカで2時間保温する。その後、5mlエピクロロヒドリンを加え、懸濁液を30℃で4時間加熱する。懸濁液を吸引ろ過でろ過し、脱イオン蒸留水で6回洗浄する。その後、アガロースを20mlの5%ジエチレントリアミン溶液(pH10.5)に再懸濁し、65℃で20時間保温する。アガロースを吸引乾燥し、脱イオン蒸留水で4回、リン酸バッファした塩化ナトリウム水溶液で4回洗浄し、無水ジメチルホルムアミド内に保存する。
【0153】
EDTA-アガロース(NH2)の合成
10mlのアミノアガロースを10mlのジメチルホルムアミドに再懸濁し、1500mgの4,4’-エチレンビス(2,6-モルホリンジオン)を10mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を加える。反応混合液を60℃で6時間保温し、吸引乾燥する。ろ過後、生成物を乾燥したジメチルホルムアミドで6回洗浄する。
【0154】
EDTAアガロースのエチレンジアミンでの修飾
10mlのEDTAアガロースを10mlのジメチルホルムアミドに再懸濁し、2mlのエチレンジアミンを10mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を加える。サーモシェイカで十分に混合した後、懸濁液を65℃で6時間反応させる。その後、反応生成物を吸引ろ過し、乾燥したジメチルホルムアミドで6回洗浄し、ジメチルホルムアミドで再懸濁する。
【0155】
EDTA無水物との反応
10mlのEDTA-EDAアガロースを10mlのジメチルホルムアミドに再懸濁し、500mgの4,4’-エチレンビス(2,6-モルホリンジオンを10mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を加える。反応混合液を60℃で6時間保温し、吸引乾燥する。ろ過後、生成物をジメチルホルムアミドで3回、脱イオン蒸留水で3回、リン酸バッファされた塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄し、さらにもう一度脱イオン蒸留水で洗浄する。
【0156】
実施例4:ジェファーミン架橋したEDTAの合成と固相への結合による二量体EDTA鎖の形成
EDTA-ジェファーミン-EDTAの合成
853mgのEDTA二無水物(3.33ミリモル)を15mlのジメチルホルムアミドに溶解し、1000mgのジェファーミンED-600(Jeffamine ED-600、O,O-ビス(2-アミノプロピル)ポリプロピレングリコール-ブロック-ポリエチレングリコール-ブロック-ポリプロピレングリコール、1.67ミリモル)を10mlジメチルホルムアミドに溶解した溶液を激しく攪拌しながら少量ずつ加える。反応混合液を室温で1時間攪拌し、そして60℃で4時間攪拌する。得られた生成物はさらなる精製をすることなく直接アガロースに加えることができる。
【0157】
アミンアガロースへの結合
10mlのアミノトリアミンアガロース(実施例1)を10mlのジメチルホルムアミドに再懸濁し、600mgのEDTA-EDA-EDTAを10mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を加える。反応混合液を60℃で6時間保温し、吸引乾燥する。ろ過後、生成物をジメチルホルムアミドで6回洗浄する。
【0158】
実施例5:エチレンジアミン架橋したEDTAの合成と固相への結合による三量体EDTA鎖の形成
EDTA-EDA-EDTA-EDA-EDTAの合成
853mgのEDTA二無水物(3.33ミリモル)を15mlのジメチルホルムアミドに溶解し、133mgのエチレンジアミン(2.22ミリモル)を5mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を激しく攪拌しながら少量ずつ加える。反応混合液を室温で1時間、そして60℃で4時間攪拌する。得られた生成物はさらに精製することなく直接アガロースに加えることができる。
【0159】
アミンアガロースへの結合
10mlのトリアミンアガロース(実施例1)を10mlのジメチルホルムアミドに再懸濁し、600mgのEDTA-EDA-EDTA-EDA-EDTAを10mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を加える。反応混合液を60℃で6時間保温し、吸引乾燥する。ろ過後、生成物をジメチルホルムアミドで6回洗浄する。
【0160】
実施例6:DTPA、エチレンジアミン、DTPAと順番に結合させることによる二量体DTPA鎖の形成
DTPA-アガロースの合成
10mlのトリアミンアガロース(実施例1)を10mlのジメチルホルムアミドに再懸濁し、1500mgのDTPA二無水物を15mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を加える。反応混合液を60℃で6時間保温し、吸引乾燥する。ろ過後、生成物をジメチルホルムアミドで6回洗浄する。
【0161】
DTPAアガロースのエチレンジアミンでの修飾
10mlのDTPAアガロースを10mlのジメチルホルムアミドに再懸濁し、2mlのエチレンジアミンを10mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を加える。サーモシェイカで十分に混合した後、懸濁液を65℃で6時間反応させる。その後、反応生成物を吸引ろ過し、ジメチルホルムアミドで6回洗浄し、ジメチルホルムアミドで再懸濁する。
【0162】
DTPA無水物との反応
10mlのDTPA-EDAアガロースを10mlのジメチルホルムアミドに再懸濁し、500mgDTPA二無水物を10mlジメチルホルムアミドに溶解した溶液を加える。反応混合液を60℃で6時間保温し、吸引乾燥する。ろ過後、生成物をジメチルホルムアミドで3回洗浄し、そして脱イオン蒸留水で3回洗浄し、リン酸バッファされた塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄し、もう一度脱イオン蒸留水で洗浄する。
【0163】
比較例1:アミノアガロースの生成、EDTAのアンモニアとの反応、およびEDTA-EDA-EDTAのアガロースへの共有結合による新規キレートの合成
アミノアガロースの合成
10mlのアガロース粒子(WorkBeads 40 SEC, BioWorks
Sweden AB, Uppsala)を10mlの1M苛性ソーダ溶液に再懸濁し、サーモシェイカで2時間保温する。その後、5mlエピクロロヒドリンを加え、懸濁液を30℃で4時間加熱する。懸濁液を吸引ろ過でろ過し、脱イオン蒸留水で6回洗浄する。その後、アガロースを20mlの5%アンモニア溶液(pH10.5)に再懸濁し、65℃で20時間保温する。アガロースを吸引乾燥し、脱イオン蒸留水で4回、リン酸バッファした塩化ナトリウム水溶液で4回洗浄し、無水ジメチルホルムアミド内に保存する。
【0164】
EDTA-EDA-EDTAの合成
853mgのEDTA二無水物(3.33モル)を15mlのジメチルホルムアミドに溶解し、100mgのエチレンジアミン(1.67ミリモル)を5mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を激しく攪拌しながら、少量ずつ添加する。反応混合液を室温で1時間攪拌し、そして60℃で4時間攪拌する。得られた生成物をさらに精製せずに直接アガロースに加えることができる。
【0165】
アミノアガロースへの結合
10mlのアミノアガロースを10mlのジメチルホルムアミドに再懸濁し、600mgのEDTA-EDA-EDTAを10mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を加える。反応混合液を60℃で6時間保温し、吸引乾燥する。ろ過後、生成物をジメチルホルムアミドで6回洗浄する。
【0166】
レジンの金属担持
10mlのキレート樹脂を吸引乾燥し、0.1M(6.0pH)の酢酸で3回洗浄し、脱イオン蒸留水で1回洗浄する。残留物を硫酸ニッケルの3%溶液に加え、攪拌しながら3時間維持する。この混合物を吸引乾燥し、脱イオン蒸留水で5回洗浄する。そして、微生物の増殖を防ぐため、30%のエタノール中の低塩バッファ(pH6.0~7.0)に保存することができる。
【0167】
または、硫酸ニッケルの代わりに硫酸ニッケル、硫酸鉄、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸ユウロピウムなどで置き換えることで樹脂をコバルト、鉄、アルミニウム、亜鉛、銅、その他の遷移金属やランタニドを担持するように構成してもよい。
【0168】
水酸化ナトリウム処理後のアミノポリカルボン酸樹脂による6xHis-GFPの精製
100μlの樹脂の50%スラリーをカラムに充填し、上澄みを除去した。そして、各資料を4mlの0.5M水酸化ナトリウムで2回洗浄し、5分間放置した後、上澄みを除去した。
【0169】
各カラムを4ml結合バッファNPI-10(50mMのNaH2PO4、300mMのNaCl、10mMのイミダゾール、pH7.4)で2回洗浄し、5分間放置した。
【0170】
10mgのHisタグGFP(緑色の蛍光タンパク質)を溶解バッファNPI-10(50mMのNaH2PO4、300mMのNaCl、10mMのイミダゾール、10mMのEDTA、10mMのDTT、pH7.4)に加え、100μlの樹脂の50%スラリーと共に30分間放置した。
【0171】
放置後、樹脂を2.5mlのNPI-20(50mMのNaH
2PO
4、300mMのNaCl、20mMのイミダゾール、pH7.4)で2回洗浄し、1mlのNPI-250(50mMのNaH
2PO
4、300mMのNaCl、250mMのイミダゾール、pH8.0)で3回溶出した。溶出画分を合わせ、488nmで測定し、収率を算出して表1にまとめた。溶出分のゲルの写真を
図1に示す。キレート添加物(20mMのEDTAと10mMのDTT)をNPI-10に加え、テスト対象の樹脂のキレート剤、還元剤、アルカリ溶液に対する耐性を確認した。
【0172】
【0173】
結果:
本発明による物質の結合力は、比較例の物質の結合力の3倍以上である。キレート剤EDTAや還元剤DTTが本発明による物質の高い結合力に何ら影響しないこと、0.5Mの水酸化ナトリウム溶液による処理の後でもこの樹脂は依然高いタンパク質結合力を示すことが示された。
【0174】
実施例7:ペンタエチレンヘキサアミンアガロースの生成、EDTAとエチレンジアミ
ンとの反応、EDTA-EDA-EDTAのデキストランチップへの共有結合による新規
キレートの合成
ペンタエチレンヘキサミンデキストランチップの合成
デキストラン修飾された金に基づくチップ(SCR D200M-5, Xantec Bioanalytics GmbH,デュッセルドルフ、ドイツ)を10mlの0.5M苛性ソーダ溶液に再懸濁し、サーモシェイカで2時間インキュベートする。そして、5mlのエピクロロヒドリンを加え、懸濁液を30℃で4時間加熱する。上澄みをデキャンティングで除去し、試料を脱イオン蒸留水で6回洗浄する。そして、チップを20mlの5%ペンタエチレンヘキサアミン溶液(pH10.5)に再懸濁し、45℃で20時間保温する。上澄みをデキャンティングで除去し、脱イオン蒸留水で4回洗浄し、リン酸バッファされた塩化ナトリウム水溶液で4回洗浄して、無水ジメチルホルムアミドで保存する。
【0175】
EDTA-EDA-EDTAキレートの合成
853mgのEDTA二無水物(3.33モル)を15mlのジメチルホルムアミドに溶解し、100mgのエチレンジアミン(1.67ミリモル)を5mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を激しく攪拌しながら、少量ずつ添加する。反応混合液を室温で1時間攪拌し、そして60℃で4時間攪拌する。得られた生成物をさらに精製せずに直接固相、例えば、デキストランチップに加えることができる。
【0176】
へキサアミンデキストランチップへのキレート結合
上記ヘキサアミン修飾チップを10mlのジメチルホルムアミドに再懸濁し、600mgのEDTA-EDA-EDTAを10mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を加える。反応混合液を60℃で6時間保温し、上澄みをデキャンティングで除去する。ろ過後、生成物をジメチルホルムアミドで6回洗浄し、脱イオン蒸留水で4回洗浄し、そしてリン酸バッファされた塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄する。
【0177】
金属担持
上記チップを2%硫酸ニッケル溶液にてインキュベートし、サーモシェイカで2時間インキュベートする。そして、上澄みをデキャンティングで除去し、チップを脱イオン蒸留水で6回洗浄し、20mM酢酸バッファ(pH6.0)で3回洗浄し、そして10mMの酢酸(pH6.5)と20%エタノールの溶液に保存する。
【0178】
実施例8:ペンタエチレンヘキサアミンアガロースの生成、EDTAとエチレンジアミンとの反応、EDTA-EDA-EDTAの磁性アガロースへの共有結合による新規キレートを有する磁性粒子の合成
ペンタエチレンヘキサアミン磁性ビーズの合成
10mlの磁性アガロース粒子(Cube Biotech, モンハイム、ドイツ)
10mlの1M苛性ソーダ溶液に再懸濁し、サーモシェイカで2時間インキュベートする。その後、5mlのエピクロロヒドリンを加え、30℃で4時間加熱した。上澄みを磁気分離で除き、磁性ビーズを脱イオン蒸留水で6回洗浄する。そして、磁性アガロースを20mlの5%ペンタエチレンヘキサアミン溶液(pH10.5)に再懸濁し、65℃で20時間保温する。磁気分離で上澄みを除き、そして磁性ビーズを脱イオン蒸留水で4回洗浄し、リン酸バッファされた塩化ナトリウム水溶液で4回洗浄してから、無水ジメチルホルムアミドに保存する。
【0179】
EDTA-EDA-EDTAキレートの合成
853mgのEDTA二無水物(3.33モル)を15mlのジメチルホルムアミドに溶解し、100mgのエチレンジアミン(1.67ミリモル)を5mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を激しく攪拌しながら、少量ずつ添加する。反応混合液を室温で1時間攪拌し、そして60℃で4時間攪拌する。得られた生成物をさらに精製せずに直接磁気アガロースに加えることができる。
【0180】
ヘキサアミン磁性アガロースへのキレートの結合
10mlのヘキサアミン磁性ビーズを10mlのジメチルホルムアミドに再懸濁再懸濁し、600mgのEDTA-EDA-EDTAを10mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を加える。反応混合液を60℃で6時間保温し、上澄みを磁気分離で除く。そして、生成物をジメチルホルムアミドで6回洗浄し、脱イオン蒸留水で4回洗浄する。
【0181】
金属担持
10mlのキレート官能化磁性ビーズを20mlの2%硫酸ニッケル溶液に再懸濁し、サーモシェイカで2時間インキュベートする。そして、上澄みを磁気分離で除き、該チップを脱イオン蒸留水で6回洗浄し、20mMの酢酸バッファ(pH6.0)で3回洗浄してから、10mM酢酸(pH6.5)と20%エタノールの溶液に保存する。
【0182】
実施例9:ペンタエチレンヘキサアミンアガロースの生成、EDTAとエチレンジアミンとの反応、EDTA-EDA-EDTAの磁性ビーズへの共有結合による新規キレートを塗布した膜の合成
CIMエポキシカラム(Bia Separations,アイドフシュチナ、スロバニア)を、蠕動ポンプを用いて脱イオン蒸留水で10分間パージする。その後、1MのNaOH80mlに20mlの溶液を35℃まで加熱し、上記カラムを通して3時間パージする。
【0183】
カラムを脱イオン蒸留水で20分間洗浄し、脱イオン蒸留水との5%ペンタエチレンヘキサアミンの溶液(pH10.5)を60℃で10時間カラムに通してパージした。
【0184】
脱イオン蒸留水での20分間の洗浄とDMFでの10分間の洗浄の後、ポンプを使用してEDTA-EDA-EDTA溶液(上記のように生成)を50℃で8時間カラムを通す。次の工程では、脱イオン蒸留水、リン酸バッファ(pH
7.0)、そして脱イオン蒸留水を各10分間カラムにポンプを使って通した。
【0185】
そして、カラムを1%硫酸ニッケル溶液の中で1時間放置し、そして脱イオン蒸留水で繰り返し20分間洗浄する。このカラムのタンパク質結合力は、His-GFPで測定して、2~5mgであり、このカラムはアルカリ溶液やEDTAに対して安定である。
【0186】
実施例10:ペンタエチレンヘキサアミンアガロースの生成、EDTAとエチレンジアミンとの反応、EDTA-EDA-EDTAの磁性ビーズへの共有結合による新規キレートを塗布した表面の合成
デキストラン修飾金に基づく、無水マレイン酸で活性化した8ウェルのストリップ(SCR Piercetm Maleic Anhydride Activated Plates, Clear, 8ウェルストリップ, カタログNo. 15100, Pierce, ロックフォード、アメリカ)を各200μlで洗浄する。そして、脱イオン蒸留水による5%ペンタエチレンヘキサアミン(10.5pH)を100μl追加し、該プレートを37℃で3時間シェーカで保温する。
【0187】
アミン溶液を除き、ウェルを脱イオン蒸留水で6回洗浄し、そしてウェル
ルエーテルで4回洗浄する。そして、5mgのEDTA-EDA-EDTAを150μlのジエチルエーテルに懸濁した懸濁液を加え、プレートを室温でシェーカを用いて振動させる。
【0188】
上記プレートを脱イオン蒸留水で3回、リン酸バッファ(pH7.0)で3回、そしてもう一度脱イオン蒸留水で洗浄する。次の工程で、125μlの2%硫酸ニッケル溶液を加え、プレートを室温でシェーカを用いて2時間振動させる。脱イオン蒸留水で5回洗浄した後に、プレートをタンパク質生成に使用できる。
【0189】
結果:
表面プラズモン共鳴による親和性測定
キレート修飾チップを2SPR表面プラズモン共鳴システム(Reichert, バッファロー, アメリカ)を用いて測定した。
この実験において、ラニングバッファとブランクバッファは50mMのHepes、150mMのNaClおよび1mMのEDTA(pH7.6)であり、イミダゾールバッファは50mMのHepes、150mMのNaCIおよび600mlのイミダゾール(pH7.6)であった。使用されたタンパク質は、3mg/mlの濃度のSMOX(62,64kDa,N末端、Hisタグ)
【0190】
ラニングバッファを用いて、タンパク質濃度を25μM、12.5μM、6.25μM、3.125μM、1.56μM、0.78μM、0.390μM、および0.195μMに調整した。
【0191】
使用された流量は15μl/分であり、以下の溶液を使用した。
【0192】
ラニングバッファを8分間の会合期間でタンパク質と会合させ、そして20分間の解離期間ラニングバッファを注いだ。その後、イミダゾールバッファを4分間の会合期間と2分間の解離期間で使用した。
【0193】
信号強度と時間間の曲線を記録し、プロットした。
【0194】
比較例2として、NiHC 1000M(Xantec Bioanalytics GmbH,デュッセルドルフ)を同じタンパク質とバッファで処理した。
【0195】
結果、親和性が低いので、ラニングバッファによる解離期間ではタンパク質はNi-NTAチップと解離し始めることが分かった。本発明によるキレート修飾チップは水平な線を示し、キレートの高い親和性により、ラニングバッファによるタンパク質の顕著な喪失がないことを示した。