(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】発光ユニット及び測距装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/42 20060101AFI20240827BHJP
H01S 5/026 20060101ALI20240827BHJP
H01S 5/183 20060101ALI20240827BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20240827BHJP
G01S 7/484 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01S5/42
H01S5/026
H01S5/183
G01C3/06 120Q
G01S7/484
(21)【出願番号】P 2021536922
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(86)【国際出願番号】 JP2020027524
(87)【国際公開番号】W WO2021020134
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2019140159
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 高志
(72)【発明者】
【氏名】若林 和弥
(72)【発明者】
【氏名】木村 基
(72)【発明者】
【氏名】大岩 達矢
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-277615(JP,A)
【文献】特開2008-277780(JP,A)
【文献】特開2016-025289(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0109436(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0229912(US,A1)
【文献】特開2012-028412(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0097397(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00- 5/50
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直共振器型面発光レーザ素子であり、第1の電極と第2の電極を備え、前記第1の電極から前記第2の電極へ流れる電流により発光する発光部が、前記発光部から出射される光の光軸に垂直な方向に沿って1次元状又は2次元状に配列された複数の発光部と、前記第1の電極に電気的に接続された第1の電極端子と、前記第2の電極に電気的に接続された第2の電極端子とを具備し、前記複数の発光部のうち一つの発光部の光取り出し効率は、前記複数の発光部のうち他の発光部の光取り出し効率と異なる発光素子と、
前記発光素子から出射された光を平行化するコリメータレンズと
を具備する発光ユニット。
【請求項2】
請求項
1に記載の
発光ユニットであって、
前記発光素子は、前記光軸に平行な方向から見て、前記複数の発光部のうち内側に位置する発光部を含む中央領域と、前記複数の発光部のうち外側に位置する発光部を含む周辺領域とを有し、
前記複数の発光部のうち前記中央領域に位置する発光部の光取り出し効率は、前記複数の発光部のうち前記周辺領域に位置する発光部の光取り出し効率より小さい
発光ユニット。
【請求項3】
請求項
1に記載の
発光ユニットであって、
前記複数の発光部のそれぞれの光出射面には表面コーティング層が形成され、
前記複数の発光部のうち一つの発光部の前記表面コーティング層の厚みは、前記複数の発光部のうち他の発光部の前記表面コーティング層の厚みと異なる
発光ユニット。
【請求項4】
請求項
1に記載の
発光ユニットであって、
前記複数の発光部のそれぞれの光出射面には、第1の領域と、前記第1の領域とは光学特性が異なる第2の領域を有する表面コーティング層が設けられ、
前記複数の発光部のうち一つの発光部における前記第1の領域と前記第2の領域の境界位置は、前記複数の発光部のうち他の発光部における前記第1の領域と前記第2の領域の境界位置と異なる
発光ユニット。
【請求項5】
請求項
1に記載の
発光ユニットであって、
前記複数の発光部のうちそれぞれの発光部は、前記第1の電極に電気的に接続された第1のDBR層と、前記第2の電極に電気的に接続された第2のDBR層と、前記第1のDBR層と前記第2のDBR層の間に配置された電流狭窄層と、前記第1のDBR層と前記第2のDBR層の間に配置され、前記電流狭窄層により狭窄された電流により発光する活性層とを有し、
前記複数の発光部のうち一つの発光部の前記第1のDBR層及び前記第2のDBR層の反射率は、前記複数の発光部のうち他の発光部の前記第1のDBR層及び前記第2のDBR層の反射率と異なる
発光ユニット。
【請求項6】
垂直共振器型面発光レーザ素子であり、第1の電極と第2の電極を備え、前記第1の電極から前記第2の電極へ流れる電流により発光する発光部が、前記発光部から出射される光の光軸に垂直な方向に沿って1次元状又は2次元状に配列された複数の発光部と、前記第1の電極に電気的に接続された第1の電極端子と、前記第2の電極に電気的に接続された第2の電極端子とを具備し、前記複数の発光部のうち一つの発光部の光取り出し効率は、前記複数の発光部のうち他の発光部の光取り出し効率と異なる発光素子と、前記発光素子から出射された光を平行化するコリメータレンズとを備える発光ユニットと、
前記発光ユニットから出射された光の反射光を検出する受光ユニットと、
前記受光ユニットの検出結果に基づいて測定対象との距離を算出する測距演算部と
を具備する測距装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、垂直共振器型面発光レーザー構造を有する発光素子及び測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測距方法の一つに空間伝搬時間計測(Time of Flight;TOF)法がある。TOF法では、発光部から光を出射し、測定対象物によって反射された光を検出器によって検出することで、測定対象物の3次元形状を計測することができる。
【0003】
例えば、複数の発光部から出射された光を拡散板で拡散させて測定対象範囲に照射し、反射光を2次元状に配列する受発光部を備える光検出器で検出する測距方法が知られている。この測距方法では、出射光を拡散板で拡散するため、近距離を光範囲にわたって測定することができるが、遠距離の測定には不向きである。
【0004】
一方、特許文献1には、複数の発光部から出射された光をレンズでコリメート(平行化)し、それぞれの発光部から出射された光のビームを照射範囲全面に照射する測距方法が開示されている。この方法は出射光をビームとするため、遠距離の測定に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、測定対象物で反射された光を検出する検出器は、検出器に対して垂直方向から入射する光の受光感度は高いものの、検出器に対して斜め方向から入射する光の受光感度は低くなるという特性を有する。このため、測定対象範囲のうち、周辺部の測距精度が低下するという問題がある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、垂直共振器型面発光レーザー構造を有し、遠距離への光照射に適した発光素子及び測距装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る発光素子は、複数の発光部と、第1の電極端子と、第2の電極端子とを具備する。
上記複数の発光部は、垂直共振器型面発光レーザー素子であり、第1の電極と第2の電極を備え、上記第1の電極から上記第2の電極へ流れる電流により発光する発光部が、上記発光部から出射される光の光軸に垂直な方向に沿って1次元状又は2次元状に配列されている。
上記第1の電極端子は、上記第1の電極に電気的に接続されている。
上記第2の電極端子は、上記第2の電極に電気的に接続されている。
上記第1の電極端子から上記複数の発光部のうち一つの発光部を通過して上記第2の電極端子に到る電流経路の電気抵抗は、上記第1の電極端子から上記複数の発光部のうち他の発光部を通過して上記第2の電極端子に到る電流経路の電気抵抗と異なる。
【0009】
上記発光素子は、上記光軸に平行な方向から見て、上記複数の発光部のうち内側に位置する発光部を含む中央領域と、上記複数の発光部のうち外側に位置する発光部を含む周辺領域とを有し、
上記複数の発光部のうち上記中央領域に位置する発光部を通過する電流経路の電気抵抗は、上記複数の発光部のうち上記周辺領域に位置する発光部を通過する電流経路の電気抵抗より大きくてもよい。
【0010】
上記複数の発光部のうちそれぞれの発光部は、上記第1の電極に電気的に接続された第1のDBR(Distributed Bragg Reflector)層と、上記第2の電極に電気的に接続された第2のDBR層と、上記第1のDBR層と上記第2のDBR層の間に配置された電流狭窄層と、上記第1のDBR層と上記第2のDBR層の間に配置され、上記電流狭窄層により狭窄された電流により発光する活性層とを有し、
上記電流狭窄層は、狭窄領域と、上記狭窄領域より導電性が大きい注入領域を有し、
上記複数の発光部は、上記複数の発光部のうちそれぞれの発光部の間で上記注入領域の径である開口径が異なることにより、上記電流経路の電気抵抗が異なってもよい。
【0011】
上記複数の発光部のうちそれぞれの発光部は、少なくとも上記第1のDBR層、上記電流狭窄層及び上記活性層が隣接する発光部との間で離間されたメサ構造を有し、メサ径が他の発光部との間で異なることにより、上記開口径が異なってもよい。
【0012】
上記複数の発光部のうち一つの発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の電気抵抗は、上記複数の発光部のうち他の発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の電気抵抗と異なってもよい。
【0013】
上記発光素子は、上記光軸に平行な方向から見て、上記複数の発光部のうち内側に位置する発光部を含む中央領域と、上記複数の発光部のうち外側に位置する発光部を含む周辺領域とを有し、
上記複数の発光部のうち上記中央領域に位置する発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の電気抵抗は、上記複数の発光部のうち上記周辺領域に位置する発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の電気抵抗と異なってもよい。
【0014】
上記複数の発光部のうち上記中央領域に位置する発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の電気抵抗は、上記複数の発光部のうち上記周辺領域に位置する発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の電気抵抗より大きくてもよい。
【0015】
上記複数の発光部のうち上記中央領域に位置する発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の長さは、上記複数の発光部のうち上記周辺領域に位置する発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の長さより長くてもよい。
【0016】
上記複数の発光部は、複数の列状に配列され、各列を構成する上記複数の発光部は、上記第1の電極から延びる複数の配線に列毎に接続されていてもよい。
【0017】
上記複数の配線は、上記第1の電極端子から上記周辺領域を介して上記中央領域に延びる配線と、上記第1の電極端子から上記周辺領域に延びる配線を含み、上記中央領域に延びる配線と上記周辺領域に延びる配線は電気抵抗が異なってもよい。
【0018】
上記周辺領域に延びる配線の断面積は、上記中央領域に延びる配線の断面積より大きくてもよい。
【0019】
上記複数の発光部のうち一つの発光部が備える上記第1の電極の接触抵抗は、上記複数の発光部のうち他の発光部が備える上記第1の電極の接触抵抗と異なってもよい。
【0020】
上記複数の発光部のうちそれぞれの発光部は、上記第1の電極に電気的に接続された第1のDBR層と、上記第2の電極に電気的に接続された第2のDBR層と、上記第1のDBR層と上記第2のDBR層の間に配置された電流狭窄層と、上記第1のDBR層と上記第2のDBR層の間に配置され、上記電流狭窄層により狭窄された電流により発光する活性層とを有し、
上記複数の発光部のうちそれぞれの発光部は、少なくとも上記第1のDBR層、上記電流狭窄層及び上記活性層が隣接する発光部との間で分離溝により離間されたメサ構造を有し、
上記複数の発光部のうち一つの発光部の周囲に設けられた上記分離溝の深さは、上記複数の発光部のうち他の発光部の周囲に設けられた上記分離溝の深さと異なってもよい。
【0021】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る発光素子は、複数の発光部と、第1の電極端子と、第2の電極端子とを具備する。
上記複数の発光部は、垂直共振器型面発光レーザー素子であり、第1の電極と第2の電極を備え、上記第1の電極から上記第2の電極へ流れる電流により発光する発光部が、上記発光部から出射される光の光軸に垂直な方向に沿って1次元状又は2次元状に配列されている。
上記第1の電極端子は、上記第1の電極に電気的に接続されている。
上記第2の電極端子は、上記第2の電極に電気的に接続されている。
上記複数の発光部のうち一つの発光部の光取り出し効率は、上記複数の発光部のうち他の発光部の光取り出し効率と異なる。
【0022】
上記発光素子は、上記光軸に平行な方向から見て、上記複数の発光部のうち内側に位置する発光部を含む中央領域と、上記複数の発光部のうち外側に位置する発光部を含む周辺領域とを有し、
上記複数の発光部のうち上記中央領域に位置する発光部の光取り出し効率は、上記複数の発光部のうち上記周辺領域に位置する発光部の光取り出し効率より小さくてもよい。
【0023】
上記複数の発光部のそれぞれの光出射面には表面コーティング層が形成され、
上記複数の発光部のうち一つの発光部の上記表面コーティング層の厚みは、上記複数の発光部のうち他の発光部の上記表面コーティング層の厚みと異なってもよい。
【0024】
上記複数の発光部のそれぞれの光出射面には、第1の領域と、上記第1の領域とは光学特性が異なる第2の領域を有する表面コーティング層が設けられ、
上記複数の発光部のうち一つの発光部における上記第1の領域と上記第2の領域の境界位置は、上記複数の発光部のうち他の発光部における上記第1の領域と上記第2の領域の境界位置と異なってもよい。
【0025】
上記複数の発光部のうちそれぞれの発光部は、上記第1の電極に電気的に接続された第1のDBR層と、上記第2の電極に電気的に接続された第2のDBR層と、上記第1のDBR層と上記第2のDBR層の間に配置された電流狭窄層と、上記第1のDBR層と上記第2のDBR層の間に配置され、上記電流狭窄層により狭窄された電流により発光する活性層とを有し、
上記複数の発光部のうち一つの発光部の上記第1のDBR層及び上記第2のDBR層の反射率は、上記複数の発光部のうち他の発光部の上記第1のDBR層及び上記第2のDBR層の反射率と異なってもよい。
【0026】
上記中央領域から上記周辺領域にかけて、上記複数の発光部による発光強度分布はcosθのn乗で表される形状であってもよい。
【0027】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る測距装置は、発光ユニットと、受光ユニットと測距演算部とを具備する。
上記発光ユニットは、垂直共振器型面発光レーザー素子であり、第1の電極と第2の電極を備え、上記第1の電極から上記第2の電極へ流れる電流により発光する発光部が、上記発光部から出射される光の光軸に垂直な方向に沿って1次元状又は2次元状に配列する複数の発光部と、上記第1の電極に電気的に接続された第1の電極端子と、上記第2の電極に電気的に接続された第2の電極端子とを具備し、上記第1の電極端子から上記複数の発光部のうち一つの発光部を通過して上記第2の電極端子に到る電流経路の電気抵抗は、上記第1の電極端子から上記複数の発光部のうち他の発光部を通過して上記第2の電極端子に到る電流経路の電気抵抗と異なる発光素子を備える。
上記受光ユニットは、上記発光ユニットから出射された光の反射光を検出する。
上記測距演算部は、上記受光ユニットの検出結果に基づいて測定対象との距離を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本技術の実施形態に係る測距装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】上記測距装置が備える発光ユニット及び受光ユニットと測定対象の位置関係を示す模式図である。
【
図4】上記発光ユニットが備える発光素子の斜視図である。
【
図5】上記発光素子から出射される光を示す模式図である。
【
図8】上記発光素子が備える発光部の平面図である。
【
図9】上記発光素子が備えるアノードを示す平面図である。
【
図10】上記発光素子が備えるカソードを示す平面図である。
【
図11】上記測距装置における受光ユニットへの反射光の入射角度を示す模式図である。
【
図12】上記発光素子における領域(二次元状)を示す模式図である。
【
図13】上記発光素子における領域(一次元状)を示す模式図である。
【
図14】上記発光素子における一つの発光部の等価回路を示す回路図である。
【
図15】上記発光素子における各領域の発光部の等価回路を示す回路図である。
【
図16】上記発光素子が備える発光部の開口径を示す模式図である。
【
図17】上記発光部の開口径による電流と電圧の関係を示すグラフである。
【
図18】上記発光部の開口径による電流と光出力の関係を示すグラフである。
【
図19】上記発光部の開口径による電圧と光出力の関係を示すグラフである。
【
図20】上記発光部の、各領域における開口径を示す模式図である。
【
図21】上記発光部の、狭窄領域の幅による開口径の差異を示す模式図である。
【
図22】上記発光部の、メサ径による開口径の差異を示す模式図である。
【
図23】上記発光素子における、アノードと各発光部を接続する配線を示す平面図である。
【
図24】上記発光素子における、各領域の発光部の配線抵抗を加えた等価回路を示す回路図である。
【
図25】上記発光素子における、アノードと各発光部を接続する配線を示す平面図である。
【
図26】上記発光部の、p電極の接触面積及び分離溝深さを示す模式図である。
【
図27】上記発光部の光出射面における表面コーティング層の厚みを示す模式図である。
【
図28】上記表面コーティング層の厚みによる、電流と光出力の関係を示すグラフである。
【
図29】上記発光部の光出射面における表面コーティング層の領域の境界位置を示す模式図である。
【
図30】上記発光部の光出射面における表面コーティング層の領域の境界位置を示す模式図である。
【
図31】上記発光素子の発光強度分布(cos
-1θ:曲線状)を示すグラフである。
【
図32】上記発光素子の発光強度分布(cos
-3θ:曲線状)を示すグラフである。
【
図33】上記発光素子の発光強度分布(cos
-5θ:曲線状)を示すグラフである。
【
図34】上記発光素子の発光強度分布(cos
-7θ:曲線状)を示すグラフである。
【
図35】上記発光素子の発光強度分布(cos
-1θ:ステップ状)を示すグラフである。
【
図36】上記発光素子の発光強度分布(cos
-3θ:ステップ状)を示すグラフである。
【
図37】上記発光素子の発光強度分布(cos
-5θ:ステップ状)を示すグラフである。
【
図38】上記発光素子の発光強度分布(cos
-7θ:ステップ状)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本技術の実施形態に係る測距装置について説明する。
【0030】
[測距装置の構成]
図1は、本実施形態に係る測距装置100の構成を示すブロック図である。同図に示すように、測距装置100は、発光ユニット101、発光制御部102、受光ユニット103及び測距演算部104を備える。
【0031】
発光ユニット101は、周期的に明るさが変動する照射光LIを測定対象Pに対して照射する。発光ユニット101は、発光制御部102から発光制御信号Sが供給されると、発光制御信号Sに同期して照射光LIを発生させる。発光ユニット101の構成については後述する。
【0032】
発光制御部102は、発光ユニット101の発光を制御する。発光制御部102は、発光制御信号Sを生成し、発光ユニット101及び受光ユニット103に供給する。発光制御信号Sは例えば周波数100MHzの矩形波とすることができる。
【0033】
受光ユニット103は、照射光LIが測定対象Pによって反射された反射光LRを受光し、受光量を検出する。受光ユニット103は、垂直同期信号を受信し、垂直同期信号の周期が経過する毎に、その周期内の受光量を検出することができる。垂直同期信号は例えば60Hzの周期信号である。受光ユニット103は、2次元格子状に配列された受光素子を備え、各受光素子の受光量に応じた画像データGを測距演算部104に供給する。
【0034】
測距演算部104は、受光ユニット103から供給された画像データGに基づいて、受光ユニット103から測定対象Pまでの距離を算出する。測距演算部104は、受光素子毎に測定対象Pとの距離を階調値で示すデプスマップMを生成することができる。
【0035】
図2は、発光ユニット101、受光ユニット103及び測定対象Pの位置関係を示す模式図である。同図に示すように、発光ユニット101と受光ユニット103は隣接して配置され、発光ユニット101と受光ユニット103の距離は例えば数mm程度である。発光ユニット101及び受光ユニット103と測定対象Pの距離は数十cm~数m程度とすることができる。後述するように、本実施形態に係る発光ユニット101は、照射光L
Iを遠距離に照射することが可能であり、遠距離の測距が可能である。
【0036】
以下、
図2に示すように、照射光L
Iの光軸方向をZ方向とし、Z方向に垂直かつ互いに垂直な方向をそれぞれX方向及びY方向とする。
【0037】
[発光ユニットの構成]
図3は、発光ユニット101の構成を示す模式図である。同図に示すように、発光ユニット101は、発光素子111、発光素子支持部112、基部113、コリメータレンズ114及びレンズ支持部115を備える。
【0038】
発光素子111は、複数の発光部を備える。
図4は、発光素子111の斜視図である。同図に示すように発光素子111には光軸方向(Z方向)に垂直な方向(X-Y方向)に沿って2次元状に配列された複数の発光部111aが設けられている。また、発光部111aはX-Y平面上の一方向に沿って一列に配列され、即ち1次元状に配列されたものであってもよい。
【0039】
発光素子111は、
図3に示すように、発光素子支持部112を介して基部113に固定されている。コリメータレンズ114は、レンズ支持部115によって支持され、出射光L
Iをコリメート(平行化)する。
【0040】
図5は、発光ユニット101から出射される照射光L
Iを示す模式図である。同図に示すように、照射光L
Iは各発光部111aから出射されると、コリメータレンズ114によってコリメートされ、ビーム化される。照射光L
Iをビーム化することにより、照射光L
Iを遠距離まで到達させることが可能である。さらに、コリメータレンズ114の周辺部を通過する光ビームは、コリメータレンズ114を通過することで光ビームの方向が傾き、これにより広範囲への照射が可能となる。
【0041】
なお、発光ユニット101の構成はここに示すものに限られない。例えば、コリメータレンズ114の先に回折格子(DOE:Diffractive Optical Element)を配置して照射光LIを回折させ、タイリングさせてもよい。これにより、照射スポット数を増やし、照射範囲をさらに拡大することが可能である。
【0042】
[発光素子の構成]
発光素子111が備える複数の発光部111aはそれぞれが垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)素子である。
図6は発光素子111の一部の断面図であり、3つの発光部111aを示す。
図7は3つの発光部111aの断面図であり、一部構成の図示を省略している。
【0043】
図6及び
図7に示すように、発光素子111は、基板121、n-DBR層122、n-クラッド層123、活性層124、p-クラッド層125、電流狭窄層126、p-DBR層127、コンタクト層128、絶縁層129、p電極130及びn電極131を備える。
【0044】
基板121は発光素子111の各層を支持する。基板121は、例えばn-Gas基板とすることができるが他の材料からなるものであってもよい。
【0045】
n-DBR層122は、基板121上に設けられ、波長λの光を反射するDBR(Distributed Bragg Reflector:分布ブラッグ反射鏡)として機能する。n-DBR層122は、p-DBR層127と共にレーザー発振のための共振器を構成する。
【0046】
n-DBR層122は、低屈折率層と高屈折率層を交互に複数積層したものとすることができる。低屈折率層は例えばn型Alx1Ga1-X1As(0<X1<1)からなり、高屈折率層は例えばn型Alx2Ga1-x2As(0<X2<X1)からなる。
【0047】
n-クラッド層123は、n-DBR層122上に積層され、光及び電流を活性層124に閉じ込める層である。n-クラッド層123は例えば、n型Alx3Ga1-x3As(0<X3<1)からなる。
【0048】
活性層124は、n-クラッド層123上に設けられ、自然放出光の放出及び増幅を行う。活性層124は例えば、アンドープのInX4Ga1-X4As又はAlx4Ga1-x4As(0<X4<1)からなる。
【0049】
p-クラッド層125は、活性層124上に設けられ、光及び電流を活性層124に閉じ込める層である。p-クラッド層125は例えば、p型Alx5Ga1-x5As(0<X5<1)からなる。
【0050】
電流狭窄層126は、p-クラッド層125上に設けられ、電流に狭窄作用を付与する。
図7に示すように、電流狭窄層126は狭窄領域126aと注入領域126bを備える。狭窄領域126aは例えば酸化されたAlAs等からなり、導電性及び屈折率が小さく、光閉じ込め領域として機能する。注入領域126bは、例えば酸化されていないAlAs等からなり、狭窄領域126aより導電性が大きい領域である。
【0051】
p-DBR層127は電流狭窄層126上に設けられ、波長λの光を反射するDBRとして機能する。p-DBR層127は、n-DBR層122と共にレーザー発振のための共振器を構成する。
【0052】
p-DBR層127は、低屈折率層と高屈折率層を交互に複数積層したものとすることができる。低屈折率層は例えばp型Alx1Ga1-X6As(0<X6<1)からなり、高屈折率層は例えばp型Alx7Ga1-x7As(0<X7<X6)からなる。
【0053】
コンタクト層128は、p-DBR層127上に設けられ、p電極131が接合される層である。コンタクト層128は例えば、p型GaAs又はp型Alx8Ga1-x8As(0<X8<1)からなる。
【0054】
図7に示すように、発光部111aは、n-DBR層122の一部、n-クラッド層123、活性層124、p-クラッド層125、電流狭窄層126、p-DBR層127及びコンタクト層128が分離溝Cによって隣接する発光部111aから離間されて構成され、メサ(MESA:台状形状)構造を形成している。
【0055】
絶縁層129は、
図6に示すように分離溝Cの内周面に形成され、隣接する発光部111aの間を絶縁する。絶縁層129は例えばSiO
2からなる。
【0056】
p電極130は、コンタクト層128及び絶縁層129上に形成され、各発光部111aのp電極として機能する。p電極130は任意の導電性材料からなる。
【0057】
n電極131は、基板121上に形成され、各発光部111aのn電極として機能する。n電極131は任意の導電性材料からなる。
【0058】
図8は、一つの発光部111aを光出射方向(Z方向)から見た図である。同図に示すように、コンタクト層128の表面のうち周辺部分はp電極130によって被覆されている。またコンタクト層128の表面のうち中央部分はp電極130によって被覆されておらず、発光部111aによって生成されたレーザー光が出射する面となる。
図6及び
図8に示すように、以下、この面を「光出射面H」とする。なお、光出射面Hには、後述するように光学特性を制御するための表面コーティング層が設けられてもよい。
【0059】
図9は、発光素子111の表面の平面図である。同図に示すように、発光素子111の表面の両端部には「第1の電極端子」としてアノード141が設けられている。アノード141は、発光素子111の駆動源がワイヤボンティング等により接続される部分であり、各発光部111aが備えるp電極130が接続される。アノード141の構成は
図9に示すものに限られず、駆動源とp電極130を電気的に接続可能なものであればよい。
【0060】
図10は、発光素子111の裏面の平面図である。同図に示すように、発光素子111の裏面には「第2の電極端子」としてカソード151が設けられている。カソード151は、発光素子111のグランド配線がはんだ接続や導電性ペーストにより接続される部分であり、各発光部111aが備えるn電極131が接続される。カソード151の構成は
図10に示すものに限られず、発光素子111のグランドとn電極131を電気的に接続可能なものであればよい。
【0061】
発光素子111は以上のような構成を有する。なお、発光素子111の構成はここに示すものに限られず、各発光部111aがVCSELとして機能するものであればよい。例えば発光素子111は、発光方向が基板方向となっているVCSEL、いわゆる裏面出射型VCSELであってもよい。
【0062】
[発光素子の動作]
アノード141とカソード151の間に電圧を印加すると、各発光部111aにおいてp電極130からn電極131に電流が流れる。電流は電流狭窄層126による狭窄作用を受け、注入領域126bに注入される。
【0063】
この注入電流によって活性層124うち注入領域126bに近接する領域において自然放出光が生じる。自然放出光は発光素子111の積層方向(Z方向)に進行し、n-DBR層122及びp-DBR層127によって反射される。
【0064】
n-DBR層122及びp-DBR層127は発振波長λを有する光を反射するように構成されている。自然放出光のうち発振波長λの成分はn-DBR層122及びp-DBR層127の間で定在波を形成し、活性層124によって増幅される。
【0065】
注入電流が閾値を超えると定在波を形成する光がレーザー発振し、p-クラッド層125、電流狭窄層126、p-DBR層127及びコンタクト層128を透過して光出射面Hから出射される。これにより、各発光部111aからZ軸方向を光軸方向とする光が出射され、発光ユニット101からZ軸方向を光軸方向とする光L
Iが出射される(
図5参照)。
【0066】
[発光強度分布について]
測距装置100では上述のように、発光ユニット101から照射光L
Iが出射され、測定対象Pによる反射光L
Rを受光ユニット103が受光することにより測定対象Pまでの距離が測定される。
図11は、反射光L
Rの入射角度を示す模式図である。
【0067】
本実施形態に係る発光素子111は、各発光部111aから放出される照射光LIの強度(以下、発光強度)が均一ではなく、所定の発光強度分布を有するように構成されている。仮に各発光部111aの発光強度が均一である場合、コリメータレンズ114により形成される照射スポットの明るさも均一となる。
【0068】
ここで、受光ユニット103は、広画角域から入射する光(
図11中、反射光L
R1)の受光感度が 、狭画角域から入射する光(
図11中、反射光L
R2)の受光感度より低くなる特性をもつ。したがって、照射スポットの明るさが均一である場合、測定対象範囲のうち、周辺領域の測距精度が低下するおそれがある。
【0069】
図12は、本実施形態に係る発光素子111を、出射光の光軸に平行な方向(Z方向)から見た平面図である。同図に示すように、発光素子111の表面を複数の領域に区分し、第1領域A
1、第2領域A
2及び第3領域A
3とする。
【0070】
第1領域A1は複数の発光部111aのうち内側に位置する発光部111aを含み、発光素子111の中央部に位置する領域である。第3領域A3は複数の発光部111aのうち外側に位置する発光部111aを含み、発光素子111の周辺部に位置する領域である。第2領域A2は第1領域A1と第3領域A3の間の領域であり、第1領域A1と第3領域A3の間に位置する発光部111aを含む。
【0071】
発光素子111では、後述するように、第3領域A
3の発光強度が最も大きく、次に第2領域A
2の発光強度が大きく、第1領域A
1発光強度が最も小さくなるように構成されている。これにより、受光ユニット103に広画角域から入射する光(
図11中、反射光L
R1)の受光感度の減少を補い、測定対象範囲のうち周辺領域の測距精度の低下を防止することが可能となる。
【0072】
また、
図12では、X方向及びY方向の2方向に沿って、即ち2次元状に第1領域A
1~第3領域A
3が分布するものとしたが、第1領域A
1~第3領域A
3はX方向にのみ沿って、即ち1次元状に第1領域A
1~第3領域A
3が分布するものであってもよい。
【0073】
図13は、1次元状に分布する第1領域A
1~第3領域A
3を示す平面図である。同図に示すように、第1領域A
1は発光素子111の中央部に位置する領域であり、第3領域A
3発光素子111の周辺部に、第2領域A
2は第1領域A
1と第3領域A
3の間に位置する領域とすることができる。
【0074】
なお、以下の説明において、第1領域A1に含まれる発光部111aを第1発光部111a1、第2領域A2に含まれる発光部111aを第2発光部111a2、第3領域A3に含まれる発光部111aを第3発光部111a3とする。第1発光部111a1、第2発光部111a2及び第3発光部111a3の数は特に限定されない。
【0075】
第1領域A1~第3領域A3の間で発光部111aの発光強度に差異を生じさせるため、発光素子111は以下のような構成を有する。なお、領域の分割数は、この例に限定されるものではない。
【0076】
<1.電気抵抗による発光強度の差異について>
上記のように、各発光部111aは、アノード141及びカソード151に電気的に接続され、アノード141とカソード151の間は、アノード141から各発光部111aを通過し、カソード151に到る電流経路が形成される。
【0077】
図14は、一つの発光部111aにおける電流経路の等価回路を示す回路図である。同図においてVcc(電源電位)はアノード141の電位であり、GND(グランド電位)はカソード151の電位である。抵抗Rfは、発光部111aとアノード141の間の抵抗であり、抵抗Rbは、発光部111aとカソード151の間の抵抗である。同図に示すように、アノード141から発光部111aを通過してカソード151に到る電流経路を電流経路Eとし、電流経路Eの抵抗を経路抵抗R
Eとする。
【0078】
図15は、第1発光部111a
1、第2発光部111a
2及び第3発光部111a
3の電流経路の等価回路を示す回路図である。同図に示すように、アノード141から第1発光部111a
1を通過してカソード151に到る電流経路を第1電流経路E
1とし、同様に第2発光部111a
2を通過する電流経路を第2電流経路E
2、第3発光部111a
3を通過する電流経路を第3電流経路E
3とする。
【0079】
図15に示すように、第1電流経路E
1における抵抗Rfを抵抗Rf
1とし、第2電流経路E
2における抵抗Rfを抵抗Rf
2、第3電流経路E
3における抵抗Rfを抵抗Rf
3とする。また、第1電流経路E
1における抵抗Rbを抵抗Rb
1とし、第2電流経路E
2における抵抗Rbを抵抗Rb
2、第3電流経路E
3における抵抗Rbを抵抗Rb
3とする。
【0080】
第1電流経路E1の全体の抵抗は抵抗Rf1と抵抗Rb1の和であり、第2電流経路E2の全体の抵抗は抵抗Rf2と抵抗Rb2の和である。第3電流経路E3の全体の抵抗は、抵抗Rf3と抵抗Rb3の和である。以下、第1電流経路E1の全体の抵抗を第1経路抵抗RE1とし、第2電流経路E2の全体の抵抗を第2経路抵抗RE2、第3電流経路E3の全体の抵抗を第3経路抵抗RE3とする。
【0081】
発光素子111では、発光素子111の表面において中央に位置する領域ほど、領域内の電流経路の抵抗が大きくなるように構成されている。即ち、第1経路抵抗RE1、第2経路抵抗RE2及び第3経路抵抗RE3は互いに異なり、第1経路抵抗RE1は第2経路抵抗RE2より大きく、第2経路抵抗RE2は第3経路抵抗RE3より大きくなるように構成されている。
【0082】
経路抵抗REが小さい電流経路ほど流れる電流が多くなり、発光部111aの発光強度が大きくなるため、第3発光部111a3は最も発光強度が大きくなり、次いで第2発光部111a2の発光強度が大きく、第1発光部111a1の発光強度は最も小さくなる。
【0083】
これにより、受光ユニット103に広画角域から入射する光(
図11中、反射光L
R1)の受光感度の低下を補い、測定対象範囲のうち周辺領域の測距精度の低下を防止することができる。
【0084】
第1経路抵抗RR1、第2経路抵抗RE2及び第3経路抵抗RE3に差異を生じさせる具体的手法について、以下に説明する。
【0085】
{1-1.OA径による経路抵抗の制御}
発光素子111では、各発光部111aの開口径(OA(Optical Aperture)径)によって発光部111aの内部抵抗を制御し、電流経路の抵抗に差異を生じさせることができる。
【0086】
図16は、発光部111aの一部構成の断面図であり、OA径Dを示す図である。同図に示すように、OA径Dは、電流狭窄層126における注入領域126bの径である。上述のように発光部111aでは、発光部111aに印加された電流は注入領域126bに注入され、活性層124うち注入領域126bに近接する領域において自然放出光を発生される。即ち、注入領域126bは光学開口(Optical Aperture)として機能する。
【0087】
図17は発光部111aのOA径毎の電圧と電流の関係を示すグラフである。同図に矢印で示すように、OA径が大きくなるにしたがって、同量の電流を流すために必要な電圧は小さくなる。
【0088】
図18は発光部111aのOA径毎の電流と光出力の関係を示すグラフである。同図に矢印で示すように、OA径が大きくなるにしたがって飽和光出力は大きくなるもの、飽和光出力より小さい光出力ではOA径に依存せず、同じ電流での光出力はほぼ同じとなる。
【0089】
図19は発光部111aのOA径毎の電圧と光出力の関係を示すグラフである。同図に矢印で示すように、OA径が大きくなるにしたがって、同じ電圧での光出力は増大する。
【0090】
したがって、発光素子111では第1領域A1~第3領域A3の領域毎に発光部111aのOA径を異なるものとすることにより、電圧による電流の流れにくさ、即ち発光部111aの抵抗を制御し、経路抵抗REに差異を生じさせることが可能である。
【0091】
具体的には、第3発光部111a
3のOA径を最も大きくし、次いで第2発光部111a
2のOA径を大きくし、第1発光部111a
1のOA径を最も小さくする。
図20は、第1発光部111a
1~第3発光部111a
3のOA径Dを示す模式図である。同図に示すように、第3発光部111a
3のOA径D
3は第2発光部111a
2のOA径D
2より大きく、第2発光部111a
2のOA径D
2は第1発光部111a
1のOA径D
1より大きい。例えば、OA径D
3は9μm、OA径D
2は8μm、OA径D
1は7μmとすることができる。
【0092】
これにより、第1経路抵抗RE1が最も大きく、次いで第2経路抵抗RE2大きく、第3経路抵抗RE3が最も小さくなり、したがって、第3発光部111a3の発光強度が最も大きく、次いで第2発光部111a2の発光強度が大きく、第1発光部111a1の発光強度が最も小さくなる。
【0093】
発光部111aの間でOA径に差異を生じさせる手法として、1つには狭窄領域126aのメサ外周からの幅を変更する方法がある。
図21は、狭窄領域126aの幅の差異を示す模式図である。同図に示すように、第1発光部111a
1の狭窄領域126aの幅を幅Wa
1とし、第2発光部111a
2の狭窄領域126aの幅を幅Wa
2とし、第3発光部111a
3の狭窄領域126aの幅を幅Wa
3とする。
【0094】
なお、各発光部111aを形成するメサの幅Wbは同一である。ここで、幅Wa3を幅Wa2より小さくし、幅Wa2を幅Wa1より小さくすることにより、OA径D3を最も大きく、OA径D1を最も小さくすることができる。
【0095】
狭窄領域126aは、電流狭窄層126となる層の積層後に酸化処理を行うことにより形成することが可能であるが、この際、酸化処理時間あるいは他の酸化処理条件を調整することにより、第1領域A1~第3領域A3の間で狭窄領域126aの幅を変更することが可能である。
【0096】
また、発光部111aの間でOA径に差異を生じさせる他の手法として、メサの径(以下、メサ径)を変更する方法がある。
図22は、メサ径の差異を示す模式図である。同図に示すように、第1発光部111a
1のメサ径を径Wb
1とし、第2発光部111a
2のメサ径を径Wb
2とし、第3発光部111a
3のメサ径を径Wb
3とする。
【0097】
なお、各発光部111aの狭窄領域126aの幅Waは同一である。ここで、径Wb3を径Wb2より大きくし、径Wb2を径Wb1より大きくすることにより、OA径D3を最も大きく、OA径D1を最も小さくすることができる。
【0098】
メサの径は分離溝C(
図7参照)の形成位置や幅により調整することが可能である。この手法では、第1領域A
1~第3領域A
3の間で狭窄領域126aの幅Waを同一としながら、OA径を変えることが可能であるため、狭窄領域126aを形成するための酸化処理を第1領域A
1~第3領域A
3の間で同一条件とすることが可能である。
【0099】
また、狭窄領域126aの幅Waとメサ径Wbの両方を変更して、第1領域A1~第3領域A3の間で発光部111aのOA径に差異を生じさせることも可能である。
【0100】
{1-2.配線抵抗による経路抵抗の制御]
発光素子111では、各発光部111aが備えるp電極130とアノード141との接続を、全面を一様に覆う電極ではなく、例えば列状に分離された配線電極構造にして、その配線の電気抵抗によって、第1経路抵抗RR1、第2経路抵抗RE2及び第3経路抵抗RE3に差異を生じさせることも可能である。
【0101】
図23は、発光部111aと発光素子111の両端のアノード141を接続する配線Lを示す模式図である。同図に示すように、発光部111aはX方向に沿って複数の列状に配列されている。両端のアノード141からはX方向に沿って複数本の配線Lが延伸され、発光部111aは列毎に直列的に配線Lに接続されている。なお配線Lは、
図6において発光部111aの間に形成されているp電極130とすることができるが、p電極130とは別の導電性部材であってもよい。
【0102】
この構成においては、第1領域A
1、第2領域A
2、第3領域A
3を
図13に示すように1次元状の配置としたときに第3領域A
3の発光強度を最も大きく、第1領域A
1の発光強度を最も小さくすることができる。
図23に示すように、各配線Lにおいて、アノード141と第2領域A
2の間の配線Lを配線部Laとし、第1領域A
1と第3領域A
3の間の配線Lを配線部Lbとする。また、第2領域A
2間の配線を配線部Lcとする。
【0103】
配線Lは導電性材料からなるものの、若干の抵抗を有する。以下、配線部Laの抵抗を抵抗RLaとし、配線部Lbの抵抗を抵抗RLbとする。
【0104】
図24は、この発光素子111の回路図である。同図に示すように、第3電流経路E
3の抵抗である第3経路抵抗R
E3は、抵抗Rf
3及び抵抗Rb
3の和である。一方、第2電流経路E
2の抵抗である第2経路抵抗R
E2は、アノード141から第2発光部111a
2の間の電流経路に配線部Laが存在するため、抵抗RLa、抵抗Rf
2及び抵抗Rb
2の和となる。
【0105】
また、第1電流経路E1の抵抗である第1経路抵抗RE1は、アノード141から第1発光部111a1の間の電流経路に配線部La及び配線部Lbが存在するため、抵抗RLa、抵抗Rf2及び抵抗Rb2の和となる。
【0106】
このように、両端のアノード141に近接する第3発光部111a3はアノード141との間の配線Lが短く、第3経路抵抗RE3は小さくなる。一方、両端のアノード141から離間するする第2発光部111a2はアノード141との間の配線L(配線部La)が長く、第2経路抵抗RE2は大きくなる
【0107】
また、両端のアノード141から最も離間するする第1発光部111a1はアノード141との間の配線L(配線La+配線Lb)がより長く、第1経路抵抗RE1は最大となる。以上のように、第1領域A1、第2領域A2及び第3領域A3の間でアノード141と各発光部111aの間の配線Lの長さを変え、各領域間で経路抵抗REを異なるものとすることが可能である。
【0108】
なお、配線Lの断面積は一様でなくてもよく、例えば配線部Laの断面積を配線部Lbの断面積より大きくし、配線部Lbの断面積を配線部Lcの断面積より大きくしてもよい。配線Lの断面積は配線Lの幅又は厚みの少なくとも一方を変えることで調整することが可能である。
【0109】
さらに、発光素子111では、第1領域A
1、第2領域A
2、第3領域A
3を
図12に示すように2次元状の配置として、第3領域A
3の発光強度を最も大きく、第1領域A
1の発光強度を最も小さくすることも可能である。
図25は、発光部111aと発光素子111の両端のアノード141を接続する配線Lを示す模式図である。同図に示すように、発光部111aはX方向に沿って複数の列状に配列され、両端のアノード141からはX方向に沿って複数本の配線Lが延伸されている。発光部111aは列毎に配線Lに直列的に接続されている。
【0110】
ここで、配線Lは、配線L1、配線L2及び配線L3を含む。配線L1は、第3領域A
3、及び第2領域A
2を介して第1領域A
1に延びる配線であり、配線L2は、第3領域A
3を介して第2領域A
2に延びる配線である。配線L3は、第3領域A
3に延びる配線である。なお、配線L1、配線L2及び配線L3のそれぞれ数は任意であり、
図25に示すものに限られない。
【0111】
配線L1、配線L2及び配線L3は電気抵抗が異なり、配線L3の電気抵抗が最も小さく、配線L1の電気抵抗が最も大きい。配線L1、配線L2及び配線L3の電気抵抗は、断面積によって制御することができ、配線L3は配線L2より断面積が大きく、配線L2は配線L1より断面積が大きいものとすることができる。
【0112】
配線Lの断面積は配線Lの幅又は厚みの少なくとも一方を変えることで調整することが可能であり、
図25に示すように、配線Lの厚みは一定とし、配線L3の幅は配線L2の幅より大きく、配線L2の幅は配線L1の幅より大きいものとすることができる。
【0113】
また、配線Lの幅を一定とし、配線L3の厚みを配線L2の厚みより大きく、配線L2の厚みを配線L1の厚みより大きいものとしてもよい。この他にも配線Lの厚みと幅の両方を調整し、配線L3の断面積は配線L2の断面積より大きく、配線L2の断面積は配線L1の断面積より大きいものとすることが可能である。なお、配線Lは、断面積が異なる配線として配線L1、配線L2及び配線L3の3種類に限られず、2種類又は4種類以上としてもよい。
【0114】
この構成では、配線Lの延伸方向であるX方向においては、各発光部111aとアノード141を接続する配線Lの長さによって、中央部において経路抵抗REが大きくなる。さらに、Y方向においては、配線Lの電気抵抗の差異によって中央部において経路抵抗REが大きくなる。したがって、第1領域A1、第2領域A2、第3領域A3を2次元状の配置とし、第1経路抵抗RE1を最も大きくし、次いで第2経路抵抗RE2を最も大きくし、第3経路抵抗RE3を最も小さくすることが可能である。
【0115】
以上のように、配線Lの抵抗によって第1領域A1、第2領域A2及び第3領域A3の経路抵抗REに差異を生じさせ、周辺領域(第3領域A3)の発光強度が中央領域(第1領域A1)の発光強度より高い発光素子111を実現することが可能である。この構成では各発光部111aは同一の構成であるため、各発光部111aの作成条件を同一としつつ、配線幅の変更のみで発光強度の分布を形成可能である。
【0116】
なお、
図23及び
図25では、複数の発光部111aを接続する配線Lが設けられる例を示しているが、配線Lに代えて平面状の電極(ベタ電極)を設けてもよい。この場合、アノード141から各発光部111aまでの配線抵抗が異なるように構成することで、経路抵抗の差異を生じさせることが可能である。
【0117】
{1-3.接触抵抗による経路抵抗の制御}
さらに、発光素子111では、各発光部111aにおける接触抵抗、即ち半導体と金属界面の抵抗によって、経路抵抗REに差異を生じさせることも可能である。
【0118】
図26は発光部111aを示す断面図である。
図26及び
図8に示すようにコンタクト層128に接触するp電極130の幅Wpを調整することにより、p電極130とコンタクト層128の接触面積を変更することが可能である。これにより、発光部111aにおける抵抗Rf(
図14参照)を増減させることが可能であり、第1経路抵抗R
R1、第2経路抵抗R
E2及び第3経路抵抗R
E3の差異を実現することが可能である。
【0119】
具体的には、第3発光部111a
3において幅Wpを所定の幅とし、抵抗Rf
3(
図15参照)とすることができる。また、第2発光部111a
2において幅Wpを第3発光部111a
3より小さい幅とし、抵抗Rf
2を抵抗Rf
3より大きい値とすることができる。さらに、第1発光部111a
1において幅Wpを第2発光部111a
2より小さい幅とし、抵抗Rf
1を抵抗Rf
2より大きい値とすることができる。
【0120】
また、幅Wpの制御以外にも、p電極130の形状を変更してp電極130とコンタクト層128の接触面積を調整し、抵抗Rfを増減させることも可能である。
【0121】
さらに、
図26に示すように分離溝C(
図7参照)の深さMを調整することにより、抵抗Rb(
図14参照)を増減させることが可能であり、第1経路抵抗R
R1、第2経路抵抗R
E2及び第3経路抵抗R
E3の差異を実現することが可能である。
【0122】
具体的には、第3発光部111a
3の周囲の分離溝Cにおいて深さMを所定の深さとし、抵抗Rb
3(
図15参照)とすることができる。また、第2発光部111a
2の周囲の分離溝Cの深さMを第3発光部111a
3の周囲の分離溝Cの深さMより深くし、抵抗Rb
2を抵抗Rb
3より大きい値とすることができる。さらに、第1発光部111a
1の周囲の分離溝Cの深さMを第2発光部111a
2の周囲の分離溝Cの深さMより深くし、抵抗Rb
1を抵抗Rb
2より大きい値とすることができる。
【0123】
また、第1発光部111a1、第2発光部111a2及び第3発光部111a3の間で幅Wpと深さMの両方を変更して、第1経路抵抗RR1を最も大きくし、第3経路抵抗RE3を最も小さくすることも可能である。
【0124】
このように、幅Wp及び深さMを調整して、第1領域A1、第2領域A2及び第3領域A3の間で経路抵抗REに差異を生じさせることが可能である。この構成においても発光部111aは均一な積層構造を形成した上で、p電極130の形状又は分離溝Cの深さにより発光強度の分布を形成することが可能である。
【0125】
以上のように、第1領域A1、第2領域A2及び第3領域A3の間で経路抵抗REの差異によって周辺領域(第3領域A3)の発光強度が中央領域(第1領域A1)の発光強度より高い発光素子111を実現することが可能である。
【0126】
なお、第1経路抵抗R
R1、第2経路抵抗R
E2及び第3経路抵抗R
E3の間で経路抵抗R
Eを変更する手法として、上述したOA径による制御、配線抵抗による制御及び接触抵抗による制御のうちいずれか一つのみを用いてもよく、2つ以上を組み合わせてもよい。例えば、配線抵抗による制御によって1次元状の発光強度分布(
図13参照)を形成した上で、OA径による制御によって2次元状の発光強度分布(
図12参照)を形成することも可能である。
【0127】
また、配線Lの材料の変更等、上記各手法とは異なる手法によって、第1経路抵抗RR1が最も大きく、次いで第2経路抵抗RE2が大きく、第3経路抵抗RE3が最も小さい発光素子111を実現することも可能である。
【0128】
<2.光取り出し効率による発光強度の差異について>
発光素子111では、各発光部111aの光取り出し効率を制御することによって第1領域A
1、第2領域A
2及び第3領域A
3(
図12及び
図13参照)の発光強度に差異を生じさせることが可能である。なお、発光部111aの光取り出し効率によって発光強度に差異を生じさせる場合、上述した経路抵抗は各発光部111aの間で同一とすることができる。
【0129】
具体的には発光素子111では、第1領域A1、第2領域A2及び第3領域A3の間で発光部111aの光取り出し効率が互いに異なり、発光素子111の表面において中央に位置する領域ほど、発光部111aの光取り出し効率が大きくなるように構成されている。即ち、第3発光部111a3の光り出し効率が最も大きく、次いで第2領域A2に含まれる第2発光部111a2の光取り出し効率が大きく、第1発光部111a1の光取り出し効率が最も小さくなるように構成されている。これにより、第3領域A3の発光強度が最も大きく、次に第2領域A2の発光強度が大きく、第1領域A1発光強度が最も小さくなる。
【0130】
したがって、上述のように、受光ユニット103に広画角域から入射する光(
図11中、反射光L
R1)の受光感度の低下を補い、測定対象範囲のうち周辺領域の測距精度の低下を防止することが可能となる。
【0131】
各発光部111aの光取り出し効率に差異を生じさせる具体的構造について、以下に説明する。
【0132】
{2-1.表面コーティング層の厚みによる光取り出し効率の制御}
発光素子111では、各発光部111aが備える表面コーティング層の厚みによって発光部111aの光取り出し効率に差異を生じさせることが可能である。
【0133】
図27は、発光部111aの拡大断面図であり、発光部111aが備える表面コーティング層135を示す図である。同図に示すように、表面コーティング層135はコンタクト層128上に形成されている。表面コーティング層135は、光出射面Hの反射率を制御するための光学薄膜であり、例えばSiNからなるものとすることができる。表面コーティング層135の厚みTを変えることにより、閾値電流及びスロープ効率を変えること可能であり、特定の電流値での光出力が変化する。
【0134】
図28は、表面コーティング層135の厚みTと光出力の関係の一例を示すグラフである。同図に示すように表面コーティング層135の厚みTによって発光部111aの光出力が変化し、即ち光取り出し効率を調整することが可能である。なお、
図28では、厚みTが増すことで光出力が低下する例を示したが、光取り出し効率は厚みTによって周期的に変化し、厚みTが減ることで光出力が増加する場合もある。
【0135】
発光素子111では、第1発光部111a1、第2発光部111a2及び第3発光部111a3の間で表面コーティング層135の厚みTを異なるものとし、第3領域A3の光取り出し効率が最も大きく、次に第2領域A2の光取り出し効率が大きく、第1領域A1の光取り出し効率が最も小さくなるようにすることができる。
【0136】
これにより、第3領域A3の発光強度が最も大きく、次に第2領域A2の発光強度が大きく、第1領域A1発光強度が最も小さくなり、周辺領域の発光強度が中央領域の発光強度より高い発光素子111を実現することが可能である。この構成では各発光部111aは表面コーティング層135の厚みを除いて同一の構成であるため、各発光部111aの作成条件を同一としつつ、表面コーティング層135の厚みの調製によって発光強度分布を形成可能である。
【0137】
{2-2.表面コーティング層の境界位置による光取り出し効率の制御}
発光素子111では、各発光部111aの表面コーティング層の境界位置によって発光部111aの光取り出し効率に差異を生じさせることも可能である。
【0138】
図29は、発光部111aの拡大断面図であり、発光部111aが備える表面コーティング層136及び表面コーティング層137を示す図である。
図29(a)及び
図29(b)に示すように、表面コーティング層136はコンタクト層128上に形成され、表面コーティング層137は表面コーティング層136の一部領域上に形成されている。表面コーティング層136及び表面コーティング層137は光出射面Hの反射率を制御するための光学薄膜であり、例えばSiNからなるものとすることができる。
【0139】
光出射面Hにおいて、表面コーティング層136及び表面コーティング層137が形成されている領域を領域Haとし、表面コーティング層136のみが形成されている領域を領域Hbとする。また、領域Haと領域Hbの境界を境界Kとする。
【0140】
図30は領域Ha及び領域Hbを示す模式図であり、
図30(a)は
図29(a)の平面図、
図30(b)は
図29(b)の平面図である。発光部111aでは、境界Kの位置によって光の発振モードを切り替えることができ、閾値電流及びスロープ効率を変えること可能となる。したがって、
図29(a)及び(b)、
図30(a)及び(b)に示すように第1発光部111a
1、第2発光部111a
2及び第3発光部111a
3の間で境界Kの位置を異なるものとし、第3領域A
3の光取り出し効率が最も大きく、次に第2領域A
2の光取り出し効率が大きく、第1領域A
1の光取り出し効率が最も小さくなるようにすることができる。
【0141】
これにより、第3領域A3の発光強度が最も大きく、次に第2領域A2の発光強度が大きく、第1領域A1発光強度が最も小さくなり、周辺領域の発光強度が中央領域の発光強度より高い発光素子111を実現することが可能である。この構成においても各発光部111aは表面コーティング層の構成を除いて同一の構成であるため、各発光部111aの作成条件を同一としつつ、表面コーティング層の境界位置の調製によって、発光強度の分布を形成可能である。
【0142】
なお、領域Haと領域Hbは表面コーティング層の層数が異なる領域に限られず、表面コーティング層の厚みが異なる領域や表面コーティング層の材質が異なる領域等、表面コーティング層の光学特性が異なる領域であればよい。領域の数も2つに限られず、3つ以上であってもよい。
【0143】
{2-3.DBR層反射率による光取り出し効率の制御}
発光素子111では、n-DBR層122及びp-DBR層127のうちいずれか一方又は両方の反射率によって発光部111aの光取り出し効率に差異を生じさせることも可能である。
【0144】
上記ように、発光部111aにおいては、アノード141とカソード151の間に電圧を印加すると、活性層124において放出された自然放出光はn-DBR層122及びp-DBR層127によって反射され、レーザー発振により光出射面Hから放出される。したがって、第1領域A1~第3領域A3の間で各発光部111aのn-DBR層122及びp-DBR層127の反射率を変えることにより、第3領域A3の光取り出し効率が最も大きく、次に第2領域A2の光取り出し効率が大きく、第1領域A1の光取り出し効率が最も小さくなるようにすることができる。
【0145】
これにより、第3領域A3の発光強度が最も大きく、次に第2領域A2の発光強度が大きく、第1領域A1発光強度が最も小さくなり、周辺領域の発光強度が中央領域の発光強度より高い発光素子111を実現することが可能である。
【0146】
以上のように、第1領域A1、第2領域A2及び第3領域A3の間で光取り出し効率の差異によって周辺領域の発光強度が中央領域の発光強度より高い発光素子111を実現することが可能である。
【0147】
なお、第1発光部111a1、第2発光部111a2及び第3発光部111a3の間で光取り出し効率を変更する手法として、上述した表面コーティング層の厚みによる制御、表面コーティング層の境界位置による制御及びDBR層反射率制御のうちいずれか一つのみを用いてもよく、2つ以上を組み合わせてもよい。
【0148】
また、上記各手法とは異なる手法によって、第3領域A3の光取り出し効率が最も大きく、次に第2領域A2の光取り出し効率が大きく、第1領域A1の光取り出し効率が最も小さい発光素子111を実現することも可能である。
【0149】
[発光強度分布の形状について]
発光素子111による発光強度分布の例について説明する。
図31は、発光素子111の発光強度分布の一例を示すグラフである。同図に示すように、発光素子111の発光強度分布は、中央領域である第1領域A
1の発光強度が小さく、周辺領域である第3領域A
3の発光強度が大きくなっている。
【0150】
ここで、
図31に示す発光強度分布はcosθの-1乗で表される形状を有している。発光素子111の発光強度分布はcosθの-1乗で表される形状に限られず、cosθのn乗で表される形状が好適である。
図32乃至
図34は、発光素子111の発光強度分布の他の例を示すグラフである。
【0151】
図32に示すように、発光素子111の発光強度分布はcosθの-3乗で表される形状を有していてもよく
図33に示すようにcosθの-5乗で表される形状を有してもよい。また、
図34に示すように、cosθの-7乗で表される形状を有してもよい。
【0152】
さらに、発光素子111の発光強度分布は、
図31乃至
図34に示すように曲線状に限られない。
図35乃至
図38は、発光素子111の発光強度分布の他の例を示す模式図である。これらの図に示すように、発光素子111の発光強度分布は、cosθのn乗に近似するステップ状であってもよい。
【0153】
[発光素子による効果]
以上のように、発光素子111においては、各発光部111aを通過する電流経路の抵抗又は各発光部111aから放出される光の取り出し効率を制御することにより、第3領域A
3の発光強度を最も大きく、次いで第2領域A
2の発光強度を大きく、第1領域A
1の発光強度を最も小さくすることが可能である。これにより、受光ユニット103に広画角域から入射する光(
図11中、反射光L
R1)の受光感度の低下を補い、測定対象範囲のうち周辺領域の測距精度の低下を防止することが可能となる。そして、このような発光強度分布を実現するために、部品の追加、部品コストの増加及び部品サイズの増加が必要ない。
【0154】
また、各発光部111aは共通のアノード141とカソード151に電気的に接続されていながら、経路抵抗の差異又は光取り出し効率の差異によって上記のような発光強度分布を形成することが可能である。換言すれば、発光強度分布を形成するために、各発光部111aに個別にアノードとカソードを接続して印加電力を調整する必要がない。このため、発光部111aの駆動源を複数配置する必要がなく、これによる部品コストの増加及び測距装置100のサイズの増加を防止することも可能である。
【0155】
さらに、各発光部111aに個別にアノードとカソードを接続し、各発光部111aを個別に駆動する場合においても本技術は有効である。各発光部111aを駆動するドライバには個別に電力を設定するパラメータを有していない、又は統一されたパラメータしか利用できない場合がある。このような場合に対しても、発光素子111では各発光部111a用のアノード141とカソード151に同等の電力を供給して、発光強度分布を形成可能である。
【0156】
[変形例]
上記実施形態において、発光部111aは第1領域A
1,第2領域A
2及び第3領域A
3の3つの領域の間で発光強度が異なる(
図12及び
図13参照)ものとしたが、領域の数は3つに限られず、2つ又は4つ以上であってもよい。領域の数によらず、発光素子111の中央領域において発光強度が小さく、周辺領域において発光強度が大きいものであれば、受光ユニット103の測定対象範囲のうち周辺領域の測距精度の低下を防止することが可能である。
【0157】
また、発光素子111において、基板121側(
図6中、下方)がn型、光出射面H側(
図6中、上方)がp型としたが、n型とp型は逆であってもよい。さらに、基板121は高抵抗基板を用いて、p型層及びn型層をその上に設け、片面から両方の電極を取り出してもよい。また、発光素子111は発光方向が基板方向となっている裏面出射型VCSELでもよい。さらに、上記実施形態では、GaAs基板の例を示したが、目的とする光出射波長によっては、GaN基板やInP基板を用いることも可能である。
【0158】
加えて、発光素子111は、測距装置100の発光ユニット101に搭載されるものとしたがこれに限られない。例えば、発光素子111は測距装置のストラクチャードライト(構造化光)用光源として利用することも可能であり、拡散板を使わない場合の一様照射にも応用することが可能である。
【0159】
さらに、発光素子111は、測距装置以外にも照明用光源としても利用可能である。発光波長は赤外光、紫外光又は可視光とすることができ、露光にも適用可能である。この場合にも、照明光学系における光学部(レンズなど)の透過率の角度依存性を補正する(この場合も斜入射となる周辺部の光強度が下がりやすい)ことが可能となる。
【0160】
以上説明した本技術に係る特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。すなわち各実施形態で説明した種々の特徴部分は、各実施形態の区別なく、任意に組み合わされてもよい。また上記で記載した種々の効果は、あくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果が発揮されてもよい。
【0161】
なお、本技術は以下のような構成もとることができる。
(1)
垂直共振器型面発光レーザー素子であり、第1の電極と第2の電極を備え、上記第1の電極から上記第2の電極へ流れる電流により発光する発光部が、上記発光部から出射される光の光軸に垂直な方向に沿って1次元状又は2次元状に配列された複数の発光部と、
上記第1の電極に電気的に接続された第1の電極端子と、
上記第2の電極に電気的に接続された第2の電極端子と
を具備し、
上記第1の電極端子から上記複数の発光部のうち一つの発光部を通過して上記第2の電極端子に到る電流経路の電気抵抗は、上記第1の電極端子から上記複数の発光部のうち他の発光部を通過して上記第2の電極端子に到る電流経路の電気抵抗と異なる
発光素子。
(2)
上記(1)に記載の発光素子であって、
上記発光素子は、上記光軸に平行な方向から見て、上記複数の発光部のうち内側に位置する発光部を含む中央領域と、上記複数の発光部のうち外側に位置する発光部を含む周辺領域とを有し、
上記複数の発光部のうち上記中央領域に位置する発光部を通過する電流経路の電気抵抗は、上記複数の発光部のうち上記周辺領域に位置する発光部を通過する電流経路の電気抵抗より大きい
発光素子。
(3)
上記(1)又は(2)に記載の発光素子であって、
上記複数の発光部のうちそれぞれの発光部は、上記第1の電極に電気的に接続された第1のDBR(Distributed Bragg Reflector)層と、上記第2の電極に電気的に接続された第2のDBR層と、上記第1のDBR層と上記第2のDBR層の間に配置された電流狭窄層と、上記第1のDBR層と上記第2のDBR層の間に配置され、上記電流狭窄層により狭窄された電流により発光する活性層とを有し、
上記電流狭窄層は、狭窄領域と、上記狭窄領域より導電性が大きい注入領域を有し、
上記複数の発光部は、上記複数の発光部のうちそれぞれの発光部の間で上記注入領域の径である開口径が異なることにより、上記電流経路の電気抵抗が異なる
発光素子。
(4)
上記(3)に記載の発光素子であって、
上記複数の発光部のうちそれぞれの発光部は、少なくとも上記第1のDBR層、上記電流狭窄層及び上記活性層が隣接する発光部との間で離間されたメサ構造を有し、メサ径が他の発光部との間で異なることにより、上記開口径が異なる
発光素子。
(5)
上記(1)から(4)のうちいずれか一つに記載の発光素子であって、
上記複数の発光部のうち一つの発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の電気抵抗は、上記複数の発光部のうち他の発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の電気抵抗と異なる
発光素子。
(6)
上記(5)に記載の発光素子であって、
上記発光素子は、上記光軸に平行な方向から見て、上記複数の発光部のうち内側に位置する発光部を含む中央領域と、上記複数の発光部のうち外側に位置する発光部を含む周辺領域とを有し、
上記複数の発光部のうち上記中央領域に位置する発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の電気抵抗は、上記複数の発光部のうち上記周辺領域に位置する発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の電気抵抗と異なる
発光素子。
(7)
上記(6)に記載の発光素子であって、
上記複数の発光部のうち上記中央領域に位置する発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の電気抵抗は、上記複数の発光部のうち上記周辺領域に位置する発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の電気抵抗より大きい
発光素子。
(8)
上記(7)に記載の発光素子であって、
上記複数の発光部のうち上記中央領域に位置する発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の長さは、上記複数の発光部のうち上記周辺領域に位置する発光部と上記第1の電極端子を接続する配線の長さより長い
発光素子。
(9)
上記(8)に記載の発光素子であって、
上記複数の発光部は、複数の列状に配列され、各列を構成する上記複数の発光部は、上記第1の電極から延びる複数の配線に列毎に接続されている
発光素子。
(10)
上記(9)に記載の発光素子であって、
上記複数の配線は、上記第1の電極端子から上記周辺領域を介して上記中央領域に延びる配線と、上記第1の電極端子から上記周辺領域に延びる配線を含み、上記中央領域に延びる配線と上記周辺領域に延びる配線は電気抵抗が異なる
発光素子。
(11)
上記(10)に記載の発光素子であって、
上記周辺領域に延びる配線の断面積は、上記中央領域に延びる配線の断面積より大きい
発光素子。
(12)
上記(5)から(11)のうちいずれか一つに記載の発光素子であって、
上記複数の発光部のうち一つの発光部が備える上記第1の電極の接触抵抗は、上記複数の発光部のうち他の発光部が備える上記第1の電極の接触抵抗と異なる
発光素子。
(13)
上記(5)から(12)のうちいずれか一つに記載の発光素子であって、
上記複数の発光部のうちそれぞれの発光部は、上記第1の電極に電気的に接続された第1のDBR層と、上記第2の電極に電気的に接続された第2のDBR層と、上記第1のDBR層と上記第2のDBR層の間に配置された電流狭窄層と、上記第1のDBR層と上記第2のDBR層の間に配置され、上記電流狭窄層により狭窄された電流により発光する活性層とを有し、
上記複数の発光部のうちそれぞれの発光部は、少なくとも上記第1のDBR層、上記電流狭窄層及び上記活性層が隣接する発光部との間で分離溝により離間されたメサ構造を有し、
上記複数の発光部のうち一つの発光部の周囲に設けられた上記分離溝の深さは、上記複数の発光部のうち他の発光部の周囲に設けられた上記分離溝の深さと異なる
発光素子。
(14)
垂直共振器型面発光レーザー素子であり、第1の電極と第2の電極を備え、上記第1の電極から上記第2の電極へ流れる電流により発光する発光部が、上記発光部から出射される光の光軸に垂直な方向に沿って1次元状又は2次元状に配列された複数の発光部と、
上記第1の電極に電気的に接続された第1の電極端子と、
上記第2の電極に電気的に接続された第2の電極端子と
を具備し、
上記複数の発光部のうち一つの発光部の光取り出し効率は、上記複数の発光部のうち他の発光部の光取り出し効率と異なる
発光素子。
(15)
上記(14)に記載の発光素子であって、
上記発光素子は、上記光軸に平行な方向から見て、上記複数の発光部のうち内側に位置する発光部を含む中央領域と、上記複数の発光部のうち外側に位置する発光部を含む周辺領域とを有し、
上記複数の発光部のうち上記中央領域に位置する発光部の光取り出し効率は、上記複数の発光部のうち上記周辺領域に位置する発光部の光取り出し効率より小さい
発光素子。
(16)
上記(14)又は(15)に記載の発光素子であって、
上記複数の発光部のそれぞれの光出射面には表面コーティング層が形成され、
上記複数の発光部のうち一つの発光部の上記表面コーティング層の厚みは、上記複数の発光部のうち他の発光部の上記表面コーティング層の厚みと異なる
発光素子。
(17)
上記(14)から(16)のうちいずれか一つに記載の発光素子であって、
請求項14に記載の発光素子であって、
上記複数の発光部のそれぞれの光出射面には、第1の領域と、上記第1の領域とは光学特性が異なる第2の領域を有する表面コーティング層が設けられ、
上記複数の発光部のうち一つの発光部における上記第1の領域と上記第2の領域の境界位置は、上記複数の発光部のうち他の発光部における上記第1の領域と上記第2の領域の境界位置と異なる
発光素子。
(18)
上記(14)から(17)のうちいずれか一つに記載の発光素子であって、
請求項14に記載の発光素子であって、
上記複数の発光部のうちそれぞれの発光部は、上記第1の電極に電気的に接続された第1のDBR層と、上記第2の電極に電気的に接続された第2のDBR層と、上記第1のDBR層と上記第2のDBR層の間に配置された電流狭窄層と、上記第1のDBR層と上記第2のDBR層の間に配置され、上記電流狭窄層により狭窄された電流により発光する活性層とを有し、
上記複数の発光部のうち一つの発光部の上記第1のDBR層及び上記第2のDBR層の反射率は、上記複数の発光部のうち他の発光部の上記第1のDBR層及び上記第2のDBR層の反射率と異なる
発光素子。
(19)
上記(2)又は(15)に記載の発光素子であって、
上記中央領域から上記周辺領域にかけて、上記複数の発光部による発光強度分布はcosθのn乗で表される形状である
発光素子。
(20)
垂直共振器型面発光レーザー素子であり、第1の電極と第2の電極を備え、上記第1の電極から上記第2の電極へ流れる電流により発光する発光部が、上記発光部から出射される光の光軸に垂直な方向に沿って1次元状又は2次元状に配列された複数の発光部と、上記第1の電極に電気的に接続された第1の電極端子と、上記第2の電極に電気的に接続された第2の電極端子とを具備し、上記第1の電極端子から上記複数の発光部のうち一つの発光部を通過して上記第2の電極端子に到る電流経路の電気抵抗は、上記第1の電極端子から上記複数の発光部のうち他の発光部を通過して上記第2の電極端子に到る電流経路の電気抵抗と異なる発光素子を備える発光ユニットと、
上記発光ユニットから出射された光の反射光を検出する受光ユニットと、
上記受光ユニットの検出結果に基づいて測定対象との距離を算出する測距演算部と
を具備する測距装置。
【符号の説明】
【0162】
100…測距装置
101…発光ユニット
102…発光制御部
103…受光ユニット
104…測距演算部
111…発光素子
111a…発光部
111a1…第1発光部
111a2…第2発光部
111a3…第3発光部
122…n-DBR層
123…n-クラッド層
124…活性層
125…p-クラッド層
126…電流狭窄層
126a…狭窄領域
126b…注入領域
127…p-DBR層
128…コンタクト層
129…絶縁層
130…p電極
131…n電極
135…表面コーティング層
136…表面コーティング層
137…表面コーティング層
141…アノード
151…カソード