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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】軽量超硬合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/08 20060101AFI20240827BHJP
   B21D 37/01 20060101ALI20240827BHJP
   B21D 51/26 20060101ALI20240827BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240827BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240827BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20240827BHJP
   B23B 27/14 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C22C29/08
B21D37/01
B21D51/26 X
B22F1/00 Q
B22F1/05
C22C1/05 F
B23B27/14 B
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021542417
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-26
(86)【国際出願番号】 EP2020051668
(87)【国際公開番号】W WO2020152291
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】1900988.5
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518414476
【氏名又は名称】ハイペリオン マテリアルズ アンド テクノロジーズ (スウェーデン) アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シンカ イ ルイス, ヌリア
(72)【発明者】
【氏名】ラリンベ, ローラ
(72)【発明者】
【氏名】マリア タラゴ, ホセ
(72)【発明者】
【氏名】エデリド, ステファン
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-523170(JP,A)
【文献】特開2006-144089(JP,A)
【文献】特開2012-193430(JP,A)
【文献】特表2010-514933(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101573193(CN,A)
【文献】特表2015-503034(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0063930(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/00
C22C 1/00
B22F 1/00
B21D 37/01
B21D 51/26
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬合金であって
超硬合金の総量に基づいて50~70重量%の範囲のWCを含む硬質相
CoおよびNiを含むバインダー相;ならびに
金属炭化物、金属窒化物、および金属炭窒化物を含むガンマ相
を含み、
0.5~1.5の範囲にあるWCの平均粒径/ガンマ相の平均粒径の商を有する、超硬合金。
【請求項2】
金属炭化物が、TiC、TaC、VC、NbC、ZrC、HfC、WC、MoC、CrCを含み、金属窒化物が、TiN、TaN、VN、NbN、ZrN、HfN、WN、MoN、CrNを含み、金属炭窒化物が、TiCN、TaCN、VCN、NbCN、ZrCN、HfCN、WCN、MoCN、CrCNを含む、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項3】
WCの平均粒径が、0.5~2μmの範囲にある、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項4】
ガンマ相の平均粒径が、0.5~2μmの範囲にある、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項5】
バインダー相にMoをさらに含む、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項6】
バインダー相にCrをさらに含む、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項7】
WCが、50~65重量%の範囲含まれる、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項8】
CoおよびNiが、超硬合金の総量に基づいて10~20重量%の範囲で含まれる、請求項に記載の超硬合金。
【請求項9】
バインダー相が、Fe、Cr、Moのいずれか1つまたは組み合わせをさらに含む、請求項に記載の超硬合金。
【請求項10】
請求項1に記載の超硬合金を含む、金属を成形するためのまたは金属を切断するための工具。
【請求項11】
請求項1に記載の超硬合金を含む、金属を成形するためのパンチ。
【請求項12】
法であって:
50~70重量%のWCoおよびNiと、金属炭化物、金属窒化物および金属炭窒化物を含むガンマ相と、を含む粉末材料のバッチを調製することと;
粉末材料のバッチを粉砕することと;
粉砕された粉末材料のバッチをプレスしてプレコンパクトを形成することと;
プレコンパクトを焼結して、WCを含む硬質相、CoおよびNiを含むバインダー相、ならびに金属炭化物、金属窒化物および金属炭窒化物を含むガンマ相を含む超硬合金を形成することと;
を含み、
焼結された超硬合金は、0.5~1.5の範囲にあるWCの平均粒径/ガンマ相の平均粒径の商を有する、方法。
【請求項13】
WCが、50~65重量%の範囲で粉末材料のバッチ内に含まれる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
金属炭化物が、TiC、TaC、VC、NbC、ZrC、HfCを含み、金属窒化物が、TiN、TaN、VN、NbN、ZrN、HfNを含み、金属炭窒化物が、TiCN、TaCN、VCN、NbCN、ZrCN、HfCNを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
粉末材料のバッチ内のガンマ相が、TiC、NbC、TaC、TiNおよびTiCNを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
粉末材料のバッチが、Cr、Mo、CrおよびMを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
粉末材料のバッチが:
55~59重量%のWC;
10~14重量%のTiC;
8~12重量%のNbC;
5~13重量%のCo;
0.1~1.0重量%のCr
1~9重量%のNi;
0.1~1.0重量%のMoC;
0.5~2.5重量%のTaC;
1~7重量%のTiCNおよ
1~5重量%のTiN
を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
粉末材料のバッチ内のガンマ相が、事前に合金化された金属炭化物金属窒化物および金属炭窒化物を含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、硬質相、バインダー相およびガンマ相を有する超硬合金、特に、限定的ではないが、金属炭化物および金属窒化物および/または金属炭窒化物を含む超硬合金に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
超硬合金は、高硬度と適度な靭性の好ましい組み合わせを示すことが知られており、需要の高い用途における、材料成形工具、構造部品、マイニングビット、プレスモールド、パンチダイ、その他の摩耗部品などの耐摩耗性用途の製造に使用するのに理想的な材料である。特に、超硬合金は、金属飲料缶の製造においてパンチボディを形成するために使用されてきた。世界中で毎年2,000億本以上の缶が生産されている。単一の生産ラインで、アルミニウムまたはスチールストリップからの連続プロセスで年間最大50万缶を製造できる。さらに、水平プレスは毎分250~390缶の速度で実行できる。プロセスの一環として、金属シートから押し出されたカップが、約5分の1秒で1回の連続パンチストロークで缶本体に形成され、約66mmの内径、および33~57mmの高さが形成される。次に、缶本体は通常、アイロンリングを通過して壁を130mmの高さに伸ばされてから、缶の底に凹型のドームが形成される。工具に必要な非常に厳しい公差(±0.002mm)と、正しい缶の寸法を維持するために、アイロンリングとドームダイに対するパンチのアライメントは重要である。
【0003】
欧州特許出願公開第2439294A1号は、WCを含む硬質相と、50~70のWC、15~30のTiC、および12~20のCo+Niを重量%で含む組成物を有する超硬合金組成物を記載している。
【0004】
米国特許第6,521,353B1号は、ペレット化ダイの面としての使用などの高摩耗用途のための低熱伝導率硬質金属を記載している。この材料は、50~80重量%でのWC、少なくとも10重量%でのTiC、ニッケルとコバルトを含むバインダー材料を含み、TiNおよびTiNCは合金に添加されていない。
【0005】
欧州特許出願公開第2439294A1号に記載されている軽量パンチは、操作ラムの端に低減された質量を提供してパンチの動的振動を低減することで、より高いパンチ本体速度(1分あたりの缶)と改善された缶壁厚の一貫性を実現し、これにより、必要な金属が少なくなり、二酸化炭素排出量を削減することが企図されている。しかしながら、このような材料は、上記の利点を実現する試みと、耐摩耗性による耐用年数の最大化との間の妥協点を表している。したがって、適切な硬度と靭性、それゆえ耐摩耗性を示す軽量の硬質金属グレードの材料が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
発明の要約
本発明の目的は、需要の高い用途向けの工具および部品を製造するために使用するのに適した、所望の耐摩耗性および機械的特性を有する軽量の超硬合金材料を提供することである。高い機械的耐摩耗性、好ましくは耐食性を示すことと組み合わせて、約10g/cmの密度を有する金属を成形するためのパンチを製造するための超硬合金材料を提供することが特定の目的である。
【0007】
材料が、金属缶の製造の一部として、端部を形成する、またはラムの端部に取り付けることができるボディメーカーパンチなどの金属を成形するためのパンチの製造に使用される場合に、特に、表面粗面化手順を可能にするために、物理的および機械的特性を有する超硬合金を提供することがさらに特定の目的である。
【0008】
目的は、WC相、バインダー相、およびガンマ相を含む3つまたは少なくとも3つの相から形成された超硬合金を提供することによって達成される。本超硬合金は、金属窒化物および/または金属炭窒化物と組み合わせた金属炭化物を含み、ガンマ相の平均粒径に対するWC相の平均粒径の特定の比または商を有するガンマ相で特に構成される。特に、本発明者らは、0.5~1.5の範囲のWC平均粒径/ガンマ相平均粒径の商が、高硬度、中程度の靭性、および14g/cm未満、特に約またはほぼ10g/cmの密度を示す材料を提供するために、記載されたガンマ相の組成との組み合わせにおいて特に有利であることを確認した。したがって、金属を打ち抜くための工具として使用するための本超硬合金は、かなり軽量でありながら、パンチ用途に通常使用される従来のはるかに高密度の超硬合金と同様の摩耗率を達成するのに有利である。これは、より高いパンチ速度、改善された缶本体壁の一貫性(成形されたままの缶の)を提供するのに有利であり、これは、より少ないアルミニウムまたは鋼のストリップしか必要ではないため、二酸化炭素排出量が低減される。さらなる利点には、缶の平均重量の削減、損傷、メンテナンス、および機械のダウンタイムが含まれる。
【0009】
本グレードはまた、特に、ソーチップ、カッティングダイ、カッティングコンポーネント、マイニングビット、プレスモールド内のコンポーネント、ドリル、ベアリングまたはベアリング内のコンポーネント、メカニカルシールなどの特定の使用を含む様々な用途における構成要素の製造における使用にも有利であり得る。
【0010】
本金属組成物は、i)ガンマ相の結晶粒成長阻害、ii)耐食性の改善、iii)高温硬度の改善、iv)密度の最小化により、軽量の炭化物材料を提供する、立方金属炭化物と立方金属窒化物および/または立方金属炭窒化物との組み合わせを利用する。任意選択で、ガンマ相形成要素は、特に低密度、高硬度、中程度の靭性、そして重要なことに高い耐摩耗性を含む、望ましい物理的および機械的特性に寄与するために、事前に合金化された原材料であり得る。
【0011】
本発明の第1の態様によれば、WCを含む硬質相、結合剤相、およびガンマ相を含む超硬合金が提供され:超硬合金は、50~70重量%の範囲のWCを含み;WCの平均粒径/ガンマ相の平均粒径の商は0.5~1.5の範囲にあり;ガンマ相は、少なくとも1つの金属窒化物および/または金属炭窒化物と組み合わせた少なくとも1つの金属炭化物を含むことを特徴とする。
【0012】
任意選択的に、金属炭化物、金属窒化物および/または金属炭窒化物は、Ti、Ta、V、Nb、Zr、Hfのいずれか1つまたは組み合わせを含む。好ましくは、超硬合金は、TiC、NbC、TaCおよび/またはTiCNを含む。特に、好ましくは、超硬合金のガンマ相は、立方混合炭化物、好ましくは(Ti、Ta、Nb、W)Cを含む。このような組成物は、強度、靭性、および耐摩耗性を改善するのに有利であり、次に、金属成形、加工、および/または機械加工のための工具としてより良好な性能を提供する。
【0013】
金属窒化物および/または金属炭窒化物の添加は、硬質WC含有相に関して主にまたは排他的にガンマ相の結晶粒微細化に有利である。窒素は、Me(C、N)の形態で添加することができ、ここで、Meは、Ti、Ta、V、Nb、Zr、Hf、W、Mo、Crのいずれか1つまたは組み合わせである。
【0014】
任意選択的に、WCの平均粒径は0.5~2μm;0.75~2μm;0.8~2μm;0.8~1.8μm;または0.8~1.4μmの範囲にある。任意選択的に、ガンマ相の平均粒径は0.5~2μm;0.75~2μm;0.8~2μm;0.8~1.8μmまたは1~1.6μmの範囲にある。平均WC粒径/平均ガンマ粒径の記載された比率または商は、超硬合金の異なる相間の接着を改善することに加えて、グレインプル(grain pull)および亀裂を低減するのに特に有利である。
【0015】
任意選択的に、超硬合金はさらにMoを含み得る。任意選択的に、超硬合金は、重量%で0.1~0.7;0.2~0.6または0.3~0.6の範囲のMoを含み得る。これは、機械的特性、耐食性、およびバインダーと炭化物との接着性を向上させるのに寄与する。
【0016】
任意選択的に、超硬合金は、Crをさらに含み得る。任意選択的に、超硬合金は、重量%で0.1~0.7;0.2~0.6または0.3~0.6の範囲のCrを含み得る。これは、機械的特性、耐食性、およびバインダーと炭化物との接着性を向上させるのに寄与する。
【0017】
任意選択的に、WCは、重量%で50~65;52~62;54~60;または55~59の範囲に含まれるしたがって、本超硬合金は少なくとも三相材料である。超硬合金は、好ましくは、本明細書に記載のすべての組成物内のバランスとしてWCを含む。
【0018】
任意選択的に、バインダー相は、CoおよびNiを含む。好ましくは、バインダー相は、Co+Niを含む。好ましくは、バインダー相は、さらなる元素および/または化合物を含む。任意選択的に、バインダー相は、Fe、Cr、Moの任意の1つまたはそれらの組み合わせをさらに含む。コバルトとニッケルをベースにした超硬合金は、任意選択的に、モリブデンの組み込みによって向上された耐食性について有利である。任意選択的に、超硬合金は、重量%で10~20の範囲のCo+Niを含む。
【0019】
任意選択的に、ガンマ相を形成する金属炭化物、金属窒化物、および/または金属炭窒化物は、事前に合金化されたガンマ相成分として、事前に粉砕された粉末バッチに添加される。したがって、最終的な焼結材料内のガンマ相は、事前に合金化されたガンマ相化合物の粉末バッチから生じる生成物である。そのような事前に合金化されたガンマ相成分は、焼結中のガンマ相(および潜在的にはWC硬質相)の結晶粒成長を阻害して、次に、異なる相間の接着を増加させ、結晶粒の引き抜きに対する抵抗を増加させるのに有利である。
【0020】
本発明のさらなる態様によれば、ここで特許請求されるような超硬合金を含む金属を成形するためのまたは金属を切断するための工具が提供される。
【0021】
本発明のさらなる態様によれば、ここで特許請求されるような超硬合金を含む金属を成形するためのパンチが提供される。
【0022】
本発明のさらなる態様によれば、WCを含む硬質相、バインダー相、およびガンマ相を含む超硬合金を製造する方法が提供され、方法は:50~70重量%の範囲のWC、バインダー相構成要素および少なくとも1つの金属窒化物および/または金属炭窒化物と組み合わせた少なくとも1つの金属炭化物を含むガンマ相構成要素を含む粉末材料のバッチを調製することと;粉末材料の粉砕することと;粉砕された粉末材料をプレスしてプレコンパクトを形成することと;プレコンパクトを焼結することとを含み、焼結プレコンパクト内では、WCの平均粒径/ガンマ相の平均粒径の商は、0.5~1.5の範囲にある。
【0023】
任意選択的に、WCは、粉末材料内に、重量%で50~65;52~62;54~60;または55~59で含まれる。
【0024】
任意選択的に、金属炭化物、金属窒化物および/または金属炭窒化物は、元素:Ti、Ta、V、Nb、Zr、Hfのいずれか1つまたは組み合わせを含む。
【0025】
任意選択的に、粉末材料内のガンマ相構成要素は、TiC、NbC、TaC、TiNおよび/またはTiCNを含む。
【0026】
任意選択的に、粉末バッチは、Cr、Mo、Crおよび/またはMoCをさらに含む。任意選択的に、粉末バッチは、CoおよびNi、ならびに任意選択的に、Co、Ni、Fe、CrおよびMoをさらに含み、バインダー相を形成する。
【0027】
任意選択的に、粉末バッチは、重量%で:55~59のWC;10~14のTiC;8~12のNbC;5~13のCo;0.1~1.0のCr;1~9のNi;0.1~1.0のMoC;0.5~2.5のTaC;1~7のTiCNおよび/または1~5TiNを含む。
【0028】
図面の簡単な説明
本発明の特定の実施について、例としてのみ、以下の添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の特定の態様による、サンプルA~サンプルGのガンマ相およびWC相の平均粒径(μm)のグラフである。
図2】(a)サンプルC(組成にTiNおよび/またはTiCNを含まない)および(b)サンプルD(TiNおよび/またはTiCNを含む)の2000倍の倍率での顕微鏡写真である。
図3】(a)サンプルC(組成にTiNおよび/またはTiCNを含まない)および(b)サンプルD(TiNおよび/またはTiCNを含む)の5000倍の倍率での顕微鏡写真である。
図4】サンプルA(事前に合金化されたガンマ相なし)およびサンプルB(事前に合金化されたガンマ相あり)の2000倍の倍率での顕微鏡写真である。
図5】サンプルA(事前に合金化されたガンマ相なし)およびサンプルB(事前に合金化されたガンマ相あり)の5000倍の倍率での顕微鏡写真である。
図6】サンプルE(事前に合金化されたガンマ相なし)およびサンプルF(事前に合金化されたガンマ相あり)の2000倍の倍率での顕微鏡写真である。
図7】サンプルE(事前に合金化されたガンマ相なし)およびサンプルF(事前に合金化されたガンマ相あり)の5000倍の倍率での顕微鏡写真である。
図8】(a)サンプルEおよび(b)サンプルIのハッチングシミュレーションの拡大画像である。
図9】(a)サンプルEおよび(b)サンプルIのすべり摩耗試験後の摩耗表面の拡大画像である。
図10】すべり摩耗試験後のサンプルFの摩耗表面の5000倍の倍率での顕微鏡写真である。
図11】(a)サンプルEおよび(b)サンプルIの接着剤摩耗応答のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の好ましい実施形態の詳細な説明
本発明者らは、例えば、欧州特許出願公開第2439294A1号に記載されているように、既存の材料と同様の硬度レベルに対して靭性が改善され、対応する低密度を有し、軽量の構成要素を提供する超硬合金材料を特定した。金属を成形するためのパンチとして、特に飲料缶の製造用のパンチとして利用される場合、本材料は、中程度から高い耐食性に加えて、Alに対する線形往復運動中のより低い摩耗率、線形往復摩耗試験中のより低いアルミニウムの接着、表面の粗面化を可能にする向上された表面特性を示す。
【0031】
所望の物理的および機械的特性は、少なくとも部分的に、金属炭化物、金属窒化物および/または金属炭窒化物から形成されるガンマ相の適切な構成要素を選択することと組み合わせて、硬質相WCに関するガンマ相の平均粒径を制御することによって達成される。特に、本材料グレードは、ガンマ相のみの選択的精錬(refinement)を達成する。そのような精錬は、立方金属炭化物と、立方金属窒化物および/または立方金属炭窒化物との組み合わせによって達成される。さらに、本組成物は、初期の粉末バッチ内で事前に合金化されたガンマ相材料を利用することができる。
【実施例
【0032】
実施例
粉砕、プレス、成形および焼結を含む従来の粉末冶金法を使用して、本発明による超硬合金の様々なサンプルを製造した。特に、表1による重量%での組成を有する超硬合金サンプルは、既知の方法に従って製造された。サンプルA~サンプルGは、硬質構成要素を形成する粉末、バインダーを形成する粉末、およびガンマ相を形成する粉末から調製された。
【0033】
各サンプル混合物は、液体媒体としてエタノールを使用して8時間のボールミル粉砕に供され、その後、炉(65℃)で乾燥され、ふるいがけされた。粉末を4Tmで一軸プレスした。次に、未焼結のコンパクトを450℃で浸漬し、SinterHIPで1410℃(70分)、アルゴン雰囲気(50bar)中で焼結した。PEGはすべての組成物に導入された。高温で他のいくつかの焼結試験が実施されたが、最終的な粒子の粗大化に関して有意差は観察されなかった。
【0034】
【0035】
WC粉末とガンマ相構成要素の粉末の平均粒径は、図1に示すように、サンプルAからIまで変化した。中程度の粗い粒子のWC粉末を使用して、ガンマ相による粒径の違いの低減を支援した。
【0036】
特性評価
磁気特性を含むサンプルグレードの特性評価;微細構造、密度、硬度、靭性、すべり摩耗性能を行った。
【0037】
磁気特性
すべての焼結サンプルで、Co、Comの保磁力、Hc、および磁気飽和を測定し、イータ相またはグラファイトが微細構造中に存在するかどうかを調査した。
【0038】
微細構造、密度、硬度、靭性
焼結合金の密度は、アルキメデス法によって測定され、理論的に計算された。
【0039】
次に、焼結サンプルをベークライト樹脂にマウントし、さらに特性評価する前に1μmにまで研磨した。微細構造分析は、走査型電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型X線分光法(EDS)を使用して実行された。硬度を評価するために、30kgf(HV30)を使用してビッカース押込み試験を実施した。Palmqvist破壊靭性は、Palmqvist破壊靭性は、D. K. Shetty, I. G. Wright, P. N. MincerおよびA. H. Clauer, “Indentation fracture of WC-Co cermets,” J. Mater. Sci., vol. 20, no. 5, pp. 1873-1882, May 1985:に従って計算された。
【0040】
式中、Aは、0.0028の定数、Hは、硬度(N/mm2)、Pは、加えられた荷重(N)、ΣLは、インプリントの亀裂長さ(mm)の合計である。
【0041】
すべり摩耗試験
缶の工具は、軽量グレードの使用が超硬パンチに使用された場合の金属成形プロセスの改善となる主な用途の1つである。缶の工具条件を複製することは、現場で使用されているものと同様の方法で以前にテクスチャリングされたサンプルの摩耗損傷を試験することを意味する(ハッチング)。この操作により、アルミニウムの機械的結合を容易にする粗い表面仕上げが残される。摩耗挙動を評価するために使用される方法論を以下に説明する。
【0042】
・焼結サンプルを粉砕し、Ra~0.15-0.25μmを達成した。
・次に、サンプルをベークライトにマウントし、ハッチング手順をシミュレートするために、研磨機(30N、50rpm、潤滑状態での逆回転)でダイヤモンドパッドRED3Mを使用してテクスチャリングした。最終製品でRa~0.25-0.35μmを達成することが意図された。
・その後、サンプルをベークライトから取り外し、ワザウ摩耗試験機用に設計された円形の形状ホルダーに配置した。
・ASTM G133 “Test Method for Linearly Reciprocating Ball-on-Flat Sliding Wear”に準拠した直線往復モジュールのワザウ摩耗試験機を使用した。アブレシブ摩耗の特性評価には、φ10mmのAlボールが使用された。同じサイズのAlボールを使用して、摩滅摩耗または接着摩耗による損傷を試験した。使用した条件は、負荷=150N、速度=250rpm、ストローク長=10mm、サンプル周波数=100Hz(1時間の試験に対して)であった。実際のプロセスをシミュレートするために、試験中にサンプルを潤滑剤に浸した。
・各摩耗実験中に、ピンオンフラットスライディングペアの法線接触力(F)と付随する接線摩擦力(F)は継続的に記録された。摩擦係数(μ)は、F/F力の比率から計算される。
【0043】
試験後、摩耗損傷パターンをSEMと共焦点干渉法で評価した。耐摩耗性は、2Dプロファイルから摩耗トラックの深さを測定することで評価された。
【0044】
結果
サンプルの特性評価
WCは高密度(15g/cm超)の炭化物であるため、低密度(すなわち、10.30g/cm未満)であるが、最適な機械的特性と耐摩耗性を備えた硬質金属サンプルを達成するために、WCをTiCやNbCなどのより軽量の炭化物で部分的または全体的に置き換えることが検討され。それらの炭化物がバインダーの溶解限度を超える量で添加される場合、それらは沈殿し、追加の相、すなわち立方晶炭化物またはガンマ相を形成する。通常、立方晶炭化物は、Ti、Ta、Nb、W、Hf、およびZrのすべてまたは一部の元素を含み;コア-リム構造を有する。
【0045】
密度を低下させるという有益な効果にもかかわらず、上記の炭化物を大量に添加すると、いくつかの所望の機械的特性、特に耐摩耗性が低下する可能性がある。立方晶炭化物の導入によってより悪影響を受ける特性は、靭性、強度、および熱伝導率である。また、同様の硬度値の場合、すべり摩擦条件でテストした場合、これらのサンプルの摩耗率が高くなり、立方晶炭化物とバインダーの間の界面強度が低いことに部分的に関連している。一方、高温硬度や塑性変形に対する耐性など、一部の特性は立方晶炭化物の添加によって向上される可能性がある。また、ガンマ相は摩擦力の低減に寄与し、抗摩滅剤として機能し得る。
【0046】
摩耗試験の対象となる高含有量の立方炭化物を含む焼結部品の主な摩耗メカニズムの1つは、炭化物粒子の個々のクラスターまたはクラスターの引き抜きです。この優先的な引き抜きは、主に炭化物とバインダーとの間の不十分な界面強度に関連しており、2つの主な理由により摩耗率を加速させる。第一に、完全な炭化物粒子が表面から容易に剥離するため、摩耗率が増加する。第二に、剥離した粒子は、硬質金属片と被削材の間に位置する傾向がある。それらは高い硬度レベルを有するため、アブレシブ媒体として機能し、アブレシブ摩耗メカニズムを促進する。粒子の引き抜きを減らし、その影響を最小限に抑えるために、精錬されたガンマ相の粒径と向上された界面強度を備えたグレードを開発することが1つの目的であった。
【0047】
ガンマ相の精錬
ガンマ相の粒子サイズを小さくするために、2つの戦略が適用された:(1)TiNまたはTiCNの添加、および(2)事前に合金化されたガンマ相粉末の使用。
【0048】
一方では、TiCは低密度の炭化物(つまり、約4.9g/cmの密度)であるため、組成物への添加は、サンプルの全体的な密度の低下に寄与する。したがって、開発されたサンプルは、表1に見られるように、比較的高いTiC含有量、すなわち、7.5重量%~15重量%の間、すなわち、15%~30%の間の体積含有量に相当し得る。一方、TiNとTiCNは、TiCベースのサーメットの結晶粒径を微細化し、強度を向上させるために使用されることが知られている。したがって、TiCは主要なガンマ相元素の1つである可能性があるため、ガンマ相の粒径を低減する際のTiNおよび/またはTiCNの効果を評価することは興味深いことであった。そうすることで、TiNを添加した場合と添加しない場合の両方で同様の組成を有するサンプルの微細構造を評価した。
【0049】
図2は、(a)サンプルC(組成にTiNおよび/またはTiCNを含まない)および(b)サンプルD(TiNおよび/またはTiCNを含む)の2000倍の倍率での顕微鏡写真である。図3は、(a)サンプルC(組成にTiNおよび/またはTiCNを含まない)および(b)サンプルD(TiNおよび/またはTiCNを含む)の5000倍の倍率での顕微鏡写真である。図2および図3の微細構造からわかるように、TiCNを使用すると、焼結サンプルのガンマ相の平均粒径が大幅に減少する。重要なことに、薄い灰色の平均WC粒径も減少したが、程度は低くなった。
【0050】
事前に合金化されたガンマ相
ガンマ相結晶粒成長抑制剤としての事前に合金化されたガンマ相(すなわち、(W Ti Ta)C)の影響を評価した。事前に合金化されたガンマ相を使用すると、焼結サンプルのガンマ相の平均粒径が大幅に減少することが観察された。しかしながら、該使用はWCの平均粒径も低下させる。サンプルAとサンプルBの微細構造を比較した場合の明確な例が示されている。特に、図4は、サンプルA(事前に合金化されたガンマ相なし)とサンプルB(事前に合金化されたガンマ相あり)の2000倍の倍率での顕微鏡写真であり、図5は、サンプルA(事前に合金化されたガンマ相なし)とサンプルB(事前に合金化されたガンマ相あり)の5000倍の倍率での顕微鏡写真である。事前に合金化されたガンマ相を使用することにより、焼結サンプルのガンマ相の平均粒径が大幅に減少する。薄い灰色の平均WC粒径も、2000×(図4)および5000×(図5)で見られるように減少していることに注意されたい。
【0051】
TiN/TiCNと事前に合金化されたガンマ相との組み合わせ
ガンマ相の粒径をさらに低減すべき場合は、両方の戦略を組み合わせることができる。例は図6および図7に、サンプルEおよびサンプルHについて2000×および5000×で示されており、図6は、(a)サンプルE(事前に合金化されたガンマ相なし)とサンプルF(事前に合金化されたガンマ相あり)の2000倍の倍率での顕微鏡写真であり、図7は、(a)サンプルE(事前に合金化されたガンマ相なし)とサンプルF(事前に合金化されたガンマ相あり)の5000倍の倍率での顕微鏡写真である。サンプルEおよびサンプルFのいずれも同様の組成であるが、サンプルEはTiNと事前に合金化されたガンマ相を組み合わせていますが、サンプルFはサンプルEと同じ量のTiNを持っていますが、事前に合金化された(W、Ti、Ta)Cガンマ相は含まれていない。TiNに加えて、事前に合金化されたガンマ相を使用すると、TiNのみのサンプルと比較して、ガンマ相の平均結晶粒径がわずかに減少する。この段階では、得られる追加の結晶粒微細化は限られていることに留意されたい。
【0052】
界面強度
前述のように、本発明の1つの目的は、ガンマ相とバインダーとの間の界面強度を増加させて、摩耗中の粒子の引き抜きを低減することである。そのために、MoC、TaC、Crなどのいくつかの添加剤の添加、および事前に合金化されたガンマ相の使用が評価された。しかしながら、界面強度を測定することは非常に困難であるため、間接的な手法が使用された。その際、クロスハッチングおよび摩耗に対するサンプルの応答を調査することにより、界面強度を評価した。
【0053】
硬度、Palmqvist靭性および密度
調査したサンプルの硬度、Palmqvist靭性、および密度を表2に示す。すべてのサンプルA~サンプルIは、9.99と10.72g/cmとの間の同様の密度を有することに注意されたい。さらに、サンプルAとサンプルFを除いて、HV対KIcの関係に有意な変化は見られず、Aは、HV対KIcの関係が最も悪いサンプルで、Fは最高のサンプルであった。予想通り、ガンマ相の粒径がより微細なサンプルサンプルBおよびサンプルD)は、それぞれのカウンターサンプル(つまり、サンプルAおよびサンプルC)よりも高い硬度レベルを有していたことに注意されたい。
【0054】
【0055】
サンプル性能
クロスハッチング耐性
サンプルは、缶のメーカーによって実行されるクロスハッチングプロセスをシミュレートするためにテクスチャリングされた。バインダーと硬質粒子との間の界面強度は、クロスハッチングシミュレーション後のSEM検査、およびサンプルの表面にプロセス自体によって生じる摩耗損傷によって評価された。


【0056】
図8は、(a)サンプルEおよび(b)サンプルIのハッチングシミュレーションの拡大画像である。図8に示されているように、両方のサンプルで、プロセス中のダイヤモンド砥粒の高応力に起因したWC結晶粒子の断片化と剥離が観察される。それにもかかわらず、サンプルIは、わずかに多くの表面損傷とより多くの粒子の引き抜きを示した。したがって、使用中の性能(Alまたは鋼の摩滅)中の接着摩耗メカニズムは、潜在的な可能性が高まり、工具の早期故障につながることが疑われる。
【0057】
すべり摩耗応答
摩耗損傷(摩耗)は、Alボールを使用して評価された。図9は、(a)サンプルEおよび(b)サンプルIのすべり摩耗試験後の摩耗面の拡大画像である。グレードEとグレードIの摩耗痕の深さはそれぞれ2.20±0.18μmおよび2.76±0.08μmであり、サンプルIの摩耗損傷が大きいことを示している。特に、図9に示すように、それぞれの摩耗痕に対応する摩耗領域は非常に類似しており、ハッチングによる初期の凹凸が削り取られた滑らかな表面を示している。また、硬質カウンターパートのアブレシブ効果による粒子の引き抜きが観察された。これらの類似性にもかかわらず、サンプルIには、より大量の、硬いが脆性のTiCを有しており、そのため、欠けたり剥がれたりすると、さらなる研磨効果を促進することができる。これは、サンプルIのより深い摩耗痕の測定を確認する。精錬されたガンマ相の存在は、界面がより良好接着され、粒子の引き抜きに対するより良好な耐性を示すという点でも決定的である。
【0058】
図10は、すべり摩耗試験後のサンプルFの摩耗面の5000倍の倍率での顕微鏡写真である。見てわかるように、一部のWC粒子は欠けているように見え、一部の孔食が優先的に観察され、これは、サンプルが摩擦腐食による損傷(アブレシブ+潤滑効果)を受けやすいことを示している。
【0059】
Alボールを使用して接着摩耗を分析した。図11は、(a)サンプルEおよび(b)サンプルIの接着摩耗応答のSEM画像である。図11bから、サンプルIは、引っかきとクロスハッチングによって残された粒子の引き抜きの両方で、より多くの摩滅(Al接着)を示していることがわかる一方で、サンプルEは、図11aからわかるように、主に粒子が引き抜かれた領域内の摩滅を示している。コメントされているように、サンプルIは、クロスハッチングの下で最もパフォーマンスが低く、さらに粒子が引き抜かれて亀裂が生じ、Alが付着する可能性のある領域が増える。また、サンプルIのバインダーの量が多いほど、より多くの溶接が可能となる。これらすべての領域での局所的な摩滅は、完全な粒子の分離を促進する。
【0060】
結論
密度<10.0g/cm、硬度HV30 1300-1500、破壊靭性10~11MPam1/2の耐摩耗性軽量超硬合金グレードの開発に成功した。
図1
図2
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図5
図6
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図9
図10
図11