(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】人工角膜デバイス、キット、およびそれらの外科的使用方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/14 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
A61F2/14
(21)【出願番号】P 2021562818
(86)(22)【出願日】2020-04-26
(86)【国際出願番号】 IL2020050470
(87)【国際公開番号】W WO2020217244
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-12-16
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517426797
【氏名又は名称】コーニート ビジョン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リトヴィン・ジラド
(72)【発明者】
【氏名】アレイ-ラズ・アルモグ
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-521734(JP,A)
【文献】特表2013-540521(JP,A)
【文献】特表2000-503870(JP,A)
【文献】国際公開第2002/043622(WO,A1)
【文献】米国特許第04612012(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工角膜であって、
(a)前面および後面を有する中心光学コアと、
(b)前記中心光学コアを取り巻き、少なくとも1種類の生体適合性ポリマーを含み、結膜の裏かつ眼の強膜の表に配置することができる幅を有する周辺スカートと、を含み、
前記中心光学コアが、前記前面から前記前面の周囲を取り囲むように延在する前縁、および、前記後面から前記後面の周囲を取り囲むように延在する後縁を含み、前記前縁は径方向に前記周辺スカートと前記前面の間に延在し、
前記前縁が、少なくとも2つの縫合孔および少なくとも2つのアクセスポートを含み、
前記後縁が、前記後面より
後方の位置から後方に延出する少なくとも2つの延長フランジを含む、人工角膜。
【請求項2】
前記前縁が、少なくとも3つの前記縫合孔を含む、請求項1に記載の人工角膜。
【請求項3】
前記縫合孔が、前記前縁において、互いに所定の間隔を空けて配置されている、請求項1または2に記載の人工角膜。
【請求項4】
前記前縁が、少なくとも3つの前記アクセスポートを含む、請求項1に記載の人工角膜。
【請求項5】
前記アクセスポートが、互いに所定の間隔を空けて配置されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項6】
前記前縁が、少なくとも1種類の前記生体適合性ポリマーをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項7】
前記後縁が、少なくとも3つの前記延長フランジを含む、請求項1に記載の人工角膜。
【請求項8】
前記延長フランジが、前記後縁において、互いに等間隔で配置されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項9】
中心光学レンズが、少なくとも3mmの半径/直径を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項10】
前記前縁が少なくとも1mmの幅を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項11】
前記後縁が少なくとも1mmの幅を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項12】
前記中心光学レンズが、前記前縁および前記後縁の少なくとも1つと同じ材料で形成されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項13】
前記前縁が、前記中心光学レンズおよび前記後縁の少なくとも1つと同じ材料で形成されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項14】
前記後縁が、前記中心光学レンズおよび前記前縁の少なくとも1つと同じ材料で形成されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項15】
前記周辺スカートが少なくとも3mmの幅を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項16】
前記周辺スカートの少なくとも1種類の前記生体適合性ポリマーが、少なくとも1種類の多孔性生体適合性ポリマーである、請求項1~15のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項17】
前記周辺スカートの少なくとも1種類の多孔性生体適合性ポリマーが、少なくとも0.1μmの孔を有する、請求項15に記載の人工角膜。
【請求項18】
前記周辺スカートの少なくとも1種類の多孔性生体適合性ポリマーが、約0.1~10μmの範囲の孔を有する、請求項15に記載の人工角膜。
【請求項19】
前記周辺スカートの少なくとも1種類の前記生体適合性ポリマーが不織布である、請求項1~18のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項20】
前記周辺スカートの前記生体適合性ポリマーがナノファイバを含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項21】
前記ナノファイバが約200nm~4μmの範囲の直径を有する、請求項20に記載の人工角膜。
【請求項22】
前記周辺スカートの少なくとも1種類の前記生体適合性ポリマーが、電界紡糸処理によって形成される、請求項1~21のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項23】
前記周辺スカートの少なくとも1種類の前記生体適合性ポリマーが、ポリDTEカーボナート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ-L-乳酸、(DL-ラクチド-コ-カプロラクトン)コポリマー、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレンカーボナート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリカルボメチルシラン、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ヒアルロン酸、キトサン、アルギン酸塩、ポリヒドロキシブチレートおよびそのコポリマー、ナイロン11、酢酸セルロース、ヒドロキシアパタイト、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-コ-3-ヒドロキシ吉草酸)、およびポリ-DL-ラクチド、またはこれらの任意の組み合わせから選択される、請求項1に記載の人工角膜。
【請求項24】
少なくとも1種類の薬学的活性剤をさらに含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項25】
前記少なくとも1種類の薬学的活性剤が、前記周辺スカート、前記前縁、前記後縁、およびそれらの任意の組み合わせのうちの少なくとも1つに組み込まれる、請求項24に記載の人工角膜。
【請求項26】
前記少なくとも1種類の薬学的活性剤が、抗生物質、タンパク質、I型コラーゲン、フィブロネクチン、またはTGF-β2、ヘパリン、成長因子、抗体、代謝拮抗剤、化学療法剤、およびそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項24または25に記載の人工角膜。
【請求項27】
前記中心光学コアおよび前記周辺スカートが互いに機械的に取り付けられている、請求項1~26のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項28】
前記中心光学コアおよび前記周辺スカートが互いに化学的に取り付けられている、請求項1~27のいずれか一項に記載の人工角膜。
【請求項29】
人工角膜とマーキングツールとを有するキットであって、
前記人工角膜は、
(a)前面および後面を含む中心光学レンズを含む中心光学コア、ならびに、
(b)前記中心光学コアを取り巻き、少なくとも1種類の生体適合性ポリマーを含み、結膜の裏かつ眼の強膜の表に配置することができる幅を有する周辺スカートを含み、
前記中心光学コアは、前記前面から前記前面の周囲を取り囲むように延在する前縁および前記後面から前記後面の周囲を取り囲むように延在する後縁を含み、前記前縁は径方向に前記周辺スカートと前記前面の間に延在し、前記前縁は、少なくとも2つの縫合孔および少なくとも2つのアクセスポートを含み、前記後縁は、少なくとも2つの延長フランジを含み、
前記マーキングツールは、前記中心光学コアの形状をなすポリマーからなる表面を含み、前記ポリマーからなる表面は、そこから
後方に突出した隆起部を有し、前記隆起部は、前記中心光学コアの前記少なくとも2つの前記縫合孔、前記2つの前記アクセスポート、およびトレパンにより切開された縁部の位置に設けられる、キット。
【請求項30】
眼科用インクをさらに含む、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
細長いロッド部分を有するスナップツールをさらに含み、その端部が傾斜付けられている、請求項29または30に記載のキット。
【請求項32】
対象に人工角膜を移植するための外科的処置で用いる説明書をさらに含む、請求項29~31のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
角膜に関する疾患は、全世界において失明の主要な原因であり、全体的な重要度としては白内障に次ぐものである。世界保健機関によると、約200万件の新たな症例が毎年報告されている。世界中の5,000万人以上の人々が、角膜の損傷または疾患によって片眼または両眼を失明している。さらに多くの人々は、視力の低下に悩まされている。
【0002】
様々な理由から、角膜に関連する失明および疾患に対して現在講じられている解決策は、全体の症例の5%~10%にしか対応できていない。今までのところ、ほとんどの患者は角膜移植(Keratoplasty)、すなわち死者から採取した角膜組織の移植に依拠する方法で治療されている。一方、人工角膜(artificial cornea)の移植に基づく解決策は、いずれも様々な理由から角膜移植の可能性を生かし切れていない。人工角膜による解決策は、リスク、複雑さ、およびコストのために、患者が角膜移植(corneal transplant)に適していない場合、または角膜移植に失敗した場合の最後の手段として選択的に使用されている。いずれにせよ、角膜に関連する失明に対して現在講じられている解決策は、角膜移植および人工角膜に分けられる。
【0003】
角膜移植手術では、移植片が提供された組織の生着率およびレシピエントの健康状態に対して影響を及ぼす恐れのある既知の疾患、またはその他の要因を有していない、ごく最近死亡したドナーから採取される。角膜移植の欠点としては、ドナー組織の不足、角膜バンク運営の複雑さおよびコスト、ならびに、いくつかの症例にしか適合しない限られた適合性などが挙げられる。例えば、角膜移植は、血管新生(角膜組織への血管の侵入)を引き起こす角膜疾患および損傷には適していない。複数回の移植もまた、拒絶反応/失敗のリスクを上昇させる。
【0004】
人工角膜を用いる場合、その方法は人工角膜移植として知られている。従来、人工角膜移植は、ドナーによる角膜移植が1回以上失敗した場合に推奨されてきた。様々な種類の人工角膜の限定的な使用が、FDAにより承認されている(非特許文献1参照)。その一方で、今日の市場において実行可能な解決策は、ボストンKProのみである。また、角膜移植で対処できない場合に限り、ボストンKProの使用がFDAによって承認されている。これは、ボストンKProには多くの合併症が伴う可能性があることや、ボストンKProに精通した眼科医による密接かつ生涯にわたるモニタリングの必要性があることに起因している。KPro法を受けた全ての患者の眼の炎症を防ぐためには、酢酸プレドニゾロンなどのステロイド外用薬が生涯にわたって必要となる。
【0005】
既知の人工角膜の選択肢には、複数の不利益もしくは欠点を伴い、それらには、主に前房の生理機能へ器具が侵襲した結果として生じる多様な術後合併症を含む。例えば、多くの患者(60%~75%)が眼圧上昇による緑内障を発症するが、眼圧上昇による緑内障は、失明、視野狭窄、白内障の原因となる。さらに、既知の人工角膜はバイオインテグレーションが不十分であるため、毎日の抗生物質の点滴、生涯にわたって行うステロイド外用薬による治療、および、生涯にわたって行う眼科医の徹底したフォローアップが必要となる。
【0006】
既知の人工角膜の移植後、白内障手術や網膜の手術などの外科的処置を行うための眼の内部へのアクセスは、非常に限定される。そのため、主要な角膜手術は、緑内障濾過デバイスの移植、および白内障手術(水晶体を合成眼内レンズに交換するもの)などを含む他の処置と組み合わせて行われることが多く、それにより、処置時間が長くなり、危険性や費用も高くなる。
【0007】
国際公開第2016/199139号は、中心光学コア、および少なくとも1つの多孔質生体適合性層を含む周辺スカートを含む角膜プロテーゼアセンブリ、ならびに、角膜プロテーゼアセンブリを角膜プロテーゼ処置に用いる方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2002/049535号
【文献】国際公開第2002/049536号
【文献】国際公開第2002/049678号
【文献】国際公開第2002/074189号
【文献】国際公開第2002/074190号
【文献】国際公開第2002/074191号
【文献】国際公開第2005/032400号
【文献】国際公開第2005/065578号
【文献】米国特許第3737508号明細書
【文献】米国特許第3950478号明細書
【文献】米国特許第3996321号明細書
【文献】米国特許第4189336号明細書
【文献】米国特許第4402900号明細書
【文献】米国特許第4421707号明細書
【文献】米国特許第4431602号明細書
【文献】米国特許第4557732号明細書
【文献】米国特許第4643657号明細書
【文献】米国特許第4804511号明細書
【文献】米国特許第5002474号明細書
【文献】米国特許第5122329号明細書
【文献】米国特許第5387387号明細書
【文献】米国特許第5667743号明細書
【文献】米国特許第6248273号明細書
【文献】米国特許第6252031号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】A review of recent advances in the field of keratoprosthesis, Salvador-Culla et al. Journal of Functional Biomaterial. 2016, 7, 13.
【文献】Electrospinning, J. Stanger, N. Tucker, and M. Staiger, I-Smithers Rapra publishing (UK).
【文献】An introduction to Electrospinning and Nanofibers, S. Ramakrishna, K. Fujihara, W-E Teo, World Scientific Publishing Co. Re Ltd (Jun 2005).
【文献】Electrospinning of micro- and nanofibers: fundamentals and applications in separation and filtration processes, Y. Fillatov, A. Budyka, and V. Kirichenko (Trans. D. Letterman), Begell House Inc., New York, USA, 2007.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(a)前面および後面を有する中心光学レンズを含む中心光学コアと、(b)少なくとも1種類の生体適合性ポリマーを含み、結膜の裏(下)および眼の強膜の表(上)に配置可能な幅を有する、中心光学コアを取り巻く周辺スカートを含む人工角膜を提供する。ここで、中心光学コアは、前面から半径方向に(すなわち、周囲を取り囲むように)延在する前縁、および後面から半径方向に(すなわち、周囲を取り囲むように)延在する後縁を含む。ここで、前縁は、少なくとも2つの縫合孔および少なくとも2つのアクセスポートを含む。また、後縁は、少なくとも2つの延長フランジを含む。
【0011】
「人工角膜」という用語は、それを必要とする対象の罹患した角膜を置き換えるときの人工角膜処置で用いられる人工角膜を包含することを理解されたい。「人工角膜(keratoprosthesis)アセンブリ」、「人工角膜(artificial cornea)」および「人工角膜(artificial cornea)アセンブリ」という用語は、本明細書において互換的に使用される。したがって、本発明の人工角膜は、前房を覆う用途や、その他の用途に用いられ、本発明の人工角膜の中心に位置する中心光学コアと、中心光学コアの周りに位置し、結膜-テノン複合体の裏の前側の強膜を横切る周辺スカートを含む。
【0012】
本発明の人工角膜の「中心光学コア」という用語は、眼(トレパンにより切開された後の罹患した角膜)の前房を覆う人工角膜の中心光学レンズを含むアセンブリの中央部分を提供する。中心光学レンズは、前面(レンズの上端部を形成する表面)および後面(レンズの下部を形成する裏面)を有する。
【0013】
実施形態によっては、中心光学レンズは、可撓性ポリマーから形成される。他の実施形態では、中心光学レンズは、剛性ポリマーから形成される。実施形態によっては、中心光学レンズは、対象の必要性に応じて屈折力が変化するアクリルの透明ポリマーから作製される。
【0014】
実施形態によっては、中心光学レンズは、アクリル、ケイ酸塩、または他の透明で耐久性のあるポリマー、およびそれらの任意の組み合わせから形成される。
【0015】
中心光学レンズは、必要に応じて、付着物を退ける外層をさらに含む。この外層は、コンタクトレンズと同様のシリコーンヒドロゲルから形成されていてもよい。
【0016】
実施形態によっては、中心光学レンズは、約3~約15mmの範囲の直径を有する。他の実施形態では、中心光学レンズは、少なくとも3mmの直径を有する。他の実施形態では、中心光学レンズは、少なくとも5mmの直径を有する。他の実施形態では、中心光学レンズは、少なくとも7mmの直径を有する。他の実施形態では、中心光学レンズは、約3mm~約6mmの範囲の直径を有する。更なる実施形態では、中心光学レンズは、6mm~14mmの範囲の直径を有する。
【0017】
更なる実施形態では、中心光学レンズは、約500μm~3000μmの範囲の厚さを有する。他の実施形態では、中心光学レンズは、約500μm~2500μmの範囲の厚さを有する。更なる実施形態では、中心光学レンズは、約500μm~1500μmの範囲の厚さを有する。
【0018】
他の実施形態では、中心光学レンズは、約10m-1~約70m-1(10Dptr~70Dptr)の範囲の屈折力を有する。
【0019】
本発明の人工角膜の中心光学コアは、中心光学レンズの前面から半径方向に延在し、中心光学レンズの周囲を取り巻く前縁と、中心光学レンズの後面から半径方向に裏(下)へ/下方で延在し、中心光学レンズの周囲を取り巻く後縁と、をさらに含む。
【0020】
前縁は、少なくとも2つの縫合孔(すなわち、外科用縫合糸を用いて、本発明の人工角膜を対象の眼に縫合するために使用される、縁部に設けられた開口)および少なくとも2つのアクセスポート(すなわち、本発明の人工角膜の裏(下)で治療されている眼の部位にアクセスするために、例えば、外科的移植処置中に使用される縁部から孔またはアーチを切り出したものである。また、アクセスポートにより、本発明の人工角膜の移植後、対象の眼で術後処置を行うことが可能となる)。
【0021】
実施形態によっては、前縁は、中心光学レンズの前面から半径方向に延在し、中心光学レンズの周囲を取り囲む近位ゾーンを含み、近位ゾーンは、透明/クリアな材料(例えば、近位ゾーンが取り囲む中心光学レンズの材料)から形成され、かつ、コヒーレントで均質であり、近位ゾーンからおよびその周囲に延在する遠位ゾーンは、少なくとも2つの縫合孔および少なくとも2つのアクセスポートを含む。前縁の透明/クリアな近位ゾーンは、本発明の人工角膜の移植時に、外科医が本発明の人工角膜を、トレパンにより切開された角膜を適切に配置することができるように補助する。さらに、本発明の人工角膜のこの部位は、デバイスが移植された後に外部から見える部位であり、これにより、人工角膜が移植されているにもかかわらず、健康な通常の眼と同様に見えるという審美的特徴を提供する。いくつかの更なる実施形態では、遠位ゾーンは、近位ゾーンと同様の材料から形成されている。他の実施形態では、遠位ゾーンは、近位ゾーンとは異なる材料から形成される。実施形態によっては、前縁は、少なくとも3つの縫合孔を含む。他の実施形態では、前縁は、少なくとも4つの縫合孔を含む。他の実施形態では、前縁は、少なくとも6つの縫合孔を含む。更なる実施形態では、前縁は、少なくとも2組の縫合孔を含む。更なる実施形態では、前縁は、少なくとも3組の縫合孔を含む。
【0022】
実施形態によっては、縫合孔は、前縁において互いに所定の間隔を空けて配置されている。実施形態によっては、縫合孔の各組は、前縁において互いに所定の間隔を空けて配置されている。
【0023】
実施形態によっては、前縁は、少なくとも3つのアクセスポートを含む。実施形態によっては、前縁は、少なくとも4つのアクセスポートを含む。実施形態によっては、前縁は、少なくとも6つのアクセスポートを含む。実施形態によっては、前縁は、3、4、5、6、7、8、9、10または15個のアクセスポートを含む。
【0024】
更なる実施形態では、アクセスポートは、前縁において互いに所定の間隔を空けて配置されている。
【0025】
実施形態によっては、前縁は、少なくとも1種類の生体適合性ポリマーをさらに含む。前縁(実施形態によっては、縁部に形成された開口)に位置する生体適合性ポリマーは、前縁および眼の組織の生体同化(bio-assimilation)を可能にする。
【0026】
実施形態によっては、前縁は、少なくとも1mmの幅を有する。実施形態によっては、前縁は、少なくとも2mmの幅を有する。実施形態によっては、前縁は、少なくとも3mmの幅を有する。実施形態によっては、前縁は、少なくとも5mmの幅を有する。前縁の幅とは、縁部の前面との接触点と、湾曲部に続く縁部の最も遠い点との間の距離を指すことを理解されたい。
【0027】
後縁は、中心光学レンズの表面から半径方向に、かつ、中心光学レンズの表面の下方へ延在し、それぞれが縁部下方に延在する少なくとも2つの延長フランジを含む。後縁により、中心光学コアを、必要とする対象のトレパンにより切開された角膜に、レシピエントの角膜を横切るように配置することができる。縁部から下方に延在する少なくとも2つのフランジは、本発明の人工角膜をトレパンにより切開された角膜に保持させるように固定し、処置中または処置後に、トレパンにより切開された角膜が動いたり、突然強く押し出されたり、または押し出されたりしないようにする。実施形態によっては、後縁は、少なくとも3つの延長フランジを含む。実施形態によっては、後縁は、少なくとも4つの延長フランジを含む。実施形態によっては、後縁は、少なくとも5つの延長フランジを含む。実施形態によっては、後縁は、少なくとも6つの延長フランジを含む。実施形態によっては、後縁は、2、3、4、5、6、7、8、9、10または15個の延長フランジを含む。
【0028】
実施形態によっては、延長フランジは、後縁において互いに所定の間隔を空けて配置されている。
【0029】
他の実施形態では、後縁は少なくとも1mmの幅(すなわち、中心光学レンズの表面から半径方向に延在し、フランジを除いて中心光学レンズの表面の下方に延在する半径方向の縁部を形成する部分)を有する。他の実施形態では、後縁は少なくとも2mmの幅を有する。他の実施形態では、後縁は少なくとも3mmの幅を有する。他の実施形態では、後縁は少なくとも4mmの幅を有する。他の実施形態では、後縁は少なくとも5mmの幅を有する。他の実施形態では、後縁は少なくとも6mmの幅を有する。他の実施形態では、後縁は少なくとも7mmの幅を有する。他の実施形態では、後縁は少なくとも8mmの幅を有する。他の実施形態では、後縁は少なくとも9mmの幅を有する。他の実施形態では、後縁は、1mm、2mm、3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、または9mmの幅を有する。後縁の幅とは、縁部の後面との接触点と、湾曲部に続く縁部の最も遠い点との間の距離を指すことを理解されたい。
【0030】
実施形態によっては、前縁は、中心光学レンズおよび後縁の少なくとも1つと同じ材料から作製される。他の実施形態では、後縁は、中心光学レンズおよび前縁の少なくとも1つと同じ材料から作製される。いくつかの他の実施形態では、中心光学コアの要素、すなわち、中心光学レンズ、前縁および後縁は、全て同じ材料から作製される。いくつかの他の実施形態では、中心光学コアの要素、すなわち、中心光学レンズ、前縁および後縁は、全て異なる材料から作製される。
【0031】
「周辺スカート」という用語は、本発明の人工角膜アセンブリの中心光学コアの全ての周囲を実質的に半径方向に取り囲み、中心光学レンズの前面から延在する本発明の人工角膜の一部を含むことを理解されたい。周辺スカートは、本明細書の上記および下記に定義される少なくとも1つの生体適合性層を含む。
【0032】
実施形態によっては、周辺スカートは、眼の結膜に向かって延在している。更なる実施形態では、周辺スカートは、眼の結膜の裏(下)に配置することを可能にするように形成される。周辺スカートを結膜の裏(下)に配置する手順は、結膜を角膜縁の固定部から切り離し(この処置はペリトミーと呼ばれる)、次いで、周辺スカートを収容するスペースを作り出すべく結膜を持ち上げた後に行う。
【0033】
実施形態によっては、周辺スカートは、少なくとも3mmの幅を有する。他の実施形態では、周辺スカートは、3mm~9mmの範囲の幅を有する。更なる実施形態では、周辺スカートは、約4mm~約6mmの範囲の幅を有する。
【0034】
実施形態によっては、周辺スカートは、約100μm~約2,000μmの範囲の厚さを有する。
【0035】
実施形態によっては、周辺スカートの少なくとも1種類の生体適合性ポリマーは、少なくとも1種類の多孔性生体適合性ポリマーである。
【0036】
実施形態によっては、周辺スカートの少なくとも1種類の多孔性生体適合性ポリマーは、少なくとも0.1μmの孔を有する。実施形態によっては、周辺スカートの少なくとも1種類の多孔性生体適合性ポリマーは、約0.1μm~10μmの範囲の孔を有する。実施形態によっては、周辺スカートの少なくとも1種類の多孔性生体適合性ポリマーは、約0.1μm、0.2μm、0.3μm、0.4μm、0.5μm、0.6μm、0.7μm、0.8μm、0.9μm、1.0μm、1.5μm、2.0μm、2.5μm、3.0μm、3.5μm、4.0μm、4.5μm、5.0μm、5.5μm、6.0μm、6.5μm、7.0μm、7.5μm、8.0μm、8.5μm、9.0μm、9.5μm、または10.0μmの孔を有する。実施形態によっては、周辺スカートの外面に更なる孔が形成され、更なる孔のサイズは、約0.1μm~10μmの範囲である。実施形態によっては、更なる孔が、周辺スカートの外面に形成され、更なる孔のサイズは、約0.1μm、0.2μm、0.3μm、0.4μm、0.5μm、0.6μm、0.7μm、0.8μm、0.9μm、1.0μm、1.5μm、2.0μm、2.5μm、3.0μm、3.5μm、4.0μm、4.5μm、5.0μm、5.5μm、6.0μm、6.5μm、7.0μm、7.5μm、8.0μm、8.5μm、9.0μm、9.5μm、10.0μmである。実施形態によっては、更なる孔は、所定の設計パターンを有する。
【0037】
更なる実施形態では、周辺スカートの少なくとも1種類の生体適合性ポリマーは、不織布である。
【0038】
更なる実施形態では、周辺スカートの生体適合性ポリマーは、ナノファイバを含む。実施形態によっては、ナノファイバは、約200nm~4μmの間の直径を有する。実施形態によっては、ナノファイバは、約500nm~2μmの間の直径を有する。
【0039】
実施形態によっては、周辺スカートの少なくとも1種類の生体適合性ポリマーは、ドローイング、電界紡糸、自己組織化、テンプレート合成、および熱誘起相分離、ならびにそれらの任意の組み合わせから選択される少なくとも1つのプロセスによって形成される。実施形態によっては、周辺スカートの少なくとも1種類の生体適合性ポリマーは、電界紡糸プロセスによって形成される。
【0040】
更なる実施形態では、周辺スカートの少なくとも1種類の生体適合性ポリマーは、ポリ(DTEカーボナート)ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ-L-乳酸(PLLA)、ポリ(DL-ラクチド-コ-カプロラクトン)、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)酢酸ビニル、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(プロピレンカーボナート)、ポリ(ビニリデンフルオライド)、ポリアクリロニトリル、ポリカプロラクトン、ポリカルボメチルシラン、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ヒアルロン酸(HA)、キトサン、アルギン酸塩、ポリヒドロキシブチレートおよびそのコポリマー、ナイロン11、セルロースアセテート、ヒドロキシアパタイト、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-コ-3-ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(DL-ラクチド)、ポリカプロラクトン、および、ポリ(L-ラクチド)、またはこれらの任意の組み合わせから選択される。
【0041】
「多孔質生体適合性層」という用語は、医学療法(すなわち、人工角膜)に関して、所望の機能を果たす能力を有する材料から形成されたあらゆる種類の層(またはフィルム)を包含し、その療法のレシピエントまたは受益者において、望ましくない局所的または全身的な作用を誘発することなく、その特定の状況において最も適切で有益な細胞または組織応答を生成し、その療法の臨床的に関連する性能を最適化するものと理解されたい。本発明のアセンブリの周辺スカートの生体適合性層は、移植された人工角膜が、有害な変化を引き起こすことなく、接触している組織と調和して存在することができる。この層は多孔性であり、少なくとも約0.1μmのサイズの孔を有する(孔サイズについては、平均孔サイズに関すると理解されたい)。
【0042】
実施形態によっては、多孔質生体適合性層は、少なくとも約2μmの孔サイズを有する繊維状の多孔質生体適合性層(すなわち、層またはフィルムが繊維で形成される)である。
【0043】
実施形態によっては、少なくとも1つの多孔性生体適合性層は、幅が約2μm~約100μmの範囲である孔を有する。
【0044】
他の実施形態では、少なくとも1つの多孔性生体適合性層はポリマー層である。したがって、この実施形態では、周辺スカートの層またはフィルムは、少なくとも1種類のポリマー材料で作製される。
【0045】
他の実施形態では、少なくとも1つの多孔性生体適合性層は不織布である。したがって、この実施形態では、周辺スカートの層またはフィルムは、化学的、機械的、熱または溶剤による処理によって互いに結合された長繊維から作製された布のような材料である。
【0046】
更なる実施形態において、多孔性生体適合性層は、ナノファイバを含む。したがって、この実施形態では、周辺スカートは、2000ナノメートル未満の直径を有する繊維から形成される。実施形態によっては、ナノファイバは、以下に限定されないが、溶融加工、界面重合、電界紡糸、アンチソルベントによって誘発されたポリマー沈殿、静電紡糸、触媒合成、およびそれらの任意の組み合わせを含む任意の種類のプロセスによって製造される。
【0047】
更なる実施形態において、少なくとも1つの多孔質生体適合性層は、ポリDTEカーボナート(ポリ-デアミノチロシルチロシンエチルエステルカーボナート)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ-L-乳酸(PLLA、またはポリ-L-ラクチド)、(DL-ラクチド-コ-カプロラクトン)コポリマー、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレンカーボナート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリカプロラクトン、ポリカルボメチルシラン、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ヒアルロン酸(HA)、キトサン、アルギン酸塩、ポリヒドロキシブチレートおよびそのコポリマー、ナイロン11、酢酸セルロース、ヒドロキシアパタイト、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-コ-3-ヒドロキシ吉草酸)、およびポリ-DL-ラクチド、またはこれらの任意の組み合わせを含む。
【0048】
更なる実施形態によっては、多孔性生体適合性層は、電界紡糸ナノファイバを含む。別の実施形態では、少なくとも1つの多孔性生体適合性層は、電界紡糸プロセスによって形成される。
【0049】
「電界紡糸」もしくは「電界紡糸された」という用語、またはその用語の言語的なばらつきは、電荷を利用して液体から非常に細い(一般的に、ミクロまたはナノスケールの)繊維を引き出すプロセスを包含することを理解されたい。溶融前駆体からの電界紡糸も実施され、この方法は、溶媒が最終生成物に持ち越されないことを確実にする。電界紡糸プロセスを使用して製造された繊維は、表面積対体積比が増加する。電界紡糸された繊維に影響を及ぼすことが知られている様々な要因には、これらには限定されないが、溶液粘度、表面張力、電界強度、および距離が含まれる。
【0050】
一般的な電界紡糸プロセスでは、ポリマー材料(ポリマー溶液、そのモノマー前駆体、ゾル-ゲル前駆体、微粒子懸濁液または溶融物)の液滴に対して十分に高い電圧を印加することにより、液体の本体が帯電し、静電反発力が表面張力に反作用して液滴が引き伸ばされ、臨界点において表面から液体の流れが噴出する。液体の分子凝集力が十分に高い場合には、流れの分断は起こらず(液滴がエレクトロスプレーされる場合には起こる)、帯電した液体ジェットが形成される。飛行中にジェットが乾燥すると、電荷が繊維の表面に移動するため、電流の形態はオーム電流から対流に変わる。その後、ジェットは、接地されたコレクタ上に最終的に堆積するまで、繊維の小さな曲がり角で発生する静電反発によるウィッピングプロセスによって伸長する。この曲げ不安定性から生じる繊維の伸長および薄化により、ナノメートルスケールの直径を有する均一な繊維が形成される。
【0051】
電界紡糸プロセスに適用可能な生体適合性ポリマーとしては、これらに限定されないが、ポリDTEカーボナート、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ-L-乳酸(PLLA)、(DL-ラクチド-コ-カプロラクトン)コポリマー、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレンカーボナート、ポリフッ化ビニリデンポリアクリロニトリル、ポリカプロラクトン、ポリカルボメチルシラン、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ヒアルロン酸(HA)、キトサン、アルギン酸塩、ポリヒドロキシブチレートおよびそのコポリマー、ナイロン11、酢酸セルロース、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの任意の組み合わせを含む。生分解性ポリマーおよび生体適合性ポリマーには、これらに限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-コ-3-ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(DL-ラクチド)、ポリウレタン、ポリカプロラクトン、およびポリ(L-ラクチド)、またはこれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0052】
電界紡糸された繊維は、通常、従来の紡糸技術によって製造された繊維よりも数桁小さい。i)溶媒の極性や表面張力、ポリマー鎖の分子量や構造、溶液の粘性、弾性、電気伝導度などの溶液固有の性質、および、ii)電場の強さ、紡糸口金とコレクタとの距離、および溶液の供給速度などの操作条件などのパラメータを最適化することにより、直径が数十ナノメートルの細い繊維を生成することができる。電界紡糸繊維の特性に影響を与えるその他のパラメータとしては、ポリマーの分子量、分子量分布、および構造(分岐、直鎖など)、溶液特性(粘度、導電率、および表面張力)、電位、流量および濃度、キャピラリと収集スクリーンとの距離、周囲パラメータ(チャンバ内の温度、湿度、および風速)、ターゲットスクリーン(コレクタ)の動きなどが含まれる。高い多孔性を有する繊維の製造は、ジェットを低温液体中に直接電界紡糸することにより達成することができる。ポリマーと溶媒との間の温度誘発による相分離、および凍結乾燥条件下での溶媒の蒸発の結果として、各繊維の表面上に明確な孔が形成される。
【0053】
電界紡糸された繊維を整列したアレイに組織化するためのいくつかのアプローチが開発されている。例えば、単一ピースのコレクタを、ボイドギャップによって分離された一対の導電性基板に置き換えることにより、電界紡糸繊維を一軸アレイに整列させることができる。この場合、ナノファイバは、電極の縁に垂直に配向されたギャップを横切って延在する傾向がある。また、一対の電極をクォーツまたはポリスチレンなどの絶縁性基板上にパターニングすることにより、一軸に配列された繊維を層ごとに3次元格子状に積み重ねることができることも示された。また、電極パターンおよび/または高電圧印加のシーケンスを制御することによって、より整列したナノファイバを含むより複雑な構造を生成することも可能である。
【0054】
電界紡糸されたナノファイバを様々なオブジェクトに直接堆積させることにより、明確かつ制御可能な形状を有するナノファイバベースの構造を得ることもできる。さらに、電界紡糸後、整列した、またはランダムに配向したナノファイバの膜を手作業で様々な種類の構造に加工することもできる。例えば、繊維状の膜を巻き上げることによるチューブの作製、繊維状の膜を打ち抜くことにより直径が調節可能なディスクの調製などが可能である。
【0055】
本発明は、非特許文献2~4を含む、当該技術分野で公知の任意の電界紡糸技術に関するものであり、それらの全ては、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0056】
適切な電界紡糸技術は、例えば特許文献1~8に開示されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。本発明の現在の好ましい実施形態によれば、電界紡糸技術に特に重点を置いて記載しているが、本発明の範囲を電界紡糸技術に限定することを意図するものではないことを理解されたい。本実施形態に適した他の紡糸技術の代表的な例としては、これらに限定されないが、湿式紡糸技術、乾式紡糸技術、ゲル紡糸技術、分散紡糸技術、反応紡糸技術、またはタック紡糸技術が挙げられる。そのような紡糸技術および他の紡糸技術は当技術分野で公知であり、例えば、特許文献9~24に記載され、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0057】
実施形態によっては、本発明の人工角膜は、少なくとも1つの薬学的活性剤をさらに含む。
【0058】
他の実施形態では、少なくとも1つの薬学的活性剤は、周辺スカート、前縁、後縁、およびそれらの任意の組み合わせのうちの少なくとも1つに組み込まれる。
【0059】
実施形態によっては、少なくとも1つの薬学的活性剤は、抗生物質、タンパク質、I型コラーゲン、フィブロネクチン、またはTGF-β2、ヘパリン、成長因子、抗体、代謝拮抗剤、化学療法剤、およびそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0060】
実施形態によっては、中心光学コアおよび周辺スカートは、互いに物理的に取り付けられている(例えば、それらを接続する層のストリップまたは縫合糸など、中心光学コアを周辺スカートに取り付けるための物理的手段を用いて)。他の実施形態では、中心光学コアおよび周辺スカートは、互いに化学的に取り付けられている(例えば、任意の接着部材または接続部材を用いて、熱または圧力などを用いて中心光学コアおよび周辺スカートを互いに融合させる)。
【0061】
本発明はさらに、以下を含むキットを提供する。キットは、以下の(a)および(b)を含む人工角膜を含む。(a)前面および後面を有する中心光学レンズを含む中心光学コア(b)中心光学コアの周囲に設けられた周辺スカートであって、少なくとも1種類の生体適合性ポリマーを含み、眼の結膜の裏(下)および強膜の表(上)に配置可能な幅を有している。また、中心光学コアが、前面から半径方向に延在する前縁、および、後面から半径方向および後面の裏(下)に延在する後縁を備えており、前縁が、少なくとも2つの縫合孔および少なくとも2つのアクセスポートを有し、後縁が、少なくとも2つの延長フランジを有している。また、中心光学コアの形状をなすポリマーからなる表面を有し、少なくとも2つの縫合孔、中心光学コアの少なくとも2つのアクセスポート、および、トレパンにより切開された縁部に配置された、ポリマーからなる表面の下方から突出する隆起部を有するマーキングツールを有する。実施形態によっては、本発明のキットは、上述したように、ポリマーからなる表面の下方から突出する隆起部に堆積された眼科用インクをさらに含む。他の実施形態では、本発明のキットは、細長いロッド部を有するスナップツールをさらに含み、その端部は角度付けられている。スナップツールは、外科手術を行う外科医が、本発明の人工角膜を、対象のトレパンにより切開された角膜に配置して装着することを可能にする。実施形態によっては、本発明のキットは、対象に人工角膜を移植するための外科的処置で用いる説明書をさらに含む。
【0062】
角膜の疾患部分がトレパンによる切開により除去された後、中心光学コアが透明であるため、外科手術を行う外科医は、本発明のキットで用いられるマーキングツールにより、眼球表面のどこに縫合孔があるかを正確に知ることができる。それにより、外科医は、移植する本発明の人工角膜の縫合孔の正確な位置に縫合糸を挿入することが非常に容易となる。さらに、アクセスポートをマーキングすることで、外科的処置を行う外科医は、眼やアセンブリに外傷や破裂を引き起こすことなく、移植する本発明の人工角膜の裏(下)の眼の前房にアクセスすることが可能な場所を明確に知り、見ることができる。トレパンにより切開された縁部のマーキングにより、外科医は、本発明の人工角膜の中心光学コアの位置および大きさに合わせてトレパンによる切開用ツールを正確に配置することができ、本発明のアセンブリを正確に適合させることができる。
【0063】
本発明はさらに、人工角膜を必要とする対象に移植するための外科的手順を提供し、該手順は、以下のステップを含む。(1)本明細書に開示されるキットを準備する。(2)対象の眼に360度の角膜周囲切開を行う。(3)上皮デブリードマンを行う。(3)角膜の中心を外科用マーカーでマークする。(4)キットのマーキングツールを用いて、角膜の中心のマークを参照することにより、対象の眼に縫合孔とアクセスポートをマーキングする。(5)マーキングされた縫合孔に、角膜固定用の縫合糸をあらかじめ配置しておく。(6)麻酔薬および/またはエピネフリン、および/または眼科用粘弾性物質(OVD)の前房内(前眼内)注射(これにより、一度開いた眼球を固定し、手術中は安全な閉鎖室を形成する)。(7)角膜中央部の疾患部分にトレパンによる切開を行い、切除する。(8)眼球内で行った縫合を、本発明の人工角膜の縫合孔に結びつけて、本発明の人工角膜を接近させる(これにより、人工角膜を眼球表面に装着することが可能となる)。(9)緩衝塩類溶液(BSS)によるOVDの交換(これにより前眼に生理的液体が補充される)。(10)人工角膜の周辺スカートと縁部を覆う結膜を互いに縫合(分解性の縫合糸を用いる)し、必要に応じて結膜の裏(下)にフィブリンを配置する。このステップにより、手順の完了時に眼と眼の表面を密封する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
本発明とみなされる主題は、明細書の結論部分で特に指摘され、明確に主張されている。一方で、本発明は、その目的、特徴、および利点とともに、組織および操作方法の両方について、以下の詳細な説明を参照し、添付の図面と併せて読むことにより、最もよく理解されるであろう。
【0065】
【
図1】本発明の人工角膜の中心光学コアの底面図(開かれたデバイスの後部)である。
【
図2】本発明の人工角膜の中心光学コアの底面図(開かれたデバイスの後部)である。
【
図3】本発明の人工角膜の中心光学コアの上面図(デバイスの前部)である。
【
図5A】本発明の人工角膜の中心光学コアの断面図である。
【
図5B】本発明の人工角膜の中心光学コアの断面図(
図5A)の詳細を示す図である。
【
図6】移植から26週間後のNZWウサギについて、移植された本発明の人工角膜の臨床評価の結果を示している。
【
図7A】本発明の人工角膜を移植されたNSWウサギの組織処理および組織学を示す図である。移植された眼はSPURRブロックに埋め込まれている。各ブロックは、眼の中心を通して矢状に二分され、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)およびマッソントリクローム(MT)で染色された。
【
図7B】本発明の人工角膜を移植されたNSWウサギの組織処理および組織学を示す図である。移植された眼はSPURRブロックに埋め込まれている。各ブロックは、眼の中心を通して矢状に二分され、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)およびマッソントリクローム(MT)で染色された。
【
図7C】本発明の人工角膜を移植されたNSWウサギの組織処理および組織学を示す図である。移植された眼はSPURRブロックに埋め込まれている。各ブロックは、眼の中心を通して矢状に二分され、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)およびマッソントリクローム(MT)で染色された。
【
図7D】本発明の人工角膜を移植されたNSWウサギの組織処理および組織学を示す図である。移植された眼はSPURRブロックに埋め込まれている。各ブロックは、眼の中心を通して矢状に二分され、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)およびマッソントリクローム(MT)で染色された。
【
図8A】本発明の人工角膜およびキットを用いた本発明の角膜移植の外科的処置を示す。
【
図8B】本発明の人工角膜およびキットを用いた本発明の角膜移植の外科的処置を示す。
【
図8C】本発明の人工角膜およびキットを用いた本発明の角膜移植の外科的処置を示す。
【
図8D】本発明の人工角膜およびキットを用いた本発明の角膜移植の外科的処置を示す。
【
図8E】本発明の人工角膜およびキットを用いた本発明の角膜移植の外科的処置を示す。
【
図8F】本発明の人工角膜およびキットを用いた本発明の角膜移植の外科的処置を示す。
【
図8G】本発明の人工角膜およびキットを用いた本発明の角膜移植の外科的処置を示す。
【
図8H】本発明の人工角膜およびキットを用いた本発明の角膜移植の外科的処置を示す。
【
図8I】本発明の人工角膜およびキットを用いた本発明の角膜移植の外科的処置を示す。
【
図8J】本発明の人工角膜およびキットを用いた本発明の角膜移植の外科的処置を示す。
【0066】
図を簡単かつ明確にするために、図に示されている要素は必ずしも縮尺通りに描かれていないことを理解されたい。例えば、いくつかの要素の寸法は、明確にするために他の要素と比較して誇張されている場合がある。さらに、適切と思われる場合には、対応するまたは類似の要素を示すために、図の間で参照数字を繰り返されることがある。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下の詳細な説明では、本発明を十分に理解するための、多数の具体的な内容を示している。しかし、当業者であれば、これらの具体的な内容がなくても、本発明が実施可能であることを理解できるであろう。他の例では、本発明を不明瞭にしないために、既知の方法、手順、および構成要素を詳細に示していない。
【0068】
図1は、本発明の人工角膜(100)の光学的中心コアの底面図(本発明のデバイスを後方開放部から見た図)を示しており、中心光学レンズ(101)と、中心光学レンズ(101)から(その前面から)周囲に延在する前縁(102)とを示している。前縁(102)には、縫合孔(103)およびアクセスポート(104)が示されている。さらに、中心光学レンズ(101)の下方および周囲に(その後面から)延在する後縁(105)と、後縁から延在するフランジ(106)が示されている。この図は、アクセスポートのマーキング(107)も示している。
【0069】
図2は、本発明の人工角膜(200)の光学的中心コアの底面図(本発明のデバイスを後部開放部から見た図)を示しており、中心光学レンズ(201)と、中心光学レンズ(201)から(その前面から)周囲に延在する前縁(202)とを示している。前縁(202)には、縫合孔(203)およびアクセスポート(204)が示されている。さらに、中心光学レンズ(201)の下方および周囲に(その後面から)延在する後縁(205)と、後縁から延在するフランジ(206)が示されている。この図は、アクセスポートのマーキング(207)も示している。
【0070】
図3は、本発明の人工角膜(300)の中心光学コアの上面図(本発明のデバイスを前側から見た図)であり、中心光学レンズ(301)と、中心光学レンズ(301)から(その前面部から)周囲に延在する前縁(302)とを示している。前縁(302)には、縫合孔(303)およびアクセスポート(304)が示されている。さらに、中心光学レンズ(301)の下方および周囲に(その後面から)延在する後縁(305)と、後縁(305)から延在するフランジ(306)が示されている。この図は、アクセスポート(307)のマーキングも示している。
【0071】
図4は、本発明の人工角膜(400)を示しており、中心光学コア(前縁の遠位ゾーンに配置された)を取り巻く周辺スカート(401)を示している。この図はまた、後縁(403)が後面の周囲および下方に延在する中心光学レンズ(402)を示している。後縁(403)にはフランジ(405)が示されている。この図はまた、中心光学レンズ(402)の周囲および中心光学レンズ(402)から延在する前縁の近位ゾーン(406)および遠位ゾーン(404)を示している。
【0072】
図5Aは、中心光学レンズ(501)の前面および中心光学レンズ(501)の後面を示す、本発明の人工角膜(500)の中心光学コアの断面図である。この図は中心光学レンズ(501)の前面から延在する前縁(503)の幅と、中心光学レンズ(501)の後面から下方に延在する後縁(504)の幅と、フランジ(505)を断面で示している。前縁(503)および後縁(504)の間に形成された空間は、トレパンにより切開された角膜の縁部を収容することができるため、対象の眼にデバイスをしっかりと保持することができ、縫合によって眼内での器具の安定性を強化する。
【0073】
図5Bは、
図5Aの本発明の人工角膜の中心光学コアの断面の詳細を示しており、後縁の幅(506)およびフランジ(507)を示している。
【0074】
実施例1 本発明の人工角膜のNZWウサギにおけるイン・ビボ(生体内)試験
【0075】
本発明の人工角膜を8羽のウサギの片側の眼に移植し、6ヶ月間追跡調査した。完了時には、炎症性拒絶反応を伴わない進行性の統合が記録された。
【0076】
方法
【0077】
本発明の人工角膜を8羽の雄のNZWウサギの片側の眼に移植し、一方の眼は未処理の対照とした。これらは、すべてGood Laboratory Practiceガイドラインに基づいて実施した。安全性を評価するために、8羽の動物を6か月間臨床的に観察し、その間、細隙灯生体顕微鏡によって眼を繰り返し観察した。終了時には眼球を摘出し、組織学的に評価する。
【0078】
結果
【0079】
臨床的証拠として、炎症反応の統合と停止の進行を示している。眼球はすべて無傷であり、明らかな破損や房水の漏れはなかった。動物達は、移植された眼を日常的に使用している。動物の中には、医原性(外科的処置によって引き起こされた)白内障を発症するものもいた。
図6は、本発明の人工角膜を移植したNZWウサギの移植から26週間の臨床評価結果を、結膜の炎症反応、前房(AC)反応、結膜および虹彩の充血の観点から示したものである。組織学的データとスライドにより、デバイスの眼球壁とのシームレスかつ耐久性のある組織統合が証明された(
図7A~7D)。炎症反応が少なく、徐々に減少するという臨床的および組織病理学的初見は、周辺スカートの進行性の統合と相まって、短期的および中期的な安全性を証明している。
【0080】
本発明のキットおよび人工角膜を用いた外科的処置を
図8A~8Jに示す。
図8Aでは、360度の角膜周囲切開を行い、結膜およびテノンの両方を隆起させており、
図8Bでは、上皮細胞層の除去を示している。
図8Cは、専用のマーカーツールを用いて本来の角膜の中心および縫合孔をマーキングした状態を示している。
図8Dは、前房注射用の2つのポートを設け、その後、眼球に眼科用粘弾性物質を充填している状態を示している。
図8Eは、固定用の縫合糸を示している。マーカーで示したように、3本の角膜縁用縫合糸が、視神経固定用に120度の間隔であらかじめ配置されている。
図8Fは、角膜中央部のトレパンによる切開の状態を示している。
図8Gは、固定用の縫合糸を締めることにより、人工角膜を本来の角膜の残存部分に接近するように変位させ、人工角膜の装着を容易にする状態を示している。
図8Hは、スナップツールを用いて、光学ゾーンをトレパンによる切開空間に装着する状態を示している。
図8Iは、生体統合型の周辺スカートを露出した強膜の表(上)に配置し、結膜およびテノンを元の位置に戻して互いに縫合している状態を示している。
図8Jは、移植した眼球において、眼科用粘弾性物質をBSS(緩衝塩類溶液)に置き換えた状態を示している。
【0081】
本明細書では、本発明の特定の特徴を図示および説明してきたが、多くの修正、置換、変更、および等価物が当業者に生じるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神の範囲内にあるすべての修正および変更をカバーすることが意図されていることを理解されたい。