(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ケーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/008 20060101AFI20240827BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01B13/008
H01B13/00 511Z
(21)【出願番号】P 2022020539
(22)【出願日】2022-02-14
(62)【分割の表示】P 2020204206の分割
【原出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】393010318
【氏名又は名称】エレコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】横山 敦之
(72)【発明者】
【氏名】門田 若葉
(72)【発明者】
【氏名】林 聞旭
【審査官】小林 秀和
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-188107(JP,A)
【文献】特開2016-119158(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0347392(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/008
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の導体からなる芯材の外周がオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物で被覆され、前記樹脂組成物によって最外層が構成されたケーブルを、筒体に巻き付ける巻付け工程と、
前記筒体に巻き付けた前記ケーブルを、79℃以上91℃以下の範囲内の温度に維持しつつ、60分以上加熱する加熱工程と、
加熱した前記ケーブルを、前記筒体に巻き付けた状態で9℃以上36℃以下の範囲内の温度まで冷却する冷却工程と、を備え
、
前記ケーブルがスマートフォンの接続に用いられるものである、
ケーブルの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂組成物の被覆厚さは、0.2mm以上0.7mm以下である
請求項1に記載のケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルの製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、例えば、パソコンとスマートフォンを接続するため、または、壁などに設けられたコンセントとスマートフォンとを接続するために用いられるケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器どうしを接続するため、または、壁などに設けられたコンセントと電子
機器とを接続するために用いられるケーブルとして、両端にコネクタ(接続端子)を備え
たものが知られている(例えば、特許文献1)。前記ケーブルは、通常、線状の導体から
なる芯材の外周を、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物で被覆して構成されている。
【0003】
このようなケーブルは、通常、携帯可能な長さ(例えば、50cm~200cm程度)
を有するように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように形成されているケーブルを鞄などに収容して持ち運ぶ場合、該ケーブルは
、通常、巻き取った状態で収容される。
しかしながら、前記ケーブルは、通常は、巻き取った状態を維持することができず、鞄
などの中で広がってしまうという問題がある。
すなわち、収容時における使い勝手が悪いという問題がある。
【0006】
巻き取った状態を維持する観点から、固定電話の電話機本体と受話器とを接続するケー
ブルのごとく、引っ張っていない状態において、ケーブルをスパイラル状(螺旋状)の巻
き癖が付いたものに構成することも考えられる。
しかしながら、ケーブルを上記のようなスパイラル状の巻き癖が付いたものに構成した
場合には、電子機器どうし、または、壁などに設けられたコンセントと電子機器とを接続
するに際して、前記ケーブルの両端側を手で掴んで離間する方向に引っ張っただけでは、
ある程度の長さを確保できるまでケーブルを伸ばし難く、かつ、伸ばした状態を維持する
ことができないので、接続作業がし難くなる。
そのため、このような構成においては、使用時における使い勝手が悪くなるという問題
がある。
【0007】
しかしながら、収容時及び使用時の両方において、使い勝手が良いケーブルについて、
未だ十分な検討がなされているとは言い難い。
【0008】
そこで、本発明は、収容時及び使用時の両方において、使い勝手が良いケーブルを得る
ことができるケーブルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討したところ、筒体に巻き付けた状態で、所定範囲内の温度に維持
しつつ、所定時間以上加熱することにより製造されたケーブルが、収容時及び使用時の両
方において、使い勝手が良くなることを見出して、本発明を想到するに至った。
【0010】
即ち、本発明に係るケーブルの製造方法は、
線状の導体からなる芯材の外周がオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物で被覆され、前記樹脂組成物によって最外層が構成されたケーブルを、筒体に巻き付ける巻付け工程と、
前記筒体に巻き付けた前記ケーブルを、79℃以上91℃以下の範囲内の温度に維持しつつ、60分以上加熱する加熱工程と、
加熱した前記ケーブルを、前記筒体に巻き付けた状態で9℃以上36℃以下の範囲内の温度まで冷却する冷却工程と、を備え、
前記ケーブルがスマートフォンの接続に用いられるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、収容時及び使用時の両方において、使い勝手が良いケーブルを得るこ
とができるケーブルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るケーブルの製造方法のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0014】
図1に示したように、本実施形態に係るケーブルの製造方法は、
線状の導体からなる芯材の外周がオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組
成物で被覆され、前記樹脂組成物によって最外層が構成されたケーブルを、筒体に巻き付
ける巻付け工程(S1)と、
前記筒体に巻き付けた前記ケーブルを、79℃以上91℃以下の範囲内の温度に維持し
つつ、60分以上加熱する加熱工程(S2)と、
加熱した前記ケーブルを、前記筒体に巻き付けた状態で9℃以上36℃以下の範囲内の
温度まで冷却する冷却工程(S3)と、を備える。
以下、本実施形態に係るケーブルの製造方法を、工程ごとに説明する。
【0015】
(巻付け工程S1)
巻付け工程S1では、前記筒体に前記ケーブルを巻き付ける。前記ケーブルは、前記筒
体に隙間なく(前記筒体に巻き付けられた状態における前記ケーブル間の幅(以下、ピッ
チ幅ともいう)が0mmとなるように)巻き付けられることが好ましい。
また、巻付け工程S1では、前記筒体として、1.5cm以上20cm以下の外径を有
するものを用いることが好ましい。
【0016】
前記筒体の断面形状は、ケーブルに付けたい巻き癖の形状に応じて適宜選ばれる。巻き
癖の形状としては、円形状、正多角形状(例えば、正方形状、正六角形状、正八角形状)
などが挙げられるものの、通常は、円形状が好ましい。すなわち、前記筒体の断面形状は
、円形状であることが好ましい。
【0017】
前記芯材の導体としては、例えば、銅線などが挙げられる。前記芯材は、一本の導体か
ら構成されたものであってもよいし、複数本の導体から構成されたものであってもよい。
前記芯材が複数本の導体から構成される場合、前記芯材は、複数本の導体を撚り合わせて
構成されたものであってもよい。
また、複数本の導体のそれぞれは、外周がポリ塩化ビニル樹脂を含む樹脂組成物などで
被覆されたものであってもよい。
複数本の導体を撚り合わせて芯材を構成することにより、該芯材は、可撓性に優れるも
のとなる。
【0018】
電子機器どうし、または、壁などに設けられたコンセントと電子機器とを接続するため
のケーブルとして用いられる場合、ケーブルの太さは、3.0mm以上5.0mm以下で
あることが好ましい。
ケーブルの太さは、マイクロゲージを用いて測定することができる。
具体的には、ケーブルの延在方向の任意の5点について、マイクロゲージを用いて太さ
を測定し、これらの測定値を算術平均することにより求めることができる。
【0019】
電子機器どうし、または、壁などに設けられたコンセントと電子機器とを接続するため
のケーブルとして用いられる場合、前記芯材の太さは、2.3mm以上4.8mm以下で
あることが好ましい。
前記芯材の断面形状が円形状の場合、前記芯材の太さは、円の直径(外径)を意味し、
前記芯材の断面形状が正多角形状(例えば、正方形状、正六角形状、正八角形状)の場合
、前記芯材の太さは、前記正多角形に外接する外接円の直径(外径)を意味する。
なお、断面とは、前記ケーブルの延在方向と垂直方向に切断して得られる断面を意味す
る。
【0020】
本実施形態に係るケーブルでは、前記樹脂組成物による被覆厚さは、0.2mm以上0
.7mm以下であることが好ましい。
前記被覆厚さとは、断面における前記ケーブルの最大長から前記芯材の太さを減じた値
を2で除した値を意味する。
前記被覆厚さは、マイクロゲージを用いて測定することができる。
具体的には、前記ケーブルの延在方向における任意の5点で切断した断面のそれぞれに
ついて、任意の10箇所についてマイクロゲージを用いて被覆厚さを測定し、これらの測
定値を算術平均することにより求めることができる。
なお、前記ケーブルが、電子機器どうし、または、壁などに設けられたコンセントと電
子機器とを接続するためのケーブルとして用いられる場合、ケーブルの長さ(直線状に伸
ばした状態における直線距離)は、例えば、50cm以上200cm以下(0.5m以上
2m以下)の範囲内の長さとされる。
【0021】
オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂は、ハードセグメントたるオレフィン系樹脂中
に、ソフトセグメントたるゴム成分が微分散されて構成されている。
前記オレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)など
が挙げられる。
これらの中でも、前記オレフィン系樹脂として、ポリプロピレン(PP)を用いること
が好ましい。
前記ゴム成分としては、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンプロピ
レンゴム(EPM)、エチレン-ブテン共重合体(EBM)、ブチルイソブチエンイソプ
レンゴム(IIR)、天然ゴム(NR)、水添スチレンブタジエンゴム(HSBR)、ニ
トリルゴム(NBR)、アクリルゴム(ACR)などが挙げられる。
これらの中でも、前記ゴム成分として、水添スチレンブタジエンゴム(HSBR)を用
いることが好ましい。
すなわち、本実施形態においては、前記オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂は、前
記オレフィン系樹脂としてポリプロピレン(PP)が用いられ、前記ゴム成分として、水
添スチレンブタジエンゴム(HSBR)が用いられたものであることが好ましい。
【0022】
前記樹脂組成物は、オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂以外に、可塑剤、フィラー
などを含んでいてもよい。
前記可塑剤としては、ナフテン系プロセスオイル、パラフィン系プロセルオイルなどの
各種公知のプロセスオイルが挙げられる。前記樹脂組成物がプロセスオイルなどの可塑剤
を含むことにより、成形加工時における加工性を向上させることができる。
前記フィラーとしては、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
前記樹脂組成物が、前記可塑剤、及び、前記フィラーを含む場合、前記熱可塑性エラス
トマーの100質量部に対して、前記可塑剤は、10質量部以上20質量部以下含まれて
いることが好ましく、前記フィラーは、20質量部以上40質量部以下含まれていること
が好ましい。
【0023】
なお、オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物による前記芯材の外周
の被覆は、各種公知の方法で行うことができる。各種公知の手法としては、例えば、溶融
押出成形が挙げられる。溶融押出成形は、一般的な溶融押出成形装置、例えば、巻き取っ
た状態の前記芯材を下流側に送出する送出部と、該送出部の下流側に配されて、送出され
た前記芯材の外周を溶融させた前記樹脂組成物で被覆し、かつ、前記樹脂組成物で被覆さ
れた前記芯材(以下、被覆芯材ともいう)を下流側に押し出す押出部と、該押出部の下流
側に配されて、被覆芯材の前記樹脂組成物を冷却固化させる冷却部と、該冷却部の下流側
に配されて、前記樹脂組成物が固化された後の前記被覆芯材(すなわち、ケーブル)を巻
き取る巻取部と、を備える装置を用いて行うことができる。
【0024】
(加熱工程S2)
加熱工程S2においては、前記筒体に巻き付けた前記ケーブルを、79℃以上91℃以
下の範囲内の温度に維持しつつ、60分以上加熱することが重要である。
加熱工程S2は、一般的な加熱炉を用いて行うことができる。
79℃以上91℃以下の範囲内の温度に維持しつつ、60分以上加熱した上で、後述す
る冷却工程S3で9℃以上36℃以下まで冷却することにより、スパイラル状の巻き癖が
付いたケーブルの両端側を手で掴んで離間する方向に引っ張っただけで、ある程度の長さ
を確保できるまで、前記ケーブルを比較的容易に伸ばすことができ、かつ、伸びた状態を
比較的維持することができる。
また、伸びた状態からスパイラル状に巻き取った形状としたときに、スパイラル形状を
比較的維持することができる。
そのため、収容時及び使用時において、使い勝手が良くなる。
加熱工程S2での加熱温度は、84℃以上91℃以下であることが好ましい。
【0025】
79℃以上91℃以下の範囲内の温度に維持しつつ、60分以上加熱した上で、9℃以
上36℃以下まで冷却することにより、上記効果が奏される理由について、本発明者らは
以下のように考えている。
すなわち、前記筒体に前記ケーブルを巻き付けた状態で、79℃以上91℃以下の範囲
内の温度に維持しつつ、60分以上加熱した上で、9℃以上36℃以下まで冷却すると、
巻付けられた前記ケーブルは、内側(前記筒体に接している側)においては程良く縮んだ
状態で固化し、外側(前記筒体と接していない側)においては程良く伸びた状態で固化す
るようになって、巻いた状態としたときには、巻き状態を維持し易くなり、かつ、引き伸
ばした状態としたときには、引き伸ばし状態を維持し易くなるような巻き癖が付いたと考
えられる。
その結果、スパイラル状の巻き癖が付いたケーブルの両端側を手で掴んで離間する方向
に引っ張っただけで、ある程度の長さを確保できるまで、前記ケーブルを比較的容易に伸
ばすことができ、かつ、伸びた状態を比較的維持することができ、また、伸びた状態から
スパイラル状に巻き取った形状としたときに、スパイラル形状を比較的維持することがで
きるようになったと考えている。
【0026】
また、加熱時間が長すぎるとエネルギー効率が悪くなる観点から、加熱時間の上限は、
240分であることが好ましい。
【0027】
(冷却工程S3)
冷却工程S3では、加熱した前記ケーブルを、前記筒体に巻き付けた状態で9℃以上3
6℃以下の範囲内の温度まで冷却する。前記温度の範囲は、14℃以上31℃以下の温度
であることが好ましく、19℃以上26℃以下の温度であることがより好ましい。
9℃以上36℃以下の範囲の温度まで冷却する時間は、20分以上40分以下であるこ
とが好ましい。
また、加熱工程S2を加熱炉内で行った場合には、冷却工程S3は、例えば、加熱した
前記ケーブルを、前記加熱炉内9℃以上36℃以下の範囲内の温度まで自然冷却すること
により行ったり、加熱した前記ケーブルを、前記加熱炉内で所定温度(例えば、39℃~
51℃の温度)まで自然冷却した後、前記加熱炉内から取り出して、大気開放下で9℃以
上36℃以下の範囲内の温度までさらに自然冷却することにより行ったりすることができ
る。
なお、筒体として、1.5cm以上20cm以下の外径を有するものを用いた場合、冷
却工程S3後において、前記ケーブルにおける一巻きの最長長さ(以下、巻き直径ともい
う)は、2.3cm以上30cm以下の範囲となる。
【0028】
上記の製造方法によって得られたケーブルでは、線状の導体からなる芯材の外周がオレ
フィン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物で被覆されている。
そして、オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂は、耐熱性に優れるという特性を有す
ることから、本実施形態に係るケーブルは、高温環境下(例えば、120℃の温度環境下
)においても使用することができる。
また、オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂は、耐寒性にも優れるという特性を有す
ることから、本実施形態に係るケーブルは、低温環境下(例えば、-20℃の温度環境下
)においても使用することができる。
すなわち、本実施形態に係るケーブルは、-20℃といった温度環境下や120℃とい
った温度環境下のような厳しい温度環境下においても使用することができる。
さらに、オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂は、ゴム弾性に優れるという特性を有
することから、本実施形態に係るケーブルは、配策し易いものとなる。
【0029】
なお、本発明に係るケーブルの製造方法は、上記実施形態に限定されるものではない。
また、本発明に係るケーブルの製造方法は、上記した作用効果によって限定されるもので
もない。本発明に係るケーブルの製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変
更が可能である。
【実施例】
【0030】
次に、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。以下の実施例は、本発
明をさらに詳しく説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0031】
[引張試験]
以下のようにして引張試験用の検体を得た。
まず、導体(外周が樹脂組成物で被覆された導体(銅線)を複数本撚り合わせたもの)からなる芯材の外周がオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂(ハードセグメントたるオレフィン系樹脂としてポリプロピレン(PP)を含み、ソフトセグメントたるゴム成分として水添スチレンブタジエンゴム(HSBR)を含むオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂)で被覆された長さ約1m(1m±1cm)の3本のケーブル(ケーブルA、ケーブルB、及び、ケーブルC)を、ピッチ幅0mmで円筒状の筒体(直径(外径)3.8cm×高さ200cm)にスパイラル状に巻き付けて、ケーブルが巻き付けられた筒体(以下、ケーブル付の筒体ともいう)を得た。
次に、これらのケーブル付の筒体(ケーブルAが巻き付けられた筒体、ケーブルBが巻き付けられた筒体、及び、ケーブルCが巻き付けられた筒体)を加熱炉内に入れて、90±1℃で60分処理した。
次に、これらのケーブル付の筒体を加熱炉内で室温(23±2℃)まで自然放冷することにより、引張試験用の検体を得た。なお、直径(外径)3.8cmの筒体に巻き付けて加熱処理することにより得られた各ケーブルにおける一巻きの最長長さ(以下、巻き直径ともいう)は、5.5±1.5cmであった。
ケーブルA、ケーブルB、及び、ケーブルCは、いずれも、断面の形状が円形状であった。
また、ケーブルAにおいては、芯材の太さ(外径)は3.2mmであり、被覆厚さは0.35mmであり、ケーブルBにおいては、芯材の太さ(外径)は3.3mmであり、被覆厚さは0.35mmであり、ケーブルCにおいては、芯材の太さ(外径)は4mmであり、被覆厚さは0.35mmであった。
なお、ケーブルA~Cについて、被覆厚さは、上記の実施形態の項で説明した方法にしたがって測定した。
また、ケーブルA~Cについて、ケーブルの太さは、上記の実施形態の項で説明した方法にしたがって測定した。
引張試験用の検体は、各ケーブルごとに、3本ずつ(計9検体)作製した。
そして、各検体(計9検体)について、以下の手順にしたがって引張試験を行った。
(1)天板を有する固定具の天板に、検体の一端側を固定する。
(2)天板から検体が垂れ下がった状態において、検体の一端側の固定箇所から検体の他端側の先端部までの長さ(錘装着前長さL1)を測定する。
(3)100gの錘を検体の他端側に取り付けて、60分放置する。
(4)検体の他端側から100gの錘を取り外す。
(5)検体の一端側の固定箇所から検体の他端側の先端部までの長さ(錘装着後長さL2)を測定する。
【0032】
引張試験の結果について、ケーブルAについては、実施例1~3として表1に示し、ケ
ーブルBについては、実施例4~6として表2に示し、ケーブルCについては、実施例7
~9として表3に示した。
また、実施例1~9に係るケーブルの引張試験結果と比較するために、ケーブルA、ケ
ーブルB、及び、ケーブルCのそれぞれについて、上記のような加熱処理を施していない
ケーブルを3検体ずつ(計9検体)準備し、上記の手順にしたがって引張試験を行った。
その結果について、ケーブルAについては、比較例1~3として表1に示し、ケーブル
Bについては、比較例7~9として表2に示し、ケーブルCについては、比較例13~1
5として表3に示した。
さらに、上記のように作製したケーブルの引張試験結果と比較するために、ケーブルA
、ケーブルB、及び、ケーブルCのそれぞれを、円筒状の筒体(直径(外径)1cm×高
さ200cm)にピッチ幅0mmでスパイラル状に巻き付けた後、加熱炉を用いてこれら
を90±1℃で40分処理し、加熱炉内で室温(23±2℃)まで自然放冷することより
、電話機本体と受話器とを接続するようなスパイラル状(螺旋状)の引張試験用の検体を
3検体ずつ(計9検体)作製し、上記の手順にしたがって引張試験を行った。
その結果について、ケーブルAについては、比較例4~6として表1に示し、ケーブル
Bについては、比較例10~12として表2に示し、ケーブルCについては、比較例16
~18として表3に示した。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
表1~3より、各実施例に係る、ケーブルA(実施例1~3)、ケーブルB(実施例4
~6)、及び、ケーブルC(実施例7~9)は、いずれも、加熱処理を施していない、ケ
ーブルA(比較例1~3)、ケーブルB(比較例7~9)、及び、ケーブルC(比較例1
3~15)に比べて、錘装着後長さL2が短くなっており、コンパクトに収容できるもの
となっていることが分かる。
また、各実施例に係るケーブルA、ケーブルB、及び、ケーブルCは、いずれも、スパ
イラル状を有する、ケーブルA(比較例4~6)、ケーブルB(比較例10~12)、及
び、ケーブルC(比較例16~18)に比べて、錘装着後長さL2が十分な長さとなって
いることが分かる。
【0037】
[巻き状態の維持性の評価]
以下のようにして巻き状態の維持性を評価するための検体を得た。
上記の引張試験の項で説明したのと同様にして、長さ約1m(1m±1cm)の3本の
ケーブル(ケーブルA、ケーブルB、及び、ケーブルC)を、ピッチ幅0mmで円筒状の
筒体(直径(外径)3.8cm×高さ200cm)にスパイラル状に巻き付けて、ケーブ
ルが巻き付けられた筒体(ケーブル付の筒体)を得た。
次に、これらのケーブル付の筒体(ケーブルAが巻き付けられた筒体、ケーブルBが巻
き付けられた筒体、及び、ケーブルCが巻き付けられた筒体)を加熱炉内に入れて、温度
60±1℃~120±1℃で、30~210分処理した。
次に、これらのケーブル付の筒体を加熱炉内で室温(23±2℃)まで自然放冷するこ
とにより、引張試験用の検体を得た。なお、直径(外径)3.8cmの筒体に巻き付けて
加熱処理することにより得られた各ケーブルにおける一巻きの最長長さ(以下、巻き直径
ともいう)は、5.5±1.5cmであった。
ケーブルA、ケーブルB、及び、ケーブルCは、いずれも、断面の形状が円形状であっ
た。
巻き状態の維持性の評価用の検体は、各ケーブルにつき、各温度ごと(60±1℃、9
0±1℃、及び、120±1℃)及び各加熱時間ごとに3本ずつ作製した(各ケーブルご
とに18検体。計54検体)。
【0038】
巻き状態の維持性の評価は、各検体について、以下の手順にしたがって行った。
(1)検体の一端側に5Nの力に相当する錘を取り付けた状態とし、検体の他端側を上方
に引っ張り上げて1秒間保持した後、他端側を離す。
(2)(1)を1095回繰り返す。
(3)(2)を行った後の検体を、平板上において、直径5.5cm±1.5cmの円が
複数連なった形状(スパイラル形状)となるように検体を巻く(巻き状態とする)。
(4)巻き状態としてから10分後に、一巻きの最長部分の長さ(以下、巻き直径ともい
う)を測定する。
(5)一巻きの最長部分の長さ(巻き直径)が5.5±1.5cmの範囲内にある場合を
、巻き状態が維持されていると判断する。
ケーブルAについての巻き状態の維持性の評価結果を以下の表4に示し、ケーブルBに
ついての巻き状態の維持性の評価結果を以下の表5に示し、ケーブルCについての巻き状
態の維持性の評価結果を以下の表6に示した。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
表4~6より、ケーブルA、ケーブルB、及び、ケーブルCのいずれについても、90
±1℃で60分以上加熱することにより、巻き状態の維持性についての評価が〇となるケ
ーブルを得ることができることが分かった。
一方で、ケーブルA、ケーブルB、及び、ケーブルCのいずれについても、60±1℃
で加熱処理したものは、一巻きの最長部分の長さ(巻き直径)が7cm(5.5+1.5
cm)を超えていたため、×の評価であった。
また、ケーブルA、ケーブルB、及び、ケーブルCのいずれについても、120±1℃
で加熱処理したものは、樹脂組成物の一部が溶融しており、巻き状態の維持性の評価を行
うことができなかったため、×の評価であった。
なお、以下の表7に、90±1℃で60分以上210分以下加熱した後のケーブルAに
ついての巻き状態の維持性を評価した結果を示し、以下の表8に、90±1℃で60分以
上210分以下加熱処理した後のケーブルBについての巻き状態の維持性を評価した結果
を示し、以下の表9に、90±1℃で60分状210分以下加熱した後のケーブルCにつ
いての巻き状態の維持性を評価した結果を示した。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
上記の引張試験の結果及び巻き状態の維持性の評価の結果から、芯材の外周がオレフィ
ン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物で被覆されたケーブルを筒体に巻き付け
た状態とし、89℃以上91℃以下の温度で60分以上加熱した後に、室温まで冷却する
ことにより、収容時及び使用時において、使い勝手の良いケーブルを得ることができるこ
とが分かった。
【0047】
[巻き直径がケーブルの巻き状態に及ぼす影響]
ケーブルにおける一巻きの最長長さ(巻き直径)がケーブルの巻き状態に及ぼす影響を調べるために、以下のようにして、巻き状態の維持性を評価するための検体を得た。
まず、導体(外周が樹脂組成物で被覆された導体(銅線)の複数本を撚り合わせたもの)からなる芯材の外周がオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂(ハードセグメントたるオレフィン系樹脂としてポリプロピレン(PP)を含み、ソフトセグメントたるゴム成分として水添スチレンブタジエンゴム(HSBR)を含むオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂)を含む樹脂組成物で被覆された長さ約2m(2m±1cm)の2本のケーブル(ケーブルA、及び、ケーブルB)を、ピッチ幅0mmで円筒状の筒体(直径(外径)6.3cm×高さ200cm)にスパイラル状に巻き付けて、ケーブルが巻き付けられた筒体(以下、ケーブル付の筒体)を得た。
次に、これらのケーブル付の筒体(ケーブルAが巻き付けられた筒体、及び、ケーブルBが巻き付けられた筒体)を加熱炉内に入れて、温度60±1℃~120±1℃で、30分~210分処理した。
次に、これらのケーブル付の筒体を加熱炉内で室温まで自然放冷することにより、巻き状態の維持性を評価するための検体を得た。なお、直径(外径)6.3cmの筒体に巻き付けて加熱処理することにより得られた各ケーブルにおける巻き部分の最長長さ(巻き直径)は、9.5±1.5cmであった。
ケーブルA及びケーブルBは、いずれも、断面の形状が円形状であった。
また、ケーブルAにおいては、芯材の太さ(外径)は3.5mmであり、被覆厚さは0.4mmであり、ケーブルBにおいては、芯材の太さ(外径)は3.9mmであり、被覆厚さは0.4mmであった。
なお、ケーブルA及びBについて、被覆厚さは、上記の実施形態の項で説明した方法にしたがって測定した。
また、ケーブルA及びBについて、ケーブルの太さは、上記の実施形態の項で説明した方法にしたがって測定した。
巻き状態の維持性の評価用の検体は、各ケーブルにつき、各温度ごと(60±1℃、90±1℃、及び、120±1℃)及び各加熱時間ごとに3本ずつ作製した(各ケーブルごとに18検体。計36検体)。
【0048】
巻き状態の維持性の評価は、以下の手順にしたがって行った。
(1)検体の一端側に5Nの力に相当する錘を取り付けた状態とし、検体の他端側を上方
に引っ張り上げて1秒間保持した後、他端側を離す。
(2)(1)を1095回繰り返す。
(3)(2)を行った後の検体を、平板上において、直径9.5cm±1.5cmの円が
複数連なった形状(スパイラル形状)となるように検体を巻く(巻き状態とする)。
(4)巻き状態としてから10分後に、一巻きの最長部分の長さ(以下、巻き直径ともい
う)を測定する。
(5)一巻きの最長部分の長さ(巻き直径)が9.5±1.5cmの範囲内にある場合を
、巻き状態が維持されていると判断する。
ケーブルAについての巻き状態の維持性の評価結果を以下の表10に示し、ケーブルB
についての巻き状態の維持性の評価結果を以下の表11に示した。
【0049】
【0050】
【0051】
表10及び11より、ケーブルA、及び、ケーブルBのいずれについても、90±1℃
で60分以上加熱することにより、巻き状態の維持性についての評価が〇となるケーブル
を得ることができることが分かった。
一方で、ケーブルA、及び、ケーブルBのいずれについても、60±1℃で加熱処理し
たものは、一巻きの最長部分の長さ(巻き直径)が11cm(9.5+1.5cm)を超
えていたため、×の評価であった。
また、ケーブルA、及び、ケーブルBのいずれについても、120±1℃で加熱処理し
たものは、樹脂組成物の一部が溶融しており、巻き状態の維持性の評価を行うことができ
なかったため、×の評価であった。
この結果から、芯材の外周がオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂を含む樹脂組成物
で被覆されたケーブルを筒体に巻き付けた状態とし、89℃以上91℃以下の温度で60
分以上加熱した後に、室温まで冷却することにより得られるケーブルは、巻き直径の大き
さによらず、巻き状態を維持できていることが分かった。
なお、以下の表12に、90±1℃で60分以上210分以下加熱した後のケーブルA
についての巻き状態の維持性を評価した結果を示し、以下の表13に、90±1℃で60
分以上210分以下加熱処理した後のケーブルBについての巻き状態の維持性を評価した
結果を示した。
【0052】
【0053】
【0054】
[温度80±1℃で加熱されたケーブルの巻き状態の維持性]
加熱炉内での処理温度を80±1℃とした以外は、引張試験の項で説明したのと同様に
して、80±1℃で加熱された3検体のケーブルBを得た。
そして、各ケーブルについて、巻き状態の維持性の評価を行った。
巻き状態の維持性の評価は、以下の手順にしたがって行った。
(1)天板を有する固定具の天板に、検体の一端側を固定する。
(2)100gの錘を検体の他端側に取り付けて、60分間放置する。
(3)検体の他端側から錘を取り外す。
(4)検体の一端側を天板から取り外した後に、平板上において、直径5.5±1.5c
mの円が複数連なった形状(スパイラル形状)となるように検体を巻く。
(5)巻き状態としてから10分後に、一巻きの最長部分の長さ(巻き直径)を測定する
。
(6)一巻きの最長部分の長さ(巻き直径)が5.5±1.5cmの範囲内にある場合を
、巻き状態が維持されていると判断する。
その結果を、以下の表14に示した。
【0055】
【0056】
表14から、ケーブルBは、試験後の巻き直径が5.5±1.5cmの範囲内となって
おり、巻き状態を維持できていること、すなわち、加熱温度が79℃以上81℃以下の場
合であっても、巻き状態を維持できるケーブルを得ることができることが分かった。
この結果と、上記した60±1℃~120±1℃で加熱処理した後のケーブルについて
の巻き状態の維持性の評価結果とから、加熱温度を79℃以上91℃以下とすることによ
り、巻き状態を維持できるケーブルを得ることができることが分かった。
【符号の説明】
【0057】
S1 巻付け工程、S2 加熱工程、S3 冷却工程。