(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】片頭痛の治療または予防法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240827BHJP
A61P 25/06 20060101ALI20240827BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240827BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P25/06
A61P43/00 111
C07K16/28 ZNA
(21)【出願番号】P 2022095538
(22)【出願日】2022-06-14
(62)【分割の表示】P 2020087893の分割
【原出願日】2015-08-10
【審査請求日】2022-07-12
(32)【優先日】2015-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホン・スン
(72)【発明者】
【氏名】エドゥアルド・ドゥナエビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・エイ・レンツ
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエル・バーガス
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-513214(JP,A)
【文献】特表2014-515375(JP,A)
【文献】清水 利彦,難治性片頭痛の対策と治療,臨床神経学,2011年,51巻,11号,p.877-880
【文献】柴田 興一,片頭痛予防療法,最新医学,2014年06月,第69巻,第6号,p.1130-1136
【文献】伊藤 康男,荒木 信夫,各種薬剤の選び方と上手な使い方 片頭痛治療薬,臨牀と研究,2014年03月,第91巻,第3号,p.365-370
【文献】Walter S, Bigal ME,TEV-48125: a review of a monoclonal CGRP antibody in development for the preventive treatment of migraine,Current Pain and Headache Reports,2015年03月10日,Vol.19, No.3,6,doi: 10.1007/s11916-015-0476-1
【文献】Edvinsson L, Ho TW,CGRP receptor antagonism and migraine,Neurotherapeutics,2010年04月,Vol.7, No.2,p.164-175
【文献】Vecsei L, et al.,CGRP antagonists and antibodies for the treatment of migraine,Expert Opinion on Investigational Drugs,2014年09月15日,Vol.24, No.1,p.31-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
C07K 16/00-16/46
PubMed
医中誌WEB
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの異なるクラスの片頭痛予防薬に失敗したことがあ
る患者における片頭痛の発生を減少させるための、抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体モノクローナル抗体を含む医薬組成物であって、前記抗CGRP受容体モノクローナル抗体は、配列番号14の配列を有するCDRH1、配列番号23の配列を有するCDRH2、配列番号34の配列を有するCDRH3、配列番号44の配列を有するCDRL1、配列番号55の配列を有するCDRL2、及び配列番号65の配列を有するCDRL3を含み、前記抗CGRP受容体モノクローナル抗体は、前記患者に、1ヶ月に1回70mg~140mgの用量で
静脈内又は皮下投与される、医薬組成物。
【請求項2】
患者が、少なくとも3つの異なるクラスの片頭痛予防薬に失敗したことがあ
る、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
片頭痛予防薬のクラスは、抗癲癇薬、三環系抗鬱薬、及びベータ遮断薬から選択される、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
抗癲癇薬が、ジバルプロエクス、バルプロ酸ナトリウム、バルプロ酸、トピラマート、及びガバペンチンから選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
三環系抗鬱薬が、アミトリプチリン、ノルトリプチリン、及びドキセピンから選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
ベータ遮断薬が、プロプラノロール、チモロール、アテノロール、メトプロロール、及びナドロールから選択される、請求項3に記載に医薬組成物。
【請求項7】
片頭痛予防薬が、プロプラノロール、チモロール、ジバルプロエクス、バルプロ酸、トピラマート、アミトリプチリン、又はA型ボツリヌス毒素から選択される、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
患者が、少なくとも一の抗癲癇薬及び少なくとも一のベータ遮断薬に失敗したことがあ
る、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項9】
患者が、少なくとも一の抗癲癇薬及び少なくとも一の抗鬱薬に失敗したことがあ
る、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項10】
患者が、少なくとも一のベータ遮断薬及び少なくとも一の抗鬱薬に失敗したことがあ
る、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項11】
患者が、トピラマート、プロプラノロール、及びアミトリプチリンに失敗したことがあ
る、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項12】
用量は、1ヶ月に1回70mgである、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
用量は、1ヶ月に1回140mgである、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
抗CGRP受容体モノクローナル抗体が、皮下注射により患者に投与される、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
患者は、1ヶ月あたり少なくとも4日かつ15日未満である片頭痛日数を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
患者は、1ヶ月あたり8~14日の片頭痛日数を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
患者は、1ヶ月あたり15日以上の片頭痛日数を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
抗CGRP受容体モノクローナル抗体が、配列番号92の配列を含む重鎖可変領域(VH)、及び配列番号80の配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
抗CGRP受容体モノクローナル抗体が、配列番号105の配列を含む重鎖、及び配列番号123の配列を含む軽鎖を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年4月24日出願の米国仮出願第62/152,708号の利益を請求し、米国仮出願第62/152,708号は、本明細書中参照としてそのまま全体が援用される。
【0002】
電子出願されたテキストファイルの説明
本出願は、ASCIIフォーマットで電子出願された配列表を含み、この配列表は、参照としてそのまま全体が援用される。コンピューターで読み取り可能なフォーマットの配列表コピーは、2015年8月3日付で作成されており、ファイル名はA-1945-WO-PCT_ST25.txtであり、ファイルサイズは134キロバイトである。
【0003】
発明の分野
本発明は、神経学及び生物製剤の分野に関する。詳細には、本発明は、ヒトカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体を選択的に阻害する抗体を用いた、片頭痛の予防的治療に関する。
【背景技術】
【0004】
片頭痛は、頭痛及び関連する特徴の重度反復性発作を特徴とする、複雑な好発する神経学的状態であり、関連する特徴として、悪心、嘔吐、または光、音、もしくは運動に対する過敏性を挙げることができる。患者によっては、頭痛の前に、感覚性の危険信号または症候(すなわち前兆)がある、またはそのような前兆を伴う。頭痛の痛みは、ある特定患者では、重度の場合があり、また一側性の場合もある。片頭痛発作は、日常生活に悪影響を及ぼし、労働日数が失われること及び能力が低下することで毎年数十億ドルもの損失となっている(Modi and Lowder, Am. Fam. Physician, Vol. 73:72-78, 2006)。
【0005】
片頭痛は、世界中に非常に広く蔓延している疾患であり、欧州人口の約15%及び米国人口の12%が、片頭痛発作に苦しんでいる(Lipton et al, Neurology, Vol. 68:343-349, 2007)。その上、片頭痛は、抑鬱及び血管障害など複数の精神科及び医科の共存症を伴うことがわかっている(Buse et al., Neurol. Neurosurg. Psychiatry, Vol. 81:428-432, 2010;Bigal et al., Neurology, Vol. 72:1864-1871, 2009)。
【0006】
片頭痛は、一般的に、主に鎮痛薬及びトリプタンと呼ばれるクラスの薬物を用いて、急性的に治療される(Humphrey et al. Ann NY Acad Sci., Vol. 600:587-598, 1990;Houston and Vanhoutte, Drugs, Vol. 31:149-163 1986)。選択的セロトニン5-HT1B/1Dアゴニストであるトリプタンは、急性片頭痛に有効な薬物であり、一般に認容性が良いものであるが、冠血管収縮の可能性があるため、循環器疾患がある場合は禁忌となる。また、多くの片頭痛患者は、トリプタンに対する反応が良くない。53の治験のメタ分析では、最大で、片頭痛のある人全体の3分の1及び全ての片頭痛発作の40%が、トリプタンに反応しなかった(Ferrari et al., Lancet, Vol. 358:1668-1675, 2001)。
【0007】
片頭痛予防は、まだ対処されていない巨大な医療ニーズがある分野である。片頭痛患者人口の約40%が、予防的治療の恩恵を受けると思われる(Lipton et al., Neurology, Vol. 68:343-349, 2007)。しかしながら、どの予防的治療かを問わず、利用可能な予防的治療に伴う限定された有効性ならびに認容性及び安全性の重要な問題が一因となって、患者の約12%しか予防的治療を受けられない。トピラマートは、電位依存性ナトリウムチャンネル及びある特定のグルタミン酸受容体(AMPA-カイニン酸)を遮断する抗痙攣薬であるが、これは、米国で片頭痛予防に最も頻繁に使用される薬物療法である。トピラマートは、無作為化プラセボ対照試験を通じて反復性片頭痛患者及び慢性片頭痛患者の両方で有効性を実証した唯一の片頭痛予防薬である(Diener et al., Cephalalgia, Vol. 27:814-823, 2007;Silberstein et al., Headache, Vol. 47:170-180, 2007)。しかしながら、患者の約50%は、トピラマートに反応することができず、これに対する認容性も良くない。トピラマート治療に関連した一般的な有害事象として、異常知覚、食欲不振、ならびに、精神運動緩徐化、傾眠、言語障害、ならびに記憶及び集中の困難を含む認知有害事象が挙げられる(Brandes et al., JAMA, Vol. 291:965-973, 2004;Adelman et al., Pain Med., Vol. 9:175-185 2008;Silberstein et al., Arch Neurol., Vol. 61:490-495, 2004)。非盲検の可変用量試験では、有害作用のため患者の20%がトピラマートを休薬した(Nelles et al., Headache, Vol. 49:1454-1465, 2009)。
【0008】
すなわち、片頭痛患者は、より有効な及び/または認容性のある治療選択肢を医療上今すぐに必要としている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Modi and Lowder, Am. Fam. Physician, Vol. 73:72-78, 2006
【文献】Lipton et al, Neurology, Vol. 68:343-349, 2007
【文献】Buse et al., Neurol. Neurosurg. Psychiatry, Vol. 81:428-432, 2010
【文献】Bigal et al., Neurology, Vol. 72:1864-1871, 2009
【文献】Humphrey et al. Ann NY Acad Sci., Vol. 600:587-598, 1990
【文献】Houston and Vanhoutte, Drugs, Vol. 31:149-163 1986
【文献】Ferrari et al., Lancet, Vol. 358:1668-1675, 2001
【文献】Diener et al., Cephalalgia, Vol. 27:814-823, 2007
【文献】Silberstein et al., Headache, Vol. 47:170-180, 2007
【文献】Brandes et al., JAMA, Vol. 291:965-973, 2004
【文献】Adelman et al., Pain Med., Vol. 9:175-185 2008;Silberstein et al., Arch Neurol., Vol. 61:490-495, 2004
【文献】Silberstein et al., Arch Neurol., Vol. 61:490-495, 2004
【文献】Nelles et al., Headache, Vol. 49:1454-1465, 2009
【発明の概要】
【0010】
本発明は、片頭痛の頻度、重篤度、及び/または期間の低下縮小を必要としている患者に、有害副作用をもたらさずまたは最小限にとどめてそのような低下縮小を有効にもたらす治療レジメンを同定することに、部分的に基づく。したがって、1つの実施形態において、本発明は、片頭痛の発生を予防または減少させることを必要としている患者でそのような予防または減少を行う方法を提供し、本方法は、患者に、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を、1ヶ月あたり約35mg~約210mgの用量で投与することを含む。実施形態によっては、本発明は、患者の片頭痛を予防的に治療する方法を提供し、本方法は、患者に、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を、1ヶ月あたり約35mg~約210mgの用量で投与することを含む。
【0011】
本方法の実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、患者に、その患者が経験する月々の片頭痛日数を、治療前の月々の片頭痛日数と比べて、または抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与されない患者が経験する月々の片頭痛日数と比べて、減少させるのに十分な用量で投与される。実施形態によっては、患者に投与される抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の用量は、患者の月々の片頭痛日数を、治療前の日数と比べて、または抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与されない患者が経験する日数と比べて、少なくとも50%減少させるのに十分である。
【0012】
本方法のある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、患者に、その患者が経験する月々の片頭痛時間数を、治療前の月々の片頭痛時間数と比べて、または抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与されない患者が経験する月々の片頭痛時間数と比べて、減少させるのに十分な用量で投与される。本方法のある特定の他の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、患者に、その患者が経験する月々の片頭痛専用薬使用日数を、治療前の月々の片頭痛専用薬使用日数と比べて、または抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与されない患者が経験する月々の片頭痛専用薬使用日数と比べて、減少させるのに十分な用量で投与される。
【0013】
本方法の実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、患者に、患者の片頭痛による身体的支障日数を、治療前の日数と比べて、または抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与されない患者が経験する日数と比べて、減少させるのに十分な用量で投与される。他の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、患者に、日々の活動に対する片頭痛の影響を、治療前の影響と比べて、または抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与されない患者が経験する影響と比べて、低下させるのに十分な用量で投与される。片頭痛による身体的支障及び日々の活動に対する片頭痛の影響は、本明細書中記載されるとおり複数の確証されたアンケートを用いて評価することができる。
【0014】
本方法のある特定の実施形態において、月々の片頭痛日数、月々の片頭痛時間数、月々の片頭痛専用薬使用日数、片頭痛による身体的支障、及び/または、日々の活動に対する片頭痛の影響の低下縮小を必要としている患者でそのような低下縮小をもたらすのに十分な用量は、1ヶ月あたり約35mg~約210mgである。実施形態によっては、十分な用量は、1ヶ月あたり約70mg~約140mgである。1つの特定の実施形態において、十分な用量は、1ヶ月あたり約70mgである。別の特定の実施形態において、十分な用量は、1ヶ月あたり約140mgである。これら及び他の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の用量は、1ヶ月に1回(QM)投与される。
【0015】
本方法の実施形態によっては、本明細書中記載される投薬量での抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与は、患者で有害副作用を実質的に引き起こさない。詳細には、本明細書中記載される投薬量での抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与は、抗癲癇薬、ベータ遮断薬、及び抗鬱薬と関連した有害副作用をはじめとする、他の片頭痛予防的治療と関連した有害副作用を実質的に引き起こさない。ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体または結合断片の投与と関連した有害副作用の数及び種類は、プラセボ投与と関連した有害副作用の数及び種類と統計上差がない。
【0016】
本明細書中記載される方法のある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、患者に非経口投与される。特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、患者に、皮下注射で投与される。1つの実施形態において、皮下注射は、患者に月に1度投与される、ボーラス注射である。皮下注射は、1ヶ月分の用量の抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を含有する充填済シリンジまたは自己注射器で、患者に送達される場合がある。
【0017】
実施形態によっては、本発明の方法に従って抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与されることになる患者は、反復性片頭痛であるか、反復性片頭痛と診断されている。反復性片頭痛は、低頻度反復性片頭痛の場合も、高頻度反復性片頭痛の場合もある。他の実施形態において、本発明の方法に従って抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与されることになる患者は、慢性片頭痛であるか、慢性片頭痛と診断されている。
【0018】
本発明の方法のある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与されることになる患者は、片頭痛のどのような予防的治療もこれまで受けたことがない(すなわち、患者は、治療ナイーブである)。本発明の方法の他の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与されることになる患者は、少なくとも1種類の他の片頭痛予防的治療に失敗したことがあるか、それに対して不耐性である。すなわち、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与されることになる患者は、実施形態によっては、少なくとも1種類の抗癲癇薬(例えばトピラマート、バルプロ酸)、三環系抗鬱薬(例えば、アミトリプチリン)、ベータ遮断薬(例えば、プロプラノロール、チモロール)、またはA型ボツリヌス毒素に失敗したことがあるか、それに対して不耐性である。1つの実施形態において、患者は、以前に2種の片頭痛予防的治療に失敗したことがあるか、それに対して不耐性である。別の実施形態において、患者は、以前に3種の片頭痛予防的治療に失敗したことがあるか、それに対して不耐性である。
【0019】
本明細書中開示される方法の実施形態のどれにおいても、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、ヒトCGRP受容体のヒトCRLRポリペプチド構成要素及びヒトRAMP1ポリペプチド構成要素の両方のアミノ酸から形成されたエピトープと特異的に結合し、ヒトAM1、ヒトAM2、及び/またはヒトアミリン受容体と比較して、ヒトCGRP受容体を選択的に阻害する。実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体または抗原結合断片は、KD≦100nMでヒトCGRP受容体と特異的に結合する。他の実施形態において、抗CGRP受容体抗体または抗原結合断片は、KD≦10nMでヒトCGRP受容体と特異的に結合する。
【0020】
1つの実施形態において、本発明の方法に従って患者に投与される抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、配列番号14の配列を有するCDRH1、配列番号23の配列を有するCDRH2、配列番号34の配列を有するCDRH3、配列番号44の配列を有するCDRL1、配列番号55の配列を有するCDRL2、及び配列番号65の配列を有するCDRL3を含む。別の実施形態において、本発明の方法に従って患者に投与される抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、配列番号15の配列を有するCDRH1、配列番号29の配列を有するCDRH2、配列番号35の配列を有するCDRH3、配列番号45の配列を有するCDRL1、配列番号61の配列を有するCDRL2、及び配列番号66の配列を有するCDRL3を含む。
【0021】
本発明の方法で使用するのに適した抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、配列番号92の配列を含む重鎖可変領域及び配列番号80の配列を含む軽鎖可変領域を含むことができる。実施形態によっては、本発明の方法で使用される抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、配列番号98の配列を含む重鎖可変領域及び配列番号84の配列を含む軽鎖可変領域を含む。ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体は、ヒトIgG1定常領域またはヒトIgG2定常領域を有する。1つの実施形態において、抗CGRP受容体抗体は、配列番号105の配列を含む重鎖、及び配列番号123の配列を含む軽鎖を含む。別の実施形態において、抗CGRP受容体抗体は、配列番号111の配列を含む重鎖、及び配列番号127の配列を含む軽鎖を含む。
【0022】
本明細書中の表7に記載される特異的抗体またはその抗原結合断片は、どれでも、本発明の方法に使用することができる。ある特定の実施形態において、本発明の方法に従って患者に投与される抗CGRP受容体抗体または結合断片は、4E4抗体またはその抗原結合断片である。他の実施形態において、本発明の方法に従って患者に投与される抗CGRP受容体抗体または結合断片は、9F5抗体またはその抗原結合断片である。
【0023】
本発明は、本明細書中記載される方法で使用するための抗CGRP受容体抗体またはその結合断片の医薬組成物も提供する。医薬組成物は、緩衝剤、界面活性剤、及び安定剤をはじめとする、1種または複数の薬学上許容される希釈剤、キャリア、または賦形剤を含むことができる。ある特定の実施形態において、医薬組成物は、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、緩衝剤、界面活性剤、及び安定剤を含む。1つの実施形態において、医薬組成物は、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、酢酸緩衝剤、ポリソルベート20またはポリソルベート80、及びスクロースを含む。本明細書中記載される医薬組成物は、どれでも、本明細書中記載される方法に従って患者に投与(例えば皮下投与)できるように、自己投与装置、例えば充填済シリンジまたは自己注射器などに組み込むことができる。
【0024】
すなわち、本発明は、片頭痛の予防的治療を必要としている患者でそのような予防的治療に使用するための充填済シリンジまたは自己注射器も含み、この充填済シリンジまたは自己注射器は、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、酢酸緩衝剤、スクロース、及びポリソルベートを含む医薬組成物を含む。実施形態によっては、充填済シリンジまたは自己注射器は、約70mg/ml~約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約10mM~約15mMの酢酸ナトリウム、約0.008%~約0.012%w/vのポリソルベート、及び約8%~約9%のw/vスクロースを、pH約4.8~5.5で含む医薬組成物を含む。ある特定の実施形態において、充填済シリンジまたは自己注射器の注射容量は、約1ml以下である。
【0025】
実施形態によっては、本発明は、本明細書中開示される医薬組成物または自己投与装置、及び片頭痛の予防的治療を必要としている患者で片頭痛を予防的に治療するために、治療上有効用量を、例えば、皮下注射により送達するための医薬組成物または自己投与装置の使用説明書を含むキットも提供する。医薬組成物が、凍結乾燥、すなわち乾燥粉末形状で提供される実施形態において、キットは、希釈剤、及び投与前に医薬組成物を再構築するための説明書を含む場合がある。
【0026】
本明細書中開示される方法のいずれかにおける、または本明細書中開示される方法のいずれかに従って投与するための医薬を調製するための、抗CGRP受容体抗体またはその結合断片の使用が、特に企図される。例えば、本発明は、片頭痛の発生を予防または減少させることを必要としている患者で片頭痛の発生を予防または減少させる方法に使用するための抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を含み、この方法は、患者に、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を、1ヶ月あたり約35mg~約210mgの用量で投与することを含む。本発明は、患者の片頭痛を予防的に治療する方法で使用するための抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片も含み、この方法は、患者に、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を、1ヶ月あたり約35mg~約210mgの用量で投与することを含む。
【0027】
本発明は、片頭痛の発生を予防または減少させることを必要としている患者で片頭痛の発生を予防または減少させるための医薬の調製における、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の使用も含み、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、1ヶ月あたり約35mg~約210mgの用量である。本発明はさらに、患者の片頭痛を予防的に治療するための医薬の調製における、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の使用を含み、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、1ヶ月あたり約35mg~約210mgの用量である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】健康な対象者及び片頭痛患者でのカプサイシン誘導型皮膚血流(DBF)の阻害パーセンテージを、AMG334モノクローナル抗体の血清中濃度の関数として表す。
【
図2】健康な対象者及び片頭痛患者に単回投与及び繰返し投与(4週間ごとに1回;Q4W)でAMG334を皮下(SC)投与した後の、カプサイシン誘導型皮膚血流(DBF)の阻害パーセンテージ及びAMG334モノクローナル抗体の血清中濃度を経時的に示す。最大DBF阻害の期間は、用量濃度DBFの関連性と一致する。
【
図3A】単回、漸増投与のAMG334、または相当量のプラセボを、皮下(SC)または静脈内(IV)いずれかで投与された健康な対象者(HS)及び片頭痛患者(MP)の平均血清中AMG334濃度時間特性を示す。
【
図3B】1、29、及び57日目に複数回投与のAMG334またはプラセボを皮下(SC)投与された健康な対象者(HS)及び片頭痛患者(MP)の平均血清中AMG334濃度時間特性を示す。
【
図4A】単回、漸増投与試験で、健康な対象者及び片頭痛患者にAMG334またはプラセボの単回用量を皮下(SC)投与してから4日後の、カプサイシン誘導型皮膚血流の阻害パーセンテージを示す。
【
図4B】複数回投与試験で、健康な対象者及び片頭痛患者にAMG334またはプラセボを3回皮下(SC)投与したうちの最初の投与から8日後の、カプサイシン誘導型皮膚血流の阻害パーセンテージを示す。
【
図5】プラセボまたはAMG334、すなわちCGRP受容体に対するヒトモノクローナル抗体を3種類(7mg、21mg、または70mg)のいずれか1種の皮下用量で毎月投与された反復性片頭痛患者の月々の頭痛の平均日数のベースラインからの変化を示す。
【
図6】プラセボまたはCGRP受容体に対するヒトモノクローナル抗体(AMG334)を3種類の毎月皮下用量のいずれか1種(7mg、21mg、または70mg)で投与された反復性片頭痛患者の月々の急性片頭痛専用薬(例えばトリプタン、エルゴタミン)の使用日数のベースラインからの変化を示す。
【
図7A】プラセボまたは抗CGRP受容体抗体(AMG334)70mgを皮下注射で月に1回投与された低頻度反復性片頭痛患者(片頭痛日数がベースラインで8日未満)及び高頻度反復性片頭痛患者(片頭痛日数がベースラインで8日以上)における月々の片頭痛の平均日数のベースラインからの変化を示す。
【
図7B】治療ナイーブであるか、または以前に予防的片頭痛治療に失敗したかのいずれかであり、プラセボまたは抗CGRP受容体抗体(AMG334)70mgを皮下注射で月に1回投与された反復性片頭痛患者における月々の片頭痛の平均日数のベースラインからの変化を示す。
【
図8】プラセボまたは抗CGRP受容体抗体(AMG334)を3種類(7mg、21mg、または70mg)のいずれか1種の皮下用量で毎月投与された反復性片頭痛患者における月々の片頭痛の平均日数のベースラインからの変化を示す。試験の12週間の二重盲検相後、4種の治療群それぞれの患者は、試験の非盲検延長相中に、抗CGRP受容体抗体を毎月70mgの皮下用量で投与された。データを、二重盲検相中の最小二乗平均及び標準誤差ならびに非盲検延長相中の平均及び標準誤差として示す。
【
図9A】プラセボまたは抗CGRP受容体抗体(AMG334)を3種類(7mg、21mg、または70mg)のいずれか1種の皮下用量で毎月投与された反復性片頭痛患者における月々の頭痛の日数のベースラインからの変化を示す。試験の12週間の二重盲検相後、4種の治療群それぞれの患者は、試験の非盲検延長相中に、抗CGRP受容体抗体を毎月70mgの皮下用量で投与された。データを、二重盲検相中の最小二乗平均及び標準誤差ならびに非盲検延長相中の平均及び標準誤差として示す。
【
図9B】プラセボまたは抗CGRP受容体抗体(AMG334)を3種類(7mg、21mg、または70mg)のいずれか1種の皮下用量で毎月投与された反復性片頭痛患者における月々の片頭痛専用薬(例えばトリプタン、エルゴタミン)使用日数のベースラインからの変化を示す。試験の12週間の二重盲検相後、4種の治療群それぞれの患者は、試験の非盲検延長相中に、抗CGRP受容体抗体を毎月70mgの皮下用量で投与された。データを、二重盲検期間中の最小二乗平均及び標準誤差ならびに非盲検延長期間中の平均及び標準誤差として示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ヒト患者の片頭痛の治療に現在利用可能な療法は、多くの患者が耐えられないまたは耐えることを拒絶する有害副作用のせいでリスク便益特性が不良である。本発明は、部分的には、副作用を全くまたは最小限にしか持たない有効な片頭痛予防を提供する抗CGRP受容体抗体の新規レジメンを提供することにより、この問題を解決する。本明細書中記載される本発明の方法は、反復性片頭痛ならびに慢性片頭痛を罹患している患者の片頭痛の頻度、重篤度、及び/または期間を有効に低下縮小させることができる。
【0030】
片頭痛は、約4~約72時間続く反復性の頭痛であり、一側性、脈動性、及び/または中~重度の疼痛及び/または身体活動により増悪する疼痛を特徴とする。片頭痛は、悪心、嘔吐、及び/または光(羞明)、音(音声恐怖)、または匂いに対する過敏性を伴うことが多い。患者によっては、片頭痛の発生前に前兆がある。前兆は、典型的には、視覚、感覚、言語、または運動の障害であり、頭痛がもうじき発生するという信号である。本明細書中記載される方法は、ヒト患者の前兆の有無に関わらず、片頭痛の1つまたは複数の症候を、予防、治療、または寛解させる。
【0031】
1つの実施形態において、本発明は、片頭痛の発生を予防または減少させる必要がある患者で片頭痛の発生を予防または減少させる方法を提供し、本方法は、患者に、治療上有効量の抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物を投与することを含む。「患者」という用語は、ヒト患者を含む。本明細書中使用される場合、「片頭痛の発生を予防または減少させる」は、片頭痛の頻度、期間、または重篤度を、組成物の投与前の片頭痛の頻度、期間、または重篤度と比較して、あるいは組成物を投与されない患者(すなわち、対照者)の片頭痛の頻度、期間、または重篤度と比較して、低下縮小させることを示す。すなわち、ある特定の実施形態において、本発明は、患者の片頭痛を予防的に治療する方法を提供し、本方法は、患者に、治療上有効量の抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物を投与することを含む。「予防的治療」は、患者の片頭痛の頻度、重篤度、及び/または長さを低下縮小させるために、片頭痛発作の前に講じるように設計された治療を示す。実施形態によっては、予防的治療は、急性片頭痛専用薬の有効性またはそれに対する患者の反応を向上させる場合がある。
【0032】
本発明の方法の実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与は、1ヶ月の過程に渡り患者が経験する片頭痛の日数を、抗CGRP受容体抗体または結合断片の投与前の日数(すなわち治療前ベースライン)と比較して、及び/または抗CGRP受容体抗体または結合断片を投与されない患者が経験する日数と比較して、減少させる。「片頭痛日数」は、前兆の有無に関わらず30分を超えて継続する「片頭痛」の発生、継続、または再発を患者が経験したあらゆるカレンダー上の日付を含む。「片頭痛」は、悪心または嘔吐あるいは光もしくは音に対する過敏性を伴う頭痛、及び/または以下の疼痛特性のうち少なくとも2つを特徴とする頭痛である:一側性疼痛、拍動痛、中~重度の疼痛強度、または身体活動により増悪する疼痛。治療前ベースラインは、抗CGRP受容体抗体または結合断片の投与前1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、またはそれ以上の期間の関連パラメーター(例えば、片頭痛日数)を求めることにより、確立することができる。実施形態によっては、治療前ベースラインは、抗CGRP受容体抗体または結合断片の投与前3ヶ月間の特定パラメーターの測定に基づき確立される。
【0033】
ある特定の実施形態において、患者が経験する1ヶ月間の片頭痛日数は、抗CGRP受容体抗体または結合断片の投与後、治療前ベースライン及び/または対照者(すなわち、抗体または結合断片を投与されない患者)と比較して、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、または約60%減少する。実施形態によっては、患者が経験する月々の片頭痛日数は、抗CGRP受容体抗体または結合断片の投与後、治療前ベースライン及び/または対照者と比較して、65%以上、例えば、少なくとも約70%、少なくとも約75%、または少なくとも約80%減少する。1つの実施形態において、患者が経験する月々の片頭痛日数は、抗CGRP受容体抗体または結合断片の投与後、少なくとも50%減少する。別の実施形態において、患者が経験する月々の片頭痛日数は、抗CGRP受容体抗体または結合断片の投与後、少なくとも75%減少する。
【0034】
片頭痛の発生の減少は、治療前ベースライン及び/または抗CGRP受容体抗体または結合断片を投与されない患者が経験する時間数との比較での、1ヶ月の過程に渡り患者が経験する片頭痛の時間数の減少として評価することもできる。「片頭痛時間数」は、前兆の有無に関わらず「片頭痛」の発生、継続、または再発を患者が経験したあらゆる時間である。ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与は、患者が経験する月々の片頭痛時間数を、治療前ベースライン及び/または抗CGRP受容体抗体または結合断片を投与されない対照者の時間数と比較して、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、または少なくとも約70%減少させる。
【0035】
本明細書中記載される治療レジメンの有効性は、片頭痛専用薬での急性治療を患者が必要とした日数、片頭痛が原因で患者に身体的または機能的支障があった日数、または患者が経験した片頭痛発作回数という点で評価することもできる。例えば、実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与は、1ヶ月の過程に渡り患者が急性片頭痛治療の使用を必要とした日数を、治療前ベースライン及び/または抗CGRP受容体抗体または結合断片を投与されない患者が経験する日数と比較して、減少させる。本明細書中使用される場合、「急性片頭痛専用薬治療日」または「急性片頭痛専用薬使用日」という用語は、患者が片頭痛専用の医薬を服用したあらゆるカレンダー上の日付を示す。急性片頭痛専用薬として、トリプタン(例えば、アルモトリプタン、フロバトリプタン、リザトリプタン、スマトリプタン、ナラトリプタン、エレトリプタン、及びゾルミトリプタン)、エルゴタミン(例えば、ジヒドロエルゴタミン及びエルゴタミンカフェイン合剤)、非ステロイド性抗炎症薬(例えば、アセチルサリチル酸、イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、及びジクロフェナク)、ならびにオピオイド(例えば、コデイン、モルヒネ、ヒドロコドン、フェンタニル、メペリジン、及びオキシコドン)が挙げられるが、これらに限定されない。月々の急性片頭痛専用薬治療日数は、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与後、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、または少なくとも約85%減少する可能性がある。ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与は、急性片頭痛専用薬を使用する必要性を完全に排除する。
【0036】
実施形態によっては、本明細書中記載される方法に従って抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与することは、治療前ベースライン及び/または抗CGRP受容体抗体を投与されない患者と比較して、患者の報告による身体的支障または生活の質への影響スコアを低下縮小させることができる。片頭痛は、患者の生活の質に影響を及ぼし、患者が余暇及び日々の活動を営むことを妨げ、ならびに患者の仕事の生産性を低下させることが多い。これらの効果は、確証されたアンケート及び調査、例えば、修正片頭痛支障度評価質問票(MIDAS)、頭痛インパクトテスト-6(HIT-6)、片頭痛専用生活の質質問票(MSQ)、片頭痛機能インパクト質問票(MFIQ)、及び片頭痛身体機能インパクトダイアリー(MPFID)などを用いて評価することができる。すなわち、本発明の方法は、1種または複数のこうした質問票により評価した場合に、患者の生活の質の1つまたは複数の態様を改善する、及び/または患者の、身体的、社会的、または感情的機能の1つまたは複数の態様に対する片頭痛の影響を減少させる。
【0037】
MIDASは、5項目の自己記入式質問票であり、職場及び家庭で最近1ヶ月に渡り失われた有意義な日数を合計する。MIDASは、家族、社会、及び余暇の活動での支障度も評価する。MIDASスコアは、頭痛が原因で賃金労働、家事、及び労働外(家族、社会、余暇)活動から失われた日数;ならびに生産性が少なくとも半分減少した賃金労働または家事での日数の合計である。このスコアは、4段階の重篤度グレードに分類される:グレードI=0~5(最小限または低頻度の支障と定義される)、グレードII=6~10(軽度または低頻度の支障)、グレードIII=11~20(中度の支障)、及びグレードIV=21以上(重度の支障)。ある特定の実施形態において、本発明の方法に従って抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与することは、患者のMIDASスコアを、治療前の患者のスコアあるいは抗CGRP受容体抗体または結合断片を投与されない患者のスコアと比較して、低下させる(すなわち、重篤度のグレードを低下させる/片頭痛により引き起こされる支障の頻度または重篤度を低下させる)。
【0038】
MSQは、自己記入式の14項目の質問票であり、(i)患者の日々の社会及び労働関連活動を片頭痛がどのように制限したか(役割機能制約性)、(ii)こうした活動を片頭痛がどのように防止したか(役割機能防止性)、ならびに(iii)患者の片頭痛と関連した感情(感情機能)を測定する。患者は、「なし」、「少し」、「時々」、「かなり」、「ほとんど」、及び「常時」という6段階尺度を用いて、これらの項目に答え、これらはそれぞれ、1~6のスコアが割り振られている。得られたままの尺度のスコアを、項目の回答の合計としてコンピューター処理し、スコアが高いほど生活の質が良好であるようにして0~100点の尺度に変更する。実施形態によっては、本発明の方法に従って抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与することは、患者のMSQスコアを、治療前の患者のスコアあるいは抗CGRP受容体抗体または結合断片を投与されていない患者のスコアと比較して、上昇させる(すなわち患者の生活の質が改善される)。
【0039】
MFIQは、自己記入式の26項目の質問票であり、広範囲の機能に対する片頭痛の影響を測定する。具体的には、MFIQは、身体機能、通常の活動、社会機能、及び感情機能に対する患者の片頭痛の影響を測定する。対象者は、1から5まで点数が割り振られた5段階尺度を用いて項目に回答し、5点が最も負担が大きい。項目の回答の合計としてスコアを計算し、スコアが高いほど負担が大きいように合計を、0~100点の尺度に変更する。ある特定の実施形態において、本発明の方法に従って抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与することは、患者のMFIQスコアを、治療前の患者のスコアあるいは抗CGRP受容体抗体または結合断片を投与されていない患者のスコアと比較して、低下させる(すなわち患者の機能に対する片頭痛の影響が減少する)。
【0040】
MPFIDは、自己記入式の13項目の質問票であり、身体機能を測定する。MPFIDは、日々の活動及び身体的支障に対する影響を評価する。対象者は、5段階尺度を用いて項目に回答し、困難性の項目は、「まったく困難ではない」から「行うことができない」まで、頻度の項目は「なし」から「常時」までである。これらは、1から5点まで点数が割り振られており、5点がもっとも負担の大きいことを表す。項目の回答の合計としてスコアを計算し、スコアが高いほど片頭痛の影響が大きい(すなわち、負担が大きい)ように合計を、0~100点の尺度に変更する。実施形態によっては、本発明の方法に従って抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与することは、患者のMPFIDスコアを、治療前の患者のスコアあるいは抗CGRP受容体抗体または結合断片を投与されていない患者のスコアと比較して、低下させる(すなわち患者の身体機能または日々の活動に対する片頭痛の影響が減少する)。1つの特定の実施形態において、患者に抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与することは、治療前の患者のスコアあるいは対照者(すなわち抗CGRP受容体抗体または結合断片を投与されていない対象)と比較して、患者の身体的支障スコアを少なくとも約50%低下させる。実施形態によっては、MPFIDにより測定した場合の身体的支障があった月々の平均日数は、治療前の日数または対照者の身体的支障があった月々の平均日数と比較して、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与後の患者で減少する。別の特定の実施形態において、患者への抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与は、MPFIDにより測定した場合の日々の活動に対する患者のインパクトスコアを、治療前の患者のスコアまたは対照者のスコアと比較して少なくとも約50%減少させる。実施形態によっては、MPFIDにより測定した場合の日々の活動に影響があった月々の平均日数は、治療前の日数または対照者の日々の活動に影響があった月々の平均日数と比較して、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与後の患者で減少する。
【0041】
本発明の方法のある特定の実施形態において、患者が経験する片頭痛発作回数は、治療前の患者が経験する片頭痛発作回数または対照者が経験する片頭痛発作回数と比較して、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与後に減少する。本明細書中使用される場合、「片頭痛発作」という用語は、本明細書中定義されるとおりのあらゆる片頭痛のエピソードを示す。睡眠または一時的な寛解により中断され、その後48時間以内に再発する片頭痛発作は、一般に、1回の発作と見なされる。同様に、急性片頭痛専用薬での治療が上手くいったが、48時間以内に再発する片頭痛発作も、1回の発作と見なされる。実施形態によっては、片頭痛発作回数は、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与後の患者で、治療前の発作回数または対照者での発作回数と比較して、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、または少なくとも約75%減少する。
【0042】
実施形態によっては、本発明の治療レジメンは、片頭痛と関連した1つまたは複数の症候の寛解を必要としている患者で、そのような症候を寛解させる。例えば、本明細書中記載される方法に従って患者に抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与することは、対照者(すなわち、抗CGRP受容体または結合断片を投与されない対象)と比較して、患者において1つまたは複数の症候の発生を減少させるかまたはそのような症候を治療する。本発明の方法で寛解させるかまたは治療することが可能な症候として、血管運動症状(例えば、のぼせ、顔面紅潮、発汗、及び寝汗)、羞明(光過敏性)、音声恐怖(音声過敏性)、匂い過敏性、回転性めまい、浮動性めまい、悪心、嘔吐、及び頭痛が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
態様によっては、本発明の方法は、患者に、治療上有効量の抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物を投与することを含む。「治療上有効量」は、片頭痛または症候、特に片頭痛と関連した状態または症候を、治療するか、形はどうあれそれ以外のやり方で片頭痛または片頭痛と関連したその他の何らかの望ましくない症候の進行を、防止、阻害、遅延、または逆転させるのに十分な量を示す。ある特定の実施形態において、治療上有効量は、片頭痛の発症または再発を防止または遅延させるか、あるいは片頭痛またはその症候の発症または再発の可能性を低下させるのに十分な量である。
【0044】
すなわち、実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、1ヶ月あたり約35mg~約210mgの合計用量で患者に投与される。例えば、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の用量は、1ヶ月あたり、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約80mg、約90mg、約100mg、約110mg、約120mg、約130mg、約140mg、約150mg、約160mg、約170mg、約180mg、約190mg、約200mg、または約210mgであり得る。ありとあらゆるこれらの端点で挟まれる範囲もまた企図され、例えば、1ヶ月あたり、約35mg~約70mg、約40mg~約90mg、約50mg~約80mg、約35mg~約140mg、約70mg~約140mg、約50mg~約100mg、約70mg~約210mg、約140mg~約210mg、または約150mg~約200mgがある。そのような実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の月々の用量は、患者の体重に関わらず、患者間で同様である。言い換えると、そのような実施形態では、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の月々の投薬量は、合計用量であり、患者の体重に合わせて調整されない。1つの実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、1ヶ月あたり約70mg~約140mgの合計用量で、患者に投与される。本明細書中記載される方法のある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、1ヶ月あたり約70mgの合計用量で、患者に投与される。他の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、1ヶ月あたり約140mgの合計用量で、患者に投与される。
【0045】
ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の月々の用量は、患者の体重に基づく場合がある。例えば、実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の月々の用量は、約0.3mg/体重kg~約3.5mg/体重kg、約0.5mg/体重kg~約3mg/体重kg、または約1mg/体重kg~約2.5mg/体重kgの範囲であり得る。例えば、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の月々の用量は、約0.3mg/体重kg、約0.4mg/体重kg、約0.5mg/体重kg、約0.6mg/体重kg、約0.7mg/体重kg、約0.8mg/体重kg、約0.9mg/体重kg、約1mg/体重kg、約1.1mg/体重kg、約1.2mg/体重kg、約1.3mg/体重kg、約1.4mg/体重kg、約1.5mg/体重kg、約1.6mg/体重kg、約1.7mg/体重kg、約1.8mg/体重kg、約1.9mg/体重kg、約2mg/体重kg、約2.1mg/体重kg、約2.2mg/体重kg、約2.3mg/体重kg、約2.4mg/体重kg、約2.5mg/体重kg、約2.6mg/体重kg、約2.7mg/体重kg、約2.8mg/体重kg、約2.9mg/体重kg、約3mg/体重kg、約3.2mg/体重kg、約3.3mg/体重kg、約3.4mg/体重kg、または約3.5mg/体重kgであり得る。1つの実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の月々の用量は、約0.8mg/体重kg~約1.2mg/体重kgである。別の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の月々の用量は、約1.6mg/体重kg~約2.2mg/体重kgである。
【0046】
抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の用量は、単回投与で投与することも、頻回投薬期間の過程に渡り複数回投与に分割して投与することも可能である。例えば、ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の治療上有効用量は、各頻回期間に単回投与で投与される。すなわち、実施形態によっては、本明細書中記載される抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片のいかなる用量も、1ヶ月に1回、患者に投与することができる(QM投薬)。QM投薬レジメンの患者は、典型的には、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を、24~36日ごとに、好ましくは28~35日ごとに、より好ましくは28~31日ごとに、またはさらにより好ましくは28日ごともしくは30日ごとに投与される。これら及び他の実施形態において、月々の用量は、ボーラス注射として、例えば、本明細書中記載されるとおりの自己注射装置を用いて、患者に投与される。例えば、70mgという月々の用量を、70mgの単回ボーラス注射として、任意選択で70mg用量を含有する自己注射器、ペン型注射器、もしくは充填済シリンジを用いて、患者に投与することができる。ある特定の実施形態において、月々の用量は、2回以上の順次注射で与えられる。例として、70mgという月々の用量を、35mgの順次注射2回で、任意選択で35mg用量を含有する2つの注射装置(例えば、自己注射器、ペン型注射器、もしくは充填済シリンジ)を用いて、患者に投与することができる。同様に、140mgという月々の用量を、70mgの順次注射2回で、任意選択で70mg用量を含有する2つの注射装置(例えば、自己注射器、ペン型注射器、もしくは充填済シリンジ)を用いて、患者に投与することができる。1日間以内にあたえられる順次注射は、単回投与であると見なされる。言い換えると、例として、70mgの単回ボーラス注射及び1日間以内で2回の35mgの順次注射は、両方とも、70mg用量の単回投与と見なすことができる。
【0047】
代替実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の用量は、頻回投薬期間の過程に渡り2回以上の投与に分割される。例えば、1ヶ月の頻回投薬期間の場合、月々の用量は、4回の用量に分割して毎週を基準として投与することも可能であるし、2回の用量に分割して2週ごとに投与することも可能である。本明細書中記載される抗CGRP受容体抗体または結合断片のいかなる用量も、2回以上の投与に分割することができる。投与回数及び投与間隔は、特定の患者に合わせて、片頭痛の種類及び重篤度(例えば、反復性か慢性か)、患者の年齢、患者の身体の健康状態、他の医薬との併用治療、及び/または他の症状の存在に応じて、調整することができる。
【0048】
ある特定の実施形態において、本明細書中記載される抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の用量の頻回投薬期間は、月々である。言い換えると、抗CGRP受容体抗体またはその結合断片の投薬量は、月々の投薬量であるが、もっともこれは、単回投与で投与する(すなわち1ヶ月に1回;QM投薬)ことも可能であるし、1ヶ月の過程に渡り複数回に分割する(例えば、2週間ごとに月々の用量の1/2を投与する)ことも可能である。実施形態によっては、投薬頻度は、2ヶ月に1回(Q2M投薬)である。他の実施形態において、投薬頻度は、3ヶ月に1回(Q3M投薬)である。
【0049】
本発明の方法の実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、設定した治療期間の過程に渡り患者に投与される。「治療期間」は、抗CGRP受容体抗体または結合断片の最初の用量の投与から始まり、抗CGRP受容体抗体または結合断片の最終用量の投与で終わる。治療期間は、約1ヶ月間~約36ヶ月間、例えば、約2ヶ月間、約3ヶ月間、約4ヶ月間、約5ヶ月間、約6ヶ月間、約7ヶ月間、約8ヶ月間、約9ヶ月間、約10ヶ月間、約11ヶ月間、約12ヶ月間、約13ヶ月間、約14ヶ月間、約15ヶ月間、約18ヶ月間、約21ヶ月間、約24ヶ月間、約27ヶ月間、約30ヶ月間、または約33ヶ月間などを含むことができる。実施形態によっては、治療期間は、約6ヶ月である。他の実施形態において、治療期間は、約7ヶ月である。さらに他の実施形態において、治療期間は、約12ヶ月である。ある特定の実施形態において、治療期間は、36ヶ月を超えることができ、例えば、48または60または64ヶ月以上である。1つの特定の実施形態において、治療期間は、少なくとも約6ヶ月であり、未治療の対象と比較して、患者の片頭痛の頻度、期間、または重篤度に統計上有意な減少をもたらす。
【0050】
本発明の方法に従って抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与することは、好ましくは、患者に有害副作用をほとんどまたは全く引き起こさない。本明細書中使用される場合、「有害副作用」という用語は、薬物の摂取により引き起こされ得るあらゆる異常性、欠陥、突然変異、病変、変性、有害もしくは望ましくない反応、症候、または損傷を示す。実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与は、他の片頭痛予防的治療(例えばアミトリプチリン、ジバルプロエクス、バルプロ酸、プロプラノロール、チモロール、トピラマート、A型ボツリヌス毒素)と関連する1種または複数の有害副作用を実質的に引き起こさない。他の片頭痛予防的治療と関連した副作用として、疲労、悪心、浮動性めまい、不眠、抑鬱、運動耐容能の低下、振戦、異常知覚、催奇形性、及び認知困難が挙げられるが、これらに限定されない。他の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与は、他の片頭痛予防的治療と関連した有害副作用の発生率または数と比較して、有害副作用の発生率または数が低下減少する。さらに他の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与は、他の片頭痛予防的治療と関連した有害副作用が原因である中止率と比較して、有害副作用が原因である中止率が低下減少する。ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体または結合断片の投与と関連した有害副作用の数及び種類は、プラセボの投与と関連した有害副作用の数及び種類と統計上差がない。実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与は、有害事象共通用語規準v4.0(CTCAE)により評価した場合、グレード2超の有害事象を伴わない。他の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与は、CTCAEにより評価した場合、グレード1超の有害事象を伴わない。
【0051】
ある特定の実施形態において、本発明の方法に従って治療されることになる患者は、反復性片頭痛を有しているか、罹患しているか、または反復性片頭痛と診断されている。反復性片頭痛は、片頭痛歴(例えば、人生で少なくとも5回の片頭痛発作)のある患者において、1ヶ月あたり、本明細書中定義されるとおりの片頭痛日数が14日以下である場合に、そうであると診断される。実施形態によっては、反復性片頭痛を有しているか、罹患しているか、または反復性片頭痛と診断された患者は、1ヶ月あたり平均で、少なくとも4日、しかし15日未満である片頭痛日数を有する。関連実施形態において、反復性片頭痛を有しているか、罹患しているか、または反復性片頭痛と診断された患者は、1ヶ月あたり平均で、15日未満である頭痛日数を有する。本明細書中使用される場合、「頭痛日数」は、患者が、本明細書中定義されるとおりの片頭痛、あるいは30分超続くかまたは急性頭痛治療を必要とするあらゆる頭痛を経験したあらゆるカレンダー上の日付である。実施形態によっては、患者は、高頻度反復性片頭痛を有するかまたは罹患していると分類することができる。高頻度反復性片頭痛は、1ヶ月あたり、8~14日の片頭痛日数を特徴とすることができる。他の実施形態において、患者は、低頻度反復性片頭痛を有するかまたは罹患していると分類することができる。低頻度反復性片頭痛は、1ヶ月あたり、8日未満の片頭痛を特徴とすることができる。
【0052】
実施形態によっては、本発明の方法に従って治療されることになる患者は、慢性片頭痛を有しているか、罹患しているか、または慢性片頭痛と診断されている。片頭痛患者(すなわち、人生で少なくとも5回の片頭痛発作があった患者)において、1ヶ月あたり、頭痛日数が15日以上であり、かつ頭痛日数のうち少なくとも8日は片頭痛日数である場合に、慢性片頭痛であると診断される。実施形態によっては、慢性片頭痛を有しているか、罹患しているか、または慢性片頭痛と診断された患者は、平均で1ヶ月あたり、15日以上の片頭痛日数を有する。本明細書中記載される方法のある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片の投与は、患者の反復性片頭痛が慢性片頭痛に進行するのを、予防、減少、または遅延させる。
【0053】
本明細書中記載される方法のある特定の実施形態において、患者は、治療ナイーブである。1つの実施形態において、患者は、これまでに片頭痛の治療を受けたことがなければ、治療ナイーブである。別の実施形態において、患者は、片頭痛の治療用の治療薬を投与されたことがなければ、治療ナイーブである。実施形態によっては、患者は、これまでに片頭痛の予防的治療を受けたことがなければ、治療ナイーブである。例えば、ある特定の実施形態において、治療ナイーブである患者は、反復性片頭痛の予防的治療のための、先行療法を受けたことがないか、治療薬を投与されたことがない。ある特定の他の実施形態において、治療ナイーブである患者は、慢性片頭痛の予防的治療のための、先行療法を受けたことがないか、治療薬を投与されたことがない。
【0054】
本明細書中記載される方法の実施形態によっては、患者は、少なくとも1種の他の片頭痛予防的治療で失敗しているか、それに対して不耐性である。例えば、1つの特定の実施形態において、患者は、少なくとも1種の片頭痛予防薬を用いた先行療法に反応できなかった。本明細書中使用される場合、「反応に失敗」または「治療失敗」は、予防薬の標準治療レジメン後、患者での片頭痛の頻度、期間、及び/または重篤度の減少に、その予防薬の効果がなかったことを示す。例えば、1つの実施形態において、片頭痛予防薬を用いた先行治療に失敗した患者とは、片頭痛予防薬の投与後、その予防薬を用いた治療前の月々の片頭痛日数と比較して、同数またはそれ以上の月々の片頭痛日数を経験した患者である。別の実施形態において、片頭痛予防薬を用いた先行治療に失敗した患者とは、片頭痛予防薬の投与後、その予防薬を用いた治療前の月々の急性片頭痛専用薬治療日数と比較して、同数またはそれ以上の月々の急性片頭痛専用薬治療日数を経験した患者である。さらに別の実施形態において、片頭痛予防薬を用いた先行治療に失敗した患者とは、片頭痛予防薬の投与後、その予防薬を用いた治療前の片頭痛発作回数と比較して、同数またはそれ以上の片頭痛発作回数を経験した患者である。さらに別の実施形態において、片頭痛予防薬を用いた先行治療に失敗した患者とは、片頭痛予防薬の投与後、MPFIDにより測定した場合、その予防薬を用いた治療前の身体的支障のレベル(例えば、身体的支障のあった月々の平均日数)と比較して、身体的支障のレベルが同レベルまたはそれ以上である患者である。
【0055】
片頭痛予防薬を用いた先行治療に反応するのに失敗するとは、片頭痛予防薬に耐えられないことも含まれる可能性がある。例えば、実施形態によっては、片頭痛予防薬を用いた先行治療に失敗した患者とは、その予防薬と関連した副作用に耐えることができない患者である。そのような実施形態では、予防薬と関連した副作用は、患者が有する別の医学的状態を悪化させるかまたはそのような医学的状態と両立しない場合がある。例として、催奇形性の副作用を有する片頭痛予防薬は、妊娠中の患者では禁忌となる。ある特定の実施形態において、片頭痛予防薬を用いた先行治療に失敗した患者とは、関連副作用が原因で片頭痛予防薬を用いた治療を中止する患者である。これら及び他の実施形態において、片頭痛予防薬を用いた先行治療に失敗した患者とは、副作用の影響の方が片頭痛予防薬の治療効果よりも大きいため、治療中止、治療レジメンの変更、または異なる予防薬への切り替えを選ぶ患者である。
【0056】
片頭痛予防薬として、ベータ遮断薬(例えば、プロプラノロール、チモロール、アテノロール、メトプロロール、及びナドロール)、抗癲癇薬(例えば、ジバルプロエクス、バルプロ酸ナトリウム、バルプロ酸、トピラマート、及びガバペンチン)、三環系抗鬱薬(例えば、アミトリプチリン、ノルトリプチリン、ドキセピン、及びフルオキセチン)、ならびにA型ボツリヌス毒素が挙げられるが、これらに限定されない。すなわち、ある特定の実施形態において、本発明の方法に従って治療される患者は、1種または複数のこれら片頭痛予防薬で失敗しているか、これらに対して不耐性である。実施形態によっては、患者は、少なくとも2種の片頭痛予防薬を用いた治療で失敗しているか、その治療に対して不耐性である。他の実施形態において、患者は、少なくとも3種の片頭痛予防薬を用いた治療で失敗しているか、その治療に対して不耐性である。ある特定の実施形態において、患者は、プロプラノロール、チモロール、ジバルプロエクス、バルプロ酸、トピラマート、アミトリプチリン、またはA型ボツリヌス毒素から選択される1種または複数の作用剤を用いた治療で失敗しているか、その治療に対して不耐性である。1つの特定の実施形態において、患者は、トピラマートを用いた治療で失敗しているか、その治療に対して不耐性である。別の特定の実施形態において、患者は、プロプラノロールを用いた治療で失敗しているか、その治療に対して不耐性である。さらに別の特定の実施形態において、患者は、アミトリプチリンを用いた治療で失敗しているか、その治療に対して不耐性である。
【0057】
実施形態によっては、患者は、2種の異なるクラスの片頭痛予防薬を用いた治療で失敗しているか、その治療に対して不耐性である。例えば、1つの実施形態において、患者は、抗癲癇薬(例えばトピラマート)及びベータ遮断薬(例えばプロプラノロール)を用いた治療で失敗している場合があるか、その治療に対して不耐性である。別の実施形態において、患者は、抗癲癇薬(例えばトピラマート)及び抗鬱薬(例えばアミトリプチリン)を用いた治療で失敗している場合があるか、その治療に対して不耐性である。さらに別の実施形態において、患者は、ベータ遮断薬(例えばプロプラノロール)及び抗鬱薬(例えばアミトリプチリン)を用いた治療で失敗している場合があるか、その治療に対して不耐性である。ある特定の実施形態において、患者は、3種の異なるクラスの片頭痛予防薬を用いた治療で失敗しているか、その治療に対して不耐性である。そのような実施形態において、患者は、抗癲癇薬(例えばトピラマート)、ベータ遮断薬(例えばプロプラノロール)、及び抗鬱薬(例えばアミトリプチリン)を用いた治療で失敗しているか、その治療に対して不耐性である。
【0058】
本明細書中記載される方法は、他の種類の頭痛障害、例えば緊張型頭痛、群発性頭痛、片麻痺性片頭痛、及び網膜片頭痛などにも適用可能である。したがって、本発明は、上記頭痛障害のいずれかを、予防的治療も含めて、治療するか、または予防する必要がある患者に、本明細書中記載される投薬レジメンのいずれかを用いて、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与することにより、上記頭痛障害のいずれかを、予防的治療も含めて、治療するか、または予防する方法も提供する。
【0059】
本明細書中記載される方法は、患者に、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を投与することを含む。「抗体」という用語は、本明細書中使用される場合、任意のアイソタイプのインタクト免疫グロブリン、または標的抗原との特異的結合に関してインタクト抗体と競合することが可能なその抗原結合断片を示し、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、二重特異性抗体、及び多価抗体が挙げられる。抗体の構造単位は、典型的には、1つまたは複数の四量体を含み、それぞれが、2つの同一ポリペプチド鎖カプレットで構成されるが、ある種の哺乳類は、1本の重鎖のみを有する抗体も産生する。典型的抗体において、各対すなわちカプレットは、1本の全長「軽」鎖(ある特定の実施形態において、約25kDa)及び1本の全長「重」鎖(ある特定の実施形態において、約50~70kDa)を含む。個々の免疫グロブリン鎖は、それぞれ、複数の「免疫グロブリンドメイン」で構成され、各ドメインはおおよそ90~110のアミノ酸からなり、特徴的な折畳みパターンを表す。これらのドメインは、抗体ポリペプチドを構成する基本単位である。各鎖のアミノ末端部分は、典型的には、抗原認識を担う可変ドメインを含む。カルボキシ末端部分は、鎖の他方の末端よりも進化的に保存されていて、「定常領域」または「C領域」と称する。ヒト軽鎖は、一般に、カッパ軽鎖及びラムダ軽鎖に分類され、これらはそれぞれが1つの可変ドメイン及び1つの定常ドメインを含有する。重鎖は、典型的には、ミュー鎖、デルタ鎖、ガンマ鎖、アルファ鎖、またはイプシロン鎖に分類され、これらは、抗体のアイソタイプを、それぞれ、IgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEと定める。IgGは、複数のサブタイプを有し、サブタイプとしてIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4が挙げられるが、これらに限定されない。IgMのサブタイプとして、IgM、及びIgM2が挙げられる。IgAのサブタイプとして、IgA1及びIgA2が挙げられる。ヒトでは、IgA及びIgDアイソタイプは、4つの重鎖及び4つの軽鎖を含有し;IgG及びIgEアイソタイプは、2つの重鎖及び2つの軽鎖を含有し;ならびにIgMアイソタイプは、5つの重鎖及び5つの軽鎖を含有する。重鎖C領域は、典型的には、エフェクター機能を担う可能性があるドメインを1つまたは複数含む。重鎖定常領域ドメインの数は、アイソタイプに依存することになる。IgG重鎖は、例えば、それぞれが、3つのC領域ドメインを含有し、これらはCH1、CH2、及びCH3として知られる。本発明の方法に採用することが可能な抗体は、これらのアイソタイプ及びサブタイプのいずれを有することもできる。ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体は、IgG1、IgG2、またはIgG4サブタイプのものである。1つの特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体は、IgG2抗体(例えば、ヒトIgG2定常ドメインを含む)である。別の特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体は、IgG1抗体(例えば、ヒトIgG1定常ドメインを含む)である。
【0060】
全長軽鎖及び全長重鎖において、可変領域と定常領域は、約12以上のアミノ酸からなる「J」領域により接続されており、重鎖は、約10以上のアミノ酸からなる「D」領域も含む。例えば、Fundamental Immunology, 2nd ed., Ch. 7 (Paul, W., ed.)1989, New York: Raven Pressを参照(本明細書により、あらゆる目的で、そのまま全体が参照として援用される)。各軽/重鎖対の可変領域は、典型的には、抗原結合部位を形成する。免疫グロブリン鎖の可変領域は、一般に、同じ全体構造を表し、3つの超可変領域により接続された比較的保存されたフレームワーク領域(FR)を含むが、これらは「相補性決定領域」すなわちCDRと呼ばれることの方が多い。各重鎖軽鎖対の2つの鎖のCDRは、典型的には、フレームワーク領域で整列して、標的タンパク質(例えば、CGRP受容体)の特定エピトープと特異的に結合する構造を形成する。N末端からC末端に向かって、天然に存在する軽鎖及び重鎖可変領域は、両方とも、典型的には、以下のエレメントが以下の通りに並んでいる:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4。これらのドメインのそれぞれにおいて各位置を占めるアミノ酸に番号を割り振るための付番体系が考案されている。この付番体系は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest (1987及び1991, NIH, Bethesda, MD)、またはChothia & Lesk, 1987, J. Mol. Biol. 196:901-917;Chothia et al., 1989, Nature 342:878-883で定義されている。
【0061】
「結合断片」という用語は、本明細書中、「抗原結合断片」という用語と同義で使用され、全長重鎖及び/または全長軽鎖に存在するアミノ酸のうち少なくともあるものを欠いているが、抗原と特異的に結合できる抗体部分(その部分が、得られるものであるか合成されるものであるかを問わない)を示す。そのような断片は、標的抗原と特異的に結合し、所定のエピトープに対する特異的結合についてインタクト抗体をはじめとする他の抗原結合タンパク質と競合できるという点で、生物学的に活性である。1つの態様において、そのような断片は、全長軽鎖または全長重鎖に存在する少なくとも1つのCDRを保持し、実施形態によっては、1本の重鎖及び/または軽鎖またはその一部分を含む。こうした生物学的に活性な断片は、組換えDNA技法により製造される場合もあるし、インタクト抗体をはじめとする抗原結合タンパク質の酵素または化学切断により製造される場合もある。免疫学的に機能性の免疫グロブリン断片として、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、ドメイン抗体、及び一本鎖抗体が挙げられるがこれらに限定されず、こうした免疫グロブリン断片は任意の哺乳類源に由来するものでよく、そのような哺乳類源として、ヒト、マウス、ラット、ラクダ、またはウサギが挙げられるがこれらに限定されない。
【0062】
抗体結合断片は、合成タンパク質でも、遺伝子操作されたタンパク質でもよい。例えば、抗体結合断片として、軽鎖可変領域からなる単離された断片、重鎖及び軽鎖の可変領域からなる「Fv」断片、ならびに軽鎖及び重鎖可変領域をペプチドリンカーで接続してある組換え一本鎖ポリペプチド分子(scFvタンパク質)が挙げられる。抗体結合断片の別の形態は、抗体の1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)を含むペプチドである。CDR(「最小認識単位」または「超可変領域」とも呼ばれる)は、例えば、興味対象のCDRをコードするポリヌクレオチドを構築することにより、得られる。そのようなポリヌクレオチドは、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応法を用いて、抗体産生細胞のmRNAをテンプレートに用いて可変領域を合成することにより、調製される(例えば、Larrick et al., Methods: A Companion to Methods in Enzymology, 2:106 (1991);Courtenay-Luck, ‘‘Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies,’’ in Monoclonal Antibodies Production, Engineering and Clinical Application, Ritter et al. (eds.), page 166, Cambridge University Press (1995);及びWard et al., ‘‘Genetic Manipulation and Expression of Antibodies,’’ in Monoclonal Antibodies: Principles and Applications, Birch et al., (eds.), page 137, Wiley-Liss, Inc.(1995)を参照)。
【0063】
本発明の方法で使用される抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、ヒトCGRP受容体と特異的に結合する。ヒトCGRP受容体は、ヒトカルシトニン受容体様受容体(CRLR)ポリペプチド及びヒト受容体活性調節タンパク質1(RAMP1)ポリペプチドを含むヘテロ二量体である。実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、CRLR及びRAMP1の細胞外ドメインの領域と特異的に結合する。ヒトCRLR及びRAMP1に関する例示の細胞外ドメイン及び全長タンパク質のアミノ酸配列を、以下の表に提示する。
【表1】
【0064】
抗体または結合断片は、解離定数(KD)が≦10-6Mである場合に、その標的と「特異的に結合する」と言われる。抗体または結合断片は、KDが≦1×10-8Mである場合に、標的抗原と「高い親和性で」特異的に結合する。1つの実施形態において、抗体または結合断片は、ヒトCGRP受容体と、KD≦5×10-7Mで結合する。別の実施形態において、抗体または結合断片は、ヒトCGRP受容体と、KD≦1×10-7Mで結合する。なお別の実施形態において、抗体または結合断片は、ヒトCGRP受容体と、KD≦5×10-8Mで結合する。別の実施形態において、抗体または結合断片は、ヒトCGRP受容体と、KD≦1×10-8Mで結合する。別の実施形態において、抗体または結合断片は、ヒトCGRP受容体と、KD≦5×10-9Mで結合する。ある特定の実施形態において、抗体または結合断片は、ヒトCGRP受容体と、KD≦1×10-9Mで結合する。他の実施形態において、抗体または結合断片は、ヒトCGRP受容体と、KD≦5×10-10Mで結合する。なお他の実施形態において、抗体または結合断片は、ヒトCGRP受容体と、KD≦1×10-10Mで結合する。親和性は、様々な技法を用いて決定され、そのような技法の例として親和性ELISAアッセイがある。様々な実施形態において、親和性は、BIAcoreアッセイにより決定される。実施形態によっては、親和性は、動態学的方法により決定される。他の実施形態において、親和性は、平衡/溶液方法により決定される。ある特定の実施形態において、親和性は、FACS結合アッセイにより決定される。WO2010/075238は、抗CGRP受容体抗体について親和性を決定するのに適した親和性アッセイを記載し、これは本明細書によりそのまま全体が参照として援用される。
【0065】
ある特定の実施形態において、本明細書中記載される方法で採用される抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、ヒトCRLRポリペプチド及びヒトRAMP1ポリペプチド両方中の残基もしくは残基の配列または領域と特異的に結合する。1つの特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、ヒトCRLRポリペプチド及びヒトRAMP1ポリペプチド両方中のアミノ酸から形成されたエピトープと特異的に結合する。「エピトープ」は、抗体またはその抗原結合断片と、あるいはT細胞受容体と特異的に結合することができる任意の決定基を示す。エピトープは、近接でも非近接(例えば、(i)一本鎖ポリペプチドでは、ポリペプチド配列中、互いに近接していないが、分子という観点の中で抗原結合タンパク質により結びつけられるアミノ酸残基、あるいは(ii)例えば、2つ以上の個別の構成要素を含む多量体タンパク質では、個別の構成要素のうち2つ以上に存在するアミノ酸残基であるが、多量体タンパク質という観点の中で抗体または抗原結合タンパク質により結びつけられるアミノ酸残基)でもよい。実施形態によっては、ヒトCRLRポリペプチド及びヒトRAMP1ポリペプチド両方中のアミノ酸から形成されたエピトープは、AspNプロテアーゼにより切断される部位を1つまたは複数含み、AspNプロテアーゼは、アミノ末端におけるアスパラギン酸残基及びあるグルタミン酸残基のアミノ末端側でペプチドを切断する。
【0066】
ある特定の実施形態において、本発明の方法で使用される抗CGRP受容体抗体または結合断片は、配列番号3のアミノ酸配列を含むヒトCRLRポリペプチドの細胞外ドメインと特異的に結合する。あるいはまたはそれに加えて、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、配列番号4のアミノ酸配列を含むヒトRAMP1ポリペプチドの細胞外ドメインと特異的に結合する。実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、配列番号5(DSIQLGVTRNKIMTAQY;配列番号3のアミノ酸8~24位に該当)、配列番号6(DVAAGTESMQLCP;配列番号3のアミノ酸55~67位に該当)、配列番号7(DGNWFRHPASNRTWTNYTQCNVNTH;配列番号3のアミノ酸86~110位に該当)、配列番号8(ECYQKIMQ;配列番号3のアミノ酸25~32位に該当)、または配列番号9(DGWLCWN;配列番号3のアミノ酸48~54位に該当)から選択されるヒトCRLRポリペプチド内の少なくとも1つの配列と特異的に結合する。例えば、実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体は、配列番号5~9を含む配列番号3のヒトCRLRポリペプチドの小領域と、任意選択でその生得の三次元高次構造において結合する。あるいはまたはそれに加えて、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、配列番号10(RELADCTWHMAE;配列番号4のアミノ酸41~52位に該当)、配列番号11(DWGRTIRSYRELA;配列番号4のアミノ酸32~44位に該当)、配列番号12(ELCLTQFQV;配列番号4のアミノ酸12~20位に該当)、または配列番号13(DCTWHMA;配列番号4のアミノ酸45~51位に該当)から選択されるヒトRAMP1ポリペプチド内の少なくとも1つの配列と特異的に結合する。実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体は、配列番号10~13を含む配列番号4のヒトRAMP1ポリペプチドの小領域と、任意選択でその天然の三次元高次構造において結合する。
【0067】
ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、及び配列番号9のアミノ酸配列を有するヒトCRLRポリペプチドと特異的に結合し、配列番号6と7は、配列番号3に関して66位及び105位のアミノ酸でジスルフィド結合により接続されており、配列番号8と9は、配列番号3に関して26位及び52位のアミノ酸でジスルフィド結合により接続されており、任意選択で、ポリペプチドは、配列番号3のヒトCRLRの該当するポリペプチド領域の立体構造を保持する。実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、配列番号12及び配列番号13のアミノ酸配列を有するヒトRAMP1ポリペプチドと特異的に結合し、これらの配列は、配列番号4に関して14位及び46位のアミノ酸でジスルフィド結合により接続されており、任意選択で、ポリペプチドは、配列番号4のヒトRAMP1の該当するポリペプチド領域の立体構造を保持する。特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、ヒトCRLRポリペプチド及びヒトRAMP1ポリペプチドと特異的に結合し、ヒトCRLRポリペプチドは、配列番号6、配列番号7、配列番号8、及び配列番号9のアミノ酸配列を有し、配列番号6と7は、配列番号3に関して66位及び105位のアミノ酸でジスルフィド結合により接続されており、配列番号8と9は、配列番号3に関して26位及び52位のアミノ酸でジスルフィド結合により接続されており、かつヒトRAMP1ポリペプチドは、配列番号12及び配列番号13のアミノ酸配列を有し、配列番号12と13は、配列番号4に関して14位及び46位のアミノ酸でジスルフィド結合により接続されている。そのような実施形態において、ヒトCRLRポリペプチド及びヒトRAMP1ポリペプチドは、それぞれ、配列番号3及び4のヒトCRLRポリペプチド及びヒトRAMP1ポリペプチドの該当する領域の立体構造を保持する。関連実施形態において、ヒトCRLRポリペプチド及びヒトRAMP1ポリペプチドは、ヘテロ二量体を形成する。
【0068】
本発明の方法で使用するのに適した抗CGRP受容体抗体または結合断片は、好ましくは、ヒトCGRP受容体の1つまたは複数の生物学的活性を阻害、そのような活性に干渉、またはそのような活性を調節する。ヒトCGRP受容体の生物学的活性として、CGRP受容体シグナル伝達経路の誘導、血管拡張の誘導、血管収縮の阻害、及び炎症、例えば、神経原性炎症の誘導が挙げられるが、これらに限定されない。実施形態によっては、抗CGRP受容体またはその抗原結合断片は、ヒトCGRP受容体とCGRPリガンドとの結合を実質的に阻害する。「結合の実質的阻害」は、例えば、in vitro競合結合アッセイで結合を測定して、過剰な抗体またはその抗原結合断片が、CGRPと結合したヒトCGRP受容体またはその逆の量を、少なくとも約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約97%、約99%、またはそれ以上に低下させる場合に、起こる。
【0069】
ある特定の実施形態において、本明細書中記載される方法で使用するための抗CGRP受容体抗体または結合断片は、ヒトアドレノメデュリン1(AM1)、アドレノメデュリン2(AM2)、またはアミリン受容体(例えばヒトAMY1受容体)と比較して、選択的にヒトCGRP受容体を阻害する。ヒトAM1受容体は、ヒトCRLRポリペプチド及びRAMP2ポリペプチドで構成されるが、ヒトAM2受容体は、ヒトCRLRポリペプチド及びRAMP3ポリペプチドで構成される。すなわち、CRLRにのみ結合する(及びRAMP1には結合しない)抗体または他の結合タンパク質は、CGRP受容体を選択的に阻害することは期待できないと思われる。なぜなら、CRLRポリペプチドは、AM1受容体及びAM2受容体の構成要素でもあるからである。ヒトアミリン(AMY)受容体は、ヒトカルシトニン受容体(CT)ポリペプチドと、及びRAMP1、RAMP2、またはRAMP3サブユニットのうち1つとで構成される。具体的には、ヒトAMY1受容体は、CTポリペプチド及びRAMP1ポリペプチドで構成され、ヒトAMY2受容体は、CTポリペプチド及びRAMP2ポリペプチドで構成され、ヒトAMY3受容体は、CTポリペプチド及びRAMP3ポリペプチドで構成される。すなわち、RAMP1にのみ結合する(及びCRLRには結合しない)抗体または他の結合タンパク質は、CGRP受容体を選択的に阻害することは期待できないと思われる。なぜならRAMP1ポリペプチドは、ヒトAMY1受容体の構成要素でもあるからである。
【0070】
特定受容体の阻害アッセイでの抗体またはその抗原結合断片のIC50が、別の「基準」受容体の阻害アッセイでのIC50より少なくとも50倍低い場合、その抗体またはその抗原結合断片は、他の受容体と比較して、その特定受容体を「選択的に阻害する」。「IC50」は、所定の生物学的過程を半分阻害するのに必要とされる薬物または物質の量である。任意の特定物質またはアンタゴニストについてそのIC50は、用量反応曲線を構築し、特定の機能アッセイでアゴニスト活性の反転に対する薬物またはアンタゴニストの濃度変化の影響を試験することにより求めることができる。IC50値は、アゴニストの最大生物学的反応の半分を阻害するのに必要な濃度を求めることにより、所定のアンタゴニストまたは薬物について計算することができる。すなわち、任意の抗CGRP抗体または結合断片についてIC50値を、任意の機能アッセイでCGRP受容体の活性化におけるCGRPリガンドの最大生物学的反応の半分を阻害するのに必要なその抗体または結合断片の濃度を求めることにより、計算することができる。
【0071】
「選択率」は、基準受容体のIC50を特定受容体のIC50で割ったものである。機能性CGRP受容体アッセイ、例えば環状AMP(cAMP)アッセイでの抗体またはその抗原結合断片のIC50が、ヒトAM1、ヒトAM2、またはヒトアミリン受容体(例えば、AMY1)の阻害アッセイでの同一抗体またはその抗原結合断片のIC50より少なくとも50倍低い場合、その抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、ヒトCGRP受容体を選択的に阻害する。限定ではなく例として、ヒトCGRP受容体のcAMPアッセイにおける特定抗CGRP受容体抗体のIC50が、例えば、0.1nM~20nMであり、ヒトAM1、ヒトAM2、またはヒトAMY1受容体のcAMPアッセイにおける同一抗体のIC50が、1000nM以上である場合、その抗体は、ヒトCGRP受容体を選択的に阻害すると見なされる。選択的阻害の度合いは、任意の適切なCGRP受容体機能アッセイ、例えばWO2010/075238の実施例4に記載されるとおりのcAMPアッセイなどを用いて求めることができ、WO2010/075238は、本明細書によりそのまま全体が参照として援用される。特定受容体を選択的に阻害する抗体またはその抗原結合断片は、その受容体に関して中和抗体または抗原結合断片であると受け取ることもできる。ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、ヒトAM1、ヒトAM2、及び/またはヒトAMY1受容体に対して、例えば、100以上、250以上、500以上、750以上、1,000以上、2,500以上、5,000以上、または10,000以上の選択率で、ヒトCGRP受容体を選択的に阻害することができる。1つの実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、ヒトAM1、ヒトAM2、及び/またはヒトAMY1受容体に対して、100以上の選択率で、ヒトCGRP受容体を選択的に阻害することができる。別の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、ヒトAM1、ヒトAM2、及び/またはヒトAMY1受容体に対して、500以上の選択率で、ヒトCGRP受容体を選択的に阻害することができる。
【0072】
実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、ヒトCRLRポリペプチド及びヒトRAMP1ポリペプチドの両方と特異的に結合し、ヒトAM1、ヒトAM2、及び/またはヒトアミリン受容体(例えば、AMY1またはAMY2)とは特異的に結合しない。例えば、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、KD≦1μM、≦100nM、≦10nM、または≦5nMでヒトCGRP受容体と特異的に結合することができる。実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、例えば、Rathanaswami, et al., Biochemical and Biophysical Research Communications 334 (2005) 1004-1013に記載される方法を用いて、FACS結合アッセイを用いて測定及び分析した場合、KD≦100nM、≦10nM、または≦5nMでヒトCGRP受容体と特異的に結合する。ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、KD≦100nMでヒトCGRP受容体と特異的に結合する。他の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、KD≦10nMでヒトCGRP受容体と特異的に結合する。
【0073】
ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、CGRP結合競合アッセイにおいて≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.5nM、または≦0.1nMのKiを有する。「Ki」は、阻害試験で求められるリガンドの平衡解離定数を示す。所定のリガンドについてのKiは、典型的には、放射標識リガンドでの競合結合試験で、平衡条件下、興味対象の物質との競合による基準放射標識リガンドの結合の阻害を測定することにより、求められる。リガンド/受容体相互作用の阻害剤を評価するための結合競合アッセイは、当業者に公知であり、そのようなアッセイとして、放射標識リガンド(例えば放射標識CGRP)及び受容体(例えばヒトCGRP受容体)を発現する細胞を使用するアッセイを挙げることができる。実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片のKiは、放射標識125I-CGRP結合競合アッセイを使用して測定され、このアッセイでは、ヒトCGRP受容体を発現する細胞から得られた膜に対する放射標識リガンドの結合を評価する。この種のアッセイを行うためのプロトコル例は、WO2010/075238の実施例5に記載されており、WO2010/075238は本明細書によりそのまま全体が参照として援用される。1つの実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、CGRP結合競合アッセイで10nM未満のKiを有する。別の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、CGRP結合競合アッセイで1nM未満のKiを有する。
【0074】
本発明の方法で使用するのに適した抗CGRP受容体抗体またはその結合断片の例はWO2010/075238に記載されており、WO2010/075238は本明細書によりそのまま全体が参照として援用される。1つの実施形態において、本明細書中記載される方法に採用される抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、抗体1E11、1H7、2E7、3B6、3C8、4E4、4H6、5F5、9D4、9F5、10E4、11D11、11H9、12E8、12G8、13H2、及び32H7(これらはすべて本明細書中及びWO2010/075238に記載される)のうち少なくとも1種とヒトCGRP受容体との結合を交差遮断する。あるいはまたはこれに加えて、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、抗体1E11、1H7、2E7、3B6、3C8、4E4、4H6、5F5、9D4、9F5、10E4、11D11、11H9、12E8、12G8、13H2、及び32H7(これらはすべて本明細書中さらに記載される)のうち少なくとも1種により、ヒトCGRP受容体との結合が交差遮断される。これらの抗体はすべて、ヒトCGRP受容体の中和抗体であること、及び非中和抗体が結合する受容体中の領域とは異なる領域であってヒトCGRP受容体の本質的に同一な領域と結合することが、確定したものである。WO2010/075238の実施例7を参照。「交差遮断する(cross-block)」、「交差遮断された(cross-blocked)」、及び「交差遮断の(cross-blocking)」という用語は、本明細書中、同義で使用され、ある抗体が持つ、他の抗体または結合断片とヒトCGRP受容体との結合に干渉する能力を意味する。抗体または結合断片が、別のものとヒトCGRP受容体との結合にどの程度干渉できるか、したがってそれを、交差遮断すると言えるかどうかは、競合結合アッセイを用いて決定することができる。実施形態によっては、交差遮断抗体またはその抗原結合断片は、基準抗体のヒトCGRP受容体結合を約40%~100%、例えば約60%~約100%、具体的には約70%~100%、より具体的には約80%~100%減少させる。交差遮断を検出するのに特に適した定量的アッセイは、Biacore装置を使用し、この装置は、表面プラズモン共鳴技術を用いて相互作用の度合いを測定する。別の適切な定量的交差遮断アッセイは、FACSを利用したアプローチを用いて、抗体とヒトCGRP受容体との結合に関して抗体間の競合を測定する。
【0075】
本明細書中開示される方法で使用するための抗CGRP受容体抗体及びその結合断片は、1つの重鎖CDR1(「CDRH1」)、及び/または1つの重鎖CDR2(「CDRH2」)、及び/または1つの重鎖CDR3(「CDRH3」)、及び/または1つの軽鎖CDR1(「CDRL1」)、及び/または1つの軽鎖CDR2(「CDRL2」)、及び/または1つの軽鎖CDR3(「CDRL3」)を含むことができる。実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、CDRH1、CDRH2、及びCDRH3を含む少なくとも1つの重鎖可変領域、ならびにCDRL1、CDRL2、及びCDRL3を含む少なくとも1つの軽鎖可変領域を含む。具体的な重鎖及び軽鎖CDRを、それぞれ、表2及び表3にまとめる。
【0076】
所定の抗体の相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)は、KabatらによりSequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed., US Dept. of Health and Human Services, PHS, NIH, NIH Publication no. 91-3242, 1991に記載される体系を用いて同定することができる。本明細書中開示される特定の抗体及び結合断片は、表2(重鎖CDR、すなわちCDRH)及び表3(軽鎖CDR、すなわちCDRL)に提示されるCDRのうち1つまたは複数のもののアミノ酸配列と同一であるか、実質的な配列同一性を有するアミノ酸配列を、1つまたは複数含む。
【表2】
【表3】
【0077】
実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその結合断片は、(i)配列番号14~22からなる群より選択されるCDRH1;(ii)配列番号23~33からなる群より選択されるCDRH2;(iii)配列番号34~43からなる群より選択されるCDRH3;ならびに(iv)(i)、(ii)、及び(iii)のCDRHで、その中に1つまたは複数の、例えば、1つ、2つ、3つ、4つ以上のアミノ酸置換(例えば、保存的アミノ酸置換)、削除、あるいは5つ以下、4つ以下、3つ以下、2つ以下、または1つ以下のアミノ酸挿入があるもの、から選択される1つまたは複数の重鎖CDRを含む。これら及び他の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその結合断片は、(i)配列番号44~54からなる群より選択されるCDRL1;(ii)配列番号55~64からなる群より選択されるCDRL2;(iii)配列番号65~74からなる群より選択されるCDRL3;ならびに(iv)(i)、(ii)、及び(iii)のCDRLで、その中に1つまたは複数の、例えば、1つ、2つ、3つ、4つ以上のアミノ酸置換(例えば、保存的アミノ酸置換)、削除、あるいは5つ以下、4つ以下、3つ以下、2つ以下、または1つ以下のアミノ酸挿入があるもの、から選択される1つまたは複数の軽鎖CDRを含む。
【0078】
ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその結合断片は、表2及び表3に列挙されるCDRの変異型を1、2、3、4、5、または6つ含む場合があり、変異型はそれぞれ、表2及び表3に列挙されるCDR配列と、少なくとも80%、85%、90%、または95%配列同一性を有する。抗CGRP受容体抗体またはその結合断片によっては、表2及び表3に列挙されるCDRを1、2、3、4、5、または6つ含み、これらCDRはそれぞれ、表2及び表3に列挙されるCDR配列と、1つ、2つ、3つ、4つ、または5つ以下のアミノ酸が異なっている。
【0079】
実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、CDRH1、CDRH2、及びCDRH3を含む重鎖可変領域を含み、この場合:
(a)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号14、23、及び34の配列を有する;
(b)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号15、24、及び35の配列を有する;
(c)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号16、25、及び36の配列を有する;
(d)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号17、26、及び37の配列を有する;
(e)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号18、27、及び38の配列を有する;
(f)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号15、29、及び35の配列を有する;
(g)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号20、30、及び40の配列を有する;
(h)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号15、31、及び35の配列を有する;
(i)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号14、23、及び41の配列を有する;
(j)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号21、32、及び42の配列を有する;
(k)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号22、33、及び43の配列を有する;または
(l)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号19、28、及び39の配列を有する。
【0080】
実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、CDRL1、CDRL2、及びCDRL3を含む軽鎖可変領域を含み、この場合:
(a)CDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号44、55、及び65の配列を有する;
(b)CDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号45、56、及び66の配列を有する;
(c)CDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号46、57、及び67の配列を有する;
(d)CDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号47、58、及び68の配列を有する;
(e)CDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号48、59、及び69の配列を有する;
(f)CDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号49、60、及び70の配列を有する;
(g)CDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号50、59、及び69の配列を有する;
(h)CDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号45、61、及び66の配列を有する;
(i)CDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号51、62、及び71の配列を有する;
(j)CDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号52、59、及び69の配列を有する;
(k)CDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号53、63、及び72の配列を有する;
(l)CDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号54、64、及び73の配列を有する;または
(m)CDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号54、64、及び74の配列を有する。
【0081】
ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、CDRH1、CDRH2、及びCDRH3を含む重鎖可変領域、ならびにCDRL1、CDRL2、及びCDRL3を含む軽鎖可変領域を含み、この場合:
(a)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号14、23、及び34の配列を有し、かつCDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号44、55、及び65の配列を有する;
(b)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号14、23、及び41の配列を有し、かつCDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号44、55、及び65の配列を有する;
(c)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号15、24、及び35の配列を有し、かつCDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号45、56、及び66の配列を有する;
(d)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号15、29、及び35の配列を有し、かつCDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号45、61、及び66の配列を有する;
(e)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号15、31、及び35の配列を有し、かつCDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号45、61、及び66の配列を有する;
(f)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号16、25、及び36の配列を有し、かつCDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号46、57、及び67の配列を有する;
(g)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号17、26、及び37の配列を有し、かつCDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号47、58、及び68の配列を有する;
(h)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号18、27、及び38の配列を有し、かつCDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号48、59、及び69の配列を有する;
(i)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号18、27、及び38の配列を有し、かつCDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号50、59、及び69の配列を有する;
(j)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号19、28、及び39の配列を有し、かつCDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号49、60、及び70の配列を有する;
(k)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号20、30、及び40の配列を有し、かつCDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号51、62、及び71の配列を有する;
(l)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号21、32、及び42の配列を有し、かつCDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号53、63、及び72の配列を有する;
(m)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号22、33、及び43の配列を有し、かつCDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号54、64、及び73の配列を有する;または
(n)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号22、33、及び43の配列を有し、かつCDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号54、64、及び74の配列を有する;または
(o)CDRH1、CDRH2、及びCDRH3は、それぞれ、配列番号18、27、及び38の配列を有し、かつCDRL1、CDRL2、及びCDRL3は、それぞれ、配列番号52、59、及び69の配列を有する。
【0082】
実施形態によっては、本発明の方法で使用される抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、配列番号14の配列を有するCDRH1、配列番号23の配列を有するCDRH2、配列番号34の配列を有するCDRH3、配列番号44の配列を有するCDRL1、配列番号55の配列を有するCDRL2、及び配列番号65の配列を有するCDRL3を含む。他の実施形態において、本発明の方法で使用される抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、配列番号15の配列を有するCDRH1、配列番号29の配列を有するCDRH2、配列番号35の配列を有するCDRH3、配列番号45の配列を有するCDRL1、配列番号61の配列を有するCDRL2、及び配列番号66の配列を有するCDRL3を含む。
【0083】
本明細書中記載される方法のある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、以下の表4に示されるとおりの、V
H1、V
H2、V
H3、V
H4、V
H5、V
H6、V
H7、V
H8、V
H9、V
H10、V
H11、V
H12、及びV
H13からなる群より選択される重鎖可変領域、及び/またはV
L1、V
L2、V
L3、V
L4、V
L5、V
L6、V
L7、V
L8、V
L9、V
L10、V
L11、V
L12、V
L13、V
L14、V
L15、V
L16、及びV
L17からなる群より選択される軽鎖可変領域、ならびにこれら軽鎖及び重鎖可変領域の免疫学的機能断片、誘導体、変異体(mutein)、及び変形体(variant)を含む。
【表4】
【0084】
表4に列挙した重鎖可変領域はそれぞれ、表4に示した軽鎖可変領域のどれとでも組み合わせて、本発明の方法で使用するのに適した抗CGRP受容体抗体または結合断片を形成することができる。そのような組み合わせの例として、VH1と、VL1、VL2、VL3、VL4、VL5、VL6、VL7、VL8、VL9、VL10、VL11、VL12、VL13、VL14、VL15、VL16、またはVL17のいずれかとの組み合わせ;VH2と、VL1、VL2、VL3、VL4、VL5、VL6、VL7、VL8、VL9、VL10、VL11、VL12、VL13、VL14、VL15、VL16、またはVL17のいずれかとの組み合わせ;VH3と、VL1、VL2、VL3、VL4、VL5、VL6、VL7、VL8、VL9、VL10、VL11、VL12、VL13、VL14、VL15、VL16、またはVL17のいずれかとの組み合わせ;などが挙げられる。
【0085】
実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、表4に列挙したものの中から少なくとも1つの重鎖可変領域及び/または1つの軽鎖可変領域を含む。ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、表4に列挙したものの中から少なくとも2つの異なる重鎖可変領域及び/または軽鎖可変領域を含む。そのような抗CGRP受容体抗体または結合断片の例は、(a)1つのVH1、及び(b)VH2、VH3、VH4、VH5、VH6、VH7、VH8、VH9、VH10、VH11、VH12、またはVH13のうち1つを含む。別の例は、(a)1つのVH2、及び(b)VH1、VH3、VH4、VH5、VH6、VH7、VH8、VH9、VH10、VH11、VH12、またはVH13のうち1つを含む。さらに別の例は、(a)1つのVH3、及び(b)VH1、VH2、VH4、VH5、VH6、VH7、VH8、VH9、VH10、VH11、VH12、またはVH13のうち1つを含む、などである。そのような抗CGRP受容体抗体または結合断片のさらに別の例は、(a)1つのVL1、及び(b)VL2、VL3、VL4、VL5、VL6、VL7、VL8、VL9、VL10、VL11、VL12、VL13、VL14、VL15、VL16、またはVL17、VL18、VL19、VL20、またはVL21のうち1つを含む。そのような抗CGRP受容体抗体または結合断片のさらに別の例は、(a)1つのVL2、及び(b)VL1、VL3、VL4、VL5、VL6、VL7、VL8、VL9、VL10、VL11、VL12、VL13、VL14、VL15、VL16、VL17、VL18、VL19、VL20、またはVL21のうち1つを含む。そのような抗CGRP受容体抗体または結合断片のさらに別の例は、(a)1つのVL3、及び(b)VL1、VL2、VL4、VL5、VL6、VL7、VL8、VL9、VL10、VL11、VL12、VL13、VL14、VL15、VL16、VL17、VL18、VL19、VL20、またはVL21のうち1つを含む、などである。様々な組み合わせの重鎖可変領域を、様々な組み合わせの軽鎖可変領域のどれとでも組み合わせられることが、当業者には明らかである。
【0086】
他の実施形態において、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、2つの同一軽鎖可変領域及び/または2つの同一重鎖可変領域を含有する。例として、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、表4に列挙するとおりの軽鎖可変領域の対及び重鎖可変領域の対の組み合わせの中に2つの軽鎖可変領域及び2つの重鎖可変領域を含む。
【0087】
本明細書中記載される方法のある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその結合断片は、VH1、VH2、VH3、VH4、VH5、VH6、VH7、VH8、VH9、VH10、VH11、VH12、及びVH13から選択される重鎖可変ドメインの配列と、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15のアミノ酸残基のみが異なっているアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含み、そのような配列の違いはそれぞれ、独立して、1つのアミノ酸の削除、挿入、及び/または置換のいずれかであり、そのような削除、挿入、及び/または置換は、先にあった可変ドメイン配列に対して15個以下のアミノ酸変化をもたらす。抗CGRP受容体抗体またはその結合断片によっては、その中の重鎖可変領域は、VH1、VH2、VH3、VH4、VH5、VH6、VH7、VH8、VH9、VH10、VH11、VH12、及びVH13の重鎖可変領域のアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、または99%配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0088】
本明細書中記載される方法の実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体またはその結合断片は、VL1、VL2、VL3、VL4、VL5、VL6、VL7、VL8、VL9、VL10、VL11、VL12、VL13、VL14、VL15、VL16、またはVL17から選択される軽鎖可変ドメインの配列と、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15のアミノ酸残基のみが異なっているアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含み、そのような配列の違いはそれぞれ、独立して、1つのアミノ酸の削除、挿入、及び/または置換のいずれかであり、そのような削除、挿入、及び/または置換は、先にあった可変ドメイン配列に対して15個以下のアミノ酸変化をもたらす。抗CGRP受容体抗体またはその結合断片によっては、その中の軽鎖可変領域は、VL1、VL2、VL3、VL4、VL5、VL6、VL7、VL8、VL9、VL10、VL11、VL12、VL13、VL14、VL15、VL16、またはVL17の軽鎖可変領域のアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、または99%配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0089】
ある特定の実施形態において、本発明の方法に使用するのに適した抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、軽鎖可変領域(VL)及び重鎖可変領域(VH)を含み、この場合:
(a)VLは配列番号75の配列を含み、かつVHは配列番号92の配列を含む;
(b)VLは配列番号76の配列を含み、かつVHは配列番号93の配列を含む;
(c)VLは配列番号77の配列を含み、かつVHは配列番号94の配列を含む;
(d)VLは配列番号78の配列を含み、かつVHは配列番号95の配列を含む;
(e)VLは配列番号79の配列を含み、かつVHは配列番号96の配列を含む;
(f)VLは配列番号80の配列を含み、かつVHは配列番号92の配列を含む;
(g)VLは配列番号81の配列を含み、かつVHは配列番号97の配列を含む;
(h)VLは配列番号82の配列を含み、かつVHは配列番号96の配列を含む;
(i)VLは配列番号83の配列を含み、かつVHは配列番号92の配列を含む;
(j)VLは配列番号84の配列を含み、かつVHは配列番号98の配列を含む;
(k)VLは配列番号85の配列を含み、かつVHは配列番号99の配列を含む;
(l)VLは配列番号86の配列を含み、かつVHは配列番号100の配列を含む;
(m)VLは配列番号86の配列を含み、かつVHは配列番号101の配列を含む;
(n)VLは配列番号87の配列を含み、かつVHは配列番号96の配列を含む;
(o)VLは配列番号88の配列を含み、かつVHは配列番号102の配列を含む;
(p)VLは配列番号89の配列を含み、かつVHは配列番号103の配列を含む;
(q)VLは配列番号90の配列を含み、かつVHは配列番号104の配列を含む;または
(r)VLは配列番号91の配列を含み、かつVHは配列番号104の配列を含む。
【0090】
実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、上記対の中の特定可変ドメインと70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、または99%配列同一性を有するアミノ酸配列を含むことができる。1つの特定の実施形態において、本明細書中記載される方法で使用される抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、配列番号92の配列を含む重鎖可変領域及び配列番号80の配列を含む軽鎖可変領域を含む。別の特定の実施形態において、本明細書中記載される方法で使用される抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、配列番号98の配列を含む重鎖可変領域及び配列番号84の配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0091】
本発明の方法で有用な抗CGRP受容体抗体の全長軽鎖及び全長重鎖のいくつか及びそれらの該当するアミノ酸配列の具体例を表5及び表6にまとめる。表5は、重鎖配列の例を示し、表6は、軽鎖配列の例を示す。
【表5】
【表6】
【0092】
シグナルペプチド配列、例えば、ある種の宿主細胞における重鎖及び軽鎖配列の発現を促進するためのものを、表5及び表6に列挙される重鎖及び軽鎖配列のどれにでも、そのアミノ末端に付加/融合させることができる。例えば、実施形態によっては、MDMRVPAQLLGLLLLWLRGARC(配列番号135)というアミノ酸配列を有するシグナルペプチドを、表5及び表6に列挙される重鎖及び軽鎖配列のいずれかのアミノ末端に融合させる。他の実施形態において、METPAQLLFLLLLWLPDTTG(配列番号136)というアミノ酸配列を有するシグナルペプチドを、表5及び表6に列挙される重鎖及び軽鎖配列のいずれかのアミノ末端に融合させる。他のシグナルペプチドも当業者に既知であり、それらも表5及び表6に列挙される重鎖及び軽鎖のいずれかのアミノ末端に融合させて、例えば、特定の宿主細胞での発現を促進または最適化することができる。
【0093】
表5に列挙される重鎖の例(H1、H2、H3など)はそれぞれ、表6に示される軽鎖の例のどれとでも組み合わせて、本明細書中記載される方法で使用するのに適した抗CGRP受容体抗体を形成することができる。そのような組み合わせの例として、H1と、L1からL17までのいずれかとの組み合わせ;H2と、L1からL17までのいずれかとの組み合わせ;H3と、L1からL17までのいずれかとの組み合わせ、などが挙げられる。実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体は、表5及び表6に列挙されるものの中から少なくとも1つの重鎖及び1つの軽鎖を含む。実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体は、表5及び表6に列挙される2つの異なる重鎖及び2つの異なる軽鎖を含む。他の実施形態において、抗CGRP受容体抗体は、2つの同一軽鎖及び2つの同一重鎖を含有する。例として、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、2つのH1重鎖と2つのL1軽鎖、または2つのH2重鎖と2つのL2軽鎖、または2つのH3重鎖と2つのL3軽鎖、及び表5及び表6に列挙されるとおりの軽鎖の対と重鎖の対の他の同様な組み合わせを含むことができる。
【0094】
本発明の方法で採用される抗CGRP受容体抗体は、表5及び表6に示す重鎖及び軽鎖の組み合わせにより形成される抗体の変形体の場合があり、それら軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列とそれぞれ少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、または99%同一性を有する軽鎖及び/または重鎖を含む。場合によっては、そのような抗体は、少なくとも1つの重鎖及び1つの軽鎖を含み、一方他の場合では、変形体は、2つの同一軽鎖及び2つの同一重鎖を含有する。
【0095】
本明細書中記載される方法の実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体は、以下を含む:
(a)配列番号105の配列を含む重鎖及び配列番号118の配列を含む軽鎖;
(b)配列番号106の配列を含む重鎖及び配列番号119の配列を含む軽鎖;
(c)配列番号107の配列を含む重鎖及び配列番号120の配列を含む軽鎖;
(d)配列番号108の配列を含む重鎖及び配列番号121の配列を含む軽鎖;
(e)配列番号109の配列を含む重鎖及び配列番号122の配列を含む軽鎖;
(f)配列番号105の配列を含む重鎖及び配列番号123の配列を含む軽鎖;
(g)配列番号110の配列を含む重鎖及び配列番号124の配列を含む軽鎖;
(h)配列番号109の配列を含む重鎖及び配列番号125の配列を含む軽鎖;
(i)配列番号105の配列を含む重鎖及び配列番号126の配列を含む軽鎖;
(j)配列番号111の配列を含む重鎖及び配列番号127の配列を含む軽鎖;
(k)配列番号112の配列を含む重鎖及び配列番号128の配列を含む軽鎖;
(l)配列番号113の配列を含む重鎖及び配列番号129の配列を含む軽鎖;
(m)配列番号114の配列を含む重鎖及び配列番号129の配列を含む軽鎖;
(n)配列番号109の配列を含む重鎖及び配列番号130の配列を含む軽鎖;
(o)配列番号115の配列を含む重鎖及び配列番号131の配列を含む軽鎖;
(p)配列番号116の配列を含む重鎖及び配列番号132の配列を含む軽鎖;
(q)配列番号117の配列を含む重鎖及び配列番号133の配列を含む軽鎖;または
(r)配列番号117の配列を含む重鎖及び配列番号134の配列を含む軽鎖。
【0096】
1つの特定の実施形態において、本発明の方法で使用される抗CGRP受容体抗体は、配列番号105の配列を含む重鎖及び配列番号123の配列を含む軽鎖を含む。別の特定の実施形態において、本発明の方法で使用される抗CGRP受容体抗体は、配列番号111の配列を含む重鎖及び配列番号127の配列を含む軽鎖を含む。
【0097】
本発明の方法で使用するための抗CGRP受容体抗体の例として、抗体1E11、1H7、2E7、3B6、3C8、4E4、4H6、5F5、9D4、9F5、10E4、11D11、11H9、12E8、12G8、13H2、及び32H7が挙げられるが、これらに限定されない。表7に、これら抗体のそれぞれの構造特性をまとめる。
【表7】
【0098】
本明細書中記載される方法で使用される抗CGRP受容体抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、多重特異性抗体、またはそれらの抗原結合断片であり得る。ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体は、モノクローナル抗体である。そのような実施形態において、抗CGRP受容体抗体は、ヒトモノクローナル抗体の場合がある。実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体は、ヒト抗体であり、IgG1型、IgG2型、IgG3型、またはIgG4型であり得る。すなわち、抗CGRP受容体抗体は、実施形態によっては、ヒトIgG1またはヒトIgG2定常ドメインを有する場合がある。1つの実施形態において、抗CGRP受容体抗体は、モノクローナルIgG1抗体である。別の実施形態において、抗CGRP受容体抗体は、モノクローナルIgG2抗体である。
【0099】
モノクローナル抗体は、当該分野で公知の任意の技法を用いて、例えば、免疫化スケジュールの完了後に遺伝子組換え動物から収穫した脾臓細胞を不死化することにより、製造することができる。脾臓細胞は、当該分野で公知の任意の技法を用いて、例えば、それらを骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを製造することにより、不死化することができる。ハイブリドーマ製造融合手順に使用する骨髄腫細胞は、好ましくは、抗体を産生せず、融合効率が高く、かつ酵素の欠乏があるためある特定の選択培地では増殖することができず、このことが所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの増殖を支援する。マウスでの融合に使用するのに適切な細胞株の例として、Sp-20、P3-X63/Ag8、P3-X63-Ag8.653、NS1/1.Ag4 1、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG1.7、及びS194/5XXOBulが挙げられ;ラットでの融合に使用される細胞株の例として、R210.RCY3、Y3-Ag1.2.3、IR983F、及び4B210が挙げられる。細胞融合に有用な他の細胞株には、U-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2、及びUC729-6がある。
【0100】
場合によっては、動物(例えば、ヒト免疫グロブリン配列を有する遺伝子組換え動物)を、CGRP受容体免疫原で免疫化し;免疫化動物から脾臓細胞を収穫し;収穫した脾臓細胞を骨髄腫細胞株と融合させ、それによりハイブリドーマ細胞を生成させ;ハイブリドーマ細胞からハイブリドーマ細胞株を確立させ、そしてCGRP受容体と結合する抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を同定することにより、ハイブリドーマ細胞株を製造する。
【0101】
ハイブリドーマ細胞株により分泌されるモノクローナル抗体は、当該分野で公知の任意の技法により精製することができる。ハイブリドーマまたはmAbは、例えば本明細書中記載されるとおりにして、例えばcAMPアッセイを用いて、さらにスクリーニングして、特定の性質、例えばCGRP受容体を発現する細胞と結合する能力、CGRPリガンドまたはCGRP8-37ペプチドの結合を遮断するかもしくはそれに干渉する能力、あるいは受容体を機能的に遮断する能力、を持つmAbを同定することができる。
【0102】
実施形態によっては、本発明の方法で使用される抗CGRP受容体抗体は、先にあった配列に基づくキメラ抗体またはヒト化抗体である。キメラ抗体とは、共有結合して機能性免疫グロブリン軽鎖または重鎖または免疫学的に機能性であるその一部分を生成している異なる抗体由来のタンパク質セグメントで構成された抗体である。一般に、重鎖及び/または軽鎖の一部分は、特定の種に由来する抗体の該当配列または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する該当配列と同一であるか、それと相同であり、その一方で、鎖(複数可)の残部は、別の種に由来する抗体の該当配列または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する該当配列と同一であるか、それと相同である。キメラ抗体に関連する方法については、例えば、米国特許第第4,816,567号;及びMorrison et al., 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855号を参照、これらは本明細書により参照として援用される。CDRグラフト法は、例えば、米国特許第6,180,370号、同第5,693,762号、同第5,693,761号、同第5,585,089号、及び同第5,530,101号に記載される。
【0103】
一般に、キメラ抗体を作る目的は、目的種由来のアミノ酸の個数が最大化されているキメラを作製することである。その一例が「CDRグラフト」抗体であるが、この抗体は、特定種由来のまたは特定抗体クラスもしくはサブクラスに属するCDRを1つまたは複数含み、その一方で抗体鎖(複数可)の残部は、別の種由来の抗体の該当配列または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する該当配列と同一または相同である。ヒトで使用する場合、齧歯類抗体由来の可変領域または選択されたCDRを、ヒト抗体にグラフトし、ヒト抗体の天然に生じる可変領域またはCDRと置き換えることが多い。
【0104】
キメラ抗体の有用な種類の1つは、「ヒト化」抗体である。一般に、ヒト化抗体は、最初に非ヒト動物で産生されたモノクローナル抗体から製造される。このモノクローナル抗体中のある特定アミノ酸残基、典型的には、抗体の非抗原認識部分に由来するものを、該当するアイソタイプのヒト抗体中の該当する残基と相同となるように修飾する。ヒト化は、例えば、様々な方法を用いて、ヒト抗体の該当する領域に関して齧歯類可変領域の少なくとも一部分を置換することにより行うことができる(例えば、米国特許第5,585,089号及び同第5,693,762号;Jones et al., 1986, Nature 321:522-525;Riechmann et al., 1988, Nature 332:323-27;Verhoeyen et al., 1988, Science 239:1534-1536を参照)。
【0105】
1つの態様において、本明細書中提供される抗体の軽鎖及び重鎖可変領域のCDR(表2及び表3を参照)は、同一の、または異なる系統学的種由来の抗体のフレームワーク領域(FR)にグラフトされる。例えば、重鎖及び軽鎖可変領域VH1、VH2、VH3、VH4、VH5、VH6、VH7、VH8、VH9、VH10、VH11、VH12、及びVH13、及び/またはVL1、VL2、VL3、VL4、VL5、VL6、VL7、VL8、VL9、VL10、VL11、VL12、VL13、VL14、VL15、VL16、及びVL17のCDRは、コンセンサスヒトFRにグラフトすることができる。共通ヒトFRを作製するため、複数のヒト重鎖または軽鎖アミノ酸配列由来のFRを整列させて、共通アミノ酸配列を同定することができる。他の実施形態において、本明細書中開示される重鎖または軽鎖のFRは、異なる重鎖または軽鎖由来のFRで置き換えられる。1つの態様において、抗CGRP受容体抗体の重鎖及び軽鎖のFR中の希少アミノ酸は、置き換えられないが、一方でその他のFRアミノ酸は、置き換えられる。「希少アミノ酸」とは、FR中で通常はその特定のアミノ酸が見つからない位置にある特定アミノ酸である。あるいは、1つの重鎖または軽鎖に由来するグラフトされた可変領域を、本明細書中開示されるとおりの特定重鎖または軽鎖の定常領域とは異なる定常領域とともに使用する場合がある。他の実施形態において、グラフトされた可変領域は、一本鎖Fv抗体の一部である。
【0106】
特定の実施形態において、本発明の方法で使用される抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、完全ヒト抗体である。ヒトを所定抗原に曝露させることなく、その抗原に特異的な完全ヒト抗体(「完全ヒト抗体」)を作る方法を利用することができる。完全ヒト抗体の製造を実行するために提供される1つの具体的手段は、マウス液性免疫系の「ヒト化」である。内在Ig遺伝子が不活性化されたマウスへのヒト免疫グロブリン(Ig)遺伝子座の導入は、どのような所望の抗原でも免疫化させることができる動物であるマウスにおいて、完全ヒトモノクローナル抗体(mAbs)を産生させる1つの手段である。完全ヒト抗体を用いることで、マウスmAbまたはマウス由来mAbを治療薬としてヒトに投与することで時に引き起こされる可能性がある免疫原性反応及びアレルギー性反応を最小化することができる。
【0107】
完全ヒト抗体は、内在免疫グロブリン産生が存在しない状態でヒト抗体のレパートリーを産生することができる遺伝子組換え動物(通常はマウス)を免疫化することにより、製造することができる。この目的のための抗原は、典型的には、6つ以上の隣接アミノ酸を有し、任意選択で、ハプテンなどのキャリアと結合している。例えば、Jakobovits et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2551-2555;Jakobovits et al., 1993, Nature 362:255-258;及びBruggermann et al., 1993, Year in Immunol. 7:33を参照。そのような方法の1つの例において、遺伝子組換え動物は、マウス重鎖及び軽鎖免疫グロブリン鎖をコードする内在マウス免疫グロブリン遺伝子座を無能力化し、ヒト重鎖及び軽鎖タンパク質をコードする遺伝子座を含有するヒトゲノムDNA含有遺伝子座の巨大断片をマウスゲノムに挿入することにより製造される。部分的に修飾された動物は、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の完全ではない補体を有しており、これを、次いで、交雑させて、所望の免疫系修飾の全てを有する動物を得る。免疫原が投与されると、こうした遺伝子組換え動物は、免疫原に対して免疫特異的であるが、マウスではなくヒトのアミノ酸配列を有する、可変領域を含む抗体を産生する。そのような方法のさらなる詳細については、例えば、WO96/33735及びWO94/02602を参照。ヒト抗体を作るための遺伝子組換えマウスに関連したさらなる方法は、米国特許第5,545,807号;同第6,713,610号;同第6,673,986号;同第6,162,963号;同第5,545,807号;同第6,300,129号;同第6,255,458号;同第5,877,397号;同第5,874,299号,及び同第5,545,806号;PCT公開公報WO91/10741、WO90/04036、ならびにEP546073B1及びEP546073A1に記載される。
【0108】
上記の遺伝子組換えマウスは、本明細書中「HuMab」マウスと称するが、これは、再配列されていないヒト重鎖([mu]及び[gamma])及び[kappa]軽鎖免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子ミニ遺伝子座を、内在[mu]及び[kappa]鎖遺伝子座を不活性化する標的変異と一緒に含有する(Lonberg et al., 1994, Nature 368:856-859)。したがって、マウスは、マウスIgMまたは[kappa]の発現の減少を示し、及び免疫化に反応して、導入されたヒト重鎖及び軽鎖導入遺伝子は、クラススイッチング及び体細胞突然変異を起こして、高親和性ヒトIgG[kappa]モノクローナル抗体を作製する(Lonberg et al.,既出;Lonberg and Huszar, 1995, Intern. Rev. Immunol. 13: 65-93;Harding and Lonberg, 1995, Ann. N.Y Acad. Sci. 764:536-546)。HuMabマウスの作製は、Taylor et al., 1992, Nucleic Acids Research 20:6287-6295;Chen et al., 1993, International Immunology 5:647-656;Tuaillon et al., 1994, J. Immunol. 152:2912-2920;Lonberg et al., 1994, Nature 368:856-859;Lonberg, 1994, Handbook of Exp. Pharmacology 113:49-101;Taylor et al., 1994, International Immunology 6:579-591;Lonberg and Huszar, 1995, Intern. Rev. Immunol. 13:65-93;Harding and Lonberg, 1995, Ann. N.Y Acad. Sci. 764:536-546;Fishwild et al., 1996, Nature Biotechnology 14:845-851に詳細に記載されており、上記参照は、本明細書によりそのまま全体があらゆる目的で援用される。さらに、米国特許第5,545,806号;同第5,569,825号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;同第5,789,650号;同第5,877,397号;同第5,661,016号;同第5,814,318号;同第5,874,299号;及び同第5,770,429;ならびに米国特許第5,545,807号;国際公報第WO93/1227;WO92/22646;ならびにWO92/03918を参照、これら全ての開示は、本明細書によりそのまま全体があらゆる目的で援用される。こうした遺伝子導入マウスでヒト抗体を産生させるのに利用される技術は、WO98/24893、及びMendez et al., 1997, Nature Genetics 15:146-156にも開示されており、これらは、本明細書により参照として援用される。例えば、HCo7及びHCo12遺伝子導入マウス系統を、抗CGRP受容体抗体の作製に使用することができる。
【0109】
本明細書中記載される方法で使用され得る抗CGRP受容体抗体または結合断片のうちあるものは、上記に開示される抗CGRP受容体抗体(例えば、表2~7に列挙される配列を有するもの)の変形体である。例えば、抗CGRP受容体抗体または結合断片は、1つまたは複数の保存的アミノ酸置換を、表2~7に列挙される重鎖もしくは軽鎖、可変領域、またはCDRの1つまたは複数中に有する場合がある。保存的アミノ酸置換として、アミノ酸と、共通する側鎖性質(例えば、疎水性、中性親水性、酸性、塩基性、及び芳香族性など)を有する別のアミノ酸との交換を挙げることができる。例えば、保存的置換として、疎水性アミノ酸(例えばノルロイシン、メチオニン、アラニン、バリン、ロイシン、またはイソロイシン)を別の疎水性アミノ酸に置換することが挙げられる。保存的アミノ酸置換は、天然に存在しないアミノ酸残基を包含することができ、そのような残基は、典型的には、生体系での合成ではなく化学ペプチド合成により導入される。そのようなものとして、ペプチド模倣物及びアミノ酸部分の他の逆転または反転型が挙げられる。
【0110】
そのような変更を作る上で、ある特定の実施形態に従って、アミノ酸の疎水性指数(hydropathic index)が考慮される場合がある。タンパク質の疎水性特性は、各アミノ酸に数値(「疎水性指数」)を割り当て、次いでそれらの値をペプチド鎖に沿って繰り返し平均していくことにより計算される。各アミノ酸は、そのアミノ酸の疎水性及び電荷特性に基づいて疎水性指数が割り振られている。その値とは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(-0.4);トレオニン(-0.7);セリン(-0.8);トリプトファン(-0.9);チロシン(-1.3);プロリン(-1.6);ヒスチジン(-3.2);グルタミン酸(-3.5);グルタミン(-3.5);アスパラギン酸(-3.5);アスパラギン(-3.5);リシン(-3.9);及びアルギニン(-4.5)である。
【0111】
タンパク質に生物学的相互作用機能を付与する上での疎水性特性の重要性は、当該分野で理解されている(例えば、Kyte et al., 1982, J. Mol. Biol. 157:105-131を参照)。ある特定のアミノ酸は、同様な疎水性指数またはスコアを有する他のアミノ酸で置換することができ、それでもなお同様な生物活性を保持できることが知られている。疎水性指数に基づいて変更を行う上で、ある特定の実施形態において、疎水性指数が±2以内にあるアミノ酸の置換が含まれる。態様によっては、疎水性指数が±1以内にあるものが含まれ、及び他の態様において、疎水性指数が±0.5以内にあるものが含まれる。
【0112】
同じく、当該分野で当然のことながら、似たアミノ酸の置換を、親水性に基づいて効果的に行うことができ、これは特に、そのようにして作られた生物学的に機能性のタンパク質またはペプチドが、本発明の場合のように免疫学的実施形態で使用することを意図する場合に言える。ある特定の実施形態において、タンパク質の最大局所平均親水性は、その隣接するアミノ酸の親水性によって支配されるとおり、そのタンパク質の免疫原性及び抗原結合または免疫原性、すなわちタンパク質の生物学的性質と相関する。
【0113】
アミノ酸残基に対して、以下の親水性値が割り当てられている:アルギニン(+3.0);リシン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);トレオニン(-0.4);プロリン(-0.5±1);アラニン(-0.5);ヒスチジン(-0.5);システイン(-1.0);メチオニン(-1.3);バリン(-1.5);ロイシン(-1.8);イソロイシン(-1.8);チロシン(-2.3);フェニルアラニン(-2.5)、及びトリプトファン(-3.4)。類似の親水性値に基づいて変更を行う上で、ある特定の実施形態において、親水性値が±2の範囲内にあるアミノ酸の置換が含まれ、他の実施形態において、±1の範囲内にあるものが含まれ、なお他の実施形態において、±0.5の範囲内にあるものが含まれる。場合によっては、親水性に基づいて一次アミノ酸配列からエピトープを同定する場合もある。これらの領域は、「エピトープコア領域」とも称する。
【0114】
保存的アミノ酸置換の例を、表8に記載する。
【表8】
【0115】
当業者なら、周知の技法を用いて、本明細書中記載されるとおりの抗CGRP受容体抗体の適切な変形体を決定することができるだろう。当業者なら、活性に重要であるとは思われない領域を標的とすることにより、活性を破壊することなく変更することができる、分子の適切な領域を同定することができる。当業者はまた、同様なポリペプチド内で保存されている、分子の残基及び部分を同定することもできるだろう。さらなる実施形態において、生物活性にとってまたは構造にとって重要である可能性がある領域であっても、生物活性を破壊することなく、またはポリペプチド構造に悪影響を及ぼすことなく、保存的アミノ酸置換を行うことができる。
【0116】
さらに、当業者なら、同様なポリペプチド中の、活性または構造に重要である残基を同定する構造機能研究を検討することができる。そのような比較を考慮して、同様なタンパク質の活性または構造にとって重要なアミノ酸基に該当する、あるタンパク質のアミノ酸残基の重要性を予測することができる。当業者なら、そのように予測された重要アミノ酸残基について化学的に類似するアミノ酸置換を選択することができる。
【0117】
当業者なら、同様なポリペプチドでの三次元構造との関連から三次元構造及びアミノ酸配列を分析することもできる。そのような情報を考慮して、当業者なら抗体の三次元構造との関連から抗体のアミノ酸残基の整列の仕方を予測することができる。当業者なら、タンパク質の表面にあると予想されるアミノ酸残基に根本的な変化を起こさないという選択を取ることができる。なぜなら、そのような残基は、他の分子との重要な相互作用に関与している可能性があるからである。その上、当業者なら、所望のアミノ酸残基それぞれにおいて1つのアミノ酸置換を有する試験変形体を作製することができる。次いで、これらの変形体を、CGRP受容体中和活性用アッセイを用いてスクリーニングすることができ、こうしてどのアミノ酸が変更可能であり、どのアミノ酸が変更すべきではないかについて情報を得ることができる。言い換えると、そのような常用実験から集められた情報に基づいて、当業者なら、容易に、単独にしろ他の変異との組み合わせにしろさらなる置換を回避すべきアミノ酸位置を求めることができる。
【0118】
さらなる好適な抗体変形体として、システイン変形体が挙げられ、この変形体では、親または天然のアミノ酸配列中の1つまたは複数のシステイン残基が、削除されているか、別のアミノ酸(例えば、セリン)と置換されている。システイン変形体は、とりわけ、抗体が生物学的活性な立体配座にリフォールディングされなければならない場合に、有用である。システイン変形体は、未変性の抗体よりも少ないシステイン残基を有し、典型的には、対になっていないシステイン残基から生じる相互作用を最小限にするために偶数個有する。
【0119】
1つのサブクラスのものである抗CGRP受容体抗体またはその結合断片は、サブクラススイッチング法を用いて、異なるサブクラス由来の抗体または結合断片へと変更することができる。すなわち、IgG抗体を、例えば、IgM抗体に由来するものにすること、またはその逆が、可能である。そのような技法は、所定の抗体(親抗体)の抗原結合性質を保持するが、親抗体のものとは異なる抗体アイソタイプまたはサブクラスと関連した生物学的性質も示す新規抗体の調製を可能にする。組換えDNA技法を使用する場合もある。特定の抗体ポリペプチドをコードするクローンDNA、例えば、所望のアイソタイプの抗体の定常ドメインをコードするDNAを、そのような手順で使用することができる。例えば、Lantto et al., 2002, Methods Mol. Biol. 178:303-316を参照。
【0120】
したがって、本明細書中記載される抗CGRP受容体抗体として、例えば、所望のアイソタイプ(例えば、IgA、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgE、及びIgD)を有する上記の可変ドメインの組み合わせならびにそれらのFabまたはF(ab’)2断片を含むものが挙げられる。その上、IgG4が望まれる場合、Bloom et al., 1997, Protein Science 6:407(本明細書中参照として援用される)に記載されるとおり、ヒンジ領域に点変異(CPSCP->CPPCP)を導入して、IgG4抗体の不均一性を招く可能性があるH鎖内ジスルフィド結合の形成傾向を軽減することも望まれる可能性がある。
【0121】
その上、異なる性質を有する抗体へと誘導する(すなわち、それらが結合する抗原に対する親和性を変更する)技法もまた公知である。そのような技法の1つは、チェーンシャッフリングと称するもので、免疫グロブリン可変ドメイン遺伝子レパートリーを糸状バクテリオファージの表面に表示させることを含む。これはファージディスプレイ法と称することが多い。チェーンシャッフリングは、Marks et al., 1992, BioTechnology 10:779に記載されるとおり、ハプテン2-フェニルオキサゾール-5-オンに対する高親和性抗体を調製するのに使用されてきた。
【0122】
表4に記載される重鎖及び軽鎖可変領域、または表2及び表3に記載されるCDRに対して、保存的修飾(及びコードする核酸に対して該当する修飾)を行い、ある特定の所望の機能特性及び生化学特性を有するCGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を製造することができる。そのような修飾を行う方法は、上記に記載される。
【0123】
本発明の方法で使用される抗CGRP受容体抗体またはその結合断片は、複数ある従来技法のいずれを用いて調製してもよい。例えば、本明細書中記載される抗CGRP受容体抗体は、当該分野で公知の任意の技法を用いて、組換え発現系により産生させることができる。例えば、Monoclonal Antibodies, Hybridomas: A New Dimension in Biological Analyses, Kennet et al. (eds.) Plenum Press, New York (1980);及びAntibodies: A Laboratory Manual, Harlow and Lane (eds.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1988)を参照。
【0124】
抗CGRP受容体抗体またはその結合断片は、ハイブリドーマ細胞株(例えば、特に、抗体をハイブリドーマで発現させることができる場合)でもハイブリドーマ以外の細胞株でも発現させることができる。抗体をコードする発現構築物を用いて、哺乳類、昆虫、または微生物宿主細胞を形質転換することができる。形質転換は、ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する任意の公知の方法を用いて行うことができ、そのような方法として、例えば、米国特許第4,399,216号;同第4,912,040号;同第4,740,461号;同第4,959,455号に例示されるとおり、ポリヌクレオチドをウイルスまたはバクテリオファージに封入し、当該分野で公知の形質移入手順により、その構築物で宿主細胞に形質導入することが挙げられる。使用される最適な形質転換手順は、形質転換される宿主細胞の種類に依存する。異種ポリヌクレオチドを哺乳類細胞へと導入する方法は、当該分野で周知であり、そのような方法として、デキストラン仲介形質移入、リン酸カルシウム沈殿、ポリブレン仲介形質移入、プロトプラスト融合、電気穿孔法、ポリヌクレオチド(複数可)のリポソームカプセル封入、核酸と正電荷を帯びた脂質との混合、及び核へのDNA直接微量注入が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
組換え発現構築物は、典型的には、以下のうち1つまたは複数を含むポリペプチドをコードする核酸分子を含む:1つまたは複数の本明細書中提供されるCDR;軽鎖定常領域;軽鎖可変領域;重鎖定常領域(例えば、CH1、CH2、及び/またはCH3);重鎖可変領域;及び/または抗CGRP受容体抗体の別の足場部分。これらの核酸配列を、標準的な核酸連結技法を用いて、適切な発現ベクターに挿入する。1つの実施形態において、重鎖または軽鎖定常領域は、抗CGRP受容体特異的重鎖または軽鎖可変領域のC末端に付加されて、発現ベクターに連結される。ベクターは、典型的には、採用された特定の宿主細胞中で機能性であるように選択される(すなわち、ベクターは、宿主細胞の機構と適合性があり、遺伝子の増幅及び/または発現の許容が起こり得る)。実施形態によっては、レポータータンパク質、例えばジヒドロ葉酸レダクターゼなどを用いるタンパク質断片相補性アッセイを利用するベクターが使用される(例えば、米国特許第6,270,964号を参照、これは本明細書により参照として援用される)。適切な発現ベクターは、例えば、Invitrogen Life TechnologiesまたはBD Biosciences(かつての「Clontech」)から購入することができる。抗体及び断片をクローニング及び発現するのに有用な他のベクターとして、Bianchi and McGrew,2003, Biotech. Biotechnol. Bioeng, 84:439-44に記載されるものが挙げられ、これは本明細書により参照として援用される。さらなる適切な発現ベクターは、例えば、Methods Enzymol., vol. 185 (D.V. Goeddel, ed.), 1990, New York: Academic Pressに記載される。
【0126】
典型的には、どの宿主細胞で使用される発現ベクターも、プラスミド維持のための、ならびに外来ヌクレオチド配列のクローニング及び発現のための配列を含有する。そのような配列は、まとめて「フランキング配列」と称するが、ある特定の実施形態では、それらは典型的には、以下のヌクレオチド配列のうち1つまたは複数を含む:プロモーター、1つまたは複数のエンハンサー配列、複製起点、転写終結配列、ドナー及びアクセプタースプライス部位を含有する完全イントロン配列、ポリペプチド分泌用リーダー配列をコードする配列、リボソーム結合部位、ポリアデニル化配列、発現させようとするポリペプチドをコードする核酸を挿入するためのポリリンカー領域、及び標識可能マーカーエレメント。これらの配列それぞれを、以下に説明する。
【0127】
任意選択で、ベクターは、「タグ」コード配列、すなわち、抗CGRP受容体抗体コード配列の5’または3’末端に位置するオリゴヌクレオチド分子を含有することができ;オリゴヌクレオチド配列は、ポリHis(例えば、ヘキサHis)、または市販されている抗体が存在する別の「タグ」、例えばFLAG(登録商標)、HA(ヘマグルチニンインフルエンザウイルス)、またはmycなどをコードする。このタグは、典型的には、ポリペプチドの発現の際、ポリペプチドと融合しており、宿主細胞からの抗CGRP受容体抗体の親和性精製または検出のための手段として機能することができる。親和性精製は、例えば、親和性マトリクスとしてタグに対する抗体を用いたカラムクロマトグラフィーにより、達成することができる。任意選択で、タグは、ある特定の切断用ペプチダーゼを用いるなど様々な手段により、その後、精製された抗CGRP受容体抗体から除去することができる。
【0128】
フランキング配列は、同種(すなわち、宿主細胞と同一の種及び/または系統由来)、異種(すなわち、宿主細胞の種または系統以外の種由来)、ハイブリッド(すなわち、1種より多い起源由来のフランキング配列の組み合わせ)、合成、または天然の場合がある。そのため、フランキング配列の起源は、どの原核生物でも真核生物でも、どの脊椎動物でも無脊椎動物でも、どの植物でもあり得るが、ただしフランキング配列は、宿主細胞機構中で機能性であり、宿主細胞機構により活性化され得ることが条件である。
【0129】
ベクターで有用なフランキング配列は、当該分野で周知である複数の方法のいずれかにより得ることができる。典型的には、本明細書中有用なフランキング配列は、マッピングにより及び/または制限エンドヌクレアーゼ消化により既に同定されているものであり、したがって、適切な制限エンドヌクレアーゼを用いて適切な組織源から単離することができる。場合によっては、フランキング配列の完全ヌクレオチド配列がわかっている場合がある。本明細書では、フランキング配列は、核酸合成またはクローニング用の本明細書中記載される方法を用いて合成することができる。
【0130】
フランキング配列の全てが既知であるか一部分が既知であるかに関わらず、この配列は、同一種もしくは別種由来のオリゴヌクレオチド及び/またはフランキング配列断片などの適切なプローブを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)を用いて及び/またはゲノムライブラリーをスクリーニングすることにより得ることができる。フランキング配列が不明である場合、フランキング配列を含有するDNAの断片を、例えば、コード配列またはさらには別の遺伝子1つまたは複数を含有する可能性があるより大きなDNA片から単離することができる。単離は、制限エンドヌクレアーゼ消化により適切なDNAフラグメントを生成させ、続いてアガロースゲル精製、Qiagen(登録商標)カラムクロマトグラフィー(Chatsworth、CA)を用いて、または当業者に公知の他の方法により、単離することによって、達成できる。この目的を達成するのに適切な酵素の選択は、当業者は容易に明らかとなる。
【0131】
複製起点は、典型的には、市販のこのような原核生物発現ベクターの一部分であり、この起点は、宿主細胞でのベクター増幅に役立つ。最適なベクターが複製起点部位を含有しない場合、既知の配列に基づいて化学的に合成して、ベクターに連結させることができる。例えば、プラスミドpBR322(New England Biolabs、Beverly、MA)の複製起点は、ほとんどのグラム陰性細菌に適しており、様々なウイルス起点(例えば、SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、またはHPVもしくはBPVなどのパピローマウイルス)が、哺乳類細胞でベクターをクローニングするのに有用である。一般に、複製起点構成要素は、哺乳類発現ベクターには必要ではない(例えば、SV40起点は、ウイルス初期プロモーターも含有するからという理由でのみ使用される場合が多い)。
【0132】
転写終結配列は、典型的には、ポリペプチドコード領域の末端の3’側に位置し、転写を終結させる働きをする。通常、原核細胞の転写終結配列は、G-C豊富な断片であり、続いてポリT配列がある。この配列は、ライブラリーから容易にクローニングされ、さらにはベクターの一部として購入することもあるもの、核酸合成用の公知の方法を用いて容易に合成することもできる。
【0133】
選択可能なマーカー遺伝子は、選択培養培地で成長する宿主細胞の生存及び成長に必要なタンパク質をコードする。典型的な選択マーカー遺伝子は、(a)抗生物質または原核生物宿主細胞にとっての他の毒素、例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、またはカナマイシンなどに対する耐性を付与するタンパク質;(b)細胞の栄養要求性欠損を補完するタンパク質;あるいは(c)複合培地もしくは限定培地から得ることができない重要栄養素を補充するタンパク質をコードする。具体的な選択可能マーカーとして、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、及びテトラサイクリン耐性遺伝子がある。好都合なことに、ネオマイシン耐性遺伝子も使用することができ、これは原核生物及び真核生物両方の宿主細胞選択に使用できる。
【0134】
他の選択可能遺伝子を用いて、発現させようとする遺伝子を増幅させる場合がある。増幅とは、増殖または細胞の生存に重要なタンパク質の産生に必要とされる遺伝子が、組換え細胞の連続する世代の染色体内で縦列で保持されるプロセスである。哺乳類細胞に適切な選択可能マーカーの例として、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)及びプロモーターレスチミジンキナーゼ遺伝子が挙げられる。哺乳類細胞形質転換体を淘汰圧下におき、ベクターに存在する選択可能遺伝子のおかげで形質転換体のみが特別に生存適応できるようにする。淘汰圧は、培地中の選択作用剤の濃度を連続して増加させ、それにより選択可能遺伝子と、及び抗CGRP受容体抗体など別の遺伝子をコードするDNAと両方の増幅を招く条件下で形質転換細胞を培養することにより加える。結果として、増幅されたDNAから、抗CGRP受容体抗体などのポリペプチドの量が増加して合成される。
【0135】
リボソーム結合部位は、通常、mRNAの翻訳開始に必要であり、Shine-Dalgarno配列(原核生物)またはKozak配列(真核生物)を特徴とする。エレメントは、典型的には、プロモーターに対して3’及び発現させようとするポリペプチドのコード配列に対して5’に位置する。
【0136】
場合によっては、例えば真核生物宿主細胞発現系でのグリコシル化が望まれる場合などでは、グリコシル化または収率を改善するために様々なプレ配列またはプロ配列を操作することができる。例えば、特定のシグナルペプチドのペプチダーゼ切断部位を変更するか、または同じくグリコシル化に影響を及ぼす可能性があるプロ配列を付加することができる。最終タンパク質産物は、-1位(成熟タンパク質の第一アミノ酸に対して)に、発現から生じる1つまたは複数の追加アミノ酸を有する場合があり、このアミノ酸は完全に除去されない場合がある。例えば、最終タンパク質産物は、ペプチダーゼ切断部位に、アミノ末端と接続した1つまたは2つのアミノ酸残基を有するのが見つかる場合がある。あるいは、ある酵素切断部位の利用は、酵素が成熟ポリペプチド内のそのような領域を切断する場合に、所望のポリペプチドからやや切り詰められた形をもたらす場合がある。
【0137】
発現及びクローニングは、典型的には、抗CGRP受容体抗体または結合断片をコードする分子と作動可能に連結された、宿主生物によって認識されるプロモーターを含有する。プロモーターとは、構造遺伝子の開始コドンの上流(すなわち、5’)に(一般に約100~1000bp以内に)位置して構造遺伝子の転写を制御する非転写配列である。プロモーターは、慣習的に、2つのクラスのうち一方に分類される:誘導型プロモーター及び構成的プロモーターである。誘導型プロモーターは、培地条件の何かの変化、例えば栄養素の有無または温度変化などに反応して、それらの制御下のDNA転写レベルの上昇を開始する。それに対して、構成的プロモーターは、それらが作動可能に連結された遺伝子を一定して転写する、すなわち、遺伝子発現がほとんどまたはまったく制御されない。様々な宿主細胞候補により認識される、多数のプロモーターが周知である。起源DNAから制限酵素消化によりプロモーターを取り出し、所望のプロモーター配列をベクター中に挿入することにより、適切なプロモーターを、抗CGRP受容体抗体または結合断片に含まれる重鎖または軽鎖をコードするDNAと作動可能に連結する。
【0138】
酵母菌宿主で用いるのに適切なプロモーターも、当該分野で周知である。酵母菌エンハンサーは、好都合なことに、酵母菌プロモーターと共に使用される。哺乳類宿主細胞で用いるのに適切なプロモーターは周知であり、そのようなプロモーターとして、ウイルスゲノム、例えばポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(アデノウイルス2など)、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、及びサルウイルス40(SV40)のゲノムから得られるものが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切な哺乳類プロモーターとして、異種哺乳類プロモーター、例えば、熱ショックプロモーター及びアクチンプロモーターが挙げられる。
【0139】
興味対象となる可能性があるさらなるプロモーターとして、以下が挙げられるが、それらに限定されない:SV40初期プロモーター(Benoist and Chambon, 1981, Nature 290:304-310);CMVプロモーター(Thornsen et al., 1984, Proc. Natl. Acad. U.S.A. 81:659-663);ラウス肉腫ウイルスの3’末端反復配列に含まれるプロモーター(Yamamoto et al., 1980, Cell 22:787-797);ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al., 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78:1444-1445);メタロチオニン遺伝子由来のプロモーター及び制御配列(Prinster et al., 1982, Nature 296:39-42);及びベータ-ラクタマーゼプロモーターなどの原核生物プロモーター(Villa-Kamaroff et al., 1978, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 75:3727-3731);またはtacプロモーター(DeBoer et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80:21-25)。同じく興味対象であるのは、以下の動物転写制御領域であるが、それらは組織特異性を示し、遺伝子組換え動物で利用されてきている:膵腺房細胞で活性なエラスターゼI遺伝子制御領域(Swift et al., 1984, Cell 38:639-646;Ornitz et al., 1986, Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 50:399-409;MacDonald, 1987, Hepatology 7:425-515);膵ベータ細胞で活性なインシュリン遺伝子制御領域(Hanahan, 1985, Nature 315:115-122);リンパ球で活性な免疫グロブリン遺伝子制御領域(Grosschedl et al., 1984, Cell 38:647-658;Adames et al., 1985, Nature 318:533-538;Alexander et al., 1987, Mol. Cell. Biol. 7:1436-1444);精巣、乳房、リンパ球、及び肥満細胞で活性なマウス乳房腫瘍ウイルス制御領域(Leder et al., 1986, Cell 45:485-495);肝臓で活性なアルブミン遺伝子制御領域(Pinkert et al., 1987, Genes and Devel. 1:268-276);肝臓で活性なアルファ-フェトタンパク質遺伝子制御領域(Krumlauf et al., 1985, Mol. Cell. Biol. 5:1639-1648;Hammer et al., 1987, Science 253:53-58);肝臓で活性なアルファ1-アンチトリプシン遺伝子制御領域(Kelsey et al., 1987, Genes and Devel. 1:161-171);骨髄細胞で活性なベータグロビン遺伝子制御領域(Mogram et al., 1985, Nature 315:338-340;Kollias et al., 1986, Cell 46:89-94);脳の乏突起膠細胞で活性なミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(Readhead et al., 1987, Cell 48:703-712);骨格筋で活性なミオシン軽鎖2遺伝子制御領域(Sani, 1985, Nature 314:283-286);及び視床下部で活性な性腺刺激放出ホルモン遺伝子制御領域(Mason et al., 1986, Science 234:1372-1378)。
【0140】
エンハンサー配列を、ベクターに挿入して、高次真核生物による、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片に含まれる軽鎖または重鎖をコードするDNAの転写を増加させることができる。エンハンサーは、DNAのcis作用性エレメントであり、通常は、長さが約10~300bpあり、プロモーターに作用して転写を増加させる。エンハンサーは、比較的、配向及び位置独立性であり、転写ユニットに対して5’及び3’の両方の位置で見つかってきている。哺乳類遺伝子から得ることができるエンハンサー配列が、複数知られている(例えば、グロビン、エラスターゼ、アルブミン、アルファ-フェトタンパク質、及びインシュリン)。しかしながら、典型的には、ウイルス由来のエンハンサーが使用される。当該分野で公知の、SV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、ポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーは、真核生物プロモーターの活性化を特に向上させるエレメントである。エンハンサーは、ベクター中、コード配列に対して5’または3’いずれに位置することもできるものの、典型的には、プロモーターの5’側である部位に位置する。適切な天然のまたは異種のシグナル配列をコードする配列(リーダー配列またはシグナルペプチド)を、発現ベクターに組み込んで、抗体の細胞外分泌を促進することができる。シグナルペプチドまたはリーダーの選択は、抗体をその中で産生させる予定の宿主細胞の種類に依存し、異種シグナル配列で天然のシグナル配列を置き換えることができる。哺乳類宿主細胞中で機能するシグナルペプチドの例として、以下が挙げられる:米国特許第4,965,195号に記載される、インターロイキン7(IL-7)のシグナル配列;Cosman et al., 1984, Nature 312:768に記載される、インターロイキン-2受容体のシグナル配列;欧州特許第0367566号に記載される、インターロイキン-4受容体シグナルペプチド;米国特許第4,968,607号に記載される、I型インターロイキン-1受容体シグナルペプチド;欧州特許第0460846号に記載される、II型インターロイキン-1受容体シグナルペプチド。本明細書中記載される抗CGRP受容体抗体または結合断片を発現するのに有用な他のシグナルペプチドは、配列番号135または配列番号136に記載される配列を有するシグナルペプチドである。
【0141】
本明細書中記載される抗CGRP受容体抗体またはその結合断片の組換え産生用の発現ベクターは、市販されているベクターなどを出発ベクターとして構築することができる。そのようなベクターは、所望のフランキング配列全てを含んでいてもいなくてもよい。本明細書中記載されるフランキング配列のうち1つまたは複数がベクターに予め存在してはいない場合、それらを個別に入手してベクターに連結することができる。フランキング配列それぞれを得るために使用される方法は、当業者に周知である。
【0142】
ベクターを構築し、抗CGRP受容体抗体または結合断片に含まれる軽鎖、重鎖、または軽鎖及び重鎖をコードする核酸分子をベクターの適切な部位に挿入した後、完成したベクターを、増幅及び/またはポリペプチド発現に適した宿主細胞に挿入することができる。抗原結合タンパク質用の発現ベクターによる選択した宿主細胞の形質転換は、周知の方法により達成することができ、そのような方法として、形質移入、感染、リン酸カルシウム共沈、電気穿孔法、微量注入、リポフェクション、DEAEデキストラン仲介形質移入、または他の公知の技法が挙げられる。選択される方法は、部分的には、使用する予定の宿主細胞の種類に左右されるものとなる。これらの方法及び他の適切な方法は、当業者に周知であり、例えば、Sambrook et al., 2001、既出に記載される。
【0143】
宿主細胞は、適切な条件下で培養された場合、抗原結合タンパク質(例えば抗体または結合断片)を合成し、続いてこのタンパク質を、培養培地から(宿主細胞が抗体または結合断片を培地に分泌する場合)、またはこれを産生する宿主細胞から直接(分泌しない場合)収集することができる。適切な宿主細胞の選択は、様々な要因、例えば、所望の発現レベル、活性に望ましいまたは必要なポリペプチド修飾(例えば、グリコシル化またはリン酸化など)、及び生体活性分子になるフォールディングのしやすさなどに依存することになる。
【0144】
発現用宿主として利用可能な哺乳類細胞株は、当該分野で周知であり、そのような細胞株として、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)から入手可能な不死化細胞株が挙げられるが、これらに限定されず、そのような細胞株として、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、HepG2)、及び複数の他の細胞株が挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、細胞株は、どの細胞株が高い発現レベルを有しており、CGRP受容体結合性質を持つ抗体または結合断片を構成的に産生するか判定することを通じて選択することができる。別の実施形態において、自身の抗体は作らないが異種抗体を作り分泌する能力を有するB細胞系統由来の細胞株を選択することができる。
【0145】
抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、一般に、医薬組成物に入れられて患者に投与され、医薬組成物は、薬学上許容されるキャリア、賦形剤、または希釈剤を含むことができる。「薬学上許容される」は、分子、化合物、及び組成物が、採用された投薬量及び濃度でヒトレシピエントに対して無毒である及び/またはヒトに投与された場合にアレルギー反応または有害反応を起こさないことを示す。ある特定の実施形態において、医薬組成物は、組成物の、例えば、pH、モル浸透圧濃度、粘度、透明度、色、等張性、臭気、滅菌性、安定性、溶解もしくは放出速度、吸収、または浸透度を、改変、維持、または保持するための配合材料を含有する場合がある。そのような実施形態において、適切な配合材料として、アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、またはリシンなど);抗菌剤;抗酸化剤(アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、または亜硫酸水素ナトリウムなど);緩衝剤(ホウ酸化合物、重炭酸化合物、トリスHCl(Tris-HCl)、クエン酸化合物、リン酸化合物、または他の有機酸など);増量剤(マンニトールまたはグリシンなど);キレート剤(エチレンジアミン四酢酸(EDTA)など);錯化剤(カフェイン、ポリビニルピロリドン、ベータ-シクロデキストリン、またはヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリンなど);充填剤;単糖類;二糖類;及び他の炭化水素(グルコース、マンノース、またはデキストリンなど);タンパク質(血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなど);着色剤、香味剤、及び希釈剤;乳化剤;親水性重合体(ポリビニルピロリドンなど);低分子量ポリペプチド;塩形成カウンターイオン(ナトリウムなど);保存剤(塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸、または過酸化水素など);溶媒(グリセリン、プロピレングリコール、またはポリエチレングリコールなど);糖アルコール(マンニトールまたはソルビトールなど);懸濁剤;界面活性剤または湿潤剤(プロロニック、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート、例えばポリソルベート20、ポリソルベート80、トリトン(triton)、トロメタミン、レシチン、コレステロール、チロキサパルなど);安定性増強剤(スクロースまたはソルビトールなど);等張性向上剤(アルカリ金属ハライド、好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、マンニトールソルビトールなど);送達ビヒクル;希釈剤;賦形剤、及び/または薬学上のアジュバントが挙げられるが、これらに限定されない。分子を治療用に配合するための方法及び適切な材料は、製薬分野で公知であり、例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES, 18th Edition, (A.R. Genrmo, ed.), 1990, Mack Publishing Companyに記載されている。
【0146】
実施形態によっては、医薬組成物に組み込むためのキャリア及び賦形剤の選択は、抗CGRP受容体抗体またはその結合断片の、物理的状態、安定性、in vivo放出速度、及びin vivoクリアランス速度に影響する。ある特定の実施形態において、医薬組成物中の主要ビヒクルまたはキャリアは、その性質が水性であっても非水性であってもよい。例えば、適切なビヒクルまたはキャリアは、注射用水、生理食塩水、または人工脳脊髄液の場合があり、非経口投与用組成物で一般的な他の材料が補充されている場合がある。
【0147】
本明細書中記載される方法のある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、患者に非経口投与される。非経口投与として、腹腔内、筋肉内、静脈内、動脈内、皮内、皮下、脳内、脳室内、及びくも膜下腔内投与が挙げられる。1つの特定の実施形態において、治療上有効量の抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物は、患者に、皮下投与される。医薬組成物が非経口注射されるこれら及び他の実施形態において、医薬組成物は、シリンジを用いて患者に投与することができる。実施形態によっては、シリンジは、医薬組成物が充填済である。医薬組成物が患者に非経口注射、例えば皮下注射される他の実施形態において、医薬組成物は、自己投与用装置をはじめとする注射装置で投与される。そのような装置は、市販されており、そのようなものとして、自己注射器、ペン型投薬器、微量注入ポンプ、及び充填済シリンジが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の方法に従って治療上有効量の抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物を投与するための装置の例として、自己注射器(例えば、SureClick(登録商標)、EverGentle(登録商標)、Avanti(登録商標)、DosePro(登録商標)、Molly(登録商標)、及びLeva(登録商標))、ペン型注射装置(例えば、Madie(登録商標)ペン型注射器、DCP(商標)ペン型注射器、BD Vystra(商標)使い捨てペン、BD(商標)再利用可能ペン)、及び充填済シリンジ(BD Sterifill(商標)、BD Hypak(商標)、Baxter製充填済シリンジ)が挙げられる。実施形態によっては、治療上有効量の抗CGRP受容体抗体または結合断片を含む医薬組成物は、充填済シリンジを用いて患者に投与される。他の実施形態において、治療上有効量の抗CGRP受容体抗体または結合断片を含む医薬組成物は、自己注射器を用いて患者に投与される。ある特定の関連実施形態において、注射体積は、約1mL以下である。
【0148】
1つの実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、患者の片頭痛の発生を予防または減少させるため、1ヶ月あたり約70mgの用量で、患者に投与され、この用量は、単回皮下注射で送達される。関連実施形態において、単回皮下注射は、充填済シリンジで送達される。他の関連実施形態において、単回皮下注射は、自己注射器で送達される。ある特定の実施形態において、患者は、反復性片頭痛を有するか、そうであると診断されている場合がある。他の実施形態において、患者は、慢性片頭痛を有するか、そうであると診断されている場合がある。
【0149】
別の実施形態において、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、患者の片頭痛の発生を予防または減少させるため、1ヶ月あたり約140mgの用量で、患者に投与され、この用量は、単回皮下注射で送達される。そのような実施形態において、単回注射は、充填済シリンジまたは自己注射器で送達することができる。1つの実施形態において、月々140mg用量の抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片は、それぞれが70mg用量を含む2回の順次注射を通じて患者に投与される。そのような実施形態において、2回の順次注射は、それぞれが70mg用量を含む2つの充填済シリンジまたは2つの自己注射器を用いて送達することができる。実施形態によっては、患者は、反復性片頭痛を有するか、そうであると診断されている場合がある。他の実施形態において、患者は、慢性片頭痛を有するか、そうであると診断されている場合がある。
【0150】
非経口注射に適した製剤形状の例として、滅菌水溶液剤または分散剤、及び滅菌注射液剤または分散剤の即時調製用滅菌粉剤が挙げられる。好ましくは、製剤形状は、滅菌されており、シリンジを介して送達することを可能にするのに十分な流動性がある(すなわち、配合物は、シリンジを通過するのを防ぐほどの過剰な粘性がない)。滅菌は、滅菌濾過膜を通した濾過により達成できる。組成物が凍結乾燥される場合、この方法を用いた滅菌は、凍結乾燥及び再構築の前後いずれで行うこともできる。非経口投与用組成物は、凍結乾燥形状でも液状でも貯蔵することができる。非経口組成物は、滅菌アクセス口を有する容器、例えば、皮下注射針を刺し通すことが可能な栓を有する静脈内液バッグまたはバイアルに入れることができる。非経口組成物は、シリンジ、自己注射器装置、またはペン型注射装置、あるいはそのような注射装置とともに使用するのに適合したカートリッジ中に貯蔵することもできる。
【0151】
ある特定の実施形態において、本発明の方法に従って投与されることになる医薬組成物の調製は、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を、デポー注射を介して送達することが可能な抗体または結合断片の制御放出または徐放性放出を提供することができる作用剤、例えば注射用微粒子、生体侵食され得る粒子、重合体化合物(ポリ乳酸またはポリグリコール酸など)、ビーズ、またはリポソームなどとともに配合することを含むことができる。ある特定の実施形態において、ヒアルロン酸も使用される場合があり、これは循環中に存在する期間を持続させるよう促進する効果を有する。ある特定の実施形態において、埋め込み型薬物送達装置を用いて、抗CGRP受容体抗体または結合断片を送達することができる。
【0152】
実施形態によっては、本発明の方法に従って患者に投与されることになる治療上有効量の抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物は、さらに、緩衝剤を含む。緩衝剤は、組成物を生理的pHまたはやや低いpHに、典型的には、約4.5~約6.5のpH範囲内に維持するために使用される。適切な緩衝剤として、グルタミン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス(Tris)緩衝剤、クエン酸緩衝剤、ヒスチジン緩衝剤、コハク酸緩衝剤、及びリン酸緩衝剤が挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、本明細書中記載される方法に従って投与される医薬組成物は、酢酸緩衝剤を含む。酢酸緩衝剤は、酢酸塩、例えば、酢酸ナトリウムで作られ得る。他の塩も使用可能であり、例えば、酢酸のカリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、またはマグネシウム塩がある。酢酸緩衝剤を含む医薬組成物は、典型的には、pH約4.5~約5.5またはpH約4.8~約5.2を有し、これにはpH約4.5、約4.6、約4.7、約4.8、約4.9、約5.0、約5.1、約5.2、約5.3、約5.4、及び約5.5が含まれる。
【0153】
治療上有効量の抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物は、さらに界面活性剤を含む場合がある。「界面活性剤」という用語は、本明細書中使用される場合、その物質が溶解している液体の表面張力を低下させるように機能する物質を示す。界面活性剤は、様々な目的で医薬組成物に含ませることができ、そのような目的として、例えば、液状配合物中の、凝集、粒子形成、及び/または表面吸着を予防または制御する目的、あるいは凍結乾燥中の及び/または凍結乾燥配合物の再構築過程中のこれらの現象を予防または制御する目的、が挙げられる。界面活性剤として、例えば、有機溶媒及び水溶液の両方に部分的溶解性を示す両親媒性有機化合物が挙げられる。界面活性剤の一般的特徴として、水の表面張力を低下させる能力、油と水の間の界面張力を低下させる能力、及びミセルを形成する能力が挙げられる。本発明の方法で使用される医薬組成物に組み込むことができる界面活性剤として、非イオン性界面活性剤及びイオン性界面活性剤の両方が挙げられる。適切な非イオン性界面活性剤として、アルキルポリ(エチレンオキシド)、アルキルポリグルコシド、例えばオクチルグルコシド及びデシルマルトシドなど、脂肪アルコール、例えばセチルアルコール及びオレイルアルコールなど、コカミドMEA、コカミドDEA、及びコカミドTEAが挙げられるが、これらに限定されない。非イオン性界面活性剤の具体例として、ポリソルベート、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート28、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート81、ポリソルベート85など;ポロキサマー、例えば、ポロキサマー188(ポロキサルコールまたはポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)としても知られる)、ポロキサマー407、またはポリエチレン-ポリプロピレングリコールなど、ならびにポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。適切なイオン性界面活性剤として、例えば、アニオン性、カチオン性、及び双性イオン性の界面活性剤が挙げられる。アニオン性界面活性剤として、スルホン酸系またはカルボン酸系界面活性剤、例えば石鹸、脂肪酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ラウリル硫酸アンモニウム、及び他のアルキル硫酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。カチオン性界面活性剤として、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)などの第四級アンモニウム系界面活性剤、他のアルキルトリメチルアンモニウム塩、セチルピリジニウムクロリド、ポリエトキシ化牛脂アミン(POEA)、及び塩化ベンザルコニウムが挙げられるが、これらに限定されない。双性イオン性または両性の界面活性剤として、例えば、ドデシルベタイン、ドデシルジメチルアミンオキシド、コカミドプロピルベタイン、及びココアンホグリシナートが挙げられる。ある特定の実施形態において、本明細書中記載される方法に従って投与される医薬組成物は、非イオン性界面活性剤を含む。1つの実施形態において、非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート20である。別の実施形態において、非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート80である。
【0154】
ある特定の実施形態において、治療上有効量の抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物は、さらに安定剤を含む。本明細書中使用される場合、「安定剤」という用語は、ポリペプチドまたは抗体の天然の立体配座を安定化するか及び/またはポリペプチドまたは抗体の物理的または化学的な分解を予防または減少させる賦形剤を示す。適切な安定剤として、ポリオール(例えばソルビトール、グリセロール、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール、及びトレイトール)、糖類(例えば、フルクトース、グルコース、グリセルアルデヒド、ラクトース、アラビノース、マンノース、キシロース、リボース、ラムノース、ガラクトースマルトース、スクロース、トレハロース、ソルボース、スクラロース、メレジトース、及びラフィノース)、及びアミノ酸(例えば、グリシン、メチオニン、プロリン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、またはグルタミン酸)が挙げられるが、これらに限定されない。実施形態によっては、医薬組成物は、安定剤として糖を含む。これら及び他の実施形態において、糖は、スクロースである。
【0155】
ある特定の実施形態において、本明細書中記載される方法に従う片頭痛の予防的治療に有用な医薬組成物は、約35mg/ml~約210mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約8mM~約20mMの酢酸ナトリウム、約0.002%~約0.015%重量/体積(w/v)のポリソルベート、及び約7%~約10%w/vのスクロースを含む。他の実施形態において、医薬組成物は、約70mg/ml~約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約10mM~約15mMの酢酸ナトリウム、約0.008%~約0.012%w/vのポリソルベート、及び約8%~約9%w/vのスクロースを含む。これらの組成物のpHは、約4.8~約5.5の範囲(例えば、pH約4.8、約5.0、約5.2、または約5.4)にある。
【0156】
1つの実施形態において、本発明の方法に従って投与されることになる医薬組成物は、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約10mMの酢酸ナトリウム、約0.004%w/vのポリソルベート20、及び約9%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。別の実施形態において、医薬組成物は、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約10mMの酢酸ナトリウム、約0.004%w/vのポリソルベート80、及び約9%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。別の実施形態において、医薬組成物は、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約10mMの酢酸ナトリウム、約0.004%w/vのポリソルベート20、及び約9%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。さらに別の実施形態において、医薬組成物は、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約10mMの酢酸ナトリウム、約0.004%w/vのポリソルベート80、及び約9%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。別の実施形態において、医薬組成物は、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約10mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート20、及び約9%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。さらに別の実施形態において、医薬組成物は、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約10mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約9%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。1つの特定の実施形態において、医薬組成物は、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約10mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート20、及び約9%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。別の特定の実施形態において、医薬組成物は、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約10mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約9%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。
【0157】
ある特定の実施形態において、本発明の方法に従って投与されることになる医薬組成物は、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート20、及び約8.2%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。1つの特定の実施形態において、医薬組成物は、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.2%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。別の特定の実施形態において、医薬組成物は、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.2%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。別の実施形態において、医薬組成物は、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート20、及び約8.2%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。さらに別の実施形態において、医薬組成物は、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.5%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。なお別の実施形態において、医薬組成物は、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.5%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。実施形態によっては、医薬組成物は、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート20、及び約8.5%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。他の実施形態において、医薬組成物は、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート20、及び約8.5%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。
【0158】
実施形態によっては、本発明の方法に従って投与されることになる医薬組成物は、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約20mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート20、及び約8.2%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。1つの実施形態において、医薬組成物は、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約20mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート20、及び約8.2%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。別の実施形態において、医薬組成物は、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約20mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.2%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。別の実施形態において、医薬組成物は、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約20mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.2%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。さらに別の実施形態において、医薬組成物は、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約20mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.5%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。別の実施形態において、医薬組成物は、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約20mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.5%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。なお別の実施形態において、医薬組成物は、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約20mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート20、及び約8.5%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。別の実施形態において、医薬組成物は、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約20mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート20、及び約8.5%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む。
【0159】
表7に記載される特定の抗CGRP受容体抗体をはじめとして、本明細書中記載される抗CGRP受容体抗体または結合断片はどれでも、上記の医薬組成物のどれにでも組み込むことができ、本明細書中記載される方法に従って患者に投与することができる。ある特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体は、表7に記載される4E4抗体またはその結合断片である。他の特定の実施形態において、抗CGRP受容体抗体は、表7に記載される9F5抗体またはその結合断片である。
【0160】
上記の医薬組成物は、どれでも、自己投与注射装置に組み込むことができる。すなわち、本発明は、片頭痛の予防的治療を必要としている患者での片頭痛の予防的治療に適した注射装置も含む。ある特定の実施形態において、本発明は、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、酢酸緩衝剤、スクロース、及びポリソルベートを含む医薬組成物を含む充填済シリンジを提供する。1つの実施形態において、充填済シリンジは、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.2%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む医薬組成物を含む。別の実施形態において、充填済シリンジは、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.2%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む医薬組成物を含む。別の実施形態において、充填済シリンジは、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.5%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む医薬組成物を含む。さらに別の実施形態において、充填済シリンジは、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.5%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む医薬組成物を含む。ある特定の実施形態において、充填済シリンジの注入体積は、約1ml以下(例えば0.5ml)である。
【0161】
実施形態によっては、本発明は、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、酢酸緩衝剤、スクロース、及びポリソルベートを含む医薬組成物を含む自己注射器を提供する。1つの実施形態において、自己注射器は、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.2%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む医薬組成物を含む。別の実施形態において、自己注射器は、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.2%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む医薬組成物を含む。別の実施形態において、自己注射器は、約70mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.5%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む医薬組成物を含む。さらに別の実施形態において、自己注射器は、約140mg/mlの抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片、約15mMの酢酸ナトリウム、約0.010%w/vのポリソルベート80、及び約8.5%w/vのスクロースを、pH5.2±0.2で含む医薬組成物を含む。ある特定の実施形態において、自己注射器の注入体積は、約1ml以下(例えば0.5ml)である。
【0162】
本発明は、患者に、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を、片頭痛もしくは本明細書中記載される他の頭痛障害の急性または予防的治療に適した1種または複数の作用剤と併用して投与することも含む。「併用療法」という用語は、本明細書中使用される場合、2種の化合物(例えば、抗CGRP受容体抗体または結合断片と、さらなる作用剤)を順次様式で投与する(すなわち、各化合物を任意の順序で異なる時間に投与する)こと、並びに2種の化合物を実質的に同時様式で投与することを包含する。実質的に同時の投与には、同時投与が含まれ、これは、両方の化合物を含む単一配合物(例えば、両化合物を固定比で含む単一カプセルまたは他の配合物あるいは各化合物を固定比で含む充填済シリンジ)の投与により、または各化合物を含有する別々の配合物を同時に投与することにより達成することができる。
【0163】
実施形態によっては、本発明の方法は、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を、CGRP受容体シグナル伝達を調節する第二作用剤とともに投与することを含む。例えば、抗CGRP受容体抗体または結合断片を、第二のCGRP受容体アンタゴニストと併用して投与して、片頭痛の予防的治療を必要としている患者の片頭痛を予防的に治療することができる。他のCGRP受容体アンタゴニストとして、CGRP受容体の小分子阻害剤、例えば、米国特許公開第20060142273号、ならびに米国特許第7,842,808号;同第7,772,244号;同第7,754,732号;同第7,569,578号;同第8,685,965号;同第8,569,291号;同第8,377,955号;同第8,372,859号;同第8,143,266号;同第7,947,677号;及び同第7,625,901号に記載されるものなどが挙げられ、これらの特許文献は本明細書により参照としてそのまま全体が援用される。CGRP受容体アンタゴニストとしてまた、受容体のペプチドアンタゴニスト、例えば、米国特許第8,168,592号に記載されるものなどを挙げることができ、これは本明細書により参照としてそのまま全体が援用される。実施形態によっては、抗CGRP受容体抗体または結合断片を、CGRPリガンドとCGRP受容体の結合に干渉する作用剤と併用して投与して、片頭痛の予防的治療を必要としている患者の片頭痛を予防的に治療することができる。CGRPリガンドとCGRP受容体の結合に干渉する作用剤は、デコイまたは可溶性CGRP受容体あるいはCGRPリガンドと結合する他のタンパク質、例えば、抗CGRP抗体などであり得る。抗CGRP抗体は、当該分野で既知であり、例えば、WO2007/054809;WO2007/076336;WO2011/156324;及びWO2012/162243に記載されている。これらの特許文献は全て、本明細書により参照としてそのまま全体が援用される。
【0164】
ある特定の実施形態において、本発明の方法は、抗CGRP受容体抗体またはその抗原結合断片を、第二の抗片頭痛薬とともに投与することを含む。第二の抗片頭痛薬は、片頭痛の急性治療に使用される作用剤であり得、例えば、トリプタン(例えば、アルモトリプタン、フロバトリプタン、リザトリプタン、スマトリプタン、ナラトリプタン、エレトリプタン、及びゾルミトリプタン)、エルゴタミン(例えば、ジヒドロエルゴタミン及びエルゴタミンカフェイン合剤)、非ステロイド性抗炎症薬(例えば、アセチルサリチル酸、イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、及びジクロフェナク)、ならびにオピオイド(例えば、コデイン、モルヒネ、ヒドロコドン、フェンタニル、メペリジン、及びオキシコドン)などがある。実施形態によっては、第二の抗片頭痛薬は、片頭痛の予防的治療に使用される作用剤、例えば、抗癲癇薬(例えばトピラマート)、ベータ遮断薬(例えばプロプラノロール)、または抗鬱薬(例えばアミトリプチリン)などである。他の実施形態において、第二の抗片頭痛薬は、脳下垂体アデニルシクラーゼ活性化ポリペプチドI型受容体(PAC1受容体)の活性を調節する作用剤である。PAC1受容体の活性を調節する作用剤として、抗体またはPAC1受容体と結合する他の結合タンパク質、例えばWO2014/144632に記載されるものなどが挙げられ、これは本明細書により参照としてそのまま全体が援用される。
【0165】
本発明は、片頭痛の予防的治療を必要としている患者の片頭痛を予防的に治療するためのキットも含む。1つの実施形態において、キットは、本明細書中記載される抗CGRP受容体抗体または結合断片の医薬組成物、及び医薬組成物の使用説明書を提供する包装材料を含む。キットの医薬組成物は、バイアルまたはシリンジなどの容器に入っている場合がある。医薬組成物は、溶液、懸濁液、ゲル、乳濁液、固体、結晶、または脱水もしくは凍結乾燥粉末として提供される場合がある。医薬組成物が粉末として提供される実施形態において、キットは、医薬組成物を再構築するのに必要な希釈剤(例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水)、ならびに投与用組成物の調製に関する説明書も含む場合がある。実施形態によっては、キットは、本明細書中記載されるとおりの医薬組成物が充填済である自己投与用注射装置(例えば充填済シリンジまたは自己注射器)を含む。上記の充填済シリンジ及び自己注射器のどれでもキットに含めることができる。
【0166】
以下の実施例は、行われた実験及び達成された結果も含めて、例示のみを目的として提供されるものであり、添付の請求項の範囲を制限するものとして見なされることはない。
【実施例】
【0167】
[実施例1] 健康な対象者及び片頭痛患者における皮膚血流のカプサイシン誘導型増加と濃度の関連性を特性決定するためのモノクローナル抗体AMG334の薬物動態/薬力学モデリング
AMG334(本明細書中、抗体4E4とも称する)は、高いin vitro力価でヒトCGRP受容体と結合する完全ヒトIgG2モノクローナル抗体である。皮膚血流(DBF)のカプサイシン(CAP)誘導型増加の阻害は、CGRP受容体アンタゴニストの薬物動態学的効果を特性決定するための翻訳モデルとして広く使用されてきた。この確証されたモデルを使用して、AMG334の単回及び複数回投与後の、AMG334の薬物動態学的効果の特性決定、ならびに健康な対象者(HS)及び片頭痛患者(MP)におけるDBFのCAP誘導型増加に対するAMG334の阻害効果の定量を行った。
【0168】
分析データセットには、単回で、AMG334の皮下(SC)用量(1、7、21、70、140、または210mg)またはプラセボを投与された52人の対象者(40人のHS、12人のMP)、及び4週間ごとに3回連続して、AMG334のSC用量(21、70、または140mg)またはプラセボを投与された40人の対象者(24人のHS、16人のMP)が含まれた。以下の表9を参照。同一対象者で、複数回の試験来診時に、レーザードップラー画像診断を用いて、繰り返しCAP負荷及びDBF測定を行い、CAP投与前及び後のDBFに対するAMG334の阻害効果を見積もった。薬物動態特性決定のため、他の時点で収集した追加試料とともに、DBF測定と一致する時点で、血清AMG334濃度を求めた。集団薬物動態薬力学(PK-PD)モデリングアプローチを実行して、AMG334濃度DBF関連性を評価した。PK及びPDパラメーターに対する体重(44.6~104kg)、性別(男性か女性か)、年齢(18~53歳)、及び疾患集団(MPかHSか)の影響を、このモデルで評価した。
【0169】
AMG334PKは、受容体介在型薬物処遇モデルによる特性決定が最適であった。このモデルは、AMG334クリアランス及び分布の、濃度/用量依存性を説明した。完全SC吸収は、投薬の約10日後に生じた。70mgのSC用量を投与された典型的な対象者(70kg)の場合、推定排出半減期は21日間であったが、これはモノクローナル抗体にとって典型的である。AMG334の半減期は、その濃度が約<700ng/mLであった場合に、急速な抗体排出によって短縮されたが(すなわち、<21日間)、恐らくこれは、大部分のAMG334が標的受容体と結合し、排出が可能である循環している未結合AMG334が少なくなったためと思われる。AMG334は、CAP後DBFを大幅に阻害したが、CAP前DBFには目立つ効果がなかった。PK-PDモデルから、平均ベースライン、CAP誘導型DBFは、390AU上昇し、最大DBF阻害は90%と見積もられた。最大阻害の50%(EC50)及び99%(EC99)に必要なAMG334濃度は、それぞれ、218ng/mL及び1140ng/mLであった。
図1を参照。その結果、>7mgの用量は全て、EC99超または最大DBF阻害の濃度をもたらした;最大阻害の期間は、用量の増加とともに長くなり、繰り返し投与の後では持続的であった。
図2を参照。AMG334曝露は、DBFではそうではないが、体重の増加とともに減少した。体重に関して調整後のHSとMPの間に、PK及びPDの差はなかった。
【0170】
AMG334は、CAP誘導型DBFの強力で再現可能な阻害をもたらし、このことは、HS及びMPでの完全な末梢CGRP受容体遮断を示す。体重が、PKに影響する唯一の共変数であったが、PDには影響しなかった。AMG334の長い半減期及び強固な濃度DBF関連性は、CGRP受容体の長期阻害を示す。
【表9】
【0171】
[実施例2] 健康な対象者及び片頭痛患者におけるAMG334の無作為化二重盲検プラセボ対照第I相、単回投与及び複数回投与試験
片頭痛は、日常生活に支障をきたす頭痛であり、この頭痛にはカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が関与すると思われる。AMG334(4E4抗体)は、CGRP受容体に対する完全ヒトモノクローナル抗体である。これらの第I相、無作為化、プラセボ対照、単回投与(SD)及び複数回投与(MD)試験では、健康な対象者及び片頭痛患者におけるAMG334の薬物動態学(PK)、薬力学(PD)、及び安全性を評価した。
【0172】
SD試験では、対象者に、漸増する用量でAMG334(n=42)を1~210mgのSCで、140mgのIVで、または相当量のプラセボ(n=18)を、単回投与した。MD試験では、対象者に、AMG334を21~280mgのSCで(n=35)またはプラセボ(n=12)を、1、29、57日目に複数回投与した。両方の試験で、PK及び安全性を評価した;PK測定には、最大濃度(Cmax)、ゼロ時点から定量可能な最終濃度までの濃度時間曲線の曲線下面積(AUClast)、及び最大濃度到達時間(tmax)が含まれた。両方の試験で、AMG334によるカプサイシン誘導型皮膚血流(DBF)の阻害を用いて、CGRP受容体拮抗作用を測定した;Emaxは、最大阻害パーセントを表した。SD試験では、シグモイドEmaxPK/PDモデルを当てはめて、AMG334血清曝露とDBFのカプサイシン誘導型増加の阻害との間の関連性を分析した。MD試験で、各投薬の約7日後に連続24時間自由行動下血圧測定(ABPM)を行った。
【0173】
SD試験では、42人の対象者に、AMG334を投与した(36人の健常者、6人の片頭痛者);18人にプラセボを投与した(12の健常者、6人の片頭痛者)。AMG334の検出可能な血清濃度は、投薬後30~160日間観察され、用量が70mg以上になると、検出可能なレベルが投薬後100日以上続くようになった。
図3Aを参照。単回SC投与後、AMG334は、非線形PKを示した;AMG334曝露は、1~70mgでは用量に比例するより多く増加し、70~210mgでは用量にほぼ比例して増加した。以下の表10を参照。用量を70から210mgへと3倍に増加させた後、平均AUC
lastは、171μg・日/mLから652μg・日/mLへと3.8倍に増加し、平均C
maxは6.25μg/mLから15.2μg/mLへと2.4倍に増加した(表10)。t
max中央値は、用量範囲全体にわたり、4~11日間の範囲であった(表10)。IV投与と比較したSC投与の濃度時間曲線下の相対曝露面積(AUC)は、140mgのAMG334用量について約54%であった。健康な対象者と片頭痛者との間で、PKに明白な差はなかった。
【表10】
【0174】
4日目が、SD試験でカプサイシン誘導型DBFの阻害について評価した最初の時点であった。4日目、DBFのカプサイシン誘導型増加の阻害パーセントを、プラセボと比較したところ、≧21mgのSC用量について、健康な対象者でこの用量範囲にまたがって75%から95%であった(片頭痛対象では91%)。
図4Aを参照。AMG334血清曝露とDBFのカプサイシン誘導型増加の阻害との関連性の分析にシグモイドE
maxPK/PDモデルを当てはめた結果、E
maxは94.2%(標準誤差は2.85%)であり、最大の半分の効果(EC
50)を有する血清AMG334濃度は286(標準誤差は37.2)ng/mLであった。
【0175】
MD試験では、36人の対象者(24人が健康、12人が片頭痛)に合計で3回用量のAMG334(21~280mg)を投与し;12人の対象者(8人が健康、4人が片頭痛)にプラセボを投与した。3回の単回用量SC投与後、AMG334蓄積範囲は、健康な対象者で用量にまたがって、1.42~1.69倍の範囲であり、片頭痛患者で用量にまたがって1.50~1.78倍の範囲であった。
図3Bを参照。T
max値は、すべての用量範囲について、最初のSC投薬後、約3~13日の範囲であり、3回目の投薬後約6~14日の範囲であった(
図3B)。SD試験の結果と同様に、健康な対象者と片頭痛者との間で、PKパラメーターに明白な差はなかった。
【0176】
8日目が、MD試験でカプサイシン誘導型DBFの阻害について評価した最初の時点であった。8日目に、健康な対象者及び片頭痛患者において、全てのAMG334コホートにまたがって、プラセボと比べて顕著な阻害が観測された。
図4Bを参照。どちらの患者集団においても、AMG334群に薬剤の効果に顕著な差異はなかった。57及び85日目(健康な対象者)または57、86、及び169日目(片頭痛患者)の結果は、8日目の知見と一致した。それより遅い時点(113日以降)では、プラセボと比べてAMG334群で顕著な阻害は見られなかった。MD試験でのDBF阻害は、SDのDBF結果と一致したものであり、最大阻害は、繰り返し投薬間隔の間、維持された。
【0177】
24時間ABPMから、AMG334の用量が増加しても、BP日内変動に変化がないこと及びBPの増加がないことが明らかとなった。健康な対象者における全てのAMG334群対プラセボ比較にまたがって、24時間及び夜間の最小二乗平均BPに、統計上有意差は観察されなかった。同じく、片頭痛患者における全てのAMG334群対プラセボ比較にまたがって、24時間拡張期及び夜間拡張期の最小二乗平均BPに、統計上有意差は観察されなかった。治療により出現した有害事象は、治療群間で、及び健康な対象者と片頭痛者との間で、種類及び頻度において同様であった。AMG334の用量と治療により出現した有害事象の総合出現頻度との間に明らかな関連性はなかった。バイタルサインまたは検査値に、臨床上意味のある差は観察されなかった。
【0178】
AMG334のPK特性は、他のヒトIgG2抗体の特性と一致している。PK曝露は、単回投与後、1~70mgでは用量に比例するより多く増加し、70~210mgでは用量にほぼ比例して増加し、健康な対象者と片頭痛者との間で、明白な差はなかった。3回の単回用量SC投与後、両方の集団で用量範囲にまたがってPKに同様な傾向が観察された。AMG334の投与は、健康な対象者及び片頭痛患者の両方で、プラセボに対して、DBFのカプサイシン誘導型増加の顕著な阻害をもたらし、このことはCGRP受容体拮抗作用を示す。DBFのカプサイシン誘導型増加の阻害は、健康な対象者と片頭痛者との間で、同様であった。AMG334の単回投与及び複数回投与は、認容性が良好であり、血清AMG334濃度と血圧の間に関連はなかった。
【0179】
[実施例3] 反復性片頭痛の予防に関するAMG334の有効性及び安全性を評価するための無作為化二重盲検プラセボ対照第II相試験の結果
この第II相、二重盲検、プラセボ対照臨床では、反復性片頭痛の予防におけるAMG334(すなわち4E4抗体)の効果を評価した。
【0180】
反復性片頭痛の患者(片頭痛日数が1ヶ月あたり≧4日かつ≦14日)を、3:2:2:2の比で、それぞれ、毎月(QM)プラセボまたはAMG334(7mg、21mg、または70mg)を皮下投与する群に無作為に分けた。主要評価項目は、12週目での月々の片頭痛日数におけるベースラインからの変化であった。副次的評価項目には、月々の片頭痛日数における減少が≧50%である対象者の割合(すなわち50%反応者率)、月々の片頭痛発作の減少、及び安全性/認容性が含まれていた。重要な探求的評価項目には、月々の頭痛日数及び月々の急性片頭痛専用薬(例えばトリプタン、エルゴタミン)使用日数の減少が含まれていた。
【0181】
483人の対象者を、プラセボ(n=160)、AMG334を7mg(n=108)、21mg(n=108)、または70mg(n=107)群に無作為に分けた。対象者は、ほとんどが女性(80.5%)であり;平均(SD)年齢は、41.1(10.8)歳であった。月々の平均片頭痛日数の統計上優位な減少は、AMG334 70mg(-3.40)対プラセボ(-2.28)で観察された。
図5を参照。事後解析は、早くも2週目から有意な治療効果があったことを示した。少ない方の用量のAMG334での月々の片頭痛日数の減少(7mg:-2.18及び21mg:-2.39)は、プラセボ群(-2.28)と比較して、統計上有意なものではなかった。
図5を参照。12週目での50%反応者率は、70mgで46.5%対プラセボで29.9%であった(P=0.011)。統計上有意な減少は、月々の頭痛日数(70mg:-3.54対プラセボ:-2.39;P=0.022)及び月々の急性片頭痛専用薬使用日数(70mg:-1.64対プラセボ:-0.69;P=0.004;
図6)でも観察された。月々の片頭痛発作の変化は、統計上有意なものではなかった。サブグループ分析から、AMG334の有効性は、性別(データは示さず)、ベースライン片頭痛頻度(
図7A)、または予防的薬物療法の使用の前歴(
図7B)に関わらず同様であったことが示された。70mg用量のAMG334及びプラセボについて様々な評価項目でのデータのまとめを表11に示す。大きな安全性の知見は報告されなかった。安全性/認容性特性は、AMG334とプラセボの間で同様であった。プラセボと比較してAMG334治療群で有害事象発生率に明らかな差は観察されなかった。有害事象発生率にAMG334の用量依存性は観察されなかった。AMG334を投与された6人(1.9%)の対象者対プラセボを投与された2人(1.3%)は、二重盲検治療相中に、有害事象が原因で治験製品を中止した。
【表11】
【0182】
臨床試験の12週間二重盲検(DB)治療相後、患者は、最長で256週間までの非盲検延長(OLE)相において、1ヶ月に1回(QM)AMG334を70mg投与されるのに適性であった。OLE相中、患者は、64週目まで毎日ダイアリーを全て記入し続けた。この暫定分析のため、患者は、最長76週目までAMG334を70mg、QMで投与された。安全性及び認容性を、毎月評価した。2つの群で、最長64週まで、有効性評価項目を分析した:第1群:DB相でプラセボ、AMG334を7mg、またはAMG334を21mg(すなわち、DB無効用量)投与された後、AMG334を70mg、QMに移行した患者;第2群:OLE相中、AMG334を70mg、QM(すなわち、DB有効用量)で投与され続けた患者。有効性評価項目は、以下のとおりであった:月々の片頭痛日数におけるベースラインからの変化、50%反応者率、75%反応者率、100%反応者率、月々の片頭痛発作、月々の片頭痛専用薬(例えばトリプタン、エルゴタミン)使用日数、及び月々の頭痛日数。
【0183】
OLEに進むことができた適格患者395人中合計で383人(97%)が、非盲検でAMG334を70mg、QMで投与された。OLE相でAMG334 70mgに曝露された期間の中央値は、239日(34.1週間)であり、合計曝露は、1年で263.7患者であった。
図8は、DB相について及びOLE相の最初の10ヶ月間について月々の片頭痛日数のベースラインからの変化を示す。結果は、月々70mgのAMG334を投与すると、プラセボ、7mgのAMG334、または21mgのAMG334をすでに投与されていた患者の月々の片頭痛日数が減少することを示す。特に、DB相の12週目(主要評価項目)と比較すると、月々の平均片頭痛日数のベースラインからのさらなる減少が、受けていたDB治療に関わらずOLE相中(16週目~64週目)に観察された(第1群:12週目で-2.4日間対16週目で-4.0日間;第2群:12週目で-3.5日間対16週目で-3.9日間)。治療効果は、OLE相中(16週目~64週目)持続し、月々の片頭痛日数は、ベースラインから、第1群で-4.0~-6.2日間及び第2群で-3.7~-4.9日間の範囲で変化した。同様な結果は、50%反応者率、75%反応者率、及び100%反応者率、月々の片頭痛発作、月々の頭痛日数、及び片頭痛専用薬使用についても観察された。52週目では、患者の62%が、片頭痛日数の50%以上の減少を経験し、38%が片頭痛日数の75%以上の減少を経験し、19%が片頭痛日数の100%の減少を経験した。DB相の12週目と比較すると、月々の頭痛日数(
図9A)及び片頭痛専用薬使用日数(
図9B)の試験ベースラインからのさらなる減少が、OLE相中に観察された。
【0184】
有害事象(AE)は、患者383人中243人(63%)で報告された。最も一般的なAE(≧3%)は、上咽頭炎、上気道感染症、関節痛、インフルエンザ、背部痛、及び副鼻腔炎であった。ほとんどのAEは、CTCAEグレードが1または2であった。重度AEは、13人の患者(3%)で報告され、そのうちの1人(<1%)は、治療に関連するものとみなされた(治験医師による)。11人の患者(2%)が、AEを理由にOLE相を中止した。バイタルサインまたは検査値(肝機能検査を含む)に治療上意味のある知見はなかった。
【0185】
第2相臨床試験結果から、AMG334は、月々の用量70mgで投与された場合に、反復性片頭痛の予防に有効であり、かつAMG334はプラセボと同様な安全性/認容性特性を有することが示された。OLE相を継続してAMG334を70mg、QMで投与された患者は、片頭痛日数に治療上意味のある持続した減少を示した。安全性及び認容性は、DB相で観察されたものと一致しており、安全性に関する新たなサインは観察されなかった。
【0186】
[実施例4] 慢性片頭痛の予防に関するAMG334の有効性及び安全性を評価するための無作為化二重盲検プラセボ対照第II相臨床試験
この第II相臨床試験では、慢性片頭痛の予防におけるAMG334(すなわち4E4抗体)の効果をプラセボと比較して評価した。
【0187】
慢性片頭痛のある患者(1ヶ月の頭痛日数が≧15日、かつ1ヶ月の片頭痛日数が≧8日)を無作為に3:2:2に分けて、12週間の二重盲検治療相中、プラセボ、70mgのAMG334を皮下(SC)に毎月(QM)、または140mgのAMG334をSCにQMで、のいずれかを投与した。主要評価項目は、12週目の月々の片頭痛日数におけるベースラインからの変化であった。副次的評価項目には、月々の片頭痛日数における減少が≧50%の対象者の割合(すなわち50%反応者率)、月々の片頭痛発作の減少、及び安全性/認容性が含まれていた。重要な探求的評価項目には、月々の頭痛日数の減少、月々の累積頭痛時間数のベースラインからの変化、片頭痛の痛みの重篤度の月々の平均のベースラインからの低下、及び月々の急性片頭痛専用薬(例えばトリプタン、エルゴタミン)使用日数が含まれていた。
【0188】
対象者は、インフォームドコンセントに署名した後、スクリーニング相に入り(最長3週間)、その間、対象者の適格性が査定された。適格対象者には、年齢18~65歳で、スクリーニングの前3ヶ月間、毎月、前兆の有無に関わらず片頭痛の発作歴が少なくとも5回あり、月々の頭痛日数が少なくとも15日の病歴があり、その頭痛日数のうち少なくとも8日は、片頭痛日数であった成人が含まれていた。トリプタン、麦角誘導体、鎮痛薬、及び合剤の薬物乱用(MO)が同時に存在する対象者も、臨床試験に適格であった。
【0189】
スクリーニング相から適格であった対象者全員を、4週間のベースライン相に登録した。ベースライン相中に試験対象基準を満たした対象者は、治療相に進むことができた。ベースライン相の試験対象基準は、以下を含むものであった:
・ベースライン相中、頭痛日数が≧15日であり、頭痛日数のうち≧8日は片頭痛基準を満たす;
・ベースライン相中、≧4回の明らかな頭痛エピソードがあり、エピソードはそれぞれ、4時間以上継続するか、または、それより短い場合は、カレンダー上の同一日にトリプタンまたは麦角誘導体の使用を伴うものであった;及び
・eダイアリーの少なくとも80%順守を示した(例えば、ベースライン相中、28日のうち少なくとも23日はeダイアリーの項目を全部記入しなければならない)。
【0190】
1日目の来診時に、ベースライン相から適格であった対象者を無作為に12週間二重盲検治療相に分けて、二重盲検治験製品をQMでSC投与開始した。適格で登録された対象者を、無作為に、3:2:2比で、プラセボ、AMG334 70mg、またはAMG334 140mgのいずれかの群に分けて、プラセボ群には約210人の対象者、AMG334 70mgの群には約140人の対象者、及びAMG334 140mgの群には約140人の対象者とした。無作為化は、地域(北米か他所か)及びベースラインでの薬物乱用(MOか非MOか)によって階層化された。二重盲検のAMG334 70mg、AMG334 140mg、またはプラセボは、12週間二重盲検治療相中(すなわち、1日目及び4週目及び8週目に)投与された。二重盲検治療相中、各治験製品投与のため2回のSC注射を行った(すなわち、1日目、4週目及び8週目)。安全性を追跡するための来診は、臨床試験完了または初期中断から12週間後に行った(すなわち、治験製品の最終投薬から16週間後)。
【0191】
最終分析の目的は、慢性片頭痛のある対象者でのAMG334 70mg及びAMG334 140mgの有効性及び安全性を評価することである。臨床試験の最終分析は、試験終了時に行う。全試験期間から得られる有効性及び安全性データを、二重盲検治療群ごとに分析して報告する。結果は、慢性片頭痛の対象者では、AMG334は、プラセボと比較して、用量依存性で月々の片頭痛日数をベースラインから低下させ、AMG334の有害事象特性はプラセボと同様であることを示すと期待される。
【0192】
臨床試験の12週間二重盲検治療相後、非盲検相を開始した。12週間二重盲検治療相を完了した対象者全員が、非盲検相への登録に適格であり、非盲検相中、対象者は、12週目の安全性追跡用来診に続いて、月々70mgの用量のAMG334をSCで13ヶ月間投与される。対象者は、1日目~3ヶ月来診、5ヶ月~6ヶ月来診、9ヶ月~10ヶ月来診、及び12ヶ月~13ヶ月来診の間に、毎日電子ダイアリー(eダイアリー)を使用して、彼らの片頭痛及び非片頭痛性頭痛ならびに急性医薬の使用について情報を記録する。
【0193】
非盲検相の目的は、AMG334の長期投与の安全性、認容性、及び有効性を特性決定することである。重要な評価項目には以下が含まれる:
・慢性片頭痛のある患者で、月々の片頭痛日数のベースラインからの変化;
・月々の片頭痛日数にベースラインから少なくとも50%の減少がある対象者の割合;
・慢性片頭痛のある患者で、月々の片頭痛発作のベースラインからの減少;
・片頭痛身体機能インパクトダイアリー(MPFID)により測定した場合の経時的な身体的支障の変化;及び
・MPFIDにより測定した場合の経時的な日々の活動に対する影響の変化。
【0194】
非盲検試験結果は、慢性片頭痛の患者にとってAMG334の長期曝露が安全かつ十分な認容性のあるものであること、及び月に1度の70mgのSC用量が、慢性片頭痛の対象者の片頭痛日数を有効に減少させることを示すことが予想される。
【0195】
[実施例5] 片頭痛予防におけるAMG334の有効性及び安全性を評価するための無作為化二重盲検プラセボ対照第III相臨床試験
この臨床試験の第一目的は、反復性片頭痛のある対象者における、月々の片頭痛の平均日数のベースラインからの変化について、プラセボと比較したAMG334(すなわち4E4抗体)の効果を評価することである。臨床試験の第二目的には、月々の片頭痛の平均日数のベースラインから少なくとも50%の減少を示す対象者の割合、月々の急性片頭痛専用薬治療の平均日数のベースラインからの変化、片頭痛身体機能インパクトダイアリー(MPFID)により測定した場合の身体的支障のベースラインからの変化、及びMPFIDにより測定した場合の日々の活動に対する影響のベースラインからの変化が含まれる。
【0196】
AMG334の2種の用量、70mg及び140mgを、この臨床試験で評価する。対象者は、AMG334 140mg、AMG334 70mg、またはプラセボのいずれかを、二重盲検治療相中、24週間、月に1度(QM)皮下(SC)投与され、続いて28週間の活動的治療相を行い、この期間中、対象者は、AMG334 140mgまたはAMG 70mg、QMでSC投与されることになる。反復性片頭痛がある対象者(1ヶ月の片頭痛日数が≧4~<15)約852人を、1:1:1で、プラセボ、AMG334 70mg、またはAMG334 140mgに無作為に分ける。無作為化は、地域(北米か他所か)によって、及び片頭痛の予防的薬物療法による先行治療(先行する片頭痛の予防的薬物治療があるかないか)によって階層化される。
【0197】
対象者は、インフォームドコンセントに署名した後、スクリーニング相に入る。スクリーニング相は、最初のスクリーニング相(最長3週間)、続いて4週間のベースライン相で構成される。スクリーニング相及び/またはベースライン相の間、対象者の適格性が査定される。適格対象者には、年齢18~65歳で、前兆の有無に関わらず≧12ヶ月間の片頭痛歴があり、スクリーニングの前3ヶ月間にわたる平均で、1ヶ月あたりの片頭痛日数が≧4~<15あるとともに、1ヶ月あたりの頭痛日数が<15である成人が含まれる。
【0198】
1日目の来診時に、適格対象者を24週間二重盲検治療相に登録し(すなわち、無作為化し)、二重盲検治験製品をQMでSC投与開始する。24週目の来診時に、各治療群の対象者を、28週間活動的治療相のため、再度無作為に、1:1で、AMG334を70mg、またはAMG334を140mgに分けて、治験製品をQMでSC投与開始するが、投薬レベルについてのみ盲検のままとする。再無作為化は、二重盲検中に割り当てられた治療群によって階層化される。二重盲検のAMG334を70mg、AMG334を140mg、またはプラセボは、24週間二重盲検治療相中(すなわち、1日目ならびに4、8、12、16、及び20週目に)投与され、活動的相のAMG334 70mgまたはAMG334 140mgは、28週間活動的治療相中(すなわち、24、28、32、36、40、44、及び48週目に)投与される。二重盲検治療相及び活動的治療相全体を通じて、各治験製品投与のため2回のSC注射を行う。
【0199】
安全性を追跡するための来診は、治験製品の最終投薬から16週間後に行う。対象者は、ベースライン相、二重盲検治療相、及び活動的治療相全体を通じて、毎日電子ダイアリー(eダイアリー)を使用して、彼らの片頭痛及び非片頭痛性の頭痛ならびに急性頭痛医薬の使用について情報を記録する。対象者は、4週目から活動的治療相の終了まで通して、毎月、治験施設検査来診が計画される。
【0200】
第III相臨床試験の結果は、反復性片頭痛がある対象者で、プラセボと比較して、AMG334が月々の片頭痛の平均日数をベースラインからより大きく減少させることを示すことが予想される。プラセボと比較してAMG334に予想される治療効果は、70mg及び140mgそれぞれに対して、月々の片頭痛日数の平均の、ベースラインから1.12及び1.30日間の減少である。
【0201】
本明細書中記載及び引用される全ての文献、特許、及び特許出願は、本明細書によりそのまま全体が参照として援用される。当然のことながら、開示される本発明は、変更可能であり、記載される特定の方法論、プロトコル、及び材料に限定されない。同じく当然のことながら、本明細書中使用される用語は、特定の実施形態を記載することのみを目的とし、添付の請求項の範囲を限定することを意図しない。
【0202】
当業者なら、本明細書中記載される本発明の具体的な実施形態に対する多くの等価物が分かるか、または常用実験にすぎないものを用いて確認することができる。そのような等価物は、以下の請求項により包含されるものとする。
【配列表】