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特許7544789害虫侵入阻止製品、及び害虫侵入阻止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】害虫侵入阻止製品、及び害虫侵入阻止方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/18 20060101AFI20240827BHJP
   A01N 53/06 20060101ALI20240827BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20240827BHJP
   A01M 1/20 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A01N25/18 103A
A01N53/06 110
A01P7/04
A01M1/20 P
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022184115
(22)【出願日】2022-11-17
(62)【分割の表示】P 2021036872の分割
【原出願日】2017-12-26
(65)【公開番号】P2023014145
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2017000900
(32)【優先日】2017-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】板野 太亮
(72)【発明者】
【氏名】市村 由美子
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 誠一
(72)【発明者】
【氏名】引土 知幸
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-095107(JP,A)
【文献】特開2002-037703(JP,A)
【文献】特開2015-038058(JP,A)
【文献】国際公開第2016/167209(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/140172(WO,A1)
【文献】特開2012-176946(JP,A)
【文献】特開2012-176947(JP,A)
【文献】特開平11-103750(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130921(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/130920(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/131073(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P,A01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであるピレスロイド系殺虫成分と、沸点が150~300℃であるグリコールエーテル系化合物及び/又はグリコール系化合物と、水とを含有する水性殺虫剤組成物を蒸散させるための加熱蒸散用吸液芯を備え、屋外から屋内への害虫の侵入を阻止するための害虫侵入阻止製品であって、
前記ピレスロイド系殺虫成分は、トランスフルトリンからなり
前記加熱蒸散用吸液芯は、焼成芯であり、
前記加熱蒸散用吸液芯を包囲する状態で加熱する中空筒状発熱体をさらに備え、
前記中空筒状発熱体の表面温度が、80~150℃に設定され、
前記加熱蒸散用吸液芯の外表面と前記中空筒状発熱体の内表面との平均離間距離が、1.2~1.8mmに設定されており、
前記中空筒状発熱体の内壁の内径は10mm、前記中空筒状発熱体の内壁の高さbは8~12mmであり、
前記中空筒状発熱体の内壁と対向する前記加熱蒸散用吸液芯の上部の長さaと、前記中空筒状発熱体の内壁の高さbとの比率(a/b)は、0.7~0.8であり、
蒸散開始から1時間経過後の蒸散粒子における前記ピレスロイド系殺虫成分の濃度が、蒸散開始直後の蒸散粒子における前記ピレスロイド系殺虫成分の濃度の1.5~18倍となるように構成されている害虫侵入阻止製品。
【請求項2】
前記蒸散開始から1時間経過後の蒸散粒子の平均粒子径が、0.2~2.5μmとなるように構成されている請求項1に記載の害虫侵入阻止製品。
【請求項3】
前記グリコールエーテル系化合物は、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルである請求項1又は2に記載の害虫侵入阻止製品。
【請求項4】
前記加熱蒸散用吸液芯から蒸散した前記水性殺虫剤組成物が、屋外からの飛翔害虫の侵入を阻止するように構成されている請求項1~3の何れか一項に記載の害虫侵入阻止製品。
【請求項5】
少なくとも25mの部屋において、30~90日間にわたり、屋外からの飛翔害虫の侵入を阻止するための請求項1~4の何れか一項に記載の害虫侵入阻止製品。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の害虫侵入阻止製品を用い、屋外から屋内への害虫の侵入を阻止する害虫侵入阻止方法であって、
前記加熱蒸散用吸液芯を前記水性殺虫剤組成物に浸漬し、吸液された前記水性殺虫剤組成物を前記加熱蒸散用吸液芯の上部に導き、80~150℃で加熱することにより前記ピレスロイド系殺虫成分を大気中に蒸散させる害虫侵入阻止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的蒸気圧が高いピレスロイド系殺虫成分を含有する水性殺虫剤組成物の蒸散に使用する加熱蒸散用吸液芯を備えた害虫防除製品、及び害虫防除方法に関する。
【0002】
蚊等の飛翔害虫を防除するための飛翔害虫防除製品として、殺虫成分を含有する薬液に吸液芯を浸漬し、吸液された薬液を吸液芯の上部に導き、吸液芯を加熱することにより殺虫成分を大気中に蒸散させる方式を採用した、いわゆる「蚊取リキッド」が市販されている。蚊取リキッドの殺虫成分は、一般に、ピレスロイド系殺虫成分が使用されている。ピレスロイド系殺虫成分は、従来は、アレスリン、プラレトリン、フラメトリン等が主流であったが、近年は、殺虫活性に優れたトランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等の新しい成分が使用される傾向がある。
【0003】
また、蚊取リキッドに使用する薬液には、灯油をベースとした油性処方と、水をベースとした水性処方とが存在する。これまでの蚊取リキッドは、世界的には油性処方が主流であったが、水性処方は油性処方に比べて火気に対する危険性を軽減することができ、さらに、害虫に対する殺虫効果を増強することも容易であるため、今後は水性処方のニーズが増加していくことが予想される。
【0004】
従来の水性処方の飛翔害虫防除製品として、ピレスロイド系殺虫成分と、界面活性剤と、水とを含む薬液を使用した加熱蒸散用水性殺虫剤があった(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の加熱蒸散用水性殺虫剤は、加熱蒸散用の吸液芯を用いて薬液を加熱蒸散させる方式に使用されるものであり、薬液に界面活性剤を配合することで、薬液の成分組成のバランスを維持し、ピレスロイド系殺虫成分を長期に亘って安定的に蒸散させようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-7207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
飛翔害虫防除製品を屋内で使用するに際し、飛翔害虫に対する防除作用を効果的に高めるためには、飛翔害虫防除製品から蒸散する蒸散粒子に含まれるピレスロイド系殺虫成分の濃度を適切に設定する必要がある。そのためには、蒸散粒子に含まれるピレスロイド系殺虫成分の濃度を把握し、濃度変化と防除効果との関係を理解する必要がある。ところが、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等のピレスロイド系殺虫成分は、比較的蒸気圧が高いため、特に、水性処方の薬液を使用する飛翔害虫防除製品においては、濃度の設定が難しい。
【0007】
この点に関し、特許文献1の加熱蒸散用水性殺虫剤は、界面活性剤の配合によって蒸散安定性を高めるものであり、むしろピレスロイド系殺虫成分の濃度を一定に保つことを課題とするものである。特許文献1を含む従来技術においては、蒸散粒子に含まれるピレスロイド系殺虫成分の濃度を調整するという考え方に基づいて開発された飛翔害虫防除製品は存在しない。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、比較的蒸気圧が高いピレスロイド系殺虫成分を含有する薬液の蒸散に使用可能な加熱蒸散用吸液芯を備えた害虫防除製品において、蒸散粒子に含まれるピレスロイド系殺虫成分の濃度変化に着目し、飛翔害虫を効果的に防除することができる害虫防除製品を提供することを目的とする。また、そのような害虫防除製品を用いて実施できる害虫防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る害虫防除製品の特徴構成は、
30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであるピレスロイド系殺虫成分と、沸点が150~300℃であるグリコールエーテル系化合物及び/又はグリコール系化合物と、水とを含有する水性殺虫剤組成物を蒸散させるための加熱蒸散用吸液芯を備えた害虫防除製品であって、
蒸散開始から1時間経過後の蒸散粒子における前記ピレスロイド系殺虫成分の濃度が、蒸散開始直後の蒸散粒子における前記ピレスロイド殺虫成分の濃度の1.5~18倍となるように構成されていることにある。
【0010】
本構成の害虫防除製品によれば、水性殺虫剤組成物として適切な成分及び特性を有するものを使用しており、さらに水性殺虫剤組成物の蒸散粒子に含まれるピレスロイド系殺虫成分が蒸散開始から1時間経過後に効果的に濃縮されるため、長時間に亘って優れた飛翔害虫防除効果を持続させることができる。
【0011】
本発明の害虫防除製品において、
前記蒸散開始から1時間経過後の蒸散粒子の平均粒子径が、0.2~2.5μmとなるように構成されていることが好ましい。
【0012】
本構成の害虫防除製品によれば、蒸散開始から1時間経過後に適切な平均粒子径を有する蒸散粒子が形成されるため、より優れた飛翔害虫防除効果が得られる。
【0013】
本発明の害虫防除製品において、
前記グリコールエーテル系化合物は、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルであることが好ましい。
【0014】
本構成の害虫防除製品によれば、グリコールエーテル系化合物としてジエチレングリコールモノアルキルエーテルを使用しているため、飛翔害虫防除効果の持続性が優れたものとなる。
【0015】
本発明の害虫防除製品において、
前記ピレスロイド系殺虫成分は、トランスフルトリン、メトフルトリン、及びプロフルトリンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0016】
本構成の害虫防除製品によれば、ピレスロイド系殺虫成分として適切なものを使用しているため、より優れた飛翔害虫防除効果が得られる。
【0017】
本発明の害虫防除製品において、
前記加熱蒸散用吸液芯を包囲する状態で加熱する中空筒状発熱体をさらに備え、
前記加熱蒸散用吸液芯の外表面と前記中空筒状発熱体の内表面との対向領域の高さが、前記中空筒状発熱体の全長の0.2~0.8倍に設定されていることが好ましい。
【0018】
本構成の害虫防除製品によれば、加熱蒸散用吸液芯を中空筒状発熱体によって加熱する構成を採用しており、加熱蒸散用吸液芯の外表面と中空筒状発熱体の内表面との対向領域の高さが、中空筒状発熱体の全長の0.2~0.8倍に設定されているため、加熱蒸散用吸液芯から蒸散する蒸散粒子の粒子径のバラつきが少なくなり、その結果、飛翔害虫防除効果の持続性をより向上させることができる。
【0019】
本発明の害虫防除製品において、
前記中空筒状発熱体の表面温度が、80~150℃に設定され、
前記加熱蒸散用吸液芯の外表面と前記中空筒状発熱体の内表面との平均離間距離が、1.2~1.8mmに設定されていることが好ましい。
【0020】
本構成の害虫防除製品によれば、中空筒状発熱体の表面温度、及び加熱蒸散用吸液芯の外表面と中空筒状発熱体の内表面との平均離間距離が適切に設定されているため、高品質な蒸散粒子が生成し、飛翔害虫防除効果の持続性をさらに向上させることができる。
【0021】
本発明の害虫防除製品において、
前記中空筒状発熱体の全長が、8~12mmに設定されていることが好ましい。
【0022】
本構成の害虫防除製品によれば、中空筒状発熱体の全長が適切に設定されているため、飛翔害虫防除効果と持続性とのバランスに優れた製品となる。
【0023】
本発明の害虫防除製品において、
前記加熱蒸散用吸液芯は、焼成芯、多孔質セラミック芯、フェルト芯、又は製紐芯であることが好ましい。
【0024】
本構成の害虫防除製品によれば、加熱蒸散用吸液芯として適切な材質のものを使用しているため、優れた飛翔害虫防除効果が得られるとともに、耐久性の高い製品となる。
【0025】
本発明の害虫防除製品において、
前記加熱蒸散用吸液芯から蒸散した前記水性殺虫剤組成物が、屋外からの飛翔害虫の侵入を阻止するように構成されていることが好ましい。
【0026】
本構成の害虫防除製品によれば、蒸散した水性殺虫剤組成物(蒸散粒子)に有効量のピレスロイド系殺虫成分が含まれることになり、飛翔害虫に対する接触機会や侵入阻止効果が増大する。従って、例えば、開放した窓やドアを側面に有する部屋空間で施用された場面でも、飛翔害虫の屋外から部屋空間への侵入を効果的に阻止することができる。
【0027】
本発明の害虫防除製品において、
少なくとも25mの部屋において、30~90日間にわたり、屋外からの飛翔害虫の侵入を阻止することが好ましい。
【0028】
本構成の害虫防除製品によれば、上記の性能を備えることで、実用的な害虫防除製品となり得る。
【0029】
上記課題を解決するための本発明に係る害虫防除方法の特徴構成は、
上記の何れか一つの害虫防除製品を用いた害虫防除方法であって、
前記加熱蒸散用吸液芯を前記水性殺虫剤組成物に浸漬し、吸液された前記水性殺虫剤組成物を前記加熱蒸散用吸液芯の上部に導き、80~150℃で加熱することにより前記ピレスロイド系殺虫成分を大気中に蒸散させることにある。
【0030】
本発明の害虫防除方法によれば、本発明の害虫防除製品を用いて水性殺虫剤組成物の加熱蒸散を行うため、長時間に亘って優れた飛翔害虫防除効果を持続させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の害虫防除製品、及び害虫防除方法について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や実施例に限定されることを意図しない。
【0032】
本発明の害虫防除製品に適用可能な蚊取リキッド用水性殺虫剤組成物(以下、「水性殺虫剤組成物」と称する。)は、30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであるピレスロイド系殺虫成分を含有する。ピレスロイド系殺虫成分は、例えば、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、エムペントリン、テラレスリン、メペルフルトリン、ヘプタフルトリン、4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-クリサンテマート、及び4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(2-クロロ-2-トリフルオロメチルビニル)シクロプロパンカルボキシレート等が挙げられる。これらのうち、加熱蒸散性、殺虫効力、安定性等を考慮すると、トランスフルトリン、メトフルトリン、及びプロフルトリンが好ましく、トランスフルトリンがより好ましい。上掲のピレスロイド系殺虫成分は、単独で使用してもよいし、複数種を混合した状態で使用してもよい。また、ピレスロイド系殺虫成分において、酸部分やアルコール部分に不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在する場合、それらも本発明で使用可能なピレスロイド系殺虫成分に含まれる。
【0033】
水性殺虫剤組成物中のピレスロイド系殺虫成分の含有量は、0.1~3.0質量%が好ましい。含有量が0.1質量%未満の場合、殺虫効力が低下する虞がある。一方、含有量が3.0質量%を超えると、水性殺虫剤組成物の性状に支障を来たす可能性がある。
【0034】
水性殺虫剤組成物は水性処方であるため、溶媒として水が使用される。水性処方とすることで、油性処方に比べて火気に対する危険性を軽減することができ、害虫に対する殺虫効果を増強することが容易となる。水性処方となすためには、ピレスロイド系殺虫成分及び水とともに、沸点が150~300℃、好ましくは200~260℃であるグリコールエーテル系化合物及び/又はグリコール系化合物が配合される。グリコールエーテル系化合物及び/又はグリコール系化合物は、(1)ピレスロイド系殺虫成分を可溶化できること、(2)加熱蒸散性を有すること、(3)ピレスロイド系殺虫成分と水との間に介在して3成分が一定の比率を保って吸液芯から加熱蒸散すること、を前提とするものである。その上で、本発明の目的に鑑みると、上記3成分から構成される水性殺虫剤組成物が蒸散することによって形成される蒸散粒子は、飛翔害虫に対する接触機会や屋内侵入阻止効果が増大するような挙動を示すことが重要である。かかる挙動に関与するファクターの一つとして、蒸散粒子の平均粒子径が挙げられる。一般に、水性処方物の蒸散粒子において、当該粒子に含まれる化合物の沸点が低いと平均粒子径が小さくなり、沸点が高いと平均粒子径が大きくなる傾向がある。本発明で用いる水性殺虫剤組成物は、上記3成分のバランスで成り立っており、蒸散粒子の平均粒子径はグリコールエーテル系化合物及び/又はグリコール系化合物の沸点だけに依存するものではないが、上記挙動を示すためには、グリコールエーテル系化合物及び/又はグリコール系化合物として、上述した沸点(150~300℃、好ましくは200~260℃)を有するものが選択される。
【0035】
水性殺虫剤組成物中のグリコールエーテル系化合物及び/又はグリコール系化合物の含有量は、10~70質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。含有量が10質量%未満であると、水性製剤化に支障を来たす虞がある。また、飛翔害虫防除効果の持続性も乏しくなる。一方、含有量が70質量%を超えても飛翔害虫に対する殺虫効果や屋内侵入防止効果が頭打ちとなるばかりか、火気に対する危険性が増大することとなって、水性処方としてのメリットが損なわれる虞がある。
【0036】
グリコールエーテル系化合物及び/又はグリコール系化合物は、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点:202℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点:207℃、以降DEMIP)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:231℃、以降DEMB)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点:220℃、以降DEMIB)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点:259℃、以降DEMH)、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル(沸点:272℃)、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(沸点:283℃、以降DEMPh)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:249℃)、プロピレングリコールモノターシャリーブチルエーテル(沸点:151℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:188℃)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点:210℃、以降DPMP)、3-メトキシ-1,2-プロパンジオール(沸点:220℃)、へキシレングリコール(沸点:197℃、以降HG)等が挙げられる。これらのうち、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルが好ましく、ジエチレングリコールモノブチルエーテルがより好ましい。上掲のグリコールエーテル系化合物及び/又はグリコール系化合物は、単独で使用してもよいし、複数種を混合した状態で使用してもよい。
【0037】
水性殺虫剤組成物には、その他に各種成分を配合することができる。例えば、アレスリン、プラレトリンのような他のピレスロイド系殺虫成分、ディート、テルペン系化合物、天然精油のような忌避成分、抗菌剤、防カビ剤、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、パラヒドロキシ安息香酸メチルのような安定化剤、pH調整剤、着色剤、茶抽出物やチャ乾留液等の消臭剤などを適宜配合してもよく、また、水性殺虫剤組成物を調製するにあたって、水性処方の利点を損なわない範囲であれば、水の他に、エタノール、イソプロパノールのような低級アルコール、灯油(ケロシン)のような炭化水素系溶剤、エステル系又はエーテル系溶剤、可溶化剤、分散剤を適宜使用しても構わない。
【0038】
このようにして調製された水性殺虫剤組成物は、加熱蒸散用吸液芯を備えた容器本体(図示せず)に充填され、本発明の害虫防除製品(蚊取リキッド)が構成される。本発明の害虫防除製品は、水性殺虫剤組成物が加熱蒸散用吸液芯から蒸散を開始してから1時間経過後の蒸散粒子において、当該蒸散粒子に含まれるピレスロイド系殺虫成分の濃度が、蒸散開始直後の蒸散粒子におけるピレスロイド殺虫成分の濃度の1.5~18倍となるように構成され、さらに当該蒸散粒子の平均粒子径が、0.2~2.5μmとなるように構成されていることに特徴がある。このような蒸散粒子が形成されると、当該蒸散粒子は、気流に乗ってエアーカーテンを形成し、飛翔害虫に対する接触機会や屋内侵入阻止効果が増大するような挙動を示し、その結果、本発明の害虫防除製品を開放した窓やドアを側面に有する部屋空間で使用する場合でも、飛翔害虫の屋外から部屋空間への侵入を効果的に阻止し、長時間に亘って優れた飛翔害虫防除効果が持続するものとなる。ちなみに、本発明の害虫防除製品の飛翔害虫防除効果は、少なくとも6畳の部屋(25m)において、30~90日間にわたって持続可能である。なお、害虫防除製品の1日あたりの使用時間は、使用地域や使用時期によっても異なるが、6~15時間程度が一般的である。
【0039】
本発明の害虫防除製品によって生成する蒸散粒子の特徴的な挙動について、より具体的に説明する。水性殺虫剤組成物の蒸散粒子は、その平均粒子径が蒸散直後のおよそ5μm程度から、飛翔害虫に対して接触が容易となる粒子径である0.2~2.5μm、より好ましくは0.5~2.0μmに縮小する。また、平均粒子径の縮小に伴って、蒸散粒子におけるピレスロイド系殺虫成分の濃度は当初の0.1~3重量%から0.15~54重量%(すなわち、1.5~18倍)、好ましくは0.2~27重量%(すなわち、2~9倍)に高まるように調整されている。これは、加熱蒸散に伴い、3成分のうち蒸散し易い水が蒸散粒子から徐々に離散することが一因であるが、一方で、少なくとも蒸散粒子が部屋空間に浮遊している間、一定量の水は離散せずに蒸散粒子中に残留し続けるため、水性殺虫剤組成物としての特性は最後まで保持される。本発明の蚊取リキッド方式においては、これらの作用が相乗的に関与し、窓やドアの内側近傍でピレスロイド系殺虫成分の有効量を含む蒸散粒子の気流(エアーカーテン)が継続的に形成され、飛翔害虫に対する接触機会や侵入阻止効果が増大する結果、飛翔害虫の屋外から屋内への侵入を効果的に阻止し得るものと推察される。
【0040】
一方、灯油をベースにした油性処方の場合、飛翔害虫に対する殺虫効果は水性処方と比べてそれ程遜色ないものの、飛翔害虫の侵入阻止効果はかなり劣ることが認められた。その理由として、油性処方の蒸散粒子の平均粒子径は0.05~0.5μm程度と小さいため、窓やドアの内側近傍で散逸し易く、効果的なエアーカーテンが形成され難いこと、さらには、水性処方の蒸散粒子において特徴的なピレスロイド系殺虫成分の濃度上昇が少ないこと等が挙げられる。
【0041】
水性殺虫剤組成物を収容する薬液容器は、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリ塩化ビニールなどのプラスチック製容器が一般的である。薬液容器の上部には、中栓を介して吸液芯が取り付けられる。水性処方の場合、薬液容器の材質は、グリコールエーテル系化合物及び/又はグリコール系化合物の物性を考慮して、ポリプロピレン等のポリオレフィン系プラスチックが好ましい。
【0042】
ところで、蚊取リキッドの加熱蒸散用吸液芯は、一般的な区分けによれば、焼成芯、多孔質セラミック芯、製紐芯、粘結芯に大別されるが、本発明では、焼成芯、多孔質セラミック芯、フェルト芯、製紐芯が好適に使用され、より好適には焼成芯又は多孔質セラミック芯が使用される。以下、加熱蒸散用吸液芯として焼成芯又は製紐芯を使用する場合について、説明する。なお、加熱蒸散用吸液芯の素材は、ピレスロイド系殺虫成分を含む水性殺虫剤組成物に対して安定で、且つ毛細管現象で水溶液を吸液可能なものであれば、特に限定されない。
【0043】
焼成芯は、(a)無機質粉体、(b)無機質粘結剤、及び(c)有機物質(炭素質紛体、有機質粘結剤等)を含む混合物を600~2000℃で焼成することによって得られるが、(b)及び(c)の配合量が少なく、ほぼ(a)のみから形成されるものは、通常、多孔質セラミック芯と称されることが多い。
【0044】
無機質粉体は、例えば、マイカ、アルミナ、シリカ、タルク、ムライト、コージライト、及びジルコニア等が挙げられる。これらのうち、マイカは、特に蚊取りリキッド用の吸液芯に比較的均一な微細孔が生成できるため、好ましい材料である。上掲の無機質粉体は、単独で使用してもよいし、複数種を混合した状態で使用してもよい。加熱蒸散用吸液芯における無機質粉体の含有量は、10~90質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましい。無機質粉体の形状は、外観、吸液性、強度等の物性の点から、50メッシュ以下の微粉状が好ましい。ただし、加熱蒸散用吸液芯の製造工程において、粉砕等の処理を伴う場合は、この限りではない。
【0045】
無機質粘結剤は、例えば、クレー(カオリンクレー)、ベントナイト、ハロサイト等の各種粘土、タールピッチ、水ガラス等が挙げられる。これらのうち、クレーは、粘結作用性に優れているため、好ましい材料である。上掲の無機質粘結剤は、単独で使用してもよいし、複数種を混合した状態で使用してもよい。加熱蒸散用吸液芯における無機質粘結剤の含有量は、5~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。無機質粘結剤は、常温では粘結作用が乏しいが、600~2000℃で焼成することで十分な粘結作用を示すようになり、加熱蒸散用吸液芯として好適に使用可能となる。
【0046】
有機物質は、黒鉛、カーボンブラック、活性炭、木炭、及びコークス等の炭素質粉体、又はカルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等の有機質粘結剤が挙げられる。これらのうち、黒鉛は、比較的形状が均一で不純物が少ないため、好ましい材料である。黒鉛等の炭素質紛体を配合すると、加熱蒸散用吸液芯の外観、色調、吸液性、強度等を改善することができる。上掲の炭素質粉体又は有機質粘結剤は、単独で使用してもよいし、複数種を混合した状態で使用してもよい。加熱蒸散用吸液芯における有機物質の含有量は、5~40質量%が好ましい。この範囲であれば、加熱蒸散用吸液芯を焼成する過程で一酸化炭素や二酸化炭素等のガスが発生することにより加熱蒸散用吸液芯中に連続気孔が生成し、毛細管現象によって吸液性能を示すのに十分な多孔質構造を形成することができる。
【0047】
なお、加熱蒸散用吸液芯には、上記物質の他に、防腐剤、4,4’-メチレンビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等の酸化防止剤を適宜添加してもよい。
【0048】
製紐芯は、芯材の外周面に水性殺虫剤組成物を吸液し揮散させるための鞘材を被覆してなり、当該鞘材は天然繊維、合成繊維、及び無機繊維から選ばれる一種以上の繊維集合体として形成されるのが一般的である。製紐芯において、芯材は加熱蒸散用吸液芯の形状保持機能を有するものである。その材質としては、必ずしも水性殺虫剤組成物を吸液する機能を備える必要はなく、例えば、130℃以上の耐熱性を有する熱可塑性及び/又は熱硬化性の合成樹脂で形成することができる。なお、形状保持機能を強化するために、芯材の補強材として、ガラス繊維、セラミック繊維炭素繊維等の繊維状補強材や、ガラス紛体、無機フィラーと呼ばれるシリカ、アルミナ、酸化チタン等の紛体状補強材等によって熱可塑性及び/又は熱硬化性の合成樹脂を補強することも可能である。
【0049】
鞘材は通常繊維集合体として形成され、これを構成する繊維としては、例えば、木綿等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、アラミド等の合成繊維、ガラス繊維や炭素繊維等の無機繊維等の一種以上が挙げられるが、その耐熱温度が130℃以上であるポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、アラミド等の合成繊維が好ましい。そして、このような繊維集合体は、ブレード、織布、編地、フェルト、あるいは不織布等の繊維素材で構成されるのが一般的である。その際、繊維素材に界面活性剤処理を施して吸液速度を調節したり、また、鞘材の表面を更にワニス等を用いて被覆したり、親水加工等の機能加工を施してもよい。
【0050】
こうして得られた加熱蒸散用吸液芯は、当該加熱蒸散用吸液芯を介して水性殺虫剤組成物を加熱蒸散させる方式のリキッド製品に適用される。すなわち、水性殺虫剤組成物を薬液容器に収容し、中栓を介して加熱蒸散用吸液芯の下部を水性殺虫剤組成物中に浸漬させる。そうすると、薬液容器内の水性殺虫剤組成物は加熱蒸散用吸液芯の上部に導かれ、加熱蒸散装置の上部に設けられた発熱体により60~130℃に加熱されて大気中に蒸散する。加熱蒸散用吸液芯は、発熱体を構成する中空筒状の放熱筒体と間隙を設けて対向しているので、加熱蒸散用吸液芯の上部の目的の表面温度(例えば、60~130℃)は、発熱体の温度をそれより高く(例えば、80~150℃)設定することにより達成される。水性殺虫剤組成物の加熱温度が高くなり過ぎると、水性殺虫剤組成物が早期に蒸散したり、水性殺虫剤組成物の熱分解や重合が生じる可能性があり、その結果、加熱蒸散用吸液芯の表面に高沸点物質が生成し、これが蓄積して目詰まりを起こす虞がある。一方、加熱温度が低くなり過ぎると、水性殺虫剤組成物が蒸散し難くなり、十分な防虫性能を達成できなくなる。
【0051】
本発明者らの検討によれば、加熱蒸散用吸液芯の上部(外径:6.7~7.3mm)と、これに対向する放熱筒体の内壁(内径:10mm、高さ:8~12mm)との位置関係も、間接的ではあるが害虫防除製品の侵入阻止効果に関与することが認められた。すなわち、放熱筒体の内壁と対向する加熱蒸散用吸液芯の上部の長さをaとし、放熱筒体の内壁の高さをbとすると、比率(a/b)は、加熱蒸散用吸液芯の上部を上下に移動させることにより変更可能である。本発明の害虫防除製品においては、上記の比率(a/b)は0.1~1.3の範囲で設定することができる。ここで、比率(a/b)が1.0を超える場合は、加熱蒸散用吸液芯の上部が放熱筒体の上端から突出する状態である。なお、比率(a/b)が1.0を超えると、ピレスロイド系殺虫成分の単位時間当たりの蒸散量は増加するものの、蒸散粒子の平均粒子径の均一性の点で不利になった。従って、特に水性殺虫剤組成物の蒸散量の増加を必要としない場合は、前記比率(a/b)を0.2~0.8に設定することが好ましいことが認められた。
【0052】
本発明の害虫防除製品として用いる加熱蒸散装置は、前述の発熱体に加え、従来の装置に準じて種々の機能や部材が付設されたものとすることができる。発熱体の上部には安全上保護キャップが載置され、その中央部に開口部が形成されるが、その大きさ及び形状は、水性殺虫剤組成物が過度に保護キャップや器体に凝縮、付着しない限りにおいて任意である。例えば、内径10~30mmの円筒状蒸散筒を開口部付近から垂下させることは有効であり、この場合、蒸散筒部分の耐熱性や蒸散性能の面から、蒸散筒下端と発熱体上面との距離は通常1~5mmの範囲内が好ましい。また、発熱体と接続する電源コード、オンオフ操作スイッチ、パイロットランプなどが適宜付設されてもよい。
【0053】
本発明の害虫防除製品を用いた害虫防除方法によれば、リビングルームや居室、寝室等の屋内で、ピレスロイド感受性系統は勿論、感受性が低下した、アカイエカ、コガタアカイエカ、ネッタイイエカ、チカイエカ等のイエカ類、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ等のヤブカ類、ユスリカ類等だけでなく、イエバエ類、チョウバエ類、ノミバエ類、アブ類、ブユ類、ヌカカ類等の他の有害飛翔性昆虫に対しても実用的な殺虫効力のみならず、害虫の屋外から屋内への侵入を効率的に阻止する効果をも発揮する。特に、蚊類に対する侵入阻止効果が顕著に優れるため、極めて有用性が高いものである。
【実施例
【0054】
次に、具体的実施例に基づいて、本発明の害虫防除製品、及び害虫防除方法を更に詳細に説明する。
【0055】
〔実施例1〕
トランスフルトリンを0.9質量%、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEMB)を50質量%、安定剤としてジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を0.1質量%、及び精製水を49質量%配合し、水性殺虫剤組成物を調製した。
無機質粉体としてマイカ粉を52質量%、無機質粘結剤としてクレー粉を33質量%、有機物質として黒鉛を10質量%、有機質粘結剤としてカルボキシメチルセルロースを3質量%、澱粉を2質量%含む混合物に水を加えて混練し、混錬物を加圧しながら押出し、風乾した後、1100℃で焼成し、加熱蒸散用吸液芯(直径7mm、長さ66mmの丸棒)を得た。
水性殺虫剤組成物45mLをプラスチック製容器に収容し、中栓を介して加熱蒸散用吸液芯を装填したのち、加熱蒸散装置[例えば、特許第2926172号等に記載された装置、吸液芯の上部の周囲に中空筒状の放熱筒体(内径:10mm、高さ:10mm、表面温度:137℃)を設置]に取り付け、実施例1の害虫防除製品を作製した。なお、放熱筒体の内壁に対向する加熱蒸散用吸液芯の上部の長さは、放熱筒体の内壁の高さの0.7倍であった。
実施例1の害虫防除製品を6畳の部屋(25m)の中央に置き、四方側面の一つが屋外に面した窓を開放した状態で1日あたり12時間通電使用した。所定の位置で採取した水性殺虫剤組成物の蒸散粒子の平均粒子径は1.2μmであり、そのときの蒸散粒子におけるトランスフルトリン濃度は当初の0.9質量%から4.3倍高くなり3.87質量%であった。そして、60日間(約700時間)にわたり、蚊が窓から屋内に侵入して人を刺咬することはなかった。
【0056】
〔実施例2~15、比較例1~4〕
実施例1に準じて、実施例2~15で使用する水性殺虫剤組成物及び加熱蒸散用吸液芯を調製し、これらを加熱蒸散装置に装填して実施例2~15の害虫防除製品を作製した。そして、各害虫防除製品について、後述する(1)~(4)の測定及び試験を実施した。また、比較のため、比較例1~4の害虫防除製品についても、同様の測定及び試験を実施した。各実施例及び比較例における水性殺虫剤組成物の処方、及び加熱蒸散用吸液芯の配合を表1に示す。なお、表1には実施例1の処方、及び配合についても記載する。
【0057】
【表1】
【0058】
(1)平均粒子径
内径20cm、高さ43cmのプラスチック製円筒を2段に重ね、この2段重ねの円筒を台に載せた円板上にゴムパッキンを挟んで置いた。円板中央には5cmの円孔があり、この円孔の上に供試害虫防除製品を置き、通電加熱した。円筒の上端開口部付近、すなわち、加熱蒸散装置からおよそ1m離れた位置に、シリコーンオイルを塗膜したスライドグラスを置いて蒸散粒子を捕捉し、粒子径を顕微鏡法により測定した。
【0059】
(2)蒸散性能
6畳の部屋(25m)の中央に供試害虫防除製品を置き、通電加熱した。使用初期(使用日数2日目)に、加熱蒸散装置から上方1m離れた位置でシリカゲル充填カラムを用いて蒸散粒子をトラップし、アセトンで殺虫成分を抽出後、ガスクロマトグラフ分析により単位時間当たりの殺虫成分の蒸散量を求めた。また、円筒の上端開口部を重量既知のポリプロピレンシートで密閉したこと以外は上記(1)と同じ装置を用い、1時間通電加熱した。ポリプロピレンシートに付着した蒸散粒子の全液量を測定するとともに、その蒸散粒子中における殺虫成分の濃度を求め、当初の殺虫成分の濃度に対する倍率を算出した。
【0060】
(3)殺虫効力試験
内径20cm、高さ43cmのプラスチック製円筒を2段に重ね、その上に16メッシュの金網を介して内径20cm、高さ20cmの円筒(供試昆虫を入れる場所)を載せ、その上を同じ16メッシュの金網で仕切り、さらにその上に同径で高さ20cmの円筒を載せた。この4段重ねの円筒を台に載せた円板上にゴムパッキンを挟んで置いた。円板中央には5cmの円孔があり、この円孔の上に供試害虫防除製品を置き、通電加熱した。通電4時間後、上部3段目の円筒に供試昆虫のアカイエカ雌成虫約20匹を放った。時間経過に伴い落下仰転した供試昆虫を数え、KT50値を求めた。また、暴露20分後に全供試昆虫を回収して24時間後にそれらの致死率を調べた。殺虫効力試験は、使用初期(使用日数2日目)及び使用後期(有効期限の数日前)について実施した。
【0061】
(4)侵入阻止率
隣接する10畳の2居室の境界に窓を設け、窓以外は密閉した。一方の居室に供試害虫防除製品を置き、観察者が室内に留まるとともに通電加熱して薬剤処理区とした。隣接する無薬放虫区に供試昆虫のアカイエカ雌成虫100匹を放ち、窓を通って無薬放虫区から薬剤処理区に侵入する供試虫数を60分間観察した。また、効果判定の基準を設けるため、無処理対照区として害虫防除製品を使用しない試験を同様に実施した。侵入阻止試験は、供試害虫防除製品の使用初期(使用日数2日目)及び使用後期(有効期限の数日前)について、2回繰返して実施した。無処理対照区についても同様に2回繰返し試験を行い、平均侵入虫数を求め、以下の式より侵入阻止率を算出した。
侵入阻止率(%) = (C-T)/C × 100
C:無処理対照区の60分間の平均侵入虫数(匹)
T:薬剤処理区の60分間の平均侵入虫数(匹)
【0062】
各実施例及び比較例における測定及び試験結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表1及び表2の結果より、本発明の害虫防除製品は、安定した蒸散性能、及び優れた殺虫効力を示し、開放した窓やドアを側面に有する部屋空間で施用したときに、飛翔害虫の屋外から部屋空間への侵入を効果的に阻止し得ることが確認された。また、蒸散粒子の平均粒子径は、蒸散直後から部屋空間に浮遊する時間経過に伴って、生成直後の5.0μmから0.2~2.5μmに縮小した。その一方で、蒸散粒子におけるピレスロイド系殺虫成分の濃度は、当初の1.5~18倍に高まるように調整されている害虫防除製品が好ましかった。また、トランスフルトリン処方と、メトフルトリン又はプロフルトリン処方とを比較すると、殺虫効力試験でほぼ同等の効力を示す処方であっても、トランスフルトリン処方が侵入阻止効果の点で特異的に優れていた。さらに、グリコールエーテル系化合物及び/又はグリコール系化合物としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテルが好適であった。これに対し、グリコールエーテル系化合物及び/又はグリコール系化合物の沸点が本発明の範囲を外れる場合(比較1及び2)、ピレスロイド系殺虫成分の蒸気圧が本発明の範囲を外れる場合(比較3)、水性処方ではなく油性処方とした場合(比較4)は、十分な侵入阻止効果が得られなかった。
【0065】
以上のように、飛翔害虫の屋内への侵入阻止効果は、主として薬液処方に依存する従来の殺虫効果とは全く異なる概念であり、侵入阻止効果には薬液処方だけでなく蒸散粒子の挙動も大きく関与する。すなわち、蚊取リキッド方式においては、水性殺虫剤組成物の蒸散粒子の平均粒子径が蒸散直後から部屋空間に浮遊する時間経過に伴い徐々に縮小するとともに、蒸散粒子中におけるピレスロイド系殺虫成分濃度が徐々に高まるように調整されており、当該蒸散粒子は窓やドアの内側近傍で、有効量のピレスロイド系殺虫成分を含む気流(エアーカーテン)を継続的に形成する。そして、飛翔害虫に対する接触機会や侵入阻止効果を増大させるように挙動する結果、当該害虫防除製品は、開放した窓やドアを側面に有する部屋空間で施用された場面でも、飛翔害虫の屋外から部屋空間への侵入を効果的に阻止し得ることが判明した。なお、トランスフルトリンがメトフルトリンやプロフルトリンに較べて好ましい理由については、トランスフルトリンの物性やその水性殺虫剤組成物における3成分のバランスがエアーカーテンの形成に有利に働いているためと考えられる。一方、灯油をベースにした油性処方の場合、殺虫効果は水性処方と較べてそれほど遜色なかったが、侵入阻止効果が劣ることが認められた。その理由としては、油性処方の蒸散粒子の平均粒子径が0.05~0.5μm程度になると窓やドアの内側近傍で散逸し易く、効果的なエアーカーテンが形成され難いこと、蒸散粒子中におけるピレスロイド系殺虫成分の濃度上昇といった、水性処方に特徴的なメリットを享受できないことなどが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、人体やペット用の害虫防除製品として利用可能なものであるが、その他の用途として、例えば、殺虫、殺ダニ、殺菌、抗菌、消臭、及び防臭の用途で利用することも可能である。