(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】匂いの物理化学的分類を可能にする電子鼻のための検出システムおよびそのようなシステムを備える電子鼻
(51)【国際特許分類】
G01N 21/41 20060101AFI20240827BHJP
G01N 21/45 20060101ALI20240827BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20240827BHJP
G01N 29/02 20060101ALI20240827BHJP
G01N 5/02 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G01N21/41 101
G01N21/45 Z
G01N27/00 K
G01N29/02
G01N5/02 A
(21)【出願番号】P 2022502052
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(86)【国際出願番号】 FR2020051212
(87)【国際公開番号】W WO2021009440
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-05-01
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(73)【特許権者】
【識別番号】522013153
【氏名又は名称】アリベール
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヤンシア・ホウ-ブロウティン
(72)【発明者】
【氏名】ソフィー・ブレネ
(72)【発明者】
【氏名】アルノー・ビュオ
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー・リヴァシュ
(72)【発明者】
【氏名】シリル・エリエ
(72)【発明者】
【氏名】トリスタン・ルセル
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/053366(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/158458(WO,A1)
【文献】特表2015-508175(JP,A)
【文献】特開2017-153444(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0064817(US,A1)
【文献】Jong Hyun Lim,A peptide receptor-based bioelectronic nose for the real-time determination of seafood quality,Biosensors and Bioelectronics,2013年,Vol.39,pp.244-249
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/61
G01N 27/00-27/24
G01N 29/00-29/52
G01N 5/00-5/04
JSTPlus/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状サンプル内に存在する可能性の高い揮発性化合物のセッ
トを検出および同定することができる電子鼻のための検出システムであって、前記検出システムが、前記セッ
トの前記揮発性化合物に対して交差反応性を有するn個のセンサを備え、nが3以上の整数であり、各センサが、基板上に配置され、前記セッ
トの前記揮発性化合物のうちの少なくとも1つとのその物理化学的相互作用が検出可能な信号を生成する受容体によって官能基化された感応部を備え、
前記センサの前記感応部が一般式(I)、
X-(Esp)
m-Z (I)
の受容体によって官能基化されることであって、
ここで、Xが前記基板の表面上の前記受容体の固定化を確実にする官能基または少なくとも1つのそのような基を含む化合物の残基を表し、
mが0または1に等しく、
Espがスペーサアームを表し、
Zがα-アミノ酸の繰り返しによって形成された配列を表す、官能基化されることと、
センサの第1のシリーズ
に属する1つのセンサの受容体のα-アミノ酸が親水性であり、前記第1のシリーズ
に属する別のセンサの受容体のα-アミノ酸が疎水性であることと、
センサの第2のシリーズ
に属する2つのセンサの受容体のα-アミノ酸が、それぞれpI1およびpI2である、少なくとも1pH単位だけ互いに異なる等電点を有し、これらの2つのセンサのうちの少なくとも1つが、前記第1のシリーズに属さないことと
を特徴とする、
検出システム。
【請求項2】
pI1およびpI2が、少なくとも2pH単位だけ互いに異なる、請求項1に記載の検出システム。
【請求項3】
前記配列Zが、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、またはバリンから選択されるα-アミノ酸の繰り返しによって形成される、請求項1または2に記載の検出システム。
【請求項4】
前記α-アミノ酸が、Zにおいて、1から19回、好ましくは3から15回、より好ましくは5から9回繰り返される、請求項1から3のいずれか一項に記載の検出システム。
【請求項5】
Xが、チオール、アミン、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトリル、セレノール、ホスフェート、スルホン酸塩、シラノール、エポキシ、ビニル、アルキン、もしくはトリアジド基、または少なくとも1つのチオール、アミン、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトリル、セレノール、ホスフェート、スルホン酸塩、シラノール、エポキシ、ビニル、アルキン、もしくはトリアジド基を含む化合物の残基である、請求項4に記載の検出システム。
【請求項6】
mが1であり、Espが、1から20個の炭素原子と、オプションで1つまたは複数のヘテロ原子とを含む直鎖または分岐の、飽和または不飽和炭化水素基である、請求項1から5のいずれか一項に記載の検出システム。
【請求項7】
Xがα-アミノ酸の残基であり、mが1に等しく、Espが、α-アミノ酸の残基、またはα-アミノ酸の残基の鎖を含み、Zがα-ペプチド配列である、請求項1から6のいずれか一項に記載の検出システム。
【請求項8】
Xがシステインの残基であり、Zがヘキサペプチド配列である、請求項7に記載の検出システム。
【請求項9】
前記親水性α-アミノ酸および前記疎水性α-アミノ酸が、絶対値の合計が少なくとも1に等しいR.M. SweetおよびD. Eisenbergの疎水性尺度による疎水性指数を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の検出システム。
【請求項10】
センサの第3のシリーズ
に属する1つのセンサの受容体のα-アミノ酸が芳香族であり、前記第3のシリーズ
に属する別のセンサの受容体のα-アミノ酸が脂肪族であり、これらのセンサの
少なくとも1つが、前記第1のシリーズにも前記第2のシリーズにも属さない、請求項1から9のいずれか一項に記載の検出システム。
【請求項11】
センサの第4のシリーズ
に属する2つのセンサの受容体のα-アミノ酸が、少なくとも25g/mol、好ましくは少なくとも50g/molだけ互いに異なる相対分子量を有し、これらのセンサの
少なくとも1つが、前記第1のシリーズにも前記第2のシリーズにも属さない、請求項1から9のいずれか一項に記載の検出システム。
【請求項12】
前記センサが、抵抗式センサ、圧電式センサ、機械式センサ、音響式センサ、および/または光学式センサである、請求項1から11のいずれか一項に記載の検出システム。
【請求項13】
前記センサが、表面プラズモン共鳴光学センサまたは干渉式光学センサである、請求項12に記載の検出システム。
【請求項14】
前記センサが微細加工超音波トランスデューサセンサである、請求項
12に記載の検出システム。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の検出システムを備えることを特徴とする、ガス状サンプル内に存在する可能性が高い化合物のセッ
トを検出および同定することができる電子鼻。
【請求項16】
前記セッ
トの前記化合物が、揮発性有機化合物、硫化水素、およびアンモニアである、請求項15に記載の電子鼻。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子鼻の分野に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、匂いの物理化学的分類を可能にする、すなわち、これらの匂いを構成する揮発性化合物または臭気分子の物理化学的特性に応じた電子鼻のための検出システムに関する。
【0003】
本発明は、そのような検出システムを備える電子鼻にも関する。
【背景技術】
【0004】
本発明は、多くの用途を有し、特に、
たとえば、部分的(嗅覚減退)もしくは全体的(嗅覚脱失)な嗅覚の喪失に苦しむ人々に嗅覚の代替物を提供するため、または糖尿病、特定の癌(前立腺癌、肺癌、卵巣癌など)、および特定の微生物感染症などの、生体液または呼気中の揮発性臭気化合物の存在を伴う疾患の進展を診断もしくは追跡するための、健康分野における用途、
たとえば、製造および/もしくは流通チェーンにおける可能性のある汚染を検出するため、または原材料もしくは完成品における品質管理を実行するための、食品、化粧品、医薬品産業における用途、
アロマおよびフラグランスの分野における用途、
たとえば、潜在的に危険な揮発性物質を製造、貯蔵、取り扱う場所、および/もしくは潜在的に危険な揮発性物質によって汚染される可能性がある場所を監視するため、爆発物もしくは毒物などの危険物質、もしくは麻薬などの違法物質の存在を検出するため、または破片もしくは瓦礫の下に埋まった人を捜索するための、財産および人の安全の分野における用途、ならびに、
たとえば、空気の質、もしくは多かれ少なかれ閉じ込められた雰囲気を監視するため、または産業もしくは農業由来の嗅覚汚染を監視および分析するための、環境の分野における用途
を有する。
【0005】
従来技術の状態
嗅覚は、哺乳類、特に人間が備え、ガス状媒体、特に周囲の空気中に存在する揮発性化合物を検出および分析することを可能にする感覚である。
【0006】
今日、嗅覚を模倣することができる携帯型器具に対して大きい需要が存在する。これらの器具は、電子鼻と呼ばれる。
【0007】
電子鼻による揮発性化合物の検出は、高速かつ確実でなければならないという事実に加えて、多目的、すなわち、できるだけ多くの揮発性化合物をカバーしなければならない。目的は、揮発性化合物ごとにガス状媒体の分析を行うことではなく、非常に類似した化学組成の臭気を区別することを可能にするのに十分に細かいこの媒体内に存在する揮発性化合物間の区別を行うことである。
【0008】
今日、嗅覚は、生物学、物理化学、および認知を組み合わせた非常に複雑な感覚であるので、嗅覚を模倣することができることは、依然として科学的および技術的な課題である。この感覚は、長い間ほとんど研究されず、その機能もほとんど知られていない。
【0009】
1991年において、L. BuckおよびR. Axelは、嗅覚受容体(またはOR)の遺伝子を同定および配列決定することに初めて成功した。彼らの研究は、嗅覚の機能の一般的なメカニズムを確立することを可能にした。
【0010】
生物学において通常目にする相互作用モデルとは異なり、ORによる揮発性化合物の検出および同定は、キーロックモデル(生物学的に活性な分子がそれに特異的なリガント、たとえば、生物学的に活性な分子が抗原である場合は抗体によって認識されるモデル)に依存するだけでなく、交差反応性の原理にも基づき、
各ORは、異なる親和性を有するいくつかの揮発性化合物を認識することができ、
各揮発性化合物は、いくつかのORと物理化学的に相互作用することができ、
異なる揮発性化合物は、すべてのORの異なる組合せによって認識される。
【0011】
したがって、電子鼻が設計されたのは、臭覚の生物学的メカニズムからインスピレーションを得たからであった。
【0012】
その生物学的類似物と同様に、電子鼻は、主に3つのシステム、すなわち、
(1)電子鼻の外側とその鼻の内側との間でガス状媒体のサンプルを輸送するための流体システムであって、このシステムが呼吸器系として機能する、流体システムと、
(2)ガス状サンプル内に存在する揮発性化合物に対して交差反応性を有するセンサのアレイを備える検出システムであって、センサが人間の鼻のORとして機能する、検出システムと、
(3)センサによって信号の形態において発せられる応答を処理および分析するためのコンピュータシステムであって、このシステムが人間の脳として機能する、コンピュータシステムと
から構成される。
【0013】
過去30年間、電子鼻の開発は、センサの感応部(すなわち、揮発性化合物と物理化学的に相互作用するセンサの部分)と、様々な変換方法(すなわち、センサの感応部と揮発性化合物との間で発生する物理化学的相互作用を使用可能な信号に変換することを可能にすること)とによって大きな進展があった。
【0014】
しかしながら、これらの電子鼻の性能は、特に同様の化学組成の匂いを区別する能力に関して、人間の鼻の性能よりも依然としてはるかに低い。
【0015】
大部分の既存の電子鼻において、センサの感応部、すなわち、揮発性化合物と相互作用する部分は、半導体金属酸化物(またはMOS)および半導体ポリマーなどの非生物学的材料で構成される。これらの材料は、概して高い感度を有するが、それらの物理化学的特性の低い変動により、それらが揮発性化合物と相互作用するメカニズム(MOSの場合、主に物理吸着型であり、半導体ポリマーの場合、ファンデルワールス相互作用および物理吸着型である)は、匂いの区別を可能にするにはあまりにも限定されている。それに加えて、MOSは、高い動作温度(200℃から300℃の範囲)を有するという欠点を有し、半導体ポリマーは、空気の湿度に敏感で、これは、検出の再現性に影響を与える。
【0016】
電子鼻をより効率的にするために、センサの感応部を、生物学的であるかどうかにかかわらず、低分子量で、様々な物理化学的特性を有し、容易に合成され、可能であれば、再現性のある官能基化を有するナノメートル厚の薄膜を得るために表面工学によって自己組織化され得る有機分子で作製することが提案されている。
【0017】
これは、
様々な化学基(芳香族基、カルボン酸、エステルなど)によって終端されたアルカン分子であって、これらの分子がカーボンナノチューブ、シリコンナノワイヤ、または金ナノ粒子上に堆積される、アルカン分子と、
カーボンナノチューブ、グラフェン、およびグラフェンナノ結晶に付着したオリゴヌクレオチドと、
ペプチドと
を使用するために提案された方法である。
【0018】
ペプチドに関して、共振カンチレバーセンサにおいて、各々が23個のα-アミノ酸で形成された3つのペプチドを使用し、これらのα-アミノ酸の一部がカーボンナノチューブ上にこれらのペプチドを固定化するために使用され、別の部分が揮発性化合物と相互作用することを意図したL. A. Beardsleeらの研究(Proceedings of the IEEE International Conference on the Micro Electro Mechanical Systems (MEMS) 2011年、964~967頁、以降、参考文献[1])に参照がなされ得る。後者は、7回繰り返されたα-アミノ酸で構成され、このα-アミノ酸は、第1のペプチドではアルギニンであり、第2のペプチドではヒスチジンであり、第3のペプチドではスレオニンである。これらの3つのα-アミノ酸は、極性であり、センサは、エタノールおよびトルエンに曝露され、これらの著者は、ペプチド、特に8個のスレオニン残基を含むペプチドが、無極性のトルエンに関して、それ自体が極性のエタノールよりも高い親和性を有することを示している。彼らは、適切なペプチド官能基化を使用することによって、揮発性化合物に対するセンサの親和性をこれらの化合物の極性に応じて調整することが可能であろうとそこから結論付けている。しかしながら、彼らは、この適応された官能基化が何であり得るかを指定していない。
【0019】
チオグリコール酸、グルタチオン、システイン、および2つのジペプチド(γグルタミルシステインおよびシステイニルグリシン)とヘキサペプチドとを含む3つのペプチドによって官能基化された金ナノ粒子に基づくセンサのアレイを構築したD. Compagnoneらの研究(Biosensors and Bioelectronics 2013年、42、618~625頁、以降、参考文献[2])にも参照がなされ得る。異なる長さではあるが、これらの3つのペプチドは、グルタチオンと構造的に関連しているので、同様の物理化学的特性を有する。
【0020】
最後に、感応部が異なる物理化学的特性を有する生体模倣ペプチドおよびチオール化分子からなる受容体によって官能基化されたセンサのアレイが、異なる化学クラス(アルコール、エステル、カルボン酸、ケトン、炭化水素、アルデヒド、およびアミン)に属する揮発性化合物を区別して認識することができ、したがって、物理化学的尺度なしでこれらの化合物の区別を行う可能性を提供することを示しているS. Brenetらの研究(Analytical Chemistry 2018年、90、9879~9887頁、以降、参考文献[3])について言及がなされるべきである。
【0021】
しかしながら、この参考文献は、受容体を形成する生体模倣ペプチドとチオール化分子の両方の化学組成について完全に沈黙しており、その結果、揮発性化合物の区別がどの物理化学的基盤に基づいて得られるかを知ることはできないことがわかる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【文献】L. A. Beardsleeら、Proceedings of the IEEE International Conference on the Micro Electro Mechanical Systems (MEMS) 2011年、964~967頁
【文献】D. Compagnoneら、Biosensors and Bioelectronics 2013年、42、618~625頁
【文献】S. Brenetら、Analytical Chemistry 2018年、90、9879~9887頁
【文献】R.M. SweetおよびD. Eisenberg、J. Mol. Biol. 1983年、171、479~488頁
【文献】「Lehninger Principles of Biochemistry」、chapter 3、4th edition、2004年
【文献】A. Louftiら、Journal of Food Engineering 2015年、14、103~111頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、ガス状サンプル内に存在する可能性の高い揮発性化合物のセットEを検出および同定することができ、これらの揮発性化合物のそれらの物理化学的特性に応じた物理化学的分類を可能にする電子鼻のための検出システムを提案することによって、先行技術の欠点を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この検出システムは、セットEの揮発性化合物に対して交差反応性を有する複数のセンサを備え、各センサは、基板上に配置され、セットEの揮発性化合物のうちの少なくとも1つとのその物理化学的相互作用が検出可能な信号を生成する受容体によって官能基化された感応部を備え、
n個のセンサを備え、nが3以上の整数であり、感応部が一般式(I)、
X-(Esp)m-Z (I)
の受容体によって官能基化されることであって、
ここで、Xが基板の表面上の受容体の固定化を確実にする官能基またはそのような基を含む化合物の残基を表し、
mが0または1に等しく、
Espがスペーサアームを表し、
Zがα-アミノ酸の繰り返しによって形成された配列を表す、官能基化されることと、
センサの第1のシリーズのセンサの受容体のα-アミノ酸が親水性であり、第1のシリーズの別のセンサの受容体のα-アミノ酸が疎水性であることと、
センサの第2のシリーズの2つのセンサの受容体のα-アミノ酸が、それぞれpI1およびpI2である、少なくとも1pH単位だけ互いに異なる等電点を有し、これらの2つのセンサのうちの少なくとも1つが、第1のシリーズに属さないことと
を特徴とする。
【0025】
したがって、本発明によれば、揮発性化合物の物理化学的分類は、それらの物理化学的特性のうちの少なくとも2つ、すなわち、一方では、それらの親水性または疎水性の特性、他方では、それらの酸性、中性、または塩基性の特性に応じて得られ、これは、電子鼻検出システムに、α-アミノ酸の繰り返しによって形成された配列を備える受容体によってその感応部が各々官能基化された少なくとも3つのセンサを設け、各配列のα-アミノ酸を、
以下ではセンサC1と呼ばれる第1のセンサの受容体のα-アミノ酸が親水性であり、以下ではセンサC2と呼ばれる第2のセンサの受容体のα-アミノ酸が疎水性であり、
2つのセンサの受容体のα-アミノ酸が、少なくとも1pH単位だけ互いに異なる等電点を有し、これらの2つのセンサの一方がセンサC1またはセンサC2であり得るが、これらのセンサの他方がセンサC1およびC2とは異なるセンサである
ように選択することによって得られる。
【0026】
言い換えれば、電子鼻検出システムは、少なくとも、
揮発性化合物を分類する能力が、物理化学的特性の2つの尺度、すなわち、センサC1およびC2が関係する親水性/疎水性尺度と、センサC1およびC2とセンサC3とのうちの一方が関係する酸性度/塩基性度尺度とに基づく、それぞれセンサC1、C2、およびC3の3つのセンサか、または
揮発性化合物を分類する能力が、物理化学的特性の2つの前述の尺度に基づき、センサC1およびC2が第1の(親水性/疎水性)尺度に関係し、センサC3およびC4が第2の(酸性度/塩基性度)尺度に関係する、それぞれセンサC1、C2、C3、およびC4の4つのセンサ
のいずれかを備える。
【0027】
本発明によれば、配列Zがα-アミノ酸の繰り返しによって形成される場合、このα-アミノ酸は、好ましくは、一般に「標準的」として知られる20のα-アミノ酸、すなわち、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンから選択されるが、N2-アセチルリジン、N6-アセチルリジン、N6-メチルリジン、5-ヒドロキシリジン、4-ヒドロキシプロリン、ピロリシン、セレノシステイン、O-ホスホセリン、O-ホスホスレオニン、O-ホスホチロシン、ノルロイシン、またはシトルリンなどの他のα-アミノ酸も使用され得ることが理解される。
【0028】
さらに、このα-アミノ酸は、L配置またはD配置とは無関係であり得、ホモペプチドの形態において受容体内に存在する限り、L配置とD配置の両方においてこのペプチドを見出すことができる。
【0029】
有利には、α-アミノ酸は、配列Zが2から20倍の同じα-アミノ酸を含むように、配列Zにおいて1から19回繰り返される。
【0030】
好ましくは、α-アミノ酸は、配列Zが同じα-アミノ酸を4から16倍含むように、配列Zにおいて3から15回繰り返される。
【0031】
より好ましくは、α-アミノ酸は、配列Zが同じα-アミノ酸を6から10倍含むように、配列Zにおいて5から9回繰り返される。
【0032】
本発明によれば、基板上の受容体の固定化は、物理的吸着、化学的吸着、共有結合グラフト化、基板上での合成、薄層の堆積、分子自己組織化などの、当業者に知られている表面官能基化技法のいずれかによって実行され得、この技法の選択は、基板の表面の化学的性質に依存することが理解される。
【0033】
したがって、Xは、これらの技法のうちの1つによって基板上に受容体を固定化することを可能にする任意の官能基もしくは任意の化学官能(2つの表現は、同義と見なされる)、またはこれらの技法のうちの1つによって基板上に受容体を固定することを可能にする1つまたは複数の官能基を備える化合物の残基であり得る。したがって、Xは、1つまたは複数の化学結合機能を含むことができる。
【0034】
この点に関して、化合物の「残基」または「残留部分)という用語は、基Espまたは配列Zへの共有結合の後に基Esp上(mが1に等しい場合)または配列Z上(mが0に等しい場合)に残っている化合物の部分を意味することが指定されている。
【0035】
したがって、Xは、特に、チオール、アミン、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトリル、セレノール、ホスフェート、スルホン酸塩、シラノール、エポキシ、ビニル、アルキン、またはトリアジド基、または少なくとも1つのそのような基を含む化合物の残基であり得る。
【0036】
前述の官能基化技法の中で、本発明の範囲内では、特にその再現性のために、分子自己組織化に優先度が与えられ、その場合、Xは、特に、
基板の表面が金、白金、銀、パラジウム、または銅で作られている場合、チオール基、もしくは一方では少なくとも1つのチオール基と、他方では基Espもしくは配列Zへのその共有結合を可能にする基とを含む化合物の残基であって、化合物が特にシステインまたはN-チオール-グリシンであり得る、化合物の残基、または
基板の表面が金、白金、銀、パラジウム、または銅で作られている場合、アミン基、もしくは一方では1つのアミン基と、他方では基Espもしくは配列Zへのその共有結合を可能にする基とを含む化合物の残基であって、化合物が特にアミノ酸であり得、特に20の標準的α-アミノ酸のうちの1つであり得る、化合物の残基、または
基板の表面がガラス、石英、シリコン、またはシリカで作られている場合、シラノール基、もしくは一方では少なくとも1つのシラノール基と、他方では基Espもしくは配列Zへのその共有結合を可能にする基とを含む化合物の残基であり得る。
【0037】
本発明によれば、mは、好ましくは1に等しく、これは、基Espが存在することを意味し、この場合、この基は、特に、1から20個の炭素原子と、オプションで1つまたは複数のヘテロ原子とを含む直鎖または分岐の、飽和または不飽和炭化水素基であり得、この(これらの)ヘテロ原子は、典型的には、酸素、窒素、硫黄、およびシリコンから選択される。
【0038】
したがって、基Espは、たとえば、1から20個の炭素原子、好ましくは1から12個の炭素原子、より好ましくは1から6個の炭素原子を含む二価のアルキレン基、α-アミノ酸の残基、または1つもしくは複数のα-アミノ酸の残基の鎖(最大20個の炭素原子)であり得る。
【0039】
本発明の特に好ましい配置によれば、
Xは、α-アミノ酸の残基であり、好ましくは、そのチオール基のためにシステインであり、
mは、1に等しく、基Espは、アミノ酸の残基、たとえば、グリシンの残基、またはα-アミノ酸の残基の鎖、たとえば、グリシン残基の鎖であり、一方、
配列Zは、α-ペプチド配列、好ましくはヘキサペプチドである。
【0040】
したがって、受容体は、α-ペプチドである。
【0041】
前に示されているように、センサC1の受容体のα-アミノ酸は、親水性であり、センサC2の受容体のα-アミノ酸は、疎水性である。
【0042】
前述および後述において、α-アミノ酸は、R.M. SweetおよびD. Eisenberg(J. Mol. Biol. 1983年、171、479~488頁、以降、参考文献[4])の疎水性尺度による0.26以下の疎水性指数を有する場合、親水性であると見なされ、α-アミノ酸は、この同じ疎水性尺度による0.29以上の疎水性指数を有する場合、疎水性であると見なされる。標準的α-アミノ酸についてR. M. Sweet andおよびD. Eisenbergによって確立された疎水性指数は、付録に添付されている
図1に示されている。
【0043】
したがって、この図に示されているように、したがって、この図に示されるように、チロシン、プロリン、スレオニン、セリン、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、リジン、およびアルギニンが、本発明の範囲内で親水性α-アミノ酸であると見なされ、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、トリプトファン、メチオニン、アラニン、グリシン、およびシステインが、疎水性α-アミノ酸と見なされる。
【0044】
本発明によれば、センサC1およびC2の受容体のα-アミノ酸は、比較的離れた疎水性指数を有することが好ましい。「比較的離れた疎水性指数」という用語は、R. M. Sweet andおよびD. Eisenbergによって確立されたこれらの指数の絶対値の合計が少なくとも1に等しいことを意味する。
【0045】
したがって、たとえば、
センサC1の受容体が、親水性α-アミノ酸について、疎水性指数がR. M. Sweet andおよびD. Eisenbergの尺度によれば0.12であるプロリンを有する場合、センサC2の受容体のα-アミノ酸は、好ましくは、疎水性指数がR. M. Sweet andおよびD. Eisenbergの尺度によれば少なくとも1.06に等しいα-アミノ酸から選択され(ロイシン、バリン、フェニルアラニン、イソロイシンの場合)、
センサC1の受容体が、親水性α-アミノ酸について、疎水性指数がR. M. Sweet andおよびD. Eisenbergの尺度によれば-0.74であるアスパラギンを有する場合、センサC2の受容体のα-アミノ酸は、疎水性指数がR. M. Sweet andおよびD. Eisenbergの尺度によれば少なくとも0.29に等しいすべてのα-アミノ酸から選択され得る。
【0046】
また先に述べられているように、センサC3の受容体のα-アミノ酸およびセンサC4の受容体のα-アミノ酸は、その酸性特性または塩基性特性に応じて検出システムによって識別される可能性のある揮発性化合物の数を拡大するために、少なくとも1pH単位だけ、好ましくは少なくとも2pH単位だけ互いに異なる等電点を有する。
【0047】
α-アミノ酸の等電点は、多くの生化学の本において示されており、代替的には、等電点電気泳動(IEF)によって決定され得る。
【0048】
例として、付録に添付されている
図1は、「Lehninger Principles of Biochemistry」という本のchapter 3、4
th edition、2004年、以降、参考文献[5]の、pIと示された等電点を有する。
【0049】
有利には、センサの第3のシリーズのセンサの受容体のα-アミノ酸は、芳香族であり、第3のシリーズの別のセンサの受容体のα-アミノ酸は、脂肪族であり、これらのセンサは、両方とも第1のシリーズにも第2のシリーズにも属さない。
【0050】
代替的には、またはそれに加えて、センサの第4のシリーズの2つのセンサの受容体のα-アミノ酸は、少なくとも25g/molだけ、好ましくは少なくとも50g/molだけ互いに異なる、それぞれMr1およびMr2である相対分子量を有し、これらのセンサは、両方とも第1のシリーズにも第2のシリーズにも属さない。
【0051】
したがって、電子鼻検出システムによる揮発性化合物の物理化学的分類は、揮発性化合物の1つまたは2つの追加の物理化学的特性に応じて取得され得る。
【0052】
「芳香族α-アミノ酸」という用語は、側鎖が芳香族基を含む任意のα-アミノ酸を意味し、「芳香族基」という用語は、ヒュッケル則に準拠し、したがって、4n+2に等しいいくつかの非局在化π電子を有する基を意味し、「脂肪族α-アミノ酸」という用語は、側鎖がちょうど定義されたような芳香族基を有さない任意のα-アミノ酸を意味する。
【0053】
したがって、たとえば、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンが芳香族α-アミノ酸であり、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリシン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、プロリン、セリン、スレオニン、およびバリンが脂肪族α-アミノ酸である。
【0054】
等電点と同様に、α-アミノ酸の相対分子量は、多くの生化学の本において利用可能であり、代替的には、これらのα-アミノ酸の化学式から容易に決定され得る。
【0055】
例として、付録に添付されている
図1は、参考文献[5]から取られた標準的α-アミノ酸の、Mrと示された相対分子量を示す。
【0056】
電子鼻検出システムが、センサの第3のシリーズを備えるが、第4のシリーズがない場合、両方ともセンサC1、C2、C3、およびC4とは異なる、それぞれセンサC5およびC6である2つのセンサか、またはセンサC1、C2、C3、およびC4のうちの1つと共にセンサC5およびC6のうちの1つが第3のシリーズに属することができる。
【0057】
同様に、電子鼻検出システムが、センサの第4のシリーズを備えるが、第3のシリーズがない場合、両方ともセンサC1、C2、C3、およびC4とは異なる、それぞれセンサC7およびC8である2つのセンサか、またはセンサC1、C2、C3、およびC4のうちの1つと共にセンサC7およびC8のうちの1つが第4のシリーズに属することができる。
【0058】
最後に、電子鼻検出システムがセンサの第3のシリーズと第4のシリーズの両方を備える場合、
2つのセンサC5およびC6か、またはセンサC1、C2、C3、C4、C7、もしくはC8のうちの1つと共にセンサC5およびC6のうちの1つが第3のシリーズに属することができ、
2つのセンサC7およびC8か、またはセンサC1、C2、C3、C4、C5、もしくはC6のうちの1つと共にセンサC7およびC8のうちの1つが第4のシリーズに属することができる。
【0059】
以下の表Iは、様々な可能な構成を示す。
【0060】
【0061】
本発明によれば、検出システム内に含まれるセンサの各々は、それ自体の測定システムもしくはトランスデューサを備えるか、または他のセンサとそれらに共通する測定システムを共有することができる。両方の場合、測定システムは、気体状態の化合物とセンサの感応部との間の物理化学的相互作用の間に使用可能な信号を生成することを可能にする任意の測定システムであり得、特に、抵抗タイプ、圧電タイプ、機械タイプ、音響タイプ、または光学タイプであり得る。言い換えれば、センサは、抵抗式センサ、圧電式センサ、機械式センサ、音響式センサ、および/または光学式センサであり得る。
【0062】
好ましくは、センサは、表面プラズモン共鳴光学センサ、干渉計センサ、または微細加工超音波トランスデューサセンサ、特に、容量性微細加工超音波トランスデューサ(またはCMUT)センサまたは圧電微細加工超音波トランスデューサ(またはPMUT)センサである。
【0063】
さらに、センサは、表面プラズモン共鳴光学センサであることが好ましい。それ自体が知られているこのタイプのトランスデューサは、概して、プラズモン励起を起こすための、たとえば、LEDタイプの光源と、プラズモン共鳴から結果として生じる信号を記録するCCDカメラとを組み合わせる。したがって、センサによって発せられた信号は、使用されるCCDカメラの画像を構成するすべてのピクセルの信号変動を追跡することにある画像化モードにおいて追跡されることが最も特に好ましい。
【0064】
基板は、測定システムに適した材料で構成される。したがって、測定が表面プラズモン共鳴によって行われる場合、基板は、好ましくはガラスプリズムを備え、ガラスプリズムの1つの面は、典型的には10nmから100nm厚の金属層、好ましくは金または銀で覆われる。
【0065】
本発明は、ガス状サンプル中に存在する可能性の高い化合物のセットEを検出および同定することができる電子鼻にも関し、電子鼻は、前述のような検出システムを備えることを特徴とする。
【0066】
本発明によれば、電子鼻は、好ましくは、揮発性有機化合物、硫化水素(H2S)、およびアンモニア(NH3)の検出および同定に専用にされ、これらの化合物は、あるいは、ガス状サンプル中に単独でまたは混合して見出される。
【0067】
前述および後述において、「揮発性有機化合物」は、1999年3月11日のEuropean CouncilのDirective 1999/13/ECに従って定義され、
揮発性有機化合物とは、「293.15K(すなわち20℃)の温度において0.01kPa(すなわち、9.87.10-5atm以上の蒸気圧を有する任意の有機化合物、または特定の使用条件の下で対応する揮発性を有する任意の有機化合物」(Directiveの第2条17項を参照)であり、
有機化合物とは、「炭素酸化物、無機炭酸塩、および重炭酸塩を除く、少なくとも炭素元素と、以下の要素、すなわち、水素、ハロゲン、酸素、硫黄、リン、シリコン、または窒素のうちの1つまたは複数とを含む任意の化合物である」(Directiveの第2条16項を参照)である。
【0068】
したがって、特に揮発性有機化合物として、エタン、プロパン、n-ブタン、n-ヘキサン、エチレン、プロピレン、1,3-ブタジエン、およびアセチレンなどの特定の飽和または不飽和非環状炭化水素、シクロプロパン、シクロペンタン、およびシクロヘキサンなどの特定の非芳香族飽和または不飽和環状炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、およびエチルベンゼンなどの特定の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、トリクロロメタン、クロロエタン、トリクロレチレン、およびテトラクロレチレンなどの特定のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、およびプロピレングリコールなどの特定のアルコール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロパナール、および2-プロペナール(またはアクロレイン)などの特定のアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、2-ブタノン、およびメチルビニルケトンなどの特定のケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、および酪酸イソアミルなどの特定のエステル、ジエチルエーテル、n-エチレングリコールブチルエーテル(EGBE)、および1,4ジオキサンなどの特定のエーテル、酢酸およびプロパン酸などの特定の酸、エチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、およびアミルアミンなどの特定のアミン、ジメチルホルムアミドなどの特定のアミド、メチルメルカプタン(またはメタンチオール)およびエチルメルカプタン(またはエタンチオール)などの硫黄化合物、ならびにアセトニトリルおよびアクリロニトリルなど特定のニトリルなどが考えられる。
【0069】
本発明の他の特徴および利点は、本発明を検証することを可能にした実験に関連し、添付の図を参照して与えられる以下の追加の説明から明らかになるであろう。
【0070】
しかしながら、この追加の説明は、本発明の主題の例示としてのみ与えられ、決してこの主題の限定として解釈されるべきではないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【
図1】すでにコメントされている、標準的α-アミノ酸のR.M. SweetおよびD. Eisenbergの尺度による疎水性指数と、pIと示された等電点と、Mrと示された相対分子量とをそれらの1文字コードとして示す表である。
【
図2】本発明を実験的に検証するために役立ったセンサのアレイの感応部を示す表面プラズモン共鳴イメージング(SPRi)によって取得された差分画像であり、これらの感応部は、共通基板の表面上に配置され、感応部ごとに1つのペプチドの割合で、19の異なるペプチドによって官能基化される。
【
図3】一方で、
図2のセンサのアレイを各々が揮発性化合物を含むガス状サンプルに曝露することを目的とするテスト中にこのセンサのアレイによって提供された応答から構成されたデータベースの階層的クラスタリングによる分析によって取得された樹状図を示し、他方で、センサの感応部を形成するペプチドと、これらのペプチドの配列Zを形成するα-アミノ酸の親水性または疎水性の特性とを対応させているこの樹状図の凡例を示す図である。
【
図4】
図2のセンサのアレイを各々が6つの揮発性化合物のうちの1つを含むガス状サンプルに曝露することを目的とするテスト中にこのセンサのアレイによって提供された応答から構成されたデータベースから取得された2つの物理化学的特性に従うこれらの揮発性化合物の分類を示すグラフであり、このグラフにおいて、横軸は、標準的α-アミノ酸の、pIと示された等電点に対応し、縦軸は、これらの同じα-アミノ酸の疎水性指数に対応する。
【
図5】
図2のセンサのアレイを各々が揮発性化合物を含むガス状サンプルに曝露する目的のテスト中にこのセンサのアレイによって提供された応答から構成されたデータベースの、PC1およびPC2と示された主成分分析1および2によって取得されたマップを示す図であり、この図において、PC1およびPC2の各々に関連する変動の割合が軸上に示されている。
【
図6】
図2のセンサのアレイを各々が揮発性化合物を含むガス状サンプルに曝露する目的のテスト中にこのセンサのアレイによって提供された応答から構成されたデータベースの、PC1およびPC2と示された、主成分分析1および2によって取得された相関の第1の円、ならびにテストされた揮発性化合物の物理化学的特性とこれらの主成分との相関の図である。
【
図7】
図2のセンサのアレイを各々が揮発性化合物を含むガス状サンプルに曝露する目的のテスト中にこのセンサのアレイによって提供された応答から構成されたデータベースの、PC1およびPC3と示された、主成分分析1および3によって取得された相関の第1の円、ならびにテストされた揮発性化合物の物理化学的特性とこれらの主成分との相関の図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
本発明は、以下に説明されている実験によって検証された。
【0073】
これらの実験は、
一方で、感応部が共通基板上に配置され、ペプチド受容体によって官能基化された76個のセンサのアレイと、
他方で、すべてのセンサに共通の表面プラズモン共鳴(またはSPR)光トランスデューサと
を備える検出システムを備える電子鼻を使用して行われた。
【0074】
1つの面において金層(≒50nm厚)で覆われたガラスプリズムが基板として使用され、式C-G-Zの19の異なるペプチドがペプチド受容体として使用され、
Cは、α-アミノ酸システインを表し、
Gは、α-アミノ酸グリシンを表し、
Zは、以下のα-アミノ酸、すなわち、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン、およびチロシンのうちの1つから構成されたヘキサペプチド配列を表す。
【0075】
これらのペプチドは、以下ならびに
図3において、配列Zを形成するα-アミノ酸の1文字コードによって示され、このコードは、
図1の表において示されている。
【0076】
したがって、たとえば、ペプチドAは、式C-G-A-A-A-A-A-Aのペプチドに対応し、ペプチドTは、式C-G-T-T-T-T-T-Tのペプチドに対応する。
【0077】
ペプチドの構成に入るすべてのα-アミノ酸は、L配置である。
【0078】
センサの感応部の各々は、1つの同じペプチドのいくつかの分子の自己組織化層から構成される。
【0079】
1°)センサのアレイの準備
ペプチドは、0.1mmol/Lの濃度においてジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解され、次いで、このようにして得られたペプチド溶液は、非接触マイクロスポッターロボット(Scienion AG、ドイツ)を使用して、感応部あたり数nLの割合において基板の金層上に堆積された。
【0080】
各ペプチド溶液は、検出における統計的不確実性を低減するために、各センサが4重に表現されるように、基板の金層の4つの異なる領域において堆積された。
【0081】
さらに、同じくマイクロスポッターによって、DMSO中に1H、1H、2H、2H-パーフルオロデカンチオールを含む数nLの溶液を堆積させることによって、いくつかのネガティブコントロールゾーンも基板の金層上に作成された。
【0082】
次いで、基板は、チオール-金化学反応のため(チオールは、ペプチドのα-アミノ酸システインによって提供される)自己組織化によってペプチド分子がこの基板の金層上に固定化されることを可能にするために、密閉室内に18時間置かれた。次いで、基板は、固定化されていないペプチド分子を除去するために洗浄され、最後に、アルゴン流下で乾燥された。
【0083】
このようにして、揮発性化合物と相互作用する可能性が高い76個の感応部と、いくつかのネガティブコントロール部分とを備える基板が取得された。
【0084】
これらのセンサが揮発性化合物に曝露される前の、センサのアレイの感応部のSPRiによって取得された差分画像が
図2に示されている。
【0085】
2°)センサのアレイの機能性をチェックする
アレイのセンサは、以下の化学族、すなわち、アルコール、カルボン酸、アミン、アミド、エステル、アルカン、アルデヒド、硫化物、および芳香族化合物のうちの1つに属する揮発性化合物を各々が含むガスサンプルのシリーズに曝露された。
【0086】
各曝露は、10分間続き、センサにガス状サンプルを供給するための流体システムのパージが、2つの連続する曝露の間に体系的に行われた。
【0087】
センサの感応部と揮発性化合物との間の相互作用は、SPRiによってリアルタイムで監視された。SPRi画像によって収集されたデータは、4つの同一センサのグループごとに平均化された、Δ%Rと示された反射率変動値に変換され、次いで、収集されたデータに対するガス状サンプル内の有機化合物の濃度の影響を低減するために正規化された。
【0088】
このようにして正規化されたΔ%Rからデータベースが作成された。
【0089】
このデータベースは、階層的クラスタリングによって分析された。
【0090】
階層的クラスタリングは、「類似性基準」に応じて、最も類似したデータを一緒にクラスにグループ化し、逆に、類似していないデータを別のクラスに分離するデータ分析の方法である。この場合、類似性基準は、センサの応答、言い換えれば、センサの感応部とこれらのセンサが曝露された揮発性化合物との間に発生した相互作用に対応する。
【0091】
この分析から結果として生じる樹状図または分類ツリーが
図3に示されており、横軸において、センサのアレイの感応部を形成するペプチド(Y、P、A、T、D、E、N、Q、R、K、H、V、L、I、F、W、M、およびG)が示され、縦軸において、ペプチドの異なるクラス間のユークリッド距離が示されている。横軸上にも存在する「RO」および「Au」という文字は、それぞれ、ネガティブコントロールと基板の非不動態化領域とに対応する。
【0092】
この樹状図の上部から開始して、各枝は、ペプチドを異なるクラスに分離し、木が下に行くほど、ますます類似する。したがって、最後に形成されたクラスは、最も近いセンサの応答につながるペプチドを一緒にグループ化する。
【0093】
樹状図ならびに、
図3にも示されているこの樹状図の凡例に示されているように、親水性α-アミノ酸ペプチドおよび疎水性α-アミノ酸ペプチドは、アラニンを除いて互いによく分離されており、一方、同じ化学的性質のペプチドは、よくグループ化されている。
【0094】
これらの結果は、ペプチドの物理化学的特性がセンサのアレイの製造中に変更されなかったことを実証する。
【0095】
それらは、同じ化学的性質のペプチドが、異なる化学族に属する揮発性化合物と同様の相互作用を有し、逆に、異なる化学的性質のペプチドが、これらの化合物と異なる相互作用を有することを実証する。したがって、ペプチドの物理化学的特性の多様性は、センサのアレイにおいてよく表されており、この多様性は、いくつかの物理化学的尺度による揮発性化合物の絶対的な分類を可能にすることができる。
【0096】
3°)2つの物理化学的特性による揮発性化合物の分類
上記のポイント2°)において取得されたデータを、縦軸と横軸に2つの異なる物理化学的特性についてα-アミノ酸によって提示された値を有するグラフにおいて報告することによって、有機化合物自体が有する物理化学的特性に応じたこれらの化合物の順序をグラフ上に取得することができた。
【0097】
したがって、たとえば、
図4は、横軸がα-アミノ酸の等電点に対応し、縦軸がα-アミノ酸の疎水性指数に対応するグラフ上に、6つの揮発性化合物、すなわち、酢酸、吉草酸、ブタノール、アンモニア、硫化ジメチル、およびオクタンについて取得された順序を示す。
【0098】
図4に示されているように、揮発性化合物の各々は、グラフ上でよく順序付けられており、一方で、その酸または塩基の特性(横軸に対応する)と、他方で、その疎水性の特性の多寡(縦軸に対応する)とに応じて区別され得る。
【0099】
したがって、2つの物理化学的特性に応じた揮発性化合物の絶対的な分類が取得される。
【0100】
4°)3つ以上の物理化学的特性による揮発性化合物の分類
多種多様な物理化学的特性に応じた匂いの絶対的な分類を可能にする本発明による検出システムの能力を検証するために、センサのアレイは、以下の9つの揮発性化合物、すなわち、
酢酸(CH3-COOH)、以下AcOHと表記される、
ブタン酸(CH3(CH2)2COOH)、以下BTAと表記される、
トリエチルアミン(N(CH2CH3)3)、以下TEAと表記される、
トリメチルアミン(N(CH3)3)、以下TMAと表記される。
n-ペンチルアミン(CH3(CH2)4NH2)、以下n-PAと表記される、
1,4-ジアミノブタン(NH2(CH2)4NH2)、以下DABと表記される、
1,5-ジアミノペンタン(NH2(CH2)5NH2)、以下DAPと表記される、
ジメチルスルフィド(S(CH3)2)、以下DMSと表記される、および
ジプロピルスルフィド(S(CH2CH2CH3)2)、以下DPSと表記される
のうちの1つを各々が含むガス状サンプルのシリーズに曝露された。
【0101】
ここでも、各曝露は、10分間続き、センサにガス状サンプルを供給するための流体システムのパージが、2つの連続する曝露の間に体系的に行われた。センサの感応部と揮発性化合物との間の相互作用は、SPRiによってリアルタイムで追跡され、SPRi画像によって収集されたデータは、上記のポイント2°)で前述されているように処理された。
【0102】
揮発性化合物ごとにセンサのアレイの10回の曝露が行われ、データベースが構成された揮発性化合物ごとに10個のプロファイルが取得された。
【0103】
このデータベースは、主成分分析(またはPCA)を受けた。
【0104】
PCAは、特に寸法の縮小のために、電子鼻の分野において一般的に使用されるデータの要因分析の方法である(たとえば、A. Louftiら、Journal of Food Engineering 2015年、14、103~111頁、以降、参考文献[6]を参照)。これは、できるだけ多くの情報を保持しながら、複数の初期変動の線形結合であり、「主成分」と呼ばれ、主成分1をPC1、主成分2をPC2、主成分3をPC3などと表記した複数の要因軸に従って多数の定量的データを表すことを可能にする。
【0105】
センサのアレイが曝露された揮発性化合物のプロファイルから構成されたデータベースに適用されたPCAは、軸PC1およびPC2に沿ってプロファイルを表し、最も近いプロファイル、特に、揮発性化合物ごとに取得された10のプロファイルのグループ化と、離れたプロファイルの異なるグループへの分離とを示す
図5のマップを取得することを可能にした。
【0106】
したがって、たとえば、このマップは、ジアミン(DABおよびDAP)のプロファイルがよくグループ化され、ジアルキルスルフィド(DMSおよびDPS)のプロファイルもよくグループ化されている場合、後者がジアミンのプロファイルから大きく離れていることを示す。
【0107】
次いで、揮発性化合物の物理化学的特性は、
図5におけるマップの構成要素PC1およびPC2と相関された。これらの相関について、
logPと表記されるn-オクタノール/水配分係数であり、これら2つの溶媒への化合物の溶解度の比に対応し、成分の親水性または疎水性の特性の指標を与え、実際、成分は、そのlogPが高くなるにつれて、より疎水性になり、より親水性でなくなり、
Mと表記され、g/molにおいて表されるモル質量、
μと表記され、デバイ(D)において表される双極子モーメントのノルムであり、双極子モーメントは、原子結合または分子の分極状態を特徴付けるベクトル量であり、このベクトルのノルムが大きいほど、分子は、より極性が高くなり、
LH
Dと表記される水素結合供与部位の数であり、それらは、炭素原子よりも電気陰性であり、水素結合を形成するために供与される可能性が高い原子に結合した水素原子であり、
LH
Aと表記される水素結合受容部位の数であり、それらは、水素結合を受け取る可能性が高い、非結合電子のペアを担持する電気陰性原子であり、
S
Pと示され、A
2において表される極性表面であり、酸素、窒素、または硫黄などの極性原子ならびに結合した水素原子の表面積の合計として定義され、
P
satと示され、Kpaにおいて表される飽和蒸気圧、
nと示される純粋な化合物の屈折率、
化合物が含む、NCと示される炭素原子の数、および
化合物が含むヘテロ原子のΣχと示される電気陰性度の合計(Oの場合はχ=3.5、Nの場合はχ=3、Sの場合はχ=2.5)
が考慮された。
【0108】
これらの物理化学的特性の値は、揮発性化合物の各々について以下の表IIにおいて提示されている。
【0109】
【0110】
このようにして、
図6に示されている相関の円が取得された。
【0111】
この点に関して、相関の円は、半径1の円であり、その2つの垂直な直径は、
図6の場合、2つの主成分PC1およびPC2を表すことが想起される。記述子、すなわち、
図6の場合は揮発性化合物の物理化学的パラメータは、この円内に配置され、主成分へのそれらの投影は、これらの成分との相関係数を与える。
【0112】
したがって、PC2に対するlogPの投影は、約0.8であり、これは、この物理化学的パラメータとPC2との間の正の相関を示す。相関が正であるので、揮発性化合物のlogPが高くなるほど、PC2におけるこの化合物の座標が高くなる。したがって、最も疎水性の高い揮発性化合物は、
図5のマップの上部に見られ、最も親水性の高い揮発性化合物は、このマップの下部に見られる。したがって、センサのアレイは、揮発性化合物をその親水性または疎水性の特性に応じて区別し、それらを親水性/疎水性尺度において分類することが可能である。
【0113】
同様に、
図6は、水素結合供与部位のLH
D数もPC2に相関することを示す。したがって、センサアレイは、水素結合を形成する能力に応じて揮発性化合物を区別し、それらをpH尺度において分類することが可能である。
【0114】
図7は、揮発性化合物の物理化学的パラメータを、
図5のマップの成分PC1と、同様にPCA分析によってされたが、このマップ上に表されていない成分PC3とに相関させることによって取得された相関の別の円を示す。この図は、双極子モーメントのノルムμならびに極性表面S
PがPC3とよく相関していることを示し、これは、センサのアレイが、揮発性化合物をそれらの極性に応じて区別し、それらを極性の尺度において分類することができることを意味する。