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特許7544829音響フィルターを用いた音声変換のための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】音響フィルターを用いた音声変換のための装置
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/04 20060101AFI20240827BHJP
   H04R 1/28 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G10K11/04
H04R1/28 310B
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022547827
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 EP2021052648
(87)【国際公開番号】W WO2021156357
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】102020201533.3
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591037214
【氏名又は名称】フラウンホッファー-ゲゼルシャフト ツァ フェルダールング デァ アンゲヴァンテン フォアシュンク エー.ファオ
(74)【代理人】
【識別番号】100079577
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 全啓
(74)【代理人】
【識別番号】100167966
【弁理士】
【氏名又は名称】扇谷 一
(72)【発明者】
【氏名】ヤン キューラー
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-024178(JP,A)
【文献】特開2001-003322(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104167203(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/04
H04R 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声変換のための装置(100)であって、
前記装置(100)が、音声チャネル(102)と、前記音声チャネル(102)に結合された音声変換器(104)とを備え、
前記装置(100)が、前記音声チャネル(102)内に配置された音響ローパスフィルタ(106)を備え、
前記音響ローパスフィルタ(106)は、前記音響ローパスフィルタ(106)が占める前記音声チャネル(102)の体積(110)を、第1の部分体積(112_1)と少なくとも1つの第2の部分体積(112_2)とに分割し、
前記第1の部分体積(112_1)と前記少なくとも1つの第2の部分体積(112_2)とが、少なくとも1つのスリット(114)を介して結合され、
前記少なくとも1つのスリット(114)は、前記音声チャネル(102)に向かって拡大し、
前記第1の部分体積(112_1)は前記少なくとも1つの第2の部分体積(112_2)によって取り囲まれており、
前記少なくとも1つのスリット(114)によって、フィルタ音声チャネル(107)における熱粘性損失による高音域の音響速度の減少が可能となり、ひいてはローパス効果がもたらされ、ここで、低周波数では境界層の厚さは前記スリット(114)よりも大きいため、前記ローパス効果は低周波数がフィルタ処理されずに前記フィルタ音声チャネル(107)を通過することから生じる、装置(100)。
【請求項2】
前記装置(100)は、前記音声チャネル(102)内に、前記音声変換器(104)と前記音響ローパスフィルタとの間において配置されたマイクロ穿孔プレート(108)を備える、請求項1に記載の装置(100)。
【請求項3】
前記少なくとも1つの第2の部分体積(112_2)は、専ら前記第1の部分体積(112_1)を介して前記音声変換器(104)に結合される、請求項1又は2に記載の装置(100)。
【請求項4】
前記第1の部分体積(112_1)は、前記少なくとも1つの第2の部分体積(112_2)によって同心円状に取り囲まれている、請求項1乃至3のいずれかに記載の装置(100)。
【請求項5】
前記第1の部分体積(112_1)が内部部分体積であり、
前記少なくとも1つの第2の部分体積(112_2)が、少なくとも1つの外部部分体積である、請求項1乃至4のいずれかに記載の装置(100)。
【請求項6】
前記内部部分体積(112_1)と前記少なくとも1つの外部部分体積(112_2)とが複数のスリット(114)を介して結合され、
前記複数のスリット(114)は、前記音声チャネル(102)の回転軸に対して対称に配置されている、請求項5に記載の装置(100)。
【請求項7】
前記装置(100)は、前記音声チャネル(102)内に、前記音声変換器(104)と前記音響ローパスフィルタとの間において配置されたマイクロ穿孔プレート(108)を備え、
前記マイクロ穿孔プレート(108)は、前記音声変換器(104)に同調される、請求項2乃至6のいずれかに記載の装置(100)。
【請求項8】
前記装置(100)は、前記音声チャネル(102)内に、前記音声変換器(104)と前記音響ローパスフィルタとの間において配置されたマイクロ穿孔プレート(108)を備え、
前記マイクロ穿孔プレート(108)は、音響高音域/中音域を減衰させるように構成される、請求項2乃至7のいずれかに記載の装置(100)。
【請求項9】
前記装置(100)は、前記音声チャネル(102)内に、前記音声変換器(104)と前記音響ローパスフィルタとの間において配置されたマイクロ穿孔プレート(108)を備え、
前記マイクロ穿孔プレート(108)は、音声エネルギーを目標周波数範囲にシフトするように構成される、請求項2乃至8のいずれかに記載の装置(100)。
【請求項10】
前記音声チャネル(102)は回転対称である、請求項1乃至9のいずれかに記載の装置(100)。
【請求項11】
前記音声チャネル(102)は、前記音声変換器(104)の第1の側に結合された第1の音声チャネル(102)であり、
前記装置(100)は、前記音声変換器(104)の前記第1の側とは反対側の第2の側に結合された第2の音声チャネル(118)を備える、請求項1乃至10のいずれかに記載の装置(100)。
【請求項12】
前記第2の音声チャネル(118)は円筒形である、請求項11に記載の装置(100)。
【請求項13】
前記音声変換器(104)は、ラウドスピーカーまたはマイクロフォンである、請求項1乃至12のいずれかに記載の装置(100)。
【請求項14】
前記装置(100)は、聴覚カナルフォン、スマートヘッドフォン/イヤフォン、補聴器、ラウドスピーカー、またはマイクロフォンである、請求項1乃至13のいずれかに記載の装置(100)。
【請求項15】
前記音声変換器はMEMS音声変換器である、請求項1乃至14のいずれかに記載の装置(100)。
【請求項16】
音声変換器(104)の音響インピーダンスを調整するための装置(106)であって、
前記音響インピーダンスを調整するための前記装置(106)が、前記音響インピーダンスを調整するための前記装置(106)が占める体積(110)を第1の部分体積(112_1)と少なくとも1つの第2の部分体積(112_2)に分割するように構成され、
前記第1の部分体積(112_1)と前記少なくとも1つの第2の部分体積(112_2)は少なくとも1つのスリット(114)を介して結合されて、前記音響インピーダンスを調整するための前記装置(106)がローパス特性を含むようになっていて、
前記少なくとも1つのスリット(114)は、音声チャネル(102)に向かって拡大し、
前記第1の部分体積(112_1)は前記少なくともつの第2の部分体積(112_2)によって取り囲まれており、
前記少なくとも1つのスリット(114)によって、フィルタ音声チャネル(107)における熱粘性損失による高音域の音響速度の減少が可能となり、ひいてはローパス効果がもたらされ、ここで、低周波数では境界層の厚さは前記スリット(114)よりも大きいため、前記ローパス効果は低周波数がフィルタ処理されずに前記フィルタ音声チャネル(107)を通過することから生じる、装置(106)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、音声変換のための装置に関し、特に、音響インピーダンスを調整するための装置(音響フィルタ)を備えた音声変換装置に関する。さらに、実施形態は、音響フィルタに関するものである。いくつかの実施形態は、特別な音響誘導設計による音響フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なヘッドフォン、ヒアラブル(スマートヘッドフォン/イヤフォン)、補聴器は、しばしば耳に対して最適な周波数応答を持っていません。ヘッドフォンやヒアラブル、補聴器の周波数応答を所望の目標カーブに調整することは、技術的に精巧であることが多い。
【0003】
また、音声変換器は、それぞれ電気音響的な挙動が異なり、人間の耳のような音響負荷に対する反応も異なる。特に、MEMSラウドスピーカのような高品質なシステムでは、(1)制振が困難な場合が多く、制振が不適切または不十分な場合に音声変換器に損傷を与える可能性がある、(2)小さな周波数範囲でしか効率が得られない場合が多い、という問題がある。
【0004】
さらに、不正確または不十分な音響誘導手段により、音声変換器の効率は従来、最適に利用されていない。このため、特定の周波数帯域で音圧レベル(SPL)が低下したり、及び/又は、機械的な能力が制限されたりする。
【0005】
狭帯域フィルターが知られている。これらは、位相や音響に悪影響を及ぼすものがほとんどである。また、精巧な信号処理や静的なプリディストーション(pre-distortion、事前ひずみ)を伴う。
【0006】
さらに、外部音響フィルターエレメントが知られている。これらは通常、いくつかの異なる材料で構成され、しばしば精巧な方法で製造/統合されなければならない。さらに、外部音響フィルターエレメントは、通常、広帯域効果を有し、したがって、使用される音声変換器に対して同調されることはない。
【0007】
[1]は、イヤフォンハウジングと、音響誘導管と1つ以上のドライバを含む音を提供するためのエレメントを備えたイヤフォンについて述べている。イヤフォンハウジングは、ハウジングの内部体積をイヤフォンの外部の体積と結合する1つ以上のハウジング端子を含む。
【0008】
[2]には、密閉型ヘッドフォンであって、音孔(sound openings)が設けられた取付板の前面に固定されたシールドパッドと、取付板の背面に取り付けられた電気音声変換器と、電気音声変換器を覆うハウジングと、取付板の前面の空間と取付板の背面の空間を結合する結合開口と、取付板の前後の空間の体積コンプライアンスおよび結合開口の音響質量リアクタンスからなる音響機械系の共振回路とを備えるヘッドフォンが記載されている。
【0009】
[3]は、ユーザーがヘッドセットの機械的な音響エレメントを操作することによって、ヘッドセットの異なる周波数応答を切り替えることができるヘッドセットについて述べている。音響エレメントは、ヘッドセット内の変換器エレメントとユーザーの聴覚器官との間の伝送経路の設定と、ヘッドセットのハウジング自体の共振特性の設定を可能にする。伝送経路の設定は、変換器を含む異なる体積と聴覚器官との間の開口部を操作し、そのような伝送経路に沿って異なる抵抗エレメントを使用することによって実施される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、従来の状況を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態は、音声変換のための装置を提供し、装置は、音声チャネルと、音声チャネルに結合された音声変換器とを備え、装置は、音声チャネル内に配置された音響ローパスフィルタを含む。
【0012】
実施形態において、装置は、音声変換器と音響ローパスフィルタとの間において音声チャネル内に配置されたマイクロ穿孔プレートを含むことができる。
【0013】
実施形態において、音響ローパスフィルタは、音響ローパスフィルタが占める音声チャネルの体積を、第1の部分体積と少なくとも1つの第2の部分体積に分割することができ、第1の部分体積と少なくとも1つの第2の部分体積は、少なくとも1つのスリットによって結合される。
【0014】
実施形態において、少なくとも1つの第2の部分体積は、もっぱら第1の部分体積を介して音声変換器に結合されることができる。
【0015】
実施形態において、第1の部分体積は、少なくとも1つの第2の部分体積によって同心円状に取り囲まれる場合がある。
【0016】
実施形態において、少なくとも1つのスリットは、音声チャネルに向かって拡大することができる。
【0017】
実施形態において、第1の部分体積は内部部分体積であり、少なくとも1つの第2の部分体積は少なくとも1つの外部部分体積である。
【0018】
実施形態において、内部部分体積と少なくとも1つの外部部分体積は、複数のスリットを介して結合されてもよく、複数のスリットは、音声チャネルの回転軸に対して対称に配置されている。
【0019】
実施形態において、マイクロ穿孔プレートは、音声変換器に合わせて調整される(同調される)ことができる。
【0020】
例えば、穴の直径、穴の距離、及び/又はマイクロ穿孔プレートの厚さは、音声変換器に対して同調されることができる。さらに、マイクロ穿孔プレートは、目標周波数範囲(例えば、3kHzにおいて)を決定する、音声変換器に対して、定義された距離を有することができる。マイクロ穿孔プレートが音声変換器においてより近くに配置されるほど、目標周波数範囲のシフトはより高くなる。穴の直径、穴の距離、及び/又はプレートの厚さは、減衰の程度を決定する。
【0021】
実施形態において、マイクロ穿孔プレートは、音響高音域/中音域を減衰させるように構成されることができる。
【0022】
高音域/中音域は寸法に依存し、例えば、800Hz~20kHzの範囲であってもよい。この場合、マイクロ穿孔プレートの音響抵抗は十分ではないので、マイクロ穿孔プレートは共振周波数(例えば9kHz)を減衰させることができない。
【0023】
実施形態において、マイクロ穿孔プレートは、音声エネルギーを目標周波数範囲にシフトさせるように構成されることができる。
【0024】
実施形態において、音声チャネルは、回転対称であってもよい。
【0025】
実施形態において、音声チャネルは、音変換器の第1の側に結合された第1の音声チャネルであり、装置は、音声変換器の第1の側とは反対側の第2の側に結合された第2の音声チャネルを含んでいる。
【0026】
実施形態では、第2のチャネルは、円筒形の形状を有していてもよい。
【0027】
例えば、第2のチャネルは、反射チャネル(例えば、反射チューブ)であることができる。それは、共振を減衰させるような寸法であってよい。これは、共振が音響変化器膜の部分振動に分解され、それによって減衰される程度まで、音声変換器に対する共振の場合の音圧を増加させる。こうして、音声変換器は機械的に緩和される。
【0028】
実施形態において、音声変換器は、ラウドスピーカー又はマイクロフォンであってもよい。
【0029】
実施形態において、装置は、聴覚カナルフォン(インイヤーフォン)、スマートヘッドフォン/イヤフォン、補聴器、ラウドスピーカー、またはマイクロフォンであってもよい。
【0030】
実施形態において、音声変換器はMEMS音声変換器であってもよい。
【0031】
さらに、実施形態は、音声変換器の音響インピーダンスを調整するための装置を提供する。音響インピーダンスを調整するための装置は、音響インピーダンスを調整するための装置が占める体積を第1の部分体積と少なくとも1つの第2の部分体積に分けるように構成され、第1の部分体積と少なくとも1つの第2の部分体積は少なくとも1つのスリットによって(例えば、音響インピーダンスを調整するための装置がローパス特性を有するように)結合していることを示す。
【0032】
さらに、実施形態は、音声変換器用の音響ローパスフィルタを提供する。音響ローパスフィルタは、音声変換器に結合され、音響ローパスフィルタが占める音声チャネルの体積を、第1の部分体積と少なくとも1つの第2の部分体積に分割するように構成される。第1の部分体積と少なくとも1つの第2の部分体積は、少なくとも1つのスリットによって結合される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明の実施形態は、添付の図を参照してより詳細に説明される。
図1図1は、本発明の実施形態に係る音声変換のための装置の概略側面図である。
図2図2は、本発明の実施形態による図1に示す音響ローパスフィルタの長手方向における概略断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態による図1に示した音響ローパスフィルタの概略断面図である。
図4図4は、本発明のさらなる実施形態による音声変換のための装置の模式的な側面図である。
図5図5は、本発明の実施形態による音響ローパスフィルタの3次元断面図である。
図6図6は、本発明の実施形態による音響ローパスフィルタの2次元断面図である。
図7図7は、目標周波数特性、従来のインイヤーヘッドフォンの周波数特性、及び本発明の実施形態によるインイヤーヘッドフォンの周波数特性を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
なお、以降の本発明の実施形態の説明において、図面上、同一の要素または同一の効果を有する要素には、同一の参照番号を付して、その説明が相互に可能なようにする。
【0035】
図1は、本発明の実施形態に係る音声変換のための装置100の概略構成を示す図である。装置100は、音声チャネル102と、音声チャネル102に結合された音声変換器104とを含む。さらに、装置100は、音声チャネル102に配置された音響インピーダンスを調整するための装置106を含む。ここで、音響インピーダンスを調整するための装置106は、ローパス特性で構成される。
【0036】
実施形態において、音響インピーダンスを調整するための装置106は、音響ローパスフィルタである。
【0037】
実施形態において、装置100は、音声変換器104と音響ローパスフィルタ106との間において音声チャネル102に配置されたマイクロ穿孔プレート108を任意に含んでいてもよい。
【0038】
実施形態において、例えば、音声変換器は、MEMS音声変換器または小型音声変換器であってもよい。以下の説明では、音声変換器は、MEMS音声変換器であることを例示的に想定している。しかし、以下の説明は、小型音声変換器などの他の音声変換器にも適用可能である。
【0039】
実施形態において、音響ローパスフィルタ106は、ローパスフィルタ106が占める音声チャネル102の体積110を、第1の部分体積(例えば、第1の部分空気体積)と少なくとも1つの第2の部分体積(例えば、第2の部分空気体積)に分割してもよく、図2および図3に基づいてより詳細に後述するように、第1の部分体積と少なくとも1つの第2の部分体積は少なくとも1つのスリットによって結合される。
【0040】
ここで、以降の説明では、音声チャネル102が円筒形であることを例示的に想定している。しかし、本発明はそのような実施形態に限定されるものではなく、むしろ、音声チャネル102は他の任意の適切な形状を有していてもよい。したがって、実施形態において、音声チャネルは、(例えば、音声チャネルに沿って広がる回転軸116に関して、または音の伝搬方向において)回転対称であってもよい。さらに、音声チャネル102が湾曲していることも可能である。この場合、音声チャネル102の長さが減衰の程度を決定する。
【0041】
図2は、本発明の実施形態による図1に示す装置100の音響ローパスフィルタ106の長手方向における概略断面図である。
【0042】
図3は、本発明の実施形態による図2に示した音響ローパスフィルタ106の概略断面図である。
【0043】
図2及び図3から分かるように、音響ローパスフィルタ106は、音響ローパスフィルタ106が占める音声チャネル102の体積110(図1参照)を第1の部分体積112_1と少なくとも1つの第2の部分体積112_2とに分割するように構成されてもよく、第1の部分体積112_1と少なくとも1つの第2の部分体積112_2とは少なくとも1つのスリット114によって結合される。少なくとも1つのスリット114は、50~100μmの幅を有してよい。
【0044】
実施形態において、第1の部分体積112_1は内部部分体積であってよく、一方、少なくとも1つの第2の部分体積112_2は内部部分体積を(例えば、同心円に)囲む少なくとも1つの外部部分体積である。
【0045】
この場合、実施形態では、少なくとも1つの第2の部分体積112_2(例えば外部部分体積)は、少なくとも1つのスリット114を介して専ら第1の部分体積112_1に結合され、したがって装置100のMEMS音声変換器104に結合される。したがって、音響ローパスフィルタ106は、本質的に、すなわち少なくとも1つのスリット114を除いて閉じた部分体積を得るために、すなわち少なくとも1つのスリット114を除いて少なくとも1つの第2の部分体積を本質的に完全に囲むように構成され得る。
【0046】
ここで、少なくとも1つのスリット114は、音声チャネル102に沿って、例えば、軸116(図1参照)に平行に、音の伝搬方向に拡張してもよい。音声チャネル102、したがって音伝搬方向も湾曲している場合、少なくとも1つのスリット114は明らかに湾曲していてもよいし、音声チャネル、または音伝搬方向の湾曲に適応していてもよい。
【0047】
図2及び図3は、音響ローパスフィルタ106は、音響ローパスフィルタ106が占める体積110を正確に1つの第1の部分体積112_1(例えば内部部分体積)及び1つの第2の部分体積112_2(例えば外部部分体積)、すなわち2つの部分体積に分割するように構成されていると例示的に仮定している。実施形態において、音響ローパスフィルタ106は、明らかに、音響ローパスフィルタ106が占める体積110を2つ以上の部分体積に、例えば3つ又は4つの部分体積に分割するように構成されてもよい。この場合、第1の部分体積112_1(例えば内部部分体積)は、少なくとも1つのスリットをそれぞれ介して他の部分体積(外部部分体積)の各々と結合されていることができる。
【0048】
図4は、本発明のさらなる実施形態に係る音声変換のための装置100の概略側面図である。すなわち、図4は、インイヤー型MEMSラウドスピーカの音響誘導の基本設計を示す図である。
【0049】
装置100は、第1の音声チャネル102と、MEMS音声変換器(例えば、チャンバ付きMEMSラウドスピーカ)104とを備え、第1の音声チャネル102は、MEMS音声変換器の第1の側に結合される。さらに、装置100は、第1の音声チャネル102に配置された音響ローパスフィルタ106を備える。さらに、装置100は、任意選択的に、MEMS音声変換器104と音響ローパスフィルタ106との間において第1の音声チャネル102内に配置されたマイクロ穿孔プレート108を備えている場合がある。さらに、装置100は、MEMS音声変換器104の第1の側とは反対側の第2の側に結合された第2の音声チャネル(例えば反射管)118を任意に具備してもよい。
【0050】
図5は、本発明の一実施形態に係る音響ローパスフィルタ(ローパスフィルタ特性を有する音響フィルタエレメント)の3次元断面図である。
【0051】
図6は、本発明の実施形態に係る音響ローパスフィルタ(ローパスフィルタ特性を有する音響フィルタエレメント)の2次元断面図である。
【0052】
図5及び図6から分かるように、音響ローパスフィルタ106は、音響ローパスフィルタ106が占める音声チャネル102の体積110(図1参照)を第1の部分体積112_1と第2の部分体積112_2とに分割するように構成されてもよく、第1の部分体積112_1と第2の部分体積112_2とは1又は複数のスリット114を介して、例えば、4つのスリットを介して結合される。
【0053】
実施形態において、音響ローパスフィルタ106は、したがって、第1の部分体積112_1を形成する(そして、例えば、MEMS音声変換器によって生成された音を導く)フィルタ音声チャネル107を含むことができる。フィルタ音声チャネル107は、少なくとも1つのスリット114を介して、フィルタ音声チャネル107を(例えば、同心的に)囲み、第2の部分体積112_2を形成する音響ローパスフィルタ106の他の閉鎖室へと連結されている。スリット114は、フィルタ音声チャネル107における熱粘性損失による高音域の音響速度の減少を可能にする(ローパス効果)。ローパス効果は、低周波の場合、境界層の厚さがスリット114よりも大きいため、低周波がフィルタ音声チャネル107をフィルタリングされない状態で通過することから生じる。したがって、低周波は遮られることなく転送される。
【0054】
図7は、本発明の実施形態による目標周波数応答200、従来のインイヤーヘッドフォンの周波数応答202、及びインイヤーヘッドフォンの周波数応答204を図で示したものである。この場合、縦軸は音圧レベルをデシベルで記述し、横軸は周波数を記述している。
【0055】
すなわち、図7は、従来の(非最適化)音響誘導設計と本発明の(最適化)音響誘導設計のインイヤー型ヘッドフォンの音圧レベルを、インイヤー型の目標曲線に関して比較したものである。
【0056】
以下では、音声変換のための装置100のさらなる実施形態について説明する。
【0057】
実施形態において、装置100(例えば、MEMSインイヤーヘッドフォン設計)は、MEMS音声変換器104に同調した、選択的な伝送周波数応答を有するフィルタエレメント(例えば、音響ローパスフィルタ106、マイクロ穿孔プレート108、第2の音声チャネル118)を含むことができる。
【0058】
実施形態では、装置100は、マイクロ穿孔プレート(MPP、micro-perforated plate)108を含む。
【0059】
実施形態において、マイクロ穿孔プレート108は、音声変換器104に対する規定された距離及び/又は規定された寸法を有してもよい。マイクロ穿孔プレート108は、より低い周波数に向かって音声エネルギーをシフトさせる。
【0060】
実施形態において、マイクロ穿孔プレート108は、音声変換器104に対して同調されてもよい。音声変換器104に同調されたマイクロ穿孔プレート108は、高音域/中音域における減衰と、目標周波数範囲への音声エネルギーのシフトとを可能にする。このように、マイクロ穿孔プレート108は、特定の周波数部分を多かれ少なかれ通過させる音響抵抗として機能する。
【0061】
実施形態において、装置100は、音声変換器104の背面側に、定義された音声チャネル118(=第2の音声チャネル)(例えば、円形)を含むことができる。音声チャネルは、共振を減衰させる。
【0062】
実施形態において、マイクロ穿孔プレート108及び音声チャネル118(=第2の音声チャネル)は、互いに関して調整又は同調されてもよい(それらは一緒に相互作用する)。
【0063】
実施形態において、音声変換器104の後方体積が定義されてもよい。例えば、音声変換器104の後方体積が小さいほど、音声チャネル118(=第2の音声チャネル)が小さくなることができる。
【0064】
実施形態において、音声変換器104の背面側における規定された音声チャネル118(=第2の音声チャネル)は、音声変換器(例えば、MEMSスピーカ)の共振周波数の選択的な減衰を可能にすることができる。
【0065】
実施形態において、装置100は、音響ローパスフィルタ106を含むことができる。
【0066】
実施形態において、音響ローパスフィルタ106は、閉じた空気体積(=第2の部分体積)と共に、ローパスとして作用する、音声チャネルにおける熱粘性損失による高音域の音響速度の減少を可能にする特別な寸法のスリットから構成されてもよい。
【0067】
実施形態において、音響ローパスフィルタ106は、対称的な断面を有していてもよい。
【0068】
実施形態において、音響ローパスフィルタ106は、閉じた空気体積112_2(=少なくとも1つの第2の部分体積)を含むことができる。
【0069】
実施形態において、この空気体積112_2(=少なくとも1つの第2の部分体積)は、狭義のスリット114を介して音声チャネル106(=第1の音声チャネル)に接続されてもよい。
【0070】
実施形態において、音響ローパスフィルタ106は、フィルタ106の内部の音声チャネルとスリット114とフィルタ106の外縁の空気体積112_2とを含む。
【0071】
実施形態において、音響ローパスフィルタ106は、4つ以上のスリット114を含むことができる。
【0072】
実施形態において、スリット114は、50~100μmの幅を有していてもよい。
【0073】
実施形態において、フィルタジオメトリの長さは可変である。
【0074】
本発明の実施形態は、以下に説明する利点のうちの1つ又はいくつかを提供する。
【0075】
実施形態では、目標曲線に到達することが可能である。
【0076】
実施形態は、完全に三次元的な方法で音響誘導を(例えば3Dプリンターで)印刷することを可能にする。個々のエレメントが不要になる。
【0077】
実施形態では、音響フィルタ106は調整可能である。長さの変化は、減衰の程度を決定する。
【0078】
実施形態において、音響フィルタ106は体積から独立している。スリットの寸法が減衰の程度を決定する。
【0079】
実施形態では、同じ種類の音声変換器間で偏差が生じた場合でも、目標曲線を確実に達成することができる。
【0080】
実施形態では、目標曲線を達成するために、ほとんど信号処理を必要としないか、または、全く信号処理を必要としない。
【0081】
実施形態では、狭帯域フィルタが不要になり、位相と音質に関してプラスの効果がある。
【0082】
実施形態は、音声変換器の機械的緩和を可能にし、したがって、より良い性能、すなわち、より大きな弾力性を有する。
【0083】
本明細書に記載の実施形態は、インイヤーヘッドフォン、ヒアラブル、補聴器、マイクロマシン、MEMSマイクロフォン、MEMSラウドスピーカー、スマートフォンラウドスピーカー(マイクロラウドスピーカー)用のサウンドガイド/フィルタリングに使用することができる。
【0084】
実施形態は、MEMS音声変換器104に同調した、選択的な透過周波数応答を有するフィルタエレメント(例えば、音響ローパスフィルタ106、マイクロ穿孔プレート108、第2のサウンドチャネル118)を有する装置100(例えば、MEMSインイヤーヘッドフォン設計)を提供する。
【0085】
実施形態は、高周波をフィルタリングするために熱粘性効果を使用し、また、いくつかの正確に寸法決めされたフィルタエレメントも使用する。
【0086】
実施形態は、上方向に周波数応答を減衰させる。
【0087】
実施形態では、フィルタは、その囲まれた体積から独立しており、むしろ、スリットの寸法決めが決定的である。
【0088】
上述した実施形態は、単に本発明の原理の例示を示すに過ぎない。当業者であれば、本明細書に記載された配置および詳細の修正および変形を理解することが理解される。このため、本発明は、説明および実施形態の考察によって本明細書に提示された特定の詳細によってではなく、以下の請求項の範囲によってのみ限定されることが意図される。
【0089】
Bibliography
[1] US 7,634,099 B2
[2] US 4,239, 945 A
[3] US 5,729,605 A
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7