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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/12 20060101AFI20240827BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B23Q15/12 A
G05B19/404 K
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022553945
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035332
(87)【国際公開番号】W WO2022071209
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020167531
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】及川 航希
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特許第5727572(JP,B2)
【文献】特開2020-069621(JP,A)
【文献】特開2012-91283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00 ~ 15/28
G05B 19/18 ~ 19/416
G05B 19/42 ~ 19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械における主軸モータの速度指令及び前記主軸モータの回転速度を変動させるための変動条件に基づいて変動指令を算出し、前記速度指令及び前記変動指令に基づいて前記主軸モータの速度を制御する速度制御指令を生成する変動指令算出部と、
所定期間内における前記速度指令と前記主軸モータの実速度との差を示す速度偏差が第1の許容範囲内であるか否かを判定する速度偏差判定部と、
前記速度偏差が前記第1の許容範囲外である場合、前記変動条件を変更することによって、前記工作機械の切削加工中に切り屑厚さの変動によって発生するびびり振動を抑制する条件変更部と、
を備え
前記第1の許容範囲は、前記主軸モータの最高回転数、又は数値制御装置からの前記速度指令に基づいて算出され、
前記変動条件は、前記速度指令の振幅を変動させるための変動振幅率及び前記速度指令の周波数を変動させるための変動周波数率を含み、
前記変動振幅率及び前記変動周波数率の変更倍率は、現在の変更倍率、前記速度偏差の最大値及び前記速度偏差の前記第1の許容範囲の最大値に基づいて算出される、
工作機械の制御装置。
【請求項2】
記条件変更部は、前記速度偏差が前記第1の許容範囲外である場合、前記変動振幅率及び/又は前記変動周波数率を変更する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記速度偏差判定部は、前記速度偏差が前記第1の許容範囲外である場合、前記速度偏差が前記第1の許容範囲を超えるか否かを判定し、
前記条件変更部は、前記速度偏差が前記第1の許容範囲を超える場合、前記変動振幅率及び/又は前記変動周波数率を減少させ、
前記条件変更部は、前記速度偏差が前記第1の許容範囲未満である場合、前記変動振幅率及び/又は前記変動周波数率を増加させる、請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
工作機械における主軸モータの速度指令及び前記主軸モータの回転速度を変動させるための変動条件に基づいて変動指令を算出し、前記速度指令及び前記変動指令に基づいて前記主軸モータの速度を制御する速度制御指令を生成する変動指令算出部と、
所定期間内における前記主軸モータのためのトルク指令が第2の許容範囲内であるか否かを判定するトルク指令判定部と、
前記トルク指令が前記第2の許容範囲外である場合、前記変動条件を変更することによって、前記工作機械の切削加工中に切り屑厚さの変動によって発生するびびり振動を抑制する条件変更部と、
を備え
前記第2の許容範囲は、前記トルク指令の絶対値の60%から90%に設定され、
前記変動条件は、前記速度指令の振幅を変動させるための変動振幅率及び前記速度指令の周波数を変動させるための変動周波数率を含み、
前記変動振幅率及び変動周波数率の変更倍率は、現在の変更倍率、前記トルク指令の最大値及び前記トルク指令の前記第2の許容範囲の最大値に基づいて算出される、
工作機械の制御装置。
【請求項5】
記条件変更部は、前記トルク指令が前記第2の許容範囲外である場合、前記変動振幅率及び/又は前記変動周波数率を変更する、請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記トルク指令判定部は、前記トルク指令が前記第2の許容範囲外である場合、前記トルク指令が前記第2の許容範囲を超えるか否かを判定し、
前記条件変更部は、前記トルク指令が前記第2の許容範囲を超える場合、前記変動振幅率及び/又は前記変動周波数率を減少させ、
前記条件変更部は、前記トルク指令が前記第2の許容範囲未満である場合、前記変動振幅率及び/又は前記変動周波数率を増加させる、請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
工作機械における主軸モータの速度指令及び前記主軸モータの回転速度を変動させるための変動条件に基づいて変動指令を算出し、前記速度指令及び前記変動指令に基づいて前記主軸モータの速度を制御する速度制御指令を生成する変動指令算出部と、
所定期間内における前記速度指令と前記主軸モータの実速度とに基づく速度偏差が第1の許容範囲内であるか否かを判定する速度偏差判定部と、
前記所定期間内における前記主軸モータのためのトルク指令が第2の許容範囲内であるか否かを判定するトルク指令判定部と、
前記速度偏差が前記第1の許容範囲外であり、かつ前記トルク指令が前記第2の許容範囲外である場合、前記変動条件を変更することによって、前記工作機械の切削加工中に切り屑厚さの変動によって発生するびびり振動を抑制する条件変更部と、
を備え
前記第1の許容範囲は、前記主軸モータの最高回転数、又は数値制御装置からの前記速度指令に基づいて算出され、
前記第2の許容範囲は、前記トルク指令の絶対値の60%から90%に設定され、
前記変動条件は、前記速度指令の振幅を変動させるための変動振幅率及び前記速度指令の周波数を変動させるための変動周波数率を含み、
前記変動振幅率及び前記変動周波数率の変更倍率は、
現在の変更倍率、前記速度偏差の最大値及び前記速度偏差の前記第1の許容範囲の最大値に基づいて算出される、又は
現在の変更倍率、前記トルク指令の最大値及び前記トルク指令の前記第2の許容範囲の最大値に基づいて算出される、
工作機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工作機械の主軸速度を周期的に変動させることによって、切削加工において発生する再生型の自励びびり振動を抑制する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の工作機械は、びびり振動が生じると、所定のパラメータを変更することにより工作機械の回転軸の平均回転速度、振幅及び周期のうちの少なくとも何れか一つを変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-91283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような工作機械において、安定したびびり抑制効果を得るためには、主軸モータの速度変動時の変動条件の適切な調整が必要である。しかし、変動条件の条件出しが煩雑なため、加工現場において変動条件の調整を行うことが困難である。そこで、最適な変動条件の調整が可能になり、安定したびびり抑制効果を得ることができる工作機械の制御装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る工作機械の制御装置は、工作機械における主軸モータの速度指令及び前記主軸モータの回転速度を変動させるための変動条件に基づいて変動指令を算出し、前記速度指令及び前記変動指令に基づいて前記主軸モータの速度を制御する速度制御指令を生成する変動指令算出部と、所定期間内における前記速度指令と前記主軸モータの実速度との差を示す速度偏差が第1の許容範囲内であるか否かを判定する速度偏差判定部と、前記速度偏差が前記第1の許容範囲外である場合、前記変動条件を変更する条件変更部と、を備える。
【0007】
本開示に係る工作機械の制御装置は、工作機械における主軸モータの速度指令及び前記主軸モータの回転速度を変動させるための変動条件に基づいて変動指令を算出し、前記速度指令及び前記変動指令に基づいて前記主軸モータの速度を制御する速度制御指令を生成する変動指令算出部と、所定期間内における前記主軸モータのためのトルク指令が第2の許容範囲内であるか否かを判定するトルク指令判定部と、前記トルク指令が前記第2の許容範囲外である場合、前記変動条件を変更する条件変更部と、を備える。
【0008】
本開示に係る工作機械の制御装置は、工作機械における主軸モータの速度指令及び前記主軸モータの回転速度を変動させるための変動条件に基づいて変動指令を算出し、前記速度指令及び前記変動指令に基づいて前記主軸モータの速度を制御する速度制御指令を生成する変動指令算出部と、所定期間内における前記速度指令と前記主軸モータの実速度とに基づく速度偏差が第1の許容範囲内であるか否かを判定する速度偏差判定部と、前記所定期間内における前記主軸モータのためのトルク指令が第2の許容範囲内であるか否かを判定するトルク指令判定部と、前記速度偏差が前記第1の許容範囲外であり、かつ前記トルク指令が前記第2の許容範囲外である場合、前記変動条件を変更する条件変更部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、最適な変動条件の調整が可能になり、安定したびびり抑制効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る工作機械の概要を示す図である。
図2】本実施形態に係るモータ制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。
図3】速度指令、変動指令及び変動条件の一例を示す図である。
図4】速度偏差及び第1の許容範囲の一例を示す図である。
図5】トルク指令及び第2の許容範囲の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。図1は、本実施形態に係る工作機械1の概要を示す図である。工作機械1は、数値制御装置2の制御に従い、切削加工等のような所定の加工を行うための装置である。
【0012】
工作機械1は、モータを制御するためのモータ制御装置10を備える。また、モータ制御装置10は、変動指令算出部11と、速度制御部12と、電流制御部13と、電流検出部14と、速度偏差判定部15と、トルク指令判定部16と、条件変更部17と、を備える。
【0013】
モータ制御装置10は、工作機械1の切削加工中に発生する再生型の自励びびり振動を抑制することを目的とする。ここで、びびり振動とは、工作機械において工具とワークとの間で継続的に発生する振動をいう。びびり振動は、概して、振動発生の要因から強制びびり振動と自励びびり振動とに分けられる。
【0014】
強制びびり振動は、強制的な振動源の影響を受けて発生する。一方、自励びびり振動は、特定の振動源がなくても工作機械の動特性と切削過程が重なって、ある条件を満たしたときに発生する。
【0015】
自励びびり振動のうち、再生型の自励びびり振動は、切り屑厚さの変動によって生じるびびり振動である。再生型の自励びびり振動を抑制するためには、工具の回転速度を調整することによって、切り屑の厚さを一定にする対策が必要である。
【0016】
一般的に、工作機械の主軸速度を周期的に変動させることによって、切削加工で発生する再生型の自励びびり振動を抑制する技術が知られている。
【0017】
再生型の自励びびり振動を安定して抑制するためには、主軸モータの速度変動時の変動条件の適切な調整が必要だが、条件出しが煩雑なため、加工現場での調整が困難である。
ここで、主軸モータにおける再生型の自励びびり振動の発生要因としては、主に、1)主軸モータのトルク不足、及び2)主軸モータの追従性不足が挙げられる。
【0018】
主軸モータのトルク不足については、主軸モータのトルク指令が飽和し、主軸モータの実際の速度振幅が低下することによって、意図せずにびびり抑制効果が低下し、びびり振動が発生する。
【0019】
主軸モータのトルク指令は、主軸モータの負荷トルク(イナーシャ、切削負荷等を含む)と、速度変動によって生じる加減速トルクとの両方を含んでいる。そのため、主軸モータの速度変動時の変動条件を調整するために、工作機械のオペレータが、トルク指令が飽和していないかどうかを判断することは困難である。
【0020】
また、主軸モータの追従性不足については、主軸モータの周波数応答性が不足し、主軸モータの実際の速度振幅が低下することによって、意図せずにびびり抑制効果が低下し、びびり振動が発生する。
【0021】
主軸モータの周波数応答性は、工作機械の構成等のような複数の要因(例えば、モータ能力、制御ゲイン、負荷イナーシャ等)によって変化する。そのため、主軸モータの速度変動時の変動条件を調整するために、工作機械のオペレータが、モータの追従性が不足していないかどうかを判断することは困難である。
【0022】
本実施形態に係るモータ制御装置10は、以下に示すような制御を行うことによって、このような再生型の自励びびり振動を効果的に抑制する。
【0023】
変動指令算出部11は、工作機械1における主軸モータ18の速度指令及び主軸モータ18の回転速度を変動させるための変動条件に基づいて変動指令を算出し、速度指令及び変動指令に基づいて速度制御指令を生成する。
【0024】
具体的には、変動指令算出部11は、主軸モータ18の速度指令及び変動条件に基づいて、変動条件を含む変動指令を算出する。ここで、変動条件は、速度指令の振幅を変動させるための変動振幅率及び速度指令の周波数を変動させるための変動周波数率を含む。なお、変動条件は、パラメータとしてユーザによって任意に設定されてもよく、又は予め設定された既定値であってもよい。
【0025】
そして、変動指令算出部11は、算出された変動指令に速度指令を重畳し、主軸モータ18の速度を制御するための速度制御指令を生成する。すなわち、速度制御指令は、速度指令及び変動指令を含む。
【0026】
速度制御部12は、数値制御装置2から出力された速度指令及び速度検出部19(例えば、エンコーダ)から出力された主軸モータ18の実速度フィードバック信号に基づいて、速度指令と実速度との差を示す速度偏差を算出する。そして、速度制御部12は、速度偏差に比例積分制御(PI制御)を行うことによりトルク指令を生成し、トルク指令を電流制御部13へ出力する。また、速度制御部12は、算出した速度偏差を速度偏差判定部15へ出力する。
【0027】
電流制御部13は、速度制御部12から出力されたトルク指令及び電流検出部14から出力された実電流フィードバック信号に基づいて、主軸モータ18を駆動するための電圧指令を生成し、電圧指令を主軸モータ18へ出力する。また、電流制御部13は、トルク指令をトルク指令判定部16へ出力する。
【0028】
電流検出部14は、主軸モータ18の電流値を検出し、検出した電流値を実電流フィードバック信号として電流制御部13へ出力する。
【0029】
速度偏差判定部15は、所定期間内における速度指令と主軸モータ18の実速度との差を示す速度偏差が第1の許容範囲内であるか否かを判定する。ここで、所定期間は、例えば、主軸モータ18の回転速度を変動させるための変動周期の1周期又は半周期であってもよい。そして、速度偏差判定部15は、変動周期の1周期又は半周期ごとに、速度偏差を監視し、速度偏差が第1の許容範囲内であるか否かを判定する。
【0030】
また、速度偏差判定部15は、速度偏差が第1の許容範囲外である場合、速度偏差が第1の許容範囲を超えるか否かを判定する。
【0031】
トルク指令判定部16は、所定期間内における主軸モータ18のためのトルク指令が第2の許容範囲内であるかを判定する。ここで、所定期間は、例えば、主軸モータ18の回転速度を変動させるための変動周期の1周期又は半周期であってもよい。そして、トルク指令判定部16は、変動周期の1周期又は半周期ごとに、トルク指令を監視し、トルク指令が第2の許容範囲内であるか否かを判定する。
【0032】
また、トルク指令判定部16は、トルク指令が第2の許容範囲外である場合、トルク指令が第2の許容範囲を超えるか否かを判定する。
【0033】
条件変更部17は、速度偏差が第1の許容範囲外である場合、変動条件を変更する。具体的には、条件変更部17は、速度偏差が第1の許容範囲外である場合、変動条件としての変動振幅率及び/又は変動周波数率を変更する。
【0034】
また、条件変更部17は、速度偏差が第1の許容範囲を超える場合、変動振幅率及び/又は変動周波数率を減少させる。一方、条件変更部17は、速度偏差が第1の許容範囲未満である場合、変動振幅率及び/又は変動周波数率を増加させる。
【0035】
更に、条件変更部17は、トルク指令が第2の許容範囲外である場合、変動条件を変更する。具体的には、条件変更部17は、トルク指令が第2の許容範囲外である場合、変動振幅率及び/又は変動周波数率を変更する。
【0036】
また、条件変更部17は、トルク指令が第2の許容範囲を超える場合、変動振幅率及び/又は変動周波数率を減少させる。一方、条件変更部17は、トルク指令が第2の許容範囲未満である場合、変動振幅率及び/又は変動周波数率を増加させる。
【0037】
更に、条件変更部17は、速度偏差が第1の許容範囲外であり、かつトルク指令が第2の許容範囲外である場合、変動条件を変更してもよい。
【0038】
図2は、本実施形態に係るモータ制御装置10の処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS1において、変動指令算出部11は、主軸モータ18の速度指令及び変動条件に基づいて、変動条件を含む変動指令を算出する。
【0039】
ステップS2において、変動指令算出部11は、ステップS1において算出された変動指令に速度指令を重畳し、主軸モータ18のための速度制御指令を生成する。
【0040】
図3は、速度指令、変動指令及び変動条件の一例を示す図である。図3に示すように、変動指令は、変動振幅及び変動周波数を有し、速度指令に重畳される。変動振幅は、速度指令及び変動振幅率に基づいて算出され、変動周波数は、速度指令及び変動周波数率に基づいて算出される。
【0041】
変動振幅及び変動周波数は、図3にも示されるように、以下のような式によって算出される。
変動振幅[min-1]=速度指令[min-1]×(変動振幅率[%]×100)
変動周波数[Hz]=(速度指令[min-1]/60)×(変動周波数率[%]×100)
【0042】
また、図3における変動指令は、三角波型のパターンを有しているが、これに限定されず、変動指令は、例えば、正弦波、方形波、矩形波等のパターンを有していてもよい。
【0043】
図2に戻り、ステップS3において、速度偏差判定部15は、変動周期の1周期又は半周期ごとに、速度偏差を監視し、速度偏差が第1の許容範囲内であるか否かを判定する。
速度偏差が第1の許容範囲内である場合(YES)、処理は、ステップS4へ進む。一方、速度偏差が第2の許容範囲外である場合(NO)、処理は、ステップS5へ進む。
【0044】
図4は、速度偏差及び第1の許容範囲の一例を示す図である。図4において、変動周期は、変動指令における変動周波数の逆数を取ることによって算出される。図4に示す例では、第1の許容範囲は、0から300min-1に設定されている。第1の許容範囲は、ユーザによって任意に設定されてもよく、予め設定された既定値を用いてもよい。また、第1の許容範囲は、主軸モータ18の最高回転数や、数値制御装置2からの速度指令に基づいて算出されてもよい。
【0045】
また、図4に示す例では、速度偏差判定部15は、絶対値である速度偏差の最大値と、第1の許容範囲とを比較することによって判定を行っているが、これに限定されない。例えば、速度偏差判定部15は、所定期間内の速度偏差の平均値と、第1の許容範囲とを比較することによって判定を行ってもよい。
【0046】
図2に戻り、ステップS4において、トルク指令判定部16は、変動周期の1周期又は半周期ごとに、トルク指令を監視し、トルク指令が第2の許容範囲内であるか否かを判定する。トルク指令が第2の許容範囲内である場合(YES)、処理は、その後終了する。一方、トルク指令が第2の許容範囲外である場合(NO)、処理は、ステップS6へ進む。
【0047】
図5は、トルク指令及び第2の許容範囲の一例を示す図である。図5に示す例では、第2の許容範囲は、トルク指令の絶対値の60%(下限)から90%(上限)に設定されている。第2の許容範囲は、ユーザによって任意に設定されてもよく、予め設定された既定値を用いてもよい。
【0048】
また、図5に示す例では、トルク指令判定部16は、絶対値であるトルク指令の最大値と、第2の許容範囲とを比較することによって判定を行っているが、これに限定されない。例えば、トルク指令判定部16は、所定期間内のトルク指令の平均値と、第2の許容範囲とを比較することによって判定を行ってもよい。
【0049】
図2に戻り、ステップS5において、速度偏差判定部15は、速度偏差が第1の許容範囲を超えるか否かを判定する。速度偏差が第1の許容範囲を超える場合(YES)、処理は、ステップS7へ進む。速度偏差が第1の許容範囲を超えない場合(NO)、処理は、ステップS8へ進む。
【0050】
ステップS6において、トルク指令判定部16は、トルク指令が第2の許容範囲を超えるか否かを判定する。トルク指令が第2の許容範囲を超える場合(YES)、処理は、ステップS7へ進む。トルク指令が第2の許容範囲を超えない場合(NO)、処理は、ステップS8へ進む。
【0051】
ステップS7において、条件変更部17は、変動条件としての変動振幅率及び/又は変動周波数率を減少させる。
ステップS8において、条件変更部17は、変動条件としての変動振幅率及び/又は変動周波数率を増加させる。
【0052】
ここで、ステップS7及びS8において、変動振幅率及び/又は変動周波数率の変更倍率は、下記の式に示すように、現在の変更倍率、速度偏差の最大値及び速度偏差の第1の許容範囲の最大値に基づいて算出されてもよい。
変更倍率=(現在の変更倍率)+{(現在の変更倍率)-(速度偏差の最大値)/(速度偏差の第1の許容範囲の最大値)×(現在の変更倍率)}
【0053】
また、変動振幅率及び/又は変動周波数率の変更倍率は、下記の式に示すように、現在の変更倍率、トルク指令の最大値及びトルク指令の第2の許容範囲の最大値に基づいて算出されてもよい。
変更倍率=(現在の変更倍率)+{(現在の変更倍率)-(トルク指令の最大値)/(トルク指令の第2の許容範囲の最大値)×(現在の変更倍率)}
【0054】
また、変動振幅率及び/又は変動周波数率の変更倍率は、パラメータとしてユーザによって任意に設定されてもよく、又は予め設定された変更倍率を用いてもよい。なお、図2に示すフローチャートでは、ステップS3の処理の後に、ステップS4の処理が実行されたが、これに代えて、ステップS4の処理の後に、ステップS3の処理が実行されてもよい。この場合、ステップS5の処理とステップS6の処理が入れ替わる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態に係るモータ制御装置10は、工作機械1における主軸モータ18の速度指令及び主軸モータ18の回転速度を変動させるための変動条件に基づいて変動指令を算出し、速度指令及び変動指令に基づいて主軸モータ18の速度を制御する速度制御指令を生成する変動指令算出部11と、所定期間内における速度指令と主軸モータ18の実速度との差を示す速度偏差が第1の許容範囲内であるか否かを判定する速度偏差判定部15と、速度偏差が第1の許容範囲外である場合、変動条件を変更する条件変更部17と、を備える。
【0056】
これにより、モータ制御装置10は、主軸モータ18の速度偏差に応じて変動条件を変更することができる。そのため、モータ制御装置10は、主軸モータ18の追従性に対して最適な変動条件の調整が可能になり、安定したびびり抑制効果を得ることができる。
【0057】
また、変動条件は、速度指令の振幅を変動させるための変動振幅率及び速度指令の周波数を変動させるための変動周波数率を含む。条件変更部17は、速度偏差が第1の許容範囲外である場合、変動振幅率及び/又は変動周波数率を変更する。これにより、モータ制御装置10は、主軸モータ18の速度偏差に応じて変動振幅率及び/又は変動周波数率を変更することができる。よって、モータ制御装置10は、変動条件を適切に調整することができる。
【0058】
また、速度偏差判定部15は、速度偏差が第1の許容範囲外である場合、速度偏差が第1の許容範囲を超えるか否かを判定する。条件変更部17は、速度偏差が第1の許容範囲を超える場合、変動振幅率及び/又は変動周波数率を減少させる。また、条件変更部17は、速度偏差が第1の許容範囲未満である場合、変動振幅率及び/又は変動周波数率を増加させる。
【0059】
これにより、モータ制御装置10は、主軸モータ18の速度偏差に応じて変動振幅率及び/又は変動周波数率を増加又は減少させることができる。よって、モータ制御装置10は、変動条件を適切に調整することができる。
【0060】
また、モータ制御装置10は、工作機械1における主軸モータ18の速度指令及び主軸モータ18の回転速度を変動させるための変動条件に基づいて変動指令を算出し、速度指令及び変動指令に基づいて主軸モータ18の速度を制御する速度制御指令を生成する変動指令算出部11と、所定期間内における主軸モータ18のためのトルク指令が第2の許容範囲内であるか否かを判定するトルク指令判定部16と、トルク指令が第2の許容範囲外である場合、変動条件を変更する条件変更部17と、を備える。
【0061】
これにより、モータ制御装置10は、主軸モータ18のトルク指令に応じて変動条件を変更することができる。そのため、モータ制御装置10は、主軸モータ18の負荷及びトルクの余裕に対して最適な変動条件の調整が可能になり、安定したびびり抑制効果を得ることができる。
【0062】
また、変動条件は、速度指令の振幅を変動させるための変動振幅率及び速度指令の周波数を変動させるための変動周波数率を含む。条件変更部17は、トルク指令が第2の許容範囲外である場合、変動振幅率及び/又は変動周波数率を変更する。
【0063】
これにより、モータ制御装置10は、主軸モータ18のトルク指令に応じて変動振幅率及び/又は変動周波数率を変更することができる。よって、モータ制御装置10は、変動条件を適切に調整することができる。
【0064】
また、トルク指令判定部16は、トルク指令が第2の許容範囲外である場合、トルク指令が第2の許容範囲を超えるか否かを判定する。条件変更部17は、トルク指令が第2の許容範囲を超える場合、変動振幅率及び/又は変動周波数率を減少させる。また、条件変更部17は、トルク指令が第2の許容範囲未満である場合、変動振幅率及び/又は変動周波数率を増加させる。
【0065】
これにより、モータ制御装置10は、主軸モータ18のトルク指令に応じて変動振幅率及び/又は変動周波数率を増加又は減少させることができる。よって、モータ制御装置10は、変動条件を適切に調整することができる。
【0066】
また、モータ制御装置10は、工作機械1における主軸モータ18の速度指令及び主軸モータ18の回転速度を変動させるための変動条件に基づいて変動指令を算出し、速度指令及び変動指令に基づいて主軸モータ18の速度を制御する速度制御指令を生成する変動指令算出部11と、所定期間内における速度指令と主軸モータ18の実速度とに基づく速度偏差が第1の許容範囲内であるか否かを判定する速度偏差判定部15と、所定期間内における主軸モータ18のためのトルク指令が第2の許容範囲内であるか否かを判定するトルク指令判定部16と、速度偏差が第1の許容範囲外であり、かつトルク指令が第2の許容範囲外である場合、変動条件を変更する条件変更部17と、を備える。
【0067】
これにより、モータ制御装置10は、主軸モータ18の速度偏差及びトルク指令に応じて変動条件を変更することができる。そのため、モータ制御装置10は、主軸モータ18の追従性並びに主軸モータ18の負荷及びトルクの余裕に対して最適な変動条件の調整が可能になり、安定したびびり抑制効果を得ることができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記のモータ制御装置10は、ハードウェア、ソフトウェア又はこれらの組み合わせにより実現することができる。また、上記のモータ制御装置10により行なわれる制御方法も、ハードウェア、ソフトウェア又はこれらの組み合わせにより実現することができる。ここで、ソフトウェアによって実現されるとは、コンピュータがプログラムを読み込んで実行することにより実現されることを意味する。
【0069】
プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えば、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば、光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(random access memory))を含む。
【0070】
また、上述した各実施形態は、本発明の好適な実施形態ではあるが、上記各実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 工作機械
2 数値制御装置
10 モータ制御装置
11 変動指令算出部
12 速度制御部
13 電流制御部
14 電流検出部
15 速度偏差判定部
16 トルク指令判定部
17 条件変更部
18 主軸モータ
19 速度検出部
図1
図2
図3
図4
図5