(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】コイル挿入装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/06 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
H02K15/06
(21)【出願番号】P 2023106748
(22)【出願日】2023-06-29
(62)【分割の表示】P 2019088810の分割
【原出願日】2019-05-09
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000227537
【氏名又は名称】NITTOKU株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121234
【氏名又は名称】早川 利明
(72)【発明者】
【氏名】杉本 進司
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 敬之
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-325408(JP,A)
【文献】特開2004-064990(JP,A)
【文献】特開平11-041877(JP,A)
【文献】特開平10-174380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル(12)の互いに平行な一対の辺部(13a,14a)が挿入可能なスリット(32a,32b)がそれぞれ形成された一対の受け渡し治具(32,32)と、前記スリット(32a,32b)に挿入された前記辺部(13a,14a)を前記スリット(32a,32b)から押出してステータコア(11)の前記スリット(32a,32b)が対向するスロット(11b)に挿入する辺部挿入手段(61)とを備えたコイル挿入装置において、
前記辺部挿入手段(61)は、
前記受け渡し治具(32,32)の両側から突出するように前記スリット(32a,32b)に挿通された押出し片(26)と、前記押出し片(26)を前記スリット(32a,32b)の深さ方向に移動させる押出し片移動手段(62)とを備え
、
前記押出し片移動手段(62)は、前記押出し片(26)の前記受け渡し治具(32,32)の両側から突出する端部に直接又は間接的に接触する接触片(64)と、前記接触片(64)を移動させて前記接触片(64)が接触する前記押出し片(26)を移動させる接触片移動機構(65)とを備え、
前記接触片移動機構(65)は、前記受け渡し治具(32,32)の両側における前記接触片(64)を時間差を設けて移動させるように構成された
ことを特徴とするコイル挿入装置。
【請求項2】
接触片(64)に、押出し片(26)をスリット(32a,32b)の深部から開口部に移動させる押出し部位と、開口部から深部に移動させる引き戻し部位が形成された
請求項1記載のコイル挿入装置。
【請求項3】
受け渡し治具(32,32)にスリット(32a,32b)が所定の間隔(t3)を
空けて複数形成され、
複数の前記スリット(32a,32b)にそれぞれ挿入された押出し片(26)を連結する連結片(28)が前記受け渡し治具(32,32)の両側から突出する前記押出し片(26)の端部を連結するように設けられ、
前記連結片(28)に接触片(64)が接触するカムフォロア(29)が設けられた
ことを特徴とする
請求項1又は2記載のコイル挿入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相交流発電機等の回転電機におけるステータコアにコイルを挿入するのに適したコイル挿入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機のステータは、放射状に並んで内径方向に突出する複数のティース(磁極)及びその間に開口する複数のスロットを有する円筒状のステータコアと、そのスロットに辺部を納めることによりそのコアに組付けられたステータコイルとを備える。このステータコイルの組付けに関しては、ステータコイルをステータコアと別に予め作製し、このコイルの辺部をコアの各スロットに挿入する方法が知られている。
【0003】
即ち、コイル挿入方法として、
図22に示すように、ステータコア2のスロット2aに対応する保持溝3a群が外周に形成された円柱状の挿通治具3を用い、予め巻線された複数のコイル4の一対の辺部4a,4bを保持溝3a群にそれぞれ挿入して各コイル4を挿通治具3の円周に沿って配列し、挿通治具3をステータコア2の内周に挿入して保持溝3aがステータコア2の対応するスロット2aに整合するように位置決めした後、先端に向かうほど幅狭となる板状のプッシャ5を対応する各保持溝3aに先端から挿入し、保持溝3aに挿入された各コイル4の一対の辺部4a,4bを外径側に押出してステータコア2の対応するスロット2aに挿入する方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0004】
ここで、ステータコア2と別に予め作製されるステータコイル4にあっては、巻芯に線材を巻回することにより得ることができ、上記方法に用いるコイル4にあっては、保持溝3aに挿通させる互いに平行な一対の辺部4a,4bと、その一対の辺部4a,4bにおける両端部を円弧状に連結するコイルエンド部4c,4dを有するトラック状のものとされる。
【0005】
即ち、予め作製されるステータコイル4にあっては、トラック状に巻回された巻線にその軸方向に新たなトラック状の巻線を積み重ねるように、巻芯に線材を螺旋状に隙間無く巻回するいわゆる整列巻を行って、その積層方向に長くなるような筒状のコイルを得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-166850号公報
【文献】特開2011-229285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、
図22に示すように、上記方法では、保持溝3aにプッシャ5を先端から保持
溝3aの長手方向に挿入し、その保持溝3aの長手方向に挿入されるプッシャ5の傾斜した側面により、保持溝3aに挿入された各コイル4の一対の辺部4a,4bを、保持溝3aの深さ方向である外径側に押出すとしている。
【0008】
このため、プッシャ5の挿入方向と一対の辺部4a,4bの移動方向は直交することに成り、プッシャ5が一対の辺部4a,4bに擦れて、その擦れに起因して一対の辺部4a,4bに損傷を生じさせるおそれがある。
【0009】
また、プッシャ5の挿入とともに、一対の辺部4a,4bのプッシャ5に接触する一部の線材がそのプッシャ5と共にプッシャ5の挿入方向に移動すると、一対の辺部4a,4bを構成する線材の整列性が損なわれることになり、線材の整列性が損なわれると、その一対の辺部4a,4bをステータコア2の対応するスロット2aに正確に挿入することが困難になるという未だ解決すべき課題が残存していた。
【0010】
本発明の目的は、コイルの各辺部における線材の整列性を損なうことなく対応するスロットに挿入し得るコイル挿入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、コイルの互いに平行な一対の辺部が挿入可能なスリットがそれぞれ形成された一対の受け渡し治具と、スリットに挿入された辺部をスリットから押出してステータコアのスリットが対向するスロットに挿入する辺部挿入手段とを備えたコイル挿入装置の改良である。
【0012】
その特徴有る構成は、辺部挿入手段が、受け渡し治具の両側から突出するようにスリットに挿入された押出し片と、押出し片をスリットの深さ方向に移動させる押出し片移動手段とを備えたところにある。
【0013】
また、押出し片移動手段は、受け渡し治具の両側から突出する押出し片の端部に直接又は間接的に接触する接触片と、接触片を移動させて接触片が接触する押出し片を移動させる接触片移動機構を備える。
【0014】
接触片移動機構は、受け渡し治具の両側における接触片を時間差を設けて移動させるように構成される。
【0015】
接触片に、スリットの深部に位置する押出し片を開口部に移動させる為に接触させる押出し部位と、スリットの開口部に位置する押出し片を深部に移動させる為に接触させる引き戻し部位が形成されたことが更に好ましい。
【0016】
そして、受け渡し治具にスリットが所定の間隔を空けて複数形成されている場合、複数のスリットにそれぞれ挿入された押出し片を連結する連結片が受け渡し治具の両側から突出する押出し片の端部を連結するように設けられ、連結片に接触片が接触するカムフォロアが設けられたことも好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、スリットに押出し片を予め挿通し、その押出し片をスリットの深部から開口部に移動させることにより、コイルにおける辺部をスリットから押出すので、その押出し片と辺部の移動方向は同一方向となり、その押出し片と辺部が擦れ合うようなことはない。
【0018】
また、押出し片と辺部の移動方向が同一方向であることから、その押出し片が押出す辺部を構成する線材が互いに長手方向にずれることはない。このため、その辺部を構成する線材の整列性が損なわれることはなく、コイルの各辺部を、その整列性を損なうことなくコアのスロットに挿入することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明実施形態におけるコイル挿入装置においてスリットからスロットにコイルの辺部が挿入される状態を示す断面図である。
【
図2】スリットの開口部をスロットの開口部に対向させた
図6のE-E線断面図である。
【
図3】スロットにコイルの辺部が挿入された
図7のH-H線断面図である。
【
図4】押出し片をスリットの奥部に引き戻す状態を示す
図3に対応する断面図である。
【
図5】一対の受け渡し治具がステータコアに進入した状態を示す
図9のD-D線断面図である。
【
図6】スリットの開口部をスロットの開口部に対向させた状態を示す
図5に対応する断面図である。
【
図7】スロットにコイルの辺部が挿入された状態を示す
図6に対応する断面図である。
【
図8】本発明実施形態におけるコイル挿入装置を示す平面図である。
【
図9】コイルと共に受け渡し治具をステータコアに挿入した状態を示す
図8に対応する平面図である。
【
図13】一対の受け渡し治具とコイルとの関係を示す斜視図である。
【
図14】そのコイルの辺部を受け渡し治具のスリットに挿入させた状態を示す斜視図である。
【
図15】その受け渡し治具を回転及び移動させてコイルを変形させた状態を示す
図14に対応する斜視図である。
【
図17】内コイルと外コイルを有するステータコイルの辺部が複数のスロットに挿通されたコアを内側から見た図である。
【
図18】内コイルと外コイルを有するステータコイルがスロットに挿入された固定子の一部拡大上面図である。
【
図19】ステータコアに複数のステータコイルが装着された固定子を示す上面図である。
【
図20】接触片が断面がL字状を成す押出し片移動手段を示す
図4に対応する断面図である。
【
図21】接触片が断面がコ字状を成す押出し片移動手段を示す
図4に対応する断面図である。
【
図22】従来のステータコイルの辺部をコアの各スロットに挿入する方法を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図8に、本発明におけるコイル挿入装置9の平面図を示す。ここで、互いに直交するX、Y、Zの三軸を設定し、X軸が水平横方向、Y軸が水平前後方向、Z軸が垂直方向に延びるものとして本発明におけるコイル挿入装置9について説明する。
【0022】
この本発明におけるコイル挿入装置9は、発電機やモータに用いられるステータを製造する際に用いられるものであって、
図18及び
図19に示すように、ステータ10は、放射状に並んで内径方向に突出する複数のティース11a(磁極)及びその間に開口する複数のスロット11bを有する円筒状のステータコア11と、そのステータコア11に組み付けられたステータコイル12とを備える。
【0023】
本発明におけるコイル挿入装置9は、ステータコア11にステータコイル12を組み付けるものであるので、
図1~
図8に示すように、ステータコア11を支持する支持具15を備える。この実施の形態における支持具15は円筒状を成すステータコア11の中心軸を水平にして(図では中心軸がX軸方向)支持するものであり、その中心軸を回転中心にして回転可能に支持するものを示す。
【0024】
図1~
図10に示すように、支持具15は、水平基板16と、その水平基板16にステータコア11の周方向と軸方向に所定の間隔を
空けてそれぞれ設けられたステータコア11が載置される複数対のローラ17と、それら複数対のいずれかのローラ17を回転させてそこに載置されるステータコア11を回転させるモータ18(
図1~
図5)と、ステータコア11を軸方向の両側から挟持してステータコア11の回転を禁止する固定具19(
図1~
図2)とを備える。
【0025】
図1~
図7に示すように、この実施の形態におけるモータ18は水平基板16に設けられ、その回転軸18aがベルト18bによりローラ17に連結される。そして、モータ18が駆動してローラ17を回転させると、そこに搭載されたステータコア11を回転させるように構成される。
【0026】
また、
図1~
図4に示すように、固定具19は、水平基板16に設けられてステータコア11の軸方向の一方の端面に接触する当接片19aと、ステータコア11の軸方向の他方の端面に臨むように水平基板16に設けられたアクチュエータ19bとを備え、アクチュエータ19bの出没ロッド19cを突出させて、当接片19aと共にその出没ロッド19cがステータコア11を軸方向の両側から挟持することにより、ステータコア11の回転を禁止するように構成される。
【0027】
図8及び
図9に示す様に、本発明におけるコイル挿入装置9は、支持具15をそれに支持されたステータコア11と共に、ステータコア11の軸方向に移動させるコア移動手段51を備える。コア移動手段51は、テーブル9aにステータコア11の軸方向(X軸方向)に延びて設けられて水平基板16をその長手方向に移動可能に搭載するレール52と、水平基板16に設けられてそのレール52に沿って移動する移動体53(
図1~
図7)と、そのレール52に平行に設けられたボールネジ54と、水平基板16に設けられてボールネジ54に螺合する雌ねじ体55(
図5~
図7)と、そのボールネジ54を回転させて水平基板16をステータコア11と共にレール52に沿って移動させるモータ56とを備える。
【0028】
そして、このコア移動手段51は、
図8に示す様に、支持具15にステータコア11を支持させる搭載位置と、支持具に支持されたステータコア11に、
図9に示す様に、次に説明する一対の受け渡し治具32,32が進入可能な進入位置までステータコア11を移動可能に構成される。
【0029】
図1~
図8に示す様に、本発明におけるコイル挿入装置9は一対の受け渡し治具32,32を備える。
図13に示すように、この一対の受け渡し治具32,32は、コイル12の辺部13a,14aが挿入可能なスリット32a,32bがそれぞれ形成される。この実施の形態におけるコイル12は、互いに平行な一対の辺部13a,14aを有するものであって、図示しない巻線機などによって線材8を巻回することにより作製されるものとする。
【0030】
即ち、この実施の形態におけるコイル12は、1つの巻線層を形成するものではあるものの、それらの辺部13a,14aをステータコア11の隣接する2つのスロット11bにそれぞれ挿通させるものであり(
図17)、このコイル12は、軸方向に長いトラック状の内コイル13と、その内コイル13を外側から所定の間隔t2を置いて包囲する外コイル14から成るものとする。
【0031】
内コイル13は、トラック状を成すことから一対の互いに平行な辺部13a,13aと、その辺部13a,13aの両端を円弧状に接続するコイルエンド部13bとを有し、その外側に所定の間隔t2を置いて設けられる外コイル14にあっても、互いに平行な辺部14a,14aと、その辺部14a,14aの両端を円弧状に接続するコイルエンド部14bとを有するものとする。
【0032】
ここで、この所定の間隔t2は、
図5に示すように、内コイル13の辺部13aと外コイル14の辺部14aを挿入しようとするステータコア11の隣接するスロット11bの周方向の間隔t1と一致するように構成される。
【0033】
一対の受け渡し治具32,32にはスリット32a,32bがそれぞれ形成されるけれども、
図13に示すように、内コイル13と外コイル14から成るコイル12を用いるこの実施の形態では、一対の受け渡し治具32,32に、内コイル13の辺部13a,13aが挿入する内スリット32aと外コイル14の辺部14a,14aが挿入する外スリット32bの双方がそれぞれ形成される。一対の受け渡し治具32,32に形成されたスリット32a,32bは、コイル12の互いに平行な一対の辺部13a,14aがそれぞれ挿入可能な幅に形成される。
【0034】
具体的に、内コイル13の両側におけるコイルエンド部13bを内巻駒24aにより支持し、外コイル14の両側におけるコイルエンド部14bを外巻駒25aにより支持したとすると、受け渡し治具32は、内巻駒24aと外巻駒25aの間L1に進入可能な長さL2を有し、それらコイル13,14の各辺部13a,14a間の所定の間隔t2を超える厚さTを有し、かつ各コイル13,14の軸方向の長さS1を超える幅S2を有する方形の板材が用いられる。
【0035】
そして、内スリット32aと外スリット32bの間隔t3は、内コイル13の辺部13aと外コイル14の辺部14a間における所定の間隔t2に一致させ、その幅方向の一方から幅方向に延びて互いに平行に形成され、その深さFは各コイル13,14の軸方向の長さS1を超えて形成される。
【0036】
また、一対の受け渡し治具32,32のスリット32a,32bには、押出し片26がそれぞれ挿通される。この実施の形態における押出し片26は、スリット32a,32bに挿入された断面が方形を成す棒状物であって、受け渡し治具32,32の長手方向における両側から両端が突出して設けられる。
図5に示すように、この押出し片26は、スリット32a,32bの底に接触するようなスリット32a,32bの深部にある場合に、そのスリット32a,32bの残部にステータコイル12の各辺部13a,14aが進入可能な大きさに形成される。
【0037】
この実施の形態では、単一の受け渡し治具32に一対のスリット32a,32bが互いに平行に形成されているので、それらのスリット32a,32bにそれぞれ押出し片26が挿通され、それらの押出し片26をスリット32a,32bの深部に仮止めする仮止め機構27(
図16)が一対の受け渡し治具32、32にそれぞれ設けられる。
【0038】
図16に示す様に、図における仮止め機構は、一対の受け渡し治具32,32にネジ部本体27aが螺着されたいわゆるボールネジ27であって、深部に位置する押出し片26に向かって貫通する雌ねじ孔32fが一対の受け渡し治具32,32にそれぞれ形成され、その雌ねじ孔32fにボールネジ27のネジ部本体27aが螺着される。そして、そのネジ部本体27aから突出する先端ボール27bが侵入するへこみ又は丸孔26aが押出し片26に形成される。
【0039】
このため、スリット32a,32bにそれぞれ挿通された押出し片26が、そのスリット32a,32bの深部に位置すると、押出し片26のへこみ又は丸孔26aに仮止め機構27であるボールネジ27の先端ボール27bが進入して、その押出し片26をスリット32a,32bの深部に維持させるように構成される。
【0040】
一方、ボールネジ27の先端ボール27bをネジ部本体27aから突出させる付勢力に抗して深部にある押出し片26をスリット32a,32bの開口部に向けて移動させるように付勢すると、その先端ボール27bはボールネジ27のネジ部本体27aに没入して押出し片26のへこみ又は丸孔26aから外れ、その押出し片26の移動を許容するよう構成される。
【0041】
図13に示す様に、受け渡し治具32,32の両側から突出する押出し片26の両側には、一対のスリット32a,32bにそれぞれ挿入された押出し片26を連結する連結片28が設けられる。この実施の形態における連結片28は、押出し片26の端部が進入可能な切り込み28aが形成された台形状の板材であって、この連結片28には、後述する接触片64が当接可能なカムフォロア29が枢支されるものを例示する。
【0042】
図8及び
図9に示す様に、本発明におけるコイル挿入装置9は、一対の受け渡し治具32,32を受け渡し位置と挿入位置との間で移動させる治具移動手段40を備える。ここで、受け渡し位置とは、
図8に示す様に、ステータコア11の外部において一対の受け渡し治具32,32のスリット32a,32b(
図1~
図4)にコイル12の一対の辺部13a,14aを挿入させる位置であり、挿入位置とは、
図9に示す様に、その一対の受け渡し治具32,32がステータコア11に進入し、
図6及び
図7に示すように、そのスリット32a,32bの開口部が、支持具15に支持されたステータコア11のスロット11bの開口部に対向する位置である。
【0043】
図11及び
図12に示すように、この実施の形態における治具移動手段40は、一対の受け渡し治具32,32のいずれか一方又は双方を、そのスリット32a,32bの長手方向に平行な回転軸32cを中心に回転させる回転手段33と、一対の受け渡し治具32,32を互いに離間させ又は接近させる離接手段34と、その離接手段34を回転手段33とともに3軸方向に移動させる3軸移動手段41を備える場合を示す。
【0044】
回転手段33は一対の電動モータ33,33であって、一対の受け渡し治具32,32の互いの外側にはスリット32a,32bの長手方向に平行な回転軸32cがL型ブラケット32dを介してそれぞれ設けられる。それらの回転軸32cが、一対の電動モータ33,33のそれぞれの回転軸33aに同軸にそれぞれ設けられる。一対の電動モータ33は一対の受け渡し治具32,32に対応して設けられ、一対の受け渡し治具32,32の双方をスリット32a,32bの長手方向に平行な回転軸32cを中心に回転させるように構成される。
【0045】
離接手段は、回転手段である一対の電動モータ33,33を互いに離間させ又は接近させる一対のアクチュエータ34,34であって、これらのアクチュエータ34,34は、サーボモータ34aによって回動駆動されるボールネジ34bと、このボールネジ34bに螺合して平行移動する従動子34cとをそれぞれ備える。
【0046】
この一対のアクチュエータ34,34は、それらのハウジング34dがY軸方向に連続するように並んで可動台35に設けられ、それらの従動子34cに電動モータ33が、それらの回転軸33aがX軸方向に向いて平行になるようにそれぞれ設けられる。そして、一対のアクチュエータ34,34は、一対の電動モータ33,33を離接させることにより、それらの回転軸33aに設けられた一対の受け渡し治具32,32を離接させるように構成される。
【0047】
一方、その離接手段34を回転手段33とともに3軸方向に移動させる3軸移動手段41は、可動台35をX軸方向に移動させるX軸方向伸縮アクチュエータ42と、そのX軸方向伸縮アクチュエータ42をZ軸方向に移動させるZ軸方向伸縮アクチュエータ43と、そのZ軸方向伸縮アクチュエータ43をY軸方向に移動させるY軸方向伸縮アクチュエータ44を備える。
【0048】
Y軸方向伸縮アクチュエータ44は、テーブル9aにY軸方向に延びて設けられた一対のレール44dと、そのレール44dに移動可能に搭載された可動台44cと、その可動台44cに螺合してレール44dに沿って設けられたボールネジ44bと、そのボールネジ44bを回転させるサーボモータ44aとを備える。
【0049】
Z軸方向伸縮アクチュエータ43は、可動台44cに上下動可能に挿通されてZ軸方向に延びる複数のロッド43dと、そのロッド43dの上端に搭載された昇降台43cと、そのロッド43dの下端に取付けられた雌ねじ板43eと、その雌ねじ板43eに螺合してロッド43dに平行に沿って設けられたボールネジ43bと、可動台33cに設けられてそのボールネジ43bを回転させるサーボモータ43aとを備える。
【0050】
ここで、符号9bは、テーブル9aにY軸方向に延びて形成されて、ロッド43dが貫通してそのロッド43dのY軸方向の移動を許容する長孔9bである。
【0051】
X軸方向伸縮アクチュエータ42は、離接手段におけるアクチュエータ34と同一構造であって、従動子42cがX軸方向に移動可能に、そのハウジング42dがX軸方向に延びてZ軸方向伸縮アクチュエータ43の昇降台43cに取付けられる。
【0052】
一方、一対の受け渡し治具32,32には、スリット32a,32bに収納された辺部13a,14aのスリット32a,32bからの離脱を防止する防止手段70が設けられる。
【0053】
図11及び
図16に示すように、この実施の形態における防止手段70は、一対の受け渡し治具32,32の外側の面にその回転軸32cに平行に設けられた軸部材71と、その軸部材71に設けられた複数のフック部材72(図では片側3枚の場合を示す)と、それら複数のフック部材72とともに軸部材71を回転させるアクチュエータ73とを備える。
【0054】
この実施の形態におけるアクチュエータはモータ73であって、そのアクチュエータ73は、回転手段である電動モータ33の回転軸33aに設けられた取付板74に取付けられ、フック部材72が設けられた受け渡し治具32には、スリット32a,32bの入り口側を横断するような切り欠き32eが形成される。
【0055】
図16に示すように、この実施の形態におけるフック部材72は、L字状を成す平板であって、取付部72aと覆い部72bが形成され、取付部72aが軸部材71に取付けられる。そして、その覆い部72bは、軸部材71の回転により切り欠き32eに進入し、
図5に示すように、スリット32a,32bの開口部を横断して、スリット32a,32bに収納された辺部13a,14aがそのスリット32a,32bから抜け出すことを防止するように構成される。
【0056】
そして、治具移動手段40における回転手段33及び離接手段34は、このように、スリット32a,32bに辺部13a,14aが離脱不能に収納された一対の受け渡し治具32,32を回転させ及び離接させて、
図15に示すように、スリット32a,32bの深さ方向が交差する傾斜位置にすることにより、この治具移動手段40は、その辺部13a,14aを有するステータコイル12を変形可能に構成される。
【0057】
このステータコイル12の変形時に、治具移動手段40の回転手段33,33(
図8)は、
図5に示す様に、回転させた傾斜位置の受け渡し治具32におけるスリット32a,32bの角度α1を一対の辺部13a,14aを挿入しようとするスロット11bの角度α2に合わせ、治具移動手段40の離接手段34(
図8)は、一対の受け渡し治具32,32におけるスリット32a,32bの開口部間の間隔d1,d2を一対の辺部13a,14aを挿入しようとするスロット11b間の間隔D1,D2に合わせられるように構成される。
【0058】
ここで、内コイル13と外コイル14から成るステータコイル12を用いるこの実施の形態において、辺部13a,14aを挿入しようとするスロット11bの角度α2は、ステータコイル12の辺部13a,14aを挿入しようとするステータコア11の隣接する二つのスロット11bの中間線における角度α2とされる。
【0059】
そして、治具移動手段40は、その一対の受け渡し治具32,32を更に移動させて、ステータコア11に進入する挿入位置で、
図6に示すように、スリット32a,32bの開口部を一対の辺部13a,14aを挿入しようとするスロット11bの開口部に対向可能に構成される。
【0060】
また、
図1~
図4に示すように、本発明におけるコイル挿入装置9は、スリット32a,32bに挿入されたステータコイル12の各辺部13a,14aをスリット32a,32bから押出して、そのスリット32a,32bが対向するステータコア11のスロット11bに挿入する辺部挿入手段61を備える。
【0061】
この辺部挿入手段61は、一対の受け渡し治具32,32のスリット32a,32bに予め挿入された前述の押出し片26と、その押出し片26をスリット32a,32bの深
さ方向に移動させる押出し片移動手段62とを備える。この実施の形態における押出し片移動手段62は、押出し片26の受け渡し治具32,32の両側から突出する端部に直接又は間接的に接触する接触片64と、進入位置の支持具15の上方に設けられ、その接触片64を移動させて接触片64が接触する押出し片26を移動させる接触片移動機構65とを備える。
【0062】
具体的に、
図10に示すように、テーブル9aには、進入位置の支持具15を上方から覆うような鳥居部材63が設けられる。この鳥居部材63は、進入位置の支持具15を挟むように立設された一対の支柱63a,63aと、その一対の支柱63a,63aの上端に架設された上辺板63bを備える。この上辺板63bに接触片移動機構65が設けられる。
【0063】
更に
図1~
図4に示すように、この接触片移動機構65は、ステータコア11の軸方向における支持具15の両側において接触片64を鉛直方向において昇降させる一対の昇降アクチュエータ66,66と、その一対の昇降アクチュエータ66,66をステータコア11の軸方向に離接させる離接アクチュエータ67とを備える。
【0064】
離接アクチュエータ67は、回転手段である電動モータ33を移動させる離接手段におけるアクチュエータ34と同一構造であって、サーボモータ67aが回転させるボールネジ67bに螺合する従動子67cがX軸方向に移動可能に、そのハウジング67dがX軸方向に延びて連続して上辺板63bに一対取付けられる。この一対の離接アクチュエータ67における従動子67cに昇降アクチュエータ66がそれぞれ取付けられる。
【0065】
昇降アクチュエータ66は、従動子67cに上端が取付けられて下方に延びる一対のロッド66aと、そのロッド66aに昇降可能に嵌挿された昇降板66bと、その昇降板66bに螺合してロッド66aに平行に設けられたボールネジ66cと、そのボールネジ66cを回転させるサーボモータ66dとを備える。
【0066】
接触片64は、鉛直方向に延びて上端部が昇降板66bに取付けられた鉛直棒66eの下端にその鉛直棒66eと交差して水平方向に延びて設けられる。この接触片64は水平方向に延びる板材であり、その上縁又は下縁が押出し片26の両端に、連結片28が設けられている場合には、その連結片28に枢支されたカムフォロア29に接触させるものである。
【0067】
そして、
図2に示すように、押出し片26の両端に接触片64の下縁が接触する場合には、その接触片64を下方に移動させると、押出し片26も接触片64と共に下方に移動して、
図3に示す様に、スリット32a,32bの開口部に押出し片26が達すると、ステータコイル12の各辺部13a,14aをそのスリット32a,32bから押出すように構成される。
【0068】
一方、
図4に示すように、押出し片26の両端に接触片64の上縁が接触する場合には、その接触片64を上方に移動させると、押出し片26も接触片64と共に上方に移動して、その押出し片26をスリット32a,32bの奥部に戻すことになる。
【0069】
この点において、接触片64の下縁は、押出し片26をスリット32a,32bの深部から開口部に移動させる押出し部位を構成し、接触片64の上縁は、押出し片26をスリット32a,32bの開口部から深部に移動させる引き戻し部位を構成するものである。
【0070】
次に、本発明のコイル挿入方法について説明する。
【0071】
本発明のコイル挿入方法は、一対の受け渡し治具32,32にそれぞれ形成されたスリット32a,32bに、互いに平行な一対の辺部13a,14aを有するステータコイル12の一対の辺部13a,14aをそれぞれ挿入させる受け渡し工程と、一対の受け渡し治具32,32をステータコア11内に進入させて、スリット32a,32bの開口部をステータコア11の一対の辺部13a,14aを挿入しようとするスロット11bの開口部に対向させる治具挿入工程と、スリット32a,32bに挿入されたステータコイル12の辺部13a,14aをスリット32a,32bから押出してステータコア11の対応するスロット11bに挿入する辺部挿入工程とを有する。
【0072】
その特徴有る点は、受け渡し工程において、押出し片26が深部に挿通されたスリット32a,32bに一対の辺部13a,14aをそれぞれ挿入させ、辺部挿入工程において、押出し片26をスリット32a,32bの深部から開口部に移動させることにより辺部13a,14aをスリット32a,32bから押出すところにある。
【0073】
この実施の形態では、上記コイル挿入装置9を用い、そのコイル挿入装置9における動作は、図示しないコントローラによって自動制御されるものとする。
【0074】
そして、受け渡し工程において、受け渡し治具32,32のスリット32a,32bにステータコイル12の辺部13a,14aを挿入させるので、その前工程として、ステータコイル12を得るコイル作製工程が行われることになる。
【0075】
また、辺部挿入工程において、ステータコイル12における辺部13a,14aをスリット32a,32bから押出してステータコア11の対応するスロット11bに挿入するので、その前工程として、支持具15にステータコア11を支持させるコア支持工程も行われるものとする。
【0076】
以下に各工程を詳説する。
【0077】
<コア支持工程>
このコア支持工程では、支持具15にステータコア11を支持させる。具体的には、コア移動手段51により支持具15を
図8に示す搭載位置とし、その搭載位置の支持具15における複数対のローラ17にステータコア11を搭載する。そして、固定具19によりステータコア11を軸方向の両側から挟持させて、ステータコア11の回転を禁止して支持させる。
【0078】
<コイル作製工程>
このコイル作製工程にあっては、
図13に示す様に、線材8を巻回して互いに平行な一対の辺部13a,14aを有するステータコイル12を作製する。この実施の形態では、
図8及び
図9のテーブル9a上の一点鎖線で示すに部位7に巻線機が設けられ、その図示しない巻線機は、内コイル13と、その内コイル13を外側から包囲する外コイル14から成るステータコイル12を作製するものとする。
【0079】
図13に示す様に、内コイル13は、一対の内巻駒24aに掛け回される線材8から成るコイルエンド部13bと、一対の内巻駒24aの間に掛け渡される線材8から成る辺部13aを有するトラック状を成すものとし、外コイル14は、内コイル13のコイルエンド部13bを覆う一対の外巻駒25aに掛け回される線材8から成るコイルエンド部14bと、一対の外巻駒25aの間に掛け渡される線材8から成る辺部14aを有するトラック状を成すものとする。
【0080】
ここで、外巻駒25aは、内コイル13のコイルエンド部13bを外側から覆うように
構成されているので、この外巻駒25aに掛け回された線材8から成る外コイル14は内コイル13を外側から包囲するような大きさのものとなり、内コイル13と外コイル14のそれぞれの辺部13a,14aにおける間隔t2を、それらの辺部13a,14aが後に挿入されることになるステータコア11の隣接するスロット11bの周方向の間隔t1(
図5)と一致するような、内コイル13と外コイル14から成るステータコイル12を得る。
【0081】
<受け渡し工程>
この工程では、一対の受け渡し治具32,32にそれぞれ形成されたスリット32a,32bに、ステータコイル12の一対の辺部13a,14aをそれぞれ挿入させる。
【0082】
上記コイル挿入装置9を用いるこの実施の形態では、
図13に示すように、一対の受け渡し治具32,32を互いに平行にし、一対の受け渡し治具32,32の互いの間隔をステータコイル12における辺部13a,14a間の間隔に一致させる。
【0083】
その後、治具移動手段40(
図8)により一対の受け渡し治具32,32を移動させて、
図14に示すように、その一対の受け渡し治具32,32にそれぞれ形成されたスリット32a,32bに一対の辺部13a,14aを互いに平行な状態でそれぞれ挿入させる。
【0084】
この実施の形態では、内及び外コイル13,14から成るステータコイル12を用いるので、この受け渡し工程において、内コイル13の辺部13aが挿入する内スリット32aと外コイル14の辺部14aが挿入する外スリット32bの双方がそれぞれ形成された一対の受け渡し治具32,32を用い、その内スリット32aと外スリット32bに内コイル13の辺部13aと外コイル14の辺部14aを互いに平行な状態で挿入させる。
【0085】
また、スリット32a,32bに収納された辺部13a,14aのスリット32a,32bからの離脱を防止する防止手段70が一対の受け渡し治具32,32に備えられているので、一対の受け渡し治具32,32にそれぞれ形成されたスリット32a,32bに一対の辺部13a,14aを互いに平行な状態でそれぞれ挿入させた後に、その防止手段70のアクチュエータ73(
図11)によりフック部材72とともに軸部材71を回転させて、
図14に示すフック部材72の覆い部72bを切り欠き32eに進入させ、その覆い部72bによりスリット32a,32bの入り口側を横断させる(
図5)。
【0086】
このようにして、その覆い部72bにより、スリット32a,32bに収納された辺部13a,14aがそのスリット32a,32bから抜け出すことを防止する。そして、その状態で、治具移動手段40における3軸移動手段41は、辺部13a,14aが挿入されたステータコイル12と共に一対の受け渡し治具32,32を更に移動させ、そのステータコイル12を内巻駒24a及び外巻駒25aから離脱させる。
【0087】
<治具挿入工程>
この工程では、一対の受け渡し治具32,32をステータコア11内に進入させて、スリット32a,32bの開口部をステータコア11の一対の辺部13a,14aを挿入しようとするスロット11bの開口部に対向させる。
【0088】
ここで、上記受け渡し工程では、一対の受け渡し治具32,32を互いに平行にしているけれども、ステータコア11のスロット11bは放射状に形成されている。このために、この治具挿入工程では、ステータコア11のスロット11bにスリット32a,32bの開口部を対向させるべく、一対の受け渡し治具32,32を相対移動させて、それらのスリット32a,32bをスロット11bと同様に交差させる治具相対移動工程と、一対の受け渡し治具32,32をステータコア11内に進入させて、スリット32a,32bの開口部をスロット11bの開口部に対向させる治具挿入工程とを行うことに成り、以下に詳説する。
【0089】
≪治具相対移動工程≫
この工程では、
図15に示すように、一対の受け渡し治具32,32のいずれか一方又は双方をスリット32a,32bの長手方向に平行な回転軸32cを中心に実線矢印で示す様に回転させて、コイル12のコイルエンド部13b,14bを変形させつつ、スリット32a,32bを、そこに挿入された辺部13a,14aと共に、ステータコア11の挿入しようとするスロット11bの角度α2(
図5)に合わせる。
【0090】
また、この治具相対移動工程では、
図5に示すように、一対の受け渡し治具32,32におけるスリット32a,32bの開口部間の間隔d1,d2をそのスリット32a,32bに挿入された一対の辺部13a,14aを挿入しようとするスロット11bの間隔D1,D2に合わせる。
【0091】
図15に示す様に、スリット32a,32bの深さ方向に一対の受け渡し治具32,32におけるL型ブラケット32dが設けられたこの実施の形態では、離接手段34(
図8)により一対の受け渡し治具32,32が設けられた一対の電動モータ33の間隔を接近させることにより、
図15の破線矢印で示すように一対の受け渡し治具32,32を互いに近づけ、コイル12のコイルエンド部13b,14bが主に変形するように、ステータコイル12を変形させる。
【0092】
これにより、
図5に示すように、スリット32a,32bの開口部間の間隔d1,d2を変更させて、そのスリット32a,32bに挿入された一対の辺部13a,14aを挿入しようとするスロット11bの間隔D1,D2に一致させる。
【0093】
≪治具挿入工程≫
この工程では、一対の受け渡し治具32,32をステータコア11内に進入させて、
図6に示すように、スリット32a,32bの開口部をスロット11bの開口部に対向させる。
【0094】
具体的に、この治具挿入工程は、コイル挿入装置9におけるコア移動手段51によりステータコア11が搭載された支持具15を
図9に示す挿入位置にし、治具移動手段40により一対の受け渡し治具32,32を移動させて、
図5に示すように、支持具15に搭載されたステータコア11に一対の受け渡し治具32,32を進入させる。
【0095】
このように一対の受け渡し治具32,32がステータコア11に進入した挿入位置で、3軸移動手段41(
図8)は一対の受け渡し治具32,32を更に移動させて、
図6に示すように、そのスリット32a,32bの開口部をそのスリット32a,32bに挿入された一対の辺部13a,14aを、挿入しようとするスロット11bの開口部に対向させる。
【0096】
その後、防止手段70におけるアクチュエータ73を駆動させて軸部材71を回転させ、フック部材72における覆い部72bを切り欠き32eから離脱させて、スリット32a,32bの入り口側を解放させておく。
【0097】
<辺部挿入工程>
この工程では、スリット32a,32bに挿入されたステータコイル12の辺部13a,14aをスリット32a,32bから押出してステータコア11の対応するスロット11bに挿入する。
【0098】
上記コイル挿入装置9を用いるこの実施の形態では、辺部挿入手段61により行われ、
図2及び
図6に示すように、先ず、受け渡し治具32,32の両側から突出する押出し片26の端部、その端部に連結片28が設けられたこの実施の形態では、その連結片28に設けられたカムフォロア29に向けて、その上方から接触片64を下降させて、押出し部位である接触片64の下縁をカムフォロア29に上方より当接させる。
【0099】
その後、更にその接触片64を下方に移動させて、受け渡し治具32,32の傾斜するスリット32a,32bに挿通された押出し片26を、スリット32a,32bの深部から開口部に移動させる。この実施の形態では、連結片28に設けられたカムフォロア29に接触片64が接触するので、カムフォロア29は接触片64の下縁に転動しつつ押出し片26を移動させるので、受け渡し治具32,32が傾斜していても、押出し片26の移動が損なわれるようなことはない。
【0100】
また、押出し片26は、仮止め機構であるボールネジ27によりスリット32a,32bの深部に仮止めされているけれども、接触片64が下降することによりその仮止めは解消され、その接触片64が接触する押出し片26はスリット32a,32bの開口部に向かうことになる。そして、開口部に向かう押出し片26は、
図3及び
図7に示すように、そのスリット32a,32bに挿入されたステータコイル11の辺部13a,14aを、スリット32a,32bから押出してそれぞれ対応するスロット11bに挿入することになる。
【0101】
この時、
図1に示す様に、押出し片移動手段62は、接触片64を昇降させる昇降アクチュエータ66を、受け渡し治具32の両側に別々に設けているので、受け渡し治具32の両側における接触片64を時間差を設けて下方に移動させ、押出し片26のスリット32a,32bの深部から開口部への移動を、スリット32a,32bに対して押出し片26を傾斜させた状態で行うことが好ましい。
【0102】
押出し片26のスリット32a,32bの深部から開口部への移動が、スリット32a,32bに対して押出し片26を傾斜させた状態で行うと、ステータコイル11の辺部13a,14aを、その長手方向において順次スリット32a,32bからスロット11bに移動させることになり、辺部13a,14aの長手方向の全てを同時にスリット32a,32bからスロット11bに移動させる場合に生じ得る抵抗を和らげることが可能となる。
【0103】
そして、スリット32a,32bに予め挿通されて深部にあった押出し片26を、そのスリット32a,32bの深部から開口部に向かって移動させることにより、ステータコイル11の辺部13a,14aをスリット32a,32bから押出すので、その押出し片26と辺部13a,14aの移動方向は同一方向となり、その押出し片26と辺部13a,14aが擦れ合うようなことはない。このため、押出し片26との擦れに起因する線材8の損傷を防止することができる。
【0104】
また、押出し片26と辺部13a,14aの移動方向が同一方向であることから、その押出し片26が押出す辺部13a,14aを構成する線材8(
図13)が互いに長手方向にずれることはない。このため、その辺部13a,14aを構成する線材8の整列性は損なわれることはなく、ステータコイル11の辺部13a,14aを、その整列性を損なうことなくステータコア11のスロット11bに挿入することが可能になる。
【0105】
即ち、スリット32a,32bから押出されて対応するスロット11bに挿入された辺
部13a,14aは、スリット32a,32bの挿入された線材8の状態を維持しつつ移動して、そのままスロット11bに挿入されることから、その辺部13a,14aにおける線材8が整列巻線されていたならば、その整列巻線された線材8の状態で対応するスロット11bに挿入されることに成り、整列された線材8から成る辺部13a,14bをステータコア11(
図18及び
図19)のスロット11bにそのまま挿入することが可能になるのである。
【0106】
この実施の形態では、内コイル13と外コイル14から成るステータコイル12を用いており、それらが整列巻線されていれば、その状態のままでコイル12を受け渡すことになり、整列状態の辺部13a,14bをステータコア11のスロット11bにそのまま挿入することが可能になる。すると、スロット11bにおける線材8の占積率を向上させることが可能となり、このステータ10を用いる発電機やモータの高効率化や小型化などを図ることが可能となる。
【0107】
ステータコイル12における各辺部13a,14bをステータコア11のスロット11bに挿入させた後には、押出し片26をスリット32a,32bの深部にまで戻して、その奥部に仮止め機構27(
図16)により仮止めさせ、次のコイル12の挿入に備えることになる。上記コイル挿入装置9を用いる場合、この押出し片26の戻しを辺部挿入手段61により行うことができる。
【0108】
具体的には、
図4に示す様に、受け渡し治具32,32の両側から突出する押出し片26の端部、その端部に連結片28が設けられたこの実施の形態では、その連結片28に設けられたカムフォロア29に、引き戻し部位である接触片64の上縁を下方から当接させる。その後、更にその接触片64を上昇させて、接触片64により押し上げられる押出し片26をスリット32a,32bの深部まで戻し、仮止め機構であるボールネジ27によりスリット32a,32bの深部に再び仮止めさせて、次のコイル12の挿入に備える。
【0109】
ここで、ステータ10は、単一のステータコア11に複数のステータコイル12を組み込むことにより製造されるので、ステータコア11を回転させて一対の受け渡し治具32,32におけるスリット32a,32bの開口部が対向するスロット11bを変更させつつ、上記各工程を繰り返すことが好ましい。
【0110】
このステータコア11の回転は、固定具19によるステータコア11の挟持を解消させた状態で、支持具15におけるローラ17をモータ18により回転させることにより行うことができる。
【0111】
このように、スリット32a,32bの開口部が対向するスロット11bを変更させた上で、上記各工程を繰り返すことにより、
図19に示すように、単一のステータコア11に複数のステータコイル12を組み込むことが可能となる。
【0112】
なお、上述した実施の形態では、フック部材72を有する防止手段70を説明したけれども、スリット32a,32bに収納された辺部13a,14aのスリット32a,32bからの離脱を防止しうる限り、この防止手段70はこれに限るものではない。例えば、辺部13a,14aのスリット32a,32bからの離脱が生じないようであれば、防止手段70を設ける必要は無く、設けるとしても、フック部材72を用いないようなものであっても良い。
【0113】
また、上述した実施の形態では、接触片64が平板である場合を説明したけれども、直接又は間接的に接触する押出し片26を移動させ得る限り、この接触片64は平板に限るものではない。例えば、
図20に示すような断面がL字を成すような接触片64を用いて
も良く、
図21に示すような断面がコ字を成すような接触片64を用いても良い。
【0114】
図20に示すような断面がL字を成すような接触片64であれば、押出し片26の両端に、連結片28が設けられている場合には、その連結片28に枢支されたカムフォロア29に、水平面に平行な水平部64aの下面を接触させることにより押出し片26を下降させ得るので、この下面がその押出し片26をスリット32a,32bの深部から開口部に移動させる押出し部位を形成することになり、一点鎖線で示す様に、その水平部64aの上面を接触させることにより、直接又は間接的に接触する押出し片26を上昇させることが可能となり、その上面がその押出し片26をスリット32a,32bの開口部から深部に移動させる引き戻し部位を形成することになる。
【0115】
また、
図21に示すような断面がコ字を成すような接触片64であれば、その上下の水平板部64b,64cが、押出し片26の端部、連結片28が設けられている場合には、その連結片28に枢支されたカムフォロア29を上下から挟むようにすれば、上水平板部64bが、押出し片26をスリット32a,32bの深部から開口部に移動させる押出し部位を形成することになり、下水平板部64cが、押出し片26をスリット32a,32bの開口部から深部に移動させる引き戻し部位を形成することになる。
【0116】
図21に示すような断面がコ字を成すような接触片64を用い、上下の水平板部64b,64cにより押出し片26の端部又はカムフォロア29を上下から挟むようにすれば、その接触片64を上下動させるだけで、押出し片26をスリット32a,32bの深部から開口部に移動させ、その後直ちに、その開口部から深部に移動させることが可能となる。
【符号の説明】
【0117】
9 コイル挿入装置
11 ステータコア
11b スロット
12 コイル
13a,14a 辺部
26 押出し片
27 仮止め機構
28 連結片
29 カムフォロア
32 受け渡し治具
32a,32b スリット
61 辺部挿入手段
62 押出し片移動手段
64 接触片
65 接触片移動機構
70 防止手段