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特許7544934ワイヤ放電加工装置及びワイヤ放電加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工装置及びワイヤ放電加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/02 20060101AFI20240827BHJP
   G05B 19/4103 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B23H7/02 R
G05B19/4103 A
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2023132825
(22)【出願日】2023-08-17
【審査請求日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】202310949879.3
(32)【優先日】2023-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 潤
(72)【発明者】
【氏名】田井 克幸
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/063932(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/050014(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/105235(WO,A1)
【文献】特開平10-076429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を駆動する移動装置と、前記移動装置を制御する制御装置とを備えるワイヤ放電加工装置であって、
前記移動装置は、所定の経路及び所定のサーボ送り速度に従ってワイヤ電極と被加工物との間に形成される所定の間隙を維持するようにしながら前記被加工物に対して前記ワイヤ電極を前記経路に沿って加工進行方向に相対移動させて前記被加工物を加工するように構成され、
前記制御装置は、前記経路を直線部分とコーナ部分とに分けて前記コーナ部分における前記経路に沿った前記ワイヤ電極の移動距離に対する前記サーボ送り速度を規定する速度関数を設定するように構成され、
前記速度関数は、前記コーナ部分の少なくともインコーナR部分において前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定されることを特徴とするワイヤ放電加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記インコーナR部分における前記経路は、アプローチ区間と、円弧区間と、リターン区間とをこの順に含み、
前記アプローチ区間、前記円弧区間、及び前記リターン区間における前記速度関数は、各区間の始点における前記サーボ送り速度から各区間の終点における前記サーボ送り速度まで前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するようにベジエ曲線を用いてそれぞれ設定される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項3】
請求項2に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記アプローチ区間における前記速度関数は、3次のベジエ曲線を用いて設定され、
前記円弧区間における前記速度関数は、2次のベジエ曲線を用いて設定され、
前記リターン区間における前記速度関数は、3次のベジエ曲線を用いて設定される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項4】
請求項2に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記アプローチ区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に減少するように設定され、
前記リターン区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に増加するように設定される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項5】
請求項1に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記速度関数は、前記コーナ部分のアウトコーナR部分において前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定され、
前記アウトコーナR部分における前記経路は、アプローチ区間と、円弧区間と、リターン区間とをこの順に含み、
前記アウトコーナR部分の前記アプローチ区間、前記円弧区間、及び前記リターン区間における前記速度関数は、各区間の始点における前記サーボ送り速度から各区間の終点における前記サーボ送り速度まで前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するようにベジエ曲線を用いてそれぞれ設定される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項6】
請求項5に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記アウトコーナR部分の前記アプローチ区間における前記速度関数は、3次のベジエ曲線を用いて設定され、
前記アウトコーナR部分の前記円弧区間における前記速度関数は、2次のベジエ曲線を用いて設定され、
前記アウトコーナR部分の前記リターン区間における前記速度関数は、3次のベジエ曲線を用いて設定さ
れる、ワイヤ放電加工装置。
【請求項7】
請求項5に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記アウトコーナR部分の前記アプローチ区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に増加するように設定され、
前記アウトコーナR部分の前記リターン区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に減少するように設定される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項8】
請求項1に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記速度関数は、前記コーナ部分のインコーナエッジ部分において前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定され、
前記インコーナエッジ部分における前記経路は、アプローチ区間と、リターン区間とを含み、
前記インコーナエッジ部分の前記アプローチ区間及び前記リターン区間における前記速度関数は、各区間の始点における前記サーボ送り速度から各区間の終点における前記サーボ送り速度まで前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いてそれぞれ設定される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項9】
請求項8に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記インコーナエッジ部分の前記アプローチ区間及び前記リターン区間における前記速度関数は、それぞれ3次のベジエ曲線を用いて作成される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項10】
請求項8に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記インコーナエッジ部分の前記アプローチ区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に減少するように設定され、
前記インコーナエッジ部分の前記リターン区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に増加するように設定される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項11】
請求項1に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記速度関数は、前記コーナ部分のアウトコーナエッジ部分において前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定され、
前記アウトコーナエッジ部分における前記経路は、アプローチ区間と、アプローチ側回避区間と、スキップ区間と、リターン側回避区間と、リターン区間とをこの順に含み、
前記アウトコーナエッジ部分の前記アプローチ区間、前記アプローチ側回避区間、前記リターン側回避区間、及び前記リターン区間における前記速度関数は、各区間の始点における前記サーボ送り速度から各区間の終点における前記サーボ送り速度まで前記サーボ送り速度が前記移動距離に対し曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いてそれぞれ設定される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項12】
請求項11に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記アウトコーナエッジ部分の前記アプローチ区間、前記アプローチ側回避区間、前記リターン側回避区間、及び前記リターン区間における前記速度関数は、それぞれ2次のベジエ曲線を用いて設定される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項13】
請求項11に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記アウトコーナエッジ部分の前記アプローチ区間及び前記アプローチ側回避区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に増加するように設定され、
前記リターン区間及び前記リターン側回避区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に減少するように設定される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項14】
請求項11に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記スキップ区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して一定となるように設定される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項15】
請求項11に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記制御装置は、前記アウトコーナエッジ部分における前記経路に沿った前記ワイヤ電極の移動距離に対する放電休止時間を規定する休止時間関数を設定し、前記アウトコーナエッジ部分において前記放電休止時間に基づいて前記ワイヤ電極と前記被加工物との間に電圧を印加するように構成され、
前記休止時間関数は、前記放電休止時間が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項16】
請求項1に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記経路は、複数の前記コーナ部分が連続して構成される連続コーナ部分を含み、
前記連続コーナ部分における前記経路は、第1コーナ部分と、接続部分と、第2コーナ部分とをこの順に連続して含み、
前記接続部分における前記速度関数は、前記第1コーナ部分の終点における前記サーボ送り速度から前記第2コーナ部分の始点における前記サーボ送り速度まで前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項17】
請求項16に記載のワイヤ放電加工装置であって、
複数の前記コーナ部分の少なくとも1つは、インコーナR部分である、ワイヤ放電加工装置。
【請求項18】
請求項17に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記接続部分における前記速度関数は、3次のベジエ曲線を用いて設定される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項19】
所定の経路及び所定のサーボ送り速度に従ってワイヤ電極と被加工物との間に形成される所定の間隙を維持するようにしながら前記ワイヤ電極を被加工物に対して相対移動して前記被加工物を加工するワイヤ放電加工方法であって、
前記経路を直線部分とコーナ部分とに分けて前記コーナ部分における前記経路に沿った前記ワイヤ電極の移動距離に対する前記サーボ送り速度を規定する速度関数を設定する工程を含んでなり、
前記速度関数は、前記コーナ部分の少なくともインコーナR部分において前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定される、ワイヤ放電加工方法。
【請求項20】
NCプログラムを解読して前記コーナ部分におけるコーナの種類を解析する工程と、
前記解析されたコーナの種類がインコーナR部分であるときは前記インコーナR部分において前記インコーナR部分に適する予め前記ベジエ曲線を用いて設定されている前記速度関数に基づいて前記移動距離に対して曲線的に変化するようにサーボ送り速度を制御する工程と、
を含んでなる請求項19に記載のワイヤ放電加工方法。
【請求項21】
前記コーナ部分を前記インコーナR部分、アウトコーナR部分、インコーナエッジ部分、アウトコーナエッジ部分に分けて、
前記解析されたコーナの種類が前記インコーナR部分以外のコーナ部分であるときはそれぞれの前記コーナ部分において前記各コーナ部分の種類に適する前記ベジエ曲線を用いて設定されている前記速度関数に基づいて前記移動距離に対して曲線的に変化するように前記サーボ送り速度を制御する工程と、
を含んでなる請求項20に記載のワイヤ放電加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ電極により被加工物に対して放電加工を行う、ワイヤ放電加工装置及びワイヤ放電加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工においては、ワイヤ電極と被加工物との間に電圧パルスを印加して繰返し放電を発生させて被加工物から材料を除去しながら、予め設定されている所定の送り速度で予めNCプログラムにプログラムされている所定の経路に沿ってワイヤ電極と被加工物とを相対移動させることによって被加工物を所望の加工形状に加工するようにされている。一般に、より短い時間で十分な加工精度を得るために、被加工物が無垢の状態において大まかに切断する荒加工としてファーストカットを行なってから仕上げ加工として被加工物の端面に対してセカンドカットを行うようにされている。要求される加工精度が高いほど段階的に放電エネルギーを小さくしながら端面を仕上げていく必要があり、仕上げ加工をセカンドカット以降、サードカット、フォースカットのように、目標の加工精度に合わせてより多くの加工工程を実施する必要がある、言い換えると、カット数を増やす必要がある。一方で、カット数が多いほど加工時間が長くなるので、目標の加工精度に対してカット数を削減することが望まれている。
【0003】
このとき、通常、被加工物を直線状に加工する場合には、ワイヤ電極を所定の送り速度で移動させる。一方、コーナRやエッジを加工するときは、所期の加工形状精度を得るために、加工形状に応じて直線における送り速度を増加又は減少させる。
【0004】
特許文献1には、コーナの手前からワイヤ電極の送り速度を減少させ、コーナを一定の送り速度で加工した後に、速度減少前の送り速度に増加させるワイヤ放電加工方法が開示されている。特許文献1の例に示すように、従来のコーナ加工では、直線加工における速度値からコーナ加工に好適な速度値までの変速、及びコーナ加工後に元の速度値まで回復させるための変速において、ワイヤ電極の送り速度を移動距離に対して直線的に変化させている。
【0005】
放電加工以外の分野での先行技術として、例えば、特許文献2には、切削加工用の工作機械用の数値制御装置が開示されている。当該数値制御装置では、指令ブロック毎に指定された速度値からパラメトリック曲線を生成し、指令ブロック間での工具の加減速において送り速度を曲線的に変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-39356号公報
【文献】特開2020-9102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、既述のように、加工時間やエネルギー消費量の削減を目的として、より少ない加工回数(カット数)で目標の加工精度を達成することが求められている。コーナの加工において、上述した従来の方式のようにワイヤ電極の送り速度を直線的に変化させた場合、カット数を削減すると、被加工物に食い込み(取り代に対して除去量が過剰となる現象)や取残し(取り代に対して除去量が不足する現象)が発生して加工精度の低下が生じる場合があることが判明した。例えば、インコーナRを含むコーナの加工においてワイヤ電極の送り速度を直線的に変化させて加工をするようにしている場合、カット数を削減すると、ワイヤ電極と被加工物の間で短絡が生じやすくなることで、食い込みが発生しやすくなる。
【0008】
このような加工精度の低下を回避するために、コーナ部分のワイヤ電極の経路を微小区間に分割し、微小区間毎に好適な送り速度を設定し、速度変化をより滑らかな曲線にすることが考えられる。しかしながら、微小区間毎に送り速度を設定することで、送り速度の制御のためにデータベースに格納すべきデータが膨大となるおそれがある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、被加工物のコーナの加工精度を向上させることが可能であり、比較的少ないデータ量で送り速度の制御が可能なワイヤ放電加工装置及びワイヤ放電加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]移動体を駆動する移動装置と、前記移動装置を制御する制御装置とを備えるワイヤ放電加工装置であって、前記移動装置は、所定の経路及び所定のサーボ送り速度に従ってワイヤ電極と被加工物との間に形成される所定の間隙を維持するようにしながら前記被加工物に対して前記ワイヤ電極を前記経路に沿って加工進行方向に相対移動させて前記被加工物を加工するように構成され、前記制御装置は、前記経路を直線部分とコーナ部分とに分けて前記コーナ部分における前記経路に沿った前記ワイヤ電極の移動距離に対する前記サーボ送り速度を規定する速度関数を設定するように構成され、前記速度関数は、前記コーナ部分の少なくともインコーナR部分において前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定されることを特徴とするワイヤ放電加工装置。
[2][1]に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記インコーナR部分における前記経路は、アプローチ区間と、円弧区間と、リターン区間とをこの順に含み、前記アプローチ区間、前記円弧区間、及び前記リターン区間における前記速度関数は、各区間の始点における前記サーボ送り速度から各区間の終点における前記サーボ送り速度まで前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するようにベジエ曲線を用いてそれぞれ設定される、ワイヤ放電加工装置。
[3][2]に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記アプローチ区間における前記速度関数は、3次のベジエ曲線を用いて設定され、前記円弧区間における前記速度関数は、2次のベジエ曲線を用いて設定され、前記リターン区間における前記速度関数は、3次のベジエ曲線を用いて設定される、ワイヤ放電加工装置。
[4][2]又は[3]に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記アプローチ区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に減少するように設定され、前記リターン区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に増加するように設定される、ワイヤ放電加工装置。
[5][1]から[4]の何れか1項に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記速度関数は、前記コーナ部分のアウトコーナR部分において前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定され、前記アウトコーナR部分における前記経路は、アプローチ区間と、円弧区間と、リターン区間とをこの順に含み、前記アウトコーナR部分の前記アプローチ区間、前記円弧区間、及び前記リターン区間における前記速度関数は、各区間の始点における前記サーボ送り速度から各区間の終点における前記サーボ送り速度まで前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するようにベジエ曲線を用いてそれぞれ設定される、ワイヤ放電加工装置。
[6][5]に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記アウトコーナR部分の前記アプローチ区間における前記速度関数は、3次のベジエ曲線を用いて設定され、前記アウトコーナR部分の前記円弧区間における前記速度関数は、2次のベジエ曲線を用いて設定され、前記アウトコーナR部分の前記リターン区間における前記速度関数は、3次のベジエ曲線を用いて設定される、ワイヤ放電加工装置。
[7][5]又は[6]に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記アウトコーナR部分の前記アプローチ区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に増加するように設定され、前記アウトコーナR部分の前記リターン区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に減少するように設定される、ワイヤ放電加工装置。
[8][1]から[7]の何れか1項に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記速度関数は、前記コーナ部分のインコーナエッジ部分において前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定され、前記インコーナエッジ部分における前記経路は、アプローチ区間と、リターン区間とを含み、前記インコーナエッジ部分の前記アプローチ区間及び前記リターン区間における前記速度関数は、各区間の始点における前記サーボ送り速度から各区間の終点における前記サーボ送り速度まで前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いてそれぞれ設定される、ワイヤ放電加工装置。
[9][8]に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記インコーナエッジ部分の前記アプローチ区間及び前記リターン区間における前記速度関数は、それぞれ3次のベジエ曲線を用いて作成される、ワイヤ放電加工装置。
[10][8]又は[9]に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記インコーナエッジ部分の前記アプローチ区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に減少するように設定され、前記インコーナエッジナ部分の前記リターン区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に増加するように設定される、ワイヤ放電加工装置。
[11][1]から[10]の何れか1項に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記速度関数は、前記コーナ部分のアウトコーナエッジにおいて前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定され、前記アウトコーナエッジ部分における前記経路は、アプローチ区間と、アプローチ側回避区間と、スキップ区間と、リターン側回避区間と、リターン区間とをこの順に含み、前記アウトコーナエッジ部分の前記アプローチ区間、前記アプローチ側回避区間、前記リターン側回避区間、及び前記リターン区間における前記速度関数は、各区間の始点における前記サーボ送り速度から各区間の終点における前記サーボ送り速度まで前記サーボ送り速度が前記移動距離に対し曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いてそれぞれ設定される、ワイヤ放電加工装置。
[12][11]に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記アウトコーナエッジ部分の前記アプローチ区間、前記アプローチ側回避区間、前記リターン側回避区間、及び前記リターン区間における前記速度関数は、それぞれ2次のベジエ曲線を用いて設定される、ワイヤ放電加工装置。
[13][11]又は[12]に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記アウトコーナエッジ部分の前記アプローチ区間及び前記アプローチ側回避区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に増加するように設定され、前記リターン区間及び前記リターン側回避区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に減少するように設定される、ワイヤ放電加工装置。
[14][11]から[13]の何れか1項に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記スキップ区間における前記速度関数は、前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して一定となるように設定される、ワイヤ放電加工装置。
[15][11]から[14]の何れか1項に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記制御装置は、前記アウトコーナエッジ部分における前記経路に沿った前記ワイヤ電極の移動距離に対する放電休止時間を規定する休止時間関数を設定し、前記アウトコーナエッジ部分において前記放電休止時間に基づいて前記ワイヤ電極と前記被加工物との間に電圧を印加するように構成され、前記休止時間関数は、前記放電休止時間が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定される、ワイヤ放電加工装置。
[16][1]から[15]の何れか1項に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記経路は、複数の前記コーナ部分が連続して構成される連続コーナ部分を含み、前記連続コーナ部分における前記経路は、第1コーナ部分と、接続部分と、第2コーナ部分とをこの順に連続して含み、前記接続部分における前記速度関数は、前記第1コーナ部分の終点における前記サーボ送り速度から前記第2コーナ部分の始点における前記サーボ送り速度まで前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定される、ワイヤ放電加工装置。
[17][16]に記載のワイヤ放電加工装置であって、複数の前記コーナ部分の少なくとも1つは、インコーナR部分である、ワイヤ放電加工装置。
[18][17]に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記接続部分における前記速度関数は、3次のベジエ曲線を用いて設定される、ワイヤ放電加工装置。
[19]所定の経路及び所定のサーボ送り速度に従ってワイヤ電極と被加工物との間に形成される所定の間隙を維持するようにしながら前記ワイヤ電極を被加工物に対して相対移動して前記被加工物を加工するワイヤ放電加工方法であって、前記経路を直線部分とコーナ部分とに分けて前記コーナ部分における前記経路に沿った前記ワイヤ電極の移動距離に対する前記サーボ送り速度を規定する速度関数を設定する工程を含んでなり、前記速度関数は、前記コーナ部分の少なくともインコーナR部分において前記サーボ送り速度が前記移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定される、ワイヤ放電加工方法。
[20]NCプログラムを解読して前記コーナ部分におけるコーナの種類を解析する工程と、前記解析されたコーナの種類がインコーナR部分であるときは前記インコーナR部分において前記インコーナR部分に適する予め前記ベジエ曲線を用いて設定されている前記速度関数に基づいて前記移動距離に対して曲線的に変化するようにサーボ送り速度を制御する工程と、を含んでなる[19]に記載のワイヤ放電加工方法。
[21]前記コーナ部分を前記インコーナR部分、アウトコーナR部分、インコーナエッジ部分、アウトコーナエッジ部分に分けて、前記解析されたコーナの種類が前記インコーナR以外のコーナ部分であるときはそれぞれの前記コーナ部分において前記各コーナ部分の種類に適する前記ベジエ曲線を用いて設定されている前記速度関数に基づいて前記移動距離に対して曲線的に変化するように前記サーボ送り速度を制御する工程と、を含んでなる[20]に記載のワイヤ放電加工方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るワイヤ放電加工装置においては、制御装置によりコーナ部分におけるサーボ送り速度を規定するための速度関数が設定され、当該速度関数は、少なくともインコーナR部分においてサーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定される。このような構成では、ワイヤ電極のサーボ送り速度の変化を曲線に近づけて、コーナ部分においてより好適なサーボ送り速度を実現して加工精度を向上させることができる。また、ベジエ曲線を用いて速度関数を設定することで、サーボ送り速度の制御に必要なデータが膨大となる事態を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るワイヤ放電加工装置100を示す模式図である。
図2】ワイヤ放電加工装置100の制御態様を示すブロック図である。
図3】インコーナRの加工におけるワイヤ電極2の相対移動経路の一例を示す図である。
図4】ベジエ曲線を用いて設定された、図3に示すインコーナR部分Lの速度関数の一例を示すグラフである。
図5】アウトコーナRの加工におけるワイヤ電極2の相対移動経路の一例を示す図である。
図6】ベジエ曲線を用いて設定された、図5に示すアウトコーナR部分Lの速度関数の一例を示すグラフである。
図7】インコーナエッジの加工におけるワイヤ電極2の相対移動経路の一例を示す図である。
図8】ベジエ曲線を用いて設定された、図7に示すインコーナエッジ部分Lの速度関数の一例を示すグラフである。
図9】アウトコーナエッジの加工におけるワイヤ電極2の相対移動経路の一例を示す図である。
図10】アウトコーナエッジの加工におけるワイヤ電極2の相対移動経路の別の例を示す図である。
図11】ベジエ曲線を用いて設定された、図9に示すアウトコーナエッジ部分L12の速度関数の一例を示すグラフである。
図12】ベジエ曲線を用いて設定された、図9に示すアウトコーナエッジ部分L12の休止時間関数の一例を示すグラフである。
図13】インコーナR及びアウトコーナRが連続して構成される連続コーナの加工における、ワイヤ電極2の相対移動経路の一例を示す図である。
図14】ベジエ曲線を用いて設定された、図13に示す連続コーナ部分の速度関数の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0014】
1.ワイヤ放電加工装置
1.1.全体構成
図1に示すように、本発明の一実施形態のワイヤ放電加工装置100は、ワイヤ電極2を含む加工機本体1と、制御装置9とを備える。
【0015】
加工機本体1は、ワイヤ電極2と、ワイヤガイド機構3と、電源装置4と、移動装置5とを備える。移動装置5は、移動体を駆動して、所定の経路及び所定のサーボ送り速度に従ってワイヤ電極2と被加工物Wとの間に形成される所定の間隙(以下、加工間隙と称する)を維持するようにしながら被加工物Wに対してワイヤ電極2を当該経路に沿って加工進行方向に相対移動させて被加工物Wを加工するように構成されている。
【0016】
ワイヤガイド機構3は、ワークスタンド11に載置された被加工物Wに対して上側及び下側にそれぞれ設けられる、上側ガイドアセンブリ31及び下側ガイドアセンブリ32を備える。上側ガイドアセンブリ31及び下側ガイドアセンブリ32はそれぞれ、ハウジング33と、ワイヤガイド34と、通電体35とを備え、ハウジング33内に各種部品が収容されて構成される。ワイヤ電極2は、上側ガイドアセンブリ31及び下側ガイドアセンブリ32のワイヤガイド34により位置決め及び案内される。通電体35は、電源装置4に接続されている。また、通電体35は、ワイヤガイド34に案内されたワイヤ電極2の延在方向に略垂直な方向に移動可能であり、通電体35がワイヤ電極2に接触することで給電される。
【0017】
移動装置5は、ワイヤ電極2を被加工物Wに対して相対移動させるための複数の制御軸方向の移動体と、各移動体を駆動し移動させるためのサーボモータ(不図示)とを備える。制御装置9による制御に従って移動装置5が移動体のサーボモータを駆動することで、ワイヤ電極2が所定の経路及び所定のサーボ送り速度に従って被加工物Wに対して相対移動する。移動体は、ワイヤ放電加工装置100の仕様によって様々な構成が適用可能であり、例えば、図1に示されるワイヤ放電加工装置100においては、ワークスタンド11が立設されているテーブル10を水平直線1軸方向(X軸)に往復移動する移動体とし、テーブル10を積載するサドル20をX軸方向に直交する別の水平直線1軸方向(Y軸)に往復移動する移動体として構成している。
【0018】
1.2.制御装置9
制御装置9は、ワイヤ放電加工装置100の動作を制御する。以下、制御装置9の制御動作のうち、本発明に関連する制御に限定して説明する。
【0019】
なお、制御装置9の各構成要素は、ソフトウェアによって実現してもよく、ハードウェアによって実現してもよい。ソフトウェアによって実現する場合、CPUがコンピュータプログラムを実行することによって各種機能を実現することができる。プログラムは、内蔵の記憶部に格納してもよく、コンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体に格納してもよい。また、外部の記憶部に格納されたプログラムを読み出し、いわゆるクラウドコンピューティングにより実現してもよい。ハードウェアによって実現する場合、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、又はDRP(Dynamically Reconfigurable Processor)などの種々の回路によって実現することができる。本実施形態においては、様々な情報やこれを包含する概念を取り扱うが、これらは、0又は1で構成される2進数のビット集合体として信号値の高低によって表され、上述のソフトウェア又はハードウェアの態様によって通信や演算が実行され得るものである。
【0020】
図2に示すように、本実施形態の制御装置9は、数値制御部8と、移動制御部91と、サーボ制御部92と、電源制御部93とを備える。
【0021】
本実施形態のワイヤ放電加工においては、加工間隙の大きさを一定に維持するサーボ方式で、ワイヤ電極2を被加工物Wに対して相対移動させる。具体的には、加工間隙を一定に維持するうえで好適なサーボ送り速度を設定し、ワイヤ電極2は、設定されたサーボ送り速度に従って被加工物Wに対して相対移動する。
【0022】
数値制御部8は、入力部81と、解読部82と、サーボ条件設定部83と、加工条件設定部84と、指令部85と、制御に必要となる種々のデータを記憶する記憶部86とを備える。解読部82は、入力部81から入力されるNCプログラムを読み取ってNCデータを取得し、指令部85に出力する。指令部85は、NCデータに基づいて移動指令データを作成し、移動制御部91に出力する。移動指令データは、例えば、指令ブロック毎にワイヤ電極2が移動すべき位置座標を規定したものである。移動制御部91は、移動指令データに従って移動装置5を制御する。これにより、ワイヤ電極2が所定の経路に従って被加工物Wに対して相対移動される。
【0023】
サーボ制御部92は、サーボ条件設定部83により設定されたサーボ条件に従って加工間隙の大きさを一定に維持するうえで好適なサーボ送り速度を決定し、そのサーボ送り速度に従ったサーボ指令データを移動制御部91に出力する。移動制御部91は、サーボ指令データに従って移動装置5を制御する。これにより、ワイヤ電極2が所定のサーボ送り速度に従って被加工物Wに対して相対移動される。つまり、移動制御部91が移動指令データ及びサーボ指令データに基づいて移動装置5を制御することで、ワイヤ電極2が所定の加工間隙を維持しながら所定のサーボ送り速度に従って被加工物Wに対して所定の経路に沿って加工進行方向に相対移動する。
【0024】
サーボ制御部92によるサーボ送り速度の制御方法の一例を説明する。サーボ制御部92は、極間電圧検出装置(不図示)により検出された平均加工電圧を取得する。平均加工電圧は、加工間隙における極間電圧を所定の単位時間毎に平均化し信号に変換したものである。サーボ制御部92は、予め設定されている所定の速度関数に従ってサーボ基準電圧と平均加工電圧との差に応じた好適なサーボ送り速度でワイヤ電極2が加工進行方向に相対移動するように移動制御部91にサーボ指令データを出力する。速度関数は、ワイヤ電極2の水平面上のある相対位置からある相対位置までのある区間における直線時のサーボ送り速度を基準としたサーボ送り速度の変化を表した関数、端的に言うと、移動距離に対する送り速度の変化を表す関数である。速度関数は、サーボ条件としてサーボ条件設定部83により設定され、例えば、基準として設定されたサーボ基準電圧と平均加工電圧との差が大きいほどサーボ送り速度が大きくなるように設定される。このようなサーボ関数を用いることで、加工間隙を一定に維持するうえで好適なサーボ送り速度で良好な加工状態を維持して期待される加工精度を得ながら望ましい速度でワイヤ電極2を加工進行方向に進めることが可能となる。なお、サーボ送り速度の設定において、平均加工電圧に代えて、単位時間当たりの放電発生回数である放電頻度を用いても良い。
【0025】
被加工物Wに対するワイヤ電極2の相対移動の経路(相対移動経路)は、実質的に加工面積(取り代)が変化しない直線部分と加工面積が変化するコーナ部分に分けられる。コーナ部分は、被加工物Wをコーナ状に加工するための相対移動経路である。直線部分は、相対移動経路のうちコーナ部分以外の部分であり、被加工物Wを直線状に加工するための相対移動経路である。
【0026】
直線部分においては、上述の例のように速度関数を用いてサーボ送り速度を制御することが好ましい。直線部分においては、通常、加工負荷(単位放電加工時間あたりの加工量、又は相対移動経路に沿った単位進行距離あたりの加工量)がほぼ一定であるため、上述のようにサーボ送り速度を制御した場合、加工状態が良好である間は、設定されているサーボ送り速度でほぼ一定にワイヤ電極2が加工進行方向に相対移動する。
【0027】
本発明において、コーナ部分においては、加工形状(輪郭線)と、その加工形状に基づいて規定されているワイヤ電極2の相対移動経路に沿ってワイヤ電極2が進行するのにともなって変化する加工面積の変化の仕方に基づいて、端的に言うと、加工形状の違いによってコーナ部分を4種類に区分して、それぞれ異なる手法でサーボ送り速度を制御するようにしている。具体的には、コーナ部分を円弧形状の"R"と角形状の"エッジ"とに分け、さらにコーナRとコーナエッジのそれぞれにおいて、ワイヤ電極2の相対移動経路がコーナ部分の内側を通るインコーナと外側を通るアウトコーナとに区分する。以下の説明において、ワイヤ電極2の相対移動経路がコーナ部分の内側を通る円弧形状のコーナ部分をインコーナR、相対移動経路がコーナ部分の外側を通る円弧形状のコーナ部分をアウトコーナR、相対移動経路がコーナ部分の内側を通る角形状のコーナ部分をインコーナエッジ、相対移動経路がコーナ部分の外側を通る角形状のコーナ部分をアウトコーナエッジという。
【0028】
コーナ部分においては、加工対象のコーナの形状に応じてワイヤ電極2の表面上の放電加工面の加工面積が変化するため、加工負荷が変化する。加工負荷が一定の直線加工時のサーボ送り速度でコーナ部分においてワイヤ電極2を相対移動させると、短絡が頻発し加工が中断するなどして、加工精度が低下することが知られている。加工精度を向上させるために、加工負荷の変化に応じてサーボ送り速度を変化させることが好ましい。具体的には、コーナ部分のうち加工負荷が増加する部分においては、直線部分の加工時よりもサー4ボ送り速度を減少させ、加工負荷が減少する部分においては、直線部分の加工時よりもサーボ送り速度を増加させることが好ましい。
【0029】
制御装置9は、コーナ部分における相対移動経路に沿ったワイヤ電極2の移動距離に対するサーボ送り速度を規定する速度関数を設定するように構成される。本実施形態では、速度関数は、サーボ条件として制御装置9のサーボ条件設定部83により設定される。速度関数は、コーナ部分の少なくともインコーナR部分においてサーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定される。本実施形態では、このように設定された速度関数を用いて、サーボ制御部92がコーナ部分におけるサーボ送り速度を設定する。速度関数は、コーナ部分において加工負荷が増加する区間においてはサーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に減少するように設定されることが好ましい。また、速度関数は、コーナ部分において加工負荷が減少する区間においてはサーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に増加するように設定されることが好ましい。
【0030】
なお、コーナ部分におけるサーボ送り速度の変化は、相対移動経路においてワイヤ電極2が被加工物Wのコーナに到達する前の直線経路上の地点から開始されてもよい。この場合、コーナ部分には、速度変化が開始される地点からワイヤ電極2がコーナに到達するまでの直線経路が含まれる。また、コーナ部分におけるサーボ送り速度の変化は、相対移動経路においてワイヤ電極2が被加工物Wのコーナを通過した後の直線経路上の地点で終了されてもよい。この場合、コーナ部分には、ワイヤ電極2がコーナを通過してから速度変化が終了される地点までの直線経路が含まれる。
【0031】
このような構成では、コーナ部分においてワイヤ電極2のサーボ送り速度が曲線的に変化するため、サーボ送り速度を直線的に変化させる場合と比較して、コーナ部分においてより好適なサーボ送り速度を実現して加工精度を向上させることができる。また、速度関数を用いてサーボ送り速度を設定するため、コーナ部分を多数の微小区間に分割して微小区間毎にサーボ送り速度を設定して曲線的に変化させる場合と比較して、より少ないデータでサーボ送り速度を曲線的に変化させることが可能となる。
【0032】
カット数を削減しながら加工精度の低下を防ぐ点において、とりわけ食込みが発生しやすいインコーナRを加工するときに本発明のサーボ送り速度の制御による効果が顕著である。したがって、少なくともインコーナRを加工する際に本発明のサーボ送り速度の制御方法を適用することで本発明は有効である。また、インコーナR以外のコーナ部分においても本発明のサーボ送り速度の制御方法を適用するようにすることによって、最適な速度分布を構築できるので、インコーナR以外のコーナ形状精度も向上させることが可能である。また、インコーナRだけを所定の速度関数を用いてサーボ送り速度を制御するときに比べて制御ソフトの構成をより簡単にすることができるとともに、例えば、複数のコーナ部分が連続する加工形状を加工するときにも制御ソフトの仕様が複雑化しないようにすることができる点でも有利である。
【0033】
電源制御部93は、加工条件設定部84により設定された電気的な加工条件に従って電源装置4を制御する。これにより、加工間隙に適時に所定の電圧が印加される。
【0034】
2.速度関数
コーナ部分におけるサーボ送り速度を規定する速度関数について、詳細に説明する。
【0035】
2.1.インコーナR部分
インコーナR部分における速度関数の好ましい構成について、図3に示すインコーナRの加工を例にとり説明する。なお、図3図5図7図9図10図13において、矢印を付した実線で示した相対移動経路は、詳細には、ワイヤ電極2の断面の中心が被加工物Wに対して相対的に移動する経路を示している。また、以下の説明において、ワイヤ電極2が相対移動経路上の地点に到達するとの記載は、ワイヤ電極2の断面の中心が当該地点に到達することを意味する。また、図3図5図7図9図10図13において、カット毎の被加工物Wの取り代は図示省略されており、被加工物Wの外縁は、ワイヤ電極2が相対移動経路に沿って放電加工を行って取り代を除去した後の外縁を示している。なお、図3おけるインコーナRの円弧形状の中心角度θRinは90°であるが、中心角度θRinはこの例に限定されるものではなく、0°<θRin<180°の範囲で設定可能である。
【0036】
図3に示す例において、ワイヤ電極2の相対移動経路は、地点Aを終点とする直線部分L、地点Aから地点AまでのインコーナR部分L、地点Aを始点とする直線部分Lをこの順に含む。加工負荷が略一定である直線部分Lを移動してくるワイヤ電極2が直線部分Lの終点(インコーナR部分Lの始点)である地点Aに到達すると、加工負荷が増加し始める。ワイヤ電極2がインコーナR部分Lの途中の地点Aに到達すると加工負荷が減少に転じ、インコーナR部分Lの終点(直線部分Lの始点)である地点Aにおいて加工負荷の減少が終了し、直線部分Lにおいては再び加工負荷が略一定となる。
【0037】
インコーナR部分Lにおけるワイヤ電極2の相対移動経路は、ワイヤ電極2の加工進行方向に沿って、アプローチ区間L2Aと、円弧区間L2Cと、リターン区間L2Rとをこの順に含むことが好ましい。図3に示す例において、アプローチ区間L2Aは地点Aから地点Aまでの間の直線状の区間であり、円弧区間L2Cは地点Aから地点Aを経由して地点Aまでの円弧状の区間であり、リターン区間L2Rは地点Aから地点Aまでの直線状の区間である。なお、地点Aは円弧区間L2Cを2等分する中間地点である。
【0038】
アプローチ区間L2A、円弧区間L2C、及びリターン区間L2Rにおける速度関数は、各区間の始点におけるサーボ送り速度から各区間の終点におけるサーボ送り速度までサーボ送り速度がワイヤ電極2の移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いてそれぞれ設定されることが好ましい。ここで、加工負荷が増加するアプローチ区間L2Aにおける速度関数は、サーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に減少するように設定されることが好ましい。また、加工負荷が減少するリターン区間L2Rにおける速度関数は、サーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に増加するように設定されることが好ましい。また、円弧区間L2Cにおける速度関数は、加工負荷が増加する区間(図3の例では、地点Aからから地点Aまでの区間)においてはサーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に減少し、加工負荷が減少する区間(図3の例では、地点Aから地点Aまでの区間)においてはサーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に増加するように設定されることが好ましい。
【0039】
図4は、図3に示す例においてベジエ曲線を用いて設定された、インコーナR部分Lの速度関数の一例を示すグラフである。グラフの横軸は、相対移動経路に沿ったワイヤ電極2の移動距離X(単位:mm)を示しており、横軸の原点(X=0)は円弧区間L2Cの中間地点Aに相当する。グラフの縦軸は、直線部分におけるサーボ送り速度を100%としたときのサーボ送り速度の相対値SF(単位:%)を示している。
【0040】
ベジエ曲線は、n+1個の制御点P,P,......,Pが設定された場合に下記式で表されるn次の曲線である。
式(1)中のは、式(2)で表される二項係数である。
パラメータtを0≦t≦1の範囲で変化させたときにP(t)が描く曲線が、制御点Pと制御点Pとを結ぶn次のベジエ曲線となる。なお、以下の説明において、ベジエ曲線の両端の制御点P,Pのうち、制御点Pに相当する点をベジエ曲線の始点、制御点Pに相当する点をベジエ曲線の終点と称する場合がある。
【0041】
速度関数を設定する際のベジエ曲線の次数は特に限定されないが、インコーナR部分Lについては、アプローチ区間L2Aにおける速度関数P(t)を3次のベジエ曲線を用いて、円弧区間L2Cにおける速度関数P(t)を2次のベジエ曲線を用いて、リターン区間L2Rにおける速度関数P(t)を3次のベジエ曲線を用いてそれぞれ設定することが好ましい。
【0042】
図4の例において、アプローチ区間L2Aの速度関数P(t)は、4つの点P-4,P-3,P-2,P-1を制御点とし、始点が点P-4であり、終点がP-1である3次のベジエ曲線である。円弧区間L2Cの速度関数P(t)は、3つの点P-1,P,Pを制御点とし、始点が点P-1であり、終点がPである2次のベジエ曲線である。また、リターン区間L2Rの速度関数P(t)は、4つの点P,P,P,Pを制御点とし、始点が点Pであり、終点がPである3次のベジエ曲線である。
【0043】
点P-4,P-3,P-2,P-1,P,P,P,P,Pの座標は、以下の通りである。
【0044】
ここで隣接するベジエ曲線が滑らかに接続されるように接点における曲線の傾きを一致させることが好ましい。具体的には、点P-1において隣り合う速度関数P(t)と速度関数P(t)は、点P-1において同じ傾きを有し、滑らかに繋がるように設定されることが好ましい。また、点Pにおいて隣り合う速度関数P(t)及び速度関数P(t)は、点Pにおいて同じ傾きを有し、滑らかに繋がるように設定されることが好ましい。この場合、線分P-1、線分Pの延長上にそれぞれ点P-2、点Pを設置する。そのため点P-2、点PのY座標値であるω-2,ωは、図4における三角形P-2-2'と三角形P-1-1'の相似比、及び三角形P'と三角形P'の相似比を利用して、それぞれ下記の式で計算することになる。
【0045】
ここで、Dはアプローチ区間L2Aの距離(アプローチ距離)を、Dは円弧区間L2Cの距離を、Dはリターン区間L2Rの距離(リターン距離)を示す。本発明においてコーナ部分の区間の距離とは、当該区間における相対移動経路の長さ(単位:mm)を意味する。従って、円弧区間L2Cの距離Dは、円弧区間L2Cにおける円弧状の相対移動経路の長さを意味する。例えば、Dは0.12mm、Dは0.09mm、であり、インコーナRの半径Rinが0.15mm、中心角度θRinが90°、オフセット距離(加工間隙距離)が0.105mmの場合、Dは約0.0707mmである。また、τ-2,τはアプローチ距離Dに対する相対値(単位:%)であり、0≦τ-2≦100,0≦τ≦100の範囲で適宜設定される値であり、例えば、τ-2=40、τ=50である。τ-3,τはリターン距離Dに対する相対値(単位:%)であり、0≦τ-3≦100,0≦τ≦100の範囲で設定される値であり、例えば、τ-3=50、τ=60である。ω,ω,ωは、それぞれ点P-1,P,Pにおけるサーボ送り速度の相対値(単位:%)であり、例えば、ω=35、ω=30、及びω=45である。
【0046】
制御点P-1,P,Pにより、円弧区間L2Cの速度関数P(t)は下記式のように定められる。
(t)=(X(t),Y(t)) (0≦t≦1) (16)
(t)=(1-t)-1+2(1-t)tX+t (17)
(t)=(1-t)-1+2(1-t)tY+t (18)
【0047】
制御点P-4,P-3,P-2,P-1により、アプローチ区間L2Aの速度関数P(t)は、下記式のように定められる。
(t)=(X(t),Y(t)) (0≦t≦1) (19)
(t)=(1-t)-4+3(1-t)tX-3+3(1-t)t-2+t-1 (20)
(t)=(1-t)-4+3(1-t)tY-3+3(1-t)t-2+t-1 (21)
【0048】
制御点P,P,P,Pにより、リターン区間L2Rの速度関数P(t)は、下記式のように定められる。
(t)=(X(t),Y(t)) (0≦t≦1) (22)
(t)=(1-t)+3(1-t)tX+3(1-t)t+t (23)
(t)=(1-t)+3(1-t)tY+3(1-t)t+t (24)
【0049】
なお、τ-2,τ、τ-3,τ,ω,ω,及びωは、例えば、事前調査として行われる試験加工においてコーナ部の加工形状精度が好適な値となるような値を探索することで設定可能である。
【0050】
上述のような速度関数では、サーボ送り速度が相対値SFとして規定されている。従って、カット毎に加工条件としてサーボ送り速度の基準値(例えば、直線部分におけるサーボ送り速度の絶対値)が異なる場合においても、速度関数を用いて当該基準値の補正値を求めることで、コーナ部分の好適なサーボ送り速度を設定することが可能となる。この場合、NCデータの指令ブロック毎に速度パラメータを設定する必要がないため、比較的少ないデータ量でサーボ送り速度の制御が可能であり、また、サーボ送り速度の制御条件を変更する際のNCプログラムの変更の負担が軽減される。
【0051】
2.2.アウトコーナR部分
速度関数は、コーナ^部分のアウトコーナR部分においてサーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定されることが好ましい。アウトコーナR部分における速度関数の好ましい構成について、図5に示すアウトコーナRの加工を例にとり説明する。なお、図5におけるアウトコーナRの円弧形状の中心角度θRoutは90°であるが、中心角度θRoutはこの例に限定されるものではなく、0°<θRout<180°の範囲で設定可能である。
【0052】
図5に示す例において、ワイヤ電極2の相対移動経路は、地点Aを終点とする直線部分L、地点Aから地点A10までのアウトコーナR部分L、地点A10を始点とする直線部分Lをこの順に含む。加工負荷が略一定である直線部分Lを移動していたワイヤ電極2が直線部分Lの終点(アウトコーナR部分Lの始点)である地点Aに到達すると、加工負荷が減少し始める。ワイヤ電極2がアウトコーナR部分Lの途中の地点Aに到達すると加工負荷が増加に転じ、アウトコーナR部分Lの終点(直線部分Lの始点)である地点A10において加工負荷の増加が終了し、直線部分Lにおいては再び加工負荷が略一定となる。
【0053】
アウトコーナR部分Lにおけるワイヤ電極2の相対移動経路は、ワイヤ電極2の進行方向に沿って、アプローチ区間L5Aと、円弧区間L5Cと、リターン区間L5Rとをこの順に含むことが好ましい。図5に示す例において、アプローチ区間L5Aは地点Aから地点Aまでの間の直線状の区間であり、円弧区間L5Cは地点Aから地点Aを経由して地点Aまでの円弧状の区間であり、リターン区間L5Rは地点Aから地点A10までの直線状の区間である。なお、地点Aは円弧区間L5Cを2等分する中間地点である。
【0054】
アプローチ区間L5A、円弧区間L5C、及びリターン区間L5Rにおける速度関数は、各区間の始点におけるサーボ送り速度から各区間の終点におけるサーボ送り速度までサーボ送り速度がワイヤ電極2の移動距離に対して曲線的に変化するようにベジエ曲線を用いてそれぞれ設定されることが好ましい。ここで、加工負荷が減少するアプローチ区間L5Aにおける速度関数は、サーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に増加するように設定されることが好ましい。また、加工負荷が増加するリターン区間L5Rにおける速度関数は、サーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に減少するように設定されることが好ましい。また、円弧区間L5Cにおける速度関数は、加工負荷が減少する区間(図5の例では、地点Aからから地点Aまでの区間)においてはサーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に増加し、加工負荷が増加する区間(図5の例では、地点Aから地点Aまでの区間)においてはサーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に減少するように設定されることが好ましい。
【0055】
図6は、図5に示す例においてベジエ曲線を用いて設定された、アウトコーナR部分Lの速度関数の一例を示すグラフである。グラフの横軸は、相対移動経路に沿ったワイヤ電極2の移動距離X(単位:mm)を示しており、横軸の原点(X=0)は円弧区間L5Cの中間地点Aに相当する。グラフの縦軸は、直線部分におけるサーボ送り速度を100%としたときのサーボ送り速度の相対値SF(単位:%)を示している。
【0056】
速度関数を設定する際のベジエ曲線の次数は特に限定されないが、アウトコーナR部分Lについては、アプローチ区間L5Aにおける速度関数P(t)を3次のベジエ曲線を用いて、円弧区間L5Cにおける速度関数P(t)を2次のベジエ曲線を用いて、リターン区間L5Rにおける速度関数P(t)を3次のベジエ曲線を用いてそれぞれ設定することが好ましい。
【0057】
図6の例において、アプローチ区間L5Aの速度関数P(t)は、4つの点P-4,P-3,P-2,P-1を制御点とし、始点が点P-4であり、終点がP-1である3次のベジエ曲線である。円弧区間L5Cの速度関数P(t)は、3つの点P-1,P,Pを制御点とし、始点が点P-1であり、終点がPである2次のベジエ曲線である。また、リターン区間L5Rの速度関数P(t)は、4つの点P,P,P,Pを制御点とし、始点が点Pであり、終点がPである3次のベジエ曲線である。
【0058】
点P-4,P-3,P-2,P-1,P,P,P,P,Pの座標、及び速度関数P(t),P(t),P(t)の設定方法は、上述のインコーナR部分Lの速度関数と同様であるため、詳細な説明は割愛する。ω-2,ωの計算方法についてもインコーナRと同様である。なお、アプローチ区間L5Aの距離D、円弧区間L5Cの距離D、リターン区間L5Rの距離Dについて、例えば、Dは0.1mm、Dは0.1mmであり、アウトコーナRの半径Routが0.02mm、中心角度θRoutが90°、オフセット距離が0.105mmの場合Dは約0.196mmである。また、τ-2,τについて、例えば、τ-2=40、τ=40である。τ-3,τについて、例えば、τ-3=60、τ=80である。ω,ω,及びωについて、例えば、ω=300、ω=350、及びω=280である。
【0059】
2.3.インコーナエッジ部分
速度関数は、インコーナエッジ部分においてサーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定されることが好ましい。インコーナエッジ部分における速度関数の好ましい構成について、図7に示すインコーナエッジの加工を例にとり説明する。なお、図7におけるインコーナエッジのコーナ角度θEin(コーナを形成する2本の直線の輪郭線がなす角度)は90°であるが、コーナ角度θEinはこの例に限定されるものではなく、0°<θEin<180°の範囲で設定可能である。
【0060】
図7に示す例において、ワイヤ電極2の相対移動経路は、地点A11を終点とする直線部分L、地点A11から地点A13までのインコーナエッジ部分L、地点A13を始点とする直線部分Lをこの順に含む。加工負荷が略一定である直線部分Lを移動していたワイヤ電極2が直線部分Lの終点(インコーナエッジ部分Lの始点)である地点A11に到達すると、加工負荷が増加し始める。ワイヤ電極2がインコーナエッジ部分Lの途中のエッジA12に到達すると加工負荷が減少に転じ、インコーナエッジ部分Lの終点(直線部分Lの始点)である地点A13において加工負荷の減少が終了し、直線部分Lにおいては再び加工負荷が略一定となる。
【0061】
インコーナエッジ部分Lにおけるワイヤ電極2の相対移動経路は、ワイヤ電極2の進行方向に沿って、アプローチ区間L8Aと、リターン区間L8Rとをこの順に含むことが好ましい。図7に示す例において、アプローチ区間L8Aは地点A11から地点A12までの間の直線状の区間であり、リターン区間L8Rは地点A12から地点A13までの直線状の区間である。
【0062】
アプローチ区間L8A及びリターン区間L8Rにおける速度関数は、各区間の始点におけるサーボ送り速度から各区間の終点におけるサーボ送り速度までサーボ送り速度がワイヤ電極2の移動距離に対して曲線的に変化するようにベジエ曲線を用いてそれぞれ設定されることが好ましい。ここで、加工負荷が増加するアプローチ区間L8Aにおける速度関数は、サーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に減少するように設定されることが好ましい。また、加工負荷が減少するリターン区間L8Rにおける速度関数は、サーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に増加するように設定されることが好ましい。
【0063】
図8は、図7に示す例においてベジエ曲線を用いて設定された、インコーナエッジ部分Lの速度関数の一例を示すグラフである。グラフの横軸は、相対移動経路に沿ったワイヤ電極2の移動距離X(単位:mm)を示しており、横軸の原点(X=0)は、相対移動経路においてアプローチ区間L8Aとリターン区間L8Rとの境界である地点A12に相当する。グラフの縦軸は、直線部分におけるサーボ送り速度を100%としたときのサーボ送り速度の相対値SF(単位:%)を示している。
【0064】
速度関数を設定する際のベジエ曲線の次数は特に限定されないが、インコーナエッジ部分Lについては、アプローチ区間L8Aにおける速度関数P(t)、及びリターン区間L8Rにおける速度関数P(t)を、それぞれ3次のベジエ曲線を用いて設定することが好ましい。
【0065】
図8の例において、アプローチ区間L8Aの速度関数P(t)は、4つの点P-3,P-2,P-1,Pを制御点とし、始点が点P-3であり、終点がPである3次のベジエ曲線である。また、リターン区間L8Rの速度関数P(t)は、4つの点P,P,P,Pを制御点とし、始点が点Pであり、終点がPである3次のベジエ曲線である。
【0066】
点P-3,P-2,P-1,P,P,P,Pの座標は、以下の通りである。
【0067】
ここで、Dはアプローチ区間L8Aの距離を、Dはリターン区間L8Rの距離を示す。例えば、Dは0.1mm、Dは0.1mmである。また、τ-1,τはアプローチ距離Dに対する相対値(単位:%)であり、0≦τ-1≦100,0≦τ≦100の範囲で適宜設定される値であり、例えば、τ-1=80、τ=50である。τ-2,τリターン距離Dに対する相対値(単位:%)でありは、0≦τ-2≦100,0≦τ≦100の範囲で適宜設定される値であり、例えば、τ-2=50、τ=50である。ωは、点Pにおけるサーボ送り速度の相対値(単位:%)であり、例えば、ω=5である。
【0068】
なお、地点A12においては、インコーナエッジの頂点を高精度で形成するために、ワイヤ電極2を所定のドゥエル時間停止させてもよい。図8の例においては、ワイヤ電極2がアプローチ区間L8Aの終点である地点A12に到達した時点でサーボ送り速度を瞬時にωから0に減少させて(グラフ上では、点Pから点TDowellへ速度を減少させて)ワイヤ電極2を停止させ、所定のドゥエル時間経過後にサーボ送り速度を瞬時にωまで増加させて(グラフ上では、点TDowellから点Pへ速度を増加させて)、リターン区間L8Rの始点である地点A12から移動を再開させている。なお、点Pにおけるサーボ送り速度ωを0としてもよい。この場合、地点A12における瞬時の変速が不要となる。
【0069】
制御点P-3,P-2,P-1,Pにより、アプローチ区間L8Aの速度関数P(t)は、下記式のように定められる。
(t)=(X(t),Y(t)) (0≦t≦1) (32)
(t)=(1-t)-3+3(1-t)tX-2+3(1-t)t-1+t (33)
(t)=(1-t)-3+3(1-t)tY-2+3(1-t)t-1+t (34)
【0070】
制御点P,P,P,Pにより、リターン区間L8Rの速度関数P(t)は、下記式のように定められる。
(t)=(X(t),Y(t)) (0≦t≦1) (35)
(t)=(1-t)+3(1-t)tX+3(1-t)t+t (36)
(t)=(1-t)+3(1-t)tY+3(1-t)t+t (37)
【0071】
2.4.アウトコーナエッジ部分
速度関数は、アウトコーナエッジ部分においてサーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定されることが好ましい。アウトコーナエッジ部分における速度関数の好ましい構成について、図9に示すアウトコーナエッジ部分の加工を例にとり説明する。なお、図9におけるアウトコーナエッジ部分のコーナ角度θEout(コーナを形成する2本の直線の輪郭線がなす角度のうち、被加工物W側の角度)は75°であるが、コーナ角度θEoutはこの例に限定されるものではなく、0°<θEout<180°の範囲で設定可能である。
【0072】
図9に示す例において、ワイヤ電極2の相対移動経路は、地点A14を終点とする直線部分L11、地点A14から地点A20までのアウトコーナエッジ部分L12、地点A20を始点とする直線部分L13をこの順に含む。加工負荷が略一定である直線部分L11を移動していたワイヤ電極2が直線部分L11の終点(アウトコーナエッジ部分L12の始点)である地点A14に到達すると、加工負荷が減少し始める。ワイヤ電極2がアウトコーナエッジ部分L12を移動し、アウトコーナエッジの頂点(図9の平面図において、コーナを形成する2本の直線の輪郭線の交点)付近の地点A15から地点A19までの経路で加工負荷が0となった後、加工負荷が増加し始め、アウトコーナエッジ部分L12の終点(直線部分L13の始点)である地点A20において加工負荷の増加が終了し、直線部分L13においては再び加工負荷が略一定となる。
【0073】
アウトコーナエッジ部分L12におけるワイヤ電極2の相対移動経路は、ワイヤ電極2の進行方向に沿って、アプローチ区間L12Aと、アプローチ側回避区間L12AEと、スキップ区間L12Sと、リターン側回避区間L12REと、リターン区間L12Rとをこの順に含むことが好ましい。図9に示す例において、アプローチ区間L12Aは地点A14から地点A15までの間の直線状の区間であり、アプローチ側回避区間L12AEは地点A15から地点A16までの間の直線状の区間であり、スキップ区間L12Sは地点A16から地点A17を経由して地点A18までの間の直線状の区間であり、リターン側回避区間L12REは地点A18から地点A19までの間の直線状の区間であり、リターン区間L12Rは地点A19から地点A20までの直線状の区間である。なお、地点A17はスキップ区間L12Sを2等分する中間地点である。
【0074】
なお、図9の例では、アプローチ区間L12A及びアプローチ側回避区間L12AEと、リターン側回避区間L12RE及びリターン区間L12Rとが、それぞれ同一直線上に存在するように設定されているが、アウトコーナエッジ部分L12における相対移動経路の設定はこの例に限定されるものではない。例えば、図10に示すように、アプローチ側回避区間L12AE及びリターン側回避区間L12REが、それぞれ被加工物Wから遠ざかる向きにアプローチ区間L12A及びリターン区間L12Rに対して折れ曲がるように設定されてもよい。
【0075】
アプローチ区間L12A、アプローチ側回避区間L12AE、リターン側回避区間L12RE、及びリターン区間L12Rにおける速度関数は、各区間の始点におけるサーボ送り速度から各区間の終点におけるサーボ送り速度までサーボ送り速度がワイヤ電極2の移動距離に対して曲線的に変化するようにベジエ曲線を用いてそれぞれ設定されることが好ましい。ここで、加工負荷が減少するアプローチ区間L12A及びアプローチ側回避区間L12AEにおける速度関数は、サーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に増加するように設定されることが好ましい。また、加工負荷が増加するリターン側回避区間L12RE及びリターン区間L12Rにおける速度関数は、サーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に減少するように設定されることが好ましい。
【0076】
スキップ区間L12Sは、アウトコーナエッジの頂点を高精度で形成するために設けられる相対移動経路である。スキップ区間L12Sにおいては、ワイヤ電極2を高速で瞬時に地点A16から地点A18まで移動させることが好ましい。本実施形態では、スキップ区間L12Sにおける速度関数P(t)が、サーボ送り速度が移動距離に対して一定となるように設定される。
【0077】
図11は、図9に示す例においてベジエ曲線を用いて設定された、アウトコーナエッジ部分L12の速度関数の一例を示すグラフである。グラフの横軸は、相対移動経路に沿ったワイヤ電極2の移動距離X(単位:mm)を示しており、横軸の原点(X=0)は、スキップ区間L12Sの中間地点A17に相当する。グラフの縦軸は、直線部分におけるサーボ送り速度を100%としたときのサーボ送り速度の相対値SF(単位:%)を示している。
【0078】
速度関数を設定する際のベジエ曲線の次数は特に限定されないが、アウトコーナエッジ部分L12については、アプローチ区間L12Aにおける速度関数P(t)、アプローチ側回避区間L12AEにおける速度関数PAE(t)、リターン側回避区間L12REにおける速度関数PRE(t)、及びリターン区間L12Rにおける速度関数P(t)を、それぞれ2次のベジエ曲線を用いて設定することが好ましい。
【0079】
図11の例において、アプローチ区間L12Aの速度関数P(t)は、3つの点P-5,P-4,P-3を制御点とし、始点が点P-5であり、終点がP-3である2次のベジエ曲線である。アプローチ側回避区間L12AEの速度関数PAE(t)は、3つの点P-3,P-2,P-1を制御点とし、始点が点P-3であり、終点がP-1である2次のベジエ曲線である。リターン側回避区間L12REの速度関数PRE(t)は、3つの点P,P,Pを制御点とし、始点が点Pであり、終点がPである2次のベジエ曲線である。リターン区間L12Rの速度関数P(t)は、3つの点P,P,Pを制御点とし、始点が点Pであり、終点がPである2次のベジエ曲線である。
【0080】
点P-5,P-4,P-3,P-2,P-1,P,P,P,P,Pの座標は、以下の通りである。
【0081】
ここで点P-3,点Pで隣接するベジエ曲線が滑らかに接続されるように接点における曲線の傾きを一致させることが好ましい。具体的には線分P-4-3,線分Pの延長上にそれぞれ点P-2,点Pを設置する。そのため点P-2,点PのY座標値であるω-2,ωはそれぞれ下記の式で計算することができる。
【0082】
ここで、Dはアプローチ区間L12Aの距離を、Dはリターン区間L12Rの距離を示す。例えば、Dは0.1mm、Dは0.1mmである。また、Hはアプローチ側回避区間L12AEの距離を示し、これは、例えば、アプローチ区間L12Aにおけるオフセット距離と等しく設定することができる。Hは、リターン側回避区間L12REの距離を示し、これは、例えば、リターン区間L12Rにおけるオフセット距離と等しく設定することができる。また、τ-4,τはそれぞれアプローチ距離D、リターン距離Dに対する相対値(単位:%)であり、0≦τ-4≦100,0≦τ≦100の範囲で適宜設定される値であり、例えば、τ-4=50、τ=60である。ω,ωは、それぞれ点P-3,Pにおけるサーボ送り速度の相対値(単位:%)であり、例えば、ω=300、ω=600である。ωsは、点P-1から点P1におけるサーボ送り速度の相対値(単位:%)であり、例えば、ω=10000である。
【0083】
制御点P-5,P-4,P-3により、アプローチ区間L12Aの速度関数P(t)は、下記式のように定められる。
(t)=(X(t),Y(t)) (0≦t≦1) (52)
(t)=(1-t)-5+2(1-t)tX-4+t-3 (53)
(t)=(1-t)-5+2(1-t)tY-4+t-3 (54)
【0084】
制御点P-3,P-2,P-1により、アプローチ側回避区間L12AEの速度関数PAE(t)は、下記式のように定められる。
AE(t)=(XAE(t),YAE(t)) (0≦t≦1) (55)
AE(t)=(1-t)-3+2(1-t)tX-2+t-1 (56)
AE(t)=(1-t)-3+2(1-t)tY-2+t-1 (57)
【0085】
制御点P,P,Pにより、リターン側回避区間L12REの速度関数PRE(t)は、下記式のように定められる。
RE(t)=(XRE(t),YRE(t)) (0≦t≦1) (58)
RE(t)=(1-t)+2(1-t)tX+t (59)
RE(t)=(1-t)+2(1-t)tY+t (60)
【0086】
制御点P,P,Pにより、リターン区間L12Rの速度関数P(t)は、下記式のように定められる。
(t)=(X(t),Y(t)) (0≦t≦1) (61)
(t)=(1-t)+2(1-t)tX+t (62)
(t)=(1-t)+2(1-t)tY+t (63)
【0087】
また、スキップ区間L12Sにおける速度関数P(t)は、下記式のように定められる。
(t)=(X(t),Y(t)) (0≦t≦1) (64)
(t)=(1-t)X-1+tX (65)
(t)=ω (66)
【0088】
放電加工においては、毎回の放電後に、加工間隙に発生した加工屑の排出及び冷却のために加工間隙における電圧の印加を停止する放電休止時間が設けられる。アウトコーナエッジの加工においては、加工精度の向上を目的として、直線部分の加工時よりも放電休止時間を延長する場合がある。アウトコーナエッジ部分L12において、アウトコーナエッジ部分L12における相対移動経路に沿ったワイヤ電極2の移動距離に対する放電休止時間を規定する休止時間関数を設定し、アウトコーナエッジ部分L12においては休止時間関数を用いて設定した放電休止時間に基づいてワイヤ電極2と被加工物Wとの間に電圧を印加することが好ましい。本実施形態では、休止時間関数は、電気的な加工条件として制御装置9の加工条件設定部84により設定される。
【0089】
休止時間関数は、放電休止時間がワイヤ電極2の移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定されることが好ましい。図12は、図9に示す例においてベジエ曲線を用いて設定された、アウトコーナエッジ部分L12の休止時間関数の一例を示すグラフである。グラフの横軸は、相対移動経路に沿ったワイヤ電極2の移動距離X(単位:mm)を示しており、横軸の原点(X=0)は、スキップ区間L12Sの中間地点A17に相当する。グラフの縦軸は、直線部分における放電休止時間を100%としたときの放電休止時間の相対値OFF(単位:%)を示している。
【0090】
休止時間関数を設定する際のベジエ曲線の次数は特に限定されないが、アプローチ区間L12Aにおける休止時間関数P OFF(t)、アプローチ側回避区間L12AEにおける休止時間関数PAE OFF(t)、リターン側回避区間L12REにおける休止時間関数PRE OFF(t)、及びリターン区間L12Rにおける休止時間関数P OFF(t)を、それぞれ2次のベジエ曲線を用いて設定することが好ましい。
【0091】
図12の例において、アプローチ区間L12Aの休止時間関数P OFF(t)は、3つの点P-5 OFF,P-4 OFF,P-3 OFFを制御点とし、始点が点P-5 OFFであり、終点がP-3 OFFである2次のベジエ曲線である。アプローチ側回避区間L12AEの休止時間関数PAE OFF(t)は、3つの点P-3 OFF,P-2 OFF,P-1 OFFを制御点とし、始点が点P-3 OFFであり、終点がP-1 OFFである2次のベジエ曲線である。リターン側回避区間L12REの休止時間関数PRE OFF(t)は、3つの点P OFF,P OFF,P OFFを制御点とし、始点が点P OFFであり、終点がP OFFである2次のベジエ曲線である。リターン区間L12Rの休止時間関数P OFF(t)は、3つの点P OFF,P OFF,P OFFを制御点とし、始点が点P OFFであり、終点がP OFFである2次のベジエ曲線である。
【0092】
点P-5 OFF,P-4 OFF,P-3 OFF,P-2 OFF,P-1 OFF,P OFF,P OFF,P OFF,P OFF,P OFFの座標、及び休止時間関数P OFF(t),PAE OFF(t),PRE OFF(t),P OFF(t)の設定方法、およびω-2 OFF,ω OFF(点P-2 OFF,P OFFのY座標の値)の計算方法は、上述のアウトコーナエッジ部分L12の速度関数と同様であるため、詳細な説明は割愛する。
【0093】
2.5.連続コーナ
被加工物Wに対してワイヤ電極2が相対移動する際の経路は、複数のコーナ部分が連続して構成される連続コーナ部分を含んでもよい。2つのコーナ(それぞれ、第1コーナ、第2コーナと称する)が連続して構成される連続コーナの加工において、当該連続コーナを加工するための連続コーナ部分におけるワイヤ電極2の経路は、第1コーナ部分と、接続部分と、第2コーナ部分とをこの順に連続して含むことが好ましい。なお、本発明における連続コーナには、コーナ間に直線状の加工対象部位が存在する場合も含まれる。具体的には第1コーナのリターン部の終点よりも第2コーナのアプローチ開始点の方が前にある場合を連続コーナとして扱うことが好ましい。このときに第1コーナと第2コーナを接続する速度分布を、ベジエ曲線を使用して設定するのだが、第1コーナと第2コーナの制御点の位置関係によりその最適な設定方法は違ってくる。また、連続コーナの組み合わせもインコーナR、アウトコーナR、インコーナエッジ、アウトコーナエッジの重複順列の組み合わせになるので複数のパターンが存在する。すべてのパターンを説明すると膨大な紙面数になるため、今回は第1コーナがインコーナR、第2コーナはアウトRの場合で、第2コーナのアプローチ開始点が第1コーナの円弧部に入り込まない場合に限定して説明を行うことにする。
【0094】
連続コーナ部分における速度関数の好ましい構成について、図13に示す連続コーナの加工を例にとり説明する。本例においては、第1コーナはインコーナR(円弧形状の中心角度θRin=90°)であり、第2コーナはアウトコーナR(円弧形状の中心角度θRout=90°)である。ワイヤ電極2は、地点A21から地点A28までの連続コーナ部分を、第1コーナ部分L14、接続部分L15、第2コーナ部分L16の順に移動して、第1コーナ、第2コーナの順に放電加工を行う。
【0095】
第1コーナ部分L14は第1コーナを加工するための経路であり、ワイヤ電極2の進行方向に沿ってアプローチ区間L14Aと、円弧区間L14Cとをこの順に含む。アプローチ区間L14Aは、地点A21から地点A22までの間の直線状の区間であり、円弧区間L14Cは、地点A22から地点A23を経由して地点A24までの円弧状の区間である。なお、地点A23は、円弧区間L14Cを2等分する中間地点である。
【0096】
第2コーナ部分L16は第2コーナを加工するための経路であり、ワイヤ電極2の進行方向に沿って円弧区間L16Cと、リターン区間L16Rとをこの順に含む。円弧区間L16Cは、地点A25から地点A26を経由して地点A27までの円弧状の区間であり、リターン区間L16Rは地点A27から地点A28までの直線状の区間である。なお、地点A26は円弧区間L16Cを2等分する中間地点である。
【0097】
接続部分L15は、第1コーナ部分L14と第2コーナ部分L16を接続する経路である。図13の例において、接続部分L15は、地点A24から地点A25までの直線状の経路である。本例においては、ワイヤ電極2が第1コーナ部分L14のアプローチ区間L14Aの始点である地点A21に到達すると、加工負荷が増加し始め、第1コーナ部分L14の円弧区間L14Cの中間地点A23において加工負荷が増加から減少に転じる。その後、第2コーナ部分L16の円弧区間L16Cの中間地点A26まで、加工負荷が減少し続け、中間地点A26において加工負荷が減少から増加に転じ、第2コーナ部分L16のリターン区間L16Rの地点A28まで、加工負荷が増加する。つまり、第1コーナを単独コーナとして加工する場合のワイヤ電極2の移動経路におけるリターン区間に、第2コーナを単独コーナとして加工する場合のワイヤ電極2の移動経路におけるアプローチ区間の開始点が存在している。
【0098】
図14は、図13に示す例においてベジエ曲線を用いて設定された、連続コーナ部分Lの速度関数の一例を示すグラフである。グラフの横軸は、相対移動経路に沿ったワイヤ電極2の移動距離X(単位:mm)を示しており、横軸の原点(X=0)は第1コーナ部分L14の円弧区間L14Cの中間地点A23に相当する。グラフの縦軸は、直線部分におけるサーボ送り速度を100%としたときのサーボ送り速度の相対値SF(単位:%)を示している。
【0099】
第1コーナ部分L14のアプローチ区間L14Aの速度関数PA1(t)及び円弧区間L14Cの速度関数PC1(t)については、上述のインコーナR部分Lにおける速度関数と同様に設定可能である。また、第2コーナ部分L16の円弧区間L16Cの速度関数PC2(t)及びリターン区間L16Rの速度関数PR2(t)については、上述のアウトコーナR部分Lにおける速度関数と同様に設定可能である。
【0100】
接続部分L15における速度関数P(t)は、第1コーナ部分L14の終点である地点A24におけるサーボ送り速度から第2コーナ部分L16の始点である地点A25におけるサーボ送り速度まで、サーボ送り速度がワイヤ電極2の移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定されることが好ましい。図14の例においては、点Pから点P-1までを結ぶ速度関数P(t)のグラフが、曲線を描くことが好ましい。速度関数P(t)を設定する際のベジエ曲線の次数は特に限定されないが、連続コーナ部分を構成する複数のコーナ部分の少なくとも1つがインコーナR部分である場合には、3次のベジエ曲線を用いて速度関数P(t)を設定することが好ましい。
【0101】
このような構成では、第1コーナ部分L14の速度関数と第2コーナ部分L16の速度関数が、接続部分L15の速度関数P(t)により緩やかな曲線により接続される。これにより、連続コーナ部分においてワイヤ電極2のサーボ送り速度を曲線的に変化させ、より好適なサーボ送り速度を実現して加工精度を向上させることができる。
【0102】
接続部分L15における速度関数P(t)の設定の一例を、以下に説明する。図14において、破線で示した速度関数PR1(t)は、第1コーナを単独のインコーナRとして加工する場合の、インコーナR部分のリターン区間における速度関数である。速度関数PR1(t)は、上述のインコーナR部分Lにおける速度関数と同様に設定可能である。図14の例において、速度関数PR1(t)は、4つの点P,P,P,Pを制御点とし、始点が点Pであり、終点がPである3次のベジエ曲線である。
【0103】
点P,Pの座標は、以下の通りである。
ここで、DC1は第1コーナ部分L14の円弧区間L14Cの距離を、DR1は第1コーナを単独のインコーナRとして加工する場合のリターン区間の距離を示す。ω及びωは、それぞれ点P,Pにおけるサーボ送り速度の相対値(単位:%)である。τは、0≦τ≦100の範囲で適宜設定される値である。
【0104】
図14において、破線で示した速度関数PA2(t)は、第2コーナを単独のアウトコーナRとして加工する場合の、アウトコーナR部分のアプローチ区間における速度関数である。速度関数PA2(t)は、上述のアウトコーナR部分Lにおける速度関数と同様に設定可能である。図14の例において、速度関数PA2(t)は、4つの点P-4,P-3,P-2,P-1を制御点とし、始点が点P-4であり、終点がP-1である3次のベジエ曲線である。
【0105】
点P-2,P-1の座標は、以下の通りである。
ここで、DA2は、第2コーナを単独のアウトコーナRとして加工する場合のアプローチ区間の距離を示す。Lは、接続部分L15の距離を示す。ω-2及びωは、それぞれ点P-2,P-1におけるサーボ送り速度の相対値(単位:%)である。τ-2は、0≦τ-2≦100の範囲で適宜設定される値である。
【0106】
接続部分L15における速度関数P(t)は、4つの制御点P,P,P-2,P-1による3次のベジエ曲線を用いて下記式のように定められる。
(t)=(X(t),Y(t)) (0≦t≦1) (71)
(t)=(1-t)+3(1-t)tX+3(1-t)t-2+t-1 (72)
(t)=(1-t)+3(1-t)tY+3(1-t)t-2+t-1 (73)
【0107】
なお、第1コーナ部分L14と第2コーナ部分L16の接続態様は、上述の例に限定されるものではない。例えば、第1コーナを単独コーナとして加工する場合のワイヤ電極2の移動経路における円弧区間に、第2コーナを単独コーナとして加工する場合のワイヤ電極2の移動経路におけるアプローチ区間の開始点が存在していてもよい。
【0108】
また、第1コーナ及び第2コーナは、それぞれ、インコーナR、アウトコーナR、インコーナエッジ、及びアウトコーナエッジの何れであってもよい。また、連続コーナは、上述の例のように2つのコーナが連続して構成されるものに限定されるものではなく、3つ以上のコーナが連続して構成されるものであってもよい。
【0109】
3.ワイヤ放電加工方法
次に、本実施形態に係るワイヤ放電加工装置100を用いた被加工物Wのワイヤ放電加工方法について説明する。
【0110】
本実施形態のワイヤ放電加工方法は、関数設定工程を含む。関数設定工程では、ワイヤ電極2の経路を直線部分とコーナ部分とに分けてコーナ部分における経路に沿った移動距離に対するサーボ送り速度を規定する速度関数を設定する。具体的には、制御装置9のサーボ条件設定部83が、加工対象のコーナ形状やサイズ、カット数等の条件に基づいて、速度関数を設定する。サーボ制御部92は、設定された速度関数を用いてコーナ部分におけるサーボ送り速度を設定し、サーボ送り速度に従ったサーボ指令データを移動制御部91に出力する。移動制御部91は、サーボ指令データ、及び司令部から出力された移動指令データに従って移動装置5を制御する。これにより、ワイヤ電極2が所定の加工間隙を維持しながら所定の経路及びサーボ送り速度に従って被加工物Wに対して相対移動する。
【0111】
また、ワイヤ放電加工方法は、NCプログラムを解読してコーナ部分におけるコーナの種類を解析する工程(コーナ解析工程)と、解析されたコーナの種類がインコーナR部分であるときはインコーナR部分においてインコーナR部分に適する予めベジエ曲線を用いて設定されている速度関数に基づいて移動距離に対して曲線的に変化するようにサーボ送り速度を制御する工程とを含むことが好ましい。さらに、ワイヤ放電加工方法は、コーナ部分をインコーナR部分、アウトコーナR部分、インコーナエッジ部分、アウトコーナエッジ部分に分けて、上述のコーナ解析工程において解析されたコーナの種類がインコーナR部分以外のコーナ部分であるときはそれぞれのコーナ部分において各コーナ部分の種類に適するベジエ曲線を用いて設定されている速度関数に基づいて移動距離に対して曲線的に変化するようにサーボ送り速度を制御する工程を含むことがより好ましい。
【0112】
このような構成においては、コーナの種類に応じて最適な速度分布を構築して、加工精度の低下をより好適に抑制することが可能となる。なお、一例として、制御装置9の解読部82がNCプログラムを解読することでコーナの種類を解析してサーボ条件設定部83に出力し、サーボ条件設定部83が各コーナ部分の種類に適する速度関数を設定し、設定された速度関数に基づいてサーボ制御部92がサーボ送り速度を設定することで、上述のような制御が行われる。
【0113】
以上、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0114】
1 :加工機本体
2 :ワイヤ電極
3 :ワイヤガイド機構
4 :電源装置
5 :移動装置
8 :数値制御部
9 :制御装置
10 :テーブル
11 :ワークスタンド
20 :サドル
31 :上側ガイドアセンブリ
32 :下側ガイドアセンブリ
33 :ハウジング
34 :ワイヤガイド
35 :通電体
81 :入力部
82 :解読部
83 :サーボ条件設定部
84 :加工設定部
85 :指令部
86 :記憶部
91 :移動制御部
92 :サーボ制御部
93 :電源制御部
100 :ワイヤ放電加工装置
【要約】
【課題】被加工物のコーナの加工精度を向上させることが可能であり、比較的少ないデータ量で送り速度の制御が可能なワイヤ放電加工装置及びワイヤ放電加工方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、移動体を駆動する移動装置と、制御装置とを備えるワイヤ放電加工装置であって、移動装置は、所定の経路及び所定のサーボ送り速度に従ってワイヤ電極と被加工物との間の所定の間隙を維持するようにしながら被加工物に対してワイヤ電極を経路に沿って加工進行方向に相対移動させて被加工物を加工するように構成され、制御装置は、経路のコーナ部分におけるワイヤ電極の移動距離に対するサーボ送り速度を規定する速度関数を設定するように構成され、速度関数は、コーナ部分の少なくともインコーナR部分においてサーボ送り速度が移動距離に対して曲線的に変化するように、ベジエ曲線を用いて設定されることを特徴とするワイヤ放電加工装置が提供される。
【選択図】図1
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