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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】保守支援装置および保守支援方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/20 20230101AFI20240827BHJP
【FI】
G06Q10/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023202148
(22)【出願日】2023-11-29
【審査請求日】2023-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯田 晋也
(72)【発明者】
【氏名】梶田 修平
(72)【発明者】
【氏名】野田 統治郎
(72)【発明者】
【氏名】武田 貴宏
【審査官】関 博文
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-62208(JP,A)
【文献】特開2018-173793(JP,A)
【文献】特開2022-177561(JP,A)
【文献】特開2011-227706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械設備の異常予兆に対する保守を行う際の保守作業を支援する保守支援装置であって、
前記保守支援装置は処理部を含み、
前記処理部は、
前記異常予兆を検出した診断時期と前記異常予兆の名称を示す異常予兆名称と前記異常予兆に起因する異常が発生する異常発生時期と、を含む異常予兆情報を取得する機能と、
前記診断時期と前記異常予兆名称と前記異常発生時期とに基づき、保守作業データベースから前記異常予兆を対策する前記保守作業の関連情報を抽出して保守作業情報を構成する機能と、
部品データベースから前記保守作業に必要な部品の関連情報を抽出して部品情報を構成する機能と、
前記異常予兆に伴うGHG排出量が大きくなるほど、緊急度合いが高くなるように、前記保守作業の緊急度合いを示す対策緊急度を算出する機能と、
前記保守作業情報と前記部品情報と前記対策緊急度と、を含む保守支援情報を生成する機能と、を備える
ことを特徴とする保守支援装置。
【請求項2】
前記処理部は、
前記異常予兆名称に基づき、劣化原因データベースから劣化原因を抽出し、
環境性能データベースから前記劣化原因に対応するGHG排出係数を読み出し、
前記GHG排出係数を用いて算出したGHG排出量に基づいて前記対策緊急度を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の保守支援装置。
【請求項3】
前記処理部は、
前記GHG排出係数のうち、前記劣化原因に基づく異常発生前に適用されるものと、異常発生後に適用されるものと、を用いて前記対策緊急度を決定することにより、異常発生前および異常発生後において異なる前記対策緊急度を決定する
ことを特徴とする請求項2に記載の保守支援装置。
【請求項4】
前記処理部は、
前記保守作業データベースから、前記保守作業を実行するための保守員所要人数を読み出し、前記保守員所要人数が多くなるほど緊急度合いが高くなるように、前記対策緊急度を算出する
ことを特徴とする請求項3に記載の保守支援装置。
【請求項5】
機械設備の異常予兆に対する保守を行う際の保守作業を支援する保守支援方法であって、
コンピュータが、
前記異常予兆を検出した診断時期と前記異常予兆の名称を示す異常予兆名称と前記異常予兆に起因する異常が発生する異常発生時期と、を含む異常予兆情報を取得する過程と、
前記診断時期と前記異常予兆名称と前記異常発生時期とに基づき、保守作業データベースから前記異常予兆を対策する前記保守作業の関連情報を抽出して保守作業情報を構成する過程と、
部品データベースから前記保守作業に必要な部品の関連情報を抽出して部品情報を構成する過程と、
前記異常予兆に伴うGHG排出量が大きくなるほど、緊急度合いが高くなるように、前記保守作業の緊急度合いを示す対策緊急度を算出する過程と、
前記保守作業情報と前記部品情報と前記対策緊急度と、を含む保守支援情報を生成する過程と、を実行する
ことを特徴とする保守支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保守支援装置および保守支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生産ラインには、加工などを行う多数の機械設備が設置されており、これら機械設備の故障を未然に検知する異常予兆診断システムが導入されている。これに伴い異常予兆に対応する保守支援方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、記憶装置に逐次記憶してある蓄電素子に関する測定データに基づき、蓄電素子の異常の予兆を検知し、検知された異常の予兆に対応する保守作業の工期、作業者数、及び、前記保守作業に必要な交換品又は工具を含む物品、の少なくともいずれかを決定し、前記保守作業の作業者へ決定事項と対応する保守作業の実施を通知する保守支援方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/255980号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1には、GHG排出量等、地球環境に及ぼす影響度である環境性能を考慮して保守作業を計画する点については、特に記載されていない。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、環境性能を考慮して保守作業を計画できる保守支援装置および保守支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明の保守支援装置は、機械設備の異常予兆に対する保守を行う際の保守作業を支援する保守支援装置であって、前記保守支援装置は処理部を含み、前記処理部は、前記異常予兆を検出した診断時期と前記異常予兆の名称を示す異常予兆名称と前記異常予兆に起因する異常が発生する異常発生時期と、を含む異常予兆情報を取得する機能と、前記診断時期と前記異常予兆名称と前記異常発生時期とに基づき、保守作業データベースから前記異常予兆を対策する前記保守作業の関連情報を抽出して保守作業情報を構成する機能と、部品データベースから前記保守作業に必要な部品の関連情報を抽出して部品情報を構成する機能と、前記異常予兆に伴うGHG排出量が大きくなるほど、緊急度合いが高くなるように、前記保守作業の緊急度合いを示す対策緊急度を算出する機能と、前記保守作業情報と前記部品情報と前記対策緊急度と、を含む保守支援情報を生成する機能と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、環境性能を考慮して保守作業を計画できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る保守支援装置の構成を示す図である。
図2】保守作業データベースおよび部品データベースのデータ構造を示す図である。
図3】保守支援処理を示すフローチャートである。
図4】原緊急度の算出方法を示す図である。
図5】劣化原因データベース、環境性能データベースおよび補正対応表の一例を示す図である。
図6】保守支援情報の詳細を印字する書式を示す図である。
図7】保守支援情報の出力例を示す図である。
図8】保守支援情報の他の出力例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〈実施形態の構成〉
本発明を実施するための実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る保守支援装置100の構成を示す図である。保守支援装置100は、処理部10、記憶部20、入力部30、および出力部40を有する。保守支援装置100は、異常予兆診断システム500からの異常予兆情報31を入力として、保守支援情報41を出力する装置である。異常予兆診断システム500は、複数の機械設備600の異常予兆を診断するシステムである。
【0010】
本実施形態の保守支援装置100は、機械設備600の異常予兆を診断する異常予兆診断システム500と連携し、機械設備600に異常が発生することによる計画外停止を回避し、計画された停止期間で保全作業を行うための保守支援装置である。また、機械設備600の異常予兆に対する保守を行う際の保守作業を支援する保守支援装置である。記憶部20は、保守作業データベース21、部品データベース22、劣化原因データベース24、環境性能データベース25、および補正対応表26を記憶する。なお、これらデータベース等の詳細は後述する。
【0011】
保守支援装置100は処理部10を含み、処理部10は、異常予兆を検出した診断時期311と異常予兆の名称を示す異常予兆名称312と異常予兆に起因する異常が発生する異常発生時期313と、を含む異常予兆情報31を取得する。そして、処理部10は、診断時期311と異常予兆名称312と異常発生時期313に基づき、保守作業データベース21から異常予兆を対策する保守作業の関連情報210を抽出して保守作業情報2Aを構成する。
【0012】
また、処理部10は、部品データベース22から保守作業に必要な部品の関連情報220を抽出して部品情報2Bを構成する。また、処理部10は、保守作業の緊急度合いを示す原緊急度2Cを算出する。なお、「原緊急度2C」とは、環境性能を特に考慮していない緊急度合いを表す。そして、処理部10に含まれる緊急度補正部12は、環境性能に応じて原緊急度2Cを補正することによって対策緊急度2Dを算出する。そして、処理部10は、保守作業情報2Aと部品情報2Bと対策緊急度2Dと、で構成する保守支援情報41を生成する。
【0013】
保守支援装置100(コンピュータ)は、一般的な計算機システムで構成し、前記したように、処理部10(中央処理装置)、記憶部20、入力部30および出力部40を備える。なお、異常予兆診断システム500は、同じ計算機システム内で構成してもよいし、別の計算機システムで構成してもよい。
【0014】
次に、各部の詳細を説明する。
保守支援装置100は、入力部30を介して、異常予兆診断システム500から、異常予兆情報31を取得する。異常予兆情報31は、異常予兆を検出した時期を示す診断時期311と、異常予兆の名称を示す異常予兆名称312と、該異常予兆に起因した異常が発生する異常発生時期313と、を含む信号として取得する。
【0015】
なお、図1に示すように、異常予兆診断システム500が複数の機械設備600を診断している場合、例えば、異常予兆情報31のヘッダ情報として、サイト名と号機Noとが異常予兆情報31に紐づけされている。このため、保守支援装置100は、複数の機械設備600に対して、機械設備の異常予兆に対する保守を行う際の保守作業を支援することができる。
【0016】
異常予兆情報31を取得すると、処理部10は、記憶部20に構築された保守作業データベース21から異常を対策する保守作業の関連情報210を抽出する。また、処理部10は、記憶部20に構築された部品データベース22から保守作業に必要な部品の関連情報220を抽出する。さらに、処理部10は、異常を対策する保守作業の緊急度合いを示す原緊急度2Cを算出する。緊急度補正部12は、原緊急度2Cに対して、環境性能に応じた補正処理を行い、その結果を対策緊急度2Dとして出力する。さらに処理部10は、保守作業の関連情報である保守作業情報2Aと、必要な部品の関連情報である部品情報2Bと、対策緊急度2Dと、により、保守支援情報41を生成する。そして、処理部10は、該保守支援情報41を、所定の書式に印字して出力する。
【0017】
図2は、保守作業データベース21および部品データベース22のデータ構造を示す図である。
保守作業データベース21は、各レコードに、異常予兆名称211と、保守作業日数212と、保守対象部品213と、必要員数214と、保守作業内容215と、のフィールドを含んでいる。保守作業日数212は、異常予兆名称211を示される異常予兆を対策するのに要する作業日数を示す。保守対象部品213は、該異常予兆を対策するに必要な交換部品を示す。必要員数214は、該異常予兆を対策するに必要な交換部品の員数を示す。保守作業内容215は、具体的な保守内容を示す。また、保守員所要人数216は、保守内容の実行に要する保守員(資格取得者)の人数を示す。
【0018】
また、部品データベース22は、各レコードに、部品名称221と、在庫数222と、入荷日数223と、発注先224と、のフィールドを含んでいる。部品データベース22は保守対象機械設備を保守する際に必要な部品の情報等を蓄積するデータベースである。在庫数222は、部品名称221で示される部品の手持ち数を示し、入荷日数223は該部品を発注したときに入荷までに要する日数を示し、発注先224は、該部品の発注するメーカなどを示す。
【0019】
図2に示す例において、検出された異常予兆が「冷却配管破損」であるとすると、処理部10は、部品データベース22の中から対応するレコードを読み出す。これにより、処理部10は、そのレコードにおける保守対象部品213が「冷却用ホース」および「チューブコネクタ」であることを認識する。そして、処理部10は、部品データベース22から、部品名称221が「冷却用ホース」および「チューブコネクタ」である2つのレコードを読み出す。これにより、処理部10は、これら保守対象部品の在庫数222、入荷日数223および発注先224を認識できる。
【0020】
なお、1つの機械設備にそれぞれの部品が1つしか配されていない場合は、単に部品名称のみで対象部品を特定できる。1つの機械設備に同じ部品が複数配されている場合は、例えば、(1)部品名称と取り付け座標、(2)個々の部品に付与されたデバイスNoを保守作業内容に添付した図面上に指示するなどして特定できる。
【0021】
〈実施形態の動作〉
次に、本実施形態の動作を説明する。
図3は、保守支援処理S10を示すフローチャートである。適宜図1図2を参照する。
処理部10は、異常予兆診断システム500から異常予兆情報31を取得すると(ステップS11)、異常予兆情報31に含まれる異常予兆名称をキーとして、保守作業データベース21から同じ異常予兆名称を検索する。これにより、処理部10は、該異常予兆名称に紐づけされた保守作業日数212と、保守対象部品213と、必要員数214と、保守作業内容215と、保守員所要人数216と、を抽出する(ステップS12)。さらに処理部10は、保守対象部品213をキーとして、部品データベース22から同じ部品名称221を検索し、該部品名称に紐づけされた在庫数222と、入荷日数223と、発注先224を抽出する(ステップS13)。入荷日数とは部品が作業現場に届き作業可能になるのに要する日数である。
【0022】
これらのデータを抽出すると、処理部10は、異常予兆名称211と保守作業日数212と保守対象部品213と必要員数214と保守作業内容215と保守員所要人数216とにより保守作業の関連情報210を構成する(ステップS14)。次に、処理部10は、部品名称221と在庫数222と入荷日数223と発注先224により必要な部品の関連情報220を構成する(ステップS15)。
【0023】
次に、処理部10は、保守作業データベース21の保守作業日数212と保守対象部品213と必要員数214と、部品データベース22の在庫数222と入荷日数223とに基づき、異常予兆に対する原緊急度2Cを算出する(ステップS16)。次に、処理部10における緊急度補正部12は、補正関連情報230に基づいて原緊急度2Cを補正することにより、対策緊急度2Dを算出する(ステップS21)。なお、ステップS16,S21について、詳細は後述する。そして、処理部10は、保守支援情報41を構成し(ステップS22)、所定の書式に印字して出力する(ステップS23)。
【0024】
次に原緊急度2Cの算出方法を説明する。
図4は、原緊急度2Cの算出方法を示す図である。図4には、原緊急度判定条件表51と、タイムチャート52と、を示す。タイムチャート52において、診断時期t10に異常予兆が検知されたとする。異常発生時期t20は、実際に異常が発生するまでは、異常が発生すると予想される時期であり、実際に異常が発生した後は、実際に異常が発生した時期を指す。事前対応可能日数Taは、診断時期t10から、異常発生時期t20までの日数であることとする。
【0025】
事前対応可能日数Taは、境界時期t15の前後で、前半期間Tbと、後半期間Tcと、に分割できる。ここで、境界時期t15は、事前対応可能日数Taの中で環境性能が大きく変わる時期であってもよく、単純に事前対応可能日数Taを二等分する時期であってもよい。また、事前対応可能日数Taに保守が完了せず、実際に異常が発生した後の時期、例えば図示の時期t30に保守が完了する場合がある。この場合、異常発生時期t20から時期t30までの期間を、異常発生後期間Tdと呼ぶ。
【0026】
原緊急度判定条件表51における原緊急度判定条件としては、下記のものがある。
(条件1)として、(在庫数≧必要員数)が成立し、且つ、(保守作業日数≦事前対応可能日数Ta)が成立するときに、処理部10は、原緊急度2Cを小(=0.1)と判定する。保守対象部品の必要員数に対して、手持ち数である在庫数が十分であれば、保守対象部品を新規に発注する必要がない。さらに、事前対応可能日数Taが保守作業日数以上に確保されていれば、保守対象の機械設備を計画的に停止して保守作業を行うことができるため、処理部10は、原緊急度2Cを小(=0.1)と判定することが可能である。
【0027】
(条件2)として、(在庫数<必要員数)が成立し、且つ、((入荷日数+保守作業日数)≦事前対応可能日数Ta)が成立するときに、処理部10は、原緊急度2Cを小(=0.1)と判定する。保守対象部品の必要員数に対して、手持ち数である在庫数が十分でなければ、保守対象部品を新規に発注する必要がある。この条件においては、保守対象部品の入荷日数が重要な要因となる。すなわち、事前対応可能日数Taが(入荷日数+保守作業日数)以上に確保されていれば、(在庫数<必要員数)であっても、保守対象の機械設備を計画的に停止して保守作業を行うことができる。従って、処理部10は、原緊急度2Cを小(=0.1)と判定することが可能である。
【0028】
(条件1)および(条件2)の双方が成立しない場合、処理部10は、原緊急度2Cを大(=1.0)として判定し、保守作業員に対して保守作業の緊急性を伝えることとなる。
【0029】
以上、原緊急度2Cの判定方法の一例を示したが、上述したものに限られず、原緊急度2Cの判定方法には各種方法をとることができる。
事前対応可能日数は、機械設備の重要度合いに基づく停止可能な最大日数である。例えば、病院の非常用発電設備であれば原緊急度2Cを大きくし、エアコンなどの民生品であれば原緊急度2Cを小さくするように設定できる。このように、特に日数計算をする必要なく、予め機械設備ごとに期待される重要性に応じて原緊急度2Cを設定してもよい。
【0030】
また、異常予兆の内容に基づき、予め原緊急度2Cを設定しておく場合がある。例えば、発生した異常予兆に基づき実際に発生する異常が重故障の場合は原緊急度2Cを大きくし、発生した異常予兆に基づき実際に発生する異常が軽故障の場合は原緊急度2Cを小さくするとよい。
【0031】
図5は、劣化原因データベース24、環境性能データベース25および補正対応表26の一例を示す図である。
劣化原因データベース24は、各列の異常予兆名称と、各行の劣化原因とを対応付けたデータベースである。各列と各行が交差するセルのうち、チェック印を記したものは、対応する異常予兆名称と劣化原因とが対応関係を有することを示す。例えば、検出された異常予兆が「冷却配管破損」であるとすると、この異常予兆には、「薬品腐食」と「電気による腐食」とが対応付けられている。これは、「冷却配管破損」が発生した原因として、「薬品腐食」と「電気による腐食」とが考えられることを示している。
【0032】
また、環境性能データベース25は、各々の劣化原因に対して、GHG排出係数Kb,Kc,Kd(以下、単に係数Kb,Kc,Kdと呼ぶことがある)を記憶したデータベースである。なお、「GHG」は「Green House Gas」(温室効果ガス)の略である。3つの係数Kb,Kc,Kdは、それぞれ、図4に示した各期間Tb,Tc,Tdにおいて、単位電力および単位期間あたりのCO2排出量に対応する係数である。
【0033】
また、補正対応表26は、保守員所要人数216(図2参照)に対応して、人数補正値Rbを記憶する。図示の例において、人数補正値Rbは保守員所要人数が「1人」であれば「1.0」、「2~4人」であれば「1.5」、「5人以上」であれば「2.0」になる。この例のように、保守員所要人数216が多くなるほど人数補正値Rbが大きくなる。そして、人数補正値Rbが大きくなるほど、対策緊急度2Dが大きくなる(詳細は後述する)。劣化原因データベース24、環境性能データベース25および補正対応表26のうち、異常予兆情報31(図1参照)に対応して読み出された内容が、上述した補正関連情報230(図1参照)になる。
【0034】
前半期間Tb、後半期間Tc、異常発生後期間Tdにおいて、実際に保守作業の完了までに要した期間を実前半期間Tbr、実後半期間Tcr、および実異常発生後期間Tdrと呼ぶ。例えば、図4に示す時期t12に保守作業が完了したとすると、実前半期間Tbrは、診断時期t10から時期t12までの期間になり、実後半期間Tcrおよび実異常発生後期間Tdrは「0」になる。また、時期t17に保守作業が完了したとすると、実前半期間Tbrは前半期間Tbに等しく、実後半期間Tcrは境界時期t15から時期t17の期間に等しく、実異常発生後期間Tdrは「0」になる。
【0035】
また、時期t30に保守作業が完了したとすると、実前半期間Tbrは前半期間Tbに等しく、実後半期間Tcrは後半期間Tcに等しく、実異常発生後期間Tdrは異常発生時期t20から時期t30までの期間になる。さらに、期間Tb,Tc,Tdにおける保守対象の機械設備600(例えば非常用発電設備)の出力電力をPb,Pc,Pdとする。処理部10は、下式(1)に基づいて、異常予兆に対応するGHG排出量を算出する。

GHG排出量=Kb・Pb・Tbr+Kc・Pc・Tcr+Kd・Pd・Tdr …式(1)
【0036】
次に、処理部10は、算出したGHG排出量を所定の閾値Gthとの比較に基づいて、環境補正値Raを算出する。すなわち、「GHG排出量>閾値Gth」であれば、環境補正値Raを、例えば「2.0」とする。一方、「GHG排出量≦閾値Gth」であれば、人数補正値Rbを、例えば「1.0」とする。次に、処理部10は、補正対応表26(図5参照)から、保守員所要人数に応じた人数補正値Rbを読み出す。そして、処理部10は、原緊急度2Cと、環境補正値Raと、人数補正値Rbと、を乗算することによって対策緊急度2Dを算出する。すなわち、対策緊急度2Dは、下式(2)の通りになる。

対策緊急度=原緊急度・Ra・Rb …式(2)
【0037】
図6は、保守支援情報の詳細を印字する書式41Pを示す図である。
処理部10は、保守作業の関連情報210すなわち保守作業情報2Aと、必要な部品の関連情報220すなわち部品情報2Bと、を構成し、対策緊急度2Dを算出すると、図6に示す書式41Pに印字して出力する。作業員は、印字された該書式に基づき、異常予兆に対する対策をするための準備の着手することになる。
【0038】
書式41Pには、保守作業の関連情報210と、必要な部品の関連情報220と、対策緊急度2Dと、緊急度判断内訳情報250と、をそれぞれ表示する欄が設けられている。保守作業の関連情報210には、異常予兆名称211と、保守作業日数212と、保守対象部品213と、必要員数214と、保守作業内容215と、をそれぞれ表示する欄が設けられている。
【0039】
必要な部品の関連情報220には、部品名称221と、在庫数222と、入荷日数223と、発注先224と、をそれぞれ表示する欄が設けられている。緊急度判断内訳情報250には、保守人員準備欄252と、部品調達難易度欄254と、作業対応可能時間欄256と、GHG影響欄258と、が設けられている。
【0040】
保守人員準備欄252は、保守人員準備の難易度を示すものであり、「易」、「難」、「非常に難」のうち何れかが表示される。これら表示内容は、例えば、補正対応表26(図5参照)における保守員の人数の「1人」、「2~4人」、「5人以上」にそれぞれ対応付けられている。部品調達難易度欄254は、部品調達の難易度を示すものであり、「小」、「中」、「大」のうち何れかが表示される。この表示内容は、当該部品の入荷日数に応じて決定するとよい。
【0041】
また、作業対応可能時間欄256は、作業対応に可能な時間の長さを示すものであり、「短」、「普通」、「長」、「不足」のうち何れかが表示される。この表示内容は、「保守作業に必要な時間」を、「保守作業に割り当てられた日数」で除算した結果に応じて決定するとよい。また、GHG影響欄258は、GHG排出に対する影響度を示すものであり、「小」、「中」、「大」のうち何れかが表示される。この表示内容は、上述の式(1)で示したGHG排出量に応じて決定するとよい。
【0042】
〈具体例〉
図2に戻り、保守作業データベース21および部品データベース22の具体例の内容を説明する。
本例は、非常用発電設備の一例を示すものである。保守支援装置100は、非常用発電設備を監視する異常予兆診断システム500から異常予兆情報31を取得する(図1参照)。該異常予兆情報31には、異常予兆名称312として冷却配管破損が、診断時期311として3日前が、異常発生時期313として30日後が含まれていたとする。
【0043】
処理部10は、図2に示す保守作業データベース21の異常予兆名称211から「冷却配管破損」を検索し、紐づけられた保守作業日数212として「5」を、保守対象部品213として「冷却用ホース」と「チューブコネクタ」を、必要員数214としてそれぞれ「1」と「2」を、保守作業内容215として「配管の交換」を抽出する。また、保守員所要人数216として「2人」を抽出する。さらに処理部10は、「冷却用ホース」に関して、部品データベース22から、在庫数222として「3」を、入荷日数223として「7」を、発注先224として「A社」を抽出する。
【0044】
同様に、処理部10は、「チューブコネクタ」に関して、在庫数222として「10」を、入荷日数223として「3」を、発注先224として「A社」を抽出する。
さらに、処理部10は、「冷却用ホース」と「チューブコネクタ」の在庫数が保守作業部品の必要員数以上であり、(保守作業日数≦事前対応可能日数)が成立することを確認して原緊急度2Cを小(=0.1)と判定する。
【0045】
図7は、保守支援情報41の出力例41Aを示す図である。処理部10は、前記の情報を、所定の書式41Pに印字して出力する。なお、図7および後述する図8において、出力例の内部の符号は省略が、符号は図6のものと同一である。
【0046】
図8は、保守支援情報41の他の出力例41Bを示す図である。
処理部10は、保守作業データベース21(図2参照)の異常予兆名称211から「排熱ユニット損傷」を検索し、紐づけられた保守作業日数212として「10」を抽出する。また、処理部10は、保守対象部品213として「排熱ユニット」と「点火プラグ」とを抽出し、これらの必要員数214としてそれぞれ「1」と「1」とを抽出する。また、処理部10は、保守作業内容215として「排熱ユニットの交換と点火タイミングの調整」を抽出する。
【0047】
さらに処理部10は、「排熱ユニット」に関して、部品データベース22から、在庫数222として「0」を、入荷日数223として「20」を、発注先224として「B社」を抽出する。同様に、処理部10は、「点火プラグ」に関しては、在庫数222として「20」を、入荷日数223として「10」を、発注先224として「C社」を抽出する。
【0048】
さらに、処理部10は、「点火プラグ」の在庫数(=20)が保守作業部品の必要員数(=1)以上であり、「保守作業日数(=10)≦事前対応可能日数」が成立することを確認して、「点火プラグ」に対する原緊急度2Cが小(=0.1)であると判定する。また、処理部10は、「排熱ユニット」の在庫数が「0」であり、(条件2)の(在庫数<必要員数)が成立すると判定する。次に前記した(条件2)の((入荷日数+保守作業日数)≦事前対応可能日数)について確認し、成立しない場合、「排熱ユニット」に関する原緊急度2Cが大(=1.0)であると判定する。
【0049】
このように、保守対応部品に応じて原緊急度2Cが異なる場合は、これらのうち最大のものが、異常予兆に対する原緊急度2Cとして採用される。すなわち、原緊急度2Cは大(=1.0)になる。そして、原緊急度2Cを補正して得られた対策緊急度2Dも「大」であったとする。その結果、図8の対策緊急度2Dには、「排熱ユニットを至急発注する」コメントが記載されている。また、排熱ユニットが劣化している場合には、式(1)に示したGHG排出量が大きくなることから、図8のGHG影響欄258には「大」が示されている。
【0050】
〈実施形態の効果〉
以上、本実施形態の保守支援装置100および保守支援方法は、次の特徴を有する。
(1)保守支援装置100は、異常予兆に伴うGHG排出量が大きくなるほど、緊急度合いが高くなるように、保守作業の緊急度合いを示す対策緊急度2Dを算出する機能と、保守作業情報2Aと部品情報2Bと対策緊急度2Dと、を含む保守支援情報41を生成する機能と、を備える。これにより、異常予兆に伴ってGHG排出量が大きくなる場合に、ユーザに対して注意喚起することができ、ユーザは、保守作業を行わないことにより環境性能へ与える影響も加味した保守作業計画を立てることができ、GHG排出量の削減に寄与することができる。
【0051】
(2)また、処理部10は、異常予兆名称211,312に基づき、劣化原因データベース24から劣化原因を抽出し、環境性能データベース25から劣化原因に対応するGHG排出係数Kb,Kc,Kdを読み出し、GHG排出係数Kb,Kc,Kdを用いて算出したGHG排出量に基づいて対策緊急度2Dを決定すると一層好ましい。これにより、劣化原因に対応した、一層正確なGHG排出量を算出することができる。
【0052】
(3)また、処理部10は、GHG排出係数Kb,Kc,Kdのうち、劣化原因に基づく異常発生前に適用されるもの(Kb,Kc)と、異常発生後に適用されるもの(Kd)と、を用いて対策緊急度2Dを決定することにより、異常発生前および異常発生後において異なる対策緊急度2Dを決定すると一層好ましい。これにより、異常発生の前後で、GHG排出量が悪化する程度を算出でき、ユーザは、悪化の程度(緊急性)に応じた保守作業計画を立案できる。
【0053】
(4)また、処理部10は、保守作業データベース21から、保守作業を実行するための保守員所要人数216を読み出し、保守員所要人数216が多くなるほど緊急度合いが高くなるように、対策緊急度2Dを算出すると一層好ましい。これにより、保守員所要人数216を確保する困難さに応じて、対策緊急度2Dを算出することができる。
【0054】
〈変形例〉
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上記実施形態の構成に他の構成を追加してもよく、構成の一部について他の構成に置換をすることも可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0055】
(1)上記実施形態における保守支援装置100のハードウエアは一般的なコンピュータによって実現できるため、上述した各ブロック図、各フローチャートに対応する処理、その他上述した各種処理を実行するプログラム等を記憶媒体(プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体)に格納し、または伝送路を介して頒布してもよい。
【0056】
(2)上述した各ブロック図、各フローチャートに対応する処理、その他上述した各種処理は、上記実施形態ではプログラムを用いたソフトウエア的な処理として説明したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit;特定用途向けIC)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたハードウエア的な処理に置き換えてもよい。
【0057】
(3)上記実施形態において実行される各種処理は、図示せぬネットワーク経由でサーバコンピュータが実行してもよく、上記実施形態において記憶される各種データも該サーバコンピュータに記憶させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0058】
2A 保守作業情報
2B 部品情報
2C 原緊急度
2D 対策緊急度
10 処理部
12 緊急度補正部
20 記憶部
21 保守作業データベース
22 部品データベース
24 劣化原因データベース
25 環境性能データベース
26 補正対応表
30 入力部
31 異常予兆情報
40 出力部
41 保守支援情報
41P 書式
41A 出力例
41B 出力例
51 原緊急度判定条件表
52 タイムチャート
100 保守支援装置(コンピュータ)
210 保守作業の関連情報
211 異常予兆名称
212 保守作業日数
213 保守対象部品
214 必要員数
215 保守作業内容
216 保守員所要人数
220 必要な部品の関連情報
221 部品名称
222 在庫数
223 入荷日数
224 発注先
230 補正関連情報
250 緊急度判断内訳情報
252 保守人員準備欄
254 部品調達難易度欄
256 作業対応可能時間欄
258 GHG影響欄
311 診断時期
312 異常予兆名称
313 異常発生時期
500 異常予兆診断システム
600 機械設備
S10 保守支援処理
【要約】
【課題】環境性能を考慮して保守作業を計画できる保守支援装置を提供する。
【解決手段】保守支援装置100は処理部10を含み、機械設備600の異常予兆に対する保守を行う際の保守作業を支援するものであり、処理部10は、保守作業情報2Aを構成する機能と、部品情報2Bを構成する機能と、異常予兆に伴うGHG排出量が大きくなるほど、緊急度合いが高くなるように、保守作業の緊急度合いを示す対策緊急度2Dを算出する機能と、保守作業情報2Aと部品情報2Bと対策緊急度2Dと、を含む保守支援情報41を生成する機能と、を備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8