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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】合成樹脂材締結用ネジ
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/282 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
F16B39/282 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023213361
(22)【出願日】2023-12-18
(65)【公開番号】P2024091543
(43)【公開日】2024-07-04
【審査請求日】2024-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2022206497
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023134986
(32)【優先日】2023-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513163579
【氏名又は名称】エントラスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163706
【弁理士】
【氏名又は名称】釜谷 直樹
(72)【発明者】
【氏名】北薗 司朗
(72)【発明者】
【氏名】黄 銀植
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 登
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-334115(JP,A)
【文献】特開平08-082316(JP,A)
【文献】特開2017-129258(JP,A)
【文献】特開平10-318237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 39/282
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジを回転させるための工具係合部を備えた頭部と、前記頭部と一体に形成されたネジ部を備え、前記頭部に緩み止めを有する合成樹脂材締結用ネジであって、
前記頭部の座面は、逆皿状のテーパー形状に形成され、
前記座面の少なくとも外周部には係止物方向に膨出する略等間隔に形成された複数の膨出部が形成され、
前記膨出部は、側面から見ると略円弧状に形成され、略円弧面から構成されていて、前記座面上において軸心を通る直線を垂直な面で切った断面における前記膨出部の円弧面の半径が前記合成樹脂材締結用ネジの直径をDとすれば2/5Dから8/5Dとなるように形成され、
前記係止物は合成樹脂材で構成されていて、
前記合成樹脂材締結用ネジを前記係止物に締結したときに、前記膨出部が前記係止物に食い込み、前記座面の最外周の部分が前記係止物の表面に当接されるように構成され
前記合成樹脂材締結用ネジを緩めたとき、前記膨出部によって、前記係止物の表面を削って白化させないように構成されている
ことを特徴とする合成樹脂材締結用ネジ。
【請求項2】
前記膨出部は、前記座面の少なくとも外周部において、ネジを締めていく方向の前の部分が前記係止物の方向に膨出する略円弧面状または曲面状に形成されているとともに、ネジを締めていく方向の後ろの部分であって、ネジを緩めていく方向の前の部分が前記係止物の方向に膨出する略円弧面状または曲面状に形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の合成樹脂材締結用ネジ。
【請求項3】
前記膨出部は、前記座面の最外周の端面部において、前記座面より下に膨出するよう構成されている
ことを特徴とする請求項2記載の合成樹脂材締結用ネジ。
【請求項4】
前記座面の平面に対する角度が、3度以上で10度以下である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3記載の合成樹脂材締結用ネジ
【請求項5】
前記頭部の外径は、ネジの呼び径に対応する平座金の外径の略同一である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3記載の合成樹脂材締結用ネジ
【請求項6】
前記頭部は、略バインドネジ形状または略丸ネジ形状の頭部である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3記載の合成樹脂材締結用ネジ。
【請求項7】
前記頭部は、略ナベ小ねじ形状のものに鍔が付いている形状である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3記載の合成樹脂材締結用ネジ。
【請求項8】
前記膨出部は、所定幅で前記座面の中心に対して放射状の形状に形成されている
ことを特徴とする請求項2記載の合成樹脂材締結用ネジ。
【請求項9】
前記膨出部は、前記座面の外周部において係止物方向に膨出する略等間隔に形成された略楕円の形状に形成されている
ことを特徴とする請求項2記載の合成樹脂材締結用ネジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成樹脂材締結用ネジに関する。より詳細には、ネジの頭部に緩み止めを有する合成樹脂材締結用ネジに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器等の外筐がAS(アクリルニトリル・スチレン)樹脂やABS(アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂等の合成樹脂材で構成されるようになっている。そして、この樹脂製の外筐を金属製のフレーム等に所定の軸力で固定するとともに、電子機器等の輸送中や使用時の温度変化や振動・衝撃等でネジが緩み、その結果緩みトルクが大きく低下しないような、合成樹脂材締結用ネジが求められていた。
【0003】
このようなネジとして従来から一般的には、セムスねじ(登録商標)と呼ばれる、ナベ小ねじにスプリングワッシャ(SW)と平座金(PW)が組み込まれた、座金組み込みネジ(SW+PW組込み小ネジ)が用いられている。この座金組み込みネジは、ねじ山を転造する前に座金等を組み込み、転造後に座金等が脱落しないようにしたものであり、手作業で座金等を組み込む手間がかからず、作業効率がよくなるものである。そして、ネジを締結したときにスプリングワッシャが圧縮されて緩み止めとなり、繰り返しネジを外したりする場所に向いているものである。なお、この座金組み込みネジは、JIS(日本産業規格 JIS B 1188:2017)にも規定されているものである。
【0004】
しかしながら、座金組み込みネジは、ネジ単体に対してスプリングワッシャや平座金は固定されておらず、平座金等はネジに組み込まれた範囲で動くことができる。また、平座金同士が重なってしまうことがある。そのため、例えば工場等で、座金組み込みネジをオートパーツフィーダーで姿勢を揃え供給しようとするときに、途中でオートパーツフィーダーに詰まってしまうことがあるという不都合があった。そのような理由で、座金組み込みネジではなく、ネジの頭部に緩み止めを有するネジが求められていた。
【0005】
このようなネジの頭部に緩み止めを有するネジとして、非特許文献1にて開示されたフランジボルトがある。このフランジボルトは、六角形状をした頭部の座面側に、フランジと呼ばれる円錐形の鍔がついたものである。この鍔の座面側には、ギザギザしたセレーション(セレート)を有し、このセレーションが締結時に相手材に食い込むことで、緩み止め効果を向上させるというものである。また、鍔により相手材に座面が陥没することを防止している。
【0006】
また、このようなネジとして、特許文献1にて開示されたボルトナットがある。このボルトナットは、ボルトの頭部下面またはこれの螺合するナット上面に、ネジ溝方向に沿って湾曲する複数本の突条を放射状に設けたものであり、この突条を、内側から外周側に向かって漸次高く形成してなるものである。このボルトナットを回転させ締め付けていくと、突条が相手材表面に食い込んでいく。ここで、突条は断面形状が略三角形状をなし、先端が尖っているので、大きな力で食い込む。そして、内側から外周側に向かって突条の高さが漸次高くなっているので、外周側に大きなトルクが働き、局部的に大きな力が加わり、更に深く食い込んで固定され、緩み止めとなるというものである。
【0007】
そして、このようなネジとして、特許文献2にて開示されたばね性の鍔付きネジがある。このばね性の鍔付きネジは、ネジの頭部の下方周縁部に逆皿状のばね性のある鍔を一体に形成したものである。そして、この鍔が適度のバネ常数、たわみ量を得てばね性を発揮し、十分な締め付けトルクを得て緩みを防止するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実開昭55-140816公報
【文献】実登第3133033号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】フランジボルト[令和4年11月19日検索]、インターネット〈https://www.amazon.co.jp/gp/product/B09XX4W37T/ref=ppx_yo_dt_b_asin_title_o00_s00?ie=UTF8&th=1〉〈Amazon.co.jp:鉄/ユニクロ7マークフランジボルト(2種類/セレート付き)(フルスレッド)M6 x 10(10個パック):DIY、ツール&ガーデン〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1の技術では、セレーションが締結時に相手材に食い込むことで緩み止めを発揮するが、相手材を傷つけ、そして、ネジを緩めようとすると、セレーションの食い込んだ面がセレーションにより削り取られ、相手材表面に白化が生じてしまうという不都合もあった。
なおここで、非特許文献1のフランジボルトではフランジと呼ばれる円錐形の鍔を有しているが、円錐形であるのは鍔の上面部だけであって、座面は平面状であり、この平面状の部分にセレーションが形成されているという構造を有している。
【0011】
また、特許文献1の技術においても、非特許文献1の場合と同様に、突条が締結時に相手材に食い込むことで緩み止めを発揮するが、相手材を傷つけ、そして、ネジを緩めようとすると、突条の食い込んだ面が突条により削り取られ、白化を生じてしまうという不都合もあった。
【0012】
そして、特許文献2の技術では、鍔が適度のバネ常数、たわみ量を得てバネ性を発揮するために、冷間圧造用炭素鋼線にて表面には浸炭処理されて形成される等、バネ性を発揮する材質、処理を用いる必要があるという不都合があった。
更に、特許文献2の段落0050に記載されているように、バネ性が得られるようにするために、カメラ、ビデオカメラ等の光学機器に用いられるネジのように、ねじの寸法、大きさが小さいものや極めて小さいものとする必要があるという不都合があった。
【0013】
ここで、特許文献2記載のネジの形状を用いて、バネ性を発揮する材質を用いず、処理もせず、通常のネジに使用される材質のもので、大きさも通常のネジの大きさにした場合を考える。このようなネジを用いて締結した場合、鍔にバネ性がないため、緩み止めのないネジとなってしまう。
すなわち、特許文献2記載のネジの形状にバネ性のない材質でネジを作ることは可能ではあるが、しかしその場合、複雑な形状にしたのに、緩み止めのないネジになってしまって緩みトルクも小さくなってしまうという不都合が生じる。
【0014】
この発明の目的は、ネジを緩めたときの係止物の表面の白化を押さえながらも十分な緩みトルクが得られる、ネジの頭部に緩み止めを有する合成樹脂材締結用ネジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。
【0016】
本発明は、ネジを回転させるための工具係合部を備えた頭部と、頭部と一体に形成されたネジ部を備え、頭部に緩み止めを有する合成樹脂材締結用ネジに関する。
そして、頭部の座面は、逆皿状のテーパー形状に形成され、座面の少なくとも外周部には係止物方向に膨出する略等間隔に形成された複数の膨出部が形成され、係止物は合成樹脂材で構成されていて、合成樹脂材締結用ネジを係止物に締結したときに、膨出部が係止物に食い込み、座面の最外周の部分が係止物の表面に当接されるように構成されていることを特徴とする。
【0017】
また、膨出部は、座面の少なくとも外周部において、ネジを締めていく方向の前の部分が係止物の方向に膨出する略円弧面状または曲面状に形成されているとともに、ネジを締めていく方向の後ろの部分であって、係止物の方向ネジを緩めていく方向の前の部分が係止物の方向が膨出する略円弧面状または曲面状に形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、膨出部は、座面の最外周の端面部において、座面より下に膨出するよう構成されていることを特徴とする。
【0019】
また、座面の平面に対する角度が、3度以上で10度以下であることを特徴とする。
【0020】
また、頭部の外径は、ネジの呼び径に対応する平座金の外径の略同一であることを特徴とする。
【0021】
また、頭部は、略バインドネジ形状または略丸ネジ形状の頭部である
ことを特徴とする。
【0022】
また、頭部は、略ナベ小ねじ形状のものに鍔が付いている形状であることを特徴とする。
【0023】
また、膨出部は、所定幅で座面の中心に対して放射状の形状に形成されていることを特徴とする。
【0024】
そして膨出部は、座面の外周部において係止物方向に膨出する略等間隔に形成された略楕円の形状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、上述の特徴を有することから、下記に示すことが可能となる。
【0026】
ネジを回転させるための工具係合部を備えた頭部と、頭部と一体に形成されたネジ部を備え、頭部に緩み止めを有する合成樹脂材締結用ネジであって、頭部の座面は、逆皿状のテーパー形状に形成され、座面の少なくとも外周部には係止物方向に膨出する略等間隔に形成された複数の膨出部が形成され、係止物は合成樹脂材で構成されていて、合成樹脂材締結用ネジを係止物に締結したときに、膨出部が係止物に食い込み、座面の最外周の部分が係止物の表面に当接されるように構成されているので、ネジを緩めたときの白化を押さえながらも十分な緩みトルクが得られる合成樹脂材締結用ネジが得られた。
【0027】
また、膨膨出部は、座面の少なくとも外周部において、ネジを締めていく方向の前の部分が係止物の方向に膨出する略円弧面状または曲面状に形成されているとともに、ネジを締めていく方向の後ろの部分であって、係止物の方向ネジを緩めていく方向の前の部分が係止物の方向が膨出する略円弧面状または曲面状に形成されているので、座面にセレーションを有するネジのように係止物に食い込む係止面を有さず、ネジをゆるめたとき係止物の表面の係止面による削れや白化を押さえることができた。
【0028】
また、膨出部は、座面の最外周の端面部において、座面より下に膨出するよう構成されているので、軸心から距離のある最外周において膨出部による係止力がかかり、大きな緩みトルクを得ることができた。
【0029】
また、座面の平面に対する角度が、3度以上で10度以下であるので、傾斜が緩いため平面と差が少なくなってしまうこともないし、10度を超えて座面を逆皿状に形成することにより、工程が難しくなったり、製造しにくいものとなったりしないものとすることができた。
【0030】
また、頭部の外径は、ネジの呼び径に対応する平座金の外径の略同一であるので、座面の陥没を防ぐとともに、座金組み込みネジとの置き換えが容易にできるようにすることができた。
【0031】
また、頭部は、略バインドネジ形状または略丸ネジ形状の頭部であるので、略バインドネジ形状または略丸ネジ形状の頭部を有する合成樹脂材締結用ネジを得ることができた。
【0032】
また、頭部は、略ナベ小ねじ形状のものに鍔が付いている形状であるので、略ナベ小ねじ形状のものに鍔が付いている形状の頭部を有する合成樹脂材締結用ネジを得ることができた。
【0033】
また、膨出部は、所定幅で座面の中心に対して放射状の形状に形成されているので、ネジを作成するための金型が作りやすいものとなった。
【0034】
そして、膨出部は、座面の外周部において係止物方向に膨出する略等間隔に形成された略楕円の形状に形成されているので、膨出部の形状を簡単なものとすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の第1の実施形態に係る合成樹脂材締結用ネジの構成を示し、(A)は上方から見た斜視図、(B)は下方から見た斜視図、(C)は要部の拡大図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る合成樹脂材締結用ネジを用いて、係止物を係止したときの状態を示す断面図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る合成樹脂材締結用ネジを用いて係止物を締結した後に、緩めて外したときの係止物表面についた係止痕を模式的に示した斜視図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る合成樹脂材締結用ネジの構成を示し、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は底面図、(D)は右側面図、(E)及び(F)は断面図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係る合成樹脂材締結用ネジの構成を示し、(A)は上方から見た斜視図、(B)は下方から見た斜視図、(C)は要部の拡大図である。
図6】本発明の第2の実施形態に係る合成樹脂材締結用ネジの構成を示し、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は底面図、(D)は右側面図、(E)及び(F)は断面図である。
図7】本発明の第3の実施形態に係る合成樹脂材締結用ネジの構成を示し、(A)は上方から見た斜視図、(B)は下方から見た斜視図、(C)は要部の拡大図である。
図8】本発明の第3の実施形態に係る合成樹脂材締結用ネジを用いて、係止物を係止したときの状態を示す断面図である。
図9】本発明の第3の実施形態に係る合成樹脂材締結用ネジの構成を示し、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は底面図、(D)は右側面図、(E)及び(F)は断面図である。
図10】実施例1で行った試験の結果をまとめた表1である。
図11】実施例1として戻しトルク試験を行ったときの結果を示し、係止ネジがナベ小ねじの場合の緩めトルク曲線を示すグラフである。
図12】実施例1として戻しトルク試験を行ったときの結果を示し、係止ネジが座金組み込みネジの場合の緩めトルク曲線を示すグラフである。
図13】実施例1として戻しトルク試験を行ったときの結果を示し、係止ネジが本発明品の場合の緩めトルク曲線を示すグラフである。
図14】実施例1として戻しトルク試験を行ったときに、係止ネジがナベ小ねじの場合の、試験片に付いた係止痕を示す写真である。
図15】実施例1として戻しトルク試験を行ったときに、係止ネジが座金組み込みネジの場合の、試験片に付いた係止痕を示す写真である。
図16】実施例1として戻しトルク試験を行ったときに、係止ネジが本発明品の場合の、試験片に付いた係止痕を示す写真である。
図17】実施例2で行った試験の結果をまとめた表2である。
図18】実施例3で行った試験の結果をまとめた表3である。
図19】第2の発明品に係る合成樹脂材締結用ネジの構成を示し、(A)は上方から見た斜視図、(B)は下方から見た斜視図、(C)は要部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
なお、以下の説明においては、合成樹脂材締結用ネジの頭部を上に、ネジ部を下にした場合においての、上下方向と呼ぶこととする。
但し、以下に示す前後、上下の方向は、説明の便宜上示すものであり、本技術はこれらの方向に限定して適用されることはない。
【0037】
ここで、本発明の合成樹脂材締結用ネジは、ネジの頭部に緩み止めを有する合成樹脂材を締結するためのネジである。そして、座面を逆皿状のテーパー形状として、そのテーパー形状の座面の少なくとも最外周近傍に周方向に並べて膨出部を形成したことを特徴とする。座面をテーパー形状としたことにより、ネジを係止物に締めていったとき、座面全体ではなくて、座面の最外周の部分とその部分の膨出部が係止物に当接し食い込むことになる。
【0038】
ここで、座面が平面状でセレーションを有するネジでは、ネジを締めていくと座面全体が係止物に当接してセレーションが食い込むことによって、座面全体による大きな座面摩擦トルクや食い込みトルクが発生する。すなわち、セレーションを側面から見ると略鋸刃状に形成され、締める方向には傾斜面、緩める方向には係止物に食い込む係止面が形成され、締めやすく、緩みにくい構成となっている。
一方、膨出部を側面から見ると大きな略円弧状に形成され、膨出部は略円弧面から構成されているので、締めやすく、またセレーションを有するネジとは異なり、緩みやすいような構成となっている。なぜ、この緩みやすいような構成を持つネジが所定の大きさの十分な緩みトルクを持つのか、以下説明する。
【0039】
まず、ネジを締めるときには、座面がテーパー形状で座面そのものに傾斜がついているため、座面が平面状のものと異なり、座面の最外周の略リング状の部分とその部分の膨出部だけが係止物に当接し食い込むことになる。そのため、ネジ締結時の座面摩擦トルクや食い込みトルクは、座面全体が当接する座面が平面状のものと比べて小さいものとなり、軸力の低下は少なくなり、その結果、大きな軸力が得られる。
【0040】
そして、ネジを締めたとき、座面が平面状のものだと座面全体が係止物に当接して力が分散され面圧が低くなるが、座面にテーパーがあると最外周の略リング状の部分だけに軸力による力が集中するので面圧が高まることになる。大きな軸力により、略リング状の部分にある膨出部が強い面圧で係止物に押し付けられ、膨出部が係止物に食い込み、そして係止力が発生する。
略リング状の部分は座面の最外周の部分にあり、軸心からの距離もあり、このようにして、後述する実施例での結果が示すように、十分な緩みトルクを有する合成樹脂材締結用ネジが得られた。
【0041】
ここで、本発明のネジは、セレーションのような係止面がないのでセレーションを有するネジと比べ係止力は低下するが、係止面が締結物表面に食い込むことがないため、係止面により係止物表面が削り取られたり、白化が生じたりするのを押さえることができる。大きな緩みトルクが必要な場合は座面にセレーションが付いたネジを用い、係止面に白化を生じさせたくない場合には、本発明のネジを使うとか、ネジを使う目的に合わせて、使い分ければよい。
【0042】
それでは以下に、本発明の合成樹脂材締結用ネジについて、その詳細を説明する。
【0043】
(第1の実施形態)
図1(A)乃至(C)、乃至、図4(A)乃至(F)参照して、本発明の第1の実施形態の合成樹脂材締結用ネジ1(合成樹脂材締結用ネジ)について詳細に説明する。
【0044】
図1(A)(B)は合成樹脂材締結用ネジ1の頭部2(頭部)とネジ部3(ネジ部)の構成を示す斜視図であり、図1(A)は上面側から見た斜視図、図1(B)は下面側から見た斜視図である。また、図1(C)は図1(B)のA部の拡大図である。
図1(A)に示すように、ネジ1の頭部2上面の中央には、ネジ回転工具係合部4(工具係合部)として十字穴を有していて、ネジ1全体として径の大きい略バインドネジの形状をしている。
【0045】
図1(B)に示すように、頭部2の座面5(座面)は逆皿状のテーパー形状に形成され、座面5には中心部から放射状に延びる下方向に膨出する所定幅の6つの膨出部6(膨出部)を有している。膨出部6はその所定幅の部分の円周方向の断面が座面5から連続した略円弧状に形成され、外周部にある先端部も略円弧面を有している。
【0046】
なおここで、逆皿状のテーパー形状の座面5の平面に対する角度は、約6度である。また、ネジ部3の直径が5mmの場合、所定幅の部分の膨出面は半径約5mmという大きな円弧面となっていて、大きな半径で膨出する略円弧状の面となっている。
また、頭部2の外径は、ネジ径がM5の場合5.3mmであり、ネジ径に対応する平座金の外径と略同一に形成されている。このように、頭部2の外径を対応する平座金の外径近傍の値にしたのは、大きな径で座面の陥没を防ぐとともに、座金組み込みネジとの置き換えが容易にできるようにするためである。
【0047】
図1(C)に示すように、膨出部6の外周部の最先端部は、頭部2上面から連続する最外周の端面部(端面)によって切断されたような形となっている。そして、膨出部6の最外周部において、座面5より下方に膨出する膨出先端部7(切断された形状の部分)が形成されている。
【0048】
図2は、合成樹脂材締結用ネジ1を合成樹脂材からなる係止物100(係止物)に締結した状態を示す断面図である。すなわち、係止物100の締結孔110に合成樹脂材締結用ネジ1のネジ部3を通し、金属板からなるフレーム200のバーリングが施されたネジ穴210と螺合して、締結している状態である。
【0049】
図2に示すように、合成樹脂材締結用ネジ1を回転させ締めていくと、座面5は逆皿状になっているため、まず、外周部の膨出部6が係止物100の表面に当接し食い込んでいく。そして次に、座面5の最先端部が係止物100の表面に当接する。
【0050】
図3は、合成樹脂材締結用ネジ1の締結後にネジを緩め、取り外したときに、係止物100の表面に付いた締結痕120を模式的に示したものである。
図3に示すように、締結痕120は、座面5の最外周部による円形の溝状である環状痕130と6つの膨出部6による6か所の凹部である凹部痕140がある。また、先端膨出部7に対向していた円形溝120の最外周の位置には、先端膨出部7による凹みである6か所の先端膨出部痕150が付いている。
【0051】
このように、座面5が逆皿状のテーパー形状に形成されているため、図2及び図3に示すように、ネジの軸心からの位置が遠い外周部にある6つの膨出部6が係止物100に食い込むために、大きなトルクでの緩み止めになっている。そして、座面5の最外周部が係止物の表面に当接され、軸力がしっかりと保持される。
このようにして、十分な緩みトルクを有する合成樹脂材締結用ネジが得られた。
【0052】
すなわち、膨出部6は係止物100に対向する部分が略円弧状に形成されているので、爪のあるセレーションより緩み止めの力が弱くなるが、座面5を逆皿状に形成することにより、十分な緩みトルクを得ることができた。そして、ネジを締結したときに係止物100表面に食い込んでいる部分が略円弧状に形成されているので、セレーションを有するネジと異なり、ネジを緩めたときに係止物の表面を削って白化させないものとすることができた。
【0053】
そして、座面の最外周の位置にある膨出先端部7が座面より下に膨出しているので、係止物100において食い込み、先端膨出部痕150が環状痕130の最外周部に形成される。そのため、ネジの軸心からの一番位置が遠いところで、しっかりと係止物100に食い込み、更に大きなトルクでの緩み止めをすることが可能となった。なお、ここでは外周部の膨出部6の先端が座面より下に膨出するとしたが、膨出部6の先端が外周部の内側にあって、係止物方向に膨出するように構成してもよい。しかしその場合は、係止力は低下することになる。
【0054】
図4(A)乃至(F)は、本実施形態における合成樹脂材締結用ネジ1を意匠図的に表現したものである。図4において、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は底面図、(D)は右側面図を示している。また、図4において、(E)は(C)におけるB-B断面を示し、(F)は(C)におけるC-C断面を示している。なお、背面図は正面図と、左側面図は右側面図と同じ形であり、記載を省略している。
【0055】
なお、以上の説明において、膨出部6が係止物100に食い込んで緩み止めになり、座面5の最外周部が係止物の表面に当接され軸力を得ているとしたが、これは主にという意味である。膨出部6によっても軸力を得ていること等は、勿論である。また、座面5の最外周部が係止物の表面に当接する接触抵抗によっても、係止力を得ていることは勿論である。
【0056】
またなお、本実施形態では座面5の平面に対する角度を約6度としたが、3度以上で10度以下としてもよい。3度より少なくすると、傾斜が緩いため平面と差がなくなるし、10度を超えると、座面5を逆皿状に形成するため工程が難しくなり、製造しにくいものとなってしまうからである。また、座面5の平面に対する角度を4度以上で8度以下としてもよい。4度以上とすると、更にテーパーの効果が増し、8度以下とすると、更に製造しやすいものとなるからである。
【0057】
またなお、膨出部6の所定幅の部分は、ネジ部3の直径が5mmの場合、幅が約3.4mm、半径約5mmの円弧面となっている。すなわち、座面5面上において軸心を通る直線を垂直な面で切った断面における円弧面の半径は、約5mmということになる。所定幅の部分の最外周部の部分も円弧面が形成され、膨出部6は座面5の最下端から約0.2mm下方に突出している。
【0058】
ここで、平行部の円弧面の半径は、2mmから8mm程度が好ましい。円弧面の半径が小さくなれば、白化が起きやすくなるし、半径が大きいと緩み止めになりにくいからである。すなわち、ネジの直径をDとすれば、膨出部6の所定幅の部分の円弧面の半径は、2/5Dから8/5Dが好ましいということになる。
【0059】
またなお、本実施形態では膨出部6を、座面5の中心部から放射状に延びるものとなっている。この膨出部6が中心部から延びているのは、例えばゴム板状の弾性体等、柔らかい材質の係止物100を締結する場合、座面5が大きく係止物100に食い込むことになる。このとき、中心部近傍の膨出部6も係止物100に食い込み、より大きな緩み止め効果を得ることができるからである。また、膨出部6が中心部に対し放射状に延びていることは、ネジを成形するための金型が作りやすくなるという効果もある。ただし、膨出部6を中心部から延びているのではなくて、座面5の中心部には膨出部6を付けず、途中からとか、座面5の最外周部近傍だけに付けるようにしてもよいことは、勿論である。係止物100が樹脂等の場合には大きく食い込むことはなく、十分な効果があるからである。
【0060】
(第2の実施形態)
図5(A)乃至(C)及び図6(A)乃至(F)を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。
この第2の実施形態では、第1の実施形態の頭部2の上部の形状を変えたものであり、座面5やネジ部3の形状は、第1の実施形態と同一の形状をしている。
以下、第1の実施形態と同じ部分は同一符号を付し、説明を省略し、異なっている部分のみを説明する。
【0061】
図5(A)(B)は合成樹脂材締結用ネジ1の頭部2とネジ部3の構成を示す斜視図であり、図5(A)は上面側から見た斜視図、図1(B)は下面側から見た斜視図である。また、図5(C)は図5(B)のD部の拡大図である。
図5(A)に示すように、頭部2の上部は第1の実施形態と同様の十字穴を有しているが、本実施形態では略ナベ小ねじの形状をしたネジ頭部と鍔部から構成された鍔付き頭部の形状をしている。そして、頭部2の鍔部の最外周の端部は、ネジの軸心方向に平行な座面5の最外周を含む円筒面で切断された形となっており、座面5との間に所定厚の外周面8(端面)が形成されている。
【0062】
図5(B)に示すように、頭部2の座面5は、第1の実施形態と同様、逆皿状のテーパー形状に形成され、座面5には中心部から放射状に延びる下方向に膨出する所定幅の6つの膨出部6を有している。膨出部6は円周方向に切断したときその断面が座面5から連続した略円弧状に形成され、外周の先端部も円弧面を有している。
【0063】
そして、図5(C)に示すように、膨出部6の外周部の先端は、軸心方向に平行な座面5の最外周を含む円筒面で切断された形の端面である外周面8を有しており、外周面8の下方に膨出する形の膨出先端部7が形成されている。
【0064】
ここで、本実施形態の座面5や膨出部6等の形状は、第1の実施形態のものと同一なものとなる。そうすると、図2で示された相手材100に締結したときの状態や、図3で示された取り外したときの締結痕120も同様のものとなり、同様の効果を発揮することになるので、その図面と説明は省略する。
【0065】
図6(A)乃至(F)は、本実施形態における合成樹脂材締結用ネジ1を意匠図的に表現したものである。図6において、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は底面図、(D)は右側面図を示している。また、6において、(E)は(C)におけるE-E断面を示し、(F)は(C)におけるF-F断面を示している。なお、背面図は正面図と、左側面図は右側面図と同じ形であり、記載を省略している。
【0066】
なお、頭部2の外径は、ネジ径に対応する平座金の外径と略同一に形成されている。このように、頭部2の外径を対応する平座金の外径近傍の値にしたのは、大きな径で座面の陥没を防ぐとともに、座金組み込みネジとの置き換えが容易にできるようにするためである。
【0067】
またなお、本実施形態では、頭部2を鍔付きの頭部としているが、この鍔をもっと大きく広いものにしてもよい。広い鍔は、係止物100に座面が陥没することを防止するだけでなく、本発明の場合、膨出部6の食い込む位置がネジの軸心からより遠くとなり、より大きな緩み止め効果を得ることができる。また、軸力向上にも効果がある。
【0068】
(第3の実施形態)
図7(A)乃至(C)、乃至、図9(A)乃至(F)を参照して、本発明の第3の実施形態について説明する。
この第3の実施形態では、第1の実施形態の座面5の膨出部6の形状を変えたものであり、その他の部分は、第1の実施形態と同一の形状をしている。
以下、第1の実施形態と同じ部分は同一符号を付し、説明を省略し、異なっている部分のみを説明する。
【0069】
図7(A)(B)は合成樹脂材締結用ネジ1の頭部2とネジ部3の構成を示す斜視図であり、図7(A)は上面側から見た斜視図、図1(B)は下面側から見た斜視図である。また、図7(C)は図1(B)のG部の拡大図である。
図7(A)に示すように、合成樹脂材締結用ネジ1の頭部2は第1の実施形態と同様、上面の中央には、ネジ回転工具係合部4として十字穴を有していて、全体として径の大きい略バインドネジの形状をしている。
【0070】
図7(B)に示すように、頭部2の座面5は逆皿状のテーパー形状に形成され、座面5の外周部には、下方向に膨出し、座面5の円周方向に長い略楕円形状の膨出部6を6つ有している。略楕円形状の膨出部6の最外周の部分は、頭部2上面から連続する最外周の面で切断されたような形となっている。そして、図7(C)に示すように、膨出部6の最外周部において、座面5より下方に膨出する膨出先端部7が形成されている。
【0071】
ここで、第1の実施形態の膨出部6では、中心部から放射状に延びる下方向に膨出する所定幅の6つの膨出部6の形状であって、その所定幅の部分の円周方向の断面が座面5から連続した略円弧状に形成され、外周部にある先端部も円弧面を有していた。しかしながら、実際に係止物100に当接し、食い込むのは、膨出部6の外周部の部分だけである。
そこで、本実施形態の膨出部6では、実際に係止物100に当接し、食い込む、膨出部6の外周部のみを残して、放射状に延びる所定幅の部分を取り去った形状をしている。
【0072】
図8は、ABS樹脂等の樹脂板からなる相手材100の締結孔110に合成樹脂材締結用ネジ1のネジ部3を通し、金属板からなるフレーム200のネジ穴210と螺合して、相手材100を締結した状態を示している。
図8に示すように、第1の実施形態と同様、合成樹脂材締結用ネジ1を回転させ締めていくと、座面5は逆皿状になっているため、外周部の膨出部6が係止物100の表面に当接し食い込んでいく。そして次に、座面5の最先端部が係止物100の表面に当接する。
【0073】
ここで、本実施形態の膨出部6の実際に係止物100に対向する部分の形状は、第1の実施形態のものと実質的に同様なものとなる。そうすると、図3で示された取り外したときの締結痕120も同様のものとなり、同様の効果を発揮することになるので、その図面と説明は省略する。
【0074】
以上説明したように、座面5が逆皿状のテーパー形状に形成されているため、図8に示すように、ネジの軸心からの位置が遠い外周部にある6つの膨出部6が係止物100に食い込むために、大きなトルクでの緩み止めになっている。そして、座面5の外周部が係止物の表面に当接され、軸力がしっかりと保持される。
このようにして、ネジの緩みを防ぎながら軸力が得られる合成樹脂材を締結するためのネジを得ることができた。
【0075】
また、膨出部6は係止物100に対向する部分が略円弧状に形成されているので、爪のあるセレーションより緩み止めの力が弱くなるが、座面5を逆皿状に形成することにより、十分な緩み止めとすることができた。また、ネジを締結したときに係止物100表面に食い込んでいる部分が略円弧状に形成されているので、ネジを緩めたときに係止物の表面を削って白化させたりさせないものとすることができた。
【0076】
そして、座面5の最外周の位置にある膨出先端部7が座面より下に膨出しているので、最外周において先端膨出部7が係止物100に深く込む。そのため、ネジの軸心からの一番位置が遠いところで、しっかりと係止物100に食い込むことになり、更に大きなトルクでの緩み止めをすることが可能となった。
【0077】
図9(A)乃至(F)は、本実施形態における合成樹脂材締結用ネジ1を意匠図的に表現したものである。図9において、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は底面図、(D)は右側面図を示している。また、6において、(E)は(C)におけるH-H断面を示し、(F)は(C)におけるI-I断面を示している。なお、背面図は正面図と、左側面図は右側面図と同じ形であり、記載を省略している。
【0078】
なお、座面5の円周方向に長い略楕円形状の膨出部6は、ネジ部3の直径が5mmの場合、座面5の円周方向に長さが約3.4mm、半径約5mmの円弧面となっている。すなわち、座面5面上において軸心を通る直線を垂直な面で座面5の円周方向に長い部分を切った断面における円弧面の半径は、約5mmということになる。そして、膨出部6は座面5の最下端から約0.2mm下方に突出している。
【0079】
ここで、平行部の円弧面の半径は、2mmから8mm程度が好ましい。円弧面の半径が小さくなれば、白化が起きやすくなるし、半径が大きいと緩み止めになりにくいからである。すなわち、ネジの直径をDとすれば、2/5Dから8/5Dが好ましいということになる。
【0080】
またなお本実施形態では、膨出部6の形状を略楕円形状としたが、これに限定されず、例えば、尖った部分を軸心方向に向けた涙滴形等にしてもよいことは、勿論である。
【0081】
またなお、以上述べた第1の実施形態乃至第3の実施形態では、頭部2を十字穴付きとしたが、マイナス形のすり割り状、六角穴、または星形六角形のヘキサロビュラ穴等にしてもよいことは勿論である。
また、頭部の形状を略バインドネジの形状または略鍔付きのナベ小ねじの形状としたが、丸ネジの様な形状または六角フランジボルトの様な形状等にしていてもよいことは、勿論である。
【0082】
またなお、これらの実施形態のネジ部3は、通常のネジの形を示しているが、これに限定されず、タッピングネジ等でもあってもよいのは、勿論である。
また、ネジ部3の長さをもっと長く、またはもっと短くしてもよいことは、勿論である。
【0083】
またなお、これらの実施形態の膨出部6は6か所設けたが、この数をもっと増やしたりしてもよいことは、勿論である。
【0084】
またなお、上述した実施の形態においては、逆皿状の座面に膨出部を設けたが、逆皿状の座面にセレーションを設けても、大きな効果を発揮するので、以下、これを説明する。
ここで、このセレーションは、例えば、断面が略鋸刃状に形成されており、合成樹脂材締結用ネジ1を締める方向に回すと、回転しやすく、緩める方向に回すときは、爪がひっかかりやすい構成となっているものとする。
なお、このテーパーの座面にセレーションを有するネジの一例を図19に示しているが、その詳細は後述するものとする。
【0085】
座面にセレーションを設けたネジを回転させ締めていくと、座面のセレーションの最外周の部分が係止物表面と当接し、更に締めていくと、セレーションの外周部が係止物の表面に食い込んでいく。そうすると、セレーションの外周部が係止物の表面に食い込んで傷をつけて、緩めて取り外したときには、係止物が削れて白化する。
しかしながら、ネジの軸心から遠い位置の外周部にあるセレーションが係止物に食い込むので、大きなトルクでの緩み止めとなる。
【0086】
すなわち、逆皿形状の座面にセレーションを付けたものも、優れた効果を発揮する。本発明に、このような形のものも含めると、次のように表現することができる。
頭部とネジ部を備え、前記頭部に緩み止めを有する合成樹脂材締結用ネジであって、前記頭部の座面は、逆皿状のテーパー形状に形成され、前記座面の少なくとも外周部には係止物方向に突出する係止部が形成され、前記緩み止めを有するネジを前記係止物に締結したときに、前記係止部が前記係止物に食い込み、前記座面の最外周の部分が前記係止物の表面に当接されているように構成されていることを特徴とする緩み止めを有する合成樹脂材締結用ネジ。
なお、この場合、座面の最外周の部分とは、座面にセレーションを有する場合に、セレーションの最外周の部分も座面の最外周の部分に含まれていることは、勿論である。
【実施例1】
【0087】
ヒートサイクル試験後の緩みトルクを測定して緩め試験を行ったので、その結果を図10に示す表1及び図11乃至図15を用いて報告する。
すなわち、本発明の合成樹脂材締結用ネジが、セムスねじと呼ばれる、ナベ小ねじにスプリングワッシャと平座金が組み込まれた座金組み込みネジに対応できるネジであるかを、比較のためにナベ小ねじを加えて、実際に実験をおこなった。
【0088】
まず、ナベ小ねじ、座金組み込みネジ(SW+PW組込み小ネジ)及び本発明品である合成樹脂材締結用ネジを、それぞれM5×12のものを5本ずつ用意した。そして、これらのネジを、下穴を開けた厚さ3mmのABS樹脂板に、締付けトルク15Kgf・cmで、M5の六角ナットを使って固定し、この実験のための試験片として用意をした。なお、本発明品である合成樹脂材締結用ネジとしては、第2の実施形態である、略ナベ小ねじの形状をしたネジの頭部と鍔部から構成された鍔付き頭部のものを用いた。
【0089】
次に、これらの試験片を常温から10分をかけて-25℃環境下に置き120分保持し、25分かけて80℃環境下に置き120分保持し、そして常温下で24時間放置した後、緩め試験を行った。この緩め試験には、ベクトリックス株式会社製のPCトルク・アナライザー(登録商標)とネジトルク図形解析システムを用いた。
【0090】
この緩め試験の結果のデータを図10の表1に示すとともに、図11乃至図13にそれぞれのネジの各データを平均した緩めトルク曲線のグラフを示し、このグラフの右端側にそれぞれのネジのヒストグラム及びその正規分布を示した。また、図14乃至図16には、各試験片からそれぞれのネジを外したときに、試験片に付いた係止痕の写真を示した。なお、これらの写真では、係止痕の状態を見やすくするために、コントラストを上げる等の画像処理を施したため、係止痕が白化しているように見えるが、実際には係止痕は白化はしていない。
【0091】
図10の表1、図11及び図14により、係止ネジがナベ小ねじの場合について、説明する。ナベ小ねじの場合は、図11等から分かるように、緩めトルク(TL)が小さく、緩め仕事量(EL)も少ない。これは、図14の写真からも分かるように、ネジの頭部の径も小さく、座面も平らであることから、ネジの座面と試験片表面との摩擦力が小さくなってしまうことが、この原因であると考えられる。また、緩めトルクのピーク(TL点)を過ぎるとすぐにトルクは小さな値になるが、これは、ナベ小ねじの場合には、ネジの座面が少しでも試験片表面から離れれば、後はねじり易い状態になってしまうからと考えられる。
【0092】
表1、図12及び図15により、係止ネジが座金組み込みネジ(SW+PW組込み小ネジ)の場合について、説明する。座金組み込みネジの場合は、図12等から分かるように、ナベ小ねじの場合と比べて緩めトルク(TL)が大きくなっている。これは、図15の写真からも分かるように、試験片表面に当接している平座金の径も面積も大きく、試験片表面との摩擦力が大きなものとなるからだと考えられる。また、ピーク(TL点)を過ぎると直ちに一段トルクが減るが、これは平座金からネジの頭部が離れたことによるものだと考えられる。
【0093】
そして、ピーク(TL点)を過ぎると一段トルクは減るが、その後は、所定トルクからゆっくりとトルクは減少していく。また、緩め仕事量(EL)も非常に大きい。これは、スプリングワッシャのバネ力により、平座金を試験片表面に押し付ける力が働いているためと考えられる。すなわち、スプリングワッシャは、ネジがいったん緩んだ後において、仕事量を増大させ、ネジが更に緩み、ネジが脱落してしまうのを防止する効果を有しているものと、考えられる。
【0094】
表1、図13及び図16により、本発明品の合成樹脂材締結用ネジの場合について、説明する。本発明品の場合は、図13等から分かるように、座金組み込みネジと比べて緩めトルク(TL)が非常に大きい。また、試験に用いた5本の緩めトルク(TL)バラツキも小さく、データがまとまっている。これは、図16の写真からも分かるように、ネジの軸心からの位置が遠い外周部にある6つの膨出部が合成樹脂からできた試験片表面に食い込むために、大きなトルクでの緩み止めになっているからだと考えられる。
【0095】
そして、ピーク(TL点)を過ぎてもトルクは直ちには大きく減少せず、所定の傾斜角をもって減少していき、緩め仕事量(EL)を増やしている。このような現象は、ナベ小ねじや座金組み込みネジでは見られたかったことである。これは、試験片表面に食い込んだ膨出部が、試験片を塑性変形させながら回転していくためだと考えられる。すなわち、
ピーク(TL点)を過ぎたとき、所定の傾斜角をもって減少していくことは、本発明品は緩みにくいものとなっているということができると考える。
【0096】
ここで、図16の写真と図3の係止物100の表面に付いた締結痕120を模式的に示した図とは、座面の最外周の部分が係止物に当接されることによる、円形の溝状である環状痕130を共通に有している。しかしながら、座面の6つの膨出部による6か所の凹部である凹部痕140の形が多少異なるが、ネジの軸心からの位置が遠い位置の樹脂表面に、6つの膨出部が食い込んでいるという機能を表していることでは同一であると考える。また、膨出先端部による先端膨出部痕は、いずれの図においてもはっきりと確認することができる。
【0097】
以上で、本発明品の合成樹脂材締結用ネジは、頭部の座面が逆皿状のテーパー形状に形成され、外周部には複数の膨出部が形成され、係止物に締結されると、膨出部が係止物に食い込んで最外周部が当接され、緩み止めと大きな軸力とで、ネジの緩みを防ぎながら大きな軸力を得ていることが、実験により確認された。また、膨出部は座面の最外周において、膨出部の先端の部分が切断されたような形状をなした膨出先端部を形成し、この膨出先端部が係止物に食い込むため、大きなトルクでの緩み止めとすることができたと考えられる。
【0098】
そして、前述したように、セムスねじと呼ばれる、ナベ小ねじにスプリングワッシャと平座金が組み込まれた座金組み込みネジでは、平座金等はネジに組み込まれた範囲で動くことができる。また、平座金同士が重なってしまうことがある。そのため、例えば工場等で、座金組み込みネジをオートパーツフィーダーで姿勢を揃え供給しようとするときに、途中でオートパーツフィーダーに詰まってしまうことがあるという不都合があった。しかしながら、本発明品の合成樹脂材締結用ネジの場合では、このような可動部等もないため、生産現場におけるオートパーツフィーダーでの不都合を解消させ、組付け効率がアップし、生産性を向上させるものとなる。
【0099】
このように、本発明品の合成樹脂材締結用ネジでは、バラツキの少ない、座金組み込みネジよりもはるかに大きな緩めトルク(TL)が得られ、また、緩みにくいものとなっている。更に、座金組み込みネジにおける生産現場での不具合を、解消させるものとなっている。そのため、本発明品の合成樹脂材締結用ネジは、本実施例においては、座金組み込みネジに対応し、代替できるものとなっていると、確認することができた。
【0100】
ところで、合成樹脂材締結用ネジ1が締結された製品は、灼熱の地から酷寒の地、自動車車内やコンテナ等で、輸送され、保管され、荷揚げ荷下ろしされ、そして使用される。またそのとき、多くの振動や衝撃を受ける。このような過酷な条件において、緩み止めを有するネジ1が十分な緩みトルクまたはゆるめトルクを有し、使用することが可能なものなのか、実験し、測定してみたので、以下、報告する。
【実施例2】
【0101】
ヒートサイクル試験後に振動試験で振動をかけ、その後、緩みトルクを測定したので、その結果を図17に示す表2を用いて報告する。
すなわち、本発明の第2の実施形態に記載した鍔付き頭部の合成樹脂材締結用ネジ1が、セムスねじと呼ばれる、ナベ小ねじにスプリングワッシャと平座金が組み込まれた座金組み込みネジ(またはSW+PW組込み小ネジ)に対応できるネジであるかを調べてみた。また、比較のためにナベ小ねじとテーパーのみのネジ(比較例1)、セレーション付きのテーパーネジ(第2の発明品)を加えて、実際に実験して測定をおこなった。
【0102】
なお、第2の発明品である合成樹脂材締結用ネジ1としては、後述する24山のセレーション付きのテーパーネジであって、略ナベ小ねじの形状をしたネジ頭部21と鍔部22から構成された鍔付き頭部の形状をしているものを用いた。
またなお、テーパーのみのネジ(比較例1)としては、第2の発明品の製造工程において、塑性加工により形成されたテーパー形状の座面を持つネジに、セレーション部分の転写を行わず、セレーションのないテーパーネジを作成し、この試験に用いた。
【0103】
まず、ナベ小ねじ、座金組み込みネジ(SW+PW組込み小ネジ)、比較例1、本発明品及び第2の発明品を、それぞれM5×12のものを5本ずつ用意した。そして、これらのネジを、下穴を開けた厚さ6mmのABS樹脂板に、締付けトルク15kgf・cmで、M5の六角ナットを使って固定し、この実験のための試験片として用意をした。
【0104】
そして、ヒートサイクル試験として、これらの試験片を常温から10分をかけて-20℃環境下に置き60分保持し、25分かけて80℃環境下に置き60分保持し、そして常温下で24時間以上放置した。次に、振動試験として、振動試験機によってXYZ軸それぞれに振動をかけた。すなわち、X軸方向(上下方向)に3時間、Y軸方向(左右方向)、Z軸方向(前後方向)にそれぞれ1.5時間振動をかけた。そしてその後、ゆるめ試験を行った。このゆるめ試験には、ベクトリックス株式会社製のPCトルク・アナライザー(登録商標)とネジトルク図形解析システムを用いた。なお、以後の締付試験やゆるめ試験も、同じ装置を用いて行っている。
【0105】
この振動試験を伴うゆるめ試験の結果のデータを図17の表2に示した。
表2に示すように、まず、ナベ小ねじの場合は、座金組み込みネジと比べ、ゆるめトルク(TL)が小さく、ゆるめ仕事量(EL)も少ない。これは、ネジの頭部の径も小さく、座面も平らであることから、ネジの座面と係止物100表面との摩擦力が小さくなってしまうため、振動によって大きくネジが緩んでしまった結果と、考えられる。いずれにせよ、ナベ小ねじを座金組み込みネジの代替とするのは、不適である。
【0106】
次に係止ネジが座金組み込みネジの場合は、ナベ小ねじの場合と比べてゆるめトルク(TL)が大きくなっている。これは、試験片表面に当接している平座金の径が面積も大きく、試験片表面との摩擦力が大きなものとなるからだと考えられる。しかしながら、締付けトルクに対してのゆるめトルクは小さなものとなっている。なお、ゆるめ仕事量(EL)は非常に大きいのは、スプリングワッシャのバネ力により、ネジがいったん緩んだ後において、仕事量を増大させ、ネジが更に緩み、ネジが脱落してしまうのを防止する効果を有しているからと考えられる。そして、込みネジの代替とするためには、少なくとも、このゆるめトルク(TL)よりも、大きい必要がある。
【0107】
比較例1のテーパーネジの場合は、ゆるめトルク(TL)は、ナベ小ねじよりは良いが、座金組み込みネジの半分以下である。これは、テーパーネジの外径は、ナベ小ねじより大きいものの、座面5にテーパーがあるために、係止物100表面と当接しているのは最外周近傍の部分だけであり、摩擦力が小さくなってしまうため、振動によって大きくネジが緩んでしまったことが、この原因であると考えられる。いずれにせよ、テーパーネジを座金組み込みネジの代替とするのは、不適である。
【0108】
本発明品の膨出部付きテーパーネジおよび第2の発明品のセレーション付きテーパーネジの場合は、ゆるめトルク(TL)は、座金組み込みネジと比べて、本発明品では2倍以上、第2の発明品のものでは約4倍と非常に大きなものになっている。すなわち、この実験からは、本発明品および第2の発明品のものは、座金組み込みネジと代替が可能となる。また、ヒートサイクルと振動をかけた後のデータとしては、製品の締結に使用するのに、十分な値となっていると、考えられる。
【実施例3】
【0109】
実施例1では、ヒートサイクル試験後に振動試験で振動をかけたが、実施例2では、同じヒートサイクル試験後に、振動試験ではなくて、耐衝撃試験で衝撃をかけてみたので、その結果を図18に示す表3を用いて報告する。
今回は、ナベ小ねじは測定せず、座金組み込みネジ(またはSW+PW組込み小ネジ)、テーパーのみのネジ(比較例1)、膨出部付きのテーパーネジ(本発明品)およびセレーション付きテーパーネジ(第2の発明品)により、実際に実験をして測定をおこなった。
【0110】
まず、座金組み込みネジ(SW+PW組込み小ネジ)、比較例1、本発明品および第1の第2の発明品を、それぞれM5×12のものを5本ずつ用意した。そして、これらのネジを、下穴を開けた厚さ6mmのABS樹脂板に、締付けトルク15kgf・cmで、M5の六角ナットを用いて固定し、この実験のための試験片として用意をした。
【0111】
まず、ヒートサイクル試験として、実施例2と同様に、これらの試験片を常温から10分をかけて-20℃環境下に置き60分保持し、25分かけて80℃環境下に置き60分保持し、そして常温下で24時間以上放置した。次に耐衝撃試験として、衝撃試験機によって50G、100G、および500Gの衝撃を、ネジのX軸Y軸Z軸方向すなわち上下左右前後の方向にそれぞれ衝撃をかけて試験した。そしてその後、ゆるめ試験を行った。
このゆるめ試験の結果のデータを図18の表3に示した。なおここで、ネジを緩めるのに必要な最大トルクを、締付け時の締付けトルクと比較し、試験の結果どのくらい緩んでしまったかを、ゆるめ率として表示した。
【0112】
図18の表3に示すように、まず、係止ネジが座金組み込みネジ(またはSW+PW組込み小ネジ)の場合は、締付けトルクに対してのゆるめトルクは小さなものとなっており、ゆるめ率が大きなものとなっている。これは衝撃試験による影響と思われる。座金組み込みネジの代替とするためには、少なくとも、このゆるめトルク(TL)のゆるめ率よりも小さくて、緩みが大きくないものである必要がある。
【0113】
比較例1のテーパーのみのネジの場合は、ゆるめ率は-41%から-28%と大きく落ちているものの、座金組み込みネジと比べれば良い値を示している。テーパーのみのネジは、実施例1の振動試験を伴う試験では悪い値を示したが、衝撃試験を伴う試験には、比較的強い結果となった。
【0114】
本発明品の膨出部付きテーパーネジの場合は、ゆるめ率が約-10%程度と、座金組み込みネジの値と比較するまでもなく、とても良い値を示している。衝撃試験では、本発明品の座面の膨出部がネジの緩みに対して効果的に働いているという結果となった。
【0115】
第2の発明品のセレーション付きテーパーネジでは、ゆるめ率が18%から34%と、ネジを締めたときの締付トルクよりも、ネジを緩めたときのゆるめトルクの方が大きくなるという結果となった。しかも、500Gのときの方が、その割合は大きくなっている。これは、衝撃をかけることにより、セレーションが係止物表面により深く食い込み、密着し、このような値となったと考えられる。
すなわち、この実験の結果から、本発明品および第2の発明品のものは、座金組み込みネジと代替が可能である。また、製品の締結に使用するのに、十分な値となっていると、考えられる。
【0116】
このように、本発明品およびの第2の発明品の緩み止めを有するネジでは、本発明品よりもセレーションを有する第2の発明品の方が良い結果になっているものの、両者とも座金組み込みネジよりもはるかに大きなゆるめトルク(TL)が得られ、また、緩みにくいものとなっている。更に、座金組み込みネジにおける生産現場での不具合を、解消させるものとなっている。そのため、本発明品の緩み止めを有するネジは、座金組み込みネジに代替できるものとなっていると、確認することができた。
【0117】
(第2の発明品)
ここで、今回の実験に用いた第2の発明品であるセレーションを有するテーパーネジについて、その一例を、図19を参照して説明する。
この第2の発明品では、第1の実施形態のものを、座面5の形状をセレーションが付いた形状に変え、頭部2の形状を略トラスネジの形状にしたものである。
以下、第1の実施形態または第2の実施形態と同じ部分は同一符号を付し、説明を省略し、異なっている部分のみを説明する。
【0118】
図19(A)(B)(C)は合成樹脂材締結用ネジ1の頭部2とネジ部3の構成を示す斜視図であり、(A)は上面側から見た斜視図、(B)は下面側から見た斜視図、(C)は(B)のJ部の部分拡大図である。
図19(A)に示すように、頭部2の上部は第1の実施形態と同様の十字穴を有していて、頭部2は略トラスネジの形状をしている。頭部2の外径は、ネジ径に対応する平座金の外径と略同じ大きさに形成されている。座金組み込みネジとの置き換えが容易にできるようになるからである。
【0119】
また、頭部2の座面5は、平面に対する角度が約6度の逆皿状のテーパー形状に形成され、座面5には中心部から放射状に延びる24山のセレーション9(セレーション)を有している。セレーション9の山の高さは、ネジ径がM5の場合0.13mmとなっている。そして、各セレーション9は、ネジの戻し方向側の、ネジの締め付け方向に対して後端側に位置し大きな傾斜角度の係止面91(係止面)を有している。また、締付け方向側の、この係止面91の稜線から締め付け方向対して前端側に向けて緩やかな小さい傾斜角度に形成された傾斜面92(傾斜面)を有している。すなわち、傾斜面92により締めやすく、また、係止面91が食い込むため、緩みにくくなっている。
【0120】
そして、合成樹脂材締結用ネジ1は、平面に対する角度が約6度のテーパー状の座面5を持つ略トラスネジの形状のネジを、まず転造等の塑性加工により形成する。次に、セレーション9部分を転写することにより形成し、そして、表面処理が施されて製造される。また、合成樹脂材締結用ネジ1の材料は、通常のネジと同じ鉄鋼材から形成されているが、必要に応じ、他の金属にしてもよいことは勿論である。
【0121】
ここで、図19(C)に示すように、各セレーション9の係止面91と傾斜面92は互いの面が略90度に交わる関係になるように構成されている。これは、セレーション9部分を転写するための金型を作成するときに切削工具等での削り出し等をやりやすくして、この金型の作成を容易にするためである。また、セレーション9部分を転写するときに、いわゆる射出成型でいう抜き勾配と同様の働きをさせ、係止面91を作成しやすくするためである。なお、係止面91の角度をもっと急にして、例えば、軸心と平行な角度にしたりしてもよいことは勿論である。
【0122】
ここで、第2の発明品であるセレーションを有するテーパーネジは、ネジの頭部に緩み止めを有する合成樹脂材を締結するためのネジである。そして、座面を逆皿状のテーパー形状として、そのテーパー形状の座面にセレーションを形成したことを特徴とする。座面をテーパー形状としたことにより、ネジを係止物に締めていったとき、座面全体ではなくて、座面の最外周の部分とその部分のセレーションが係止物に当接し食い込んでいくことになる。
【0123】
すなわち、ネジを締結していくとき、座面が平面状のものでは、座面全体が締結物に当接し、セレーションが食い込むことによって、座面全体による大きな座面摩擦トルクや食い込みトルクが発生する。一方、本発明の合成樹脂材締結用ネジでは、座面がテーパー形状となっており、座面そのものに傾斜がついているため、座面が平面状のものとは異なり、座面の最外周の端部の丸いリング状の部分とその部分のセレーションだけが係止物に当接し食い込むことになる。そのため、ネジ締結時の座面摩擦トルクや食い込みトルクは、座面が平面状のものと比べて小さいものとなり、大きな軸力が得られることになる。また、ネジを締めたとき、座面が平面状のものだと座面全体が係止物に当接して力が分散されるが、座面にテーパーがあると、最外周のリング状の部分だけに軸力による力が集中するので面圧が高まり、最外周部のセレーションによる係止力が大きくなる。すなわち、リング状の部分にあるセレーションが、強い力で係止物に押し付けられ係止物にしっかりと食い込み噛み込むことになり、大きな係止力が発生する。しかも、リング状の部分は最外周の位置にあるため軸心からの距離があり、大きな緩みトルクを得られるものとなるというものである。
【0124】
以上述べたように、第2の発明品の逆皿形状の座面にセレーションを付けたものも、優れた緩み止めの効果を発揮する。すなわち、本発明と第2の発明品は、頭部の座面に逆皿状のテーパー形状に形成して、座面の少なくとも外周部に係止物方向に突出する係止部を形成することにより、座金組み込みネジに対応し、代替可能となる合成樹脂材締結用ネジを得た。
【0125】
本発明の合成樹脂材締結用ネジは、前述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
例えば、以上の説明では、係止物を合成樹脂材としたが、例えば、空調機の室外機等に使用されている、樹脂を亜鉛メッキ鋼板等の表面にコーティングした、ラミネート鋼板またはビニール鋼板等に対しても使用してもよいことは勿論である。
また例えば、アルミ材とか銅材とかの柔らかい金属で構成されるものに対しても、使用してもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0126】
1 合成樹脂材締結用ネジ
2 頭部
3 ネジ部
4 ネジ回転工具係合部
5 座面
6 膨出部
7 先端膨出部
8 外周面
9 セレーション
91 係止面
92 傾斜面
100 係止物
110 締結孔
120 締結痕
130 環状痕
140 凹部痕
150 先端膨出部痕
200 フレーム
210 ネジ穴
図1
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