(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】プトレシン生産微生物及びそれを用いたプトレシン生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20240827BHJP
C12P 13/00 20060101ALI20240827BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20240827BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20240827BHJP
C12R 1/15 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P13/00
C12N9/10
C12N15/54
C12R1:15
(21)【出願番号】P 2023510305
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(86)【国際出願番号】 KR2021003408
(87)【国際公開番号】W WO2022035011
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】10-2020-0101894
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM KCCM12774P
(73)【特許権者】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジェホン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ギョン ミン
(72)【発明者】
【氏名】ペ、ヒョン-ジョン
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-520687(JP,A)
【文献】Microbial Cell Factories,2018年,doi:10.1186/s12934-018-0940-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
C12P 13/00
C12N 9/10
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)及び大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase,argE)の活性が導入された、プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物。
【請求項2】
前記コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼは、配列番号1またはこれと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のコリネバクテリウム属微生物。
【請求項3】
前記大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼは、配列番号3またはこれと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のコリネバクテリウム属微生物。
【請求項4】
前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム属菌株由来の二重機能性オルニチンアセチルトランスフェラーゼ/N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(bifunctional ornithine acetyltransferase/N-acetylglutamate synthase, argJ)の活性が
、改変されていない微生物と比較して弱化されたものである、請求項1に記載のコリネバクテリウム属微生物。
【請求項5】
前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項1に記載のプトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物。
【請求項6】
コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)及び大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase,argE)の活性が導入された、プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を培地で培養する段階を含む、プトレシン生産方法。
【請求項7】
前記方法は、培養された培地または微生物からプトレシンを回収する段階をさらに含む、請求項6に記載のプトレシン生産方法。
【請求項8】
前記コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼは、配列番号1のアミノ酸配列を有する、請求項6に記載のプトレシン生産方法。
【請求項9】
前記大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼは、配列番号3のアミノ酸配列を有する、請求項6に記載のプトレシン生産方法。
【請求項10】
コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)及び大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase, argE)の活性が導入された、プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を含む、プトレシン生産用組成物。
【請求項11】
前記コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼは、配列番号1またはこれと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項10に記載のプトレシン生産用組成物。
【請求項12】
前記大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼは、配列番号3またはこれと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項10に記載のプトレシン生産用組成物。
【請求項13】
コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)及び大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase,argE)の活性が導入された、プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物のプトレシン生産への使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、プトレシン生産微生物及び当該微生物を用いたプトレシン生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロンなどの原料であるプトレシン(putrescine)は、主に石油化合物を原料物質とする化学的方法で生産され、具体的には、アクリロニトリル(acrylonitrile)にシアン化水素を添加してスクシノニトリル(succinonitrile)を作った後、水素化過程を経てプトレシンが生産される。このような化学的工程は、効率性及び経済性を有したが、環境にやさしくない短所があるところ、最近強化している環境規制とともに生物基盤経路を通じた代替物質生産の必要性が台頭している。
【0003】
これに関連し、大腸菌とコリネバクテリウム属微生物を形質転換してプトレシンを高濃度で生産する方法が公開されている(Morris et al., J Biol. Chem. 241: 13, 3129-3135, 1996, 国際特許公開W006/005603;国際特許公開 WO09/125924; Qian ZD et al., Biotechnol. Bioeng. 104: 4, 651-662, 2009; Schneider et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 88: 4, 859-868, 2010; Schneider et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 91: 17-30, 2011)。それ以外にも、微生物を用いてプトレシンを生産するための多様な方法が知られている(US13/992242, US14/372000, US14/373265, EP 2236613 B1, US 8497098 B2)。
【0004】
プトレシン生合成経路に関連したタンパク質中、二重機能性オルニチンアセチルトランスフェラーゼ/N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(bifunctional ornithine acetyltransferase/N-acetylglutamate synthase)であるargJは、アセチルCoA(acetyl-CoA)とN-アセチルオルニチン(N-acetylornithine)の2種類の物質に対して転換反応を行うことができる酵素であり、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(L-グルタミン酸N-アセチルトランスフェラーゼ、glutamate N-acetyltransferase)とN-アセチルグルタミン酸シンターゼの機能をいずれも有する。argJは、一つの酵素が2個の酵素反応を媒介することにより副産物を低減し、プトレシン生成に対する負担を減らすことができる。しかし、argJは、オルニチンのような中間代謝物質によりその活性が阻害され得(Sakanyan V, Petrosyan P, Lecocq M, Boyen A, Legrain C, Demarez M, Hallet J, Glansdorff N: Genes and enzymes of the acetyl cycle of arginine biosynthesis in Corynebacterium glutamicum: enzyme evolution in the early steps of the arginine pathway. Microbiology 1996, 142:99-108.)、これによりプトレシン生合成効率が低くなり得る。
【0005】
一方、コリネバクテリウム・グルタミカムに存在するN-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)は、アセチルCoAとグルタミン酸の存在下にN-アセチル-L-グルタミン酸の生成能を有する。しかし、上記N-アセチルトランスフェラーゼは、arg比9.43倍高い非活性を有することが報告されている(A novel type of N-acetylglutamate synthase is involved in the first step of arginine biosynthesis in Corynebacterium glutamicum.’’BMC genomics 2013(14) p713)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際特許公開WO06/005603
【文献】国際特許公開 WO09/125924
【文献】US13/992242
【文献】US14/372000
【文献】US14/373265
【文献】EP 2236613 B1
【文献】US 8497098 B2
【文献】米国登録特許US7662943B2
【文献】米国登録特許US10584338B2
【文献】米国登録特許US10273491B2
【文献】大韓民国公開特許第2012-0064046号
【文献】大韓民国公開特許第10-2013-0082478号
【文献】国際公開特許WO2009/125992
【文献】国際公開特許WO2009/096689
【文献】米国登録特許US 9890404
【文献】米国登録特許US 9677099
【非特許文献】
【0007】
【文献】Morris et al., J Biol. Chem. 241: 13, 3129-3135, 1996
【文献】Qian ZD et al., Biotechnol. Bioeng. 104: 4, 651-662, 2009
【文献】Schneider et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 88: 4, 859-868, 2010
【文献】Schneider et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 91: 17-30, 2011
【文献】Sakanyan V, Petrosyan P, Lecocq M, Boyen A, Legrain C, Demarez M, Hallet J, Glansdorff N: Genes and enzymes of the acetyl cycle of arginine biosynthesis in Corynebacterium glutamicum: enzyme evolution in the early steps of the arginine pathway. Microbiology 1996, 142:99-108.
【文献】A novel type of N-acetylglutamate synthase is involved in the first step of arginine biosynthesis in Corynebacterium glutamicum.’’BMC genomics 2013(14) p713
【文献】Sambrook et al., supra, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【文献】Pearson et al (1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【文献】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【文献】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【文献】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【文献】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【文献】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【文献】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【文献】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【文献】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【文献】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【文献】Sitnicka et al. Functional Analysis of Genes. Advances in Cell Biology. 2010, Vol. 2. 1-16
【文献】Sambrook et al. Molecular Cloning 2012
【文献】Nakashima N et al., Bacterial cellular engineering by genome editing and gene silencing. Int J Mol Sci. 2014;15(2):2773-2793
【文献】Weintraub, H. et al., Antisense-RNA as a molecular tool for genetic analysis, Reviews - Trends in Genetics, Vol. 1(1) 1986
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、微生物においてプトレシンの生産を増加させるために鋭意努力した結果、コリネバクテリウム属微生物にコリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)及び大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase)の活性を導入した時、プトレシンの生産が増加することを確認することにより、本出願を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願は、コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)及び大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase,argE)の活性が導入された、プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を提供することである。
【0010】
本出願は、コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)及び大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase,argE)の活性が導入された、ブトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を培地で培養する段階を含む、プトレシン生産方法を提供することである。
【0011】
本出願は、コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)及び大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase,argE)の活性が導入された、プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を含む、プトレシン生産用組成物を提供することである。
【発明の効果】
【0012】
本出願のコリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)及び大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase,argE)の活性が導入された、プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を培養する場合、既存の非変形微生物に比べて高収率のプトレシン生産が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】A.コリネバクテリウム属微生物のプトレシン及びオルニチン生合成経路、B.大腸菌のプトレシン及びオルニチン生合成経路を示した模式図である。
【
図2】コリネNcg12644強化及び大腸菌argEの導入を通じたプトレシン及びオルニチン生産能が向上したコリネバクテリウム属微生物のプトレシン及びオルニチン生合成経路を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
これを具体的に説明すると、次の通りである。一方、本出願で開示されたそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの異なる説明及び実施形態にも適用することができる。すなわち、本出願で開示された様々な要素の全ての組み合わせが、本出願の範囲に属する。また、以下に記載される具体的な記述により本出願の範囲が制限されるとは見られない。
【0015】
本出願の一つの様態は、コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)及び大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase,argE)の活性が導入されたプトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を提供する。
【0016】
本出願において、用語「プトレシン(putrescine)」は、NH2(CH2)4NH2の分子式を有する4個の炭素で構成されたジアミン(diamine)有機化合物であり、1,4-ジアミノブタン(1,4-diaminobutane)またはブタンジアミン(butanediamine)とも命名される。
【0017】
本出願において、用語「N-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)」は、アセチルCoA(acetyl-CoA)からアリールアミン(arylamine)、アリールヒドロキシルアミン(arylhydroxylamine)及びアリールヒドラジン(arylhydrazine)でアセチル基の伝達を触媒する酵素(EC2.3.1.5)である。上記酵素は、CoAなしにアリールアミン間のアセチル転移を触媒することができ、アセチルCoAとグルタミン酸の存在の下にN-アセチル-L-グルタミン酸の生成能を有することができる。上記酵素は、芳香族アミンに対して広い特異性を有することが知られている。
【0018】
本出願において、上記N-アセチルトランスフェラーゼは、GNAT(GCN5-related N-acetyltransferases)ファミリーに属するものであってもよいが、これに制限されない。
【0019】
上記N-アセチルトランスフェラーゼは、配列番号1のアミノ酸配列を有したり、配列番号1のアミノ酸配列からなるか、または、配列番号1で記載されるアミノ酸配列を含むものであってもよいが、これに制限されない。上記配列番号1の配列は、公知のデータベースであるNCBIジェンバンク(Genbank)からその配列を確認することができる。
【0020】
具体的には、上記N-アセチルトランスフェラーゼは、配列番号1及び/又は上記配列番号1と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性(homology)または同一性(identity)を有するアミノ酸配列を有することができる。また、このような相同性または同一性を有し、上記N-アセチルトランスフェラーゼに対応する機能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有するN-アセチルトランスフェラーゼも本出願の範囲内に含まれることは自明である。即ち、本出願において「特定配列番号で記載されたアミノ酸配列を含むタンパク質またはポリペプチド」、「特定配列番号で記載されたアミノ酸配列からなるタンパク質またはポリペプチド」と記載されているとしても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一あるいは対応する活性を有する場合であれば、一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質も本出願で用いられることは自明である。例えば、「配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチド」は、これと同一あるいは対応する活性を有する場合であれば、「配列番号1のアミノ酸配列として含むポリペプチド」に属し得ることは自明である。
【0021】
本出願において、上記N-アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、コリネバクテリウム属菌株に由来するものであってもよく、具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)に由来するものであってもよいが、N-アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を発現できるコリネバクテリウム属菌株であれば、特に制限されない。上記遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含み、より具体的には、配列番号2の塩基配列を含んでもよいが、これに制限されない。上記配列番号2の塩基配列は、公知のデータベースであるジェンバンクから得ることができ、Ncg12644と命名され得る。上記配列番号2の塩基配列を含む遺伝子は、配列番号2の塩基配列を含むポリヌクレオチド、配列番号2の塩基配列を有する遺伝子またはポリヌクレオチド、配列番号2の塩基配列からなる遺伝子またはポリヌクレオチドと混用され得る。
【0022】
本出願において、用語「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチド単位体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)であり、一定の長さ以上のDNAまたはRNA鎖であり、より具体的には、上記変異体をコードするポリヌクレオチド断片を意味する。上記ポリヌクレオチドは、機能をすることができるポリヌクレオチド集合体の場合、遺伝子として記載され得る。本出願においてポリヌクレオチドと遺伝子は混用され得る。
【0023】
具体的には、本出願のポリヌクレオチドは、コドンの縮退性(degeneracy)により、または上記ポリペプチドを発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮し、ポリペプチドのアミノ酸配列を変化させない範囲内でコード領域に多様な変形がなされてもよい。具体的には、配列番号1のアミノ酸配列からなるN-アセチルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列であれば、制限なく含み得る。
【0024】
また、公知の遺伝子配列から調製され得るプローブ、例えば、上記塩基配列の全体または一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下にハイブリット化し、配列番号1のアミノ酸配列からなるN-アセチルトランスフェラーゼをコードする配列であれば、制限なく含まれる。上記「ストリンジェントな条件(stringent condition)」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は、当該技術分野によく知られている。例えば、相同性または同一性が高い遺伝子同士、40%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、より具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性または同一性を有する遺伝子同士をハイブリダイズし、それより相同性または同一性が低い遺伝子同士をハイブリダイズしない条件、またはサザンハイブリダイゼーション(southern hybridization)の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、具体的には、60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度及び温度で1回、具体的には、2回~3回洗浄する条件を列挙することができる。
【0025】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することを要求する。用語「相補的」は、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を記述するのに使用される。例えば、DNAに関し、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。したがって、本出願は、また、実質的に類似の核酸配列だけでなく、配列全体に相補的な単離された核酸断片を含んでもよい。
【0026】
具体的には、相同性または同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーション段階を含むハイブリダイゼーション条件を用い、上述の条件を用いて探知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃または65℃であってもよいが、これに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節され得る。
【0027】
ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切なストリンジェンシーは、ポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当技術分野においてよく知られている (Sambrook et al.,supra,9.50-9.51,11.7-11.8を参照)。
【0028】
本出願において、用語「相同性(homology)」または「同一性(identity)」は二つの与えられたアミノ酸配列または塩基配列相互間の類似の程度を意味し、百分率で表示されることができる。用語、相同性及び同一性はしばしば相互交換的に利用できる。
【0029】
保存された(conserved)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列相同性または同一性は、標準配列アルゴリズムにより決定され、使用されるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に使用されてもよい。実質的に、相同性を有したり(homologous)または同一の(identical)配列は、一般に、配列の全体または一部分と中程度または高いストリンジェントな条件(stringent conditions)でハイブリダイズすることができる。ハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドにおける一般のコドンまたはコドン縮退性を考慮したコドンを含有するポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションも含まれることが自明である。
【0030】
任意の二つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列が相同性、類似性または同一性を有するかどうかは、例えば、Pearson et al (1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444でのようなデフォルトパラメータを用いて「FASTA」プログラムなどの既知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定されることができる。または、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite, Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277)(バージョン5.0.0または以降のバージョン)で行われるような、ニードルマン-ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453)を使用して決定されてもよい(GCGプログラムパッケージ(Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)), BLASTP, BLASTN, FASTA (Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990); Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994, 及び[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073を含む)。例えば、国立生物工学情報データベースセンターのBLAST、またはClustalWを用いて相同性、類似性または同一性を決定することができる。
【0031】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性、類似性または同一性は、例えば、Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482において公知となっているように、例えば、Needleman et al. (1970), J Mol Biol. 48:443のようなGAPコンピュータプログラムを用いて配列情報を比較することにより決定されてもよい。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列中、より短いものにおける記号の総数であり、類似の配列された記号(即ち、ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数を除した値と定義することができる。GAPプログラムのためのデフォルトパラメータは、(1)二進法比較マトリックス(同一性のために1、そして非同一性のために0の値を含有する)及びSchwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)により開示されているように、Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745の加重比較マトリックス(またはEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス);(2)各ギャップのための3.0のペナルティ及び各ギャップにおいて各記号のための追加の0.10ペナルティ(またはギャップ開放ペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5);及び(3)末端ギャップのための無ペナルティを含むことができる。
【0032】
本出願の一例として、本出願の変異体は、フィトエン不飽和化酵素(Phytoene desaturase)活性を有することができる。また、本出願の変異体は、フィトエン不飽和化酵素活性を有する野生型ポリペプチドに比べてIMP(5’-inosine monophosphate)生産能を増加させる活性を有することができる。
【0033】
本出願において、用語「フィトエン不飽和化酵素(Phytoene desaturase)」は、ポリトランス(poly-trans)経路と呼ばれる生化学的経路において無色の15-シス-フィトエン(15-cis-phytoene)を鮮やかな赤色のリコペン(lycopene)に転換させるポリペプチドである。具体的には、本出願のフィトエン不飽和化酵素は、フィトエンデサチュラーゼまたはCrtIと混用され得る。本出願において上記フィトエン不飽和化酵素は、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列が得られる。具体的には、crtIによりコードされるフィトエン不飽和化酵素活性を有するポリペプチドであってもよいが、これに制限されない。
【0034】
本出願において、用語「アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase)」は、アセチルオルニチンの加水分解を媒介して酢酸とオルニチンが生成される反応を媒介する酵素(EC3.5.1.16)である。本出願において、上記アセチルオルニチンデアセチラーゼはargEであってもよいが、これに制限されない。
上記argEは、配列番号3のアミノ酸配列を有してもよく、配列番号3のアミノ酸配列からなっってもよく、配列番号3で記載されるアミノ酸配列を含むものであってもよいが、これに制限されない。上記配列番号3の配列は、公知のデータベースであるNCBIジェンバンクからその配列を確認することができる。
【0035】
本出願において上記argEをコードする遺伝子は、バクテリアに由来するものであってもよく、具体的には、大腸菌に由来するものであってもよいが、argEをコードする遺伝子を発現できる菌株であれば、特に制限されない。上記遺伝子は、配列番号3のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含んでもよく、より具体的には、配列番号4の塩基配列を含んでもよいが、これに制限されない。上記配列番号4の塩基配列は、公知のデータベースであるジェンバンクから得ることができる。
【0036】
本出願において、上記プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム属菌株由来の二重機能性オルニチンアセチルトランスフェラーゼ/N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(bifunctional ornithine acetyltransferase/N-acetylglutamate synthase, argJ)の活性が弱化したものであってもよいが、これに制限されない。
【0037】
本出願において、用語「二重機能性オルニチンアセチルトランスフェラーゼ/N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(bifunctional ornithine acetyltransferase/N-acetylglutamate synthase)」は、アセチルCoA(acetyl-CoA)とN-アセチルオルニチン(N-acetylornithine)の2種類の物質に対して転換反応を行うことができる酵素であり、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ[L-グルタミン酸N-アセチルトランスフェラーゼ、glutamate N-acetyltransferase(EC2.3.1.35)]とN-アセチルグルタミン酸シンターゼ(EC2.3.1.1)の機能をいずれも有する。上記オルニチンアセチルトランスフェラーゼは、N2-アセチル-L-オルニチン(N2-acetyl-L-ornithine)及びL-グルタミン酸(L-glutamate)をL-オルニチン(L-ornithine)及びN-アセチル-L-グルタミン酸(N-acetyl-L-glutamate)に転換し、上記N-アセチルグルタミン酸シンターゼは、グルタミン酸(glutamate)及びアセチル-CoAからN-アセチルグルタミン酸(N-acetylglutamate)の生成を触媒する。本出願において、上記二重機能性オルニチンアセチルトランスフェラーゼ/N-アセチルグルタミン酸シンターゼはargJであってもよいが、これに制限されない。
【0038】
上記argJは、一つの酵素が2つの酵素反応を媒介することにより副産物を低減し、プトレシン生成に対する負担を減らすことができる。しかし、argJは、オルニチンのような中間代謝物質によりその活性が阻害され、これによりプトレシン生合成効率が低くなる。
【0039】
上記argJは、配列番号5または配列番号7のアミノ酸配列を有してもよく、配列番号5または配列番号7のアミノ酸配列からなっってもよく、あるいは、配列番号5または配列番号7で記載されるアミノ酸配列を含むものであってもよいが、これに制限されない。上記配列番号5または配列番号7の配列は、公知のデータベースであるNCBIジェンバンクからその配列を確認することができる。
【0040】
本出願において上記argJをコードする遺伝子は、コリネバクテリウム属菌株に由来するものであってもよく、具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)に由来するものであってもよいが、argJをコードする遺伝子を発現できるコリネバクテリウム属菌株であれば、特に制限されない。具体的には、上記配列番号5のアミノ酸配列をコードする遺伝子は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869由来であってもよいが、これに制限されない。上記遺伝子は、配列番号5のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含んでもよく、より具体的には、配列番号6の塩基配列を含んでもよくが、これに制限されない。上記配列番号6の塩基配列は公知のデータベースであるジェンバンクから得ることができる。
【0041】
また、上記配列番号7のアミノ酸配列をコードする遺伝子は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032由来であってもよいが、これに制限されない。上記遺伝子は、配列番号7のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含んでもよく、より具体的には、配列番号8の塩基配列を含んでもよいが、これに制限されない。上記配列番号8の塩基配列は公知のデータベースであるジェンバンクから得ることができる。
【0042】
本出願において、用語「プトレシン生産能を有する微生物」とは、自然にプトレシンの生産能を有している微生物またはプトレシンの生産能のない親株に、プトレシンの生産能が付与された微生物を意味する。具体的には、上記微生物は、コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ及び大腸菌由来argEの活性が導入されたプトレシンを生産する微生物であってもよいが、これに制限されない。
【0043】
具体的には、上記「プトレシンを生産する微生物」は、野生型微生物や天然または人為的に遺伝的変形が起こった微生物をいずれも含む。より具体的には、外部遺伝子が挿入されたり、内在的遺伝子の活性が強化または弱化されるなどの原因により特定の機序が弱化または強化された微生物であり、目的とするプトレシンの生産のために遺伝的変異が起きたりプトレシン生産活性を強化させた微生物であってもよい。
【0044】
本出願において、用語活性の「導入」は、微生物が本来有していなかった遺伝子がその微生物内で発現されることにより特定タンパク質の活性を示すようになることまたは当該タンパク質の内在的活性または変形前の活性に比べて増加または向上した活性を示すようになることを意味する。例えば、特定タンパク質をコードするポリヌクレオチドが微生物内の染色体に導入されたり、特定タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが微生物内に導入され、その活性が示されるものであってもよい。
【0045】
本出願において、用語ポリペプチド活性の「強化」は、ポリペプチドの活性が内在的活性に比べて増加することを意味する。上記強化は、活性化(activation)、上方制御(up-regulation)、過発現(overexpression)、増加(increase)などの用語と混用され得る。ここで、活性化、強化、上方制御、過発現、増加は、本来有していなかった活性を示すようになること、もしくは内在的活性または変形前の活性に比べて向上した活性を示すようになることをいずれも含み得る。上記「内在的活性」は、天然または人為的要因による遺伝的変異により形質が変化した場合、形質変化前の親株または非変形微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性を意味する。これは、「変形前の活性」と混用され得る。ポリペプチドの活性が内在的活性に比べて「強化」、「上方制御」「過発現」または「増加」するということは、形質変化前の親株または非変形微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性及び/又は濃度(発現量)に比べて向上したことを意味する。
【0046】
上記強化は、外来のポリペプチドを導入したり、内在的なポリペプチドの活性強化及び/又は濃度(発現量)を通じて達成できる。上記ポリペプチドの活性の強化有無は、当該ポリペプチドの活性程度、発現量または該当ポリペプチドから排出される産物の量の増加から確認することができる。
【0047】
上記ポリペプチドの活性の強化は、当該分野によく知られている多様な方法の適用が可能であり、目的ポリペプチドの活性を変形前の微生物より強化させることができる限り、制限されない。具体的には、分子生物学の通常の方法である当業界の通常の技術者によく知られている遺伝子工学及び/又はタンパク質工学を用いたものであってもよいが、これに制限されない。(例えば、Sitnicka et al. Functional Analysis of Genes. Advances in Cell Biology. 2010, Vol. 2. 1-16, Sambrook et al. Molecular Cloning 2012など)。
【0048】
具体的には、本出願のポリペプチドの強化は
1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数の増加;
2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子発現調節領域を活性が強力な配列で交換;
3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドンまたは5’-UTR領域をコードする塩基配列の変形;
4)ポリペプチド活性が強化するように、上記ポリペプチドのアミノ酸配列の変形;
5)ポリペプチド活性が強化するように、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の変形(例えば、ポリペプチドの活性が強化するように変形されたポリペプチドをコードするように、上記ポリペプチド遺伝子のポリヌクレオチド配列の変形);
6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリペプチドまたはこれをコードする外来ポリヌクレオチドの導入;
7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドン最適化;
8)ポリペプチドの三次構造を分析し、露出部位を選択して変形したり化学的に修飾;または
9)上記1)~8)から選択された2以上の組み合わせであってもよいが、これに特に制限されるものではない。
【0049】
より具体的には、
上記1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数の増加は、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主とは関係なく複製され、機能できるベクターの宿主細胞内への導入により達成されるものであってもよい。または、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが宿主細胞内の染色体内に1コピーまたは2コピー以上の導入により達成されるものであってもよい。上記染色体内への導入は、宿主細胞内の染色体内に上記ポリヌクレオチドを挿入させることができるベクターが宿主細胞内に導入されることにより行われ得るが、これに制限されない。上記ベクターは、前述した通りである。
【0050】
上記2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子発現調節領域(または発現調節配列)を活性が強力な配列への交換は、例えば、上記発現調節領域の活性をより強化するように欠失、挿入、非保存的若しくは保存的置換またはこれらの組合わせにより配列上の変異発生、またはより強い活性を有する配列への交換であってもよい。上記発現調節領域は、特にこれに制限されないが、プロモーター、オペレータ配列、リボソーム結合部位をコードする配列、そして転写及び解読の終結を調節する配列などを含んでもよい。一例として、本来のプロモーターを強力なプロモーターで交換させるものであってもよいが、これに制限されない。
【0051】
公知となった強力なプロモーターの例としては、CJ1~CJ7プロモーター(米国登録特許US 7662943 B2)、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター、gapAプロモーター、SPL7プロモーター、SPL13(sm3)プロモーター(米国登録特許US 10584338 B2)、02プロモーター(米国登録特許US 10273491 B2)、tktプロモーター、yccAプロモーターなどがあるが、これに制限されない。
【0052】
上記3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドンまたは5’-UTR領域をコードする塩基配列変形は、例えば、内在的開始コドンに比べてポリペプチド発現率がさらに高い他の開始コドンをコードする塩基配列で置換されるものであってもよいが、これに制限されない。
【0053】
上記4)及び5)のアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列の変形は、ポリペプチドの活性を強化するように、上記ポリペプチドのアミノ酸配列または上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を欠失、挿入、非保存的若しくは保存的置換またはこれらの組合わせにより配列上の変異発生、またはより強い活性を有するように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列または活性が増加するように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列への交換であってもよいが、これに限定されるものではない。上記交換は、具体的には、相同組換えによりポリヌクレオチドを染色体内に挿入することにより行われてもよいが、これに制限されない。この時に用いられるベクターは、染色体挿入有無を確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。上記選別マーカーは、前述した通りである。
【0054】
上記6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリヌクレオチドの導入は、上記ポリペプチドと同一/類似した活性を示すポリペプチドをコードする外来ポリヌクレオチドの宿主細胞内への導入であってもよい。上記外来ポリヌクレオチドは、上記ポリペプチドと同一/類似した活性を示す限り、その由来や配列に制限がない。上記導入に用いられる方法は、公知となった形質転換方法を当業者が適切に選択して行うことができ、宿主細胞内で上記導入されたポリヌクレオチドが発現することにより、ポリペプチドが生成され、その活性が増加することができる。
【0055】
上記7)ポリペプチドをコードするボリヌクレオチドのコドン最適化は、内在ポリヌクレオチドが宿主細胞内で転写または翻訳が増加するようにコドン最適化したものであってもよく、または外来ポリヌクレオチドが宿主細胞内で最適化された転写、翻訳がなされるようにこのコドンを最適化したものであってもよい。
【0056】
上記8)ポリペプチドの三次構造を分析し、露出部位を選択して変形したり化学的に修飾することは、例えば、分析しようとするポリペプチドの配列情報を既知のタンパク質の配列情報が格納されたデータベースと比較することにより配列の類似性程度に応じて鋳型タンパク質の候補を決定し、これに基づいて構造を確認し、変形したり化学的に修飾する露出部位を選択して変形または修飾するものであってもよい。
【0057】
このようなポリペプチド活性の強化は、対応するポリペプチドの活性または濃度発現量が野生型や変形前の微生物菌株で発現されたポリペプチドの活性または濃度を基準として増加してもよく、当該ポリペプチドから生産される産物の量が増加するものであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0058】
本出願の微生物においてポリヌクレオチドの一部または全体の変形は、(a)微生物内の染色体挿入用ベクターを用いた相同組換えまたは遺伝子ハサミ(engineered nuclease, e.g., CRISPR-Cas9)を用いたゲノム編集及び/又は(b)紫外線及び放射線などのような光及び/又は化学物質の処理により誘導されてもよいが、これに制限されない。上記遺伝子の一部または全体の変形方法には、DNA組換え技術による方法が含まれ得る。例えば、目的遺伝子と相同性があるヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列またはベクターを上記微生物に注入して相同組換え(homologous recombination)が起こるようにして遺伝子の一部または全体の欠損がなされてもよい。上記注入されるヌクレオチド配列またはベクターは、優性選別マーカーを含んでもよいが、これに制限されるものではない。
【0059】
このようなタンパク質の活性強化は、対応するタンパク質の活性または濃度が野生型や変形前の微生物菌株で発現されたタンパク質の活性または濃度を基準として増加するものであってもよいが、これに制限されるものではない。本出願において、用語「変形前の菌株」または「変形前の微生物」は、微生物に自然に発生し得る突然変異を含む菌株を除外するものではなく、天然型菌株自体であるか、人為的要因による遺伝的変異により形質が変化する前の菌株を意味する。本出願において、上記形質変化は、コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ及び大腸菌由来argE活性の導入であってもよい。上記「変形前の菌株」または「変形前の微生物」は、「非変異菌株」、「非変形菌株」、「非変異微生物」、「非変形微生物」または「基準微生物」と混用され得る。
【0060】
本出願において、上記基準微生物は、プトレシンを生産する微生物であれば、特に制限されず、野生型に比べてプトレシン生産能が強化された変異菌株も制限なく含まれる。その例として、野生型コリネバクテリウム・グルタミカム菌株ATCC13032菌株、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869菌株またはプトレシン生合成経路を強化するために、上記菌株に一つ以上の遺伝的変形が追加された菌株が含まれてもよいが、これに制限されない。
【0061】
上記一つ以上の遺伝的変形は、例えば、プトレシン生合成経路の遺伝子を強化させる;プトレシンオペロン(operon)の活性を過発現させる;プトレシンの前駆体の供給及び効率を改善する;プトレシンの排出を向上させる;競争経路の遺伝子、プトレシンオペロンの方向性経路の調節因子、プトレシン流入遺伝子、プトレシン流入及び分解遺伝子の活性を弱化させる;ことから選択されるいずれか一つ以上の遺伝的変形であってもよいが、これに制限されない。
【0062】
上記プトレシン生合成経路の遺伝子を強化させる遺伝的変形は、例えば、野生型大腸菌W3110菌株由来のオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)をコードする遺伝子(speC)を染色体内に導入するものであってもよいが、これに制限されない。
【0063】
上記プトレシンオペロンの活性を過発現させる遺伝的変形は、例えば、グルタミン酸においてオルニチン合成に関与する酵素をコードするargCJBD遺伝子群のプロモーターを置換するものであってもよいが、これに制限されない。
【0064】
上記プトレシンの排出を向上させてもよく;競争経路の遺伝子、プトレシンオペロンの方向性経路の調節因子、プトレシン流入遺伝子、プトレシン流入及び分解遺伝子の活性を弱化させる遺伝的変形は、例えば、染色体内のオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(argF)及びグルタミン酸の排出に関与するグルタミン酸エクスポータ(NCg11221)をコードする遺伝子を欠損させてもよく;ヒストンアセチルトランスフェラーゼHPA2及び関連アセチルトランスフェラーゼ(histone acetyltransferase HPA2 and related acetyltransferase)と定義されるNCg11469タンパク質の活性を欠失させるものであってもよいが、これに制限されない。
【0065】
上記一つ以上の遺伝的変形が追加された菌株は、例えば、ATCC13032において染色体内のオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(argF)及びグルタミン酸の排出に関与するグルタミン酸エクスポータ(NCg11221)をコードする遺伝子が欠損し、野生型大腸菌W3110菌株由来のオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)をコードする遺伝子(speC)が染色体内に導入され、グルタミン酸においてオルニチン合成に関与する酵素をコードしているargCJBD遺伝子群のプロモーターが置換されてプトレシン生産能を有するCC01-0064菌株(大韓民国公開特許第2012-0064046号、KCCM11138P)、CC01-0064菌株にヒストンアセチルトランスフェラーゼHPA2及び関連アセチルトランスフェラーゼ(histone acetyltransferase HPA2 and related acetyltransferase)と定義されるNCg11469タンパク質の活性が欠失したCC01-0163菌株(大韓民国公開特許第10-2013-0082478号、KCCM11240P)であってもよいが、これに制限されない。
【0066】
また、上記プトレシンを生産する微生物は、コリネバクテリウム属菌株由来argJの活性が弱化したものであってもよいが、これに制限されない。
【0067】
本出願において、用語タンパク質の「弱化」は、内在的活性に比べて活性が減少したりまたは活性がないことをいずれも含む概念である。上記弱化は、不活性化(inactivation)、欠乏(deficiency)、下方制御(down-regulation)、減少(decrease)、低下(reduce)、減衰(attenuation)などの用語と混用され得る。
【0068】
上記弱化は、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの変異などによりポリペプチド自体の活性が本来微生物が有しているポリペプチドの活性に比べて減少または除去された場合、それをコードするポリヌクレオチドの遺伝子の発現阻害またはポリペプチドへの翻訳(translation)の阻害などにより細胞内で全体的なポリペプチド活性程度及び/又は濃度(発現量)が天然型菌株に比べて低い場合、上記ポリヌクレオチドの発現が全く行われていない場合、及び/又はポリヌクレオチドが発現されてもポリペプチドの活性がない場合も含み得る。上記「内在的活性」は、天然または人為的要因による遺伝的変異により形質が変化した場合、形質変化前の親株、野生型または非変形微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性を意味する。これは、「変形前の活性」と混用され得る。ポリペプチドの活性が内在的活性に比べて「不活性化、欠乏、減少、下方制御、低下、減衰」するということは、形質変化前の親株または非変形微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性に比べて低下したことを意味する。
【0069】
このようなポリペプチドの活性の弱化は、当業界に知られた任意の方法により行われ得るが、これに制限されるものではなく、当該分野においてよく知られている様々な方法の適用により達成されることができる(例えば、Nakashima N et al., Bacterial cellular engineering by genome editing and gene silencing. Int J Mol Sci. 2014;15(2):2773-2793, Sambrook et al. Molecular Cloning 2012など)。
【0070】
本出願において、上記弱化の対象になるタンパク質、即ち、目的タンパク質はargJであってもよいが、これに制限されない。
【0071】
1)ポリペプチドをコードする遺伝子の全部または一部の欠損;
2)ポリペプチドをコードする遺伝子の発現が減少するように発現調節領域(または発現調節配列)の変形;
3)ポリペプチドの活性が除去または弱化するように、上記ポリペプチドを構成するアミノ酸配列の変形(例えば、アミノ酸配列上の1以上のアミノ酸の削除/置換/付加);
4)ポリペプチドの活性が除去または弱化するように、上記ポリペプチドをコードする遺伝子配列の変形(例えば、ポリペプチドの活性が除去または弱化するように変形されたポリペプチドをコードするように、上記ポリペプチド遺伝子の核酸塩基配列上の1以上の核酸塩基の削除/置換/付加);
5)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドンまたは5’-UTR領域をコードする塩基配列の変形;
6)ポリペプチドをコードする上記遺伝子の転写体に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)の導入;
7)リボソーム(ribosome)の付着が不可能な2次構造物を形成させるためにポリペプチドをコードする遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前端にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列の付加;
8)ポリペプチドをコードする遺伝子配列のORF(open reading frame)の3’末端に反対方向に転写されるプロモーターの付加(Reverse transcription engineering, RTE);または
9)上記1)~8)から選択された2以上の組み合わせであってもよいが、これについて、特に制限されるものではない。
【0072】
例えば、
上記1)ポリペプチドをコードする上記遺伝子の一部または全体の欠損は、染色体内の内在的目的ポリペブチドをコードするポリヌクレオチド全体の除去、一部のヌクレオチドが欠失したポリヌクレオチドへの交換、またはマーカー遺伝子への交換であってもよい。
【0073】
また、上記2)発現調節領域(または発現調節配列)の変形は、欠失、挿入、非保存的若しくは保存的置換またはこれらの組合わせにより発現調節領域(または発現調節配列)上の変異発生、またはより弱い活性を有する配列への交換であってもよい。上記発現調節領域には、プロモーター、オペレータ配列、リボソーム結合部位をコードする配列、及び転写と解読の終結を調節する配列を含むが、これに限定されるものではない。
【0074】
また、上記3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドンまたは5’-UTR領域をコードする塩基配列変形は、例えば、内在的開始コドンに比べてポリペプチド発現率がさらに低い他の開始コドンをコードする塩基配列で置換されるものであってもよいが、これに制限されない。
【0075】
また、上記4)及び5)のアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列の変形は、ポリペプチドの活性を弱化するように、上記ポリペプチドのアミノ酸配列または上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を欠失、挿入、非保存的若しくは保存的置換またはこれらの組合わせにより配列上の変異発生、またはより弱い活性を有するように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列または活性がないように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列への交換であってもよいが、これに限定されるものではない。例えば、ポリヌクレオチド配列内の変異を導入して終結コドンを形成させることにより、遺伝子の発現を阻害または弱化させることができるが、これに制限されない。
【0076】
上記6)ポリペプチドをコードする上記遺伝子の転写体に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)の導入は、例えば、文献[Weintraub, H. et al., Antisense-RNA as a molecular tool for genetic analysis, Reviews - Trends in Genetics, Vol. 1(1) 1986]を参考にすることができる。
【0077】
上記7)リボソーム(ribosome)の付着が不可能な2次構造物を形成させるためにポリペプチドをコードする遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前端にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列の付加は、mRNA翻訳を不可能にしたり速度を低下させることであってもよい。
【0078】
上記8)ポリペプチドをコードする遺伝子配列のORF(open reading frame)の3’末端に反対方向に転写されるプロモーターの付加(Reverse transcription engineering,RTE)は、上記ポリペプチドをコードする遺伝子の転写体に相補的なアンチセンスヌクレオチドを作って活性を弱化することであってもよい。
【0079】
上記プトレシンを生産する微生物は、前述した方法でコリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ及び大腸菌由来argEの活性が導入され、プトレシンを生産できる微生物であれば、いずれも可能である。本出願の目的上、上記プトレシンを生産する微生物は、前述した方法でコリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ及び大腸菌由来argEの活性が導入され、コリネバクテリウム属菌株由来argJの活性が弱化し、目的とするプトレシン生産能が増加したことを特徴とし、遺伝的に変形された微生物または組換え微生物であってもよいが、これに制限されない。本出願において上記「プトレシンを生産する微生物」は、「プトレシン生産微生物」、「プトレシン生産能を有する微生物」と混用され得る。
【0080】
上記微生物は、例えば、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、エシェリキア(Escherichia)属、エンテロバクター(Enterbacter)属、エルウィニア(Erwinia)属、セラチア(Serratia)属、プロビデンシア(Providencia)属及びブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物であってもよく、具体的には、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物であってもよい。
【0081】
より具体的には、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・クルジラクチス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウム・デセルティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・シングラレ(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウム・ハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウム・ストリアツム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウム・ポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウム・イミタンスCxorynebacterium imitans)、コリネバクテリウム・テスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)またはコリネバクテリウム・フラベッセンス(Corynebacterium flavescens)などであってもよく、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であってもよく、コリネバクテリウム属に属する微生物は制限なく含まれてもよい。
【0082】
本出願のもう一つの様態は、コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)及び大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase, argE)の活性が導入された、プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を培地で培養する段階を含む、プトレシン生産方法を提供する。上記N-アセチルトランスフェラーゼ、アセチルオルニチンデアセチラーゼ、プトレシン及び微生物については、前述した通りである。
【0083】
上記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム属菌株由来の二重機能性オルニチンアセチルトランスフェラーゼ/N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(bifunctional ornithine acetyltransferase/N-acetylglutamate synthase,argJ)の活性が弱化したものであってもよいが、これに制限されない。
【0084】
上記方法は、当業界に公知となった最適化された培養条件及び酵素活性条件で当業者により容易に決定され得る。具体的には、上記微生物を培養する段階は、特にこれに制限されないが、公知となった回分式培養方法、連続式培養方法、流加式培養方法などにより行われてもよい。この時、培養条件は、特にこれに制限されないが、塩基性化合物(例:水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニア)または酸性化合物(例:リン酸または硫酸)を用いて適正pH(例えば、pH5~9、具体的にはpH6~8、最も具体的にはpH6.8)を調節することができ、酸素または酸素含有ガス混合物を培養物に導入させて好気性条件を維持できる。培養温度は20~45℃、具体的には25~40℃を維持でき、約10~160時間培養できるが、これに制限されるものではない。上記培養により生産されたプトレシンは、培地中に分泌されたり細胞内に残留する。
【0085】
併せて、用いられる培養用培地は、炭素供給源としては、糖及び炭水化物(例:グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、モラッセ、澱粉及びセルロース)、油脂及び脂肪(例:大豆油、ひまわり種子油、ピーナッツ油及びココナッツ油)、脂肪酸(例:パルミチン酸、ステアリン酸及びリノール酸)、アルコール(例:グリセロール及びエタノール)及び有機酸(例:酢酸)などを個別に用いたり、または混合して用いられるが、これに制限されない。窒素供給源としては、窒素含有有機化合物(例:ペプトン、酵母抽出液、肉汁、麦芽抽出液、トウモロコシ浸漬液、大豆粕粉及びウレア)、または無機化合物(例:硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウム)などを個別に用いたり、または混合して用いられるが、これに制限されない。リン供給源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、これに対応するナトリウム含有塩などを個別に用いたり、または混合して用いられるが、これに制限されない。また、培地にはその他の金属塩(例:硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄)、アミノ酸及びビタミンのような必須成長促進物質を含んでもよい。
【0086】
上記方法は、上記培養段階後に培養された培地または微生物からプトレシンを回収する段階をさらに含んでもよいが、これに制限されない。
【0087】
上記培養段階で生産されたプトレシンを回収する方法は、培養方法により当該分野において公知となった適合した方法を用いて培養液から目的とするプトレシンを収集することができる。例えば、遠心分離、濾過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化及びHPLCなどが用いられ、当該分野において公知となった適合した方法を用いて培地または微生物から目的とするプトレシンを回収することができる。
【0088】
上記プトレシンを回収する方法は、精製段階をさらに含んでもよい。上記精製段階は、当該分野において公知となった適合した方法を用いて行われてもよい。従って、上記回収されるプトレシンは、精製された形態またはプトレシンを含有した微生物発酵液であってもよい。
【0089】
本出願のもう一つの様態は、コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)及び大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase,argE)の活性が導入された、プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を含む、プトレシン生産用組成物を提供する。
【0090】
上記N-アセチルトランスフェラーゼ、アセチルオルニチンデアセチラーゼ、プトレシン及び微生物については、前述した通りである。
【0091】
上記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム属菌株由来の二重機能性オルニチンアセチルトランスフェラーゼ/N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(bifunctional ornithine acetyltransferase/N-acetylglutamate synthase,argJ)の活性が弱化したものであってもよいが、これに制限されない。
【0092】
上記プトレシン生産用組成物は、上記コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)及び大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase,argE)の活性を導入させる構成を制限なく含んでもよい。具体的には、上記構成は、導入された宿主細胞で作動可能に連結された遺伝子を発現させるようにベクター内に含まれた形態であってもよく、これについては、前述した通りである。
【0093】
上記コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼは、配列番号1またはこれと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよく、これについては、前述した通りである。
【0094】
上記大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼは、配列番号3またはこれと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよく、これについては、前述した通りである。
【0095】
本出願の組成物は、アミノ酸生産用組成物に通常使用される任意の適切な賦形剤をさらに含むことができ、そのような賦形剤は、例えば、保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤または等張化剤等であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0096】
本出願の他の一つの様態は、プトレシン生産のための、組成物の使用を提供する。
【0097】
本出願の他の一つの様態は、コリネバクテリウム属菌株由来のN-アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase)及び大腸菌由来アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase, argE)の活性が導入された、プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物のプトレシン生産への使用を提供する。
【0098】
以下、本出願を実験例を通じてより詳細に説明する。しかし、これら実施例は、本出願を例示的に説明するためのものであり、本出願の範囲がこれら実施例により制限されるものではなく、本出願の属する技術分野において通常の知識を有する者にとって明白なはずである。
【0099】
実施例1:コリネ由来argJ遺伝子強化菌株のプトレシン生産能の確認
1-1.ATCC13032基盤プトレシン生産菌株のトランスポゾン遺伝子内へのATCC13869由来argJ強化菌株の製作
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032基盤のプトレシン生産菌株においてコリネバクテリウム属菌株由来の二重機能性オルニチンアセチルトランスフェラーゼ/N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(bifunctional ornithine acetyltransferase/N-acetylglutamate synthase)をコードするargJ遺伝子を強化するために、argJ遺伝子を上記菌株のトランスポゾン遺伝子内に導入した。
【0100】
コリネバクテリウム属微生物のトランスポゾン遺伝子部位を用いて染色体内遺伝子導入を可能にする形質転換用ベクターとしてpDZTn(国際公開特許WO2009/125992)を用い、プロモーターとしてコリネバクテリウム・グルタミカム由来lysC-asdオペロン遺伝子のプロモーターを改良した1ysCP1プロモーター(国際公開特許WO2009/096689、配列番号9)を用いた。
【0101】
具体的には、上記pDZTnベクターの製作過程は、次の通りである。トランスポゾン遺伝子を確保するために、NIHジェンバンク(NIHGenBank)からコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032由来の全体塩基配列中、トランスポゾン遺伝子の塩基配列情報(NCBI登録番号NC_003450、NCg11021)を確保し、これに基づいて2対のプライマー(表1、配列番号10~13)を合成した。
【0102】
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体DNAを鋳型とし、下記配列番号10~13のプライマ一対を用いてPCRを行った。ポリメラーゼは PfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用い、PCR条件は、変性96℃30秒;アニーリング58℃30秒;及び重合反応72℃1分を30回繰り返した。
【0103】
【0104】
その結果、PCR結果物として約500bpのプロモーター部位を含むトランスポゾン遺伝子2対(Tn-A、Tn-B)を得た。Tn-A(配列番号14)は、配列番号10と11をプライマーとして用いて増幅されたものであり、Tn-B(配列番号15)は、配列番号12と13をプライマーとして用いて増幅されたものである。上記増幅産物をBDインフュージョンキット(In-Fusion kit,BD)を用いて予めSalI制限酵素で処理したpDZベクターにクローニングしてpDZTnベクターを得た。2つの増幅された産物間にはプライマー製作時に人為的に挿入した多数の制限酵素認識部位を含んでいる。
【0105】
lysCP1プロモーターの製作過程は、次の通りである。コリネバクテリウム・グルタミカムKFCC10881を1ysCP1プロモーターを含むベクターで形質転換させたCA01-0135菌株(国際公開特許WO2009-096689、KCCM10919P)の染色体DNAを鋳型とし、下記配列番号16及び17のプライマー対を用いてPCRを行った。ポリメラーゼは、PfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用い、PCR条件は95℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング及び72℃で30秒の過程を30回繰り返した。
【0106】
ここで用いられたプライマーの配列は、下記表2の通りである。
【0107】
【0108】
その結果、PCR結果物としてlysCP1プロモーター部位(配列番号9)を得た。
【0109】
argJ遺伝子を得るために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869由来argJ遺伝子の塩基配列(配列番号6)に基づいてargJ ORF(open-reading frame)相同組換え断片を得るための配列番号18及び19のブライマー対を製作した。
【0110】
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869菌株の染色体DNAを鋳型とし、下記配列番号18及び19のプライマー対を用いてPCRを行った。ポリメラーゼはPfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用い、PCR条件は95℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング及び72℃で1分30秒の伸長過程を30回繰り返した。
【0111】
ここで用いられたプライマーの配列は、下記表3の通りである。
【0112】
【0113】
その結果、PCR結果物として約1.2kbのargJ遺伝子断片が増幅され、これを0.8%アガロースゲルで電気泳動した後、所望の大きさのバンドを溶離して精製した。
【0114】
先に製作したpDZTnベクターに制限酵素であるXhoIを処理し、上記で得られた各PCR産物(1ysCP1プロモーター部位及びargJ遺伝子断片)をインフュージョンHDクローニングキット(In-Fusion(R) HD Cloning Kit,Clontech)を用いてフュージョンクローニングした後、その結果として得られたプラスミドをpDZTn-lysCP1-argJと命名した。
【0115】
次に、製作した上記プラスミドpDZTn-lysCP1-argJを野生型コリネバクテリウム・グルタミカム菌株ATCC13032で染色体内のオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(argF)及びグルタミン酸の排出に関与するグルタミン酸エクスポータ(NCg11221)をコードする遺伝子が欠損し、野生型大腸菌W3110菌株由来のオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)をコードする遺伝子(speC)が染色体内に導入され、グルタミン酸においてオルニチン合成に関与する酵素をコードしているargCJBD遺伝子群のプロモーターが置換され、プトレシン生産能を有するCC01-0064菌株(米国登録特許US 9890404、KCCM11138P)においてヒストンアセチルトランスフェラーゼHPA2及び関連アセチルトランスフェラーゼ(histone acetyltransferase HPA2 and related acetyltransferase)と定義されるNCg11469タンパク質の活性が欠失したCC01-0163菌株(米国登録特許US 9677099、KCCM11240P)に電気穿孔法(electroporation)で導入して形質転換体を得、上記形質転換体をカナマイシン25μg/mlとX-gal(5-bromo-4-chloro-3-indolin-D-galactoside)が含まれたBHIS平板培地(Braine heart infusion 37g/l、ソルビトール91g/l、寒天2%)に塗抹し、培養してコロニーを形成させた。形成されたコロニー中、白色のコロニーを選択することにより上記プラスミドpDZTn-lysCP1-argJが導入された形質転換菌株を選別した。
【0116】
上記選別された菌株をCM培地(グルコース(glucose)10g/l、ポリペプトン(polypeptone)10g/l、酵母抽出物(yeast extract)5g/l、牛肉抽出物(beef extract)5g/l、NaCl 2.5g/l、尿素(urea)2g/l、pH6.8)において30℃で8時間振盪培養し、それぞれ10-4から10-10まで順次希釈した後、X-gal含有固体培地に塗抹し、培養してコロニーを形成させた。形成されたコロニー中、相対的に低い比率で示される白色のコロニーを選択することにより、2次交差(crossover)によりargJをコードする遺伝子が導入された菌株を最終選別した。
【0117】
最終選別された菌株を対象に配列番号18及び19のプライマー対を用いてPCRを行ってargJをコードする遺伝子が導入されたことを確認し、上記コリネバクテリウム・グルタミカム変異株をCC01-0163 Tn:lysCP1-argJと命名した。
【0118】
1-2.コリネ由来arg遺伝子が強化されたコリネ基盤菌株のプトレシン生産能の評価
プトレシン生産菌株にコリネバクテリウム由来argJ遺伝子を強化させた時、プトレシン生産に及ぼす効果を確認するために、上記実施例1-1で製作したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を対象にプトレシン生産能を比較した。
【0119】
具体的には、上記実施例1-1で製作したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株(CC01-0163 Tn:lysCP1-argJ)をそれぞれ1mMアルギニン含有CM平板培地(グルコース1%、ポリペプトン1%、酵母抽出物0.5%、牛肉抽出物0.5%、NaCl 0.25%、尿素0.2%、50% NaOH 100μl、寒天2%、pH6.8、1L基準)に塗抹し、30℃で24時間培養した。
【0120】
これから培養された各菌株を25mlの力価培地(グルコース8%、大豆タンパク質0.25%、トウモロコシ固形0.50%、(NH4)2SO4 4%、KH2PO4 0.1%、MgSO4・7H2O 0.05%、尿素0.15%、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩3mg、パントテン酸カルシウム3mg、ニコチンアミド3mg、CaCO3 5%、1L基準)に一白金耳程度で接種した後、30℃で200rpmで98時間振盪培養した。全ての菌株の培養時に培地に1mMアルギニンを添加した。各培養物から生産されたプトレシン濃度を測定し、その結果を下記表4に示した。
【0121】
【0122】
その結果、上記表4に示された通り、コリネバクテリウム由来argJが強化されたコリネバクテリウム・グルタミカム変異株においてプトレシン生産が6%増加したことを確認した。
【0123】
実施例2:大腸菌由来argA及びargEのプトレシン生産菌株内の導入及びこのプトレシン生産能の確認
2-1.ATCC13032基盤プトレシン生産菌株のトランスポゾン遺伝子内への大腸菌由来argA及びargE同時導入した菌株の製作
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032基盤のプトレシン生産菌株(CC01-0163)に大腸菌由来N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(N-acetylglutamatesynthase)をコードするargAとアセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase)をコードするargE遺伝子を挿入した時、プトレシン生産能が向上するかを確認するために、argAとargEを上記菌株のトランスポゾン遺伝子内に導入した。
【0124】
そのために、上記大腸菌由来argA遺伝子の塩基配列(配列番号20)からargA ORF部位の相同組換え断片を得るための配列番号21及び22のプライマー対を製作し、argE遺伝子の塩基配列(配列番号4)からargE ORF部位の相同組換え断片を得るための配列番号23及び24のプライマー対を製作した。
【0125】
上記プライマーの配列は、下記表5の通りである。
【0126】
【0127】
lysCP1プロモーター部位は、実施例1-1と同様の方法でKCCM10919P菌株染色体を鋳型とし、配列番号16及び17のプライマー対を用いたPCRを通じて得た。
【0128】
argA遺伝子を得るために、大腸菌W3110菌株の染色体を鋳型とし、配列番号21及び22のプライマー対を用いてPCRを行った。ポリメラーゼはPfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用い、PCR条件は95℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング及び72℃で1分30秒の伸長過程を30回繰り返した。
【0129】
その結果、PCR結果物として約1.6kbのargA遺伝子断片が増幅され、これを実施例1-1で製作したpDZTnベクターに実施例1-1と同様の方法でlysCP1プロモーター部位とフュージョンクローニングした。その結果として得られたプラスミドをpDZTn-lysCP1-argAと命名した。
【0130】
実施例1-1で製作したpDZTnベクターに制限酵素であるXhoIを処理し、上記で得られた各PCR産物(1ysCP1プロモーター部位及びargA遺伝子断片)を実施例1-1と同様の方法でフュージョンクローニングした後、その結果として得られたプラスミドをpDZTn-lysCP1-argAと命名した。
【0131】
argE遺伝子を得るために、上記と同様の方法で大腸菌W3110菌株の染色体を鋳型とし、配列番号23及び24のプライマー対を用いてPCRを行った。ポリメラーゼはPfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用い、PCR条件は95℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング及び72℃で1分30秒の伸長過程を30回繰り返した。
【0132】
その結果、PCR結果物として約1.4kbのargE遺伝子断片が増幅され、これを実施例1-1で製作したpDZTnベクターに実施例1-1と同様の方法で既に得られた1ysCP1プロモーター部位とフュージョンクローニングした。その結果として得られたプラスミドをpDZTn-lysCP1-argEと命名した。
【0133】
次に、上記プラスミドpDZTn-lysCP1-argAをCC01-0163に電気穿孔法で導入して形質転換体を得、実施例1-1と同様の方法で上記プラスミドpDZTn-lysCP1-argAが導入された形質転換菌株を選別した。
【0134】
上記選別された菌株を2次交差によりargAをコードする遺伝子が導入された菌株を最終選別した。最終選別された菌株を対象に配列番号21及び22のプライマー対を用いてPCRを行い、argAをコードする遺伝子が導入されたことを確認し、上記コリネバクテリウム・グルタミカム変異株をCC01-0163 Tn:lysCP1-argAと命名した。
【0135】
上記製作されたargAが導入されたコリネバクテリウム・グルタミカム変異株にargEを導入するために、先に製作したpDZTn-lysCP1-argEを上記と同様の方法でCC01-0163 Tn:lysCP1-argAに形質転換し、最終選別された菌株を対象に配列番号23及び24のプライマー対を用いてPCRを行い、トランスポゾン内argEが導入されたことを確認した。
【0136】
これから選別されたコリネバクテリウム・グルタミカム変異株をCC01-0163 Tn:lysCP1-argA Tn:lysCP1argEと命名した。
【0137】
2-2.大腸菌由来argA及びargE遺伝子が導入されたプトレシン生産コリネバクテリウム属菌株のプトレシン生産能の評価
プトレシン生産菌株に大腸菌由来argAとargE導入がプトレシン生産に及ぼす効果を確認するために、上記実施例2-1で製作したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を対象にプトレシン生産能を比較した。
【0138】
具体的には、上記実施例2-1で製作したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株(CC01-0163 Tn:lysCP1argA Tn:lysCP1-argE)と親株(CC01-0163)をそれぞれ実施例1-2と同様の方法で培養し、各培養物から生産されたプトレシン濃度を測定し、その結果を下記表6に示した。
【0139】
【0140】
その結果、上記表6に示された通り、大腸菌由来argAとargE遺伝子が同時に導入されたコリネバクテリウム・グルタミカム変異株においてプトレシン生産量が9.8%増加したことを確認した。
【0141】
実施例3:コリネ由来Ncg12644遺伝子強化菌株のプトレシン生産能の確認
3-1.ATCC13032基盤プトレシン生産菌株のトランスポゾン遺伝子内へのATCC13869由来Ncg12644導入菌株の製作
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032基盤のプトレシン生産菌株(CC01-0163)においてコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869由来GNAT(GCN5-related N-acetyltransferases)ファミリーN-アセチルトランスフェラーゼ(GNAT family N-acetyltransferase)をコードするNcg12644遺伝子を強化した時、プトレシン生産能が向上するかを確認するために、Ncg12644を上記菌株のトランスポゾン遺伝子内に導入及び強化した。
【0142】
そのために、上記コリネバクテリウム由来遺伝子Ncg12644の塩基配列(配列番号2)からNcgl2644 ORF部位の相同組換え断片を得るための配列番号25及び26のプライマー対を製作した。
【0143】
上記プライマーの配列は、下記表7の通りである。
【0144】
【0145】
Ncg12644遺伝子を得るために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869菌株の染色体を鋳型とし、配列番号25及び26のプライマー対を用いてPCRを行った。ポリメラーゼはPfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用い、PCR条件は95℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング及び72℃で1分の伸長過程を30回繰り返した。その結果、PCR結果物として約1kbのNcg12644遺伝子断片が増幅され、これを実施例1-1で製作したpDZTnベクターに実施例1-1と同様の方法で実施例2-1で得られた1ysCP1プロモーター部位とフュージョンクローニングした。その結果として得られたプラスミドをpDZTn-lysCP1-Ncg12644と命名した。
【0146】
次に、上記プラスミドpDZTn-lysCP1-Ncg12644をCC01-0163に電気穿孔法で導入して形質転換体を得、実施例1-1と同様の方法で上記プラスミドpDZTn-lysCP1-Ncg12644が導入された形質転換菌株を選別した。
【0147】
上記選別された菌株を2次交差によりNcg12644をコードする遺伝子が導入された菌株を最終選別した。最終選別された菌株を対象に配列番号25及び26のプライマー対を用いてPCRを行い、Ncg12644をコードする遺伝子が導入されたことを確認し、上記コリネバクテリウム・グルタミカム変異株をCC01-0163 Tn:lysCP1-Ncg12644と命名した。
【0148】
3-2.コリネ由来Ncg12644遺伝子が強化されたプトレシン生産コリネバクテリウム属菌株のプトレシン生産能の評価
プトレシン生産菌株においてコリネバクテリウム由来Ncg12644遺伝子を強化させた時、プトレシン生産に及ぼす効果を確認するために、上記実施例3-1で製作したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を対象にプトレシン生産能を比較した。
【0149】
具体的には、上記実施例3-1で製作したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株(CC01-0163 Tn:lysCP1- Ncgl2644)と親株(CC01-0163)をそれぞれ実施例1-2と同様の方法で培養し、各培養物から生産されたプトレシン濃度を測定し、その結果を下記表8に示した。
【0150】
【0151】
その結果、上記表8に示された通り、コリネバクテリウム由来Ncg12644が強化された場合には、プトレシン生産能が減少することを確認した。これは、プトレシン生産経路の中間代謝物質であるアセチルグルタミン酸の濃度が増加しながら生合成経路のボトルネック現象が起こることにより現れる現象であってもよい。これについて、下記追加の実施例を通じてプトレシン生産に対するNcg12644の影響性を評価した。
【0152】
実施例4:argJ遺伝子欠損、Ncg12644強化菌株のプトレシン生産能の確認
4-1.ATCC13032基盤プトレシン生産菌株のargJ欠損菌株の製作
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032基盤のプトレシン生産菌株(CC01-0163)においてコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032由来argJ遺伝子を欠損した菌株を製作した。
【0153】
そのために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032由来argJ遺伝子の塩基配列(配列番号8)からargJのN末端部位の相同組換え断片を得るための配列番号27及び28のプライマー対と、argJのC末端部位の相同組換え断片を得るための配列番号29及び30のプライマー対を製作した。
【0154】
上記プライマーの配列は、下記表9の通りである。
【0155】
【0156】
argJのN末端部位とC末端部位の相同組換え断片をそれぞれ得るために、上記コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号27及び28、配列番号29及び30のプライマー対を用いたPCRをそれぞれ行った。ポリメラーゼはPfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用い、PCR条件は95℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング及び72℃で30秒の伸長過程を30回繰り返した。その結果、PCR結果物としてN末端部位とC末端部位のPCR断片がそれぞれ増幅され、これを0.8%アガロースゲルで電気泳動した後、所望の大きさのバンドを溶離して精製した。
【0157】
得られたN末端部位の断片を制限酵素であるBamHI及びSalIで、C末端部位の断片を制限酵素であるSalI及びXbalで処理し、処理された断片を制限酵素であるBamHIとXbaIで処理されたpDZベクターにクローニングしてプラスミドpDZ-1’argJ(K/O)を製作した。
【0158】
製作したプラスミドpDZ-1’argJ(K/O)を電気穿孔法でコリネバクテリウム・グルタミカムCC01-0163に導入して形質転換体を得、実施例1-1と同様の方法でpDZ-1’NCglargJ(K/O)が導入された菌株を選別した。
【0159】
上記選別された菌株からargJをコードする遺伝子が欠失してプトレシン生産性が弱化したコリネバクテリウム・グルタミカム菌株を最終選別し、上記のように製作されたプトレシン排出能が弱化したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株をCC01-0163 △argJと命名した。
【0160】
製作されたCC01-0163 △argJ菌株に実施例3-1と同様の方法でNcg12644遺伝子を形質転換させてCC01-0163 △argJ Tn:lysCP1-Ncg12644菌株を製作した。
【0161】
4-2.コリネ由来argJ欠損、Ncg12644遺伝子が強化されたプトレシン生産コリネバクテリウム属菌株のプトレシン生産能の評価
プトレシン生産菌株においてコリネバクテリウム由来argJ遺伝子を欠損及びNcg12644を強化させた時、プトレシン生産に及ぼす効果を確認するために、上記実施例4-1で製作したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を対象にプトレシン生産能を比較した。
【0162】
具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム変異株(CC01-0163 △argJ Tn:1ysCP1-Ncg12644)と親株(CC01-0163 △argJ)をそれぞれ実施例1-2と同様の方法で培養し、各培養物から生産されたプトレシン濃度を測定し、その結果を下記表10に示した。
【0163】
【0164】
その結果、上記表10に示された通り、argJが欠損した菌株はプトレシン生産能を有し難いことが確認され、アセチルグルタミン酸(acetylglutamate)を生成できるNcg12644が導入されても、その後に生成される中間代謝物質であるアセチルオルニチン(acetylornithine)を脱アセチル化させることができる酵素の不在によりプトレシン生産が低いことが考えられた。これについて、下記追加の実施例を通じてNcg12644及びargEが同時強化された菌株においてプトレシン生産能を評価した。
【0165】
実施例5:コリネ由来Ncg12644遺伝子強化と大腸菌由来argE遺伝子導入菌株のプトレシン生産能の確認
5-1.ATCC13032基盤プトレシン生産菌株に関するNcg12644遺伝子強化菌株の製作
上記実施例3-1で製作されたCC01-0163 Tn:lysCP1-Ncg12644菌株と実施例4-1で製作されたCC01-0163 △argJ Tn:lysCP1-Ncg12644菌株にアセチルオルニチン(acetyl ornithine)を脱アセチル化させることができる大腸菌W3110由来アセチルオルニチンデアセチラーゼ(Acetylornithine deacetylase)をコードするargE遺伝子を導入した。
【0166】
具体的には、上記実施例2-1で製作されたpDZTn-lysCP1-argEプラスミドを実施例2-1と同様の方法でCC01-0163 Tn:lysCP1-Ncg12644菌株とCC01-0163 △argJ Tn:1ysCP1-Ncg12644菌株に形質転換して形質転換体を得、実施例1-1と同様の方法で上記プラスミドpDZTn-lysCP1-argEが導入された形質転換菌株を選別した。
【0167】
上記選別された菌株からargEが導入されたコリネバクテリウム・グルタミカム菌株を最終選別し、上記のように製作されたコリネバクテリウム・グルタミカム変異株CC01-0163 Tn:lysCP1-Ncg12644 Tn:lysCP1-argEとCC01-0163 △argJ Tn:1ysCP1-Ncg12644 Tn:lysCP1-argEを製作し、CC01-0163 △argJ Tn:1ysCP1-Ncg12644 Tn:lysCP1-argEの場合、Corynebacterium glutamicum CC01-1425と命名した。また、上記Corynebacterium glutamicum CC01-1425(CC01-0163 △argJ Tn:lysCP1-Ncg12644 Tn:1ysCP1-arge)は2020年7月24日付で寄託(KCCM12774P)した。
【0168】
5-2.Ncg12644遺伝子及びargEが強化されたプトレシン生産コリネバクテリウム属菌株のプトレシン生産能の評価
プトレシン生産菌株においてコリネバクテリウム由来Ncg12644を強化及びargEを導入した時、プトレシン生産に及ぼす効果を確認するために、上記実施例5-1で製作したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を対象にプトレシン生産能を比較した。
【0169】
具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム変異株(CC01-0163 Tn:1ysCP1-Ncg12644 Tn:lysCP1-argE, CC01-0163 △argJ Tn:1ysCP1-Ncg12644 Tn:1ysCP1-argE)と親株(CC01-0163)をそれぞれ実施例1-2と同様の方法で培養し、各培養物から生産されたプトレシン濃度を測定し、その結果を下記表11に示した。
【0170】
【0171】
上記表11に示された通り、Ncg12644とargEが同時に導入されながらCC01-0163菌株より顕著に向上したプトレシン生産量を確認することができた。特に、argJの活性が除去されたCC01-0163 △argJ Tn:1ysCP1-Ncgl2644 Tn:lysCP1-argE菌株の場合、CC01-0163菌株より36.6%向上したプトレシン生産能を示し、argJの活性が残っているCC01-0163 Tn:lysCP1-Ncg12644 Tn:lysCP1-argE菌株の場合、argJの活性が除去された菌株に比べて低いプトレシン生産能を示すが、CC01-0163菌株比30.8%だけ向上したプトレシン生産能を有することが確認された。また、argJの活性が残っているCC01-0163 Tn:1ysCP1-Ncg12644 Tn:1ysCP1-argE菌株はNcg12644と類似の機能を示す大腸菌由来argAとargE遺伝子が同時に導入されたコリネバクテリウム・グルタミカム変異株より顕著に高いプトレシン生産量を示した(表6)。
【0172】
本実施例の結果を通じて、argJを欠損させ、Ncg12644とargEを同時発現する場合、argJを欠損させないか、argJを欠損させ、Ncg12644と類似の機能を示す大腸菌由来argA及びargEを導入した時より顕著なプトレシン生産能を有することを確認した。
【0173】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願の範囲は上記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
【0174】
【配列表】