(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】溶接装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 11/24 20060101AFI20240827BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20240827BHJP
B23K 11/11 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
B23K11/24 336
B23K31/00 K
B23K11/11
(21)【出願番号】P 2023539585
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2021029439
(87)【国際公開番号】W WO2023013074
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002103
【氏名又は名称】弁理士法人にじいろ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏木 彩志
(72)【発明者】
【氏名】天方 康裕
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-94882(JP,A)
【文献】特開2004-195545(JP,A)
【文献】特開2008-296226(JP,A)
【文献】特開2016-87663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 - 11/36
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動電極チップと固定電極チップとの間で被溶接ワークを加圧して溶接するために、前記可動電極チップを前記固定電極チップに対して接近、離反させるための動力を発生するサーボモータを有する溶接ガンを装備する溶接装置において、
前記溶接に使用予定の複数の加圧力の入力をユーザに対して促す手段と、
前記可動電極チップと前記固定電極チップとの間の加圧力が前記複数の加圧力のうち2つの加圧力それぞれに達したことを表す指令の入力を前記ユーザに対して促す手段と、
前記指令を入力した時点において、前記サーボモータで発揮されたトルクを特定する手段と、
前記可動電極チップと前記固定電極チップとの間の加圧力が前記2つの加圧力それぞれに達するのに必要な前記可動電極チップの移動量を特定する手段と、
前記2つの加圧力と前記移動量とに基づいて、前記加圧力と前記移動量との間の関係式を導出する手段と、
前記関係式を用いて、前記複数の加圧力のうち前記2つの加圧力を除いた他の加圧力を前記可動電極チップと前記固定電極チップとの間に発生させるために必要な前記移動量を推定する手段と、
前記可動電極チップを前記推定した移動量を移動させるために必要なトルクを特定する手段と、
前記推定した移動量を移動させるために必要なトルクを、前記他の加圧力を前記可動電極チップと前記固定電極チップとの間に発生させるために必要なトルクとして登録する手段と、
を具備する溶接装置。
【請求項2】
前記2つの加圧力は、前記複数の加圧力のうち最小加圧力と最大加圧力とである、請求項1記載の溶接装置。
【請求項3】
前記溶接に使用予定の複数の加圧力のうち前記2つの加圧力の選択をユーザに対して促す手段をさらに具備する請求項1記載の溶接装置。
【請求項4】
前記トルクを特定する手段は、前記サーボモータに設けられたトルクセンサの出力に基づいて、前記トルクを特定する、請求項1記載の溶接装置。
【請求項5】
前記移動量を特定する手段は、前記サーボモータに設けられたエンコーダの出力に基づいて、前記移動量を特定する、請求項1記載の溶接装置。
【請求項6】
前記可動電極チップを前記推定した移動量を移動させるために必要なトルクを特定する手段は、前記可動電極チップを前記固定電極チップに接触させた状態から、トルクを漸次的に増加するように前記サーボモータを制御し、前記可動電極チップの移動量が前記推定した移動量に達したときのトルクを前記必要なトルクとして特定する、請求項1記載の溶接装置。
【請求項7】
前記関係式を導出する手段は、一次関数の直線式モデルを保持し、前記2つの加圧力と前記2つの加圧力がそれぞれ発揮されるまでの前記移動量とに基づいて、前記直線式モデルの定数を求めることで、前記加圧力と前記移動量との間の関係式を導出する、請求項1記載の溶接装置。
【請求項8】
可動電極チップと固定電極チップとの間で被溶接ワークを加圧して溶接するために、前記可動電極チップを前記固定電極チップに対して接近、離反させるための動力を発生するサーボモータを制御する制御装置を有する溶接装置であって、
前記制御装置は、
複数の加圧力の指定と、前記可動電極チップと前記固定電極チップとの間の加圧力が前記複数の加圧力のうちの2つの加圧力に達したかの指定を受付け、
前記2つの加圧力に達するための前記可動電極チップの第1の移動量を取得し、
前記2つの加圧力と前記第1の移動量とに基づいて、前記複数の加圧力のうち前記2つの加圧力とは異なる他の加圧力を発生させるための前記可動電極チップの第2の移動量を推定し、
前記可動電極チップに前記第2の移動量を移動させるためのトルクを推定することを実行可能に構成される、溶接装置。
【請求項9】
可動電極チップと固定電極チップとの間で被溶接ワークを加圧して溶接するために、前記可動電極チップを前記固定電極チップに対して接近、離反させるための動力を発生するサーボモータを有する溶接ガンを制御する制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、
前記コンピュータを、
前記溶接に使用予定の複数の加圧力の入力をユーザに対して促す手段、
前記可動電極チップと前記固定電極チップとの間の加圧力が前記複数の加圧力のうち2つの加圧力それぞれに達したことを表す指令の入力を前記ユーザに対して促す手段、
前記指令を入力した時点において、前記サーボモータで発揮されたトルクを特定する手段、
前記可動電極チップと前記固定電極チップとの間の加圧力が前記2つの加圧力それぞれに達するのに必要な前記可動電極チップの移動量を特定する手段、
前記2つの加圧力と前記移動量とに基づいて、前記加圧力と前記移動量との間の関係式を導出する手段、
前記関係式を用いて、前記複数の加圧力のうち前記2つの加圧力を除いた他の加圧力を前記可動電極チップと前記固定電極チップとの間に発生させるために必要な前記移動量を推定する手段、
前記可動電極チップを前記推定した移動量を移動させるために必要なトルクを特定する手段、
前記推定した移動量を移動させるために必要なトルクを、前記他の加圧力を前記可動電極チップと前記固定電極チップとの間に発生させるために必要なトルクとして登録する手段、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車体などを溶接するためにスポット溶接ガンを装備したロボット装置の利用が広まっている。スポット溶接ガンによる溶接作業では、可動電極チップと固定電極チップとで2つの被溶接ワークを挟み、所定の加圧力をかけた状態で可動電極チップと固定電極チップとに電流を流すことで、2つの被溶接ワークを溶接することができる。スポット溶接ガンを用いた溶接に関して、特許文献1には、溶接精度の低下を抑えるために、被溶接ワークの加圧時におけるガンアームの弾性変位を高精度且つ容易に算出可能なスポット溶接システムが開示されている。
【0003】
溶接精度の低下を抑えるために、被溶接ワークの厚みや素材、必要とされる溶接強度によって調整された加圧力を正確にかけることも重要な要素である。この加圧力は、可動電極チップの移動を駆動するサーボモータのトルクにより調整される。トルクで加圧力を調整するために、加圧力とトルクとの関係は予め登録されている。しかしながら、サーボモータの劣化、電極チップの劣化などの何らかの要因によって、加圧力とトルクとの関係が変化してしまう場合がある。そのため、スポット溶接ガンを使用する前には、加圧力とトルクとの関係を校正しておく必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加圧力とトルクとの関係を高い精度で得るために、可動電極チップと固定電極チップとの間に生じる加圧力を加圧力センサを用いて実際に計測し、可動電極チップと固定電極チップとの間に生じる加圧力が使用予定の加圧力に到達したときのサーボモータに生じたトルクを取得する方法が知られている。しかしながら、この方法を採用した場合、使用予定の加圧力毎に何度も上記作業を行う必要があるため、多大な時間を要する。そのため、加圧力とトルクとの関係を校正する作業時間の短縮が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る溶接装置は、可動電極チップと固定電極チップとの間で被溶接ワークを加圧して溶接するために、可動電極チップを固定電極チップに対して接近、離反させるための動力を発生するサーボモータを有する溶接ガンを装備する。溶接装置は、溶接に使用予定の複数の加圧力の入力をユーザに対して促す手段と、可動電極チップと固定電極チップとの間の加圧力が複数の加圧力のうち2つの加圧力それぞれに達したことを表す指令の入力をユーザに対して促す手段と、指令を入力した時点において、サーボモータで発揮されたトルクを特定する手段と、可動電極チップと固定電極チップとの間の加圧力が2つの加圧力それぞれに達するのに必要な可動電極チップの移動量を特定する手段と、2つの加圧力と移動量とに基づいて、加圧力と移動量との間の関係式を導出する手段と、関係式を用いて、複数の加圧力のうち2つの加圧力を除いた他の加圧力を可動電極チップと固定電極チップとの間に発生させるために必要な移動量を推定する手段と、可動電極チップを推定した移動量を移動させるために必要なトルクを特定する手段と、推定した移動量を移動させるために必要なトルクを、他の加圧力を可動電極チップと固定電極チップとの間に発生させるために必要なトルクとして登録する手段と、を具備する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、加圧力とトルクとの関係を校正する作業時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る溶接装置の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る溶接装置のブロック構成図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る溶接装置による校正手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、
図4の校正手順の工程S11に対応する校正画面の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、
図4の校正手順の工程S12、S15,S16に対応する校正画面の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、
図4の校正手順の工程S13,S14に対応する制御装置の内部処理を説明するための補足図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る溶接装置を説明する。以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0010】
本実施形態に係る溶接装置は、スポット溶接ガンの位置、向きを変えることができるように、スポット溶接ガンをロボットアーム機構に装備させた装置である。しかしながら、本実施形態に係る溶接装置の1つの特徴は、スポット溶接ガンの校正方法にある。したがって、溶接装置は、スポット溶接ガンの位置、向きを変えることができる他の機構にスポット溶接ガンを装備させたものであってもよい。また、スポット溶接ガンを用いて溶接作業ができるのであれば、スポット溶接ガンがそれ単独として溶接装置とすることもできる。
【0011】
図1に示すように、溶接装置1は、ロボットアーム機構10と、ロボットアーム機構10に装備されたスポット溶接ガン30と、ロボットアーム機構10及びスポット溶接ガン30の動作を制御する制御装置50と、制御装置50に通信可能に接続された教示操作盤70とを備える。
【0012】
図2に示すように、スポット溶接ガン30は、ベース部31と、固定アーム32と、可動アーム33と、一対の電極チップとを有する。固定アーム32の先端には、一対の電極チップ34,35のうち一方の電極チップ34(固定電極チップ34と称する)が取り付けられ、可動アーム33の先端には、一対の電極チップ34,35のうち他方の電極チップ35(可動電極チップ35と称する)が取り付けられている。ベース部31、固定アーム32、及び可動アーム33は、ガン軸Ax上に一対の電極チップ34,35が対向して配置できるように、その形状、向き、位置が設計されている。
【0013】
例えば、ベース部31は矩形板状に構成される。ベース部31の先端側には、棒状の可動アーム33がガン軸Axに沿って移動可能に設けられている。ベース部31の後端側には、固定アーム32がベース部31に一体的に形成されている。固定アーム32は、その先端に設けられた固定電極チップ34が、ガン軸Ax上に配置され、且つ、可動アーム33の先端に取り付けられた可動電極チップ35に対向するように、例えば、略コ字形状に屈曲した棒状に構成される。
【0014】
可動アーム33の移動は駆動機構により駆動される。駆動機構は、ベース部31に設けられ、可動アーム33の移動を駆動する動力を発生するサーボモータ36と、サーボモータ36の回転運動を可動アーム33のガン軸Axに沿った直線運動に変換する変換機構(図示せず)とを有する。変換機構は、ギア機構、ベルト/プーリー機構及びこれらを組み合わせた機構等の任意の機構を採用することができる。サーボモータ36が駆動されることで、可動電極チップ35は、可動アーム33とともにガン軸Axに沿って往復動され、固定電極チップ34に対して接近、離反される。
【0015】
サーボモータ36は、モータドライバ39から供給された電流により駆動する。サーボモータ36には、サーボモータ36の駆動軸の回転位置を検出するエンコーダ37と、サーボモータ36の駆動軸に発生したトルクを検出するトルクセンサ38が設けられている。エンコーダ37は、サーボモータ36の駆動軸の回転位置を検出して制御装置50に送信する。エンコーダ37は、サーボモータ36の駆動軸の回転位置を検出することによって可動アーム33の位置を検出する位置検出部として機能する。なお、エンコーダ37の代替として、ホール素子によって位置検出部を構成してもよい。トルクセンサ38は、歪ゲージ式、非接触式などの既存の任意のセンサを採用することができる。トルクセンサ38は、サーボモータ36の駆動軸に実際に生じたトルクを検出して制御装置50に送信する。
【0016】
制御装置50の制御に従って、ロボットアーム機構10により、スポット溶接ガン30の一対の電極34,35の間に被溶接ワークが配置される。その後、制御装置50によりサーボモータ36が制御され、可動電極チップ35を固定電極チップ34に接近する向きに移動され、可動電極チップ35と固定電極チップ34とにより被溶接ワークは挟持され、所定の加圧力で加圧される。制御装置50の制御に従って、固定電極チップ34および可動電極チップ35は通電し、固定電極チップ34と可動電極チップ35との間に挟持された被溶接ワークはスポット溶接される。
【0017】
制御装置50は、一般的なPC等と同様のハードウェアを備える。具体的には、制御装置50は、CPU及びGPU等により構成されるプロセッサと、プロセッサの主メモリ、ワークエリア等として機能するRAMと、各種プログラム、各種設定情報などが記憶されている記憶装置とを有する。記憶装置には、スポット溶接ガン30の加圧力/トルクの校正プログラム、スポット溶接ガン30とロボットアーム機構10とを含むロボット装置を動作させるための制御プログラム、スポット溶接ガン30の動作時に必要な定数、変数、設定値などのデータ等が記憶されている。
【0018】
プロセッサにより校正プログラムが実行されたとき、制御装置50は、トルク特定部51、移動量特定部52、定式化処理部53、移動量推定部54,画面生成部55、及びモータ制御部56として機能する。
【0019】
トルク特定部51は、トルクセンサ38の出力に基づいて、サーボモータ36の駆動軸に生じているトルクを特定する手段である。ここでは、トルク特定部51はサーボモータ36の駆動軸のトルクを特定する。しかしながら、サーボモータ36により発生されたトルクと相関がとれるのであれば、トルク特定部51が特定するトルクはサーボモータ36の駆動軸のトルクに限定されない。例えば、トルク特定部51は、サーボモータ36の回転が伝達される他の軸に装備されたトルクセンサの出力に基づいて、当該他の軸のトルクを特定するようにしてもよい。また、トルク特定部51は、モータ制御部56からモータドライバ39に送信されるトルク指令値をトルクとして特定するようにしてもよい。トルク特定部51は、可動電極チップ35に後述の移動量推定部54により推定された移動量を移動させるためのトルクを推定する。
【0020】
移動量特定部52は、エンコーダ37の出力に基づいて、ガン軸Axに沿って移動する可動電極チップ35の移動量(第1移動量)を特定する。ここでの移動量とは、可動電極チップ35が被溶接ワーク、加圧力センサ100、固定電極チップ34などの被接触物に接触した位置からどれだけ押し込まれたかを示すパラメータである。可動電極チップ35が被接触物に接触した時点は、例えばトルクセンサ38の出力に基づいて特定することができる。もちろん、手段はこれに限定されることはなく、可動電極チップ35が被接触物に接触したことを検知できるのであれば、接触センサ、外部の画像センサなどを使用することができる。エンコーダ37の出力に基づくため、可動電極チップ35の移動量は物理的な移動量ではなく、サーボモータ36の駆動軸の回転量に相当する。以下、単に移動量と記載されたものは、可動電極チップ35の移動量を指すものとする。
【0021】
定式化処理部53は、少なくとも2つの加圧力とその加圧力が可動電極チップ35と固定電極チップ34との間に生じたときの移動量とに基づいて、加圧力と移動量との関係を定式化する手段である。例えば、定式化処理部53は、一次関数の数式を関係式のモデルとして保持し、2つの加圧力とその加圧力が発揮されたときの移動量とにより、一次関数の数式の定数を求め、定式化する。関係式のモデルは一次関数に限定されるものではなく、任意の数式を採用することができる。関係式のモデルによって、定数を求めるために必要とされる加圧力/移動量の点数は変化する。
【0022】
移動量推定部54は、少なくとも2つの加圧力とその加圧力が可動電極チップ35と固定電極チップ34との間に生じたときの移動量とに基づいて、他の加圧力を発生させるための可動電極チップ35の移動量(第2移動量)を推定する。具体的には、移動量推定部54は、定式化処理部53により定式化された加圧力と移動量との間の関係式を用いて、可動電極チップ35と固定電極チップ34との間の加圧力が所定の加圧力に到達するための移動量(第2移動量)を推定する。
【0023】
画面生成部55は、教示操作盤70の表示部に表示する画面データを生成する。具体的には、加圧力/トルクの関係を校正するための校正画面200(
図5(a)等を参照)のデータを生成する。また、加圧力センサ100を用いて、所定の加圧力におけるトルクを特定する際に、所定の加圧力を計測するための計測ウィンドウ300(
図5(c)、
図6(a)を参照)のデータを生成する。校正画面200は、溶接に使用予定の複数の加圧力の入力をユーザに対して促す手段に対応する。また、計測ウィンドウ300は、可動電極チップ35と固定電極チップ34との間の加圧力が複数の加圧力のうち2つの加圧力それぞれに達したことを表す指令の入力をユーザに対して促す手段に対応する。
【0024】
モータ制御部56は、サーボモータ36を制御するために、サーボモータ36のモータドライバ39にトルク指令を送信する。モータドライバ39は、モータ制御部56から受信したトルク指令に応じた電流をサーボモータ36に供給する。それにより、サーボモータ36は予め決められたトルクで駆動する。本実施形態では、モータ制御部56は、教示操作盤70に表示された計測ウィンドウ300の開始ボタンがクリックされたことに基づいて、トルクが漸次的に増加するようにサーボモータ36を制御する。また、モータ制御部56は、教示操作盤70に表示された校正画面200の校正ボタンがクリックされたことに基づいて、移動量特定部52により特定された可動電極チップ35の移動量が、移動量推定部54により推定された移動量に達するまで、トルクが漸次的に増加するようにサーボモータ36を制御する。
【0025】
教示操作盤70は、制御装置50からの各種情報をユーザが閲覧するための表示部72、制御装置50に各種情報をユーザが入力するための入力部71として機能する。表示部72は、LCD等により構成される。入力部71は、キーボード等により構成される。もちろん、入力部71と表示部72とを兼用するタッチパネルディスプレイによって構成されていてもよい。
【0026】
入力部71は、ユーザからの溶接に使用予定の複数の加圧力を入力する。複数の加圧力は、ユーザにより直接入力されてもよいし、予め使用予定の複数の加圧力が登録されたテーブルデータを複数用意し、ユーザにより選択されたテーブルデータを取り込むことで入力するようにしてもよい。また、入力部71は、サーボモータ36のトルクを漸次的に増加させながら駆動する試行期間において、可動電極チップ35と固定電極チップ34との間の加圧力が最小加圧力と最大加圧力とにそれぞれ達したことを表すユーザからの指令を入力する。それにより、制御装置50は、入力部71を介して、複数の加圧力の指定と、可動電極チップ35と固定電極チップ34との間の加圧力が複数の加圧力のうちの2つの加圧力に達したかの指定を受け付ける。表示部72は、制御装置50の画面生成部55により生成された校正画面200や計測ウィンドウ300等を表示する。
【0027】
以下、
図4乃至
図7を参照して、加圧力/トルクの関係を校正する方法を説明する。加圧力/トルクの校正は、教示操作盤70に表示された校正画面200と計測ウィンドウ300におけるユーザ操作により進めることができる。校正画面200は、
図5(a)、
図5(b)、
図5(c)、
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)の順番で遷移する。
【0028】
図5(a)に示すように、校正画面200には、予め登録された複数の加圧力に関するデータテーブルを選択するための選択ボタン、校正対象の加圧力のリストの表示領域、加圧力とトルクとの関係を示すグラフ、自動校正を開始するための校正ボタン、加圧力と校正後のトルクとの関係を保存するための保存ボタンが含まれる。計測ウィンドウ300は、校正画面200のグラフにプロットされた加圧力点をクリックすることで校正画面200に重ねて表示される。
図5(c)に示すように、計測ウィンドウ300には、加圧力の表示領域、校正前のトルクの表示領域、現在のトルクの表示領域、スポット溶接ガン30の閉鎖動作(加圧動作)を開始させるための開始ボタン、スポット溶接ガン30の閉鎖動作(加圧動作)を停止させるための停止ボタン、及び現在のトルクを登録する登録ボタンが含まれる。
【0029】
図4に示すように、加圧力/トルクの校正が開始されると、制御装置50は、ユーザにより入力された校正対象の複数の加圧力Pr1、Pr2,Pr3、Pr4、Pr5を登録する(S11)。具体的には、ユーザにより校正画面200上の選択ボタンがクリックされると、使用予定の加圧力が記録された複数のファイルが表示される。複数のファイルからユーザにより特定のファイル(aaaaa.txt)が選択されると、その特定のファイルに記録されている複数の加圧力が校正対象の加圧力として制御装置50に入力される。これにより、工程S11の処理が完了し、
図5(b)に示すように、特定のファイルに記録されている複数の加圧力Pr1、Pr2,Pr3、Pr4、Pr5が加圧力の表示領域に表示される。複数の加圧力Pr1、Pr2,Pr3、Pr4、Pr5のうち最小加圧力Pr1と最大加圧力Pr5とが自動的に抽出され、加圧力とトルクとを2つの軸とするグラフにプロットされる。このとき加圧力Pr1、Pr5にそれぞれ対応するトルクTr1、Tr5は、校正前のトルクである。2つの加圧力Pr1,Pr5は、実際に加圧力センサ100を用いた校正対象の加圧力となる。
【0030】
図4に説明が戻り、工程S11の処理後、溶接装置1は、可動電極チップ35と固定電極チップ34との間の加圧力が最小加圧力Pr1及び最大加圧力Pr5にそれぞれ到達したときのトルクTr1´、Tr5´と移動量Gm1、Gm5とを登録する(S12)。工程S12は、加圧力センサ100を用いたユーザの作業が介在する工程である。
【0031】
加圧力センサ100を使用したユーザの作業手順は以下のとおりである。ユーザは、可動電極チップ35と固定電極チップ34との間に加圧力センサ100のセンサ本体をセットする。次に、校正画面200上の操作により、ユーザは加圧力センサ100を用いて校正する加圧力を選択する。例えば、
図5(b)に示すように、最小加圧力Pr1に対応するポイントをクリックすることで、校正する加圧力として最小加圧力Pr1を選択することができる。最小加圧力Pr1に対応するポイントがクリックされると、計測ウィンドウ300が表示される。
【0032】
図5(c)に示すように、ユーザにより、計測ウィンドウ300の開始ボタンがクリックされると、制御装置50により、サーボモータ36のトルクが少しずつ増加され、加圧力センサ100で計測される加圧力値が少しずつ増加する。ユーザは、加圧力センサ100により計測された加圧力値を監視し、加圧力値が最小加圧力Pr1に到達したとき、計測ウィンドウ300の停止ボタンをクリックし、サーボモータ36の制御を停止させる。制御装置50は、停止ボタンがクリックされた時点におけるトルクTr11をトルクセンサ38の出力に基づいて特定し、移動量Gmをエンコーダ37の出力に基づいて特定する。
【0033】
図6(a)に示すように、停止ボタンがクリックされた時点におけるトルクTr11は、計測ウィンドウ300の現在のトルクの表示領域に表示される。ユーザにより、計測ウィンドウ300の登録ボタンがクリックされたとき、停止ボタンがクリックされた時点におけるトルクTr11と移動量Gmとが、最小加圧力Pr1をかけたときのトルクTr1´と移動量Gm1として登録される。
【0034】
図4に説明が戻り、工程S12の処理後、制御装置50は、最小加圧力Pr1、最大加圧力Pr5、最小加圧力Pr1をかけたときの移動量Gm1、及び最大加圧力Pr5をかけたときの移動量Gm5を用いて、加圧力と移動量との間の関係式を導出する(S13)。
【0035】
工程S13の処理後、制御装置50は、加圧力と移動量との関係式を用いて、校正対象の複数の加圧力Pr1,Pr2,Pr3,Pr4,Pr5のうち、最小加圧力Pr1、最大加圧力Pr5を除く、他の加圧力Pr2,Pr3,Pr4が可動電極チップ35と固定電極チップ34との間にかけられたときの移動量Gm2,Gm3,Gm4をそれぞれ推定する(S14)。
【0036】
工程S13、工程S14は、制御装置50の内部処理である。以下、
図7を参照して工程S13,工程S14の処理を説明する。
図7(a)に示すように、工程S12が終了した時点で、加圧力Pr1をかけたときの移動量Gm1と、加圧力Pr5をかけたときの移動量Gm5とが制御装置50の内部に登録されているため、加圧力と移動量とをそれぞれX軸、Y軸としたグラフ上には2つのポイントをプロットすることができる。加圧力と移動量との関係が線形であると仮定し、上記の2つのポイントから一次関数の直線式((加圧力)=A×(移動量)+B)の定数(A、B)を求めることができる。定数が求まることで(例えば、定数A=A1、定数BがB1であると求められることで)、
図7(b)に示すように加圧力と移動量との間の関係式((加圧力)=A1×(移動量)+B1)を定式化することができる(工程S13)。加圧力と移動量との間の関係式が定式化できたことで、この関係式に校正されていない加圧力Pr2,Pr3,Pr4をそれぞれ代入することで、移動量Gm2,Gm3、Gm4を推定することができる(工程S14)。
【0037】
図4に説明が戻り、工程S14の処理後、制御装置50は、スポット溶接ガン30の開閉を制御し、可動電極チップ35の移動量が工程S14で推定された移動量Gm2,Gm3,Gm4にそれぞれ達したときのトルクを自動で特定し(S15)、自動で特定したトルクを加圧力Pr2,Pr3,Pr4をかけたときのトルクTr2´、Tr3´、Tr4´として登録する(S16)。
【0038】
具体的には、
図6(b)に示すように、ユーザにより校正画面200上の校正ボタンがクリックされると、制御装置50は、サーボモータ36を制御して、可動電極チップ35を固定電極チップ34に接触させた状態から、少しずつトルクを増加させる。この間、制御装置50は、エンコーダ37の出力に基づいて、可動電極チップ35の移動量を監視し、トルクセンサ38の出力に基づいてサーボモータ36の駆動軸に生じているトルクを監視する。制御装置50は、可動電極チップ35の移動量が工程S14で推定された移動量Gm2、Gm3、Gm4にそれぞれ達した時点のトルクを特定する。移動量Gm2,Gm3,Gm4は、加圧力と移動量との間の関係式を用いて加圧力Pr2,Pr3,Pr4をかけたときの移動量として推定されたものである。したがって、工程S14で推定された移動量Gm2、Gm3、Gm4にそれぞれ達した時点のトルクは、加圧力Pr2,Pr3,Pr4をかけたときのトルクTr2´、Tr3´、Tr4´としてみなすことができる。工程S15の処理後、
図6(c)に示すように、校正対象である使用予定の加圧力Pr1,Pr2,Pr3,Pr4,Pr5にそれぞれ対応するトルクTr1´、Tr2´、Tr3´、Tr4´、Tr5´を得られる。
工程S11乃至工程S16の処理により、加圧力/トルクの関係の校正が完了される。
【0039】
図4乃至
図7を参照して説明したように、本実施形態に係る溶接装置1によれば、複数の加圧力のうち少なくとも2つの加圧力に関して、加圧力/トルクの関係を加圧力センサ100を用いて手動で校正することで、他の加圧力に関する加圧力/トルクの関係を手動ではなく、溶接装置1が自動で校正することができる。それにより、溶接作業に使用予定の加圧力が30点など多い場合であっても、ユーザは、そのうち2点に関して加圧力/トルクの関係を加圧力センサ100を用いて校正するだけでよく、溶接作業に使用予定の加圧力が30点あれば、30点に関して加圧力センサ100を用いて手動で繰り返し校正しなければならなかった従来に比べて、校正作業の大幅な時間の短縮を実現することできる。
【0040】
上記の作用効果を実現するために、発明者らは、加圧力と可動電極チップ35の移動量との間の相関性が高いことに着目し、工程S12において、加圧力Pr1,Pr5をかけたときのトルクTr1´、Tr5´とともに溶接装置1の内部パラメータである移動量Gm1,Gm5も取得するようにした。そして、加圧力と移動量との関係を定式化することで、特定の加圧力を得るために必要な移動量を推定できるようにした。このように、外部の加圧力センサ100でしか計測できない外部パラメータである加圧力を、内部のエンコーダ37の出力に基づいて特定可能な内部パラメータである可動電極チップ35の移動量で置き換えられるようにしたことは、本願の1つの特徴である。特定の加圧力を得るために必要な移動量を推定できれば、可動電極チップ35を固定電極チップ34に接触させた状態から、トルクを漸次的に少しずつ増やし、可動電極チップ35の移動量が、推定した移動量に達したときのトルクを、その特定の加圧力を得るために必要なトルクとして取得することができる。最初の2つの加圧力に関して加圧力/トルクを手動で校正しなければならないものの、他の加圧力を得るために必要なトルクを取得する工程は、加圧力センサ100を用いたユーザ作業及びユーザによる補助が不要であるため、ユーザによる校正作業を大幅に短縮することができる。
【0041】
本実施形態では、入力部71及び表示部72の機能は、制御装置50に接続された教示操作盤70が有したが、ユーザによる入力情報を制御装置50に入力することができるのであれば、その構成は本実施形態に限定されない。例えば、入力部71及び表示部72の機能は制御装置50が有してもよい。また、制御装置50に通信可能に接続された外部装置が、制御装置50の内部の計算処理等の一部の機能を有する構成であってもよい。
【0042】
本実施形態では、制御装置50がスポット溶接ガン30の動作を制御していたが、スポット溶接ガン30の動作を制御できるのであれば、その形態は限定されない。例えば、教示操作盤70が制御装置50の機能を有し、教示操作盤70により、スポット溶接ガン30が制御されてもよい。
【0043】
本実施形態では、複数の加圧力のうち最小加圧力と最大加圧力とが手動で校正する対象として自動的に抽出されたが、複数の加圧力のうち任意の2つの加圧力の選択をユーザが行うようにしてもよい、ユーザにより2つの加圧力の選択操作は、校正画面200を介して行うことができる。
【0044】
本実施形態では、可動電極チップ34が直線で表されたガン軸Axに沿って直動するものとして説明していた。しかしながら、可動電極チップ35が固定電極チップ34に対して接近、離反可能であって、可動電極チップ35が固定電極チップ34に接近したときにガン軸Ax上で対向し、可動電極チップ35と固定電極チップ34との間で被溶接ワークを挟持することができるのであれば、可動電極チップ34の接近、離反経路は直線でなくてもよい。また、本実施形態では、一対の電極チップ34,35のうち一方の電極チップ34が可動、他方の電極チップ35が固定であったが、一方の電極チップ34が固定、他方の電極チップ35が可動であってもよいし、一対の電極チップ34,35のうち両方が可動であってもよい。一対の電極チップ34,35の両方が可動であって、サーボモータを2つ有する構成であれば、本実施形態で説明した加圧力/トルクの校正を2つのサーボモータのそれぞれに対して行えばよい。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0046】
30…スポット溶接ガン、31…ベース部、32…固定アーム、33…可動アーム、34…固定電極チップ、35…可動電極チップ、36…サーボモータ、37…エンコーダ、38…トルクセンサ、39…モータドライバ、50…制御装置、51…トルク特定部、52…移動量特定部、53…定式化処理部、54…移動量推定部、55…画面生成部、56…モータ制御部、70…教示操作盤、71…入力部、72…表示部。