(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】超硬合金製切断刃
(51)【国際特許分類】
B26D 1/06 20060101AFI20240827BHJP
B26D 1/00 20060101ALI20240827BHJP
B23D 35/00 20060101ALI20240827BHJP
B28B 11/14 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B26D1/06 Z
B26D1/00
B23D35/00 B
B28B11/14
(21)【出願番号】P 2023559060
(86)(22)【出願日】2023-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2023009814
(87)【国際公開番号】W WO2023176818
(87)【国際公開日】2023-09-21
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2022043429
(32)【優先日】2022-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 篤史
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/169303(WO,A1)
【文献】特開2004-292278(JP,A)
【文献】特開昭61-141386(JP,A)
【文献】国際公開第2021/256282(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 1/00 - 1/06
B23D 35/00
B28B 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリーンシートを切断するための平刃状切断刃である超硬合金製切断刃であって、
超硬合金製の基部と、前記基部の延長線上に設けられ、最先端部である刃先を有する
超硬合金製の刃部とを備え、刃先を形成する左右刃面を構成するCo部の凹み深さが0.008μm以上0.3μm以下であり、
前記刃先を形成する前記左右刃面のCoの凹み面積の割合が6%以上30%以下である、超硬合金製切断刃。
【請求項2】
前記刃先を形成する前記左右刃面のCoの凹み深さが0.010μm以上0.3μm以下である、請求項1に記載の超硬合金製切断刃。
【請求項3】
前記刃先を形成する前記左右刃面の表面粗さのパラメータであるクルトシス(Sku)がSku>3である、請求項1または2に記載の超硬合金製切断刃。
【請求項4】
超硬合金中のコバルトの含有率が3質量%以上25質量%以下の範囲である、請求項1または2に記載の超硬合金製切断刃。
【請求項5】
超硬合金の硬度はビッカース硬度Hv1300以上、2030以下である、請求項1または2に記載の超硬合金製切断刃。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超硬合金製切断刃に関する。本出願は、2022年3月18日に出願した日本特許出願である特願2022-043429号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来、超硬合金製切断刃は、たとえば特開平10-217181号公報(特許文献1)、国際公開2014-050884号(特許文献2)および特開2004-17444号公報(特許文献3)において開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-217181号公報
【文献】国際公開2014-050884号
【文献】特開2004-17444号公報
【発明の概要】
【0004】
超硬合金製切断刃は、基部と、前記基部の延長線上に設けられ、最先端部である刃先を有する刃部とを備え、刃先を形成する左右刃面を構成するCo部の凹み深さが0.008μm以上0.3μm以下である、超硬合金製切断刃に関する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、超硬合金製切断刃1の正面図である。
【
図2】
図2は、超硬合金製切断刃1の斜視図である。
【
図3】
図3は、2段の超硬合金製切断刃1の斜視図である。
【
図4】
図4は、刃面201,202の表面を示す写真である。
【
図5】
図5は、クルトシスSkuを求める式を示す。
【
図6】
図6は、切断方法を説明するために示す超硬合金製切断刃1の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
従来の超硬合金製切断刃においては、切断性能が低いという問題があった。
【0007】
特許文献1(特開平10-217181号公報)は、セラミックグリーンシート等の薄板状のワークを切断する平刃状の切断刃にあって、高精度な切断を可能にする狭い刃先角を確保しつつ座屈強度が高い平刃状の切断刃を開示している。
【0008】
その解決手段として、刃先部を中心線Yに対し左右対称の平面または凹湾曲面で形成し、刃先部と基部とを一段又は複数段の左右対称の凹湾曲面の補強部で連絡することで切断実行部の距離を短くして高精度な切断加工を確保しつつ座屈強度を高めることを提案している。
【0009】
特許文献2(国際公開2014-050884号)は、平板上の基部と、前記基部の両面から互いに近づくように傾斜した左右刃面と、前記左右刃面を結ぶように形成され、凸湾曲面を有する刃先先端を有し、板厚方向の断面形状において、前記左右刃面に沿った2本の直線の交点と前記刃先先端の最短距離が1μm以上、10μm以下であり、かつ、前記先端部の長さが、前記基部の中心線に対して左右で異なり、その差異が1μm以上、20μm以下であり、さらに、前記左右刃面に沿った2本の直線の交差角度の内角が、4度以上、60度以下であることを特徴とする平刃状切断刃を提案している。
【0010】
特許文献3(特開2004-17444号公報)は、カップ型砥石を使用し、研削溝を容易に形成することができることを開示している。板状のセラミック体をその厚み方向に押圧力を作用させて切断する略矩形形状の切断刃であって、長辺方向の一辺に沿って平面によって形成された刃面を有し、該刃面に短辺方向に延在する研削溝が形成され、前記刃面は短辺方向に分割された複数の段付き面によって構成され、刃先側の段付き面ほど大きい角度を有していることを特徴とする切断刃を開示している。
【0011】
近年、MLCC(Multilayer Ceramic Capacitors)の高密度積層技術により、大型のMLCCのダウンサイズ化が進んでいる。ダウンサイズ化されることでNi電極の積層数は増え、また、誘電体であるチタン酸バリウムの粒径を数十nmにすることで厚み方向の電極間距離は数百nm以下となってきている。そのため、グリーンシートの硬度は高くなるに加え、電極間距離が短くなると切断面品位が悪化する傾向にある。そのような中で、本発明者は超硬合金製切断刃において、ワークを低い切断抵抗で切断し、切断面にダメージを緩和することができる超硬合金製切断刃を見出した。
【0012】
また、当切断刃を使用するMLCC製造過程では精密に切れる切断刃の要求がある一方、切断後の再付着など押切り刃特有の問題があり、刃面に凹凸を設けることで接着剤溜まりなどの機能を持たせることで切断後のMLCC(グリーンシート小片)の再付着を防止する切断刃でもある。
【0013】
積層セラミックスコンデンサを製造するために、厚さが数百μmから数mmの積層されたグリーンシートの切断要求がある。これを精度良く連続的に切断した後、ひとつひとつの被切断物を焼成し、両端に電極を取り付けることでコンデンサとしている。ここで、コンデンサは近年スマートフォンを代表とする小型機対応のため小サイズ化の要求が増しており、そのため高度な切断精度が要求される。このような小サイズセラミックコンデンサを実現するためには、切断刃の刃先に機能を持たせ切断面に損傷を与えないことが必要である。
【0014】
グリーンシートの切断方法としては、ダイシング法と呼ばれる回転丸刃にて切断する方法と、本開示のような平刃状切断刃を用いた押切方式がある。前者は切削屑が多く出る為に材料歩留が悪く、また切断速度が劣るという欠点などがあり、小サイズ品には押切方式が有用である。
【0015】
図1は、超硬合金製切断刃1の正面図である。
図2は、超硬合金製切断刃1の斜視図である。
図3は、2段の超硬合金製切断刃1の斜視図である。
【0016】
図1から
図3で示すように、超硬合金製切断刃1は、切断を実行する刃先部2、刃先部2に連結される連結部3および連結部3に連結されて切断刃固定部5によって固定される基部4とを有する。
【0017】
被切断物100に刃先部2を押しつけることで、被切断物100を切断することができる。平刃状切断刃としての超硬合金製切断刃1は、
図1におけるyおよびz方向と直交するx方向に延在している。
【0018】
刃先部2の両側に刃面201,202が設けられている。
図3では刃面203,204が設けられることで、2段刃となっている。各刃面201から204は直線形状であってもよく、曲線形状であってもよい。刃面201と刃面202が交差する稜線が刃先210である。
【0019】
本開示に従った超硬合金製切断刃1は、基部としての連結部3と、連結部3の延長線上に設けられ、最先端部である刃先210を有する刃部としての刃先部2とを備え、刃先を形成する左右の刃面201,202を構成するCo部の凹み深さが0.008μm以上0.3μm以下である。
【0020】
このように構成された、超硬合金製切断刃1においては、刃面を構成するCo部が凹んでいるため、被切断物と刃面との接触面積を低減して切断抵抗を低下させることできる。凹みの部分に粘着成分が付着することを防止できる。その結果、切断性能を向上させることができる。Co部の凹みの深さが0.008μm未満であれば凹みの効果が十分ではない。Co部の凹みの深さが0.3μmを超えると刃面の表面が粗くなり、切断面が荒れる。
【0021】
好ましくは、刃先を形成する左右刃面のCoの凹み面積の割合が6%以上30%以下である。
【0022】
好ましくは、刃先を形成する左右刃面のCoの凹み深さが0.010μm以上0.3μm以下である。
【0023】
好ましくは、刃先を形成する左右刃面の表面粗さのパラメータであるクルトシス(Sku)がSku>3である。
【0024】
好ましくは、超硬合金中のコバルトの含有率が3質量%以上25質量%以下の範囲である。
【0025】
好ましくは、超硬合金の硬度はビッカース硬度Hv1300以上、2030以下である。
【0026】
このような薄刃は例えば炭素工具鋼、ステンレス鋼の他、超硬合金などの硬質材料が用いられている。しかし加工が容易ではなくその原因として、特に材質が硬質材料である場合、剛性はあるものの、難切削性であり且つ靱性が低く欠け易いことや、また、刃厚が薄い場合硬質材料であっても特に刃先先端部では加工中に砥石の押圧により刃が逃げようとすることなどが挙げられる。
【0027】
従来、上述の特性を満たすために種々の切断刃が提案されているが、形状を複雑化させた場合、更に加工が困難となることは避けられず、安定した形状精度と加工性を共に満足する切断刃は得られていない。
【0028】
効果
本発明者は刃面にトライボロジーの観点より刃面を構成するCoに凹み形状としてWCを凸とすることで刃先が作用する接触面積の低減を図ることを試みた。これにより、切断抵抗の低減を図ると共にMLCCグリーンシート切断時に刃面に付着する糊が切断面に転写しグリーンシートが再付着する現象を低減できることが確認された。これにより、以下の効果が得られる。
【0029】
1)切断抵抗の低減
従来の研削加工で仕上げた刃面に対しWCを凸にCoを凹とした刃面にすることで刃面の接触面積を低減し切断時の摩擦抵抗を下げることで刃先を鋭角にせずとも、欠損しにくい刃先角度θで刃先欠損の抑制をしつつ切断抵抗を15%~28%低減することができる。
【0030】
2)刃面をクレーター状(WC凸Co凹)にすることによりMLCCの切断表面への接着剤付着を抑制
切断したMLCCグリーンシートの再付着(切ったワークが再びくっつく現象)を低減することができる。MLCCグリーンシートの切断刃による切断方法は発泡剥離剤を使用した片面テープでグリーンシートを接着し押切されている。切断刃の刃先はグリーンシートを接着している糊の範囲まで刃先を切込み切断されるが、その際、刃先に糊が付着する。また、切れ味の悪い刃先は、グリーンシートに切り込んだ後、切断刃を抜く際にグリーンシートが弾性回復し、設定切れ幅よりグリーンシートの幅は大きく復元する。その時、第一の刃面に付着した糊がグリーンシートの切断面に触れることで再付着が発生する。本現象に対し刃面表面のCo部を強制的に除去し凹み部分の面積を大きくすることで糊溜まりの役割を持たせることでワークに付着する糊の量を抑制することができる。従い、切断ワークの再付着(再度くっつく)を抑制することができる。
【0031】
図4は、刃面201,202の表面を示す写真である。
図4において、黒い部分がタングステンカーバイド21であり、白い部分がコバルト22である。本開示においては、コバルト22を凹形状とすることで、コバルト22への切断ワークの再付着を防止出来る。
【0032】
クルトシス
本開示に従った刃面は、前記WCとCoの段差は0.008μm以上0.3μm以下である刃面表裏の、粗さ曲線のクルトシス(ヒストグラムの尖り具合(Sku))が3を超えることが好ましい。
図5は、クルトシスSkuを求める式を示す。
【0033】
クルトシス(Sku)はJIS B0681-2(2018年)に従って求められるものであり、
図5における式で示される。表面の尖度(せんど)を意味し、高さ分布のとがり(鋭さ)を表す指標である。SKuが3のときは凸部または凹部の尖り分布が正規分布に近いことを示す。Skuが3より大きくなるにつれて、基準高さSq(二乗平均平方根高さ)に対して急峻な尖った凸部または凹部の数が増加し、Skuが3よりも小さくなるにつれて、急峻な鋭い凸部(または凹部
)の数が少なくなることを表す。つまり、刃面のSkuが3を超えるとグリーンシートを切断時の接触面積が小さくなり切断抵抗が小さくなることを示す。
【0034】
材質
切断刃に用いる材質はタングステンカーバイドとコバルトを主成分とした超硬合金で合金中のタングステンカーバイド結晶粒の大きさは平均粒径0.1μm以上4μm以下であり、2μm以下がさらに好ましい。平均粒径は、SEM写真において、超硬合金の表面を1万倍の倍率で測定して、任意の100個の結晶を選択し、各々の結晶において(長径+短径)/2の計算式に基づいて粒径を計算し、100個の粒径の平均値を求めた。
【0035】
また、タングステンカーバイトの結晶粒を制御するため結晶粒成長抑制のための成分TaC(タンタルカーバイド)を0.1質量%以上2質量%以下添加することも可能である。この添加剤はV8C7(バナジウムカーバイド)、Cr3C2(クロムカーバイド)でも置き替え及び組み合わせる事ができる。その場合は各々の添加量が0.1質量%以上2質量%である。超硬合金に使用されるコバルトは3質量%以上25質量%以下の範囲であり、5質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましい。TaC、V8C7、Cr3C2は、硝酸、フッ酸を用いてこれらの成分を超硬合金から溶解したのち後、液体状にしたものをICP発光分光装置(発光分光法)で質量を測定できる。Coは、硝酸、フッ酸を用いて超硬合金から溶解した後、液性を調整した溶液を電位差滴定装置(電位差滴定法)で質量を測定できる。
【0036】
超硬合金の硬度はビッカース硬度Hvが、1300以上、2030以下が好ましい。
厚み
超硬合金製切断刃の基材厚さTは、0.1mm以上~0.6mm以下が好ましい。この範囲とすることにより、積層セラミックグリーンシートの切断刃(切断機に対応)として使用できる。厚み0.1mmサイズのカッターは、セラミックコンデンサーの中でも薄いチップ用で刃先角度20°などの鋭角刃を研削加工で製作する上で研削代を小さくでき、研削抵抗を下げることができるため高精度な刃先を作ることができる。一方基材厚0.4~0.6mmのカッターは、カッター自体の厚みを大きくすることで剛性(刃先の根本の撓み)を向上させることができるため厚み1mm以上の厚いチップの切断に適している。また、刃の根本の剛性が高まることで斜め切断が起こりにくいなどの利点がある。
【0037】
超硬切断刃の厚さの測定方法は、マイクロメータ、またはレーザー測定器がある。
超硬合金切断刃の長さL(mm)と高さW(mm)(
図2)との関係は1≦L/W≦20となることが好ましい。
【0038】
刃先角度θは6°≦θ≦30°以下であることが好ましい。
刃先角度が小さい方が切断抵抗は小さくなり、ナナメ切断も起こりにくくなる。つまり、ワークに侵入する体積が小さくなるからである。10°以下については1段刃でも良いが、刃面を形成する幅寸法が大きくなるため研削抵抗により倒れやすく刃先を高精度な形状に加工しにくいなどの問題がある。刃付け時のチッピングについてはθ≦20°を境に極端に発生しやすくなることがわかっている。
【0039】
(実施例1)
株式会社アライドマテリアル製超硬合金FM10K素材を用いて先端刃部の形成加工行った。試験に用いる平刃状切断刃は、刃渡り方向L:40mm、基部厚さT:0.1mm、刃高さW:25.0mmである。切断実行部としての刃先部2の切れ刃角度θを20°±5’とし第1段目の刃幅を0.1mmとし2段目の刃角度(2段目の刃面の延長面が交差して形成する角度)を4°±10’とした。刃先成形加工に於いては平面研削盤を用い、ダイヤモンド円筒砥石を使用し砥石の側面をツルーイングし、角度調整可能な専用のワークレストに素材を固定して加工を行った。これにより表1から3に示す試料番号1から55の超硬合金製切断刃1を作製した。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
<刃面を形成するCo凹み形成>
先端角を形成する刃面201,202のCoの除去方法は硝酸(HNO3)をCONC1に対し5倍の水で希釈した(濃硝酸を4から5倍の水で希釈する)薬液を作った。また、切断刃の刃先~0.2mmの深さの範囲で刃先を硝酸に浸すことができる治具に超硬合金製切断刃1をセットし、その薬液に10秒~50分刃先を浸し、時間管理でCoの凹みの深さ制御を行った。
【0044】
<刃面を形成するCoの凹み面積の割合測定>
刃面を形成するCo凹みの割合については画像処理ソフト:プラネトロン社製イメージプラスを用い、10000倍のSEM写真の画像をソフトに取り込み8μm×8μmの範囲にあるCoとWCを画像処理により2値化(
図4)し計測した。1段目の刃面201,202においてWCを黒とし、Coを白として強調し、Coの割合を当ソフトにより面積計算し割合を算出した。
【0045】
<WCとCoの段差測定>
凸部又は凹部の平均距離、及び凸部の平均高さ又は凹部の平均深さは、WC凸部又はCo凹部を有する表面をブルカー社製原子間力顕微鏡(AFM:Dimension Icon)により測定した。本AFMの測定可能な最大試料サイズはφ210であるため切断刃を破壊することなく観察できる。測定条件はスキャンエリア5μm×5μmの範囲である。カンチレバーの走査速度を0.1~80Hzで測定し各地点の高さに関する3DプロファイルからWC凸部の高さとCo凹部の最大深さを求めた。これを前記で形成した刃面の表面から無作為に選び出された表裏刃面各3箇所において測定を行い、WCとCoの最大高低差を求めた。
【0046】
<表面粗さSku(面のクルトシス)の測定>
刃面のSku尖度(せんど)はZygo Corporation製の非接触三次元粗さ測定装置(Nexview(登録商標))を用い、上記縦断面における測定範囲を、X方向に140μm、Z方向に30μmとする。測定視野は、対物レンズの倍率を50倍、ZOOM倍率×1倍とした。
【0047】
<刃先稜線幅の測定>
刃先の稜線幅測定は日本電子社製のショットキー電界放出型走査電子顕微鏡JSM-7900Fを用いて5,000~10000倍にて刃先稜に対し直交する方向から撮像し、機械座標と測長機能を活用して0.5μm以下の刃先稜のカッターをテスト刃に使用した。
【0048】
<欠け測定>
切断刃の欠けについては、オリンパス社製工具測定顕微鏡STM-UM 500倍により測定した。すべての試料において、欠け深さ1.5μm以内で欠け幅10μm以内であることを確認した。
【0049】
<切断テスト>
本願切断刃を用いてその効果を確認するため、塩化ビニル板の押切切断を行い切断抵抗、切断刃が被切断物につけた切断傷をもとに切断面の評価を行い、また、再付着の発生率を確認し本願の効果を確認した。
図6で示すように、超硬合金製切断刃1において被切断物(ワーク)100を切断する。切削動力計103の上にアクリル製の台座102が載置されている。台座と被切断物100との間に熱剥離粘着シート101が介在している。矢印111で示す方向に超硬合金製切断刃1を往復運動させつつ矢印110で示す方向に被切断物100を移動させることで、被切断物100を切断する。
【0050】
本テストの条件
カッター仕様:刃先角度θ16°~20°、2段目の角度4°、厚みT:0.1mm、長さL:40mm
ワーク材質:塩ビ板 厚み0.5mm、長さ290mm、幅30mm
テスト装置:牧野フライス製作所製マシニングセンタV55(以下切断機という)にキスラー製の切削動力計103をセット(以下、切削動力計と言う)しワークセットは動力計定盤上面から厚み10mmのアクリル板、厚み1mmの発泡両面粘着シート、厚み0.5mm±0.1mmのワーク(上記塩ビ板)(これらが被切断物100を構成する)とし、カッターの取り付け精度は長手方向のワークと刃角度±0.5°、ワークと刃断面角度90°±0.5°とした。切断条件は切断速度300mm/s、切断間隔1mm、押込み量は熱剥離シートの糊層に0.1mm刃先が切り込まれる条件で1000回塩化ビニルの切断を行い、切断抵抗、切断面品位、ワークの再付着の評価を行った。本結果を条件ごとに繰り返した結果を表1から3に記す。
【0051】
表1から3における「切断抵抗」は切削動力計103にて測定された平均切断抵抗であり、160N以下:A、160N超169N以下:B、169N超:Cとした。「再付着」は1000箇所の切断箇所において超硬合金製切断刃1に再付着した個数の割合を示し、0.5%以下:A、0.5%超2.0%以下:B、2.0%超:Cとした。
【0052】
刃面を構成するCo部の凹みの最適な割合に関して、平滑なWC粒子に対する凹んだCoの面積割合は6%~30%が好ましい。Co凹みの面積割合が30%を越えると刃先の強度が極端に低下し欠けを誘発する。また、一方でCo凹みの面積割合が6%を下回ると接触面積が増え切断抵抗が増し切れ味低下が発生する。より好ましい範囲は10%~22%である。また最も好ましい範囲は10%~15%である。
【0053】
WCとCoの最適な段差範囲に関して、Co部の凹部の深さが0.008μm以上0.3μm以下である必要がある。WCとCoの段差すなわちCoの凹部の深さが0.008μmより小さいと、摩滅面となりワークとの接触面積が大きくなり切断抵抗が高くなる。一方段差が0.3μmより大きいと、刃先にチッピングを誘発する。より好ましい範囲は0.010μm以上0.3μm以下である。また最も好ましい範囲は0.010μm以上0.1μm以下である。
【0054】
三次元粗さパラメータ Sku(クルトシス)の最適範囲に関して、WCとCoの段差は0.008μm~0.3μmである刃面表裏の、粗さ曲線のクルトシス:Sku(ヒストグラムの尖り度合)は3を超えることが好ましい。より好ましくは4以上が好ましい。
【0055】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
1 超硬合金製切断刃、2 刃先部、3 連結部、4 基部、5 切断刃固定部、100 被切断物、201,202,203,204 刃面、210 刃先。