(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】気相電気還元法を用いたシリコンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/24 20060101AFI20240827BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20240827BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240827BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20240827BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240827BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240827BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240827BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240827BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240827BHJP
【FI】
C23C16/24
C23C16/44 Z
H01M4/134
H01M4/1395
H01M4/36 C
H01M4/38 Z
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2023566988
(86)(22)【出願日】2022-05-30
(86)【国際出願番号】 KR2022007666
(87)【国際公開番号】W WO2022255753
(87)【国際公開日】2022-12-08
【審査請求日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】10-2021-0070006
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523373474
【氏名又は名称】ベイラブ コープ
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】ジヒョン セオ
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-511330(JP,A)
【文献】特開2013-100211(JP,A)
【文献】特開2002-294450(JP,A)
【文献】特表2014-531733(JP,A)
【文献】特表2011-513906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00 - 16/56
H01M 4/134
H01M 4/1395
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内に配置された母材の表面に電位を印加する第1段階と、
電位が印加された前記母材上に珪素系化合物を気相で供給する第2段階と、
気相で母材の表面に到達した珪素系化合物が前記母材の表面で還元しながら前記母材の表面上にシリコンコーティング層が形成される第3段階と、を含み、
前記第1段階で、前記母材の表面に電位を印加することによって前記反応器内で母材の表面に到達した珪素系化合物に電子が供給され、前記第3段階で、前記電子によって気相の珪素系化合物が母材の表面で還元されて母材の表面上にシリコンがコーティングされることを特徴とする、気相電気還元法を用いたシリコンの製造方法。
【請求項2】
前記珪素系化合物は、シリコンテトラクロライド(Silicon Tetrachloride、SiCl
4)、ヘキサクロロジシラン(Hexachlorodisilane、Si
2Cl
6)、ジクロロシラン(Dichlorosilane、SiH
2Cl
2)、メチルシラン(Methylsilane、CH
3SiH
3)、テトラキスシラン(Tetrakis(trichlorosilyl)silane)またはシリコンテトラフルオリド(Silicon Tetrafluoride、SiF
4)であることを特徴とする、請求項1に記載の気相電気還元法を用いたシリコンの製造方法。
【請求項3】
前記母材は、黒鉛、銅、リチウム、アルミニウム、ステンレススチールまたはバッテリーNMC/NCA/LFP素材であることを特徴とする、請求項1に記載の気相電気還元法を用いたシリコンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気相電気還元法を用いたシリコンの製造方法に関し、より詳しくは液状媒介体を使用せず、珪素系化合物を電位の印加された母材の表面上に気相で供給して母材の表面にシリコンを還元コーティングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池はリチウムイオンの酸化還元反応を用いて充電及び放電する電池であり、イオン交換膜を間に挟んで形成された正極、負極、および電解液からなる。
【0003】
このようなリチウム二次電池は、電気自動車を含めて大容量電池を必要とするシステムのために、負極活物質の容量を増やし、出力特性及び寿命特性を増加させる必要性がある。
【0004】
従来の炭素系負極活物質の場合、理論容量が372mAh/gに過ぎず、充電及び放電の際、リチウムイオンの炭素層間挿入及び脱離メカニズムによって、特に高速充電でその出力特性は格段に落ちる。
【0005】
よって、現在使用される炭素系よりも10倍のリチウム容量を有するシリコンをリチウム電池負極に適用するための研究が活発に行われている。
【0006】
しかし、シリコン含量が多くなるほど、充放電の際に体積膨張が起こるか、寿命短縮など、性能が低下する問題があった。
【0007】
一方、従来のクロロシラン分子をシリコンに還元する技術は、液体電解質、液体金属塩(Molten Salts)などの液体媒介体に前記分子を溶解させた後、電気化学蒸着法でシリコンに還元したが、精密なコーティング制御が難しく、多孔性形態などの素材には適用することができないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はシリコンコーティング方法において、液体媒介体を使用せず、多孔性素材などに優れた精密性及び制御性を示すシリコンコーティング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、
母材の表面に電位を印加する段階と、
電位が印加された前記母材上に珪素系化合物を気相で供給する段階と、
気相で珪素系化合物が還元しながら前記母材の表面上にシリコンコーティング層が形成される段階と、を含むことを特徴とする、気相電気還元法を用いたシリコンの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液体電解質、液体金属塩(Molten Salts)などの液体媒介体を使用せず、珪素系前駆体化合物を気相で供給することにより、多孔性素材などに適用可能であり、優れた精密性を示すことができる。
【0012】
また、本発明による方法によって製造されたコーティング層は、リチウムイオンバッテリーの負極活物質内の珪素系化合物に適用可能であり、充放電を繰り返しても高容量特性が安定的に発現して優れた寿命特性及び安全性を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る方法の化学反応度を示す図である。
【
図2】本発明の一実施例による珪素系前駆体の気相供給過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0015】
本発明の一実施形態は気相電気還元法を用いたシリコンの製造方法に関するものであり、
母材の表面に電位を印加する段階と、
電位が印加された前記母材上に珪素系化合物を気相で供給する段階と、
気相で珪素系化合物が還元しながら前記母材の表面上にシリコンコーティング層が形成される段階と、を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の方法は、液状媒介体を使用せず、電気化学的または化学的方法を用いて母材の表面上にシリコンを直接コーティングするためのものであり、具体的には、珪素系(silanes)化合物を電位の印加された母材の表面上に気相で供給して母材の表面にシリコンを還元コーティングするためのものである。
【0017】
本発明の一実施形態で、前記気相の珪素系前駆体化合物、特にクロロシラン化合物を蒸気(vapor)化し、化学蒸着法(具体的には、化学的電界蒸着法)を用いて、反応器内に配置された母材の表面に前記シリコンコーティング層を形成することができる。
【0018】
母材の表面に前記シリコンコーティング層を形成する過程は、反応器内で前記気相の珪素系前駆体化合物を連続的に供給し、常温~500℃の温度範囲(すなわち、反応器の温度範囲)で0.1~5時間実施することが好ましい。好ましくは、反応器の温度範囲(すなわち、反応器内部の温度範囲)は150℃~250℃の範囲であり得る。この場合、母材の劣化を最小化するかまたは抑制することができる。前記反応器内には、水素(H2)、アルゴン(Ar)、窒素(N2)などの気体が一定の流量で流れることができる。
【0019】
本発明の一実施形態で、前記珪素系化合物は別途のステンレススチール前駆体保管容器を用いて供給し、蒸気(vapor)化するために保管容器を常温~350℃の温度範囲で加熱することができる。
【0020】
本発明の一実施形態で、前記クロロシラン化合物は液状媒介体に溶解しなかった気体状態として供給し、触媒または還元剤の使用なしに連続的にまたはパルス形態で供給することができる。
【0021】
本発明の一実施形態で、前記シリコンコーティング層は、複数のシリコンナノ粒子が島(island)形態、フィルム(film)形態、またはこれらの組合せの形態に分散したものであり得る。
【0022】
具体的には、前記気相電気還元法を用いるとき、前記シリコンコーティング層は前記島(island)形態に形成され始め、前記島(island)形態は既に形成された負極活物質の間の空隙(voids)にのみ形成されるので、前記シリコンコーティング層に含まれたシリコンナノ粒子の体積膨張に対応するのに適切な形態である。
【0023】
ところが、蒸着量が増加するほど、前記フィルム(film)形態が形成され、最終的には前記フィルム(film)形態及び島(island)形態が混在する状態が形成され得る。このような場合、シリコン粒子の重量当たり容量が改善されることができ、化成効率が改善されることができる。
【0024】
これと違い、ボールミリングなどの物理的な製造方法を用いる場合、シリコンナノ粒子の分布図を均一に調節して、電気的抵抗なしに付着させることがほとんど不可能である。
【0025】
炭素系負極活物質内に気相電気還元法によって形成されたシリコンナノ粒子は、炭素系素材との界面が既に電気的に接合されて非可逆的容量損失が最小化する。これと違い、既に合成されたシリコンナノ粒子および炭素系負極活物質の混合電極の場合、シリコンナノ粒子の表面が露出されて不可逆的容量損失の源泉として作用する。
【0026】
前記気相電気還元法によって形成されたシリコンナノ粒子は、直径5~100nmの球形粒子であり得、非晶質であり得る。また、珪素系化合物の還元過程で前駆体内の炭素、酸素、窒素などを反応に参加させることで、純粋シリコンナノ粒子だけでなくシリコン系化合物のナノ粒子の合成が可能である。前記非晶質のシリコンナノ粒子は、粒子の重量当たり容量が大きく、充電(すなわち、リチウムとの合金化)の際、体積膨張によるストレスが結晶質の場合に比べて著しく少ないだけでなく、リチウムとの合金化(alloying)及び非合金化(dealloying)の速度が早くて充放電速度に有利である。
【0027】
本発明の一実施形態で、前記シリコンコーティング層の厚さは5~100nmである得る。
【0028】
本発明の一実施形態で、前記珪素系化合物は、シリコンテトラクロライド(Silicon Tetrachloride、SiCl4)、ヘキサクロロジシラン(Hexachlorodisilane、Si2Cl6)だけでなく、ジクロロシラン(Dichlorosilane、SiH2Cl2)のようなハイドロクロロシラン化合物、メチルシラン(Methylsilane、CH3SiH3)のようなメチルクロロシラン化合物、テトラキスシラン(Tetrakis(trichlorosilyl)silane)、シリコンテトラフルオリド(Silicon Tetrafluoride、SiF4)などを使用することができるが、これに制限されるものではない。
【0029】
本発明の一実施形態で、前記珪素系化合物のうちクロロシラン(Chlorosilane)化合物を使用することが好ましい。
【0030】
本発明の一実施形態で、前記母材に電流または電圧を連続的にまたはパルス形態で供給して母材の表面に電位を印加することによって電子を供給することができる。印加電位は母材に直流方式、交流方式及び人工によって造成されたパルス形態で印加することができる。
【0031】
前記母材は、黒鉛、銅、リチウム、アルミニウム、ステンレススチール、バッテリーNMC/NCA/LFP素材などの導電体を使用することができるが、これに制限されるものではない。母材の種類によって、電位印加の際、定電流または定電圧の形態で印加することができ、その電流密度は単位面積当たり1~200mA/cm2あるが、これに制限されるものではない。母材に印加される電圧は、クロロシラン化合物の種類によって、通常1~100Vを印加することができるが、これに制限されるものではない。
【0032】
本発明は、正極、負極、及び電解質を含み、前記負極は前述した方法で製造されるシリコンコーティング薄膜を含むリチウムイオン/メタルバッテリーに関するものである。
【0033】
本発明によれば、前述したシリコンコーティングを含むことにより、充放電を繰り返えしても高容量特性が安定的に発現し、寿命特性及び安全性に優れたリチウムイオン/メタルバッテリーを製造することができる。
【0034】
以上本発明の特定の部分を詳細に記述したが、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者にこのような具体的な技術は単に好適な具現例であるだけで、これに本発明の範囲が制限されるものではないというのは明らかである。本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば前記内容に基づいて本発明の範疇内で多様な応用及び変形が可能であろう。
【0035】
したがって、本発明の実質的な範囲は添付する特許請求の範囲およびその等価物によって定義されると言える。