(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】模型素体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A63H 9/00 20060101AFI20240827BHJP
B29C 45/16 20060101ALI20240827BHJP
B29C 45/38 20060101ALI20240827BHJP
B29C 45/37 20060101ALI20240827BHJP
A63H 3/16 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A63H9/00 U
B29C45/16
B29C45/38 A
B29C45/37
A63H3/16
A63H9/00 Q
(21)【出願番号】P 2024037381
(22)【出願日】2024-03-11
【審査請求日】2024-03-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000135748
【氏名又は名称】株式会社バンダイ
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福地 英記
(72)【発明者】
【氏名】福元 和正
(72)【発明者】
【氏名】望月 時道
(72)【発明者】
【氏名】濱田 哲人
(72)【発明者】
【氏名】志田 健二
(72)【発明者】
【氏名】浜滝 貴康
(72)【発明者】
【氏名】源 竣欽
(72)【発明者】
【氏名】栗原 直也
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-071839(JP,A)
【文献】特開2018-103497(JP,A)
【文献】特開2003-311885(JP,A)
【文献】特開2010-274463(JP,A)
【文献】特開2022-118152(JP,A)
【文献】特開2023-059989(JP,A)
【文献】特開平08-258082(JP,A)
【文献】特開2012-179777(JP,A)
【文献】特開2021-030733(JP,A)
【文献】特開昭59-232809(JP,A)
【文献】実公平06-007745(JP,Y2)
【文献】特開平06-023792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/16
B29C 45/37
B29C 45/38
A63H 3/16
A63H 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
模型素体であって、
異なる色の合成樹脂で形成される複数のランナーと、
前記複数のランナーに接続された複数のパーツと
を備え、
前記複数のパーツは、
単色の合成樹脂で形成される第1パーツと、
多色の合成樹脂が組み合わされて形成される第2パーツとを含
み、
前記第2パーツは、第1色の合成樹脂で一次成形された後に金型の一部が所定方向に移動することにより確保された隙間に第2色の合成樹脂で二次成形されて形成され、
前記第2パーツにおいて前記第1色の合成樹脂と前記第2色の合成樹脂とは積層構造で形成されることを特徴とする模型素体。
【請求項2】
前記第2パーツは、前記第1色の合成樹脂と前記第2色の合成樹脂とが重なる部分において、前記金型の一部が移動した前記所定方向の側に前記第2色の合成樹脂が形成されていることを特徴とする請求項
1に記載の模型素体。
【請求項3】
前記一次成形においては、前記金型の一部が固定されていることを特徴とする請求項
2に記載の模型素体。
【請求項4】
前記二次成形においては、前記金型の一部の固定が解除され、前記第2色の合成樹脂の射出圧で該金型の一部が前記所定方向に移動することを特徴とする請求項
3に記載の模型素体。
【請求項5】
前記金型の一部に形成される段差部分は、傾斜を含んで形成されることを特徴とする請求項
4に記載の模型素体。
【請求項6】
前記第2パーツにおいて、前記第2色の合成樹脂はサブマリンゲートを介して成形されることを特徴とする請求項
5に記載の模型素体。
【請求項7】
前記複数のランナーのうち、前記第1色の合成樹脂によって形成されるランナーと、前記第2色の合成樹脂によって形成されるランナーとのそれぞれは、前記複数のパーツの少なくとも1つを取り囲むように形成される第1ランナーと、該第1ランナーから枝分かれして前記複数のパーツの何れかのパーツに至る第2ランナーとから形成され、
前記第1色の合成樹脂によって形成される第1ランナーと、前記第2色の合成樹脂によって形成される第1ランナーとが接続されるとともに、前記第1色の合成樹脂によって形成される第2ランナーと、前記第2色の合成樹脂によって形成される第2ランナーとが接続されることを特徴とする請求項
1乃至6の何れか1項に記載の模型素体。
【請求項8】
複数の前記第2パーツが形成されることを特徴とする請求項1乃至
6の何れか1項に記載の模型素体。
【請求項9】
前記第2パーツはコアバック型又はキャビバック型により形成されることを特徴とする請求項1乃至
6の何れか1項に記載の模型素体。
【請求項10】
前記第2パーツはインサート型及び回転型により形成されないことを特徴とする請求項
9に記載の模型素体。
【請求項11】
単色の合成樹脂で形成される第1パーツと、多色の合成樹脂が組み合わされて形成される第2パーツとを含む模型素体の製造方法であって、
第1色の合成樹脂を金型に射出して成形する一次成形工程と、
前記金型の一部を固定するストッパーを解除する解除工程と、
前記第1色とは異なる第2色の合成樹脂を前記金型に射出して成形する二次成形工程と
を含み、
前記二次成形工程による前記第2色の合成樹脂の射出圧により、前記金型の一部が所定方向に移動することにより確保された隙間に該第2色の合成樹脂が流入して前記第2パーツが成形され
、
前記第2パーツにおいて前記第1色の合成樹脂と前記第2色の合成樹脂とは積層構造で形成されることを特徴とする模型素体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模型素体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
模型玩具には、それぞれが異なる合成樹脂を使用した複数種類のパーツが用いられている。これにより、例えば複数の異なる色のパーツを組み合わせた模型玩具を実現することができる。これらのパーツは複数のパーツがランナーに接続されて形成される模型素体として形成され、組み立てる際にランナーから各パーツを取り外して使用される。
【0003】
上記模型素体は金型に合成樹脂を流し込んで成形することで製造される。このような模型素体には、1つの合成樹脂を用いて1つの模型素体を成形するものや、複数の異なる合成樹脂を用いて1つの模型素体を成形するものがある。複数の異なる合成樹脂を用いて1つの模型素体を成形する場合、異なる色のパーツを含む1つの模型素体を形成することができる。特許文献1には、合成樹脂製の模型構成部材を同一の合成樹脂ごとにまとめた複数のランナーを有する模型素体が提案されている。特許文献2には、一つの成形型で成形された成形物を取り出して次の成形型に移送し、これを包み込んだ形でインサート成形していき、一つの完成された多色成形物を一体成形する多色成形装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実公平06-7745号公報
【文献】特公平07-102590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では多色の模型素体を形成することができ、さらにインサート型や回転型の成形を行うことにより1つのパーツを多色で形成することも可能である。しかし、インサート型や回転型の成形では一次成形、二次成形など複数の成形工程ごとに金型を切り替える必要があり相当の手間を必要とする。
【0006】
本発明は、例えば、異なる素材を組み合わせて成形した新規の模型素体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、例えば、模型素体であって、異なる色の合成樹脂で形成される複数のランナーと、前記複数のランナーに接続された複数のパーツとを備え、前記複数のパーツは、単色の合成樹脂で形成される第1パーツと、多色の合成樹脂が組み合わされて形成される第2パーツとを含むことを特徴とする。
また、本発明は、例えば、模型素体であって、異なる色の合成樹脂で形成される複数のランナーと、前記複数のランナーに接続された複数のパーツとを備え、前記複数のパーツは、単色の合成樹脂で形成される第1パーツと、多色の合成樹脂が組み合わされて形成される第2パーツとを含み、前記第2パーツは、第1色の合成樹脂で一次成形された後に金型の一部が所定方向に移動することにより確保された隙間に第2色の合成樹脂で二次成形されて形成され、前記第2パーツにおいて前記第1色の合成樹脂と前記第2色の合成樹脂とは積層構造で形成される。
【0008】
また、本発明は、例えば、単色の合成樹脂で形成される第1パーツと、多色の合成樹脂が組み合わされて形成される第2パーツとを含む模型素体の製造方法であって、第1色の合成樹脂を金型に射出して成形する一次成形工程と、前記金型の一部を固定するストッパーを解除する解除工程と、前記第1色とは異なる第2色の合成樹脂を前記金型に射出して成形する二次成形工程とを含み、前記二次成形工程による前記第2色の合成樹脂の射出圧により、前記金型の一部が所定方向に移動することにより確保された隙間に該第2色の合成樹脂が流入して前記第2パーツが成形されることを特徴とする。
また、本発明は、例えば、単色の合成樹脂で形成される第1パーツと、多色の合成樹脂が組み合わされて形成される第2パーツとを含む模型素体の製造方法であって、第1色の合成樹脂を金型に射出して成形する一次成形工程と、前記金型の一部を固定するストッパーを解除する解除工程と、前記第1色とは異なる第2色の合成樹脂を前記金型に射出して成形する二次成形工程とを含み、前記二次成形工程による前記第2色の合成樹脂の射出圧により、前記金型の一部が所定方向に移動することにより確保された隙間に該第2色の合成樹脂が流入して前記第2パーツが成形され、前記第2パーツにおいて前記第1色の合成樹脂と前記第2色の合成樹脂とは積層構造で形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、異なる素材を組み合わせて成形した新規の模型素体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る模型素体の全体正面を示す図。
【
図3】一実施形態に係る多色パーツの製造手順を示す図。
【
図4】一実施形態に係る金型の一部を固定するストッパーを示す図。
【
図5】一実施形態に係る多色パーツの断面を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴うち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
<模型素体(ランナー)の構成>
次に
図1を参照して、本実施形態に係る模型素体の構成例について説明する。なお、x,y,zの矢印はそれぞれ複数のパーツがランナーに接続された模型素体における上、左、前方向の向きを示す。ここで、ランナーとは、プラモデル等の模型玩具において組立前の複数のパーツが接続され、取り囲むように配置されたプラスチックの棒状の部分を示す。また、接続された複数のパーツを含めて全体をランナーと称する場合もある。ここでは、複数のパーツを含むランナー全体を示す場合は「模型素体」と称する。
【0013】
図1に示す模型素体100は、多色成形された模型素体を示す。ここでは2色の合成樹脂を用いて多色成形された模型素体を例に説明する。しかし、本発明を限定する意図はなく、さらに多くの異なる色の合成樹脂素材を用いて多色成形されてもよい。模型素体100は、第1色の合成樹脂で成形された第1部分110と、第2色の合成樹脂で成形された第2部分120と、2色の合成樹脂で成形された第3部分130とを含んで構成される。
図1では第1色の合成樹脂で成形された部分を網掛け表示し、第2色の合成樹脂で成形された部分については網掛け表示していない。このように、本実施形態によれば、1つの模型素体において、単色の合成樹脂素材で形成された第1パーツに加えて、模型素体100の一部において多色の合成樹脂が組み合わされて形成される第2パーツが形成する。
【0014】
また、本実施形態に係る模型素体100は、合成樹脂素材を射出装置により金型に射出して成形する射出成形により製造が行われる。金型はキャビティ(固定側)と、コア(可動側)とを含んで構成され、キャビティとコアとにより挟まれた空洞に合成樹脂素材を流し込んで成形されることにより模型素体100が製造される。通常、キャビティは成形品の外観面に当接し、コアは非外観面(裏面)に当接する。本実施形態では、一次成形後においてコア型の一部を移動させて二次成形を行うコアバック型の成形について説明する。しかし、本発明を限定するものではなく、一次成形後においてキャビ型の一部を移動させて二次成形を行うキャビバック型の成形にも適用可能である。
【0015】
模型素体100は、第1部分110において第1色の合成樹脂で成形されたランナー101、ゲート102、パーツ103を有し、第2部分120において第2色の合成樹脂で成形されたランナー104、ゲート105、パーツ106を有する。パーツ103、106は単色の合成樹脂で成形された第1パーツに相当する。一方、模型素体100は、第3部分130において、第1色の合成樹脂と、第1色の合成樹脂とは色の異なる第2色の合成樹脂とが組み合わされて形成された多色パーツ200を有する。多色パーツ200は第2パーツに相当する。
【0016】
模型素体100は、金型に対して不図示の射出装置から第1色の合成樹脂(第1の合成樹脂)を射出して一次成形し、流し込んだ樹脂が凝固した後に、射出装置から第2色の合成樹脂(第2の合成樹脂)を射出して二次成形を行うことにより製造される。ここで、多色パーツ200においては、1つのパーツに対して異なる合成樹脂を流し込むと、当該パーツ部分には1回目に流し込んだ合成樹脂が詰まっているため2回目に流し込んだ合成樹脂が流れ込まない。しかし、本実施形態によれば1回目に流し込んだ合成樹脂が凝固した後に、当該パーツを成形するキャビ側又はコア側の金型の一部(可動コマ)を移動させて、隙間を確保し、当該隙間領域に2回目の異なる合成樹脂を流し込む。これにより、本実施形態によれば一次成形と二次成形とにおいて金型を切り替えることなく利用し、効率的に多色パーツを成形することができる。製造工程の詳細については後述する。
【0017】
本実施形態では第1色の合成樹脂と第2色の合成樹脂とを使用する例について説明するが、本発明を限定するものではない。例えば、軟性の異なる合成樹脂を使用するものであってもよく、1つのパーツにおいて硬度の異なるパーツとして成形することもできる。
【0018】
また、1つのパーツを多色で形成するためには異なる合成樹脂が流入するためのランナーをそれぞれパーツの形状に合わせて形成する必要がある。しかし、1つのパーツを形成する領域は小さく、複数の流路を形成することは難しい。そこで、本実施形態では、107、108に示すように、一部のゲートにおいてサブマリンゲートを用いて流路を確保している。ここで、サブマリンゲート(トンネルゲート)とは金型に形成されたトンネル状のゲートであり、成形品を金型から取り出すと同時にランナーから切り離されるものである。なお、本発明を限定する意図はなく、必ずしもサブマリンゲートを適用する必要はなく、サイドゲートやジャンプゲート等の他のゲートを適用してもよい。
【0019】
また、本実施形態によれば、2色の合成樹脂を用いて模型素体100を成形しているが、異なる色のランナー同士の接続を複数の箇所141~144で行っている。本実施形態における異なる色(異なる樹脂材料)のランナー同士の接続は、不図示の射出装置から第1色の合成樹脂(第1の合成樹脂)を射出して一次成形し、流し込んだ樹脂がある程度凝固した後に、ランナー上の第1色の合成樹脂(第1の合成樹脂)の第2色の合成樹脂(第2の合成樹脂)側への流入をせき止めるストッパー部材を解除し、射出装置から第2色の合成樹脂(第2の合成樹脂)を射出して二次成形を行うことにより製造される。ここで、ランナーにはパーツを囲むように配置されるランナー(第1ランナーと称する。)と、上記第1ランナーから枝分かれしてパーツまで至るランナー(第2ランナーと称する。)とが含まれる。
【0020】
ここで、パーツを囲むように配置される第1ランナーのみが他の色の合成樹脂によるランナーと接続される場合を想定する。この場合、接続箇所が限定されるため、多色パーツ200における色わけが簡易なものしか成形できない。例えば、
図1の例では、第1色の合成樹脂によるランナー101は図中下側に成形され、第2色の合成樹脂によるランナー104は図中上側に成形される。このような前提で多色パーツを成形すると、図中下側から流入可能な範囲で第1色の合成樹脂による成形が行われ、図中上側から流入可能な範囲で第2色の合成樹脂による成形が行われ、2色の合成樹脂が複雑に入り組んだパーツを成形することは非常に難しい。このような条件で実現する場合には、金型をより精密且つ複雑に形成する必要があり、製造コストや手間の観点で現実的ではない。
【0021】
一方で、本実施形態によれば、143、144に示すように、第1ランナーから枝分かれしてパーツまで至る第2ランナー同士での接続を行っている。これにより、多色パーツを成形する際の自由度が改善し、複雑な模様の多色パーツを成形することができる。
【0022】
<多色パーツ>
図2を参照して、本実施形態に係る多色パーツの構成例を説明する。なお、x,y,zの矢印はそれぞれ多色パーツにおける上、左、前方向の向きを示す。
【0023】
図2は模型素体100のランナーから切り離した多色パーツ200の斜視図を示す。多色パーツ200は、第1色の合成樹脂201と、第2色の合成樹脂202とを含んで構成される。当該パーツ200は人型の模型玩具の胸部に相当する。
図2に示すように、多色パーツ200は、2色の合成樹脂が複雑に組み合わされて形成されている。なお、多色パーツ200は、
図1に示したように、ランナーに接続された状態において既に多色で形成されており、異なる色のパーツを組み立てて形成したものではない。
【0024】
模型素体100を製造するにあたり多色パーツ200を形成するためには、上記背景技術で記載したように、インサート型や回転型の成形により製造されることが一般的である。しかし、インサート型や回転型の成形は一次成形後に凝固した1つ以上のパーツが接続されたランナーを金型から取り外して移送し、二次成形用の異なる金型にセットし直して二次成形を行うことで製造されるものである。このように、インサート型や回転型は非常に手間の掛かる製造工程であり大量生産には不向きであった。そこで、本実施形態によれば、金型を切り替えることなく、上記のような多色パーツ200を形成することが可能となる仕組みについて説明する。以下では、本実施形態に係る多色パーツ200を含む模型素体100の製造工程(コアバック型又はキャビバック型)を詳細に説明する。
【0025】
<多色パーツの製造工程>
図3を参照して、本実施形態に係る多色パーツ200の製造工程について説明する。
図3(a)~
図3(c)は製造工程における金型に装着した状態の多色パーツ200の斜視図を示し、
図3(d)~
図3(f)はそれぞれ
図3(a)~
図3(c)に対応する正面図を示す。本実施形態では、一部のパーツにおいて可動コマを利用したコアバック型又はキャビバック型の成形を行うことにより多色パーツを含む模型素体を製造するものである。なお、ここではコアバック型の説明を行うが、キャビバック型も同様であり、キャビバック型の場合にはその金型の一部が移動する方向がコアバック型とは反対方向のキャビ側となる。
【0026】
図3(a)及び
図3(d)は、模型素体100の製造工程において一次成形後の多色パーツ200の様子を示す。201は一次成形後に第1色の合成樹脂が凝固した状態を示す。210はコア側の金型の一部である多色パーツ200を成形するためのコマを示す。一次成形において、第1色の合成樹脂201は、コマ210と不図示のキャビバック側の金型との間に形成される隙間に流れ込んで成形される。一次成形後に第1色の合成樹脂201が凝固すると、第2色の合成樹脂202が不図示の射出装置から射出される。
【0027】
図3(b)及び
図3(e)は、第2色の合成樹脂202を射出した直後の多色パーツ200の様子を示す。二次成形において、射出装置から合成樹脂を射出すると、その射出圧によりコマ210が所定方向へ移動する。本実施形態では図中下方向(矢印方向)に下がる。これは、一次成形においては後述するストッパーによりコマ210が固定されており、二次成形前に当該ストッパーによる固定を解除することにより、上記射出圧によってコマ210が移動するものである。コマ210が矢印方向に移動すると、第1色の合成樹脂201との間に隙間301が形成される。
【0028】
図3(c)及び
図3(f)は、形成された隙間301に第2色の合成樹脂202が流入した様子を示す。なお、
図3では不図示であるが、実際にはキャビバック側の金型で挟み込まれているため、流入した第2色の合成樹脂202の表面等が図示するように成形されるものである。
【0029】
図3(f)に示すように、第2色の合成樹脂202は第1色の合成樹脂201とコマ210との間に形成された隙間に流れ込むため、第1色の合成樹脂201と第2色の合成樹脂202とが積層構造で形成される。また、第1色合成樹脂201と、第2の合成樹脂202とが重なる部分においては、円形の点線領域で示すように、金型の一部であるコマ210が移動した所定方向の側に第2色の合成樹脂202が形成されることになる。例えば、模型素体100において多色パーツ200は
図3の図中上方向が表面であり、下方向が裏面となる。この場合、第2色の合成樹脂202は何れの位置であっても、第1色の合成樹脂201の下側に位置するものであり、第1色の合成樹脂201と第2の合成樹脂202が重なる部分において多色パーツ200の裏面側に形成されることになる。本発明を適用して多色パーツを含む模型素体を成形した場合、上述のような特徴が現れることになる。なお、本実施形態では、コマ210が下側方向に移動したため、上述のような位置関係となったが、コマが移動する方向によってそれらの位置関係は異なるものである。
【0030】
<金型の構成>
図4を参照して、本実施形態に係る金型の一部の構成について説明する。
図4はコア側の金型の一部を示す。なお、ここではコア側の金型の一部を移動させる例について説明するが本発明を限定するものではなく、キャビ側の金型の一部を移動させるものであってもよい。
【0031】
401、402はコア側の金型の一部を示し、その中に可動コマであるコマ210も嵌め込まれている。403はコマ210を固定するためのストッパーである。ストッパー403を401、402の間に不図示のエアシリンダを介して差し込むことにより、コマ210が図中下方向へ下がることを制限している。従って、
図4に示す状態で合成樹脂を射出した際の射出圧によってコマ210が下方向へ下がることを制限することができる。
【0032】
一方でストッパー403を401、402の間から抜くと、コマ210の固定(移動制限)が解除される。この状態において、合成樹脂を射出すると、その射出圧によってコマ210が下方向へ移動する。なお、金型上において複数の方向からストッパーを挿入することは可能であり、その場合、それぞれのストッパーにおいて可動コマの移動を制限することができ、それぞれの場所において多色パーツを成形することができる。
【0033】
<多色パーツの断面>
図5を参照して、本実施形態に係る多色パーツ200の断面について説明する。上述したように、本実施形態では、一次成形において第1色の合成樹脂201を射出して成形し凝固した後に、二次成形において、可動コマであるコマ210を射出圧により所定方向へ移動させて形成された隙間に第2色の合成樹脂202を流し込んで成形する。つまり、第2色の合成樹脂202は形成された隙間に流入して成形されるものである。
【0034】
ここで、
図5の点線領域500示すように、パーツに立体感を持たせるために、段差を設ける場合がある。このような段差部分は、比較的狭小な領域(肉薄)となってしまうため成形時において合成樹脂の充填がショートして(途切れて)不十分となり成形不良を発生してしまう。そこで本実施形態に係る可動コマについては、上述のような形成不良を回避するように段差部分については直角形状を避けて設計している。
【0035】
図6は可動コマの模式的な断面を示す。
図6(a)、(b)はショートが発生しやすい可動コマの断面を示す。
図6(c)、(d)は本実施形態に係る可動コマの断面を示す。また、601、611はキャビ側の金型の一部を示し、602、612はコア側の金型の一部を示す。コアバック型又はキャビバック型の多色成形では、キャビ側の金型601、611又はコア側の金型602、612が一次成形後に矢印方向へ移動する。その後、603、613に示すように、二次成形における射出された合成樹脂が、その間に確保される隙間に流入し、成形される。
【0036】
ここで、金型601、602は段差部分を直角形状で形成している。この場合、604の領域に示すように、二次成形において金型の一部が移動した後に当該段差部分が狭小な領域となってしまう。この状態で、合成樹脂を流したとしても、当該領域604に合成樹脂が詰まってしまい成形不良が発生する虞がある。
【0037】
一方、本実施形態に係る金型611、612は段差部分において直角部分を形成することなく、所定の角度の傾斜を用いて形成している。この場合、614の領域に示すように、二次成形において金型の一部が移動した後に当該段差部分が直角で形成した場合と比較して、より幅広い領域を確保することができる。これにより、合成樹脂の充填不良による成形不良を回避することができる。このように、本実施形態によれば、金型の一部に形成される段差部分は傾斜を有して形成され、これにより成形不良を抑制することができる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係る模型素体は、異なる色の合成樹脂で形成される複数のランナーと、複数のランナーに接続された複数のパーツとを備える。複数のパーツは、単色の合成樹脂で形成される第1パーツと、多色の合成樹脂が組み合わされて形成される第2パーツとを含む。これにより、金型を切り替えることなく異なる素材を組み合わせて成形した新規の模型素体及びその製造方法を提供することができる。
【0039】
本発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。例えば、上記実施形態では異なる合成樹脂として異なる色の合成樹脂を用いて多色パーツを成形する例について説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、異なる素材の合成樹脂を利用するものであればよい。例えば軟性(硬度)の異なる素材や質感の異なる素材などを利用するものであってもよい。
【0040】
<実施形態のまとめ>
上記実施形態は以下の模型素体、及びその製造方法を少なくとも開示する。
(1)
模型素体であって、
異なる色の合成樹脂で形成される複数のランナーと、
前記複数のランナーに接続された複数のパーツと
を備え、
前記複数のパーツは、
単色の合成樹脂で形成される第1パーツと、
多色の合成樹脂が組み合わされて形成される第2パーツとを含むことを特徴とする模型素体。
(2)
前記第2パーツは、第1色の合成樹脂で一次成形された後に金型の一部が所定方向に移動することにより確保された隙間に第2色の合成樹脂で二次成形されて形成されることを特徴とする(1)に記載の模型素体。
(3)
前記第2パーツは、前記第1色の合成樹脂と前記第2色の合成樹脂とが重なる部分において、前記金型の一部が移動した前記所定方向の側に前記第2色の合成樹脂が形成されていることを特徴とする(2)に記載の模型素体。
(4)
前記一次成形においては、前記金型の一部が固定されていることを特徴とする(2)又は(3)に記載の模型素体。
(5)
前記二次成形においては、前記金型の一部の固定が解除され、前記第2色の合成樹脂の射出圧で該金型の一部が前記所定方向に移動することを特徴とする(4)に記載の模型素体。
(6)
前記金型の一部に形成される段差部分は、傾斜を含んで形成されることを特徴とする(5)に記載の模型素体。
(7)
前記第2パーツにおいて、前記第2色の合成樹脂はサブマリンゲートを介して成形されることを特徴とする(2)乃至(6)の何れか1つに記載の模型素体。
(8)
前記複数のランナーのうち、前記第1色の合成樹脂によって形成されるランナーと、前記第2色の合成樹脂によって形成されるランナーとのそれぞれは、前記複数のパーツの少なくとも1つを取り囲むように形成される第1ランナーと、該第1ランナーから枝分かれして前記複数のパーツの何れかのパーツに至る第2ランナーとから形成され、
前記第1色の合成樹脂によって形成される第1ランナーと、前記第2色の合成樹脂によって形成される第1ランナーとが接続されるとともに、前記第1色の合成樹脂によって形成される第2ランナーと、前記第2色の合成樹脂によって形成される第2ランナーとが接続されることを特徴とする(2)乃至(7)の何れか1つに記載の模型素体。
(9)
複数の前記第2パーツが形成されることを特徴とする(1)乃至(8)の何れか1つに記載の模型素体。
(10)
前記第2パーツはコアバック型又はキャビバック型により形成されることを特徴とする(1)乃至(9)の何れか1つに記載の模型素体。
(11)
前記第2パーツはインサート型及び回転型により形成されないことを特徴とする(10)に記載の模型素体。
(12)
単色の合成樹脂で形成される第1パーツと、多色の合成樹脂が組み合わされて形成される第2パーツとを含む模型素体の製造方法であって、
第1色の合成樹脂を金型に射出して成形する一次成形工程と、
前記金型の一部を固定するストッパーを解除する解除工程と、
前記第1色とは異なる第2色の合成樹脂を前記金型に射出して成形する二次成形工程と
を含み、
前記二次成形工程による前記第2色の合成樹脂の射出圧により、前記金型の一部が所定方向に移動することにより確保された隙間に該第2色の合成樹脂が流入して前記第2パーツが成形されることを特徴とする模型素体の製造方法。
【0041】
100:模型素体、101、104:ランナー、102、105:ゲート、103、106:パーツ(単色パーツ)、107、108:サブマリンゲート、110:第1部分、120:第2部分、130:第3部分、200:多色パーツ、201:第1色の合成樹脂、202:第2色の合成樹脂、210:コマ
【要約】
【課題】本発明は、例えば、異なる素材を組み合わせて成形した新規の模型素体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本模型素体は、異なる色の合成樹脂で形成される複数のランナーと、複数のランナーに接続された複数のパーツとを備える。複数のパーツは、単色の合成樹脂で形成される第1パーツと、多色の合成樹脂が組み合わされて形成される第2パーツとを含む。
【選択図】
図1