(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】パワーユニットにおけるブリーザ構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/027 20120101AFI20240827BHJP
【FI】
F16H57/027
(21)【出願番号】P 2024502385
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2022007942
(87)【国際公開番号】W WO2023162153
(87)【国際公開日】2023-08-31
【審査請求日】2024-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佛田 尚文
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-161000(JP,A)
【文献】特開2003-161363(JP,A)
【文献】特許第6137317(JP,B2)
【文献】特開2020-67101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ(M)と、モータ(M)の出力を受ける伝動装置(T)とを含むパワーユニット(PU)であって、前記伝動装置(T)が、前記モータ(M)の出力をドライブ軸(51,52)側に伝達可能なギヤ伝動機構(G)と、そのギヤ伝動機構(G)を収めた伝動機構室(10)を内部に有する伝動ケース(Ct)とを備え、その伝動ケース(Ct)と前記モータ(M)のモータケース(Cm)とでユニットケース(C)が構成されるパワーユニットにおけるブリーザ構造において、
前記ユニットケース(C)は、前記ギヤ伝動機構(G)を潤滑するオイルの一部をモータ出力軸(26)の少なくとも1つの軸受(Bm1,Bm2)に供給するオイル供給通路(17,90)と、前記モータケース(Cm)内のモータ空間(20)から前記伝動機構室(10)へオイルを戻すオイル戻し通路(16)と、一側面(12si)が前記伝動機構室(10)に臨み且つ他側面(12so)が前記モータ空間(20)に臨む隔壁(12s)とを有しており、
前記隔壁(12s)の前記一側面(12si)と、該一側面(12si)に結合される蓋(80)とにより、前記伝動機構室(10)から遮蔽され且つ大気に開放したブリーザ室(60)が画成され、
前記ブリーザ室(60)の入口(60i)は、前記隔壁(12s)の前記他側面(12so)に開口して前記モータ空間(20)に連通していることを特徴とする、パワーユニットにおけるブリーザ構造。
【請求項2】
前記ギヤ伝動機構(G)は、これのギヤ伝動経路の出力側に、回転駆動力をドライブ軸(51,52)側に伝えるファイナルドリブンギヤ(Gf)を有しており、
前記ブリーザ室(60)の少なくとも一部は、前記ファイナルドリブンギヤ(Gf)の軸方向から見て該ファイナルドリブンギヤ(Gf)と重なることを特徴とする、請求項1に記載のパワーユニットにおけるブリーザ構造。
【請求項3】
前記ギヤ伝動機構(G)は、これのギヤ伝動経路の途中にカウンタギヤ(Gc)を有しており、
前記ブリーザ室(60)の少なくとも一部が、前記カウンタギヤ(Gc)の回転軸線(Xc)から径方向外方に見て該カウンタギヤ(Gc)と重なることを特徴とする、請求項1又は2に記載のパワーユニットにおけるブリーザ構造。
【請求項4】
前記隔壁(12s)の前記他側面(12so)には、前記モータ空間(20)に向かって張出して前記ブリーザ室(60)の前記入口(60i)を取り囲む突壁(12t)が設けられることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載のパワーユニットにおけるブリーザ構造。
【請求項5】
前記ブリーザ室(60)の入口(60i)は、前記モータケース(Cm)内に固定のステータ(24)に対向していることを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載のパワーユニットにおけるブリーザ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーユニット、特にモータとモータの出力を受ける伝動装置とを含み、伝動装置が、モータの出力をドライブ軸側に伝達可能なギヤ伝動機構と、ギヤ伝動機構を収めた伝動機構室を内部に有する伝動ケースとを備え、その伝動ケースとモータケースとでユニットケースが構成されるパワーユニットにおけるブリーザ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記パワーユニットは、例えば、下記特許文献1に開示されるように既に知られており、その伝動ケースにはブリーザ室が付設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のパワーユニットでは、伝動ケース内でギヤ伝動機構の各ギヤが撥ね上げたオイルの、ブリーザ室(50)への侵入を抑えるために、ブリーザ室の入口(50a)の配設部位に工夫がなされている。しかし、そのブリーザ室の入口は、伝動ケース内に直接開口していて、ギヤ伝動機構の一部のギヤ(37)から比較的近い位置に在るため、そのギヤ(37)から飛散するオイルのブリーザ室への侵入を確実には抑えることができなかった。
【0005】
本発明は、上記に鑑み提案されたものであって、従来装置の上記問題を解決可能なパワーユニットにおけるブリーザ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、モータと、モータの出力を受ける伝動装置とを含むパワーユニットであって、前記伝動装置が、前記モータの出力をドライブ軸側に伝達可能なギヤ伝動機構と、そのギヤ伝動機構を収めた伝動機構室を内部に有する伝動ケースとを備え、その伝動ケースと前記モータのモータケースとでユニットケースが構成されるパワーユニットにおけるブリーザ構造において、前記ユニットケースは、前記ギヤ伝動機構を潤滑するオイルの一部をモータ出力軸の少なくとも1つの軸受に供給するオイル供給通路と、前記モータケース内のモータ空間から前記伝動機構室へオイルを戻すオイル戻し通路と、一側面が前記伝動機構室に臨み且つ他側面が前記モータ空間に臨む隔壁とを有しており、前記隔壁の前記一側面と、該一側面に結合される蓋とにより、前記伝動機構室から遮蔽され且つ大気に開放したブリーザ室が画成され、前記ブリーザ室の入口は、前記隔壁の前記他側面に開口して前記モータ空間に連通していることを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記ギヤ伝動機構は、これのギヤ伝動経路の出力側に、回転駆動力をドライブ軸側に伝えるファイナルドリブンギヤを有しており、前記ブリーザ室の少なくとも一部は、前記ファイナルドリブンギヤの軸方向から見て該ファイナルドリブンギヤと重なることを第2の特徴とする。
【0008】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記ギヤ伝動機構は、これのギヤ伝動経路の途中にカウンタギヤを有しており、前記ブリーザ室の少なくとも一部が、前記カウンタギヤの回転軸線から径方向外方に見て該カウンタギヤと重なることを第3の特徴としている。
【0009】
また本発明は、第1~第3の何れかの特徴に加えて、前記隔壁の前記他側面には、前記モータ空間に向かって張出して前記ブリーザ室の前記入口を取り囲む突壁が設けられることを第4の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第1~第4の何れかの特徴に加えて、前記ブリーザ室の入口が、前記モータケース内に固定のステータに対向していることを第5の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の特徴によれば、モータと伝動装置とを含むパワーユニットにおいて、ユニットケースは、ギヤ伝動機構を潤滑するオイルの一部をモータ出力軸の少なくとも1つの軸受に供給するオイル供給通路と、モータ空間から伝動ケース内の伝動機構室へオイルを戻すオイル戻し通路と、一側面が伝動機構室に臨み且つ他側面がモータ空間に臨む隔壁を有し、この隔壁の一側面と、該一側面に結合される蓋とによりブリーザ室が画成され、ブリーザ室の入口は、隔壁の他側面に開口してモータ空間に連通している。これにより、ブリーザ室の入口は、伝動機構室に直接開口しないで、モータ空間を経由して伝動機構室に連通することから、伝動ケース内でギヤ伝動機構の各ギヤから飛散するオイルがブリーザ室に侵入するのを効果的に抑制可能となって、ブリーザ室からのオイル吹出しリスクを低減できる。しかもブリーザ室は、伝動ケースの隔壁の一側面と、これに結合した蓋とにより画成されるため、伝動機構室から隔絶されたブリーザ室の中空構造が、伝動ケースの隔壁構造やその成形工程を然程複雑化することなく容易に得られ、これによりコスト低減に寄与することができる。
【0012】
また第2の特徴によれば、ギヤ伝動機構は、これのギヤ伝動経路の出力側に、回転駆動力をドライブ軸側に伝えるファイナルドリブンギヤを有し、ブリーザ室の少なくとも一部は、ファイナルドリブンギヤの軸方向から見てファイナルドリブンギヤと重なるので、ブリーザ室がファイナルドリブンギヤに対し径方向外方側に大きく張出すのを抑えることができ、伝動ケースを径方向にコンパクト化する上で有利である。
【0013】
また第3の特徴によれば、ギヤ伝動機構は、これのギヤ伝動経路の途中にカウンタギヤを有し、ブリーザ室の少なくとも一部が、カウンタギヤの回転軸線から径方向外方に見てカウンタギヤと重なるので、ブリーザ室がカウンタギヤに対し軸方向外方側に大きく張出すのを抑えることができ、伝動ケースを軸方向にコンパクト化する上で有利である。
【0014】
また第4の特徴によれば、前記隔壁の他側面には、モータ空間に向かって張出してブリーザ室の前記入口を取り囲む突壁が設けられるので、モータ空間内でオイルが多少飛散した場合でも、その飛散オイルがブリーザ室に侵入するのを上記突壁により効果的に防止することができる。
【0015】
また第5の特徴によれば、ブリーザ室の入口がモータケース内に固定のステータに対向しているので、モータ空間内で非回転のステータにブリーザ室の入口を対面させたことで、モータ空間からブリーザ室へのオイル侵入を、ステータを利用してより効果的に防止可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は本発明に係るパワーユニットの一実施形態を、入力ギヤ及びカウンタギヤの回転軸線を通る断面を下側から見た全体断面図である。(
図2の1X-1X線断面図)
【
図2】
図2は伝動ケースの第1ケース半体及びこれに付属の軸受を省略した状態でパワーユニットを左側から見た側面図である。(
図1の2X-2X線断面図)
【
図3】
図3は
図2の状態より更にデフケース及びファイナルドリブンギヤを省略した状態でパワーユニットを左側から見た側面図である。(
図1の3X-3X線断面図)
【
図4】
図4は
図3の状態より更に中間ケースを省略した状態でパワーユニットを左側から見た側面図である。(
図1の4X-4X線断面図)
【
図5】
図5はブリーザ及び第1オイル捕捉部の要部を示す断面図である。(
図3の5X-5X線拡大断面図)
【
図6】
図6はブリーザ内を、これの長手方向に沿う断面で上側から見た断面図である。(
図4の6X-6X線拡大断面図)
【
図7】
図7はブリーザ及び第1オイル捕捉部を、第2ケース半体より第1ケース半体及び中間ケースを取り外した状態で見た拡大斜視図である。(
図4の7X矢視より見た斜視図)
【
図8】
図8はモータケースにおける第2オイル供給通路の取り回しを示す断面図である。(
図4の8X-8X線断面図)
【
図9】
図9は第2ケース半体の要部を、モータケースを省略した状態でモータ側から示す右側面図である。(
図1の9矢視図)
【
図10】
図10は第2ケース半体のモータ側の側面におけるブリーザ入口及び第1オイル供給通路の開口部付近を示す斜視図である。(
図9の10X矢視から見た拡大斜視図)
【符号の説明】
【0017】
Bm1,Bm2・・モータ用軸受
C・・・・・・・ユニットケース
Cm・・・・・・モータケース
Ct・・・・・・伝動ケース
G・・・・・・・ギヤ伝動機構
Gf・・・・・・ファイナルドリブンギヤ
Gi・・・・・・入力ギヤ
Gc・・・・・・カウンタギヤ
M・・・・・・・モータ
PU・・・・・・パワーユニット
T・・・・・・・伝動装置
Xc・・・・・・カウンタギヤの回転軸線
10・・・・・・伝動機構室
12s・・・・・隔壁
12si,12so・・隔壁の一側面・他側面としての左側面・右側面
12t・・・・・突壁
16・・・・・・オイル戻し通路
17・・・・・・オイル供給通路としての第1オイル供給通路
20・・・・・・モータ空間
24・・・・・・ステータ
26・・・・・・モータ出力軸
51,52・・・ドライブ軸
60・・・・・・ブリーザ室
60i・・・・・ブリーザ室の入口
90・・・・・・オイル供給通路としての第2オイル供給通路
【発明を実施するための形態】
【0018】
先ず、
図1~
図4において、車両、例えば自動車に搭載したパワーユニットPUは、動力源としての電動式のモータMと、モータMの出力を左右の駆動車輪に伝達する伝動装置Tとを含む。パワーユニットPUの金属製ユニットケースCは、車体適所に固定、支持されるものであって、伝動装置Tの外郭となる伝動ケースCtと、モータMの外郭となるモータケースCmとを備える。
【0019】
伝動ケースCt内の空間、即ち伝動機構室10には、モータMの出力を減速する減速装置Rと、減速装置Rの出力を左右のドライブ軸51,52(延いてはそれら軸51,52に連動回転する左右の駆動車輪)に対し差動回転を許容しつつ分配する差動装置Dとが配設される。
【0020】
尚、本明細書及び図面で前後・左右・上下の各方向は、パワーユニットPUの車載状態での前後・左右・上下の各方向をいう。
【0021】
ところでモータケースCmは、外端壁21とこれの外周部に連なる筒状の外周壁22とを一体に有して伝動ケースCt側が開放した椀状体に構成される。モータケースCt内の空間、即ちモータ空間20には、モータケースCmの外周壁22の内周部に固定されて複数のコイル群23を互いに周方向に間隔をおいて巻装した円環状のステータ24と、ステータ24と協働して回転駆動力を発生させる磁石(図示せず)付きのロータ25と、ロータ25を外周部に固定したモータ出力軸26とが配置される。そして、モータ出力軸26の両端部は、伝動ケースCt及びモータケースCmに一対のモータ用軸受Bm1,Bm2を介してそれぞれ支持される。また実施形態のモータ出力軸26は中空に形成されており、その中空部を右側のドライブ軸52が縦通する。
【0022】
一方、伝動ケースCtは、相互間が着脱可能に結合される左右の第1,第2ケース半体11,12より分割構成される。そのうち左側の第1ケース半体11は、減速装置R及び差動装置Dの左側方を覆う側壁11sと、側壁11sの外周部に連設されて減速装置R及び差動装置Dの外周側を覆う筒状の外周壁11oとを有する。
【0023】
また右側の第2ケース半体12は、減速装置Rの外周側を覆う筒状の外周壁12oと、外周壁12oの軸方向中間部の内周部に全周に亘って一体に連設されて減速装置Rの右側方を覆う隔壁12sとを有する。而して、隔壁12sは、モータ空間20を伝動機構室10より隔絶する仕切り壁として機能するものであって、隔壁12sの一側面としての左側面12siは伝動機構室10に臨み、また他側面としての右側面12soはモータ空間20に臨んでいる。
【0024】
第1,第2ケース半体11,12の外周壁11o,12oの相対向する端面相互は、複数のボルトb1で着脱可能に接合されており、その対向端面の相互間には、その間をシールするシール部材(実施形態では液体ガスケット)が介装される。また第2ケース半体12の外周壁12oとモータケースCmの外周壁22との相対向する端面相互は、複数のボルトb2で着脱可能に接合されており、その対向端面の相互間には、その間をシールするシール部材(実施形態では液体ガスケット)が介装される。
【0025】
伝動ケースCt内の底部は、潤滑用オイルを溜める油溜15として機能する。この油溜15内の貯溜オイルの油面Lは、モータM(従って減速装置R及び差動装置D)の停止状態で、後述するファイナルドリブンギヤGfの下部が浸漬、接触する程度のレベルに設定(
図2~4参照)される。
【0026】
また第2ケース半体12の隔壁12sの下部には、モータ空間20から伝動機構室10へオイルを戻すオイル戻し通路16が貫通、形成される。そして、このオイル戻し通路16を介してモータ空間20と伝動機構室10とは連通状態にある。
【0027】
次に主として
図1~
図4を参照して、減速装置Rの一例について説明する。
【0028】
減速装置Rとして機能するギヤ列よりなるギヤ伝動機構Gは、例えばモータ出力軸26の、伝動機構室10内に張出す内端部外周に固定(実施形態ではスプライン嵌合且つサークリップ止め)した入力ギヤGiと、入力ギヤGiの回転軸線Xiに対し後方上側に位置し且つ平行な回転軸線Xcを有するカウンタ軸14と、そのカウンタ軸14に嵌合、固定(実施形態ではスプライン嵌合且つサークリップ止め)されて入力ギヤGiに噛合するカウンタギヤGcと、カウンタギヤGcから左方に離間した位置でカウンタ軸14外周に固定(実施形態では一体に形成)されたカウンタピニオンGcpと、入力ギヤGiに対し同一軸線上に配置され且つカウンタピニオンGcpよりも大径に形成されてカウンタピニオンGcpに噛合するファイナルドリブンギヤGfとを備える。
【0029】
実施形態のファイナルドリブンギヤGfは、これの正転(
図2で反時計回りに回転)に伴いファイナルドリブンギヤGfの下端から上端に向けて歯面が移動する特定半周領域(
図2で回転軸線Xiよりも右側半周領域)の途中でカウンタピニオンGcpと噛合するように配置される。
【0030】
カウンタ軸14は、これの一端部が第1カウンタ用軸受Bc1を介して第1ケース半体11の側壁11sに回転自在に支持され、また他端部が第2カウンタ用軸受Bc2を介して第2ケース半体1の隔壁12sに回転自在に支持される。特に実施形態では、第1カウンタ用軸受Bc1が、
図1で明らかなようにシールド形軸受で構成される。
【0031】
即ち、第1カウンタ用軸受Bc1は、従来周知のシールド形軸受と同様、各々円環状をなす外レース101及び内レース102と、その両レース101,102の対向周面間に介装された複数のボール103と、両レース101,102の軸方向一端(右端)間に位置する合成樹脂製又は金属製の円形リング板状シールド104とを備えており、そのシールド104は、内外レース101,102の何れか一方(例えば外レース101)に固定され、且つその何れか他方(例えば内レース102)に微小なクリアランスを挟んで近接、対向する。
【0032】
尚、第1カウンタ用軸受Bc1として、上記したシールド形軸受に代えて、シール形軸受(従来周知であるので図示は省略)を利用してもよい。このシール形軸受では、上記した非接触式シールド104に代えて、接触式のゴム製又は合成樹脂製シールが使用される。この接触式のシールは、内外レース101,102の何れか一方(例えば外レース101)に固定され、且つその何れか他方(例えば内レース102)に摺動可能に接触する。
【0033】
また特に実施形態では、第1カウンタ用軸受Bc1を構成するシールド形軸受又はシール形軸受の左側を開放することで、カウンタ軸14の右端側からその中空部を通して左端側に流れるオイルにより、シールド形軸受又はシール形軸受を潤滑可能としている。
【0034】
ところでギヤ伝動機構Gの各ギヤGi,Gc,Gcp,Gfは何れもヘリカルギヤで構成されている。尚、
図1では各々のヘリカル歯を便宜的に歯筋に沿う断面表示としてある。またファイナルドリブンギヤGfは、大径ギヤとして機能するものであって、後述するデフケースDcの外周部に同心状に、且つ適当な固定手段(例えばボルト結合、溶接等)を以て固定される。
【0035】
減速装置Rの作動中、カウンタギヤGcは入力ギヤGiよりも大径である関係で、その両ギヤGc,Gi間では一次減速が行われる。また大径ギヤとしてのファイナルドリブンギヤGfはカウンタピニオンGcpよりも大径である関係で、その両ギヤGf,Gcp間では二次減速が行われる。尚、カウンタギヤGcとカウンタピニオンGcpとを一体に形成してもよい。
【0036】
而して、自動車を前進させるべくモータMを正転させる時に、これに連動して上記した各ギヤGi,Gc,Gcp,Gfが正転方向に回転するが、その正転方向は、
図2,
図4では白抜き矢印で示される。この場合、入力ギヤGi及びファイナルドリブンギヤGfの正転方向は、モータMの正転方向と同一方向であり、またカウンタギヤGc及びカウンタピニオンGcpの正転方向は、モータMの正転方向と反対方向である。
【0037】
ところでカウンタピニオンGcp及びファイナルドリブンギヤGfは、それらギヤの正転時において、相互の噛合に伴い噛合部40から歯面上のオイルがカウンタピニオンGcpの軸方向一方側(実施形態では左方側)に押し出されるよう配置されている。この配置には、カウンタピニオンGcp及びファイナルドリブンギヤGfの、各軸線に対しねじれ形状となるヘリカルギヤ歯のねじれ角(即ち歯筋の向き)も当然に関係する。
【0038】
而して、カウンタピニオンGcp及びファイナルドリブンギヤGfの上記配置によれば、その両者の噛合時に噛合位置が歯の軸方向右端から左端に移動するのに伴い、歯面上のオイルが、
図1の点線矢印で示すように噛合部40から軸方向左方側に偏って押し出されるようになる。
【0039】
これに対し実施形態では、上記噛合部40から軸方向左方側に押し出されたオイルに対向して該オイルの軸方向左方側への流動を規制する流動規制壁として、実施形態ではシールド形軸受よりなる第1カウンタ用軸受Bc1が用いられる。この場合、
図1で明らかなように、第1カウンタ用軸受Bc1は、カウンタピニオンGcpの歯の軸方向左端面に隣接配置され、且つその歯の左端面の歯先部分まで覆い得る形状(即ちカウンタピニオンGcpよりも大径)に形成される。
【0040】
また実施形態のカウンタピニオンGcpは、これの軸方向幅を、カウンタピニオンGcpの歯部がファイナルドリブンギヤGfとの噛合部40よりも軸方向左方側に所定長さs(
図1を参照)延出するように設定されている。尚、この設定に代えて、カウンタピニオンGcpの歯部の、上記噛合部40から軸方向左方側への延出長さsをゼロ又は僅少に設定した別の実施形態も実施可能である。
【0041】
次に差動装置Dについて、
図1,2を主として参照して説明する。差動装置Dは、胴部の軸方向両端部に軸受ボス部Dca,Dcbを一体に有して成るデフケースDcと、そのデフケースDcの胴部内に収納されてデフケースDcの回転力を一対のドライブ軸51,52に対し差動回転を許容しつつ伝達する差動ギヤ機構Dgとを含む。
【0042】
デフケースDcの左側の軸受ボス部Dcaは、第1ケース半体11の側壁11sに第1デフ用軸受Bf1を介して支持されており、また右側の軸受ボス部Dcbは、第2ケース半体12の隔壁12sに固定の後述する中間ケース80に第2デフ用軸受Bf2を介して支持される。第1,第2デフ用軸受Bf1,Bf2は、一対のファイナルドリブンギヤ用軸受の一例である。
【0043】
而して、デフケースDcは、入力ギヤGiの回転軸線Xi上で伝動ケースCtに回転自在に支持される。それと共に、デフケースDcの左右の軸受ボス部Dca,Dcb内周に回転自在に嵌挿されるドライブ軸51,52も、伝動ケースCt及び第1,第2デフ用軸受Bf1,Bf2を介して伝動ケースCtに支持される。更に右側のドライブ軸52の中間部は、モータケースCmに別の軸受Bdを介しても支持される。
【0044】
また左右の軸受ボス部Dca,Dcbとドライブ軸51,52との各々の嵌合面の一方には、伝動ケースCt内の飛散オイルをデフケースDc内に誘導すべくねじポンプ作用を発揮可能な螺旋溝が形成される。
【0045】
デフケースDcの胴部外周には、リングギヤよりなる前記ファイナルドリブンギヤGfが胴部中心部から軸方向右方側にオフセットした位置で固定(実施形態ではボルトb4)される。またデフケースDcの胴部には、ファイナルドリブンギヤGfに対し軸方向左方側にオフセットした位置で複数(実施形態は2つ)の窓部Dchが配設される。窓部Dchは、ピニオン軸33を挟んで対称的に配置されていて、ギヤ組付け用の作業孔として、或いはデフケースDcの内外間でのオイル流通孔として機能する。
【0046】
また窓部Dchは、これがファイナルドリブンギヤGfに対し軸方向左方側にオフセット配置される関係から、窓部Dchの軸方向位置は、
図1で明らかなようにカウンタピニオンGcpの、ファイナルドリブンギヤGfとの噛合部40から軸方向左方側に延出した歯部の軸方向位置と一部が一致する配置となっている。
【0047】
尚、実施形態では、デフケースDcが一体物に構成されるものを例示したが、デフケースDcを、相互に結合される複数のケース要素より分割構成してもよい。
【0048】
次に差動ギヤ機構Dgについて説明すると、それは、デフケースDc内に収容されてデフケースDcに対し同一軸線回りに回転可能な一対のサイドギヤ31と、両サイドギヤ31と噛合する複数のピニオンギヤ32と、デフケースDcに固定されてピニオンギヤ32をサイドギヤ31の回転軸線と直交する軸線回りに回転自在に支持するピニオン軸33とを備える。左右のサイドギヤ31の中心孔内周には、第1,第2ドライブ軸51,52の内端部外周が連動・連結(実施形態はスプライン嵌合)される。
【0049】
差動装置Dの構造及び機能は従来周知であるので、それ以上の説明は省略するが、モータMから減速装置Rを経てファイナルドリブンギヤGfからデフケースDcに入力された回転駆動力は、第1,第2ドライブ軸51,52に対し差動回転を許容しつつ分配、伝達される。
【0050】
ところでユニットケースC(具体的には伝動ケースCt)は、入力ギヤGiから飛散したオイルを捕捉可能な第1オイル捕捉部H1と、カウンタギヤGc及び入力ギヤGi相互の噛合を許容する後方上向きの開放部を有して入力ギヤGiを被覆する入力ギヤ被覆部70と、外気へのオイル吹出を回避しつつユニットケースC内を外気に連通させるブリーザBRとを備える。次に、それら第1オイル捕捉部H1、入力ギヤ被覆部70及びブリーザBRの具体的構造について、
図5~
図11も併せて参照して説明する。
【0051】
第1オイル捕捉部H1は、
図4で明らかなように、側面視で(即ち入力ギヤGiの軸方向から見て)入力ギヤGi及びカウンタギヤGcのピッチ円相互の共通接線上で入力ギヤGiの正転方向前方側にオイル導入口H1iが位置している。そのため、モータMに連動して高速回転する入力ギヤGiは、これがカウンタギヤGcと噛合した後、歯面に残るオイルが遠心力で上記共通接線方向上方側に勢いよく飛散してオイル導入口H1iに飛び込み、第1オイル捕捉部H1内に効率よく捕捉される。そして、第1オイル捕捉部H1で捕捉されたオイルは、後述するように、伝動ケースCt及びモータケースCm内にそれぞれ存する被潤滑部に供給可能となっている。
【0052】
一方、入力ギヤ被覆部70は、カウンタギヤGc及び入力ギヤGi相互の噛合を許容する後方上向きの開放部を有しており、またこれの内部空間の下部が、入力ギヤGi用のオイルを貯溜可能な補助油溜71として機能する。また入力ギヤ被覆部70の内部空間の上部には第1オイル捕捉部H1を位置させており、その開口部即ちオイル導入口H1iが、カウンタギヤGcと入力ギヤGiとの噛合部側に臨んでいる。
【0053】
ところで前記した第1オイル捕捉部H1、入力ギヤ被覆部70及びブリーザBRは、第2ケース半体12と、これの隔壁12sに着脱可能に結合される蓋としての中間ケース80とにより形成される。
【0054】
より具体的に説明すると、隔壁12sの左側面12siには、
図4で明らかなように、入力ギヤGiを半周以上に亘り囲繞する優弧状の入力ギヤ囲い壁W1と、入力ギヤ囲い壁W1の上部内周より下側に短く延出し更にカウンタギヤGc側に向きを変えて入力ギヤGiの周方向に延びるオイル捕捉部形成壁W2と、入力ギヤ囲い壁W1より上方に離間し且つ第2ケース半体12の外周壁12o内周に略沿って延びるブリーザ室形成壁W3と、そのブリーザ室形成壁W3の直下において入力ギヤ囲い壁W1の上部と第2ケース半体12の外周壁12o前部との間を一体に接続する連絡通路形成壁W4とが一体に突設される。それら入力ギヤ囲い壁W1、ブリーザ室形成壁W3及び連絡通路形成壁W4の各先端面(左端面)は、第1,第2ケース半体11,12の外周壁11o,12o相互の合わせ面と同一平面上に位置する。
【0055】
特に入力ギヤ囲い壁W1には、これの下側の開口端より上向きに延びる返し部W1aが連設されており、これにより、補助油溜71内からのオイルの流出を抑制している。また入力ギヤ囲い壁W1の先端面(左端面)の内周縁部には、周方向に延びる位置決め用段部W1sが先端面より一段窪ませて形成される。
【0056】
一方、中間ケース80は、入力ギヤ囲い壁W1に対応した円盤状のケース本体81と、ケース本体81の上半部に一体に連設されて上方に概略扇形状に拡がる上張出部82とを備える。ケース本体81の外側面(左側面)には、右側の第2デフ用軸受Bf2のアウタレースを嵌装固定する段付き円筒状の環状ボス部81bが一体に突設される。またケース本体81の内側面(右側面)には、これの外周部寄りの部位において、入力ギヤ囲い壁W1に沿うように延びて前記位置決め用段部W1sに嵌合し得る優弧状凸部81aが一体に突設される。
【0057】
ところで第2ケース半体12の外周壁12oの左端面は、ブリーザ室形成壁W3に対応する部分が幅広に形成されており、その幅広端面には、
図2~
図4で明らかなように上張出部82の上縁に沿って延びる浅い溝12gが、上張出部82に隣接して設けられる。その溝12gには、第1,第2ケース半体11,12の接合端面間に塗布されるシール部材(例えば液体ガスケット)の一部を保持できるようになっている。
【0058】
そして、中間ケース80は、これの前記優弧状凸部81aを入力ギヤ囲い壁W1の位置決め用段部W1sに嵌合(
図1,
図5参照)させ、且つ優弧状凸部81aの外側でケース本体81の内面外周部をボルトb3で入力ギヤ囲い壁W1に結合することで、第2ケース半体12の隔壁12sに固定(
図1,3,5,6を参照)される。この中間ケース80の固定状態で、中間ケース80と隔壁12sとにより(具体的には入力ギヤ囲い壁W1の内周面と隔壁12sの左側面12siとケース本体81の内面とにより)入力ギヤ被覆部70が画成される。
【0059】
しかも上記中間ケース80の固定状態では、ケース本体81内面の優弧状凸部81aの頂面(右端面)は、オイル捕捉部形成壁W2の先端面(左端面)と近接対面する。これにより、ケース本体81と、隔壁12s(具体的にはオイル捕捉部形成壁W2及び隔壁12sの左側面12si)とにより第1オイル捕捉部H1が画成される。
【0060】
尚、実施形態では、前記返し部W1aおよびオイル捕捉部形成壁W2の各先端面(左端面)は、ケース本体81内面に対し微小間隙(例えば0.5ミリ)を挟んで近接、対向しているが、ケース本体81内面に当接させてもよい。
【0061】
ところで伝動ケースCtの第2ケース半体12は、
図4で明らかなように、第1オイル捕捉部H1よりもカウンタギヤGcの正転方向前方側に、カウンタギヤGcから飛散したオイルを捕捉可能な第2オイル捕捉部H2を有する。この第2オイル捕捉部H2は、ブリーザBRとカウンタギヤGc上部との間で前後方向に挟まれ、且つ第2ケース半体12の外周壁12o上部と入力ギヤ囲い壁W1の上部との間で上下方向に挟まれた領域において、隔壁12sの左側面12siに設けた凹面で構成される。そして、第2オイル捕捉部H2は、これの後端開口部がカウンタギヤGc上部と対向、近接するオイル導入口H2iとなり、また前端部は、後述する第1連絡油路91の後端に直接連通する。
【0062】
また隔壁12sの、第1オイル捕捉部H1の側壁部となる部分には、第1オイル捕捉部H1で捕捉したオイルの一部を左側の第1モータ用軸受Bm1の周辺部に導く第1オイル供給通路17が貫通孔状に形成される。この第1オイル供給通路17の、モータ空間20側(即ち隔壁12sの右側面12so側)への開口端は、
図9,10で明らかなように、右側面12soに突設されて第1モータ用軸受Bm1のアウタレースを嵌装固定する段付き円筒状の環状ボス部18に設けた切欠状スリット18sに対応する位置に在る。そして、その右側面12soには、第1オイル供給通路17の開口端よりスリット18sを通して径方向内向きに延びる浅い油溝19が凹設される。
【0063】
かくして、第1オイル捕捉部H1で捕捉されたオイルの一部は、第1オイル供給通路17を通り、更にスリット18s及び油溝19を経由して第1モータ用軸受Bm1に導かれる。
【0064】
一方、中間ケース80には、第1オイル捕捉部H1で捕捉したオイルの一部を第2デフ用軸受Bf2の周辺部に導く第3オイル供給通路85が設けられる。この第3オイル供給通路85は、
図3,
図11で明らかなように、ケース本体81の内面(右側面)において前記優弧状凸部81aを径方向に横切るように延びていてケース本体81を軸方向に貫通するスリット状の貫通孔で構成される。かくして、第1オイル捕捉部H1で捕捉されたオイルの一部は、第3オイル供給通路85を経由して第2デフ用軸受Bf2や第2ドライブ軸52の外周部に伝い流れる。
【0065】
ところで第2ケース半体12と中間ケース80との間には、
図4,7で明らかなように、入力ギヤ囲い壁W1上部及び連絡通路形成壁W4と、ブリーザ室形成壁W3との間を通って前後方向に延びる第1連絡油路91が画成される。この第1連絡油路91の途中には、隔壁12s内を前後方向に貫通する貫通油路12shの前端が開口し、またその貫通油路12shの後端は、第1オイル捕捉部H1の前方に奥まった内奥部に開口する。
【0066】
従って、第1オイル捕捉部H1で捕捉されたオイルのうち、第1,第3オイル供給通路17,85側に流出したものを除くオイルは、貫通油路12shを経て第1連絡油路91の途中部分に流入する。そして、第1連絡油路91は、第2ケース半体12の外周壁12oに設けた軸方向の第2連絡油路92に連通し、更に第2連絡油路92は、
図8で明らかなように、モータケースCmの外周壁22内及び端壁21内を通る一連の第1,第2連通油路93,94を介して右側の第2モータ用軸受Bm2に連通する。
【0067】
而して、一連に繋がる貫通油路12sh、第1連絡油路91(特に前半部)、第2連絡油路92及び第1,第2連通油路93,94は、互いに協働して、第1オイル捕捉部H1で捕捉したオイルの一部を右側の第2モータ用軸受Bm2に導く第2オイル供給通路90を構成する。そして、この第2オイル供給通路90の途中部分と、前述の第2オイル捕捉部H2とが、第1連絡油路91の後半部を介して相互に連通している。従って、第2オイル捕捉部H2で捕捉されたオイルも第2オイル供給通路90を経由して第2モータ用軸受Bm2に導かれる。
【0068】
ところでブリーザBRのブリーザ室60は、中間ケース80の前記固定状態で、中間ケース80と第2ケース半体12とにより(具体的には、ブリーザ室形成壁W3の上側面と、第2ケース半体12の外周壁12oの幅広上部の下側面と、隔壁12sの左側面12siと、上張出部82の内面とにより)画成される。
【0069】
ブリーザ室60は、中間ケース80により伝動機構室10から遮蔽されており、また第2ケース半体12の外周壁12o上部に固定した排気筒61を通じて外気に連通している。またブリーザ室60の内壁(具体的には隔壁12sの左側面12si)には、従来周知のブリーザと同様、ブリーザ室60内に迷路を形成してオイル吹出しを抑制可能な複数の邪魔板62(
図4,6,7を参照)が突設される。
【0070】
そして、ブリーザ室60とモータ空間20との間を連通させる連通路63が、
図6で明らかなように、隔壁12sを軸方向に貫通するよう形成される。この連通路63の、隔壁12sの右側面12soに開口する開口部は、ブリーザ室63の入口60iとなり、その入口60iは、モータ空間20に臨んでいる。
【0071】
ブリーザ室60は、入口60iを通してモータ空間20(延いては伝動機構室10)と連通状態にある。そのため、モータ空間20の空気は、これが大気圧より高くなると、入口60iから連通路63を経てブリーザ室60を流動し、排気筒61より外気に排出される。
【0072】
また実施形態の隔壁12sの右側面12soには、
図6,9,10で明らかなように、モータ空間20に向かって張出してブリーザ室60の入口60iを取り囲む突壁12tが設けられる。この突壁12tの特設によれば、モータ空間20内でオイルが多少飛散した場合でも、その飛散オイルがブリーザ室60に侵入するのを効果的に防止可能となる。
【0073】
またブリーザ室60の少なくとも一部は、
図2で明らかなように、ファイナルドリブンギヤGfの軸方向から見てファイナルドリブンギヤGfと重なり合う配置となっている。この配置によれば、ブリーザ室60がファイナルドリブンギヤGfに対し径方向外方側に大きく張出すのを抑えることができるため、伝動ケースCt(延いてはユニットケースC)を径方向にコンパクト化する上で有利である。
【0074】
ところで
図1には、カウンタギヤGcが、軸方向で中間ケース80と隔壁12sとの間に挟まれる配置が明示されており、この配置からは、中間ケース80と隔壁12sとの間に画成されるブリーザ室60が、カウンタギヤGcの回転軸線Xcから径方向外方に見てカウンタギヤGcと一部重なり合う位置に在ることは明らかである。そして、この配置によれば、ブリーザ室60がカウンタギヤGcに対し軸方向外方側に大きく張出すのを抑えることができるため、伝動ケースCt(延いてはユニットケースC)を軸方向にコンパクト化する上で有利である。
【0075】
またブリーザ室60の入口60iは、
図8,9で明らかなように、モータケースCm内に固定のステータ24に比較的近い距離で対向している。このようにモータ空間20内で非回転のステータ24にブリーザ室60の入口60iを近接、対面させたことで、モータ空間20からブリーザ室60へのオイル侵入をステータ24を利用してより効果的に防止可能となる。
【0076】
次に前記実施形態の作用を説明する。本発明に係る伝動装置Tを含むパワーユニットPUにおいて、モータMの作動に伴いモータ出力軸26から入力ギヤGiに回転駆動力が入力されると、それは、伝動装置T内の減速装置Rで二段階に減速されてファイナルドリブンギヤGfに伝達される。そして、ファイナルドリブンギヤGfの回転駆動力は、差動装置Dにより第1,第2ドライブ軸51,52に対し差動回転を許容しつつ分配され、更に第1,第2ドライブ軸51,52から左右の駆動車輪に伝達される。
【0077】
またモータMの停止状態において、伝動ケースCt内の底部の油溜15には所定量のオイルが貯溜され、また入力ギヤ被覆部70内の補助油溜71にも、前回のモータMの作動に伴い伝動機構室10内を飛散して流下したオイルの一部が貯溜されている。
【0078】
而して、ギヤ伝動機構Gの伝動中、特にモータMの正転時(車両前進時)には入力ギヤGi、カウンタギヤGc、カウンタピニオンGcp及びファイナルドリブンギヤGfは、例えば
図2,4で白抜き矢印の方向に回転し、その回転に伴い、最も低位且つ大径のファイナルドリブンギヤGfにより油溜15内のオイルが掻き上げられ、伝動機構室10内の各所に飛散する。
【0079】
ところで実施形態の伝動ケースCtは、高速回転する入力ギヤGiから飛散したオイルを捕捉可能な第1オイル捕捉部H1を有すると共に、その第1オイル捕捉部H1のオイル導入口H1iが、
図4でも明らかなように、入力ギヤGi及びカウンタギヤGcのピッチ円相互の共通接線上で入力ギヤGiの正転方向前方側に位置している。これにより、入力ギヤGiの高速回転中、それとカウンタギヤGcとの噛合後に入力ギヤGiから上方に飛散するオイルを第1オイル捕捉部H1で効率よく捕捉して、ユニットケースC内の各所に存する被潤滑部に供給可能となる。
【0080】
即ち、第1オイル捕捉部H1で捕捉されたオイルの一部は、第1オイル捕捉部H1の右側方で隔壁12sを貫通する第1オイル供給通路17を経由して、左側の(即ち伝動装置Tに近い)第1モータ用軸受Bm1に供給される。また第1オイル捕捉部H1で捕捉された他のオイルの一部は、中間ケース80のケース本体81に設けたスリット孔状の第3オイル供給通路85を経由して右側の第2デフ用軸受Bf2や第2ドライブ軸52周辺に供給される。さらに上記他のオイルの残部(即ち第1,第3オイル供給通路17,85の入口を素通りしたオイル)は、第1オイル捕捉部H1の内奥部に開口する貫通孔12shに入り、そこから第2オイル供給通路90を経由して右側の(即ち伝動装置Tから遠い)第2モータ用軸受Bm2に供給される。
【0081】
このように第1オイル捕捉部H1で捕捉されたオイルは、伝動ケースCt内外の被潤滑部、即ち上記各軸受Bm1,Bm2,Bf2等を効率よく潤滑する。
【0082】
その上、実施形態の伝動ケースCtは、入力ギヤGiを被覆して内部空間の下部にオイルを貯溜可能な入力ギヤ被覆部70を有していて、その入力ギヤ被覆部70内に第1オイル捕捉部H1が配置されている。これにより、入力ギヤ用補助油溜71を内底部に有した入力ギヤ被覆部70内において、入力ギヤGiから遠心力でオイルを十分に飛散させ、且つその飛散したオイルを、入力ギヤ被覆部70内にオイル導入口H1iが臨む第1オイル捕捉部H1によって効率よく捕捉することができるため、上記被潤滑部を一層効果的に潤滑可能となる。
【0083】
また実施形態の右側の第2デフ用軸受Bf2は、伝動ケースCtの隔壁12sに結合した中間ケース80に装着され、その隔壁12sは、中間ケース80と協働して第1オイル捕捉部H1を画成する。即ち、第1オイル捕捉部H1の一部の形成壁となる中間ケース80が、第2デフ用軸受Bf2の支持部材に兼用されるため、それだけ装置の構造簡素化、延いてはコスト節減が図られる。
【0084】
しかも中間ケース80は、第1オイル捕捉部H1で捕捉したオイルの一部を第2デフ用軸受Bf2に導く貫通孔、即ちスリット状の第3オイル供給通路85を有するため、第1オイル捕捉部H1で捕捉したオイルを第2デフ用軸受Bf2等の潤滑にも有効活用可能となる。また中間ケース80に貫通孔状の第3オイル供給通路85を単に開けるだけで、第1オイル捕捉部H1から第2デフ用軸受Bf2へのオイル導入路を形成できるため、油路構造の簡素化が図られる。
【0085】
ところで実施形態のパワーユニットPUにおいて、ユニットケースCは、第1オイル捕捉部H1よりもカウンタギヤGcの正転方向前方側に、カウンタギヤGcから飛散したオイルを捕捉可能な第2オイル捕捉部H2を有しており、その第2オイル捕捉部H2は、第2ケース半体12において第1オイル供給通路90と連通している。
【0086】
これにより、入力ギヤGiからの飛散オイルのみならず、カウンタギヤGcから遠心力で径方向外方に飛散するオイルも第2オイル捕捉部H2で効率よく捕捉でき、その捕捉したオイルを、第1オイル捕捉部H1から第2モータ用軸受Bm2に向かう第1オイル供給通路90のオイルに合流させることができる。従って、第1オイル捕捉部H1のみならず、第2オイル捕捉部H2をも活用して、伝動装置Tより遠い側の第2モータ用軸受Bm2をより効率よく潤滑することができる。
【0087】
この場合、カウンタギヤGcのヘリカル歯のねじれ形状の向きを、特にモータMの正転時にギヤ歯からオイルが軸方向右方側に偏って飛散するように設定した場合には、カウンタギヤGcの上部外周で軸方向右方寄りに位置する第2オイル捕捉部H2によって、カウンタギヤGcからの飛散オイルをより効率よく捕捉することが可能である。
【0088】
ところで実施形態において、大径ギヤとしてのファイナルドリブンギヤGfは、これの正転に伴いファイナルドリブンギヤGfの下端から上端に向けて歯面が移動する特定半周領域(
図2で回転軸線Xiより後方半周領域)の途中でカウンタピニオンGcpと噛合しているが、各々ヘリカルギヤで構成されるカウンタピニオンGcp及びファイナルドリブンギヤGfは、相互の噛合部40から歯面上のオイルがファイナルドリブンギヤGfの正転時にカウンタピニオンGcpの軸方向左方側(即ち
図1の点線矢印方向)に押し出されるように配置される。しかも噛合部40から軸方向左方側に押し出されたオイルに対向して該オイルの左方側への流動を規制する流動規制壁としてのシールド形軸受よりなる第1カウンタ用軸受Bc1が、
図1で明らかなように、カウンタピニオンGcpの軸方向左方側の歯の端面に隣接配置され、且つ端面の歯先部分まで覆い得る形状に形成される。
【0089】
これにより、ファイナルドリブンギヤGfの正転時にそれとカウンタピニオンGcpとの噛合部40からカウンタピニオンGcpの軸方向左方側に押し出されたオイルは、これと対向する第1カウンタ用軸受Bc1(流動規制壁としてのシールド形軸受)によって軸方向左方側に向かう流動を規制されることで、その軸受Bc1の手前側で渋滞してファイナルドリブンギヤGfの歯部側にも流れ出し易くなるため、そのオイルがファイナルドリブンギヤGfに連れ回されて持ち上げられ易くなって、同ギヤGfがギヤ上部まで掻き上げるオイル量を効果的に増やすことが可能となる。その結果、ファイナルドリブンギヤGfがオイルを掻き上げる途中でカウンタピニオンGcpと噛合するレイアウトであるにも拘わらず、ファイナルドリブンギヤGfの上部までオイルを十分に供給可能となる。
【0090】
また特に実施形態のカウンタピニオンGcpの軸方向幅は、
図1で明らかなように、同ピニオンGcpの歯部が上記噛合部40よりも軸方向左方側に延出するように設定される。これにより、上記噛合部40から軸方向左方側に押し出されたオイルが、流動規制壁としての第1カウンタ用軸受Bc1の手前側(特にカウンタピニオンGcpの、噛合部40よりも軸方向左方側に延出する歯面上で)で渋滞したときに、その渋滞オイルの一部を遠心力でカウンタピニオンGcpから径方向外方に飛散させて周辺の被潤滑部に供給可能となる。
【0091】
この場合、第1ケース半体11の側壁11s(特にデフケースDcを囲繞する椀状部分)の内周面には、複数条のオイル案内用リブ(図示せず)が突設されるため、カウンタピニオンGcpからの飛散オイルが側壁11sの内面に付着した場合に、それを左側の第1デフ用軸受Bf1にも効率よく誘導供給することができる。
【0092】
また実施形態では、上記噛合部40から軸方向左方側に押し出されたオイルを手前側で流動規制して渋滞させる流動規制壁が、カウンタピニオンGcpを伝動ケースCtに支持させるシールド形軸受よりなる第1カウンタ用Bc1で構成される。これにより、従前より普通に使用されるオイルシール機能付きシールド形軸受を利用して、上記流動規制壁を容易に且つ低コストで構築可能となる。
【0093】
ところで上記流動規制壁としては、これをシールド形軸受(第1カウンタ用軸受Bc1)で兼用する本実施形態の他、別の種々のバリエーションが考えられる。例えば、カウンタピニオンGcpの歯部と、シールド形軸受でない第1カウンタ用軸受Bc1との間に平ワッシャを挟持させ、この平ワッシャを流動規制壁に利用した変形例の実施も可能である。或いは、カウンタ軸14の外周部に環状フランジ状の突壁を一体に形成し、且つその突壁を、カウンタピニオンGcpの歯部とシールド形軸受でない第1カウンタ用軸受Bc1との間に介在させて流動規制壁に利用可能とした別の変形例も実施可能である。
【0094】
或いはまた、第1カウンタ用軸受Bc1として径方向に扁平な軸受(例えばニードル軸受)を使用し、これを第1ケース半体11の側壁11sとカウンタ軸14との嵌合部に設置して、側壁11sの内壁をカウンタピニオンGcpの歯部の左端面に近接又は隣接させることで、その側壁11sの内壁を流動規制壁として利用可能とした更に別の変形例の実施も可能である。
【0095】
更に実施形態の差動装置DにおけるデフケースDcは、
図1で明らかなように、ファイナルドリブンギヤGfに対し軸方向左方側にオフセット配置されてデフケースDcの内外を連通する窓部Dchを有している。これにより、ファイナルドリブンギヤGfの正転時にカウンタピニオンGcpの歯面上で軸方向左方側に押し出される上記オイルが遠心力で飛散した際に、窓部Dch内に取り込まれ易くなる。従って、そのカウンタピニオンGcpからの飛散オイルが窓部Dchを通してデフケースDc内の差動ギヤ機構Dgに効率よく供給されるため、差動ギヤ機構Dgに対する潤滑効果も高められる。
【0096】
ところで実施形態のユニットケースC、特に第2ケース半体12は、左側面12siが伝動機構室10に臨み且つ右側面12soがモータ空間20に臨む隔壁12sを有し、この隔壁12sの左側面12siと、左側面12siに結合される蓋としての中間ケース80とによりブリーザ室60が画成され、ブリーザ室60の入口60iは隔壁12sの右側面12soに開口していて、モータ空間20に連通可能である。
【0097】
これにより、ブリーザ室60の入口60iは、伝動機構室10には直接開口しないで、モータ空間20を経由して伝動機構室10に連通する連通形態となるから、伝動ケースCt内でギヤ伝動機構Gの各ギヤから飛散するオイルがブリーザ室60に侵入するのを効果的に抑制可能となって、ブリーザ室60からのオイル吹出しリスクを低減できる。しかもブリーザ室60は、伝動ケースCtの隔壁12sの左側面12siと、これに結合した蓋としての中間ケース80とにより画成されるため、伝動機構室10から隔絶されたブリーザ室60の中空構造が、伝動ケースCtの隔壁12sの構造やその成形工程を然程複雑化することなく容易に得られ、これによりコスト低減が図られる。
【0098】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0099】
例えば、前記実施形態では、伝動装置Tのギヤ伝動機構Gが、カウンタギヤGcの軸線Xcとは異なる軸線回りに回転する入力ギヤGi及びファイナルドリブンギヤGf(従ってドライブ軸51,52)を、互いに同一軸線上に配した所謂2軸タイプのギヤ伝動機構であるものを示したが、本発明では、入力ギヤGiとカウンタギヤGcとファイナルドリブンギヤGf(従ってドライブ軸51,52)とを異なる3つの軸線回りに回転させる所謂3軸タイプのギヤ伝動機構に実施してもよい。
【0100】
また前記実施形態では、伝動装置Tが減速装置Rに加えて差動装置Dを備えていて、減速装置Rの出力部、即ちファイナルドリブンギヤGfの回転トルクが差動装置Dを介して一対のドライブ軸51,52(延いては左右の駆動車輪)に分配されるものを示したが、本発明では、差動装置Dを省略して、ファイナルドリブンギヤGfを差動機能無しの連動機構を介して単一のドライブ軸に連動連結してもよく、この場合のドライブ軸は、単一の駆動輪(例えば自動二輪車の後輪)を回転駆動可能である。
【0101】
また前記実施形態では、パワーユニットPUを自動車用パワーユニットに実施したものを示したが、本発明のパワーユニットを自動車以外の種々の機械装置のパワーユニットとして実施してもよい。
【0102】
また前記実施形態では、ファイナルドリブンギヤGfの正転時において、カウンタピニオンGcp及びファイナルドリブンギヤGfは、相互の噛合に伴い噛合部40から歯面上のオイルがカウンタピニオンGcpの軸方向左方側に押し出されるように、両ギヤGcp,Gfのヘリカル歯の捩れ形状の向き(換言すれば捩れ角)が設定されるものが示されるが、本発明では、両ギヤGcp,Gfのヘリカル歯の捩れ形状の向きを実施形態とは反対向きに設定してもよい。この場合は、上記正転時において、カウンタピニオンGcp及びファイナルドリブンギヤGfは、相互の噛合に伴い噛合部40から歯面上のオイルがカウンタピニオンGcpの軸方向右方側に押し出されるため、カウンタピニオンGcpの軸方向右方側の歯の端面に隣接する流動規制壁をカウンタ軸14の外周に環状に突設し、またカウンタピニオンGcpの軸方向幅は、カウンタピニオンGcpの歯部が上記噛合部40から軸方向右方側に延出するように設定される。この設定によれば、カウンタピニオンGcpの歯部の延出部位は、軸方向で第2デフ用軸受Bf2と一致するか近い位置に在るため、該歯部の延出部位に押し出されて流動規制壁の手前で渋滞するオイルが遠心力で飛散するのに伴い、第2デフ用軸受Bf2へのオイル供給量を増やすことができる。
【0103】
また前記実施形態では、中間ケース80が、隔壁12sと協働してブリーザ室60を形成する手段と、入力ギヤ被覆部70を形成する手段と、第2デフ用軸受Bf2の支持手段とに兼用されるものを示したが、その何れか2つの手段のみに兼用されるものであってもよく、或いはまた何れか1つの手段に専用されるものであってもよい。
【0104】
また前記実施形態では、伝動装置Tのギヤ伝動機構Gの各ギヤGi,Gc,Gcp,Gfをヘリカルギヤで構成したものを示したが、それらギヤGi,Gc,Gcp,Gfのうち、相互に噛合する少なくとも1つのギヤ対のギヤ(例えば入力ギヤGi及びカウンタギヤGcのギヤ対、或いはファイナルドリブンギヤGf及びカウンタピニオンGcpのギヤ対)をスパーギヤで構成してもよい。