(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】上刃ロール、スリット装置、スリット方法及び積層テープ
(51)【国際特許分類】
B26D 1/24 20060101AFI20240828BHJP
B26D 3/00 20060101ALI20240828BHJP
B65H 35/02 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
B26D1/24 A
B26D1/24 E
B26D3/00 601B
B65H35/02
(21)【出願番号】P 2020064981
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2019069546
(32)【優先日】2019-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 博行
(72)【発明者】
【氏名】小平 佳克
(72)【発明者】
【氏名】川井 智永
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特許第6420511(JP,B1)
【文献】特開2011-046840(JP,A)
【文献】特開2007-090461(JP,A)
【文献】特開2009-136930(JP,A)
【文献】特開2005-126623(JP,A)
【文献】特開2017-137188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 1/24
B26D 3/00
B65H 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数条の円盤状の上刃が所定ピッチで設けられている上刃ロールであって、
該上刃の刃先を構成する一方の側面がフラット面であり、他方の側面に刃先側から第1の鎬と第2の鎬が形成されており、上刃のピッチが0.5mm以下であり、
第1の鎬と刃先との間の上刃側面とフラット面とがなす角度αが20°以上45°以下で、第1の鎬と第2の鎬の間の上刃側面とフラット面とがなす角度βが2°以上15°以下であり、
刃先と第1の鎬との上刃の半径方向の距離が0.13mm以上0.40mm以下であり、刃先と第2の鎬との上刃の半径方向の距雛が0.4mm以上7.6mm以下である上刃ロール。
【請求項2】
複数条の円盤状の上刃が所定ピッチで設けられている上刃ロールであって、
該上刃の刃先を構成する一方の側面がフラット面であり、他方の側面に刃先側から第1の鎬と第2の鎬が形成されており、上刃のピッチが0.1mm以上0.4mm以下であり、
第1の鎬と刃先との間の上刃側面とフラット面とがなす角度αが20°以上45°以下で、第1の鎬と第2の鎬の間の上刃側面とフラット面とがなす角度βが2°以上15°以下であり、
刃先と第1の鎬との上刃の半径方向の距離が0.13mm以上0.40mm以下であり、刃先と第2の鎬との上刃の半径方向の距雛が0.4mm以上7.6mm以下である上刃ロール。
【請求項3】
請求項1又は2記載の上刃ロールと、該上刃ロールの上刃に対応して下刃が所定ピッチで設けられている下刃ロールを備え、シェアカット方式で積層フィルムを幅0.5mm以下で長さ5m以上の積層テープにスリットするスリット装置。
【請求項4】
基材フィルムに粘着層が剥離可能に積層されている積層フィルムを、請求項1又は2記載の上刃ロールと該上刃ロールの上刃に対応して下刃が所定ピッチで設けられている下刃ロールとを用いてシェアカット方式でスリットし、テープ幅0.5mm以下で長さ5m以上の積層テープとするスリット方法。
【請求項5】
積層フィルムが、第1の積層フィルムと第2の積層フィルムとが繋ぎテープで張り合わされた長尺のフィルムである請求項4記載のスリット方法。
【請求項6】
基材フィルムに粘着層が剥離可能に積層されている積層テープであって、テープ幅が0.5mm以下であり、テープ長さが5m以上5000m以下であり、該テープの幅方向の一端で基材フィルムが隆起して
おり、該隆起部のテープ幅方向の幅がテープ幅の7%以下であり、該テープの幅方向の一端のみで基材フィルムが隆起している積層テープ。
【請求項7】
積層テープが繋ぎテープで長尺化している請求項6記載の積層テープ。
【請求項8】
積層テープが巻装体になっている請求項6又は7記載の積層テープ。
【請求項9】
積層テープが複数の巻装体となっており、複数の巻装体の中に基材フィルムが隆起している巻装体が存在する請求項6又は7記載の積層テープ。
【請求項10】
積層フィルムをシェアカット方式でスリットする際に、基材フィルムと粘着層との間に剥離が生じない請求項4記載のスリット方法。
【請求項11】
複数条の円盤状の上刃が所定ピッチで設けられている上刃ロールであって、該上刃の刃先を構成する一方の側面がフラット面であり、他方の側面に刃先側から第1の鎬と第2の鎬が形成されており、上刃のピッチが0.5mm以下であり、
第1の鎬と刃先との問の上刃側面とフラット面とがなす角度αが20°以上45°以下
で、第1の鎬と第2の鎬の間の上刃側面とフラット面とがなす角度βが2°以上15°以下である上刃ロールと、
該上刃ロールの撓む上刃に対応して下刃が所定ピッチで設けられている下刃ロールを備え、シェアカット方式でフィルムを幅0.5mm以下の積層テープにスリットするスリット装置。
【請求項12】
基材フィルムに粘着層が剥離可能に積層されている積層フィルムを、複数条の円盤状の上刃が所定ピッチで設けられている上刃ロールであって、該上刃の刃先を構成する一方の側面がフラット面であり、他方の側面に刃先側から第1の鎬と第2の鎬が形成されており、上刃のピッチが0.5mm以下であり、
第1の鎬と刃先との間の上刃側面とフラット面とがなす角度αが20°以上45°以下で、第1の鎬と第2の鎬の問の上刃側面とフラット面とがなす角度βが2°以上15°以下である上刃ロールと、
該上刃ロールの撓む上刃に対応して下刃が所定ピッチで設けられている下刃ロールとを用いてシェアカット方式でスリットし、テープ幅0.5mm以下の積層テープとするスリット方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材フィルムに粘着層が剥離可能に積層されている積層フィルムのスリットに適した上刃ロール、その上刃ロールを用いたスリット装置、スリット方法及び積層フィルムのスリットにより得られる積層テープに関する。
【背景技術】
【0002】
基材フィルムに粘着層が剥離可能に積層されている長尺の積層テープが図形、文字等を物品に転写する転写リボン等として使用されている(特許文献1)。このような積層テープは、基材フィルムに粘着層が剥離可能に積層されている積層フィルムをスリットすることにより製造される。
【0003】
基材フィルムに粘着層が剥離可能に積層されている長尺の積層テープは、電子部品を基板に実装する際の接着材としても使用されており、近年は細幅の積層テープが必要とされている。しかしながら、基材フィルムに粘着層が剥離可能に積層されている積層フィルムを細幅にスリットすると、スリットにより基材フィルムと粘着層とが剥離してしまうという問題が生じる。これに対しては、円盤状の上刃と下刃を用いるシェアカット方式において上刃にフラット刃を使用し、積層フィルムをスリットする装置全体をフードで覆い、積層フィルムがスリットされてから巻き取られるまでの温度変動を抑制するという大がかりな方法がある(特許文献2)。この方法によれば、積層フィルムをテープ幅0.5mm~4mmの細幅にスリットできるとされている。
【0004】
また、フィルムをシェアカット方式でスリットする方法としては、上刃にコーン刃を使用する方法がある(特許文献3)。コーン刃を使用する場合、
図9に示すように、上刃11に側圧Fをかけてスリットすることにより切断性が向上する。また、上刃11を下刃21に押し当てても、上刃11と下刃21の接触圧が緩和されるので刃の寿命を長くすることができる。特許文献3によれば磁気テープを1/8インチ幅にスリットできるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012―232392号公報
【文献】特開2007―90461号公報
【文献】特開2001-30191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、コーン刃で加工精度をだすことは難しく、コーン刃を用いるシェアカット方式でフィルムを細幅にスリットしようとしてもテープ幅を0.7mmとすることが限界であり、テープ幅0.5mm以下にスリットすることはできなかった。
【0007】
一方、特許文献2に記載の方法によれば、積層フィルムを幅0.5mmにスリットした細幅のテープを得られるとされているが、0.5mm以下の細幅で長尺をスリットするための詳細な検討はなされていない。また、特許文献2に記載されている基材と粘着層との剥離の問題はフィルムが細幅になるほど発生しやすい。そのため、幅0.5mm以下の細幅のテープについては製品の良品率の低下等が懸念される。
【0008】
また、
図7に示すように、フラット刃を使用するシェアカット方式でフィルム3をスリットするときには、まず刃先11aでフィルム3が押し込まれてダレが生じ、さらに刃先11aが押し込まれてフィルム3が剪断により切れ、さらに押し込まれると破断によりフィルム3が切れてテープ4へと裁断されるが、このフィルム3が基材フィルム31に粘着層32が積層された積層フィルム30であると、裁断時のテープ4は鎬11b側に伸びて撓んでおり、その後、その撓みが戻ると
図8に示すように、鎬11b側に位置していたテープ端部4pの基材フィルム31に隆起部36が生じることがある。この隆起部36は、積層フィルム30を細幅のテープにスリットするほど大きくなる。そのため、テープを巻装体にすると、巻装体の一方の端部で隆起の影響が合算され、テープの平面性に支障がきたされるという問題があり、さらに巻装体では粘着層がはみ出してブロッキングの原因になることも懸念された。
【0009】
これに対し、本発明は、基材フィルムに粘着層が剥離可能に積層されている積層フィルムをきれいな切り口でテープ幅0.5mm以下にスリットできるようにし、かつ、スリット後の積層テープで基材フィルムに隆起が生じることが抑制され、基材フィルムと粘着層が剥離せず、巻装体では粘着層のはみ出しが生じないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、シェアカット方式でフィルムをスリットするにあたり、上刃を、片面に鎬が2段に形成されているフラット刃とすると、フィルムを幅0.5mm以下の細幅にスリットする加工精度を確保することができ、切断性も向上し、スリットされたテープの端部に隆起が形成されにくいこと、また、上刃が撓むことにより、コーン刃のように上刃と下刃の接触圧を緩和でき、上刃の寿命を長くできることを想到し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は、複数条の円盤状の上刃が所定ピッチで設けられている上刃ロールであって、該上刃の刃先を構成する一方の側面がフラット面であり、他方の側面に刃先側から第1の鎬と第2の鎬が形成されており、上刃のピッチが0.5mm以下である上刃ロールを提供する。
【0012】
また本発明は、上述の上刃ロールと、該上刃ロールの上刃に対応して下刃が所定ピッチで設けられている下刃ロールを備え、シェアカット方式でフィルムを幅0.5mm以下にスリットするスリット装置を提供する。
【0013】
さらに本発明は、基材フィルムに粘着層が剥離可能に積層されている積層フィルムを、上述の上刃ロールと該上刃ロールの上刃に対応して下刃が所定ピッチで設けられている下刃ロールを用いてシェアカット方式でスリットし、テープ幅0.5mm以下の積層テープとするスリット方法を提供する。
【0014】
加えて、本発明は、基材フィルムに粘着層が剥離可能に積層されている積層テープであって、テープ幅が0.5mm以下であり、該テープの幅方向の一端で基材フィルムが隆起している場合に、該隆起部のテープ幅方向の幅がテープ幅の7%以下である積層テープを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の上刃ロールを用いてシェアカット方式でフィルムをスリットすると、フィルムを幅0.5mm以下、特に幅0.5mm未満の細幅にスリットすることができ、かつ従前のスリット幅0.7mm以上のコーン刃を使用する場合に比してフラット刃は上刃の寿命を長くすることができる。
【0016】
また、フィルムとして、基材フィルムに粘着層が剥離可能に積層されている積層フィルムをスリットして積層テープを得た場合に、上刃の鎬側に位置していたテープ端部で基材フィルムが隆起することを抑制できる。したがって、そのテープを巻装体にした場合に、巻装体の片側で隆起部分が合算されてテープの平面性が損なわれることを防止でき、また、巻装体における粘着層のはみ出しやブロッキングも防止できる。
【0017】
よって、この積層テープは、物品に粘着層を貼付する細幅の粘着材として有用となり、粘着層を硬化性樹脂組成物から形成すると接着材としても有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施例のスリット装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、実施例のスリット装置でスリット可能な積層フィルムの断面図である。
【
図3】
図3は、フィルムをスリットしている実施例のスリット装置の上刃ロールと下刃ロールの刃先部分の断面図である。
【
図4A】
図4Aは、実施例の上刃の刃先部分の拡大平面図である。
【
図4B】
図4Bは、実施例の変形態様の上刃の刃先部分の平面図である。
【
図5A】
図5Aは、実施例のスリット装置の下刃の刃先部分の平面図である。
【
図5B】
図5Bは、実施例のスリット装置の下刃の刃先部分の変形態様の平面図である。
【
図6A】
図6Aは、一般に、従来のシェアカット方式のスリット装置で積層フィルムを400mスリットした後のスリットで得られる積層テープの鎬側端部の断面図である。
【
図6B】
図6Bは、一般に、従来のシェアカット方式のスリット装置で積層フィルムを50000m以上スリットした後のスリットで得られる積層テープの鎬側端部の断面図である。
【
図7】従来のフラット刃を使用したシェアカット方式のスリット装置の上刃ロールと下刃ロールの正面図である。
【
図8】従来のフラット刃を使用するシェアカット方式でフィルムをスリットして得られる積層テープの断面図である。
【
図9】コーン刃の上刃と下刃の刃先部分の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一または同等の構成要素を表している。
【0020】
<スリット装置の全体構成>
図1は、本発明の一実施例のスリット装置1の概略構成図である。
【0021】
このスリット装置1は、
図3に示すように、複数条の円盤状の上刃11が円筒状のロールに所定ピッチpで該ロールの回転軸L1方向に配列している上刃ロール10と、上刃ロール10の上刃11に対応して下刃21が所定ピッチで設けられている下刃ロール20を備え、フィルム3をシェアカット方式でスリットする装置である。
【0022】
このスリット装置1では種々のフィルム3をスリットすることができる。このフィルム3としては、例えば、
図2に示すように、基材フィルム31上に粘着層32が剥離可能に積層し、粘着層32上にカバーフィルム33が剥離可能に積層した積層フィルム30をあげることができる。
【0023】
スリット装置1には、フィルム3を上刃ロール10と下刃ロール20の間に通す搬送機構としてフィルム巻出装置2と、フィルム3をスリットして得られるテープを巻き取る巻取装置が設けられている。巻取装置としては、フィルムをスリットして得られる複数列のテープのうち隣接したテープが互いに異なる方向で巻き取られるように、偶数列のテープ4aを巻き取る巻取装置7aと奇数列のテープ4bを巻き取る巻取装置7bとフィルムの耳を巻き取る巻取装置7cを有することができる。なお、偶数列のテープ4aを巻き取る巻取装置7aと奇数列のテープ4bを巻き取る巻取装置7bとフィルムの耳を巻き取る巻取装置7cの位置関係は
図1に示した態様に限られない。
【0024】
また、スリット装置1には、フィルム3を上刃ロール10と下刃ロール20の間に通す前にフィルム3の繋ぎ替えのためにスプライス部5を有することができる。即ち、スプライス部5では、フィルムの長尺化のためにフィルム3同士を繋いだり、フィルム3の切り替えに要する工数を減らすためにフィルム3に搬送用フィルムを繋いだりする。なお、スリット時の汚染防止のためにカバーフィルムを設けてスリットを行ってもよい。このカバーフィルムはスリット前もしくは後に剥離すればよい。
【0025】
このスリット装置1は、後述するように、スリットするフィルム3が、単層の樹脂フィルム、又は複数層の樹脂層が接着もしくは溶着された積層フィルムだけでなく、基材フィルムに粘着層が剥離可能に積層されている積層フィルム30であっても、幅0.5mm以下、特に幅0.5mm未満にスリットすることを可能とする。
【0026】
<上刃>
上刃ロール10に設けられている円盤状の上刃11は、
図3に示すように、刃先11aを構成する一方の側面が平坦で、回転軸L1に垂直なフラット面11xとなっているフラット刃である。フラット面11xの反対の側面には鎬が2段に形成されている。即ち、刃先11a側に第1の鎬11b1を有し、それよりも円盤状の上刃11の半径方向の内側に第2の鎬11b2を有する。
図4Aは、この上刃11の刃先部分の拡大平面図である。刃先11aと第1の鎬11b1との間の上刃側面とフラット面11xとがなす角度(刃角)αは切断性の向上と長寿命化の点から20°以上、45°以下とすることが好ましい。
【0027】
また、第1の鎬11b1と第2の鎬11b2との間の上刃側面とフラット面11xとがなす角度βは、上刃11を撓みやすくし、切断性を向上させ、上刃11と下刃21の接触圧を緩和して刃の寿命を長くするために角度αよりも小さくすることが好ましく、より好ましくは2°以上、15°以下とし、さらに好ましくは3°以上8°以下とする。
【0028】
また、刃先11aと第1の鎬11b1との上刃の半径方向の距離h1が0.13mm以上0.40mm以下であり、刃先11aと第2の鎬11b2との上刃の半径方向の距離h2が0.4mm以上7.6mm以下であることが好ましい。
【0029】
このように上刃11に第1の鎬11b1と第2の鎬11b2を設け、刃先11a側を細くすることで、フラット刃であるにも関わらず刃先側が撓みやすくなり、コーン刃のように上刃と下刃の接触圧を緩和することができ、かつコーン刃のように湾曲した外形をもたないので、上刃の加工精度を向上させることができる。
【0030】
上刃11には、必要に応じて
図4Bに示すように、第2の鎬11b2より上刃11の半径方向の内側に段部11cを設け、刃先側を細くしても良い。これにより一層上刃11を撓み易くすることができる。
【0031】
上刃11のピッチpは、フィルム3をスリットして得るテープに必要とされるテープ幅に応じて定めるが、本発明では細幅のテープに対応できるように上限に関しては0.5mm以下、好ましくは0.5mm未満とし、特に0.4mm以下とすることもできる。また、下限に関しては0.1mm以上とすることが好ましい。上刃11の形状を上述のように2段の鎬11b1、11b2を有するものとすると、上刃11のピッチpを0.5mm以下、好ましくは0.5mm未満とし、フィルム3、30を幅0.5mm以下、好ましくは0.5mm未満の細幅にスリットすることが可能となる。
【0032】
上述の上刃11がピッチpで配列している上刃ロール10は、高速度鋼、炭素鋼、ステンレス鋼等の硬度と靱性に優れた金属材料を、精密切削加工装置等で切削加工及び研磨加工を行うことで上刃11を形成し、それを組み合わせることにより得ることができる。刃は、使用後に再度研磨加工をして再利用してもよい。
【0033】
<下刃>
一方、下刃21は従前のフラット刃のシェアカット方式の下刃と同様とすることができる。好ましくは
図5Aに示すように、刃の破損の回避とスリットの幅の精度を一定以上にする点から刃先21aの先端をフラットとし、その幅w1を0.05mm以上、0.3mm以下とすることが好ましい。これに対し、刃先21aを鋭角にすると刃同士の削れ(かじり)が発生しやすくなる。また、上刃11の刃先11aと第1の鎬11b1との間の刃面に対向する面21bを傾斜させることが好ましい。この傾斜面21bの傾斜角γは15°以上45°以下とすることが好ましい。
【0034】
図5Bに示すように段差22を設け、刃先21aの角度を鋭角にしてもよい。これにより切断性を向上させることができる。
【0035】
<上刃ロールと下刃ロールの組み付き>
スリット装置1において上刃ロール10と下刃ロール20は、
図3に示すように、上刃11と下刃21との重なり量h4が0.05mm以上0.5mm以下となるように、これらの回転軸L1、L2が平行となるように組み付ける。
【0036】
また、上刃ロール10と下刃ロール20は歯車で接続し、
図1の矢印方向に回転させる駆動機構を設けることが好ましい。
【0037】
加えて、上刃11を下刃21に押し付ける側圧機構を設けることが好ましい。側圧機構としては、例えば、特許文献3に記載のように上刃のフラット面を下刃の側面に機械的に押圧する装置等を設けることができる。
【0038】
<スリット方法>
本発明のスリット方法は、上述の上刃ロール10と下刃ロール20を用いて、基材フィルム31に粘着層32が剥離可能に積層されている積層フィルム30をシェアカット方式によりスリットし、幅0.5mm以下、好ましくは幅0.5mm未満、より好ましくは0.4mm以下の積層テープを得る方法である。
【0039】
一般に、シェアカット方式のスリット装置でフィルムをスリットする場合、スリット長が長くなると刃先11aが摩耗し、切断性が低下してくるため、スリット後のテープの鎬側端部に突出部ができる場合がある。例えば、
図6Aは、
図7に示した従来のシェアカット方式のスリット装置を用いて、フィルム厚50μmのPETフィルムに、粘着層として熱硬化性樹脂を層厚10μmで積層した積層フィルムを、幅1.5mmで長さ400mスリットした後のスリットで得たテープの幅方向の断面の鎬側端部の写真(1000倍)を図に書き起こしたものであり、
図6Bは、同様に積層フィルムを長さ50000m以上スリットした後のスリットで得たテープの幅方向の断面の鎬側端部の写真を図に書き起こしたものである。
図6Bに示したテープには、鎬側端部の基材フィルム31に隆起部36が存在する。
【0040】
本発明のスリット装置によれば、従前のコーン刃を使用したスリット装置に比して刃の寿命が長くなるものの、スリット長が長くなると刃先は摩耗する。そこで、積層フィルムをスリットする生産ラインでは、所定のスリット長でスリット刃を交換することができる好ましい。
【0041】
所定のスリット長でスリット刃を交換する場合でも、スリット刃の使い始めから交換に至るまでの間には
図6Bに示したような隆起部36が発生する場合がある。即ち、積層フィルムを長さ100m以上スリットした後にスリットして得られるテープをテープ幅方向に切断し、その断面を倍率1000倍程度の光学顕微鏡、マイクロスープ等で観察すると、隆起部36がテープ幅の0%より大きい幅wで観察されることが多い。一方、隆起部36の幅wはテープ幅の7%以下であれば実用上問題は無い。5%以下であれば好ましく、2%以下であればより好ましく、0%であればさらに好ましい(この場合、0%とは隆起が観察されない状態、もしくは隆起と言い切れない変化が観察された状態を指す)。隆起部36の高さの基材フィルムのフィルム厚に対する割合は、ブロッキングを抑制する観点からは、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。フィルム幅が狭くなると、粘着層は相対的に隆起の影響を受けやすくなる。そのため、基材フィルムからの剥離や、はみ出しなどの不具合が発生し易くなる。本発明は、このような不具合解消の要請に応えるものである。
【0042】
そこで、本発明のスリット方法では、隆起部36の幅wが、テープ幅の7%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下、特に好ましくは0%となるように、上刃11あるいは上刃11と下刃21を適宜交換してもよい。
【0043】
このように上刃又は下刃を適宜交換し、積層フィルムをスリットして得られるテープを、テープ長5~500mの巻装体にした場合に、隆起部の幅wがテープ幅に対して0%より大きく7%以下になっている隆起部36が存在する巻装体の発生頻度は0.005~3%となる。
【0044】
<積層フィルム>
本発明のスリット方法でスリットする積層フィルムとしては、例えば、
図2に示すように厚さ12~75μm、特に25~75μmの基材フィルム31、厚さ5~40μm、特に5~25μmの粘着層32、厚さが基材フィルムよりも薄い又は厚さ10~50μmのカバーフィルム33が順次剥離可能に積層したものをあげることができる。カバーフィルムは後述するように無くてもよい。カバーフィルムの有無は必要により適宜選択すればよい。ここで、剥離可能とは、基材フィルム31又はカバーフィルム33にセロハンテープを貼ってはがすこと、もしくはフィルム用ピンセット(以下、ピンセット)で端をつまんで剥がすことにより、これらを粘着層32から容易に剥離できることをいう。
【0045】
スリット時に上刃11の侵入側に、積層フィルム30のカバーフィルム33を配置してもよく、基材フィルム31を配置してもよい。
【0046】
(基材フィルム、カバーフィルム)
基材フィルム31は、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET等のポリエステル等の熱可塑性樹脂で形成されたフィルムをあげることができる。カバーフィルム33は、粘着層32が汚染されるのを防止するために設けられており、基材フィルム31と同様の材料から形成することができる。基材フィルム31やカバーフィルム33の表面は、剥離処理されていることが好ましい。粘着層と剥離可能にするためである。スリット後にまずカバーフィルムを剥がせるようにするため、基材フィルム31よりもカバーフィルム33においてより剥離しやすいものを使うことが好ましい。最終的に接着材として使用される形態である巻装体としては、カバーフィルムが汚染防止のためにあってもよく、作業性を高めるためになくてもよい。
【0047】
本発明では比較的剛性の低い粘着層32と比較的剛性の高い基材フィルム31とを同時にスリットし、且つスリット時には分離しないようにし、スリット後の積層テープの使用時には粘着層32と基材フィルム31を剥離可能とする。ここで、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET等のポリエステルの引張弾性率は概略1100~4200MPaであるから、このような熱可塑性樹脂で形成された基材フィルム31と、基材フィルム31と剛性が異なる粘着層32とを同時に幅0.5mm以下の細幅にスリットし、且つスリット時に基材フィルムと粘着層との分離又は剥離を抑制することは難易度が高い技術であるが、本発明によればこのようなスリットが可能となる。
【0048】
(粘着層)
粘着層32としては、粘着フィルムが積層されていてもよく、粘着剤の塗膜が積層されていてもよい。積層フィルム30をスリットして得られるテープの用途に応じて、粘着層32は、単一の樹脂層から構成されていてもよく、複数の樹脂層の積層体又は多層体から構成されていてもよい。また、粘着層32には、必要に応じてフィラーが含有されていてもよい。
【0049】
(粘着層のフィラー)
粘着層にフィラーを含有させる場合、そのフィラーは、積層フィルム30をスリットして得られるテープの用途に応じて、公知の無機系フィラー(金属、金属酸化物、金属窒化物など)、有機系フィラー(樹脂、ゴムなど)、有機系材料と無機系材料が混在したフィラー等から用途に応じて適宜選択される。例えば、光学的用途や艶消しの用途では、シリカフィラー、酸化チタンフィラー、スチレンフィラー、アクリルフィラー、メラミンフィラーや種々のチタン酸塩等を使用することができる。コンデンサー用フィルムの用途では、酸化チタン、チタン酸マグネシウム、チタン酸亜鉛、チタン酸ビスマス、酸化ランタン、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛及びこれらの混合物等を使用することができる。接着材としての用途ではポリマー系のゴム粒子、シリコーンゴム粒子等を含有させることができる。電子部品の実装の用途ではフィラーは導電性を有していても良く、絶縁性を有していても良い。フィラーが絶縁性を有する場合、フィラーをスペーサとして使用することができる。
【0050】
フィラーの粒子径は、積層フィルム30をスリットして得られるテープの用途に応じて定めることができる。例えば、このテープを電子部品の実装に使用する場合、フィラーの粒子径は好ましくは1μm以上、より好ましくは2.5μm以上30μm以下である。
ここで、粒子径は平均粒子径を意味する。平均粒子径は、積層フィルム30の粘着層32の平面画像又は断面画像から求めることができる。また、フィラーを積層フィルム30の粘着層32に含有させる前の原料粒子としてのフィラーの平均粒子径は湿式フロー式粒子径・形状分析装置FPIA-3000(マルバーン・パナリティカル社)を用いて求めることができる。N数は1000以上、好ましくは2000以上、より好ましくは5000以上である。一方、フィラーには粒子径1μm未満のものが含まれていてもよい。粒子径1μm未満のフィラー(所謂ナノフィラー)としては粘度調整用の充填剤などを挙げることができる。この大きさは電子顕微鏡(TEM、SEM)の観察によって求めることができる。N数は200以上が好ましい。
【0051】
フィラーとして、量子ドットのように機能性を持ったものが含まれてもよい。このようなフィラーの大きさとしては特に限定はないが、2nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。この大きさも電子顕微鏡(TEM、SEM)の観察によって求めることができる。N数は200以上が好ましい。
【0052】
本発明において、以下に述べるフィラーは、特に断りが無い限り、前述の粒子径1μm以上のフィラーを指す。即ち、表面改質剤や充填剤として用いられるナノフィラーは、除かれる。
【0053】
粘着層において、フィラーは樹脂中に混練りされてランダムに分散していてもよく、平面視で個々に非接触であってもよく、平面視で所定配列を繰り返す規則的な配置となっていてもよい。フィラーの個数密度は、フィルムのスリットに影響しない範囲で適宜調整し、面視野において例えば、30~100000個/mm2とすることができる。この個数密度は、平面視で光学顕微鏡や金属顕微鏡を用いて粘着層中のフィラーを観察し、10箇所以上の領域を合計2mm2以上とし、フィラー数合計が200以上になるようにして計測することが好ましい。
【0054】
(粘着層を形成する樹脂組成物)
一方、粘着層32を形成する樹脂組成物は、積層フィルム30をスリットして得られるテープの用途、フィラーの有無等に応じて粘着性又は接着性を示すものが適宜選択され、熱可塑性樹脂組成物、高粘度粘着性樹脂組成物、又は硬化性樹脂組成物等から形成することができる。例えば、テープを電子部品の実装等に使用する接着材とする場合、WO2018/074318A1公報に記載の絶縁性樹脂層を形成する樹脂組成物と同様に、粘着層を形成する樹脂組成物を、重合性化合物と重合開始剤を含む硬化性樹脂組成物とすることができる。硬化性樹脂組成物を含まない、所謂ホットメルトタイプの接着材であってもよい。
【0055】
硬化性樹脂組成物の重合開始剤としては熱重合開始剤を使用してもよく、光重合開始剤を使用してもよく、それらを併用してもよい。例えば、熱重合開始剤として熱カチオン系重合開始剤、熱重合性化合物としてエポキシ樹脂を使用し、光重合開始剤として光ラジカル重合開始剤、光重合性化合物としてアクリレート化合物を使用する。熱重合開始剤として、熱アニオン系重合開始剤を使用してもよい。熱アニオン系重合開始剤としては、イミダゾール変性体を核としその表面をポリウレタンで被覆してなるマイクロカプセル型潜在性硬化剤を用いることが好ましい。
【0056】
このような絶縁性樹脂組成物で形成される粘着層全体としての最低溶融粘度は、特に制限はないがフィルム形成の点から100Pa・s以上とすることができ、粘着層32を物品に熱圧着するときのフィラーの不用な流動を抑制するため、好ましくは1500Pa・s以上とする。一方、最低溶融粘度の上限については、特に制限はないが、一例として、好ましくは15000Pa・s以下、より好ましくは10000Pa・s以下である。この最低溶融粘度は、一例として回転式レオメータ(TA Instruments社製)を用い、測定圧力5gで一定に保持し、直径8mmの測定プレートを使用し求めることができ、より具体的には、温度範囲30~200℃において、昇温速度10℃/分、測定周波数10Hz、前記測定プレートに対する荷重変動5gとすることにより求めることができる。なお、最低溶融粘度の調整は、溶融粘度調整剤として含有させる微小固形物の種類や配合量、樹脂組成物の調整条件の変更などにより行うことができる。
【0057】
(粘着層の粘着力)
・剥離可能性
粘着層32の基材フィルム31及びカバーフィルム33に対する粘着力は、粘着層32を、該テープの用途ごとに所定の物品に貼着した場合の粘着層32の粘着力よりも弱く、基材フィルム31及びカバーフィルム33が粘着層32から剥離可能となっている。通常、カバーフィルム33を剥離後、粘着層32を物品に貼り付けて基材フィルム31の剥離可能性を評価する。基材フィルム31及びカバーフィルム33が粘着層32から剥離可能であるとは、前述の通り、基材フィルム31又はカバーフィルム33にセロハンテープを貼って剥がすことにより、またはピンセットで基材フィルム31又はカバーフィルム33の端を摘まんで剥がすことにより、これらを粘着層32から容易に剥離できることをいうが、この具体的な指標としては、スリット前の積層フィルムを幅5cm、長さ15cmにカットし、剥離試験としてT型剥離試験(JIS K 6854)をした場合に、接着強さが0.005~0.2Nであることを挙げられる。基材フィルム31の材質や厚みなどによっては、180°剥離試験や90°剥離試験によって評価してもよい。セロハンテープを使って基材フィルム31と粘着層32からカバーフィルム33を先に剥がし、粘着層32を物品に貼りつけた後、基材フィルム31をピンセットで剥がすのが一般的である。
【0058】
・安定性
一方、積層フィルム30をテープにスリットし、巻き取り装置でテープをリールに巻き取って巻装体とするときや、巻装体にしたテープを接着材として使用する際に巻装体を接続装置に装着して巻装体からテープを引き出すときには、テープの長さ方向にテープにテンション(張力)がかかる。そこで、このようなテンションがかかった場合に基材フィルム31と粘着層32が剥離しないようにすることが好ましい。即ち、従来、接続装置で巻装体に求められるテープ長は通常5m以上、好ましくは10m以上であり、巻装体からテープを引き出すときにテープの長さ方向にかかるテンションは1~5N程度が一般的である。さらに、接続装置の稼働中に不具合が発生した場合にはリールにロックがかかり、テープに5~6Nのテンションがかかることがある。このため、テープには5N程度の負荷がかかることを想定する必要がある。そこで、このテンションにおいて基材フィルムと粘着層との貼着状態やリールと基材フィルムとの接続(リールから出したリードと基材フィルムとの、シリコンテープなどの接着フィルムによる接続、又は超音波溶着)が維持されるようにすることが好ましい。
【0059】
しかしながらテープを細幅にした場合に従前のテンションをテープにかけると基材フィルムが破断したり、基材フィルムと粘着層が剥離したりすることが場合によっては懸念される。そこで、既存設備をできる限り活かして細幅のテープの巻き取りや引き出しを行う場合にテープの長さ方向にかけるテンションは0.5N程度とすればよく、1N未満とすることが好ましい。上限については、好ましくは0.7N以下、より好ましくは0.3N以下である。
【0060】
このような巻き取りや引き出しを可能とする実用上の要請から、粘着層32には、本発明の方法で幅0.1mm以上0.5mm以下にスリットした積層テープの長さ1m以上、好ましくは5m以上のものに、長さ方向に0.5N以上、好ましくは1N、より好ましくは5Nの張力をかけた場合に、基材フィルム31及びカバーフィルム33が粘着層32から剥離しないという安定性が求められる。なお、前述の剥離可能性は、基材フィルム31及びカバーフィルム33に対する粘着層32の粘着力の上限に関する性質であるが、この安定性は粘着力の下限に関する性質である。
【0061】
安定性の試験は簡易的に行うことが好ましい。そこで試験方法としては、積層テープの試験長を1mとし、長さ1mに裁断した積層テープの一端を固定し、他端に0.5N、好ましくは1N、より好ましく5Nを負荷し、基材フィルム31と粘着層32との剥離の有無を観察する試験をあげることができる。また、より実用的な試験方法としては、巻装体からテープを1m以上引き出し、その端部に0.3N、0.5N、1N、又は5Nを負荷し、剥離の有無を観察する試験をあげることができる。また、巻装体からテープの全長を引き出し、任意の20か所以上、好ましくは50か所以上で剥離の有無を観察してもよい。このような試験において、実用上必要とされる粘着力の指標の一例としては、(i)積層フィルムを本発明の方法で幅0.1mm以上0.5mm以下の積層テープにスリットし、カバーフィルムを剥がして粘着層と基材フィルムのテープの巻装体とし、巻装体からテープを長さ1m引き出してリールの巻き芯とテープの繋ぎ位置を固定し、テープ端部への静荷重の負荷により0.3N、好ましくは0.5N、より好ましくは1N、さらに好ましくは5Nのテンションを、繋ぎ位置角α(特開2017-137188号公報)を90°としてかけた場合に、基材フィルムが粘着層から剥離しないこと、また、引き出しに影響するほどのはみ出しが発生しないこと(ii)本発明の方法で積層フィルムを幅0.1mm以上0.5mm以下にスリットした積層テープから任意に切り取った試験長さ1mの試験片において、該試験片の長さ方向に0.5N、好ましくは1N、より好ましくは5Nの張力をかけた場合に、基材フィルム31が粘着層32から剥離しないこと、(iii)粘着層と基材フィルムのテープを0.5Nで巻き芯に5m以上巻き付けた巻装体から手でテープを全て引き出した場合にテープの全長にわたって粘着層と基材フィルムの剥がれが目視で確認されないこと(詳細は後述の実施例に記載)、をあげることができる。簡易的に試験する点からは(iii)の方法が好ましい。試験長1m程度に裁断し、手で両端に負荷(おおよそ1N~5N程度)をかけた場合に、基材フィルムと粘着層の剥離が発生しないことを確認してもよい。
【0062】
積層テープが上述の粘着力を有すると、この積層テープを好ましくは長さ5m以上、10m以上、50m以上、さらには長さ100m以上の巻装体に巻き、その巻装体からテープを好ましくは1m以上、より好ましくは5m以上引き出した場合でも、引き出したテープにおいて基材フィルム31が粘着層32から剥離しないようにすることができ、このテープを電子部品の実装に供することができる。
【0063】
・接続対象物に対する粘着力
一方、電子部品、基板等の接続対象物に対する粘着力という観点から粘着層に求められる粘着力の試験方法としては、積層テープから任意に採取した長さ2cmの小片(上述の(ii)の1mの積層テープの試験片を裁断した小片でもよい)を素ガラスに粘着層側から仮貼りし(例えば45℃で貼り付け)、ピンセットで基材フィルム31(またはカバーフィルム33)の端のみをつまんで取り除く剥離試験を行い、その剥離試験において基材フィルム31(またはカバーフィルム33のみ)を取り除くことができ、粘着層は素ガラスに形状が変化せずに貼着したままとすることができた場合を成功とする方法をあげることができる。この剥離試験では、N数が20以上で75%以上の成功が好ましく、80%以上の成功がより好ましく、90%以上の成功がさらに好ましい。
【0064】
(繋ぎテープの貼着)
積層フィルム30には、巻装体の巻始めや巻出時のリードを取り付けるため、又は第1の積層フィルムと第2の積層フィルムを貼り合わせて長尺化するために、積層フィルム30に繋ぎテープが貼着されていてもよい。繋ぎ箇所は規則的にまたはランダムに複数箇所とすることができる。また、積層フィルムとリードとの取り付けにおいては、積層フィルム30の基材フィルム31とリードとを繋ぎテープで繋ぎ合わせることができる。積層フィルムのリードへの取り付けは、超音波溶着などの公知の手法であってもよい。
【0065】
繋ぎテープとしては、剥離性が高く、総厚みが比較的薄い基材付粘着テープ(例えば、シリコンテープ)を使用することができる。繋ぎ箇所は規則的にまたはランダムに複数箇所とすることができる。繋ぎテープの厚みは特に制限はないが、5~75μmが一例として挙げられる。
【0066】
積層フィルム30に繋ぎテープが貼着されている部分をスリットするときには、上刃11が積層フィルム30及び繋ぎテープの積層体に深く入り込む。そのため、従前のスリット装置によれば、上刃11の侵入側の積層体の面は、隣接する刃同士の間隔が著しく狭まり、その反対側の面に対して上刃11の側面から強い圧縮力を受け、カバーフィルム33又は基材フィルム31と粘着層32とが剥離したり、スリットした積層体の側面から粘着層32がはみ出たりしやすくなる。これに対し、本発明によれば、上刃11に鎬が2段階に形成されており、上刃11の先端側が従前のフラット刃よりも細幅になるので、積層フィルム30及び繋ぎテープの積層体に上刃11が深く入り込んでも、積層体は上刃11の側面から強い圧縮力を受けることがなく、積層フィルム30に繋ぎテープが貼着されていても、カバーフィルム33又は基材フィルム31と粘着層32とが剥離したり、巻装体において粘着層32がはみ出したりすることを抑制することができる。細幅のテープでは広幅のテープに比して、テープ横断面積あたりに加わるスリット幅方向の力が相対的に大きくなることから粘着層のはみ出しが発生し易くなる。したがって、粘着層32のはみ出し抑制は、テープ幅が狭くなると難易度が高くなると言える。隆起の抑制についても同様にテープ幅が狭くなると難易度が高くなる。
【0067】
<積層テープ>
本発明の積層テープは、上述のスリット方法で積層フィルム30をスリットして得られるテープである。したがって、このテープは、基材フィルムに粘着層が剥離可能に積層されている積層テープであって、テープ幅の上限について0.5mm以下、好ましくは0.5mm未満、より好ましくは0.4mm以下である。下限は、0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.25mm以上である。
【0068】
この積層テープではそのテープ幅方向の一端で基材フィルム31が隆起することが抑制されており、基材フィルム31に隆起部36が存在する場合でも隆起部のテープ幅方向の幅はテープ幅の7%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下であるため、実使用上問題がない。積層テープから複数の巻装体(リール体ともいう)を製造した場合に、その中の一つの巻装体において上述のように隆起が抑制されているだけでなく、或る積層テープから同時に製造した他の巻装体(所謂、同一ロットの巻装体)や、異なる時期に製造した同様の巻装体(ロットの異なる巻装体)の全てにおいて、上述のように隆起が抑制されていることが好ましい。本発明は、同一ロットに属する全ての巻装体や、さらには異なるロットに属する全ての巻装体においても、剥離やはみ出しといった不具合を生じさせないことを可能とする。
【0069】
この積層テープは、該テープから任意に切り取った試験片長さ1mの試験片の一端を固定し、他端に0.5Nもしくは1Nの張力をかけた場合に、基材フィルムと粘着層とが剥離せず、巻装体では粘着層32のはみ出しがないという特徴を有する。またこの積層テープは、該テープを長さ2cmの小片に切って粘着層を素ガラスに貼り、ピンセットで基材フィルム31またはカバーフィルム33の端のみを摘まんで取り除いた場合に、粘着層が素ガラスから剥離せず基材フィルム又はカバーフィルム33のみが取り除かれるという実用上の要請を満たし、所謂、貼着や転着を可能とする。
【0070】
取り扱い性の点からこの積層テープを巻装体とすることが好ましい。巻装体のテープ長さは、実用上の点から好ましくは5m以上5000m以下、より好ましくは50m以上1000m以下、さらに好ましくは500m以下である。一般にテープ幅が細幅になると巻装体ではブロッキングが生じやすくなるが、本発明の積層テープによれば巻装体でブロッキングが生じにくく、巻装体から積層テープを5m以上引き出しても、引き出した積層テープに、基材フィルム31やカバーフィルム33と粘着層32との間に剥離は生じない。
【0071】
なお、一般に、積層フィルムをスリットして得られる積層テープのスリットの切り口となる端部には目視において浮き(変色部分)が生じる場合がある。テープ幅が0.5mm以下と細幅になると、積層テープの端部の浮きが、基材フィルムと粘着層の不用な剥離を生じさせる要因になりかねない。しかしながら、本発明によれば鎬が2段に形成されている鋭いフラット刃で積層フィルムをスリットするので、巻装体を形成するテープ全長から任意に20カ所以上、好ましくは50カ所以上で浮きの有無を目視観察により調べても、浮きは観察されにくい。積層テープのスリットの切り口に沿った端部に浮きが観察される場合でも浮きの長さは5cm未満、幅はテープ幅に対して40%以下、特に1/3以下であり、基材フィルムと粘着層との剥離を抑えることができる。
【0072】
このように本発明の積層テープによれば基材フィルムと粘着層がずれにくく、ブロッキングや浮きが生じにくいので、巻装体の巻き取り、引き出しの作業性がよく、巻装体から引き出して切り取ったテープを対象部材に貼り付ける際には貼り付け位置にずれが生じにくい。よって、本発明の積層テープは、細幅の粘着材又は接着材として種々の用途に使用することができる。その場合、粘着層32を構成する樹脂組成物の種類等はテープを貼り付ける対象部材に応じて適宜選択される。
【実施例】
【0073】
図4Aに示した形状の上刃をピッチp0.4mmで配列させた上刃ロールと、
図5Aに示した形状の下刃を配列させた下刃ロールを用いて、基材フィルムが厚さ38μmの剥離処理されたPETフィルムで形成され、粘着層が厚さ10μmのアクリル系熱硬化性樹脂(接着性フィルム、デクセリアルズ製)で形成された積層フィルムをシェアカット方式にて1回で幅0.4mm、長さ100mのテープにスリットし、φ90mmのフランジ付き巻芯(フランジ間距離0.5mm)に張力0.3~0.7Nをかけて巻き取ることで巻装体とした。また、スリットの都度に刃の研磨を行い、累計でテープ長さ1000mの巻装体を得た。こうして得られた巻装体に次の評価を行った。
【0074】
(1)隆起
スリットにより得られた幅0.4mmのテープを、合計スリット長800m、900m、1000mの位置でテープ幅方向にナイフで切断し、その断面を光学顕微鏡(1000倍)で観察したところ、基材フィルムに隆起は認められなかった。
【0075】
(2)浮き
巻装体とした100mのテープを全て手で引き出し、その全長にわたって粘着層と基材フィルムとに剥離がないこと確認した。粘着層のはみ出しの発生もなく、フランジへの粘着層の付着も確認できなかった。引き出したテープの任意の位置における長さ10cmの試験領域20カ所を目視観察し、浮きの有無に関する次の項目a、b、cに基づいて次の基準で評価した。
【0076】
a:長さ5cm以上の浮きがない
b:幅がテープ幅の1/3を超える浮きがない
c:長さ5cm未満の浮きまたは幅がテープ幅の1/3以下の浮きの存在箇所が5カ所以下
評価A:abcをすべて満たす場合
評価B:abを共に満たす場合
評価C:上記の評価Aおよび評価B以外
【0077】
その結果、評価結果は評価Aであった。なお、実用上は評価Bを満たせば問題なく、さらにcを満たすことが好ましい。手で引き出した際、作業性に支障を来す粘着層のはみ出しの発生はなく、フランジへの粘着層の付着も確認できなかった。
【0078】
(3)剥離試験、はみ出し(ブロッキング)
巻装体から長さ5mのテープを引き出し、その一端を固定し、他端に50g(0.5N)の重りをつけてテープを吊り下げ、35℃で6時間放置し、放置後のテープに対して、基材フィルムと粘着層との剥離及び浮きの有無を目視観察した。
【0079】
その結果、基材フィルムと粘着層との剥離は生じず、浮きも観察されなかった。また、巻装体からのテープの引き出しに不具合を生じさせるような粘着層のはみ出しはなかった。即ち、特開2017-137188号公報等に記載のはみ出しやブロッキングはなかった。長さを1mにしても同様の結果が得られた。
【0080】
(4)粘着性試験
巻装体から長さ2cmのテープを任意に20個切り出し、各テープのカバーフィルムを剥離除去し、ホットプレート(45℃)上の素ガラス(フロート板ガラス)に粘着層を貼り付けた。その後、ピンセットを用いてテープ表面の一端の基材フィルムを摘まみ、粘着層が素ガラスに貼着したままとなるか否かを目視観察した。
【0081】
その結果、粘着層が素ガラスに完全に残存した成功例は20個中20個であった。
【0082】
なお、上述した(1)~(4)の試験結果は、基材フィルムの厚さが38μmの場合に限らず、条件の調整によって基材フィルムは厚くしても薄くしてもよいと考えられる。
【符号の説明】
【0083】
1 スリット装置
2 フィルム巻出装置
3 フィルム
4、4a、4b テープ
4p 鎬側のテープ端部
5 スプライス部
7a、7b、7c 巻取装置
10 上刃ロール
11 上刃
11a 刃先
11b 鎬
11b1 第1の鎬
11b2 第2の鎬
11c 段部
11x フラット面
20 下刃ロール
21 下刃
21a 刃先
21b 面
22 段差
30 積層フィルム
31 基材フィルム
32 粘着層
33 カバーフィルム
36 隆起部
α 上刃の刃角
F 側圧 圧縮力
h1 第1の鎬と刃先との上刃の半径方向の距離
h2 第2の鎬と刃先との上刃の半径方向の距離
h4 上刃と下刃の重なり量
L1、L2 回転軸
p 上刃のピッチ
w 隆起部の幅
w1 下刃の刃先の幅
γ 傾斜角
β 角度