(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/22 20060101AFI20240828BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20240828BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
B60C9/22 C
B60C9/00 D
B60C11/00 B
(21)【出願番号】P 2020151976
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】藤城 雅之
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-227013(JP,A)
【文献】特開2010-012828(JP,A)
【文献】特開2017-105884(JP,A)
【文献】特開2003-182307(JP,A)
【文献】特開2014-121922(JP,A)
【文献】特開2015-227086(JP,A)
【文献】特開2007-069408(JP,A)
【文献】特開2013-043548(JP,A)
【文献】特開2016-210937(JP,A)
【文献】国際公開第2020/075830(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/22
B60C 9/00
B60C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部におけるカーカス層の外周側に複数層のベルト層が配置され、該ベルト層の外周側に複数本のカバーコードを含むストリップ材をタイヤ周方向に沿って複数周巻回してなるベルトカバー層が配置された空気入りタイヤにおいて、
前記ベルト層の幅方向中心位置から両外側へそれぞれ前記ベルト層の幅の25%の位置までの領域をセンター部としたとき、該センター部では前記ストリップ材の周回部分が互いに離間するように配置され、前記センター部における前記ストリップ材のストリップ間隔をWpc(mm)とし、前記ストリップ材のストリップ高さをHc(mm)としたとき、2.07×Hc
-0.976≦(2×Hc+2×Wpc)/(Hc×Wpc)≦6.09×Hc
-0.419の関係を満足し、
前記センター部における前記カバーコードの44N時の引張剛性をSc(N/mm)とし、前記センター部の幅をWb(mm)とし、前記センター部における前記カバーコードの総本数をEb(本)としたとき、100≦Sc×Eb×50/Wb≦1600の関係を満足し、
前記トレッド部がキャップトレッドゴム層とアンダートレッドゴム層とを有し、該アンダートレッドゴム層は、ジエン系ゴム100重量部に対して、CTAB吸着法による比表面積が135m
2/g~215m
2/gの範囲にあるシリカが8重量部~35重量部配合されたゴム組成物から構成されることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ベルト層の幅方向最外側の両端部から幅方向中心側へそれぞれ前記ベルト層の幅の15%の位置までの領域をショルダー部とし、各ショルダー部における前記カバーコードの44N時の引張剛性をSs(N/mm)とし、各ショルダー部の幅をWs(mm)とし、各ショルダー部における前記カバーコードの総本数をEs(本)としたとき、0.25≦(Sc×Eb×Ws)/(Ss×Es×Wb)<1の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ストリップ材のストリップ高さHcが0.5mm≦Hc≦1.3mmの範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ベルト層の幅方向最外側の両端部から幅方向中心側へそれぞれ前記ベルト層の幅の15%の位置までの領域をショルダー部とし、前記ショルダー部における前記ストリップ材のストリップ間隔をWps(mm)とし、前記ストリップ材のストリップ幅をWc(mm)としたとき、0≦Wps/Wc≦0.5の関係を満足することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記カバーコードの総繊度が1100dtex以上6000dtex未満であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記カバーコードが芳香族ポリアミド繊維を含み、前記カバーコード中の前記芳香族ポリアミド繊維の含有量が65重量%以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記アンダートレッドゴム層を構成するゴム組成物に、ジエン系ゴム100重量部に対して、窒素吸着比表面積N
2SAが70m
2/g~150m
2/gの範囲にあるカーボンブラックが45重量部~70重量部配合されていることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記アンダートレッドゴム層を構成するゴム組成物に、シリカ100重量部に対して、カーボンブラックが200重量部~700重量部配合されていることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト層の外周側に複数本のカバーコードを含むストリップ材をタイヤ周方向に沿って複数周巻回してなるベルトカバー層が配置された空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、ベルトカバー層のストリップ材を間隔を空けて配置することで軽量化を図りつつ、エア溜りに起因する加硫故障の発生を抑制し、更には、高速走行時における操縦安定性を良好に維持することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、トレッド部におけるカーカス層の外周側に複数層のベルト層が配置され、該ベルト層の外周側に複数本のカバーコードを含むストリップ材をタイヤ周方向に沿って複数周巻回してなるベルトカバー層が配置されている(例えば、特許文献1参照)。このようなベルトカバー層をベルト層の外周側に配置することにより、高速耐久性に代表されるタイヤ特性を改善することができる。
【0003】
近年、空気入りタイヤの軽量化が厳しく求められており、空気入りタイヤを構成する各部材についても質量減の要求が高まっている。ベルトカバー層においても例外ではなく、例えば、ストリップ材を間隔を空けて配置することで軽量化を図ることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、ベルト層の外周側においてストリップ材を間隔を空けて配置した場合、ストリップ材の互いに離間した周回部分の相互間にエア溜りに起因する加硫故障が発生し易いという欠点がある。また、ハイパフォーマンスタイヤにおいては、ベルトカバー層のストリップ材の間隔を空けた場合、高速走行時における操縦安定性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-156887号公報
【文献】特開2017-7376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ベルトカバー層のストリップ材を間隔を空けて配置することで軽量化を図りつつ、エア溜りに起因する加硫故障の発生を抑制し、更には、高速走行時における操縦安定性を良好に維持することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、トレッド部におけるカーカス層の外周側に複数層のベルト層が配置され、該ベルト層の外周側に複数本のカバーコードを含むストリップ材をタイヤ周方向に沿って複数周巻回してなるベルトカバー層が配置された空気入りタイヤにおいて、
前記ベルト層の幅方向中心位置から両外側へそれぞれ前記ベルト層の幅の25%の位置までの領域をセンター部としたとき、該センター部では前記ストリップ材の周回部分が互いに離間するように配置され、前記センター部における前記ストリップ材のストリップ間隔をWpc(mm)とし、前記ストリップ材のストリップ高さをHc(mm)としたとき、2.07×Hc-0.976≦(2×Hc+2×Wpc)/(Hc×Wpc)≦6.09×Hc-0.419の関係を満足し、
前記センター部における前記カバーコードの44N時の引張剛性をSc(N/mm)とし、前記センター部の幅をWb(mm)とし、前記センター部における前記カバーコードの総本数をEb(本)としたとき、100≦Sc×Eb×50/Wb≦1600の関係を満足し、
前記トレッド部がキャップトレッドゴム層とアンダートレッドゴム層とを有し、該アンダートレッドゴム層は、ジエン系ゴム100重量部に対して、CTAB吸着法による比表面積が135m2/g~215m2/gの範囲にあるシリカが8重量部~35重量部配合されたゴム組成物から構成されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、ベルト層の外周側に複数本のカバーコードを含むストリップ材をタイヤ周方向に沿って複数周巻回してなるベルトカバー層が配置された空気入りタイヤにおいて、センター部ではストリップ材の周回部分が互いに離間するように配置され、センター部におけるストリップ材のストリップ間隔をWpc(mm)とし、ストリップ材のストリップ高さをHc(mm)としたとき、2.07×Hc-0.976≦(2×Hc+2×Wpc)/(Hc×Wpc)≦6.09×Hc-0.419の関係を満足することにより、ストリップ材の使用量を削減して軽量化を図りつつ、エア溜りに起因する加硫故障の発生を抑制することができる。また、センター部における幅50mm当たりのベルトカバー層の剛性(Sc×Eb×50/Wb)及びアンダートレッドゴム層におけるシリカの配合量を規定することにより、ベルトカバー層のストリップ材の間隔を空けた場合であっても、高速走行時における操縦安定性を良好に維持することができる。
【0009】
本発明において、ベルト層の幅方向最外側の両端部から幅方向中心側へそれぞれベルト層の幅の15%の位置までの領域をショルダー部とし、各ショルダー部におけるカバーコードの44N時の引張剛性をSs(N/mm)とし、各ショルダー部の幅をWs(mm)とし、各ショルダー部における前記カバーコードの総本数をEs(本)としたとき、0.25≦(Sc×Eb×Ws)/(Ss×Es×Wb)<1の関係を満足することが好ましい。このようにショルダー部における単位幅当たりのベルトカバー層の剛性(Ss×Es/Ws)に対するセンター部における単位幅当たりのベルトカバー層の剛性(Sc×Eb/Wb)の比を上記範囲に規定することにより、必要とされるタイヤ特性を維持しつつ軽量化を達成することが可能となる。
【0010】
ストリップ材のストリップ高さHcは0.5mm≦Hc≦1.3mmの範囲にあることが好ましい。これにより、ベルトカバー層に基づく高速耐久性と軽量化をより高い次元で両立することができる。
【0011】
また、ベルト層の幅方向最外側の両端部から幅方向中心側へそれぞれベルト層の幅の15%の位置までの領域をショルダー部とし、ショルダー部におけるストリップ材のストリップ間隔をWps(mm)とし、ストリップ材のストリップ幅をWc(mm)としたとき、0≦Wps/Wc≦0.5の関係を満足することが好ましい。センター部において軽量化とエア溜り抑制効果を両立させる一方で、ショルダー部において0≦Wps/Wc≦0.5の関係を満足することにより、ベルトカバー層に基づく補強効果を十分に確保することができる。
【0012】
更に、カバーコードの総繊度は1100dtex以上6000dtex未満であることが好ましい。これにより、ベルトカバー層に基づく高速耐久性と軽量化をより高い次元で両立することができる。
【0013】
カバーコードは芳香族ポリアミド繊維を含み、カバーコード中の芳香族ポリアミド繊維の含有量は65重量%以上であることが好ましい。このように芳香族ポリアミド繊維を含むカバーコードを使用することにより、高速走行時における操縦安定性を効果的に改善することができる。
【0014】
アンダートレッドゴム層を構成するゴム組成物には、ジエン系ゴム100重量部に対して、窒素吸着比表面積N2SAが70m2/g~150m2/gの範囲にあるカーボンブラックが45重量部~70重量部配合されていることが好ましい。これにより、アンダートレッドゴム層の発熱を抑制しながら、アンダートレッドゴム層に基づく補強効果を十分に確保することができる。
【0015】
アンダートレッドゴム層を構成するゴム組成物には、シリカ100重量部に対して、カーボンブラックが200重量部~700重量部配合されていることが好ましい。これにより、アンダートレッドゴム層に基づく補強効果を得るにあたって、加工性の低下や加硫故障の発生を回避することができる。
【0016】
本発明は、各種用途の空気入りタイヤに対して適用可能であるが、特にトレッド部にキャップトレッドゴム層とアンダートレッドゴム層とを備えたハイパフォーマンスタイヤとして有効である。ハイパフォーマンスタイヤとは、例えば、速度レンジがWレンジ以上のタイヤである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】
図1の空気入りタイヤのベルト層及びベルトカバー層を抽出して示す断面図である。
【
図3】本発明の空気入りタイヤにおけるストリップ材のストリップ高さHcと(2Hc+2Wpc)/(Hc×Wpc)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示し、
図2はそのベルト層及びベルトカバー層を抽出して示すものである。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
【0020】
一対のビード部3,3間にはタイヤ径方向に延びる複数本のカーカスコードを含むカーカス層4が装架されている。カーカス層4を構成するカーカスコードとしては、レーヨン、ナイロン、ポリエステル等の有機繊維コードが好ましく使用される。カーカス層4のタイヤ周方向に対するコード角度は75°~90°、好ましくは、80°~87°の範囲に設定されている。カーカス層4はビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられている。つまり、カーカス層4はビードコア5を境とする本体部4aと巻き上げ部4bとから構成されている。
【0021】
各ビード部3において、ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6はカーカス層4の本体部4aと巻き上げ部4bとの間に挟み込まれている。また、ビード部3には、タイヤ周方向に傾斜する有機繊維コードを含む有機繊維補強層9がビードコア5及びビードフィラー6を包み込むように埋設されていることが好ましい。
【0022】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。ベルト層7は、タイヤ径方向内側に位置する内周側ベルト層7Aと、タイヤ径方向外側に位置する外周側ベルト層7Bとを含んでいる。内周側ベルト層7Aは外周側ベルト層7Bよりも広幅である。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本のベルトコードを含み、かつ層間でベルトコードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、ベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7のベルトコードとしては、スチールコードが好ましく使用される。
【0023】
ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、カバーコードをタイヤ周方向に対して5°以下の角度で配列してなるベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8は、
図2に示すように、複数本のカバーコード81を引き揃えてゴム被覆してなるストリップ材80をタイヤ周方向に沿って連続的に複数周巻回したジョイントレス構造を有している。ベルトカバー層8を構成するストリップ材80は、ベルト層7の幅方向の全域にわたって配置されているが、後述するように、その配置形態がベルト層7の幅方向の位置に応じて適正化されている。ベルトカバー層8のカバーコード81としては、ナイロン、ポリエステル、アラミド、又はそれらのハイブリッドコード等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0024】
また、トレッド部1には、タイヤ外表面に露出するキャップトレッドゴム層1Aと、キャップトレッドゴム層1Aとベルトカバー層8との間に位置するアンダートレッドゴム層1Bとが配置されている。そして、キャップトレッドゴム層1Aとアンダートレッドゴム層1Bとの積層構造を有するトレッド部1には、タイヤ周方向に延びる複数本の主溝10が形成されている。
【0025】
上記空気入りタイヤにおいて、
図2に示すように、ベルト層7の幅方向中心位置から両外側へそれぞれベルト層7の幅WBの25%の位置までの領域をセンター部Ceとする。ここで、ベルト層7の幅方向中心位置はタイヤ中心線CLと一致している。また、ベルト層7の幅WBは最も広い内周側ベルト層7Aの幅である。このようにセンター部Ceを規定したとき、センター部Ceではストリップ材80の周回部分が互いに離間するように配置されている。そして、センター部Ceにおけるストリップ材80のストリップ間隔をWpcとし、ストリップ材80のストリップ高さをHcとしたとき、2.07×Hc
-0.976≦(2×Hc+2×Wpc)/(Hc×Wpc)≦6.09×Hc
-0.419の関係を満足している。ストリップ高さHcはストリップ材80の厚さである。
【0026】
図3は本発明の空気入りタイヤにおけるストリップ材80のストリップ高さHcと(2Hc+2Wpc)/(Hc×Wpc)との関係を示し、横軸がストリップ高さHcであり、縦軸が(2Hc+2Wpc)/(Hc×Wpc)である。つまり、
図3に示すように、ストリップ材80のストリップ高さHcは、(2×Hc+2×Wpc)/(Hc×Wpc)=2.07×Hc
-0.976と(2×Hc+2×Wpc)/(Hc×Wpc)=6.09×Hc
-0.419とで挟まれた範囲内の値に設定されている。
【0027】
上記空気入りタイヤでは、ベルト層7の外周側に複数本の補強コード81を含むストリップ材80をタイヤ周方向に沿って複数周巻回してなるベルトカバー層8を配置するにあたって、センター部Ceではストリップ材80の周回部分が互いに離間するように配置され、センター部Ceにおけるストリップ材80のストリップ間隔Wpc及びストリップ材80のストリップ高さHcが上述の関係を満足することにより(例えば、
図3の「○」で示す実施例の場合)、ストリップ材80の互いに離間した周回部分の相互間にアンダートレッドゴム層1Bが円滑に流れ込むので、ストリップ材80の使用量を削減して軽量化を図りつつ、エア溜りに起因する加硫故障の発生を抑制することができる。
【0028】
ここで、(2×Hc+2×Wpc)はストリップ材80の周回部分の相互間に形成される空隙部分の断面外周長に相当し、(Hc×Wpc)はストリップ材80の周回部分の相互間に形成される空隙部分の断面積に相当するが、両者の比を上記の如く設定することにより、軽量化とエア溜り抑制効果とを両立することができる。(2×Hc+2×Wpc)/(Hc×Wpc)の値が2.07×Hc
-0.976よりも小さいと(例えば、
図3の「△」で示す比較例の場合)、ベルトカバー層8に基づく高速耐久性が低下し、更には、高速走行時における操縦安定性が悪化する。一方、(2×Hc+2×Wpc)/(Hc×Wpc)の値が6.09×Hc
-0.419よりも大きいと(例えば、
図3の「△」で示す比較例の場合)、エア溜りに起因する加硫故障が発生し易くなる。
【0029】
また、上記空気入りタイヤにおいて、センター部Ceにおけるカバーコード81の44N時の引張剛性をSc(N/mm)とし、センター部Ceの幅をWb(mm)とし、センター部Ceにおけるカバーコード81の総本数をEb(本)としたとき、100≦Sc×Eb×50/Wb≦1600の関係を満足している。このようにセンター部Ceにおける幅50mm当たりのベルトカバー層8の剛性(Sc×Eb×50/Wb)を規定することにより、ベルトカバー層8のストリップ材80の間隔を空けた場合であっても、高速走行時における操縦安定性を良好に維持することができる。ここで、Sc×Eb×50/Wbの値が100より小さいと高速走行時における操縦安定性を良好に維持することができず、逆に1600よりも大きいと軽量化が不十分になる。
【0030】
更に、上記空気入りタイヤにおいて、アンダートレッドゴム層1Bは、ジエン系ゴム100重量部に対して、CTAB吸着法による比表面積が135m2/g~215m2/gの範囲にあるシリカが8重量部~35重量部配合されたゴム組成物から構成されている。CTAB吸着法による比表面積は、JIS-K6430に準拠して測定される。このようにアンダートレッドゴム層1Bにおけるシリカの配合量を規定することにより、ベルトカバー層8のストリップ材80の間隔を空けた場合であっても、高速走行時における操縦安定性を良好に維持することができる。
【0031】
ここで、シリカのCTAB吸着法による比表面積が135m2/gよりも小さいと補強効果が不十分になり、逆に215m2/gよりも大きいと発熱し易くなると共に、コストが増大する。また、アンダートレッドゴム層1Bを構成するゴム組成物のゴム100重量部に対するシリカの配合量が8重量部よりも少ないと補強効果が不十分になり、逆に35重量部よりも多いとゴム組成物の加工性が悪化(混合時間や加硫時間の増加)することになる。
【0032】
アンダートレッドゴム層1Bに使用されるジエン系ゴムは、特に限定されるものではないが、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレン(IR)、ブラジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。例えば、天然ゴムを40重量%~80重量%含むジエン系ゴムを用いることが好ましい
【0033】
上記空気入りタイヤにおいて、ベルト層7の幅方向最外側の両端部から幅方向中心側へそれぞれベルト層7の幅WBの15%の位置までの領域をショルダー部Shとし、各ショルダー部Shの幅をWs(mm)とし、各ショルダー部Shにおけるカバーコード81の総本数をEs(本)としたとき、0.25≦(Sc×Eb×Ws)/(Ss×Es×Wb)<1の関係を満足していると良い。このようにショルダー部Shにおける単位幅当たりのベルトカバー層8の剛性(Ss×Es/Ws)に対するセンター部Ceにおける単位幅当たりのベルトカバー層8の剛性(Sc×Eb/Wb)の比を上記範囲に規定することにより、必要とされるタイヤ特性を維持しつつ軽量化を達成することが可能となる。ここで、(Sc×Eb×Ws)/(Ss×Es×Wb)の値が0.25よりも小さいとセンター部Ceの剛性が低下し、高速走行時における操縦安定性の改善効果が低下し、逆に1以上であると軽量化の改善効果が低下する。
【0034】
上記空気入りタイヤにおいて、ストリップ材80のストリップ高さHcは0.5mm≦Hc≦1.3mmの範囲にあると良い。これにより、ベルトカバー層8に基づく高速耐久性と軽量化をより高い次元で両立することができる。ここで、ストリップ材80のストリップ高さHcが0.5mmよりも小さいとカバーコード81が細くなるため高速耐久性が低下し、逆に1.3mmよりも大きいと軽量化の改善効果が低下する。
【0035】
上記空気入りタイヤにおいて、ベルト層7の幅方向最外側の両端部から幅方向中心側へそれぞれベルト層7の幅WBの15%の位置までの領域をショルダー部Shとし、ショルダー部Shにおけるストリップ材80のストリップ間隔をWps(mm)とし、ストリップ材80のストリップ幅をWc(mm)としたとき、0≦Wps/Wc≦0.5の関係を満足していると良い。上述のようにセンター部Ceにおいて軽量化とエア溜り抑制効果を両立させる一方で、ショルダー部Shにおいて0≦Wps/Wc≦0.5の関係を満足することにより、ベルトカバー層8に基づく補強効果を十分に確保することができる。ここで、Wps/Wcの値が0.5よりも大きいとショルダー部Shにおけるベルトカバー層8の剛性が低下し、エッジセパレーション等の故障を生じ易くなり、耐久性が悪化する。
【0036】
上記空気入りタイヤにおいて、カバーコード81の総繊度は1100dtex以上6000dtex未満であると良い。これにより、ベルトカバー層8に基づく高速耐久性と軽量化をより高い次元で両立することができる。ここで、カバーコード81の総繊度が1100dtexよりも小さいとベルトカバー層8に基づく補強効果が低下し、逆に6000dtexよりも大きいとベルトカバー層8の厚さが過大となるため重量が増加する。
【0037】
上記空気入りタイヤにおいて、カバーコード81は芳香族ポリアミド繊維を含み、カバーコード81中の芳香族ポリアミド繊維の含有量は65重量%以上であると良い。このように芳香族ポリアミド繊維を含むカバーコード81を使用することにより、高速走行時における操縦安定性を効果的に改善することができる。カバーコード81中の芳香族ポリアミド繊維の含有量が65重量%よりも少ないと高速走行時における操縦安定性の改善効果が低下する。なお、カバーコード81が芳香族ポリアミド繊維を含む場合、芳香族ポリアミド繊維だけで構成されるコード、又は、芳香族ポリアミド繊維ヤーンと芳香族ポリアミド繊維よりも弾性率が低いナイロン繊維等からなる低弾性繊維ヤーンとを撚り合わせたハイブリッドコードを使用することができる。
【0038】
上記空気入りタイヤにおいて、アンダートレッドゴム層1Bを構成するゴム組成物には、ジエン系ゴム100重量部に対して、窒素吸着比表面積N2SAが70m2/g~150m2/gの範囲にあるカーボンブラックが45重量部~70重量部配合されると良い。窒素吸着比表面積N2SAは、JIS-K6217-2に準拠して測定される。このようにアンダートレッドゴム層1Bを構成するゴム組成物におけるカーボンブラックの配合量を規定することにより、アンダートレッドゴム層1Bの発熱を抑制しながら、アンダートレッドゴム層1Bに基づく補強効果を十分に確保することができる。
【0039】
ここで、カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAが70m2/gよりも小さいと補強効果が不十分になり、逆に150m2/gよりも大きいと発熱し易くなると共に、コストが増大する。また、アンダートレッドゴム層1Bを構成するゴム組成物のゴム100重量部に対するカーボンブラックの配合量が45重量部よりも少ないと補強効果が不十分になり、逆に70重量部よりも多いと発熱し易くなる。
【0040】
上記空気入りタイヤにおいて、アンダートレッドゴム層1Bを構成するゴム組成物には、シリカ100重量部に対して、カーボンブラックが200重量部~700重量部配合されていると良い。これにより、アンダートレッドゴム層1Bに基づく補強効果を得るにあたって、加工性の低下や加硫故障の発生を回避することができる。ここで、シリカ100重量部に対するカーボンブラックの配合量が200重量部よりも少ないとゴム組成物の加工性が悪化し、逆に700重量部よりも多いとエア溜りに起因する加硫故障の発生を抑制することが難しくなる。なお、シリカに対するカーボンブラックの配合量の上限値(700重量部)では、カーボンブラック45phr=シリカ6.8phr、カーボンブラック70phr=シリカ10.5phrである。また、シリカに対するカーボンブラックの配合量の下限値(200重量部)では、カーボンブラック45phr=シリカ22.5phr、カーボンブラック70phr=シリカ35phrである。
【実施例】
【0041】
タイヤサイズ245/40R19で、トレッド部におけるカーカス層の外周側に複数層のベルト層が配置され、該ベルト層の外周側に複数本の補強コードを含むストリップ材をタイヤ周方向に沿って複数周巻回してなるベルトカバー層が配置された空気入りタイヤにおいて、ベルトカバー層の構造を種々異ならせた基準例1~2、実施例1~5及び比較例1~5のタイヤを製作した。
【0042】
基準例1~2、実施例1~6及び比較例1~5において、センター部におけるストリップ材のストリップ幅Wc、ストリップ間隔Wpc、ストリップ高さHc、(2Hc+2Wpc)/(Hc×Wpc)、カバーコードの44N時の引張剛性Sc、ストリップ材の圧延時の幅50mm当たりのカバーコードの打ち込み本数(ストリップ圧延時のコード打ち込み本数)、ベルトカバー層の幅50mm当たりのカバーコードの打ち込み本数(タイヤ成形時のコード打ち込み本数=Eb×50/Wb)、Sc×Eb×50/Wb;ショルダー部におけるストリップ材のストリップ幅Wc、ストリップ間隔Wps、Wps/Wc、ストリップ高さHc、(2Hc+2Wps)/(Hc×Wps)、カバーコードの44N時の引張剛性Ss、ストリップ材の圧延時の幅50mm当たりのカバーコードの打ち込み本数(ストリップ圧延時のコード打ち込み本数)、ベルトカバー層の幅50mm当たりのカバーコードの打ち込み本数(タイヤ成形時のコード打ち込み本数=Es×50/Ws)、Ss×Es×50/Ws;ショルダー部における単位幅当たりのベルトカバー層の剛性(Ss×Es/Ws)に対するセンター部における単位幅当たりのベルトカバー層の剛性の比[(Sc×Eb×Ws)/(Ss×Es×Wb)];アンダートレッドゴム層を構成するゴム組成物のカーボンブラック配合量、シリカ配合量、カーボンブラック/シリカの比を表1のように設定した。なお、シリカとしては、CTAB吸着法による比表面積が135m2/g~215m2/gの範囲にあるものを使用し、カーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積N2SAが70m2/g~150m2/gの範囲にあるものを使用した。
【0043】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、タイヤ質量、エア溜り発生量、高速操縦安定性、高速耐久性、加工性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0044】
タイヤ質量:
各試験タイヤの質量を測定した。評価結果は、基準例1を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほど軽量であることを意味する。
【0045】
エア溜り発生量:
各試験タイヤを加硫後に分解し、エア溜りの発生量を測定した。評価結果は、基準例1を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほどエア溜り発生量が少ないことを意味する。
【0046】
高速操縦安定性:
各試験タイヤをリムサイズ19×8 1/2Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、空気圧を230kPaとし、サーキットコースにおいてテストドライバーによる走行試験を実施し、高速走行時における操縦安定性について官能評価を行った。評価結果は、基準例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど高速操縦安定性が優れていることを意味する。
【0047】
高速耐久性:
各試験タイヤをリムサイズ19×8 1/2Jのホイールに組み付けてドラム耐久試験機に装着し、空気圧:220kPa、荷重:JATMA最大負荷能力の88%、初期速度:120km/hの条件にて走行試験を開始し、20分毎に速度を10km/hずつ増加させ、トレッド部に故障が発生するまでの走行距離を計測した。評価結果は、基準例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど高速耐久性が優れていることを意味する。
【0048】
加工性:
各試験タイヤについて、アンダートレッドゴム層の混錬時間と加硫時間の総和を求めた。評価結果は、基準例2を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほど加工性が優れていることを意味する。
【0049】
【0050】
表1から判るように、基準例2のタイヤは、ベルトカバー層のストリップ材の間隔を空けているため、基準例1に比べて軽量であるが、その結果、エア溜りの発生が増加し、高速操縦安定性が悪化していた。これに対して、実施例1~5のタイヤは、軽量化の効果を享受しながら、基準例2との対比において、エア溜りの発生を抑制すると共に、高速操縦安定性を改善することができた。
【0051】
一方、比較例1のタイヤは、センター部における(2Hc+2Wpc)/(Hc×Wpc)の値が大き過ぎるため、エア溜りの発生を抑制することができなかった。比較例2のタイヤは、センター部における(2Hc+2Wpc)/(Hc×Wpc)の値が小さ過ぎるため、高速操縦安定性及び高速耐久性が悪化していた。比較例3のタイヤは、センター部における(2Hc+2Wpc)/(Hc×Wpc)の値が大き過ぎると共に、Sc×Eb×50/Wbの値が高過ぎるため、エア溜りの発生が多く、タイヤ質量も増加していた。比較例4のタイヤは、センター部における(2Hc+2Wpc)/(Hc×Wpc)の値が大き過ぎると共に、アンダートレッドゴム層を構成するゴム組成物のシリカ配合量が多過ぎるため、エア溜りの発生が多く、加工性も悪化していた。比較例5のタイヤは、Sc×Eb×50/Wbの値が小さ過ぎるため、高速操縦安定性及び高速耐久性が悪化していた。
【符号の説明】
【0052】
1 トレッド部
1A キャップトレッドゴム層
1B アンダートレッドゴム層
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
7A 内周側ベルト層
7B 外周側ベルト層
8 ベルトカバー層
80 ストリップ材
81 補強コード