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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20240828BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240828BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240828BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20240828BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240828BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20240828BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240828BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
C23C28/00 A
C09D201/00
C09D7/61
B32B15/01 C
B32B15/08 Z
B32B3/30
B32B27/00 101
B32B27/18 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020156755
(22)【出願日】2020-09-17
(65)【公開番号】P2022050256
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】二葉 敬士
(72)【発明者】
【氏名】柴尾 史生
(72)【発明者】
【氏名】横道 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】久米 くるみ
(72)【発明者】
【氏名】宮田 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】新頭 英俊
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/213690(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/074102(WO,A1)
【文献】特開2007-002330(JP,A)
【文献】特開2004-156081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/00
C09D 201/00
C09D 7/61
B32B 15/01
B32B 15/08
B32B 3/30
B32B 27/00
B32B 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき鋼板であって、
母材鋼板と、
前記母材鋼板の表面上に位置し、Zn又はZn合金からなる電気亜鉛系めっき層と、
前記電気亜鉛系めっき層上に位置する複合被膜とを備え、
前記電気亜鉛系めっき層の表面は、複数の凸部と複数の凹部とを含むテクスチャを有し、
前記複合被膜は、
有機珪素化合物と、
りん酸化合物と、
V化合物と、
Zr化合物及びTi化合物のうちの少なくとも1種以上と、
フッ素化合物とを含有し、
前記電気亜鉛系めっき層の表面の表面高さプロファイルのうちの最高高さを有する最高点Hmaxと最低高さを有する最低点Hminとを特定し、前記最高点Hmaxの高さから前記最低点Hminの高さを差し引いた値である高低差Lを求め、得られた前記高低差Lの1/3倍の高さであるL/3を用いて、前記最低点HminからL/3以上の高さの連続した領域を1つの凸部と定義し、前記最低点HminからL/3未満の高さの連続した領域を1つの凹部と定義したとき、
前記テクスチャの前記凸部の平均表面粗さRaは5超~200nmであり、
前記テクスチャにおいて互いに隣り合う前記凸部及び前記凹部の平均高低差が0.3~3.0μmであり、
前記複合被膜の表面に対してマイクロ蛍光X線分析法による元素分析を実施して得られるP含有量のZn含有量に対する質量比であるP/Znの平均値を[P/Zn]aveと定義したとき、前記複合被膜の表面のうち、P/Znが[P/Zn]aveの1.2倍以上であるP濃化領域の総面積率の、前記テクスチャの前記凹部の総面積率に対する比が0.25以上である、
めっき鋼板。
【請求項2】
請求項1に記載のめっき鋼板であってさらに、
前記複合被膜の表面に対してマイクロ蛍光X線分析法による元素分析を実施して得られるP含有量のSi含有量に対する質量比の平均値である[P/Si]aveが0.15~0.25である、
めっき鋼板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のめっき鋼板であって、
前記複合被膜の表面に対してマイクロ蛍光X線分析法による元素分析を実施して得られるV含有量のSi含有量に対する質量比の平均値である[V/Si]aveが0.06~0.15である、
めっき鋼板。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のめっき鋼板であって、
前記テクスチャはヘアラインである、
めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、めっき鋼板に関し、さらに詳しくは、表面にテクスチャを備えるめっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器や建材では、外観に意匠性が求められる場合がある。このような物品の意匠性を高める手段として、めっき層を有する鋼板の表面にテクスチャを形成する技術が提案されている。
【0003】
めっき層のうち、電気亜鉛系めっき層は、溶融亜鉛系めっき層と比較して、めっき層の表面をより平坦に形成することができる。そのため、電気亜鉛系めっき層が形成されためっき鋼板は、溶融亜鉛めっき層が形成されためっき鋼板よりもテクスチャを付与しやすい。テクスチャは、鋼板の外観の意匠性を高めることができる。電気亜鉛めっき層にテクスチャを付与することにより、めっき鋼板の外観の意匠性を高めることができる。
【0004】
また、めっき鋼板は一般的に、耐食性が求められる。したがって、意匠性だけでなく、耐食性にも優れためっき鋼板が望まれている。
【0005】
耐食性を高めた鋼板が、国際公開第2007/011008号(特許文献1)、国際公開第2008/059890号(特許文献2)、国際公開第2010/061964号(特許文献3)及び、国際公開第2012/147860号(特許文献4)に開示されている。これらの文献では、めっき層上に無機化合物と有機化合物とを含有する複合被膜を形成することにより、耐食性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2007/011008号
【文献】国際公開第2008/059890号
【文献】国際公開第2010/061964号
【文献】国際公開第2012/147860号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~4では、耐食性に優れためっき鋼板を開示している。しかしながら、これらの文献では、鋼板にテクスチャが形成されていない。そのため、テクスチャが形成されためっき鋼板における、優れた意匠性及び優れた耐食性の両立の観点からの検討がなされていない。
【0008】
本開示の目的は、優れた意匠性及び優れた耐食性を両立可能なめっき鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示によるめっき鋼板は、
母材鋼板と、
前記母材鋼板の表面上に位置し、Zn又はZn合金からなる電気亜鉛系めっき層と、
前記電気亜鉛系めっき層上に位置する複合被膜とを備え、
前記電気亜鉛系めっき層の表面は、複数の凸部と複数の凹部とを含むテクスチャを有し、
前記複合被膜は、
有機珪素化合物と、
りん酸化合物と、
V化合物と、
Zr化合物及びTi化合物のうちの少なくとも1種以上と、
フッ素化合物とを含有し、
前記テクスチャの前記凸部の平均表面粗さRaは5超~200nmであり、
前記テクスチャにおいて互いに隣り合う前記凸部及び前記凹部の平均高低差が0.3~3.0μmであり、
前記複合被膜の表面に対してマイクロ蛍光X線分析法による元素分析を実施して得られるP含有量のZn含有量に対する質量比であるP/Znの平均値を[P/Zn]aveと定義したとき、前記複合被膜の表面のうち、P/Znが[P/Zn]aveの1.2倍以上であるP濃化領域の面積率の、前記テクスチャの前記凹部の面積率に対する比が0.25以上である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるめっき鋼板は、優れた意匠性及び優れた耐食性を両立可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態のめっき鋼板の断面図である。
図2図2は、図1に示すめっき鋼板を、電気亜鉛系めっき層の上方から見た平面図である。
図3図3は、図1に示すめっき鋼板の圧延方向に垂直な断面の一例を示す図である。
図4図4は、テクスチャの凸部及び凹部の延在方向に垂直な方向及びめっき鋼板の板厚方向を含む断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、ヘアラインに代表されるテクスチャを電気亜鉛系めっき層の表面に形成すれば、めっき鋼板の意匠性が高まると考えた。テクスチャは、複数の凸部と複数の凹部とを含む。テクスチャは例えば、ヘアラインである。ヘアラインは、直線上に延在する凸部と、凸部に隣接しており、凸部と同じ延在方向に延在する凹部とを含む。本発明者らは、意匠性が高まるテクスチャの形態について検討を行った。その結果、テクスチャの凸部の平均表面粗さRaが5超~200nmであり、かつ、テクスチャにおいて互いに隣り合う前記凸部及び前記凹部の平均高低差が0.3~3.0μmであれば、優れた意匠性が得られることを見出した。
【0013】
本発明者らはさらに、上述のテクスチャを有するめっき鋼板の耐食性を調査した。調査に際して、本発明者らは初めに、電気亜鉛系めっき層の表面に形成されたテクスチャを観察した。その結果、テクスチャの凹部に相当する電気亜鉛系めっき層部分の厚さは、テクスチャの凸部に相当する電気亜鉛系めっき層部分の厚さよりも薄くなっており、凹部の底に母材鋼板が露出している部分も存在し得ることが判明した。
【0014】
耐食性を高める手段として、テクスチャが形成されためっき層の表面に、特許文献1~4に開示されている複合被膜を形成することが考えられる。これらの文献に開示されている複合被膜は、有機化合物と無機化合物とを含有する。この複合被膜は、有機化合物からなる有機被膜と比較して、導電性、加工時の耐カス性、耐溶剤性、及び、塗装被膜を形成した場合の塗装被膜との密着性に優れる。しかしながら、複合被膜は有機被膜のように厚く形成しにくい。そのため、テクスチャが形成された電気亜鉛系めっき層上に複合被膜を形成した場合、特に、テクスチャの凹部で耐食性が低くなる場合があることが本発明者らの調査により判明した。
【0015】
そこで、本発明者らは、テクスチャが形成されためっき層上に形成する複合被膜について、インヒビターの含有量を従来の複合被膜と比較して増加させなくても、十分な耐食性が得られる手段について検討した。その結果、本発明者らは、複合被膜の成分のうち、電気亜鉛系めっき層中のZnと親和性が高く、耐食性を高める元素であるPの濃度に注目した。そして、複合被膜において、テクスチャの凹部に形成された複合被膜部分のP濃度を、テクスチャの凹部以外の部分(つまり凸部)に形成された複合被膜部分のP濃度よりも高めることができれば、テクスチャが形成された電気亜鉛系めっき層であっても、意匠性を高めつつ、十分な耐食性も得られると考えた。
【0016】
そこで、複合被膜において、P濃化領域をどの程度確保すれば、テクスチャが形成された電気亜鉛系めっき層であっても十分な耐食性を得ることができるかについて、本発明者らはさらに検討を行った。具体的には、複合被膜の表面に対して、マイクロ蛍光X線分析を用いて元素分析を実施して、表面の各微小領域でのP含有量(質量%)とZn含有量(質量%)とを測定した。そして、表面で測定された各微小領域でのP含有量のZn含有量に対する質量比をP/Znと定義した。さらに、各微小領域で測定されたP/Znの算術平均値を[P/Zn]aveと定義した。そして、P/Znが[P/Zn]aveの1.2倍以上とする領域を「P濃化領域」と定義した。
【0017】
本発明者らは、P濃化領域の面積率を求め、P濃化領域の総面積率及びテクスチャの凹部の総面積率と、耐食性との関係をさらに調査した。その結果、P濃化領域の面積率の、テクスチャ凹部面積率に対する比(以下、P濃化領域被覆比という)が0.25以上であれば、優れた意匠性と優れた耐食性との両立が可能であることが判明した。
【0018】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態のめっき鋼板は、次の構成を有する。
[1]
めっき鋼板であって、
母材鋼板と、
前記母材鋼板の表面上に位置し、Zn又はZn合金からなる電気亜鉛系めっき層と、
前記電気亜鉛系めっき層上に位置する複合被膜とを備え、
前記電気亜鉛系めっき層の表面は、複数の凸部と複数の凹部とを含むテクスチャを有し、
前記複合被膜は、
有機珪素化合物と、
りん酸化合物と、
V化合物と、
Zr化合物及びTi化合物のうちの少なくとも1種以上と、
フッ素化合物とを含有し、
前記テクスチャの前記凸部の平均表面粗さRaは5超~200nmであり、
前記テクスチャにおいて互いに隣り合う前記凸部及び前記凹部の平均高低差が0.3~3.0μmであり、
前記複合被膜の表面に対してマイクロ蛍光X線分析法による元素分析を実施して得られるP含有量のZn含有量に対する質量比であるP/Znの平均値を[P/Zn]aveと定義したとき、前記複合被膜の表面のうち、P/Znが[P/Zn]aveの1.2倍以上であるP濃化領域の総面積率の、前記テクスチャの前記凹部の総面積率に対する比が0.25以上である、
めっき鋼板。
【0019】
[2]
[1]に記載のめっき鋼板であってさらに、
前記複合被膜の表面に対してマイクロ蛍光X線分析法による元素分析を実施して得られるP含有量のSi含有量に対する質量比の平均値である[P/Si]aveが0.15~0.25である、
めっき鋼板。
【0020】
[3]
[1]又は[2]に記載のめっき鋼板であって、
前記複合被膜の表面に対してマイクロ蛍光X線分析法による元素分析を実施して得られるV含有量のSi含有量に対する質量比の平均値である[V/Si]aveが0.06~0.15である、
めっき鋼板。
【0021】
[4]
[1]~[3]のいずれか1項に記載のめっき鋼板であって、
前記テクスチャはヘアラインである、
めっき鋼板。
【0022】
以下、本実施形態のめっき鋼板について詳述する。
【0023】
[めっき鋼板1について]
図1は、本実施形態のめっき鋼板1の断面図である。図1において、紙面に垂直な方向を、めっき鋼板1の圧延方向RDと定義する。めっき鋼板1の板厚方向を、板厚方向TDと定義する。めっき鋼板1のうち、テクスチャの延在方向RD及び板厚方向TDに対して垂直な方向を、板幅方向WDと定義する。
【0024】
図1を参照して、本実施形態のめっき鋼板1は、母材鋼板100と、電気亜鉛系めっき層10と、複合被膜11とを備える。電気亜鉛系めっき層10は、母材鋼板100の表面上に形成されている。複合被膜11は、電気亜鉛系めっき層10上に形成されている。
【0025】
図2は、図1に示すめっき鋼板1を、複合被膜11の上方から見た平面図である。図2を参照して、めっき鋼板1の表面には、テクスチャT1が形成されている。テクスチャT1は、複数の凹部を含む。図2では、テクスチャT1はヘアラインである。ヘアラインは、一方向(図2では方向RD)に延在する複数の凸部と、凸部と同じ方向に延在する複数の凹部(溝部)とを含む。つまり、ヘアラインは線状の凹凸模様である。ヘアラインは周知のテクスチャであり、研磨ベルト等で表面を一方向に研削(研磨)することにより形成される。上述のとおり、図2では、ヘアラインの凸部及び凹部は圧延方向RDに延在している。しかしながら、ヘアラインの凸部及び凹部は、圧延方向RD以外の方向に延在していてもよい。
【0026】
以下、母材鋼板100、電気亜鉛系めっき層10、及び、複合被膜11について説明する。
【0027】
[母材鋼板100について]
母材鋼板100は、製造するめっき鋼板に求められる各機械的性質(たとえば、引張強度、加工性等)に応じて、周知のめっき鋼板(電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛合金めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板等)に適用される公知の鋼板を使用すればよい。たとえば、母材鋼板100として、電気機器用途の鋼板を使用してもよいし、建材用途の鋼板を使用してもよい。母材鋼板100は熱延鋼板であってもよいし、冷延鋼板であってもよい。
【0028】
[電気亜鉛系めっき層10について]
電気亜鉛系めっき層10は、母材鋼板100の表面100S上に位置する。つまり、電気亜鉛系めっき層10は、母材鋼板100の表面100S上に形成されている。電気亜鉛系めっき層10は、周知の化学組成を有すれば足りる。具体的には、電気亜鉛系めっき層10は、主としてZnからなり、Al含有量は質量%で0.1%未満である。ここで、「主としてZnからなる」とは、電気亜鉛系めっき層10中のZn含有量が少なくとも60.0%以上であることを意味する。例えば、電気亜鉛系めっき層10の化学組成は、質量%で60.0%以上のZnを含有し、不純物であるAl含有量は0.1%未満である。
【0029】
電気亜鉛系めっき層10の化学組成は例えば、質量%でZnを60.0%以上含有し、任意元素として、Ni、Fe、Co及びCrからなる群から選択される1種以上を合計で0~30.0%含有し、さらに任意元素としてCを0~5.0%含有してもよい。Ni、Fe、Co、Cr及びCは含有されなくてもよい。
【0030】
電気亜鉛系めっき層10中のZn含有量の好ましい下限は80.0%であり、さらに好ましくは90.0%であり、さらに好ましくは95.0%であり、さらに好ましくは99.5%であり、さらに好ましくは99.9%である。Zn含有量は100%であってもよい。つまり、電気亜鉛系めっき層10は、Zn又はZn合金からなり、残部は不純物である。電気亜鉛系めっき層10は、亜鉛めっき、又は、亜鉛合金めっきを含む概念である。なお、上述のとおり、電気亜鉛系めっき層10の化学組成は周知である。溶融亜鉛系めっき層はAl含有量が0.1%以上であるのに対して、電気亜鉛系めっき層はAl含有量が0.1%未満である。
【0031】
[電気亜鉛系めっき層10の化学組成の測定方法]
電気亜鉛系めっき層10の化学組成は、次の方法で測定できる。めっき鋼板1の圧延方向RDに垂直な断面(以下、観察面という)を含み、電気亜鉛系めっき層10を含むサンプルを採取する。サンプルの観察面において、めっき鋼板1の表面10Sから板厚方向TDに、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)法に基づく線分析を実施して、測定対象となる線上での各元素の含有量(質量%)を求める。線分析において、Znを60.0質量%以上含有し、かつ、Al含有量が0.1%未満となる領域(範囲)を、電気亜鉛系めっき層10と特定する。サンプル観察面において、任意の10箇所で線分析を実施し、線分析により特定された電気亜鉛系めっき層10の範囲(線上)での各元素含有量(質量%)を求める。10カ所の線分析で得られた、電気亜鉛系めっき層10の範囲での各元素含有量の算術平均値を求める。求めた各元素含有量の算術平均値に基づいて、電気亜鉛系めっき層10の化学組成を特定する。
【0032】
[電気亜鉛系めっき層10の厚さについて]
電気亜鉛系めっき層10の厚さは特に限定されず、周知の厚さであれば足りる。電気亜鉛系めっき層10の厚さは例えば、0.5~5.0μmである。周知の電気亜鉛系めっき処理を実施すれば、電気亜鉛系めっき層10の厚さを上記範囲に調整することが可能である。
【0033】
[電気亜鉛系めっき層10の厚さの測定方法]
電気亜鉛系めっき層10の厚さは、次の方法により求めることができる。めっき鋼板1の圧延方向RDに垂直な断面(以下、観察面という)を含み、電気亜鉛系めっき層10を含むサンプルを採取する。サンプルの観察面において、めっき鋼板1の表面から板厚方向TDに、EPMA分析法に基づく線分析を実施して、測定対象となる線上での各元素の含有量(質量%)を求める。線分析において、Znを60.0質量%以上含有し、かつ、Al含有量が0.1%未満となる領域(範囲)を、電気亜鉛系めっき層10と特定する。線分析の線上で特定された電気亜鉛系めっき層10の長さを求める。サンプル観察面において、任意の10箇所で線分析を実施する。10箇所の線分析での各線上で求めた電気亜鉛系めっき層10の長さの算術平均値を、電気亜鉛系めっき層10の厚さ(μm)と定義する。
【0034】
[テクスチャT1について]
図2を参照して、めっき鋼板1の上方から見て、めっき鋼板1の表面は、テクスチャT1を有する。本明細書において「テクスチャ」とは、物理的又は化学的手法によって、めっき鋼板1の表面に形成された凹凸模様を意味する。図2では、テクスチャT1はヘアラインである。図3は、図1及び図2に示すめっき鋼板1の圧延方向RDに垂直な断面の一例を示す図である。図2及び図3を参照して、テクスチャT1の一例であるヘアライン(以下、ヘアラインT1ともいう)は、複数の凸部C10と、複数の凹部(溝部)R10とを含む。複数の凸部C10の延在方向、及び、複数の凹部R10の延在方向は、同一方向である。ここでいう同一方向とは、めっき鋼板1の平面視(図2)において、板幅方向WDに配列された、互いに隣り合う凸部C10のなす角度のうち90%以上が、±5°未満であることを意味し、互いに隣り合う凹部R10同士のなす角度のうち90%以上が、±5°未満であることを意味する。
【0035】
図1及び図2では、テクスチャT1としてヘアラインが示されている。しかしながら、テクスチャT1はヘアラインに限定されない。テクスチャT1はヘアライン以外に例えば、エンボスパターン、バイブレーション仕上げ、梨地(ブラスト)仕上げ、槌目(ハンマー)パターン仕上げ、布目(サテン)仕上げ、等であってもよい。好ましくは、テクスチャT1はヘアラインである。凸部C10及び凹部R10が一方向に延在する場合、凸部C10及び凹部R10の延在方向は特に限定されない。テクスチャT1において、凸部C10及び凹部R10の延在方向は、図2に示すように圧延方向RDに沿って延在していてもよいし、図示しないが、圧延方向RDに対して交差して延在していてもよい。
【0036】
[複合被膜11について]
複合被膜11は、電気亜鉛系めっき層10上に位置する。つまり、複合被膜11は、電気亜鉛系めっき層10上に形成されている。複合被膜11は、インヒビターとして、有機珪素化合物と、りん酸化合物と、V化合物と、Zr化合物及びTi化合物のうちの少なくとも1種以上と、フッ素化合物とを含有する。複合被膜11は、優れた耐食性を有する。以下、各インヒビターについて説明する。
【0037】
[有機珪素化合物について]
有機珪素化合物は、環状シロキサン結合を有する。「環状シロキサン結合」とは、Si-O-Si結合が連続する構成を有し、かつ、Si及びOの結合のみで構成され、Si-Oの繰り返し数が3~8の環状の構造を意味する。なお、「鎖状シロキサン結合」は、Si-O-Si結合が連続する構成を有し、かつ、SiとOの結合のみで構成され、Si-O繰り返し数が3~8の間であって環状ではない構造を意味する。
【0038】
有機珪素化合物に環状シロキサン結合を含有する場合、複合被膜11の見かけ架橋密度が高まる。この場合、めっき鋼板1を加工する際に発生する熱による複合被膜11の分解及び破壊を抑制できる。また、複合被膜11が密な被膜になるため、めっき鋼板1の耐食性が高まる。さらに、めっき鋼板1の加工時の耐カス性が高まる。ここで、「加工時の耐カス性」とは、めっき鋼板1に対してプレス加工等の加工を実施したときに、めっき鋼板1の表面がプレス金型等により強い摺動を受け、めっき鋼板1の表面を被覆している複合被膜11から黒いカス状物質が生じて固着、堆積することによってめっき鋼板1の外観(意匠性)を低下することに対する耐性を意味する。
【0039】
本実施形態において、複合被膜11が含む有機珪素化合物は限定されない。有機珪素化合物は例えば、分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5~2.0の割合で配合して得られるものである。
【0040】
固形分質量比〔(A)/(B)〕が0.5以上であれば、耐指紋性、浴安定性、及び、耐カス性が顕著に向上する。固形分質量比〔(A)/(B)〕が2.0以下であれば、耐水性が顕著に向上する。固形分質量比〔(A)/(B)〕のさらに好ましい下限は0.9である。固形分質量比〔(A)/(B)〕のさらに好ましい上限は1.7であり、さらに好ましくは1.1である。
【0041】
シランカップリング剤(A)はアミノ基を少なくとも1つ含有していれば、特に限定されない。シランカップリング剤(A)は例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等からなる群から選択される1種以上である。シランカップリング剤(B)は例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等からなる群から選択される1種以上である。
【0042】
有機珪素化合物の製造方法は、特に限定されない。例えば、pH4に調整した水に、シランカップリング剤(A)と、シランカップリング剤(B)とを順次添加し、所定時間攪拌すればよい。
【0043】
[りん酸化合物について]
りん酸化合物は、複合被膜11の耐食性を高める。りん酸化合物は特に限定されない。りん酸化合物は例えば、りん酸、りん酸アンモニウム塩、りん酸カリウム塩、りん酸ナトリウム塩等からなる群から選択される1種以上である。好ましくは、りん酸化合物は、りん酸である。りん酸を用いる場合、複合被膜11の耐食性がさらに高まる。
【0044】
[V化合物について]
V化合物は、複合被膜11の耐食性を高める。V化合物はVを含有した化合物であれば特に限定されない。V化合物は例えば、五酸化バナジウムV、メタバナジン酸HVO、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウムVOCl、三酸化バナジウムV、二酸化バナジウムVO、オキシ硫酸バナジウムVOSO、バナジウムオキシアセチルアセトネートVO(OC(=CH)CHCOCH、バナジウムアセチルアセトネートV(OC(=CH)CHCOCH、及び、三塩化バナジウムVClからなる群から選択される1種以上である。V化合物はまた、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、1~3級アミノ基、アミド基、りん酸基及びホスホン酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機化合物により、5価のバナジウム化合物を4価~2価に還元して生成したものであってもよい。
【0045】
[Zr化合物及びTi化合物について]
Zr化合物及びTi化合物はいずれも、複合被膜11の耐食性を高める。Zr化合物はZrを含有した化合物でであって、Zrの酸化物、水酸化物、錯化合物、無機酸又は有機酸との塩等である。Zr化合物は例えば、硝酸ジルコニル(ZrO(NO)、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニウムアンモニウム{(NH[Zr(CO(OH)]}、ジルコニウムアセテートからなる群から選択される1種以上である。
【0046】
Ti化合物はTiを含有する化合物であって、Tiの酸化物、水酸化物、錯化合物、無機酸又は有機酸との塩等である。Ti化合物は例えば、硫酸チタニル(TiOSO)、チタンラクテート、ジイソプロポキシチタニウムビスアセチルアセトン{(CTi[OCH(CH}、乳酸とチタニウムアルコキシドとの反応物からなる群から選択される1種以上である。
【0047】
[フッ素化合物について]
フッ素化合物は、複合被膜11の耐食性を高める。フッ素化合物は、フッ素を含有する化合物であれば特に限定されない。フッ素化合物は例えば、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸、これらのフッ化物、及び、錯フッ化物塩からなる群から選択される1種以上である。
【0048】
なお、Zr化合物及びフッ素化合物は、一体化されていてもよい。具体的には、複合被膜11は、Zr化合物及びフッ素化合物を別個の化合物として含有してもよいし、Zr及びフッ素を含有する化合物を含有していてもよい。例えば、ジルコニウムフッ化水素酸は、Zr化合物としても作用し、かつ、フッ素化合物としても作用する。したがって、ジルコニウムフッ化水素酸は、Zr化合物及びフッ素化合物を含む。また、Ti化合物及びフッ素化合物は、一体化されていてもよい。具体的には、複合被膜11は、Ti化合物及びフッ素化合物を別個の化合物として含有してもよいし、Ti及びフッ素を含有する化合物を含有していてもよい。例えば、チタンフッ化水素酸は、Ti化合物として作用し、かつ、フッ素化合物としても作用する。したがって、チタンフッ化水素酸は、Ti化合物及びフッ素化合物を含む。
【0049】
[めっき鋼板1のテクスチャT1の凸部C10及び凹部R10について]
図4は、テクスチャT1の凸部C10及び凹部R10の延在方向に垂直な方向及びめっき鋼板1の板厚方向を含む断面図である。図4を参照して、テクスチャT1における凸部C10及び凹部R10は次のとおり定義する。
【0050】
高さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、幅方向の表示分解能が1nm以上であるレーザー顕微鏡(つまり、高さ方向及び幅方向の表示分解能が1nmよりも優れたレーザー顕微鏡)を準備する。レーザー顕微鏡を用いて、倍率500倍で平面視において、鋼板の各エッジ(各端)から5mm幅のエッジ近傍領域を除く内部領域内から、凸部C10の延在方向に10mm、凸部C10の延在方向に垂直な方向に10mmの任意の1箇所の矩形範囲を特定する。特定した矩形範囲内のテクスチャT1の複数の凸部C10及び複数の凹部R10の表面高さプロファイルを測定する。
【0051】
次に、矩形範囲内で得られた表面高さプロファイルを用いて、矩形範囲内において、凸部C10の延在方向に100μm間隔で、凸部C10の延在方向に垂直な方向及びめっき鋼板1の板厚方向を含む断面(図4参照)を特定する。各断面において、テクスチャT1が形成された電気亜鉛系めっき層10の表面10Sの表面高さプロファイルを求める。求めた表面高さプロファイルのうちの最高高さを有する最高点Hmaxと最低高さを有する最低点Hminとを特定する。得られた最高点Hmax及び最低点Hminを用いて、高低差Lを次の式で求める。
高低差L=最高点Hmaxの高さ-最低点Hminの高さ
【0052】
得られた高低差Lの1/3倍の高さ、つまり、L/3を用いて、上記断面において、凸部C10と凹部R10とを次のとおり定義する。断面における表面10Sのうち、最低点HminからL/3以上の高さの連続した領域を、1つの凸部C10と定義する。最低点HminからL/3未満の高さの連続した領域を、1つの凹部R10と定義する。つまり、図4の断面での表面10Sにおいて、最低点HminからL/3の高さであってかつ凸部C10の延在方向に垂直な方向(図4では板幅方向WD)に平行な仮想線分Wrefよりも上方の連続した領域の各々を凸部C10と定義し、仮想線分Wref以下の連続した領域の各々を凹部R10と定義する。
【0053】
[凸部C10の算術平均粗さRa]
上述の100μm間隔の各断面において、凸部C10と認定された表面領域の算術平均粗さRa(nm)を求める。具体的には、断面での表面10Sで特定された各凸部C10の算術平均粗さRa(nm)を、JIS B 0601に基づいて求める。評価長さはカットオフ値の5倍とし、カットオフ値λsは20μmとする。各凸部C10で得られた算術平均粗さRaの算術平均値を、その断面での凸部C10の算術平均粗さRa(nm)と定義する。100μm間隔の各断面で得られた凸部C10の算術平均粗さRaの算術平均値を、めっき鋼板1の凸部C10の算術平均粗さ(nm)と定義する。
【0054】
本実施形態のめっき鋼板1では、上述の測定方法により得られた凸部C10の算術平均粗さRaが200nm以下である。凸部C10の算術平均粗さRaが200nmを超える場合、電気亜鉛系めっき層10の表面10S上にテクスチャT1が十分に形成されていないことを意味する。この場合、めっき鋼板1の意匠性が低くなる。
【0055】
凸部C10の算術平均粗さRaが200nm以下であれば、表面10S上にテクスチャT1が十分に形成されている。そのため、優れた意匠性が得られる。凸部C10の算術平均粗さの下限値は特に限定されない。しかしながら、凸部C10の算術平均粗さRaを過剰に低くすれば、製造コストが高くなる。したがって、工業生産を考慮すれば、凸部C10の算術平均粗さRaの好ましい下限は5nm超である。凸部C10の算術平均粗さRaの好ましい上限は190nmであり、さらに好ましくは180nmであり、さらに好ましくは170nmであり、さらに好ましくは160nmである。凸部C10の算術平均粗さRaの好ましい下限は10nmであり、さらに好ましくは15nmである。
【0056】
[互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差について]
上述の凸部C10及び凹部R10を特定する各断面において、互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差(μm)を次の方法で定義する。
【0057】
図4を参照して、凸部C10及び凹部R10を特定した各断面の表面10Sにおいて、互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10に注目する。例えば、図4の凸部C10aと凹部R10aとに注目する。レーザー顕微鏡を用いた上記矩形範囲での表面高さプロファイルに基づいて、凸部C10aの最高高さを求める。図4では、凸部C10aにおいて、点Hcaでの高さが最も高い。さらに、凹部R10aの最低高さを求める。図4では、凹部R10aにおいて、点Hraでの高さが最も低い。得られた結果に基づいて、凸部C10aと凹部R10aとでの高低差を次のとおり求める。
高低差=点Hcaでの高さ-点Hraでの高さ
【0058】
次に、図4において、互いに隣り合う凸部C10aと凹部R10bとに注目する。レーザー顕微鏡を用いた上記矩形範囲での表面高さプロファイルに基づいて、凸部C10aの最高高さ(点Hcaでの高さ)を求める。さらに、凹部R10bの最低高さを求める。図4では、凹部R10bにおいて、点Hrbでの高さが最も低い。得られた結果に基づいて、凸部C10aと凹部R10bとでの高低差を次のとおり求める。
高低差=点Hcaでの高さ-点Hrbでの高さ
【0059】
以上のとおり、各断面において、表面10S上の互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の高低差を全て求める。そして、求めた高低差の算術平均値を、その断面での互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差(μm)とする。上記矩形範囲での全ての断面の平均高低差の算術平均値を、めっき鋼板1での互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差(μm)と定義する。
【0060】
本実施形態では、めっき鋼板1での互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差(μm)が0.3~3.0μmである。互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差(μm)が0.3μm未満であれば、テクスチャT1が十分に深く形成されていない。この場合、めっき鋼板1の意匠性が低下する。一方、互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差(μm)が3.0μmを超えれば、テクスチャT1が深すぎる。テクスチャが粗くなりすぎて美麗なテクスチャが形成されない。例えば、テクスチャがヘアラインである場合、互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差(μm)が3.0μmを超えれば、ヘアラインが粗くなりすぎて美麗なヘアラインが得られない。その結果、めっき鋼板1の意匠性がかえって低下する。めっき鋼板1での互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差(μm)が0.3~3.0μmであれば、テクスチャT1が適切な深さで形成されている。そのため、めっき鋼板1の意匠性が十分に高まる。互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差(μm)の好ましい下限は0.4μmであり、さらに好ましくは0.5μmであり、さらに好ましくは0.6μmである。互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差(μm)の好ましい上限は2.8μmであり、さらに好ましくは2.6μmであり、さらに好ましくは2.4μmである。
【0061】
[テクスチャT1の凹部R10の総面積率について]
テクスチャT1の凹部R10の総面積率は次のとおり定義される。高さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、幅方向の表示分解能が1nm以上であるレーザー顕微鏡(つまり、高さ方向及び幅方向の表示分解能が1nmよりも優れたレーザー顕微鏡)を準備する。レーザー顕微鏡を用いて、倍率500倍で平面視において、鋼板の各エッジ(各端)から5mm幅のエッジ近傍領域を除く内部領域内から、凸部C10の延在方向に10mm、凸部C10の延在方向に垂直な方向に10mmの任意の1箇所の矩形範囲を特定する。特定した矩形範囲内のテクスチャT1の複数の凸部C10及び複数の凹部R10の表面高さプロファイルを測定する。レーザー顕微鏡は、矩形範囲内のテクスチャT1の表面高さプロファイルを、連続した三次元データとして測定できる。
【0062】
次に、矩形範囲内で得られた表面高さプロファイルのうちの最高高さを有する最高点Hmaxと最低高さを有する最低点Hminとを特定する。得られた最高点Hmax及び最低点Hminを用いて、高低差Lを次の式で求める。
高低差L=最高点Hmaxの高さ-最低点Hminの高さ
【0063】
得られた高低差Lの1/3倍の高さ、つまり、L/3を用いて、上記断面において、凸部C10と凹部R10とを次のとおり定義する。断面における表面10Sのうち、最低点HminからL/3超の高さの領域を、凸部C10と定義する。最低点HminからL/3以下の高さの領域を、凹部R10と定義する。
【0064】
以上の方法により、矩形範囲を平面視した場合における、凹部R10の領域を特定できる。そして、特定された凹部R10の領域の総面積を求める。たとえば、周知の2値化処理により、表面高さがL/3以下の領域(つまり、凹部R10)と、表面高さがL/3超の領域(つまり凸部C10)とを区別する。そして、矩形範囲を平面視した場合における、凹部R10の領域の総面積を求める。凹部R10領域の総面積と、矩形範囲を平面視した場合における矩形範囲の総面積とに基づいて、凹部R10の総面積率(%)を求める。
【0065】
[P濃化領域被覆比について]
めっき鋼板1の複合被膜11において、P濃化領域被覆比を次のとおり定義する。複合被膜11の表面に対してマイクロ蛍光X線分析法による元素分析を実施して得られるP含有量のZn含有量に対する質量比であるP/Znの平均値を、[P/Zn]aveと定義する。そして、複合被膜11の表面のうち、P/Znが[P/Zn]aveの1.2倍以上である領域を、「P濃化領域」と定義する。P濃化領域の面積率(%)を、P濃化領域面積率と定義する。上述のテクスチャT1の凹部R10の総面積率に対する、P濃化領域面積率の比を、「P濃化領域被覆比」と定義する。この場合、本実施形態のめっき鋼板1では、P濃化領域被覆比が0.25以上である。
【0066】
P濃化領域被覆比が0.25未満であれば、テクスチャT1の凹部T10上に十分なP濃化領域が形成されていない。この場合、めっき鋼板1において、十分な耐食性が得られない。具体的には、P濃化領域被覆比が0.25未満であれば、テクスチャT1の凹部T10において、錆が発生する場合がある。P濃化領域被覆比が0.25以上であれば、テクスチャT1の凹部T10上にP濃化領域が十分に形成されている。そのため、めっき鋼板1において、優れた意匠性を確保しつつ、かつ、優れた耐食性が得られる。P濃化領域被覆比の好ましい下限は0.30であり、さらに好ましくは0.35であり、さらに好ましくは0.40であり、さらに好ましくは0.45である。P濃化領域被覆比は1.00が最も好ましい。しかしながら、実際の工業生産においては、P濃化領域被覆比の上限はたとえば0.99であってもよいし、0.95であってもよい。
【0067】
[P濃化領域被覆比の測定方法]
P濃化領域被覆比は、次の方法で測定できる。めっき鋼板1を平面視した場合のめっき鋼板1の表面のうち、鋼板の各エッジ(各端)から5mm幅のエッジ近傍領域を除く内部領域内で特定した上述の矩形範囲において、マイクロ蛍光X線分析を実施して、矩形範囲の各微小領域でのP含有量(質量%)及びZn含有量(質量%)を測定する。具体的には、矩形範囲(10mm×10mm)を128×128個の微小領域に区切り、各微小領域でのP含有量及びZn含有量を測定する。各微小領域において、P含有量のZn含有量に対する質量比(P/Zn)を求める。矩形範囲で求めた全微小領域のP/Znの算術平均値を[P/Zn]aveとする。
【0068】
各微小領域のうち、P/Znが[P/Zn]aveの1.2倍以上となる微小領域を「P濃化領域」と特定する。そして、P濃化領域の総面積と、矩形範囲の面積とに基づいて、P濃化領域面積率(%)を求める。
【0069】
求めたP濃化領域面積率(%)を、上述のテクスチャT1の凹部R10の総面積率で除して(=P濃化領域面積率/凹部総面積率)、P濃化領域被覆比を求める。
【0070】
以上のとおり、本実施形態のめっき鋼板1では、複数の凸部C10及び凹部R10を含むテクスチャT1が形成された電気亜鉛系めっき層10と、複合被膜11とを備え、めっき鋼板1の表面において、テクスチャT1の凸部C10の平均表面粗さRaは5超~200nmであり、テクスチャT1において、互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差が0.3~3.0μmである。そのため、本実施形態のめっき鋼板1は、意匠性に優れる。本実施形態のめっき鋼板1はさらに、P濃化領域被覆比が0.25以上である。そのため、本実施形態のめっき鋼板1では、電気亜鉛系めっき層10及びテクスチャT1により、優れた意匠性が得られ、かつ、電気亜鉛系めっき層10及び複合被膜11により、優れた耐食性が得られる。つまり、めっき鋼板1では、優れた意匠性及び優れた耐食性の両立が可能である。
【0071】
[複合被膜11中の好ましい[P/Si]aveについて]
上述の複合被膜11の表面に対してマイクロ蛍光X線分析法による元素分析を実施して得られるP含有量のSi含有量に対する質量比であるP/Siの平均値を[P/Si]aveと定義する。複合被膜11において、好ましくは、[P/Si]aveは0.15~0.25である。
【0072】
[P/Si]aveが0.15~0.25であれば、複合被膜11中でのP含有量が十分に高いため、めっき鋼板1の耐食性がさらに高まる。したがって、好ましい[P/Si]aveは0.15~0.25である。[P/Si]aveのさらに好ましい下限は0.16であり、さらに好ましくは0.17である。[P/Si]aveのさらに好ましい上限は0.24であり、さらに好ましくは0.23である。
【0073】
[P/Si]aveは次の方法で測定できる。めっき鋼板1を平面視した場合のめっき鋼板1の表面のうち、上述のP濃化領域を測定した矩形範囲において、マイクロ蛍光X線分析を実施して、矩形範囲の各微小領域でのP含有量(質量%)及びSi含有量(質量%)を測定する。具体的には、矩形範囲(10mm×10mm)を128×128個の微小領域に区切り、各微小領域でのP含有量及びSi含有量を測定する。各微小領域において、P含有量のSi含有量に対する質量比(P/Si)を求める。求めたP/Siの算術平均値を[P/Si]aveと定義する。
【0074】
[複合被膜11中の好ましい[V/Si]aveについて]
複合被膜11が有機珪素化合物とりん酸化合物とを含有するだけでなく、V化合物も含有する場合、好ましくは、複合被膜11の表面に対してマイクロ蛍光X線分析法による元素分析を実施して得られるV含有量のSi含有量に対する比であるV/Siの平均値を[V/Si]aveと定義する。この場合、好ましい[V/Si]aveは0.06~0.15である。
【0075】
[V/Si]aveが0.06~0.15であれば、複合被膜11中でのV含有量が十分に高いため、めっき鋼板1の耐食性がさらに高まる。したがって、好ましい[V/Si]aveは0.06~0.15である。[V/Si]aveのさらに好ましい下限は0.07であり、さらに好ましくは0.08である。[V/Si]aveのさらに好ましい上限は0.14であり、さらに好ましくは0.13である。
【0076】
[V/Si]aveは次の方法で測定できる。めっき鋼板1を平面視した場合のめっき鋼板1の表面のうち、上述のP濃化領域を測定した矩形範囲において、マイクロ蛍光X線分析を実施して、矩形範囲の各微小領域でのP含有量(質量%)及びSi含有量(質量%)を測定する。具体的には、矩形範囲(10mm×10mm)を128×128個の微小領域に区切り、各微小領域でのV含有量及びSi含有量を測定する。各微小領域において、V含有量のSi含有量に対する質量比(V/Si)を求める。求めたV/Siの算術平均値を[V/Si]aveと定義する。
【0077】
[テクスチャT1のパターンについて]
上述の説明では、テクスチャT1の一例として、ヘアラインを例に説明した。しかしながら、上述のとおり、テクスチャT1はヘアラインに限定されない。例えば、テクスチャT1がエンボスパターン、ドットパターン及びバイブレーションからなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0078】
[複合被膜11の好ましい付着量について]
めっき鋼板1における複合被膜11の好ましい付着量は、0.05~2.00g/mである。複合被膜11の付着量が0.05g/m以上であれば、後述の製造方法での複合被膜形成工程(S4)において、電気亜鉛系めっき層10の凹部R10に複合被膜用組成物が十分に溜まりやすくなる。そのため、P濃化領域がより有効に形成されやすい。複合被膜11の付着量が2.00g/m以下であれば、めっき鋼板に対してプレス加工等の加工を施し、複合皮膜の表面が金型等により強い摺動を受けたときに複合被膜から黒いカス状の物質が生成及び堆積するのを抑制することができ、加工が施された場合であっても、めっき鋼板の意匠性を高めることができる。複合被膜11の付着量のさらに好ましい下限は0.10g/mであり、さらに好ましくは0.30g/mである。複合被膜11の付着量のさらに好ましい上限は1.00g/mであり、さらに好ましくは0.80g/mである。
【0079】
複合被膜11の付着量は次の方法で測定できる。複合被膜の原料である複合被膜用組成物を別途乾燥固化する。固化した組成物(標準試料)の質量と、蛍光X線分析(X-Ray Fluorescence:XRF)で測定されたSi強度との相関をとった検量線を作成する(検量線法)。続いて、複合被膜11が形成されためっき鋼板1から、サンプルを採取する。サンプルの複合被膜11に対して蛍光X線分析を実施して、Si強度を得る。得られたSi強度と検量線とに基づいて、複合被膜11の付着量(g/m)を求める。
【0080】
[製造方法]
以下、本実施形態のめっき鋼板1の製造方法の一例を説明する。以降に説明する製造方法は、本実施形態のめっき鋼板1を製造するための一例である。したがって、上述の構成を有するめっき鋼板1は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態のめっき鋼板1の製造方法の好ましい一例である。
【0081】
めっき鋼板1の製造方法の一例は、母材鋼板100を準備する工程(母材鋼板準備工程:S1)と、準備された母材鋼板100に対して電気亜鉛めっき処理を実施して、母材鋼板100の表面上に電気亜鉛系めっき層10を形成する工程(電気亜鉛めっき処理工程:S2)と、電気亜鉛系めっき層10の表面にテクスチャT1を形成する工程(テクスチャ形成工程:S3)と、テクスチャT1が形成された電気亜鉛系めっき層10上に複合被膜11を形成する工程(複合被膜形成工程:S4)とを含む。以下、各工程について説明する。
【0082】
[母材鋼板準備工程(S1)]
母材鋼板準備工程(S1)では、上述の母材鋼板100を準備する。母材鋼板100が鋼板である場合、母材鋼板100は熱延鋼板であってもよいし、冷延鋼板であってもよい。
【0083】
[電気亜鉛めっき処理工程(S2)]
電気亜鉛めっき処理工程(S2)では、母材鋼板100の表面に対して、電気亜鉛系めっき処理を実施して、電気亜鉛系めっき層10を形成する。
【0084】
電気亜鉛系めっき処理は、周知の方法で実施すればよい。電気亜鉛めっき浴、及び、電気亜鉛合金めっき浴は、周知の浴を用いれば足りる。電気めっき浴はたとえば、硫酸浴、塩化物浴、ジンケート浴、シアン化物浴、ピロりん酸浴、ホウ酸浴、クエン酸浴、その他錯体浴及びこれらの組合せ等である。電気亜鉛合金めっき浴はたとえば、Znイオンの他に、Fe、Ni、Co、Cr及びCから選ばれる1つ以上の単イオン又は錯イオンを含有する。また、レベリング効果や硬度上昇などの所望の効果を得るために適宜有機添加剤などを電気めっき浴に添加してもよい。
【0085】
電気亜鉛系めっき処理における、電気亜鉛めっき浴及び電気亜鉛合金めっき浴の化学組成、温度、流速、及び、めっき処理時の条件(電流密度、通電パターン等)は、適宜調整が可能である。電気亜鉛めっき処理における電気亜鉛系めっき層10の厚さは、電気亜鉛めっき処理時における電流密度の範囲内で電流値と時間とを調整することにより、調整可能である。
【0086】
以上の製造工程により、母材鋼板100上に電気亜鉛系めっき層10が形成される。
【0087】
[テクスチャ形成工程(S3)]
テクスチャ形成工程(S3)では、電気亜鉛系めっき層10の表面に対して周知のテクスチャ加工を実施することにより、電気亜鉛系めっき層10の表面に対してテクスチャT1を形成する。
【0088】
テクスチャT1がヘアラインである場合、周知のヘアライン加工を実施する。ヘアライン加工方法はたとえば、周知の研磨ベルトで表面を研磨してヘアラインを形成する方法、周知の砥粒ブラシで表面を研磨してヘアラインを形成する方法、ヘアライン形状を付与したロールで圧延転写してヘアラインを形成する方法等がある。ヘアラインの長さや深さ、頻度は、周知の研磨ベルトの粒度や、周知の砥粒ブラシの粒度やロールの表面形状を調整することにより、調整可能である。なお、ヘアラインを付与する方法としては、表面品質の観点から、研磨ベルト又は砥粒ブラシで表面を研磨してヘアラインを形成することが好ましい。
【0089】
テクスチャT1がエンボスパターン、ドットパターン及びバイブレーション等の凹凸形状である場合、ロールを用いた周知の転写方法を実施してもよい。具体的には、エンボスパターン等の凹凸形状のテクスチャT1が形成されているロールを準備する。準備されたロールを、めっき鋼板の電気亜鉛系めっき層10の表面に押し当てて、ロールに形成されている凹凸形状を、電気亜鉛系めっき層10の表面に転写する。以上の工程により、エンボスパターン等の凹凸形状を電気亜鉛系めっき層10に形成することができる。
【0090】
テクスチャ形成工程(S3)において、加工条件を調整することにより、テクスチャT1の凸部C10の平均表面粗さRaを5超~200nmとし、テクスチャT1において互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差を0.3~3.0μmに調整することができる。
【0091】
[複合被膜形成工程(S4)]
複合被膜形成工程(S4)では、テクスチャT1が形成された電気亜鉛系めっき層10の表面に、複合被膜11を形成する。
【0092】
具体的には、初めに、複合被膜11用の組成物(薬剤)を準備する。複合被膜用組成物は、加熱炉で乾燥した後の複合被膜11が上述の組成となるように、有機珪素化合物と、りん酸化合物と、V化合物と、Zr化合物及びTi化合物からなる群から選択される1種以上と、フッ素化合物とを含有する。
【0093】
準備された複合被膜用組成物を、めっき鋼板上の電気亜鉛系めっき層10の表面に塗布する。塗布方法は周知の方法であればよい。塗布方法は例えば、吹き付け法、ロールコーター法、カーテンコーター法等である。
【0094】
電気亜鉛系めっき層10上に複合被膜用組成物を塗布した後、めっき鋼板を加熱炉内に通板させる。これにより、複合被膜用組成物が乾燥されて固化し、複合被膜11が形成される。複合被膜形成工程(S4)では、加熱炉での鋼板最高到達温度(Peak-Metal-Temperature:PMT)(℃)、及び、複合被膜用組成物と電気亜鉛系めっき層10上に塗布してから加熱炉に装入されるまでの時間(以下、保持時間という)(秒)を次の範囲に調整する。
鋼板最高到達温度PMT:50~250℃
保持時間:0.5秒以上
以下、各条件について説明する。
【0095】
[鋼板最高到達温度PMTについて]
鋼板最高到達温度PMTを50~250℃に調整する。ここで、鋼板最高到達温度PMTとは、加熱炉内での鋼板の最高温度を意味する。鋼板最高到達温度PMTが50℃未満であれば、複合被膜用組成物中の溶媒が十分に揮発せず、健全な複合被膜11が得られない。
【0096】
一方、鋼板最高到達温度PMTが250℃を超えれば、形成された複合被膜11の有機鎖の一部が分解してしまう場合がある。
【0097】
鋼板最高到達温度PMTが50~250℃であれば、複合被膜11が健全に形成される。鋼板最高到達温度PMTの好ましい下限は70℃であり、さらに好ましくは100℃である。鋼板最高到達温度PMTの好ましい上限は200℃であり、さらに好ましくは150℃である。鋼板最高到達温度PMTはたとえば、次の方法で測定する。加熱炉の出側に配置された測温計を用いて、加熱炉を通過した直後のめっき鋼板の温度を測定する。測定された温度を、鋼板最高到達温度PMT(℃)と定義する。
【0098】
[保持時間について]
本明細書において保持時間とは、複合被膜用組成物(薬液)が鋼板の電気亜鉛系めっき層10上に塗布されてから加熱炉に装入されるまでの時間(秒)を意味する。保持時間が0.5秒未満であれば、複合被膜用組成物中のPがテクスチャT1の凹部T10上に濃化する前に、複合被膜用組成物中の溶媒の揮発が開始されてしまう。この場合、P濃化領域が十分に形成されず、P濃化領域被覆比が0.50未満になる。
【0099】
保持時間が0.5秒以上であれば、鋼板最高到達温度PMTが50~250℃であることを前提として、複合被膜用組成物中のPがテクスチャT1の凹部T10上に十分に濃化する。この場合、P濃化領域被覆比が0.50以上になる。保持時間の好ましい下限は1.0秒である。
【0100】
なお、保持時間の上限については特に限定されない。しかしながら、保持時間が過剰に長ければ、設備投資が過大になったり、生産性が低下したりする。したがって、保持時間の好ましい上限は10.0秒であり、さらに好ましくは8.0秒である。
【0101】
以上の製造工程により、本実施形態のめっき鋼板1を製造できる。なお、本実施形態のめっき鋼板1は、上記製造方法に限定されず、上述の構成を有するめっき鋼板1が製造できれば、上記製造方法以外の他の製造方法で本実施形態のめっき鋼板1を製造してもよい。ただし、上記製造方法は、本実施形態のめっき鋼板1の製造に好適である。
【実施例1】
【0102】
以下、実施例により本発明の一態様の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態のめっき鋼板1の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本発明はこの一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0103】
実施例1では、複合被膜を備えるめっき鋼板に対して、外観の意匠性及び耐食性について調査した。
【0104】
表1に示す各試験番号のめっき鋼板を製造した。具体的には、母材鋼板として、JIS G 3141(2017)に規定されているSPCCに相当する化学組成の鋼板を準備した。母材鋼板の厚さは0.6mmとした。
【0105】
【表1】
【0106】
各鋼板に対して電気亜鉛めっき処理を実施して、表1に示す組成の電気亜鉛系めっき層を形成した。
【0107】
具体的には、試験番号1~7、13~16及び23~29では、Znからなる電気亜鉛系めっき層を母材鋼板上に形成した。具体的には、次の電気亜鉛めっき処理を実施して、Znからなる電気亜鉛系めっき層を形成した。硫酸Zn七水和物を1.0mol/lと、無水硫酸ナトリウム50g/Lとを含み、pHを2.0に調整しためっき浴を準備した。電気めっきでは、浴温を50℃とし、電流密度を50A/dmとした。厚さが3.0μm程度となるように、めっき時間を調整した。以上の工程により、母材鋼板上に、電気亜鉛系めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、電気亜鉛めっき層の化学組成を分析した。その結果、電気亜鉛めっき層の化学組成は、Znからなる化学組成であり、Al含有量は0.1%未満であった。表1において、Znからなる化学組成であり、Al含有量は0.1%未満である電気亜鉛系めっき層の化学組成を「Zn」と表記する。
【0108】
試験番号8、9、17及び18では、母材鋼板に対して、電気亜鉛合金めっき浴を準備し、Zn-12%Niの電気亜鉛系めっき層を形成した。具体的には、次の電気亜鉛めっき処理を実施して、電気亜鉛系めっき層を形成した。硫酸Zn七水和物を0.4mol/lと、硫酸Ni六水和物を0.6mol/lと、無水硫酸ナトリウム50g/Lとを含み、pHを2.0に調整しためっき浴を準備した。電気めっきでは、浴温を50℃とし、めっき組成がZn-12%Ni、厚さが3.0μm程度となるように、電流密度とめっき時間を調整した。以上の工程により、母材鋼板上に、電気亜鉛合金めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、電気亜鉛合金めっき層の化学組成を分析した。その結果、電気亜鉛合金めっき層の化学組成は、Niが12%であり、残部がZnであった。Ni含有量が12%であり、残部がZnであるめっき層の化学組成を「Zn-12Ni」と表記する。
【0109】
試験番号10、19及び20では、母材鋼板に対して、電気亜鉛合金めっき浴を準備し、Zn-14%Feの電気亜鉛合金めっき層を形成した。具体的には、次の電気亜鉛合金めっき処理を実施して、電気亜鉛合金めっき層を形成した。硫酸Zn七水和物を0.4mol/lと、硫酸Fe7水和物を0.7mol/lと、無水硫酸ナトリウム50g/Lとを含み、pHを1.6に調整しためっき浴を準備した。電気めっきでは、浴温を50℃とし、めっき組成がZn-14%Fe、厚さが3.0μm程度となるように、電流密度とめっき時間を調整した。以上の工程により、母材鋼板上に、電気亜鉛合金めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、電気亜鉛合金めっき層の化学組成を分析した。その結果、電気亜鉛合金めっき層の化学組成は、Feが14%であり、残部がZnであった。Fe含有量が14%であり、残部がZnであるめっき層の化学組成を「Zn-14Fe」と表記する。
【0110】
試験番号11、12、21及び22では、母材鋼板に対して、電気亜鉛合金めっき浴を準備し、Zn-2%Coの電気亜鉛合金めっき層を形成した。具体的には、次の電気亜鉛合金めっき処理を実施して、電気亜鉛合金めっき層を形成した。硫酸Zn七水和物を0.9mol/lと、硫酸Co7水和物を0.1mol/lと、無水硫酸ナトリウム50g/Lとを含み、pHを1.8に調整しためっき浴を準備した。電気めっきでは、浴温を50℃とし、めっき組成がZn-2%Co、厚さが3.0μm程度となるように、電流密度とめっき時間を調整した。以上の工程により、母材鋼板上に、電気亜鉛合金めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、電気亜鉛合金めっき層の化学組成を分析した。その結果、電気亜鉛合金めっき層の化学組成は、Coが2%であり、残部がZnであった。Co含有量が2%であり、残部がZnであるめっき層の化学組成を「Zn-2Co」と表記する。
【0111】
電気亜鉛系めっき層が形成された試験番号2~29の鋼板に対して、テクスチャ形成工程を実施して、電気亜鉛系めっき層の表面上にテクスチャを形成した。具体的には、周知のテクスチャ形成工程を実施して、電気亜鉛系めっき層の表面上にヘアラインを形成した。なお、試験番号1の鋼板に対しては、テクスチャ形成工程を実施しなかった。
【0112】
テクスチャ形成工程を実施しなかった試験番号1の鋼板、及び、ヘアラインが形成された試験番号2~29の鋼板に対して、ロールコーターで所定の付着量となるように複合被膜用組成物(薬液)を塗布し、表1に示す鋼板最高到達温度PMT及び保持時間で複合被膜形成工程を実施して、複合被膜を形成した。
【0113】
試験番号1~24及び29の複合被膜用組成物を、次のとおり準備した。シランカップリング剤(A):3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び、シランカップリング剤(B):3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを準備し、固形分質量比〔(A)/(B)〕=1.0の割合でpH4に調整した水に添加し、所定時間攪拌して有機珪素化合物を製造した。なお、製造された有機珪素化合物は、環状シロキサン結合を有する化合物であった。
【0114】
試験番号1~22の複合被膜用組成物は、製造した上記有機珪素化合物と、りん酸化合物であるりん酸と、V化合物であるオキシ硫酸バナジウム(VOSO)と、Zr化合物及びフッ素化合物であるジルコニウムフッ化水素酸とを含有した。
【0115】
試験番号23の複合被膜用組成物は、製造した上記有機珪素化合物と、りん酸化合物であるりん酸と、V化合物であるオキシ硫酸バナジウム(VOSO)と、Ti化合物及びフッ素化合物であるチタンフッ化水素酸を含有した。
【0116】
試験番号24の複合被膜用組成物は、製造した上記有機珪素化合物と、りん酸化合物であるりん酸と、V化合物であるオキシ硫酸バナジウム(VOSO)と、Zr化合物及びフッ素化合物であるジルコニウムフッ化水素酸と、Ti化合物及びフッ素化合物であるチタンフッ化水素酸を含有した。
【0117】
試験番号25の複合被膜用組成物を、次のとおり準備した。シランカップリング剤(A):3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び、シランカップリング剤(B):3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを準備し、固形分質量比〔(A)/(B)〕=2.0の割合でpH4に調整した水に添加し、所定時間攪拌して有機珪素化合物を製造した。なお、製造された有機珪素化合物は、環状シロキサン結合を有する化合物であった。試験番号25の複合被膜用組成物は、上記有機珪素化合物と、りん酸化合物であるりん酸と、V化合物であるオキシ硫酸バナジウム(VOSO)と、Zr化合物及びフッ素化合物であるジルコニウムフッ化水素酸とを含有した。
【0118】
試験番号26の複合被膜用組成物を、次のとおり準備した。シランカップリング剤(A):3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び、シランカップリング剤(B):3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを準備し、固形分質量比〔(A)/(B)〕=0.7の割合でpH4に調整した水に添加し、所定時間攪拌して有機珪素化合物を製造した。なお、製造された有機珪素化合物は、環状シロキサン結合を有する化合物であった。試験番号26の複合被膜用組成物は、上記有機珪素化合物と、りん酸化合物であるりん酸と、V化合物であるオキシ硫酸バナジウム(VOSO)と、Zr化合物及びフッ素化合物であるジルコニウムフッ化水素酸とを含有した。
【0119】
試験番号27の複合被膜用組成物を、次のとおり準備した。シランカップリング剤(A):3-アミノプロピルトリエトキシシラン、及び、シランカップリング剤(B):3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを準備し、固形分質量比〔(A)/(B)〕=1.0の割合でpH4に調整した水に添加し、所定時間攪拌して有機珪素化合物を製造した。なお、製造された有機珪素化合物は、環状シロキサン結合を有する化合物であった。試験番号27の複合被膜用組成物は、上記有機珪素化合物と、りん酸化合物であるりん酸と、V化合物であるオキシ硫酸バナジウム(VOSO)と、Zr化合物及びフッ素化合物であるジルコニウムフッ化水素酸とを含有した。
【0120】
試験番号28の複合被膜用組成物を、次の方法で準備した。シランカップリング剤(A):3-アミノプロピルトリエトキシシラン、及び、シランカップリング剤(B):3-グリシドキシプロピルエリメトキシシランを準備し、固形分質量比〔(A)/(B)〕=1.0の割合でpH4に調整した水に添加し、所定時間攪拌して有機珪素化合物を製造した。なお、製造された有機珪素化合物は、環状シロキサン結合を有する化合物であった。試験番号28の複合被膜用組成物は、上記有機珪素化合物と、りん酸化合物であるりん酸と、V化合物であるオキシ硫酸バナジウム(VOSO)と、Zr化合物及びフッ素化合物であるジルコニウムフッ化水素酸とを含有した。
【0121】
試験番号29の複合被膜用組成物は、上記有機珪素化合物と、りん酸化合物であるりん酸と、V化合物であるバナジウムオキシアセチルアセトネートVO(OC(=CH)CH2COCH)と、Zr化合物及びフッ素化合物であるジルコニウムフッ化水素酸とを含有した。
【0122】
いずれの試験番号においても、鋼板最高到達温度PMTは適切であった。一方、試験番号1~6、8、9、11~29では保持時間が適切であったものの、試験番号7及び10では保持時間が短すぎた。
【0123】
以上の方法により、めっき鋼板を製造した。製造されためっき鋼板に対して、次の評価試験を実施した。
【0124】
[評価試験]
[テクスチャの凸部の算術平均粗さRa測定試験]
各試験番号のめっき鋼板に対して、テクスチャの凸部の算術平均粗さRaを次の方法で求めた。
【0125】
高さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、幅方向の表示分解能が1nm以上であるキーエンス社製レーザー顕微鏡(商品名:VK-9710)を準備した。レーザー顕微鏡を用いて、倍率500倍で平面視において、鋼板の各エッジ(各端)から5mm幅のエッジ近傍領域を除く内部領域内から、凸部C10の延在方向に10mm、凸部C10の延在方向に垂直な方向に10mmの1つの矩形範囲を特定した。特定した矩形範囲内のテクスチャの複数の凸部C10及び複数の凹部R10の表面高さプロファイルを測定した。
【0126】
次に、矩形範囲内で得られた表面高さプロファイルを用いて、矩形範囲内において、凸部の延在方向に100μm間隔で、凸部の延在方向に垂直な方向及びめっき鋼板の板厚方向を含む断面(図4参照)における、テクスチャが形成された電気亜鉛系めっき層の表面高さプロファイルを求めた。求めた表面高さプロファイルのうちの最高高さを有する最高点Hmaxと最低高さを有する最低点Hminとを特定した。得られた最高点Hmax及び最低点Hminを用いて、高低差Lを次の式で求めた。
高低差L=最高点Hmaxの高さ-最低点Hminの高さ
【0127】
得られた高低差Lの1/3倍の高さ、つまり、L/3を用いて、上記断面において、凸部と凹部とを次のとおり定義した。断面における表面のうち、最低点HminからL/3以上の高さの連続した領域を、1つの凸部C10と定義した。最低点HminからL/3未満の高さの連続した領域を、1つの凹部R10と定義した。つまり、図4の断面での表面10Sにおいて、最低点HminからL/3の高さであってかつ凸部の延在方向に垂直な方向(図4では板幅方向WD)に平行な仮想線分Wrefよりも上方の連続した領域の各々を凸部C10と定義し、仮想線分Wref以下の連続した領域の各々を凹部R10と定義した。
【0128】
上述の100μm間隔の各断面において、凸部C10と認定された表面領域の算術平均粗さRa(nm)を求める。具体的には、断面での表面10Sで特定された各凸部C10の算術平均粗さRa(nm)を、JIS B 0601に基づいて求める。評価長さはカットオフ値の5倍とし、カットオフ値λsは20μmとした。各凸部C10で得られた算術平均粗さRaの算術平均値を、その断面での凸部C10の算術平均粗さRa(nm)と定義する。100μm間隔の各断面で得られた凸部C10の算術平均粗さRaの算術平均値を、めっき鋼板1の凸部C10の算術平均粗さ(nm)と定義した。得られた凸部C10の算術平均粗さRa(nm)を表1に示す。
【0129】
[互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差測定試験]
各試験番号のめっき鋼板において、互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差を次の方法で求めた。
【0130】
図4を参照して、凸部C10及び凹部R10を特定した上述の各断面の表面10Sにおいて、互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10に注目した。互いに隣り合う凸部C10aと凹部R10aとに注目し、レーザー顕微鏡を用いた上記矩形範囲での表面高さプロファイルに基づいて、凸部C10aでの最高高さを求めた。さらに、凹部R10aでの最低高さを求めた。得られた結果に基づいて、凸部C10aと凹部R10aとでの高低差を次のとおり求めた。
高低差=凸部C10aでの最高高さ-凹部R10での最低高さ
【0131】
同様に、互いに隣り合う他の凸部C10及び凹部R10に対しても、高低差を求めた。各断面において、表面10S上の互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の高低差を全て求めた。そして、求めた高低差の算術平均値を、その断面での互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差(μm)とした。上記矩形範囲での全ての断面の平均高低差の算術平均値を、めっき鋼板1での互いに隣り合う凸部C10及び凹部R10の平均高低差(μm)と定義した。平均高低差(μm)を表1に示す。
【0132】
[複合被膜付着量測定試験]
各試験番号のめっき鋼板の複合被膜の付着量を次の方法で求めた。各試験番号ごとに、複合被膜の原料である複合被膜用組成物を別途乾燥固化した。固化した組成物(標準試料)の質量と、XRFで測定されたSi強度との相関をとった検量線を作成した(検量線法)。続いて、複合被膜が形成されためっき鋼板から、サンプルを採取した。サンプルの複合被膜に対して蛍光X線分析を実施して、Si強度を得た。得られたSi強度と検量線とに基づいて、複合被膜の付着量(g/m)を求めた。
【0133】
[テクスチャの凹部の総面積率測定試験]
各試験番号のめっき鋼板1における凹部の総面積率を次の方法で求めた。高さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、幅方向の表示分解能が1nm以上であるキーエンス社製レーザー顕微鏡(商品名:VK-9710)を準備した。レーザー顕微鏡を用いて、倍率500倍で平面視において、鋼板の各エッジ(各端)から5mm幅のエッジ近傍領域を除く内部領域内から、凸部C10の延在方向に10mm、凸部C10の延在方向に垂直な方向に10mmの1つの矩形範囲を特定した。特定した矩形範囲内のテクスチャT1の複数の凸部C10及び複数の凹部R10の表面高さプロファイルを測定した。レーザー顕微鏡は、矩形範囲内のテクスチャT1の表面高さプロファイルを、連続した三次元データとして測定した。
【0134】
次に、矩形範囲内で得られた表面高さプロファイルのうちの最高高さを有する最高点Hmaxと最低高さを有する最低点Hminとを特定した。得られた最高点Hmax及び最低点Hminを用いて、高低差Lを次の式で求めた。
高低差L=最高点Hmaxの高さ-最低点Hminの高さ
【0135】
得られた高低差Lの1/3倍の高さ、つまり、L/3を用いて、上記断面において、凸部C10と凹部R10とを次のとおり定義した。断面における表面10Sのうち、最低点HminからL/3以上の高さの領域を、凸部C10と定義した。最低点HminからL/3未満の高さの領域を、凹部R10と定義した。
【0136】
以上の方法により、矩形範囲を平面視した場合における、凹部R10の領域を特定できる。そして、特定された凹部R10の領域の総面積を求めた。具体的には、周知の2値化処理により、表面高さがL/3以下の領域(つまり、凹部R10)と、表面高さがL/3超の領域(つまり凸部C10)とを区別した。そして、矩形範囲を平面視した場合における、凹部R10の領域の総面積を求めた。凹部R10領域の総面積と、矩形範囲を平面視した場合における矩形範囲の総面積とに基づいて、凹部R10の総面積率(%)を求めた。
【0137】
[P濃化領域被覆比の測定試験]
次の方法により、各試験番号のめっき鋼板の表面でのP濃化領域被覆比を求めた。めっき鋼板を平面視した場合のめっき鋼板の表面のうち、凹部R10の総面積率を求めた矩形範囲において、マイクロ蛍光X線分析を実施して、矩形範囲の各微小領域でのP含有量(質量%)及びZn含有量(質量%)を測定した。具体的には、矩形範囲(10mm×10mm)を128×128個の微小領域に区切り、各微小領域でのP含有量及びZn含有量を測定した。各微小領域において、P含有量のZn含有量に対する質量比(P/Zn)を求めた。求めたP/Znの算術平均値を[P/Zn]aveとした。
【0138】
各微小領域のうち、P/Znが[P/Zn]aveの1.2倍以上となる微小領域を「P濃化領域」と特定した。そして、P濃化領域の総面積と、矩形範囲の面積とに基づいて、P濃化領域面積率(%)を求めた。
【0139】
求めたP濃化領域面積率(%)を、上述のテクスチャの凹部R10の総面積率で除して(=P濃化領域面積率/凹部総面積率)、P濃化領域被覆比を求めた。
【0140】
[耐食性評価試験]
各試験番号のめっき鋼板に対して、次の方法により、耐食性(長期耐食性)を評価した。各試験番号のめっき鋼板から、75mm×100mmの試験片を10枚採取した。試験片の端面及び裏面をテープシールで保護した。次に、試験片に対して、35℃に保持された5%NaClの塩水噴霧試験を、JIS Z 2371(2015)に準拠して実施した。10枚の試験片について塩水噴霧試験を240時間継続した。240時間経過後の試各験片において、鋼板表面に形成された錆の面積率(%)(以下、錆面積率という)を求めた。錆面積率は、錆領域の面積を、鋼板表面の面積で除して得た。各試験片の錆面積率に応じて、耐食性を次のとおり評価した。
評価A:全ての試験片の錆面積率が3%以下である。
評価B:試験片のうち、錆面積率が3%超の試験片が1枚以上あり、かつ、全ての試験片の錆面積率が10%以下である。
評価C:試験片のうち、錆面積率が10%超の試験片が1枚以上あり、かつ、全ての試験片の錆面積率が15%以下である。
評価X:試験片のうち、錆面積率が15%超の試験片が1枚以上ある
評価A~Cである場合、耐食性に優れると判断した(表1及び表2中の「耐食性」欄で「A」又は「B」又は「C」)。評価Xの場合、耐食性が低いと判断した(表1及び表2中の「耐食性」欄で「X」)。
【0141】
[意匠性評価試験]
各試験番号のめっき鋼板に対して、次の方法で意匠性を評価した。各試験番号のめっき鋼板の任意の点において、テクスチャ(ヘアライン)と平行方向の光沢度G60(Gl)と、テクスチャ(ヘアライン)と直行方向の光沢度G60(Gc)とを光沢度計で測定した。光沢度計は、スガ試験機株式会社製のグロスメーター(商品名:UGV-6P)を用いた。得られた光沢度Glと、光沢度Gcとに基づいて、Gc/Glを求めた。0.30≦Gc/Gl<0.85の範囲内となった場合、意匠性に優れると判断した(表1中で評価「優」)。Gc/Glが0.30未満である場合、又は、Gc/Glが0.85以上である場合、意匠性が低いと判断した(表1中で評価「不可」)。
【0142】
[評価結果]
表1を参照して、試験番号5、6、8、9、11~29では、テクスチャの凸部の算術平均粗さRaが5超~200nmの範囲内であり、テクスチャで互いに隣り合う凸部及び凹部の平均高低差が0.3~3.0μmの範囲内であった。さらに、P濃化領域被覆比が0.25以上であった。そのため、意匠性に優れ、耐食性にも優れた。
【0143】
一方、試験番号1では、テクスチャ形成工程を実施せず、電気亜鉛系めっき層の表面にテクスチャを形成しなかった。そのため、テクスチャの凸部の算術平均粗さRaが200nmを超え、意匠性が低かった。
【0144】
試験番号2では複合被膜の付着量が少なすぎ、そのため、P濃化領域被覆比が0.25未満となった。その結果、意匠性に優れるものの、耐食性が低かった。
【0145】
試験番号3では、テクスチャで互いに隣り合う凸部及び凹部の平均高低差が0.3μm未満であった。その結果、耐食性に優れるものの、意匠性も低かった。
【0146】
試験番号4では、テクスチャで互いに隣り合う凸部及び凹部の平均高低差が3.0μmを超えた。その結果、耐食性に優れるものの、意匠性が低かった。
【0147】
試験番号7及び10は、テクスチャ形成工程での保持時間が短すぎた。そのため、いずれの試験番号においても、P濃化領域被覆比が0.25未満となった。その結果、意匠性に優れるものの、耐食性が低かった。
【実施例2】
【0148】
実施例2では、めっき鋼板の複合被膜の[P/Si]ave及び[V/Si]aveと、耐食性との関係を調査した。
【0149】
表2に示す各試験番号のめっき鋼板を製造した。具体的には、母材鋼板として、JIS G 3141(2017)に規定されているSPCCに相当する化学組成の鋼板を準備した。母材鋼板の厚さは0.6mmとした。
【0150】
【表2】
【0151】
各鋼板に対して電気亜鉛めっき処理を実施して、表2に示す組成の電気亜鉛系めっき層を形成した。
【0152】
具体的には、試験番号1~3、5~7、9、11及び12では、実施例1の試験番号1と同じ条件で電気亜鉛めっき処理を実施し、厚さが3.0μm程度となるように、めっき時間を調整した。以上の工程により、母材鋼板上に、電気亜鉛系めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、電気亜鉛めっき層の化学組成を分析した。その結果、電気亜鉛めっき層の化学組成は、Znからなる化学組成であり、Al含有量は0.1%未満であった。
【0153】
試験番号4では、実施例1の試験番号8と同じ条件で電気亜鉛めっき処理を実施し、めっき組成がZn-12%Ni、厚さが3.0μm程度となるように、電流密度とめっき時間を調整した。以上の工程により、母材鋼板上に、電気亜鉛合金めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、電気亜鉛合金めっき層の化学組成を分析した。その結果、電気亜鉛合金めっき層の化学組成は、Niが12%であり、残部がZnであった。
【0154】
試験番号8では、実施例1の試験番号10と同じ条件で電気亜鉛めっき処理を実施し、めっき組成がZn-14%Fe、厚さが3.0μm程度となるように、電流密度とめっき時間を調整した。以上の工程により、母材鋼板上に、電気亜鉛合金めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、電気亜鉛合金めっき層の化学組成を分析した。その結果、電気亜鉛合金めっき層の化学組成は、Feが14%であり、残部がZnであった。
た。
【0155】
試験番号10では、実施例1の試験番号10と同じ条件で電気亜鉛めっき処理を実施し、めっき組成がZn-2%Co、厚さが3.0μm程度となるように、電流密度とめっき時間を調整した。以上の工程により、母材鋼板上に、電気亜鉛合金めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、電気亜鉛合金めっき層の化学組成を分析した。その結果、電気亜鉛合金めっき層の化学組成は、Coが2%であり、残部がZnであった。
【0156】
電気亜鉛系めっき層が形成された試験番号1~12の鋼板に対して、テクスチャ形成工程を実施して、電気亜鉛系めっき層の表面上にテクスチャを形成した。具体的には、周知のテクスチャ形成工程を実施して、電気亜鉛系めっき層の表面上にヘアラインを形成した。
【0157】
ヘアラインが形成された試験番号1~12の鋼板に対して、ロールコーターで所定の付着量となるように複合被膜用組成物(薬液)を塗布し、表2に示す鋼板最高到達温度PMT及び保持時間で複合被膜形成工程を実施して、複合被膜を形成した。
【0158】
複合被膜用組成物は、次のとおり準備した。シランカップリング剤(A):3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び、シランカップリング剤(B):3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを準備し、固形分質量比〔(A)/(B)〕=1.0の割合でpH4に調整した水に添加し、所定時間攪拌して有機珪素化合物を製造した。
【0159】
試験番号1~12の複合被膜用組成物は、製造した上記有機珪素化合物と、りん酸化合物であるりん酸と、V化合物であるオキシ硫酸バナジウム(VOSO)と、Zr化合物及びフッ素化合物であるジルコニウムフッ化水素酸とを含有した。
【0160】
以上の方法により、めっき鋼板を製造した。製造されためっき鋼板に対して、実施例1と同様に、テクスチャの凸部の算術平均粗さRa(nm)、テクスチャで互いに隣り合う凸部及び凹部の平均高低差(μm)、P濃化領域被覆比を求めた。さらに、次の方法により、めっき鋼板の複合被膜の[P/Si]ave及び[V/Si]aveを求めた。
【0161】
[[P/Si]ave測定試験]
各試験番号において、めっき鋼板を平面視した場合のめっき鋼板表面のうち、上述のP濃化領域総面積率を測定した矩形範囲において、マイクロ蛍光X線分析を実施して、各矩形範囲の各微小領域でのP含有量(質量%)及びSi含有量(質量%)を測定した。具体的には、矩形範囲(10mm×10mm)を128×128個の微小領域に区切り、各微小領域でのP含有量及びSi含有量を測定した。各微小領域において、P含有量のSi含有量に対する質量比(P/Si)を求めた。求めたP/Siの算術平均値を[P/Si]aveと定義した。
【0162】
[[V/Si]ave測定試験]
各試験番号において、めっき鋼板を平面視した場合のめっき鋼板表面のうち、上述のP濃化領域総面積率を測定した矩形範囲において、マイクロ蛍光X線分析を実施して、矩形範囲の各微小領域でのV含有量(質量%)及びSi含有量(質量%)を測定した。具体的には、矩形範囲(10mm×10mm)を128×128個の微小領域に区切り、各微小領域でのV含有量及びSi含有量を測定した。各微小領域において、V含有量のSi含有量に対する質量比(V/Si)を求めた。求めたV/Siの算術平均値を[V/Si]aveと定義した。
【0163】
[耐食性評価試験及び意匠性評価試験]
試験番号1~12のめっき鋼板に対して、実施例1と同じ条件で耐食性評価試験及び意匠性評価試験を実施した。
【0164】
[評価結果]
表2を参照して、試験番号1~12ではいずれも、テクスチャの凸部の算術平均粗さRaが5超~200nmの範囲内であり、テクスチャで互いに隣り合う凸部及び凹部の平均高低差が0.3~3.0μmの範囲内であった。さらに、P濃化領域被覆比が0.25以上であった。そのため、意匠性に優れ、耐食性にも優れた。
【0165】
特に、試験番号1及び2は、[V/Si]aveが適切な範囲であった。そのため、試験番号11及び12と比較して、耐食性に優れた。
【0166】
また、試験番号5及び6は、[P/Si]aveが適切な範囲であった。そのため、試験番号11及び12と比較して、耐食性に優れた。
【0167】
特に、試験番号3、4、7~10は、[P/Si]ave及び[V/Si]aveが適切な範囲であった。そのため、試験番号1、2、5、6、11及び12と比較して、耐食性に優れた。
【0168】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0169】
1 めっき鋼板
10 電気亜鉛系めっき層
11 複合被膜
T1 テクスチャ
C10 凸部
R10 凹部
図1
図2
図3
図4