(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】テンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20240828BHJP
【FI】
F16H7/08 B
(21)【出願番号】P 2021009403
(22)【出願日】2021-01-25
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】松下 奨吾
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-015981(JP,U)
【文献】実開昭55-054908(JP,U)
【文献】特開2001-326119(JP,A)
【文献】特開2020-193595(JP,A)
【文献】実開平05-038440(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2019/0107180(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方側に開口したプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、前記プランジャ収容穴内に摺動自在に挿入されたプランジャ
とを備えたテンショナであって、
前記テンショナボディ及び前記プランジャを磁化させる励磁コイルを備え、
前記励磁コイルに対する通電により前記テンショナボディ及び前記プランジャの間に生ずる磁気吸引力
を前記プランジャの押し付け力として利用可能に構成
され、
前記プランジャ収容穴内に、磁気吸着部材が一体に固定され、前記磁気吸着部材は前端にフランジ部を有し、磁気吸着面が前記フランジ部の後面により構成され、
前記プランジャは、前記励磁コイルの励磁時に前記磁気吸着面に吸着保持され前記磁気吸着面に平行な磁極面を有し、
前記磁極面は、前記磁気吸着面の後方側において前記磁気吸着面と対向するように、前記プランジャに対し前後方向に段差を設けることで形成され、
前記プランジャは、後方側に開口するプランジャ穴を有する有底円筒状であって、
前記プランジャの段差が、前記プランジャ穴の開口端部に径方向内方に突出するように円環板状の被吸着部材を一体に設けることで形成されていることを特徴とするテンショナ。
【請求項2】
前記磁気吸着面及び前記磁極面が、後方に向かって外拡がりのテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のテンショナ。
【請求項3】
前記テンショナボディは、前記プランジャ収容穴を画成する円筒状部を有し、
前記励磁コイルが、前記テンショナボディの円筒状部の外周に配設されていることを特徴とする
請求項1または請求項2に記載のテンショナ。
【請求項4】
前記プランジャの外周面に周方向全周にわたって凹部が形成され、前記凹部内に前記励磁コイルが配設されていることを特徴とする
請求項1または請求項2に記載のテンショナ。
【請求項5】
前記プランジャに油圧を作用させるためのオイルを前記テンショナボディの外部から供給するためのオイル供給路を備え、
前記磁気吸引力と油圧を前記プランジャの押し付け力として利用することを特徴とする
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のテンショナ。
【請求項6】
前記テンショナボディおよび前記プランジャの間の空間に、前記プランジャを前方側に向けて付勢する付勢手段が収納され、前記付勢手段による付勢力をさらに前記プランジャの押し付け力として利用することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行するチェーンやベルト等に適正な張力を付与するテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンのタイミングシステム等に用いられる伝動装置において、走行するベルトやチェーン等の張力を適正に保持するためにテンショナを用いることが慣用されている。例えば、エンジンルーム内のクランク軸とカム軸の夫々に設けたスプロケット間に無端懸回したチェーンをテンショナレバーによって摺動案内を行なうチェーンガイド機構において、チェーンの張力を適正に保持するために、テンショナによってテンショナレバーを付勢するものが公知である。
【0003】
公知のテンショナは、例えば特許文献1~特許文献3に示されるように、後方側に開口したプランジャ穴を有するプランジャと、前方側に開口したプランジャ収容穴を有するハウジングと、プランジャ及びプランジャ収容穴の間に形成された圧油室に配設されプランジャを前方側に向けて付勢する付勢手段とを備えている。
このようなテンショナでは、通常、付勢手段による付勢力と圧油室に供給されるオイルの油圧によりプランジャを前方側に付勢するとともにオイルによる油圧ダンピングを働かせてプランジャの後方側への動きを規制し、チェーンの張力変動に伴うチェーンのバタつきを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-344086号公報
【文献】特開2006-125430号公報
【文献】特開2008-190605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような油圧式テンショナにおいては、エンジン始動時等には、オイルが供給されるまでの間は油圧ダンピングが生じず、プランジャが大きく後退して始動時打音の発生原因になってしまうことが知られている。
このような問題に対して、特許文献1~特許文献3に記載のテンショナでは、プランジャの進退移動の許容および規制を行うラチェット機構を備えた構成とされている。しかしながら、このようなテンショナでは、バックラッシュ量を適正な大きさとするために、各部品の加工精度を必要とし、製造負担が大きくなるという問題がある。
このように、油圧式テンショナにおいては、エンジン始動時にオイルが充填されるまでの間の反力を如何にして確保しチェーンのバタつきを抑えるかが課題となっている。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、簡単な構成で、多様な張力変動に対して常に適切な反力、減衰力を発揮することが可能なテンショナを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前方側に開口したプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、前記プランジャ収容穴内に摺動自在に挿入されたプランジャとを備えたテンショナであって、前記テンショナボディ及び前記プランジャを磁化させる励磁コイルを備え、前記励磁コイルに対する通電により前記テンショナボディ及び前記プランジャの間に生ずる磁気吸引力を前記プランジャの押し付け力として利用可能に構成され、前記プランジャ収容穴内に、磁気吸着部材が一体に固定され、前記磁気吸着部材は前端にフランジ部を有し、磁気吸着面が前記フランジ部の後面により構成され、前記プランジャは、前記励磁コイルの励磁時に前記磁気吸着面に吸着保持され前記磁気吸着面に平行な磁極面を有し、前記磁極面は、前記磁気吸着面の後方側において前記磁気吸着面と対向するように、前記プランジャに対し前後方向に段差を設けることで形成され、前記プランジャは、後方側に開口するプランジャ穴を有する有底円筒状であって、前記プランジャの段差が、前記プランジャ穴の開口端部に径方向内方に突出するように円環板状の被吸着部材を一体に設けることで形成された構成とすることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0008】
本請求項1に係る発明によれば、励磁コイルに対する通電によりテンショナボディ及びプランジャを磁化させ、テンショナボディ及びプランジャの間に生ずる磁気吸引力をプランジャの押し付け力として利用する構成とすることにより、励磁コイルに対する給電制御によりプランジャの押し付け力が調整可能となるので、チェーン等の張力変動に対して常に適切な反力、減衰力を発揮することが可能となると共に、チェーン等の張力調整の応答性を向上させることができる。
また、チェーン等の張力調整を電気的に行うことができるので、例えばラチェット機構などのチェーン等のバタつきを抑制するための機構を組み込むことは、必ずしも必要はなくなる。このため、構造の簡素化や加工負担及び組付負担の低減を実現することができる。
【0009】
本発明によれば、テンショナボディが平坦な磁気吸着面を有し、プランジャに対し前後方向に段差を設けることで磁気吸着面に平行な磁極面を形成した構成であることにより、簡単な構成で、励磁コイルの励磁時に所期の磁気吸引力を担保することが可能となる。
【0010】
また、本発明によれば、磁気吸着面及び磁極面が後方に向かって外拡がりのテーパ状に形成されていることにより、磁気吸引力の作用する平行面の面積が大きくなって磁束を増加させることができる。また、プランジャのストロークに対する磁気吸着面と磁極面の間隔の開きが少なくなるため、同じストロークを確保したい場合、最大にストロークした際に同じ押し付け力を維持するための電流変化を小さく抑えることができる。これにより、プランジャストロークが大きい場合でも安定した磁気吸引力を確保することができる。
【0012】
本発明によれば、プランジャが後方側に開口するプランジャ穴を有する有底円筒状であって、磁気吸着面がプランジャ収容穴内に一体に固定された磁気吸着部材におけるフランジ部の後端面により構成され、磁極面を構成するプランジャの段差がプランジャ穴の開口端部に径方向内方に突出するように円環板状の被吸着部材を一体に設けることで形成されていることにより、プランジャを前方側からプランジャ収容穴に挿入することが可能であり、従来の油圧式テンショナに対してテンショナボディ及びプランジャの大幅な設計変更を伴うことなく製造を比較的容易にすることができる。また、油圧を利用する場合には、オイルによる減衰力をプランジャ収容穴とプランジャとの間のクリアランスで調整可能となる。さらにまた、プランジャを中空円筒状とすることでプランジャを軽量化できるため、励磁コイルに供給すべき電流の大きさを小さくすることができる。
【0013】
本発明によれば、テンショナボディがプランジャ収容穴を画成する円筒状部を有し、励磁コイルがテンショナボディの円筒状部の外周に配設されていることにより、プランジャを移動させるための磁界を適切に形成することが可能となる。
【0014】
本発明によれば、プランジャの外周面に周方向全周にわたって形成された凹部内に励磁コイルが配設されていることにより、磁気吸着部材のみを局所的に磁化させることが可能であり、磁気吸着面と磁極面との間に適正な磁気吸引力を作用させることができる。
【0015】
また、本発明によれば、磁気吸引力に加え、供給されたオイルの油圧及び/ または付勢手段の付勢力をプランジャの押し付け力として利用する構成とすることにより、張力変動に対して常に適切な反力、減衰力を一層確実に発揮することが可能となる。このため、オイルの油圧が不足している状態であってもチェーン等のバタつきを抑えることができ、オイルが充填された状態においては励磁コイルに対する電流供給を停止することで、プランジャの押し出し力が減少するため、フリクション性を向上させることができる。また、付勢手段の荷重を大きくする必要がなくなるので、この点においても、フリクション性が悪化することを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るテンショナの一構成例を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図1に示すテンショナの要部を示す拡大図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係るテンショナの一構成例を概略的に示す断面図である。
【
図4】
図3に示すテンショナの要部を示す拡大図である。
【
図5】本発明の第3実施形態に係るテンショナの一構成例を概略的に示す断面図である。
【
図6】
図5に示すテンショナの要部を示す拡大図である。
【
図7】本発明の第4実施形態に係るテンショナの一構成例を概略的に示す断面図である。
【
図8】
図7に示すテンショナの要部を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のテンショナは、自動車エンジンのタイミングシステム等に用いられるチェーン伝動装置に組み込まれるものであって、例えば、エンジンブロックに取り付けられ、複数のスプロケットに掛け回された伝動チェーンの弛み側にテンショナレバーを介して適正な張力を付与し、走行時に生じる振動を抑止するために用いられる。
以下、本発明のテンショナについて、図面に基づいて説明する。
【0018】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係るテンショナ100は、
図1に示すように、テンショナボディ110と、プランジャ130と、チェックバルブ140と、付勢手段150と、励磁コイル160を備える。
【0019】
テンショナボディ110は、例えば鉄、炭素鋼、ニッケル、ケイ素鋼等の磁性材料からなり、前方側に開口したプランジャ収容穴115を有する。
テンショナボディ110は、プランジャ収容穴115を画成する円筒状部112と、円筒状部112と一体に形成されテンショナ100の取付対象であるエンジンブロックに固定するための取付部113とを備える。
【0020】
プランジャ収容穴115は、前方に開口する小径穴部116と、小径穴部116に段差部117を介して連続する大径穴部118を有する。
段差部117の後面は、
図2に示すように、プランジャ収容穴115の軸線に直交する平面に沿った平坦面とされており、磁気吸着面SAを形成している。
大径穴部118は、後方に向かって開口しており、これによりプランジャ130を後方側から挿入してプランジャ収容穴115内に配置することが可能となる。
【0021】
プランジャ収容穴115には、プランジャ収容穴115の後方開口を塞ぐキャップ部材120が嵌合されており、これによりプランジャ130が後方に抜け出ることを防止している。
【0022】
プランジャ130は、例えば鉄、炭素鋼、ニッケル、ケイ素鋼等の磁性材料からなり、プランジャ収容穴115の軸線方向に沿って摺動自在にプランジャ収容穴115内に配置される。
このテンショナ100においては、磁気吸着面SAの後方側においてプランジャ130に対し前後方向に段差を設けることで磁気吸着面SAに吸着保持される磁極面SPを形成している。
【0023】
本実施形態のプランジャ130は、小径穴部116内に位置される円柱状の軸部131を備え、軸部131の後端に拡径部132を設けることで段差を形成している。
拡径部132は、磁気吸着面SAと前後方向に対向し磁気吸着面SAに平行な平坦面を形成するように構成されたフランジ部により形成され、フランジ部の前面により磁極面SPが構成されている。
組付け時には、プランジャ収容穴115の段差部117がストッパとしても機能するため、拡径部132がプランジャ収容穴115の段差部117に当接することで、プランジャ130が前方から抜け出ることを防止することができて組付け負担を軽減することができる。
【0024】
プランジャ収容穴115内においてプランジャ130の後端側の空間は圧油室Cとされており、キャップ部材120には、プランジャ130に油圧を作用させるためのオイルをテンショナボディ110の外部から圧油室C内に供給するためのオイル供給路が設けられている。
図1における121はオイル供給孔である。
【0025】
チェックバルブ140は、オイル供給孔121を通じて外部から圧油室Cへのオイルの流入を許容するとともに、オイル供給孔121からのオイルの流出を防止するものであり、テンショナボディ110内においてキャップ部材120の前面側に配置されている。
【0026】
チェックバルブ140は、キャップ部材120の前面に密着して配置されたボールシート141と、ボールシート141に密着可能に着座する球状のチェックボール142と、チェックボール142の前方に配置されチェックボール142の移動を規制するリテーナ143とから構成されている。なお、チェックボール142をボールシート141側に向けて付勢するボールスプリングをチェックボール142とリテーナ143との間に配置してもよい。
リテーナ143は、チェックボール142の前方側に配置される略円板状の頂部と、頂部の周縁から後方側に垂下し、ボールシート141の外周側に配置されるスカート部と、スカート部の後端から外周側に広がる複数のフランジ部とを有している。
【0027】
付勢手段150は、プランジャ130を前方側に付勢するものであって、例えばコイルばねからなる。
付勢手段150は、前端がプランジャ130の拡径部132の後面に接触すると共に後端がリテーナ143のフランジ部の前面に接触するように圧油室C内に伸縮自在に配置されている。なお、付勢手段150の後端の配置は上記に限定されず、例えば、付勢手段150の後端が、リテーナ143のフランジ部の外周側に配置されていてもよい。
【0028】
而して、本実施形態に係るテンショナ100は、通電によりテンショナボディ110及びプランジャ130を磁化させる励磁コイル160を備えている。
励磁コイル160は、テンショナボディ110の円筒状部112の外周に配設されており、これによりプランジャ130を移動させるための磁界を適切に形成することが可能となる。
【0029】
励磁コイル160の通電により励磁コイル160内部において磁力線(
図1において破線の閉曲線で示す。)の向きがプランジャ収容穴115の軸線方向に沿って後方から前方へ向かう磁界を発生させることで、
図2に示すように、テンショナボディ110における磁気吸着面SAとプランジャ130における磁極面SPの間に磁気吸引力Fが生じる。これにより、プランジャ130を磁極面SPが磁気吸着面SAに吸着保持されるように前方側に移動させることが可能となる。すなわち、このテンショナ100では、圧油室Cに供給されるオイルの油圧及び付勢手段150の付勢力とともに、磁気吸着面SAと磁極面SPの間に生ずる磁気吸引力Fがプランジャ130の押し付け力として利用される。磁気吸引力Fの大きさは、励磁コイル160に供給される電流の大きさを調整することで制御することが可能である。
このテンショナ100では、プランジャ130に対し前後方向に段差を設けることで磁気吸着面SAに平行な磁極面SPを形成していることにより、簡単な構成で、励磁コイル160の励磁時に所期の磁気吸引力Fを担保することが可能となる。
【0030】
従って、エンジン始動時においてオイルが圧油室Cに充填される前、すなわちオイルの油圧が不足している状態にあっては、励磁コイル160に対する給電制御により磁気吸引力Fを調整することで、チェーン等の張力変動に対して常に適切な反力、減衰力を発揮することが可能となると共に、チェーン等の張力調整の応答性を向上させることができる。
一方、オイルが充填された状態においては、オイルの油圧による付勢力及びオイルによる減衰力(油圧ダンピング)が得られるため、チェーン等の張力変動に対して常に適切な反力、減衰力を発揮することが可能となる。このとき、励磁コイル160に対する電流供給を停止してプランジャ130の押し出し力を減少させることで、チェーン走行面におけるフリクション性を向上させることができる。
【0031】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係るテンショナ100は、
図3に示すように、テンショナボディ110における磁気吸着面SA及びプランジャ130における磁極面SPが、後方に向かって外拡がりのテーパ状に形成されていることの他は、第1実施形態に係るテンショナと同様の構成を有する。
【0032】
本実施形態に係るテンショナ100におけるテンショナボディ110は、段差部117の後面が後方に向かって外拡がりのテーパ状となるように形成されたプランジャ収容穴115を有し、
図4に示すように、段差部117の後面によって磁気吸着面SAが構成されている。
【0033】
本実施形態に係るテンショナ100においても、磁気吸着面SAの後方側においてプランジャ130に対し前後方向に段差を設けることで磁気吸着面SAに吸着保持される磁極面SPを形成している。
プランジャ130の段差は、小径穴部116内に位置される円柱状の軸部131の後端に拡径部132を設けることで形成している。
拡径部132は、軸部131の後端に連続する円錐台状の連続部133と、連続部133の後端に連続する大径軸部134とにより構成され、連続部133の周面により磁極面SPが構成されている。
【0034】
本実施形態に係るテンショナ100においては、励磁コイル160の通電により磁界を発生させることでテンショナボディ110及びプランジャ130が磁化し、
図4に示すように、テンショナボディ110における磁気吸着面SAとプランジャ130における磁極面SPの間に磁気吸引力Fが生じる。これにより、プランジャ130を磁極面SPが磁気吸着面SAに吸着保持されるように前方側に移動させることが可能となる。すなわち、このテンショナ100では、圧油室Cに供給されるオイルの油圧及び付勢手段150の付勢力とともに、磁気吸着面SAと磁極面SPの間に生ずる磁気吸引力Fがプランジャ130の押し付け力として利用される。
【0035】
而して、磁気吸着面SA及び磁極面SPが後方に向かって外拡がりのテーパ状に形成されていることにより、磁気吸引力Fの作用する平行面の面積が大きくなって磁束を増加させることができる。また、プランジャ130のストロークに対する磁気吸着面SAと磁極面SPの間隔の開きが少なくなるため、同じストロークを確保したい場合、最大にストロークした際に同じ押し付け力を維持するための電流変化を小さく抑えることができる。これにより、プランジャストロークが大きい場合でも安定した磁気吸引力Fを確保することが可能となる。
【0036】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係るテンショナ100は、
図5に示すように、プランジャ130が前方側からプランジャ収容穴115に挿入可能となるように構成されている。このような構成とされることにより、従来の油圧式テンショナに対してテンショナボディ110及びプランジャ130の大幅な設計変更を伴うことなく比較的容易に製造可能である。
【0037】
本実施形態に係るテンショナ100におけるテンショナボディ110は、前方側に開口するプランジャ収容穴115を有するボディ本体111と、プランジャ収容穴115の底部においてボディ本体111に一体に固定された磁気吸着部材125とにより構成されている。
ボディ本体111は、プランジャ収容穴115を画成する円筒状部112と、円筒状部112と一体に形成されテンショナ100の取付対象であるエンジンブロックに固定するための取付部113を有する。
【0038】
磁気吸着部材125は、例えば鉄、炭素鋼、ニッケル、ケイ素鋼等の磁性材料からなる。
磁気吸着部材125は、プランジャ収容穴115の底部前面上に位置される円板状の嵌合部126と、嵌合部126の前面中央部において前後方向に延びる円柱状の支柱部127と、支柱部127の前端に設けられた円板状のフランジ部128とを有し、
図6に示すように、フランジ部128の後面により磁気吸着面SAが構成されている。
【0039】
プランジャ130は、後方に開口するプランジャ穴136を有する円筒状のプランジャ本体135を備える。
プランジャ130を中空円筒状とすることでプランジャ130を軽量化できるため、励磁コイル160に供給すべき電流の大きさを小さくすることができる。
【0040】
本実施形態に係るテンショナ100においても、磁気吸着面SAの後方側においてプランジャ130に対し前後方向に段差を設けることで磁気吸着面SAに吸着保持される磁極面SPを形成している。
プランジャ130の段差は、円環板状の被吸着部材138をプランジャ穴136の開口端部に一体に設けることで形成している。被吸着部材138は、例えば鉄、炭素鋼、ニッケル、ケイ素鋼等の磁性材料からなる。
【0041】
プランジャ130は、磁気吸着部材125の支柱部127が被吸着部材138に挿通状態で、プランジャ収容穴115内に摺動可能に挿入され、磁気吸着面SAに前後方向に対向し磁気吸着面SAと平行な被吸着部材138の前面により磁極面SPが構成されている。
【0042】
プランジャ収容穴115内において被吸着部材138の後方側の空間は圧油室Cとされている。
テンショナボディ110の底部には、プランジャ130に油圧を作用させるためのオイルをテンショナボディ110の外部から圧油室C内に供給するためのオイル供給路(
図5には、オイル供給孔121のみが示されている。)が形成されている。また、磁気吸着部材125には、オイル供給孔121と連通し圧油室Cにオイルを供給するための油路123が形成されている。油路123は一端が嵌合部126の後面に開口し他端が支柱部127の周面に開口するように形成されている。
オイルによる減衰力は、プランジャ収容穴115とプランジャ130との間のクリアランスで調整可能となる。
【0043】
また、本実施形態に係るテンショナ100は、例えばコイルばねからなり、プランジャ130を前方側に付勢する付勢手段150を備えている。
付勢手段150は、被吸着部材138の後面に接すると共に後端が磁気吸着部材125における嵌合部126の前面に接するように、伸縮自在に配置されている。
【0044】
励磁コイル160は、プランジャ130を移動させるための磁界を適切に形成するために、テンショナボディ110の円筒状部112の外周に配設されている。
【0045】
本実施形態に係るテンショナ100においては、励磁コイル160の通電により磁界を発生させることでテンショナボディ110における磁気吸着部材125及びプランジャ130における被吸着部材138が磁化し、
図6に示すように、テンショナボディ110における磁気吸着面SAとプランジャ130における磁極面SPの間に磁気吸引力Fが生じる。これにより、プランジャ130を磁極面SPが磁気吸着面SAに吸着保持されるように前方側に移動させることが可能となる。すなわち、このテンショナ100では、圧油室Cに供給されるオイルの油圧及び付勢手段150の付勢力とともに、磁気吸着面SAと磁極面SPの間に生ずる磁気吸引力Fがプランジャ130の押し付け力として利用される。
【0046】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係るテンショナ100は、
図7に示すように、励磁コイル160がプランジャ130に配設されていることの他は、第3実施形態に係るテンショナと同様の構成を有する。
【0047】
本実施形態に係るテンショナ100におけるプランジャ130には、プランジャ本体135の外周面に、円周方向の全周にわたって前後方向に延びる凹部137が形成されており、この凹部137内に励磁コイル160が配設されている。
【0048】
このテンショナ100においては、プランジャ穴136内における磁気吸着部材125の前方側の空間が圧油室Cとされている。
磁気吸着部材125には、オイル供給孔121と連通し圧油室Cにオイルを供給するための油路123が形成されている。油路123は一端が嵌合部126の後面に開口し他端がフランジ部128の前面に開口するように形成されている。
オイルによる減衰力は、プランジャ穴136とフランジ部128との間のクリアランスで調整可能となる。
【0049】
本実施形態に係るテンショナ100においては、励磁コイル160の通電により磁界を発生させることでテンショナボディ110における磁気吸着部材125が局所的に磁化するとともにプランジャ130が磁化し、
図8に示すように、テンショナボディ110における磁気吸着面SAとプランジャ130における磁極面SPの間に適正な磁気吸引力Fを作用させることができる。磁気吸着面SAと磁極面SPの間に生ずる磁気吸引力Fにより、プランジャ130を磁極面SPが磁気吸着面SAに吸着保持されるように前方側に移動させることが可能となる。すなわち、このテンショナ100では、圧油室Cに供給されるオイルの油圧及び付勢手段150の付勢力とともに、磁気吸着面SAと磁極面SPの間に生ずる磁気吸引力Fがプランジャ130の押し付け力として利用される。
【0050】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
【0051】
例えば、上述した実施形態では、テンショナが、磁気吸引力に加えて、オイルの油圧及び付勢手段の付勢力をプランジャの押し付け力として利用するものとして説明したが、プランジャの押し付け力を確保する方法はこれに限定されず、例えば、磁気吸引力のみをプランジャの押し付け力として利用するようにしてもよい。すなわち、本発明のテンショナにおいては、オイル供給機構及び付勢手段を備えていてなくてもよい。また、オイル供給機構及び付勢手段のいずれか一方のみを備え、磁気吸引力とオイルの油圧をプランジャの押し付け力として利用するもの、あるいは、磁気吸引力と付勢手段の付勢力をプランジャの押し付け力として利用するものとしてもよい。このような構成のものにおいては、構造の簡素化や加工負担及び組付負担の低減を実現することができる。
【0052】
テンショナボディ及びプランジャは、磁気吸着面及び磁極面が平行面として形成されるように構成されていれば、具体的な構成は、上述の実施形態のものに限定されない。
例えば、第1実施形態及び第2実施形態では、プランジャの段差が拡径部を設けることで形成されているものとして説明したが、段差の形成方法はこれに限定されず、磁極面を形成し得る磁性部材を別個に設けることで、プランジャに対して磁極面を構成する段差を形成してもよい。また、磁気吸着面はプランジャ収容穴に段差部を設けることで形成されているものとして説明したが、磁気吸着面の形成方法はこれに限定されず、磁性部材を別個にプランジャ収容穴内に一体に設けることで磁気吸着面を形成してもよい。
このような構成のものにおいては、テンショナボディ及びプランジャを構成する材料の選択の自由度が高くなり、例えば、テンショナの軽量化を図ることも可能である。
【0053】
また、本発明のテンショナは、自動車エンジン用のタイミングシステムに組み込まれるものに限定されない。
さらにまた、プランジャの先端で直接的に伝動チェーンの摺動案内を行い、伝動チェーンに張力を付与するようにしてもよい。
さらにまた、伝動チェーンによる伝動機構に限らず、ベルト、ロープ等の類似の伝動機構に適用されてもよく、長尺物に張力を付与することが求められる用途であれば、種々の産業分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
100 ・・・ テンショナ
110 ・・・ テンショナボディ
111 ・・・ ボディ本体
112 ・・・ 円筒状部
113 ・・・ 取付部
115 ・・・ プランジャ収容穴
116 ・・・ 小径穴部
117 ・・・ 段差部
118 ・・・ 大径穴部
120 ・・・ キャップ部材
121 ・・・ オイル供給孔
123 ・・・ 油路
125 ・・・ 磁気吸着部材
126 ・・・ 嵌合部
127 ・・・ 支柱部
128 ・・・ フランジ部
130 ・・・ プランジャ
131 ・・・ 軸部
132 ・・・ 拡径部
133 ・・・ 連続部
134 ・・・ 大径軸部
135 ・・・ プランジャ本体
136 ・・・ プランジャ穴
137 ・・・ 凹部
138 ・・・ 被吸着部材
140 ・・・ チェックバルブ
141 ・・・ ボールシート
142 ・・・ チェックボール
143 ・・・ リテーナ
150 ・・・ 付勢手段
160 ・・・ 励磁コイル
C ・・・ 圧油室
F ・・・ 磁気吸引力
SA ・・・ 磁気吸着面
SP ・・・ 磁極面