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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】半金属イオンの吸着分離方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20240828BHJP
   C02F 1/42 20230101ALI20240828BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240828BHJP
   C08F 26/02 20060101ALI20240828BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
B01J20/26 C
C02F1/42 H
C02F1/28 B
C08F26/02
C08F8/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020162789
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055387
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000142148
【氏名又は名称】ハイモ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(72)【発明者】
【氏名】臨 護
(72)【発明者】
【氏名】本多 剛
(72)【発明者】
【氏名】大島 達也
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-070909(JP,A)
【文献】特開2005-325269(JP,A)
【文献】特開2009-066486(JP,A)
【文献】特開2018-164905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-ビニルカルボン酸アミドと架橋性単量体を含有する、塩として、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウムから選択される一種以上の塩水中で分散剤として、カチオン性モノマーの重合体又はカチオン性モノマーと非イオン性モノマーとの共重合体存在下、懸濁重合して得た架橋重合体粒子を加水分解して製造したポリビニルアミン架橋重合体粒子を産業廃水や地下水の水中に添加することを特徴とする半金属イオンであるセレン又はヒ素イオンの吸着分離方法。
【請求項2】
前記架橋性単量体が、芳香族ポリビニル化合物あるいはアリルエーテル類から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1に記載の吸着分離方法。
【請求項3】
セレン又はヒ素イオンを吸着した請求項に示されるポリビニルアミン架橋重合体粒子を酸で再生させ、繰り返しセレン又はヒ素イオンを吸着分離することを特徴とするセレン又はヒ素イオンの吸着分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリビニルアミン架橋重合体粒子を用いた半金属イオンを含有する排水、地下水からの半金属イオン中でも元素周期律表の15族及び16族元素イオン、特にセレン又はヒ素イオンの吸着分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半金属として分類される元素には有毒なものが多く、中でも元素周期律表の15族のヒ素やアンチモン、16族のセレン、テルル等は水道水質管理目標設定項目が設定されていたり、水質汚濁排出基準値が設定或いは要監視項目となっている。
ヒ素は地殻中に広く分布し、火山活動などにより自然に、また鉱石・化石燃料の採掘や産業活動に伴って人為的に環境に放出され、大気、水、土壌と生物圏を循環するため、あらゆる生物がヒ素を含有している。またその合金は半導体材料としてLEDや半導体レーザー等に使用されている。
その一方でヒ素には強い毒性があり、その毒性を利用して農薬、殺鼠剤、木材の防腐剤などとして使用されてきた。
この様な背景から排水基準として許容濃度0.1mg/L、水道水質基準項目の基準値0.01mg/L以下と定められている。
国内におけるヒ素による水質汚染問題は主に廃鉱山や地熱発電所からの排水や産業廃棄物によるものなど数多く存在する。水中に存在するヒ素イオンの除去方法としては共沈法、触媒法、吸着法が知られている。現在、共沈法が主に用いられているが、特に処理後に大量の廃棄物が発生し、その処理コストに問題がある(例えば特開2003-19404)。触媒法では例えば 特開平9-327694公報に示されるロジウム担持アルミナを触媒として水素曝気によるヒ素イオン還元除去する方法が提案されているが、触媒コストや除去プロセスの複雑さに問題がある。
吸着法については種々吸着剤が提案されており、除去プロセスは比較的単純であるもののヒ素イオン除去性能が不十分であったり、吸着剤コスト等の問題もあり、高効率で使い勝手の良い吸着剤が望まれているのが現状である。
セレンは自然界に広く存在し、生体の微量必須元素であるが、必要量と毒性発現量の差が小さいため、摂取量が不足しても過剰でも障害が生じる。セレンの人体への影響としては皮膚障害、嘔吐、全身ケイレン、神経過敏症、貧血、胃腸障害等を引き起こすことがある。
一方で、セレンはガラスの着色、脱色剤や光伝導性を利用し電気材料、触媒等の製造に広く利用されているため、ガラス工場、半導体工場等からの排水に含有されており、これらの工場跡地の土壌から溶出することがある。このような背景から、水質汚濁防止法で一律排水基準が0.1mg/リットルに定められている。 水中に溶存するセレンは4価及び6価のオキシアニオンであることが知られているが、6価セレンに対して、現時点で効果的な廃水処理技術が見つかっておらず、より効率的なセレンの処理方法の開発が望まれている。
セレンの処理方法として現状多く用いられているのは、鉄塩、アルミニウム塩による共沈処理であるが、かかる方法は4価セレンに対しては十分な効果が得られるが、6価セレンに対する効果は低いという問題がある。
6価セレンに対する有効な処理法として、特許第3956978号公報には、6価のセレン酸イオンを、2価鉄塩や金属塩等により還元処理して亜セレン酸イオンとしたのちに共沈法による方法が開示されているが、還元処理工程が必要なことから処理プロセスが複雑となることや、還元処理の効率が悪く多量の還元剤を必要とする問題があった。
特開平9-308895号公報にはアルミニウム化合物、マグネシウム化合物等を用いる排水処理方法が開示されている。しかしながらこの方法は、嫌気性生物による還元前処理の後、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物等を用いてセレンの共沈処理するもので操作的にかなり煩雑であった。
また、特開2004-89924号公報には、非晶質水酸化鉄(III)を用いるセレン排水処理方法が開示されているが、高濃度セレン排水の処理が不十分であり、さらなる改良が望まれていた。
本発明の目的は、半金属イオン、中でも元素周期律表の15族、16族元素イオン、特にセレン及びヒ素イオンの除去に関し上記課題を解決し、より簡便なプロセスで効率の良い吸着分離方法を提供することにある。
【0003】
【文献】特開2003-19404号公報
【文献】特開平9-327694公報
【文献】特許第3956978号公報
【文献】特開平9-308895号公報
【文献】特開2004-89924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、産業廃水や地下水等から半金属イオン、中でも元素周期律表の15族、16族元素イオン、特にセレン及びヒ素イオンを効率よく吸着除去することである。更には、簡便に効率良く製造でき、半金属イオン、中でも元素周期律表の15族、16族元素イオン、特にセレン及びヒ素イオンに対して優れた吸着能を有するキレート樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために鋭意検討した結果、塩水中でN-ビニルカルボン酸アミドを架橋性単量体と分散剤存在下、懸濁重合することにより製造したポリビニルカルボン酸アミド架橋重合体粒子を、塩等を水洗除去後、加水分解することにより得られたポリビニルアミン架橋重合体粒子が半金属イオン、中でも元素周期律表の15族、16族元素イオン、特にセレン及びヒ素イオン吸着に有効なことを見出した。
【0006】
即ち、本発明は、N-ビニルカルボン酸アミドと架橋性単量体を塩水中で分散剤存在下、懸濁重合しポリビニルカルボン酸アミド架橋重合体粒子を加水分解することにより得られたポリビニルアミン架橋重合体粒子の半金属イオン、中でも元素周期律表の15族、16族元素イオン、特にセレン及びヒ素イオン吸着処理用途に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有機溶媒を使用することなく、簡便に効率良く得られるポリビニルアミン架橋重合体粒子を使用することで水中の半金属イオン、中でも元素周期律表の15族、16族元素イオン、特にセレン及びヒ素イオンを効率的に吸着することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明におけるポリビニルアミン架橋重合体粒子の製造方法について説明する。製造の手法としては、先ず一般的に使用される懸濁重合を適用する。即ち、本発明における塩水中での懸濁重合は、N-ビニルカルボン酸アミド、架橋性単量体、必要に応じてN-ビニルカルボン酸アミドと共重合が可能なモノマー、重合開始剤、及び分散剤を塩水中で懸濁させ、任意の強度で撹拌することによりモノマー液滴を発生させ、ラジカル重合することにより行うことができる。モノマー液滴の粒径は分散剤、撹拌強度で制御されるが、0.01mm~10mm、好ましくは0.1mm~5mmである。
【0010】
本発明で使用するN-ビニルカルボン酸アミドのモノマーの例としては、N-ビニルホルムアミド、N-メチル-N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオンアミド、N-メチル-N-ビニルプロピオンアミド、N-ビニルブチルアミド、N-ビニルイソブチルアミド等が挙げられ、好ましくはN-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミドである。N-ビニルカルボン酸アミドのモノマー以外にN-ビニルカルボン酸アミドと共重合が可能なモノマーを使用しても良く、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N′-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N′-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシアルキル-トリメチルアンモニウム塩、(メタ)アクリロイルオキシアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、N-ビニルピロリドン、ジアリル-ジアルキルアンモニウム塩、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルペンジルトリアルキルアンモニウム塩、ビニルスルホン酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩等が挙げられ、これらの中の1種使用しても良く、2種以上を組み合わせても良い。特にアクリロニトリルが好ましい。
【0011】
架橋性単量体としては、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン等の芳香族ポリビニル化合物、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド等を用いることもできる。しかし、ポリ(メタ)アクリレートやメチレンビスアクリルアミド等は加水分解され易いので、芳香族ジビニル化合物を用いるのが好ましい。最も好ましいのはジビニルベンゼンである。その他、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホスフェート、トリアリルアミン、テトラアリロキシエタンや、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、およびペンタエリスリトールテトラアリルエーテル等のアリルエーテル類、ポリ(メタ)アリロキシアルカン等も使用が挙げられる。これらの中ではアリルエーテル類が好適に使用できる。添加率はモノマーに対して0.1~50質量%の範囲であり、0.1~20質量%の範囲が好ましい。5質量%を越えるとN-ビニルカルボン酸アミドのみでは球状粒子が得られ難くなるので、N-ビニルカルボン酸アミドと共重合が可能なモノマーを使用した方が好ましい。共重合が可能なモノマーの添加率は、全モノマーに対して0.1~50質量%の範囲で使用する。特にアクリロニトリルを使用するのが好ましい。
【0012】
重合開始剤としては、アゾ系やパーオキサイド系の重合開始剤、例えば2、2’-アゾビス(2、4-ジメチルバレロニトリル)、2、2’-アゾビス(4-メトキシ-2、4-ジメチルバレロニトリル)、2、2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2、2’-アゾビス-2-アミジノプロパン塩酸塩、4、4’-アゾビス-4-シアノバレリン酸、2、2’-アゾビス[2-(5-メチル-イミダゾリン-2-イル)プロパン]塩酸塩、2、2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]塩酸塩等、ペルオキソ二硫酸アンモニウム或いはカリウム、過酸化水素、ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられる。これらの中で、2、2’-アゾビス(2、4-ジメチルバレロニトリル)、2、2’-アゾビス(4-メトキシ-2、4-ジメチルバレロニトリル)等の油溶性開始剤が好ましい。又、開始剤二種以上を併用しても差し支えない。添加率はモノマーに対し通常0.02~5質量%、好ましくは0.05~2質量%である。
【0013】
塩としては、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等が挙げられ、これらのうちでは、硫酸アンモニウムが特に好ましい。また、これらのものを単独で用いても、混合して用いてもよい。添加率は水に対し30~100質量%の範囲であり、30質量%より少ないとN-ビニルカルボン酸アミドが二相に分離せず、100質量%で塩による効果が十分得られており、100質量%を越えて添加しても不経済である。好ましくは50~90質量%であり、更に好ましくは60~90質量%である。
【0014】
分散剤としては、高分子分散剤が好ましい。高分子分散剤としては、イオン性あるいは非イオン性とも使用可能であるが、好ましくはイオン性である。イオン性高分子としては、カチオン性モノマーである(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、ジメチルジアリルアンモニウム塩化物などを重合したものであるが、これらカチオン性モノマーと非イオン性モノマーとの共重合体も使用可能である。非イオン性モノマーの例としては、アクリルアミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン、N、N’-ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。非イオン性高分子分散剤としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールポリアクリルアミド等が挙げられる。イオン性高分子分散剤の重量平均分子量としては、5000~500万、好ましくは5万~300万である。また、非イオン性高分子分散剤の重量平均分子量としては、1000~10万、好ましくは1000~5万である。添加率は水に対し通常0.05~5質量%、好ましくは0.1~2質量%である。
【0015】
重合反応は、通常、温度30℃~100℃、時間は1時間~15時間で行う。
【0016】
重合後、水洗により塩、分散剤、未反応モノマー等を除去することができる。
【0017】
共重合体粒子は上述の方法で精製され、次いで加水分解に供される。N-ビニルカルボン酸アミド架橋重合体粒子の加水分解は、塩基性、酸性条件下で行うことができるが、遊離型ポリビニルアミン架橋重合体粒子を得るには、塩基性条件下で加水分解することが好ましい。塩型のポリビニルアミン架橋重合体粒子を得るには、酸性条件下で加水分解することが好ましい。
【0018】
加水分解のために適当な塩基としては、加水分解の際にpHを8~14の範囲とすることができれば制限はなく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアの水溶液を用いることが最も好ましい。添加率は、ポリマーのホルミル基に対し0.05~2.0、更に好ましくは0.4~1.2当量の範囲で加えることが好ましい。
【0019】
加水分解のために適当な酸としては、加水分解の際にpHを0~5の範囲とすることができれば制限はなく、ハロゲン化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸といった無機酸、炭素数1~5の範囲のモノおよびジカルボン酸、スルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸といった有機酸が例示でき、特にハロゲン化水素酸およびハロゲン化水素のガスを用いることが好ましく、ハロゲン化水素酸を用いることが最も好ましい。添加率は、ポリマーのホルミル基に対し0.05~2.0、更に好ましくは0.4~1.2当量の範囲で加えることが好ましい。
【0020】
加水分解後水等により洗浄することにより、ポリビニルアミン架橋重合体粒子を得ることができる。塩基加水分解の場合には遊離型精製ポリビニルアミン架橋重合体粒子が、酸加水分解の場合には塩型精製ポリビニルアミン架橋重合体粒子が得られる。
【0021】
次に、本発明におけるポリビニルアミン架橋重合体粒子による金属イオンの吸着分離方法に関して説明する。本発明におけるポリビニルアミン架橋重合体粒子は、キレート樹脂として一般的な水処理用途に適用される。一般的にはカラムに充填して排水等を通液し金属イオンを吸着させる。他には、対象液に添加した後、乱流、層流等の任意の撹拌条件により混合され、対象物を吸着する。即ち、各種産業・工程廃水中の金属イオンに対して高い吸着能を示すが、他にも酸性物質、ホルムアルデヒド類、有機化合物等の吸着処理も可能である。又、本発明における架橋重合体粒子は球状であることが好ましく、球状であると金属イオンの吸着能が高い傾向にあり、吸着剤としてカラムで使用する場合には、充填効率が高く流路が安定になり分離効率が高まり処理能力が向上する等の利点がある。
【0022】
本発明におけるポリビニルアミン架橋重合体粒子は、半金属イオン、中でも元素周期律表の15族、16族元素イオン、特にセレン及びヒ素イオンに対して高い吸着分離能を示す。
【実施例
【0023】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。先ず、本発明におけるポリビニルアミン重合体粒子を製造し、セレン及びヒ素イオンの吸着能を評価した。比較品は、キレート樹脂として重金属イオン吸着に用いられている汎用品であり、特開2007-302938号公報にも記載されている三菱化学製ポリアミン型キレート樹脂CR-20を用いた。
【0024】
(製造例)
500mLの4つ口フラスコに脱塩水100g、硫酸アンモニウム64.0g、ポリアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物水溶液(ポリマー濃度20質量%、重量平均分子量80万)1.00gを投入し、撹拌し、溶解させ、重合浴とした。N-ビニルホルムアミド33.4g、ジビニルベンゼン2.80g、アクリロニトリル4.00g、アゾ系重合開始剤2、2’-アゾビス(4-メトキシ-2、4-ジメチルバレロニトリル)(V-70、和光純薬工業(株)製)0.12gを混合し、モノマー溶液とした。モノマー溶液と重合浴を混合、窒素でフラスコ内を置換しながら180rpmで撹拌した。30分後昇温し、40℃で3時間、続いて70℃で2時間重合した。重合後濾過、水洗、濾過し、含水状態の重合体球状粒子35.1gを得た。固形分率は42.4%であった。このようにして得られた反応生成物23.5gを4口フラスコに入れ、48質量%水酸化ナトリウム水溶液23.40gを加え、撹拌しながら80℃で5時間加水分解した。水洗、濾過し、含水状態のポリビニルアミン球状粒子19.7gを得た。顕微鏡観察の結果、50μm~2mmの球状粒子が観察された。このようにして得られた重合体粒子をキレート樹脂Aとする。
【0025】
(実施例1)As(V)イオンの吸着試験
0.1×10-3moldm-3のAs(V)を含む水溶液を調製し、そのpHは濃度0.1moldm-3のHClまたはNaOH水溶液を少量加えることで調整した.調製した水溶液15cmに吸着剤キレート樹脂Aを20mg加え、振盪速度120rpmの30℃の恒温槽中で24h振とうした。その後孔径0.45μmの親水性PTFE製メンブレンフィルター(ADVANTEC 13HP045AN)でろ過してpHを測定し、残存する吸着種の濃度を原子吸光光度計(Shimadzu AA-7000)を用いて測定し、吸着前後の濃度変化より吸着剤への吸着率(Adsorption[%])を算出した。
更に初濃度を0.1×10-3~9.0×10-3moldm-3の範囲で変えた水溶液15cmに吸着剤キレート樹脂Aを20mg加えて同様に吸着実験を行い、吸着等温線を求めた。
このときの初期pHはAs(V)の吸着率が最大となるように調整した。
これらの実験結果を基にLangmuir式から算出された飽和吸着量を表-1に示す。また各pHにおける飽和吸着量に対する吸着率の割合(%)を表-2に示す。
【0026】
(比較例1)As(V)イオンの吸着試験
実施例1において、キレート樹脂Aに代えてポリアミン系キレート樹脂CR-20(三菱ケミカル(株)製)代えた以外はすべて同様に行いCR-20に対するAs(V)の飽和吸着量を求めた。その結果を表-1に示す。また各pHにおける飽和吸着量に対する吸着率の割合(%)を表-3に示す。
【0027】
(実施例2)Se(IV)イオンの吸着試験
実施例1において吸着種であるAs(V)の代わりにSe(IV)に代えた以外はすべて同様に行いキレート樹脂Aに対するSe(IV)の飽和吸着量を求めた。その結果を表-1に示す。また各pHにおける飽和吸着量に対する吸着率の割合(%)を表-4に示す。
【0028】
(比較例2)Se(IV)イオンの吸着試験
実施例2において、キレート樹脂Aに代えてポリアミン系キレート樹脂CR-20(三菱ケミカル(株)製)代えた以外はすべて同様に行いCR-20に対するSe(IV)の飽和吸着量を求めた。その結果を表-1に示す。また各pHにおける飽和吸着量に対する吸着率の割合(%)を表-5に示す。
【0029】
(実施例3)Se(VI)イオンの吸着試験
実施例1において吸着種であるAs(V)の代わりにSe(VI)に代えた以外はすべて同様に行いキレート樹脂Aに対するSe(VI)の飽和吸着量を求めた。その結果を表-1に示す。
【0030】
(比較例3)Se(VI)イオンの吸着試験
実施例3において、キレート樹脂Aに代えてポリアミン系キレート樹脂CR-20(三菱ケミカル(株)製)代えた以外はすべて同様に行いCR-20に対するSe(VI)の飽和吸着量を求めた。その結果を表-1に示す。
【0031】
(実施例4)脱着試験
As(V)について脱着実験を行った。吸着実験の結果より低いpHでは吸着率が低下したことを踏まえ、As(V)を吸着させたキレート樹脂Aを20mgを0.1または1.0 moldm-3の塩酸15cmと振盪し、24h後に水溶液へ溶出したAs(V)濃度を定量して脱着率[%]を算出した。
その結果を表-6に示す。
【0032】
(表-1)
【0033】
(表-2)(実施例1)
吸着剤はキレート樹脂A、As(V)イオンの飽和吸着率に対する割合
【0034】
(表-3)(比較例1)
吸着剤はキレート樹脂CR-20、As(V)イオンの飽和吸着率に対する割合
【0035】
(表-4)(実施例2)
吸着剤はキレート樹脂A、Se(IV)イオンの飽和吸着率に対する割合
【0036】
(表-5)(比較例2)
吸着剤はキレート樹脂CR-20、Se(IV)イオンの飽和吸着率に対する割合
【0037】
(表-6)(実施例4)
【0038】
表-1に示された結果から明らかなように、本願発明による吸着剤はAs(V)イオン、Se(IV)イオン、Se(VI)イオンいずれも、比較例で使用した同類のアミン樹脂系キレート樹脂と比較し、極めて高い吸着性を示すことが判る。
表-2、表-3に示されるAs(V)イオン吸着性、表-4、表-5に示されるSe(IV)イオン吸着性のpH依存性に関していずれも本願発明による吸着剤は、より幅広いpH範囲で良好な吸着性を示すことが判る。
更には表-6で示される脱着性に関しても極めて容易に再生できることから、工業的にも極めて価値が高いものと判断できる。
【0039】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、As(V)イオンやSe(IV)イオン、Se(VI)イオン等を廃水等から効率的に除去することが可能な、新しい技術手段を提供することができる。