(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】PTC抵抗体、および面状発熱体
(51)【国際特許分類】
H05B 3/14 20060101AFI20240828BHJP
H05B 3/20 20060101ALN20240828BHJP
【FI】
H05B3/14 A
H05B3/20 375
(21)【出願番号】P 2020080418
(22)【出願日】2020-04-30
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000220033
【氏名又は名称】東京コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 辰宏
(72)【発明者】
【氏名】後藤 晃哉
(72)【発明者】
【氏名】大石 絵里
(72)【発明者】
【氏名】落合 祐介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋徳
(72)【発明者】
【氏名】松崎 圭佑
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-086872(JP,A)
【文献】特開2001-076850(JP,A)
【文献】特開2007-002143(JP,A)
【文献】特開2005-054185(JP,A)
【文献】特表2019-527251(JP,A)
【文献】特開2001-210140(JP,A)
【文献】特開昭62-029085(JP,A)
【文献】米国特許第05298721(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00 - 3/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸含有エラストマーを、アミド結合を含む架橋基で架橋させた樹脂と、
導電性粒子と、
を含み、
前記酸含有エラストマーが、ブタジエン由来の構造と、アクリル酸由来の構造と、を含むアクリル酸変性ブタジエンであり、
前記樹脂が、前記アクリル酸変性ブタジエンを、イソシアネート化合物で架橋させた樹脂である、
PTC抵抗体。
【請求項2】
前記酸含有エラストマーにおける、前記
アクリル酸由来の構造の総量が、前記
ブタジエン由来の構造の総量100質量部に対して、0.5~30質量部である、
請求項1に記載のPTC抵抗体。
【請求項3】
基板と、
前記基板上に配置された一対の電極と、
前記基板上、かつ前記一対の電極間に配置された、請求項1または2に記載のPTC抵抗体と、
を有する面状発熱体であって、
前記面状発熱体の25℃における抵抗値(放置試験前の抵抗値)と、前記面状発熱体を120℃にて1000時間放置し、さらに24時間25℃で放置した後の25℃における抵抗値(放置試験後の抵抗値)と、を測定したとき、下記式で表される抵抗値変化倍率が3以下である、面状発熱体。
抵抗値変化倍率=放置試験後の抵抗値/放置試験前の抵抗値
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTC抵抗体、および面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車のドアミラー等に付着する霜や露を除去するため、ミラーの裏面にヒータが設置されることがある。このようなヒータには、高価な温度制御装置を必要としない、PTC特性(正温度係数)を有する面状発熱体が多く用いられている。
【0003】
PTC特性を有する面状発熱体は、通常、一対の電極と、当該電極の間に配置された、PTC特性を有する抵抗体(本明細書において「PTC抵抗体」とも称する)と、を有する。従来のPTC特性を有する抵抗体は、ポリエチレン等の結晶性樹脂と、カーボンブラック等の導電性粒子とを含むことが一般的である。そしてこのような面状発熱体では、電極間に電圧を印加すると、PTC抵抗体内を電気が導通し、その温度が上昇する。一方で、面状発熱体(PTC抵抗体)の温度が上昇することで、これに含まれる結晶性樹脂が熱膨張し、導電性粒子同士の距離が広がり、抵抗値が上昇する。そして、結晶性樹脂の軟化温度あるいは融点付近で抵抗値が急激に上昇する。つまり、当該面状発熱体では、一定以上に温度が上昇しないように制御される。
【0004】
ここで、PTC抵抗体を形成するための組成物として、各種組成物が提案されている。例えば、特許文献1には、導電性粒子と、極性基を有する結晶性樹脂と、当該結晶性樹脂と反応するエラストマーと、を有する組成物が記載されている。当該文献1の技術では、結晶性樹脂を反応性樹脂によって一部架橋することで、抵抗値の安定化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたような、従来の組成物から得られるPTC抵抗体では、80℃程度までしか温度を高めることができなかった。そのため、より高い温度まで制御可能なPTC抵抗体、さらにはこれを用いた面状発熱体の提供が求められていた。また、従来の面状発熱体では、低温から高温、さらには低温といったサイクルを繰り返したときに、抵抗値が変化してしまう、という課題もあった。
【0007】
そこで本発明は、120℃程度まで温度制御可能であり、かつ繰り返し使用しても、抵抗値の変化が少ない面状発熱体、およびこれに用いるPTC抵抗体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のPTC抵抗体を提供する。
【0009】
酸含有エラストマーを、アミド結合を含む架橋基で架橋させた樹脂と、導電性粒子と、を含む、PTC抵抗体。
【0010】
本発明は、以下の面状発熱体を提供する。
【0011】
基板と、前記基板上に配置された一対の電極と、前記基板上、かつ前記一対の電極間に配置された、上記PTC抵抗体と、を有する面状発熱体であって、前記面状発熱体の25℃における抵抗値(放置試験前の抵抗値)と、前記面状発熱体を120℃にて1000時間放置し、さらに24時間25℃で放置した後の25℃における抵抗値(放置試験後の抵抗値)と、を測定したとき、下記式で表される抵抗値変化倍率が3以下である、面状発熱体。
【0012】
抵抗値変化倍率=放置試験後の抵抗値/放置試験前の抵抗値
【発明の効果】
【0013】
本発明のPTC抵抗体によれば、120℃程度まで温度制御可能な面状発熱体が得られる。当該面状発熱体は、繰返し使用したとしても、抵抗値に変化が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の面状発熱体の構造の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、「~」で示す数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を含む数値範囲を意味する。本発明は、PTC抵抗体およびこれを用いた面状発熱体に関する。そこで、先にPTC抵抗体について詳しく説明し、その後、面状発熱体について説明する。
【0016】
1.PTC抵抗体
本発明のPTC抵抗体は、酸含有エラストマーを、アミド基を有する架橋基で架橋した樹脂と、導電性粒子と、を含む。当該PTC抵抗体は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、上記樹脂および導電性粒子以外の成分を含んでいてもよい。
【0017】
従来のPTC抵抗体ではPTC抵抗体が含む結晶性樹脂を、反応性樹脂によって一部架橋することで、抵抗値を安定させていた。しかしながら、これらのPTC抵抗体では、得られる面状発熱体の使用可能温度の上限値が低く、例えば80℃程度までしか、対応できないという課題があった。また、繰返し使用したり、長期間使用したりした場合には、面状発熱体の抵抗値がブレやすい、という課題もあった。
【0018】
これに対し、本発明のように、酸含有エラストマーを、アミド基を有する架橋基で架橋した樹脂を含むPTC抵抗体では、繰返し使用したり、長時間使用したりしても、抵抗値にブレが生じ難い。その理由は、以下のように考えられる。一般的に、PTC抵抗体では、粒状の樹脂(以下、「樹脂粒子」とも称する)が、導電性粒子を結着している。しかしながら、樹脂の軟化点やガラス転移温度付近まで温度が上昇すると、その形状を保持できなくなり、導電性粒子を十分に保持できなくなる。また、これが冷え固まる際に、導電性粒子がもとの分散状態に戻りにくく、繰返し使用すると、同じ温度における抵抗値にばらつきが生じやすくなる。
【0019】
一方、本発明のPTC抵抗体では、酸含有エラストマーを、アミド結合を含む架橋基で架橋させた樹脂を含む。なお、本発明のPTC抵抗体が含む樹脂は、略一相で構成される。つまり、複数の樹脂相を含むものではない。PTC抵抗体がアミド結合を含む架橋基で架橋させた樹脂を含むと、樹脂粒子中で水素結合等が生じ、樹脂粒子の熱膨張が、適度に抑制される。したがって、高い温度までその抵抗値が高まり難い。つまり、PTC抵抗体が、従来より高い温度まで対応可能となる。また、樹脂粒子中で上述の水素結合等が生じていると、樹脂粒子の形状保持性が高くなる。したがって、PTC抵抗体を繰り返し使用したとしても、樹脂粒子の形状が崩れ難く、導電性粒子が所定の場所から動き難い。つまり、PTC抵抗体の抵抗値にばらつきが生じ難くなる。
【0020】
以下、本発明のPTC抵抗体中の各成分について説明する。
【0021】
(樹脂)
PTC抵抗体が含む樹脂は、酸含有エラストマーを、アミド結合を含む架橋基で架橋させた樹脂である。本明細書におけるアミド結合には、二級、三級(イミド結合等を含む)の各種アミド結合を含む。架橋基は、異なる酸含有エラストマーを架橋する基であってもよく、1つの酸含有エラストマー中の複数個所を架橋する基であってもよい。
【0022】
当該樹脂では、酸含有エラストマーの繰り返し単位100ユニット当たりに、アミド結合を含む架橋基を1~20個程度含むことが好ましく、5~10個程度含むことがより好ましい。樹脂が、上記架橋基を含むか否かは、IR測定により特定可能であり、上記個数についても、FT-IRによって確認することができる。樹脂が当該範囲内で上記架橋基を含むと、優れたPTC特性が得られるようになる。
【0023】
ここで、上記樹脂は、例えば、複数の酸含有エラストマーを、一分子中に複数のイソシアネート基を有する化合物(以下、「イソシアネート化合物」とも称する)等によって架橋することで調製できる。ただし、架橋基がアミド結合を含むように形成可能であれば、イソシアネート化合物以外の化合物によって、酸変性エラストマーを架橋してもよい。また、架橋基の構造は、アミド結合を含んでいればよく、例えばアミド結合と共に、アルキレン基やエステル結合等各種構造を含んでいてもよい。また、ウレタン基やウレア基の一部として、アミド基を含んでいてもよい。
【0024】
上記樹脂の調製に使用する酸含有エラストマーは、エラストマー由来の構造およびカルボン酸系化合物および/または酸無水物基由来の構造を含むことが好ましい。このような酸含有エラストマーは、例えば、エラストマーを、カルボキシル基を有するカルボン酸系化合物および/または酸無水物基を有する酸無水物系化合物でグラフト変性したり、エラストマーとメタクリル酸モノマーやアクリル酸モノマーを共重合したりすることで得られる。
【0025】
酸含有エラストマーが、エラストマーのグラフト変性物である場合、骨格となるエラストマーは、スチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエステル系共重合体、およびアクリロニトリルブタジエンゴムからなる群から選ばれる一種以上の樹脂であることが好ましい。酸含有エラストマーは一種のみであってもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
【0026】
一方、上記エラストマーをグラフト変性するためのカルボン酸系化合物または酸無水物系化合物としては、公知の化合物を使用できる。
【0027】
当該酸含有エラストマーにおける、エラストマー由来の構造の総量100質量部に対する、カルボン酸系化合物および酸無水物系化合物由来の構造の総量は、0.5~30質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましく、1~5質量部がさらに好ましい。酸含有エラストマーにおけるカルボン酸系化合物および/または酸無水物系化合物由来の構造の量は、滴定によって求めることができ、例えば特開2002-202301号公報に記載されている方法等によって求めることができる。酸含有エラストマー中のカルボン酸系化合物の量および酸無水物系化合物由来の構造の量が当該範囲であると、イソシアネート化合物等によって架橋しやすくなり、上述のPTC特性が得られやすくなる。
【0028】
一方、上記樹脂の調製に使用するイソシアネート化合物は、イソシアネート基を分子中に2つ以上含む化合物であればよい。イソシアネート化合物は、低分子量(例えばモノマー)であってもよく、高分子量(オリゴマーやポリマー等)であってもよい。イソシアネート化合物によって、上述の酸含有エラストマーを架橋した場合、イソシアネート化合物由来の構造が上述の架橋基となる。
【0029】
ここで、イソシアネート化合物の例には、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(4-イソシアネートシクロヘキシル)メタン、水添化ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート;2,6-ジイソシアナトヘキサン酸2-イソシアナトエチル、1,6-ジイソシアナト-3-イソシアナトメチルヘキサン、1,4,8-トリイソシアナトオクタン、1,6,11-トリイソシアナトウンデカン、1,8-ジイソシアナト-4-イソシアナトメチルオクタン、1,3,6-トリイソシアナトヘキサン、2,5,7-トリメチル-1,8-ジイソシアナト-5-イソシアナトメチルオクタン等の脂肪族トリシアネート;1,3,5-トリイソシアナトシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルイソシアナトシクロヘキサン、2-(3-イソシアナトプロピル)-2,5-ジ(イソシアナトメチル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、2-(3-イソシアナトプロピル)-2,6-ジ(イソシアナトメチル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、3-(3-イソシアナトプロピル)-2,5-ジ(イソシアナトメチル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-3-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、6-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-3-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-2-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)-ヘプタン、6-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-2-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン等の脂環式トリシアネート;トリフェニルメタン-4,4',4''-トリイソシアネート、1,3,5-トリイソシアナトベンゼン、2,4,6-トリイソシアナトトルエン等の芳香族トリイソシアネート;4,4'-ジフェニルメタン-2,2',5,5'-テトライソシアネート等の芳香族テトライソシアネート;およびこれらの誘導体等が含まれる。
【0030】
誘導体の例には、上記イソシアネート化合物のダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、ウレトジオン、ウレトイミン、イソシアヌレート、オキサジアジントリオン、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)およびクルードTDI、ならびにこれらの複合体等が含まれる。
【0031】
また、上記樹脂の調製には、イソシアネート化合物の一部のイソシアネート基を、当該イソシアネート基と反応性を有する化合物によって保護した化合物を使用してもよい。イソシアネート基と反応性を有する化合物としては、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ジブチルアミン、エチレンジアミン、ベンジルアミン、アニリン等のアミノ基を含有する化合物類;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、2-エチルヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、フェノール等の水酸基を含有する化合物類;アリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル等のエポキシ基を有する化合物類;酢酸、ブタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸等のカルボン酸を含有する化合物等が含まれる。
【0032】
PTC抵抗体が含む樹脂の量は、20~80質量%が適当であり、30~70質量%が好ましく、40~60質量%がより好ましい。PTC抵抗体中の樹脂の量が20質量%以上であると、十分なPTC特性が発現する。一方で、酸含有エラストマーの量が80質量%以下であると、相対的に導電性粒子等の量が増え、面状発熱体の導電性を確保しやすくなる。
【0033】
(導電性粒子)
導電性粒子は、導電性を有する粒子であれば特に制限されない。導電性粒子の例には、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素系粒子;ニッケル粉末、銅粉、銀粉などの金属系粒子;等が含まれる。これらの中でも、上述の酸含有エラストマー等との親和性が高く、組成物内で沈殿し難い、との観点で炭素系粒子が好ましい。
【0034】
また、導電性粒子の形状は特に制限されず、例えば球状であってもよく、不定形であってもよく、チューブ状や棒状、扁平状等であってもよいが、分散性の観点で、球状が好ましく、黒鉛が特に好ましい。
【0035】
導電性粒子の大きさは、導電性粒子の種類等に応じて適宜選択される。例えば導電性粒子が、球状もしくはこれに近い形である場合、平均粒径は0.01μm以上40μm以下が好ましく、1~10μmがより好ましい。平均粒径が、0.1μm以上であると、組成物中に均一に分散されやすくなる。一方で、平均粒径が10μm以下であると、組成物の塗布性が高まる。当該平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察により、100個の粒子について、それぞれ最大径を測定したときの平均値である。
【0036】
PTC抵抗体が含む導電性粒子の含有量は、組成物の固形分の総量に対して20~80質量%の範囲内であることが適当であり、30~70質量%が好ましく、40~60質量%がより好ましい。組成物中の導電性粒子の量が20質量%以上であると、十分な導電性が発現する。一方で、導電性粒子の量が80質量%以下であると、上記樹脂の量が増え、PTC特性が十分に得られやすくなる。
【0037】
(PTC抵抗体およびこれを用いた面状発熱体の製造方法)
本発明のPTC抵抗体は、例えば上記酸含有エラストマーと、上記イソシアネート化合物等と、上記導電性粒子と、必要に応じて溶媒を含む組成物を塗布し、これを加熱し、硬化させることで製造できる。硬化の際、酸含有エラストマー中のカルボキシル基が、イソシアネート化合物等と反応して、アミド結合を含む架橋基が形成される。なお、上述のように、酸含有エラストマーの架橋には、イソシアネート化合物以外の化合物を使用してもよい。この場合も、当該化合物が有する基と、酸含有エラストマーが有するカルボキシル基あるいは酸無水物等が反応して、架橋基が形成される。
【0038】
溶媒は、上述の酸含有エラストマーやイソシアネート化合物等の化合物、導電性粒子等を、均一に溶解させたり分散させたりすることが可能であればその種類は特に制限されないが、溶媒の沸点は100℃以上が好ましく、100~330℃がより好ましく、150~250℃がさらに好ましい。溶媒の沸点が当該範囲であると、組成物の保存安定性等が高まり、さらには組成物を塗布しやすくなる。
【0039】
当該溶媒は、ヒドロキシル基やカルボキシル基等の極性基を有することが好ましく、その具体例には、多価アルコールやその酢酸エステルもしくは芳香族エステル等が含まれる。
【0040】
当該溶媒の量は、所望の組成物の粘度等に合わせて適宜選択されるが、通常、組成物の固形分の総量100質量部に対して30~70質量部程度が好ましく、40~60質量部がより好ましい。溶媒の量が当該範囲であると、組成物の粘度が所望の範囲に収まりやすい。
【0041】
組成物の好ましい粘度は、PTC抵抗体の形成方法により適宜選択される。例えば組成物をスクリーン印刷により印刷し、これを硬化させてPTC抵抗体を得る場合には、組成物の粘度は100~400dPa・sが好ましい。当該粘度は、円筒型回転粘度計(リオン社製)により、25℃で測定される値である。組成物の粘度が当該範囲であると、所望の厚みに組成物を塗布でき、さらにはムラ無く膜を形成できる。
【0042】
上記組成物の調製方法は特に制限されず、酸含有エラストマーやイソシアネート化合物、および導電性粒子、さらには必要に応じて溶媒を一度に混合してもよい。一方で、これらのうちの一部を先に混合し、残りを後から混合してもよい。
【0043】
組成物は、上記樹脂以外の樹脂(以下、「その他の樹脂」とも称する)を含んでいてもよい。その他の樹脂は、熱変性が少なく、導電性粒子と親和性が高く、かつ後述の基板に対する接着性を有し、水難容性のものが好ましい。その他の樹脂の例には、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリイミド等が含まれる。
【0044】
そして、上述の組成物の塗布方法は特に制限されず、その例には、スクリーン印刷や、ロールコーティング、ディスペンサーによる塗布が含まれる。
【0045】
また、組成物の硬化方法は、100~200℃程度に加熱する方法が挙げられる。このとき、加熱時間は、1~30分程度が好ましい。組成物を上記程度加熱すると、組成物中の溶媒が除去されるとともに、酸含有ポリマーおよびイソシアネート化合物が反応して、硬化する。
【0046】
上記PTC抵抗体を含む面状発熱体100の構成について説明する。面状発熱体100は、例えば
図1の平面図に示すように、基板1と、当該基板1上に配置された一対の電極21、22と、当該一対の電極21、22の間に配置されたPTC抵抗体3と、を有する。ただし、面状発熱体100の構成は当該構成に限定されず、例えば電極2上に配置された導電性被膜(図示せず)等を有していてもよい。
【0047】
基板1は、絶縁性を有し、かつ電極21、22やPTC抵抗体3を積層可能な基板であれば特に制限されず、面状発熱体100の用途に応じて適宜選択される。基板1の具体例には、樹脂製のフィルムが含まれ、例えばポリエステルフィルム等が含まれる。
【0048】
一対の電極21、22は、主電極21a、22aと櫛歯状電極21b、22bとを備えた構造とすることができる。電極21、22は電気を導通可能な材料から構成されていればよい。当該電極21、22は、通常金属で構成され、例えばアルミニウム等から構成されていてもよい。
【0049】
電極21、22の作製方法は特に制限されず、例えばパターン状に形成されたアルミニウム箔等を基板1に貼り合わせてもよく、基板1上に配置した金属層を刃型等により型抜きしてパターニングしてもよい。
【0050】
また、このような面状発熱体100におけるPTC抵抗体3の厚みは、10μm以上が好ましく、20~80μmがより好ましい。PTC抵抗体3の厚みが10μm以上であると、十分な発熱量が得られる。一方で、80μm以下であると、面状発熱体100の厚みが薄くなり、種々の用途に適用しやすくなる。
【0051】
当該面状発熱体100を使用する際には、基板1上に電極21、22とそれぞれ接続された端子4を配置し、当該端子4と外部電極とを接続する。そして、電極21、22間に電圧を印加することで、PTC抵抗体3の温度を所望の温度まで上昇させることができる。
【0052】
ここで、上記面状発熱体100は、25℃における抵抗値(放置試験前の抵抗値)と、前記面状発熱体を120℃にて1000時間放置し、さらに24時間25℃で放置した後の25℃における抵抗値(放置試験後の抵抗値)と、を測定したとき、下記式で表される抵抗値変化倍率が3以下である。
【0053】
抵抗値変化倍率=放置試験後の抵抗値/放置試験前の抵抗値
上記抵抗値変化倍率が3以下であると、120℃程度まで昇温させても、不具合等が生じ難く、安定して使用可能となる。また、このような抵抗値変化倍率を有する面状発熱体では、繰り返し使用しても、抵抗値の変化が小さいため、各種用途に適用できる。上記抵抗値変化倍率は、より好ましくは2.0以下であり、さらに好ましくは1.8以下である。
【0054】
上述のように、本発明の面状発熱体は、120℃程度まで温度の制御が可能であり、かつ繰り返し使用しても抵抗値の変化が少ない。したがって、本発明の面状発熱体は、例えば自動車のドアミラー用曇り止めヒータや、自動車の追突防止装置用社内カメラ曇り取りヒータ、自動車の追突防止装置用社内ミリ波レーダー曇り取りヒータ等のヒータ、サーミスタ等に使用が可能である。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の具体的な実施例を説明する。なお、これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0056】
[実施例1]
ブタジエン100質量部にアクリル酸10質量部を配合し、ラジカル重合にて酸含有エラストマーを合成した。当該酸含有エラストマー50重量部と、ブチルカルビトールアセテートを175質量部とを混合し、酸含有エラストマーを溶解させた。得られた溶解液に、イソシアネート化合物(旭化成製、デュラネートMF-K60X)を5質量部添加し、常温で撹拌機にて1時間混合した。さらに導電粒子である黒鉛を50質量部添加し、撹拌機にて3時間混合し、目的のスクリーン印刷用インキを得た。
図1と同様の一対の電極21、22を備えた基板を準備し、当該基板上に、得られたペーストをスクリーン印刷した。印刷パターンは、
図1に示すPTC抵抗体3のパターンと同様とした。そして、150℃に加熱し、所望のPTC抵抗体を有する面状発熱体を作製した。硬化後の膜(PTC抵抗体)中の樹脂の構造をFT-IRで確認したところ、酸含有エラストマー間に、アミド結合を含む架橋基が確認された。
【0057】
[実施例2]
イソシアネート化合物の量を10質量部とした以外は、実施例1と同様に、PTC抵抗体を有する面状発熱体を作製した。硬化後の膜(PTC抵抗体)中の樹脂の構造をFT-IRで確認したところ、酸含有エラストマー間に、アミド結合を含む架橋基が確認された。
【0058】
[比較例1]
イソシアネート化合物を添加しなかった以外は、実施例1と同様にPTC抵抗体を有する面状発熱体を作製した。硬化後の膜(PTC抵抗体)中の樹脂をFT-IRで確認したところ、酸含有エラストマー間に、アミド結合を含む架橋基を有さないことが確認された。
【0059】
[評価]
実施例および比較例で作製した面状発熱体について25℃で抵抗値を測定した。その後、面状発熱体を、80℃、100℃、または120℃にて1000時間放置し、さらに24時間室温(25℃)で放置した。そして、当該面状発熱体の抵抗値を25℃で測定した。得られた結果を表1に示す。
【0060】
得られた抵抗値について、以下の抵抗値変化倍率および抵抗値変化率を特定した。
【0061】
抵抗値変化倍率=放置試験後の抵抗値/放置試験前の抵抗値
【0062】
【表1】
上記表から明らかなように、ブタジエン・アクリル酸系のエラストマーを用いた面状発熱体では、PTC抵抗体中の樹脂が、アミド結合を含む架橋基を含まない場合には、放置試験後の抵抗値が大きく変化した(比較例1)。これに対し、PTC抵抗体が、アミド結合を含む架橋基を有する樹脂を含む場合には、放置温度が高まっても抵抗値が上昇し難かった(実施例1および2)。より具体的には、120℃に放置したときの抵抗値変化が、実施例1では、比較例1の半分以下に減少し、実施例2では1/3以下に減少した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のPTC抵抗体を用いた面状発熱体は、120℃程度まで温度制御可能である。さらには、当該面状発熱体は、繰返し使用したり長期間使用したりしても、抵抗値に変化が少なく、繰返し使用可能である。したがって、車両用の鏡等に積層する面状発熱体として、非常に有用である。
【符号の説明】
【0064】
1 基板
3 PTC抵抗体
4 端子
21、22 電極
21a、22a 主電極
21b、22b 櫛歯状電極
100 面状発熱体