(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】担持体、担持体の製造装置及び担持体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/00 20060101AFI20240828BHJP
C23C 14/22 20060101ALI20240828BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240828BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20240828BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20240828BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240828BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
C23C14/00 A
C23C14/22 Z
B01J37/02 101C
B01J37/34
B01J23/42 M
H01M4/86 M
H01M4/90 M
(21)【出願番号】P 2022530587
(86)(22)【出願日】2021-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2021021800
(87)【国際公開番号】W WO2021251395
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2020099669
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】305018856
【氏名又は名称】株式会社アヤボ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 敦
(72)【発明者】
【氏名】角山 寛規
(72)【発明者】
【氏名】鵜野 美佳
(72)【発明者】
【氏名】郡司 浩之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】塚本 恵三
(72)【発明者】
【氏名】戸名 正英
(72)【発明者】
【氏名】平田 直之
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-015034(JP,A)
【文献】特開2013-047160(JP,A)
【文献】特開2005-335968(JP,A)
【文献】特開2004-136267(JP,A)
【文献】古橋 和磨 Furuhashi Kazuma Furuhashi Kazuma,PEFC用Pt-Pd/マリモカーボン触媒の電気化学的特性 Electrochemical characterization of Pt-Pd/Marimo carbon catalyst for PEFC,第56回電池討論会講演要旨集 ,今西 誠之 (公社)電気化学会 電池技術委員会,2015年,pp.179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00
C23C 14/22
B01J 37/02
B01J 37/34
B01J 23/42
H01M 4/86
H01M 4/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体にナノクラスターを担持した担持体の製造装置であって、
前記ナノクラスターを気相にて作製するナノクラスター製造部と、
前記担体に前記ナノクラスターを気相にて担持させる担持部と、
を備え、
前記ナノクラスター製造部は、
真空容器と、
カソードとしてのターゲットを有し、パルス放電によるマグネトロンスパッタを行い、プラズマを発生させるスパッタ源と、
前記スパッタ源に対し、パルス状の電力を供給するパルス電源と、
前記スパッタ源に対し、第1の不活性ガスを供給する第1不活性ガス供給手段と、
前記真空容器内に収容されるナノクラスター成長セルと、
前記ナノクラスター成長セル内に第2の不活性ガスを導入する第2不活性ガス導入手段と、
を備え、
前記スパッタ源は、前記ターゲットから放出されるスパッタ粒子が前記ナノクラスター成長セルの内部に放出され得る位置に配置され、
前記ナノクラスター成長セルは、該ナノクラスター成長セル内で生成された前記ナノクラスターを該ナノクラスター成長セルの外部へ取り出すためのナノクラスター取り出し口を備え、
前記担持部は前記ナノクラスター取り出し口に対向するように配置され、
前記担持部は、気相にて多数の前記担体を転動させるとともに当該各担体に多数の前記ナノクラスターをまぶして、前記各担体に前記多数のナノクラスターを担持させる担持機構を有する、
担持体の製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の担持体の製造装置であって、
前記スパッタ源は、その少なくとも一部が前記ナノクラスター成長セルの内部に配置されている、担持体の製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載の担持体の製造装置であって、
前記スパッタ源は、前記ターゲットを含むその少なくとも一部が前記ナノクラスター成長セルの内部に配置されている、担持体の製造装置。
【請求項4】
請求項1
~3のいずれか一項に記載の担持体の製造装置であって、
更に、前記担体を作製する担体製造部を備えた、担持体の製造装置。
【請求項5】
請求項
4に記載の担持体の製造装置であって、
前記担体製造部は、前記担体を作製する固定床又は流動床を備えた、担持体の製造装置。
【請求項6】
請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載の担持体の製造装置であって、
前記担持機構は、前記多数の担体と前記多数のナノクラスターとを収容する容器を備え、当該容器を前記多数の担体を転動させて前記多数のナノクラスターをまぶすように駆動する、
担持体の製造装置。
【請求項7】
請求項
6に記載の担持体の製造装置であって、
前記容器は、前記ナノクラスターを収容可能なように、前記ナノクラスターが供給される経路に配置されている、
担持体の製造装置。
【請求項8】
請求項
7に記載の担持体の製造装置であって、
前記ナノクラスターが供給される経路に、前記ナノクラスターのサイズ及び構造の少なくとも一方を制御するナノクラスター制御部が配置されている、
担持体の製造装置。
【請求項9】
請求項
6~請求項
8のいずれか1項に記載の担持体の製造装置であって、
前記容器に、正又は負のバイアス電圧を印加できる電圧制御機構を備えた、
担持体の製造装置。
【請求項10】
請求項1~請求項
9のいずれか1項に記載の担持体の製造装置であって、
前記担持部の内部を、所定温度に制御する温度制御部を備えた、
担持体の製造装置。
【請求項11】
請求項1~請求項
10のいずれか1項に記載の担持体の製造装置であって、
前記担体に対して活性化処理を行う活性化機構を備えた、
担持体の製造装置。
【請求項12】
担体にナノクラスターを担持した担持体の製造方法であって、
前記ナノクラスターを気相にて作製する第1工程と、
前記担体に前記ナノクラスターを気相にて担持させる第2工程と、
を有し、
前記第1工程では、
真空容器と、
カソードとしてのターゲットを有し、パルス放電によるマグネトロンスパッタを行い、プラズマを発生させるスパッタ源と、
前記スパッタ源に対し、パルス状の電力を供給するパルス電源と、
前記スパッタ源に対し、第1の不活性ガスを供給する第1不活性ガス供給手段と、
前記真空容器内に収容されるナノクラスター成長セルと、
前記ナノクラスター成長セル内に第2の不活性ガスを導入する第2不活性ガス導入手段と、
前記担体に前記ナノクラスターを気相にて担持させる担持部と、
を備えた装置
であって、前記スパッタ源は、前記ターゲットから放出されるスパッタ粒子が前記ナノクラスター成長セルの内部に放出され得る位置に配置され、前記ナノクラスター成長セルは、該ナノクラスター成長セル内で生成された前記ナノクラスターを該ナノクラスター成長セルの外部へ取り出すためのナノクラスター取り出し口を備え、前記担持部は前記ナノクラスター取り出し口に対向するように配置される、装置を用いてナノクラスターを作製し、
前記第2工程では、
前記担持部において、気相にて多数の前記担体を転動させるとともに当該各担体に多数の前記ナノクラスターをまぶして、前記各担体に前記多数のナノクラスターを担持させる、
前記担持体の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の担持体の製造方法であって、
前記スパッタ源は、その少なくとも一部が前記ナノクラスター成長セルの内部に配置されている、担持体の製造方法。
【請求項14】
請求項12に記載の担持体の製造方法であって、
前記スパッタ源は、前記ターゲットを含むその少なくとも一部が前記ナノクラスター成長セルの内部に配置されている、担持体の製造方法。
【請求項15】
請求項1
2~14のいずれか一項に記載の担持体の製造方法であって、
更に、前記担体を作製する第3工程を有し、
前記第2工程では、前記第3工程で作製した前記担体を用いる、担持体の製造方法。
【請求項16】
請求項1
5に記載の担持体の製造方法であって、
前記第3工程では、固定床を用いて前記担体を作製、又は、流動床を用いて前記担体を作製する、担持体の製造方法。
【請求項17】
請求項1
2~請求項1
6のいずれか1項に記載の担持体の製造方法であって、
前記多数の担体を容器に収容し、当該容器を動かして前記多数の担体を転動させるとともに、前記容器内に前記多数のナノクラスターを供給する、
担持体の製造方法。
【請求項18】
請求項1
7に記載の担持体の製造方法であって、
前記容器を、前記ナノクラスターを収容可能なように、前記ナノクラスターが供給される経路に配置した、
担持体の製造方法。
【請求項19】
請求項1
8に記載の担持体の製造方法であって、
前記ナノクラスターが供給される経路にて、前記ナノクラスターのサイズ及び構造の少なくとも一方を制御する、
担持体の製造方法。
【請求項20】
請求項1
7~請求項1
9のいずれか1項に記載の担持体の製造方法であって、
前記容器に、正又は負のバイアス電圧を印加できる、
担持体の製造方法。
【請求項21】
請求項1
2~請求項
20のいずれか1項に記載の担持体の製造方法であって、
前記ナノクラスターを担体に担持させる部分を、所定温度に制御する、
担持体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本国際出願は、2020年6月8日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2020-099669号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2020-099669号の全内容を本国際出願に参照により援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、触媒等の担持体、担持体の製造装置及び担持体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、例えば、燃料電池の電極触媒として、白金系燃料電池触媒が知られている。この白金系燃料電池触媒は、担体に触媒を担持した担持体であり、含浸法、化学還元法をはじめとする液相法(即ち、ウェットプロセス)で調製されている。例えば、下記特許文献1参照。
【0004】
また、このような触媒としては、数個~数千個の原子又は分子が集合した超微粒子であるナノクラスターからなる触媒、つまり、微粒子直径で表せば白金系燃料電池触媒の場合0.2nm~8nm程度の大きさの触媒が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、上述した液相法を利用して、例えば、大きさ(即ち、ナノクラスターのサイズ)の揃ったナノクラスターを担体に担持する技術が研究されている。
【0007】
しかしながら、液相法で、担体に触媒を担持した担持体を作製する場合には、いくつかの解決すべき課題が存在する。
【0008】
具体的には、白金の使用量を低減するために、触媒となる白金の粒子(即ち、白金ナノクラスター)を微細化することが有効であると考えられるので、白金源となるイオン種及びその濃度、水素イオン濃度について検討され、また、異なる配位子を持つ白金錯イオンから配位子を効果的に脱離させ白金ナノクラスターを生成するための還元剤の検討などが行われている。
【0009】
しかしながら、還元力の弱い条件下では、液相中での白金ナノクラスターの均一核の発生確率が小さく、液中に生成した白金ナノクラスターの密度が小さくなり、白金ナノクラスター数が少なくなる傾向がある。さらに、数少なく生成する核の大きくなる成長速度が、均一核の生成速度より速いため、生成した白金ナノクラスターが大きくなってしまう傾向がある。
【0010】
逆に、還元力が強く配位子を脱離しやすく白金ナノクラスター生成をしやすい条件下では、白金ナノクラスターの均一核の発生確率が大きくなりすぎ、均一核の密度が高くなるために、生成する均一核同士の距離が短すぎる結果として、複数の核が凝集、合体し、粒成長するなどの現象が生じ、ナノクラスターのサイズや形状が意図どおりのものにならない可能性がある。
【0011】
また、液相にてナノクラスターを高濃度(高密度)で生成させるために、ナノクラスターの凝集を防止する目的でコロイド保護することも考えられる。しかしながら、コロイド保護すれば、活性部位が塞がれたり、担体への付着が抑制されたりすることで、活性発現や担体表面上への高密度担持に対しては好ましくない影響を及ぼす可能性があった。ここで、コロイド保護とは、ナノクラスターの表面に、溶媒分子、有機分子、分子イオンや、たんぱく質等が吸着した状態を指す。
【0012】
本開示は、担体にナノクラスターを担持した担持体、担持体の製造装置、及び、担持体の製造方法において、担体に担持するナノクラスターの数をより多くすることを目的の一つとする。また、本開示は、ナノクラスターのサイズをより小さくすることを別の目的の一つとする。また、本開示は、ナノクラスターのサイズ及び形状をより好適に制御することを目的の一つとする。また、本開示は、担体に担持されたナノクラスターの活性をより好適に発現させるとともにナノクラスターを担体に好適に付着させることを別の目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本開示の第1局面(担持体)は、真空容器と、カソードとしてのターゲットを有し、パルス放電によるマグネトロンスパッタを行い、プラズマを発生させるスパッタ源と、前記スパッタ源に対し、パルス状の電力を供給するパルス電源と、前記スパッタ源に対し、第1の不活性ガスを供給する第1不活性ガス供給手段と、前記真空容器内に収容されるナノクラスター成長セルと、前記ナノクラスター成長セル内に第2の不活性ガスを導入する第2不活性ガス導入手段と、を備えるナノクラスター生成装置を用いて、ナノクラスターを気相にて作製し(即ち、気相合成し)、当該ナノクラスターを担体に担持する際に、気相にて多数の前記担体を転動させるとともに当該各担体(即ち、多数の担体のそれぞれに)多数の前記ナノクラスターをまぶして、前記各担体に前記多数のナノクラスターを担持させた担持体である。
【0014】
ここで、各担体に多数のナノクラスターをまぶすとは、各担体に多数のナノクラスターを供給(即ち、添加して)して、各担体の表面に多数のナノクラスターを付着させることをいう。そして、転動させた各担体に多数のナノクラスターをまぶすことにより、例えば、各担体の表面の全体にわたって、ほぼ均一に多数のナノクラスターを分散して付着させることができる。なお、多数とは、通常、例えば、触媒などに用いられる担持体を製造するための材料として、十分な量をいう。
【0015】
従って、本第1局面では、担体に担持するナノクラスターの数をより多くすることが可能である。また、ナノクラスターのサイズをより小さくすることが可能である。また、担持されるナノクラスターのサイズ及び形状をより好適に制御することが可能である。例えば、各担体の表面に、大きさ(即ち、寸法:サイズ)の揃った多数のナノクラスターを担持することが可能である。また、前記のようにコロイドで保護する必要がないので、優れた活性発現やナノクラスターの担体表面上への高密度な担持が可能である。例えば、各担体の表面に、所望の密度で分布状態がほぼ均一となるように、ナノクラスターを分布させて担体に直接接合した担持状態を実現することが可能である。
【0016】
また、例えば大気暴露することなく、担体とナノクラスターとを複合化することができる。この複合化とは、気相合成されたナノクラスターと固定サイトを持つ担体とを、その表面同士を接合させて、ナノクラスターの活性を担体による担持によって相乗的に高めることである。なお、固定サイトとは、担体において、ナノクラスターが周囲より他の箇所より強固に付着できるサイト(場所)のことである。
【0017】
また、気相としては、例えば所定の圧力以下の真空が挙げられる。また、気相における圧力としては、例えば40Pa以下が挙げられる。また、気相を構成するガスの種類としては、アルゴン(Ar)やヘリウム(He)等の不活性ガス(例えばナノクラスター生成装置に用いるような不活性ガス)や、窒素、酸素等が挙げられる。
【0018】
このような担持体を燃料電池に適用すると、即ち、燃料電池に例えば白金触媒を担持した担持体を用いると、白金触媒の微細化(即ち、微粒子化)等によって、燃料電池の性能が大きく向上する。なお、以下では、触媒を担体に担持した担持体を、触媒の機能を有する物体として、担持体触媒と称することもある。
【0019】
また、白金触媒を容易に微粒子化できるので、表面原子の割合を高められることによって白金の使用量を低減できる。さらに、液相で触媒となる白金ナノクラスターを担体に担持する場合に比べて、白金ナノクラスターが例えば高真空中で生成するため、白金ナノクラスター表面の白金原子が露出して新鮮(即ち、清浄)であり、また、白金ナノクラスターと担体の間の界面に不純物が存在しにくいため、白金ナノクラスターは担体との接触状態が良好である。そのため、白金ナノクラスターが表面拡散しないばかりでなく担体より脱落しにくく、結果として、このような担持体を燃料電池の担持体触媒として用いた場合には担持体触媒の活性が低下しにくいという利点がある。
【0020】
ここで、白金ナノクラスターとは、粒子径が、例えば0.2nm~8nmのナノサイズの微粒子を示している。ここで、粒子径とは、白金ナノクラスターを撮影した画像において、円に換算した場合の直径(相当径)を示している(粒子径としては、以下同様)。
【0021】
(2)本開示の第2局面(担持体)では、前記ナノクラスターを構成する物質は、金属、合金、化合物のうち、少なくとも1種であってもよい。
【0022】
例えば、燃料電池等の触媒として機能する物質が挙げられる。
【0023】
金属としては、白金などの貴金属、コバルトなどの遷移金属、マグネシウムなどの典型金属が挙げられる。例えば、Pt、Ru、Rh、Pd、Irなどの白金族金属、Cu、Fe、Ni、Co、V、Mnなどの遷移金属が挙げられる。
【0024】
合金としては、白金-コバルトなどの貴金属と遷移金属との合金、白金-マグネシウムなどの貴金属と典型金属との合金が挙げられる。例えば、Pt-Co、Pt-Ru、Pt-Rh、Pt-Pd、Pt-Irのような白金と白金族との組み合わせ、Pt-Cu、Pt-Ni、Pt-Coのような白金と遷移金属との組み合わせ、Pd-Niのような白金族と遷移金属との組み合わせなどによる、合金が挙げられる。
【0025】
化合物としては、白金の酸化物や錯体、ならびに炭素-窒素、シリコン-炭素などの化合物が挙げられる。例えば、PtO2、PtO、H2[Pt(OH)6]の化合物や、FeSe、Cu2(Ge,Sn)S3のような金属-カルコゲナイド化合物が挙げられる。
【0026】
(3)本開示の第3局面(担持体)では、前記ナノクラスターは、1層構造、又は、多層構造を有していてもよい。
【0027】
なお、2層構造としては、中心側と外周側との構成が異なるコアシェル構造を採用できる。
【0028】
(4)本開示の第4局面(担持体)では、前記担体を構成する物質は、炭素、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物のうち、少なくとも1種であってもよい。
【0029】
酸化物としては、酸化鉄などの金属酸化物が挙げられる。例えば、TiO2、TiO、ZrO2、ZrOのような遷移金属酸化物、LiFeO2、Li3MnO3、LiCoO2のようなLi-遷移金属酸化物、SiO、SiO2などが挙げられる。
【0030】
窒化物としては、窒化鉄などの金属窒化物が挙げられる。例えば、Li3N、Li7MnN4、Li3FeN2、Li-遷移金属窒化物などが挙げられる。
【0031】
炭化物としては、例えば、WC、MoCなどが挙げられる。
【0032】
硫化物としては、例えば、Li2S、MoS2Li10、GeP2S12、Li7P3S11などが挙げられる。
【0033】
(5)本開示の第5局面(担持体)では、前記担体を構成する物質は、カーボンブラック、又は、マリモカーボンであってもよい。
【0034】
なお、カーボンブラックは、粒子径が、例えば3nm~500nm程度の炭素の微粒子である。マリモカーボンとは、サブミクロンオーダーのダイヤモンド微粒子を核として、その表面に10nm~100nm程度の直径を持つ繊維状カーボンナノフィラメント(CNF)が成長して、全体として球状をなすsp3-sp2炭素複合材料である。
【0035】
(6)本開示の第6局面(担持体)では、担体に多数のナノクラスターを担持した担持体であって、前記担体はマリモカーボンであり、観察方向から見た場合、前記担体の外周側の側面部における前記多数のナノクラスターの扁平率の分布は、平均値-1σが0.20以上であってもよい。なお、σは標準偏差であり、±1σ区間はデータ数の約68%の区間、±3σ区間はデータ数の約99.7%の区間にそれぞれ対応する(以下同様)。
【0036】
なお、担体の側面部とは、後述する実験例に示すように、前記担持体の電子顕微鏡(例えば透過型電子顕微鏡)における画像において、担体の最外部(即ち、外周)から所定の範囲の内側までの領域(例えば、ナノクラスターの平均粒径の2個分の領域)である。なお、観察方向とは、電子顕微鏡の撮影方向(即ち、前記画像に対して垂直の方向)である。
【0037】
多数のナノクラスター(即ち、ナノクラスター群)の扁平率が、このような分布を有する場合には、そのナノクラスター群を例えば燃料電池の触媒として用いると、単位(同じ質量)白金量あたりの触媒活性が向上する効果が得られる。
【0038】
なお、本第6局面の担持体は、前記第1~第5局面のいずれかの担持体であってもよい。
【0039】
(7)本開示の第7局面(担持体)では、担体に多数のナノクラスターを担持した担持体であって、前記担体に担持された前記多数のナノクラスターの大きさ(サイズ)の分布は、平均値+3σが5nm以下であってもよい。
【0040】
多数のナノクラスター(即ち、ナノクラスター群)のサイズが、このような分布を有する場合には、そのナノクラスター群を例えば燃料電池の触媒として用いると、単位(同じ質量)白金量あたりの触媒活性が向上する効果が得られる。
【0041】
ここで、ナノクラスターの大きさ(サイズ)とは、上述のように、ナノクラスターの寸法を示している。詳しくは、ナノクラスターの粒子直径、さらに精度を上げて構成原子数の範囲を規定した尺度を示している。
【0042】
なお、上述した分布は、後述する実験例に示すように、前記担持体の電子顕微鏡(例えば透過型電子顕微鏡)による画像から求めたものである。
【0043】
なお、本第7局面の担持体は、前記第1~第6局面のいずれかの担持体であってもよい。
【0044】
(8)本開示の第8局面(担持体)では、担体に多数のナノクラスターを担持した担持体であって、前記担体が複数のグラフェンシートが積層された構造を有する場合に、前記多数のナノクラスターの各個が接触する前記グラフェンシートのエッジの数(即ち、エッジ数)の分布は、平均値+3σが5.5本以下であってもよい。
【0045】
多数のナノクラスター(即ち、ナノクラスター群)が、上述した分布を有する場合には、そのナノクラスター群を例えば燃料電池の触媒として用いると、単位(同じ質量)白金量あたりの触媒活性が向上する。また、長時間の使用によってもナノクラスターが担体表面上で拡散しにくく担体より脱落、剥離しにくい効果が得られる。
【0046】
ここで、グラフェンシートとは、カーボンナノフィラメントを構成する炭素の六員環ネットワークを示し、エッジ数とは、グラフェンシートの外周側に露出する端部の本数を示している。
【0047】
なお、上述した分布は、後述する実験例に示すように、前記担持体の電子顕微鏡(例えば透過型電子顕微鏡)による画像から求めたものである。
【0048】
なお、本第8局面の担持体は、前記第1~第7局面のいずれかの担持体であってもよい。
【0049】
(9)本開示の第9局面(担持体の製造装置)は、担体にナノクラスターを担持した担持体の製造装置に関するものである。
【0050】
この担持体の製造装置は、前記ナノクラスターを気相にて作製するナノクラスター製造部と、前記担体に前記ナノクラスターを気相にて担持させる担持部と、を備えている。
【0051】
前記ナノクラスター製造部は、真空容器と、カソードとしてのターゲットを有し、パルス放電によるマグネトロンスパッタを行い、プラズマを発生させるスパッタ源と、前記スパッタ源に対し、パルス状の電力を供給するパルス電源と、前記スパッタ源に対し、第1の不活性ガスを供給する第1不活性ガス供給手段と、前記真空容器内に収容されるナノクラスター成長セルと、前記ナノクラスター成長セル内に第2の不活性ガスを導入する第2不活性ガス導入手段と、を備えている。
【0052】
前記担持部は、気相にて多数の前記担体を転動させるとともに当該各担体に多数の前記ナノクラスターをまぶして、前記各担体に前記多数のナノクラスターを担持させる担持機構を有している。
【0053】
本第9局面では、気相において、多数の担体を転動させるとともに当該各担体に多数のナノクラスターをまぶすことにより、各担体に多数のナノクラスターを担持させる。
【0054】
なお、このようにまぶすことによって上述した複合化が可能である。
【0055】
このような構成により、前記第1局面に示したと同様な効果を奏する。
【0056】
具体的には、本第9局面の担持体の製造装置にて、担持体を製造することにより、担体に担持させるナノクラスターの大きさの状態を、容易に所望の状態とすることができる。例えば、寸法(サイズ)の揃ったナノクラスターを担持させることができる。また、担体の表面に、ほぼ均一な分布となるようにナノクラスターを配置することも可能である。
【0057】
このようにして製造された担持体を燃料電池に適用すると、即ち、燃料電池に例えば白金触媒を担持した担持体を用いると、例えば燃料電池の触媒(例えば白金触媒)に適用すると、例えば白金触媒の微粒子化等によって、燃料電池の性能が大きく向上する。また、白金触媒を容易に微粒子化できるので、表面原子の割合を高められることによって白金の使用量を低減できる。さらに、液相で触媒となる白金ナノクラスターを担体に担持する場合に比べて、白金ナノクラスターの凝集を抑えるために用いられる配位子が残存しないので、触媒活性が低下しにくいという利点がある。
【0058】
また、白金ナノクラスターが例えば高真空中で生成するため、白金ナノクラスター表面は新鮮(即ち、清浄)であり、また、白金ナノクラスターと担体の間の界面に不純物が存在しにくいため、白金ナノクラスターは担体との接触状態が良好である。そのため、白金ナノクラスターが担体表面上で拡散しにくく、また、担体より脱落しにくく、結果として、このような担持体を燃料電池触媒(即ち、担持体触媒)として用いた場合には担持体触媒の活性が低下しにくいという利点がある。
【0059】
なお、ナノクラスター製造部としては、特許第5493139号公報(特許文献2)に記載のナノクラスター生成装置を使用できる。
【0060】
(10)本開示の第10局面(担持体の製造装置)では、更に、前記担体を作製する担体製造部を備えていてもよい。
【0061】
本第10局面では、担体を作製する担体製造部を備えているので、この担体製造部にて作成された担体を、容易にまた効率よく担持部側に供給できる。さらに、この担体製造部と担持部を内部が真空となるようにして一貫で連結することにより、担体製造部で作製される担体表面を清浄表面のままあるいは担体の担体表面の化学吸着状態を制御した状態で、ナノクラスターを担体に担持させることができる。
【0062】
なお、担体製造部としては、特許第5544503号公報(特許文献3)に記載の装置を使用できる。
【0063】
(11)本開示の第11局面(担持体の製造装置)では、前記担体製造部は、前記担体を作製する固定床又は流動床を備えていてもよい。
【0064】
つまり、固定床を備えた装置を用いて担体を製造してもよく、また、流動床を備えた装置を用いて担体を製造してもよい。流動床の方式としては、反応ガスフロー式の浮遊型流動床でもよく、また反応器が回転するロータリーキルン方式の流動床でもよい。
【0065】
(12)本開示の第12局面(担持体の製造装置)では、前記担持機構は、前記多数の担体と前記多数のナノクラスターとを収容する容器を備え、当該容器を前記多数の担体を転動させて前記多数のナノクラスターをまぶすように駆動してもよい。
【0066】
つまり、容器内に多数の担体を入れて、例えば容器を回転させたり振動させたりして多数の担体を転動させてもよい。このように転動している多数の担体に対して多数のナノクラスターを添加することによって、多数の担体のそれぞれに対して、多数のナノクラスターまぶすことができる。
【0067】
これにより、各担体の表面に、多くのナノクラスターを(例えば分布状態が均一となるようして)分布させて、担持させることが可能である。
【0068】
(13)本開示の第13局面(担持体の製造装置)では、前記容器は、前記ナノクラスターを収容可能なように、前記ナノクラスターが供給される経路に配置されている。
【0069】
本第13局面では、ナノクラスターが供給される経路に容器が配置されている。例えばナノクラスターを鉛直方向の下方に供給する場合には、容器の開口部を上に向けて、容器をナノクラスターが供給される部分の下方に配置することができる。これにより、ナノクラスターを確実に容器に供給することができる。
【0070】
(14)本開示の第14局面(担持体の製造装置)では、前記ナノクラスターが供給される経路に、前記ナノクラスターの大きさ及び構造の少なくとも一方を制御するナノクラスター制御部が配置されていてもよい。
【0071】
このナノクラスター制御部によって、ナノクラスターの大きさ及び構造の少なくとも一方を容易に制御することができる。
【0072】
(15)本開示の第15局面(担持体の製造装置)では、前記容器に、正又は負のバイアス電圧を印加できる電圧制御機構を備えていてもよい。
【0073】
ナノクラスターが帯電している場合(即ち、イオンの場合)には、電圧制御機構によって容器にバイアス電圧を印加することによって、所望の電荷を有するイオンを選択的に容器に収容することができる。
【0074】
(16)本開示の第16局面(担持体の製造装置)では、前記担持部の内部を、所定温度に制御する温度制御部を備えていてもよい。
【0075】
この温度制御部によって、担持部の内部を所望の温度に制御することができる。
【0076】
なお、前記第9~第16局面のいずれかの担持体の製造装置は、前記第1~第8局面のいずれかの担持体を製造する製造装置であってもよい。
【0077】
(17)本開示の第17局面(担持体の製造装置)では、前記担体に対して活性化処理を行う活性化機構を備えていてもよい。
【0078】
この活性化処理とは、後述するように、担体に活性点を作製することと、既に存在する活性点の活性を強化することである。担体の固定サイトに適用した場合、ナノクラスターを担体の表面に強く固着させる作用効果を有する。
【0079】
(18)本開示の第18局面(担持体の製造方法)は、担体にナノクラスターを担持した担持体の製造方法に関するものである。
【0080】
この担持体の製造方法は、前記ナノクラスターを気相にて作製する第1工程と、前記担体に前記ナノクラスターを気相にて担持させる第2工程と、を有する。
【0081】
第1工程では、真空容器と、カソードとしてのターゲットを有し、パルス放電によるマグネトロンスパッタを行い、プラズマを発生させるスパッタ源と、前記スパッタ源に対し、パルス状の電力を供給するパルス電源と、前記スパッタ源に対し、第1の不活性ガスを供給する第1不活性ガス供給手段と、前記真空容器内に収容されるナノクラスター成長セルと、前記ナノクラスター成長セル内に第2の不活性ガスを導入する第2不活性ガス導入手段と、を備えた装置を用いてナノクラスターを作製する。
【0082】
第2工程では、気相にて多数の前記担体を転動させるとともに当該各担体に多数の前記ナノクラスターをまぶして、前記各担体に前記多数のナノクラスターを担持させる。
【0083】
本第18局面は、前記第9局面と同様な作用効果を有する。
【0084】
具体的には、本第18局面の担持体の製造方法にて、担持体を製造することにより、担体に担持させるナノクラスターの大きさの状態を、容易に所望の状態とすることができる。例えば、寸法(サイズ)の揃ったナノクラスターを担持させることができる。また、担体の表面に、ほぼ均一な分布となるようにナノクラスターを分布させて、担持させることが可能である。
【0085】
このようして製造された担持体を燃料電池に適用すると、即ち、燃料電池に例えば白金触媒を担持した担持体を用いると、白金触媒の微粒子化等によって、燃料電池の性能が大きく向上する。また、白金触媒を容易に微粒子化できるので、白金の使用量を低減できる。さらに、液相で触媒となる白金ナノクラスターを担体に担持する場合に比べて、白金ナノクラスターの凝集を抑えるために用いられる配位子が残存しないので、触媒活性が低下しにくいという利点がある。
【0086】
また、白金ナノクラスターが例えば高真空中で生成するため、白金ナノクラスター表面の白金原子が露出して新鮮(即ち、清浄)であり、また、白金ナノクラスターと担体の間の界面に不純物が存在しにくいため、白金ナノクラスターは担体との接触状態が良好である。そのため、白金ナノクラスターが表面拡散しにくい上に担体より脱落しにくく、結果として、このような担持体を燃料電池触媒(即ち、担持体触媒)として用いた場合には担持体触媒の活性が低下しにくいという利点がある。
【0087】
(19)本開示の第19局面(担持体の製造方法)では、更に、前記担体を作製する第3工程を有し、前記第2工程では、前記第3工程で作製した前記担体を用いるようにしてもよい。
【0088】
本第19局面は、前記第10局面と同様な作用効果を有する。
【0089】
なお、第3工程にて担体を作製する方法としては、前記特許文献3に記載の方法と同様な方法を採用できる。
【0090】
(20)本開示の第20局面(担持体の製造方法)では、前記第3工程では、固定床を用いて前記担体を作製、又は、流動床を用いて前記担体を作製してもよい。
【0091】
本第20局面は、前記第11局面と同様な作用効果を有する。
【0092】
(21)本開示の第21局面(担持体の製造方法)では、前記多数の担体と前記多数のナノクラスターとを容器に収容し、当該容器を動かして前記多数の担体を転動させるとともに、前記容器内に前記多数のナノクラスターを供給するようにしてもよい。
【0093】
本第21局面は、前記第12局面と同様な作用効果を有する。
【0094】
(22)本開示の第22局面(担持体の製造方法)では、前記容器を、前記ナノクラスターを収容可能なように、前記ナノクラスターが供給される経路に配置してもよい。
【0095】
本第22局面は、前記第13局面と同様な作用効果を有する。
【0096】
(23)本開示の第23局面(担持体の製造方法)では、前記ナノクラスターが供給される経路にて、前記ナノクラスターのサイズ及び構造の少なくとも一方を制御してもよい。
【0097】
本第23局面は、前記第14局面と同様な作用効果を有する。
【0098】
(24)本開示の第24局面(担持体の製造方法)では、前記容器に、正又は負のバイアス電圧を印加してもよい。
【0099】
本第24局面は、前記第15局面と同様な作用効果を有する。
【0100】
(25)本開示の第25局面(担持体の製造方法)では、前記ナノクラスターを担体に担持させる部分を、所定温度に制御してもよい。
【0101】
本第25局面は、前記第16局面と同様な作用効果を有する。
【0102】
なお、前記第18~第25局面のいずれかの担持体の製造方法は、前記第1~第8局面のいずれかの担持体を製造する製造方法であってもよい。なお、前記第2工程の前に、前記担体に対して活性化処理を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【
図1】第1実施形態の担持体の製造装置を示す説明図。
【
図2】担持体の製造装置の一部を構成するナノクラスター生成装置等を示す説明図。
【
図3】
図3Aは担持部等を示す正面図、
図3Bは回転バレルを回転バレルの回転軸の方向から見た状態を示す説明図、
図3Cは回転バレル等を示す平面図である。
【
図4】第1実施形態の担持体の製造方法を示す工程図。
【
図5】
図5Aはマリモカーボンを模式的に示す説明図、
図5Bはカーボンナノフィラメントに触媒が付着した状態を模式的に示す説明図、
図5Cはカーボンナノフィラメントにおけるグラフェンシートの積層状態を模式的に示す説明図。
【
図6】第2実施形態の担持体の製造装置を示す説明図。
【
図7】
図7Aは気相にてマリモカーボン上に担持された白金(Pt)ナノクラスターの粒子サイズの分布を示すグラフ、
図7Bは気相にてカーボンブラック上に担持されたPtナノクラスターの粒子サイズの分布を示すグラフ。
【
図8】
図8Aは液相にてマリモカーボン上に担持されたPtナノクラスターの粒子サイズの分布を示すグラフ、
図8Bは液相にてカーボンブラック上に担持されたPtナノクラスターの粒子サイズの分布を示すグラフ。
【
図9】
図9AはPtナノクラスターが担体(例えばCNF)に担持された担持体の平面を模式的に示す説明図(平面図)、
図9Bは担持体(例えばCNF)を担持体が伸びる方向に対して垂直に破断した断面を示す説明図(
図9AのIXB-IXB断面図)、
図9Cは担持体(例えばCNF)を透過型電子顕微鏡で撮影した画像を示す説明図。
【
図10】
図10Aは気相にてマリモカーボン上に担持されたPtナノクラスターの扁平率の分布を示すグラフ、
図10Bは気相にてカーボンブラック上に担持されたPtナノクラスターの扁平率の分布を示すグラフ。
【
図11】
図11Aは液相にてマリモカーボン上に担持されたPtナノクラスターの扁平率の分布を示すグラフ、
図11Bは液相にてカーボンブラック上に担持されたPtナノクラスターの扁平率の分布を示すグラフ。
【
図12】気相にてPtナノクラスターを担持したマリモカーボンにおいてPtナノクラスターが接するグラフェンシートのエッジの数(エッジ数)の分布を示すグラフ。
【
図13】液相にてPtナノクラスターを担持したマリモカーボンにおいてPtナノクラスターが接するグラフェンシートのエッジの数の分布を示すグラフ。
【
図14】実験例4に用いられる試料の一部を示す説明図。
【
図15】実験例4の実験結果を示し、
図15A、
図15Bは燃料電池における電流密度とセル電圧との関係を示すグラフ、
図15Cは燃料電池における電流密度と電力密度との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0104】
1、101:担持体の製造装置、3、103:ナノクラスター製造部、5、105:担持部、7、107:担体製造部、9、109:真空容器、11、111:複合装置、41、113:回転バレル
【発明を実施するための形態】
【0105】
以下に、本開示の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0106】
[1.第1実施形態]
[1-1.装置]
まず、本第1実施形態の担持体の製造装置について説明する。
【0107】
なお、ここでは、触媒を担体に担持した担持体の製造装置について説明する。
【0108】
図1に示すように、本第1実施形態の担持体の製造装置1は、気相にて触媒を作製するナノクラスター製造部3と、気相にて触媒を担体に担持させる担持部5と、気相にて担体を作製する担体製造部7と、が一体に構成された装置である。
【0109】
なお、ナノクラスター製造部3と担持部5とは、筒状の真空容器9を共通の構成として一体に構成されているので、以下では、ナノクラスター製造部3及び担持部5を、複合装置11と称することがある。
【0110】
前記触媒は、例えば、粒子径が0.2nm~8nmの微粒子であるナノクラスターによって構成されており、その材料は、例えば白金である。なお、ナノクラスターは、数個~数千個の原子(例えば、白金)又は分子が集合した超微粒子である。
【0111】
前記担体は、例えば、粒子径が、50μm~100μmの微粒子であり、例えば、公知のマリモカーボン(即ち、MC)から構成されている。
【0112】
なお、マリモカーボンは、例えば特許第5854314号公報(特許文献4)等に記載のように、カーボンナノフィラメント(CNF)系のナノ炭素材料の一種である。このマリモカーボンは、後述する
図5A~
図5Cに示すように、ダイヤモンド微粒子を核として繊維状のカーボンナノフィラメント(CNF)を放射状に成長させて得られるマリモのような球状形態のナノ炭素材料である。
【0113】
以下、各構成について説明する。
【0114】
<ナノクラスター製造部>
まず、ナノクラスター製造部3について説明する。
【0115】
ナノクラスター製造部3は、ナノクラスターを気相にて合成して作製する装置である。このナノクラスター製造部3は、前記特許文献2に記載のナノクラスター生成装置と基本的に同様な構成であるので、簡単に説明する。
【0116】
図2に示すように、ナノクラスター製造部3は、真空容器9と、ナノクラスター成長セル13と、スパッタ源15と、液体窒素ジャケット17と、制御装置19と、パルス電源21と、第1不活性ガス供給部23と、第2不活性ガス導入部25とを備える。
【0117】
真空容器9は、公知の真空チャンバーを用いることができる。真空容器9には、排気部27が接続される。排気部27は、真空容器9内の真空度を高める。排気部27には、ターボ分子ポンプ等を用いることができる。排気部27により真空容器9内の真空度を、例えば10-1Pa~10-7Paまで排気できる。
【0118】
ナノクラスター成長セル13は、真空容器9内に設置される。ナノクラスター成長セル13の外周は、液体窒素ジャケット17で囲まれている。ナノクラスター成長セル13の外周と、液体窒素ジャケット17の内周に囲まれた領域内には、液体窒素(N2)が流通するように構成されている。この領域内に液体窒素を流通させることで、ナノクラスター成長セル13内の温度が高まるのを抑制すると共に、第2不活性ガス導入部25から供給されるHeガスを冷却できる。
【0119】
スパッタ源15は、ターゲット31と、アノード33と、磁石ユニット35から構成される。スパッタ源15は、真空容器9内に配設されたナノクラスター成長セル13の内部に配設される。スパッタ源15は、ナノクラスター成長セル13内の管軸方向に移動自在である。これにより、ナノクラスター成長領域の管軸方向の延伸距離を自由に規定できる。換言すると、ターゲット31面からナノクラスター成長セル13のナノクラスター取り出し口37までの距離である成長領域長を自由に規定できる。
【0120】
なお、ナノクラスター取り出し口37から担持部5側(
図2の下方)に向かって、ナノクラスター製造部3にて製造されたナノクラスターが放出される。なお、ナノクラスターが供給される経路は、一定の領域を有しており、その領域に沿って供給されるナノクラスターを、ナノクラスタービームと称する。
【0121】
ターゲット31は、カソードとして機能し、パルス電源21に接続されている。パルス電源21は制御装置19によって制御される。パルス電源21からスパッタ源15にパルス状の電力が供給されることで、ターゲット31とアノード33の間に電圧が印加される。磁石ユニット35は、ターゲット31の表面付近に磁場を印加する。
【0122】
ターゲット31に用いる材料は、作製したいナノクラスターに応じて種々変更することができる。例えば白金のナノクラスターを作製したい場合は、ターゲット31は白金とする。
【0123】
制御装置19は、パルス電源21を制御する。パルス電源21は、制御装置19からオン信号とオフ信号に合せて、オン時間tonに電圧印加を行い、オフ時間toffに電圧印加を止め、スパッタ源15にパルス状の電圧を印加する。例えば、パルス電源21には、デューティー比(ton/(ton+toff)及び直流電圧DCVによりパワー制御可能な変調パルス電源等を用いることができる。パルス電源21は、定常的な直流電圧DCV型の電源を用いてもよい。
【0124】
第1不活性ガス供給部23は、端部がターゲット31とアノード33の間に配設されたガス流路である。ガス流路は、公知のパイプ等により構成することができる。
図2では、第1不活性ガス供給部23の供給口は、ターゲット31とアノード33の間に1箇所のみとしている。第1不活性ガス供給部23は当該構成に限られず、第1不活性ガス供給部23を途中で分岐させて複数箇所の供給口を設けてもよい。ターゲット31の表面に第1不活性ガスを導入できる構成であればよい。第1不活性ガスは、一般のスパッタに用いることができるガスであればよく、Arガスを一般的に用いることができる。
【0125】
第1不活性ガス供給部23から第1不活性ガスがターゲット31表面に供給されると、ターゲット31の表面付近に強いグロー放電が生成される。グロー放電により第1不活性ガスがイオン化し、ターゲット31に衝突することで、ターゲットからスパッタ粒子が放出される。スパッタ粒子は、ターゲット31由来の中性原子、イオン等からなる。
【0126】
第2不活性ガス導入部25は、液体窒素ジャケット17の内部を螺旋状に周回し、端部がナノクラスター成長セル13内に突出したガス流路である。ガス流路は、公知のパイプ等により構成することができる。第2不活性ガスとしては、発生したスパッタ粒子と反応しないガス種であれば特に問わない。例えば、Heガス等を好適に用いることができる。
【0127】
第2不活性ガス導入部25は、ナノクラスター成長セル13内に液体窒素により冷却された第2不活性ガスを供給する。第2不活性ガス導入部25は、圧力計、マスフローコントローラ等により制御されていることが好ましい。圧力計等によりナノクラスター成長セル13内の圧力を約0.1Pa~40Paに維持できる。
【0128】
第2不活性ガス導入部25から導入された第2不活性ガスは、一定の流れ方向を有し、その流れ方向に沿ってターゲット31で発生したスパッタ粒子は移動する。この際、第2不活性ガス雰囲気中において、スパッタ粒子は互いに結合し、種々のナノクラスターが生成される。
【0129】
ナノクラスターの大きさ(即ち、ナノクラスターのサイズ)は、前記特許文献1、2にも記載のように、スパッタ源15における放電電力、パルス電源21におけるデューティー比、ナノクラスター成長セル13内の成長領域長、第1不活性ガス供給部23から供給される第1不活性ガスの流量、第2不活性ガス導入部25から供給される第2不活性ガスの流量等を制御することにより自由に選択することができる。
【0130】
また、ナノクラスター取り出し口37の担持部5側の下方(
図2の下方)、即ち、ナノクラスターが担持部5側に供給される経路には、ゲート39が配置されている。
【0131】
ゲート39は、例えば金属メッシュ電極であり、ナノクラスター、詳しくは、ナノクラスターイオンの内の一方の極性のナノクラスターイオンのみにつき、その通過を許可又は禁止するために用いられる。
【0132】
ゲート39は、前記特許文献2に記載のように用いられる。つまり、スパッタ源15に対するパルス状の電力の供給を開始するタイミングを基準として、ゲート39によるナノクラスター取り出し口37からのイオンビームの取り出しの許可と禁止とを切り替えるタイミングを設定する。
【0133】
これにより、ゲート39を操作して特定の時間帯にナノクラスター取り出し口37に達するナノクラスターイオン(即ち、イオンによるビーム)のみを選択的に取り出すことができる。よって、例えば、特定のサイズ又は構造を有するナノクラスターを選択することができる。
【0134】
<担持部>
次に、担持部5について説明する。
【0135】
この担持部5は、気相にて、多数の担体を転動させるとともに当該各担体に多数のナノクラスターをまぶすことにより、各担体に多数のナノクラスターを担持させる装置である。
【0136】
なお、担持部5の外周は、ナノクラスター製造部3の外周を構成する真空容器9によって、一体に構成されている。
【0137】
前記
図1に示すように、担持部5は、回転バレル41と、回転バレル駆動機構43と、トランスファーロッド45と、合成セル回転機構47と、分散媒滴下機構49と、活性化機構50と、を備えている。なお、活性化機構50や分散媒滴下機構49を省略してもよい。
【0138】
なお、回転バレル41と回転バレル駆動機構43とによって、担持機構が構成される。また、分散媒滴下機構49によって、液体供給部が構成される。
【0139】
回転バレル41は、半球状の部材であり、軸中心に、例えば、
図1の上方から見て時計回りに(
図3B、
図3CのA方向に)、回転可能となっている。
【0140】
詳しくは、
図3A~
図3Cに示すように、回転バレル41は、円形の開口部41aを有しており、微粒子状の担体(例えばマリモカーボン)とナノクラスターとを収容する容器である。詳しくは、回転バレル41は、内部に多数の担体を収容して回転して各担体を転動させるとともに、ナノクラスター製造部3から供給された多数のナノクラスターを用いて、各担体に多数のナノクラスターをまぶすために用いられる容器である。
【0141】
回転バレル41の内周面には、担体を十分に転動させるように、即ち、担体に対してナノクラスターを十分にまぶすことができるように、複数の撹拌用の凸部41bが設けられている。この凸部41bは、回転バレル41の底部(回転軸41cの部分)から、開口部41aに向かって、放射状に複数(例えば4個所)に設けられている。なお、凸部41bに代えて例えば凹部の構成を採用してもよい。
【0142】
回転バレル41の回転軸41cは、垂線に対して所定角度(例えば30°)で傾斜している。開口部41aは、ナノクラスターが供給される上方に向かって開口している。なお、開口部41aは、上方から見て楕円形状である。
【0143】
回転バレル41は、上方から見て、ナノクラスタービームが開口部41aの中央部分(
図3CのR部分)に到達するように設定されている。
【0144】
回転バレル駆動機構43は、図示しないモータ等によって、回転バレル41を、例えば矢印A方向に回転させる機構である。
【0145】
前記
図1に示すように、トランスファーロッド45は、担体製造部7にて製造された担体を、後述する合成セル51とともに取り出す装置である。つまり、合成セル51内には、製造された微粒子状の担体が収容されているので、トランスファーロッド45の先端にて、担体が収容された合成セル51の内筒(図示せず)を保持して、真空容器9内に引き出すことができる。
【0146】
合成セル回転機構47は、トランスファーロッド45の先端にて引き出された合成セル51の内筒を保持する装置である。この合成セル回転機構47は、筒状の部材であり、その内側に合成セル51の内筒を保持することができる。また、合成セル回転機構47は、例えば矢印B方向に回転可能である。
【0147】
従って、合成セル51の内筒を保持した合成セル回転機構47を、矢印B方向に回動させることにより、合成セル51の内筒内に収容された担体を、開口部41a内に落下させるようにして、回転バレル41内に供給することができる。
【0148】
なお、図示しないが、合成セル回転機構47を、矢印B方向に回動させる場合には、合成セル51の内筒の先端側(
図1の右側)の開口から、担体を回転バレル41に供給できるようにする。
【0149】
分散媒滴下機構49は、回転バレル41内に、スラリーを作製するために、液体である分散媒を供給する装置である。
【0150】
分散媒滴下機構49は、真空容器9外に、分散媒を貯蔵するタンク49aを備え、そのタンク49aから真空容器9内に延びる管路49bを備えている。管路49bの真空容器9外の途中には、管路49bを開閉する開閉部49cが設けられており、管路49bの真空容器9内の先端には分散媒を滴下する開口49dを備えている。その開口49dは、回転バレル41の開口部41aに分散媒を滴下できるように、開口部41aの上方に配置されている。
【0151】
活性化機構50は、回転バレル41内に配置された担体を活性化するための装置である。
【0152】
活性化機構50は、真空容器9外に、担体の活性化のために用いられる例えば水素プラズマを発生する外部装置50aを備え、その外部装置50aから真空容器9内に延びる管路50bを備えている。管路50bの先端は、回転バレル41内に例えば水素プラズマを誘導できる位置に配置されている。なお、管路50bはなくても、外部装置50aから直接照射してもよい。
【0153】
また、真空容器9内には、詳しくは、担持部5には、担持部5内の温度を制御する構成として、ヒータ53や温度センサ55が配置されている。なお、真空容器9の外側には、ヒータ53に供給する電力を調節する制御装置57が配置されている。
【0154】
なお、真空容器9の外側に冷却水等を供給する構成を設けることによって、担持部5を冷却することができる。
【0155】
さらに、真空容器9の外側には、回転バレル41に、正又は負のバイアス電圧を印加するために、回転バレル41に正又は負のバイアス電圧を印加できる電圧制御機構59が配置されている。
【0156】
また、担持部5は、その下部において、真空容器9の外側に、担持部5の内部と連通するようにして、イオン検出装置60が接続されている。このイオン検出装置60としては、前記特許文献2に記載のイオン検出装置と同様な装置を用いることができる。
【0157】
具体的には、イオン検出装置60では、図示しないが、まず、四重極形イオン偏向器によって、ナノクラスターの内の正イオン或いは負イオンの一方のみを偏向させることにより取り出す。そして、取り出されたナノクラスターの質量を、四重極質量分析計により分析し、特定の質量のナノクラスターのみを取り出して原子数と組成とを選別し、その生成量を、バイアスの印加ができるイオン検出器により測定する。
【0158】
<担体製造部>
次に、担体を気相にて作製する担体製造部7について説明する。
【0159】
まず、担体製造部7の構成について説明する。
【0160】
この担体製造部7は、固定床にて、担体としてマリモカーボンを合成するCVD装置である。
【0161】
前記
図1に示すように、担体製造部7は、パイプ61と、合成セル51と、ヒータ63と、パイプ回動機構65と、第1接続部67及び第2接続部69と、第1ゲートバルブ71及び第2ゲートバルブ73と、ガス供給部75と、ガス排出部77と、を備えている。
【0162】
パイプ61は、円筒形状の部材であり、パイプ回動機構65によって、回転軸を中心にして回動可能に構成されている。
【0163】
パイプ回動機構65は、例えば図示しないモータによって、パイプ61の外周にかけたベルト65aを回動させ、そのベルト65aによってパイプ61を回動させる装置である。
【0164】
合成セル51は、担体の核となるダイヤモンド微粒子を収容する容器であり、内筒と外筒(図示せず)との二重構造となっている。この合成セル51(詳しくは内筒と外筒)は、ダイヤモンド微粒子は通過させずにガスを通過させるように、メッシュ状になっている。この合成セル51は、パイプ61の回転とともに回転し、ヒータ63によって加熱されるようになっている。なお、合成セル51の内筒は、パイプ61内にて担持部5側に搬出可能なように構成されている。
【0165】
ヒータ63は、回転する合成セル51を加熱することが可能なように、合成セル51の周囲(即ち、パイプ61の周囲)を囲むように配置されている。
【0166】
第1接続部67は、筒状の部材であり、パイプ61の左端にて、パイプ61を回動可能なように接続されている。同様に、第2接続部69は、筒状の部材であり、パイプ61の右端にて、パイプ61を回動可能なように接続されている。なお、第2接続部69は、真空容器9に接続されて、パイプ61の内部と真空容器9の内部とを連通している。
【0167】
第1ゲートバルブ71は、第1接続部67に設けられており、第1接続部67を開閉する。同様に、第2ゲートバルブ73は、第2接続部69に設けられており、第2接続部69を開閉する。
【0168】
ガス供給部75は、第1ゲートバルブ71より合成セル51側にて、第1接続部67に設けられており、パイプ61内にガスを供給するように構成されている。
【0169】
ガス排出部77は、第2ゲートバルブ73より合成セル51側にて、パイプ61内からガスを排出するように構成されている。
【0170】
次に、担体製造部7によってマリモカーボンを製造する方法を説明する。
【0171】
本第1実施形態では、表面が酸化されたダイヤモンド微粒子(即ち、酸化ダイヤモンド微粒子)の表面に遷移金属触媒が担持されたダイヤモンド触媒微粒子を、炭化水素を含む気相中において加熱し反応させる。これによって、ダイヤモンド触媒微粒子を核として、当該微粒子からカーボンナノフィラメントを等方向的かつ放射状に成長させることによって、マリモ状に成長した多数のカーボンナノフィラメントからなる、ほぼ球状形態を有するマリモカーボンを製造する。
【0172】
以下、詳細に説明する。
【0173】
まず、表面が酸化されたダイヤモンド微粒子の表面に遷移金属触媒が担持されたダイヤモンド触媒微粒子を、合成セル51(詳しくは内筒)内に配置し、第1、第2ゲートバルブ71、73を閉じる。
【0174】
次に、パイプ61を回転させながら、ヒータ63で合成セル51を、所定の反応温度に加熱する。
【0175】
次に、ガス供給部75から、炭化水素含有ガスを所定流量でパイプ61内に供給するとともに、ガス排出部77から、パイプ61内の炭化水素含有ガスを外部に排出する。ガスの所定流量は、ダイヤモンド触媒微粒子が合成セル51内で撹拌されるような流量であって、合成セル51のサイズや形状、ならびにダイヤモンド触媒微粒子の量によって適宜選択され得る。
【0176】
成長核となるダイヤモンド触媒微粒子の粒径は、200nm~800nmの範囲が好ましく、さらに好ましくは200nm~500nmの範囲である。
【0177】
反応温度は、重要な制御因子であるが、一般的には、触媒としてNi、Cr又はPdを用い、炭化水素ガスとしてメタンを用いた場合にあっては、400℃~600℃の範囲が好ましい。
【0178】
使用する炭化水素ガスとしては、メタン及び/又はエタンが好ましく用いられる。炭化水素ガスの他に、必要に応じて反応補助ガスや希釈ガス等を適宜混合することができる。
【0179】
このように、反応温度を400℃~600℃の範囲で選択し、かつ、その選択した温度に一定かつ厳格に保持することによって、微細構造の揃った形態を有するマリモカーボンを得ることができる。つまり、反応温度を選択し、かつ、この選択した温度に厳格に保持することによって、1次構造としてのコーン(円錐カップ)状グラフェンシートの半頂角を定量的に制御することができ、しかも半頂角の比較的揃った分布を有するマリモカーボンを得ることができる。
【0180】
[1-2.製造方法]
次に、本第1実施形態における担持体の製造方法について、
図4や
図5A~
図5C等に基づいて説明する。
【0181】
a)担体の製造
まず、担体の製造方法について説明する。
【0182】
図4に示すように、担体であるマリモカーボンの作製は、上述したように、担体製造部7にて行うので、簡単に説明する。
【0183】
担体製造部7では、気相にて、マリモカーボンを合成する。具体的には、合成セル(詳しくは内筒)51内に、成長核となるダイヤモンド触媒微粒子を多数配置し、所定の温度において、メタン等の炭化水素ガスを供給して、気相合成によって、多数のマリモカーボンを製造する。
【0184】
このマリモカーボンの構成を、
図5Aに模式的に示すが、マリモカーボンは略球状の担体であり、中心部分のダイヤモンド触媒微粒子から外周側に向かって、多数の繊維状のカーボンナノフィラメント(CNF)が放射状に延びている。
【0185】
次に、このようにして製造したマリモカーボンに対して、活性化機構50を用いて、オゾン酸化クリーニングや水素プラズマなどによって活性化処理を行うこともできる。この活性化処理とは、担体(ここでは、マリモカーボン)にオゾンや水素プラズマなどを供給してマリモカーボンの固定サイトを作製したり、固定サイトの活性を強化したりすることにより、ナノクラスターからなる触媒をマリモカーボンに強く固着させるための処理である。
【0186】
b)触媒の合成
次に、触媒となるナノクラスターの作製方法(即ち、触媒の合成方法)について説明する。なお、ここでは、触媒として白金を例に挙げて説明する。つまり、白金からなるナノクラスター(即ち、白金ナノクラスター)の作製方法を例に挙げて説明する。
【0187】
触媒となる白金ナノクラスターの作製は、上述したナノクラスター製造部3にて行う。
【0188】
この白金ナノクラスターの作製方法については、前記特許文献1、2に記載があるので、簡単に説明する。
【0189】
白金ナノクラスターを作製する場合には、前記
図2に示すように、まず、液体窒素温度に冷却された第2不活性ガスを、ナノクラスター成長セル13内に導入した状態で、スパッタ源15に第1不活性ガスを供給するとともに、スパッタ源用のパルス電源21からパルス電力を供給する。
【0190】
パルス電力が供給されると、白金のターゲット(即ち、Ptターゲット)31から第2不活性ガス中に、ターゲット31由来の中性原子及びイオン等のスパッタ粒子(即ち、白金の粒子)が多数、集団として放出される。
【0191】
この集団は、スパッタ源15に印加されるパルス電力の繰り返し周波数の間隔で放出されて、第2不活性ガスの流れに沿って移動する。この時、集団を構成する中性の原子及びイオン等のスパッタ粒子は、第2不活性ガス中において互いに結合して種々のサイズのナノクラスターが生成される。このようにして、触媒である白金ナノクラスターが合成される。
【0192】
生成された白金ナノクラスターは、ナノクラスター成長セル13のナノクラスター取り出し口37から、下方の担持部5側に放出される。
【0193】
c)触媒の担持
次に、触媒である白金ナノクラスターを担体に担持させる方法について説明する。
【0194】
つまり、気相にて白金ナノクラスターを担体に担持させる方法である気相法(即ち、ドライプロセス)について説明する。
【0195】
前記
図1に示すように、まず、担体製造部7にて担体であるマリモカーボンを作製した後に、第2ゲートバルブ73を開ける。
【0196】
次に、トランスファーロッド45を伸ばして、パイプ61内から合成セル51の内筒を引き出し、合成セル回転機構47内に配置する。
【0197】
次に、合成セル回転機構47を例えば矢印B方向に回転させて、内筒内のマリモカーボンを、回転バレル41内に供給する。なお、内筒の軸方向の端部には、その軸中心に外径より小径の開口が設けられているので、内筒が傾けられると、その開口からマリモカーボンが落下して、回転バレル41内に供給される。
【0198】
このとき、担持部5の内部の温度は所定の温度、例えば0℃~80℃の範囲の例えば25℃に設定されている。また、担持部5の内部は、ナノクラスター製造部3の内部と同様な真空状態に保たれている。さらに、回転バレル41は、所定の回転速度、例えば1rpm~100rpmの範囲の例えば20rpmで回転している。
【0199】
なお、合成セル51内にて製造されるマリモカーボンの量は、予め実験等によって分かっているので、回転バレル41内に供給されるマリモカーボンの量も分かっている。
【0200】
なお、その後、合成セル回転機構47を逆方向に回転させて、合成セル回転機構47内の合成セル51を、トランスファーロッド45によって、所定の待避位置(例えばパイプ61内)に待避させる。
【0201】
次に、ナノクラスター製造部3にて、上述したようにして白金ナノクラスターを作製し、その白金ナノクラスターを、ナノクラスター取り出し口37から、下方の回転バレル41内に供給する。
【0202】
なお、ナノクラスター製造部3にて作製される白金ナノクラスターの量は、予め実験等によって分かっているので、所望の量の白金ナノクラスターを回転バレル41に供給した後に、例えばナノクラスター製造部3の動作を停止させる等によって、白金ナノクラスターの供給を停止する。
【0203】
回転バレル41は、所定の時間回転した後に停止させる。なお、回転時間は、予めどれだけ回転させた場合にどのようなまぶした状態(従って担持状態)になるかは、実験等によって分かっているので、所望の担持状態になった場合に、回転バレル41を停止させる。
【0204】
このようにして、マリモカーボンに白金ナノクラスターを担持させる。従って、このようにして、マリモカーボンに白金ナノクラスターが担持された担持体が得られる。
【0205】
この担持体を、
図5Bに拡大して模式的に示すが、マリモカーボンのカーボンナノフィラメント(CNF)に、同様なサイズの白金ナノクラスターが分散して担持されていることが分かる。
【0206】
なお、
図5Cに更に拡大して模式的に示すように、マリモカーボンのカーボンナノフィラメンは、グラフェンシートがカーボンナノフィラメントの長手方向に積層した構造を有しており、そのグラフェンシートの外周の端部(エッジ)に、白金ナノクラスターが付着している。詳しくは、複数のエッジにわたって白金ナノクラスターが付着している。
【0207】
d)スラリーの作製
次に、スラリーの作製方法について説明する。
【0208】
なお、スラリーを作製する場合には、担持部5の内部を嫌気状態とする。例えば、前記真空状態や、Ar雰囲気、N2雰囲気とする。
【0209】
図1に示すように、回転バレル41によって製造された担持体のスラリーを作製するために、分散媒滴下機構49から、担持体が入っており且つ回転している回転バレル41に対して、液体(即ち、分散媒)を供給する。なお、液体としては、例えば、ポリエチレングリコール、イオン液体等が挙げられる。
【0210】
なお、分散媒滴下機構49を設けなくてもよい。この場合は、スラリーを作製する前に、予め回転バレル41に液体を供給しておけばよい。
【0211】
具体的には、開閉部49cを開いて、タンク49aから、開口49dを介して、回転バレル41内に液体を滴下する。なお、供給する液体の量は、担持体の量や、作製するスラリーの粘度等に応じて設定することができる。
【0212】
そして、回転バレル41は、所定の時間回転した後に停止させる。なお、回転時間は、予めどれだけ回転させた場合にどのようなスラリーの状態になるかは、予め実験等によって分かっているので、所望のスラリーの状態になった場合に、回転バレル41を停止させる。
【0213】
これによって、所望のスラリーが得られる。
【0214】
なお、このスラリー(即ち、触媒インク)を用いて、周知の方法によって、例えば、燃料電池の電極を製造することができる。
【0215】
[1-3.実施例]
次に、実施例について説明する。
【0216】
<マリモカーボンの合成>
担体のマリモカーボンを、5wt%Ni/酸化ダイヤモンドを触媒として、メタン(CH4)の熱化学的気相堆積法により合成した。
【0217】
具体的には、まず、湿式含浸法により酸化ダイヤモンド表面にNi粒子を担持したNi/酸化ダイヤモンド触媒微粒子を準備した。
【0218】
次に、Ni/酸化ダイヤモンド触媒微粒子を、流通式反応器(即ち、合成セル)に収容し、空気中の酸素や窒素を取り除くため、合成セル内のArパージを行った。続いて、Arガスを30mL/minで供給しながら、合成セル内を773K~973Kまで昇温した。供給ガスをArからCH4に変え、30mL/minの速さで供給し、合成セル内でCH4を分解した。この分解によって得られた炭素によって、カーボンナノフィラメント(CNF)を生成させて、マリモカーボンを得た。
【0219】
なお、各回、50mgのNi/酸化ダイヤモンド触媒微粒子を用いて、合計2g規模のマリモカーボンを複数回の実施により合成した(各実施5時間)。
【0220】
製造されたマリモカーボンは、ガラス製の容器(直径90mmφ)に収容した。なお、ここでは、回転バレルではなく、磁気スターラーを入れた容器に収容した。
【0221】
<白金ナノクラスターの気相合成>
白金ナノクラスターの気相合成は、上述したナノクラスター生成装置を用いて行った。
なお、白金ナノクラスターをPtナノクラスターと記すことがある。
【0222】
具体的には、Ptナノクラスターを、調整パルス電源(Zpulser LLC, AXIA-3X)により電力供給される、大電力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)に基づく高出力ナノクラスター源と、ガス流通反応器との組み合わせによって生成した。
【0223】
詳しくは、ディスク状のPtターゲット(直径50.8mmφ、99.99%純度)を、マグネトロンスパッタリングカソード(Angstrom Sciences Inc., ONYX-MAGII)として用いて、液体窒素により冷却されるナノクラスター成長セル内でスパッタした。
【0224】
また、Ptターゲットの近傍において、Arガス(99.9995%純度)をスパッタ率を高めるように導入し、原子状のPtニュートラル及びイオンを、HiPIMSを含むマグネトロンスパッタリングによって生成した。
【0225】
放電のピークパワー及びスパッタ繰り返し率は、0.2kW~0.3kW及び110Hzにそれぞれ制御した。生成した原子状Pt種は、Heガス(99.9998%純度)のバッファーガス冷却により、Ptナノクラスターに成長した。
【0226】
ArガスとHeガスの流量は、個別のマスフローコントローラにより、5Pa~20Paのセル内圧力を維持するように制御された。例えば、ArガスとHeガスの流量は、110sccm~200sccmに制御された。
【0227】
生成されたPtナノクラスターイオン及びニュートラルは、ナノクラスター生成装置の下部の開口(直径12mmφ)であるナノクラスター取り出し口を通して、容器の配置された真空チャンバー(即ち、担持部の内部)へ供給された。
【0228】
なお、真空チャンバーは、ターボ分子ポンプによって、高スループット(2300L/s)で真空引きされ、運転中、0.1Pa未満の圧力に維持された。
【0229】
<マリモカーボン上へのPtナノクラスターの堆積>
作製されたマリモカーボンの粉(2500mg)を容器に入れたものを、開口の100mm下方に置き、その開口から、ナノクラスター生成装置にて生成されたPtナノクラスターを供給した。
【0230】
そして、磁石式スターラーを用いて、Ptナノクラスターとマリモカーボンの粉とを、やさしく混ぜながら(回転数:80rpm~90rpm)、マリモカーボンの表面にPtナノクラスターを分散させて付着させた(即ち、まぶした)。
【0231】
このような混合する処理を、50時間実施した後に、マリモカーボンの表面にPtナノクラスターを付着させた担持体(即ち、PtNC-MC粉)を得た。
【0232】
[1-4.効果]
上記第1実施形態では、以下の効果を得ることができる。
【0233】
本第1実施形態では、気相において、回転バレル41を用いて、多数のマリモカーボンを転動させるとともに当該各マリモカーボンに多数のPtナノクラスターをまぶすことにより、マリモカーボンのカーボンナノフィラメントの表面に、大きさの揃った多数のPtナノクラスターを適度に分散して担持させることができる。
【0234】
具体的には、上述した担持体の製造装置1にて、担持体を製造することにより、マリモカーボンに担持させるPtナノクラスターの大きさの状態を、容易に所望の状態とすることができる。例えば、寸法(サイズ)の揃ったPtナノクラスターを担持させることができる。また、マリモカーボンの表面に、ほぼ均一にPtナノクラスターを分布させて担持させることができる。
【0235】
このようして製造された担持体を、例えば燃料電池の担持体触媒に適用すると、例えば触媒の微粒子化等によって、燃料電池の性能が大きく向上する。また、触媒を容易に微粒子化できるので、触媒に使用される例えば白金の使用量を低減できるという効果がある。
【0236】
さらに、液相でPtナノクラスターをマリモカーボンに担持する場合に比べて、Ptナノクラスターの凝集を抑えるために用いられる配位子が残存しないので、触媒活性が低下しにくいという利点がある。また、Ptナノクラスターとマリモカーボンが直接接合しているので、Ptナノクラスターの分散性が保たれるため、触媒活性が低下しにくいという利点がある。
【0237】
[2.第2実施形態]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、以下では主として第1実施形態との相違点について説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0238】
本第2実施形態では、第1実施形態とは、主として、担持体を製造する構成が異なるので、異なる点を中心に説明する。
【0239】
[2-1.製造装置]
図6に示すように、本第2実施形態の担持体の製造装置101は、気相にて触媒であるPtナノクラスターを作製するナノクラスター製造部103と、気相にてナノクラスターを担体であるマリモカーボンに担持させる担持部105と、気相にて担体を作製する担体製造部107と、が一体に構成された装置である。
【0240】
なお、ナノクラスター製造部103と担持部105とは、筒状の真空容器109を共通の構成として一体に構成されているので、ナノクラスター製造部103及び担持部105を、複合装置111と称する。
【0241】
このうち、ナノクラスター製造部103と担持部105とを備えた複合装置111は、第1実施形態と同様であるので、その説明は簡略化する。
【0242】
つまり、第2実施形態では、第1実施形態と同様に、ナノクラスター製造部103の下方に、回転バレル113等を備えており、さらに、回転バレル113に液体を供給する分散媒滴下機構115や、マリモカーボンの活性化を行う活性化機構116や、ナノクラスターを検出するイオン検出装置117等を備えている。
【0243】
特に本第2実施形態では、担体製造部107の構成が、第1実施形態とは異なっており、流動床を用いて、担体であるマリモカーボンを製造する。
【0244】
この担体製造部107は、例えば前記特許文献3に記載の装置と同様な構成である。
【0245】
具体的には、本第2実施形態では、担体製造部107は、上下方向に延びるとともに、下端が担持部105の内部に挿入されたパイプ119と、パイプ119内に設けられるとともに、ダイヤモンド触媒微粒子が入れられた反応槽121と、反応槽121の下部に設けられた炭化水素からなるガスを導入するガス供給部123と、反応槽121の上部に設けられたガスを排出するガス排出部125と、反応槽121を取り囲んで配設されたヒータ127と、ダイヤモンド触媒微粒子は通過させず、ガスは通過させるフィルタ129とを備えている。
【0246】
また、パイプ119のうち、ガス供給部123より上方には、パイプ119を開閉する第1ゲートバルブ131が配置されて、ガス排出部125より下方にも、パイプ119を開閉する第2ゲートバルブ133が配置されている。
【0247】
なお、炭化水素からなるガスに、反応補助ガスや希釈ガスを混合するようにしてもよい。
【0248】
[2-2.製造方法]
この担体製造部107を用いてマリモカーボンを製造するには、以下のように行う。
【0249】
表面が酸化されたダイヤモンド微粒子の表面に、遷移金属触媒が担持されたダイヤモンド触媒微粒子を、フィルタ129上に配置する。
【0250】
次に、第1、第2ゲートバルブ131、133を閉じた状態で、炭化水素からなるガスをガス供給部123から所定の流量で導入すると共に、ガス排出部125から排出する。
【0251】
ガスの所定の流量は、ダイヤモンド触媒微粒子が反応槽121中で浮遊し且つ撹拌される状態となる流量であり、反応槽121が溶融石英製であれば、肉眼でその状態を確認することにより流量を設定する。
【0252】
例えば、ダイヤモンド触媒微粒子が、反応槽121中で浮遊し且つ撹拌されることにより、ガス排出部125より飛び出さない程度の流量であれば好ましい。
【0253】
ダイヤモンド触媒微粒子の粒径は、500nm以下であれば良く、大きすぎると浮遊し難くなる。温度は、触媒としてNi、Cr、又は、Pd、及び炭化水素ガスとしてメタンを用いた場合には、400℃から600℃の範囲が好ましい。また、所定の温度で浮遊させ且つ撹拌させる時間に比例して、生成するマリモカーボンの粒径が大きくなるので、使用目的に応じて反応時間を設定すればよい。
【0254】
遷移金属としてNi又はCoを選択すれば、マリモカーボンを構成するナノ炭素材料はカーボンナノフィラメント(CNF)となり、Pdを選択すれば、マリモカーボンを構成するナノ炭素材料はコイン積層型カーボンナノグラファイトとなるので、使用目的に応じて遷移金属を選択すればよい。
【0255】
この方法によれば、ダイヤモンド触媒微粒子が反応槽121中で浮遊し且つ撹拌されるので、ダイヤモンド触媒微粒子の全表面に亘って触媒反応が均等に起こり、その結果、ダイヤモンド触媒微粒子の全表面に亘って長さの等しいナノ炭素材料が放射状に成長し、マリモ状の微粒子が得られる。
【0256】
次に、担体製造部107にて、マリモカーボンが製造された場合には、第2ゲートバルブ133を開いて、パイプ119の先端から、マリモカーボンを回転バレル113内に供給すればよい。
【0257】
なお、反応槽121にて製造されるマリモカーボンの量は予め分かっているので、回転バレル113に供給するマリモカーボンの量も設定することができる。
【0258】
本第2実施形態は、第1実施形態と同様な効果を奏する。しかも、本第2実施形態では、流動床を用いてマリモカーボンを製造するので、上述したように、ダイヤモンド触媒微粒子の全表面に亘って長さの等しいナノ炭素材料が放射状に成長した、マリモ状の微粒子が得られるという顕著な効果を奏する。
【0259】
[3.実験例1](サイズを調べた実験例)
まず、実験に用いる各種の担持体を、前記実施例と同様な製造方法で製造した。
【0260】
具体的には、白金触媒を構成する白金の粒子(即ち、Ptナノクラスター)を4.5wt%担持させたマリモカーボンである担持体A(気相Pt/MC(4.5wt%))を作製した。なお、マリモカーボンの粒子径は50μm~100μmであり、構成している繊維状カーボンナノフィラメントの直径は10nm~100nmである。
【0261】
また、これとは別に、前記複合装置を用いて、カーボンブラック(例えば市販のケッチェンブラック)を回転バレル内に配置して、Ptナノクラスターを8.4wt%担持させたカーボンブラックである担持体B(気相Pt/KB)を作製した。なお、カーボンブラックの粒子径は3nm~500nmである。
【0262】
さらに、比較例として、例えば、含浸法や化学還元法のような従来法により、液相によってマリモカーボンにPtナノクラスターを9.1wt%担持した担持体C(液相Pt/MC)を作製した。なお、マリモカーボンの粒子径は50μm~100μmであり、構成している繊維状カーボンナノフィラメントの直径は10nm~100nmである。
【0263】
同様に、液相によってカーボンブラック(例えばケッチェンブラック)にPtナノクラスターを8.3wt%担持した担持体D(液相Pt/KB)を作製した。なお、カーボンブラックの粒子径は3nm~500nmである。
【0264】
次に、各担持体A~Dを、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影して、各担体に多数のPtナノクラスターが担持された担持体の画像を得た。なお、倍率は100000倍程度とした。
【0265】
この画像を用いて、各担持体A~Dにおいて、それぞれ多数(例えば1500個)のPtナノクラスターをランダムに選択し、それらのPtナノクラスターについて、その大きさ(サイズ)を求めた。
【0266】
そして、各Ptナノクラスターをサイズ毎に区分して、
図7A、
図7B、
図8A、
図8Bに示すヒストグラムを作製した。なお、各図において、縦軸はPtナノクラスターの個数の割合を示し、横軸はPtナノクラスターのサイズを示している。なお、各図において、粒径の後の数字は、「平均粒径(d)±標準偏差(σ)」を示している。また、d+3σは、全体の約99.7%の区間の上限を示している。なお、平均粒径とは、Ptナノクラスターの粒子径の平均値である。
【0267】
この
図7A、
図7B、
図8A、
図8Bから、Ptナノクラスターは液相より気相にて作製する方が、サイズが小さくなることが分かる。つまり、本開示の担持体A、Bは、比較例の担持体C、Dに比べて、Ptナノクラスターの粒成長や凝集が抑えられたことが分かる。
【0268】
[4.実験例2](扁平率を調べた実験例)
本実験例2では、前記実験例1の担持体A~Dを用いた。
【0269】
そして、実験例1と同様に、各担持体A~Dを、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影して、各担体に多数のPtナノクラスターが担持された担持体の画像を得た。なお、倍率は100000倍程度とした。
【0270】
この画像を用いて、各担持体A~Dにおいて、それぞれ
図9A~
図9Cに示す正面部と側面部にある多数(例えば正面部1300個、側面部200個、合計1500個)のPtナノクラスターについて、その扁平率を求めた。
【0271】
なお、「正面部」とは、例えば
図9Aに示した担持体平面図(即ち、担持体の観察方向から見た図)において内側の範囲を示し、「側面部」とは、前記担持体平面図において外側(即ち、正面部より外周側)の範囲を示している。即ち、正面部のPtナノクラスターは、担体の正面部に担持されており、側面部のPtナノクラスターは、担体の側面部に担持されている。
【0272】
なお、観察方向とは、前記電子顕微鏡の画像に対して垂直の方向であり、
図9Bででは、マリモカーボンのCNFの伸びる方向(紙面に垂直の軸線方向)に対して垂直の方向(同図の上下方向)を示している。
【0273】
なお、扁平率は、(最大径-最小径)/最大径である。
【0274】
【0275】
また、
図10A、
図10B、
図11A、
図11Bにおいては、担持体の内部を
図9A~
図9Cに示すように2つの領域(即ち、正面部と側面部)に区分し、正面部の扁平率を「扁平率(正面)」で示し、側面部の扁平率を「扁平率(側面)」で示す。このとき、「扁平率(側面)」は、粒子(即ち、Ptナノクラスター)の担体面方向(即ち、面に沿った方向)の長さに対する、厚み方向(即ち、担体の表面からの高さ方向)のつぶれ具合を示しており、「扁平率(正面)」は、粒子の担体面方向における長径と短径とに基づいている。
【0276】
本実験例2では、2つの領域は、前記透過型電子顕微鏡の画像において、担体の最外部(即ち、外周の部分)から粒子(即ち、Ptナノクラスター)の平均粒径の約2.5倍分(例えば2倍分)内側までを側面部とし、それより内側を正面部として区分した(
図9A、
図9B、
図9C参照)。ここで、平均粒径は、前記透過型電子顕微鏡の画像におけるPtナノクラスター自身の画像から求めたものである。なお、正面部と側面部との境界に位置するPtナノクラスターについては、内側として測定した。また、
図9Cにおける正面部と側面部との境界は概略の位置を示している。なお、
図9Cでは、正面部を側面部より濃い灰色で示している。
【0277】
【0278】
この
図10A、
図10B、
図11A、
図11Bから、気相でマリモカーボンに担持したPtナノクラスターは、その他の担持体におけるPtナノクラスターよりも、厚み方向が担体面方向に比べて小さめになっていることが分かる。つまり、本開示の担持体Aは、その他の担持体に比べて、白金触媒の厚さが薄めになり、より強固に付着できることが分かる。
【0279】
[5.実験例3](エッジ数を調べた実験例)
本実験例3では、前記実験例1の担持体A、Cを用いた。
【0280】
そして、実験例1と同様に、各担持体A、Cを、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影して、各担体に多数のPtナノクラスターが担持された担持体の画像を得た。なお、倍率は100000倍程度とした。
【0281】
この画像を用いて、各担持体A、Cにおいて、それぞれランダムに選択した多数(例えば100個~500個の範囲内の例えば100個)のPtナノクラスターについて、それぞれグラフェンシートのいくつのエッジにまたがって付着しているか(即ち、エッジ数)を求めた。
【0282】
そして、各Ptナノクラスターをエッジ数毎に区分して、
図12、
図13に示すヒストグラムを作製した。なお、各図において、縦軸はPtナノクラスターの個数の割合を示し、横軸はエッジ数を示している。
【0283】
なお、
図12、
図13において、平均の後の数字は、「エッジ数の平均値(d)±標準偏差(σ)」を示している。
【0284】
この
図12、
図13から、Ptナノクラスターは液相より気相にて作製する方が、またがっているエッジ数が少なくなることが分かる。つまり、本開示の担持体Aは、比較例の担持体Cに比べて、Ptナノクラスターのサイズ分布が小さいことから、またがっているエッジ数はサイズ分布とも相関関係があることが分かる。
【0285】
[6.実験例4](触媒の効果の実験例)
本実験例4は、本開示の製造方法によって製造された担持体を、燃料電池に用いた場合の効果を調べたものである。
【0286】
<膜電極アッセンブリの作製>
燃料電池のセル性能を測定する際に用いるMEAを作製するために、まず、前記実施例と同様な方法によって、マリモカーボンに担持された(触媒である)Ptナノクラスターを作製した。なお、MEAとは、Membrane-Electrode-Assemblyの略である。
【0287】
詳しくは、触媒を8.4wt%担持させたマリモカーボン(気相Pt/MC(8.4wt%))である担持体Eを作製した。
【0288】
また、これとは別に、前記実験例1と同様に、前記複合装置を用いて、Ptナノクラスターを担持する担体として、商業的に入手可能なケッチェンブラックのカーボンナノ材料を用いて、触媒を8.5wt%担持させた担持体F(気相Pt/KB(8.5wt%))を作製した。
【0289】
具体的には、触媒インクを作製するために、担持体E、Fを水中に懸濁させ、異なる量の希釈アイオノマー(5wt%ナフィオン)溶液を加えて、ナフィオンと担持体E、Fとのアイオノマー/カーボン重量比(I/C)が異なるものを作製した。
【0290】
なお、比較例として、前記実験例1と同様に、液相によってマリモカーボンにPtナノクラスターを6.1wt%担持した担持体G(液相Pt/MC)と、液相によってカーボンブラック(例えばケッチェンブラック)にPtナノクラスターを8.7wt%担持した担持体H(液相Pt/KB)と、を作製し、その担持体G、Hを用いて前記と同様に触媒インクを作製した。
【0291】
これらの触媒インクを、それぞれ、面積が80mm×80mmの固体電解質膜(NRE212, Du Pont)の両側に噴霧し、面積が50mm×50mmのCCMを形成した。なお、CCMは、Catalyst Coated Membraneの略である。
【0292】
次に、各CCMを適切なホットプレス処理した(46kg/cm2、155℃、 5分)。
【0293】
最後に、各CCMを商業的に入手可能なガス拡散電極と接触させて、
図14に記載のようなMEAを作製した。なお、
図14では、MEAの厚み方向の一方の側の構成を示しているが、実際には両側に同様な構成を有している。つまり、MEAの厚み方向の一方の側にカソードを備え、他方の側にアノードを備えている。
【0294】
<PEFC用のセル性能計測>
次に、上述したようにして作製したMEAを用いて、燃料電池のセル性能を評価する方法について説明する。なお、ここでは、燃料電池として固体高分子型燃料電池(PEFC)について説明する。
【0295】
評価に用いる燃料電池のセルとしては、前記
図14に示す構造を有するMEAを備えたセルを用いた。なお、セルのアノードとカソードには、
図14に示すような触媒を担持した担持体を配置した。下記表1に、アノードとカソードとに用いる担持体を示す。また、表1には、各担持体と
図15A~
図15Cのグラフの記号との関係も記載した。
【0296】
【0297】
そして、評価に用いる各試料(即ち、燃料電池のセル)に対してIーV計測及びI-W計測を実施した。
【0298】
具体的には、I-V計測及びI-W計測は、80℃のセル温度で行った。セルのアノードに、加湿水素ガス(200mLmin-1、80℃で100%RH)を供給し、セルのカソードに、加湿空気(200mLmin-1、 70℃で100%RH)を供給した。
【0299】
そして、そのときの、アノードとカソードとの間に流れる電流の密度(電流密度)と、アノードとカソードとの間の電圧(セル電圧)との関係を調べた。その結果を、
図15A及び
図15Bに記す。なお、
図15A及び
図15Bは、同じ試料に対して2回実験を行った結果である。
【0300】
この
図15A及び
図15Bから、高電流密度領域において、担持体Eのセル電圧が最も高くなったことが分かる。つまり、本開示の担持体が優れた性能を有することが分かる。
【0301】
同様に、電流密度とセルの電力密度との関係を調べた、その結果を、
図15Cに記す。
【0302】
この
図15Cから、高電流密度領域において、担持体Eの電力出力密度が最も高くなったことが分かる。つまり、本開示の担持体が優れた性能を有することが分かる。
【0303】
[7.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0304】
(7a)担体に担持されるナノクラスターの材料としては、白金以外に、各種の材料を採用できる。
【0305】
例えば、燃料電池等の触媒として機能する物質が挙げられる。
【0306】
金属としては、白金などの貴金属、コバルトなどの遷移金属、マグネシウムなどの典型金属が挙げられる。例えば、Pt、Ru、Rh、Pd、Irなどの白金族金属、Cu、Fe、Ni、Co、V、Mnなどの遷移金属が挙げられる。
【0307】
合金としては、白金-コバルトなどの貴金属と遷移金属との合金、白金-マグネシウムなどの貴金属と典型金属との合金が挙げられる。例えば、Pt-Co、Pt-Ru、Pt-Rh、Pt-Pd、Pt-Irのような白金と白金族との組み合わせ、Pt-Cu、Pt-Ni、Pt-Coのような白金と遷移金属との組み合わせ、Pd-Niのような白金族と遷移金属との組み合わせなどによる、合金が挙げられる。
【0308】
化合物としては、炭素-窒素、シリコン-炭素などの化合物が挙げられる。例えば、FeSe、Cu2(Ge,Sn)S3のような金属-カルコゲナイド化合物が挙げられる。
【0309】
(7b)担体としては、マリモカーボンやカーボンブラックに限定されず、各種の担体を採用できる。例えば、カーボンナノチューブやグラッシーカーボンを採用できる。
【0310】
(7c)担体を構成する物質としては、炭素や酸化物や窒化物や炭化物や硫化物などが挙げられる。例えば、アルミナ、酸化チタン、シリカ、マグネシア、炭化ケイ素、チタン酸窒化物、チタン酸ストロンチウムなどが挙げられる。
【0311】
酸化物としては、酸化鉄などの金属酸化物が挙げられる。例えば、TiO2、TiO、ZrO2、ZrOのような遷移金属酸化物、LiFeO2、Li3MnO3、LiCoO2のようなLi-遷移金属酸化物、SiO、SiO2などが挙げられる。
【0312】
窒化物としては、窒化鉄などの金属窒化物が挙げられる。例えば、Li3N、Li7MnN4、Li3FeN2、Li-遷移金属窒化物などが挙げられる。
【0313】
炭化物としては、例えば、WC、MoCなどが挙げられる。
【0314】
硫化物としては、例えば、Li2S、MoS2Li10、GeP2S12、Li7P3S11などが挙げられる。
【0315】
(7d)触媒を担体に担持した担持体は、燃料電池以外に、例えば、ガスセンサー、排ガス触媒、化学合成品製造等に用いることができる。
【0316】
例えば、本開示の技術を用いて担体に金属を担持した担持体は、水電解の触媒としても適用することができる。その場合、担持する金属としては、白金などの貴金属、銅などの遷移金属、スズなどの典型金属が挙げられる。例えば、Pt、Ru、Ir、Au、Agなどの貴金属、Cu、Ni、Co、Wなどの遷移金属が挙げられる。
【0317】
(7e)担持体としては、触媒以外のナノクラスターを担体に担持した担持体が挙げられる。このような担持体は、例えば、光増感剤、磁気応答材料、メモリー材料等に用いることができる。
【0318】
(7f)気相にて多数の担体を転動させるとともに当該各担体に多数のナノクラスターをまぶす方法としては、回転バレル内に多数の担体を収容して回転バレルを回転させるとともに回転バレル内に多数のナノクラスターを供給する方法以外に、各種の方法を採用できる。例えば、回転バレル内に磁石式スターラーを配置して磁石式スターラーを回転させた状態でナノクラスターを供給してもよい。また、回転バレルを回転させる以外に、回転バレル等の容器を振動させたり、揺動させてもよい。
【0319】
(7g)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。