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特許7545146悪性腫瘍のホウ素中性子捕捉療法のための複合体の製造方法の実施形態
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  • 特許-悪性腫瘍のホウ素中性子捕捉療法のための複合体の製造方法の実施形態 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】悪性腫瘍のホウ素中性子捕捉療法のための複合体の製造方法の実施形態
(51)【国際特許分類】
   A61K 41/00 20200101AFI20240828BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20240828BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240828BHJP
   A61K 33/22 20060101ALI20240828BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20240828BHJP
   C01B 35/00 20060101ALI20240828BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240828BHJP
【FI】
A61K41/00
B01J13/00 B
A61P35/00
A61K33/22
A61K9/16
C01B35/00
B82Y40/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021572606
(86)(22)【出願日】2020-04-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-12
(86)【国際出願番号】 RU2020000177
(87)【国際公開番号】W WO2020246913
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】2019117707
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】517305403
【氏名又は名称】マルティネックス インターナショナル リサーチ アンド ディベロップメント センター(アーノ “マニシット マルティネックス”)
(73)【特許権者】
【識別番号】521533603
【氏名又は名称】バッカー インスティチュート オブ ニュークリアー フィジクス オブ シベリアン ブランチ オブ ロシアン アカデミー オブ サイエンシズ (ビーアイエヌピー エスビー ラス)
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ウプセンスキー セルゲイ アレクセイビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ハプタハノヴァ ポリーナ アナートリエビナ
(72)【発明者】
【氏名】ザボロノク アレクサンドル アナートリエビッチ
(72)【発明者】
【氏名】カーキン ティホン セルゲイビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ゼレネツキー アレクサンドル ニコライビッチ
(72)【発明者】
【氏名】セルヤニン ミハイル アナートリエビッチ
(72)【発明者】
【氏名】タスカエフ セルゲイ ユーリエビッチ
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0256213(US,A1)
【文献】特開2008-266126(JP,A)
【文献】特開2011-074485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C01B
B82Y
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素状ホウ素粉末を水に加え、0.5~800分間、振動強度1~1000 W/cm3および出力電力100 W以上の超音波処理を行い、超音波処理前または超音波処理中に、酸化係数が+1の水溶性無機金属塩またはそのような塩の混合物を添加し、前記酸化係数が+1の水溶性無機金属塩として、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、または亜硫酸塩を使用することを特徴とする、100 nm未満のホウ素ナノ粒子を含む悪性腫瘍のホウ素中性子捕捉療法のための複合体の製造方法。
【請求項2】
前記酸化係数が+1の水溶性無機金属塩として、ナトリウム、カリウム、またはリチウムの金属塩化物を使用することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
得られた複合体に安定剤を配置し、前記安定剤として、クエン酸塩または酢酸塩、または多糖、または血漿タンパク質、または植物由来のタンパク質、または脂肪酸、またはプルロニック(登録商標)、またはポリビニルアルコール、または多価アルコール、またはポリエチレングリコール、または合成ポリアミノ酸、またはE400~E499の添加剤を使用することを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ホウ素と前記水溶性無機金属塩(または前記塩の混合物)の重量比が1:0.01~1:30の範囲にあることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
アモルファスホウ素粉末または粗結晶ホウ素粉末または微結晶ホウ素粉末またはそれらの混合物を元素ホウ素粉末として使用することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項6】
元素状ホウ素粉末を水に加え、30~300分間、振動強度1~1000 W / cm3および出力電力100 W以上の超音波処理を行った後、複合体の総体積50 vol%を占める上位部分を取り出し、取り出した部分に250~300分間、振動強度1~1000 W / cm3および出力電力100 W以上の超音波処理を行い、超音波処理前または超音波処理中に、酸化係数が+1の水溶性無機金属塩またはそのような塩の混合物を添加し、前記酸化係数が+1の水溶性無機金属塩として、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、または亜硫酸塩を使用することを特徴とする、100 nm未満のホウ素ナノ粒子を含む悪性腫瘍のホウ素中性子捕捉療法のための複合体の製造方法。
【請求項7】
前記酸化係数が+1の水溶性無機金属塩として、ナトリウム、カリウム、またはリチウムの金属塩化物を使用することを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
得られた複合体に安定剤を配置し、前記安定剤として、クエン酸塩または酢酸塩、または多糖、または血漿タンパク質、または植物由来のタンパク質、または脂肪酸、またはプルロニック(登録商標)、またはポリビニルアルコール、または多価アルコール、またはポリエチレングリコール、または合成ポリアミノ酸、またはE400~E499の添加剤を使用することを特徴とする、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
ホウ素と前記水溶性無機金属塩(または前記塩の混合物)の重量比が1:0.01~1:30の範囲にあることを特徴とする、請求項6または7記載の方法。
【請求項10】
アモルファスホウ素粉末または粗結晶ホウ素粉末または微結晶ホウ素粉末またはそれらの混合物を元素ホウ素粉末として使用することを特徴とする、請求項6の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明群は、医療技術分野、とりわけホウ素中性子捕捉療法によるがん治療のための標的薬の製造分野に関するものであり、元素状ホウ素のナノ粒子を含む複合体の製造方法の実施形態を提供するものである。
【0002】
[背景技術]
現在、がん治療はグローバルな問題となっている。難治性脳腫瘍などの悪性腫瘍の治療法として期待されているのは、中性子捕捉療法というアプローチであり、特にがん細胞を選択的に破壊する効果が極めて魅力的である。
【0003】
従来の中性子捕捉療法の原理は、以下のとおりである。ホウ素の安定同位体であるホウ素10(10B)をはじめとする一部の原子核は、すべての生細胞を構成する生体分子に含まれる炭素、水素、酸素や窒素の原子に比べ、熱中性子/熱外中性子捕獲断面積が桁違いに大きくなっている。このため、ホウ素10(10B)含有物質を腫瘍に選択的に集積させ、熱中性子/熱外中性子束を照射すると、腫瘍細胞が集中的に破壊され、周辺の正常細胞に対するダメージは最小限に抑えられる。この方法は放射線治療においてホウ素中性子捕捉療法(Boron neutron capture therapy, 以下BNCT)と名付けられた。
【0004】
10B の原子核による中性子の捕獲は、ただちに不安定なホウ素11の同位体(11B)を生成する核反応を起こし、11Bの崩壊はα粒子とリチウム原子核という高エネルギーの核分裂生成物の生成につながる。これらの粒子は減速度が高く、水中や体内での飛程が5-10 μmと短い。この飛程は哺乳類の一般的な細胞の大きさに相当する。10Bの核反応エネルギーの大部分の放出は、1つの細胞の大きさによって制限される。このように、悪性細胞におけるホウ素10の選択的集積とその後の中性子照射により、腫瘍細胞が崩壊され、周辺の正常細胞への影響は比較的少なくなる。
【0005】
BNCTの最も重要な課題の一つは、患部組織における有効治療濃度となる、腫瘍1.0 gあたり20.0~35.0 μgものホウ素を含む標的薬の開発である。(これは、約100億個分の10B原子に相当する。)実際のところ、既存のBNCTで使用されるホウ素化合物であるパラボロノフェニルアラニン(BPA)とメルカプトドデカボレートナトリウム(Na2B12H11SH)は、ホウ素の原子をそれぞれ1個と12個含んでいる。また、最新のホウ素含有分子は多面体ホウ素10ヒドリドであり、これらの化合物におけるホウ素の最大原子数は~26である。BNCTの有効性を高めるためには、ホウ素化合物における標的原子の数を増やす必要がある。
【0006】
BNCTの標的薬として元素状ホウ素のナノ粒子を使うことにより、治療薬の有効性を顕著に上げることが可能となる。ナノ粒子の直径が3 nmの場合、ホウ素の原子数は約1万2千個になり、粒子径50 nmの場合は約200万個にもなる。
【0007】
現在、化学気相成長(chemical vapor deposition、以下CVD)法によるナノ粒子を作製する方法が知られている。CVD法とは、不活性低圧ガス雰囲気下の温度制御された状態でホウ素原子を含む一つまたは複数の物質を蒸発させた後、冷たい表面の近くまたはその表面で蒸気が凝縮することにより、分散したナノ粒子が得られるプロセスのことである。元の物質の反応および(または)分解の結果、ホウ素原子が生成され、これらの原子は、不活性ガス雰囲気下で希ガス中の原子との衝突により運動エネルギーをより早く失い、偏析(クラスター)を形成する。
【0008】
CVD法の実施方法は多種多様である。各々の方法は、化学反応が起こされる方法や詳細なプロセスなどの面で大きく異なっている。例えば、蒸発方法として使われているは、電子ビーム、レーザー、プラズマなどによる方法、またはそれらの混合である。
【0009】
CVD法の主な利点は、このプロセスの規模および1段階性に加え、元素状ホウ素の98%に近い高収率と、99.6~99.9999%にも上る高度な純度である。
これに対し、CVD法のデメリットとして挙げられるのは、焼結プロセスの結果として、合成される元素状ホウ素の結晶性粉末にミクロンサイズの粒子が最も多く含まれている点である。ホウ素含有化合物は、溶液または懸濁液(固体粒子のサイズは50-70 nmを超えないことが好ましい)の形でシリンジで注入されるものとして使用する必要があるため、上記のような粉末はBNCT用の薬剤としては不向きである。
【0010】
現代産業の様々な技術的問題を解決するための新しいアプローチとなるのが、現代の超音波(US)技術である。Nano-Size社は、4.0±0.05 kWの出力を持つ超音波システムに基づき、ナノ粒子の製造のための音響化学反応器(US 20040256213 A1、23.12.2004)を開発した。ナノサイズの金属酸化物および水酸化物を作製するために、適切な溶媒に溶かした金属塩金属塩(通常は塩化物)の溶液を、アルカリ金属水酸化物などの塩基の存在下で高出力超音波に曝す必要がある。一般的な解決策として、0.6 W/cm3の超音波振動を発生させる10リットルの反応器が好ましい(さらに、著者らは、これに磁歪トランスデューサーが使われていることを強調している)。これらの条件下で、急速に爆発するキャビテーション気泡の内部に高活性ラジカルが生成され、ナノ粒子の核が形成される。このような音響化学反応の結果、1 molの金属塩の溶液から、最大で数百グラムの5~60 nm大のナノ製品が短時間(約3~6分)で合成される。
【0011】
このアプローチによってナノ粒子が得られる化合物の例は、FeO、Fe2O3、Fe3O4、NiO、Ni2O3、CuO、Cu2O、Ag2O、CoO、Со2O3などの水酸化物やFe(OH)3、Co(OH)3、NiO(OH) 、BaTiO3などの結晶水和物である。Fe、Co、Cu、Ag、Ni、Pdなどの金属ナノ粒子もこの既知の方法によって得ることができる。このような反応器は、化学反応を促進するための効果的な装置である。たとえば、比較的大量(1.0 mol)の金属塩または金属酸化物の金属粉末への変換は、5~10分以内に完了する。このような粉末は、5~100 nm大のナノスケールの金属または非金属の超微粒子で構成されている。
【0012】
US 20040256213 A1の文書により、金属ナノ粒子の形成は主に酸化還元反応の結果として行われている。その際の化学合成は、金属イオンの原子への還元に基づき、それに続き原子の凝集によりクラスターが形成される。クラスターの凝集は、金属ナノ粒子の形成につながる。クラスターの凝集体は、弱いファンデルワールス相互作用で結合され、不安定である。超音波分散は、凝集体の形成を一時的に防ぐ役割を果たし、元の金属クラスターへの破壊を促進する。
【0013】
超音波によってナノサイズのシリカ粉末を分散させる方法も知られている(特許RU 2508963、2014年3月10日)。この方法は、Tarkosil T05B06という商標の二酸化ケイ素ナノ粉末を液体に加え、23.0 kHzの共振周波数で音響キャビテーションモードの超音波振動に3分間曝すことを意味する。超音波ユニットの出力は0.63 kWで、平均ナノ粒子径は53 nmである。しかし、この方法はホウ素ナノ粒子を含む複合体の製造には適用できず、この方法で得られた複合体はホウ素中性子捕捉療法には適用できない。
【0014】
背景技術としては、2015年10月20日に公開されたRF特許第2565432号が知られている。これは、抗腫瘍剤を病的細胞へ送達するための担体として窒化ホウ素ナノ粒子を製造する方法を提案したものである。この方法は、反応ガスと輸送ガス、並びにアモルファスホウ素と試薬酸化剤からなる粉末混合物を使用するCVD法によって、外面が発達した50~300 nm大の球状窒化ホウ素ナノ粒子を合成することを特徴とする。その後、得られた窒化ホウ素ナノ粒子の凝集体を超音波処理によって分散させ、窒化ホウ素ナノ粒子を吸着法によって抗癌剤で飽和させ、ナノ粒子を蒸留水で洗浄する。窒化ホウ素のナノサイズの構造は、エンドサイトーシスによって腫瘍細胞に浸透し、治療物質を核周辺領域に直接放出する能力を持っている。この方法は、抗腫瘍薬を含むナノコンテナの細胞への吸収を活発化し、細胞に対するナノコンテナの毒性を防ぐことにより、抗腫瘍化学療法の有効性の向上を可能にする。
【0015】
提案された方法は、当初は窒化ホウ素ナノ粒子の作製を目指したものである。窒化ホウ素は、ホウ素と窒素の二元化合物(BN)である。窒化ホウ素ナノ粒子におけるホウ素含有量は、元素状ホウ素のみから構成されるナノ粒子の2分の1になっている。
【0016】
窒化ホウ素粒子は、酸化に耐性がある。窒化ホウ素は、700 oCを超える温度で酸素によって酸化され、耐薬品性があり、高温アルカリ溶液中で分解してアンモニアを放出する。窒化ホウ素ナノ粒子は人体から完全に排除されず、臓器や組織に蓄積することがある。窒化ホウ素粒子の表面の不活性な性質は、標的療法での使用を決定づける特性を付与することを目的とした、その表面のさらなる改造・機能化を困難にしている。
【0017】
[Tiago H. Ferreira et al., An assessment of the potential use of BNNTs for boron neutron capture therapy // Nanomaterials 2017, 7, 82; doi: 10.3390 / nano7040082]の研究では、悪性腫瘍の治療における窒化ホウ素ナノ粒子の有効性と基本的な適用性が示されている。熱中性子束は、大量のホウ素の内在化とともに、多数の細胞死の一因となる。しかし、著者らは、窒化ホウ素ナノ粒子への熱中性子反応の瞬間に、ホウ素10のみならず窒素14の同位体も活性化されることに言及していない。その結果、下記の反応に従って、高放射性炭素14の同位体の形成を伴う窒素の核変換が起こる。
【0018】
【数1】
【0019】
中性子の速度が遅いほど、核反応が起こる可能性が高くなる。炭素14の同位体は、0.158 MeVのエネルギーの開放とともに崩壊し、人体にとって危険なβ線を放射する。放射性炭素14は、放射性トレーサーとして医学で使用されている。しかし、最近では、14Cで標識した薬剤を使った検査を、放射線被ばくのリスクを伴わない、安定した13Cを用いた検査に置き換える努力がなされている。なお、炭素14の半減期は5730年である。
【0020】
元素状ホウ素のナノ粒子は、酸化することがある。例えば、ホウ素は過酸化水素と相互作用する。哺乳動物では、一部の酵素システム(キサンチンオキシダーゼ、NADPHオキシダーゼ、シクロオキシゲナーゼなど)によりスーパーオキシドが生成され、このスーパーオキシドは自発的に、またはスーパーオキシドジスムターゼの作用下で過酸化水素に変換される。
【0021】
ホウ素の酸化速度は、結晶化度、粒子サイズ、純度、および温度に依存する。ホウ素は酸化され、酸化物を形成する。酸化ホウ素は水と反応してホウ酸を形成するが、これは人体に比較的無害である。従って、ホウ素ナノ粒子は、こうした治療法につきまとうような副作用を恐れることなく、医学、とりわけがん治療に使用することができる。
【0022】
以上を踏まえると、BNCTにおいては、ホウ素元素ナノ粒子を含む複合体の使用が最も受け入れやすく、安全であるといえる。
また、背景技術において、100 nm未満のホウ素ナノ粒子を含む、悪性腫瘍のホウ素中性子捕捉療法のための複合体を製造できる既知の方法は存在しない。
【0023】
[発明の開示]
本発明群の目的は、100 nm未満のホウ素ナノ粒子を含む、悪性腫瘍のホウ素中性子捕捉療法のための複合体の製造方法の、環境に優しく、かつ斬新な実施形態を提供することである。
【0024】
本発明群の技術的成果は、安定したホウ素ナノ粒子の含有量が高い、悪性腫瘍のホウ素中性子捕捉療法のための複合体を製造することである。
この問題を解決し、技術的成果を達成するために、悪性腫瘍のホウ素中性子捕捉療法のための複合体を製造するための方法の実施形態を提案する。
【0025】
第1実施形態においては、100 nm未満のホウ素ナノ粒子を含む悪性腫瘍のホウ素中性子捕捉療法のための複合体を得る方法は、以下のステップから構成される。元素状ホウ素の粉末を水に入れ、0.5~800分にわたって強度1.0~1000.0 W/cm3および出力100.0 W以上の超音波処理を行う。
【0026】
第2実施形態においては、100 nm未満のホウ素ナノ粒子を含む悪性腫瘍のホウ素中性子捕捉療法用の複合体を得る方法は、以下のステップから構成される。元素状ホウ素の粉末を水に入れ、30~300分にわたって強度1.0~1000.0 W/cm3および出力100.0 W以上の超音波処理を行う。その後、複合体の総容積の50 vol%未満を占める上位部分の複合体を取り出し、取り出した部分に対し250~300分にわたり強度1.0~1000.0 W/cm3および出力100.0 W以上の超音波処理を行う。
【0027】
上記のいずれの実施形態においても、超音波処理前または超音波処理中に、酸化数が+1の水溶性無機金属塩またはそのような塩の混合物を複合体に添加することが可能である。また、酸化数が+1の水溶性無機金属塩として使用されるのは、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩であり、このうちナトリウム、カリウム、リチウムなどの金属の塩化物が最も好ましい。
【0028】
得られた複合体には、さらに安定剤を添加することができる。安定剤として使用できるのは、例えば、人体への注入に適した有機金属塩(例えば、クエン酸または酢酸塩)またはそれらの混合物および/または酸化数が+2以上の無機金属塩および/または以下のグループから選択された化合物である-血漿タンパク質、抗体、ホルモン、E400~E499の添加剤および/または薬局方に基づいた純度のそれらの基本物質、多糖、脂肪酸、植物性タンパク質、アミノ酸誘導体(1 -アミノ-3-シクロブタン-1-カルボン酸および1-アミノ-3-シクロペンタンカルボン酸の誘導体)、フェニルアラニン、線状および環状ペプチド、プリン、ピリミジン、チミジン、ヌクレオシドおよびヌクレオチド(3-カルボラニルチミジン類似体)、ポルフィリン、プルロニック(登録商標)、多価アルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、合成ポリアミノ酸。
【0029】
この他に安定剤として使用できるのは、酢酸またはクエン酸の塩またはエステルなどの酢酸塩またはクエン酸塩である(例えば、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、ルビジウム、ストロンチウム、イリジウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、金などの金属の酢酸塩またはクエン酸塩)。
【0030】
ホウ素と塩(または塩の混合物)の重量比は、1:0.01~1:30.0の範囲で変化する。
元素状ホウ素粉末として、いずれの実施形態においても、アモルファスホウ素粉末または粗結晶性ホウ素粉末または微結晶性ホウ素粉末またはそれらの混合物が使用される。
【0031】
[発明の実施形態]
ホウ素ナノ粒子を得る方法は、高強度の振動および100.0 Wを超える出力を備えた超音波装置の使用を想定している。技術プロセスを強化した際の液体媒体に対する超音波振動の機能は、元素状ホウ素の微粒子を含む液体媒体に直接超音波振動を印加し、キャビテーションの発生・維持のための条件整備を行うことによって実施される。キャビテーションは、エネルギー集中の効果的なメカニズムであり、主な破壊要因となる。キャビテーションは、標準大気圧および室温状況下、1.0~1000.0W/cm3の振動強度の範囲内で、強度が特定のしきい値を超えた瞬間に始まる。圧力、温度、曝露時間を変えた場合、キャビテーションはより低い強度で始まることがある。液体中の強力な音場は小さな蒸気気泡を生成し、蒸気気泡がこの音場の作用により増大・崩壊することがある。崩壊する気泡の総エネルギーは小さいですが、気泡の球状収束により、非常に高い局所的なエネルギー密度が生じ、その結果、5000~25000 Kの高温と100 MPaの圧力が生じる。このような負荷の影響下で、元の元素状ホウ素粉末の大きな結晶子が分散/破壊し、100 nm未満のナノサイズの粒子が形成される。ホウ素ナノ粒子の濃度とサイズは、液体複合体に対するキャビテーション効果の時間(0.5~800分)と超音波装置の出力(100 W以上)に依るものである。液体媒体中のホウ素ナノ粒子の濃度は、0.0001~30 wt%の範囲で変化する。
【0032】
複合体の成分の1つとして水(再蒸留水または蒸留水)を使用することは、この方法の主な利点の1つである。なぜなら、焼結粉末の形でのナノ粒子を作製する従来の方法と違って、BNCT用の薬剤が元素状ホウ素ナノ粒子の水分散液の形で提示されているからである。
【0033】
超音波処理により、水と相互作用する活性表面を持つホウ素ナノ粒子が形成される。筆者らは、キャビテーション後の粒子の正のξポテンシャルを特定した。元の特性を保持できる複合体の保存期限を延ばすには、得られた複合体を安定化する必要がある。これにより、長期間にわたって凝集が妨げられ、粒子の寸法特性が維持される。粒子の表面に電荷が存在することは、粒子がその表面の溶液からイオンを吸着することを可能にするため、粒子の機能化の前提条件となる。その結果、電位決定イオンと対イオンからなる吸着層と、残留対イオンを含む拡散層が形成される。
【0034】
ホウ素ナノ粒子の凝集安定性を高めるために、共粉砕に寄与し(液体流動の速度は400 km/hに達する、Mason 1989; Hielscher 2005)再分散成分として作用する、金属塩の存在下で超音波キャビテーション処理が行われる。高エネルギーの超音波処理とシステム内の再分散成分の存在は、元素状ホウ素構造の制御された破壊に寄与し、同時に新しい構造のマトリックス分離にも寄与する。これにより、コア部分がホウ素ナノ粒子であり、安定化シェルが例えばNa+とCl-である、新しい粒子またはミセルが形成される(図1参照)。
【0035】
ホウ素ナノ粒子の反応混合分散液には、少なくとも1つの安定剤を加えることができる。安定剤とは、凝集の程度を減らす、低分子量および/またはオリゴマー化合物(繰り返し単位の数nは10~100)、および高分子量化合物(n> 100)のことである。それによって、粒子合成の様々な段階で適用されうる、ホウ素ナノ粒子の安定化が実行される(キャビテーションの様々な段階での安定剤の添加、または得られた複合体への液体(液相)の形での投入)。粒子の安定化は、粒子表面への低分子量塩および/またはオリゴマー/ポリマーの受動吸着、またはそれらの溶液の高粘度性によって起こるものである。
【0036】
現在普及している、安定化の方法の一つは、粘度の高い溶液をもつオリゴマーおよび/または高分子量化合物の使用である。立体安定化と呼ばれるこの安定化の結果として、ナノ粒子は溶媒和ポリマー鎖の連続層である保護バリアに囲まれ、その結果、保護層が無傷である限り、コロイド分散系は無限に安定する。安定剤としてのオリゴマーおよび/またはポリマーの使用は、ホウ素ナノ粒子を含むコロイドの粘度の増加により、速度論的安定性の増加につながる。安定化のためのオリゴマーおよび/または高分子量化合物として使われるのが、生物由来の分子である(例えば、血漿タンパク質、抗体、ホルモンなど)。
【0037】
補助安定剤としては、例えば、E400~E499の添加剤および/または薬局方に基づいた純度のそれらの基本物質、多糖、脂肪酸、植物性タンパク質、アミノ酸誘導体(1 -アミノ-3-シクロブタン-1-カルボン酸および1-アミノ-3-シクロペンタンカルボン酸の誘導体)、線状および環状ペプチド、プリン、ピリミジン、チミジン、ヌクレオシドおよびヌクレオチド(3-カルボラニルチミジン類似体)、ポルフィリンなどが使われている。この他に、プルロニック(登録商標)、多価アルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、合成ポリアミノ酸なども使われている。
【0038】
キャビテーションを発生させる装置として磁歪型および圧電型のトランスデューサーが使われる。いずれの場合も、超音波装置は、印加された交流電界に応答して伸び縮みする変換機を使用して、電力を振動エネルギーに変換する。
【0039】
先行研究によると、元素状ホウ素には、結晶構造の異なる複数の同素体が存在している(表1参照)。また、ホウ素の結晶の共通モチーフは、B12のエネルギー的に安定な20面体構造である。どの同素体が形成されるかは、元素状ホウ素を得る技術的方法によって決定される。様々な同素体の混合物を同時に得ることもできる。
【0040】
相境界での超音波場におけるキャビテーション気泡の崩壊の際に生じる高圧と高温の状況下で、元素状ホウ素は破壊される。このような作用の結果として、ホウ素元素のアモルファス領域の破壊と、小さいクラスターが高次元ナノシステムに集合するというメカニズムに基づく、新しい分子システムの形成が、同時に発生することになる。
【0041】
【表1】
【0042】
ホウ素粒子のサイズと形状の検討は、動的光散乱法(DLS)および電子顕微鏡法を用いて行われた。ナノ粒子の粒度分布は、DLS法の自動モードかつImageJ 1.48vソフトを用いて得られた顕微鏡写真に基づいて測定された。
【0043】
発明の詳細は下記の図に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】塩化ナトリウムによるホウ素ナノ粒子の安定化の例である。
図2】20-50nm大のホウ素ナノ粒子の顕微鏡写真(倍率X35000)である。
図3】ホウ素の粒度分布図:20 nm - 30%、35 nm - 45%、40 nm - 15%、50 nm - 10%である。
図4】ホウ素の粒度分布図:20 nm - 70%、40 nm - 30%である。
図5】5-20nm大のホウ素ナノ粒子の顕微鏡写真(倍率X45000)である。
図6】ホウ素の粒度分布図:4 nm - 30%、8 nm - 40% 、10 nm - 15%、15 nm - 15%である。
図7】ホウ素の粒度分布図:10 nm -50%、16 nm - 30%、20 nm - 20%である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
様々な出力の超音波に長時間曝露されると、粒子の最も効果的な微粉砕と同時に、楕円化または球状化が起こる(図2図4参照)。同時に、単分散性および球状粒子の含有量は最大90~100%まで増加する。
【0046】
本発明は、以下の実施例をもって説明することができる。
(実施例1)5.0gのアモルファス元素状ホウ素粉末を25.0 mlの(再)蒸留水に加える。ホウ素の初濃度は20.0 wt%または190.0~200.0 mg/mlである。初期の粒子径は0.4~2.0の範囲で変化する。水中の元素状ホウ素のミクロン分散液に対し、200分間超音波処理を行う。このプロセスは、出力1.5±0.05 kW、超音波振動の強度1.5~3.0 W/cm3の超音波装置を用いて実行される。得られた複合体は、50 nm大のナノ粒子を含み、H2O中のナノ粒子濃度は170.0~180.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は正で、 ξ-ポテンシャルの値は+13である。粒子の形状は不規則で、エッジが鋭くなっている。複合体の安定性は96時間以内である。
【0047】
(実施例2)実施例1と同様に実行したが、相違点としては、出力4.0±0.05 kWで、超音波振動の強度4.0~8.0 W/cm3の超音波装置を使用し、水中のホウ素粒子の初期分散液への曝露時間は200分であった。得られた複合体は、20 nmのナノ粒子を含み、H2O中の濃度は170.0~180.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は正、ξ-ポテンシャルの値は+10、粒子の形状は球形、複合体の安定性は96時間以内である。
【0048】
(実施例3)実施例1と同様に実行したが、相違点としては、出力25.0±0.05 kWで、超音波振動の強度25.0~35.0 W/cm3の超音波装置を使用し、水中のホウ素粒子の初期分散液への曝露時間は70分であった。得られた複合体は、5 nm未満のナノ粒子を含み、H2O中の濃度は170.0~180.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は正、ξ-ポテンシャルの値は+5、粒子の形状は球形、複合体の安定性は96時間以内である。
【0049】
(実施例4)実施例2と同様に実行したが、相違点としては、水中のホウ素粒子の初期のミクロン分散液への曝露時間は350分であった。得られた複合体は、10±5 nmのナノ粒子を含み、H2O中の濃度は170.0~180.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は正、ξ-ポテンシャルの値は+8。粒子の形状は球形、複合体の安定性は96時間以内である。
【0050】
(実施例5)実施例4と同様に実行したが、相違点としては、超音波処理の前に、塩化ナトリウムを (ホウ素) : (NaCl) = 1:10の重量比で混合物に加えた。塩濃度は0.9%であった(このパーセンテージは、人体に投与できる食塩水の許容濃度の範囲内である)。塩化ナトリウムが3分の間に水に完全に溶解した後、溶液を350分間超音波に曝した。得られた安定複合体は、20±5 nmのナノ粒子を含み、H2O中の濃度は170.0~180.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は中性で、ξ-ポテンシャルの値は+60以上、粒子の形状は球形、複合体の安定性は3カ月である。
【0051】
(実施例6)実施例4と同様に実行したが、相違点としては、超音波処理中に塩化ナトリウムを (ホウ素) : (NaCl) = 1:20の重量比で混合物に加えた。塩濃度は0.9%であった(このパーセンテージは、人体に投与できる食塩水の許容濃度の範囲内である)。塩化ナトリウムが3分の間に水に完全に溶解した後、溶液を350分間超音波に曝した。得られた安定複合体は、8±5 nmのナノ粒子を含み、H2O中の濃度は170.0~180.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は中性、ξ-ポテンシャルの値は+65以上、粒子の形状は球形、複合体の安定性は1年以上である。
【0052】
(実施例7)実施例6と同様に実行したが、相違点としては、安定化システムKCl-LiClを、(ナノ粒子) : (KCl-LiCl) = 1:23の重量比で安定剤として使用した。ミクロン粉末の初期質量は、H2O 25.0 mlあたり10.0 g、ホウ素の初濃度は40.0 wt%または390.0~400.0 mg/ mlであった。塩混合物の濃度は0.9%であった(このパーセンテージは、人体に投与できる食塩水の許容濃度の範囲内である)。得られた安定複合体は、10±5 nmのナノ粒子を含み、H2O中の濃度は390.0-400.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は中性、ξ-ポテンシャルの値は+59以上、粒子の形状は球形、複合体の安定性は2年以上である。
【0053】
(実施例8)実施例6と同様に実行したが、相違点としては、クエン酸ナトリウムを、(ナノ粒子) : (Na3C6H5O7) = 1:20の重量比で安定剤として使用した。ミクロン粉末の初期質量は、H2O 25.0 mlあたり10.0 g、ホウ素の初濃度は40.0 wt%または390.0~400.0 mg/mlであった。塩混合物の濃度は0.9%であった(このパーセンテージは、人体に投与できる食塩水の許容濃度の範囲内である)。得られた安定複合体は、8±5 nmのナノ粒子を含み、H2O中の濃度は390.0~400.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は中性、ξ-ポテンシャルの値は+50以上、粒子の形状は球形、複合体の安定性は1年以上である。
【0054】
(実施例9)実施例6と同様に実行したが、相違点としては、クエン酸ナトリウムを、(ナノ粒子) : (Na3C6H5O7) = 1:25の重量比で安定剤として使用した。ミクロン粉末の初期質量は、H2O 25.0 mlあたり10.0 g、ホウ素の初濃度は40.0 wt%または390.0~400.0 mg/mlであった。塩混合物の濃度は0.9%であった(このパーセンテージは、人体に投与できる食塩水の許容濃度の範囲内である)。得られた安定複合体は、12±5 nmのナノ粒子を含み、H2O中の濃度は390.0~400.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は中性、ξ-ポテンシャルの値は+55以上、粒子の形状は球形、複合体の安定性は1年以上である。
【0055】
(実施例10)実施例6と同様に実行したが、相違点としては、高分子化合物である分子量220 kDAのカルボキシメチルセルロースを安定剤として使用した。ホウ素ナノ粒子を含む複合物を、高分子安定剤のマトリックス中の粒子の完全な分布のために撹拌しながらカルボキシメチルセルロース溶液に注いだ。溶液の粘度が大幅に上昇するものの、ゲル構造を持たないため、2~5%の濃度のカルボキシメチルセルロース水溶液の使用が最適であることがわかった。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は中性、ξ-ポテンシャルの値は+65、粒子の形状は球形、得られた複合体の安定性は3年以上である。
【0056】
(実施例11)実施例6と同様に実行したが、相違点としては、初期粒子径0.5~1.0ミクロンの粗結晶性元素ホウ素粉末を安定剤として使用した。NaClの存在下での粗結晶性ホウ素粒子の初期ミクロン分散液への超音波の曝露時間は350分であった。得られた複合体は、~100 nm大のナノ粒子を含み、H2O中のナノ粒子濃度は170.0~180.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は中性で、ξ-ポテンシャルの値は+50以上、粒子の形状は球状、複合体の安定性は1年以上である。
【0057】
(実施例12)実施例11と同様に実行したが、相違点としては、水中のホウ素粒子分散液への曝露時間は600分であった。得られた複合体は、5±3 nmのナノ粒子を含み、H2O中のナノ粒子濃度は170.0~180.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は中性で、ξ-ポテンシャルの値は+60、粒子の形状は球状、複合体の安定性は1年以上である。
【0058】
(実施例13)実施例11と同様に実行したが、相違点としては、初期粒子径0.4~1.2ミクロンの微結晶性元素ホウ素粉末を使用した。NaClの存在下での微結晶性ホウ素粒子の初期ミクロン分散液への超音波の曝露時間は350分であった。得られた複合体は、~80 nm大のナノ粒子を含み、H2O中のナノ粒子濃度は170.0~180.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は中性で、ξ-ポテンシャルの値は+68以上、粒子の形状は球状、複合体の安定性は1年以上である。
【0059】
(実施例14)実施例13と同様に実行したが、相違点としては、水中のホウ素粒子分散液への曝露時間は500分であった。得られた複合体は、10±5 nmのナノ粒子を含み、H2O中のナノ粒子濃度は170.0~180.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は中性で、ξ-ポテンシャルの値は+70、粒子の形状は球状、複合体の安定性は1年以上である。
【0060】
(実施例15)5.0 gの粉末状のアモルファスホウ素を25.0 mlの(再)蒸留水に加える。ホウ素の初濃度は20.0 wt%または190.0~200.0 mg/mlで、初期の粒子径は0.5~2.0 nmである。このプロセスは、出力4.0±0.5 kW、超音波振動の強度4.0~8.0 W/cm3の超音波装置を用いて実行される。水中の元素ホウ素分散液への曝露時間は200分以上である。その後、上位部分を取り出す。取り出した部分の体積は、システム総体積の約50.0 vol%である。取り出した部分におけるホウ素粒子径は50 nmである。取り出した部分に対して、200分以上にわたり再び超音波処理を行う。得られた複合体は、5±1 nmのナノ粒子を含み、H2O中のナノ粒子濃度は85.0~90.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は正、ξ-ポテンシャルの値は+6以上、粒子の形状は球状、複合体の安定性は96時間以内である。残った部分(約50.0 vol%)はその後の超音波処理のために濃縮する。
【0061】
(実施例16)実施例15と同様に実行したが、相違点としては、200分の超音波処理の後に取り出された分散液の体積はシステム総体積の約10.0 %である。取り出した部分の体積は、システム総体積の約50.0 vol%である。取り出した部分におけるホウ素粒子径は50 nmである。取り出した部分に対して、200分以上にわたり再び超音波処理を行う。得られた複合体は、2-5 nmのナノ粒子を含み、H2O中のナノ粒子濃度は17.0~18.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は正、ξ-ポテンシャルの値は+2以上、粒子の形状は球状、複合体の安定性は96時間以内である。残った部分(約90.0 vol%)はその後の超音波処理のために濃縮する。
【0062】
(実施例17)ホウ素ナノ粉末の再分散のパラメーターを評価するために、約55.0 vol%(または90.0 vol%)に濃縮された水中の粒子(50 nm)分散液を使用し、ホウ素のいずれの種類に対しても10 nm未満のホウ素ナノ粒子を得た。粒子のナノ分散液の調製は、実施例13~14と同様に行われた。必要なサイズ(~10 nm)の水中のホウ素ナノ粒子を後、真空凍結乾燥により分散液を濃縮した。粉末状のホウ素ナノ粒子を得た後、以下のように再分散を行った。3.0 gまたは 12.0 wt%のホウ素ナノ粒子粉末を10.0 mlの(再)蒸留水に加え、様々な出力の超音波に2分間曝した。ナノ粒子の寸法特性は保持された。
【0063】
(実施例18)実施例17に従って得られたホウ素ナノ粒子を含む複合体に、(ナノ粒子) : (NaCl) = 1:20の重量比で塩化ナトリウムを加えた。塩濃度は0.9%であった(このパーセンテージは、人体に投与できる食塩水の許容濃度の範囲内である)。塩化ナトリウムが3分の間に水に完全に溶解した後、溶液を再び2分間超音波に曝した。得られた安定複合体は、~10 nmのナノ粒子を含み、H2O中の濃度は85.0-90.0 mg/ml(または17-18 mg/ml)である。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は中性、ξ-ポテンシャルの値は+55以上、粒子の形状は球形、複合体の安定性は2年以上である。
【0064】
(実施例19)5.0 gの粉末状のアモルファスホウ素を25.0 mlの(再)蒸留水に加える。ホウ素の初濃度は20.0 wt%または190.0~200.0 mg/mlで、初期の粒子径は0.4~2.0である。水中のミクロン元素ホウ素分散液に対し600分間超音波処理を行う。このプロセスは、出力0.3±0.03 kW、超音波振動の強度1-1.5 W/cm3の超音波装置を用いて実行される。得られた複合体は、100 nm未満のナノ粒子を含み、H2O中のナノ粒子濃度は170.0~185.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は正、ξ-ポテンシャルの値は+21である。粒子の形状は不規則で、エッジが鋭くなっている。複合体の安定性は96時間以内である。
【0065】
(実施例20)5.0 gの粉末状のアモルファスホウ素を25.0 mlの(再)蒸留水に加える。ホウ素の初濃度は20.0 wt%または190.0-200.0 mg/mlで、初期の粒子径は0.4~2.0である。水中のミクロン元素ホウ素分散液に対し10分間超音波処理を行う。このプロセスは、出力25.0±0.05 kW、超音波振動の強度1000.0 W/cm3の超音波装置を用いて実行される。得られた複合体は、5 nm未満のナノ粒子を含み、H2O中のナノ粒子濃度は180.0~185.0 mg/mlである。ホウ素ナノ粒子の表面電荷は正、ξ-ポテンシャルの値は+10である。粒子の形状は不規則で、エッジが鋭くなっている。複合体の安定性は96時間以内である。
【0066】
得られた複合体の主な効果は、中性子照射によるがん治療に向けられているため、毒性、ホウ素の蓄積量、およびBNCTの有効性の検証を目的とした生物学的検査を実施した。
【0067】
上記の検査は、実施例1~20に記載された製剤に対して実施された。モデル実験は、ヒト(U251、U87、T98)および動物(F98、C6、GL261)の悪性神経膠腫細胞株を用いて行われた。
【0068】
ホウ素ナノ粒子を含む細胞をインキュベートした後、誘導結合プラズマ発光分光法を用いて細胞内のホウ素含有量の定量分析を行った。
細胞毒性データは、30 μg/g-tissue (またはg-cell mass)を超えるホウ素の有効治療域濃度でのナノ粒子の毒性が低いことを示し、更なる照射実験におけるナノ粒子の適合性が確認された。
【0069】
ホウ素ナノ粒子を含む合成複合体を使った、実際の臨床条件に近いBNCTの前臨床試験は、ノボシビルスクにあるロシア科学アカデミーシベリア支部ブドカー原子物理学研究所の加速器ベースの中性子源で実施された。現在、原子物理学研究所では、新しい方式の荷電粒子加速器である、真空絶縁によるタンデム加速器をベースにした施設が開発・建設され、稼働中である。この施設では、中性子の発生と熱外中性子束の形成が実現されている。
【0070】
ホウ素ナノ粒子を含む培地でプレインキュベートされた腫瘍細胞への中性子照射は、それらの細胞の生存率の有意な低下につながることが検証された。ヒト神経膠芽腫を移植されたマウスは、この方法で照射された場合、完治する結果が出ている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7