(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】関節炎を緩和するための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/18 20060101AFI20240828BHJP
A61K 31/726 20060101ALI20240828BHJP
A61K 31/727 20060101ALI20240828BHJP
A61K 31/728 20060101ALI20240828BHJP
A61K 31/737 20060101ALI20240828BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240828BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240828BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
A61K38/18
A61K31/726
A61K31/727
A61K31/728
A61K31/737
A61P19/02
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P43/00 121
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022133636
(22)【出願日】2022-08-24
【審査請求日】2022-10-18
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日 令和3年9月23日 掲載アドレス https://doi.org/10.1155/2021/9163279 上記アドレスのウェブサイト(Hindawi,Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine,Volume 2021,Article ID 9163279,10 pages)にて、マイクロカプセル化された組換えヒト上皮成長因子によるマウスモデルの変形性関節症の改善に関する研究について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】522337945
【氏名又は名称】樂▲鼎▼生醫股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】張樂心
(72)【発明者】
【氏名】邱▲彦▼碩
(72)【発明者】
【氏名】林季千
(72)【発明者】
【氏名】林士超
(72)【発明者】
【氏名】賈尚真
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】山本 昌,ペプチド・タンパク性医薬品の経粘膜透過促進,薬剤学: 生命とくすり,2014年,第74巻,第1号,p.19-26
【文献】Bertrand-Duchesne, M. P. et al.,Epidermal growth factor released from platelet-rich plasma promotes endothelial cell proliferation in vitro,Journal of Periodontal Research,2010年,Vol.45, No.1,p.87-93,doi:10.1111/j.1600-0765.2009.01205.x
【文献】Nurmaulinda, D. S. et al.,Epidermal Growth Factor (EGF) representing the role of other growth factors contained in Platelet-Rich Plasma (PRP),Bali Medical Journal,2021年08月21日,Vol.10, No.2,p.757-762,doi:10.15562/bmj.v10i2.2524
【文献】Lippross, S. et al.,Intraarticular injection of platelet-rich plasma reduces inflammation in a pig model of rheumatoid arthritis of the knee joint,Arthritis and Rheumatism,2011年,Vol.63, No.11,p.3344-3353,doi:10.1002/art.30547
【文献】Gobbi, A. et al.,Platelet-rich plasma treatment in symptomatic patients with knee osteoarthritis: preliminary results in a group of active patients,Sports Health,2012年,Vol.4, No.2,p.162-172,doi:10.1177/1941738111431801
【文献】Campo, G. M. et al.,Efficacy of treatment with glycosaminoglycans on experimental collagen-induced arthritis in rats,Arthritis research & therapy,2003年,Vol.5, No.3,p.R122-R131,doi:10.1186/ar748
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 31/00-31/80
A23L 33/00-33/29
A61P 1/00-43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮成長因子を含み、且
つ多血小板血漿を有しない、関節炎を緩和するための組成物
であり、
前記関節炎は、変形性関節症(OA)、関節リウマチ(RA)及びそれらの組み合わせからなる群より選択された、組成物。
【請求項2】
グリコサミノグリカン及びヒアルロン酸を更に含む、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
前記上皮成長因子、前記グリコサミノグリカン及び前記ヒアルロン酸は、1:10:100~1:1000:5000の範囲の重量比で存在する、請求項
2に記載の組成物。
【請求項4】
前記上皮成長因子、前記グリコサミノグリカン及び前記ヒアルロン酸は、1:100:1000の重量比で存在する、請求項
3に記載の組成物。
【請求項5】
前記グリコサミノグリカンは、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、グルコサミンサルフェイト及びそれらの組み合わせからなる群より選択された、請求項
2に記載の組成物。
【請求項6】
前記グリコサミノグリカンは、コンドロイチン硫酸である、請求項
5に記載の組成物。
【請求項7】
医薬組成物として製剤化された、請求項
5に記載の組成物。
【請求項8】
該医薬組成物は
、非経口剤形及び局所剤形からなる群より選択された剤形である、請求項
7に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、上皮成長因子(EGF)を含む関節炎を緩和するための組成物に関し、特に、EGFと、グリコサミノグリカンと、ヒアルロン酸とを含む関節炎を緩和するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
関節炎は、様々な関節(例えば手、足、手首、肘、膝、腰、足首など)に起こる変性疾患である。一般の関節炎の形態は、変性性関節炎(変形性関節症(OA)としても知られている)、関節リウマチ(RA)、痛風性関節炎(GA)を含む。関節炎は、関節の炎症、腫れ、変形、痛み、萎縮、凝り、そして最終的には運動障害を引き起こす可能性がある。
【0003】
現在、関節炎の臨床的な治療法には、炎症を抑えるためのステロイドの使用や、潤滑性を改善するためのヒアルロン酸(HA)の使用があり、併せて身体のリハビリテーションを行うことにより、軟骨の損傷を抑制する。しかし、これらの治療法は期待する効果を得られず、且つ重症の場合は手術による人工関節置換術が必要となる。
【0004】
多血小板血漿(PRP)は、全血から赤血球を除去して得られる濃縮液であり、且つ多数の血小板と種々の成長因子を含み、その中に、インスリン様成長因子I(IGF-I)の含有量が最も多く、トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)の含有量は2番目で、上皮成長因子(EGF)は極めて少ない(IGF-Iの約1/450倍)(Ha C.W.et al.(2019),Arthroscopy,35:2878-2884)。
【0005】
Gazendam A.et al.(2021),Br.J.Sports Med.,55:256-261には、PRP注射とプラシーボ(すなわち生理食塩水)注射の間に関節機能や痛みの改善に対して統計的差異がなかったと発表されている。特に、PRPとヒアルロン酸の併用で得られる治療効果は、PRP単独で得られるものよりも低い。更に、Nah S.S.et al.(2010),Rheumatol.Int.,30:443-449において、EGFは、RA患者において大量に発現していることから、関節炎、特にRAの炎症過程の発病機序に関連していると発表されている。
【0006】
また、Swanson C.D.et al.(2012),J.Immunol.,188:3513-3521において、上皮成長因子受容体(EGFR)は、コラーゲン誘発関節炎マウスやRA患者において大量に発現していることから、関節炎の発病機序に関連していると発表されている。Swanson C.D.et al.は、EGFR阻害剤(即ちエルロチニブ)がコラーゲン誘発性関節炎を緩和することも開示しているので、EGFRは、治療標的として期待されている。
【0007】
Sun H.et al.(2018),EBioMedicine,32:223-233 において、OA患者においては、EGFRが高度に活性化し、関節損傷を引き起すことが発表されている。Sun H.et al.は、別のEGFR阻害剤(即ちゲフィチニブ)が、OA罹患マウスの症状を改善し、且つ有効な治療薬となることが期待されていることも開示している。
【0008】
それでもなお、関節炎を緩和する効果的な方法の開発が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本開示の目的は、先行技術の欠点の少なくとも1つを緩和することができ且つ上皮成長因子を含む関節炎を緩和するための組成物を提供することにある。
【0010】
本開示の他の特徴および利点は、添付の図面を参照して、以下の実施形態の詳細に説明することにより明白になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】後述の実施例1の各グループにおける測定した右膝関節の直径を示す図であり、記号“*”、“**”、“***”のそれぞれは、p<0.05、p<0.01、p<0.001(病態対照群との比較)を表す。
【
図2】後述の実施例1の各グループにおける測定した変形性関節症(OA)のスケールを示す図であり、記号“*”、“***”のそれぞれは、p<0.05、p<0.001(病態対照群との比較)を表す。
【
図3】後述の実施例1の各グループにおける測定した軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)の含有量を示す図であり、記号“**”は、p<0.01(病態対照群との比較)を表す。
【
図4】後述の実施例1の各グループにおける測定したTNF-α、IL-1β、IL-6及びIL-17Aの含有量を示す図であり、記号“*”、“**”、“***”のそれぞれは、p<0.05、p<0.01、p<0.001(病態対照群との比較)を表す。
【
図5】後述の実施例1の各グループにおける測定したPGE2及びNOの含有量を示す図であり、記号“*”、“**”、“***”のそれぞれは、p<0.05、p<0.01、p<0.001(病態対照群との比較)を表す。
【
図6】後述の実施例2の各グループにおける測定した関節リウマチ(RA)のスケールを示す図である。
【
図7】後述の実施例2の各グループにおける測定した炎症性細胞浸潤、滑膜の過形成及び軟骨表面の浸食のスケールを示す図であり、記号“*”、“***”のそれぞれは、p<0.05、p<0.001(病態対照群との比較)を表す。
【
図8】後述の実施例2の各グループにおける測定したTNF-α、IL-1β及びIL-6の含有量を示す図であり、記号“*”、“**”、“***”のそれぞれは、p<0.05、p<0.01、p<0.001(病態対照群との比較)を表す。
【
図9】後述の実施例2の各グループにおける測定したIL-17A、IFN-γ及びIL-8の含有量を示す図であり、記号“*”、“**”、“***”のそれぞれは、p<0.05、p<0.01、p<0.001(病態対照群との比較)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書の目的上、「含む」という単語は「含むが限定されない」を意味し、「含める」という単語もこれに対応する意味を有することも理解されたい。
【0013】
何らかの先行技術文献が本明細書において引用されても、台湾またはいかなる国においても、該先行技術文献の内容が本発明の属する分野における一般知識であることを示すものではないことを理解されたい。
【0014】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。当業者であれば、本開示の実施において、本明細書に記載のものと類似又は同等の多くの方法及び材料を認識し、利用することができる。実際、本開示は記載された方法及び材料に決して限定されない。
【0015】
本開示は、関節炎を緩和するための組成物を提供し、該組成物は、上皮成長因子(EGF)を含む。
【0016】
本開示は、関節炎を緩和するための方法も提供し、該方法は、それを必要とする対象に上記の組成物を投与することを含む。
【0017】
本明細書で使用される場合、用語「緩和する」または「緩和」は、疾患または障害の1つ以上の臨床症状を、少なくとも部分的に低減、改善、緩和、制御、治療または除去すること、及び治療される状態または症状に関し、重症度の進行を低下、遅延、停止または逆転させ、またその可能性または確率を防止または低下させることを意味する。
本明細書で使用される「投与」または「投与する」という用語は、「意図された機能を果たすために、任意の適切な経路で予め決められた活性成分を対象に導入、提供または送達する」ことを意味する。
本明細書で使用される「対象」という用語は、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ゾウ、クマ、シカなど、関心のあるあらゆる動物を指す。
一部の実施形態において、該対象はヒトである。
【0018】
本開示によれば、該関節炎は、変形性関節症(OA)、関節リウマチ(RA)、痛風性関節炎(GA)、乾癬性関節炎(PA)、感染性関節炎(IA)及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることができる。例示的な実施形態において、該関節炎は、変形性関節症である。他の例示的な実施形態において、該関節炎は、関節リウマチである。
【0019】
本開示によれば、本開示で使用することに適する該上皮成長因子は、ヒトまたは他の動物、植物、微生物に由来するものであることができ、且つ市販品として入手でき、または当業者によく知られた技術で調製することができる。例えば、該上皮成長因子は、生体物質(例えばヒトの組織など)から分離された天然物、または遺伝子工学で得られた組み換えタンパクまたはその機能的断片であることができる。一部の実施形態において、該上皮成長因子は、組み換えヒト上皮成長因子(rhEGF)である。
【0020】
本開示によれば、該組成物は、グリコサミノグリカン及びヒアルロン酸(HA)を更に含むことができる。
【0021】
一部の実施形態において、該グリコサミノグリカンは、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、グルコサミンサルフェイト及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることができる。例示的な実施形態において、該グリコサミノグリカンは、コンドロイチン硫酸である。
【0022】
一部の実施形態において、該組成物内の該上皮成長因子、該グリコサミノグリカン及び該ヒアルロン酸は、1:10:100~1:1000:5000の範囲の重量比で存在する。例示的な実施形態において、該組成物内の該上皮成長因子、該グリコサミノグリカン及び該ヒアルロン酸は、1:100:1000の範囲の重量比で存在する。
【0023】
本開示によれば、該組成物は、実質的に多血小板血漿(PRP)を有しない。
【0024】
本開示によれば、該組成物は、当業者によく知られた標準的な技術を使用して食品として配合することができる。例えば、該組成物は、食用材料に直接に添加することができ、または後に食用材料に添加することに適する中間組成物(例えば食品添加物またはプレミックス)の調製に使用することができる。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「食品」は、対象によってその体内に摂取され得る任意の物品又は物質を指す。食品の例としては、粉乳、発酵乳、ヨーグルト、バター、飲料(例えば、茶、コーヒーなど)、機能性飲料、小麦粉製品、焼き食品、菓子、キャンディ、発酵食品、動物飼料、健康食品、乳児食及び栄養補助食品を含むことができるが、それらに限定されるものではない。
【0026】
本開示によれば、該組成物は、医薬組成物の形態に調製することができる。該医薬組成物は、当業者によく知られた技術を使用して、経口投与、非経口投与または局所投与に適する剤形に製剤化することができる。
非経口投与について、本開示による医薬組成物は、注射剤、例えば無菌水溶液または分散液に製剤化することができる。
【0027】
本開示による医薬組成物は、非経口ルートを介して投与することができる。非経口ルートは、腹腔内注射、胸腔内注射、筋肉内注射、静脈内注射、動脈内注射、関節内注射、滑液嚢内注射、くも膜下腔内注射、頭蓋内注射、表皮内注射、皮下注射、皮内注射、病巣内注射、インプラント投与及び舌下投与を含むが、それらに限定されるものではない。一部の実施形態において、該医薬組成物は、腹腔内注射または関節内注射を介して投与することができる。
【0028】
本開示によれば、経口投与に適する剤形は、滅菌粉末、錠剤、トローチ、ロゼンジ、ペレット、カプセル、分散性粉末または顆粒、溶液、懸濁液、エマルション、シロップ、エリキシル剤、スラリー、スキャフォールド、凍結乾燥製剤、コロイド粒子などを含むが、それらに限定されない。
【0029】
本開示によれば、該医薬組成物は、当業者によく知られた技術を使用して、皮膚への局所適用に適する外用剤に製剤化することができる。該外用剤は、エマルション、ゲル、軟膏、クリーム、パッチ、塗布薬、パウダー、エアゾール、スプレー、ローション、セラム、ペースト、フォーム、ドロップ、懸濁液、硬膏、スキャフォールド、凍結乾燥製剤、コロイド粒子及び包帯を含むが、それらに限定されない。
【0030】
本開示によれば、該医薬組成物は、医薬製造の技術分野で広く採用されている薬学的に許容される担体を更に含むことができる。例えば、該薬学的に許容される担体は、以下の薬剤の1つまたはそれ以上を含むことができる。該薬剤は、溶媒、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、分解剤、崩壊剤、分散剤、結合剤、賦形剤、安定化剤、キレート剤、希釈剤、ゲル化剤、保存剤、湿潤剤、滑剤、吸収遅延剤、リポソーム、スキャフォールド、凍結乾燥製剤、コロイド粒子などを含むが、それらに限定されない。前記の薬剤の選択及び量は、当業者の経験及び通常の技術の範囲内である。
【0031】
本開示による医薬組成物の投与量及び投与頻度は、以下の要因:治療すべき疾患又は障害の重症度、投与経路、並びに治療すべき対象の年齢、身体状態及び反応によって変化することができる。一般的に、該医薬組成物は単回で投与してもよいし、数回に分けて投与してもよい。
【0032】
以下、本発明の実施例について説明する。これらの実施例は、例示的かつ説明的なものであり、且つ、本発明を限定するものと解釈されるべきではないことを理解されたい。
【実施例】
【0033】
一般実験材料
A.以下の実験で使用した上皮成長因子(EGF)(カタログ番号02-108)、コンドロイチン硫酸(CS)(カタログ番号05-103)、ヒアルロン酸(HA)(カタログ番号07-113)は、台湾Joycom Bio-chem Co.,Ltd.社から購入したものである。
【0034】
基本手順
1.統計分析
以下に説明する実験はすべて3回行った。該実験データは、平均値±平均値の標準誤差(SEM)で表されている。統計分析は、GraphPad Prism 8.4(米国サンディエゴのGraphPad Software社)を用いて行った。すべての実験データは、グループ間の差異を評価するために、一元配置分散分析(ANOVA)のテューキー検定を用いて分析された。統計的な有意性はp<0.05で示された。
【0035】
実施例1.EGFの変形性関節症(OA)を緩和する効果の評価
A.EGF、CS及びHA含有の混合物の調製
EGF、CS及びHAを1:100:1000の重量比で滅菌水に混合して、EGF(20μg/g)、CS及びHA含有の混合物を得た。
【0036】
B.実験ラット
以下の実験で使用したオスのスプラーグドーリーラット(6週齢、体重約200~300g)は、台湾台北市の国家実験動物センターから購入したものである。全ての実験マウスは、12時間の明と12時間の暗とが交互する周期で、温度を21℃~24℃に維持し、且つ相対湿度を45%~70%に維持した実験室条件下の動物部屋で飼育された。更に、水と飼料は、全ての実験マウスに自由に摂取させた。実験マウスに関わる全ての実験手順は、台湾国立中興大学の実験動物管理使用委員会の法的規定に準拠し、且つ、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の実験動物の管理使用のガイドに従って実施された。
【0037】
C.OAの誘導及びEGFの投与
スプラーグドーリーラットは、1つの正常対照群、1つの病態対照群、1つの比較群及び2つの実験群(即ち、実験群1~2)を含む5つのグループに分けられた(各グループにおいてn=5ラット)。
EGFと、EGF、CS及びHA含有の混合物とのそれぞれ1つを、リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解して、EGF溶液及び混合物溶液を得た。
病態対照群、比較群及び実験群1~2におけるラットのそれぞれの右膝関節に、30μLのヨウ化酢酸モノナトリウム(MIA)溶液(50g/L、0.9%生理食塩水の中に)を関節内注射した。更に、正常対照群におけるラットのそれぞれの右膝関節に30μLの0.9%生理食塩水を関節内注射した。
MIA溶液を注射後の第3日及び第14日に、比較群におけるラットのそれぞれの右膝関節に30μLの1%HAを関節内注射し、実験群1におけるラットのそれぞれの右膝関節に30μLの該EGF溶液(20μg/gのEGF含有)を関節内注射し、実験群2におけるラットのそれぞれの右膝関節に30μLの該混合物溶液(20μg/gのEGF含有)を関節内注射し、病態対照群におけるラットのそれぞれの右膝関節に30μLの0.9%生理食塩水を関節内注射した。更に、正常対照群におけるラットは、処理を受けていない。
【0038】
D.右膝関節の直径の測定
MIA溶液の注射後の第28日終了の時、各グループにおけるラットのそれぞれの右膝関節は、測径器を使用して直径を測定させた。
【0039】
このように得られたデータを、「基本手順」のセクション1の方法に従って分析した。
図1を参照すると、比較群と実験群1及び2とにおける測定された右膝関節の直径は、それぞれが病態対照群における測定されたものより低い。特に、実験群2における測定された右膝関節の直径は、正常対照群における測定されたものと同等であった。
【0040】
これらの結果から、EGFはOAを緩和する十分な有効性を表し、且つ、EGFをCS及びHAと合わせて使用すると、該有効性が増進されたことが示された。
【0041】
E.生体サンプルの調製
この実施例のセクションDの第28日終了の時における右膝関節の直径の測定の後、各グループのラットを95%CO2で窒息させることにより屠殺した。次に、25G針を使用した動脈穿刺により各ラットの心臓から収集された血液サンプルは、25℃で10分間の1500gの遠心分離にかけて、血清サンプルを得た。その後、各ラットの死体から得られた各グループにおけるラットのそれぞれの右膝関節組織を0.9%生理食塩水で洗った。
得られた血清サンプル及び右膝関節組織を以下の実験に使用した。
【0042】
F.組織病理学分析
この実施例のセクションEで得られた各右膝関節組織を、10%中性緩衝ホルマリン(BiOTnA Biotech社、カタログ番号TABS06-4000)で室温で24時間の固定処理にかけた。固定された組織サンプルを、パラフィンで包埋し、続いて薄切りにすることにより厚さ5μmの組織切片を得た。
該組織切片は、当業者によく知られた染色方法を用いて、ヘマトキシリン-エオシン染色させ、且つ、サフラニンO及びファストグリーン染色させ、そして、光学顕微鏡(オリンパス、CKX41)で200倍の倍率で観察された。ランダムに選択された各該組織切片の2つのエリアを撮影し、Pauli C.et al.(2012),Osteoarthritis Cartilage,20:476-485に説明されている修正Mankinスコアリングシステムにより、各該組織切片の病変(例えば軟骨損傷、軟骨細胞の損失及びプロテオグリカンの損失など)を評価した。軟骨損傷、軟骨細胞の損失及びプロテオグリカンの損失の程度は、1~5のスケールで採点された。スケールが高いほど、OAの重症度が高い。
【0043】
このように得られたデータを、「基本手順」のセクション1の方法に従って分析した。
形態学的観察の結果(データは表示されない)に基づくと、病態対照群において、右膝関節の関節軟骨は、明白な亀裂及びでこぼこな表面を有し、且つ重大な軟骨細胞及びプロテオグリカンの損失が観察され、MIAがOA及び軟骨損傷を成功に誘発したことを示した。その一方、比較群及び実験群1及び2において、右膝関節の関節軟骨は、亀裂が比較的少なく且つ表面がより滑らかであり、且つ軟骨細胞及びプロテオグリカンの損失が比較的少ないことが観察された。
【0044】
図2は、OAのスコアリング結果を示す。
図2に示されるように、実験群1及び2における測定されたOAのスケールは、それぞれ病態対照群における測定されたものより著しく低い。
【0045】
これらの結果から、EGFはOA及び関節軟骨損傷を緩和する十分な有効性を表し、且つ、EGFをCS及びHAと合わせて使用すると、該有効性が増進されたことが示された。
【0046】
G.血清サンプル中のOAの生体指標及び炎症マーカーの測定
この実施例のセクションEで得られた各血清サンプルをRPMI1640培地で5倍希釈した。その後、軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)の含有量を、メーカーの指示に従ってラットCOMP ELISAキット(中国Cusabio社、カタログ番号CSB-E13833r)を使用して測定した。更に、TNF-α、IL-1β、IL-6及びIL-17Aの含有量を、それぞれメーカーの指示に従って、TNF-α ELISAキット(米Invitrogen社、カタログ番号88-7340-88)、IL-1β ELISAキット(米Invitrogen社、カタログ番号88-6010-22)、IL-6 ELISAキット(米Invitrogen社、カタログ番号88-50625-88)、及びIL-17A ELISAキット(米Invitrogen社、カタログ番号88-7170-22)を使用して測定した。また、プロスタグランジンE2(PGE2)の含有量を、メーカーの指示に従って、PGE2 ELISAキット(中国Cusabio社、カタログ番号CSB-E07967r)を使用して測定した。
【0047】
更に、酸化窒素(NO)の含有量を、Griess assayを使用して測定した。簡潔に言うと、この実施例のセクションEで得られた血清サンプルのそれぞれ100μLを、100μLのグリース試薬(0.2%のN-(1-ナフチル)エチレンジアミン、2%のスルファニルアミド、及び5%のリン酸を含有)と混合し、続いて、室温で10分間放置して反応を進行させた。得られた反応混合物は、分光光度計を使用して540nm波長における吸収の測定(OD540)にかけた。得られた該OD540値は、その後に、標準硝酸ナトリウムの様々な既知濃度に対するそのOD540値を描くことによって予め用意された相関曲線に基づいて、pg/mLで表される濃度に変換された。
【0048】
このように得られたデータを、「基本手順」のセクション1の方法に従って分析した。
図3を参照すると、比較群と実験群1及び2とにおける測定されたCOMPの含有量は、それぞれが病態対照群における測定されたものより低い。特に、実験群2における測定されたCOMPの含有量は、正常対照群における測定されたものと同等であった。
【0049】
図4を参照すると、比較群と実験群1及び2とにおける測定されたTNF-α、IL-1β、IL-6及びIL-17Aの含有量は、それぞれが病態対照群における測定されたものより低い。
【0050】
図5を参照すると、比較群と実験群1及び2とにおける測定されたPGE2及びNOの含有量は、それぞれが病態対照群における測定されたものより低い。
【0051】
これらの結果から、EGFはOA及び関節の炎症の症状を緩和する十分な有効性を表し、且つ、EGFをCS及びHAと合わせて使用すると、該有効性が増進されたことが示された。
【0052】
実施例2 EGFの関節リウマチ(RA)を緩和する効果の評価
A.実験マウス
以下の実験で使用したメスのDBA/1マウス(8週齢、体重約20g)は、台湾台北市の国家実験動物センターから購入したものである。全ての実験マウスは、12時間の明と12時間の暗とが交互する周期で、温度を21℃~23℃に維持し、且つ相対湿度を45%~60%に維持した実験室条件下の動物部屋で飼育された。更に、水と飼料は、全ての実験マウスに自由に摂取させた。実験マウスに関わる全ての実験手順は、台湾国立中興大学の実験動物管理使用委員会の法的規定に準拠し、且つ、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の実験動物の管理使用のガイドに従って実施された。
【0053】
B.RAの誘導及びEGFの投与
2mg/mLのChick type IIコラーゲン(CII)溶液(米Chondrex Inc.社、カタログ番号20012)を完全フロイントアジュバント(米Sigma Aldrich社、カタログ番号F5881-10ML)と1:1(v/v)の比率で混合して、第1のCIIエマルションを得た。2mg/mLのChick type CII溶液を、不完全フロイントアジュバント(米Sigma Aldrich社、カタログ番号sc-24648)と1:1(v/v)の比率で混合して、第2のCIIエマルションを得た。
【0054】
該メスのDBA/1マウスは、1つの正常対照群、1つの病態対照群、1つの比較群及び2つの実験群(即ち、実験群1~2)を含む5つのグループに分けられた(各グループにおいてn=6マウス)。200μLの該第1のCIIエマルションを、正常対照群、病態対照群、比較群及び2つの実験群の各マウスの尾部の皮下に注射した。該マウスは、初回予防接種後の第21日に200μLの該第2のCIIエマルションを使用してブースター接種させて、RAの発生を誘発する。更に、正常対照群のラットにはアジュバント溶液(PBS中)を注射した。
【0055】
ブースター接種完了後、比較群の各マウスに100μLの1%HAを腹腔内注射し、実験群1の各マウスに実施例1のセクションCで調製された該EGF溶液(20μg/gのEGF含有)100μLを腹腔内注射し、実験群2の各マウスに実施例1のセクションCで調製された該混合物溶液(20μg/gのEGF含有)100μLを腹腔内注射した。各マウスに1日1回、計20日間投与した。
更に、正常対照群及び病態対照群におけるマウスは、処理を受けていない。
【0056】
C.RA重症度の評価
初回予防接種後の第21日終了の時、Brand D.D. et al.(2007)、Nat.Protoc.,2:1269-1275、及び、Milici A.J.et al.(2008)、Arthritis Res.Ther.,10:R14に説明されているビジュアル関節炎スコアリングシステムにより、各マウスにおける病的症状(即ち、足底の関節、足首及び膝関節の紅斑と浮腫)を評価した。その後、上記のビジュアル関節炎スコアリングシステムは、初回予防接種後の第42日まで3日ごとに実施した(即ち、各マウスは8回採点された)。RA重症度の程度は、1~8のスケールで採点された。スケールが高いほど、RAの重症度が高い。
【0057】
図6を参照すると、病態対照群のRAの重症度は、時間の経過とともに徐々に増加した。病態対照群と比較すると、比較群及び実験群1のRAの重症度の増加は緩慢であった。特に、実験群2のRAの重症度は、病態対照群、比較群及び実験群1のより低く、且つ、初回予防接種後の第33日~第42日では、RAの進行においてRAの緩和傾向が観察された。
【0058】
これらの結果から、EGFはRA及びRAに関わる症状を緩和する十分な有効性を表し、且つ、EGFをCS及びHAと合わせて使用すると、該有効性が増進されたことが示された。
【0059】
D.組織病理学の分析
この実施例のセクションCのRA重症度の評価が完了した後、各グループのマウスを95%CO2で窒息させることにより屠殺し、且つ各マウスの死体から後肢の膝関節組織及び足底組織を得た。各マウスの後肢の膝関節組織は、実施例1のセクションFで説明されている方法に従って、組織切片、ヘマトキシリン-エオシン染色、光学顕微鏡での観察を順に行った。
【0060】
次に、各該組織切片の病的症状(即ち炎症性細胞浸潤、滑膜の過形成及び軟骨表面の浸食)を、Deng G.M.et al.(2005),Nat Med.,11:1066-1072に説明されている方法に従って評価した。炎症性細胞浸潤、滑膜の過形成及び軟骨表面の浸食の程度は、1~4のスケールで採点された。スケールが高いほど、病的症状の重症度が高い。
【0061】
このように得られたデータを、「基本手順」のセクション1の方法に従って分析した。
形態学的観察の結果(データは表示されない)に基づくと、比較群及び実験群1において、軟骨構造が部分的に損傷していて、部分的に無傷軟骨表面が観察された。特に、実験群2において、軟骨構造が完全であって、軟骨表面が正常対照群の軟骨表面に似て滑らかであった。
【0062】
図7を参照すると、実験群1及び2における測定された病的症状(即ち炎症性細胞浸潤、滑膜の過形成及び軟骨表面の浸食)のスケールは、それぞれが病態対照群における測定されたものより明白にまたは著しく低い。
【0063】
これらの結果から、EGFはRA及びRAと関連している軟骨病変を緩和する十分な有効性を表し、且つ、EGFをCS及びHAと合わせて使用すると、該有効性が増進されたことが示された。
【0064】
E.足底組織の炎症マーカーの測定
100mgのこの実施例のセクションDで得られた各マウスの足底組織を、液体窒素で凍結処理し、そしてすりつぶした。得られた基本組織を1mLの組織溶解緩衝液(台湾Gold Biotechnology,Inc.社、カタログ番号GB-181-100)(プロテアーゼ阻害剤カクテル含有)と混合し、続いて、TNF-α、IL-1β、IL-6、IL-17A、IFN-γ及びIL-8の含有量を、それぞれメーカーの指示に従って、TNF-α ELISAキット(米BioLegend社、カタログ番号430904)、IL-1βELISAキット(米BioLegend社、カタログ番号432604)、IL-6 ELISAキット(米BioLegend社、カタログ番号431304)、IL-17A ELISAキット(米BioLegend社、カタログ番号432504)、IFN-γ ELISAキット(米BioLegend社、カタログ番号430807)、IL-8 ELISAキット(米MyBioSource社、カタログ番号MBS261967)を使用して測定した。
【0065】
このように得られたデータを、「基本手順」のセクション1の方法に従って分析した。
図8及び9を参照すると、実験群1及び2とにおける測定されたTNF-α、IL-1β、IL-6、IL-17A、IFN-γ及びIL-8の含有量は、それぞれが病態対照群における測定されたものより明白にまたは著しく低い。
【0066】
これらの結果から、EGFはRA及びRAによる炎症の反応を緩和する十分な有効性を表し、且つ、EGFをCS及びHAと合わせて使用すると、該有効性が増進されたことが示された。
【0067】
上記の試験結果をまとめと、EGFは、関節炎(例えば、OA及びRAなど)を有効的に緩和する能力があり、グリコサミノグリカン(例えばCSなど)及びHAと更に合わせて使用して期待の効果を発揮することができる。
【0068】
以上、本開示の好ましい実施形態及び変化例を説明したが、本開示はこれらに限定されるものではなく、最も広い解釈の精神および範囲内に含まれる様々な構成として、全ての修飾および均等な構成を包含するものとする。