(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】車両用駆動伝達装置、及びそれを備えた車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16D 25/0638 20060101AFI20240828BHJP
F16D 25/12 20060101ALI20240828BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20240828BHJP
F16D 13/60 20060101ALI20240828BHJP
F16D 13/70 20060101ALI20240828BHJP
F16D 13/74 20060101ALI20240828BHJP
B60K 6/387 20071001ALI20240828BHJP
B60K 6/40 20071001ALI20240828BHJP
【FI】
F16D25/0638
F16D25/12 C
F16D25/12 Z
F16D13/52 C
F16D13/60 Z
F16D13/70 A
F16D13/74 Z
B60K6/387
B60K6/40
(21)【出願番号】P 2019197529
(22)【出願日】2019-10-30
【審査請求日】2022-09-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】594079143
【氏名又は名称】株式会社アイシン福井
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】山下 真吾
(72)【発明者】
【氏名】玉林 健太
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 優
(72)【発明者】
【氏名】林 敬昌
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-070432(JP,A)
【文献】特開2017-166583(JP,A)
【文献】特開2015-123813(JP,A)
【文献】特開2008-025753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/52
F16D 13/60
F16D 13/70
F16D 13/74
F16D 25/0638
F16D 25/12
B60K 6/387
B60K 6/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に並んで配置された第1摩擦板及び第2摩擦板、並びに前記第1摩擦板及び前記第2摩擦板を前記軸方向に押圧する押圧部材を有する摩擦係合装置を備えた車両用駆動伝達装置であって、
前記第1摩擦板を径方向の外側から支持する第1支持部材と、
前記第2摩擦板を前記径方向の内側から支持する第2支持部材と、
前記第2支持部材と一体的に回転するように連結された中間部材と、を更に備え、
前記第1支持部材は、前記軸方向の一方側である軸方向第1側に向けて開口するように形成され、
前記押圧部材は、前記第1摩擦板及び前記第2摩擦板を前記軸方向第1側から押圧するように配置され、
前記中間部材は、前記軸方向における前記押圧部材と前記第2支持部材との間に挟まれるように配置された本体部と、前記本体部に対して前記軸方向第1側に突出するように形成された突出部と、を備え、
前記押圧部材は、当該押圧部材を前記軸方向に貫通するように形成され、前記突出部が挿入される挿入孔を備え、
前記第2支持部材は、前記軸方向に沿って延在する筒状に形成されて、前記第2摩擦板を支持する筒状支持部を備え、
前記中間部材は、前記軸方向に沿って延在する筒状に形成されて、前記筒状支持部に対して前記径方向の内側に隣接した状態で、前記筒状支持部と連結された連結部を備え、
前記突出部は、前記連結部から前記軸方向第1側に突出するように形成され、
前記筒状支持部の内周部に、前記軸方向に延在する第1スプラインが形成され、
前記連結部の外周部に、前記軸方向に延在し、前記第1スプラインに係合する第2スプラインが形成されている、車両用駆動伝達装置。
【請求項2】
前記軸方向における前記押圧部材と前記第2支持部材との間には、前記押圧部材の作動用の油が供給される作動油室で発生する遠心油圧に対抗する油圧を生じさせるキャンセル油室と、前記第2支持部材の内周部に対して前記径方向の内側から油を供給する潤滑油路と、が形成され、
前記本体部は、前記キャンセル油室と前記潤滑油路とを隔てるように配置されている、請求項1に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項3】
前記押圧部材は、前記第2支持部材又は当該第2支持部材と一体的に回転する部材である摺動対象部材に対して前記軸方向に摺動するように構成され、
前記押圧部材と前記摺動対象部材との摺動部分の隙間が、シール部材により密閉されている、請求項1
又は2に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項4】
ステータ、及び前記ステータに対して前記径方向の内側に配置されたロータを有し、車輪の駆動力源として機能する回転電機と、
請求項1から
3のいずれか一項に記載の車両用駆動伝達装置と、を備えた車両用駆動装置であって、
前記車両用駆動伝達装置は、前記ロータを支持するロータ支持部材を更に備え、
前記ロータ支持部材は、前記軸方向に沿って延在する筒状に形成されて、前記ロータを前記径方向の内側から支持する筒状部と、前記筒状部に対して前記径方向の内側において前記径方向に延在するように形成されて、前記筒状部に連結されたフランジ部と、を備え、
前記筒状部は、前記摩擦係合装置に対して、前記径方向の外側に配置され、
前記フランジ部は、前記摩擦係合装置に対して、前記軸方向第1側とは反対側である軸方向第2側に配置されている、車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向に並んで配置された第1摩擦板及び第2摩擦板、並びにこれらを軸方向に押圧する押圧部材を有する摩擦係合装置を備えた車両用駆動伝達装置、及びそれを備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような車両用駆動装置の一例が、下記の特許文献1に開示されている。以下、この背景技術の説明では、特許文献1における符号を括弧内に引用する。
【0003】
特許文献1の装置(1)では、摩擦係合装置(CL1)の摩擦部材(41)が、外側支持部材(51)によって径方向(R)の外側(R2)から支持されている。そして、摩擦係合装置(CL1)の押圧部材(57)が、外側支持部材(51)と一体的に回転するように支持されている。具体的には、外側支持部材(51)の内周部には、軸方向(L)に延在する複数のスプラインが周方向(C)に分散して形成されている。一方、押圧部材(57)の外周部にも、同様のスプラインが形成されている。そして、それらのスプライン同士が係合されることで、押圧部材(57)が外側支持部材(51)に対する相対回転が規制された状態で、軸方向(L)に摺動可能に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/057190号(
図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の装置(1)では、外側支持部材(51)は軸方向(L)の一方側(L1)に向けて開口している。そのため、特許文献1の装置(1)の製造工程では、外側支持部材(51)の開口を通して、押圧部材(57)を外側支持部材(51)に対して軸方向(L)の一方側(L1)から組み付ける作業が行われる。この組み付け作業では、作業者は、押圧部材(57)及び外側支持部材(51)のスプライン同士を係合させる必要がある。しかし、スプラインが視認し難い位置にある場合等には、作業者は、押圧部材(57)を外側支持部材(51)に対して軸方向(L)に押し付けながら、これらのスプライン同士の位相が合うまで、押圧部材(57)を外側支持部材(51)に対して相対回転させる必要があった。このように、スプライン同士の位相を合せるために押圧部材(57)を回転させる必要があると、押圧部材(57)の組み付け作業が煩雑になるという課題があった。
【0006】
そこで、押圧部材の組み付け作業を容易に行うことができる車両用駆動伝達装置、及びそれを備えた車両用駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑みた、車両用駆動伝達装置の特徴構成は、
軸方向に並んで配置された第1摩擦板及び第2摩擦板、並びに前記第1摩擦板及び前記第2摩擦板を前記軸方向に押圧する押圧部材を有する摩擦係合装置を備えた車両用駆動伝達装置であって、
前記第1摩擦板を径方向の外側から支持する第1支持部材と、
前記第2摩擦板を前記径方向の内側から支持する第2支持部材と、
前記第2支持部材と一体的に回転するように連結された中間部材と、を更に備え、
前記第1支持部材は、前記軸方向の一方側である軸方向第1側に向けて開口するように形成され、
前記押圧部材は、前記第1摩擦板及び前記第2摩擦板を前記軸方向第1側から押圧するように配置され、
前記中間部材は、前記軸方向における前記押圧部材と前記第2支持部材との間に挟まれるように配置された本体部と、前記本体部に対して前記軸方向第1側に突出するように形成された突出部と、を備え、
前記押圧部材は、当該押圧部材を前記軸方向に貫通するように形成され、前記突出部が挿入される挿入孔を備えている点にある。
【0008】
この特徴構成によれば、中間部材が、当該中間部材の本体部から軸方向第1側に突出するように形成された突出部を備えている。そして、押圧部材が、当該押圧部材を軸方向に貫通するように形成され、突出部が挿入される挿入孔を備えている。挿入孔に突出部が挿入された状態では、押圧部材の第2支持部材に対する相対回転が規制される。そのため、当該突出部と挿入孔とにより、押圧部材と第2支持部材との相対回転を適切に規制することができる。また、押圧部材を中間部材に対して軸方向第1側から組み付ける際に、作業者が、押圧部材の挿入孔を通して、当該挿入孔に挿入させる突出部を軸方向第1側から視認することができる。これにより、押圧部材の回転位相を合せて挿入孔に突出部を挿入する作業を容易に行うことができる。したがって、本構成によれば、押圧部材の組み付け作業を容易に行うことができる。
【0009】
上記に鑑みた、車両用駆動伝達装置の特徴構成は、
軸方向に並んで配置された第1摩擦板及び第2摩擦板、並びに前記第1摩擦板及び前記第2摩擦板を前記軸方向に押圧する押圧部材を有する摩擦係合装置を備えた車両用駆動伝達装置であって、
前記第1摩擦板を径方向の外側から支持する第1支持部材と、
前記第2摩擦板を前記径方向の内側から支持する第2支持部材と、を更に備え、
前記第1支持部材は、前記軸方向の一方側である軸方向第1側に向けて開口するように形成され、
前記第2支持部材は、前記軸方向に沿って延在する筒状に形成されて、前記第2摩擦板を支持する筒状支持部と、前記筒状支持部に対して前記径方向の内側において前記径方向に延在するように形成されて、前記筒状支持部に連結された径方向延在部と、を備え、
前記押圧部材は、前記第1摩擦板及び前記第2摩擦板を前記軸方向第1側から押圧するように配置され、
前記第2支持部材は、前記筒状支持部から前記軸方向第1側に突出するように形成された突出部を更に備え、
前記押圧部材は、当該押圧部材を前記軸方向に貫通するように形成され、前記突出部が挿入される挿入孔を備えている点にある。
【0010】
この特徴構成によれば、第2支持部材が、当該第2支持部材の筒状支持部から軸方向第1側に突出するように形成された突出部を備えている。そして、押圧部材が、当該押圧部材を軸方向に貫通するように形成され、突出部が挿入される挿入孔を備えている。挿入孔に突出部が挿入された状態では、押圧部材の第2支持部材に対する相対回転が規制される。そのため、当該突出部と挿入孔とにより、押圧部材と第2支持部材との相対回転を適切に規制することができる。また、押圧部材を第2支持部材に対して軸方向第1側から組み付ける際に、作業者が、押圧部材の挿入孔を通して、当該挿入孔に挿入させる突出部を軸方向第1側から視認することができる。これにより、押圧部材の回転位相を合せて挿入孔に突出部を挿入する作業を容易に行うことができる。したがって、本構成によれば、押圧部材の組み付け作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る車両用駆動装置の概略構成を示す模式図
【
図3】実施形態に係る車両用駆動装置の部分拡大断面図
【
図4】実施形態に係る車両用駆動装置の部分拡大断面図
【
図5】実施形態に係る押圧部材及び中間部材の斜視図
【
図6】中間部材の突出部が押圧部材の挿入孔に挿入された状態を示す断面図
【
図7】押圧部材を中間部材に組み付ける作業を示す図
【
図8】その他の実施形態に係る摺動対象部材及び押圧部材の断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、実施形態に係る車両用駆動装置10について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、車両用駆動装置10は、内燃機関EG及び回転電機MGの双方を備えた車両(ハイブリッド車両)を駆動するための装置である。具体的には、車両用駆動装置10は、1モータパラレル方式のハイブリッド車両用の駆動装置として構成されている。
【0013】
以下の説明では、特に明記している場合を除き、回転電機MGの回転軸心を基準として、「軸方向L」、「径方向R」、及び「周方向C」を定義している。そして、径方向Rにおいて、回転電機MGの回転軸心側を「径方向内側R1」とし、その反対側を「径方向外側R2」とする。
なお、各部材についての方向は、それらが車両用駆動装置10に組み付けられた状態での方向を表す。また、各部材についての方向や位置等に関する用語は、製造上許容され得る誤差による差異を有する状態をも含む概念である。
【0014】
図1に示すように、車両用駆動装置10は、車両用駆動伝達装置100と、回転電機MGと、を備えている。車両用駆動伝達装置100は、第1係合装置CL1を備えている。本実施形態では、車両用駆動伝達装置100は、第2係合装置CL2と、入力部材Iと、変速機TMと、カウンタギヤ機構CGと、差動歯車機構DFと、一対の出力部材Oと、を更に備えている。本実施形態では、入力部材Iの一部、出力部材Oの一部、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、回転電機MG、変速機TM、カウンタギヤ機構CG、及び差動歯車機構DFが、ケース1内に収容されている。
【0015】
回転電機MGは、車輪Wの駆動力源として機能する。回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを果たすことが可能とされている。そのため、回転電機MGは、蓄電装置(バッテリやキャパシタ等)と電気的に接続されている。回転電機MGは、蓄電装置から電力の供給を受けて力行し、或いは、内燃機関EGのトルクや車両の慣性力により発電した電力を蓄電装置に供給して蓄電させる。
【0016】
内燃機関EGは、回転電機MGと同様に、車輪Wの駆動力源として機能する。内燃機関EGは、燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)である。
【0017】
入力部材Iは、内燃機関EGに駆動連結されている。本実施形態では、入力部材Iは、伝達されるトルクの変動を減衰するダンパ装置(図示を省略)を介して内燃機関EGの出力軸(クランクシャフト等)に駆動連結されている。
【0018】
ここで、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。なお、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。
【0019】
第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2のそれぞれは、2つの回転要素間の動力伝達を断接する係合装置である。
図2に示すように、本実施形態では、第1係合装置CL1と第2係合装置CL2とは、軸方向Lに並んで配置されている。また、本実施形態では、回転電機MGと変速機TMとが、軸方向Lに並んで配置されている。そして、第2係合装置CL2が、第1係合装置CL1に対して軸方向Lにおける変速機TMの側に配置されている。
【0020】
以下の説明では、軸方向Lにおいて、第2係合装置CL2に対して第1係合装置CL1が配置された側を「軸方向第1側L1」とし、その反対側を「軸方向第2側L2」とする。
【0021】
図1に示すように、本実施形態では、第1係合装置CL1は、入力部材Iと回転電機MGとの間の動力伝達経路に配置されている。そのため、第1係合装置CL1は、入力部材Iと回転電機MGとを連結又は連結解除する。本実施形態では、第1係合装置CL1は、当該第1係合装置CL1に供給される油圧に基づいて、係合の状態(直結係合状態/スリップ係合状態/解放状態)が制御される。
【0022】
本実施形態では、第2係合装置CL2は、回転電機MGと変速機TMとの間の動力伝達経路に配置されている。そして、第2係合装置CL2は、変速機TMの入力要素である変速入力軸Mと回転電機MGとを連結又は連結解除する。本実施形態では、第2係合装置CL2は、当該第2係合装置CL2に供給される油圧に基づいて、係合の状態(直結係合状態/滑り係合状態/解放状態)が制御される。
【0023】
変速機TMは、回転電機MGの側から伝達される回転を変速する装置である。具体的には、変速機TMは、変速入力軸Mに入力される回転及びトルクを、各時点における変速比に応じて変速するとともにトルク変換して、変速機TMの出力要素である変速出力ギヤG1に伝達する。本実施形態では、変速機TMは、複数の変速用係合装置を備え、変速比の異なる複数の変速段を切替可能に備えた自動有段変速機である。なお、変速機TMとして、変速比を無段階に変更可能な自動無段変速機や、変速比の異なる複数の変速段を切替可能に備えた手動式有段変速機等を用いても良い。
【0024】
カウンタギヤ機構CGは、カウンタ入力ギヤG2と、カウンタ出力ギヤG3と、を備えている。カウンタ入力ギヤG2は、カウンタギヤ機構CGの入力要素である。カウンタ入力ギヤG2は、変速出力ギヤG1に噛み合っている。カウンタ出力ギヤG3は、カウンタギヤ機構CGの出力要素である。カウンタ出力ギヤG3は、カウンタ入力ギヤG2と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、カウンタ出力ギヤG3は、軸方向Lに沿って延在するカウンタ軸Sを介して、カウンタ入力ギヤG2と連結されている。図示の例では、カウンタ出力ギヤG3は、カウンタ入力ギヤG2よりも軸方向第1側L1に配置されている。
【0025】
差動歯車機構DFは、カウンタギヤ機構CGのカウンタ出力ギヤG3と噛み合う差動入力ギヤG4を備えている。差動歯車機構DFは、差動歯車機構DFは、差動入力ギヤG4の回転を、それぞれ車輪Wに駆動連結された一対の出力部材Oに分配する。
【0026】
以上のように構成された車両用駆動装置10は、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2の係合の状態を切り替えることにより、内燃機関EG及び回転電機MGの一方又は双方のトルクを車輪Wに伝達させて車両を走行させることができる。なお、本実施形態に係る車両用駆動装置10では、入力部材Iと変速入力軸Mとが同軸上に配置されると共に、一対の出力部材Oが入力部材I及び変速入力軸Mとは異なる軸上に互いに平行に配置された複軸構成とされている。このような構成は、例えばFF(Front Engine Front Drive)車両に搭載される車両用駆動装置10の構成として適している。
【0027】
また、車両用駆動装置10では、第1係合装置CL1を直結係合状態として、回転電機MGの駆動力により内燃機関EGを始動する際に、第2係合装置CL2を滑り係合状態とすることにより、内燃機関EGの始動動時のトルク変動を車輪Wに伝達しないようにすることができる。ここで、「直結係合状態」とは、摩擦係合装置の一対の摩擦板間に回転速度差(滑り)がない係合状態である。また、「滑り係合状態」とは、摩擦係合装置の一対の摩擦板間に回転速度差(滑り)がある係合状態である。
【0028】
図2に示すように、本実施形態では、ケース1は、第1側壁部11と、第2側壁部12と、筒状突出部13と、を備えている。また、図示は省略するが、本実施形態に係るケース1は、軸方向Lにおける第1側壁部11と第2側壁部12との間において、回転電機MGを径方向外側R2から覆う周壁部を備えている。
【0029】
第1側壁部11は、径方向Rに沿って延在している。第1側壁部11は、回転電機MG及び第1係合装置CL1に対して軸方向第1側L1に配置されている。第1側壁部11には、入力部材Iが軸方向Lに貫通している。なお、入力部材Iにおける第1側壁部11よりも軸方向第1側L1の部分は、上述のダンパ装置に連結されている。
【0030】
第2側壁部12は、径方向Rに沿って延在している。第2側壁部12は、回転電機MG及び第2係合装置CL2に対して、軸方向第2側L2に配置されている。第2側壁部12には、変速入力軸Mが軸方向Lに貫通している。
【0031】
筒状突出部13は、第2側壁部12から軸方向Lに突出する筒状に形成されている。本実施形態では、筒状突出部13は、第2側壁部12から軸方向第1側L1に突出するように形成されている。そして、筒状突出部13は、変速入力軸Mの径方向外側R2を覆う筒状に形成されている。また、本実施形態では、筒状突出部13の軸方向第1側L1の端部は、入力部材Iの軸方向第2側L2の端部よりも軸方向第2側L2に位置している。つまり、筒状突出部13は、入力部材Iに対して軸方向Lに離間している。
【0032】
本実施形態では、入力部材Iは、軸方向Lの一方側(ここでは、軸方向第2側L2)に向けて開口する筒状に形成された入力筒状部Iaを備えている。そして、変速入力軸Mは、入力筒状部Iaの径方向内側R1に挿入された挿入部Maを備えている。入力部材Iと変速入力軸Mとは、入力筒状部Iaに挿入部Maが挿入された状態で、相対的に回転するように構成されている。
【0033】
図2に示すように、回転電機MGは、ステータStと、当該ステータStに対して径方向内側R1に配置されたロータRoと、を備えている。ステータStは、非回転部材に固定されている。本実施形態では、ステータStは、ボルト等の固定部材によってケース1の第1側壁部11に固定されている。本実施形態では、ステータStは、ステータコアStcと、当該ステータコアStcから軸方向Lの両側(軸方向第1側L1及び軸方向第2側L2)に突出するコイルエンド部Ceが形成されるようにステータコアStcに巻装されたコイルと、を有している。ロータRoは、ステータStに対して回転自在に構成されている。本実施形態では、ロータRoは、ロータコアRocと、当該ロータコアRocを軸方向Lの両側から保持する一対の保持部材Hと、ロータコアRoc内に配置された永久磁石PMと、を有している。本実施形態では、ステータコアStc及びロータコアRocのそれぞれは、円環板状の磁性体(例えば、電磁鋼板等)を軸方向Lに複数積層して形成されている。
【0034】
本実施形態では、車両用駆動伝達装置100は、ロータRoを支持するロータ支持部材2を備えている。ロータ支持部材2は、筒状部21と、フランジ部22と、を備えている。
【0035】
筒状部21は、軸方向Lに沿って延在する筒状に形成されている。筒状部21は、第1係合装置CL1に対して径方向外側R2に配置されている。本実施形態では、筒状部21は、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2に対して径方向外側R2に配置されている。筒状部21は、ロータRoを径方向内側R1から支持している。筒状部21は、ロータRoと一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、筒状部21の外周面に、ロータRoが取り付けられている。なお、筒状部21の外周面へのロータRoの取り付けは、例えば、溶接、かしめ等によって行われる。
【0036】
フランジ部22は、筒状部21に対して径方向内側R1において径方向Rに延在するように形成されている。フランジ部22は、第1係合装置CL1に対して軸方向第2側L2に配置されている。本実施形態では、フランジ部22は、第2係合装置CL2に対して軸方向第2側L2に隣接して配置されている。また、本実施形態では、フランジ部22は、第2側壁部12に対して軸方向第1側L1に配置されている。また、本実施形態では、フランジ部22は、径方向R及び周方向Cに沿って延在する円環板状に形成されている。
【0037】
フランジ部22は、筒状部21と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、フランジ部22は、筒状部21とは独立した部材であり、例えば、溶接、かしめ等によって筒状部21と接合されている。つまり、別部材である筒状部21とフランジ部22とが接合して構成されている。図示の例では、フランジ部22の径方向外側R2の端部と筒状部21の軸方向第2側L2の端部とが互いに連結するように、フランジ部22と筒状部21とが溶接によって接合されている。
【0038】
第1係合装置CL1は、筒状部21に対して径方向内側R1であって、フランジ部22に対して軸方向第1側L1に配置されている。このように、ロータ支持部材2において、筒状部21に対して径方向内側R1であって、フランジ部22に対して軸方向第1側L1には、第1係合装置CL1を配置するためのスペースが確保されている。そのため、ロータ支持部材2は、軸方向第1側L1に向けて開口する有底筒状に形成されている。更に、本実施形態では、第2係合装置CL2が、軸方向Lにおける第1係合装置CL1とフランジ部22との間に配置されている。ここで、上述したように、第1係合装置CL1と第2係合装置CL2とが、軸方向Lに並んで配置されている。そのため、第2係合装置CL2は、第1係合装置CL1に対して軸方向第2側L2に隣接して配置されている。
【0039】
本実施形態では、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2が、ロータRoに対して径方向内側R1であって、径方向Rに沿う径方向視でロータRoと重複する位置に配置されている。ここで、「径方向内側R1」とは、軸方向Lの位置を問わず、対象となる要素に対して径方向Rの内側であることを指す。なお、「径方向外側R2」についても同様である。また、2つの要素の配置に関して、「特定方向視で重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線と直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの要素の双方に交わる領域が少なくとも一部に存在することを指す。
【0040】
図3に示すように、第1係合装置CL1は、軸方向Lに並んで配置された第1内側摩擦材411及び第1外側摩擦材412と、当該第1内側摩擦材411及び第1外側摩擦材412を軸方向Lに押圧する第1ピストン部42と、を備えた「摩擦係合装置」である。本実施形態では、第1係合装置CL1は、第1ピストン部42の作動用の油が供給される第1作動油室43と、入力部材Iに対して径方向外側R2に延在し、入力部材Iと一体的に回転するように連結された油室形成部材46と、を更に備えている。
【0041】
第1内側摩擦材411及び第1外側摩擦材412は、いずれも円環板状に形成されており、互いに回転軸心を一致させて配置されている。また、第1内側摩擦材411及び第1外側摩擦材412は複数枚ずつ備えられており、これらが軸方向Lに沿って交互に配置されている。第1内側摩擦材411及び第1外側摩擦材412は、いずれか一方をフリクションプレートとし、他方をセパレートプレートとすることができる。なお、以下の説明では、第1内側摩擦材411と第1外側摩擦材412とを総称して「第1摩擦部材41」と記す場合がある。
【0042】
第1外側摩擦材412は、「第1摩擦板」に相当する。第1外側摩擦材412は、第1外側支持部材49によって支持されている。第1外側支持部材49は、第1外側摩擦材412を径方向外側R2から支持する「第1支持部材」に相当する。第1外側支持部材49は、軸方向第1側L1に向けて開口するように形成されている。第1外側支持部材49は、筒状部21と一体的に回転するように構成されている。本実施形態では、第1外側支持部材49は、筒状部21と一体的に形成されている。図示の例では、筒状部21の内周部には、軸方向Lの全域に亘って軸方向Lに延在する複数のスプラインが、周方向Cに分散して形成されている。一方、第1外側摩擦材412の外周部にも、同様のスプラインが形成されている。そして、それらのスプライン同士を係合させることで、第1外側摩擦材412が筒状部21により径方向外側R2から支持される。こうして、第1外側摩擦材412は、筒状部21に対して相対回転が規制された状態で、軸方向Lに摺動可能に支持されている。
【0043】
第1内側摩擦材411は、「第2摩擦板」に相当する。第1内側摩擦材411は、第1内側支持部材44によって支持されている。第1内側支持部材44は、第1内側摩擦材411を径方向内側R1から支持する「第2支持部材」に相当する。第1内側支持部材44は、第1筒状支持部441と、第1径方向延在部442と、を備えている。
【0044】
第1筒状支持部441は、軸方向Lに沿って延在する筒状に形成されて、第1内側摩擦材411を支持する「筒状支持部」に相当する。第1筒状支持部441は、第1内側摩擦材411を径方向内側R1から支持している。図示の例では、第1筒状支持部441の外周部には、軸方向Lに延在する複数のスプラインが、軸方向Lの全域に亘って、周方向Cに分散して形成されている。一方、第1内側摩擦材411の内周部にも、同様のスプラインが形成されている。そして、それらのスプライン同士を係合させることで、第1内側摩擦材411が第1筒状支持部441により径方向内側R1から支持される。こうして、第1内側摩擦材411は、第1筒状支持部441に対して相対回転が規制された状態で、軸方向Lに摺動可能に支持されている。
【0045】
第1径方向延在部442は、第1筒状支持部441に対して径方向内側R1において径方向Rに延在するように形成されて、第1筒状支持部441に連結された「径方向延在部」に相当する。第1径方向延在部442は、第1筒状支持部441と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第1径方向延在部442は、第1筒状支持部441とは独立した部材であり、例えば、溶接、かしめ等によって第1筒状支持部441と接合されている。図示の例では、第1径方向延在部442の軸方向第1側L1の面と、第1筒状支持部441の軸方向第2側L2の面とが接触した状態で、第1径方向延在部442と第1筒状支持部441とが溶接によって互いに接合されている。また、第1径方向延在部442は、入力部材Iと一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第1径方向延在部442の径方向内側R1の端部が、入力部材Iの外周面に連結されている。図示の例では、第1径方向延在部442の径方向内側R1の端部と、入力部材Iの外周面に形成されたフランジ状の突出部とが、溶接により接合されている。また、本実施形態では、第1径方向延在部442は、径方向R及び周方向Cに沿って延在する円環板状に形成されている。
【0046】
本実施形態では、第1係合装置CL1は、第1摩擦部材41に対して、軸方向Lにおける第1ピストン部42の側とは反対側(ここでは、軸方向第2側L2)から当接する当接部442aを有している。図示の例では、当接部442aは、第1径方向延在部442と一体的に形成されている。具体的には、当接部442aは、第1径方向延在部442における、第1筒状支持部441よりも径方向外側R2に延在した部分により形成されている。本実施形態では、当接部442aは、最も軸方向第2側L2の第1内側摩擦材411に、軸方向第2側L2から当接するように配置されている。
【0047】
第1内側支持部材44には、中間部材45が連結されている。中間部材45は、第1内側支持部材44と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、中間部材45は、第1筒状支持部441に対して径方向内側R1であって、径方向Rに沿う径方向視で第1筒状支持部441と重複する位置に配置されている。
【0048】
中間部材45は、本体部451と、突出部452と、を備えている。本実施形態では、中間部材45は、連結部453を更に備えている。
【0049】
本体部451は、軸方向Lにおける第1ピストン部42と第1内側支持部材44との間に挟まれるように配置されている。本実施形態では、本体部451は、径方向Rに沿って延在するように形成されている。
【0050】
本実施形態では、本体部451は、第1内側支持部材44の第1径方向延在部442に対して、軸方向第1側L1から当接している。そして、本体部451における第1径方向延在部442との接触面には、径方向Rに沿う径方向溝45aが形成されている。径方向溝45aは、本体部451における第1径方向延在部442との接触面の径方向Rの全域に亘って連続するように形成されている。つまり、径方向溝45aは、本体部451と第1径方向延在部442との接触部分に対して径方向内側R1と径方向外側R2とを連通するように形成されている。本実施形態では、複数の径方向溝45aが周方向Cに分散して形成されている。
【0051】
突出部452は、本体部451に対して軸方向第1側L1に突出するように形成されている。本実施形態では、突出部452は、連結部453から軸方向第1側L1に突出するように形成されている。
【0052】
連結部453は、軸方向Lに沿って延在する筒状に形成されている。連結部453は、第1内側支持部材44の第1筒状支持部441と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、連結部453は、第1筒状支持部441に対して径方向内側R1に隣接した状態で、第1筒状支持部441と連結されている。具体的には、第1筒状支持部441の内周部には、軸方向Lに延在する複数のスプラインが周方向Cに分散して形成されている。一方、連結部453の外周部にも、同様のスプラインが形成されている。そして、それらのスプライン同士が係合することで、連結部453が第1筒状支持部441と一体的に回転するように連結されている。
【0053】
本実施形態では、連結部453の軸方向第2側L2の端部と、本体部451の径方向外側R2の端部とが、互いに連結されている。また、連結部453の軸方向第1側L1の端部から、突出部452が軸方向第1側L1に突出している。図示の例では、本体部451と突出部452と連結部453とが一体的に形成されている。
【0054】
第1ピストン部42は、「押圧部材」に相当する。第1ピストン部42は、第1内側摩擦材411及び第1外側摩擦材412を軸方向第1側L1から押圧するように配置されている。本実施形態では、第1ピストン部42は、第1作動油室43に供給された油圧に応じた圧力で第1摩擦部材41を押圧するように構成されている。本実施形態では、第1ピストン部42は、主として鉄を含む合金により構成されている。
【0055】
本実施形態では、第1ピストン部42は、第1摺動部421と、第1押圧部422と、接続部423と、を有している。
【0056】
第1摺動部421は、径方向Rに沿って延在している。本実施形態では、第1摺動部421は、径方向R及び周方向Cに沿って延在する円環板状に形成されている。第1摺動部421は、第1シリンダ部C1内を軸方向Lに摺動するように構成されている。本実施形態では、第1摺動部421は、第1摩擦部材41に対して径方向内側R1であって、径方向Rに沿う径方向視で第1摩擦部材41と重複する位置に配置されている。
【0057】
第1シリンダ部C1は、軸方向Lに沿う筒状に形成されている。本実施形態では、第1シリンダ部C1は、入力部材Iと中間部材45とによって形成されている。具体的には、第1摺動部421の径方向内側R1の端部に形成された筒状の内側摺動部421Aの内周面と入力筒状部Iaの外周面との隙間に、第1シール部材S1が設けられている。そして、第1摺動部421の径方向外側R2の端部に形成された筒状の外側摺動部421Bの外周面と連結部453の内周面との隙間に、第2シール部材S2が設けられている。こうして、第1ピストン部42の内側摺動部421Aが入力部材Iの入力筒状部Iaに対して軸方向Lに摺動すると共に、第1ピストン部42の外側摺動部421Bが中間部材45の連結部453に対して軸方向Lに摺動する。このように、第1ピストン部42は、第1内側支持部材44と一体的に回転する部材である摺動対象部材Tに対して軸方向Lに摺動するように構成されている。本実施形態では、入力部材I及び中間部材45のそれぞれが、摺動対象部材Tに相当する。
【0058】
上記のように、本実施形態では、第1ピストン部42と摺動対象部材Tとの摺動部分の隙間は、シール部材(第1シール部材S1及び第2シール部材S2)により密閉されている。本実施形態では、第1シール部材S1は、入力筒状部Iaの外周面に周方向Cに連続して形成された溝に取り付けられている。また、第2シール部材S2は、外側摺動部421Bの外周面に取り付けられている。第1シール部材S1及び第2シール部材S2のそれぞれは、例えば、ニトリルゴム(NBR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等の弾性部材から構成されている。
【0059】
第1押圧部422は、第1摩擦部材41に対して軸方向第1側L1に隣接して配置されている。本実施形態では、第1押圧部422は、径方向R及び周方向Cに沿って延在する円環板状に形成されている。
【0060】
接続部423は、第1摺動部421と第1押圧部422とを接続するように形成されている。本実施形態では、接続部423は、第1摺動部421の径方向外側R2の端部と、第1押圧部422の径方向内側R1の端部とを接続するように、第1内側支持部材44の第1筒状支持部441に対して軸方向第1側L1を迂回しつつ、径方向Rに延在している。具体的には、接続部423は、外側摺動部421Bに接続されていると共にそこから軸方向第1側L1へ突出する筒状の第1筒状接続部423Aと、第1筒状接続部423Aに対して径方向外側R2に配置され、第1押圧部422の径方向内側R1の端部に接続されていると共にそこから軸方向第1側L1へ突出する筒状の第2筒状接続部423Bと、第1筒状接続部423Aと第2筒状接続部423Bとを径方向Rに接続する円環板状の中間接続部423C と、を備えている。
【0061】
第1ピストン部42は、挿入孔424を備えている。挿入孔424は、第1ピストン部42を軸方向Lに貫通するように形成されている。本実施形態では、挿入孔424は、接続部423を軸方向Lに貫通するように形成されている。具体的には、挿入孔424は、中間接続部423Cに形成されている。挿入孔424は、中間部材45の突出部452が挿入されるように形成されている。そして、挿入孔424は、当該挿入孔424に突出部452が挿入された状態で、第1ピストン部42の第1内側支持部材44に対する相対回転を規制するように形成されている。こうして、第1ピストン部42は、第1内側支持部材44と一体的に回転する。なお、挿入孔424及び突出部452の詳細な構成については後述する。
【0062】
本実施形態では、第1ピストン部42は、第1付勢部材42aによって軸方向第1側L1に向けて付勢されている。第1付勢部材42aは、軸方向Lにおける第1摺動部421と中間部材45の本体部451との間に配置されている。本実施形態では、複数の第1付勢部材42aが、周方向Cに分散して配置されている。第1付勢部材42aとしては、例えば戻しばね等を用いることができる。こうして、第1ピストン部42は、油圧制御装置(図示を省略)から所定油圧の油が第1作動油室43に供給されると、当該油圧に応じて第1付勢部材42aの付勢力に抗して軸方向第2側L2に摺動し、第1摩擦部材41を軸方向第2側L2へ押圧する。
【0063】
第1作動油室43は、第1ピストン部42に対して軸方向Lに隣接して配置されている。本実施形態では、第1作動油室43は、第1ピストン部42と油室形成部材46との間に形成されている。具体的には、第1作動油室43は、軸方向Lにおける第1ピストン部42の第1摺動部421と油室形成部材46との間に形成されている。
【0064】
本実施形態では、第1作動油室43は、径方向Rに沿う径方向視で、第1摩擦部材41と重複するように配置されている。また、本実施形態では、第1作動油室43は、軸方向Lに沿う軸方向視で、第1摩擦部材41と重複しないように配置されている。
【0065】
本実施形態では、油室形成部材46は、入力部材Iにおける入力筒状部Iaの外周面に接するように配置されている。また、本実施形態では、油室形成部材46は、第1ピストン部42に対して軸方向第1側L1に配置されている。ここでは、油室形成部材46は、第1ピストン部42の第1摺動部421に対して、軸方向第1側L1に隣接して配置されている。
【0066】
本実施形態では、軸方向Lにおける第1ピストン部42と第1内側支持部材44との間には、第1キャンセル油室47と潤滑油路48とが形成されている。第1キャンセル油室47は、第1作動油室43で発生する遠心油圧に対抗する油圧を生じさせるための空間である。本実施形態では、第1キャンセル油室47は、軸方向Lにおける第1ピストン部42の第1摺動部421と中間部材45の本体部451との間に形成されている。潤滑油路48は、第1内側支持部材44(第1筒状支持部441)の内周部に対して径方向内側R1から油を供給する油路である。
【0067】
本実施形態では、中間部材45の本体部451は、第1キャンセル油室47と潤滑油路48とを隔てるように配置されている。上述したように、本体部451は径方向Rに沿って延在している。そのため、本体部451に対して軸方向第1側L1に第1キャンセル油室47が形成されている。そして、本体部451に対して軸方向第2側L2に潤滑油路48が形成されている。
【0068】
図4に示すように、本実施形態では、第1キャンセル油室47及び潤滑油路48には、第1油路P1と第2油路P2と第3油路P3とを介して油が供給される。
【0069】
第1油路P1は、入力部材Iにおける入力筒状部Iaの内周面から外周面に亘って形成されている。本実施形態では、第1油路P1は、第1ピストン部42と第1内側支持部材44との間の空間に連通している。第2油路P2は、第1油路P1と第3油路P3とを接続する油路である。第2油路P2は、変速入力軸Mの挿入部Maに形成されている。本実施形態では、第2油路P2は、挿入部Maの内部の第3油路P3から外周面まで径方向Rに沿って形成されている。第3油路P3は、変速入力軸Mの内部に形成された油路である。本実施形態では、第3油路P3は、軸方向Lに沿って形成されている。
【0070】
本実施形態では、第3油路P3、第2油路P2、及び第1油路P1を順に流動した油は、第1ピストン部42と第1内側支持部材44との間の空間に流入する。そして、この空間に流入した油は、第1キャンセル油室47と潤滑油路48とに分岐して径方向外側R2に向かって流動する。ここで、第1キャンセル油室47は、第1油路P1との連通部分以外は閉じた空間とされている。そのため、第1キャンセル油室47が油で満たされた状態となった後は、第1油路P1からの油は、主に潤滑油路48に流入する。そして、潤滑油路48に流入した油は、径方向溝45aを通り、第1筒状支持部441の内周部に到達する。その後、第1筒状支持部441の内周部に供給された油は、第1筒状支持部441を径方向Rに貫通するように形成された連通孔44aを通って、第1摩擦部材41に到達する。こうして、第1摩擦部材41が油によって潤滑及び冷却される。
【0071】
図3に示すように、本実施形態では、第2係合装置CL2は、軸方向Lに並んで配置された第2内側摩擦材511及び第2外側摩擦材512と、当該第2内側摩擦材511及び第2外側摩擦材512を軸方向Lに押圧する第2ピストン部52と、第2ピストン部52の作動用の油が供給される第2作動油室53と、を備えている。
【0072】
第2内側摩擦材511及び第2外側摩擦材512は、いずれも円環板状に形成されており、互いに回転軸心を一致させて配置されている。また、第2内側摩擦材511及び第2外側摩擦材512は複数枚ずつ備えられており、これらが軸方向Lに沿って交互に配置されている。第2内側摩擦材511及び第2外側摩擦材512は、いずれか一方をフリクションプレートとし、他方をセパレートプレートとすることができる。なお、以下の説明では、第2内側摩擦材511と第2外側摩擦材512とを総称して「第2摩擦部材51」と記す場合がある。
【0073】
第2内側摩擦材511は、第2内側支持部材54によって支持されている。第2内側支持部材54は、第2内側摩擦材511を径方向内側R1から支持する部材である。本実施形態では、第2内側支持部材54は、軸方向Lに沿って延在する筒状に形成された第2筒状支持部541と、当該第2筒状支持部541に対して径方向内側R1において径方向Rに延在するように形成された第2径方向延在部542と、を備えている。
【0074】
第2筒状支持部541は、第2内側摩擦材511を径方向内側R1から支持している。図示の例では、第2筒状支持部541の外周部には、軸方向Lに延在する複数のスプラインが、軸方向Lの全域に亘って、周方向Cに分散して形成されている。一方、第2内側摩擦材511の内周部にも、同様のスプラインが形成されている。そして、それらのスプライン同士を係合させることで、第2内側摩擦材511が第2筒状支持部541により径方向内側R1から支持される。こうして、第2内側摩擦材511は、第2筒状支持部541に対して相対回転が規制された状態で、軸方向Lに摺動可能に支持されている。
【0075】
第2径方向延在部542は、第2筒状支持部541と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第2径方向延在部542は、第2筒状支持部541とは独立した部材であり、例えば、溶接、かしめ等によって第2筒状支持部541と接合されている。図示の例では、第2径方向延在部542の径方向外側R2の端部と第2筒状支持部541の軸方向第1側L1の端部とが互いに連結するように、第2径方向延在部542と第2筒状支持部541とが溶接によって接合されている。本実施形態では、第2径方向延在部542は、径方向R及び周方向Cに沿って延在する円環板状に形成されている。
【0076】
また、第2径方向延在部542は、変速入力軸Mと一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第2径方向延在部542の径方向内側R1の端部が、変速入力軸Mの外周面に連結されている。図示の例では、第2径方向延在部542の径方向内側R1の端部に形成された筒状部分の内周面には、軸方向Lに延在する複数のスプラインが周方向Cに分散して形成されている。一方、変速入力軸Mの外周面にも、同様のスプラインが形成されている。そして、それらのスプライン同士が係合することで、第2径方向延在部542と変速入力軸Mとが一体的に回転するように連結されている。
【0077】
第2外側摩擦材512は、第2外側支持部材55によって支持されている。第2外側支持部材55は、第2外側摩擦材512を径方向外側R2から支持する部材である。本実施形態では、第2外側支持部材55は、軸方向Lに沿って延在する筒状に形成されている。図示の例では、第2外側支持部材55の内周部には、軸方向Lに延在する複数のスプラインが周方向Cに分散して形成されている。一方、第2外側摩擦材512の外周部にも、同様のスプラインが形成されている。そして、それらのスプライン同士を係合させることで、第2外側摩擦材512が第2外側支持部材55により径方向外側R2から支持される。こうして、第2外側摩擦材512は、第2外側支持部材55に対して相対回転が規制された状態で、軸方向Lに摺動可能に支持されている。
【0078】
第2外側支持部材55は、ロータ支持部材2と一体的に回転するように構成されている。本実施形態では、第2外側支持部材55は、ロータ支持部材2の筒状部21によって径方向外側R2から支持されている。図示の例では、第2外側支持部材55の外周部には、軸方向Lに延在する複数のスプラインが周方向Cに分散して形成されている。一方、上述したように、筒状部21の内周部にも、軸方向Lに延在する複数のスプラインが周方向Cに分散して形成されている。そして、それらのスプライン同士を係合させることで、第2外側支持部材55が筒状部21により径方向外側R2から支持される。こうして、第2外側摩擦材512は、第2外側支持部材55を介して、ロータ支持部材2の筒状部21に支持されている。
【0079】
本実施形態では、第2係合装置CL2は、第2摩擦部材51に当接する当接部材56を備えている。当接部材56は、第2摩擦部材51に対して、軸方向Lにおける第2ピストン部52の側とは反対側(ここでは、軸方向第1側L1)から当接するように配置されている。本実施形態では、当接部材56は、最も軸方向第1側L1の第2外側摩擦材512に、軸方向第1側L1から当接するように配置されている。
【0080】
本実施形態では、当接部材56は、筒状部21によって径方向外側R2から支持されている。図示の例では、当接部材56の外周部には、軸方向Lに延在する複数のスプラインが周方向Cに分散して形成されている。そして、これらのスプラインが、筒状部21の内周部に形成された複数のスプラインに係合されることによって、当接部材56は、筒状部21に対して相対回転が規制されていると共に軸方向Lに摺動可能な状態で、筒状部21により径方向外側R2から支持されている。また、図示の例では、円環状の固定部材60が、軸方向第1側L1から当接部材56に当接するように、筒状部21の内周部に固定されている。こうして、当接部材56の軸方向第1側L1への移動が、固定部材60によって規制されている。本実施形態では、固定部材60は、スナップリングである。
【0081】
本実施形態では、第2ピストン部52は、第2作動油室53に供給された油圧に応じた圧力で第2摩擦部材51を軸方向Lに押圧するように構成されている。また、本実施形態では、第2ピストン部52は、第2摩擦部材51よりも軸方向第2側L2に配置されている。つまり、第2ピストン部52は、径方向Rに沿う径方向視で第2摩擦部材51と重複しないように配置されている。第2ピストン部52は、第2摺動部521と、第2押圧部522と、を有している。
【0082】
第2摺動部521は、第2シリンダ部C2内を軸方向Lに摺動するように構成されている。第2シリンダ部C2は、軸方向Lに沿う筒状に形成されている。本実施形態では、第2シリンダ部C2は、フランジ部22のシリンダ形成部23によって形成されている。つまり、本実施形態では、フランジ部22の一部が、第2係合装置CL2の一部を構成している。
【0083】
シリンダ形成部23は、第2ピストン部52が摺動する第2シリンダ部C2を形成するように軸方向第2側L2に突出している。本実施形態では、シリンダ形成部23は、内側筒状部231と、外側筒状部232と、径方向連結部233と、を有している。
【0084】
内側筒状部231は、軸方向Lに沿って延在する筒状に形成されている。内側筒状部231の外周面の一部は、第2摺動部521の径方向内側R1の端部が摺動する摺動面として機能する。本実施形態では、内側筒状部231は、ケース1の筒状突出部13の径方向外側R2を覆うように配置されている。
【0085】
外側筒状部232は、軸方向Lに沿って延在する筒状に形成されている。外側筒状部232は、内側筒状部231に対して径方向外側R2に配置されている。外側筒状部232の内周面の一部は、第2摺動部521の径方向外側R2の端部が摺動する摺動面として機能する。
【0086】
径方向連結部233は、内側筒状部231と外側筒状部232とを連結するように、径方向Rに沿って延在している。本実施形態では、径方向連結部233は、径方向R及び周方向Cに沿って延在する円環板状に形成されている。また、本実施形態では、径方向連結部233の径方向内側R1の端部は、内側筒状部231の軸方向第2側L2の端部に連結されている。そして、径方向連結部233の径方向外側R2の端部は、外側筒状部232の軸方向第2側L2の端部に連結されている。また、フランジ部22における、シリンダ形成部23よりも径方向外側R2の部分は、径方向R及び周方向Cに沿って延在する円環板状に形成されており、外側筒状部232の軸方向第1側L1の端部に連結されている。図示の例では、内側筒状部231と外側筒状部232と径方向連結部233とを含むフランジ部22が、1つの部材により一体的に形成されている。
【0087】
第2押圧部522は、第2摺動部521から径方向外側R2に延在している。本実施形態では、第2押圧部522は、第2摩擦部材51に対して、軸方向Lにおける当接部材56の側とは反対側(ここでは、軸方向第2側L2)に配置されている。
【0088】
第2ピストン部52は、ロータ支持部材2と一体的に回転するように支持されている。本実施形態では、ロータ支持部材2のフランジ部22が、第2ピストン部52と一体的に回転するように、フランジ部22に対する第2ピストン部52の相対回転を規制している。
【0089】
本実施形態では、第2ピストン部52は、取付部材57に取り付けられた第2付勢部材52aによって軸方向第2側L2に向けて付勢されている。第2付勢部材52aは、軸方向Lにおける第2摺動部521と取付部材57との間に配置されている。本実施形態では、複数の第2付勢部材52aが、周方向Cに分散して配置されている。第2付勢部材52aとしては、例えば戻しばね等を用いることができる。こうして、第2ピストン部52は、油圧制御装置(図示を省略)から所定油圧の油が第2作動油室53に供給されると、当該油圧に応じて第2付勢部材52aの付勢力に抗して軸方向第1側L1に摺動し、第2摩擦部材51を軸方向第1側L1へ押圧する。
【0090】
取付部材57は、シリンダ形成部23の内側筒状部231に対して径方向外側R2に配置されている。本実施形態では、取付部材57は、内側筒状部231の外周面に接するように配置されている。また、本実施形態では、取付部材57は、第2ピストン部52の第2摺動部521に対して、軸方向第1側L1に隣接して配置されている。
【0091】
第2作動油室53は、第2ピストン部52に対して軸方向Lに隣接して配置されている。本実施形態では、第2作動油室53は、第2ピストン部52とシリンダ形成部23との間に形成されている。具体的には、第2作動油室53は、軸方向Lにおける第2ピストン部52の第2摺動部521とシリンダ形成部23の径方向連結部233との間に形成されている。
【0092】
本実施形態では、第2作動油室53は、軸方向Lに沿う軸方向視で、第2摩擦部材51と重複するように配置されている。また、本実施形態では、第2作動油室53は、径方向Rに沿う径方向視で、第2摩擦部材51と重複しないように配置されている。
【0093】
本実施形態では、第2ピストン部52に対して、軸方向Lにおける第2作動油室53の側とは反対側(ここでは、軸方向第1側L1)には、第2キャンセル油室58が形成されている。第2キャンセル油室58は、第2作動油室53で発生する遠心油圧に対抗する油圧を生じさせるための空間である。本実施形態では、第2キャンセル油室58は、軸方向Lにおける第2摺動部521と取付部材57との間に形成されている。
【0094】
図3に示すように、本実施形態では、車両用駆動伝達装置100は、ロータ支持部材2を回転可能に支持する第1軸受B1及び第2軸受B2と、入力部材Iを回転可能に支持する第3軸受B3と、を備えている。本実施形態では、第1軸受B1、第2軸受B2、及び第3軸受B3のそれぞれは、玉軸受である。
【0095】
第1軸受B1は、ロータ支持部材2の筒状部21を回転可能に支持している。本実施形態では、第1軸受B1は、第1内側支持部材44の第1筒状支持部441よりも径方向外側R2に配置されている。本実施形態では、第1軸受B1は、ロータRoに対して軸方向第1側L1に配置されている。また、本実施形態では、第1軸受B1は、筒状部21の外周面に配置されている。具体的には、筒状部21は、ロータRoよりも軸方向第1側L1に突出する軸受支持部211を有している。そして、軸受支持部211の外周面に第1軸受B1の内周面が接するように、第1軸受B1が取り付けられている。また、本実施形態では、第1軸受B1は、ケース1における第1側壁部11の軸受支持部11a(
図2参照)に支持されている。軸受支持部11aは、軸方向第2側L2に突出し、径方向外側R2から第1軸受B1を支持している。こうして、第1軸受B1は、筒状部21を第1側壁部11に対して回転可能に支持している。
【0096】
本実施形態では、第1軸受B1は、径方向Rに沿う径方向視で、第1ピストン部42と重複するように配置されている。具体的には、第1軸受B1は、径方向視で、第1ピストン部42の第1押圧部422と重複するように配置されている。また、本実施形態では、第1軸受B1は、軸方向Lに沿う軸方向視で、ロータRoと重複するように配置されている。また、本実施形態では、第1軸受B1は、径方向Rに沿う径方向視で、ステータStのコイルエンド部Ceと重複するように配置されている(
図2参照)。
【0097】
本実施形態では、筒状部21には、ロータRoに対して軸方向第1側L1において、筒状部21の外周面から径方向外側R2に突出する突起部21aが形成されている。ここでは、突起部21aは、周方向Cの全域に亘って連続的に形成されている。そして、突起部21aは、ロータRoと第1軸受B1とにより軸方向Lの両側から挟まれるように配置されている。具体的には、ロータRoが、軸方向第2側L2から突起部21aに当接するように配置されている。また、第1軸受B1が、軸方向第1側L1から突起部21aに当接するように配置されている。
【0098】
第2軸受B2は、ロータ支持部材2のフランジ部22を回転可能に支持している。本実施形態では、第2軸受B2は、径方向Rに沿う径方向視で、第2ピストン部52と重複するように配置されている。また、本実施形態では、第2軸受B2は、フランジ部22のシリンダ形成部23に対して径方向内側R1であって、径方向Rに沿う径方向視でシリンダ形成部23と重複する位置に配置されている。そして、第2軸受B2は、ロータ支持部材2を径方向内側R1から支持している。図示の例では、第2軸受B2は、ロータ支持部材2の内側筒状部231と、ケース1の筒状突出部13との間に介装されている。
【0099】
本実施形態では、第3軸受B3は、第1ピストン部42の少なくとも一部に対して径方向内側R1であって、径方向Rに沿う径方向視で第1ピストン部42と重複する位置に配置されている。ここでは、第3軸受B3は、第1ピストン部42の第1押圧部422に対して径方向内側R1に配置されている。また、第3軸受B3は、径方向視で第1押圧部422と重複するように配置されている。更に、本実施形態では、第3軸受B3は、油室形成部材46に対して軸方向第1側L1に配置されている。また、第3軸受B3は、油室形成部材46の一部に対して径方向内側R1に配置されている。
【0100】
本実施形態では、第3軸受B3は、入力部材Iにおける入力筒状部Iaの外周面に配置されている。具体的には、入力筒状部Iaの外周面に第3軸受B3の内周面が接するように、第3軸受B3が取り付けられている。また、第3軸受B3は、ケース1の第1側壁部11に、径方向外側R2から支持されている。こうして、第3軸受B3は、入力部材Iを第1側壁部11に対して回転可能に支持している。
【0101】
本実施形態では、第3軸受B3のインナレースが、入力筒状部Iaの外周面に形成された段差部に軸方向第1側L1から当接している。そして、第3軸受B3のアウタレースが、第1側壁部11に軸方向第2側L2から当接している。こうして、第3軸受B3は、入力筒状部Iaと第1側壁部11とによって軸方向Lの移動が規制されている。その結果、第3軸受B3は、当該第3軸受B3が支持する入力部材Iに作用するスラスト荷重を支持することが可能となっている。
【0102】
以下では、中間部材45の突出部452及び第1ピストン部42の挿入孔424の詳細な構成を説明する。
【0103】
図5に示すように、本実施形態では、突出部452は、軸方向L及び周方向Cに延在する板状に形成されている。そして、突出部452は、軸方向L及び周方向Cの全域において、径方向Rの寸法(厚み)が同一とされる。また、挿入孔424は、突出部452の外形に沿う形状に形成されている。本実施形態では、挿入孔424は、突出部452と同様に、軸方向L及び周方向Cの全域において、径方向Rの寸法が同一とされる。
【0104】
また、本実施形態では、複数の突出部452が周方向Cに分散して配置されている。図示の例では、8つの突出部452が周方向Cに等間隔で配置されている。また、本実施形態では、複数の挿入孔424が周方向Cに分散して配置されている。挿入孔424は、突出部452と同数配置されている。図示の例では、8つの挿入孔424が周方向Cに等間隔で配置されている。
【0105】
図6に示すように、突出部452を挿入孔424に挿入させることにより、第1ピストン部42の中間部材45に対する相対回転が規制される。具体的には、突出部452が挿入孔424に挿入された状態で、第1ピストン部42を中間部材45に対して周方向Cに回転させようとした場合、接続部423における挿入孔424の内側面に対して、突出部452が周方向Cに当接する。例えば、第1ピストン部42を中間部材45に対して周方向Cの一方側である周方向第1側に回転させようとした場合には、突出部452の周方向第1側とは反対側(周方向第2側)を向く面が、挿入孔424の周方向第1側を向く面に当接する。一方、第1ピストン部42を中間部材45に対して周方向第2側に回転させようとした場合には、突出部452の周方向第1側を向く面が、挿入孔424の周方向第2側を向く面に当接する。こうして、第1ピストン部42が中間部材45に対して相対回転することが規制される。本例では、突出部452及び挿入孔424のそれぞれの周方向Cの幅及び周方向Cの配置間隔の誤差を考慮して、挿入孔424の内側面の周方向Cの幅は、突出部452の周方向Cの幅に対して当該誤差分以上大きく形成されている。
【0106】
図7に示すように、第1ピストン部42を中間部材45に軸方向第1側L1から組み付ける場合、軸方向第1側L1から見て、挿入孔424に突出部452の全体が重複するように、中間部材45に対する第1ピストン部42の周方向Cの位置、つまり、回転位相を調節する。そして、この状態で、第1ピストン部42を中間部材45に向けて軸方向第2側L2に移動させることにより、挿入孔424に突出部452を挿入させる。その後、突出部452に沿って挿入孔424が移動するように、第1ピストン部42を更に中間部材45に接近させることで、第1ピストン部42を中間部材45に組み付けることができる。このように、軸方向第1側L1から見て、挿入孔424に突出部452の全体が重複するように、中間部材45に対する第1ピストン部42の位置を調節するだけで、第1ピストン部42の組み付け作業を容易に行うことができる。
【0107】
また、本実施形態では、上述したように、第1摺動部421の径方向内側R1の端部と入力筒状部Iaとの隙間に、第1シール部材S1が設けられている。更に、第1摺動部421の径方向外側R2の端部と連結部453との隙間に、第2シール部材S2が設けられている。このような構成において、第1ピストン部42の組み付け作業が容易となることにより、当該作業中に第1ピストン部42を中間部材45に対して必要以上に移動及び回転させることを少なくすることができる。その結果、第1シール部材S1及び第2シール部材S2が組み付け中の摩擦等によって劣化する可能性を低減できる。なお、挿入孔424に突出部452が挿入される直前、又は、挿入孔424に突出部452が少しでも挿入されたときに、第1シール部材S1が第1摺動部421の径方向内側R1の端部に接触すると共に、第2シール部材S2が連結部453の内周部に接触するように、挿入孔424の軸方向Lの位置、及び突出部452の軸方向Lの位置及び長さが設定されていると好適である。
【0108】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、挿入孔424に挿入される突出部452を有する中間部材45を備えた構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば
図8に示すように、第1内側支持部材44が、挿入孔424に挿入される突出部443を有する構成としても良い。この構成では、第1内側支持部材44の第1筒状支持部441から軸方向第1側L1に突出するように突出部443が形成されていると好適である。また、この構成では、車両用駆動伝達装置100が中間部材45を備えていなくても良い。
【0109】
(2)上記の実施形態では、入力部材I及び中間部材45のそれぞれが、摺動対象部材Tに相当する構成を例として説明したが、そのような構成に限定されない。例えば
図8に示すように、中間部材45を備えていない構成では、第1内側支持部材44を摺動対象部材Tとして機能させることができる。この場合、第1内側支持部材44の第1筒状支持部441と、第1摺動部421の径方向外側R2の端部との隙間に、第2シール部材S2が設けられると好適である。具体的には、第1摺動部421における外側摺動部421Bの外周面と第1筒状支持部441の内周面との隙間に、第2シール部材S2が設けられると良い。
【0110】
(3)上記の実施形態では、中間部材45の本体部451が、第1キャンセル油室47と潤滑油路48とを隔てるように配置された構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、入力部材Iにおける入力筒状部Iaの外周面から径方向外側R2に突出するように配置された部材によって、第1キャンセル油室47と潤滑油路48とが隔てられた構成としても良い。この構成では、例えば、第1油路P1及び第2油路P2の代わりに、第3油路P3と第1キャンセル油室47とを連通する油路と、第3油路P3と潤滑油路48とを連通する油路とを設けると好適である。
【0111】
(4)上記の実施形態では、第1外側支持部材49が筒状部21と一体的に形成された構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第1外側支持部材49が、第2外側支持部材55と同様に、筒状部21とは独立した別部材であっても良い。
【0112】
(5)上記の実施形態では、第2係合装置CL2が第1係合装置CL1に対して軸方向第2側L2に隣接して配置された構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、第2係合装置CL2が第1係合装置CL1に対して径方向Rにずれた位置に配置された構成としても良い。或いは、第2係合装置CL2を備えていない構成としても良い。
【0113】
(6)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0114】
〔上記実施形態の概要〕
以下では、上記において説明した車両用駆動伝達装置(100)及び車両用駆動装置(10)の概要について説明する。
【0115】
車両用駆動伝達装置(100)は、
軸方向(L)に並んで配置された第1摩擦板(412)及び第2摩擦板(411)、並びに前記第1摩擦板(412)及び前記第2摩擦板(411)を前記軸方向(L)に押圧する押圧部材(42)を有する摩擦係合装置(CL1)を備えた車両用駆動伝達装置(100)であって、
前記第1摩擦板(412)を径方向(R)の外側(R2)から支持する第1支持部材(49)と、
前記第2摩擦板(411)を前記径方向(R)の内側(R1)から支持する第2支持部材(44)と、
前記第2支持部材(44)と一体的に回転するように連結された中間部材(45)と、を更に備え、
前記第1支持部材(49)は、前記軸方向(L)の一方側である軸方向第1側(L1)に向けて開口するように形成され、
前記押圧部材(42)は、前記第1摩擦板(412)及び前記第2摩擦板(411)を前記軸方向第1側(L1)から押圧するように配置され、
前記中間部材(45)は、前記軸方向(L)における前記押圧部材(42)と前記第2支持部材(44)との間に挟まれるように配置された本体部(451)と、前記本体部(451)に対して前記軸方向第1側(L1)に突出するように形成された突出部(452)と、を備え、
前記押圧部材(42)は、当該押圧部材(42)を前記軸方向(L)に貫通するように形成され、前記突出部(452)が挿入される挿入孔(424)を備えている。
【0116】
この構成によれば、中間部材(45)が、当該中間部材(45)の本体部(451)から軸方向第1側(L1)に突出するように形成された突出部(452)を備えている。そして、押圧部材(42)が、当該押圧部材(42)を軸方向(L)に貫通するように形成され、突出部(452)が挿入される挿入孔(424)を備えている。挿入孔(424)に突出部(452)が挿入された状態では、押圧部材(42)の第2支持部材(44)に対する相対回転が規制される。そのため、当該突出部(452)と挿入孔(424)とにより、押圧部材(42)と第2支持部材(44)との相対回転を適切に規制することができる。また、押圧部材(42)を中間部材(45)に対して軸方向第1側(L1)から組み付ける際に、作業者が、押圧部材(42)の挿入孔(424)を通して、当該挿入孔(424)に挿入させる突出部(452)を軸方向第1側(L1)から視認することができる。これにより、押圧部材(42)の回転位相を合せて挿入孔(424)に突出部(452)を挿入する作業を容易に行うことができる。したがって、本構成によれば、押圧部材(42)の組み付け作業を容易に行うことができる。
【0117】
ここで、前記軸方向(L)における前記押圧部材(42)と前記第2支持部材(44)との間には、前記押圧部材(42)の作動用の油が供給される作動油室(43)で発生する遠心油圧に対抗する油圧を生じさせるキャンセル油室(47)と、前記第2支持部材(44)の内周部に対して前記径方向(R)の内側(R1)から油を供給する潤滑油路(48)と、が形成され、
前記本体部(451)は、前記キャンセル油室(47)と前記潤滑油路(48)とを隔てるように配置されていると好適である。
【0118】
この構成によれば、中間部材(45)の本体部(451)を利用して、キャンセル油室(47)と潤滑油路(48)とを隔てて形成することができる。したがって、キャンセル油室(47)と潤滑油路(48)とを隔てる部材を別途設ける場合と比較して、車両用駆動伝達装置(100)の寸法を小型化することが容易となる。
【0119】
車両用駆動伝達装置(100)は、
また、軸方向(L)に並んで配置された第1摩擦板(412)及び第2摩擦板(411)、並びに前記第1摩擦板(412)及び前記第2摩擦板(411)を前記軸方向(L)に押圧する押圧部材(42)を有する摩擦係合装置(CL1)を備えた車両用駆動伝達装置(100)であって、
前記第1摩擦板(412)を径方向(R)の外側(R2)から支持する第1支持部材(49)と、
前記第2摩擦板(411)を前記径方向(R)の内側(R1)から支持する第2支持部材(44)と、を更に備え、
前記第1支持部材(49)は、前記軸方向(L)の一方側である軸方向第1側(L1)に向けて開口するように形成され、
前記第2支持部材(44)は、前記軸方向(L)に沿って延在する筒状に形成されて、前記第2摩擦板(411)を支持する筒状支持部(441)と、前記筒状支持部(441)に対して前記径方向(R)の内側(R1)において前記径方向(R)に延在するように形成されて、前記筒状支持部(441)に連結された径方向延在部(442)と、を備え、
前記押圧部材(42)は、前記第1摩擦板(412)及び前記第2摩擦板(411)を前記軸方向第1側(L1)から押圧するように配置され、
前記第2支持部材(44)は、前記筒状支持部(441)から前記軸方向第1側(L1)に突出するように形成された突出部(452)を更に備え、
前記押圧部材(42)は、当該押圧部材(42)を前記軸方向(L)に貫通するように形成され、前記突出部(452)が挿入される挿入孔(424)を備えている。
【0120】
この構成によれば、第2支持部材(44)が、当該第2支持部材(44)の筒状支持部(441)から軸方向第1側(L1)に突出するように形成された突出部(452)を備えている。そして、押圧部材(42)が、当該押圧部材(42)を軸方向(L)に貫通するように形成され、突出部(452)が挿入される挿入孔(424)を備えている。挿入孔(424)に突出部(452)が挿入された状態では、押圧部材(42)の第2支持部材(44)に対する相対回転が規制される。そのため、当該突出部(452)と挿入孔(424)とにより、押圧部材(42)と第2支持部材(44)との相対回転を適切に規制することができる。また、押圧部材(42)を第2支持部材(44)に対して軸方向第1側(L1)から組み付ける際に、作業者が、押圧部材(42)の挿入孔(424)を通して、当該挿入孔(424)に挿入させる突出部(452)を軸方向第1側(L1)から視認することができる。これにより、押圧部材(42)の回転位相を合せて挿入孔(424)に突出部(452)を挿入する作業を容易に行うことができる。したがって、本構成によれば、押圧部材(42)の組み付け作業を容易に行うことができる。
【0121】
上記の構成は、前記押圧部材(42)が、前記第2支持部材(44)又は当該第2支持部材(44)と一体的に回転する部材である摺動対象部材(T)に対して前記軸方向(L)に摺動するように構成され、
前記押圧部材(42)と前記摺動対象部材(T)との摺動部分の隙間が、シール部材(S1,S2)により密閉されている場合に好適である。
【0122】
これは、押圧部材(42)を中間部材(45)又は第2支持部材(44)に組み付ける作業が容易となることにより、当該作業中に押圧部材(42)を摺動対象部材(T)に対して必要以上に移動及び回転させることが少なくなり、シール部材(S1,S2)が組み付け中の摩擦等によって劣化する可能性を低減できるためである。
【0123】
車両用駆動装置(10)は、
ステータ(St)、及び前記ステータ(St)に対して前記径方向(R)の内側(R1)に配置されたロータ(Ro)を有し、車輪(W)の駆動力源として機能する回転電機(MG)と、
上記の車両用駆動伝達装置(100)と、を備えた車両用駆動装置(10)であって、
前記車両用駆動伝達装置(100)は、前記ロータ(Ro)を支持するロータ支持部材(2)を更に備え、
前記ロータ支持部材(2)は、前記軸方向(L)に沿って延在する筒状に形成されて、前記ロータ(Ro)を前記径方向(R)の内側(R1)から支持する筒状部(21)と、前記筒状部(21)に対して前記径方向(R)の内側(R1)において前記径方向(R)に延在するように形成されて、前記筒状部(21)に連結されたフランジ部(22)と、を備え、
前記筒状部(21)は、前記摩擦係合装置(CL1)に対して、前記径方向(R)の外側(R2)に配置され、
前記フランジ部(22)は、前記摩擦係合装置(CL1)に対して、前記軸方向第1側(L1)とは反対側である軸方向第2側(L2)に配置されている。
【0124】
この構成のように、摩擦係合装置が、ロータ支持部材(2)の筒状部(21)に対して径方向(R)の内側(R1)であって、フランジ部(22)に対して軸方向第1側(L1)に配置される場合、押圧部材(42)を第2支持部材(44)等に組み付ける作業を筒状部(21)に対して径方向(R)の内側(R1)で行う場合が多く、当該組み付け作業での視認性が低下し易い。しかし、本構成によれば、上記のとおり、作業者による組み付け作業中の視認性を確保し易い。したがって、この場合にも、押圧部材(42)の組み付け作業を容易に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本開示に係る技術は、軸方向に並んで配置された第1摩擦板及び第2摩擦板、並びにこれらを軸方向に押圧する押圧部材を有する摩擦係合装置を備えた車両用駆動伝達装置、及びそれを備えた車両用駆動装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0126】
10 :車両用駆動装置
100 :車両用駆動伝達装置
2 :ロータ支持部材
21 :筒状部
22 :フランジ部
CL1 :第1係合装置(摩擦係合装置)
411 :第1内側摩擦材(第2摩擦板)
412 :第1外側摩擦材(第1摩擦板)
42 :第1ピストン部(押圧部材)
424 :挿入孔
44 :第1内側支持部材(第2支持部材)
441 :第1筒状支持部(筒状支持部)
442 :第1径方向延在部(径方向延在部)
45 :中間部材
451 :本体部
452 :突出部
49 :第1外側支持部材(第1支持部材)
T :摺動対象部材
MG :回転電機
St :ステータ
Ro :ロータ
W :車輪
L :軸方向
L1 :軸方向第1側
L2 :軸方向第2側
R :径方向
R1 :径方向内側
R2 :径方向外側